(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】ワイヤボンディング装置、ワイヤボンディング装置の制御方法およびワイヤボンディング装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20250127BHJP
【FI】
H01L21/60 301H
(21)【出願番号】P 2022577816
(86)(22)【出願日】2021-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2021002538
(87)【国際公開番号】W WO2022162716
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】笠間 広幸
(72)【発明者】
【氏名】早田 滋
【審査官】西村 治郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-139124(JP,A)
【文献】特開2010-267756(JP,A)
【文献】特開平02-022833(JP,A)
【文献】特開2011-146754(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154453(WO,A1)
【文献】特開2009-277813(JP,A)
【文献】特開2012-015242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボンディングワイヤを供給するキャピラリと、
前記キャピラリから繰り出された前記ボンディングワイヤのワイヤテールに対してフリーエアボールを形成するトーチと、
前記トーチによって先端部に前記フリーエアボールが形成された状態の前記ワイヤテールを撮像する撮像部と、
前記撮像部から出力された画像に基づいて前記ボンディングワイヤの中心軸に対する前記フリーエアボールの偏りを計測する計測部と、
前記計測部による計測結果が予め設定された基準を満たさないと判定した場合に、前記基準を満たす前記フリーエアボールが形成されるように前記トーチの放電条件を調整する調整部と
を備えるワイヤボンディング装置。
【請求項2】
前記調整部は、ボンディング作業を実行するに先立って、前記トーチの放電条件を調整する請求項1に記載のワイヤボンディング装置。
【請求項3】
前記調整部は、ボンディング作業中において前記基準よりも偏りが大きい範囲に設定されている他の基準を満たさないと判定した場合には、ボンディング作業を終了させる請求項
1に記載のワイヤボンディング装置。
【請求項4】
前記調整部は、前記計測部による計測結果に基づいてスパーク電流、電流傾斜時間、ガス流量
、スパーク前遅延時間の少なくともいずれかを変更することにより前記放電条件を調整する請求項1から
3のいずれか1項に記載のワイヤボンディング装置。
【請求項5】
前記計測部は、前記ボンディングワイヤの中心軸に対する前記フリーエアボールの一方向への膨らみ量である第1膨出量と前記一方向とは反対の他方向への膨らみ量である第2膨出量を計測する請求項1から
4のいずれか1項に記載のワイヤボンディング装置。
【請求項6】
前記計測部は、前記ボンディングワイヤの中心軸に対する前記フリーエアボールの中心の偏位量を計測する請求項1から
5のいずれか1項に記載のワイヤボンディング装置。
【請求項7】
前記撮像部は、前記キャピラリから前記ワイヤテールが繰り出される繰り出し方向と、前記トーチと前記ワイヤテールとの間で発生するアーク放電の放電方向に直交する方向から前記ワイヤテールを撮像するように設置されている請求項1から
6のいずれか1項に記載のワイヤボンディング装置。
【請求項8】
前記撮像部は、前記キャピラリから前記ワイヤテールが繰り出される繰り出し方向に直交する複数の方向から前記ワイヤテールを撮像する複数の撮像ユニットを含む請求項1から
7のいずれか1項に記載のワイヤボンディング装置。
【請求項9】
キャピラリの先端部からボンディングワイヤを繰り出してワイヤテールを形成するテール形成ステップと、
トーチを用いて前記ワイヤテールの先端部にフリーエアボールを形成するフリーエアボール形成ステップと、
前記フリーエアボールが形成された前記ワイヤテールを撮像する撮像ステップと、
前記撮像ステップで出力された画像に基づいて前記ボンディングワイヤの中心軸に対する前記フリーエアボールの偏りを計測する計測ステップと、
前記計測
ステップによる計測結果が予め設定された基準を満たさないと判定した場合に、前記基準を満たす前記フリーエアボールが形成されるように前記トーチの放電条件を調整する調整ステップと
を有するワイヤボンディング装置の制御方法。
【請求項10】
キャピラリの先端部からボンディングワイヤを繰り出してワイヤテールを形成するテール形成ステップと、
トーチを用いて前記ワイヤテールの先端部にフリーエアボールを形成するフリーエアボール形成ステップと、
前記フリーエアボールが形成された前記ワイヤテールを撮像する撮像ステップと、
前記撮像ステップで出力された画像に基づいて前記ボンディングワイヤの中心軸に対する前記フリーエアボールの偏りを計測する計測ステップと、
前記計測
ステップによる計測結果が予め設定された基準を満たさないと判定した場合に、前記基準を満たす前記フリーエアボールが形成されるように前記トーチの放電条件を調整する調整ステップと
をコンピュータに実行させるワイヤボンディング装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤボンディング装置、ワイヤボンディング装置の制御方法およびワイヤボンディング装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤボンディング装置においてフリーエアボール(FAB)の形状を安定させることは重要である。例えば、特許文献1によれば、ボンディングワイヤの組成を工夫することにより、安定したFABを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤボンディング装置で利用されるボンディングワイヤは多様であり、目的に応じて使い分けられることも多い。したがって、特定組成のボンディングワイヤに限って利用できることは大きな制約となる。また、組成に限らず環境温度やワイヤ径、テール長といった要素も、ワイヤ軸心に対するフリーエアボールの偏芯に影響を与え得る。フリーエアボールの偏芯は、圧着ボールの偏芯を引き起こし、パッド電極間のショート等の不良の原因となり得る。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、フリーエアボールが偏芯したままボンディングが実行されることを防ぐことができるワイヤボンディング装置等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様におけるワイヤボンディング装置は、ボンディングワイヤを供給するキャピラリと、キャピラリから繰り出されたボンディングワイヤのワイヤテールに対してフリーエアボールを形成するトーチと、トーチによって先端部にフリーエアボールが形成された状態のワイヤテールを撮像する撮像部と、撮像部から出力された画像に基づいてボンディングワイヤの中心軸に対するフリーエアボールの偏りを計測する計測部とを備える。
【0007】
本発明の第2の態様におけるワイヤボンディング装置の制御方法は、キャピラリの先端部からボンディングワイヤを繰り出してワイヤテールを形成するテール形成ステップと、トーチを用いてワイヤテールの先端部にフリーエアボールを形成するフリーエアボール形成ステップと、フリーエアボールが形成されたワイヤテールを撮像する撮像ステップと、撮像ステップで出力された画像に基づいてボンディングワイヤの中心軸に対するフリーエアボールの偏りを計測する計測ステップとを有する。
【0008】
本発明の第3の態様におけるワイヤボンディング装置の制御プログラムは、キャピラリの先端部からボンディングワイヤを繰り出してワイヤテールを形成するテール形成ステップと、トーチを用いてワイヤテールの先端部にフリーエアボールを形成するフリーエアボール形成ステップと、フリーエアボールが形成されたワイヤテールを撮像する撮像ステップと、撮像ステップで出力された画像に基づいてボンディングワイヤの中心軸に対するフリーエアボールの偏りを計測する計測ステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るワイヤボンディング装置等によれば、実際に半導体チップを製造する製造環境下においてフリーエアボールを形成し直ちにその偏芯状態を計測することができるので、フリーエアボールが偏芯したままボンディングが実行されることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係るワイヤボンダの要部を模式的に示す斜視図である。
【
図4】FABの偏りを計測する第1手法を説明する図である。
【
図5】FABの偏りを計測する第2手法を説明する図である。
【
図6】本実施形態に係るFAB計測を含む第1実施例の処理手順を説明するフロー図である。
【
図7】本実施形態に係るFAB計測を含む第2実施例の処理手順を説明するフロー図である。
【
図8】本実施形態に係るFAB計測を含む第3実施例の処理手順を説明するフロー図である。
【
図9】別実施形態に係るワイヤボンダの要部を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0012】
図1は、本実施形態に係るワイヤボンダ100の要部を模式的に示す斜視図である。図示するワイヤボンダ100は、理解のために簡略化した構造や機構を用いたり、要素の大きさや形状を異ならせたり、本実施形態とは直接的に関係しない要素を省略したりするが、実際のワイヤボンダとの相違を示すことを意図するものではない。
【0013】
ワイヤボンダ100は、半導体チップ320のパッド電極321と基板330のリード電極322をボンディングワイヤであるワイヤ300により結線するボンディング装置である。ワイヤボンダ100は、主に、ヘッド部110、ツール部120、トーチ131、キャピラリ133、第1撮像ユニット151、第2撮像ユニット152を備える。ヘッド部110は、ツール部120、トーチ131、第1撮像ユニット151、第2撮像ユニット152を支持し、ヘッド駆動モータ141によって平面方向へ移動可能である。平面方向は、図示するように、X軸方向とY軸方向で定められる水平方向であり、架台210に載置されたステージ220の移動方向でもある。ステージ220上には基板330が載置され固定される。
【0014】
ツール部120は、Y軸方向へそれぞれ延出するクランパ132とトランスデューサ134を支持しており、トランスデューサ134の先端部にはキャピラリ133が配設されている。クランパ132は、ワイヤ300を挟み込むハンドを有し、ワイヤボンダ100の制御に従ってワイヤ300を挟掴、解離する。トランスデューサ134は、ボンディング時にキャピラリ133を介してワイヤ300の先端近傍に超音波振動を与える。キャピラリ133は、ワイヤ300をガイドしてパッド電極321、リード電極322へ供給すると共に、ボンディング時には先端部がワイヤ300をパッド電極321、リード電極322へ押し付ける機能を担う。ワイヤ300は、テンショナーや回転スプールを含む不図示のワイヤ供給部から供給される。ワイヤ300の素材は、半導体チップ320の種類や性質等によって適宜選択され、例えば、金、銀、銅が採用される。
【0015】
トーチ131は、ヘッド部110に支持され、先端部に放電電極を備える。パッド電極321へのファーストボンド時には、キャピラリ133の先端部から一定の長さのワイヤ300が繰り出されてワイヤテールが形成される。この状態でワイヤテールの先端部はトーチ131の電極とX軸方向に沿って対向し、図示するように、電極への電圧印加によって溶融状態のフリーエアボール(FAB:Free Air Ball)301が形成される。ツール部120は、ツール駆動モータ142によって、ヘッド部110に対して高さ方向へ移動可能であり、ワイヤテールの先端部をトーチ131の電極に対向させたり、パッド電極321やリード電極322に対して接近または離隔させたりすることができる。高さ方向は、図示するように、平面方向に直交するZ軸方向である。
【0016】
第1撮像ユニット151は、ワイヤテールの先端部に形成されたFAB301をY軸方向から撮像するための撮像ユニットであり、ヘッド部110に支持されている。第1撮像ユニット151は、画像信号を出力する撮像素子と、撮像素子へFAB301の像を結像させる光学系を備える。第2撮像ユニット152は、ワイヤテールの先端部に形成されたFAB301をX軸方向から撮像するための撮像ユニットであり、第1撮像ユニット151と同様にヘッド部110に支持されている。第2撮像ユニット152も、画像信号を出力する撮像素子と、撮像素子へFAB301の像を結像させる光学系を備える。以下の説明においては、第1撮像ユニット151と第2撮像ユニット152を纏めて撮像部と称する場合がある。
【0017】
なお、XYZ座標系は、ヘッド部110の基準位置を原点とする空間座標系である。以降の図面においても各要素の向きを示すために同様の座標軸を併記する場合がある。
【0018】
図2は、ワイヤボンダ100のシステム構成図である。ワイヤボンダ100の制御システムは、主に、演算処理部170、記憶部180、入出力デバイス190、トーチ131、クランパ132、トランスデューサ134、ヘッド駆動モータ141、ツール駆動モータ142、第1撮像ユニット151、第2撮像ユニット152によって構成される。演算処理部170は、ワイヤボンダ100の制御とプログラムの実行処理を行うプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)である。プロセッサは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理チップと連携する構成であってもよい。演算処理部170は、記憶部180に記憶された制御プログラムを読み出して、ボンディングに関する様々な処理を実行する。
【0019】
記憶部180は、不揮発性の記憶媒体であり、例えばHDD(Hard Disk Drive)によって構成されている。記憶部180は、ワイヤボンダ100の制御や処理を実行するプログラムの他にも、制御や演算に用いられる様々なパラメータ値、関数、ルックアップテーブル等を記憶し得る。入出力デバイス190は、例えばキーボード、マウス、表示モニタを含み、オペレータによるメニュー操作を受け付けたり、オペレータへ情報を提示したりするデバイスである。例えば、演算処理部170は、入出力デバイス190の一つである表示モニタへ、撮像した画像と共にFABの計測結果を表示してもよい。
【0020】
トーチ131は、演算処理部170から放電指示信号を受けると電極への電圧印加を実行する。電極への電圧印加が実行されると電極とワイヤテールの間でアーク放電が発生し、ワイヤテールの先端部にFABが形成される。クランパ132は、演算処理部170から挟掴指示信号を受けている間ハンドを閉じる。挟掴指示信号が解除されると、ハンドは開かれる。ワイヤ300は、ハンドが閉じられている間は、キャピラリ133から繰り出されたり、キャピラリ133へ引き戻されたりすることがない。トランスデューサ134は、演算処理部170からの加振信号を受けると振動子を振動させる。トランスデューサ134による超音波振動は、ワイヤ300の接合に寄与する。
【0021】
ヘッド駆動モニタ141は、演算処理部170から駆動信号を受けてヘッド部110を平面方向へ移動させる。ツール駆動モータ142は、演算処理部170から駆動信号を受けてツール部120を高さ方向へ移動させる。
【0022】
第1撮像ユニット151は、演算処理部170から撮像要求信号を受けて撮像を実行し、撮像素子が出力した第1画像を画像信号として演算処理部170へ送信する。同様に、第2撮像ユニット152は、演算処理部170から撮像要求信号を受けて撮像を実行し、撮像素子が出力した第2画像を画像信号として演算処理部170へ送信する。
【0023】
演算処理部170は、制御プログラムが指示する処理に応じて様々な演算を実行する機能演算部としての役割も担う。演算処理部170は、計測部171、調整部172、駆動制御部173として機能し得る。計測部171は、第1撮像ユニット151および第2撮像ユニット152へ撮像要求信号を送信し、第1画像の画像信号および第2画像の画像信号を取得して、ワイヤ300の中心軸に対するFABの偏りを計測する。調整部172は、計測部171による計測結果に基づいてトーチ131の放電条件を調整する。駆動制御部173は、ヘッド駆動モータ141を駆動する駆動信号、およびツール駆動モータ142を駆動する駆動信号を生成し、それぞれのモータへ送信する。
【0024】
図3は、FABの観察状況を説明する図である。上述のように、キャピラリ133の先端部からワイヤ300が繰り出されてワイヤテールが形成され、そのワイヤテールの先端部は、X軸プラス方向からトーチ131によるアーク放電を受けて、FAB301が形成される。
【0025】
FAB301は、トーチ131の放電条件によっては、ワイヤ300の中心軸に対してFAB301が偏って形成されてしまうことがある。その偏り量が許容量を超えてしまうと、ファーストボンディング時にパッド電極321上に形成される圧着ボールの偏芯を引き起こし、パッド電極321間のショート等の不良の原因となってしまう。FAB301の偏りは、ワイヤ300の組成や径、テール長、環境温度といった多様な要素が影響して発生する。したがって、実際に結線の作業を実行する条件下でFAB301を形成し、その偏り量が許容量を超えているか否かを評価することが好ましい。また、偏り量が許容量を超えている場合であっても、トーチ131の放電条件を調整することにより、許容量以下に抑制することができる場合もある。そこで、本実施形態におけるワイヤボンダ100は、実際に形成されたFAB301を撮像して、その偏りを計測する。
【0026】
第1撮像ユニット151は、キャピラリ133からワイヤテールが繰り出される繰り出し方向であるZ軸方向とアーク放電の放電方向であるX軸方向とに直交する方向、すなわちY軸方向からFAB301を含むワイヤテールを撮像するように設置されている。第1撮像ユニット151は、Y軸方向からワイヤテールを撮像した第1画像の画像信号を生成する。本実施形態において第1撮像ユニット151は、Y軸マイナス方向からワイヤテールを撮像するように設置されているが、Y軸プラス方向から撮像するように設置されていてもよい。FAB301の偏りは放電方向に発生しやすいので、放電方向に直交する方向から撮像された第1画像により、その偏りを精確に把握することができる。
【0027】
第2撮像ユニット152は、X軸方向からFAB301を含むワイヤテールを撮像するように設置されている。第2撮像ユニット152は、X軸方向からワイヤテールを撮像した第2画像の画像信号を生成する。本実施形態において第2撮像ユニット152は、X軸マイナス方向からワイヤテールを撮像するように設置されているが、X軸プラス方向からワイヤテールを撮像するように設置されていてもよい。第1画像に加えて、第2画像も計測の対象とすれば、FAB301の偏りを直交する2方向から精確に把握することができる。
【0028】
本実施形態の撮像部は第1撮像ユニット151と第2撮像ユニット152の2つの撮像ユニットによって構成されるが、さらに撮像ユニットを増やしてもよい。その場合、増設される撮像ユニットは、ワイヤテールが繰り出される繰り出し方向であるZ軸に直交する方向からワイヤテールを撮像できるように設置されることが望ましい。
【0029】
計測部171は、取得した画像からFAB301の偏りを計測する。ここでは、2つの計測手法についてそれぞれ図を用いて説明する。
【0030】
図4は、FAB301の偏りを計測する第1手法を説明する図である。計測部171は、ワイヤ300の中心軸に対するFAB301の一方向への膨らみ量である第1膨出量と当該一方向とは反対の他方向への膨らみ量である第2膨出量を計測する。
【0031】
図4左図は、第1撮像ユニット151から取得した第1画像を表す。第1画像において第1膨出量は、ワイヤ300の表面(ワイヤ300の中心軸に対してX軸プラス側にワイヤ300の半径分だけオフセットされた境界線)からFAB301のX軸プラス側の頂点までの距離D
1である。同様に、第2膨出量は、ワイヤ300の表面(ワイヤ300の中心軸に対してX軸マイナス側にワイヤ300の半径分だけオフセットされた境界線)からFAB301のX軸マイナス側の頂点までの距離D
2である。例えば、偏芯評価値=1.0-Min(D
1,D
2)/Max(D
1,D
2)とし、Max(D
1,D
2)=D
1のときに「-」の符号を、Max(D
1,D
2)=D
2のときに「+」の符号を与えれば、どちら側にどれだけ偏っているのかを表すことができる。もし、D
1=D
2であれば、偏芯評価値は0となり、第1画像の撮像方向に対しては偏りがないことがわかる。
【0032】
図4右図は、第2撮像ユニット152から取得した第2画像を表す。第2画像において第1膨出量は、ワイヤ300の表面(ワイヤ300の中心軸に対してY軸マイナス側にワイヤ300の半径分だけオフセットされた境界線)からFAB301のY軸マイナス側の頂点までの距離D
3である。同様に、第2膨出量は、ワイヤ300の表面(ワイヤ300の中心軸に対してY軸プラス側にワイヤ300の半径分だけオフセットされた境界線)からFAB301のY軸プラス側の頂点までの距離D
4である。同様に、偏芯評価値=1.0-Min(D
3,D
4)/Max(D
3,D
4)とし、Max(D
3,D
4)=D
3のときに「-」の符号を、Max(D
3,D
4)=D
4のときに「+」の符号を与えれば、どちら側にどれだけ偏っているのかを表すことができる。もし、D
3=D
4であれば、偏芯評価値は0となり、第2画像の撮像方向に対しては偏りがないことがわかる。
【0033】
なお、キャピラリ133に挿通されている実際のワイヤ300の径は既知であることから、画像上のワイヤ300の幅から1ピクセル当たりの実際の距離を算出することができる。これにより、画像上の距離(ピクセル数)から実際の距離へ変換することができる。
【0034】
図5は、FAB301の偏りを計測する第2手法を説明する図である。計測部171は、ワイヤ300の中心軸に対するFAB301の中心の偏位量を計測する。
【0035】
図5左図は、第1撮像ユニット151から取得した第1画像を表す。第1画像において偏位量は、FAB301の中心軸からFAB310の中心C
Xまでの距離D
Xである。例えば、偏芯評価値=D
Xとし、C
Xが中心軸よりもX軸プラス側に存在するときに「-」の符号を、C
Xが中心軸よりもX軸マイナス側に存在するときに「+」の符号を与えれば、どちら側にどれだけ偏っているのかを表すことができる。もし、D
X=0であれば、偏芯評価値は0となり、第1画像の撮像方向に対しては偏りがないことがわかる。
【0036】
図5右図は、第2撮像ユニット152から取得した第2画像を表す。第2画像において偏位量は、FAB301の中心軸からFAB310の中心C
Yまでの距離D
Yである。例えば、偏芯評価値=D
Yとし、C
Yが中心軸よりもY軸マイナス側に存在するときに「-」の符号を、C
Yが中心軸よりもY軸プラス側に存在するときに「+」の符号を与えれば、どちら側にどれだけ偏っているのかを表すことができる。もし、D
Y=0であれば、偏芯評価値は0となり、第2画像の撮像方向に対しては偏りがないことがわかる。画像上の距離(ピクセル数)から実際の距離へ変換については、
図4の場合と同様である。
【0037】
計測部171によるFAB310の偏芯計測は、実際に結線の作業を実行する製造工程に対して、様々に組み込むことができる。ここでは、3つの実施例についてそれぞれ図を用いて説明する。
【0038】
図6は、本実施形態に係るFABの偏芯計測を含む第1実施例の処理手順を説明するフロー図である。第1実施例においては、結線作業を実行するに先立って、基準を満たすFABが形成されるようにトーチ131の放電条件を決定するためにFABの偏芯計測を行う。図示するフローは、例えば、結線作業を実行する前の準備時点において開始される。
【0039】
調整部172は、ステップS111で、トーチ131の放電条件に関する初期設定の入力を、入出力デバイス190を介して受け付ける。調整部172は、入出力デバイス190による入力に限らず、予め定められている初期設定を用いてもよい。駆動制御部173は、ステップS112で、ワイヤ供給部からワイヤ300を引き込み、キャピラリ133の先端部からワイヤ300を繰り出してワイヤテールを形成する。このとき、形成したワイヤテールの先端部がトーチ131の電極と対向していなければ、対向するようにツール駆動モータ142を駆動してワイヤテールの高さを調整する。
【0040】
調整部172は、ステップS113で、設定された放電条件に従ってトーチ131の電極に電圧を印加して、ワイヤテールの先端部にFAB301を形成する。計測部171は、ステップS114で、第1撮像ユニット151および第2撮像ユニット152へそれぞれ撮像要求信号を送信して撮像処理を実行させ、FAB301を含むワイヤテールを撮像した第1画像と第2画像を取得する。そして、ステップS115で、
図4、
図5を用いて説明したいずれかの計測手法により第1画像および第2画像からワイヤ300の中心軸に対するFAB301の偏りを計測する。いずれの計測手法を用いるかは事前にオペレータが選択できるようにしてもよいし、半導体チップ320等の設定に応じて自動的に選択されるようにしてもよい。あるいは、制御プログラムがいずれか一方の計測手法にのみに対応するものであってもよい。
【0041】
計測部171は、ステップS116で、計測結果が予め設定された基準を満たすか否かを判定する。基準は、例えば、パッド電極321間のショート等の不都合を引き起こすおそれのない、偏芯評価値の許容量として定められている。計測結果である偏芯評価値が、許容量を超えていればステップS117へ進む。許容量に収まっていれば、設定、調整された放電条件で適切なFABを形成できるものとして、半導体チップ320に対する結線作業が実行されるまで待機すべく、一連の準備作業を終了する。
【0042】
ステップS117へ進んだ場合は、演算処理部170は、形成したFAB301をダミーの電極パッド等へ着接させ、クランパ132を閉じてワイヤ300をカットする。そして、ステップS118で、調整部172は、計測部171による計測結果を考慮して、放電条件を調整する。すなわち、一定の方向に偏芯している場合はFAB表面の冷却速度の違いを考慮しスパーク電流、電流傾斜時間、ガス流量等を変更し、ランダムに偏芯方向が変わる場合は振動による影響を考慮しスパーク前遅延時間を入れるなど偏りの大きさや方向に応じて、放電条件のパラメータを変更する。放電条件の調整が完了したら、その調整後の放電条件で形成されるFAB301を評価すべくステップS112へ戻り、一連の処理を継続する。
【0043】
このような準備作業を経て半導体チップ320の結線作業へ移行すれば、結線作業の初期段階から安定したFABの形成を実現することができる。
【0044】
図7は、本実施形態に係るFABの偏芯計測を含む第2実施例の処理手順を説明するフロー図である。第2実施例においては、結線作業の実行中に実際に形成されるFABを監視する。図示するフローは、ステージ220に設置された基板330の個々の半導体チップ320に対して結線作業を始める時点において開始される。なお、
図6を用いて説明した各ステップと同様の処理については、同一のステップ番号を付与することにより、特に言及する場合を除いて、その説明を省略する。
【0045】
フローが開始されると、ステップS111からステップS116までは、
図6の対応するステップと同様の処理を実行する。ただし、ここで形成されるFAB301は、計測のために試行的に形成されるものではなく、実際に半導体チップ320のパッド電極321へ着接されるものである。
【0046】
計測部171がステップS116で基準を満たすと判断したら、ステップS121へ進む。駆動制御部173は、形成されたFAB301を対象となるパッド電極321へ着接し、ファーストボンディングを実行する。このとき、演算処理部170は、トランスデューサ134へ加振信号を送信するなど、ファーストボンディングに伴う制御を実行する。
【0047】
続いて、駆動制御部173は、ステップS122で、ワイヤ300を対応するリード電極322へ移動させ、セカンドボンディングを実行する。このとき、演算処理部170は、トランスデューサ134へ加振信号を送信するなど、セカンドボンディングに伴う制御を実行する。演算処理部170は、ステップS123へ進み、クランパ132を閉じてワイヤ300をカットし、ステップS124へ進む。
【0048】
演算処理部170は、ステップS124で、全ボンディングの処理が終了したか否かを確認する。終了していなければ、残存するボンディング処理を実行すべくステップS112へ戻って一連の処理を継続する。終了していれば、一連のボンディング処理を終了する。
【0049】
計測部171がステップS116で基準を満たさないと判断したら、ステップS125へ進み、駆動制御部173は、形成したFAB301を対象となるパッド電極321へ着接させることなく所定位置へ退避させる。そして、演算処理部170は、例えば警告音を発するなどの警告処理を実行し、オペレータへ処理を中断したことを知らせ、一連の処理を中断して終了する。
【0050】
このような処理手順を採用すれば、パッド電極321間のショート等の不都合を未然に防ぐことができる。
【0051】
図8は、本実施形態に係るFABの偏芯計測を含む第3実施例の処理手順を説明するフロー図である。第3実施例においては、結線作業の実行中に実際に形成されるFABを監視すると共に、計測結果が一定の条件を満たす場合には、結線作業を継続しつつ放電条件を調整する。図示するフローは、
図7のフローと同様に、ステージ220に設置された基板330の個々の半導体チップ320に対して結線作業を始める時点において開始される。なお、
図6、
図7を用いて説明した各ステップと同様の処理については、同一のステップ番号を付与することにより、特に言及する場合を除いて、その説明を省略する。
【0052】
フローが開始されると、ステップS111からステップS115までは、
図7の対応するステップと同様の処理を実行する。ステップS115からステップS131へ進むと、計測部171は、計測結果が予め設定された第1基準を満たすか否かを判定する。第1基準は、これを満たさない場合にはパッド電極321間のショート等の不都合を引き起こす可能性が高いと判断される基準であり、例えば偏芯評価値によって範囲が定められている。計測結果が第1基準を満たす場合にはステップS121へ進み、ファーストボンディングを開始する。計測結果が第1基準を満たさない場合には、ステップS125へ進み、退避と警告の処理を実行し、一連の処理を中断して終了する。
【0053】
ステップS121へ進んだ場合には、ステップS123まで上述のように処理を続ける。そして、ステップS132へ進んだら、計測部171は、ステップS115で計測した計測結果が第2基準を満たすか否かを判定する。第2基準は、これを満たす場合には最適形状と評価し得る基準であり、第1基準よりも偏りが少ない範囲が設定されている。第2基準を満たさず第1基準を満たす状況は、そのまま結線作業を継続してもパッド電極321間のショート等の不都合を引き起こすおそれはないものの、何らかのきっかけにより第1基準も満たさなくなる可能性がある。そこで、計測部171がステップS132で第2基準を満たさないと判定した場合には、ステップS133へ進み、調整部172は、計測結果を考慮して、放電条件を調整する。すなわち、偏りの大きさや方向に応じて、放電条件のパラメータを変更する。その後ステップS124へ進む。計測部171がステップS132で第2基準を満たすと判定した場合には、ステップS133をスキップして、ステップS124へ進む。
【0054】
このような処理手順を採用すれば、パッド電極321間のショート等の不都合を未然に防ぐことができると共に、継続的に放電条件も調整できるので、より最適に結線作業を実行することができる。なお、このように連続的に形成されるFAB301を観察する場合には、偏りの変化を把握することもできる。調整部172は、そのような変化を考慮して放電条件を調整してもよい。また、計測された偏芯評価値と調整した放電条件からその後に形成されるFAB301の偏りの学習データから生成された学習済みモデルを用意すれば、調整部172は、そのような学習済みモデルを利用して放電条件を調整することもできる。この場合、実際の結線作業を通じて得られるデータを再学習のための学習データとして活用してもよい。
【0055】
以上説明したワイヤボンダ100では、第1撮像ユニット151と第2撮像ユニット152の2つの撮像ユニットによって撮像部を構成したが、装置を簡略化する観点においては、撮像部を1つの撮像ユニットで構成してもよい。
図9は、別実施形態に係るワイヤボンダ100’の要部を模式的に示す斜視図である。ワイヤボンダ100と同様の構成については同一の符番を付して説明を省略する。
【0056】
ワイヤボンダ100’は、撮像部が撮像ユニット151’のひとつで構成されている点、およびこれが架台210に設置されている点でワイヤボンダ100と異なる。撮像部をひとつの撮像ユニットで構成する場合には、上述のように、放電方向に直交する方向からFAB301を含むワイヤテールを撮像するように設置することが好ましい。ワイヤボンダ100’は、Y軸プラス方向からワイヤテールを撮像するように撮像ユニット151’を備えるが、Y軸マイナス方向からワイヤテールを撮像するように備えてもよい。
【0057】
また、撮像ユニット151’を架台210に支持されるように設置すれば、ヘッド部の動作に伴って移動されないので安定的にワイヤテールを観察することができる。ただし、この場合はワイヤテールを撮像可能な空間が限られるので、駆動制御部173は、当該空間へワイヤテールが位置するように、ヘッド部110およびツール部120を駆動することを要する。この観点からは、撮像ユニットが架台210に支持される構成は、上述の第1実施例を実施する場合に好ましい。なお、架台210に複数の撮像ユニットを設置して、ワイヤテールを2つ以上の方向から観察するようにしても構わない。
【0058】
以上、ワイヤボンディング装置の一例としてワイヤボンダ100を説明したが、本実施形態に係るFABの偏りを計測する手法や構成を適用し得るボンディング装置は、2つのボンディングポイントをワイヤで接続するワイヤボンダ100の例に限らない。例えば、基板上の複数の電極上のそれぞれにバンプを形成するバンプボンダにも適用し得る。
【符号の説明】
【0059】
100、100’…ワイヤボンダ、110…ヘッド部、120…ツール部、130…第1撮像ユニット、131…トーチ、132…クランパ、133…キャピラリ、134…トランスデューサ、141…ヘッド駆動モータ、142…ツール駆動モータ、151…第1撮像ユニット、151’…撮像ユニット、152…第2撮像ユニット、170…演算処理部、171…計測部、172…調整部、173…駆動制御部、180…記憶部、190…入出力デバイス、210…架台、220…ステージ、300…ワイヤ、301…FAB(フリーエアボール)、320…半導体チップ、321…パッド電極、322…リード電極、330…基板