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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 1/44 20060101AFI20250127BHJP
【FI】
F16K1/44 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022544473
(86)(22)【出願日】2021-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2021030007
(87)【国際公開番号】W WO2022044880
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2020140995
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】神崎 敏智
(72)【発明者】
【氏名】高橋 渉
(72)【発明者】
【氏名】葉山 真弘
(72)【発明者】
【氏名】福留 康平
(72)【発明者】
【氏名】白藤 啓吾
【審査官】菊地 牧子
(56)【参考文献】
【文献】実公昭48-022735(JP,Y1)
【文献】特開2020-041606(JP,A)
【文献】実開昭56-082358(JP,U)
【文献】特公昭57-040945(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K1/44
F16K31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次圧ポートおよび2次圧ポートが形成されたバルブハウジングと、
駆動源により駆動される弁体と、
前記弁体が着座する弁座と、
を備える弁であって、
前記弁座は、第1弁座と、前記第1弁座の内径側に配置され1次圧と2次圧の差圧によって前記弁体に近接する方向に移動する第2弁座とを備え
前記第2弁座が形成される可動体は、常に2次圧を受ける受圧面を有している弁。
【請求項2】
前記可動体は、付勢手段により前記弁体から離間する方向に付勢されている請求項に記載の弁。
【請求項3】
前記受圧面が面する空間には、1次圧の流体と2次圧の流体が流通可能となっている請求項2に記載の弁。
【請求項4】
前記付勢手段は、前記空間に配置されている請求項に記載の弁。
【請求項5】
前記可動体は、前記第2弁座に前記弁体が着座される閉弁時に、前記空間に1次圧の流体を流通可能な第2の1次圧ポートを閉塞する閉塞部を有している請求項またはに記載の弁。
【請求項6】
前記第2の1次圧ポートは、流路断面積が下流側に行くにしたがって減少する先細ノズルである請求項に記載の弁。
【請求項7】
前記第2の1次圧ポートは、流路断面積が下流側に行くにしたがって増加する末広ノズルである請求項に記載の弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動流体を可変制御する弁に関し、例えば、自動車の空調システムに用いられる容量可変型圧縮機の吐出量を圧力に応じて制御する容量制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の空調システムに用いられる容量可変型圧縮機は、回転軸、斜板、圧縮用のピストン等を備えている。回転軸はエンジンにより回転駆動され、斜板は回転軸に対して傾斜角度を可変に連結され、ピストンは斜板に連結されている。容量可変型圧縮機は、斜板の傾斜角度を変化させることにより、ピストンのストローク量を変化させて流体の吐出量を制御するものである。この斜板の傾斜角度は、電磁力により開閉駆動される容量制御弁を用いて、流体を吸入する吸入室の吸入圧力Ps、ピストンにより加圧された流体を吐出する吐出室の吐出圧力Pd、斜板を収容した制御室の制御圧力Pcを利用しつつ、制御室内の圧力を適宜制御することで連続的に変化させ得るようになっている。
【0003】
容量可変型圧縮機の連続駆動時において、容量制御弁は、制御コンピュータにより通電制御され、ソレノイドで発生する電磁力により弁体を軸方向に移動させている。これにより、吐出圧力Pdの吐出流体が通過する吐出ポートと制御圧力Pcの制御流体が通過する制御ポートとの間に設けられる弁が開閉され容量可変型圧縮機の制御室の制御圧力Pcを調整する通常制御が行なわれる。
【0004】
容量制御弁の通常制御時においては、容量可変型圧縮機における制御室の圧力が適宜制御されており、回転軸に対する斜板の傾斜角度を連続的に変化させることにより、ピストンのストローク量を変化させて吐出室に対する流体の吐出量を制御し、空調システムが目標の冷却能力となるように調整している。
【0005】
また、容量制御弁には、制御ポートと吸入ポートとの間に設けられるポペット弁を開閉して制御ポートから吸入ポートに流れる流体の流量を制御するものもある(特許文献1参照)。このような容量制御弁は、1次圧力の制御圧力Pcと該制御圧力Pcよりも圧力が低い2次圧力の吸入圧力Psとの圧力差を利用して容量可変型圧縮機の制御室の制御圧力Pcを制御している。尚、容量可変型圧縮機の制御室は、オリフィスを介して容量可変型圧縮機の吐出室と連通されており、高圧の吐出圧力Pdがオリフィスを通って制御室に常時供給されることにより制御圧力Pcが調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-075054号公報(第8頁~第10頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のような容量制御弁においては、ポペット弁構造であって、閉塞時には、弁開度が狭くなるにつれ流路内の流体から弁体に作用するソレノイドの駆動力とは反対方向の力は増加する。特に流体の圧力が高い状態であれば、弁体が流体から受ける力が強く、ソレノイドにはこの状態に対応する駆動力が求められていた。
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、小さい駆動力で閉弁することができる弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の弁は、
1次圧ポートおよび2次圧ポートが形成されたバルブハウジングと、
駆動源により駆動される弁体と、
前記弁体が着座する弁座と、
を備える弁であって、
前記弁座は、第1弁座と、前記第1弁座の内径側に配置され1次圧と2次圧の差圧によって前記弁体に近接する方向に移動する第2弁座とを備えている。
これによれば、1次圧と2次圧の差圧によって第2弁座は弁体に近接する方向に移動されることにより、閉弁時における弁口径を小さくすることができる。これにより、弁体は1次圧から受ける抗力が小さくなり、小さい駆動力で閉弁することができる。
【0010】
前記第2弁座が形成される可動体は、常に2次圧を受ける受圧面を有していてもよい。
これによれば、可動体に差圧を常に作用させることができるため、差圧に対する応答性を高めることができる。
【0011】
前記可動体は、付勢手段により前記弁体から離間する方向に付勢されていてもよい。
これによれば、可動体に作用する差圧が小さいとき、可動体を弁体から確実に離間させることができる。
【0012】
前記受圧面が面する空間には、1次圧の流体と2次圧の流体が流通可能となっていてもよい。
これによれば、2次圧を受ける受圧面が面する空間に1次圧も供給されるため、可動体に作用する差圧を1次圧に応じて調整することができ、可動体の応答性を高めることができる。
【0013】
前記付勢手段は、前記空間に配置されていてもよい。
これによれば、可動体と弁体を独立して動作させることができ、可動体の応答性を高めることができる。
【0014】
前記可動体は、前記第2弁座に前記弁体が着座される閉弁時に、前記空間に1次圧の流体を流通可能な第2の1次圧ポートを閉塞する閉塞部を有していてもよい。
これによれば、閉弁時における1次圧側から2次圧側への流体漏れを防止することができる。
【0015】
前記第2の1次圧ポートは、流路断面積が下流側に行くにしたがって減少する先細ノズルであってもよい。
これによれば、第2の1次圧ポートを通過する流体が亜音速流れであるとき、1次圧側から第2の1次圧ポートを通過する流体は、流速が上昇し、空間に供給される流体の圧力が低下するため、可動体に作用する差圧が大きくなるように調整される。これにより、可動体を弁体に近接させやすくすることができる。
【0016】
前記第2の1次圧ポートは、流路断面積が下流側に行くにしたがって増加する末広ノズルであってもよい。
これによれば、第2の1次圧ポートを通過する流体が超音速流れであるとき、1次圧側から第2の1次圧ポートを通過する流体は、流速が上昇し、空間に供給される流体の圧力が低下するため、可動体に作用する差圧が大きくなるように調整される。これにより、可動体を弁体に近接させやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る実施例1の容量制御弁の非通電状態において、CS弁が開放された様子を示す断面図である。
図2図1の拡大断面図である。
図3】実施例1の容量制御弁の通電状態(最大通電時)において、第1弁座にCS弁体が着座されてCS弁が閉塞された様子を示す拡大断面図である。
図4】実施例1の容量制御弁の通電状態において、差圧により移動した可動体の第2弁座にCS弁体が着座されてCS弁が閉塞された様子を示す拡大断面図である。
図5】実施例1の容量制御弁の通電状態において、図4の状態からCS弁体がさらに移動し第1弁座にCS弁体が着座されてCS弁が閉塞された様子を示す拡大断面図である。
図6】本発明に係る実施例2の容量制御弁の非通電状態において、CS弁が開放された様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る弁を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。なお、実施例は容量制御弁を例にして説明するが、その他の用途にも適用可能である。
【実施例1】
【0019】
実施例1に係る容量制御弁につき、図1から図5を参照して説明する。以下、図1の正面側から見て左右側を容量制御弁の左右側として説明する。詳しくは、バルブハウジング10が配置される紙面左側を容量制御弁の左側、駆動源であるソレノイド80が配置される紙面右側を容量制御弁の右側として説明する。
【0020】
本発明の容量制御弁は、自動車等の空調システムに用いられる図示しない容量可変型圧縮機に組み込まれ、冷媒である作動流体(以下、単に「流体」と表記する。)の圧力を可変制御することにより、容量可変型圧縮機の吐出量を制御し空調システムを目標の冷却能力となるように調整している。
【0021】
先ず、容量可変型圧縮機について説明する。容量可変型圧縮機は、吐出室と、吸入室と、制御室と、複数のシリンダと、を備えるケーシングを有している。尚、容量可変型圧縮機には、吐出室と制御室とを直接連通する連通路が設けられており、この連通路には吐出室と制御室との圧力を平衡調整させるための固定オリフィス9が設けられている(図1参照)。
【0022】
また、容量可変型圧縮機は、回転軸と、斜板と、複数のピストンと、を備えている。回転軸は、ケーシングの外部に設置される図示しないエンジンにより回転駆動されている。斜板は、制御室内において回転軸に対してヒンジ機構により傾斜可能に連結されている。複数のピストンは、斜板に連結され各々のシリンダ内において往復動自在に嵌合されている。容量可変型圧縮機は、電磁力により開閉駆動される容量制御弁V1を用いて、流体を吸入する吸入室の吸入圧力Ps、ピストンにより加圧された流体を吐出する吐出室の吐出圧力Pd、斜板を収容した制御室の制御圧力Pcを利用しつつ、制御室内の圧力を適宜制御することで斜板の傾斜角度を連続的に変化させることにより、ピストンのストローク量を変化させて流体の吐出量を制御している。
【0023】
図1に示されるように、容量可変型圧縮機に組み込まれる本実施例1の容量制御弁V1は、ソレノイド80を構成するコイル86に通電する電流を調整し、容量制御弁V1におけるCS弁50の開閉制御を行うことにより、1次圧側である制御室から2次圧側である吸入室に流出する流体を制御することで制御室内の制御圧力Pcを可変制御している。尚、吐出室の吐出圧力Pdの吐出流体が固定オリフィス9を介して制御室に常時供給されており、容量制御弁V1におけるCS弁50を閉塞させることにより制御室内の制御圧力Pcを上昇させられるようになっている。
【0024】
本実施例1の容量制御弁V1において、CS弁50は、弁体としてのCS弁体51と、第1弁座10aと、第2弁座40aとにより構成されているポペット弁構造である。第1弁座10aは、バルブハウジング10の内周面から内径側に突出する環状凸部10bに形成されている。第2弁座40aは、第1弁座10aよりも内径側において差圧により軸方向に移動する可動体40の軸方向右端に形成されている。CS弁体51の軸方向左端に形成される当接部51aが第1弁座10aまたは第2弁座40aに軸方向に接離することで、CS弁50は開閉するようになっている。第1弁座10aおよび第2弁座40aは本発明の弁座である。
【0025】
次いで、容量制御弁V1の構造について説明する。図1に示されるように、容量制御弁V1は、バルブハウジング10と、CS弁体51と、可動体40と、ソレノイド80と、から主に構成されている。バルブハウジング10は、金属材料により形成されている。CS弁体51とおよび可動体40は、バルブハウジング10内にそれぞれ軸方向に往復動自在に配置されている。ソレノイド80は、バルブハウジング10に接続されCS弁体51に駆動力を及ぼしている。
【0026】
図1に示されるように、CS弁体51は、金属材料または樹脂材料により形成されている。また、CS弁体51は、断面一定の柱状体である大径部51bと、大径部51bの軸方向右端の内径側から軸方向右方に延出する小径部51cと、から構成されており、ソレノイド80のコイル86に対して貫通配置されるロッドを兼ねている。
【0027】
CS弁体51の軸方向左側の端面、すなわち大径部51bの軸方向左側の端面には、当接部51aが形成されている。当接部51aは、第1弁座10aおよび第2弁座40aに向けて膨出しており断面曲面形状に形成されている。詳しくは、当接部51aの曲面形状は、一定の曲率半径を持つ球面の一部により形成されている。尚、当接部51aは、第1弁座10aおよび第2弁座40aに着座可能な形状であれば、一定の曲率半径を持つ球面の一部により形成されていなくてもよく、さらに曲面でなくともよい。
【0028】
図1に示されるように、ソレノイド80は、ケーシング81と、センタポスト82と、CS弁体51と、可動鉄心84と、スプリングとしてのコイルスプリング85と、励磁用のコイル86と、から主に構成されている。ケーシング81は、軸方向左方に開放する開口部81aを有している。センタポスト82は、略円筒形状をなしており、ケーシング81の開口部81aに対して軸方向左方から挿入されケーシング81の内径側とバルブハウジング10の内径側との間に配置されている。CS弁体51は、センタポスト82に挿通され軸方向に往復動自在、かつその軸方向左端部がバルブハウジング10内に配置されている。可動鉄心84は、CS弁体51の軸方向右端部が挿嵌・固定されるようになっている。コイルスプリング85は、センタポスト82と可動鉄心84との間に設けられ可動鉄心84をCS弁50の開弁方向である軸方向右方に付勢している。コイルスプリング85は、センタポスト82の外側にボビンを介して巻き付けられている。
【0029】
図1に示されるように、バルブハウジング10には、軸方向略中央部において内周面から内径側に突出する環状凸部10bが形成されている。該環状凸部10bには、断面傾斜形状の第1弁座10aが形成されている。第1弁座10aは、軸方向右側の環状の側面から内径側に連なり軸方向左方へ漸次縮径している。すなわち、第1弁座10aは断面直線状の傾斜面が周方向に延びるテーパ面により構成されている。
【0030】
また、バルブハウジング10には、2次圧ポートとしてのPsポート11が形成されている。Psポート11は、環状凸部10bよりも軸方向右側において径方向に貫通し容量可変型圧縮機の吸入室と連通している。また、バルブハウジング10には、第2の1次圧ポートとしての第2Pcポート12が形成されている。第2Pcポート12は、環状凸部10bよりも軸方向左側において径方向に貫通し容量可変型圧縮機の制御室と連通している。第2Pcポート12は、流路断面積が下流側へ行くにしたがって減少する(dA<0)先細ノズル形状を成している。
【0031】
また、バルブハウジング10の軸方向左側には、凹部10cが形成されている。凹部10cには、フランジ付き円筒状の可動体40が軸方向左方から挿入されるようになっている。尚、バルブハウジング10の軸方向左端部には、凹部10cの軸方向左側の縁に形成される環状の段部10dに断面矩形状のストッパ41が圧入固定されており、ストッパ41を軸方向に貫通する貫通孔41aにより容量可変型圧縮機の制御室と連通する1次圧ポートとしての第1Pcポートが形成される。
【0032】
バルブハウジング10の内部には、環状凸部10bよりも軸方向右側に弁室20が形成されている。弁室20内には、CS弁体51の当接部51aが軸方向に往復動自在に配置される。また、Psポート11は、バルブハウジング10の外周面から内径方向に延びて弁室20と連通している。
【0033】
また、バルブハウジング10の内部には、環状凸部10bよりも軸方向左側に形成される凹部10cに可動体40が挿入されることにより、環状の空間30が形成される。また、第2Pcポート12は、バルブハウジング10の外周面から内径方向に延びて空間30と連通している。
【0034】
ここで、可動体40について説明する。図2に示されるように、可動体40は、基部40cと、フランジ部40dと、閉塞部としての延出部40eと、から構成されフランジ付き二重円筒状を成している。基部40cは、軸方向に貫通する貫通孔40bが形成され円筒状を成している。フランジ部40dは、基部40cの軸方向左端部の外周面から外径側に延び円環板状を成している。延出部40eは、フランジ部40dの外径部から軸方向右方に延び円筒状を成している。
【0035】
基部40cは、バルブハウジング10の環状凸部10bの内径側に挿通されており、その外周面が環状凸部10bの内周面と摺動可能となっている。また、基部40cの軸方向右端部には、断面傾斜形状の第2弁座40aが形成されている。第2弁座40aは、外径側から内径側に、環状の平坦面40fと平坦面40fに内径側から連なり軸方向左方へ向けて漸次縮径している。すなわち、第2弁座40aは断面直線状の傾斜面が周方向に延びるテーパ面により構成されている。
【0036】
フランジ部40dおよび延出部40eは、その外周面がバルブハウジング10の凹部10cの内周面と摺動可能となっている。尚、フランジ部40dおよび延出部40eの外周面と凹部10cの内周面との間、および基部40cの外周面と環状凸部10bの内周面との間は、径方向に僅かに離間することにより微小な隙間が形成されている。このように、微小な隙間が形成されているので可動体40は、バルブハウジング10に対して軸方向に円滑に相対移動可能となっている。また、フランジ部40dおよび延出部40eの外周面は、凹部10cの内周面とクリアランスシールによる密封部が形成されている。
【0037】
また、可動体40は、空間30内に配置される付勢手段としてのコイルスプリング42により、CS弁体51から離間する方向、すなわち軸方向左方に付勢されている。詳しくは、コイルスプリング42は、可動体40の延出部40eに沿って内嵌されており、その軸方向右端は、凹部10cの底面、すなわち環状凸部10bの軸方向左側の側面に当接している。また、コイルスプリング42の軸方向左端は、可動体40のフランジ部40dの軸方向右側の内側面40hに当接している。なお、コイルスプリング42は圧縮バネである。
【0038】
尚、可動体40において、空間30に面するフランジ部40dの軸方向右側の内側面40hと延出部40eの軸方向右端面40gは、常に2次圧を受ける受圧面を構成している。
【0039】
また、可動体40は、コイルスプリング42の付勢力により軸方向左方に付勢されている。可動体40の軸方向左端面40kはストッパ41の軸方向右側の側面に当接することにより、可動体40の軸方向左方への移動が規制されるようになっている(図2および図3参照)。このとき、基部40cの軸方向右端部は、環状凸部10bの内径側に配置されている。
【0040】
このように、バルブハウジング10の内部には、ストッパ41の貫通孔41a、可動体40の貫通孔40b、弁室20、Psポート11により、容量可変型圧縮機の制御室と吸入室とを連通する第1Pc-Ps流路(図2の実線矢印参照)が形成されている。
【0041】
また、バルブハウジング10の環状凸部10bの内周面には、軸方向に延びる溝により連通路10eが形成されている。また、連通路10eにより、空間30と弁室20との間が連通されている。すなわち、空間30には、第2Pcポート12により1次圧の流体が流通可能であるとともに、連通路10eにより2次圧の流体が流通可能となっている。これにより、バルブハウジング10の内部には、第2Pcポート12、空間30、連通路10e、弁室20、Psポート11により、容量可変型圧縮機の制御室と吸入室とを連通する第2Pc-Ps流路(図2の実線矢印参照)が形成されている。
【0042】
尚、本実施例1において、第2Pcポート12は、流路断面積が下流側へ行くにしたがって減少傾向(dA<0)となる先細ノズル形状に形成されている。また、第2Pcポート12の流路断面積は、下流側へ行くにしたがって連続的に減少している。
【0043】
ここで、第2Pcポート12を通過する流体の流速と圧力の変化について説明する。等エントロピー流れにおける面積変化の影響について、断面積・圧力の関係式を下記に示す。
【0044】
【数1】
【0045】
p:圧力
γ:比熱比
M:マッハ数
A:面積
【0046】
この断面積・圧力の関係式に基づき、第2Pcポート12を通過する流体が亜音速流れ(M<1)であるとき、第2Pcポート12を通過する流体は、流速が上昇する。また、流体の圧力が低下する。そのため、第2Pcポート12から流入する空間30内の流体の圧力Pc’は、ストッパ41の貫通孔41a内の制御流体の制御圧力Pcよりも小さくなる(Pc’<Pc)。
【0047】
次いで、CS弁50の開閉機構について説明する。図2に示されるように、容量制御弁V1の非通電状態においては、CS弁体51がコイルスプリング85(図1参照)の付勢力により軸方向右方へと押圧されCS弁50は全開となっている。
【0048】
また、図3に示されるように、容量制御弁V1の通電状態(最大通電状態)においては、ソレノイド80の駆動力によりCS弁体51がコイルスプリング85(図1参照)の付勢力により軸方向左方へと移動し、第1弁座10aにCS弁体51の当接部51aが着座することにより、CS弁50が閉塞される。
【0049】
図2および図3に示されるように、可動体40に軸方向に作用する1次圧と2次圧の差圧が小さい状態では、可動体40は、コイルスプリング42によりCS弁体51から離間する方向に付勢力(図2および図3において白矢印で図示)を受け軸方向左方に移動する。また、可動体40は、軸方向左端面40kがストッパ41に当接することで移動が規制されるようになっている。詳しくは、可動体40の軸方向左端面40kには、主に1次圧が作用しており、フランジ部40dの軸方向右側の内側面40hと延出部40eの軸方向右端面40gと基部40cの軸方向右端における第2弁座40aおよび平坦面40fとには、主に1次圧と2次圧の間の圧力が作用している。このとき、可動体40の延出部40eの軸方向右端面40gは、第2Pcポート12の空間30側の開口よりも軸方向左側に配置されることにより、第2Pcポート12が全開されている。
【0050】
一方で、可動体40に軸方向に作用する差圧が大きい状態(例えば1次圧が高い状態)で、差圧より可動体40に作用する力がコイルスプリング42の付勢力を上回ると、コイルスプリング42が縮むようになっている。また、可動体40がCS弁体51に近接する方向である軸方向右方に移動し、延出部40eの軸方向右端面40gがバルブハウジング10の凹部10cの底面に当接して移動が規制される(図4参照)。このとき、可動体40の延出部40eの軸方向右端部における外周面と凹部10cの内周面とのクリアランスシールによる密封部により、第2Pcポート12が閉塞されている。
【0051】
このように、可動体40は、可動体40に軸方向に作用する差圧とコイルスプリング42の付勢力とのバランスにより軸方向に移動するようになっている。すなわち、可動体40は、ソレノイド80の駆動力により移動するCS弁体51とは独立して動作する。
【0052】
また、図4に示されるように、可動体40の延出部40eの軸方向右端面40gがバルブハウジング10の凹部10cの底面に当接した状態では、第1弁座10aの内径側において、基部40cの軸方向右端における平坦面40fが環状凸部10bの軸方向右側の側面と径方向に略面一に揃う軸方向位置に配置される。これにより、容量制御弁V1の通電状態において閉弁させる際には、CS弁体51の当接部51aは、第1弁座10aに着座するために必要なストローク(図3参照)よりも小さいストロークで第2弁座40aに着座しCS弁50を閉弁することができる。
【0053】
さらに、第2弁座40aは、第1弁座10aよりも内径側に配置され小径に形成されていることにより、第1弁座10aにCS弁体51の当接部51aが着座した状態における受圧面積A1(図5参照)と比べて、第2弁座40aにCS弁体51の当接部51aが着座した状態における受圧面積A2(図4参照)を小さく(A1>A2)することができる。すなわち、第2弁座40aは、その弁口径が小さく、CS弁体51の当接部51aに対して軸方向右方に作用する可動体40の貫通孔40b内の1次圧から受ける抗力が小さくなり、ソレノイド80の小さい駆動力でCS弁50を閉弁することができる。
【0054】
また、図4に示される状態から、CS弁体51をさらに軸方向左方に移動させ、第1弁座10aにCS弁体51の当接部51aが着座されるまでの間、CS弁体51が可動体40の貫通孔40b内の1次圧から受ける抗力は、上述した小さい受圧面積A2に基づくこととなるため、CS弁50の閉弁に必要なソレノイド80の駆動力を小さくすることができる。尚、図5に示される状態では、第1弁座10aにCS弁体51の当接部51aが着座されることにより、可動体40に軸方向に作用する差圧の変化により可動体40が軸方向左方に移動した場合でもCS弁50の閉弁を維持することができる。
【0055】
このとき、CS弁体51の移動に伴い可動体40が軸方向左方に押圧され、延出部40eの軸方向右端面40gがバルブハウジング10の凹部10cの底面から軸方向左方に離間するが、延出部40eの軸方向右端面40gは第2Pcポート12の空間30側の開口よりも軸方向右側に配置されることにより、第2Pcポート12が閉塞された状態が維持され、流体漏れが防止されている。
【0056】
また、可動体40は、空間30に面するフランジ部40dの軸方向右側の内側面40hと延出部40eの軸方向右端面40gが常に2次圧を受ける受圧面となっているため、可動体40に1次圧と2次圧の差圧を常に作用させることができることから、差圧に対する応答性を高めることができる。
【0057】
また、可動体40は、コイルスプリング42によりCS弁体51から離間する方向に付勢されているため、可動体40に作用する差圧が小さいとき、可動体40をCS弁体51から確実に離間させることができる。
【0058】
また、空間30には、1次圧の流体と2次圧の流体に流通可能となっているため、空間30には連通路10eを通して2次圧側である弁室20から供給される2次圧に加えて、第2Pcポート12を通して1次圧が供給される。このため、可動体40に作用する差圧を1次圧に応じて調整することができ、可動体40の応答性を高めることができる。
【0059】
また、空間30と弁室20との間に連通路10eが形成されることにより、可動体40が軸方向右方に移動する際に連通路10eを通して空間30内から弁室20へ流体を移動させることができるため、可動体40をスムーズに移動させることができる。
【0060】
また、第2Pcポート12は、流路断面積が下流側に行くにしたがって減少する先細ノズルであり、第2Pcポート12を通過する流体が亜音速流れであるとき、1次圧側から第2Pcポート12を通過する流体は、流速が上昇し、空間30に供給される流体の圧力が低下するため、可動体40に作用する差圧が大きくなるように調整される。これにより、可動体40をCS弁体51に近接させやすくすることができる。
【0061】
また、コイルスプリング42は、空間30に配置されており、可動体40とCS弁体51を独立して動作させることができ、可動体40の応答性を高めることができる。
【0062】
また、図2に示されるように、非通電状態において、差圧が小さい状態ではCS弁50と第2Pcポート12を共に全開とすることにより、第1Pc-Ps流路および第2Pc-Ps流路の両方を通して流体の流量を増加させることができる。
【0063】
また、容量制御弁V1は、バルブハウジング10の軸方向左端から凹部10cに可動体40、コイルスプリング42を挿入した後、ストッパ41を圧入して固定する構造であるため、組み立てが簡単である。
【実施例2】
【0064】
実施例2に係る容量制御弁につき、図6を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0065】
図6に示されるように、本実施例2の容量制御弁V2において、バルブハウジング110には、第2の1次圧ポートとしてのPcポート112が形成されている。Pcポート112は、流路断面積が下流側へ行くにしたがって増加する(dA>0)末広ノズル形状を成している。
【0066】
前記実施例1における断面積・圧力の関係式に基づき、Pcポート112を通過する流体が超音速流れ(M>1)であるとき、Pcポート112を通過する流体は、流速が上昇し、圧力が低下する。そのため、Pcポート112から流入する空間30内の流体の圧力Pc’は、ストッパ41の貫通孔41a内の制御流体の制御圧力Pcよりも小さくなる(Pc’<Pc)。これにより、可動体40に作用する差圧が大きくなるように調整され、可動体40をCS弁体51に近接させやすくすることができる。
【0067】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0068】
例えば、前記実施例1,2では、可動体40が軸方向右方に移動した状態で、第1弁座10aの内径側において、基部40cの軸方向右端における平坦面40fが環状凸部10bの軸方向右側の側面と径方向に略面一に揃う軸方向位置に配置される態様について説明したが、これに限らず、可動体40が軸方向右方に移動した状態で、第1弁座10aよりも先に第2弁座40aにCS弁体51の当接部51aが着座できるものであればよい。
【0069】
また、前記実施例1,2では、1次圧側と空間30を連通する第2Pcポート12,112は、流路断面積が連続的に増加・減少する先細ノズル形状や末広ノズル形状に形成される態様について説明したが、これに限らず、流路断面積が段階的に増加・減少するものであってもよい。また、1次圧側と空間30を連通するPcポートは、流路断面積が一定であってもよい。
【0070】
また、空間30には1次圧の流体が流通可能となっていなくてもよい。
【0071】
また、連通路10eは、溝に限らず、環状凸部10bを軸方向に貫通する貫通孔により形成されていてもよい。
【0072】
また、CS弁体51は、当接部51aが断面曲面形状に形成されていなくてもよく、例えば第1弁座10aおよび第2弁座40aとそれぞれ当接可能な段状に形成されていてもよい。
【0073】
また、第1弁座10aおよび第2弁座40aを構成するテーパ面は、直線状のものに限らず円弧状であってもよい。
【0074】
また、前記実施例1,2の容量制御弁V1,V2は、CS弁50を例に説明したが、これに限らず、1次圧ポートとしてのPdポートと2次圧ポートとしてのPcポートとの間の流路を開閉するDC弁であってもよい。
【符号の説明】
【0075】
9 固定オリフィス
10 バルブハウジング
10a 第1弁座(弁座)
10b 環状凸部
10c 凹部
10d 段部
10e 連通路
11 Psポート(2次圧ポート)
12 第2Pcポート(第2の1次圧ポート)
20 弁室
30 空間
40 可動体
40a 第2弁座(弁座)
40b 貫通孔
40c 基部
40d フランジ部
40e 延出部(閉塞部)
40f 平坦面
40g 軸方向右端面(常に2次圧を受ける受圧面)
40h 側面(常に2次圧を受ける受圧面)
40k 軸方向左端面
41 ストッパ
41a 貫通孔(1次圧ポート、第1Pcポート)
42 コイルスプリング(付勢手段)
50 CS弁
51 CS弁体(弁体)
51a 当接部
80 ソレノイド
85 コイルスプリング(スプリング)
110 バルブハウジング
112 第2Pcポート(第2の1次圧ポート)
V1,V2 容量制御弁(弁)
図1
図2
図3
図4
図5
図6