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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】インクセット
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/40 20140101AFI20250127BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20250127BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20250127BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20250127BHJP
   A45D 34/04 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
C09D11/40
B41J2/01 501
B41J2/17 103
B41M5/00 120
B41M5/00 132
B41M5/00 100
A45D34/04 550
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020090062
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021183685
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 輝幸
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/073743(WO,A1)
【文献】特開2018-118427(JP,A)
【文献】特開平10-339670(JP,A)
【文献】特表2005-505505(JP,A)
【文献】特表2018-533563(JP,A)
【文献】特表2017-518091(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0231671(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/40
B41J 2/01
B41J 2/17
B41M 5/00
A45D 34/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク液滴を100pL以上5,000pL以下で吐出する印刷に用いる化粧用インクセットであって、
少なくとも2種のインクA及びインクBを含み、
前記インクA及び前記インクBのいずれもが、無彩色顔料と有彩色顔料とを含有し、
前記インクA及び前記インクBにそれぞれ含まれる無彩色顔料の有彩色顔料に対する含有質量比[無彩色顔料/有彩色顔料]が、いずれも2以上10以下であり、
前記インクA及び前記インクBを、それぞれポリエステルフィルム上に印刷デューティ100%でベタ印刷した際の印刷面のCIE L***色空間のインクAの座標値(L* A、a* A、b* A)及びインクBの座標値(L* B、a* B、b* B)において、下記の条件1~3を全て満たす、化粧用インクセット。
条件1:座標値a* A及び座標値a* Bがいずれも5以上35以下であり、座標値b* A及び座標値b* Bがいずれも10以上40以下である。
条件2:下記式(II-1)で示される色相角度hA及び下記式(II-2)で示される色相角度hBがいずれも40度以上70度以下である。
A=tan-1(b* A/a* A) (II-1)
B=tan-1(b* B/a* B) (II-2)
条件3:下記式(III)で示される彩度差ΔCが2以上20以下である。
ΔC=((a* A-a* B2+(b* A-b* B20.5 (III)
【請求項2】
下記条件4を更に満たす、請求項1に記載の化粧用インクセット。
条件4:下記式(IV)で示される色差ΔEが2以上40以下である。
ΔE=((L* A-L* B2+(a* A-a* B2+(b* A-b* B20.5 (IV)
【請求項3】
前記インクA及びインクBがいずれも無機顔料を含有し、該無機顔料の密度が3g/cm3以上である、請求項1又は2に記載の化粧用インクセット。
【請求項4】
前記印刷が皮膚上への印刷である、請求項1~3のいずれかに記載の化粧用インクセット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の化粧用インクセットに含まれる少なくとも前記インクA及び前記インクBをそれぞれ複数の吐出孔からインク液滴として吐出する工程を含む、印刷方法。
【請求項6】
皮膚上に前記インクA及び前記インクBのインク液滴を付与する、請求項5に記載の印刷方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の化粧用インクセットに含まれる少なくとも前記インクA及び前記インクBを吐出するインクジェットヘッドと、静電気を除電する本体除電装置とを備え、
前記本体除電装置は、コンデンサ又はアース回路である、化粧用ハンディインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記インクジェットヘッドからの前記インクA及び前記インクBの吐出動作に伴って副生するインクミストを回収するミスト回収装置を更に備える、請求項7に記載の化粧用ハンディインクジェットプリンタ。
【請求項9】
前記ミスト回収装置は、負に帯電したローラーである、請求項8に記載の化粧用ハンディインクジェットプリンタ。
【請求項10】
前記ローラーの形状は、スターホイール形状である、請求項9に記載の化粧用ハンディインクジェットプリンタ。
【請求項11】
前記ミスト回収装置は、負に帯電した導電性メッシュである、請求項8に記載の化粧用ハンディインクジェットプリンタ。
【請求項12】
印刷前の被印刷物の除電を行う被印刷物除電装置を更に備える、請求項7~11のいずれかに記載の化粧用ハンディインクジェットプリンタ。
【請求項13】
前記被印刷物除電装置は、導電性を有する導電性ローラーと、前記導電性ローラーと接続された除電部とを備える、請求項12に記載の化粧用ハンディインクジェットプリンタ。
【請求項14】
前記被印刷物除電装置は、負電荷を帯びた帯電水微粒子を印刷前の被印刷物に付与する、請求項12に記載の化粧用ハンディインクジェットプリンタ。
【請求項15】
前記インクジェットヘッドからの前記インクA及び前記インクBの吐出動作に伴って副生するインクミストを検出するミスト検出装置を更に備える、請求項7~14のいずれかに記載の化粧用ハンディインクジェットプリンタ。
【請求項16】
ドック部と、前記ドック部から切り離して化粧印刷を施す手持ち部とを備える、請求項7~15のいずれかに記載の化粧用ハンディインクジェットプリンタ。
【請求項17】
前記手持ち部に本体除電装置とは別の静電気を除電する除電装置を更に備える、請求項16に記載の化粧用ハンディインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、該インクセットを用いる印刷方法、及び該インクセットを用いる化粧用ハンディインクジェットプリンタに関する。
【0002】
インクジェット印刷方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を被印刷物に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る印刷方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、被印刷物として普通紙が使用可能、被印刷物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
最近では、印刷物に耐候性や耐水性を付与するために、インクジェット印刷方法において、着色剤として顔料を用いるインクジェット印刷用インクが広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、良好な色相を有する、白色顔料を含有するインク組成物、該インク組成物を用いたインクジェット記録方法等の提供を目的として、白色顔料、色相調整用の色素、重合性化合物、及び重合開始剤を含有し、前記白色顔料の重量に対する前記色相調整用の色素の重量の比が所定の範囲であるインク組成物、及び該インク組成物を用いたインクジェット記録方法等が記載されている。
特許文献2には、皮膚等の角質表面に組成物を塗布するための装置及び方法で使用するカートリッジの提供を目的として、実施例では着色剤として、黄酸化鉄、赤酸化鉄、及び二酸化チタンを含有する組成物が記載されている。
【0004】
また、インクジェット印刷方式を化粧に用いるハンディプリンタも提案されている。
特許文献3には、ハンディプリンタとしみやあざや傷等の処理対象領域との位置合わせを容易に行うことができ、また、しみやあざや傷等の処理対象領域をその周辺領域と同じようにみせることができ、処理対象領域を目立たなくさせることができるハンディプリンタの提供を目的として、濃淡が異なる肌色インクのプリントヘッドを複数搭載したハンディプリンタの模式図が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-209289号公報
【文献】特表2018-529395号公報
【文献】特開2018-118427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インクジェット印刷方式においてフルカラー化が容易である理由としては、インクジェットで吐出されるインク液滴のサイズが微小であり、インクジェットにより被印刷物に付与されたインクドットの直径が、人間の視認限界とされる50μm以下であることが挙げられる。そのため、インクジェット印刷により形成される印刷画像は、視認限界以下のドットによる点描画として描かれ、イエロー、マゼンタ、シアンの3原色でフルカラー化が可能となる。すなわち、イエロー、マゼンタ、シアンの3色インクを基本色として用意すればフルカラーの印刷が可能であり、インクジェットヘッドも少なくとも3つあればよいこととなる。
一方、インクドットの直径を視認限界とされる50μm以下とするには、吐出される1滴あたりのインク液滴量は、計算上32.5pL以下であることが必要となる。これは32.5pLのインク液滴が被印刷物に着弾してインク液滴の形状が球から半球に変化した際に、半球のサイズは65pLの球体を半分にしたサイズと同一となるためである。
インク液滴のサイズを小さくするには、インク流路及びノズルサイズを微細にし、ノズル間の距離も短く設計する必要がある。しかしながら、インク流路及びノズルサイズが微細であると、インクの乾燥によるノズルの閉塞や、インク流路中でのインクの堆積又は沈降することによる吐出安定性の低下が問題となる。また、ノズル間の距離が短い場合には、隣接するノズルからの振動残響、共鳴振動、及び熱伝導等によって、意図しないノズルからの吐出やノズルの乾燥が生じ、吐出安定性が損なわれる。
【0007】
特許文献1では、8~30pLのマルチサイズドットを吐出できるようにインクジェットヘッドを駆動することが記載されている。
特許文献2では、沈降しやすい無機顔料である酸化チタン及び酸化鉄を着色剤として用いた処理組成物をサーマルインクジェットプリンタヘッドとカートリッジとの組み合わせにより塗布することが記載されている。しかしながら、特許文献2には、用いるインクジェットヘッドの寸法に関する詳細な記載はなく、約0.1~50μmの平均直径を有する液滴の形状で塗布すると記載されているのみである。この液滴の平均直径の範囲を半球の形状を有するドット径に換算すると、0.12~63μmの範囲となる。
そのため、特許文献1の技術ではドットサイズを8~30pLとし、特許文献2の技術ではドット径を0.12~63μmとすることで、良好な印刷画質を得ていると考えられるが、インク液滴のサイズが小さく、吐出安定性が劣る。
また、特許文献3の技術では、イエロー又は淡肌色より淡い肌色、マゼンタ又は淡肌色、シアン又は濃肌色、ブラック又は濃肌色より濃い肌色のインクタンクを搭載することが記載されているのみで、インクジェットヘッドから吐出される液滴の大きさについては検討されていない。
そのため、特許文献1~3の技術で、インク液滴のサイズを大きくすると、粒状感が目立ってしまい印刷画質の低下をもたらす。
さらに、特許文献2の技術では、単色のインクを用いて印刷しているため、ドット径が大きいインクジェットヘッドを用いる場合には、印刷領域と非印刷領域との境界が目立ち、ドット自体も視認可能となり、粒状感が目立つ印刷画質となる。このように不均一で粒状感が目立つ印刷画質は、外見の中でも衆目の集まりやすい人間の顔の化粧において、見た目を不自然なものとし、化粧画像の質としては低く認識される。
【0008】
また、フェイスパウダー、白粉、化粧下地、ファンデーション、コンシーラー、ファンデーション等のメイクアップ用化粧料の大きな課題の1つとして、使用者の肌色に適合したメイクアップ用化粧料を選択することの難しさがある。特に顔と首の両方に色なじみが良好なファンデーションを選択することは難しい。
一般的には皮膚の厚さや日焼けのしやすさ等に影響され、顔は赤みを帯び、首は黄色みを帯びることが多く、同一人物であっても顔と首とで色味は変わる。
そのため、ファンデーションの選択基準としては、自然光の中で頬から顎にかけてファンデーションを塗り、顔のどの部分にも色が適合するものを選ぶことが好ましいとされる。しかしながら、顔と首との色差が大きい場合には、まず首の色に合わせてファンデーションを選択ないし調色し、顔まで同じファンデーションを塗ったうえで、色が少し沈んだ感じになった分をハイライトとチークを用いて顔に色味を足す、などの処置がなされる。また、このような処置を煩雑と考え、首と顔の中間色のファンデーションを選ぶ方法も一般的である。しかしながら、どちらの場合にも、自然で色なじみの良好な化粧としては、満足度の低い仕上がりとなってしまう。
また、アジア人は黄み寄りの肌の人が多く、加齢によっても黄み寄りになりやすい。このような黄み寄りの肌の場合には、ファンデーションで少し赤みを足すことで、皮膚の深い層にある血管のヘモグロビンの色が透けて見えているような錯覚を起こさせ、皮膚の透明感を強調することができる。しかしながら、人の手で化粧を施す際に、ちょうどよい赤みを足すことが難しく、赤みを足し過ぎた場合はあか抜けない印象を与えてしまうことがある。
そのため、化粧を施す部位ごとに色味の調整が容易で、化粧を施す部位によらずに全体的に粒状感がなく、見た目の自然さも良好な化粧画像が求められている。
【0009】
本発明は、化粧を施す部位ごとに色味の調整が容易で、インクを液滴として吐出する印刷において、吐出安定性に優れ、かつ、粒状感がなく、見た目が自然な高品位の化粧画像を得ることができる、インクセット、及び該インクセットを用いる印刷方法、及び該インクセットを用いる化粧用ハンディインクジェットプリンタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、インク液滴を吐出する印刷において、吐出されるインク液滴のサイズ、及び被印刷物に付与されたインクドットの発色性に着目し、吐出される1滴あたりのインク液滴量を所定の範囲とし、さらにCIE L***色空間の座標値(L*、a*、b*)において色相及び彩度を示す色度の座標値(a*、b*)が特定の条件を満たす2種のインクを含むインクセットを用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]を提供する。
[1]インク液滴を100pL以上5,000pL以下で吐出する印刷に用いるインクセットであって、
少なくとも2種のインクA及びインクBを含み、
インクA及びインクBを、それぞれポリエステルフィルム上に印刷デューティ100%でベタ印刷した際の印刷面のCIE L***色空間のインクAの座標値(L* A、a* A、b* A)及びインクBの座標値(L* B、a* B、b* B)において、下記の条件1~3を全て満たす、インクセット。
条件1:座標値a* A及び座標値a* Bがいずれも5以上35以下であり、座標値b* A及び座標値b* Bがいずれも10以上40以下である。
条件2:下記式(II-1)で示される色相角度hA及び下記式(II-2)で示される色相角度hBがいずれも40度以上70度以下である。
A=tan-1(b* A/a* A) (II-1)
B=tan-1(b* B/a* B) (II-2)
条件3:下記式(III)で示される彩度差ΔCが2以上20以下である。
ΔC=((a* A-a* B2+(b* A-b* B20.5 (III)
[2]前記[1]に記載のインクセットに含まれる少なくともインクA及びインクBをそれぞれ複数の吐出孔からインク液滴として吐出する工程を含む、印刷方法。
[3]前記[1]に記載のインクセットに含まれる少なくともインクA及びインクBを吐出するインクジェットヘッドと、静電気を除電する本体除電装置とを備え、
前記本体除電装置は、コンデンサ又はアース回路である、化粧用ハンディインクジェットプリンタ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、化粧を施す部位ごとに色味の調整が容易で、インクを液滴として吐出する印刷において、吐出安定性に優れ、かつ、粒状感がなく、見た目が自然な高品位の化粧画像を得ることができる、インクセット、該インクセットを用いる印刷方法、及び該インクセットを用いる化粧用ハンディインクジェットプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の印刷方法で用いるインクAの付与領域aとインクBの付与領域bとが交互である正方形格子状の印刷パターンの一例を示す図である。
図2】本発明の印刷方法で用いるインクAの付与領域aとインクBの付与領域bとが交互である三角格子状の印刷パターンの一例を示す図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタにおいて、ドック部に縦置きで搭載された手持ち部を示す図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタの構成を示すブロック図である。
図5】本発明の第2又は第3の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタの構成を示すブロック図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタのミスト回収装置を説明するための図である。
図7】本発明の第3の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタのミスト回収装置を説明するための図である。
図8】本発明の第4の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタの被印刷物除電装置を説明するための図である。
図9】本発明の第5の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットリンタの被印刷物除電装置を説明するための図である。
図10】本発明の第6の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタの構成を示すブロック図である。
図11】本発明の第6の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタのミスト検出装置の構成を説明するための図である。
図12】本発明の第6の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタのミスト検出装置によるミスト検出方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[インクセット]
本発明のインクセットは、インク液滴を100pL以上5,000pL以下で吐出する印刷に用いるインクセットであって、
少なくとも2種のインクA及びインクBを含み、
インクA及びインクBを、それぞれポリエステルフィルム上に印刷デューティ100%でベタ印刷した際の印刷面のCIE L***色空間のインクAの座標値(L* A、a* A、b* A)及びインクBの座標値(L* B、a* B、b* B)において、下記の条件1~3を全て満たす、インクセットである。
条件1:座標値a* A及び座標値a* Bがいずれも5以上35以下であり、座標値b* A及び座標値b* Bがいずれも10以上40以下である。
条件2:下記式(II-1)で示される色相角度hA及び下記式(II-2)で示される色相角度hBがいずれも40度以上70度以下である。
A=tan-1(b* A/a* A) (II-1)
B=tan-1(b* B/a* B) (II-2)
条件3:下記式(III)で示される彩度差ΔCが2以上20以下である。
ΔC=((a* A-a* B2+(b* A-b* B20.5 (III)
【0015】
本発明によれば、化粧を施す部位ごとに色味の調整が容易で、インクを液滴として吐出する印刷において、吐出安定性に優れ、かつ、粒状感がなく、見た目が自然な高品位の化粧画像を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明では、吐出される1滴あたりのインク液滴量が100pL以上である印刷に用いるインクセットとすることにより、圧力損失が低い液滴吐出ヘッドを用いることができ、インク流動性に優れたシステムを設計することができ、吐出安定性を向上させることができる。
一方で、通常、吐出される1滴あたりのインク液滴量を100pL以上とすると、インク液滴が被印刷物に吐出されて付与されたインクドットは目視可能なサイズとなり、粒状感が目立ち、見た目も不自然な印刷画像となる。
ここで、人間の錐体には、分光感度が異なる3種類の錐体が存在し、3種類の錯体は最高感度を示す吸収波長によって短波長側から、青錐体(S錐体)、緑錐体(M錐体)、赤錐体(L錐体)と呼ばれる。これらの錐体の数の比率は均等ではない。人間は、色としては赤錐体を介した光量子の検出能が一番高く、塗布された色の波長ごとの分光反射率曲線からは光の波長500nm周辺で分光反射率が急増する黄色、及び光の波長600nm周辺で分光反射率が急増する赤色への感度が高い。このため、カラーのインクドットの視認性においては、下地あるいは周辺の色味に対して、観察しようとするインクドットがどれだけ目立って見えるかが重要な因子となる。
本発明では、CIE L***色空間にて規定される赤から黄の発色性に関わる色相角度-60度(300度)から90度までのうち、前記条件2及び前記条件3を満たし、色相角度及び彩度差ΔCが所定の範囲である異なる2種のインクを少なくとも併用することで、粒状感を抑制し、100pL以上の大きなインク液滴であっても、インクドットが目立ち難くなることを見出した。また、前記CIE L***色空間の規定において、前記条件2及び前記条件3を満たせば、吐出されるインク液滴量が5,000pL以下の範囲であればインクドットが目立ち難く、実用上問題がないことを見出した。
【0016】
また、見た目に健康で若々しい皮膚(肌)は、巨視的には色むらがなく、例えば、顔のパーツごとの色の変化も連続的で、更に視認できるシミや赤みなどの急激な色変化はないが、その一方で、微視的には毛細血管によるわずかな色の変化や産毛による光の散乱等が作用し、巨視的な均一性の中に微視的な不均一性が内在している。このような状態が自然な見た目と認識されており、コンピューターグラフィックスで描かれた人間の顔が不気味の谷を越え、自然な見た目を有するには、同様の微視的な不均一性を与えることが重要な因子である。
このような人間の見た目に対する認知能力に対して、1種の単色インクを用いて皮膚に印刷を行うと、印刷領域は均一でのっぺりとした見た目になる。
本発明では、色相及び彩度を示す色度の座標値(a*,b*)が前記条件1及び前記条件2を満たし、色相及び彩度の似通った2種のインクを少なくとも併用することにより、視認限界以上の大きなドット径となるインク液滴を吐出する印刷においても、見た目に好ましい程度の均一性と不均一性とをバランスよく付与することができ、見た目の自然さを良好なものとすることができると考えられる。
そして、前記条件3を満たし、2種のインクの彩度差ΔCを所定の範囲とすることで、色相及び彩度の互いに近いインクとし、印刷した場合に巨視的に急峻な色の変化を隠蔽できる一方で、わずかな色の変化をつけることができる。これにより、単色インクの印刷では実現が困難であった、見た目が自然な高品位の化粧画像を達成することができ、化粧を施す部位ごとに色味の調整も容易となると考えられる。
【0017】
本発明のインクセットは、少なくとも2種のインクA及びインクBを含む。
そして、インクA及びインクBは、発色性の指標として、それぞれのインクをポリエステルフィルム(以下、「PETフィルム」ともいう)上に印刷デューティ100%でベタ印刷した際の印刷面のCIE L***色空間を用いて、インクAの座標値(L* A、a* A、b* A)及びインクBの座標値(L* B、a* B、b* B)において、前記条件1~3を全て満たす関係を有する。
インクAの座標値(L* A、a* A、b* A)及びインクBの座標値(L* B、a* B、b* B)は、実施例に記載のとおり、インクA及びインクBをそれぞれ別々にPETフィルム上に印刷デューティ100%でベタ印刷し、得られた印刷物の印刷面を分光測色計/濃度計を用いて測定することにより求める。
なお、本発明における「印刷デューティ100%」とは、正方形格子状にインクの付与領域を間引くことなくインク液滴を付与する際に、被印刷物としてポリエステルフィルム上で円形に広がった隣り合うインクドットの端部同士が円周位置で接触しあうドット間距離となるようにインク液滴を付与することをいう。
【0018】
皮膚は、紙等の吸収性媒体と異なり、その表面にインクを吸収する空隙層や膨潤層を有さない。そのため、インク液滴が皮膚に付与した後の皮膚表面でのインクドットの広がりやインクドットの乾燥過程でマランゴニー対流(Marangoni Flow)が引き起こすインクドットの外周部に着色剤が偏在する現象(コーヒーリング現象)に関しては非吸収性媒体であるPETフィルムにおける挙動と類似している。
また、例えば、頬の表面自由エネルギーは40~50mN/mであり、PETフィルムの表面自由エネルギーに近似し、皮膚とPETフィルムのインクの濡れ特性も類似している。そのため、本発明において、前記座標値の測定には、疑似的な皮膚(肌)のモデル印刷媒体としてPETフィルムを用いる。
なお、前記PETフィルムは、その表面が改質されておらず、かつ樹脂や添加剤を練りこんでいない未処理のPETフィルムが好ましいが、被印刷物に付与されたインク液滴の平均直径(以下、「ドット径」ともいう)が決められないほどの過剰な濡れを有する場合や撥液性がない場合に限り、対象となるインクの皮膚への濡れ性に合わせて表面処理されたPETフィルムを用いることもできる。表面処理されたPETフィルムを用いる場合としては、施術者が皮膚にあらかじめ乳液や化粧水などを付与し、それにより変化した皮膚の表面エネルギーに則して前記座標値を測定することが実用的である場合が挙げられる。
【0019】
本発明のインクセットは、インク液滴を1滴あたり100pL以上5,000pL以下の量で吐出する印刷に用いる。
本発明のインクセットを用いる印刷方法としては、インクジェット方式、ナノディスペンサ方式等のオンデマンド印刷が挙げられ、インクセットのインクの粘度等に応じて選択して用いることができる。
オンデマンド印刷は、刷版を必要としない無版方式で、被印刷物に対して非接触な状態で印刷を行う方法である。オンデマンド印刷は、インク液滴を吐出して所望の領域に所望の量のインク液滴を付与することができ、1滴あたりのインク液滴量、インク液滴の面積あたりの付与量、付与領域等を制御し、見た目の自然さを良好なものとすることができる。当該観点から、前記印刷方法は、インクジェット方式及びナノディスペンサ方式から選ばれる1種以上によりインク液滴を吐出する印刷方法が好ましい。
【0020】
<1滴あたりのインク液滴量>
インクジェットヘッドは、半導体製造プロセス等の微細加工技術を用いて製造され、ヘッドの微小な管(ノズル)内をインクが滞りなく流動することが求められる。インク流路中でインクの堆積等が発生し易いインクでは、インク流路やノズル内で抵抗が生じ易くなるため、吐出ノズルにおけるインク液滴のメニスカス形状が不安定となり易く、吐出不安定、ひいては吐出不能となるおそれがある。このインク流路やノズル内での流路抵抗は、流路径が2分の1になると4倍に増加することから、吐出安定性や化粧画質に影響しない範囲においてはインク流路を大きくすること、すなわち吐出されるインク液滴量を多くすることが好ましい。
さらに、吐出されるインク液滴が小さいインクジェットプリンタでは、一度吐出されたインクの一部がミストとなって浮遊し、ヘッドオリフィスへ付着することで、異種のインクがヘッドオリフィス上で混合される。また、他色ヘッドのノズル近傍にミストとして浮遊したインク液滴は、ヘッドの吐出に伴うメニスカスの振動に連れられて、他色ヘッドノズル内へ入り込み、ヘッドチャンバー内の汚染(いわゆるコンタミ)が起こる。これらにより、ヘッドオリフィス上やヘッドチャンバー内でヘテロ凝集が発生し、吐出不安定、ひいては吐出不能となるおそれがある。またヘッドオリフィスに付着しなかったミストに関しても、意図しない周辺部位や使用者の被服の汚染、使用者のミストの吸引を起こすおそれもある。
吐出される1滴あたりのインク液滴量が100pL以上であれば、上記のような吐出不安定や吐出不能を生じることなく、吐出安定性を向上させることができ、該インク液滴量が5,000pL以下であれば、粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好なものとすることができる。当該観点から、吐出される1滴あたりのインク液滴量は、好ましくは200pL以上、より好ましくは300pL以上、更に好ましくは400pL以上であり、そして、好ましくは4,000pL以下、より好ましくは3,000pL以下、更に好ましくは2,000pL以下である。
1滴あたりのインク液滴量は、例えば印刷方法が、インクジェット方式、ナノディスペンサ方式等によりインク液滴を吐出して印刷する方法である場合には、吐出するインク液滴の平均直径から算出する、又は、ある一定のインク液滴数を吐出した際のインクの質量変化から算出することができる。
【0021】
<条件1>
条件1は、座標値a* A及びa* Bがいずれも5以上35以下であり、座標値b* A及びb* Bがいずれも10以上40以下である。
条件1は、インクA及びインクBの色相がいずれも赤色から黄色の範囲であることを示す。インクA及びインクBの色度の座標値が上記条件1を満たすことにより、粒状感を抑制し、見た目の自然さも良好なものとすることができる。
* Aは、粒状感を抑制し、見た目の自然さも良好にする点から、5以上であり、好ましくは5超、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上、より更に好ましくは17以上であり、そして、35以下であり、好ましくは35未満、より好ましくは30以下、更に好ましくは25以下、より更に好ましくは23以下である。
* Bは、5以上35以下、好ましくは5超35未満であれば特に制限はないが、a* Aとa* Bとの差の絶対値(以下、「Δ(a* A-a* B)」と表記する)は、見た目の自然さを良好なものとする観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、そして、粒状感を抑制する観点から、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下、より更に好ましくは12以下、より更に好ましくは10以下、より更に好ましくは8以下である。
* Aは、粒状感を抑制し、見た目の自然さも良好にする点から、10以上であり、好ましくは10超、より好ましくは13以上、更に好ましくは15以上、より更に好ましくは20以上であり、そして、40以下であり、好ましくは40未満、より好ましくは35以下、更に好ましくは30以下、より更に好ましくは27以下である。
* Bは、10以上40以下、好ましくは10超40未満であれば特に制限はないが、b* Aとb* Bとの差の絶対値(以下、「Δ(b* A-b* B)」と表記する)は、見た目の自然さを良好にする観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、そして、粒状感を抑制する観点から、好ましくは20以上、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下、より更に好ましくは12以下である。
【0022】
<条件2>
条件2は、下記式(II-1)で示される色相角度hA及び下記式(II-2)で示される色相角度hBがいずれも40度以上70度以下である。
A=tan-1(b* A/a* A) (II-1)
B=tan-1(b* B/a* B) (II-2)
色相角度は、赤色から黄色の度合いを角度分布で示すものである。
条件2は、インクA及びインクBの色相角度は赤色から黄色の上記範囲であることを示す。インクAの色相角度hA及びインクBの色相角度hBが上記条件2を満たすことにより、粒状感を抑制し、見た目の自然さも良好なものとすることができる。
Aは、上記観点から、40度以上であり、好ましくは43度以上、より好ましくは45度以上、更に好ましくは47度以上であり、そして、70度以下であり、好ましくは70度未満、より好ましくは65度以下、更に好ましくは60度以下、より更に好ましくは55度以下、より更に好ましくは53度以下である。
Bは、40度以上70度以下、好ましくは40度以上70度未満であれば特に制限はないが、hAとhBとの差の絶対値(以下、「Δ(hA-hB)」と表記する)は、見た目の自然さを良好にする観点から、好ましくは0以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、そして、粒状感を抑制する観点から、好ましくは20以上、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下である。
【0023】
<条件3>
条件3は、下記式(III)で示される彩度差ΔCが2以上20以下である。
ΔC=((a* A-a* B2+(b* A-b* B20.5 (III)
彩度差ΔCは、インクA及びインクBとの色の鮮やかさの程度の違いを示す。
彩度差ΔCが上記条件3を満たすことにより、インクA及びインクBが、色相の互いに近いインクであることを示し、印刷した場合に巨視的に急峻な色の変化を隠蔽できる一方で、微視的にはわずかな色の変化をつけることができる。これにより、単色インクの印刷では実現が困難であった、見た目の自然さを良好なものとすることができる。
彩度差ΔCは、インクAとインクBとのインク間の発色性を調整し、見た目の自然さを良好なものとする観点から、2以上であり、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは8以上であり、そして、20以下であり、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下、より更に好ましくは12以下である。
【0024】
<条件4>
本発明のインクセットは、下記条件4を更に満たすことが好ましい。
条件4:下記式(IV)で示される色差ΔEが2以上40以下である。
ΔE=((L* A-L* B2+(a* A-a* B2+(b* A-b* B20.5 (IV)
色差ΔEは、インクAとインクBとの全体の総色差を示すものであり、色差ΔEが上記条件4を満たすことにより、粒状感を抑制し、見た目の自然さをより良好なものとすることができる。当該観点から、色差ΔEは、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは7以上であり、そして、好ましくは40未満、より好ましくは35以下、更に好ましくは30以下、より更に好ましくは25以下、より更に好ましくは20以下、より更に好ましくは15以下、より更に好ましくは13以下、より更に好ましくは11以下である。
【0025】
(着色剤)
本発明においてインクA及びインクBは、前述の条件1~3、好ましくは条件1~4を満たすものであればこれらのインク組成に制限はないが、インクA及びインクBのいずれもが少なくとも着色剤を含有することが好ましい。
着色剤としては、無機顔料;有機顔料、疎水性染料(油溶性染料、分散染料)、水溶性染料(酸性染料、反応染料、直接染料等)等の無機顔料以外の着色剤が挙げられる。
なお、疎水性染料とは、100gの水中(20℃)における溶解度が、好ましくは6質量%未満の染料のことをいう。
無機顔料としては、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられる。白色無機顔料、白色以外の非白色無機顔料のいずれも用いることができる。
白色無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。
非白色無機顔料としては、黄酸化鉄、赤酸化鉄、黒酸化鉄、カーボンブラック、群青、紺青、紺青酸化チタン、黒色酸化チタン、酸化クロム、水酸化クロム、チタン/酸化チタン焼結物等が挙げられる。
無機顔料以外の着色剤としては、赤色201号、赤色202号、黄色401号、青色404号等の有機顔料;赤色104号、赤色230号、黄色4号、黄色5号、青色1号等のレーキ顔料;赤色226号、アシッドイエロー1、アシッドオレンジ7、フードブルー2、アシッドレッド52等の染料;これらの顔料や染料をポリメタクリル酸エステル等の樹脂で被覆したものなどが含まれる。
インクA及びインクBに用いられる着色剤は、粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする観点から、無機顔料を含有することが好ましい。
インクA及びインクBのいずれもが前記着色剤として無機顔料を含有する場合、該無機顔料の密度は、好ましくは1g/cm3以上、より好ましくは2g/cm3以上、更に好ましくは3g/cm3以上であり、そして、好ましくは6g/cm3以下である。
前記着色剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする観点から、2種以上を組み合わせることが好ましい。
【0026】
前記着色剤の色相としては、ホワイト、ブラック、グレー等の無彩色;イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色が挙げられる。
前記無彩色の着色剤及び有彩色の着色剤は、それぞれ1種を単独で又は2種以上を組み合わせ用いることができる。
前記無彩色の着色剤は、粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする観点から、好ましくは無彩色顔料であり、より好ましくは白色顔料及び黒色顔料から選ばれる1種以上、更に好ましくは酸化チタン及び黒酸化鉄から選ばれる1種以上、より更に好ましくは酸化チタンと黒酸化鉄との併用である。
前記有彩色の着色剤は、粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする観点から、好ましくは有彩色顔料であり、より好ましくは黄色顔料及び赤色顔料から選ばれる1種以上、更に好ましくは黄酸化鉄及び赤酸化鉄から選ばれる1種以上、より更に好ましくは黄酸化鉄と赤酸化鉄との併用である。
本発明においては、粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする観点から、インクA及びインクBのいずれもが、無彩色顔料と有彩色顔料とを含有することがより好ましい。
【0027】
インクA及びインクBにそれぞれ含まれる無彩色顔料の有彩色顔料に対する含有質量比[無彩色顔料/有彩色顔料]は、粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする観点、及びしみ、あざ等の隠避性を向上させる観点から、好ましくは2以上、より好ましくは2.3以上、更に好ましくは2.5以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下、より更に好ましくは4以下、より更に好ましくは3.5以下である。
【0028】
前記着色剤は、インク中の分散性を向上させる観点、及び化粧画像の耐水性の観点から、その表面が疎水化処理されてなるものが好ましい。該疎水化処理としては、通常の化粧料用粉体に種々の疎水化処理剤を用いて施されている疎水化処理が好ましく、例えば、シリコーン処理、脂肪酸処理、ラウロイルリジン処理、界面活性剤処理、金属石鹸処理、フッ素化合物処理、レシチン処理、ナイロン処理、高分子処理が挙げられる。
【0029】
前記着色剤は、着色の均質性の観点、化粧画像の耐水性の観点、吐出安定性を向上させる観点、及び粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする観点から、分散性ポリマーで分散されてなることが好ましく、着色剤を含有する分散性ポリマー粒子(以下、「着色剤含有ポリマー粒子」ともいう)として用いることがより好ましい。着色剤含有ポリマー粒子は、着色剤と分散性ポリマーにより粒子が形成されていればよく、該粒子の形態として、例えば、分散性ポリマーにより着色剤が被覆された粒子形態、分散性ポリマーに着色剤が内包された粒子形態、分散性ポリマー中に着色剤が均一に分散された粒子形態、ポリマー粒子表面に着色剤が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
本発明に用いられるインクA及びインクBは、吐出安定性を向上させる観点から、それぞれ、好ましくは着色剤含有ポリマー粒子を含有する水系インクである。
通常、水系インクが吐出ノズル開口部で乾燥した際には、ノズル開口部で生じるインク増粘により、目詰まりや吐出曲がりが発生し易い。この目詰まりや吐出曲がりが発生する現象は、水系インクに含まれる水がノズル開口部で乾燥することにより、顔料粒子同士の距離が狭まり、かつ、顔料粒子周辺のビヒクルの比誘電率が低下し、顔料粒子を安定化している分散性ポリマーの解離度が低下することにより、顔料粒子間の電荷反発力が低下し、顔料粒子が凝集することに起因すると考えられる。また、分散性ポリマーが中和されてなる場合には、中和に用いられていたナトリウム等の塩が放出され、顔料粒子周辺の浸透圧が上昇するため、浸透圧を緩和するためにノズル近傍の顔料濃度が低下するように、顔料粒子がインク流路内へ移動する。この顔料粒子の移動の際には、乾燥で上昇した粘度がインク流動性に影響する。具体的には粘度が2倍に上がれば、圧力損失は2倍に上がると考えられる。
一方、本発明のインクセットは、吐出される1滴あたりのインク液滴量が前述の範囲である印刷に用いられることにより、広いインク流路を備えるプリンタに適用することができ、インク流路内での顔料粒子の移動が容易となり、目詰まりや吐出曲がりを抑制し、吐出安定性を向上させることができると考えられる。
【0030】
(分散性ポリマー)
着色剤含有ポリマー粒子を構成する分散性ポリマーは、着色剤の分散性を向上させる観点から、好ましくはイオン性基を有するポリマーであり、カチオン性基を有するカチオン性ポリマー、アニオン性基を有するアニオン性ポリマーを用いることができる。
【0031】
〔カチオン性ポリマー〕
カチオン性ポリマーは、好ましくは、第1級、第2級、又は第3級アミノ基のプロトン酸塩、及び第4級アンモニウム基等のカチオン性基を有するポリマーである。
カチオン性ポリマーとしては、天然系カチオン性ポリマー、合成系カチオン性ポリマーが挙げられる。
天然系カチオン性ポリマーは、天然物から抽出、精製等の操作により得られるポリマー及び該ポリマーを化学的に修飾したものであり、ポリマー骨格にグルコース残基を有するものが挙げられる。具体的には、カチオン化グアガム;カチオン化タラガム;カチオン化ローカストビーンガム;カチオン化セルロース;カチオン化ヒドロキシアルキルセルロース;カチオン性澱粉などが挙げられる。
【0032】
合成系カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン又はそれらの酸中和物、ポリグリコール-ポリアミン縮合物、カチオン性ポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルピロリドン、カチオン性シリコーンポリマー、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート重合体又はそれらの酸中和物、ポリ(トリメチル-2-メタクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリド)、アミン/エピクロロヒドリン共重合体、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸ジエチル硫酸塩/ビニルピロリドン共重合体、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸ジエチル硫酸塩/N,N-ジメチルアクリルアミド/ジメタクリル酸ポリエチレングリコール共重合体、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/アクリルアミド共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/ヒドロキシエチルセルロース共重合体、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド/ビニルピロリドン共重合体、アルキルアミノ(メタ)アクリレート/ビニルピロリドン共重合体、アルキルアミノ(メタ)アクリレート/ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム共重合体、(3-(メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド/ビニルピロリドン共重合体、アルキルアミノアルキルアクリルアミド/アルキルアクリルアミド/(メタ)アクリレート/ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
商業的に入手し得るカチオン性ポリマーとしては、化粧品用途で使用されるカチオン性ポリマーが好ましく、HCポリマー3M、HC-ポリマー5(以上、大阪有機化学工業株式会社製);プラスサイズL-514(互応化学工業株式会社製)等が挙げられる。中でも、吐出安定性を向上させる観点、及び粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする観点から、カチオン性シリコーンポリマーが好ましい。
【0033】
カチオン性シリコーンポリマーは、オルガノポリシロキサンセグメント(x)と、該セグメント(x)のケイ素原子の少なくとも1個に結合するカチオン性窒素原子を含むアルキレン基と、下記一般式(1-1)で表されるN-アシルアルキレンイミンの繰り返し単位とからなるポリ(N-アシルアルキレンイミン)セグメント(y)とを含むポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体が好ましい。
【0034】
【化1】

(式中、R1は水素原子、炭素数1以上22以下のアルキル基、炭素数6以上22以下のアリール基、又は炭素数7以上22以下のアリールアルキル基若しくはアルキルアリール基を示し、aは2又は3である。)
【0035】
セグメント(x)を形成するオルガノポリシロキサンとしては、例えば下記一般式(1-2)で表される化合物が挙げられる。
【化2】

(式中、R2は炭素数1以上22以下のアルキル基、フェニル基、又は窒素原子を含むアルキル基を示し、複数個のR2は同一でも異なっていてもよいが、少なくとも1個はカチオン性窒素原子を含むアルキル基である。bは100以上5,000以下である。)
【0036】
ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体としては、セグメント(x)の末端又は側鎖のケイ素原子の少なくとも1個に、カチオン性窒素原子を含むアルキレン基を介して、セグメント(y)が結合したものが好ましい。
ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体におけるセグメント(x)及びセグメント(y)の合計含有量に対するセグメント(x)の含有量の質量比[セグメント(x)の含有量/〔セグメント(x)及びセグメント(y)の合計含有量〕]は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは0.99以下、より好ましくは0.95以下、更に好ましくは0.9以下である。
本明細書において、質量比[セグメント(x)の含有量/〔セグメント(x)及びセグメント(y)の合計含有量〕]は、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体におけるセグメント(x)の質量(Mx)及びセグメント(y)の質量(My)の合計量に対するセグメント(x)の質量(Mx)の比である。
質量比[セグメント(x)の含有量/〔セグメント(x)及びセグメント(y)の合計含有量〕]は、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体を重クロロホルム中に5質量%溶解させ、核磁気共鳴(1H-NMR)分析により、セグメント(x)中のアルキル基又はフェニル基と、セグメント(y)中のメチレン基との積分比より算出することができる。
【0037】
ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましくは50,000以上、更に好ましくは70,000以上であり、そして、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、更に好ましくは200,000以下である。ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体の重量平均分子量は、セグメント(x)を形成するオルガノポリシロキサンの重量平均分子量と前述の質量比[セグメント(x)の含有量/〔セグメント(x)及びセグメント(y)の合計含有量〕]から算出することができる。
【0038】
ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体の好適例としては、ポリ(N-ホルミルエチレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体、ポリ(N-アセチルエチレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体、ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体等が挙げられる。
ポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体は、例えば、環状イミノエーテルの開環重合物であるポリ(N-アシルアルキレンイミン)とセグメント(x)を形成するオルガノポリシロキサンとを反応させる方法により得ることができる。より具体的には、例えば特開2011-126978公報に記載の方法により得ることができる。カチオン性シリコーンポリマーとして用いるポリ(N-アシルアルキレンイミン)/オルガノポリシロキサン共重合体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
〔アニオン性ポリマー〕
アニオン性ポリマーは、好ましくは、カルボキシ基(-COOM)、スルホン酸基(-SO3M)、リン酸基(-OPO32)等の解離して水素イオンが放出されることにより酸性を呈する基、又はそれらの解離したイオン形(-COO-、-SO3 -、-OPO3 2-、-OPO3 -M)等の酸性基を有するポリマーである。上記化学式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを示す。
アニオン性ポリマーの基本骨格としては、具体的には、アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン等が挙げられる。これらの中でも、アクリル系ポリマーが好ましい。
すなわち、アニオン性ポリマーは、好ましくは酸性基を有するモノマー由来の構成単位を含むアニオン性アクリル系ポリマーである。
酸性基を有するモノマーは、好ましくはカルボキシ基を有するモノマーであり、より好ましくは、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸及び2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくは(メタ)アクリル酸である。
ここで、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種を意味する。
【0040】
アニオン性ポリマーは、好ましくは酸性基を有するモノマー由来の構成単位及び(メタ)アククリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含み、より好ましくは、酸性基を有するモノマー由来の構成単位、(メタ)アククリル酸アルキルエステル由来の構成単位、及び(N-アルキル)(メタ)アクリルアミド由来の構成単位を含み、更に好ましくは(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル/(N-アルキル)(メタ)アクリルアミド共重合体、より更に好ましくはアクリル酸/アクリル酸アルキルエステル/(N-アルキル)アクリルアミド共重合体である。
商業的に入手しうるアニオン性アクリル系ポリマーとしては、例えば、プラスサイズL-9909B(互応化学工業株式会社製)等の((メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル/(N-アルキル)アルキルアクリルアミド)コポリマーAMPなどが挙げられる。その他にも化粧品用途で使用される、酸性基を有するモノマーとしてアクリル酸又はメタクリル酸由来の構成単位に有するポリマーの市販品としては、アニセットKB-100H、アニセットNF-1000(以上、大阪有機化学工業株式会社製);ウルトラホールド8、ウルトラホールドストロング、ウルトラホールドパワー(以上、BASF社製);プラスサイズL-9900、プラスサイズL-9909U、プラスサイズL―9540B、プラスサイズL-9600U、プラスサイズL-9715、プラスサイズL-53、プラスサイズL-6330、プラスサイズL-6466、プラスサイズL-6740B、プラスサイズL-53Dカラー用A、プラスサイズL-75CB(以上、互応化学工業株式会社製)などを用いることができる。
【0041】
前記着色剤として着色剤含有ポリマー粒子を用いる場合には、該着色剤含有ポリマー粒子の体積平均粒径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上であり、そして、好ましくは1,000nm以下、より好ましくは900nm以下である。
着色剤含有ポリマー粒子の体積平均粒径は、例えば、ゼータ電位・粒径測定システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いて、測定する粒子の濃度が約5×10-3質量%になるように水で希釈した分散液を測定用セルに入れ、温度25℃、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力し、キュムラント解析法により、測定することができる。
また、着色剤が酸化チタン粒子である場合には、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA950」(株式会社堀場製作所製)を用いて、酸化チタンの屈折率2.75とし、水の屈折率を1.333として、該装置の循環速度を5、超音波を3に設定し、超音波を1分照射した後測定し、このときの体積中位粒子径(D50)の値を酸化チタン粒子の体積平均粒径とすることができる。
【0042】
(インクの製造)
インクA及びインクBが着色剤として無機顔料をそれぞれ含有する場合、インクA及びインクBに含まれる無機顔料は、水分散性ポリマーで分散した無機顔料粒子として含まれることが好ましい。この場合、インクA及びインクBは、水分散性ポリマーで分散された無機顔料粒子を含む着色剤水分散体、必要に応じて、有機溶媒、水、及び各種の添加剤を含有することが好ましい。
なお、インクA及びインクBが、無機顔料以外の他の着色剤を含む場合には、これらのインクは、他の着色剤を水分散性ポリマーで分散した着色剤水分散体を更に含有することができる
【0043】
無機顔料及び他の着色剤を用いた着色剤水分散体は、着色剤、水分散性ポリマー、必要に応じて中和剤、界面活性剤等を公知の方法により分散処理して得ることができる。具体的には、下記の工程I及び工程IIを含む製造方法により得ることが好ましいが、必ずしもこの方法に制限されない。
工程I:水、着色剤、水分散性ポリマー、及び有機溶媒を含有する着色剤混合物を、分散処理して、着色剤分散液を得る工程
工程II:工程Iで得られた着色剤分散液の有機溶媒を除去して、着色剤水分散体を得る工程
【0044】
工程Iで用いる有機溶媒は水分散性ポリマーとの親和性が高く、着色剤への濡れ性が良好であることが望ましい。該有機溶媒は、着色剤への濡れ性及び着色時への水分散性ポリマーの吸着性を向上させる観点、並びに皮膚へ印刷を施した後に残留する有機溶媒による安全性の観点から、エタノール、イソプロパノールが好ましい。
【0045】
無機顔料として疎水化処理された酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等の疎水性顔料を用いる場合には、工程Iは、水分散性ポリマーとして前述のカチオン性シリコーンポリマーとアニオン性ポリマーとを併用して、工程I-1及び工程I-2を含むことが好ましい。
工程I-1:疎水化処理された疎水性顔料をカチオン性シリコーンポリマーを用いて懸濁させて、疎水性顔料の懸濁液を得る工程
工程I-2:工程I-1で得られた疎水性顔料の懸濁液にアニオン性ポリマーを添加し、着色剤混合物を得た後、該着色剤混合物を分散処理して、着色剤分散液を得る工程
【0046】
工程I-1により疎水性顔料の表面にカチオン性シリコーンポリマーの疎水的なシリコーン部位を吸着させ、一方でカチオン性シリコーンポリマーの親水的なカチオン性部位は媒体側へ配向することにより顔料粒子は正のゼータ電位を有した状態で安定に懸濁させることができる。次いで、工程I-2によりアニオン性ポリマーを添加することで、疎水性顔料に吸着しているカチオン性シリコーンポリマーのカチオン性基にアニオン性ポリマーが吸着し、負のゼータ電位を有した状態で分散させることにより、疎水性顔料を用いた場合であっても、安定な分散体を得ることができる。
【0047】
工程Iの分散処理において、剪断応力を与える手段として、例えば、ロールミル、ニーダー、エクストルーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社、商品名)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機を用いることができる。これらの中では、着色剤を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行う場合、処理圧力や分散処理のパス回数の制御により、着色剤を所望の粒径になるように制御することができる。
【0048】
工程IIにおいて有機溶媒を除去する方法は、特に制限はなく、公知の方法で行うことができる。なお、着色剤分散液に含まれる水の一部が有機溶媒と同時に除去されてもよい。
有機溶媒の除去する際の温度及び時間は、用いる有機溶媒の種類によって適宜選択できる。
【0049】
インクA及びインクBは、物性を調整する観点から、インクに通常用いられる各種添加剤を含有してもよい。該添加剤としては、湿潤剤、浸透剤、界面活性剤等の分散剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール等の粘度調整剤、シリコーン油等の消泡剤、防黴剤、防錆剤などが挙げられる。
湿潤剤、浸透剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,2-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリオキシエチレングリセリン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコール及び該多価アルコールのエーテル、アセテート類が挙げられ、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,2-ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリオキシエチレングリセリン、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパンが好ましい。
界面活性剤としては、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物やポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0050】
(インクA及びインクBの組成及び物性)
インクA及びインクB中の着色剤の含有量は、それぞれ、吐出安定性を向上させる観点、及びしみ、あざ等に対する化粧画像の隠蔽性を高める観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは17質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、より更に好ましくは13質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下である。
インクA及びインクB中に含まれる着色剤総量中の無機顔料の含有量は、それぞれ、吐出性を向上させる観点、及びしみ、あざ等に対する化粧画像の隠蔽性を高める観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下、より更に好ましくは100質量%である。
【0051】
インクA及びインクB中の水分散性ポリマーの含有量は、それぞれ、吐出安定性を向上させる観点、及びしみ、あざ等に対する化粧画像の隠蔽性を高める観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
インクA及びインクB中の水の含有量は、それぞれ、吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは65質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0052】
インクA及びインクBの20℃における静的表面張力は、それぞれ、吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは25mN/m以上、より好ましくは27mN/m以上、更に好ましくは29mN/m以上であり、そして、好ましくは45mN/m以下、より好ましくは40mN/m以下、更に好ましくは35mN/m以下である。
インクA及びインクBの20℃における粘度は、それぞれ、吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは3mPa・s以上、より好ましくは4mPa・s以上、更に好ましくは6mPa・s以上、より更に好ましくは8mPa・s以上であり、そして、好ましくは20mPa・s以下、より好ましくは15mPa・s以下、更に好ましくは12mPa・s以下である。
20℃における静的表面張力及び20℃における粘度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0053】
本発明のインクセットは、粒状感が抑制され、見た目の自然さが良好な高品位な化粧画像を形成できる観点から、化粧用インクセットとして用いることが好ましく、皮膚化粧料として用いることがより好ましく、フェイスパウダー、白粉、化粧下地、ファンデーション、コンシーラー、ほお紅等のメイクアップ用化粧料として用いることが更に好ましい。
【0054】
[印刷方法]
本発明のインクセットは、インク液滴を100pL以上5,000pL以下で吐出する印刷に用いる。
前記インクセットを用いる印刷方法としては、吐出されるインク液滴量が、1滴あたり、100pL以上5,000pL以下で、インク液滴を吐出することができる方法であれば特に制限はない。中でも、前記インクセットに含まれる少なくともインクA及びインクBをそれぞれ複数の吐出孔からインク液滴として吐出する工程を含む印刷方法が好ましい。
吐出される1滴あたりのインク液滴量は、前述のとおりである。
【0055】
被印刷物に付与されたインク液滴の平均直径(ドット径)は、好ましくは50μm以上、より好ましくは70μm以上、更に好ましくは90μm以上、より更に好ましくは100μm以上であり、そして、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下、更に好ましくは400μm以下、より更に好ましくは350μm以下、より更に好ましくは300μm以下である。
【0056】
前記印刷方法がインクジェット方式を用いる方法である場合、インクジェットの吐出方式としては、サーマル式及びピエゾ式のいずれも用いることができる。
インクジェットの吐出ヘッドの印加電圧は、粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする観点から、好ましくは5V以上、より好ましくは10V以上、更に好ましくは15V以上であり、そして、好ましくは50V以下、より好ましくは45V以下、更に好ましくは40V以下である。
インクジェットの吐出ヘッドの駆動周波数は、粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする観点から、好ましくは1kHz以上、より好ましくは3kHz以上であり、そして、好ましくは300kHz以下、より好ましくは150kHz以下、更に好ましくは90kHz以下、より更に好ましくは50kHz以下である。
【0057】
前記印刷方法がナノディスペンサ方式を用いる方法である場合、ナノディスペンサの吐出方式としては、被印刷物に非接触でインクを吐出することができるジェット方式が好ましく、ピエゾ素子を用いたジェット方式がより好ましい。
ナノディスペンサの吐出ヘッドの印加電圧は、粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする観点から、好ましくは5V以上、より好ましくは10V以上、更に好ましくは15V以上であり、そして、好ましくは100V以下、より好ましくは80V以下、更に好ましくは60V以下である。
ナノディスペンサの吐出ヘッドの駆動周波数は、粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする観点から、好ましくは1Hz以上、より好ましくは5Hz以上であり、そして、好ましくは30kHz以下、より好ましくは10kHz以下、更に好ましくは5kHz以下、より更に好ましくは1kHz以下である。
【0058】
前記印刷方法は、化粧印刷を施す部位ごとにインクA及びインクBの付与比率及び付与領域を調整し、少なくともインクA及びインクBがそれぞれ付与された印刷領域が含まれるように印刷する方法であればよい。例えば、インクA及びインクBは、それぞれ所望の付与領域に単独で一様に付与してもよい。この場合、化粧印刷を施した印刷領域全体は、インクAが単独で付与された領域とインクBが単独で付与された領域とを含むものとなり、インクA及びインクBが前述の条件1~3、好ましくは条件1~4を満たすものであることにより、粒状感がなく、見た目が自然な高品位の化粧画像を得ることができる。
【0059】
前記印刷方法は、粒状感を抑制し、見た目の自然さを良好にする効果をより向上させる観点から、印刷パターン、印刷回数、インクA及びインクBの付与する付与領域又は付与する順序の調整等を行うことが好ましい。
本発明において、用いる印刷パターンとしては、例えば、三角格子状、正方形格子状、長方形格子状、ハニカム格子状の印刷パターンを用いることができる。印刷パターンは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせもよい。中でも、三角格子状、及び正方形格子状から選ばれる1種以上が好ましい。
本発明において、インクA及びインクBの付与は、1回の印刷で所望の領域全てに所望の付与量のインクA及びインクBを付与する印刷でもよく、複数回の印刷に分けて所望の領域を選択して所望の付与量のインクA及びインクBを付与する印刷であってもよい。
【0060】
また、本発明において、見た目の自然さを良好にする観点から、インクA及びインクBを付与する領域及び付与する順序を調整することが好ましい。前記と同様の観点から、用いる印刷パターンは、好ましくはインクAのインク液滴の付与領域とインクBのインク液滴の付与領域とが隣接する印刷パターンであり、より好ましくはインクAのインク液滴の付与領域とインクBのインク液滴の付与領域とが隣接して交互となる印刷パターンである。
このような印刷パターンを用いて、インクAの付与領域とインクBの付与領域を選択的に調整することにより、微視的にわずかな色の変化をつけ、見た目に好ましい程度の均一性と不均一性とをバランスよく付与することができ、見た目の自然さをより良好なものとすることができる。さらに、このような印刷パターンを用いて化粧印刷を施した印刷領域は、巨視的な均一性の中に微視的な不均一性を内在することとなり、該印刷領域と微視的に不均一性を有する非印刷領域との差をより小さなものとすることができる。
前記印刷方法としては、例えば、印刷パターンが正方形格子状である場合には、図1に示すように正方形格子状の印刷パターンの領域aで示す各格子にインクAの液滴を付与し、領域bで示す各格子にインクBの液滴を付与し、インクAの付与領域aとインクBの付与領域bとが隣接して交互となる印刷パターンを用いる方法が挙げられる。
また、印刷パターンが三角格子状である場合には、図2に示すように三角格子状の印刷パターンの領域aで示す各格子にインクAの液滴を付与し、領域bで示す各格子にインクBの液滴を付与し、インクAの付与領域aとインクBの付与領域bとが隣接して交互となる印刷パターンを用いる方法が挙げられる。
【0061】
本発明の印刷方法としては、被印刷物としてテープ、シート等の基材に予めインクA及びインクBを付与して化粧画像を形成した後、化粧画像が形成された基材を皮膚(肌)に貼付し、化粧画像を皮膚に転写する方法(i)、皮膚上にインクA及びインクBを付与して化粧画像を形成する方法(ii)等が挙げられる。方法(i)の場合には、通常の印刷に用いるインク液滴を吐出する印刷装置を用いることができる。方法(ii)の場合には、見た目の自然さをより良好なものとすることができる。当該観点から、皮膚上にインクA及びインクBのインク液滴を付与する方法(ii)が好ましい。
【0062】
[化粧用ハンディインクジェットプリンタ]
本発明のインクセットを用いる印刷方法が前記方法(ii)である場合、見た目の自然さを良好にする観点から、化粧用ハンディインクジェットプリンタを用いることが好ましい。
なお、本発明において「ハンディ」とは、使用者が手持ちで使用できる程度の形状又は大きさを有することを意味し、英語では「ハンドヘルド(hand-held)」と称されるが、本明細書においては「ハンディ」の用語を用いることとする。
【0063】
インクジェット技術で使用されるインクジェットプリンタは、インクジェットヘッドと被印刷物の相対位置は厳密に管理される環境下で設計され、高品位の画像を得ることができる。しかしながら、手持ちで使用できるハンディ型のインクジェットプリンタは、インクジェットヘッドと被印刷物の相対位置を厳密に管理することが困難であり、平面の紙に印刷するものであっても、これまで実用レベルで提案された例は少なく、技術の成熟度としては高くないのが現状である。
本発明において用いられる化粧用ハンディインクジェットプリンタは、前記インクセットに含まれる少なくともインクA及びインクBを吐出するインクジェットヘッドと、静電気を除電する本体除電装置とを備え、前記本体除電装置は、コンデンサ又はアース回路であることが好ましい。これにより、見た目の自然さが良好な高品位の化粧画像を手軽に得ることができる。
【0064】
(第1の実施形態)
<化粧用ハンディインクジェットプリンタの構成>
本発明において、第1の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタ1は、少なくともインクA及びインクBを吐出するインクジェットヘッド4及び5と、インクA及びインクBのインクタンク6及び7を備える。
本発明において、インクA及びインクBのインクジェットヘッド及びタンクの配置は、それぞれが独立したヘッド及びインクタンクであることが好ましく、インクA又はインクBが適用されるヘッドがノズルの閉塞等が生じた際に、ノズルの閉塞等の生じたヘッドのみを交換できることが好ましい。
また、インクタンクに関しても同様に、タンク内のインクが少なくなり、吐出に適さなくなったタンクのみを交換できることが好ましい。
なお、前記インクセットが、インクA及びインクB以外に更に他のインクを含む場合には、化粧用ハンディインクジェットプリンタ1は、他のインクを吐出するインクジェットヘッド及び他のインクのインクタンクを更に備えることができる。
第1の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタ1は、プリンタの小型化及び使いやすさの観点から、ドック部2と、ドック部2から切り離して化粧印刷を施す手持ち部3とを備えることが好ましい。
【0065】
図3は、ドック部2と、該ドック部2に縦置きで搭載された手持ち部3とを備える化粧用ハンディインクジェットプリンタ1を示す。
手持ち部3は、手持ち部側電導端子33を介して、ドック側電導端子26に接続され、アース回路25を介して、アース27に接続される。これらは代表的な導線のみを記載しているが、他の導線に関しては省略している。
第1の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタ1は、本体除電装置として、手持ち部にコンデンサ505を備える構成、又はドック部にアース回路25を備える構成を採用することができる。
また、手持ち部が導電性素材からなる握り部35を有する場合には、使用の際に握り部35を手で持つことで、利用者の帯電がアースされ、装置への帯電が防止される。
また、手持ち部3が一対のローラー8,9を有する場合には、非平面の被印刷物である皮膚に対して、良好な化粧印刷を施すことができる。
また、手持ち部3が光学センサとして光源部10,11を有する場合には、非平面の被印刷物である皮膚に対して、良好な化粧印刷を施すことができる。
【0066】
図4は、ドック部2及び手持ち部3のそれぞれの構成要素を示すブロック図である。上部のブロックがドック部2の構成要素を示し、下部のブロックが手持ち部3の構成要素を示す。
ドック部2の制御基板にはCPU20が設置され、電力供給用の充電装置部21、化粧印刷時に必要な情報の入力および表示を行うためのメンテナンス装置部22と接続されている。CPU20は、スマートフォン等の情報処理及び入力装置、及びカメラからの画像取り込み装置からの画像データを送受信部23で無線または有線で受け取り、画像入力、返還、転送等を行う画像処理回路24で印刷パターンデータを作製し、手持ち部3のヘッド制御部30を介してインクジェットヘッド4及び5に転送する。この際、インクジェットヘッド4及び5からのインク吐出に必要となる画像処理やデータの並び替え処理等をスマートフォン上のアプリで完了することも可能である。ドック部2に内蔵されたCPU20は、スマートフォンから受領した印刷パターンデータを、手持ち部3のヘッド制御部30に転送する。上記のようなスマートフォン等による印刷パターンデータ生成及び転送の一例として、画像データをビットマップデータに展開してこの装置に転送することも好ましい。
【0067】
ヘッド制御部30は、インクジェットヘッドの1行分に相当するドット状の印刷パターンデータを受け取ると、該印刷パターンデータを手持ち部3の移動量データと同期させ、所定のタイミングでインクジェットヘッド4及び5に吐出信号を送る。ヘッド駆動部はあらかじめインクジェットヘッド4及び5近傍のROMに記載された駆動波形や電圧値を読み取る駆動波形発生回路を含んでいる。
印刷時にインクジェットヘッド4及び5が皮膚に対してどれだけ移動したかを検出する回路として、ローラーエンコーダ32と光学位置センサ31が使われる。ローラーエンコーダ32は、インクを用いて化粧印刷を施す施術部に当接し、施術部に張力をかけることで疑似的に平面化する一対のローラー8,9に設置され、施術部に当接し、手持ち部の移動に伴い回転するローラーの回転量から手持ち部3の移動量を測定する装置である。また、光学位置センサ31は、パソコンの光学マウス等に利用される技術であり、光を対象物に照射し、対象物の表面形状を捉え、その表面形状の移動量を検出して手持ち部3の移動量を検出することができる。
インクジェットヘッド4及び5に送られた駆動命令と、インクジェットヘッド4及び5の移動距離を読み取る光学位置センサ31に基づき、インクジェットヘッド4及び5のアクチュエーターは駆動し、インクを所定の位置に吐出し、化粧画像を形成させる。
またハンディインクジェットプリンタ1を皮膚の上にスキャンさせた際に、光源部10及び11から最大吸光波長の異なる2種の光を同時又は交互に露光し、反射光を受光部(図示せず)で検出することで、皮膚の光学的情報を得る。得られた光学的情報はヘッド制御部30に入力され、画像データを送受信部23を介してCPU20及び画像処理回路24に送信し、画像処理を行い、再度送受信部23を介してヘッド制御部30へとデータを送り、該データに基づいてインクジェットヘッド4及び5からインクA及びインクBを吐出する。
また、CPU20や画像処理回路24を用いずとも、吐出制御は可能である。光源部10及び11から最大吸光波長の異なる2種の光を同時又は交互に露光し、反射光を受光部(図示せず)で検出することで、皮膚の光学的情報を得る。得られた皮膚の光学的情報を直接ヘッド制御部30へ送り、データに基づいてインクジェットヘッド4及び5からインクA及びインクBを吐出することもできる。
【0068】
皮膚(肌)の見た目を撮影するためのカメラは、光学センサとして少なくとも2つの光源部(光源部10,光源部11)と、少なくとも2つの受光部(受光部10’,受光部11’)(図示せず)とを備えることが好ましい。光源部と受光部はそれぞれ1対となっており、検出器及び検出回路は簡易的なものを用いることができる。光源部の発光部材として、例えば、LED、半導体レーザを用いることができる。受光部は、皮膚で反射された反射光を受け、その光量を検出する装置であればよく、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスタを用いることができる
光源部10として、好ましくは最大吸光波長440~460nmの青色発光ダイオードを使用することができる、また、光源部11として、好ましくは最大吸光波長500~600nmの緑色発光ダイオードを用いることができる。光源部10と光源部11はそれぞれ独立に点灯し、皮膚情報を受光部10’、受光部11’へと取り込むことができる。光源部10と光源部11は交互に点灯しても、同時に点灯してもよいが、交互に点灯させると受光部のシステムとして波長を考慮する必要がないため、装置を簡素化することができる。
【0069】
本発明においては、色相及び彩度を示す色度の座標値(a*,b*)が前記条件1及び前記条件2を満たす色相及び彩度の似通った2種のインクA及びインクBを少なくとも併用することにより、粒状感がなく、見た目が自然な高品位の化粧画像を形成することができるが、光学センサを更に備えることにより、皮膚の異常部を検出し、それぞれのインクへの吐出命令を発するにあたって、一般的な全波長範囲での色情報のスキャン及び解析を行う場合と比較して、印刷処理速度を向上させることができる。
光学センサは、特定の2つの光を交互又は同時に皮膚に露光し、それぞれの特定波長の反射強度を露光源と対となる検出器で測定することで、少ない情報量で効率的にインクの吐出状態を制御することができる。具体的には、例えば、光源部10として最大吸光波長440~460nmの青色光を露光し、光源部11として最大吸光波長500~600nmの緑色光を露光し、青色光でメラニンの存在を検出し、緑色光でヘモグロビンを検出させる。これら露光源と検出器を用いて皮膚表面をスキャン又は撮影して、例えば、インクAのa* AがインクBのa* Bよりも高い場合であって、青色光で強い吸収が確認される場合には、インクAを吐出し、インクAの隠蔽効果でメラニンによるシミを消すことができる。一方、インクBのb* BがインクAのb* Aよりも高い場合であって、青色光の露光に続いて皮膚表面に露光される緑色光で強い吸収が得られる場合は、インクBを吐出し、黄み寄りのインクBの隠蔽効果を発現しつつ、局所的な赤みを調整することができる。このような光の照射の切り替えはカメラの処理速度に応じて行い、1秒間に10枚から1000枚のデータを取得しながら、即座にインクを吐出させることで、高速かつ簡便に皮膚の見た目を改善することができる。
【0070】
インクジェットヘッド4及び5としては、特に限定はなく、例えば、サーマルインクジェット方式、ピエゾ方式及びその他の各種方式を採用することができる。
インクジェットヘッド4及び5において、インクの吐出性が損なわれる状況として、ノズルにおけるインクの乾燥に伴う吐出不良が考えられる。ノズルでインクが乾燥すると、インク粘度が高くなり、インクジェットヘッド4及び5から付与される外力に対し、ノズル内のメニスカスの応答性が設計値とずれてくる。これによりインク液滴の吐出状況に変化が生じ、不吐出、吐出曲がり、インクミスト等が生じる。特にインク液滴が小さい場合、インク液滴の吐出から被印刷物に着弾するまでの間に空気抵抗等でインク液滴が運動エネルギーを失い、インクミストとなって空気中を漂い、意図せぬ箇所に着色剤が付着することがある。また、印刷時に発生したインクミストを使用者が吸引するおそれもあるため、インクミストの発生の抑制も求められる。
当該観点から、本発明において、定期的にノズルから大量のインクを排出させるメンテナンスを行ってもよい。これにより、ノズル内のインクを更新し、メニスカスの応答性を復活させることで、インクの安定な吐出を行うことができ、インクミストの発生を抑制することができる。
ただし、本発明においては、インクジェットヘッド4及び5から吐出される1滴あたりのインク液滴量が、前述の範囲であることにより、圧力損失の増大を抑制し、不吐出、吐出曲がり、インクミストを抑制することができるため、前記メンテナンスの回数を抑制し、前記メンテナンスの吐出で用いられるインクの量も抑制することができることから、ストレスを感じることなく快適な使用、さらにランニングコストの抑制ができる。
【0071】
<本体除電装置>
第1の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタ1は、それ自体の電荷を制御するために、本体除電装置を備える。
化粧用ハンディインクジェットプリンタ1では、その使い勝手から、有線でアースされた環境で使用することが困難であり、図3に示すように本体除電装置としてのコンデンサ505を、手持ち部3においてインクジェットヘッド4及び5の近傍に備える構成を採用することができる。コンデンサ505としては、例えば、積層セラミックチップコンデンサが挙げられる。本体除電装置としてのコンデンサ505を手持ち部3に備える構成とすることで、化粧印刷を施す際に生じる帯電をコンデンサ505に溜めておくことができ、コンデンサ505を擬似的にアースとして使用することができる。本体除電装置としてコンデンサ505を備えることで、化粧用ハンディインクジェットプリンタ1の帯電をアースすることができるため、静電気による装置回路の破壊やミストの発生を抑制できる。
【0072】
また、化粧用ハンディインクジェットプリンタ1では、有線でアースされた環境で使用することが困難であることから、図3に示すように本体除電装置としてアース回路25を、手持ち部3とは別のドック部2に備える構成を採用することができる。本体除電装置としてアース回路25をドック部2に備える構成とすることで、手持ち部3をドック部2に接続することによって、手持ち部3の帯電を除去することができる。本体除電装置としてアース回路25を備えることで、化粧用ハンディインクジェットプリンタ1の帯電をアースすることができるため、静電気による装置回路の破壊やミストの発生を抑制できる。
【0073】
また、本体除電装置としての除電効果を向上させるために、手持ち部に本体除電装置とは別の静電気を除電する除電装置を更に備えることが好ましい。かかる除電装置としては、手持ち部3の持ち手の部分(握り部35)の一部を導電性素材とすることが好ましい。手持ち部3の握り部35の一部を導電性素材とした場合には、除電効果を向上させる観点から、導電性素材がドック部2及び手持ち部3と電気的に連結していることが好ましい。
具体的には、手持ち部3をドック部2から取り外す際やインクタンク6及び7を交換する際に、使用者の手が帯電し静電気を持っている場合、その静電気が手持ち部3に意図せぬ帯電を引き起こしたり、放電によってインクジェットヘッド4及び5に搭載された回路基板を破壊したりするおそれがあるため、手持ち部3の握り部に導電性素材を用いることが好ましい。導電性素材としては、導電性樹脂が挙げられる。導電性素材の表面抵抗値は、105Ω/□以上1011Ω/□以下であることが好ましい。
手持ち部3の握り部35に導電性素材を適用することで、使用者が帯電している場合にも、使用前に速やかに使用者の帯電をアースすることができるため、静電気による装置回路の破壊やインクミストの発生を抑制できる。
化粧用ハンディインクジェットプリンタ1は、ドック部2から手持ち部3を外し、インクジェットヘッド4及び5の前に設けられたローラー8及び9を皮膚に押し当て、化粧印刷を行う。ローラー8及び9は、皮膚を押圧し、皮膚の表面を疑似的に平面状に保つことで、インクジェットヘッド4及び5のノズルへの皮膚の接触を抑制しつつ、化粧印刷をすることができる。
【0074】
(第2の実施形態)
第2の実施形態において第1の実施形態と相違する点は、図5に示すように、ミスト回収装置12を更に備える点である。以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を説明する。また、以下では、異なる実施形態の説明でも、同一の構成を有する部材には同一の符号を付す。
【0075】
<ミスト回収装置>
第2の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタ1のミスト回収装置12は、ローラー等の治具によりインクジェットヘッド4及び5からのインクの吐出動作に伴って副生するインクミストを回収する。
インクジェットヘッドは使い始めにおいては高い印刷性能を発現していたとしても、装置の保全状況や長期使用におけるアクチュエーターの感度低下等によって、インクミストが発生してしまうおそれがある。このため、インクミストを排除する仕組みとしてミスト回収装置12を設けることができる。
インクジェット吐出で副生するインクミストは、その中心部分にプラス電荷が集まる一方で表層部分にマイナス電荷が集まり、飛翔中における表層部分の蒸発や分裂に伴うレナード効果により正電荷を帯びやすい。したがって、ミスト回収装置12は、負に帯電したローラー等の治具をインクジェットヘッドの近傍に備えることが好ましい。
ミスト回収装置12の具体例としては、皮膚に当接する一対のローラーのうち、プリンタ走査方向の後尾側に当たるローラー(以下、「後尾側ローラー」ともいう)の少なくとも表面を、帯電列から負に帯電しやすい素材とすることが挙げられる。負に帯電しやすい素材としては、例えば、ポリエステル、シリコーンゴム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。中でも、PTFEが好ましい。これらの素材からなるローラーを用意し、正に帯電しやすい皮膚と摺動させた場合、後尾側は負に帯電し、インクミストを回収し、回収したミストをローラーで皮膚に転写することができる。また、後尾側ローラーの負帯電を安定して行い、その表層の清浄度を保つために、正帯電しやすいナイロンや皮革を、後尾側ローラーの補助ローラーかつ、クリーニングローラーとして使用することも好ましい。
【0076】
また、皮膚に当接する一対のローラーの少なくとも1つの形状は、該ローラーの外周面に複数の凸部を有する形状であることが好ましい。このような形状としては、スターホイール形状が好ましい。ローラーの形状をスターホイール形状とすることで、ローラーと皮膚との接触面積を低減することができ、皮膚に付与したインクが、ローラーに付着することによる化粧画像の剥がれを抑制することができ、所定の化粧画像を高品位で形成することができる。
さらに、ローラーの形状をスターホイール形状とすることで、ローラーの外周面の凸部の先端が帯電しやすくなり、ローラーの外周面の材質として帯電列から負に帯電しやすい素材を選択することで、ミストがローラーの外周面の凸部の頂点に捕集され、ミストの回収が容易となる。また、ローラーの形状をスターホイール形状とすることで、凸部の頂点に捕集されたミストの皮膚への転写も容易となる。
【0077】
具体例としてミスト回収装置12aについて、図6を用いて説明する。
なお、図6では便宜的にインクジェットヘッド4のみを有する構成を示しているが、実際には少なくともインクA及びインクBごとにインクジェットヘッドを備え、インクセットがインクA及びインクB以外の他のインクを含む場合には、他のインクのインクジェットヘッドを更に備える。
まず、発生したインクミスト506を良好に回収するために、ミスト回収装置12aとしてのローラー503を負に帯電させることが好ましい。ローラー503の素材は前述のとおりである。ローラー503は、被印刷物である皮膚507と接触し、回転することで負に帯電するが、より確実に帯電させるため、ナイロン製不織布を巻きつけたローラー504を当接させ、回転させることが好ましい。負に帯電したローラー503は、発生したインクミスト506を吸着し、吸着したインクミスト506を皮膚507に押し付け、定着させることができる。また、ローラー504は、正電荷が溜まるため、積層セラミックチップコンデンサ505に正電荷を移動させることで、再度ローラー503とローラー504の接触と剥離でローラー503における負帯電の発生を促すことができる。
【0078】
本発明において、第2の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタによれば、本体除電装置を備え、ミスト回収装置を更に備えることで、インクの吐出動作に伴ってインクミストが副生した場合でもミスト回収装置によって回収することができる。
【0079】
(第3の実施形態)
第3の実施形態において第1の実施形態と相違する点は、第2の実施形態と同様に、ミスト回収装置12を更に備える点である。以下、第3の実施形態について、第1の実施形態との相違点を説明する。また、以下では、異なる実施形態の説明でも、同一の構成を有する部材には同一の符号を付す。
【0080】
<ミスト回収装置>
第3の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタ1のミスト回収装置12は、導電性メッシュ等の治具によりインクジェットヘッドからのインクの吐出動作に伴って副生するインクミストを回収する。
具体例としてミスト回収装置12bについて、図7を用いて説明する。
ミスト回収装置12bは、積層セラミックチップコンデンサ等のコンデンサ901、バッテリー902を用いる、負に帯電した導電性メッシュ903である。
【0081】
ミスト回収装置12bは、インクジェットヘッド4及び5からのインクの吐出動作を行った場合に、吐出時の主滴であるインク液滴905は、導電性メッシュ903の隙間を通り抜けて、ローラー908及びローラー909により疑似的に平面状に保持された皮膚907に到達する。一方、正電荷を帯びたインクミスト906は、導電性メッシュ903の負電荷904に引き寄せられ、導電性メッシュ903に捕捉される。
【0082】
本発明において、第3の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタによれば、本体除電装置を備え、ミスト回収装置を更に備えることで、インクの吐出動作に伴ってインクミストが副生した場合でもミスト回収装置によって回収することができる。
【0083】
(第4の実施形態)
第4の実施形態において第1の実施形態と相違する点は、図8に示すように、印刷前の被印刷物の除電を行う被印刷物除電装置5aを更に備える点である。以下、第4の実施形態について、第1の実施形態との相違点を説明する。また、以下では、異なる実施形態の説明でも、同一の構成を有する部材には同一の符号を付す。
【0084】
<被印刷物除電装置>
第4の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタ1における被印刷物除電装置5aは、図8に示すように、導電性を有する導電性ローラー501と、導電性ローラー501と接続された除電部502とを備える。
なお、図8では便宜的にインクジェットヘッド4のみを有する構成を示しているが、実際には少なくともインクA及びインクBごとにインクジェットヘッドを備え、インクセットがインクA及びインクB以外の他のインクを含む場合には、他のインクのインクジェットヘッドを更に備える。
【0085】
第1の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタ1のように吐出時に生じるインクミストを最小限に抑える設計を行い、液滴を正常に形成できた場合においても、インク液滴120は、インクミスト同様に前述のレナード効果により正電荷を帯びやすい。一方、皮膚507は帯電列からも正電荷を帯びやすくなっており、インク液滴120の正電荷と皮膚507の正電荷が反発しあい、ノズル118等の装置を汚し、インクの吐出性が損なわれ、インクミストが副生する場合がある。
そこで、被印刷物除電装置5aは、印刷前の皮膚507の帯電を除去する装置として備えることで、印刷前の皮膚507に導電性を有する導電性ローラー501を摺動させ、導電性ローラー501を介して正電荷を除電することができる。具体的には、導電性ローラー501は、皮膚507に接触した場合、皮膚507の帯電が導電性ローラー501に移行し、さらに、導電性ローラー501に移行した帯電の大部分は速やかに除電部502に移行して除電することができる。つまり、導電性を有する導電性ローラー501を摺動させることで、印刷直前の皮膚507を電気的に中性にしておくことができる。よって、被印刷物除電装置5aを備えることで、皮膚507の除電が速やかに行われ、インクミスト506が発生した場合でも皮膚507による反発を受けにくく、インク液滴120と同様にインクミスト506も皮膚507に着弾することができるようになる。
【0086】
導電性ローラー501の材質としては、導電性を有するものであれば特に限定はなく、例えば、銅、ステンレス、導電性樹脂が挙げられる。
除電部502としては、除電機能を有するものであれば特に限定はなく、例えば、コンデンサ、アース回路が挙げられ、コンデンサの中でも、静電気を溜めることができ、電荷を分散させることができる積層セラミックチップコンデンサであることが好ましい。
【0087】
本発明において、第4の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタによれば、本体除電装置を備え、被印刷物除電装置5aを更に備えることで、印刷前の皮膚の帯電を効率よく除去することができ、大幅にインクミストを低減させることができる。
【0088】
(第5の実施形態)
第5の実施形態において第1の実施形態と相違する点は、図9に示すように、印刷前の被印刷物の除電を行う被印刷物除電装置5bを更に備える点である。以下、第5の実施形態について、第1の実施形態との相違点を説明する。また、以下では、異なる実施形態の説明でも、同一の構成を有する部材には同一の符号を付す。
【0089】
<被印刷物除電装置>
第5の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタ1における被印刷物除電装置5bは、図9に示すように、負電荷を帯びた帯電水微粒子606を印刷前の被印刷物である皮膚607に付与するものである。
なお、図9では便宜的にインクジェットヘッド4のみを有する構成を示しているが、実際には少なくともインクA及びインクBごとにインクジェットヘッドを備え、インクセットがインクA及びインクB以外の他のインクを含む場合には、他のインクのインクジェットヘッドを更に備える。
被印刷物除電装置5bとしては、負に帯電させた水性微粒子を噴霧可能であるものであれば特に限定はなく、例えば、超音波霧化装置などで生成した水の微粒子に対し、コロナ放電等を行うことで負に帯電した帯電水微粒子606を生成可能なものが挙げられる。
【0090】
被印刷物除電装置5bは、まず、ペルチェ素子601で冷却された端子電極602に、電源603で-5kVの電圧を印加する。冷却された端子電極602上には大気中の水蒸気か液滴604が凝縮し、端子電極602によって負電荷を帯び、テーラーコーンと呼ばれる円錐状の構造を形成し、テーラーコーン端部からアース電極605に向かって帯電水微粒子606が飛翔する。そして、帯電水微粒子606は、アース電極605の隙間を通り、皮膚607上に付与され、皮膚607に負電荷を与える。与えられた負電荷は、導電性ローラー608の表層に電位として蓄えられ、インクジェットヘッド4及び5から発生した正電荷を持ったインクミスト609を吸引し、導電性ローラー608上にインクミスト609を付着させる。付着したインクミスト609は、導電性ローラー608を介して、ローラー608及びローラー614により疑似的に平面状に保持された皮膚607に転写され、インクミスト609が皮膚607上に回収される。またペルチェ素子601は、冷却面の反対側が加熱するため、放熱板610と当接しており、これによりペルチェ素子601の冷却を行う。
帯電水微粒子606の噴霧時、化粧用ハンディインクジェットプリンタ1の手持ち部3はアース接続されていないことから、端子電極602とアース電極605はアースの代替として積層セラミックチップコンデンサ等のコンデンサ611に接続されている。
帯電水微粒子が生成されないタイミングでコンデンサ611に蓄えられた電荷は、抵抗612及びスイッチ613を含む放電回路によって放電される。
【0091】
本発明において、第5の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタによれば、本体除電装置を備え、被印刷物除電装置5bを更に備えることで、印刷前の皮膚の帯電を効率よく除去することができ、大幅にミストを低減させることができる。
【0092】
(第6の実施形態)
第6の実施形態において第1の実施形態と相違する点は、図10に示すように、ミスト検出装置13を更に備える点である。以下、第6の実施形態について、第1の実施形態との相違点を説明する。また、以下では、異なる実施形態の説明でも、同一の構成を有する部材には同一の符号を付す。
【0093】
<ミスト検出装置>
第6の実施形態に係る化粧用ハンディインクジェットプリンタ1のミスト検出装置13は、インクジェットヘッド4及び5からのインクA及びインクBの吐出動作に伴って副生するミストを検出する。
【0094】
インクジェットヘッドは使い始めにおいて高い印刷性能を発現していたとしても、装置の保全状況や長期使用におけるアクチュエーターの感度低下等によって、インクミストが発生してしまうおそれがある。そこで、ミスト検出装置13を設けることにより、インクミストの発生が十分に抑制できなかった場合に、化粧用ハンディインクジェットプリンタ1の利用を中止し、適切なメンテナンスを行うことを使用者に促すことで、使用者をミスト吸引によるリスクから遠ざけることができる。また、ミスト検出装置13は、吐出が安定しインクミストの発生が十分に抑制できている場合には、化粧用ハンディインクジェットプリンタ1が備えるミスト回収装置等の不必要な機能を停止し、バッテリー消費や装置の消耗を抑えることができる。
【0095】
ミスト検出装置13は、図11に示すように、透明部材700、光源部704、受光部705を備える。ミスト検出装置13は、発生したインクミストの粒径分布を測定する必要はなく、光源部704から出射されたレーザ光等がミスト付着物に当たり、散乱が生じていることを検出できればよいため、検出器及び検出回路が簡易的なものを使用することができる。
【0096】
透明部材700は、ミスト付着面701、第1の傾斜面702及び第2の傾斜面703を有する直角プリズムである。透明部材700の側面は、ミスト付着面701、第1の傾斜面702及び第2の傾斜面703により規定され、直角二等辺三角形の形状を有する。
第1の傾斜面702は、ミスト付着面701に対して傾き45度を有する。第1の傾斜面702は、光源部704から透明部材700に向けて出射された入射光706が、透明部材700に入る光透過性を有する面である。
第2の傾斜面703は、ミスト付着面701に対して傾き45度を有する。第1の傾斜面702と第2の傾斜面703との角度は、90度である。第2の傾斜面703は、第1の傾斜面702から透明部材700に入り、ミスト付着面701で全反射された反射光707が透明部材700から外に出る光透過性を有する面である。
光源部704は、発光部材として、例えば、LED、半導体レーザを用いることができる。
受光部705は、透明部材700のミスト付着面701で全反射された反射光707を受け、その光量を検出する装置であり、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスタを用いることができる。
【0097】
透明部材700としては、インクミストが正電荷を帯びやすい観点から、帯電列から正電荷を帯びやすい材質であることが好ましい。これは、負電荷を帯びやすい樹脂等を採用する場合、本来ならミスト回収装置が回収できるはずであったインクミストを奪い、過剰にインクミストを検出してしまう。一方、正電荷を帯びやすい材質であれば、正帯電しているインクミストの吸着を抑制することができ、インクミストを適切に検出することができる。
正電荷を帯びやすい透明素材としては、例えば、ガラス、石英が挙げられる。透明部材700として、ガラス又は石英を採用した場合、ガラス又は石英が汚れている状態でも、汚れている状態で自動校正を行い、汚れている状態から更に汚れる傾向を検出して、インクミストの発生を検出することもできる。これは使用開始時の光量と、使用中の光量を検出し、比較することで達成される。このことより、装置の経時劣化による光源やバッテリーの性能低下に対応でき、実質的な寿命を伸ばすことができる。
【0098】
ミスト検出装置13にインクミスト810が付着した場合について、図12を用いて説明する。透明部材800は、ミスト付着面801、第1の傾斜面802及び第2の傾斜面803を有する直角プリズムである。
まず、ミスト検出装置13は、インクミストが浮遊するおそれがあるインクジェットヘッドのノズル近傍の雰囲気中に透明部材800が配置される。透明部材800は、第1の傾斜面802から、ミスト付着面801に向けて光源部804から光が照射される。ミスト付着面801にインクミスト810が付着していない場合、入射光806は透明部材800と空気の界面で反射され反射光807となって受光部805に入る。一方、ミスト付着面801にミストが付着している場合、入射光806は付着したインクミスト810によって散乱され、受光部805で検出される光量が、インクミスト付着前と変化する。この測定値の変化によって、インクミストを検出することができる。
具体的には、ミスト検出装置13の透明部材が石英であり、ミスト付着面801に酸化チタン等の無機顔料を含有するミスト810が付着する場合、石英と酸化チタンが光学的に連続層となり、空気との界面は石英ではなく、インクミスト810に含まれていた酸化チタン粒子となる。この場合、入射した光806のすべてが石英と空気の界面で全反射することはなく、酸化チタンと空気の界面で屈折、散乱、反射するが、酸化チタンが均一結晶ではないため、その多くは散乱光808,809となる。このため、受光部805に入射する反射光807の強度が下がる。これにより、インクミスト810の付着が検出される。
【0099】
ミスト検出装置13としては、レーザ光を光源とした光散乱方式の粒子検出器(図示せず)を更に備えることが好ましい。粒子検出器を備えることで、ミスト付着面に付着するインクミストに含まれる無機顔料等の粒子を検出することができ、インクミストの発生状況を精度良く管理することができる。
また、ミスト検出装置13としては、直接反射光を遮断し、散乱光のみを透過させる光学フィルタ(図示せず)を更に備えることが好ましい。光学フィルタを備えることで、受光部の受光感度を高めることができ、ミストの発生状況を管理することが容易となる。
【0100】
(その他の実施形態)
以上の説明では、化粧用ハンディインクジェットプリンタ1として、第1の実施形態から第6の実施形態を示したが、第1の実施形態と第2実施形態乃至第6の実施形態とは適宜組み合わせてもよい。つまり、以上の説明で示した実施形態のそれぞれを適宜組み合わせてもよく、全てを組み合わせてもよい。
【実施例
【0101】
インクに用いるポリマー、該インク等の物性の測定は、以下の方法で行った。
【0102】
[ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)の数平均分子量]
1mmol/L ファーミンDM20(商品名、花王株式会社製)/クロロホルムを溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔測定カラム:昭和電工株式会社製カラム(K-804L)を直列に2つ連結されたもの、流速:1mL/min、カラム温度:40℃、検出器:示差屈折率計〕により、標準物質として分子量既知のポリスチレンを用いて測定した。測定試料は、濃度5mg/mLにて100μL用いた。
【0103】
[固形分濃度]
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させた後、測定試料の水分(質量%)を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(質量%)=100-測定試料の水分(質量%)
【0104】
[インクの静的表面張力]
20℃に調整したサンプル5gの入った円柱ポリエチレン製容器(直径3.6cm×深さ1.2cm)に白金プレートを浸漬し、表面張力計(協和界面化学株式会社製、「CBVP-Z」)を用いて、ウィルヘルミ法で20℃における静的表面張力を測定した。
【0105】
[インクの粘度]
E型粘度計「TV-25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、20℃にて粘度を測定した。
【0106】
[インクの座標値(L*、a*、b*)]
温度25±1℃、相対湿度50±5%の環境下で、インクジェットプリンタ(富士フイルム株式会社社製、型番:DMP-2850)に10pL液滴吐出用のヘッドカートリッジを搭載し、ドット間距離を35μmに設定し、PETフィルム(東レ株式会社社製、品番:ルミラーT60、フィルム厚50μm)上に印刷デューティ100%で縦4cm×横4cmの印刷領域にベタ印刷を行った。次いで、印刷面のドライヤーによる温風乾燥を行い、印刷物を得た。
測定装置として分光測色計/濃度計(エックスライト株式会社製、商品名:Spectro Eye)を用い、光源D65、観察視野2度、濃度基準DIN、白色ベース「Abs」、内蔵フィルター「No」の測定条件にて、得られた印刷物の印刷面の任意の10箇所でCIE L***色空間の座標値(L*、a*、b*)を測定し、平均値を求めた。
【0107】
合成例1(カチオン性シリコーンポリマー1の合成)
2-エチル-2-オキサゾリン73.7g(0.74モル)と酢酸エチル156.0gとを混合し、得られた混合液をモレキュラーシーブ「ゼオラムA-4」(東ソー株式会社製)12.0gで、28℃15時間脱水を行った。得られた脱水2-エチル-2-オキサゾリンの酢酸エチル溶液に硫酸ジエチル2.16g(0.014モル)を加え、窒素雰囲気下8時間、80℃で加熱還流し、末端反応性ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)(数平均分子量は6,000)溶液を得た。
別途、側鎖一級アミノプロピル変性ポリジメチルシロキサン「KF-864」(信越化学工業株式会社製、重量平均分子量50,000(カタログ値)、アミン当量3,800)70.0gと酢酸エチル140.0gとを混合し、混合液をモレキュラーシーブ15.0gで、28℃15時間脱水を行った。
次いで、上記で得られた末端反応性ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)溶液を、上記の脱水した側鎖一級アミノプロピル変性ポリジメチルシロキサン溶液に一括して加え、10時間、80℃で加熱還流した。反応混合物を減圧濃縮し、ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)/ジメチルポリシロキサン共重合体(以下、「カチオン性シリコーンポリマー1」と表記する。)を白色ゴム状固体(135g)として得た。質量比[オルガノポリシロキサンセグメント(x)の含有量/〔オルガノポリシロキサンセグメント(x)及びポリ(N-アシルアルキレンイミン)セグメント(y)の合計含有量〕]は0.50であり、カチオン性シリコーンポリマー1の重量平均分子量は100,000(計算値)であった。得られたカチオン性シリコーンポリマー1に1級エタノールを添加し、カチオン性シリコーンポリマー1の溶液(固形分濃度40質量%)を得た。
【0108】
製造例1(インクI-1の製造)
〔工程I:着色剤分散液の製造〕
密封及び温度調整可能なガラス製ジャケット内に、合成例1で得られたカチオン性シリコーンポリマー1の溶液(固形分濃度40質量%)を46.6g投入し、高速分散機「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)(撹拌部:ホモディスパー2.5型(羽直径40mm))を用いて15℃のジャケット温度で1,400rpmの条件で撹拌しながら、表1に示す着色剤を添加し、更に15℃のジャケット温度で2,000rpmの条件にて1時間撹拌し、着色剤をカチオン性シリコーンポリマー1の溶液になじませた。次いでアニオン性アクリルポリマー溶液「プラスサイズL-9909U」(互応化学工業株式会社製、酸価50mgKOH/g、100%中和、中和剤2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、固形分濃度40質量%のエタノール溶液)139.7gを投入し、15℃のジャケット温度で2,000rpmの条件にて1時間撹拌した。
次いで15℃のジャケット温度に維持したまま、回転速度を8,000rpmに変更し、1級イソプロパノールを409.8g、イオン交換水を260.8g投入し、3時間撹拌し、着色剤混合物(媒体中のエタノール濃度66.7質量%、固形分濃度25質量%)を得た。
得られた着色剤混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、型式:M-140K)を用いて、180MPaの圧力にて、20パス分散処理した後、イオン交換水を695.3g添加し、固形分濃度15質量%の各着色剤分散液を得た。
〔工程II:有機溶媒の除去〕
得られた各着色剤分散液を、減圧蒸留装置(ロータリーエバポレーター、N-1000S型、東京理化器械株式会社製)を用いて、40℃に調整した温浴中、10kPaの圧力で2時間保持し、有機溶媒を除去した。更に、温浴を62℃に調整し、圧力を7kPaに下げて4時間保持し、着色剤とポリマーの合計濃度(固形分濃度)を20~22%となるように、有機溶媒及び一部の水を除去した。次いで着色剤とポリマーの合計濃度(固形分濃度)を測定し、イオン交換水で着色剤とポリマーの合計濃度が20質量%となるように調整した。
次いで5μmと1.2μmのメンブランフィルター「ミニザルト」(Sartorius社製)を用いて順に濾過し、着色剤水分散体D-1を得た。
【0109】
〔インクの製造〕
表1に示す配合組成にて、着色剤水分散体D-1、1,2-ヘキサンジオール、1,2-プロパンジオール、変性グリセリン「Liponic EG-1」(Vantage Specialty Ingredients社製、グリセリンのエチレンオキシド26モル付加物)(以下、「Liponic EG-1」と表記する)及びイオン交換水を添加、混合し、得られた混合液を0.45μmのメンブランフィルター「ミニザルト」(Sartorius社製)で濾過し、水系インクI-1を得た。得られた水系インクの20℃における静的表面張力及び粘度を表1に示す。
【0110】
製造例2~27及びC-1~C-2(インクI-2~I-27及びIC-1~IC-2の製造)
製造例1において、表1及び表2に示す種類及び配合組成に変更した以外は同様にして、水系インクI-2~I-27及びIC-1~IC-2を得た。得られた各水系インクの20℃における静的表面張力及び粘度を表1及び表2に示す。
【0111】
用いた着色剤の詳細を以下に示す。
*1:シリコーン被覆酸化チタン白色顔料「SI-チタン CR-50 LHC」(三好化成株式会社製)
*2:シリコーン被覆黄酸化鉄顔料「SI-イエローLL-100P LHC」(三好化成株式会社製)
*3:シリコーン被覆赤酸化鉄顔料「SI-レッド R-516PS LHC」(三好化成株式会社製)
*4:シリコーン被覆黒酸化鉄顔料「SI-ブラックBL-100P LHC」(三好化成株式会社製)
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
実施例1~26及び比較例1~3(インクセットを用いた印刷)
表3に記載のインクセット(インクA及びインクB)、及び吐出する1滴あたりの液滴量が1,000pLであるインクジェットヘッドを搭載した化粧用ハンディインクジェットプリンタを用いて、顔の頬部分の皮膚上4cm×4cmの領域にインクA及びインクBのインク液滴をそれぞれ吐出して印刷を行った。
印刷条件として、図1に示す正方形格子状の印刷パターンとなるようにインクAを付与領域aに、インクBを付与領域bにインクドットが配置され、インクA及びインクBの皮膚上への付与比率(体積基準)がインクA:インクB=50%:50%となるように印刷を行い、化粧画像を形成した。
なお、化粧用ハンディインクジェットプリンタは、ドック部と、ドック部から切り離して化粧印刷を施す手持ち部とを備え、帯電を逃がすことができる積層セラミックチップコンデンサ(本体除電装置)を手持ち部に搭載し、下記に示すミスト回収装置及び被印刷物除電装置を更に備えるものを用いた。
なお、積層セラミックチップコンデンサは、TDK株式会社製の積層セラミックチップコンデンサ(カタログ品番:CGA3EAC0G2A103J080AC)を用いた。
また、下記に示すミスト回収装置及び被印刷物除電装置に用いる積層セラミックチップコンデンサは、同様にTDK株式会社製の前記積層セラミックチップコンデンサを用いた。
【0115】
(ミスト回収装置)
〔後尾側ローラー〕
図6に示すミスト回収装置12aのプリンタ走査方向の後尾側のローラー503として負に帯電しやすいPTFE製スターホイールを用いて、ローラー503を負に帯電させた。
前記PTFE製スターホイールは、直径1.2mm、長さ25.4mmの金属スターホイールに、中興化成工業株式会社製のPTFE熱収縮チューブ(製品番号:TKF-100-2)を被せ、330℃に加熱した電気炉で加熱収縮させることで、金属スターホイールを心金として作製したものを用いた。
また、図6に示すミスト回収装置12aのローラー504として株式会社共伸技研製のナイロンブラシローラーを用いた。ローラー504は、帯電させたローラー503と摩擦した後に、金属線にて表面の正電荷を除去し、除去された正電荷は銅線を通してコンデンサ505に蓄えられる。コンデンサ505に蓄電された電荷は、図示しないが、手持ち部がドック部に接続された際にアース回路を介してアースされる。
【0116】
〔導電性メッシュ〕
図7に示すミスト回収装置12bの導電性メッシュ903として金属メッシュに負電荷を与え、正帯電したインクミストを吸着させた。
前記金属メッシュは、ステンレス製の金属メッシュの100番(線径0.1mm、目開き0.154mm、空間率36.5%)を用いた。前記金属メッシュは、インクジェットヘッドノズルから吐出された主滴であるインクが、メッシュの目開き部を通過するようにヘッドノズル前に設置した。
【0117】
(被印刷物除電装置)
図8に示す被印刷物除電装置5aとして、導電性素材でできた導電性ローラー501と積層セラミックチップコンデンサである除電部502とを備え、被印刷物である皮膚507表層の電荷を導電性ローラー501経由で除電部502に移行させる仕組みを組み込んだ。
図9に示すペルチェ素子601,端子電極602,アース電極605,放熱板610からなる被印刷物除電装置5bとして、パナソニック株式会社製の加湿空気清浄機「F-UXS90」からナノイーユニットを取り出した帯電水微粒子発生ユニットを用いて、帯電水微粒子を発生させた。
【0118】
<評価>
(吐出安定性)
化粧用ハンディインクジェットプリンタの5分の使用時間のうち、1分使用するごとに、ノズルチェックパターンを印刷し、ヘッド中の総ノズル数120本のうち、正常に吐出できたノズル数をカウントし、総ノズル数に対する正常に吐出できたノズル数の割合を計測した。
正常に吐出できたノズル数の割合が90%以上であれば高品位の化粧画像が得られることから、インクA及びインクBのいずれかの正常に吐出できたノズル数の割合が90%未満となった場合は、メンテナンス操作を行った。
表3には5分の使用時間のうち、実施したメンテナンス回数を示す。表3において、「5回」とは1分ごとにメンテナンスが必要になったことを示し、「0回」は5分の使用時間でメンテナンスが必要にならなかったことを示す。5回のメンテナンスが必要になった場合、連続1分の吐出を安定にできない可能性が高く、メンテナンスによってノズル不良を回復することができたとしても、良好な化粧画像を保証することができない。
【0119】
(粒状感及び見た目の自然さ)
実施例及び比較例で施された化粧画像の粒状感及び見た目の自然さを表3に記載の距離から目視観察し、評価者5人で下記の評価基準で各自5点満点の評価を行った。得られたスコアの合算値を表3に示す。この合算値が高いほど、化粧画像のインクドットの粒状感が目立ち難く、見た目の自然さが良好であることを示す。
なお、評価者による目視観察は、施術者から特定の距離をおいて化粧画像を観察する方法により行った。具体的には、家族やパートナー等の親しい者同士が向かい合う空間距離は、文化や社会的地位によりある程度の変動は発生するが、50cm程度であり、また、知らない他人同士が会話をする空間距離は100cm程度であることから、評価者は、施術者から50cm離れた位置、及び施術者から100cm離れた位置で目視観察を行い、評価を行った。
【0120】
〔粒状感の評価基準〕
5:凝視しても粒状感は全く感じられない。
4:凝視しても粒状感はほとんど感じられない。
3:凝視するとわずかに粒状感を認められるものの、ほとんど気にならず、一見しただけでは粒状感はほとんど感じられない。
2:凝視すると直ちに粒状感を感じ、そのあとは粒状感が気になり、実用上問題がある。
1:一見しただけで粒状感を感じ、肌の疾患や肌荒れのような見た目で、実用上問題がある。
【0121】
〔見た目の自然さの評価基準〕
5:凝視しても化粧印刷が施術されていると感じないほど、見た目が自然である。
4:一見しただけでは化粧印刷が施術されていると感じないほど、見た目が自然である。
3:凝視すると化粧印刷が施術されていることはわかるが、施術された部位がほとんど気にならず、非常に薄化粧な印象で、見た目も問題がない。
2:凝視すると化粧印刷が施術されていることがわかり、やや厚化粧な印象を与え、見た目もやや問題がある。
1:化粧印刷を施術したことが一目瞭然で認識され、見た目の自然さがない。
【0122】
【表3】
【0123】
表3より、実施例1~26のインクセットは、吐出安定性が良好で、比較例1~3と比べて、粒状感が抑制され、見た目の自然さが良好な化粧画像が形成できることがわかる。
【0124】
実施例27~31、比較例4
表4に記載のインクセット(インクA及びインクB)を用い、実施例1で用いた化粧用ハンディインクジェットプリンタにおいて、インクジェットヘッドをMicro Electro Mechanical System(MEMS)プロセスで吐出するインク液滴量が40pL~5,000pLとなるようにインク流路を設計したサーマルインクジェットヘッドに変更した以外は同様の構成を有する化粧用ハンディインクジェットプリンタを用いて、顔の頬部分の皮膚上4cm×4cmの領域にインクA及びインクBのインク液滴を吐出して印刷を行った。
印刷条件として、図2に示す三角格子状にの印刷パターンとなるようにインクAを付与領域aに、インクBを付与領域bにインクドットが配置され、インクA及びインクBの皮膚上への付与比率(体積基準)がインクA:インクB=50%:50%となるように印刷を行い、化粧画像を形成した。
吐出安定性及び粒状感のなさを前記と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
なお、評価者による目視観察は、前述の施術者から50cm離れた位置、及び施術者から100cm離れた位置に加えて、施術者から80cm離れた位置、及び施術者から150cm離れた位置でも行った。これは、ビジネスライクな会話がなされる空間距離は80cm程度であり、会話がなされずに単にすれ違う程度の空間距離は150cm程度であるためである。
【0125】
【表4】
【0126】
表4より、実施例27~31のインクセットは、粒状感が抑制された化粧画像を形成でき、比較例4と比べて、吐出安定性に優れることがわかる。
【0127】
実施例32~33
表5に記載のインクセット(インクA及びインクB)を用い、実施例1で用いた化粧用ハンディインクジェットプリンタにおいて、インクジェットヘッドをMEMSプロセスで吐出するインク液滴量が1,000pLとなるようにインク流路を設計したサーマルインクジェットヘッドに変更した以外は同様の構成を有する化粧用ハンディインクジェットプリンタを用いて、印刷条件として、図2に示す三角格子状の印刷パターンとなるようにインクAを付与領域aに、インクBを付与領域bにインクドットが配置され、顔の各部位ごとにインクA及びインクBの皮膚上への付与比率(体積基準)を表5に示すように変更して、顔の各部位ごとの印刷が互いに重ならないように顔全面に印刷を行い、化粧画像を形成した。
粒状感のなさ及び見た目の自然さを前記と同様の方法で評価した。結果を表5に示す。
なお、評価者による目視観察は、前述の施術者から50cm離れた位置、及び施術者から100cm離れた位置に加えて、施術者から80cm離れた位置、及び施術者から150cm離れた位置でも行った。
【0128】
【表5】
【0129】
表5より、実施例32及び33のインクセットは、化粧を施す部位ごとに色味の調整が容易で、化粧を施す部位によらずに全体的に粒状感がない化粧画像が形成できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明のインクセットによれば、化粧を施す部位ごとに色味の調整が容易で、インクを液滴として吐出する印刷において、吐出安定性に優れ、かつ、粒状感がなく、見た目が自然な高品位の化粧画像を得ることができ、化粧用インクセットとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0131】
1:化粧用ハンディインクジェットプリンタ
2:ドック部
3:手持ち部
4,5:インクジェットヘッド
6,7:インクタンク
8,9:ローラー
10,11:光源部
12:ミスト回収装置
13:ミスト検出装置
20:CPU
21:充電装置部
22:メンテナンス装置部
23:送受信部
24:画像処理回路
25:アース回路(本体除電装置)
26:ドック側電動端子
27:アース
30:ヘッド制御部
31:光学センサ
32:ローラーエンコーダ
33:手持ち側電動端子
35:握り部
505:コンデンサ(本体除電装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図12