(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/20 20160101AFI20250127BHJP
【FI】
H02P29/20
(21)【出願番号】P 2020168643
(22)【出願日】2020-10-05
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇治
(72)【発明者】
【氏名】北原 通生
(72)【発明者】
【氏名】平出 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】平野 曜生
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/145366(WO,A1)
【文献】特開2016-092882(JP,A)
【文献】特開2001-062765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク指令
Tcと速度制限指令
SLCに基づいて速度を制限しながらモータ
21のトルクを制御するモータ制御装置
Aであって、
前記モータ制御装置
Aは、
前記モータの速度
Vを検出する速度検出部
25と、
前記トルク指令
Tcに基づいてトルク指令に基づく速度指令
STCを算出し、前記トルク指令に基づく速度指令
STCを
速度制限
指令SLCにより制限した後のモータ速度指令
SMCを算出し
て出力する速度制限部
Bと、
前記モータ速度指令
SMCから
前記速度検出部25が検出した前記モータ
21の速度
Vを減算し
て速度偏差
SDとして出力する減算器11と、
前記速度偏差SDに基づ
きモータトルク指令
TMTを
算出する速度制御器
15と、
を有し、
前記速度制御器15は、
前記速度偏差SDにゲインGを乗じて比例分モータトルク指令を算出して出力する比例制御器15aと、
前記速度偏差SDを積分して積分分モータトルク指令を算出して出力する前記積分制御器15bと、
前記比例分モータトルク指令と前記積分分モータトルク指令とを加算して前記モータトルク指令TMTを算出して出力する速度加算器と、を有し、
前記速度制限部
Bは、
前記トルク指令に基づく速度指令
STCが前記速度制限指令
SLCにより制限されている速度制限状態である場合には、
トルク指令制限器1により前記トルク指令
Tcを制限して、
トルク指令制限器後のトルク指令
TTCを算出し
て出力し、前記速度制限状態でない場合には、前記トルク指令
Tcをそのまま
トルク指令制限器後のトルク指令TTCとして出力するトルク指令制限器
1と、
いずれの場合であっても前記トルク指令制限器から出力される前記制限器後のトルク指令TTCを滑らかに変化させるように算出して変化調整器後のトルク指令TCTを出力する変化調整器3と、
前記変化調整器
3から出力
される前記変化調整器後のトルク指令
TCTを前記ゲインGで除したトルク指令に基づく速度偏差
SDTを算出し、出力する速度偏差算出器
5と、
前記トルク指令に基づく速度偏差
SDTと前記モータの速度
Vを加算して前記トルク指令に基づく速度指令
STCを算出し、出力する加算器
7と、
前記トルク指令に基づく速度指令
STCを前記速度制限指令
SLCにより制限
した前記モータ速度指令SMCを算出し、出力する速度制限器
9と、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
トルク制御モード又は位置制御モードのいずれかの制御モード
Mでモータ
21を制御し、前記位置制御モードにおいては前記モータ
21の位置を制御し、前記トルク制御モードにおいては速度を制限しながら前記モータ
21のトルクを制御するモータ制御装置
Aであって、
前記モータ制御装置
Aは、
前記モータの位置を検出する位置検出部と、
前記モータの位置から前記モータ
21の速度
Vを検出する速度検出部
25と、
モータ速度指令
SMCに
基づいて前記モータの速度を制御する速度制御器
15と、
トルク指令に基づく速度指令
STCを算出し、前記トルク指令に基づく速度指令
STCに制限を加えた後の速度制限器後の速度指令
SCLを算出し
て出力する速度制限部
Bと、
を有し、
前記速度制限部
Bは、
前記トルク指令に基づく速度指令
STCが速度制限指令
SLCにより制限されている速度制限状態に基づいてトルク指令
TCを制限して、
トルク指令制限器後のトルク指令
TTCを出力するトルク指令制限器
1と、
前記トルク指令制限器後のトルク指令TTCを滑らかに変化させるように算出して変化調整器後のトルク指令TCTを出力する変化調整器3と、
前記変化調整器
のトルク指令
TCTを前記ゲインGで除してトルク指令に基づ
く速度偏差
SDTを算出
して出力する速度偏差算出器
5と、
前記トルク指令に基づく速度偏差
SDTと前記モータの速度
Vを加算して前記トルク指令に基づく速度指令
STCを算出し、出力する加算器
7と、
前記トルク指令に基づく速度指令
STCを前記速度制限指令
SLCにより制限し、
前記速度制限器後の速度指令
SCLを出力する速度制限器
9と、
を備え、
前記モータ制御装置
Aは、
位置指令
LCから前記モータ
21の位置
Pを減算して位置偏差
PDを算出し、出力する減算器と、
前記位置偏差
PDに基づいて位置制御器からの速度指令
SPCを算出し、出力する位置制御器
18と、
制御モード自動切換え信号
MCが有効となった場合に作動する、前記位置制御モードと前記トルク制御モードを自動で切換える制御モード切換え部
16と、
前記制御モード切換え部
16で切換えられた制御モード
Mに応じて
、前記位置制御モードの場合は前記位置制御器からの速度指令
SPCを選択し、前記トルク制御モードの場合は前記速度制限器後の速度指令
SCLとのいずれか一方の速度指令
SPC,SCLを選択して
前記モータ速度指令
SMCを出力する速度指令選択部
10と、
を有し、
前記制御モード切換え部
16は、
前記制御モード自動切換え信号MCが有効のときに、前記位置制御器からの速度指令
SPCと前記
速度制限器後の速度指令
SCLとを比較し、前記位置制御器からの速度指令
SPCの値が前記
速度制限器後の速度指令
SCLの値より大きい場合は、前記位置制御モードを選択し、前記位置制御器からの速度指令
SPCの値が前記
速度制限器後の速度指令
SCLの値以下の場合は、前記トルク制御モードを選択
する、
モータ制御装置。
【請求項3】
前記制御モード切換え部
16は、前記モータ
21の駆動する部材の位置が所定の位置に達すると、前記制御モード自動切換え信号
MCを有効にする、
請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記速度制御器
15は、
前記速度制限器
9において速度制限されていない場合は、比例制御が行われるものであり、
前記速度制限器
9において速度制限されている場合は、比例積分制御されるものである、請求項3に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押当て制御機能を備えたモータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
押当て制御は、自動検査機のプローブの押し当てやロボットハンドのハンドリング動作におけるハンドのワーク把持のための押し当て、キャップのねじ締めや圧入装置などに使用されている。このような押当て制御を実施した例として特許文献1がある。特許文献1には、モータを駆動して可動部材を移動させ、該可動部材を被当接部材に当接させた後、さらに、モータを増力して可動部材を被当接部材に押し当てる自動押し当て方法において、可動部材が被当接部材に当接するまでは、該可動部材の速度とモータのトルクを許容値以下にし、該移動部材が被当接物に当接したことをモータに流れる電流の変化、またはモータの回転子の速度変化により検出し、しかる後、該モータに増力されたトルクを発生させるようにモータを制御して、可動部材を被当接部材に押し当てることを特徴とする自動押し当て方法が記載されている。
【0003】
このように、特許文献1の手法では、該移動部材が被当接物に当接したことをモータに流れる電流の変化、またはモータの回転子の速度変化により検出し、しかる後、該モータに増力されたトルクを発生させるようにモータを制御している。しかし、モータにはトルクリップルや速度リップルがあり、当接をモータに流れる電流の微小な変化やモータの回転子の微小な速度変化で検出するのは難しく、検出レベルを小さくできないという問題があった。モータに流れる電流の大きな変化やモータの回転子の大きな速度変化で検出すると、検出時に既に大きなトルクがモータから出力されてしまい、対象物に加わる力を滑らかに増加させることができず、対象物に衝撃を与えてしまうなど、滑らかにねじ締めや圧入ができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の様な問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、可動部が対象物へ当接したことを検出しなくても、当接した時にモータのトルク(対象物に加わる力)を滑らかに増加させることができ、同時に、位置制御や速度制御から速度制限機能付きトルク制御への移行のオーバーシュートを抑制して、高速に行うことのできる押当て制御機能を備えたモータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トルク指令と速度制限指令に基づいて速度を制限しながらモータのトルクを制御するモータ制御装置であって、前記モータ制御装置は、前記モータの速度を検出する速度検出部と、前記トルク指令に基づいてトルク指令に基づく速度指令を算出し、前記トルク指令に基づく速度指令に制限を加えた後のモータ速度指令を出力する速度制限部と、を有し、前記速度制限部は、前記トルク指令に基づく速度指令が前記速度制限指令により制限されている速度制限状態に基づいてトルク指令を制限して、制限器後のトルク指令を出力するトルク指令制限器と、前記トルク指令制限器後のトルク指令を滑らかに変化させるための変化調整器と、前記変化調整器後のトルク指令に基づいて速度偏差を算出する速度偏差算出器と、前記トルク指令に基づく速度偏差と前記モータの速度を加算してトルク指令に基づく速度指令を求める加算器と、前記トルク指令に基づく速度指令を速度制限指令により制限する速度制限器と、を備えることを特徴とするモータ制御装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、可動部が対象物へ当接したことを検出しなくても、当接した時にモータのトルク(対象物に加わる力)を滑らかに増加させることができるとともに、位置制御や速度制御から速度制限機能付きトルク制御への移行を、オーバーシュートを抑制して高速に行うことのできる押当て制御機能を備えたモータの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、モータ制御装置及び方法の一態様を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、モータ制御装置及び方法の別の一態様を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第2の実施例のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係るモータ制御装置及び方法の実施の態様を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の態様の説明如何により本発明の範囲が限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の技術的範囲に属する限り、如何なる態様であっても本発明の範囲に含まれるものである。
図1に、モータ制御装置及び方法の一態様を示す。
【0010】
押当て制御機能を備えたモータ制御装置及び制御方法は、前記〔背景技術〕の項でも述べたとおり、公知のものであるので、詳細の説明は省略するが、本発明の実施の態様は次のとおりである。
【0011】
本発明のモータ21のモータのトルクと速度を制御するモータ制御装置Aは、概略、エンコーダEN23、エンコーダEN23の位置を微分して速度を求める速度検出部25と、トルク指令制限器1、変化調整器3、速度偏差算出器5、加算器7、速度制限器9、減算器11、速度制御器15、モータトルク制御器17、などから構成されている。変化調整器3は例えばローパスフィルタである。これらのうち、トルク指令制限器1、変化調整器3、速度偏差算出器5、加算器7、速度制限器9を合わせて速度制限部Bと称する。
【0012】
(第1の実施例)
図1に示す実施例は、速度制限状態で対象物に当接して押当て制御を実施する場合の構成例を示したものである。モータ制御装置Aの各部の機能は以下のとおりである。
【0013】
トルク指令TCをトルク指令制限器1から出力される制限器後のトルク指令TTCを入力し変化調整器後のトルク指令TCTを出力する変化調整器3とトルク指令TCを入力とする速度偏差算出器5に通してトルク指令に基づく速度偏差SDTを求める。トルク指令に基づく速度偏差SDTと速度Vを加算してトルク指令に基づく速度指令STCを求める。
【0014】
トルク指令に基づく速度指令STCを速度制限器9で速度制限指令SLCに基づき制限してモータ速度指令SMCを求め、モータ速度指令SMCに基づきモータ21を速度制御する。具体的には、モータ21に付けられているエンコーダEN23の位置を微分して速度Vを求める。モータ速度指令SMCを速度Vで減算して速度偏差SDを求め、速度制御器15に通してモータトルク指令TMTを算出する。モータトルク指令TMTに基づき、モータトルク制御器17によりモータトルク指令TMTに基づくトルクがモータ21から出力される。モータ21から出力されたトルクは、ボールねじ等で直線運動に変換され、可動部を駆動する。
【0015】
モータ21から出力されたトルクにより回転した位置をエンコーダEN23で検出し、モータ速度指令と速度が一致するように速度制御を行う。速度制御器15は比例積分制御器で構成され、制御状態により、比例制御器15aのみで動作させたり、比例制御器15aと積分制御器15bの両方を動作させたりする。トルク指令に基づく速度指令STCが速度制限器9により制限されている場合は比例積分制御を行い、速度制限状態が解除されると、速度制御器15を比例制御にし、次のようにしてトルク制御を実施する。
【0016】
速度制御器15内の比例制御器15aのゲインをGとすると、トルク指令に基づく速度指令STCは以下のようになる。
トルク指令に基づく速度偏差SDT=変化調整器後のトルク指令TCT/G
トルク指令に基づく速度指令STC=トルク指令に基づく速度偏差SDT+速度V
そして、求められたトルク指令に基づく速度指令STCに対して速度制限指令SLCに基づき速度制限を行い、モータ速度指令SMCを求める。
モータ速度指令SMCに従ってモータの速度制御を行うと、以下のようになる。
モータトルク指令TMT=速度偏差SD×G=(モータ速度指令SMC-速度V)×G
【0017】
ここで、速度制限にかからない場合は、モータ速度指令SMC=トルク指令に基づく速度指令STCのため、以下の通りである。
モータトルク指令TMT=(トルク指令に基づく速度指令STC-速度V)×G={(トルク指令に基づく速度偏差SDT+速度V)-速度V}×G
=(トルク指令に基づく速度偏差SDT)×G=変化調整器後のトルク指令TCT/G×G=変化調整器後のトルク指令TCT
従って、モータトルク指令TMTは変化調整器後のトルク指令TCTと一致し、このモータトルク指令TMTに基づきトルク制御を行い、モータトルク指令通りのモータトルクがモータ21から出力される。
【0018】
速度制限指令SLCは、可動部が対象物に押し当った時の衝撃が許容できる範囲の低い値に設定し、トルク指令に基づく速度指令STCが速度制限指令SLCに基づき制限されている場合は速度制限状態を出力し、速度制限状態の場合はトルク指令制限器1でトルク指令TCを小さな値(例えば1/10)に制限する。トルク指令TCが小さな値に制限された状態では、トルク指令に基づく速度偏差SDTが小さな値になるため、トルク指令に基づく速度指令STCは、速度Vに対して、ごく僅か大きな値になる。
【0019】
速度制限状態で可動部が対象物まで移動している時は、速度制御器15を比例積分制御器で構成して速度の比例積分制御が行われるため、速度の定常偏差は0になり、速度Vは速度制限指令SLCと一致する。この状態で可動部が対象物に当接すると、トルク指令に基づく速度偏差SDTに相当するごく僅かな速度の低下で速度制限状態が解除され、トルク指令制限器1におけるトルク指令の制限が解除され、変化調整器後のトルク指令TCTは変化調整器の時定数に従って滑らかに増加し、変化調整器3の効果が終了すると、トルク指令TC通りのモータトルクが出力されるようになる。
【0020】
以上のように、本発明の実施の形態では、速度制限状態に基づいてトルク指令TCに制限をかけ、その出力に変化調整器3を挿入して速度制限状態が解除された時の変化調整器後のトルク指令TCTの上昇を滑らかにしている。速度制限状態でトルク指令TCに制限をかけることによりトルク指令に基づく速度偏差SDTを小さな値にすることができ、これにより対象物への当接時に僅かに速度が低下しただけで速度制限状態を解除することができ、速度制限で移動して、当接してトルク指令TCに基づき押当て制御を行う時の変化調整器後のトルク指令TCTの上昇を滑らかなものとすることができる。
【0021】
なお、変化調整器3の代わりに、一定の傾斜でトルク指令が上昇するような関数や、押し当て時に必要な任意の関数を入れてもよい。
また、本発明はリニアモータにも適用できる。その場合は、トルクを推力として扱えばよい。
【0022】
(第2の実施例)
図2に本発明の第2の実施例を示す。第2の実施例は、位置制御で移動して可動部を対象物に近づけ、速度制限状態に自動的に移行し、速度制限状態で対象物に当接して押当て制御を実施する場合の構成例を示したものである。
【0023】
位置指令LCから位置Pを減算し、位置偏差PDを求める。位置偏差PDを位置制御器18に通して位置制御器からの速度指令SPCを求める。また、トルク指令TCをトルク指令制限器1と変化調整器3と速度偏差算出器5に通してトルク指令に基づく速度偏差SDTを求める。トルク指令に基づく速度偏差SDTと速度Vを加算してトルク指令に基づく速度指令STCを求める。トルク指令に基づく速度指令STCを速度制限器9で速度制限指令SLCに基づき制限して、制限器後の速度指令SCLを求める。速度制限器9でトルク指令に基づく速度指令STCが速度制限指令SLCに基づき制限されている場合は速度制限状態を出力し、速度制限状態の場合はトルク指令制限器1でトルク指令TCを制限する。
【0024】
この押当て制御では、まず、位置制御で可動部を対象物まで近づけ、対象物に近づくと、上位コントローラは、制御モード自動切り換えを有効にし、押当て制御で必要なトルクの値をトルク指令として与える。制御モード自動切り換えが有効になると、制御モード切換え部16では、制御モード自動切換え入り信号MCに基づいて、位置制御器からの速度指令SPCと制限器後の速度指令SCLを比較し、位置制御器18からの速度指令SPCが制限後の速度指令SCLより大きい場合は位置制御モードのままとし、位置制御器からの速度指令SPCが制限器後の速度指令SCL以下になると速度制限機能付きトルク制御モードに切り替える。速度指令選択部10では、制御モードが位置制御モードの場合は位置制御器からの速度指令SPCを選択し、制御モードが速度制限機能付きトルク制御モードの場合は制限器後の速度指令SCLを選択し、モータ速度指令SMCを求める。このモータ速度指令SMCに基づき、モータを速度制御する。
【0025】
具体的には、モータ21に付けられているエンコーダEN23の位置を微分して速度Vを求める。モータ速度指令SMCから速度Vを減算して速度偏差SDを求め、速度制御器15に通してモータトルク指令TMTを算出する。モータトルク指令TMTに基づき、モータトルク制御器17によりモータトルク指令に基づくトルクがモータ21から出力される。モータ21から出力されたトルクは、ボールねじ等で直線運動に変換され、可動部を駆動する。モータ21から出力されたトルクにより回転した位置をエンコーダEN23で検出し、モータ速度指令SMCと速度Vが一致するように速度制御を行う。速度制御器15は比例積分制御器で構成され、制御状態により、比例制御器15aのみで動作させたり、比例制御器15aと積分制御器15bの両方を動作させたりする。制御モード切換え部16で、制御モードMとして、位置制御モードが選択されている場合は、比例制御器15aと積分制御器15bの両方を動作させて比例積分制御を行う。制御モード切換え部16で制御モードMとして、速度制限機能付きトルク制御モードが選択されていて、トルク指令に基づく速度指令STCが速度制限器9により制限されている場合も同様に比例積分制御を行い、速度制限状態が解除されると、速度制御器15を比例制御にし、実施例1と同様にしてトルク制御を実施する。
【0026】
速度制限指令SLCは、可動部が対象物に押し当った時の衝撃が許容できる範囲の低い値に設定し、位置制御モードでモータが高速駆動している場合は速度Vが高いため、制限器後の速度指令SCLは速度制限指令になっている。制御モード切換え部16で位置制御モードから速度制限機能付きトルク制御モードに切り替わると、モータ速度指令SMCは位置制御器からの速度指令SPCから制限器後の速度指令SCLに切り換わり、速度制限指令SLCに基づくモータの速度制御が行われ、速度制限指令SLCに速度Vが比例積分制御される。
【0027】
また、トルク指令に基づく速度指令STCが速度制限器9により制限されている場合は、速度制限器9から速度制限状態が出力され、速度制限状態に基づきトルク指令制限器1によりトルク指令が小さな値(例えば1/10)に制限される(制御器後のトルク指令TTC)。トルク指令が小さな値に制限された状態では、トルク指令に基づく速度偏差SDTも小さな値になるため、トルク指令に基づく速度指令STCは、速度Vに対しごくわずか大きな値になる。速度制限状態で可動部が対象物まで移動している時は、速度制御器15を比例積分制御器で構成して速度Vの比例積分制御が行われるため、速度Vの定常偏差は0になり、速度Vは速度制限指令SLCと一致する。この状態で可動部が対象物に当接すると、トルク指令に基づく速度偏差SDTに相当するごく僅かな速度の低下で速度制限状態が解除され、トルク指令制限器1におけるトルク指令の制限が解除され、変化調整器後のトルク指令TCTは変化調整器3の時定数に従って滑らかに増加し、変化調整器3の効果が終了すると、トルク指令TC通りのモータトルクが出力されるようになる。また、トルク指令TCによる加圧が行われると、制御モード自動切り換えを無効にする。
【0028】
図3は、第2の実施例のシミュレーション結果である。横軸は時間である。縦軸は図の上に記載した値である。
波形Aは、位置制御器からの速度指令S
PCの時間変化を示す図である。
波形Bは、トルク指令T
C、変化調整器後のトルク指令T
CT、負荷トルクの時間変化を示す図である。
波形Cは、速度制限状態(1:制限状態)を示す図である。
波形Dは、制限器後の速度指令S
CLの時間変化を示す図である。
波形Eは、モータ速度指令S
MCの時間変化を示す図である。
波形Fは、モータ速度Vの時間変化を示す図である。
波形Gは、モータトルク指令T
MTの時間変化を示す図である。
横軸は全ての波形で一致させている。
【0029】
位置制御で押当て対象物に近づくと制御モード自動切り換えが有効になり、波形Aで示す位置制御器からの速度指令SPCが波形Dで示す制限器後の速度指令SCL以下になると、速度制限機能付きトルク制御モードに切り替え、速度指令選択部10は波形Dで示される制限器後の速度指令SCLを選択して、波形Eで示すモータ速度指令SMCは速度制限指令SLCで設定された速度制限値(300min-1)になっている(t=0.12付近参照)。制御モードが切り替わり、波形Eで示すモータ速度指令SMCが減速動作から一定の速度制限指令値になった時に速度Vにオーバーシュートが生じている間、速度制限状態が一時的に解除され、波形Bで示される変化調整器後のトルク指令TCTが上昇して波形Fで示される速度Vのオーバーシュートを抑制する動作も見られる(t=0.12付近参照)。
【0030】
そして、制限された速度で可動部が対象物に近づき、対象物に当接すると、僅かに速度が低下しただけで速度制限状態が解除されて波形Bで示される変化調整器後のトルク指令TCTが変化調整器3の時定数に従って上昇し、変化調整器3の効果が終了すると、トルク指令TC通りのモータトルク指令TMC(波形G)で押当て対象物を加圧している。トルク指令TCの動作は滑らかであり、押当て対象物に衝撃を与えていない(t=0.14付近)。
【0031】
以上のように、この実施例では、可動部が押当て対象物に近づくまでは通常の位置制御を実施し、可動部が押当て対象物に近づくと、制御モード自動切り換えを有効にし、制御モード自動切り換えが有効になると、制御モード切換え部16で位置制御器からの速度指令SPCと制限器後の速度指令SCLを比較し、位置制御器からの速度指令SPCが制限器後の速度指令SCL以下になると、速度制限機能付きトルク制御を選択して速度制限機能付きトルク制御を行う。
【0032】
切り替わり時に速度のオーバーシュートが生じた場合は、速度制限状態が一時的に解除されるため速度のオーバーシュートを抑制することができ、切替後の速度を速やかに速度制限指令値にして押当て対象に当接する。押当て対象に当接すると、僅かに速度Vが低下しただけで速度制限状態が解除され、トルク指令TCに対する制限が解除されて、変化調整器後のトルク指令TCTが変化調整器3の時定数で上昇して、変化調整器3の効果が終了すると、トルク指令TC通りのモータトルク指令TMTになり、押当て対象をトルク指令TCで加圧する。本制御手法の速度制限機能付きトルク制御では速度制限状態からトルク制御状態に自動的に切り替わり、さらに押当て対象物への当接を検出しなくても、当接した後に滑らかにトルクを上昇させることができる。
【0033】
このように、押当て対象物に押し当った時のトルク指令の上昇を滑らかにできるため、制御対象にショックを与えずに押当て制御を実現できるようになる。また、制御対象に押し当った時のショックが小さいため、速度制限指令を高めの値にすることができ、より短時間で押当て制御ができるようになる。なお、モータが押当て対象物に近づくまでは、位置制御のかわりに速度制御を実施してもよい。その場合は、位置制御器からの速度指令が、速度制御時の速度指令になる。
【0034】
(発明の効果)
以上の様に、本発明では、トルク指令入力部にトルク指令制限器と変化調整器を設け、変化調整器後のトルク指令を基にトルク指令に基づく速度指令を算出し、速度制限を行って制限後の速度指令を求め、速度が制限されている場合はトルク指令制限器でトルク指令を制限するようにしている。そして、制限後の速度指令に従ってモータの速度制御を行うことにより押当て制御を実現している。これにより、位置制御や速度制御から速度制限機能付きトルク制御への移行時の速度のオーバーシュートを抑制して動作を高速にし、可動部が対象物に当接したことを検出しなくても、当接時に滑らかにモータのトルク(対象物に加わる力)を上昇させる押当て制御ができ、対象物へのショックの無い押当て制御機能を備えたモータの制御装置を提供することができる。
【0035】
上述した各態様は、いずれも本発明の一態様を示すものであって、本発明自体がそれらの態様によって示される具体的な構成に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載された事項に基づき当業者が想定し得るものはすべて含まれるものである。
【符号の説明】
【0036】
A モータ制御装置
P 位置
V 速度
1 トルク指令制限器
3 変化調整器
5 速度偏差算出器
7 加算器
9 速度制限器
10 速度指令選択部
11 減算器
15 速度制御器
15a 比例制御器
15b 積分制御器
16 制御モード切換え部
17 モータトルク制御器
18 位置制御器
21 モータ
23 エンコーダ
LC 位置指令
PD 位置偏差
SCL 制限器後の速度指令
SMC モータ速度指令
SD 速度偏差
SDT トルク指令に基づく速度偏差
SLC 速度制限指令
STC トルク指令に基づく速度指令
SMC モータ速度指令
TTC 制限器後のトルク指令
TC トルク指令
TMT モータトルク指令