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特許7625400不一致を検出することによる、ECG信号のマッピングの遡及的最適化
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】不一致を検出することによる、ECG信号のマッピングの遡及的最適化
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/367 20210101AFI20250127BHJP
   A61B 5/352 20210101ALI20250127BHJP
【FI】
A61B5/367
A61B5/352
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020184241
(22)【出願日】2020-11-04
(65)【公開番号】P2021074543
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】16/674,921
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
(72)【発明者】
【氏名】バディム・グリナー
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-139707(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0261927(US,A1)
【文献】特表2016-530008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0368713(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓内の心臓内プローブの複数の電極によって取得された、複数の心内信号を受信するように構成されている信号取得回路と、
プロセッサであって、
後続の時点で、一連のアノテーション可視化操作を、各操作において、
(i)前記心内信号から複数のアノテーション値を抽出することと、
(ii)前記心内信号の群を選択することと、
(iii)前記群内で、逸脱の既定の尺度よりも統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値を特定することと、
(iv)前記アノテーション値をユーザに対して可視化する一方で、前記統計的に逸脱しているアノテーション値を省略して、可視化するのを防止することと、
を実行することによって、実施し、
前記アノテーション可視化操作のうちの1つ以上にわたって、アノテーション値の省略率を評価し、
前記省略率が既定の閾値を超えることを検出したことに応じて、
省略されていない前記アノテーション値と、省略された前記アノテーション値のうちの1つ以上を用いて、前記統計的に逸脱しているアノテーション値を再び特定する、
ことによって修正措置を取る
ように構成されているプロセッサと、
を備えるシステム。
【請求項2】
前記プロセッサが、前記逸脱の前記尺度を、前記アノテーション値の標準スコアを用いて定義するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサが、前記逸脱の前記尺度を、前記アノテーション値の1つ以上の百分位数を用いて定義するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
所与のアノテーション可視化操作において、前記プロセッサが、前記心臓内で互いから既定の距離以内に位置する、空間的に関連する電極の選択されたサブセットによって取得された心内信号に対する前記アノテーション値の逸脱を、計算するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
所与のアノテーション可視化操作に対する前記アノテーション値の逸脱を計算する際に、前記プロセッサが、既定の時間期間内に発生し、互いに時間的に近接する複数の心周期にわたって、前記心内信号の平均をとるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
所与のアノテーション可視化操作において、前記プロセッサが、前記群内の所与の電極によって取得された所与の心内信号内の前記アノテーション値のうちの1つ以上を修正して、前記群内のその他の電極に対する前記所与の電極の変位を補償するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記アノテーション値が、局所的興奮時間(LAT)を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記プロセッサが、前記統計的に逸脱しているアノテーション値以外の前記アノテーション値を、前記心臓のモデル上に重ね合わせることで、前記アノテーション値を可視化するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
プロセッサの作動方法であって、
前記プロセッサが、患者の心臓内の心臓内プローブの複数の電極によって取得された、複数の心内信号を受信することと、
後続の時点で、一連のアノテーション可視化操作を、各操作において、
(i)前記プロセッサが、前記心内信号から複数のアノテーション値を抽出することと、
(ii)前記プロセッサが、前記心内信号の群を選択することと、
(iii)前記プロセッサが、前記群内で、逸脱の既定の尺度よりも統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値を特定することと、
(iv)前記プロセッサが、前記アノテーション値をユーザに対して可視化する一方で、前記プロセッサが、前記統計的に逸脱しているアノテーション値を省略して、可視化するのを防止することと、
を実行することによって、実施することと、
前記アノテーション可視化操作のうちの1つ以上にわたって、前記プロセッサが、アノテーション値の省略率を評価することと、
前記省略率が既定の閾値を超えることを検出したことに応じて、
前記プロセッサが、省略されていない前記アノテーション値と、省略された前記アノテーション値のうちの1つ以上を用いて、前記統計的に逸脱しているアノテーション値を再び特定することと、
によって修正措置を取ることと、
を含む作動方法。
【請求項10】
前記逸脱の前記尺度が、前記アノテーション値の標準スコアを用いて定義される、請求項に記載の作動方法。
【請求項11】
前記逸脱の前記尺度が、前記アノテーション値の1つ以上の百分位数を用いて定義される、請求項に記載の作動方法。
【請求項12】
所与のアノテーション可視化操作において、前記心臓内で互いから既定の距離以内に位置する、前記プロセッサが、空間的に関連する電極の選択されたサブセットによって取得された心内信号に対する前記アノテーション値の逸脱を計算することを含む、請求項に記載の作動方法。
【請求項13】
所与のアノテーション可視化操作に対する前記アノテーション値の逸脱を計算する際に、既定の時間期間内に発生し、互いに時間的に近接する複数の心周期にわたって、前記プロセッサが、前記心内信号の平均をとることを含む、請求項に記載の作動方法。
【請求項14】
所与のアノテーション可視化操作において、前記プロセッサが、前記群内の所与の電極によって取得された所与の心内信号内の前記アノテーション値のうちの1つ以上を修正して、前記群内のその他の電極に対する前記所与の電極の変位を補償することを含む、請求項に記載の作動方法。
【請求項15】
前記アノテーション値が、局所的興奮時間(LAT)を含む、請求項に記載の作動方法。
【請求項16】
前記プロセッサが、前記アノテーション値を可視化することが、前記プロセッサが、前記統計的に逸脱しているアノテーション値以外の前記アノテーション値を、前記心臓のモデル上に重ね合わせることを含む、請求項に記載の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、同日付で出願された「Using Statistical Characteristics of Multiple Grouped ECG Signals to Detect Inconsistent Signals」と題された米国特許出願(代理人整理番号第BIO6196USNP1号)に関連し、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概して、体内医療処置及び器具に関し、特に心臓の心電図(ECG)の体内検知に関する。
【背景技術】
【0003】
多数の電極によって生成される心内心電図(iECG)信号を測定及びアノテーションするとき、信号に埋め込まれたノイズを低減するために、信号を処理(例えば、コンピュータ処理)することが望ましい場合がある。
【0004】
かかるiECG信号処理のための様々な方法が存在する。例えば、米国特許出願公開第2009/0089048号には、心室チャネル、マッピングチャネル、及び複数の基準チャネルを含む、4本以上のチャネルによる多チャネル心電図信号から、局所的興奮時間(local activation time=LAT)を判定するための自動化された方法が記載されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に記載の本発明の一実施形態は、信号取得回路及びプロセッサを含むシステムを提供する。信号取得回路は、患者の心臓内の心臓内プローブの複数の電極によって取得された、複数の心内信号を受信するように構成される。プロセッサは、一連のアノテーション可視化操作を、後続の時点で実行するように構成されるが、そのためには、各動作において、心内信号から複数のアノテーション値を抽出し、心内信号の群を選択し、その群から、既定の逸脱の尺度を超えて統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値を特定し、統計的に逸脱しているアノテーション値を省略して、可視化しないようにする一方で、アノテーション値をユーザに可視化するようになっている。プロセッサは、アノテーション可視化操作のうちの1つ以上にわたって、アノテーション値が省略される割合を評価して、省略される割合が既定の閾値を超えることを検出したことに応じて修正措置を取るように、更に構成されている。
【0006】
一部の実施形態では、プロセッサが、省略されたアノテーション値のうちの1つ以上を再適用し、統計的に逸脱しているアノテーション値を再び特定することによって、修正措置を取るように構成されている。一部の実施形態では、プロセッサが、心内信号からアノテーション値のうちの1つ以上を再抽出することによって、修正措置を行うように構成されている。
【0007】
一実施形態では、プロセッサが、逸脱の尺度を、アノテーション値の標準スコアを用いて定義するように構成されている。別の実施形態では、プロセッサが、逸脱の尺度を、アノテーション値の1つ以上の百分位数を用いて定義するように構成されている。
【0008】
例示的実施形態では、所与のアノテーション可視化操作において、プロセッサが、心臓内で互いから既定の距離以内に位置する、空間的に関連する電極の選択されたサブセットによって取得された心内信号に対するアノテーション値の逸脱を、計算するように構成されている。別の実施形態では、所与のアノテーション可視化操作に対するアノテーション値の逸脱を計算する際に、プロセッサが、既定の時間期間内に発生する複数の時間的に関連する心周期にわたって、心内信号の平均をとるように構成されている。
【0009】
更に別の実施形態では、所与のアノテーション可視化操作において、プロセッサが、群内の所与の電極によって取得された所与の心内信号内のアノテーション値のうちの1つ以上を修正して、群内のその他の電極に対する所与の電極の変位を補償するように構成されている。
【0010】
一部の実施形態では、アノテーション値は、局所的興奮時間(LAT)を含む。一部の実施形態では、プロセッサが、統計的に逸脱しているアノテーション値以外のアノテーション値を、心臓のモデル上に重ね合わせることで、アノテーション値を可視化するように構成されている。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、患者の心臓内の心臓内プローブの複数の電極によって取得された、複数の心内信号を受信することを含む方法が、更に提供される。後続の時点で、一連のアノテーション可視化操作を、各操作において、(i)心内信号から複数のアノテーション値を抽出することと、(ii)心内信号の群を選択することと、(iii)群内で、逸脱の既定の尺度よりも統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値を特定することと、(iv)アノテーション値をユーザに対して可視化する一方で、統計的に逸脱しているアノテーション値を省略して、可視化するのを防止することとを実行することによって、実施する。アノテーション値の省略率は、アノテーション可視化操作のうちの1つ以上にわたって評価される。省略率が既定の閾値を超えていることを検出したことに応じて、修正措置が取られる。
【0012】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」を図面と併せて考慮することで、より完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態による、心内ECG信号の多チャネル測定のための電気解剖学的システムの概略描写図である。
図2】本発明の一実施形態による、複数の心周期における複数の電極による信号の取得を、概略的に示す図である。
図3A】本発明の一実施形態による、アノテーション値の信頼性を高めるための第1の方法を模式的に示すフローチャートである。
図3B】本発明の一実施形態による、アノテーション値の信頼性を高めるための第2の方法を模式的に示すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態による、アノテーション値の信頼性を高めるための改良された方法を概略的に示すフローチャートである。
図5A】本発明の実施形態による、電気解剖学的システム内の空間的に関連する電極群からの、一連のLAT値のアノテーションを、概略的に示す図である。
図5B】本発明の実施形態による、修正措置が取られていない場合の、プロセッサが(図5Aで)受信するLAT値の統計的特性計算を、概略的に示す図である。
図5C】本発明の実施形態による、省略値を再適用することによる誤り伝播の回避を、概略的に示す図である。
図6A】本発明の実施形態による、電気解剖学的システム内の空間的に関連する電極群によって取得される一連の信号のLAT値の確率を、概略的に示す図である。
図6B】本発明の一実施形態による、群-1の信号に対するLAT値のアノテーションを、概略的に示す図である。
図6C】本発明の一実施形態による、群-2の信号に対するLAT値のアノテーションを、概略的に示す図である。
図6D】本発明の実施形態による、群-1の信号の再アノテーションを、概略的に示す図である。
図6E】本発明の一実施形態による、再アノテーション後に行われる、群-2のアノテーション値の再計算を、概略的に示す図である。
図7】本発明の実施形態による、再アノテーションによる、誤り伝播の回避方法を、概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
概論
心臓内プローブベース(例えば、カテーテルベース)の心臓診断及び治療システムは、侵襲的処置中に心電図(ECG)などの複数の心内信号を測定し得る。このようなシステムは、プローブの遠位端に取り付けられた電極(以下、「遠位電極」とも呼ばれる)を使用して、複数の心内信号を取得し得る。測定された信号を用いて、患者の心臓内の病理学的電気パターンの発生源の3Dマッピングなどの、心臓の視覚的情報を医師に提供し、アブレーションなどの矯正的医療処置を支援することができる。
【0015】
測定された信号は、典型的には弱い信号で、信号対雑音比(SNR)が低い信号である。更に、一部の電極と組織とのガルバニック接続は、不十分であるか、又は存在しなくてもよい。一方、多くの電極が使用されるため、システムが電極から受信するデータにはある程度の冗長性が存在し得る。
【0016】
本明細書に開示される本発明の実施形態は、遠位電極が収集する信号の統計的特性を使用して、収集されたデータの品質及び信頼性を改善する、心臓内プローブベースの電気解剖学的測定及び分析システム及び方法を提供する。
【0017】
以下の説明において、本明細書では、局所的興奮時間(LAT)のアノテーション値に言及する。しかしながら、開示される技術は、LATに限定されず、本発明の様々な実施形態では、様々な他の好適な信号パラメータのアノテーション値を使用し得る。
【0018】
本発明による一部の実施形態では、プロセッサは、信号のアノテーション値(例えば、LAT)を抽出し、次いで、対応する電極群(電極の全て又は一部を含み得る)によって取得される信号群のLAT値の統計的特性を計算する。一実施形態では、統計的特性は、信号群のLAT値の平均(例えば、
【0019】
【数1】
)を含み、他の実施形態では、特性は、当該群の標準偏差(例えば、
【0020】
【数2】
)を更に含む。次いで、プロセッサは、統計的方法を使用して、信号の各群に対して、信号のアノテーション値が有効な値であるか又は無視すべき値であるかを判定する。
【0021】
別の実施形態では、統計的特性は、LAT値群の四分位値を含む。プロセッサは、第1の四分位値Q1及び第3の四分位値Q3を計算し、次いで、Q1未満又はQ3超の全ての値を無視する(なお、第1の四分位値(Q1)は、データセットの最小の数と中央値との間の中間の数として定義され、第3の四分位値(Q3)は、データセットの中央値と最高値との間の中間の値である)。あるいは、プロセッサは、LAT値の逸脱の尺度を、LAT値の任意の他の好適な百分位数(又は複数の百分位数)によって定義してもよい。更に別の方法としては、外れLAT値を廃棄する任意の他の好適な処理法を使用することができる。
【0022】
本明細書に開示される技術は、ノイズがないこと及びガルバニック接続が不良でなく、そのため各群の電極どうしは、互いに類似のアノテーション値を示すものと想定している。通常、電極どうしが互いに遠く離れている場合には、それらの電極によって取得されるアノテーション値どうしは、実質的に異なる値をとり得る。しかも、各電極からの信号は、心拍毎に(「心周期毎に」)、周期的にアノテーションされてもよく、心周期どうしが互いに時間的に遠く離れている場合には、それらの心周期から導出されるアノテーション値どうしは互いに異なる値をとり得る。一実施形態では、群内の信号は相互に関係している。一部の実施形態では、追跡システムが、電極の幾何学的位置を測定し、群は、互いに隣接する電極(「空間的に関連する」、すなわち、互いに所定の距離以内に位置する電極)のみから導出されるアノテーション値を含む。他の実施形態では、群は、互いに隣接する心周期(「時間的に関連する」、すなわち、全てが既定の継続した時間以内に発生する心周期)のみから導出されるアノテーション値を含み、また、一実施形態では、群は、空間及び時間の両面で互いに関連する値を含む(「関連値」と略記される)。
【0023】
一部の実施形態では、プロセッサは、互いに関連するLAT値の群の統計的特性を計算した後、群内で、統計的に逸脱している、例えば、群内の値の平均値と実質的に異なるLAT値を省く(残ったLAT値の群は、有効なLAT値の群と呼ぶ)。したがって、接続不良の電極に対応するLAT値、又は極度のノイズを受ける電極に対応するLAT値は、有効なLAT値の群から排除され得る。
【0024】
実施形態では、LAT値が、一群の信号の平均LATから統計的に逸脱しているか否かを判定するために、プロセッサは、アノテーションされたLAT値の、LAT値群の平均値からの偏差を測定する。一実施形態では、逸脱の尺度は、値の標準スコア(当該値と平均との差を、標準偏差で割ったものとして定義される)であり、そのスコアは、事前に設定された限界値と比較される。例えば、平均値よりも、標準偏差3.5超大きい値(標準スコア=3.5)、又は平均値よりも、標準偏差1.5超小さい値(標準スコア=-1.5)は、統計的に逸脱していると考えられてもよく、したがって省かれてもよい。別の実施形態では、プロセッサは、第1の四分位値未満の値又は第3四分位値超の値を省く。
【0025】
本発明の一部の実施形態では、プロセッサは、心臓内での心臓信号伝播の異なる時間遅延に起因して、空間的に関連する電極のLAT値どうしの不一致を緩和し得る。実施形態によれば、プロセッサは、伝播遅延の差を相殺するために、所与の電極によって取得されたLATアノテーションを、他の電極に対する所与の電極の変位を補償することによって修正してもよい。
【0026】
心電図信号は、時には曖昧に解釈されてもよく、2つのLAT値は、異なる確率で、アノテーションされてもよい(正しい値及び誤った値)。例えば、信号は、互いに近接する2つのピークを有してもよい。その結果、一部の場合においては、サブセットの計算された平均値は、正しいLAT値よりも誤ったLAT値に近いことがあり得る。
【0027】
一部の実施形態では、プロセッサは、ある時間にわたって群の選択を繰り返す(例えば、32回の心周期毎に1回)が、その際に後続の群どうしの間には部分的な重複がある。プロセッサは、古い値(例えば、最も古い16心周期で抽出された値)の一部(ただし全てではない)を除去し、新たな値(例えば、最も新しい16心周期で抽出された値)を追加することによって、新しい群を形成する(この文脈において、「古い」及び「新しい」は、信号が獲得された心周期の連続する番号を指す)。プロセッサが計算する第1の群の平均が誤っている場合(例えば、信号の曖昧さによる)には、プロセッサは、次の群から、重複している正しいLAT値を省略し、平均計算を中断し得るが、そのため、第1の平均計算における誤りが、後の群に伝播し得るものの、新たにアノテーションされたLAT値が正しいものとなり得る。
【0028】
本明細書に開示される本発明による実施形態は、そのような誤り伝播を回避する。一実施形態では、プロセッサは、省略されたLAT値の数を監視し、値が省略される割合に応じて、プロセッサは、新たな平均の計算において省略される値を考慮することを決定し、誤りが誤りのある群を超えて伝播しないようにしてもよい。他の実施形態では、プロセッサが多数の省略された値を検出する場合、プロセッサは、対応する信号を代替的に解釈することによって値の一部を再びアノテーションして、続いて省略値を再度カウントしてもよい。プロセッサは、省略された値の数が減少する場合には、代替的アノテーションを選択する。
【0029】
要約すると、本発明の実施形態によるプロセッサは、空間的及び/又は時間的に関連する心臓間信号のアノテーション値の群の品質及び信頼性を改善することができるが、そのためには、アノテーション値の統計的特性を計算し、アノテーション値を群の平均値と比較し、有効な値の群から、平均値から離れた値を除外する。一部の実施形態では、統計的特性を計算する前に、プロセッサは、アノテーション値の群を変更して、信号の伝播遅延を修正してもよい。誤り伝播を回避するために、プロセッサは、省略された値の数を監視して、省略が発生する割合に応じて、当該群を、省略された値を元に戻した状態で再評価してもよい。他の実施形態では、省略された値の割合に応じて、プロセッサは、値を再びアノテーションして、代替的なLAT解釈を探してもよい。
【0030】
システムの説明
図1は、本発明の一実施形態による、心内ECG信号の多チャネル測定のための電気解剖学的システム21の概略描写図である。一部の実施形態では、システム21は、心臓の電気解剖学的マッピングに使用される。
【0031】
図1は、医師22が電気解剖学的カテーテル23を使用して、患者25の心臓24の電気解剖学的マッピングを実施しているのを描写している。カテーテル23は、その遠位端に、機械的に柔軟性であり得る1本以上のアーム26を備え、それらのアームのそれぞれに、1つ以上の遠位電極27が連結されている。理解されるように、図1は、5本のアームを有するカテーテルを示しているが、他の種類のカテーテルを、本発明による代替的な実施形態で使用してもよい。電極は、インターフェース32を介して、プロセッサ34に連結される。
【0032】
電気解剖学的マッピング処置中に、トラッキングシステムを使用して、遠位電極27の心臓内位置を追跡し、それによって、取得された電気生理学的信号のそれぞれを、既知の心臓内位置と関連付け得る。トラッキングシステムの一例が、米国特許第8,456,182号に記載されている、能動的現在位置特定(Active Current Location=ACL)である。ACLシステムでは、プロセッサは、遠位電極27のそれぞれと患者25の皮膚に連結されている複数の表面電極28との間で測定されたインピーダンスに基づいて、遠位電極のそれぞれの位置を推定する(図示を容易にするため、図1には1つの表面電極のみが示されている)。次いでプロセッサは、遠位電極27から受信した任意の電気生理学的信号と、信号が取得された位置とを関係付け得る。
【0033】
一部の実施形態では、複数の遠位電極27は、心臓24の心房心室の組織から心内ECG信号を取得する。プロセッサは、インターフェース32から心内信号を受信するように連結された信号取得回路36と、データ及び/又は命令を記憶するためのメモリ38と、処理ユニット42(例えば、CPU又は他のプロセッサ)とを備える。
【0034】
信号取得回路36は、心内信号をデジタル化して、複数のデジタル信号を生成する。次いで、取得回路は、デジタル化された信号をプロセッサ34に含まれる処理ユニット42に伝達する。
【0035】
処理ユニット42は、他のタスクの中でもとりわけ、信号からアノテーションパラメータを抽出し、互いに類似している可能性がある隣接する信号群のアノテーションされたパラメータの平均値などの、統計的特性を計算するように構成されている。(なお、この文脈では、隣接する信号とは、互いに近接して位置する電極からの信号(「空間的に関連する」)、及び/又は時間的に互いに近接する心周期から抽出されたアノテーション値(「時間的に関連する」)を指す)。
【0036】
処理ユニットは、統計的特性を計算した後、群から無効である可能性が高いアノテーション値(例えば、ガルバニック接続が不十分であるか又は強力な時間的ノイズを受ける電極からのアノテーション値など)を除外する(すなわち、省略する)ように更に構成される。残りのアノテーション値は、これ以降、「有効アノテーション値」と呼ぶものとする。
【0037】
プロセッサ34は、有効アノテーション値、すなわち、省略された統計的に逸脱しないアノテーション値を除外したアノテーション値を、ユーザに対して可視化する。一部の実施形態では、プロセッサ34は、例えば、有効アノテーション値を心臓の電気解剖学的マップ50上に重ね合わせて、そのマップを医師22に対して、画面52上で表示することで、有効アノテーション値を可視化する。あるいは、プロセッサ34は、任意の他の好適な方法で、有効アノテーション値(無効なアノテーション値を省略した後の値)を可視化してもよい。
【0038】
図1に示す例示的な図は、純粋に、概念を分かりやすくするために選択されたものである。例えば、本発明の代替的な実施形態では、位置測定は、表面電極28の対どうしの間に電圧勾配を印加し、得られた電位を、遠位電極27を用いて測定することによって(すなわち、Biosense-Webster社(カリフォルニア州、Irvine)により製造されたCARTO(登録商標)4の技術を使用して)も行われ得る。したがって、本発明の実施形態は、任意の位置検知方法に適用される。
【0039】
Lasso(登録商標)Catheter(Biosense-Webster製)又はバスケットカテーテルなどの他の種類のカテーテルが、同等に使用されてもよい。接触センサは、電気解剖学的カテーテル23の遠位端に取り付けられてもよい。例えばアブレーションに使用されるもののような他の種類の電極を、電極27と同様に使用して、心内の電気生理学的信号を取得してもよい。
【0040】
図1は、本発明の実施形態に関連する部分を主に示す。外部ECG記録電極及びそれらの接続部などの、他のシステム要素は省略されている。様々なECG記録システム要素も、フィルタリング、デジタル化、回路保護、及びその他の要素も省略されている。
【0041】
任意の実施形態では、心内ECG信号を測定するために、読み出し用の、特定用途向け集積回路(ASIC)が使用される。信号取得回路36をルーティングする様々な要素は、例えば、1つ以上の個別の構成要素、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)又はASICなどを使用してハードウェアに実装されてもよい。一部の実施形態では、信号取得回路36及び/又は処理ユニット42のいくつかの要素は、ソフトウェアに実装されてもよく、又はソフトウェア要素及びハードウェア要素の組み合わせを使用して実装されてもよい。
【0042】
処理ユニット42は、通常、本明細書に記載されている機能を実行するようにプログラムされたソフトウェアを有する汎用プロセッサを備える。ソフトウェアは、例えば、ネットワーク上で、電子形態でダウンロードすることができるか、あるいはそれは、代替的に又は追加的に、例えば、磁気メモリ、光学メモリ、又は電子メモリなどの、非一時的な有形媒体で提供でき、かつ/又はそのような媒体に記憶できる。
【0043】
関連するアノテーション値
関連するアノテーション値は、空間的に関連する電極(例えば、互いに幾何学的に近接している電極、すなわち、互いから、既定の距離以下だけ離れて位置している電極)から、かつ/又は時間的に関連する信号(例えば、互いに近接している心周期から抽出された値、すなわち、既定の継続時間以内で発生する値)から導出される。より正確には、関連するアノテーション値とは、電極間の幾何学的距離及び心周期間の時間的距離を含む、組み合わされた距離が、なんらかの既定の閾値を下回るアノテーション値である。
【0044】
図2は、複数の心周期における複数の電極による信号の取得を、概略的に示す図200である。水平軸202は、心周期(各垂直線は1つの心周期である)を示し、垂直軸204は、基準点からの電極の距離(1つの空間的次元のみが示されている)を示す。(理解されるように、2つ又は3つの次元が実際に使用されてもよいが、明確にするために図示されていない)。図2に示す例示的な実施形態によれば、全ての水平線に電極が存在し、LATアノテーション値が、水平線と垂直線との全ての交点に対して登録されている(各交点は、これ以降、LAT点と呼ぶものとする)。
【0045】
曲線206は、示されたLAT値の位置を示す等LAT線であり、電極は、対応する心周期において、隣接する等LAT曲線から補間された値を測定する可能性が高い。例えば、LAT点208の期待される登録値(垂直方向で、等LAT線714と等LAT線716との間の途中にある)が715であるのに対し、LAT点210の期待される登録値は708.5である。
【0046】
理解されるように、隣接する垂直線どうしのLAT値どうし、及び隣接する水平線どうしのLAT値どうしは、互いに似た値である。円212は、幾何学的(垂直方向)及び時間的(水平方向)距離に関して、互いに近くにある、関連するLAT値214の群を表す。
【0047】
図2に示されている例示的な図は、単に概念を分かりやすくする目的のために簡略化されて図示されている。例えば、代替的な実施形態では、電極間の距離は均一ではなく、関連する信号の群は円でなくてもよい。
【0048】
図3Aは、本発明の実施形態による、アノテーション値の信頼性を高めるための第1の方法を、概略的に示すフローチャート300である。フローは、プロセッサ34(図1)によって実行される。フローは、信号記録工程302で始まるが、その工程では、プロセッサが、電極27によって監視され、取得回路36によって取得されたECG信号を記録する(図1)。次に、アノテーション値抽出工程304において、プロセッサは、各電極及び各心周期のアノテーション値を計算する。
【0049】
次いで、プロセッサは、電極位置取得工程306に移行し、その工程では、電極の位置が、(例えば、ACL技術を使用して)取得され、かつ各電極の空間位置が登録される。次いで、プロセッサは、群選択工程308に移行する。
【0050】
工程308では、プロセッサは、関連するアノテーション値の群を選択する。既に説明したように、群は、空間的及び/又は時間的に関連する信号からの、互いに類似している可能性が高いアノテーション値を含む。
【0051】
次に、平均値及び標準偏差計算工程310では、プロセッサが、その群の全てのアノテーション値の平均値と標準偏差とを計算する。この文脈では、例えば、算術平均、幾何平均、中央値、2乗平均平方根値(RMS)値、質量中心、又は任意の他の平均値など、任意の好適な種類の平均値を使用することができる。
【0052】
次いで、プロセッサは、その群の各アノテーション値に対して繰り返し、工程312と、工程314と、工程316又は工程318のいずれかとに、順次移行する。標準スコア計算工程312では、プロセッサが、アノテーション値の標準スコアを(例えば、アノテーション値と平均との差を、標準偏差で除算することによって)計算する。標準スコア比較工程314では、プロセッサが、工程312で計算された標準スコアを、事前に設定された限界値と比較する。標準スコアが、事前に設定された限界値を超える場合には、値除外工程316に移行し、その工程では、プロセッサが、統計的に逸脱しているアノテーション値を除外する。標準スコアが、事前に設定された限界値の範囲内にある場合には、値追加工程318に移行し、その工程では、プロセッサが、アノテーション値を有効アノテーション値の群に追加する。
【0053】
プロセッサは、その群の全てのアノテーション値について、工程312と、工程314と、工程316又は工程318のいずれかとのシーケンスを繰り返す。次いで、フローチャートは、関連する電極の他の群について、(工程308から)工程を繰り返してよい。
【0054】
フローが終了すると、有効アノテーション値の群が、元の群と置き換わっており、その新たな群では、極端な値(例えば、ガルバニック接続が不十分な電極からの値)が省略されているため、その信頼性がより高くなっている。
【0055】
図3Bは、本発明の実施形態による、アノテーション値の信頼性を高めるための第2の方法を、概略的に示すフローチャート350である。図3Bに示す方法は、統計的特性及び省略される値の選択においてのみ、図3Aに示す方法と異なっている。したがって、図3Aに示す工程302~318は、それぞれ図3Bの工程352~368とそれぞれ同一である。ただし、例外は、図3Bの工程360及び364であり、これらは、図3Aの工程310及び314とそれぞれ異なっており、それゆえ、以下に説明する。
【0056】
四分位値計算工程362では、処理ユニット42(図1)が、LAT値群の第1の四分位値(Q1)及び第3の四分位値(Q3)を計算する(なお、Q1は、最小数とLAT値群の中央値との間の中間の数として定義され、Q3は、中央値とLAT値群の最大値との間の中間の数である)。
【0057】
アノテーション値比較工程364では、処理ユニットが、アノテーションされたLAT値を、Q1及びQ3とそれぞれ比較する。その値が、Q1よりも小さいか又はQ3より大きいという場合には、処理ユニットは、アノテーション値除外工程366に移行し、その値がQ1とQ3との間にある場合には、処理ユニットは、値追加工程368に移行する。
【0058】
図3A及び図3Bに示される例示的なフローチャートは、純粋に概念を明確化する目的で選択されている。例えば、代替的な実施形態では、(信号が記録された後ではなく)信号が取得されると、アノテーション値が抽出されてもよい。一実施形態では、その群の信号の選択は、医師によって行われてもよく、他の実施形態では、プロセッサが、医師が指示する空間範囲及び/又は時間範囲に従って、その群を選択する。
【0059】
一部の実施形態では、工程318(図3Bでは工程368)は必要ではなく、プロセッサは、工程316(同366)において、その群から極端な値を除外して、フローが完了したときには、良好な値のみが残っている。他の実施形態では、全てのアノテーション値は、最初は無効としてマークされ、工程316(366)は必要ではない。
【0060】
一部の実施形態では、使用される他の統計的特性は、既に説明したものとは異なる。例えば、一実施形態では、四分位値ではなく八分位値を使用することができ、処理ユニットは、第1の八分位値よりも小さい値又は最後の八分位値よりも大きい値を省略してよい。更に代替的に、任意の他の好適な百分位数が用いられ得る。
【0061】
極端な値を検出しかつ省略するための任意の他の好適な統計的方法を、代替的実施形態では使用してよい。
【0062】
伝播遅延補償
一部の実施形態では、既に説明した技術が、電極の異なる空間的位置による値の予想される変化のために、抽出されたLAT値を、統計的特性計算の前に修正することによって改善され得る。例えば、心臓を通る波は、所与の速度(例えば、1m/秒)で移動すると想定することができる。信号を取得する電極の既知の位置を使用して、LAT値の理論的な差を、平均値を計算する際に適用することができる。
【0063】
図4は、本発明の実施形態による、アノテーション値の信頼性を高めるための改善された方法を、概略的に示すフローチャート400である。フローは、プロセッサ34(図1)によって実行される。フローは、信号記録工程402で開始され、アノテーション値計算工程404がそれに続き、更に電極位置取得工程406がそれに続き、また更に群選択工程408がそれに続くが、工程402、404、406、及び408はそれぞれ、工程302、304、306、及び308(図3)と同一であってもよい。
【0064】
次に、プロセッサは、LAT値修正工程410に移行し、そこでは、その群の各LAT値に対して、プロセッサが、電極の空間位置及び想定される波移動速度に従って、推定される修正値を計算し、適用する。工程410の後、フローは、図3に、平均値及び標準偏差計算工程310で戻る。
【0065】
このように、伝播遅延によって生じる偏差の推定値を、その群から除去することができるので、アノテーション信号の信頼性を更に向上させることができる。
【0066】
図4に示す例示的なフローチャートは、純粋に概念を明確にする目的で選択されている。例えば、代替的な実施形態では、予想される信号遅延の修正は、平均値及び標準偏差計算工程に統合することができる。他の実施形態では、修正は、群が選択される前に行われる(したがって、群は、より多くの関連するLAT値を含み得る)。
【0067】
誤り伝播及びその防止
本発明による一部の実施形態では、プロセッサ34が、後続の心拍からの信号の受信に応じて、関連するLAT値の群を連続的に選択する。場合によっては、プロセッサは、時間的に重複する信号に対応する値の群を選択してもよい。例えば、第1の群が、心周期n~mに対応する信号から抽出されたLAT値を含み、第2の群が、周期x~yに対応する値を含むとすると、xがmより大きく(x>m)かつyがnより大きい(y>n)場合には、群どうしが部分的に重複することになる。
【0068】
前述の説明においては、図5A図5C図6A図6E、及び図7を参照して、異なる心周期からアノテーションされたLAT値を参照する。LAT値のそれぞれは、実際には、複数の空間的に関連するLAT値(信号伝播遅延について修正されたLAT値を含む)を含んでもよい。しかしながら、簡潔にするために、心周期ごとに1つのLAT値を示す。
【0069】
図5A図5Cは、水平時間軸(図示せず)に沿ったイベントを説明するタイミング図である。図5Aは、本発明の実施形態による、電気解剖学的システムにおける一連のLAT値のアノテーションを、概略的に示す図500である。図5Aに示す例示的な実施形態では、各群は、10個の連続する心周期に対応する10個のLAT値を含み、連続する群のそれぞれの対は、5つの共通のLAT値を共有する。
【0070】
明確にするために、図5Aに示される例では、アノテーションされたLAT値は、「X」に近いか又は「Y」に近いかのいずれかであり得る(短く、X値及びY値と呼ぶものとする)。理解されるように、この単純化は、断じて本開示の範囲を限定することを意味するものではない。本発明の実施形態は、LAT値の任意の好適なセットをアノテーションし得る。
【0071】
図5Aに示す例では、第1の5つのLAT値は「X」であるが、後続の心内信号が受信されるとき、LAT値の過半数が「Y」であり、これは、最初のアノテーション及び第1の群について取られた判断は恐らく誤っていたことを意味する。以下に(図5Bを参照して)説明されるように、本発明による一部の実施形態では、修正措置は採用されず、第1の群について取られた誤った判断は、更なる群に伝播し得る。更に(図5Cを参照して)説明されるように、他の実施形態では、修正措置が取られて、誤り伝播が防止される。
【0072】
図5Bは、本発明の実施形態による、修正措置が採用されていないときにプロセッサが(図5Aで)受信するLAT値の統計的特性計算を、概略的に示す図510である。図510は、群-1の平均化スキーム512と、群-2の平均化スキーム514と、群-3の平均化スキーム516とを含む(示されるように、群-4の平均化は群-2及び群-3と同一であり、図示されていない)。
【0073】
群-1の平均化スキーム512は、最初の10個のLAT値の平均化を表す。7つのX値及び3つのY値が存在するので、平均値はXに近いことになる。そのため、最後の5つのサンプルのうちのY値が、後続の群から省略されることになる。
【0074】
LAT値6~15の平均化を表す群-2の平均化スキーム514は、4つのX値及び3つのY値(2つの元々のY値は省略済み)を含む。この平均値は、やはりXに近いものとなる。そのため、最後の5つのサンプルのうちのY値が、後続の群から省略される。理解されるように、第1の群からの誤りが、第2の群に伝播している。
【0075】
LAT値11~20の平均化を表す群-3の平均化スキーム516もまた、2つの元々のY値が省略されたので、4つのX値及び3つのY値を含み、ここでも、平均値はXに近いものとなり、Y値が省略されることになる。したがって、第1の群からの誤りが、この群に伝播し、更なる群にも続くことになる。(図5A図5Bに示す例によれば、後続のLAT値の大多数(例えば80%)がYであるという場合にのみ伝播が停止する。)
【0076】
図5Cは、本発明の実施形態による、省略済みの値を再適用することによって誤り伝播を回避することを、概略的に示す図520である。図520は、群-1の平均化スキーム522と、群-2の予備的平均化スキーム524と、群-2の再評価済平均化スキーム526と、群-3の平均化スキーム528とを含む。
【0077】
群-1の平均化スキーム522は、最初の10個のLAT値の平均化を表し、群-1の平均化スキーム512(図5B)と同一である。ここでもまた、平均値はXに近いものとなり、Y値が次の群から省略されることになる。
【0078】
群-2の予備的平均化スキーム524は、群-2の平均化スキーム514(図5B)と同一であり、ここでもまた、平均値はXに近いものとなり、Y値は次の群から省略されることになる。しかしながら、図5Cに示す例示的な実施形態によれば、LAT値が省略される頻度が監視される。ここで、10個のサンプル群から6つの省略済の値が存在するため、プロセッサは、統計的特性計算において、省略済みの値を再び適用することを決定する。省略済の値を再適用する決定(例えば、参照符号524によって指定された図5Cの群2)は、実行されることになる「修正措置」である。
【0079】
群-2の再計算された平均化スキーム526は、省略済みのY値を、統計的計算において含む。ここで、群-2には、6個のY値と4つのX値とが存在し、平均値はYに近いものとなり、X値が次の群から省略されることになる。ここで、群-3の平均化スキーム528は、2つのX値と6つのY値とを含み、平均値はYに近いものとなり、X値が省略されることになる。このパターンは、群-4に続くことになる。
【0080】
したがって、図5Cに示す例示的な実施形態によれば、プロセッサは、値が省略される頻度を監視することによって、値の省略に起因して生じ得る誤りの伝播を、停止させることができ、値が省略される頻度に応じて、省略済の値なしで平均値を再計算させることを含み得る修正措置を取ることができる。
【0081】
本発明による他の実施形態は、値が省略される頻度に応じて、LAT値の少なくとも一部を再びアノテーションすることによって、誤り伝播を防止することができる。これは、心内信号が曖昧であって、2通り以上に解釈され得るという場合に、有効であり得る。
【0082】
図6A図6Eは、水平時間軸に沿ったイベントを説明するタイミング図である(図示せず)。
【0083】
図6Aは、本発明の実施形態による、電気解剖学的システム内の空間的に関連する電極群によって取得される一連の信号のLAT値の確率を、概略的に示す図である。図6A中の各矩形は、対応する信号のLAT値が、Xである確率(上段の数字)又はYである確率(下段の数字)を表す。最初の5つの信号が、LAT値としてX値を表す確率は60%であり、Y値を表す確率は40%である。後の信号(後の心周期に関連する信号)は、ほとんどの場合、X値である確率よりもY値である確率が高くなっている。信号は、部分的に重複する群(1~3)に分割され、各群が10個のサンプルを有しており、しかも、後続の群との間で、5つのサンプルが重複している。
【0084】
図6Bは、本発明の一実施形態による、群-1の信号に対するLAT値のアノテーションを、概略的に示す図である。プロセッサは、サンプルのうちの6つに対してX値を、4つに対してY値をアノテーションする。平均値はXに近いものとなり、プロセッサは4つのY値を省略する(省略された信号のうちの、点線の矩形によって指定された3つは、群-2と重複する)。
【0085】
図6Cは、本発明の一実施形態による、群-2の信号に対するLAT値のアノテーションを、概略的に示す図である。群-1と共通の5つの信号から、プロセッサは、より高いy確率を有する3つの信号を省略済みである。残りの7つの値のうちの4つがX値であり、3つがY値である。ここでも、平均値はXに近いものとなり、プロセッサは、次の群からY値を省略してもよい。しかしながら、プロセッサは、ここで、省略済の値が多い(例えば、事前に設定された限界値を超える)と判断し、LAT値を再アノテーションして、省略される値の数を減らすように試みる。
【0086】
図6Dは、本発明の実施形態による、群-1の信号の再アノテーションを、概略的に示す図である。ここで、プロセッサは、最初の5つのサンプルについて、確率の2番目に高い値(信号1~5に対して、それぞれY、Y、Y、X、Y)をアノテーションする。ここで第1の群に対してアノテーションされたLAT値は、3つのX値と7つのY値とを含むことになり、平均値はYに近いものとなる。ここで、第7の値及び第9の値は、次の群から省略されることとなる。
【0087】
図6Eは、本発明の一実施形態による、群-1の再アノテーションに続く、群-2の値の再アノテーションを、概略的に示す図である。群-1からの5つの重複信号からの2つのX値は省略されていないので、群-2は、6つのY値及び2つのX値を含む。ここでは平均値がYに近くなり、誤り伝播が防止される。
【0088】
図5A図5C及び図6A図6Eを参照して説明した、誤り伝播防止方法は、単に概念的明確性のために引用された例示的な方法である。本発明による実施形態は、誤り伝播の防止のための代替的な方法を採用することができる。例えば、群の長さ及び重複の長さは、任意の好適な数であってよく、例えば、時間とともに変化する群サイズ及び/又は重複を含み得る。一部の実施形態では、閾値は、動的なものであってもよい。一実施形態では、プロセッサは確率が2番目に高いLAT値を、その確率が事前に設定された限界値未満である場合には、あるいはLAT値が省略される頻度の関数である限界値未満である場合には、アノテーションしなくてもよい。
【0089】
最後に、一部の実施形態では、省略済の値を元に戻すことと、アノテーションを再評価することとを組み合わせて用いてもよい。
【0090】
図7は、本発明の実施形態による、再アノテーションによる、誤り伝播の回避方法を、概略的に示すフローチャート700である。フローチャートは、プロセッサ34(図1)によって実行される。
【0091】
フローは、重複アノテーション受信工程702で開始するが、そこではプロセッサがメモリから、前の群と現在の群とに共通である心内ECG信号のアノテーションを取得する(既に述べたように、プロセッサは、前の群の平均値から実質的に逸脱する値を省略してもよい)。
【0092】
次に、新しいECGシグナルの受信工程704で、プロセッサは、電極から、後続の心周期に関係するECG信号を(取得回路36(図1)を介して)受信し、対応するLAT値をアノテーションする。次いで、プロセッサは、統計計算工程706に移行し、値の群の統計的特性(例えば、平均値及び標準偏差)を計算する。なお、その群には、前の群からの重複値と、新たにアノテーションされた値とを含む。
【0093】
次いで、プロセッサは、群スキャン工程708に移行し、そこでは、プロセッサは、その群のLAT値のそれぞれを群の平均値(工程706で計算されたもの)と比較して、事前に設定された閾値を超えて平均値から逸脱した値(又は、あるいは、標準スコアが事前に設定された限界値内でない場合の値)を省略する。プロセッサはまた、省略済のLAT値の数をカウントする。
【0094】
次に、プロセッサは、カウンタ比較工程710に移行し、そこでは、プロセッサは、省略済の値の数を、事前に設定された限界値と比較する。省略済の値の数が限界値を超えない場合には、プロセッサは、次の群に進む(例えば、工程702に戻る)。
【0095】
工程710で、省略済の値の数が、事前に設定された限界値を超えた場合には、プロセッサは、以前のLAT値の誤ったアノテーションの結果として誤り伝播が発生したと想定する。次いで、プロセッサは、重複信号受信工程712に移行し、メモリから重複信号を取得する。次に、プロセッサは、代替値抽出工程714に移行し、信号からLAT値を再びアノテーションする。プロセッサは、LAT値を既に(前の群の工程704で)アノテーションしているので、プロセッサは、ここでは、代替的アノテーション(例えば、各信号の2番目に高い確率のLAT値)を探す。
【0096】
工程714の後、プロセッサは工程706に再び移行し、統計値を、代替アノテーション値を用いて再計算する。ここで省略済の値の数が、工程708での以前のカウント数よりも少ない場合に、新たな値が効力を発することになる。
【0097】
要約すると、図7に示す例示的な実施形態によれば、関連する心内信号の連続する群のLAT値が、アノテーションされる。第1の群内で誤りが発生する場合、プロセッサは、後続の群内の値が頻繁に省略されているということを検出し得る。次いで、プロセッサは、信号の代替アノテーションを試し、省略されるアノテーションがより少なくなる場合に、代替アノテーションに対応するLAT値を選択する。
【0098】
図7に示す例示的なフローチャートは、純粋に概念を明確にする目的で選択されている。例えば、代替的な実施形態では、プロセッサは、最も確率の高いアノテーション値の第1のセットと、代替アノテーション値の第2のセットとを抽出し、その結果、工程714は、代替値選択工程によって置き換えられる。一部の実施形態では、3つ以上のLAT値候補が抽出され、フローチャートはそれに応じて変更される。一実施形態では、省略済の値の数が閾値と比較される工程720は、カウント数ではなく頻度を比較する他の手段によって置き換えられてもよい。実施形態では、代替アノテーションを抽出する代わりに、プロセッサは、省略済の値を用いて、群の統計的特性を再計算する。更に他の実施形態では、プロセッサは、統計的再計算と代替アノテーション値との両方を試みる。
【0099】
上記の実施形態は例として挙げたものであり、本発明は上記に具体的に示し記載したものに限定されない点が理解されよう。むしろ本発明の範囲は、上で説明される様々な特徴の組み合わせ及びその部分的組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者に想到されるであろう、従来技術において開示されていないそれらの変形例及び修正例を含むものである。参照により本特許出願に組み込まれる文献は、これらの組み込まれる文献において、いずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾する様式で定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の一部とみなすものとする。
【0100】
〔実施の態様〕
(1) 患者の心臓内の心臓内プローブの複数の電極によって取得された、複数の心内信号を受信するように構成されている信号取得回路と、
プロセッサであって、
後続の時点で、一連のアノテーション可視化操作を、各操作において、
(i)前記心内信号から複数のアノテーション値を抽出することと、
(ii)前記心内信号の群を選択することと、
(iii)前記群内で、逸脱の既定の尺度よりも統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値を特定することと、
(iv)前記アノテーション値をユーザに対して可視化する一方で、前記統計的に逸脱しているアノテーション値を省略して、可視化するのを防止することと、
を実行することによって、実施し、
前記アノテーション可視化操作のうちの1つ以上にわたって、アノテーション値の省略率を評価し、
前記省略率が既定の閾値を超えることを検出したことに応じて、修正措置を取る
ように構成されているプロセッサと、
を備えるシステム。
(2) 前記プロセッサが、
省略された前記アノテーション値のうちの1つ以上を再適用し、
前記統計的に逸脱しているアノテーション値を再び特定する、
ことによって、前記修正措置を取るように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(3) 前記プロセッサが、前記心内信号から前記アノテーション値のうちの1つ以上を再抽出することによって、前記修正措置を行うように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(4) 前記プロセッサが、前記逸脱の前記尺度を、前記アノテーション値の標準スコアを用いて定義するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(5) 前記プロセッサが、前記逸脱の前記尺度を、前記アノテーション値の1つ以上の百分位数を用いて定義するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
【0101】
(6) 所与のアノテーション可視化操作において、前記プロセッサが、前記心臓内で互いから既定の距離以内に位置する、空間的に関連する電極の選択されたサブセットによって取得された心内信号に対する前記アノテーション値の逸脱を、計算するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(7) 所与のアノテーション可視化操作に対する前記アノテーション値の逸脱を計算する際に、前記プロセッサが、既定の時間期間内に発生する複数の時間的に関連する心周期にわたって、前記心内信号の平均をとるように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(8) 所与のアノテーション可視化操作において、前記プロセッサが、前記群内の所与の電極によって取得された所与の心内信号内の前記アノテーション値のうちの1つ以上を修正して、前記群内のその他の電極に対する前記所与の電極の変位を補償するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(9) 前記アノテーション値が、局所的興奮時間(LAT)を含む、実施態様1に記載のシステム。
(10) 前記プロセッサが、前記統計的に逸脱しているアノテーション値以外の前記アノテーション値を、前記心臓のモデル上に重ね合わせることで、前記アノテーション値を可視化するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
【0102】
(11) 患者の心臓内の心臓内プローブの複数の電極によって取得された、複数の心内信号を受信することと、
後続の時点で、一連のアノテーション可視化操作を、各操作において、
(i)前記心内信号から複数のアノテーション値を抽出することと、
(ii)前記心内信号の群を選択することと、
(iii)前記群内で、逸脱の既定の尺度よりも統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値を特定することと、
(iv)前記アノテーション値をユーザに対して可視化する一方で、前記統計的に逸脱しているアノテーション値を省略して、可視化するのを防止することと、
を実行することによって、実施することと、
前記アノテーション可視化操作のうちの1つ以上にわたって、アノテーション値の省略率を評価することと、
前記省略率が既定の閾値を超えることを検出したことに応じて、修正措置を取ることと、
を含む方法。
(12) 前記修正措置を取ることが、
省略された前記アノテーション値のうちの1つ以上を再適用することと、
前記統計的に逸脱しているアノテーション値を再び特定することと、
を含む、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記修正措置を取ることが、前記心内信号から前記アノテーション値のうちの1つ以上を再抽出することを含む、実施態様11に記載の方法。
(14) 前記逸脱の前記尺度が、前記アノテーション値の標準スコアを用いて定義される、実施態様11に記載の方法。
(15) 前記逸脱の前記尺度が、前記アノテーション値の1つ以上の百分位数を用いて定義される、実施態様11に記載の方法。
【0103】
(16) 所与のアノテーション可視化操作において、前記心臓内で互いから既定の距離以内に位置する、空間的に関連する電極の選択されたサブセットによって取得された心内信号に対する前記アノテーション値の逸脱を計算することを含む、実施態様11に記載の方法。
(17) 所与のアノテーション可視化操作に対する前記アノテーション値の逸脱を計算する際に、既定の時間期間内に発生する複数の時間的に関連する心周期にわたって、前記心内信号の平均をとることを含む、実施態様11に記載の方法。
(18) 所与のアノテーション可視化操作において、前記群内の所与の電極によって取得された所与の心内信号内の前記アノテーション値のうちの1つ以上を修正して、前記群内のその他の電極に対する前記所与の電極の変位を補償することを含む、実施態様11に記載の方法。
(19) 前記アノテーション値が、局所的興奮時間(LAT)を含む、実施態様11に記載の方法。
(20) 前記アノテーション値を可視化することが、前記統計的に逸脱しているアノテーション値以外の前記アノテーション値を、前記心臓のモデル上に重ね合わせることを含む、実施態様11に記載の方法。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7