(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを濃縮する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/07 20100101AFI20250127BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20250127BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20250127BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20250127BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20250127BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20250127BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
C12N5/07 ZNA
G01N33/48 P
C12Q1/6806 Z
C12N15/10 100Z
G01N33/50 P
C12Q1/37
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2020198628
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】305002028
【氏名又は名称】社会医療法人大雄会
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 有純
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-518428(JP,A)
【文献】国際公開第2020/166978(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/198695(WO,A1)
【文献】BMC Vet. Res.,2019年,vol.15, article no.1,pp.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中に含まれる細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを濃縮する方法であって、
(
i)
細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを含む液体試料に、硫酸プロタミンまたはスペルミジンを添加するステップと、これにより、細胞外小胞および/またはセルフリーDNAと硫酸プロタミンまたはスペルミジンとの凝集物が得られ、
(
ii)前記凝集物を回収するステップと
(iii)前記ステップ(ii)の後、プロテアーゼにより前記凝集物を消化するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記液体試料が生体液試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
硫酸プロタミンまたはスペルミジンおよびプロテアーゼを含んでなる、セルフリーDNAを濃縮するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを濃縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、疾患を診断するためには、生体から病変の一部を採取する生検が行われてきたが、近年では、より低侵襲な検査方法として、生体液試料を用いるリキッドバイオプシーが注目されている。リキッドバイオプシーの解析対象としては、血中循環腫瘍細胞(CTC)、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)などのセルフリーDNA(cfDNA)、エクソソームなどの細胞外小胞(EVs)などが挙げられる。
【0003】
cfDNAは、スピンカラムや磁気ビーズを用いた従来の核酸抽出方法により抽出することができる(非特許文献1)。しかし、cfDNAは、生体液試料1mLあたりナノグラムレベルという非常に少ない量でしか存在しないため、大量の生体液試料を必要とすることが問題となる。また、EVsは、超遠心分離や、膜表面上の抗原を認識する抗体を用いた免疫沈降などにより抽出することができるが(非特許文献2)、やはり回収効率や操作性が不良であるという問題がある。cfDNAやEVsを抽出するためのキットも多数市販されているが、いずれも比較的高価である。したがって、cfDNAおよびEVsを、高収率かつ低コストで抽出できる手法の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Meddeb,R.et al, Clin.Chem., Vol.65, No.5, pp.623-633(2019)
【文献】Yang,D.et al, Theranostics, Vol.10, No.8, pp.3684-3707(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術の諸問題を解消し、簡便な操作により、生体液試料から細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを高収率かつ低コストで抽出する方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、鋭意研究の結果、生体液試料に硫酸プロタミンまたはスペルミジンを添加することにより、生体液試料中の細胞外小胞およびセルフリーDNAを良好に濃縮できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、液体試料中に含まれる細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを濃縮する方法であって、(i)細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを含む液体試料を準備するステップと、(ii)前記試料に、硫酸プロタミンまたはスペルミジンを添加するステップと、これにより、細胞外小胞および/またはセルフリーDNAと、硫酸プロタミンまたはスペルミジンとの凝集物が得られ、(iii)前記凝集物を回収するステップとを含む方法を提供するものである。
【0008】
前記液体試料は、生体液試料であることが好ましい。
【0009】
上記方法は、(iv)前記ステップ(iii)の後、プロテアーゼにより前記凝集物を消化するステップをさらに含んでもよい。
【0010】
また、本発明は、一実施形態によれば、硫酸プロタミンまたはスペルミジンを含んでなる、細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを濃縮するためのキットを提供するものである。
【0011】
セルフリーDNAの抽出のためには、上記キットは、プロテアーゼをさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る方法によれば、生体液試料に硫酸プロタミンまたはスペルミジンを添加することにより、生体液試料に微量に含まれる細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを濃縮でき、高効率かつ低コストでの細胞外小胞および/またはセルフリーDNAの抽出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、血漿試料から得られた上清およびペレット溶解液(エクソソーム抽出液)に含まれるリポタンパク質を検出した電気泳動像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明は、第一の実施形態によれば、液体試料中に含まれる細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを濃縮する方法であって、(i)細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを含む液体試料を準備するステップと、(ii)前記試料に、硫酸プロタミンまたはスペルミジンを添加するステップと、これにより、細胞外小胞および/またはセルフリーDNAと、硫酸プロタミンまたはスペルミジンとの凝集物が得られ、(iii)前記凝集物を回収するステップとを含む方法である。
【0016】
本実施形態の方法では、細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを含む液体試料を準備して使用する。
【0017】
「細胞外小胞」(以下、「EVs」とも記載する)とは、細胞から分泌される脂質二重膜小胞を意味する。なお、EVsは、その大きさや表面マーカーに基づいて、エクソソーム、マイクロベシクルおよびアポトーシス小体に大別されるが、本実施形態におけるEVsは、それらのいずれであってもよく、それらの混合物であってもよい。また、「セルフリーDNA」(以下、「cfDNA」とも記載する)とは、細胞の死滅または損傷によって細胞から放出された遊離DNA断片を意味する。
【0018】
本実施形態における細胞外小胞およびセルフリーDNAは、いかなる細胞から分泌されたものであってよく、正常細胞または疾患細胞のいずれから分泌されたものであってもよい。EVsおよびcfDNAが由来する細胞の種類は特に限定されず、例えば、樹状細胞、T細胞、B細胞、神経細胞、幹細胞、がん細胞、それらに由来する初代培養細胞または株化細胞などであってよい。したがって、本実施形態におけるcfDNAは、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)であり得る。また、細胞が由来する生物も特に限定されず、任意の脊椎動物であってよいが、好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、サル、ヒトなどの哺乳動物であり、特に好ましくはヒトである。
【0019】
本実施形態における液体試料は、細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを含むものであれば特に限定されず、例えば、生体から得られた体液や、細胞を培養して得られた培養上清などであってよい。体液としては、例えば、血液、血漿、血清、唾液、尿、胃液、膵液、胆汁、汗、涙、母乳、鼻汁、腸液などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
次いで、液体試料に硫酸プロタミンまたはスペルミジンを添加する。これにより、細胞外小胞および/またはセルフリーDNAと硫酸プロタミンまたはスペルミジンとの凝集物を得ることができる。液体試料に添加する硫酸プロタミンの終濃度は、例えば、100μg/ml~15mg/mlの範囲であってよく、好ましくは、600μg/ml~6.5mg/mlの範囲であってよい。液体試料に添加するスペルミジンの終濃度は、例えば、0.8μg/ml~85μg/mlの範囲であってよく、好ましくは、4μg/ml~45μg/mlの範囲であってよい。液体試料に硫酸プロタミンまたはスペルミジンを添加した後は、室温で一定時間(例えば10~30分間)インキュベートすることが好ましい。
【0021】
EVsおよびcfDNAを安定化させ、抽出効率をさらに向上させるために、硫酸プロタミンまたはスペルミジンを添加する前に、または添加すると同時に、他の成分を適宜添加してもよい。そのような他の成分としては、例えば、塩化ナトリウムなどの塩、EDTAなどのキレート剤、PBSなどの緩衝液、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0022】
次いで、細胞外小胞および/またはセルフリーDNAと硫酸プロタミンまたはスペルミジンとの凝集物を回収する。凝集物は、例えば、4℃、16,000×gで10~30分間遠心分離することにより回収することができる。
【0023】
本実施形態の方法は、その後、プロテアーゼにより前記凝集物を消化するステップをさらに含んでもよい。凝集物を消化することにより、特にcfDNAの抽出効率が改善され得る。本実施形態におけるプロテアーゼは、特に限定されず、例えば、プロテイナーゼK、トリプシン、キモトリプシンなどのセリンプロテアーゼ;カテプシンB、カテプシンL、カテプシンK、パパインなどのシステインプロテアーゼ;ペプシン、キモシン、カテプシンDなどのアスパラギン酸プロテアーゼなどであってよく、これらから選択される単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。本実施形態におけるプロテアーゼは、好ましくはプロテイナーゼKである。プロテアーゼの濃度は、プロテアーゼの種類により適宜変更され得るが、例えばプロテイナーゼKであれば、10mg/ml~100mg/mlの範囲であってよく、好ましくは、15mg/ml~30mg/mlの範囲であってよい。また、消化条件は、プロテアーゼの種類により適宜変更され得るが、例えばプロテイナーゼKであれば、室温~70℃で10~30分間インキュベートすればよい。
【0024】
細胞外小胞および/またはセルフリーDNAと硫酸プロタミンまたはスペルミジンとの凝集物またはそのプロテアーゼによる消化物は、PBSなどの緩衝液に溶解した後、すでに確立された公知のEVs/cfDNAの抽出方法に供することができる。例えば、cfDNAは、スピンカラムや磁気ビーズを用いて抽出することができ、EVsは、超遠心分離や表面マーカーに対する抗体を用いた免疫沈降により抽出することができる。これらの方法に基づいてEVsおよび/またはcfDNAを抽出するためのキットも多数市販されており、本実施形態では、そのような市販品を使用することもできる。
【0025】
本実施形態の方法は、硫酸プロタミンまたはスペルミジンを添加するのみにより、試料中のEVsおよび/またはcfDNAを濃縮することができ、高効率かつ低コストでのEVsおよび/またはcfDNAの抽出を可能とする。
【0026】
本発明は、第二の実施形態によれば、硫酸プロタミンまたはスペルミジンを含んでなる、細胞外小胞および/またはセルフリーDNAを濃縮するためのキットである。本実施形態における「細胞外小胞」および「セルフリーDNA」は、第一の実施形態で定義したものと同様である。
【0027】
本実施形態のキットは、上記構成に加え、プロテアーゼをさらに含んでもよい。実施形態における「プロテアーゼ」は、第一の実施形態で定義したものと同様である。また、本実施形態のキットは、EVsおよび/またはcfDNAの抽出に用いるバッファーやその他の試薬、EVsおよび/またはcfDNAの抽出手順を記載した説明書などをさらに含んでもよい。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げ、本発明についてさらに説明する。なお、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0029】
<1.cfDNAの抽出>
(1)cfDNAを含有する液体試料の準備
cfDNAを含有する液体試料として、血漿試料、尿試料、および培養上清試料を以下の手順により準備した。
血漿試料: EDTA2K入り採血管(BDバキュテイナ採血管、日本BD)を用いて5人の健常者から血液を採取し、2,000×gで15分間遠心した。上清を回収し、さらに13,000rpm(16,060×g)で15分間遠心して得られた上清を血漿試料とした。
尿試料: 5人の健常者から採取した尿を2,000×gで15分間遠心した。上清を回収し、さらに13,000rpmで15分間遠心して得られた上清を尿試料とした。
培養上清試料: 10%FCS(富士フイルム和光純薬、556-33865)を添加したRPMI1640(富士フイルム和光純薬、189-02025)中で、ヒト慢性骨髄性白血病細胞株K562(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンクより入手)を50mlフラスコでコンフルエントになるまで培養した。その後培地を回収し、2,000×gで15分間遠心した。上清を回収し、さらに13,000rpmで15分間遠心して得られた上清を培養上清試料とした。
【0030】
(2)血漿試料からのcfDNAの抽出
(2-1)硫酸プロタミンを用いたcfDNAの抽出
1mLの血漿試料(n=10)に、1/20量の5MのNaCl(富士フイルム和光純薬、191-01665)(50μL)を添加して混合し、さらに3/20量の1%硫酸プロタミン(富士フイルム和光純薬、160-05193)(150μL)を加えて混合した。室温で10分間静置した後、13,000rpmで10分間遠心し、上清を除去した。200μLのPBSを加えてペレットを溶解し、20mg/mLのプロテイナーゼK(ProK)(ロシュ・ダイアグノスティックス、3115836001)を40μL添加して、または添加せずに、室温で30分間静置した。その後、通常の核酸抽出キットであるHigh Pure PCR Template Preparation Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス、1796828)を用いてcfDNAを抽出した。cfDNAの溶出は、50μLのElution Bufferにより行った。
【0031】
(2-2)スペルミジンを用いたcfDNAの抽出
1mLの血漿試料(n=10)に、1/10量の5MのNaCl(100μL)を添加して混合し、さらに1/10量の0.01%スペルミジン(富士フイルム和光純薬、191-13831)(100μL)を加えて混合した。室温で10分間静置した後、500μLのテトラエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業)を加えて混合し、さらに室温で10分間静置した。その後、13,000rpmで30分間遠心し、上清を除去した。160μLのPBSを加えてペレットを溶解し、20mg/mLのProKを80μL添加して、または添加せずに、室温で30分間静置した。その後、通常の核酸抽出キットであるHigh Pure PCR Template Preparation Kitを用いてcfDNAを抽出した。cfDNAの溶出は、50μLのElution Bufferにより行った。
【0032】
対照として、cfDNA抽出のための専用キットであるcobas cfDNA Sample Preparation Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス、07247737190)を用いて、同量(1mL)の血漿試料(n=10)からcfDNAを抽出した。
【0033】
抽出されたcfDNA溶液を、KAPA hg DNA Quantification and QC Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス、KK4966)付属の129 bp Primer Premixを用いて定量した。反応および解析には、LightCycler(登録商標)96 System(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用い、抽出されたcfDNA溶液の濃度(平均値±SD)を決定した。
【0034】
[反応液組成(10μL)]
・cfDNA溶液 1μL
・2×FastStart Essential DNA Green Master(ロシュ・ダイアグノスティックス、06402712001) 5μL
・Primer Premix 1μL
・蒸留水 残量
【0035】
[反応条件]
・ステップ1(1サイクル):95℃ 10分
・ステップ2~3(40サイクル):95℃ 10秒、62℃ 30秒
【0036】
結果を表1に示す。硫酸プロタミンを用いてcfDNAを凝集させることにより、市販のcfDNA抽出専用キットと同等の効率でcfDNAを抽出できることが示された。さらに、硫酸プロタミン-cfDNA凝集物をProKで消化することにより、市販のcfDNA抽出専用キットよりも高い効率でcfDNAを抽出できることができた。スペルミジンを用いた場合も、スペルミジン-cfDNA凝集物をProKで消化することにより、市販のcfDNA抽出専用キットよりも高い効率でcfDNAを抽出できることができた。これらの結果から、硫酸プロタミンまたはスペルミジンを用いた方法は、低コストでありながらcfDNAを効率よく抽出することができるものであること、および、さらにProK処理を行うことにより、cfDNAを高効率で抽出できることが示された。
【0037】
【0038】
(3)尿試料からのcfDNAの抽出
1mLの血漿試料に代えて2mLの尿試料(n=5)を用い、上記1(2-1)と同様の手順により、硫酸プロタミンおよびProKを用いた方法と市販のcfDNA抽出キットを用いた方法とのcfDNA抽出効率を比較した。
【0039】
結果を表2に示す。硫酸プロタミンおよびProKを用いた方法により、市販のcfDNA抽出専用キットを用いた方法よりも高い効率でcfDNAを抽出できることが確認された。
【0040】
【0041】
(4)試料中のcfDNAの濃縮
1mLの血漿試料に代えて、1mL、2.5mL、5mLまたは10mLの尿試料または培養上清試料(それぞれn=3)を用い、上記1(2-1)と同様の手順により、硫酸プロタミンおよびProKを用いてcfDNAを抽出し、50μLのcfDNA溶出液を得た。
【0042】
結果を表3および4に示す。尿試料および培養上清試料のいずれの場合も、出発量依存的にcfDNAの収量が増加した。この結果から、硫酸プロタミンおよびProKを用いた方法は、高効率でcfDNAを濃縮できるものであることが示された。
【0043】
【0044】
【0045】
<2.エクソソームの抽出>
(1)エクソソーム含有生体液試料からのエクソソームの抽出
10%FCSを添加したRPMI1640中で、浮遊性ヒト大腸がん細胞株COLO201(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンクより入手)を37℃にてコンフルエントになるまで培養した。細胞を回収し、PBS(-)で2回洗浄後、FCSを含まないRPMI1640中で48時間培養した。培養液を回収し、2,000×gで15分間遠心し、回収した上清をポアサイズ0.22μmの滅菌シリンジフィルター(Hawach Scientific、SLPES2522S)でろ過した。ろ過後の上清に、Total Exosome Isolation Reagent(from cell culture media)(サーモフィッシャーサイエンティフィック、4478359)を加え、4℃で一晩インキュベートした。その後、13,000rpmで60分間遠心し、上清を除去し、ペレットをPBS(-)で懸濁した。懸濁液のタンパク質量をQubit Protein Assay Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック、Q33211)を用いて測定し、PBS(-)を用いてタンパク質濃度を10μg/mLに調製したエクソソーム溶液を得た。
【0046】
上記1(1)で調製した血漿試料および尿試料(それぞれn=3)475μLに対してRNaseA(10U)を加えて37℃で30分間インキュベート後、上記エクソソーム溶液25μLを添加した。得られたエクソソーム試料溶液に、1/20量の5MのNaClを添加して混合し、さらに3/20量の1%硫酸プロタミンを加えて混合した;または、得られたエクソソーム試料溶液に、1/10量の5MのNaClを添加して混合し、さらに1/10量の0.01%スペルミジンを加えて混合した。室温で10分間静置後、13,000rpmで30分間遠心し、上清を除去した。150μLのPBSを加えてペレットを溶解し、エクソソーム抽出液を得た。対照として、市販のエクソソーム抽出試薬であるTotal Exosome Isolation Kit(from plasma)(サーモフィッシャーサイエンティフィック、4484450)またはTotal Exosome Isolation Kit(from urine)(サーモフィッシャーサイエンティフィック、4484452)を用いて、同量の同試料からエクソソーム抽出液を調製した。
【0047】
エクソソームの抽出効率は、エクソソーム抽出液から精製されたmiRNAを定量することにより評価した。具体的には、High Pure miRNA Isolation Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス、5080576001)を用いてmiRNAを精製し、50μLのElution Bufferにより溶出した。次いで、Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス、0489703001)を用い、cDNAを合成した。プライマーには、ステムループRTプライマー(5’-GTCAGAGGAGGTGCAGGGTCCGAGGTATTCGCACCTCCTCTGACTCAACA-3’:配列番号1)を用いた。反応液の組成は、キット付属の説明書の記載に準じた(1/2スケール)。逆転写反応は、以下の条件により行った。
【0048】
[反応条件]
・ステップ1(1サイクル):16℃ 30分
・ステップ2~4(60サイクル):30℃ 30秒、42℃ 30秒、50℃ 1秒
・ステップ5(1サイクル):85℃、5分
【0049】
得られた反応液をTE緩衝液により5倍に希釈し、cDNA溶液とした。続いて、以下の条件により、miR-21についてのリアルタイムPCRを行った。LightCycler(登録商標)96 System(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて反応および解析を行い、Cp値(平均値±SD)を算出した。
【0050】
[反応液組成(10μL)]
・cDNA溶液 2.5μL
・2×FastStart Essential DNA Probes Master(ロシュ・ダイアグノスティックス、6402682001) 5μL
・10μM フォワードプライマー(5’-GCCTGCTAGCTTATCAGACTGATG-3’:配列番号2) 0.2μL
・10μM リバースプライマー(5’-GTGCAGGGTCCGAGGT-3’:配列番号3) 0.2μL
・10μM ユニバーサルプローブライブラリー プローブ#82(ロシュ・ダイアグノスティックス、04689054001) 0.2μL
・蒸留水 残量
【0051】
[反応条件]
・ステップ1(1サイクル):95℃ 10分
・ステップ2~3(40サイクル):95℃ 10秒、60℃ 30秒
【0052】
結果を表5および6に示す。硫酸プロタミンおよびスペルミジンのいずれを用いた場合も、市販のエクソソーム抽出試薬と同等またはそれ以上の効率でエクソソームを抽出できることが示された。
【0053】
表5.エクソソームを添加した血漿試料から抽出されたmiR-21のCp値
【表5】
【0054】
表6.エクソソームを添加した尿試料から抽出されたmiR-21のCp値
【表6】
【0055】
(2)試料中のエクソソームの濃縮
1mLまたは10mLのRPMI1640に、上記2(1)で調製したエクソソーム溶液を20μLまたは200μLを添加したものを試料として用いた以外は、上記2(1)と同様の手順により、硫酸プロタミンまたはスペルミジンを用いて試料中のエクソソームを抽出し、miR-21についてのCp値(平均値±SD、n=3)を算出した。
【0056】
結果を表7および8に示す。硫酸プロタミンまたはスペルミジンのいずれを用いた方法でも、出発量依存的にエクソソームの収量が増加したことが確認された。この結果から、硫酸プロタミンまたはスペルミジンのいずれを用いた方法も、高効率でエクソソームを濃縮できるものであることが示された。
【0057】
【0058】
表8.培養上清試料中のエクソソームの濃縮
【表8】
【0059】
(3)エクソソーム抽出に伴うリポタンパク質の混入
血漿中にはLDLやHDLといったリポタンパク質が存在しており、リポタンパク質粒子にもmiRNAが含まれる。そのため、正確なエクソソーム解析を行うためには、エクソソーム抽出におけるリポタンパク質の混入を排除する必要がある。そこで、本発明の方法におけるリポタンパク質の混入の有無を確認した。
【0060】
上記1(1)で調製した血漿試料(n=2)500μLに、1/20量の5MのNaCl(富士フイルム和光純薬、191-01665)を添加して混合し、さらに3/20量の1%硫酸プロタミンを加えて混合した;または、1/10量の5MのNaClを添加して混合し、さらに1/10量の0.01%スペルミジンを加えて混合した。室温で10分間静置した後、13,000rpmで30分間遠心し、上清を回収した。ペレットに500μLのPBSを加え、ペレット溶解液(エクソソーム抽出液)を得た。対照として、市販のエクソソーム抽出試薬であるTotal Exosome Isolation Kit(from plasma)を用いて、同量の同試料から上清およびペレット溶解液を得た。上清およびペレット溶解液をクイックジェルLIPO(ヘレナ研究所、J715)に供し、エパライザ2(ヘレナ研究所)で電気泳動を行った。電気泳動の結果を画像として取得し、ImageJによりバンド強度を数値化した(解析を3重に行い、平均値±SDを算出した)。
【0061】
結果を
図1に示す。レーン1:血漿試料1からプロタミン処理により得られた上清、レーン2:血漿試料1からプロタミン処理により得られたペレット溶解液、レーン3:血漿試料2からプロタミン処理により得られた上清、レーン4:血漿試料2からプロタミン処理により得られたペレット溶解液、レーン5:血漿試料1からスペルミジン処理により得られた上清、レーン6:血漿試料1からスペルミジン処理により得られたペレット溶解液、レーン7:血漿試料2からスペルミジン処理により得られた上清、レーン8:血漿試料2からスペルミジン処理により得られたペレット溶解液、レーン9:血漿試料1から市販試薬処理により得られた上清、レーン10:血漿試料1から市販試薬処理により得られたペレット溶解液、レーン11:血漿試料2から市販試薬処理により得られた上清、レーン12:血漿試料2から市販試薬処理により得られたペレット溶解液、レーン13:血漿試料1、およびレーン14:血漿試料2。また、
図1の各バンド強度を表9に示す。硫酸プロタミンまたはスペルミジンを用いて調製されたペレット溶解液には、リポタンパク質はごく微量しか含まれていなかったのに対し、市販のエクソソーム抽出試薬を用いて調製されたペレット溶解液には、リポタンパク質の有意な混入が確認された。この結果から、硫酸プロタミンまたはスペルミジンを用いてエクソソームを抽出する方法は、リポタンパク質の混入を最小限に抑えることができ、高純度のエクソソームを調製できるものであることが示された。
【0062】
表9.エクソソーム抽出物へのリポタンパク質の混入
【表9】
【配列表】