(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】原子炉内出力分布推定方法及び原子炉内出力分布推定装置
(51)【国際特許分類】
G21C 17/00 20060101AFI20250127BHJP
G21C 17/12 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
G21C17/00 220
G21C17/12 100
(21)【出願番号】P 2021149543
(22)【出願日】2021-09-14
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 礼
(72)【発明者】
【氏名】中居 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】和田 怜志
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-225296(JP,A)
【文献】特表2013-505454(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0219101(US,A1)
【文献】特開2001-133580(JP,A)
【文献】Rei Kimura, Yuki Nakai and Satoshi Wada,Reactor Core Power Distribution Reconstruction Method by Ex-Core Detectors Based on the Correlation Effect Between Fuel Regions,Nuclear Science and Engineering,米国,American Nuclear Society,2021年05月10日
【文献】木村 礼、中居 勇樹、和田 怜志,燃料間出力相関を考慮した炉外計装による炉心出力分布再構成手法の開発(1):理論検討と解析による検証,日本原子力学会2021年春の年会予稿集,日本,日本原子力学会,2021年03月,3B05
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00-17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心内の燃料の部分をM個に分割された各燃料領域の出力R
m(m=1,…,M)の相対比である出力分布を、N個の各中性子検出器からの検出器測定値D
nr(n=1,…,N)に基づいて推定する原子炉内出力分布推定方法であって、
前記出力R
mに対する前記検出器測定値D
nrの比である検出器応答係数C
nmを算出する検出器応答評価・係数算出ステップと、
k番目の前記燃料領域での核分裂数の前記出力R
mを有するm番目の前記燃料領域で発生する中性子数に対する割合である燃料間出力相関係数F
mkを算出する燃料間出力相関評価・係数算出ステップと、
前記検出器応答係数C
nmと前記燃料間出力相関係数F
mkとを用い、前記出力R
mを要素とする出力分布ベクトルから前記検出器測定値D
nrを要素とする測定値ベクトルに変換する出力分布依存検出器応答係数CC
nmを要素とする出力分布依存検出器応答行列T
CCを算出する出力相関依存応答係数算出ステップと、
前記出力分布依存検出器応答行列T
CCを用いて算出測定値D
ncを算出し、前記検出器測定値D
nrのそれぞれと前記算出測定値D
ncのそれぞれに基づいて、前記出力分布を推定する出力分布推定ステップと、
前記出力R
mについての既知の出力分布に対する前記検出器測定値D
nrのそれぞれと、前記算出測定値D
ncのそれぞれに基づいて、
前記検出器測定値D
nr
を前記算出測定値D
nc
が再現するように前記出力分布依存検出器応答行列T
CCを補正する係数調整ステップと、
を備えることを特徴とする原子炉内出力分布推定方法。
【請求項2】
前記係数調整ステップでは、原子炉炉心の燃焼が進行した際に、その時点での条件で炉心解析によって既知の前記出力分布を求め、燃焼の影響を補正する
請求項1に記載の原子炉内出力分布推定方法。
【請求項3】
前記係数調整ステップでは、原子炉の運転に伴って検出器応答が経時変化した際に、その時点での条件で炉心解析によって既知の前記出力分布を求め、検出器応答の経時変化の影響を補正する
請求項1に記載の原子炉内出力分布推定方法。
【請求項4】
前記係数調整ステップでは、原子炉内の制御棒位置を変化させた際に、その時点での条件で炉心解析によって既知の前記出力分布を求め、制御棒の影響を補正する
請求項1に記載の原子炉内出力分布推定方法。
【請求項5】
前記係数調整ステップでは、原子炉炉心に温度変化が生じた際に、その時点での条件で炉心解析によって既知の前記出力分布を求め、温度変化による影響を補正する
請求項1に記載の原子炉内出力分布推定方法。
【請求項6】
前記係数調整ステップでは、検出器の交換を行った際に、その時点での条件で炉心解析によって既知の前記出力分布を求め、検出器を交換した影響を補正する
請求項1に記載の原子炉内出力分布推定方法。
【請求項7】
前記係数調整ステップでは、前記原子炉炉心の燃焼が進行した際、前記原子炉の運転に伴って検出器応答が経時変化した際、前記原子炉内の制御棒位置を変化させた際、前記原子炉炉心に温度変化が生じた際、前記検出器の交換を行った際、の何れか2以上の際に、その時点での条件で炉心解析によって既知の前記出力分布を求め、その影響を補正する
請求項1に記載の原子炉内出力分布推定方法。
【請求項8】
炉心内の燃料の部分をM個に分割された各燃料領域の出力R
m(m=1,…,M)の相対比である出力分布を、N個の各中性子検出器からの検出器測定値D
nr(n=1,…,N)に基づいて推定する原子炉内出力分布推定装置であって、
前記各中性子検出器からの出力である前記検出器測定値D
nrを受け入れる入力部と、
前記出力R
mに対する前記検出器測定値D
nrの比である検出器応答係数C
nmを算出する検出器応答評価・係数算出部と、
k番目の前記燃料領域での核分裂数の前記出力R
mを有するm番目の前記燃料領域で発生する中性子数に対する割合である燃料間出力相関係数F
mkを算出する燃料間出力相関評価・係数算出部と、
前記検出器応答係数C
nmと前記燃料間出力相関係数F
mkとを用い、前記出力R
mを要素とする出力分布ベクトルから前記検出器測定値D
nrを要素とする測定値ベクトルに変換する出力分布依存検出器応答係数CC
nmを要素とする出力分布依存検出器応答行列T
CCを算出する出力分布依存検出器応答係数算出部と、
前記出力分布依存検出器応答行列T
CCを用いて算出測定値D
ncを算出し、前記検出器測定値D
nrのそれぞれと前記算出測定値D
ncのそれぞれに基づいて、前記出力分布を推定する出力分布推定部と、
前記出力R
mについての既知の出力分布に対する前記検出器測定値D
nrのそれぞれと、前記算出測定値D
ncのそれぞれに基づいて、
前記検出器測定値D
nr
を前記算出測定値D
nc
が再現するように前記出力分布依存検出器応答行列T
CCを補正する係数調整部と、
を備えることを特徴とする原子炉内出力分布推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子炉内出力分布推定方法及び原子炉内出力分布推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の出力分布推定の為の核計装は一般的に炉心内に設けられ、炉外の核計装を用いる際も炉心内に配置された核計装の情報を利用して全体として炉心の出力分布を推定する(特許文献1,2)。従来の商用原子炉では1~2年に1度燃料交換や定期点検が行われるため、核計装の不具合が発生している場合はその際に修理や交換を行う事が出来る。
【0003】
一方で、近年世界各国で開発が進められている小型モジュラー炉(SMR)の中にはマイクロリアクターと呼ばれる10-20年もの間燃料交換を行わないタイプのものがある。このようなマイクロリアクターでは炉内に設けられた核計装を容易に交換できないという課題がある。また、炉外に設けられた核計装から炉心内の出力分布を評価し、特に炉心内に発生した異常を速やかに検知しようとする場合、炉心から炉外に設けられた核計装にまで中性子が到達する間に炉心内部の情報の多くを散乱などで失うために炉心内の出力異常などを把握できないという課題がある。
【0004】
これらを背景として、非特許文献1において事前に求めた検出器応答と燃料領域間の出力相関の情報を検出器応答係数および燃料間出力相関係数として用いて炉外に設けられた核計装から炉心内部の出力分布を評価する手法が提案されている。
【0005】
一方で非特許文献1に示される手法は、事前に定常状態の炉心および検出器周囲の環境を高い精度で知っておく必要があり、例えば図面と実際の施工状況に差異が存在する場合などや、炉心の燃焼が進行した場合などで出力分布推定の精度が低下する課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2096594号公報
【文献】特許第5443901号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】R. Kimura, Y. Nakai, S. Wada, “Reactor Core Power Distribution Reconstruction Method by Ex-Core Detectors Based on the Correlation Effect Between Fuel Regions”, Nucl. Sci. Eng., publish online (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したとおり、従来の技術では、事前に得た定常状態の炉心および検出器周囲の環境等の情報と実際の状況との間に差異が存在する場合、出力分布推定の精度が低下するという課題があった。
【0009】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、従来に比べて精度良く出力分布推定を行うことのできる原子炉内出力分布推定方法及び原子炉内出力分布推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の原子炉内出力分布推定手方法は、炉心内の燃料の部分をM個に分割された各燃料領域の出力Rm(m=1,…,M)の相対比である出力分布を、N個の各中性子検出器からの検出器測定値Dnr(n=1,…,N)に基づいて推定する原子炉内出力分布推定方法であって、前記出力Rmに対する前記検出器測定値Dnrの比である検出器応答係数Cnmを算出する検出器応答評価・係数算出ステップと、k番目の前記燃料領域での核分裂数の前記出力Rmを有するm番目の前記燃料領域で発生する中性子数に対する割合である燃料間出力相関係数Fmkを算出する燃料間出力相関評価・係数算出ステップと、前記検出器応答係数Cnmと前記燃料間出力相関係数Fmkとを用い、前記出力Rmを要素とする出力分布ベクトルから前記検出器測定値Dnrを要素とする測定値ベクトルに変換する出力分布依存検出器応答係数CCnmを要素とする出力分布依存検出器応答行列TCCを算出する出力相関依存応答係数算出ステップと、前記出力分布依存検出器応答行列TCCを用いて算出測定値Dncを算出し、前記検出器測定値Dnrのそれぞれと前記算出測定値Dncのそれぞれに基づいて、前記出力分布を推定する出力分布推定ステップと、前記出力Rmについての既知の出力分布に対する前記検出器測定値Dnrのそれぞれと、前記算出測定値Dncのそれぞれに基づいて、前記出力分布依存検出器応答行列TCCを補正する係数調整ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、事前に得た定常状態の炉心および検出器周囲の環境等の情報と実際の状況との間に差異が存在する場合であっても、精度良く出力分布推定を行うことのできる原子炉内出力分布推定方法及び原子炉内出力分布推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】実施形態における原子炉内出力分布推定結果を示すグラフ。
【
図6】従来例における原子炉内出力分布推定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法及び原子炉内出力分布推定装置について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置100の概略構成を示すブロック図である。
【0015】
原子炉内出力分布推定装置100は、複数の中性子検出器からの出力を受け入れて、原子炉内の出力分布すなわち燃料領域の出力比を推定する。
【0016】
原子炉内出力分布推定装置100は、応答特性評価部110、出力分布推定部120、入力部130を有する。
【0017】
入力部130は、外部入力としての原子炉の炉心に関するデータ、中性子検出器の特性に関するデータ、および各中性子検出器からの出力である検出器測定値を外部入力として受け入れる。
【0018】
応答特性評価部110は、中性子検出器の測定値の原子炉の出力による特性を評価する。応答特性評価部110は、検出器応答評価・係数算出部111、燃料間出力相関評価・係数算出部112、出力分布依存検出器応答係数算出部113、出力分布依存検出器応答係数調整部114を有する。
【0019】
出力分布推定部120は、応答特性評価部110により得られた応答特性を用いて、複数の中性子検出器の出力から、出力分布すなわち燃料領域の出力比を推定する。
【0020】
ここで、本実施形態における原子炉内出力分布推定の手法について説明する。原子炉の炉心において中性子を生成する核分裂性物質を有する領域が、M個の燃料領域に分割されて構成されているとする。燃料領域はi=1~Mに番号付けられ、それぞれの出力がR1~RMであるとする。
【0021】
また、N個の中性子検出器は、j=1~Nに番号付けられ、それぞれの測定値がD1~DNであるとする。
【0022】
m番目の燃料領域でRmの出力が発生する際に生じる中性子が、n番目の中性子検出器でdnmだけ検出される、すなわち測定値がdnmである場合に、検出器応答係数Cnmを次の式(1)で定義する。
検出器応答係数Cnm=dnm/Rm ・・・(1)
【0023】
なお、n番目の中性子検出器の測定値Dnは、測定値dnmのmが1からMまでの総和となる。
【0024】
検出器応答評価・係数算出部111は、m番目の燃料領域からn番目の中性子検出器に到達する中性子量を算出し、中性子検出器の特性に基づいて、各燃料領域の出力Rmによる中性子検出器の測定値dnmを算出する。この中性子量の算出では、たとえば、モンテカルロ法、characteristics法(MOC)による輸送計算等を用いることができる。次に、各燃料領域の出力Rmおよび中性子検出器の測定値dnmを用いて、式(1)により、検出器応答係数Cnmを算出する。
【0025】
k番目の燃料領域が出力Rkを有する際に、当該燃料領域で発生する中性子1つが、他のm番目の燃料領域で核分裂を引き起こす割合を核分裂発生割合rmkとした場合に、燃料間出力相関係数Fmkを次の式(2)で定義する。
燃料間出力相関係数Fmk=rmk/νk ・・・(2)
【0026】
なお、νkは、k番目の燃料領域における核分裂中性子発生数である。ここで、核分裂中性子発生数νkは、たとえば、k番目の燃料領域にわたる各核分裂性核種およびエネルギー領域についての平均値を用いてもよい。
【0027】
燃料間出力相関評価・係数算出部112は、核分裂発生割合rmkを算出する。なお、この際の各燃料領域の出力分布については、検出器応答評価・係数算出部111により仮定された出力分布を用いることができる。また、k番目の燃料領域で発生する中性子1つがm番目の燃料領域で核分裂を引き起こす核分裂発生割合rmkの算出に当たっては、たとえば、モンテカルロ法、characteristics法(MOC)による輸送計算等を用いることができる。そして、核分裂発生割合rmkと核分裂中性子発生数νkとを用いて、式(2)により燃料間出力相関係数Fmkを算出する。
【0028】
出力分布依存検出器応答係数算出部113は、以下に説明するように、上記のように算出された検出器応答係数Cnm(n=1~N、m=1~M)と、燃料間出力相関係数Fmk(k=1~M)に基づいて、出力分布依存検出器応答係数CCnm(n=1~N、m=1~M)を算出する。
【0029】
まず、中性子検出器側からみると、n番目の中性子検出器の測定値Dnは、前述のように、m番目の出力Rm(m=1~M)の燃料領域からの中性子による測定値dnmのmが1からMまでの総和となる。
【0030】
前述の式(1)から、測定値dnmは、次の式(3)に示すように、出力Rmに検出器応答係数Cnmを乗じた値となる。
測定値dnm=Cnm・Rm ・・・(3)
【0031】
したがって、n番目の中性子検出器の測定値Dnは、測定値dnmのmが1からMまでの総和として、次の式(4)により算出される。
測定値Dn=dn1+dn2+・・・+dnM
=Cn1・R1+Cn2・R2+・・・+CnM・RM ・・・(4)
【0032】
一方、燃料領域側から見ると、出力Rkのk番目の燃料領域で発生する中性子1つによる、m番目の燃料領域における核分裂発生割合rmkは、前述の式(2)から、次の式(5)により得られる。
核分裂発生割合rmk=Fmk・νk・Rk ・・・(5)
【0033】
ここで、m番目の燃料領域の出力Rmは、次の式(6)に示すように、k番目の燃料領域に起因する核分裂発生割合rmkのkが1からMまでの総和となる。
出力Rm=rm1+rm2+・・・+rmM
=Fm1・ν1・R1+Fm2・ν2・R2+・・・+FmM・νM・RM
・・・(6)
【0034】
したがって、中性子検出器側からみた式(4)と燃料領域側から見た式(6)とを、組み合わせて次の式(7)を得る。
測定値Dn=Cn1・R1+Cn2・R2+・・・+CnM・RM
=Cn1・R1
+Cn2・R2
+・・・・
+CnM・RM
=Cn1・(F11・ν1・R1+F12・ν2・R2+・・・+F1M・νM・RM)
+Cn2・(F21・ν1・R1+F22・ν2・R2+・・・+F2M・νM・RM)
+・・・・
+CnM・(FM1・ν1・R1+FM2・ν2・R2+・・・+FmM・νM・RM)
=(Cn1F11ν1+Cn2F21ν1+・・・+CnMFM1ν1)・R1
+(Cn2F12ν2+Cn2F22ν2+・・・+CnMFM2ν2)・R2
+・・・・
+(CnMF1MνM+CnMF2MνM+・・・+CnMFMMνM)・RM
・・・(7)
【0035】
なお、測定値ベクトルDDを、測定値D1、D2、・・・、DNを要素とするN次元縦ベクトル、出力ベクトルRRを、燃料領域の出力R1、R2、・・・、RMを要素とするM次元縦ベクトルとすると、式(7)に基づき、出力分布依存検出器応答行列TCCを用いて、両者の関係は、次の式(8)により表される。出力分布依存検出器応答係数算出部113では、この出力分布依存検出器応答行列TCCの要素を算出する。
DD=TCC・RR ・・・(8)
【0036】
ここで、出力分布依存検出器応答行列TCCは、次の式(9)で定義される出力分布依存検出器応答係数CCnm(n=1~N、m=1~M)を要素とするN行M列の行列である。
出力分布依存検出器応答係数CCnm=CnmFnmνm ・・・(9)
【0037】
このように、燃料領域の相互の影響を考慮した出力分布依存検出器応答係数CCnmを用いることによって、中性子検出器の測定値Dn(n=1~N)を、燃料領域の出力Rm(m=1~M)に基づいて算出することができる。
【0038】
出力分布依存検出器応答係数調整部114は、既知の炉心出力分布と、既知の炉心出力分布における検出器計数によって、既知の炉心出力分布における検出器計数を再現するように、出力分布依存検出器応答行列TCCの出力分布依存検出器応答係数CCnmを調整する。この場合、出力分布依存検出器応答係数CCnmを調整して、検出器測定値Dnrを、算出測定値Dncが再現するように最適化する。この際、最適化手法として最小勾配法、再急降下法、ニュートン法、共役勾配法などが考えられるが、最適化の目的を達成できれば良く様々な手法が適用できるためこれを限定しない。この調整は、運転初期における係数調整の他、例えば、以下のような場合に実施することができる。
【0039】
原子炉炉心の燃焼が進行した際に、その時点での条件で炉心解析によって既知の出力分布を求め、燃焼の影響を補正する場合。原子炉の運転に伴って検出器応答が経時変化した際に、その時点での条件で炉心解析によって既知の出力分布を求め、検出器応答の経時変化の影響を補正する場合。原子炉内の制御棒位置を変化させた際に、その時点での条件で炉心解析によって既知の出力分布を求め、制御棒の影響を補正する場合。原子炉炉心に温度変化が生じた際に、その時点での条件で炉心解析によって既知の出力分布を求め、温度変化による影響を補正する場合。検出器の交換を行った際に、その時点での条件で炉心解析によって既知の出力分布を求め、検出器を交換した影響を補正する場合。また、これらの場合を組み合わせて実施してもよい。
【0040】
そして、出力分布推定部120では、出力分布依存検出器応答係数算出部113により作成され出力分布依存検出器応答係数調整部114で調整された出力分布依存検出器応答係数CCnmを用いた出力分布依存検出器応答行列TCCにより、中性子検出器の測定値から炉心出力分布を推定する。
【0041】
このとき、上記説明では炉外計装からの中性子検出データを利用することを想定しているものの、導出された評価式上からは炉内外の検出器の区別は無く、炉内への検出器配置を行う事でより精度高い出力分布推定ができることから検出器を設ける位置は、炉内で発生した中性子を検出できればよく、炉外計装のものに限定しない。
【0042】
このように構成された本実施形態では、事前に得た定常状態の炉心および検出器周囲の環境等の情報と実際の状況との間に差異が存在する場合であっても、精度良く出力分布の推定を行うことができる。
【0043】
図2、
図3は、実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法の手順を示すフロー図である。実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法は、
図2に示す応答性評価ステップ、および、
図3に示す出力分布推定ステップを有する。
【0044】
まず、
図2に示す応答性評価ステップは、検出器応答評価・係数算出ステップ(151~153)および燃料間出力相関評価・係数算出ステップ(161~163)およびこれらの後に実施される出力分布依存検出器応答係数算出ステップ(170)の各ステップを有する。
【0045】
検出器応答評価・係数算出ステップは、出力分布仮定ステップ(151)、検出器応答評価ステップ(152)および検出器応答係数算出ステップ(153)を有する。出力分布仮定ステップ(151)および検出器応答評価ステップ(152)は、互いに前後関係を問わない。これらのステップは、
図1に示す検出器応答評価・係数算出部111によって実施される。
【0046】
出力分布仮定ステップ(151)においては、出力分布、すなわち燃料領域のそれぞれの出力Rm(m=1~M)の値を仮定して設定する。
【0047】
検出器応答評価ステップ(152)においては、出力分布仮定ステップ(151)において仮定された出力分布に基づいて、検出器応答評価を行う。具体的には、m番目の燃料領域からn番目の中性子検出器に到達する中性子量を算出し、予め収納された中性子検出器の特性に基づいて、各燃料領域の出力Rmによる中性子検出器の測定値dnmを算出する。この中性子量の算出では、前述のように、たとえば、モンテカルロ法、characteristics法(MOC)による輸送計算等を用いることができる。
【0048】
検出器応答係数算出ステップ(153)においては、各燃料領域の出力Rmおよび中性子検出器の測定値dnmを用いて、前述の式(1)により、検出器応答係数Cnmを算出する。
【0049】
燃料間出力相関評価・係数算出ステップは、出力相関評価ステップ(161)、平均核分裂中性子発生数算出ステップ(162)、および燃料間出力相関関係算出ステップ(163)を有する。これらのステップは、
図1に示す燃料間出力相関評価・係数算出部112によって実施される。
【0050】
出力相関評価ステップ(161)においては、出力分布仮定ステップ(151)において仮定された出力分布に基づいて、核分裂発生割合rmkを算出する。この際の中性子の挙動の評価については、前述のように、たとえば、モンテカルロ法、characteristics法(MOC)による輸送計算等を用いることができる。
【0051】
平均核分裂中性子発生数算出ステップ(162)においては、核分裂中性子発生数νkとして、たとえば、k番目の燃料領域にわたる各核分裂性核種およびエネルギー領域についての平均値を算出する。あるいは、外部入力された値を核分裂中性子発生数νkとして用いる場合は、記憶部から外部入力された値を読み出して、核分裂中性子発生数νkとして出力する。
【0052】
燃料間出力相関係数算出ステップ(163)においては、検出器応答係数算出ステップ(153)で得られた核分裂発生割合rmkと平均核分裂中性子発生数算出ステップ(162)において得られた核分裂中性子発生数νkとを用いて、式(2)により燃料間出力相関係数Fmkを算出する。
【0053】
出力分布依存検出器応答係数算出ステップ(170)においては、
図1に示す出力分布依存検出器応答係数算出部113が、上記の如く算出された検出器応答係数C
nm(n=1~N、m=1~M)と、燃料間出力相関係数F
mk(k=1~M)に基づいて、出力分布依存検出器応答行列T
CCの出力分布依存検出器応答係数CC
nm(n=1~N、m=1~M)を算出して格納する。
【0054】
そして、算出・格納された出力分布依存検出器応答係数CC
nm(n=1~N、m=1~M)について調整が必要な場合(171のYesの場合)は、
図1に示す出力分布依存検出器応答係数調整部114による出力分布依存検出器応答係数の調整ステップ(172)が実施される。一方、調整が必要でない場合(171のNoの場合)は、出力相関依存応答係数算出ステップ(170)で算出・格納された出力分布依存検出器応答係数CC
nm(n=1~N、m=1~M)が後述する出力分布推定ステップにおいて使用される。
【0055】
次に、
図3に示す出力分布推定の各ステップについて説明する。これらのステップは、
図1に示す出力分布推定部120によって実施される。
【0056】
まず、出力分布依存検出器応答係数入力ステップ(181)において、
図2に示したステップで算出・格納された出力分布依存検出器応答係数CC
nm(n=1~N、m=1~M)が入力される。
【0057】
次に、出力分布推定値設定ステップ(182)において、原子炉の出力分布の初期値を設定する。すなわち、各燃料領域の出力Rm(m=1~M)の値、あるいは相対値を設定する。出力分布の初期値としては、たとえば、定常運転時の出力分布を用いてもよい。
【0058】
検出器測定値算出ステップ(183)では、出力分布推定値設定ステップ(182)において設定された出力分布に基づいて、各中性子検出器の出力すなわち算出測定値Dncを算出する。各燃料領域の出力Rm(m=1~M)の分布に基づく、中性子検出器の測定値の算出には、出力分布依存検出器応答係数CCnmが使用される。
【0059】
次に、検出器測定値差分算出ステップ(184)では、上記のように算出された算出測定値Dncと検出器測定値Dnrのそれぞれについて全中性子検出器についての合計値が1となるように規格化する。規格化された値を規格化検出器測定値NDnrと規格化算出測定値NDncとする。
【0060】
すなわち、次の式(10)および式(11)による。
NDnr=Dnr/(ND1r+ND2r+・・・+NDNr) ・・・(10)
NDnc=Dnc/(ND1c+ND2c+・・・+NDNc) ・・・(11)
【0061】
さらに、各中性子検出器の規格化検出器測定値NDnrと規格化算出測定値NDncの差分ΔNDnを算出する。
【0062】
目的関数値算出ステップ(185)では、測定値差分に基づいて目的関数の値(目的関数値)Gを算出する。たとえば、目的関数値Gとして、次の式(12)により、中性子検出器ごとの規格化検出器測定値NDnrと規格化算出測定値NDncの差分ΔNDnの絶対値の総和を算出する。
目的関数値G=|ΔD1|+|ΔD2|+・・・+|ΔDN| ・・・(12)
【0063】
目的関数値最小判定ステップ(186)では、目的関数値Gが最小値に到達したか否かを判定する。具体的には、たとえば、目的関数値Gが、所定の値ε以下となったか否かを判定する。
【0064】
目的関数値最小判定ステップ(186)において目的関数値Gが最小値に到達したと判定された場合(Yesの場合)は、手順を終了する。
【0065】
一方、目的関数値Gが最小値に到達したと判定されなかった場合(Noの場合)は、出力分布推定値更新ステップ(187)に移行する。
【0066】
出力分布推定値更新ステップ(187)においては、出力分布推定値設定ステップ(182)に戻り、出力分布の推定値を新たな推定値に設定して上記の各ステップを繰り返して実行する。
【0067】
なお、目的関数値最小判定ステップ(186)から、出力分布推定値更新ステップ(187)、出力分布推定値設定ステップ(182)の繰り返しのアルゴリズムは、一般的な最適化のアルゴリズム、あるいは再帰化のアルゴリズムを用いることができる。
【0068】
さらに、式(7)あるいは式(8)は形式的に線形式であることから、具体的には、IMPLEX法等の線形アルゴリズムを使用することもできる。あるいは、目的関数値Gとして絶対値の総和のような要素を導入した場合のように完全な線形として取り扱うのが難しい場合などは、非線形として取り扱ってもよい。
【0069】
次に、本実施形態による出力分布推定値と、本実施形態における出力分布依存検出器応答係数調整部114を具備しない従来手法による出力分布推定値とを比較した例を示す。
図5のグラフは、本実施形態による出力分布推定値(図中点線で示す。)と真値(図中実線で示す。)との関係を示しており、
図6のグラフは、従来手法による出力分布推定値(図中点線で示す。)と真値(図中実線で示す。)との関係を示している。これらの例では、ある原子炉炉心の外部に検出器を配置した際に得られた係数を用いて出力分布のバランスが変化した際の炉心出力分布を推定しようとしたが、
図6に示すように、従来手法による出力分布推定では、真値との差が大きく正確な推定値が得られていない。一方で
図5に示すように、本実施形態による出力分布推定では、真値との差をより少なくすることができ、正確な推定値が得られている。
【0070】
更に、本実施形態では、検出器周囲の環境のみならず、燃焼度変化や制御棒位置の変化に対しても係数の調整を行う事で出力分布再構成の精度を向上させる事ができる。この時、実際の運用では、
図4に示されるように炉心設計フェーズ191で決定した炉心情報に基づいて、最初に係数事前評価フェーズ192において出力分布依存検出器応答行列T
CCの出力分布依存検出器応答係数CC
nmを求める。
【0071】
次に、実際に検出器を配置した際の検出器計数から運転初期における係数調整フェーズ193において検出器周辺の環境等の影響を調整できる。更に燃焼度変化、検出器応答の経時変化、制御棒位置の変化、炉心の温度変化、中性子検出器の交換、その他構造物の位置の変化などの影響を適宜運転中の係数評価フェーズ194において調整し、運転終了(195のYes)まで繰り返す。これによって運転開始から終了まで、出力分布依存検出器応答行列TCCの出力分布依存検出器応答係数CCnmが運転と共に変化した場合であっても微調整を繰り返しながら出力分布の推定精度を維持することができる。
【0072】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
100……原子炉内出力分布推定装置、110……応答特性評価部、111……検出器応答評価・係数算出部、112……燃料間出力相関評価・係数算出部、113……出力分布依存検出器応答係数算出部、114……出力分布依存検出器応答係数算調整部、120……出力分布推定部、130……入力部。