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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】m2欠陥ポックスウイルス
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20250127BHJP
   A61K 35/768 20150101ALI20250127BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250127BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20250127BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20250127BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20250127BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20250127BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250127BHJP
   C07K 14/52 20060101ALN20250127BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20250127BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20250127BHJP
   C12N 15/19 20060101ALN20250127BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
A61K35/768
A61P35/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P19/10
A61P9/00
A61K45/00
C07K14/52
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/19
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2021537735
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2019087063
(87)【国際公開番号】W WO2020136235
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】18306874.1
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19306022.5
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510002590
【氏名又は名称】トランスジーン
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】クレインピーター パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】マルシャン ジャン-バプティスト
(72)【発明者】
【氏名】レミー クリステル
(72)【発明者】
【氏名】シュミット ドリス
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-000138(JP,A)
【文献】特表2005-501512(JP,A)
【文献】特表2017-515806(JP,A)
【文献】国際公開第2018/089293(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/122088(WO,A1)
【文献】Virology,2008年,Vol.373, No.2,pp.248-262 (Author Manuscript pp.1-29)
【文献】VIROLOGY,1998年,Vol.244,pp.365-396
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00
C12N 15/00
C07K 14/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムが、ネイティブ(野生型)の状況では機能的m2ポックスウイルスタンパク質をコードするM2L遺伝子座を含み、該m2機能に欠陥をもつように改変されている、改変ポックスウイルスであって、
該機能的m2ポックスウイルスタンパク質が、CD80共刺激リガンドもしくはCD86共刺激リガンドに結合することができるか、またはCD80共刺激リガンドおよびCD86共刺激リガンドの両方に結合することができ、該欠陥のあるm2機能が、該CD80共刺激リガンドおよびCD86共刺激リガンドに結合することができず、かつ
該改変ポックスウイルスが、腫瘍退縮性であり、かつ、
J2RおよびI4L/F4L遺伝子座においてさらに改変されており、これによって、m2活性、tk活性、およびrr活性に欠陥をもつ改変ポックスウイルスが生じる、
前記改変ポックスウイルス。
【請求項2】
チョルドポックスウイルス亜科(Chordopoxvirinae)から作製または入手される、請求項1記載の改変ポックスウイルス。
【請求項3】
オルトポックスウイルス(Orthopoxvirus)属またはレポリポックスウイルス(Leporipoxvirus)属のメンバーである、請求項2記載の改変ポックスウイルス。
【請求項4】
ワクシニアウイルスまたはミクソーマウイルスである、請求項3記載の改変ポックスウイルス。
【請求項5】
Western Reserve(WR)株、Copenhagen(Cop)株、Lister株、LIVP株、Wyeth株、Tashkent株、Tian Tan株、Brighton株、Ankara株、LC16M8株、およびLC16M0株からなる群より選択されるワクシニアウイルスである、請求項4記載の改変ポックスウイルス。
【請求項6】
CD80共刺激リガンドおよびCD86共刺激リガンドに結合できないことが、M2L遺伝子座内の遺伝子損傷から起こるか、または直接的にもしくは間接的にのいずれかでm2機能を損なう異常な相互作用から起こる、請求項1~5いずれか一項記載の改変ポックスウイルス。
【請求項7】
遺伝子損傷が、m2コード配列内またはM2L発現を制御する調節エレメント中のいずれかで、部分的欠失もしくは全欠失および/または1つもしくは複数の非サイレント変異を含む、請求項6記載の改変ポックスウイルス。
【請求項8】
遺伝子損傷が、M2L遺伝子座の部分的欠失または全体欠失である、請求項7記載の改変ポックスウイルス。
【請求項9】
組換え体である、請求項1~8いずれか一項記載の改変ポックスウイルス。
【請求項10】
抗原性ポリペプチド、ヌクレオシド/ヌクレオチドプール調節機能を有するポリペプチド、および免疫調節性ポリペプチドからなる群より選択される少なくとも1つのポリペプチドを発現するように操作されている、請求項9記載の改変ポックスウイルス。
【請求項11】
免疫調節性ポリペプチドが、サイトカイン、ケモカイン、リガンド、および抗体、またはその任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項10記載の改変ポックスウイルス。
【請求項12】
抗体が、免疫チェックポイントタンパク質に特異的に結合する、請求項11記載の改変ポックスウイルス。
【請求項13】
免疫チェックポイントタンパク質が、CD3、4-1BB、GITR、OX40、CD27、CD40、PD1、PDL1、CTLA4、Tim-3、BTLA、Lag-3、およびTigitからなる群より選択される、請求項12記載の改変ポックスウイルス。
【請求項14】
PD-L1またはCTLA4に特異的に結合するアンタゴニスト抗体を発現する、請求項12または13記載の改変ポックスウイルス。
【請求項15】
m2活性、tk活性、およびrr活性に欠陥をもち、
(a)抗CTLA-4抗体;または
(b)抗PD-L1抗体
をコードする、請求項14記載の改変ポックスウイルス。
【請求項16】
(a)抗CTLA-4抗体が、イピリムマブもしくはトレメリムマブであるか;または
(b)抗PD-L1抗体が、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、もしくはアベルマブから選択される、
請求項15記載の改変ポックスウイルス。
【請求項17】
請求項1~16いずれか一項記載の改変ポックスウイルスを産生するための方法であって、以下の工程:
(a)プロデューサー細胞株を調製する工程、
(b)該調製されたプロデューサー細胞株に改変ポックスウイルスをトランスフェクトする工程、または、該調製されたプロデューサー細胞株に改変ポックスウイルスを感染させる工程、
(c)ウイルスの産生が可能であるように適切な条件下で、該トランスフェクトされたプロデューサー細胞株または該感染されたプロデューサー細胞株を培養する工程、
(d)該プロデューサー細胞株の培養物から、産生されたウイルスを回収する工程、
を含む、前記方法。
【請求項18】
(e)前記回収されたウイルスを精製する工程
をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
治療的有効量の請求項1~16いずれか一項記載の改変ポックスウイルスと、薬学的に許容されるビヒクルとを含む、薬学的組成物。
【請求項20】
103~1012pfu、104pfu~1011pfu、105pfu~1010pfu、または106pfu~109pfuの改変ポックスウイルスを含む、請求項19記載の薬学的組成物。
【請求項21】
静脈内投与または腫瘍内投与のために製剤化されている、請求項19または20記載の薬学的組成物。
【請求項22】
がん、破骨細胞活性の増加に関連する疾患、および心血管疾患からなる群より選択される増殖性疾患を処置または予防するための使用のための、請求項1921のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項23】
がんが、腎臓がん、前立腺がん、乳がん、結腸直腸がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、胆管がん、子宮内膜がん、膵臓がん、および卵巣がんからなる群より選択される、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項24】
・リンパ球を介した免疫応答を刺激もしくは改善するための;
・APC活性を刺激もしくは改善するための;
・抗腫瘍応答を刺激もしくは改善するための;
・CD28シグナル伝達経路を刺激もしくは改善するための;
・処置される対象もしくは処置される対象の群において、m2陽性ポックスウイルスと比較して、治療効力を改善するための;および/または
・処置される対象もしくは処置される対象の群において、m2陽性ポックスウイルスと比較して、毒性を低減するための
使用のための、請求項1921のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項25】
単独の療法としての使用のための、または1つもしくは複数のさらなる療法と組み合わせた使用のための、請求項1924のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は腫瘍退縮性ウイルスの分野の発明である。本発明は、M2L遺伝子座によってコードされる機能(すなわち、m2機能)に欠陥をもつように操作された新たなポックスウイルスを提供する。このようなポックスウイルスには、CD80およびCD86共刺激抗原(co-stimulatory antigen)の少なくとも1つまたは両方に対する機能的m2結合活性が無い。この腫瘍退縮性ポックスウイルスは、好ましくは、M2L遺伝子座の全欠失または部分欠失を有するワクシニアウイルスである。本発明はまた、このようなポックスウイルスを含む細胞および組成物、ならびにがんなどの増殖性疾患の処置および疾患の予防(予防接種、特に、獣医学分野における予防接種)のための、このようなポックスウイルスを含む細胞および組成物の使用に関する。さらに正確には、本発明は、主としてウイルス療法(virotherapy)において用いられる既存の腫瘍退縮性ウイルスに取って代わる代案を提供する。m2欠陥ポックスウイルスは、免疫応答を刺激または改善する目的で抗CTLA-4抗体などの免疫調節性ポリペプチドを発現させるのに特に有用である。
【背景技術】
【0002】
背景技術
毎年、世界中で1200万人を超える対象においてがんが診断されている。先進国では、ほぼ5人に1人ががんで死亡する。数多くの化学療法が存在するが、特に、疾患の非常に早い段階で確立する悪性腫瘍および転移性腫瘍に対して有効でないことが多い。
【0003】
がん細胞を破壊する目的で、複製可能なウイルスをベースとして腫瘍退縮性ウイルス療法が20年間浮上してきた(Russell et al., 2012, Nat. Biotechnol. 30(7): 658-70)。様々なタイプのがんにおける、様々な治療用遺伝子で武装した腫瘍退縮性ウイルスの治療可能性を評価するために非常に多くの前臨床研究および臨床研究が目下進行中である。
【0004】
腫瘍退縮性表現型を保持するために、治療用遺伝子は、通常、ウイルスゲノムにある非必須遺伝子の中に挿入される。BUdR存在下で組換えウイルスの特定も容易にする範囲で、J2R遺伝子座(tk)への挿入が当技術分野において広く用いられている(Mackett et al., 1984 J. of Virol., 49: 857-64; Boyle et al., 1985, Gene 35, 169-177)。しかしながら、他の遺伝子座も、例えば、Hind F断片、M2L遺伝子座(Smith et al., 1993, Vaccine 11(1) : 43-53 ; Guo et al., 1990, J. Virol. 64: 2399-2406; Bloom et al., 1991, J. Virol. 65(3): 1530-42; Hodge et al., 1994, Cancer Res. 54: 5552-5; McLaughlin et al., 1996, Cancer Res. 56: 2361-67)、およびA56R遺伝子座(血球凝集素(HA)をコードする)に挿入することも提案されている。
【0005】
ポックスウイルス、特に、ワクシニアウイルス(VV)は、いくつかの前途有望な腫瘍退縮性候補、例えば、JX594(Sillajen/Transgene)、GL-ONC1(Genelux)、TG6002(トランスジーン)およびvvDD-CDSR(University of Pittsburg)を提供してきた(De Graaf et al., 2018, doi.org/10.1016/j.cytogfr.2018.03.006)。これらの腫瘍退縮性VVは、多様なゲノム改変と様々な治療用遺伝子の発現がある様々なVV株に由来する。JX-594(Wyeth株)はウイルスJ2R遺伝子(チミジンキナーゼ(tk)をコードする)の欠失によって弱毒化し、GM-CSFでさらに武装されて、現在、肝細胞がんにおける無作為化第三相試験において臨床評価されている(Parato et al., 2012, Molecular Therapy 20(4): 749-58)。GL-ONC1は、親ウイルスLister株ゲノムのF14.5L、J2R、およびA56R遺伝子座の代わりに、それぞれ、3つの発現カセットを挿入することによって作製された。同様に、J2R(tk)とI4L(I4L遺伝子座はリボヌクレオチド還元酵素(rr-をコードする))に欠陥をもち、無毒の5-フルオロシトシン(5-FC)を細胞傷害性の5フルオロウラシル(fluorouracile)(5-FU)に変換するFCU1酵素をコードするVV(Copenhagen株)であるTG6002が、いくつかの臨床試験において評価されている。tkとrrの二重欠失があるとウイルス複製は多量のヌクレオチドプールを含む細胞に限定され、そのため、TG6002は休止細胞において複製することができない(Foloppe et al., 2008, Gene Ther. 15: 1361-71; WO2009/065546)。vvDD-CDSRは、現在、難治性の皮膚腫瘍および皮下腫瘍がある患者においてアッセイされている。これは、tk(J2R遺伝子座)とワクシニア増殖因子(vgf)をコードする遺伝子の二重欠失によって操作され、5-FCから5-FUに変換するためのシトシンデアミナーゼ(CD)遺伝子と、インビボ画像化用のソマトスタチン受容体(SR)遺伝子で武装されている。
【0006】
当初、直接的な腫瘍退縮が、腫瘍退縮性ウイルスが抗腫瘍効果を発揮する唯一の機構だと考えられた。最近になってようやく、免疫系がウイルス療法の成功に重要な役割を果たすことが認識された(Chaurasiya et al., 2018, Current Opinion in Immunology 51: 83-90)。しかしながら、ほとんどのウイルスは、ウイルス感染と闘うために、宿主が利用する戦略の多くをブロックすることを目標として、免疫回避と免疫調節に関与するタンパク質レパートリーを通じて自己防御機構を発達してきた(Smith and Kotwal, 2002, Crit. Rev. Microbiol. 28(3): 149-85)。さらに、腫瘍細胞はまた、宿主免疫系を回避するために、抑制性受容体のアップレギュレーションを特徴とするT細胞疲弊(T cell exhaustion)機構も進化させてきた。CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質-4の略語;CD152とも知られる)と、PD-1(プログラム細胞死タンパク質1の略語)ならびにそのリガンドPD-L1およびPD-L2が最も記録に残されている。これらの免疫抑制受容体は、T細胞免疫の様々なレベルで働く免疫チェックポイントとして役立つ。CTLA-4はリンパ節におけるT細胞活性化の初期段階を阻害し、もっと後の段階でPD-1が働いている間に、望ましくないTregを刺激もする。
【0007】
さらに具体的には、T細胞活性化は、APC(抗原提示細胞の略語)の表面に存在する、CD80(B7-1とも呼ばれる)およびCD86(B7.2とも呼ばれる)などの共刺激リガンドと、T細胞表面に存在する、CD28、CTLA-4、およびPDL-1などの受容体との相互作用を伴う。CD80は、これらの3種類の細胞表面受容体のリガンドであるのに対して、CD86はCD28およびCTLA-4に結合する。CD28受容体は休止T細胞上で構成的に発現しており、CD28が共刺激CD80およびCD86リガンドと連結すると正の刺激シグナルがT細胞に送達され、T細胞が増殖し、IL-2を分泌するように誘導され、Bcl-X発現の増加によってアポトーシスが阻害される(Chen, 2004, Nat. Rev. Immunol. 4: 336-347)。対照的に、CTLA-4またはPD-L1は最初のT細胞活性化後に(CTLA-4の場合)、またはもっと後の段階(PD-L1の場合)でT細胞の負の調節において役割を果たしている。具体的にいえば、CTLA-4がCD80およびCD86共刺激リガンドと連結すると、CD28とCD80およびCD86の相互作用によって供給される共刺激シグナルに対抗するように活性化T細胞上でシス作用し、IL-10産生に関与する。さらに、CTLA-4は免疫抑制調節性T細胞(Treg)のサブセット上で構成的に発現している。他方で、T調節細胞表面でCD80がPD-L1と連結すると、これらの免疫抑制細胞の増殖が増大することが証明されている(Yi, 2011, J Immunol. 186:2739-2749)。CTLA4は1987年に特定され(Brunet et al., 1987, Nature 328: 267-70)、CTLA4遺伝子によってコードされる(Dariavach et al., Eur. J. Immunol. 18: 1901-5)。完全なCTLA-4核酸配列はGenBankアクセッション番号Ll5006で見つけることができる。
【0008】
疲弊した抗腫瘍T細胞を救出する手段として、このような免疫抑制チェックポイントをブロックすることに関心が高まってきている。過去十年間に数多くのアンタゴニスト抗体(antagonistic antibody)が開発されており(Kahn et al., 2015、J. Oncol. Doi: 10.1155/2015/847383)、いくつかがFDAによって認可されており、そのうちの最初のアンタゴニスト抗体は、CTLA4(例えば、イピリムマブ/Yervoy、Bristol-Myers Squibb)およびPD-1(Merckが開発したペンブロリズマブ/Keytruda、BMSが開発したニボルマブ/オプチーボ(Optivo))に対するものであった。従来の処置は患者への抗体投与に頼っているが、現在、ウイルスまたはプラスミドベクターによるベクター化(vectorization)が、これらの抗体を直接、腫瘍細胞に送達すると考えられている(例えば、WO2016/008976を参照されたい)。例えば、抗PD-1で武装したtk-およびrr-VVはMCA-205マウスモデルにおいて腫瘍成長制御を誘導することが示された(Kleinpetter et al., 2016, OncoImmunology 5(10): e1220467)。
【0009】
しかしながら、これらの免疫相互作用分子およびウイルスベクターの複雑な性質と、カスケード事象を誘発するリスクがあるために、前臨床研究、さらにはもっと臨床段階の研究は実施が困難な場合がある。
【0010】
従って、治療用ポリペプチド、例えば、がん患者における抗腫瘍適応免疫応答の強化を目的とした、チェックポイントに向けられるアンタゴニスト抗体を送達するための、腫瘍退縮性ウイルス、組成物、および方法をさらに開発することが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
技術的問題および提案された解決策
予想に反して、本発明者らは、ワクシニアウイルス(VV)に感染した細胞の上清が共刺激CD80およびCD86リガンドと相互作用するのに対して、弱毒化された改変ワクシニアウイルス アンカラ(Modified Vaccinia virus Ankara)(MVA)に感染した細胞の上清には、この特性が無いことを突き止めた。本発明者らは、VV M2L遺伝子座によってコードされるM2タンパク質、CD80およびCD86への結合特性を持っていると考えた。本発明より以前に、M2は、NfKb経路阻害剤として働く、小胞体の中に保持されているタンパク質であり(Hinthong et al., 2008, Virology 373(2): 248-62)、ウイルスのアンコーティングに関与する(Baoming Liu et al., 2018, J. Virol. 92(7) e02152-17)と報告された。VVに加えて、本発明者らは、非常に多くの複製可能なポックスウイルスにM2オルソログが存在することを突き止めた。
【0012】
本発明は、M2タンパク質がCD80およびCD86に結合する能力と、3つの免疫抑制経路に影響を及ぼすこと、それぞれ、(i)CD80およびCD86とCD28の相互作用をブロックすること;(ii)CD80とPD-L1の相互作用を促進すること;ならびに(iii)CD80/CD86陽性細胞に対して逆向きのシグナル伝達を誘発することを説明する。
【0013】
本発明の文脈において、本発明者らは、m2機能に欠陥をもつワクシニアウイルスを作製した。抗CTLA-4抗体などの免疫調節性ポリペプチドで武装されると、その発現は、CTLA-4を介した免疫抑制シグナルを阻害する。m2が存在しないと、T細胞応答はCD28を介した免疫賦活性シグナルにリダイレクト(redirect)されるのに対して、M2L陽性ワクシニアウイルスは、m2とCD80およびCD86共刺激リガンドが結合することで、このようなCD28を介した正のシグナルに負に干渉すると予想される。
【0014】
重要なことに、かつ驚くべきことに、本明細書に記載のポックスウイルスは、感染細胞において機能的m2タンパク質を合成しないため、抗原に対する免疫応答、特に、リンパ球を介した応答を刺激または改善すると予想される。これに対して、従来のポックスウイルス(M2L陽性)では、産生されたウイルスm2タンパク質はCD80およびCD86共刺激リガンドに結合し、従って、CD28を介した正の経路を阻止する。さらに、本明細書に記載のポックスウイルスは、ウイルスの免疫回避に関与するタンパク質を欠くので、宿主免疫系によって受け入れられる向上した性質を示す。この特徴は、M2陽性ポックスウイルスと比べて競争力のある利点となる。本発明は、分裂細胞を死滅させるための腫瘍退縮と、免疫賦活活性、例えば、がん関連免疫疲弊を打破するための、従って、腫瘍退縮性ウイルスの治療能力を改善するための免疫賦活活性を組み合わせたユニークな製品を提供する。
【0015】
この技術的問題は、特許請求の範囲において定義される態様の規定によって解決される。本発明の他の、およびさらなる局面、特徴、および利点は本発明の現在好ましい態様の以下の説明から明らかである。これらの態様は開示の目的で示される。
【0016】
発明の概要
本開示は、ポックスウイルス、特に、M2L遺伝子座によってコードされるm2タンパク質に欠陥をもつように操作された腫瘍退縮性ポックスウイルス、ならびに、このようなウイルスを作製および使用する方法に関する。本明細書において開示されるように、M2L遺伝子座によってコードされるm2機能に欠陥をもつポックスウイルスは、任意で、tkをコードする遺伝子座および/またはrrをコードする遺伝子座の他の機能的不活化と組み合わされて作製および単離された。抗CTLA4抗体を発現するように操作されたm2欠陥ワクシニアウイルスも意図される。
【0017】
本発明の第1の局面によれば、ゲノムが、ネイティブ(野生型)の状況では、機能的m2ポックスウイルスタンパク質をコードするM2L遺伝子座を含み、前記m2機能に欠陥をもつように改変されている改変ポックスウイルスであって、前記機能的M2ポックスウイルスタンパク質がCD80もしくはCD86共刺激リガンドに結合することができるか、またはCD80とCD86共刺激リガンドの両方に結合することができ、前記欠陥のあるm2機能が、前記CD80およびCD86共刺激リガンドに結合することができない、改変ポックスウイルスが提供される。
【0018】
一態様において、改変ポックスウイルスは、チョルドポックスウイルス亜科(Chordopoxvirinae)から作製または入手される、好ましくは、アビポックスウイルス属(Avipoxvirus)、カプリポックスウイルス属(Capripoxvirus)、レポリポックスウイルス属(Leporipoxvirus)、モルシポックスウイルス属(Molluscipoxvirus)、オルトポックスウイルス属(Orthopoxvirus)、パラポックスウイルス属(Parapoxvirus)、スイポックスウイルス属(Suipoxvirus)、セルビドポックスウイルス属(Cervidpoxvirus)、およびヤタポックスウイルス属(Yatapoxvirus)からなる属の群より選択される。好ましい態様において、前記改変ポックスウイルスは、オルトポックスウイルス属のメンバーであり、好ましくは、ワクシニアウイルス(VV)、牛痘(CPXV)、アライグマ痘(raccoonpox)(RCN)、ウサギ痘、サル痘、馬痘、ハタネズミ痘(Volepox)、スカンク痘(Skunkpox)、痘瘡ウイルス(または天然痘)、およびラクダ痘からなる群より選択され、特に好ましくは、改変ワクシニアウイルスである。
【0019】
一態様において、前記CD80およびCD86共刺激リガンドに結合できないことは、M2L遺伝子座内の遺伝子損傷から起こるか、または直接的にもしくは間接的にのいずれかでm2機能を損なう異常な相互作用から起こる。前記遺伝子損傷は、m2コード配列内での、またはM2L発現を制御する調節エレメントにおいて、のいずれかで、部分的欠失もしくは全欠失および/または(アミノ酸残基を変える)1つもしくは複数の非サイレント変異を含み、好ましくは、欠陥のあるm2タンパク質の合成につながる、またはm2合成の欠如につながる。前記遺伝子損傷は、好ましくは、M2L遺伝子座の部分的欠失または全体欠失である。
【0020】
一態様において、改変ポックスウイルスは、M2L遺伝子座以外の領域においてさらに改変されている、特に、J2R遺伝子座(これによって、m2機能とtk機能の両方に欠陥をもつ改変ポックスウイルスが生じる)、またはI4L/F4L遺伝子座においてさらに改変されている(これによって、m2機能とrr機能の両方に欠陥をもつ改変ポックスウイルスが生じる)。好ましくは、改変ポックスウイルスはJ2RおよびI4L/F4L遺伝子座においてさらに改変されており、これによって、m2活性、tk活性、およびrr活性に欠陥をもつ改変ポックスウイルスが生じる。
【0021】
一態様において、改変ポックスウイルスは腫瘍退縮性である。
【0022】
一態様において、前記改変ポックスウイルスは組換え体である。前記改変ポックスウイルスは、好ましくは、抗原性ポリペプチド、ヌクレオシド/ヌクレオチド調節機能を有するポリペプチド、および免疫調節性ポリペプチドからなる群より選択される少なくとも1つのポリペプチドを発現するように操作されている。前記免疫調節性ポリペプチドは、望ましくは、サイトカイン、ケモカイン、リガンド、および抗体、またはその任意の組み合わせからなる群より選択される。好ましい態様において、前記改変ポックスウイルスは、m2活性、tk活性、およびrr活性に欠陥をもち、抗CTLA-4抗体をコードする。別の好ましい態様において、前記改変ポックスウイルスは、m2活性、tk活性、およびrr活性に欠陥をもち、抗PD-L1抗体をコードする。
【0023】
別の局面によれば、改変ポックスウイルスを産生するための方法であって、(a)プロデューサー細胞株を調製する工程、(b)調製されたプロデューサー細胞株に改変ポックスウイルスをトランスフェクトする工程、または調製されたプロデューサー細胞株に改変ポックスウイルスを感染させる工程、(c)ウイルスの産生が可能であるように適切な条件下で、トランスフェクトされた、または感染したプロデューサー細胞株を培養する工程、(d)前記プロデューサー細胞株の培養物から、産生されたウイルスを回収する工程、任意で、(e)前記回収されたウイルスを精製する工程を含む、方法が提供される。
【0024】
さらなる局面によれば、治療的有効量の改変ポックスウイルスと、薬学的に許容されるビヒクルとを含む組成物が提供される。前記組成物は、望ましくは、約103~約1012pfu、有利なことには、約104pfu~約1011pfu、好ましくは、約105pfu~約1010pfu、より好ましくは、約106pfu~約109pfuの改変ポックスウイルスを含む。前記組成物は、好ましくは、静脈内投与または腫瘍内投与のために製剤化されている。
【0025】
さらに別の局面において、前記組成物は、がん、ならびに破骨細胞活性の増加に関連する疾患、例えば、慢性関節リウマチおよび骨粗鬆症、ならびに心血管疾患、例えば、再狭窄、からなる群より選択される増殖性疾患を処置または予防するために使用するためのものである。処置または予防されるがんは、好ましくは、腎臓がん、前立腺がん、乳がん、結腸直腸がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、胆管がん、子宮内膜がん、膵臓がん、および卵巣がんからなる群より選択される。改変ポックスウイルスおよび組成物は、単独の療法として、または、好ましくは、外科手術、放射線療法、化学療法、寒冷療法、ホルモン療法、毒素療法、免疫療法、サイトカイン療法、標的がん療法、遺伝子療法、光線力学的療法、および移植からなる群より選択される1つもしくは複数のさらなる療法と一緒に使用するためのものである。
【0026】
さらに別の局面において、改変ポックスウイルスまたは組成物は免疫応答を刺激または改善するために使用するためのものである。
[本発明1001]
ゲノムが、ネイティブ(野生型)の状況では、機能的m2ポックスウイルスタンパク質をコードするM2L遺伝子座を含み、該m2機能に欠陥をもつように改変されている改変ポックスウイルスであって、該機能的M2ポックスウイルスタンパク質がCD80もしくはCD86共刺激リガンドに結合することができるか、またはCD80およびCD86共刺激リガンドの両方に結合することができ、該欠陥のあるm2機能が、該CD80およびCD86共刺激リガンドに結合することができない、改変ポックスウイルス。
[本発明1002]
チョルドポックスウイルス亜科(Chordopoxvirinae)から作製または入手される、好ましくは、アビポックスウイルス属(Avipoxvirus)、カプリポックスウイルス属(Capripoxvirus)、レポリポックスウイルス属(Leporipoxvirus)、モルシポックスウイルス属(Molluscipoxvirus)、オルトポックスウイルス属(Orthopoxvirus)、パラポックスウイルス属(Parapoxvirus)、スイポックスウイルス属(Suipoxvirus)、セルビドポックスウイルス属(Cervidpoxvirus)、およびヤタポックスウイルス属(Yatapoxvirus)からなる属の群より選択される、本発明1001の改変ポックスウイルス。
[本発明1003]
オルトポックスウイルス属のメンバーであり、好ましくは、ワクシニアウイルス(VV)、牛痘(CPXV)、アライグマ痘(RCN)、ウサギ痘、サル痘、馬痘、ハタネズミ痘、スカンク痘、痘瘡ウイルス(または天然痘)、およびラクダ痘からなる群より選択される、本発明1002の改変ポックスウイルス。
[本発明1004]
ワクシニアウイルスであり、好ましくは、Western Reserve(WR)、Copenhagen(Cop)、Lister、LIVP、Wyeth、Tashkent、Tian Tan、Brighton、Ankara、LC16M8、LC16M0株などからなる群より選択され、特に好ましくは、WR、Copenhagen、およびWyeth株である、本発明1003の改変ポックスウイルス。
[本発明1005]
レポリポックスウイルス属のメンバーであり、好ましくは、ミクソーマウイルスである、本発明1002の改変ポックスウイルス。
[本発明1006]
CD80およびCD86共刺激リガンドに結合できないことが、M2L遺伝子座内の遺伝子損傷から起こる、または直接的にもしくは間接的にのいずれかでm2機能を損なう異常な相互作用から起こる、本発明1001~1005いずれかの改変ポックスウイルス。
[本発明1007]
遺伝子損傷が、m2コード配列内での、またはM2L発現を制御する調節エレメントにおいて、のいずれかで、部分的欠失もしくは全欠失および/または1つもしくは複数の非サイレント変異を含み、好ましくは、欠陥のあるm2タンパク質の合成につながる、またはm2合成の欠如につながる、本発明1006の改変ポックスウイルス。
[本発明1008]
遺伝子損傷が、M2L遺伝子座の部分的欠失または全体欠失である、本発明1007の改変ポックスウイルス。
[本発明1009]
M2L遺伝子座以外の領域においてさらに改変されている、本発明1001~1008のいずれかの改変ポックスウイルス。
[本発明1010]
J2R遺伝子座においてさらに改変されており、これによって、m2機能とtk機能の両方に欠陥をもつ改変ポックスウイルスが生じる、本発明1009の改変ポックスウイルス。
[本発明1011]
I4Lおよび/またはF4L遺伝子座においてさらに改変されており、これによって、m2機能とrr機能の両方に欠陥をもつ改変ポックスウイルスが生じる、本発明1009または1010の改変ポックスウイルス。
[本発明1012]
J2RおよびI4L/F4L遺伝子座においてさらに改変されており、これによって、m2活性、tk活性、およびrr活性に欠陥をもつ改変ポックスウイルスが生じる、本発明1009~1011いずれかの改変ポックスウイルス。
[本発明1013]
腫瘍退縮性である、本発明1001~1012いずれかの改変ポックスウイルス。
[本発明1014]
組換え体である、本発明1001~1013いずれかの改変ポックスウイルス。
[本発明1015]
抗原性ポリペプチド、ヌクレオシド/ヌクレオチドプール調節機能を有するポリペプチド、および免疫調節性ポリペプチドからなる群より選択される少なくとも1つのポリペプチドを発現するように操作されている、本発明1014の改変ポックスウイルス。
[本発明1016]
免疫調節性ポリペプチドが、サイトカイン、ケモカイン、リガンド、および抗体、またはその任意の組み合わせからなる群より選択される、本発明1015の改変ポックスウイルス。
[本発明1017]
抗体が、免疫チェックポイントタンパク質、好ましくは、CD3、4-1BB、GITR、OX40、CD27、CD40、PD1、PDL1、CTLA4、Tim-3、BTLA、Lag-3、およびTigitからなる群より選択される免疫チェックポイントタンパク質に特異的に結合する、本発明1016の改変ポックスウイルス。
[本発明1018]
PD-L1またはCTLA4に特異的に結合するアンタゴニスト抗体を発現する、本発明1017の改変ポックスウイルス。
[本発明1019]
m2活性、tk活性、およびrr活性に欠陥をもち、抗CTLA-4抗体、好ましくは、イピリムマブまたはトレメリムマブをコードする、本発明1018の改変ポックスウイルス。
[本発明1020]
m2活性、tk活性、およびrr活性に欠陥をもち、抗PD-L1抗体、好ましくは、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、またはアベルマブをコードする、本発明1018の改変ポックスウイルス。
[本発明1021]
本発明1001~1020いずれかの改変ポックスウイルスを産生するための方法であって、以下の工程:
(a)プロデューサー細胞株を調製する工程、
(b)調製されたプロデューサー細胞株に改変ポックスウイルスをトランスフェクトする工程、または、調製されたプロデューサー細胞株に改変ポックスウイルスを感染させる工程、
(c)ウイルスの産生が可能であるように適切な条件下で、トランスフェクトされた、または感染したプロデューサー細胞株を培養する工程、
(d)該プロデューサー細胞株の培養物から、産生されたウイルスを回収する工程、および
任意で、(e)該回収されたウイルスを精製する工程
を含む、方法。
[本発明1022]
治療的有効量の本発明1001~1020いずれかの改変ポックスウイルスと、薬学的に許容されるビヒクルとを含む、組成物。
[本発明1023]
約10 3 ~約10 12 pfu、有利なことには約10 4 pfu~約10 11 pfu、好ましくは、約10 5 pfu~約10 10 pfu、より好ましくは、約10 6 pfu~約10 9 pfuの改変ポックスウイルス、特に、約10 6 、5x10 6 、10 7 、5x10 7 、10 8 、または5x10 8 pfuの個々の用量を含む、本発明1022の組成物。
[本発明1024]
静脈内投与または腫瘍内投与のために製剤化されている、本発明1022または1023の組成物。
[本発明1025]
がん、ならびに破骨細胞活性の増加に関連する疾患、例えば、慢性関節リウマチおよび骨粗鬆症、ならびに心血管疾患、例えば、再狭窄、からなる群より選択される増殖性疾患を処置または予防するための使用のための、本発明1022~1024のいずれかの組成物。
[本発明1026]
がんが、腎臓がん、前立腺がん、乳がん、結腸直腸がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、胆管がん、子宮内膜がん、膵臓がん、および卵巣がんからなる群より選択される、本発明1025の組成物。
[本発明1027]
免疫応答を刺激または改善するための使用のための、特に、
・(特に、抗原性ポリペプチドに対する)リンパ球を介した免疫応答を刺激もしくは改善するための;
・APC活性を刺激もしくは改善するための;
・抗腫瘍応答を刺激もしくは改善するための;
・CD28シグナル伝達経路を刺激もしくは改善するための;
・処置される対象もしくは処置される対象の群において、本明細書の改変ポックスウイルスによって提供される治療効力を改善するための;および/または
・処置される対象もしくは処置される対象の群において、本明細書の改変ポックスウイルスによって提供される毒性を低減するための、
使用のための、本発明1022~1024のいずれかの組成物。
[本発明1028]
単独の療法としての、または、好ましくは、外科手術、放射線療法、化学療法、寒冷療法、ホルモン療法、毒素療法、免疫療法、サイトカイン療法、標的がん療法、遺伝子療法、光線力学的療法、および移植からなる群より選択される1つもしくは複数のさらなる療法と一緒の使用のための、本発明1022~1027のいずれかの組成物。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A】感染していないトリDF1細胞(点線)、または野生型VVに感染したトリDF1細胞(ダイアモンド)もしくはYervoyに感染したトリDF1細胞(逆三角形)から収集した上清を用いて行った、CD80/CTLA4(1A)およびCD86/CTLA4(1B)競合ELISAアッセイを図示する。Hisタグ化B7-Fcタンパク質と固定化CTLA4-Fcとの結合は抗Hisタグ-HRP結合抗体を用いて行った。
図1B図1Aの説明を参照のこと。
図2】MVA(MVA)、Copenhagenワクシニアウイルス株(Cop VV)、Western Reserve株(WR VV)、Wyeth株(Wyeth VV)、アライグマ痘(RCN)、ウサギ痘(RPX)、牛痘(CPX)、鶏痘(FPV)、および偽牛痘(pseudocowpox)(PCPV)に感染したHeLa細胞から収集した上清、ならびに感染していないHeLa細胞の上清(陰性対照)を用いて行ったCD80/CTLA4競合ELISAを図示する。
図3】感染していないCEF細胞(細胞上清)またはMVAに感染したCEF細胞の上清(MVA上清)、またはCopenhagenワクシニアウイルスに感染したCEF細胞の上清(VV上清)を直接収集して、または20倍濃縮(x20)して非還元SDS-PAGEで行い、ヒトCD86とFc断片の融合(hCD86-Fc)、ヒトCD80とFc断片の融合(hCD80-Fc)、およびヒトCTLA4とFc断片の融合(hCTLA4-Fc)でプローブしたウエスタンブロットを図示する。抗Fc結合抗体を用いて検出を行った。
図4】ビオチン化CD80およびビオチン化CD86と、これらのコグネイト受容体、それぞれ、CD28/CD86、CD28/CD80、CTLA4/CD80、およびPDL1/CD80の相互作用を試験した競合ELISAを図示する。MVAに感染したCEF細胞(MVA)およびCopenhagenワクシニアウイルス株に感染したCEF細胞(VV)から収集した上清を、感染していないCEF細胞(CEF)の上清(陰性対照)およびYervoy抗体(10μg/ml)と比較した。全て10μg/mlの組換えヒトPD1(hPD1)、ヒトCD80(hCD80)、およびヒトCTLA4(hCTLA4)の反応性を、PDL1/CD80相互作用と競合する陽性対照として使用した。結合したビオチン化B7タンパク質の検出を、HRP結合ストレプトアビジンを用いて行った。
図5A】固定化CD86-Fc融合を用いたアフィニティクロマトグラフィーによって「干渉因子(interference factor)(IF)」を特定するのに使用した実験アプローチを図示する。
図5B】VV感染CEF細胞の中に捕獲されたIFの配列を示す。
図6】陰性対照である、感染していないHeLa細胞もしくはDF1細胞(HeLaもしくはDF1)、または二重欠失(tk-rr-)Copenhagenワクシニアウイルス(VVTG18277)もしくは三重欠失(tk-rr-m2-)Copenhagenワクシニアウイルス(COPTG19289)に感染したHeLa細胞もしくはDF1細胞から収集した上清を用いて行ったCD80/CTLA4競合ELISAを図示する。hisタグ化CD80-Fcタンパク質と固定化CTLA4-Fcとの結合を、抗Hisタグ-HRP結合抗体を用いてモニタリングした。
図7】様々なMOI(10-1~10-4)でLOVO(A)およびHCT116(B)細胞に感染させて4日後の、tk-rr-m2-ワクシニアウイルス(COPTG19289)と、そのtk-rr-対応物(VVTG18277)の腫瘍退縮活性を図示する。モック処理細胞を陰性対照として使用した。
図8】B16F10腫瘍を皮下移植したC57BL/6マウスにおけるルシフェラーゼ発現を図示する。0日目、3日目、6日目、10日、および14日目にVVTG18277ウイルスおよびCOPTG19289(107pfu)を腫瘍内注射し、腫瘍1グラムあたりのルシフェラーゼ活性(RLU/g腫瘍)を評価するために1日目、2日目、6日目、9日目、13日目、および16日目に腫瘍サンプリングを収集した。時点は3匹のマウスを含んだ。
図9】CT26腫瘍を皮下移植したBalb/cマウスにおける抗腫瘍活性を図示する。D0、D3、D6、D10、およびD14に、107pfuのVVTG18277(四角)、COPTG19289(三角)、またはモック(丸)を腫瘍内注射した(10匹のマウス/群)。腫瘍成長を週2回、追跡した(腫瘍量が2000mm3に達した時にマウスを殺した)。
図10】HT116腫瘍を皮下移植したSwissヌードマウスにおける抗腫瘍活性を図示する。腫瘍が100~200mm3に達したD10に、マウス(10匹のマウス/群)に105(A)または107(B)pfuのVVTG18277(丸)、COPTG19289(四角)、またはモック(ダイアモンド)の単回静脈内注射を与えた。腫瘍成長を週2回、追跡した。
図11】混合リンパ球反応(MLR)に対する、M2欠陥ポックスウイルスに感染した細胞の上清の効果を図示する。PBMCを2人の異なるドナーから精製し、COPTG19289(tk-、rr-、およびm2-)、VVTG18058(tk-rr-)、またはMVAN33(野生型)に感染(MOI 0.05)したCEFから得られた上清の存在下で培養した。感染させて48時間後に培養上清を収集し、約20倍濃縮した。これらの濃縮上清を、希釈せずに、または10倍または100倍に希釈して、それぞれ、2倍、0.2倍、および0.02倍の最終「上清濃度」となるようにPBMC培養物に添加した(200μLに20μL)。PBMC培養培地に分泌されたIL-2量をELISAによって測定した。試験した各試料について3つ組でIL-2測定を行った。測定値は、所定の試料の3つのレプリケート(replicate)のIL-2濃度の平均を、培地とインキュベートしたPBMCの3つのレプリケートのIL-2濃度の平均で割ることで正規化した。
図12】ヒト化マウスモデルにおける、M2に欠陥をもつCOPTG19289によって提供された、腫瘍量に対する効果を図示する。NOD/Shi-scid/IL-2Rγヌル免疫不全マウス(NCG)をCD34+ヒト幹細胞でヒト化し、ヒト結腸直腸がん細胞HCT-116を移植した(5x106個の細胞をマウスの片方の側腹部にSC注射した;D0に相当する)。移植して12日後(D12)に、マウスに106pfu(A)または105pfu(B)の用量でCOPTG19289(TD)またはm2+対応物VVTG18058(DD)の単回IV注射を与えた。ビヒクル処置マウスを陰性対照として使用した。細胞移植後60日にわたって腫瘍成長をモニタリングした。細胞注射後の日数の関数として各群の平均腫瘍成長をmm3で表した。
図13】上記のヒト化NCG-CD34+マウスモデルにおける、M2に欠陥をもつCOPTG19289によって提供された、生存に対する効果を図示する。腫瘍移植して12日後(D12)に、マウスに106pfu(A)または105pfu(B)の用量でCOPTG19289(TD)またはm2+対応物VVTG18058(DD)の単回IV注射を与えた。ビヒクル処置マウスを陰性対照として使用した。細胞移植後90日にわたってマウス生存をモニタリングした。細胞注射後の日数の関数として各群の生存率(パーセント)を示した。
【発明を実施するための形態】
【0028】
詳細な説明
一般的な定義
本発明の理解を助ける多数の定義が本明細書において示される。しかしながら、特に定義されていない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において引用される参考文献は全て、その全体が参照により組み入れられる。
【0029】
本願全体を通して用いられる「1つの(a)」および「1つの(an)」という用語は、特に文脈によってはっきり規定されていない限り、「少なくとも1つの」、「少なくとも第1の」、「1つまたは複数の」、または「複数の」参照される成分または工程を意味するという意味で用いられる。例えば、「1つの細胞」という用語は、複数の細胞を、その混合物を含めて含む。
【0030】
「1つまたは複数の」という用語は、1つまたは1より多い数(例えば、2、3、4、5など)を指す。
【0031】
「および/または」という用語は本明細書中どこで用いられても、「および」、「または」および「前記の用語によって結び付けられる要素の全ての、または他の任意の組み合わせ」という意味を含む。
【0032】
本明細書で使用する「約(about)」または「約(approximately)」という用語は、所定の値または範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。
【0033】
産物、組成物、および方法を定義するのに用いられる時、本明細書で使用する「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの、含む(comprising)の任意の形態)、「有する(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」)などの、有する(having)の任意の形態)、「含む(including)」(ならびに「含む(includes)」および「含む(include)」などの、含む(including)の任意の形態)、または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」および「含有する(contain)」などの、含有する(containing)の任意の形態)という用語はオープンエンドであり、追加の、列挙されていない要素または方法の工程を除外しない。従って、ポリペプチドは、アミノ酸配列が、そのポリペプチドの最終アミノ酸配列の一部になる可能性がある時に、そのアミノ酸配列を「含む(comprises)」。「からなる(consisting of)」とは、本質的に重要な他の成分または工程を除外することを意味する。従って、列挙された成分からなる組成物は、微量の汚染物質および薬学的に許容される担体を排除しない。アミノ酸配列「からなる」ポリペプチドは、このようなアミノ酸配列と、任意で、わずか数種類のさらなる、かつ非必須のアミノ酸残基が存在することを指す。とはいうものの、このポリペプチドは、列挙されたアミノ酸配列以外のアミノ酸を含有しないことが好ましい。この説明では、「を含む(comprising)」という用語(特に、特定の配列について言及している時には)は、必要であれば「からなる(consisting of)」と取り替えられ得る。
【0034】
本発明の文脈の中で「核酸」、「核酸分子」、「ポリヌクレオチド」、および「ヌクレオチド配列」という用語は区別なく用いられ、ポリデオキシリボヌクレオチド(DNA)(例えば、cDNA、ゲノムDNA、プラスミド、ベクター、ウイルスゲノム、単離されたDNA、プローブ、プライマー、およびその任意の混合物)、またはポリリボヌクレオチド(RNA)(例えば、mRNA、アンチセンスRNA、SiRNA)、または混合ポリリボ-ポリデオキシリボヌクレオチドの任意の長さの重合体を定義する。これらの用語は一本鎖または二本鎖、直鎖または環状、天然または合成、改変または非改変のポリヌクレオチドを包含する。
【0035】
「ポリペプチド」という用語は、サイズと翻訳後成分(例えば、グリコシル化)の有無に関係なく、ペプチド結合で結合した少なくとも9個のアミノ酸残基の重合体であると理解しなければならない。ポリペプチドに含まれるアミノ酸の最大数に制限は課せられない。一般的な表示として、この用語は、短い重合体(典型的に、当技術分野ではペプチドと呼ばれる)と、もっと長い重合体(典型的に、当技術分野ではポリペプチドまたはタンパク質と呼ばれる)を指す。この用語は、特に、ネイティブポリペプチド、改変されたポリペプチド(誘導体、類似体、変種、または変異体とも呼ばれる)、ポリペプチド断片、ポリペプチド多量体(例えば、二量体)、融合ポリペプチドを包含する。この用語はまた、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列から発現された組換えポリペプチドを指す。典型的に、これは、コード核酸からmRNA配列への翻訳、およびポリヌクレオチド配列が送達された細胞のリボソーム機構による、その翻訳を伴う。
【0036】
「同一性」という用語は、2つのポリペプチド配列または核酸配列間でアミノ酸とアミノ酸またはヌクレオチドとヌクレオチドが一致していることを指す。2つの配列間の同一性パーセントは、最適アラインメントのために導入する必要があるギャップ数と各ギャップの長さを考慮に入れた、配列が共有する同一の位置の数の関数である。アミノ酸配列間の同一性パーセントを求めるために、様々なコンピュータプログラムおよび数学アルゴリズム、例えば、NCBIもしくはALIGN in Atlas of Protein Sequence and Structureで利用可能なBlastプログラム(Dayhoffed, 1981, Suppl., 3: 482-9)、またはニードルマン・ウンシュ(Needleman and Wunsh)アルゴリズム(J.Mol. Biol. 48,443-453, 1970)が当技術分野において利用可能である。ヌクレオチド配列間の同一性を求めるためのプログラムも専門のデータベース(例えば、Genbank、the Wisconsin Sequence Analysis Package、BESTFIT、FASTA、およびGAPプログラム)において利用可能である。当業者は、比較配列にわたって最大アラインメントを実現するのに必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。例示目的で、「少なくとも70%」は、70%以上(71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%を含む)を意味する。これに対して、「少なくとも80%の同一性」は、80%以上(81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%を含む)を意味し、「少なくとも90%」は、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)を意味する。
【0037】
本明細書で使用する「単離された」という用語は、天然環境から取り出された(すなわち、天然で結合している、または天然で見出される少なくとも1種類の他の成分から分離された)成分(例えば、ポリペプチド、核酸分子、ウイルス、ベクターなど)を指す。例えば、ヌクレオチド配列は、天然で通常結合している配列から分離されていれば単離されている(例えば、ゲノムから解離されている)が、異種配列と結合していてもよい。
【0038】
「から得られた(obtained from)」、「生じる(originating)」、または「生じる(originate)」という用語およびその任意の相当語句は、成分(例えば、ポリペプチド、核酸分子、ウイルス、ベクターなど)の元の供給源を特定するために用いられるが、例えば、化学合成または組換え手段によるものでもよい、成分が作られた方法を限定することは意図されない。
【0039】
本明細書で使用する「宿主細胞」という用語は、組織、器官、または単離された細胞における特定の機構に関する制約が全くなく広範に理解されなければならない。このような細胞はユニークなタイプの細胞でもよく、異なるタイプの細胞、例えば、培養細胞株、初代細胞、および分裂細胞の群でもよい。本発明の文脈において「宿主細胞」という用語は、好ましくは、真核細胞、例えば、哺乳動物(例えば、ヒトまたは非ヒト)細胞ならびに本明細書に記載のポックスウイルスを産生することができる細胞を指す。この用語はまた、ポックスウイルスのレシピエントになり得るか、またはポックスウイルスのレシピエントであった細胞、ならびにこのような細胞の子孫も含む。
【0040】
「対象」という用語は、一般的に、本明細書に記載の任意のポックスウイルス、組成物、および方法が必要とされるか、または有益な可能性がある生物を指す。典型的に、生物は、哺乳動物、特に、飼育動物、家畜、スポーツ動物、および霊長類からなる群より選択される哺乳動物である。好ましくは、対象は、がんなどの増殖性疾患を有するか、または有するリスクがあると診断されているヒトである。「対象」および「患者」という用語は、ヒト生物を指している時には区別なく使用することができ、男性と女性を包含する。処置される対象は、新生児、乳児、若年成人、成人、または老人でもよい。
【0041】
本明細書で使用する「処置」という用語(および「処置する(treating)」、「処置する(treat)」などの処置の任意の形態は、最終的に従来の治療モダリティと関連する、予防(例えば、処置される病理学的状態を有するリスクがある対象における予防的措置)および/または療法(例えば、病理学的状態を有すると診断された対象における)を包含する。処置の結果は、標的とされた病理学的状態の進行を減速、治癒、寛解、または管理することである。例えば、本明細書に記載のようにポックスウイルスが投与された後に、対象が臨床状態の観察可能な改善を示すのであれば、対象はがんが首尾良く処置されている。
【0042】
本明細書で使用する「投与する」という用語(または「投与された」などの投与の任意の形態)は、本明細書に記載のポックスウイルスなどの治療剤を対象に送達することを指す。
【0043】
本明細書で使用する「組み合わせ」または「関連(association)」という用語は、様々な成分(例えば、ポックスウイルスおよび抗がん療法において有効な1種類または複数種の物質)の可能性がある任意の配合を指す。このような配合は、前記成分の混合物ならびに同時投与または連続投与のための別々の組み合わせを含む。本発明は、等モル濃度の各成分を含む組み合わせ、ならびに非常に異なる濃度との組み合わせを包含する。組み合わせの各成分の最適濃度は当業者によって決定できることが理解される。
【0044】
m2欠陥ポックスウイルス
一局面において、本発明は、ゲノムが、ネイティブ(野生型)の状況では、機能的m2ポックスウイルスタンパク質をコードするM2L遺伝子座を含み、前記m2機能に欠陥をもつように改変されている改変ポックスウイルスであって、前記機能的M2ポックスウイルスタンパク質がCD80もしくはCD86共刺激リガンドに結合することができるか、またはCD80およびCD86共刺激リガンドの両方に結合することができ、前記欠陥のあるm2機能が、前記CD80およびCD86共刺激リガンドに結合することができない、改変ポックスウイルスを提供する。
【0045】
本明細書で使用する「ポックスウイルス」または「ポックスウイルス」という用語は、1種類または複数種の哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞)に対して感染性があり、ゲノムが、ネイティブ(野生型)の状況では、機能的な、いわゆるM2タンパク質をコードするM2L遺伝子座を含む、現在特定されているか、または後で特定される任意のポックスウイルス科ウイルスを指す。「ウイルス」という用語は、ポックスウイルスまたは本明細書において言及される他の任意のウイルスの文脈において用いられる時には、ウイルスゲノムならびにウイルス粒子(キャプシドおよび/またはエンベロープのあるゲノム)を包含する。
【0046】
ポックスウイルスは、二本鎖ゲノムを含有する広範なDNAウイルスファミリーである。ほとんどのウイルスと同様に、ポックスウイルスは、ウイルス感染と闘うために、宿主が利用する戦略の多くをブロックすることを目標とした、免疫回避と免疫調節に関与するタンパク質レパートリーを通じて自己防御機構を発達してきた(Smith and Kotwal, 2002, Crit. Rev. Microbiol. 28(3): 149-85)。典型的に、ポックスウイルスゲノムは、ウイルスが宿主免疫応答を操作するのを可能にする、従って、ウイルス複製、蔓延、および伝播を容易にする20種類を超える宿主応答モディファイヤー(host response modifier)をコードする。これらには、増殖因子、抗アポトーシスタンパク質、NFkB経路およびインターフェロンシグナル伝達の阻害剤、ならびに主要組織適合遺伝子複合体(MHC)のダウンレギュレーター(down-regulator)が含まれる。
【0047】
全般的な案内のために、野生型ワクシニアウイルス(VV)ゲノムは、コード配列が、ウイルス生活環の初期段階に産生されるm2と呼ばれるタンパク質をコードするM2L遺伝子座を含む。これは分泌されるか、または小胞体(reticulum endoplasmic)(RE)に局在し、グリコシル化される可能性が高い(Hinthong et al., 2008, Virology 373: 248-262)。その機能は依然として研究中であるものの、コアアンコーティングおよびウイルスDNA複製に関与している(Liu et al., 2018, J. Virol., doi/10.1128/JVI.02152-17)、だが、インビトロウイルス複製には必要でない(Smith, 1993, Vaccine 11: 43-53)。さらに、Erk1リン酸化阻害を介して細胞NF-κB転写因子をダウンレギュレートする機能は今では十分に証明されている(Gedey et al., 2006, J. Virol. 80: 8676-85)。従って、このことから、m2はポックスウイルス感染中の宿主の抗ウイルス応答に関与することが示唆される。VV「M2L」遺伝子座は野生型VVゲノムの5'側の3番目の部分に存在する。具体的にいえば、このコード配列はCopenhagen(Cop)VVゲノムの位置27324と位置27986の間に位置する。Cop M2Lにコードされる遺伝子産物は220アミノ酸のタンパク質(SEQ ID NO:1に示したアミノ酸配列を有する; Uniprot でもP21092アクセッション番号で開示される)であり、8個のCys残基を含む203アミノ酸残基の成熟ポリペプチドと、これも1個のCys残基を有するN末端17アミノ酸残基長のシグナルペプチドで構成される。
【0048】
ポックスウイルスゲノムはネイティブの状況では約200kbの二本鎖DNAであり、M2L遺伝子座を含む、異なる機能をもつ、ほぼ200種類のタンパク質をコードする能力を有する。ゲノム配列およびコードされるオープンリーディングフレーム(ORF)は周知である。本発明の改変ポックスウイルスは、少なくとも、ネイティブM2L遺伝子座によってコードされるm2機能に欠陥をもつように人の手で改変されているゲノムを含み、本明細書に記載の改変などの1つまたは複数のさらなる改変をさらに含んでもよい。
【0049】
ポックスウイルスゲノム内にあるM2L遺伝子座の存在の特定
本明細書において与えられた情報と、当技術分野の一般的な知識を用いて、所定のポックスウイルスがネイティブの状況では、機能的m2タンパク質をコードするM2L遺伝子座を含むかどうか確かめることは当業者の範囲内である。アッセイ技術の個別の選択は重要でなく、候補ポックスウイルスが、機能的m2をコードするM2L遺伝子座を含むかどうか確かめるように、これらの従来の方法論を合わせることは当業者の範囲内である。
【0050】
一態様において、所定のポックスウイルスにおけるM2L遺伝子座は、本明細書において与えられた情報を用いたハイブリダイゼーションまたはPCR法によって、およびポックスウイルスゲノム配列をスクリーニングするための適切なプローブまたはプライマーを設計することによって特定することができる。全般的な案内のために、ハイブリダイゼーションアッセイは、典型的には、ハイブリダイゼーションに適した条件下で、このような候補ポックスウイルスに感染した細胞またはこのような候補ポックスウイルスを含有する細胞から抽出した核酸を用いて、検出しようとするM2L遺伝子座について本明細書において示された既知のヌクレオチド(nt)配列情報から導き出されたオリゴヌクレオチドプローブに基づいている。オリゴヌクレオチドプローブは、標的M2L配列と相補的(すなわち、少なくとも80%同一性)になるように設計された一本鎖のRNAまたはDNA(通常、10~30ヌクレオチド長)の短い断片である。プローブは、好ましくは、検出が可能になるように標識される(例えば、放射活性標識プローブ、蛍光標識プローブ、または酵素標識プローブ)。ハイブリダイゼーションは、通常、特異的なハイブリッドしか形成しないストリンジェントな条件下で行われる。
【0051】
さらに別の、または代替の態様において、所定のポックスウイルスにM2L遺伝子座が存在することは、コードされる遺伝子産物のアミノ酸配列に基づいて特定することができる。例えば、M2L遺伝子座が存在することは、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2に示したアミノ酸配列と少なくとも40%、望ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の、絶対的な好み(absolute preference)として少なくとも90%の配列同一性を示す、コードされるORFの存在を検索することを目的とした、既知のポックスウイルスm2タンパク質、例えば、Cop VV m2(SEQ ID NO:1)またはミクソーマウイルスgp-120様タンパク質(SEQ ID NO:2)と突き合わせた、利用可能なデータベースにおけるゲノム配列の翻訳分析と、コードされるオープンリーディングフレーム(ORF)アミノ酸配列のblast検索によって特定することができる。
【0052】
代わりに、またはさらに、ポックスウイルスゲノムによってコードされるORFのアミノ酸配列は、利用可能なデータベースと突き合わせてアライメントすることができる。候補ポックスウイルスは、m2 VVタンパク質の結果(Uniprotではアクセッション番号P21092で参照される;本明細書ではSEQ ID NO:1とも開示される)と同じ、ドメインデータベース(例えば、Gene3D、PANTHER、Pfam、PIRSF、PRINTS、ProDom、PROSITE、SMART、SUPERFAMILY、またはTIGRFAMs)での検索後の結果を出す、いわゆるm2ポリペプチドファミリーをコードするのであればM2L遺伝子座を含んでいるとみなされる。従って、候補ポックスウイルスは、上記で引用されたデータベースを用いてBlast分析に提出された時に、UniprotではPFAMモチーフ番号PF04887またはInterproモチーフ番号IPR006971シグネチャーに割り当てられるポリペプチドをコードするのであれば、M2L遺伝子座を含むと特定される。
【0053】
コードされるm2タンパク質の機能性
本明細書で使用する機能的m2タンパク質は、前記タンパク質がインビトロまたはインビボでCD80および/またはCD86共刺激リガンドに結合できることを指す。ポックスウイルスが機能的m2ポリペプチドをコードする能力は日常的な技法によって評価することができる。タンパク質とその標的の結合能力を評価する標準的なアッセイは、例えば、Biacore(商標)、熱量測定法、蛍光光度法、Bio-Layer干渉法、イムノブロット(例えば、ウエスタンブロット)、RIA、フローサイトメトリー、およびELISAを含めて当技術分野において公知である。アッセイ技術の個別の選択は重要でなく、候補m2タンパク質がCD80および/またはCD86共刺激リガンドに結合するかどうか確かめるために、これらの任意の従来の方法論を適合させることは当業者の範囲内である。
【0054】
例えば、候補ポックスウイルスに感染した細胞の上清を用いて、プレート(ELISA)上に固定化されたか、または細胞表面(FACS)にディスプレイされたCD80またはCD86をプローブすることができる。サンドイッチ競合ELISAアッセイ(実施例セクションを参照されたい)は、結果を得るためにタグ化組換えタンパク質を作製する必要が無いという事実のために特に適している。例えば、ELISAプレートが関心対象のリガンド(例えば、CD86-Fc)でコーティングされた後に、試験しようとする試料(例えば、ポックスウイルスに感染した細胞の上清)が添加され得る。試料がM2ポリペプチドを含むのであれば、コーティングされたリガンドに結合する。次いで、検出されるために、例えば、プレートリーダーを用いて測定できる色がついた生成物に標識物質を変換する酵素の働きによって検出されるために、通常、標識された検出リガンドが添加される(例えば、HisタグがあるCTLA4-Fcは、HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼの略語)と結合した抗Hisタグ抗体によって認識される)。試料なし、または陰性対照試料と比較した候補試料の存在下での発色検出低下は、コーティングされたリガンドとの結合において検出リガンドと競合するM2ポリペプチドを試料が含有することを示している。その逆、例えば、コーティングされたリガンドとしてCTLA-4-Fcを、検出リガンドとしてCD80-Fc-Hisタグを使用しても同じように進むことができる。
【0055】
本明細書で使用する「m2機能に欠陥をもつ」とは、インビトロまたはインビボでm2タンパク質がCD80および/またはCD86共刺激リガンドに結合できないことを意味することが意図される。この不能は、コードされるm2タンパク質の正常結合活性を阻止する、ネイティブM2L遺伝子座内での遺伝子損傷から生じる場合がある。従って、機能的不活化は、M2L遺伝子座での1つまたは複数の変異に起因する可能性がある。このような変異は、好ましくは、m2タンパク質のコード配列または発現を制御する制御配列における挿入、欠失、および塩基変化からなる群より選択される。または、機能的不活化は、m2タンパク質と、前記m2タンパク質に結合するか、前記m2タンパク質の機能的活性を別の方法で阻止する1種類または複数種の他の遺伝子産物との異常な相互作用によって起こる場合がある。
【0056】
全般的な案内のために、本発明者らは、実際に、下記のように多種多様なポックスウイルスにおいて、より具体的には、ワクシニアウイルスの7株、ミクソーマウイルスの7株、サル痘の4株、牛痘ウイルスの複数の株、痘瘡ウイルスの8株、ならびに馬痘、タテラポックス(Taterapox)、ラクダ痘、アライグマ痘、シャンクポックス(Shunkpox)、ヨカポックス(Yokapox)、ウサギ線維腫ウイルス、ムルマンスクポックス(Murmansk pox)、エプテシポックス(Eptesipox)、シカ痘(Deerpox)、タナ痘、コチア(Cotia)ウイルス、およびハタネズミ痘を含むが、これに限定されない様々な他のポックスウイルスにおいて(機能的m2タンパク質またはそのオルソログをコードする)M2L遺伝子座を特定した。例示目的で、表1に図示したように、馬痘、痘瘡ウイルス、サル痘、ラクダ痘、牛痘のコードされるM2タンパク質オルソログは、参照Cop m2タンパク質(SEQ ID NO:1で示される)と90%を超える同一性を示し、粘液腫、スカンク、コチア、およびハタネズミ痘ウイルスのコードされるM2タンパク質オルソログは、それぞれ、CopVV m2タンパク質と50%、74%、70%、および72%の配列同一性を示す。
【0057】
表1は、ネイティブの状況ではM2L遺伝子座を含む様々なポックスウイルスゲノム配列のGenBankアクセッション番号の概略と、Cop m2タンパク質(Uniprotのアクセッション番号P21092およびSEQ ID NO:1)を基準にしたm2タンパク質のアミノ酸同一性の表示を示す。
【0058】
【表1】
【0059】
理解しやすいように、ポックスウイルスM2L遺伝子座およびコードされるm2タンパク質を指定するするために本明細書において用いられる遺伝子命名法は、ワクシニアウイルスの遺伝子命名法(より具体的には、Copenhagen株の遺伝子命名法)である。これはまた、特に定めのない限り、本明細書において言及されるものと機能的に等価なM2L遺伝子およびm2タンパク質を含有する他のポックスウイルスについても本明細書において用いられる。実際には、遺伝子およびそれぞれの遺伝子産物の命名法はポックスウイルスの科、属、および株によって異なる場合があるが、ワクシニアウイルスと他のポックスウイルスの対応が文献において一般的に利用可能である。例示目的で、VV M2L遺伝子の対応するものが粘液腫ゲノムではM154L、牛痘ゲノムではCPXV040またはP2L、サル痘ゲノムではO2L、ウサギ痘ゲノムではRPXV023、痘瘡ウイルスゲノムではO2LまたはQ2と呼ばれている。
【0060】
しかしながら、いくつかのポックスウイルス、例えば、弱毒化ワクシニアウイルスMVA(改変ワクシニアウイルスアンカラ)および偽牛痘ウイルス(PCPV)のゲノムには、ネイティブの状況では、弱毒化プロセス中に生じた大きなゲノム欠失があるためにM2L遺伝子座が無い(Antoine et al., 1998, Virology 244(2) 365-96)。本発明の文脈において、「ポックスウイルス」という用語は、ネイティブの状況ではゲノム欠失または変異を含むM2L遺伝子座(または対応するもの)を有し、従って、m2ポリペプチドを欠くか、または非機能的m2タンパク質をコードするポックスウイルス、例えば、偽牛痘ウイルス(PCPV)、MVA、およびNYVACウイルスを含まない。
【0061】
一態様において、本発明の改変ポックスウイルスはチョルドポックスウイルス亜科から作製または入手され、好ましくは、アビポックスウイルス属、カプリポックスウイルス属、レポリポックスウイルス属、モルシポックスウイルス属、オルトポックスウイルス属、パラポックスウイルス属、スイポックスウイルス属、セルビドポックスウイルス属、およびヤタポックスウイルス属からなる属の群より選択される。これらのポックスウイルスのゲノム配列は当技術分野において入手可能であり、特に、GenBankまたはRefseqなどの専門データベースにおいて入手可能である。
【0062】
好ましい態様において、改変ポックスウイルスはオルトポックスウイルス属から作製または入手される。任意のオルトポックスウイルス属が使用され得るが、好ましくは、ワクシニアウイルス(VV)、牛痘(CPXV)、アライグマ痘(RCN)、ウサギ痘、サル痘、馬痘、ハタネズミ痘、スカンク痘、痘瘡ウイルス(または天然痘)、およびラクダ痘からなる群より選択される。ワクシニアウイルスが特に好ましい。Western Reserve(WR)、Copenhagen(Cop)、Lister、LIVP、Wyeth、Tashkent、Tian Tan、Brighton、Ankara、LC16M8、LC16M0株などを含むが、それに限定されるわけではない、どのワクシニアウイルス株も本発明の文脈において適している(MVAを除く)。Lister、WR、Copenhagen、およびWyeth株が特に好ましい。そのゲノム配列は文献ならびにGenBank(例えば、アクセッション番号AY678276(Lister)、M35027(Cop)、AF0956891(Tian Tan)、およびAY243312.1(WR)において入手可能である。これらのウイルスはウイルスコレクション(例えば、WRについてはATCC VR-1354、WyethについてはATCC VR-1536、ListerについてはATCC VR-1549)からも入手することができる。
【0063】
別の態様において、改変ポックスウイルスは、レポリポックスウイルス属、好ましくは、ミクソーマウイルス(このゲノム配列はアクセッション番号NP_051868.1でGenBankに開示される)から作製または入手される。ミクソーマウイルスにあるM2Lオルソログ遺伝子座はM154L遺伝子座と呼ばれ、SEQ ID NO:2に示したアミノ酸配列を有し、Copによってコードされるm2タンパク質(SEQ ID NO:1)と50%同一性を示す、いわゆるgp120様タンパク質をコードする。
【0064】
欠陥のあるm2機能
上記のように、m2タンパク質がCD80および/またはCD86共刺激リガンドに結合できないことはM2L遺伝子座内での遺伝子損傷から生じてもよく、直接的または間接的にのいずれかでm2機能を損なう異常な相互作用から生じてもよい。具体的には、「欠陥のあるm2機能」は、競合ELISAアッセイなどの従来のアッセイによって測定された時に、(例えば、m2陽性ポックスウイルスに感染した細胞の上清中に見出されるような)ネイティブm2タンパク質と比較して、CD80(例えば、ヒト)およびCD86(例えば、ヒト)に結合する能力が少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が低下したこと、または完全に結合できなくなったことを指す。
【0065】
改変ポックスウイルスは、従来の分子的技法を用いた当業者に公知の多数の手法によって、m2機能に欠陥をもつように操作され得る。好ましい態様において、改変ポックスウイルスは、ウイルスによるm2タンパク質の発現を抑制する、ネイティブM2L遺伝子座内での少なくとも1つの遺伝子損傷を含む。このような遺伝子損傷は、m2コード配列内での、またはM2L発現を制御する調節エレメントにおいて、のいずれかで、部分的欠失もしくは全欠失および/または(アミノ酸残基の変化をもたらす)1つもしくは複数の非サイレント変異を含む。前記遺伝子損傷は、好ましくは、欠陥のあるm2タンパク質の合成(上記のネイティブタンパク質の活性を確かなものにすることができない)につながる、またはm2合成の欠如(タンパク質が全く無い)につながる。例えば、前記遺伝子損傷は、M2L遺伝子座の部分的欠失または全欠失、例えば、m2コード配列の上流から、m2コード配列の少なくとも100コドンまで及ぶ部分的欠失である。代わりに、または組み合わせて、M2L遺伝子座は、点変異(例えば、コード配列内への停止コドンの導入)、フレームシフト変異(読み枠を改変する)、挿入変異(コード配列を破壊する1つもしくは複数のヌクレオチドの挿入による)、またはCD80および/もしくはCD86結合機能に関与するか、もしくはそれを担う1つもしくは複数の残基の欠失もしくは置換、またはその任意の組み合わせによって改変することができる。同様に、m2オープンリーディングフレームを破壊するように外来核酸をコード配列内に導入することができる。同様に、遺伝子プロモーターを欠失または変異させ、従って、M2L発現を阻害することができる。当業者は、本開示に基づけば、実施例セクションで説明するようにCD80および/またはCD86に結合する能力があるかどうか野生型と変異m2タンパク質を比較することによって、特定の改変がm2を機能的に不活化するかどうか容易に確かめるだろう。
【0066】
他のポックスウイルス改変
一態様において、本発明の改変ポックスウイルスはM2L遺伝子座以外の領域においてさらに改変されている。様々なさらなる改変が本発明の文脈において意図され得る。
【0067】
本発明が包含する1つまたは複数のさらなる改変は、例えば、このような改変が無いポックスウイルスと比較して、腫瘍退縮活性(例えば、分裂細胞における複製の改善)、安全性(例えば、腫瘍選択性)、および/またはウイルス誘導性免疫に影響を及ぼす。例示的な改変は、好ましくは、DNA代謝、宿主ビルレンス、またはIFN経路に関与するウイルス遺伝子に関係する(例えば、Guse et al., 2011, Expert Opinion Biol. Ther.11(5):595-608を参照されたい)。
【0068】
破壊されるのに特に適した遺伝子は、チミジンキナーゼ(tk)コードする遺伝子座(J2R;GenBankアクセッション番号AAA48082)である。tk酵素はデオキシリボヌクレオチ合成に関与する。Tkは、正常細胞が概して低濃度のヌクレオチドを有する時に、これらの細胞におけるウイルス複製に必要とされるのに対して、高いヌクレオチド濃度を含有する分裂細胞では必要でない。さらに、tkに欠陥をもつウイルスは腫瘍細胞に対して高い選択性を有することが知られている。一態様において、改変ポックスウイルスはJ2R遺伝子座においてさらに改変され(ウイルスtkタンパク質の発現が抑制される改変が好ましい)、これによって、m2機能とtk機能の両方に欠陥をもつ改変ポックスウイルスが生じる(m2-tk-ポックスウイルス)。tk機能を不活化するために、前記J2R遺伝子座の部分的欠失または完全欠失ならびにJ2R遺伝子座への外来核酸の挿入が本発明の文脈において意図される。このような改変されたm2-tk-ポックスウイルスは望ましくは腫瘍退縮性である。
【0069】
代わりに、または組み合わせて、改変ポックスウイルスはI4Lおよび/またはF4L遺伝子座においてさらに改変されてもよく(ウイルスリボヌクレオチド還元酵素(rr)タンパク質の発現が抑制される改変が好ましい)、これによって、m2機能とrr機能の両方に欠陥をもつ改変ポックスウイルスが生じる(m2とrrに欠陥をもつポックスウイルス)。天然の状況では、この酵素は、DNA生合成における極めて重要な段階である、リボヌクレオチドからデオキシリボヌクレオチドへの還元を触媒する。このウイルス酵素は哺乳動物酵素とサブユニット構造が似ており、I4L遺伝子座によってコードされるR1と、F4L遺伝子座によってコードされるR2によって設計される2つの非相同サブユニットで構成される。様々なポックスウイルスのI4L遺伝子およびF4L遺伝子の配列ならびにゲノム内での場所は公的データベースにおいて利用可能である(例えば、WO2009/065546を参照されたい)。本発明の文脈において、rr欠陥ポックスウイルスを提供するために、ポックスウイルスは、例えば、前記I4Lおよび/またはF4L遺伝子座の部分的欠失または完全欠失によって、I4L遺伝子(r1大サブユニットをコードする)もしくはF4L遺伝子(r2小サブユニットをコードする)またはその両方において改変することができる。このような改変されたm2-rr-ポックスウイルスは、望ましくは、腫瘍退縮性である。
【0070】
J2RおよびI4L/F4L遺伝子座においてさらに改変されている改変ポックスウイルス(M2L、J2R、およびI4L遺伝子座;M2L、J2R、およびF4L遺伝子座、またはM2L、J2R、I4L、およびF4L遺伝子座において改変のある三重欠陥ウイルス)も提供され、これによって、m2活性、tk活性、およびrr活性に欠陥をもつ改変ポックスウイルス(m2-、tk-rr-ポックスウイルス)が生じる。このような改変されたtk-rr-およびm2-ポックスウイルスは望ましくは腫瘍退縮性である。
【0071】
好ましい態様において、このような二重および三重の欠陥ポックスウイルスは、好ましくは、m2欠陥ポックスウイルスに関して上述されたようにオルトポックスウイルス属またはレポリポックスウイルス属から生じる。MVA以外の腫瘍退縮性ワクシニアウイルスが特に好ましく、Lister、WR、Copenhagen、Wyeth株が特に好ましい。tk活性およびm2活性に欠陥をもつVV、およびtk活性、rr活性、およびm2活性に欠陥をもつVVは、特に、免疫応答(例えば、抗原もしくはそのエピトープに対するリンパ球を介した応答)を刺激もしくは改善するために使用するのに、または本明細書に記載のように増殖性疾患を処置するために使用するのに特に好ましい。
【0072】
他の適切なさらなる改変には、ウイルス血球凝集素(A56R);セリンプロテアーゼインヒビター(B13R/B14R)、補体4b結合タンパク質(C3L)、VGFをコードする遺伝子およびインターフェロン調節遺伝子(B8RまたはB18R)からなる群より選択される1種類または複数種のウイルス遺伝子産物の発現を抑制する改変が含まれる。別の適切な改変は、DNA複製の忠実度の維持と、チミジル酸合成酵素によるTMP産生のための前駆体の提供に関与するウイルスdUTPase(デオキシウリジン三リン酸分解酵素)の発現を抑制する、F2L遺伝子座の不活化を含む(WO2009/065547)。
【0073】
M2Lの場合のように、本明細書において用いられる遺伝子命名法はCopVV株の遺伝子命名法である。これも、特に定めのない限り、他のポックスウイルス科の相同遺伝子について本明細書において用いられ、Copenhagenと他のポックスウイルスとの対応が当業者に利用可能である。
【0074】
さらに別の態様において、本発明の改変ポックスウイルスは腫瘍退縮性である。本明細書で使用する「腫瘍退縮性」という用語は、インビトロまたはインビボでポックスウイルスが分裂細胞(例えば、がん細胞などの増殖性細胞)において、前記分裂細胞の増殖の減速および/または溶解を目標にして選択的に複製できるが、非分裂(例えば、正常または健常)細胞では複製を示さないか、または最小限の複製しか示さないことを指す。「複製(replication)」(または「複製する(replicate)」および「複製する(replicating)」などの複製の任意の形態)は、核酸レベルで、または好ましくは感染性ウイルス粒子のレベルで生じ得るウイルスの複製(duplication)を意味する。「感染性」という用語(または感染する(infect)、感染する(infecting)などの感染性の任意の形態)は、ウイルスが宿主細胞または対象に感染し、侵入できることを示す。典型的に、腫瘍退縮性ポックスウイルスは、ウイルス粒子の中にパッケージングされたウイルスゲノム(キャプシドおよび/またはエンベロープのあるゲノム)を含有するが、この用語は本発明の文脈ではウイルスゲノム(例えば、ゲノムDNA)またはその一部も包含する場合がある。
【0075】
組換えm2欠陥ポックスウイルス
一態様において、本発明の改変ポックスウイルスは組換え体である。
【0076】
本明細書で使用する「組換え」という用語は、ポックスウイルスが少なくとも1つの外来核酸(組換え遺伝子、トランスジーン、または核酸とも呼ばれる)を発現するように操作されていることを示す。本発明の文脈において、ポックスウイルスゲノムに挿入される「外来核酸」は、天然のポックスウイルスゲノムに見出されないか、天然のポックスウイルスゲノムによって発現されない。とはいうものの、外来核酸は、組換えポックスウイルスが導入される対象に対して相同でもよく異種でもよい。より具体的には、外来核酸はヒト由来でもよく、ヒト由来でなくてもよい(例えば、細菌由来、酵母由来、またはポックスウイルスを除くウイルス由来)。有利なことには、前記組換え核酸は、前記疾患に関与する遺伝子を阻害することを目標にして、ポリペプチドをコードするか、または疾患細胞に存在する相補的な細胞核酸(例えば、DNA、RNA、miRNA)と少なくとも部分的に(ハイブリダイゼーションによって)結合することができる核酸配列である。このような組換え核酸は、ネイティブ遺伝子もしくはその一部(例えば、cDNA)、または1つもしくは複数のヌクレオチドの変異、欠失、置換、および/もしくは付加によって得られる、任意のその変種でもよい。
【0077】
一態様において、組換え核酸は、対象に適切に投与された時に、処置しようとする病理学的状態の経過または症状に対する有益な効果につながる、治療上または予防上関心が高いポリペプチド(すなわち、治療上関心が高いポリペプチド)をコードする。数多くの治療上関心が高いポリペプチドが想定され得る。好ましい態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスは、抗原性ポリペプチド(例えば、腫瘍関連抗原またはワクチン抗原)、ヌクレオシド/ヌクレオチド調節機能を有するポリペプチド、および免疫調節性ポリペプチドからなる群より選択される少なくとも1つのポリペプチドを発現するように操作されている。検出可能な遺伝子産物をコードする組換え改変ポックスウイルスも本発明の文脈において有用である場合がある。本明細書で使用する「操作された」とは、宿主細胞または生物において外来核酸が発現されるように、ウイルスゲノムの適切な遺伝子座に(例えば、J2R遺伝子座の代わりに)、適切な調節エレメントの制御下で1つまたは複数の外来核酸が挿入されることを指す。
【0078】
免疫調節性ポリペプチド
一態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスは少なくとも1種類の免疫調節性ポリペプチドを発現するように操作されている。「免疫調節性ポリペプチド」という用語は、直接的または間接的に免疫応答の調節に関与することができるシグナル伝達経路の成分を標的とするポリペプチドを指す。免疫応答を「調節する(modulating)」とは、免疫系の細胞またはこのような細胞(例えば、T細胞)の活性のあらゆる変化を指す。このような調節には、様々な細胞タイプの数の増加もしくは減少、これらの細胞の活性の増加もしくは減少、または免疫系内で生じ得る他の任意の変化によって明らかになる免疫系の刺激または抑制が含まれる。好ましくは、このようなポリペプチドは、少なくとも部分的に阻害経路をダウンレギュレートすることができる(アンタゴニスト)、および/または少なくとも部分的に刺激経路、特に、抗原提示細胞(APC)もしくはがん細胞とエフェクターT細胞との間に存在する免疫経路をアップレギュレートすることができる(アゴニスト)。
【0079】
本明細書に記載の改変ポックスウイルスによって発現される免疫調節性ポリペプチドは、抗原特異的細胞のクローン選択、T細胞活性化、増殖、抗原部位および炎症部位への輸送、直接的なエフェクター機能の実行、およびサイトカインおよび膜リガンドを介したシグナル伝達を含む、T細胞性免疫の任意の段階で作用することができる。これらの工程のそれぞれが、応答を微調整する刺激シグナルおよび阻害シグナルを釣り合わせることによって調節される。
【0080】
適切な免疫調節性ポリペプチドおよびこれを使用する方法は文献に記載されている。例示的な免疫調節性ポリペプチドには、サイトカイン、ケモカイン、リガンドおよび抗体、またはその任意の組み合わせが含まれるが、それに限定されるわけではない。本発明は、複数の免疫調節性ポリペプチド(例えば、1種類のサイトカインおよび1種類の抗体;1種類のサイトカインおよび1種類のリガンド;2種類のサイトカイン;2種類の免疫チェックポイント抗体;1種類のサイトカイン、1種類のリガンド、および1種類の抗体;1種類の抗体および2種類のサイトカインなど)をコードする、改変された、好ましくは腫瘍退縮性のポックスウイルスを包含する。
【0081】
一態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスによって発現される免疫調節性ポリペプチドはサイトカインであり、好ましくは、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-36、IFNa、IFNg、および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)からなる群より選択される。
【0082】
別の態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスによって発現される免疫調節性ポリペプチドはケモカインであり、好ましくは、MIPIα、IL-8、CCL5、CCL17、CCL20、CCL22、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL13、CXCL12、CCL2、CCL19、およびCCL21からなる群より選択される。
【0083】
さらに別の態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスによって発現される免疫調節性ポリペプチドは、独立して、ペプチド(例えば、ペプチドリガンド)、天然受容体の可溶性ドメイン、および抗体からなる群より選択することができる。本発明の文脈では、免疫チェックポイントタンパク質、好ましくは、CD3、4-1BB、GITR、OX40、CD27、CD40、PD1、PDL1、CTLA4、Tim-3、BTLA、Lag-3およびTigitからなる群より選択される免疫チェックポイントタンパク質に特異的に結合する抗体が特に適している。
【0084】
「特異的に結合する」という用語は、他のタンパク質および生物製剤の不均一な集団の存在下でも、特定の標的またはエピトープに対する結合特異性および親和性の能力を指す。従って、指定されたアッセイ条件下で、抗体は、その標的に優先的に結合し、試験試料または対象に存在する他の成分と有意な量で結合しない。好ましくは、このような抗体は、1x10-6Mに等しいか、またはそれより少ない平衡解離定数(例えば、少なくとも0.5x10-6、1x10-7、1x10-8、1x10-9、1x10-10など)で、その標的と高親和性結合を示す。抗体と、その標的との結合能力を評価するための標準的なアッセイは、例えば、ELISA、ウエスタンブロット、RIA、およびフローサイトメトリーを含めて当技術分野において公知である。
【0085】
本発明の文脈において、「抗体」(「Ab」)は最も広い意味で用いられ、合成抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体ならびに完全長抗体およびその断片、変種、または融合を含む、天然の抗体および人間によって操作された抗体を包含する。但し、このような断片、変種、または融合は標的タンパク質との結合特性を保持しているものとする。このような抗体は、任意の起源:ヒトまたは非ヒト(例えば、げっ歯類もしくはラクダ科の動物の抗体)またはキメラの抗体でよい。非ヒト抗体は、ヒトにおける免疫原性を低下するために組換え法によってヒト化することができる。抗体は、周知のアイソタイプのいずれに由来してもよく(例えば、IgA、IgG、およびIgM)、IgGのいずれのサブクラスに由来してもよい(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)。さらに、抗体はグリコシル化されてもよく、部分的にグリコシル化されてもよく、グリコシル化されてなくてもよい。特に文脈によって示されていない限り、「抗体」という用語はまた上記の抗体のいずれかの抗原結合断片も含み、一価または二価の断片および単鎖抗体を含む。抗体という用語はまた、親抗体と同じ結合特異性を示す限り、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体も含む。候補抗体の結合特性をスクリーニングすることは当業者の技術の範囲内である。
【0086】
例示目的で、完全長抗体は、少なくとも2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖がジスルフィド結合によって相互に接続している糖タンパク質である。それぞれの重鎖は重鎖可変領域(VH)と、3つのCH1、CH2およびCH3ドメインで作られる重鎖定常領域(最終的にCH1とCH2との間にはヒンジがある)を含む。それぞれの軽鎖は軽鎖可変領域(VL)と、1つのCLドメインを含む軽鎖定常領域を含む。VH領域およびVL領域は、以下の順序:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4で、フレームワーク領域(FR)と名付けられている4つの保存領域が点在している、相補性決定領域(CDR)と名付けられている3つの超可変領域を含む。重鎖および軽鎖のCDR領域は結合特異性を決定する。本明細書で使用する「ヒト化抗体」とは、ヒト抗体(すなわち、ヒトにおいて天然で産生される)に対する類似性を高めるように改変されているタンパク質配列をもつ、非ヒト(例えば、マウス、ラクダ、ラットなど)抗体を指す。ヒト化プロセスは当技術分野において周知であり、典型的には、ヒト免疫グロブリン配列に似るようにFR領域の1つまたは複数の残基を置換することによって行われるのに対して、可変領域(特に、CDR)の残基の大多数は改変されず、非ヒト免疫グロブリンのものに対応する。「キメラ抗体」は、ある種の1つまたは複数の要素と、別の種の1つまたは複数の要素を含む。例えば、非ヒト抗体は、少なくとも、ヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)の一部を含む。
【0087】
抗原結合断片の代表例は、Fab、Fab’、F(ab’)2、dAb、Fd、Fv、scFv、ds-scFv、およびダイアボディを含めて当技術分野において公知である。特に有用な抗体断片は、最終的にリンカーによって一緒に融合して1つのタンパク質鎖となった、Fv断片の2つのドメインVLおよびVHを含む単鎖抗体(scFv)である。
【0088】
一態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスによって発現される抗体は、T細胞の表面にある分子に特異的に結合する、好ましくは、T細胞活性化の調節に関与する免疫抑制受容体に特異的に結合するモノクローナル抗体または単鎖抗体である。結合能力に加えて、さらに、このような抗体は前記免疫抑制受容体の生物学的活性を阻害することができる。
【0089】
特に好ましい態様は、PD-L1またはCTLA4に特異的に結合する、好ましくは、このような受容体の生物学的活性を阻害する、特に、共刺激CD80および/またはCD86リガンドとの相互作用を阻害することによって、このような受容体の生物学的活性を阻害するアンタゴニスト抗体を発現する、改変された、好ましくは、腫瘍退縮性のポックスウイルスに向けられる。
【0090】
好ましい態様において、本明細書に記載の組換え改変ポックスウイルスによって発現されるアンタゴニスト抗体は、哺乳動物CTLA-4(例えば、ヒトCTLA-4)に特異的に結合し、その免疫抑制シグナル送達能力を(例えば、CTLA-4とCD80およびCD86リガンドとの結合をブロックすることによって)阻害する抗CTLA-4抗体である。
【0091】
従来のポックスウイルスのゲノム内にはM2L遺伝子座があり、発現された抗CTLA-4抗体はCTLA-4を介した免疫抑制シグナルを阻害するように働くが、インサイチューで産生されたM2タンパク質はCD80およびCD86リガンドと相互作用し、従って、CD28を介した共刺激シグナルを低減または阻害する。対照的に、m2機能が無い、抗CTLA-4を発現する、本明細書に記載の改変された(すなわち、m2に欠陥をもつ)ポックスウイルスは、CTLA-4を介した免疫抑制シグナルの阻害と、CD28を介した共刺激シグナルへの免疫応答のリダイレクトが両方とも可能である。
【0092】
多数の抗CTLA-4抗体が当技術分野において利用可能であり(例えば、特に、US8,491,895、WO2000/037504、WO2007/113648、WO2012/122444、およびWO2016/196237に記載されているものを参照されたい)、一部は過去十年間にFDAによって認可されているか、または進行した臨床開発を受けている。本開示において使用できる抗CTLA-4抗体の代表例は、例えば、Bristol Myer SquibbがYervoy(登録商標)として販売しているイピリムマブ(例えば、US6,984,720;US8,017,114を参照されたい)、MK-1308(Merck)、AGEN-1884(Agenus Inc.;WO2016/196237)、およびトレメリムマブ(AstraZeneca;US7,109,003およびUS8,143,379)、ならびに単鎖抗CTLA4抗体(例えば、WO97/20574およびWO2007/123737を参照されたい)である。
【0093】
好ましい態様は、(i)改変された(好ましくは腫瘍退縮性の)ポックスウイルス、好ましくは、抗CTLA-4抗体をコードする、(M2L遺伝子座とJ2R遺伝子座の両方の不活化変異に起因する)m2機能とtk機能の両方に欠陥をもつ腫瘍退縮性ワクシニアウイルス;(ii)改変された(好ましくは腫瘍退縮性の)ポックスウイルス、好ましくは、抗CTLA-4抗体をコードする、(M2L遺伝子座と、I4Lおよび/またはF4L遺伝子の両方の不活化変異に起因する)m2活性とrr活性に欠陥をもつ腫瘍退縮性ワクシニアウイルス、ならびに(iii)改変された(好ましくは腫瘍退縮性の)ポックスウイルス、好ましくは、抗CTLA-4抗体をコードする、(M2L、J2R、およびI4L/F4L遺伝子座の不活化変異に起因する)m2活性、tk活性、およびrr活性に欠陥をもつ腫瘍退縮性ワクシニアウイルスに向けられる。
【0094】
ある特定の態様において、抗CTLA-4抗体はイピリムマブである。
【0095】
ある特定の態様において、抗CTLA-4抗体はトレメリムマブである。
【0096】
本明細書に記載の改変ポックスウイルスによる発現に適した免疫調節性ポリペプチドの別の好ましい例の代表は、PDL-1(プログラム死リガンド-1)に特異的に結合し、その生物学的活性を阻害する抗体である。PD-1/PD-L1受容体/リガンド複合体が形成するとCD8+T細胞が阻害され、従って、免疫応答が阻害される。PD-L1は、PD-1に結合するとT細胞活性化およびサイトカイン分泌をダウンレギュレートする、PD-1の2つの細胞表面糖タンパク質リガンドのうちの1つである(他方はPD-L2)。完全なヒトPD-L1配列はGenBankアクセッション番号Q9NZQ7で見つけることができる。
【0097】
アンタゴニスト抗PD-L1抗体は、Merck、sigma Aldrich、およびAbcamなどの様々な提供業者から当技術分野において入手可能であり、一部はFDAによって認可されているか、または進行した後期臨床開発を受けている。本開示において使用できる抗PD-L1抗体の代表例は、例えば、BMS-936559(Bristol Myer Squibbにより開発中。MDX-1105とも知られる;WO2013/173223)、アテゾリズマブ(Rocheにより開発中;TECENTRIQ(登録商標)とも知られる;US8,217,149)、デュルバルマブ(AstraZeneca;EVIFINZI(商標)とも知られる;WO2011/066389)、MPDL3280A(Genentech/Rocheにより開発中)、ならびにアベルマブ(商品名BavencioでMerckおよびPfizerにより開発された;WO2013/079174)、STI-1014(Sorrento;WO2013/181634)、およびCX-072(Cytomx;WO2016/149201)である。対応するヌクレオチド配列は、入手可能な文献に開示される情報に基づいて標準的な技法に従ってクローニングまたは単離することができる。
【0098】
好ましい態様は、(i)改変された(好ましくは腫瘍退縮性の)ポックスウイルス、好ましくは、抗PD-L1抗体をコードする、(M2L遺伝子座とJ2R遺伝子座の両方の不活化変異に起因する)m2機能とtk機能の両方に欠陥をもつ腫瘍退縮性ワクシニアウイルス;(ii)改変された(好ましくは腫瘍退縮性の)ポックスウイルス、好ましくは、抗PD-L1抗体をコードする、(M2L遺伝子座と、I4Lおよび/またはF4L遺伝子の両方の不活化変異に起因する)m2活性とrr活性に欠陥をもつ腫瘍退縮性ワクシニアウイルス、ならびに(iii)改変された(好ましくは腫瘍退縮性の)ポックスウイルス、好ましくは、抗PD-L1抗体をコードする、(M2L、J2R、およびI4L/F4L遺伝子座の不活化変異に起因する)m2活性、tk活性、およびrr活性に欠陥をもつ腫瘍退縮性ワクシニアウイルスに向けられる。
【0099】
ある特定の態様において、抗PD-L1抗体はアテゾリズマブである。
【0100】
ある特定の態様において、抗PD-L1抗体はデュルバルマブである。
【0101】
ある特定の態様において、抗PD-L1抗体はアベルマブである。
【0102】
他の態様は、(i)改変された、好ましくは、腫瘍退縮性のポックスウイルス、好ましくは、抗CTLA-4抗体と抗PD-L1抗体をコードする、(M2L遺伝子座とJ2R遺伝子座の両方の不活化変異に起因する)m2機能とtk機能の両方に欠陥をもつ腫瘍退縮性ワクシニアウイルス;(ii)改変された、好ましくは、腫瘍退縮性のポックスウイルス、好ましくは、抗CTLA-4抗体と抗PD-L1抗体をコードする、(M2L遺伝子座と、I4Lおよび/またはF4L遺伝子の両方の不活化変異に起因する)m2活性とrr活性に欠陥をもつ腫瘍退縮性ワクシニアウイルス、ならびに(iii)改変された、好ましくは、腫瘍退縮性のポックスウイルス、好ましくは、抗CTLA-4抗体と抗PD-L1抗体をコードする、(M2L、J2R、およびI4L/F4L遺伝子座の不活化変異に起因する)m2活性、tk活性、およびrr活性に欠陥をもつ腫瘍退縮性ワクシニアウイルスに向けられる。
【0103】
ある特定の態様において、抗CTLA-4抗体はイピリムマブであり、抗PD-L1抗体はアベルマブである。
【0104】
抗原性ポリペプチド
「抗原性」という用語は、抗原性があるとみなされたポリペプチドをコードする本明細書に記載の組換えポックスウイルスが導入された対象において、測定可能な免疫応答を誘導または刺激できることを指す。前記組換えポックスウイルスによって発現されたた抗原性ポリペプチドに対する、刺激または誘導された免疫応答は体液性および/または細胞性(例えば、エフェクター免疫細胞の活性化に関与する抗体、サイトカイン、および/またはケモカインの産生)でもよい。刺激または誘導された免疫応答は、通常、投与された対象における保護効果に寄与する。インビボ(動物またはヒト対象)またはインビトロ(例えば、生物学的試料中)でポリペプチドの抗原性を評価するために多種多様な直接的または間接的な生物学的アッセイが当技術分野において利用可能である。例えば、特定の抗原が自然免疫を刺激する能力は、例えば、NK/NKT細胞(例えば、代表的に、活性化レベル)、ならびに、IFN関連サイトカインおよび/またはケモカインを産生するカスケード、TLR活性化(Toll様受容体の場合)、ならびに他の自然免疫マーカーの測定によって実施することができる(Scott-Algara et al., 2010 PLOS One 5(1), e8761; Zhou et al., 2006, Blood 107, 2461-2469; Chan, 2008, Eur. J. Immunol. 38, 2964-2968)。特定の抗原が細胞性免疫応答を刺激する能力は、例えば、本明細書に記載のように、日常的なバイオアッセイ(例えば、エリスポット、マルチパラメータフローサイトメトリー、ICS(細胞内サイトカイン染色の場合)、マルチプレックス(multiplex)技術を用いたサイトカインプロファイル分析、またはELISAによるT細胞の特徴付けおよび/もしくは定量)を用いた、CD4+およびCD8+T細胞に由来するサイトカインを含む、活性化T細胞によって産生されたサイトカインの定量によって、T細胞の増殖能力の測定(例えば、[3H]チミジン取り込みアッセイによるT細胞増殖アッセイ)によって、感作された対象における抗原特異的Tリンパ球に対する細胞傷害能力をアッセイすることによって、またはフローサイトメトリーでリンパ球部分母集団を特定することによって、ならびに適切な動物モデルの免疫化によって実施することができる。
【0105】
抗原性ポリペプチドという用語は、ネイティブ抗原ならびにその断片(例えば、エピトープ、免疫原性ドメインなど)および変種を包含することが意図される。但し、このような断片または変種は免疫応答の標的となることができるものとする。本明細書における使用に好ましい抗原性ポリペプチドは腫瘍関連抗原である。特定の病理学的状態を処置するのに適した1つまたは複数の抗原性ポリペプチドを選択することは当業者の範囲内である。
【0106】
一態様において、組換え改変ポックスウイルスによってコードされる抗原性ポリペプチドは、がんに関連する、および/またはがんマーカーとして役立つがん抗原(腫瘍関連抗原またはTAAとも呼ばれる)である。がん抗原は、ポリペプチドの様々なカテゴリー、例えば、健常細胞では通常サイレント(silent)な(すなわち、発現しない)ポリペプチド、低レベルでしか発現しないか、またはある特定の分化段階でしか発現しないポリペプチド、および一時的に発現するポリペプチド、例えば、胚抗原および胎児抗原、ならびに細胞遺伝子、例えば、がん遺伝子(例えば、活性化rasがん遺伝子)、がん原遺伝子(例えば、ErbBファミリー)の変異に起因するポリペプチド、または染色体転座に起因するタンパク質を包含する。
【0107】
非常に多くの腫瘍関連抗原が当技術分野において公知である。例示的な腫瘍抗原には、特に、結腸直腸関連抗原(CRC)、がん胎児抗原(CEA)、前立腺特異的抗原(PSA)、BAGE、GAGEまたはMAGE抗原ファミリー、p53、ムチン抗原(例えば、MUC1)、HER2/neu、p21ras、hTERT、Hsp70、iNOS、チロシンキナーゼ、メソテリン、c-erbB-2、αフェトプロテイン、AM-1、およびその任意の免疫原性エピトープまたは変種が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0108】
腫瘍関連抗原はまた、対応する野生型抗原と比べてアミノ酸残基の1つまたは複数の変異を含む、がん細胞における発がんプロセス中に現れたネオエピトープ(neo-epitope)/抗原も包含し得る。典型的に、これは、患者から得られたがん細胞またはがん組織において見出されるが、患者または健常個体から得られた正常細胞または正常組織では見出されない。
【0109】
腫瘍関連抗原はまた、対象(特に、慢性的に感染している対象)において悪性状態を誘導することができる病原性生物、例えば、RNAおよびDNA腫瘍ウイルス(例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、エプスタイン-バーウイルス(EBV)など)および細菌(例えば、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pilori))によってコードされる抗原も包含し得る。
【0110】
別の態様において、組換え改変ポックスウイルスによってコードされる抗原性ポリペプチドは、ヒトまたは動物対象に送達された時に、感染症を治療的または予防的に防ぐことを目標とするワクチン抗原である。非常に多くのワクチン抗原が当技術分野において公知である。例示的なワクチン抗原には、細胞抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、または寄生生物抗原が含まれるが、これに限定されない。細胞抗原にはムチン1(MUC1)糖タンパク質が含まれる。ウイルス抗原には、例えば、肝炎ウイルスA、B、C、D、およびE、免疫不全症ウイルス(例えば、HIV)、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹、パピローマウイルス、エプスタイン-バーウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、コックスサキー(coxsakie)ウイルス、ピコルナウイルス、ロタウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ライノウイルス、風疹ウイルス、パポウイルス(papovirus)、おたふく風邪ウイルス、麻疹ウイルス、ならびに狂犬病(rabbies)ウイルスに由来する抗原が含まれる。HIV抗原のいくつかの非限定的な例には、gp120gp40、gp160、p24、gag、pol、env、vif、vpr、vpu、tat、rev、neftat、nefが含まれる。ヒトヘルペスウイルス抗原のいくつかの非限定的な例には、gH、gL、gM、gB、gC、gK、gE、もしくはgD、または最初期タンパク質、例えば、HSV1またはHSV2に由来するICP27、ICP47、ICP4、ICP36が含まれる。サイトメガロウイルス抗原のいくつかの非限定的な例にはgBが含まれる。エプスタイン-バーウイルス(EBV)に由来する抗原のいくつかの非限定的な例にはgp350が含まれる。水痘帯状疱疹ウイルス抗原のいくつかの非限定的な例には、gp1、11、111およびIE63が含まれる。C型肝炎ウイルス抗原のいくつかの非限定的な例には、envE1またはE2タンパク質、コアタンパク質、NS2、NS3、NS4a、NS4b、NS5a、NS5b、p7が含まれる。ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原のいくつかの非限定的な例には、L1、L2、E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7が含まれる。他のウイルス病原体に由来する抗原、例えば、呼吸器合胞体ウイルス(例えば、FおよびGタンパク質)、パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、おたふく風邪ウイルス、フラビウイルス(例えば、黄熱病ウイルス、デングウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス)およびインフルエンザウイルス細胞(例えば、HA、NP、NA、またはMタンパク質)も本発明に従って使用することができる。細菌抗原には、例えば、TB、ハンセン病(leprosy)を引き起こすマイコバクテリア、肺炎球菌(pneumocci)、好気性グラム陰性桿菌、マイコプラズマ、ブドウ球菌属(staphyloccocus)、連鎖球菌属(streptococcus)、サルモネラ菌、クラミジア、ナイセリア属(neisseriae)などに由来する抗原が含まれる。寄生生物抗原性ポリペプチドには、例えば、マラリア、リーシュマニア症、トリパノソーマ症、トキソプラズマ症、住血吸虫症、およびフィラリア症に由来する抗原が含まれる。
【0111】
ヌクレオシドプールモジュレーター
一態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスは、そのゲノムに、ヌクレオシドプールモジュレーター機能を有する1つまたは複数の組換え遺伝子を保持している。代表例には、シチジンデアミナーゼ、特に、酵母シチジンデアミナーゼ(CDD1)またはヒトシチジンデアミナーゼ(hCD)(WO2018/122088を参照されたい);代謝経路および免疫経路に作用するポリペプチド(例えば、アデノシンデアミナーゼ、特に、ヒトアデノシンデアミナーゼhuADA1またはhuADA2;EP17306012.0を参照されたい);アポトーシス経路に作用するポリペプチド;(制限酵素、CRISPR/Cas9のような)エンドヌクレアーゼ、および標的特異的RNA(例えば、miRNA、shRNA、siRNA)が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0112】
検出可能な遺伝子産物
典型的に、このようなポリペプチドは、分光学的手段、光化学的手段、生化学的手段、免疫化学的手段、化学的手段、または他の物理的手段によって検出可能であり、従って、宿主細胞または対象の中で組換えポックスウイルスを特定できる可能性がある。適切な検出可能な遺伝子産物の非限定的な例には、蛍光手段によって検出可能なmCherry、Emerald、ホタルルシフェラーゼ、および緑色蛍光タンパク質(GFPおよびその強化バージョンe-GFP)、ならびに比色手段によって検出可能なβ-ガラクトシダーゼが含まれる。
【0113】
組換え遺伝子の発現
治療上関心が高いポリペプチド、例えば、上記で引用されたポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、標準的な分子生物学技法(例えば、PCR増幅、cDNAクローニング、化学合成)によって、当技術分野においてアクセス可能な配列データと、本明細書において提供される情報を用いて簡単に得られる可能性がある。例えば、抗体、その断片および類似体をクローニングする方法は当技術分野において公知である(例えば、Harlow and Lane, 1988, Antibodies-A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor NYを参照されたい)。抗体をコードする核酸分子が、産生中のハイブリドーマ(例えば、Cole et al. Monoclonal antibodies and Cancer Therapy; Alan Liss pp77-96)、免疫グロブリン遺伝子ライブラリー、または任意の利用可能な供給源から単離されてもよく、ヌクレオチド配列が化学合成によって作成されてもよい。
【0114】
さらに、組換え核酸は、特定の宿主細胞または対象において高レベル発現をもたらすように最適化することができる。生物のコドン使用頻度(codon usage)パターンが極めて非ランダムであり、コドン使用が異なる宿主間で著しく異なる場合があることが実際に観察されている。例えば、治療用遺伝子が細菌、ウイルス、または下等真核生物に由来し、従って、高等真核細胞(例えば、ヒト)における効率的な発現には不適切なコドン使用頻度パターンを有する場合がある。典型的に、コドン最適化は、宿主生物において、まれにしか用いられないコドンに対応する1つまたは複数の「ネイティブ」(例えば、細菌、ウイルス、または酵母)コドンを、もっとよく用いられる、同じアミノ酸をコードする1つまたは複数のコドンと交換することによって行われる。部分的な交換でも発現を増やすことができるので、まれにしか用いられないコドンに対応する全てのネイティブコドンを交換する必要はない。
【0115】
コドン使用頻度の最適化に加えて、宿主細胞または対象における発現は、組換え核酸配列のさらなる改変によって、さらに改善することができる。例えば、集中した領域に、まれな、最適でないコドンのクラスター形成が存在しないようにする、および/または発現レベルに負の影響を及ぼすと予想される「負の(negative)」配列エレメントを抑制もしくは改変する様々な改変が想定され得る。このような負の配列エレメントには、非常に多い(>80%)もしくは非常に少ない(<30%)GC含量を有する領域;ATリッチもしくはGCリッチ配列領域;不安定な直列反復配列もしくは逆方向反復配列;RA二次構造;ならびに/または内部暗号調節エレメント(internal cryptic regulatory element)、例えば、内部TATAボックス、chi部位、リボソーム進入部位、および/もしくはスプライシングドナー/アクセプター部位が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0116】
本発明によれば、1つまたは複数の組換え核酸分子はそれぞれ、宿主細胞または対象において発現するために適切な調節エレメントに機能的に連結される。本明細書で使用する「調節エレメント」または「制御配列」という用語は、核酸またはその誘導体(すなわち、mRNA)の複製、重複(duplication)、転写、スプライシング、翻訳、安定性、および/または輸送を含む、所定の宿主細胞または対象においてコード核酸の発現を可能にする、それに寄与する、またはそれを調節する任意のエレメントを指す。本明細書で使用する「機能的に連結された」とは、所期の目的に合わせて機能するように、連結されているエレメントが配置されていることを意味する。例えば、プロモーターは許容宿主細胞において前記核酸分子の転写開始からターミネーターまで転写を引き起こすのであれば核酸分子に機能的に連結されている。
【0117】
制御配列の選択は、核酸そのもの、核酸が挿入されるウイルス、宿主細胞または対象、望ましい発現レベルなどのような要因に左右される場合があることが当業者により理解される。プロモーターは特に重要である。本発明の文脈において、プロモーターは多くのタイプの宿主細胞において核酸分子の発現を構成的に指示してもよく、ある特定の宿主細胞に特異的であってもよく(例えば、肝臓特異的制御配列)、特定の事象または外因性因子に応答して(例えば、温度、栄養添加物、ホルモンなどによって)またはウイルスサイクルの段階(例えば、後期または初期)に従って調節されてもよい。ウイルス産生を最適化するために、および発現されたポリペプチドの潜在的な毒性を回避するために、特定の事象または外因性因子に応答して産生工程中に抑制されるプロモーターも使用される場合がある。
【0118】
本明細書に記載の改変ポックスウイルスによる組換え遺伝子を発現させるために、ポックスウイルスプロモーターが特に適合される。代表例には、ワクシニア7.5K、H5R、11K7.5(Erbs et al., 2008, Cancer Gene Ther. 15(1): 18-28)、TK、p28、p11、pB2R、pA35R、およびK1Lプロモーター、ならびに合成プロモーター、例えば、Chakrabarti et al. (1997, Biotechniques 23: 1094-7; Hammond et al, 1997, J. Virol Methods 66: 135-8;およびKumar and Boyle, 1990, Virology 179: 151-8)に記載のもの、ならびに早期/後期キメラプロモーターが含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0119】
当業者は、ポックスウイルスゲノムに挿入される、核酸分子の発現を制御する調節エレメントが、転写の正しい開始、調節、および/または終結のための(例えば、ポリA転写終結配列)、mRNA輸送のための(例えば、核局在化シグナル配列)、プロセシングのための(例えば、スプライシングシグナル)、ならびに安定性のための(例えば、イントロンならびにノンコーディング5'配列および3'配列)、翻訳のための(例えば、イニシエーターMet、トリパータイトリーダー配列、IRESリボソーム結合部位、シグナルペプチドなど)、さらなるエレメントをさらに含んでもよいことを理解する。
【0120】
適宜、組換えポリペプチドは、その発現、輸送、および生物学的活性を容易にするために、さらなる調節エレメントを含むことが有利な場合がある。例えば、感染細胞からの分泌を容易にするためにシグナルペプチドが含まれる場合がある。シグナルペプチドは典型的にはタンパク質のN末端にMetイニシエーターのすぐ後ろで挿入される。シグナルペプチドの選択は広範であり、当業者にアクセス可能である。感染細胞の適切な膜(例えば、原形質膜)での、コードされるポリペプチドの固定を容易にするために膜貫通ドメインを付加することも想定される場合がある。膜貫通ドメインは、典型的には、タンパク質のC末端に、停止コドンのすぐ前、または停止コドンのすぐ近くで挿入される。多種多様な膜貫通ドメインが当技術分野において利用可能である(例えば、WO99/03885を参照されたい)。
【0121】
さらなる例として、コードされる遺伝子産物の発現、輸送、または精製を追跡するために、ペプチドタグ(典型的には、利用可能な抗血清または化合物によって認識することができる短いペプチド配列)も付加される場合がある。PKタグ、FLAGオクタペプチド、MYCタグ、HISタグ(通常、4~10ヒスチジン残基の領域)、およびe-タグ(US6,686,152)を含むが、それに限定されるわけではない多種多様なタグペプチドを本発明の文脈において使用することができる。タグペプチドは、独立して、タンパク質のN末端、もしくはC末端、もしくは内部に配置されてもよく、いくつかのタグが用いられる時には、これらの位置のいずれに配置されてもよい。タグペプチドは抗タグ抗体を用いた免疫検出アッセイによって検出することができる。
【0122】
別の例として、グリコシル化を変えて、コードされる遺伝子産物の生物学的活性を高めることができる。このような改変は、例えば、グリコシル化部位内にある1つまたは複数の残基を変異させることによって成し遂げることができる。グリコシル化パターンが変わると、抗体のADCC能力および/または標的に対する親和性が高まる可能性がある。
【0123】
本発明の状況において追求され得る別のアプローチは、本明細書に記載の改変ポックスウイルスによってコードされる組換え遺伝子産物と、細胞傷害剤および/または標識剤などの外部薬剤とのカップリングである。本明細書で使用する「細胞傷害剤」という用語は、細胞に対して直接的な毒性がある(例えば、複製または増殖を阻止する)化合物、例えば、毒素(例えば、酵素的に活性がある、細菌由来、真菌由来、植物由来、もしくは動物由来の毒素、またはその断片)を指す。本明細書で使用する「標識剤」は、検出可能な化合物を指す。標識剤は、それ自体で検出可能であってもよく(例えば、放射性同位体標識または蛍光標識)、酵素標識の場合は、検出可能な基質化合物の化学修飾を触媒してもよい。カップリングは、治療用ポリペプチドと外部薬剤との遺伝子融合によって行われてもよい。
【0124】
(適切な調節エレメントが付いている)組換え核酸のポックスウイルスゲノムへの挿入は、適切な制限酵素を用いた、または好ましくは相同組換えによる従来手段によって行われる。
【0125】
さらなる一局面において、本発明は、5’側および3’側で、それぞれ、挿入部位の上流および下流に存在するウイルス配列と隣接している組換え核酸(とその調節エレメント)を含むトランスファープラスミド(transfer plasmid)とウイルスゲノムとの間の相同組換えによって、本明細書に記載の改変ポックスウイルス、特に、組換え腫瘍退縮性ポックスウイルスを作製するための方法を提供する。一態様において、前記方法は、(例えば、従来の分子生物学的方法によって)前記トランスファープラスミドを作製する工程、および前記トランスファープラスミドを、特に、トランスファープラスミドに存在する隣接配列を含むポックスウイルスゲノム(例えば、M2L不活化ウイルス)と一緒に適切な宿主細胞に導入する工程を含む。好ましくは、トランスファープラスミドはトランスフェクションによって宿主細胞に導入され、感染によってウイルスに導入される。
【0126】
それぞれの隣接ウイルス配列のサイズは異なってもよい。サイズは、通常、少なくとも100bp、多くて1500bp、好ましくは、組換え核酸の両側で約150~800bp、有利なことには180~600bp、好ましくは200~550bp、より好ましくは250~500bpである。
【0127】
組換え核酸分子は、独立して、ポックスウイルスゲノムの任意の場所に挿入することができ、挿入は、当技術分野において周知の日常的な分子生物学によって行うことができる。様々な挿入部位が、例えば、ポックスウイルスゲノムの不必要なウイルス遺伝子、遺伝子間領域、またはノンコーディング部分の中にあると考えられ得る。本発明の文脈ではJ2R遺伝子座が特に適している。上記のように、外来核酸がポックスウイルスゲノムに挿入されると、挿入部位にあるウイルス遺伝子座は少なくとも部分的に欠失され、これによって、例えば、全体的または部分的に欠失された遺伝子座によってコードされるウイルス遺伝子産物の発現が抑制され、前記ウイルス機能に欠陥のあるウイルスが生じる可能性がある。
【0128】
ある特定の態様において、改変ポックスウイルスの特定は、選択および/または検出可能な遺伝子を用いることで容易になる場合がある。好ましい態様において、トランスファープラスミドは、選択マーカー、特に好ましくは、選択培地中(例えば、ミコフェノール酸、キサンチン、およびヒポキサンチンの存在下)での増殖を可能にするGPT遺伝子(グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼをコードする)、または検出可能な遺伝子産物、例えば、GFP、e-GFP、もしくはmCherryをコードする検出可能な遺伝子をさらに含む。さらに、前記選択または検出可能な遺伝子において、二本鎖切断を行うことができるエンドヌクレアーゼの使用も考慮される場合がある。前記エンドヌクレアーゼはタンパク質の形をとってもよく、発現ベクターによって発現されてもよい。
【0129】
改変ポックスウイルスの作製を可能にする相同組換えは、好ましくは、適切な宿主細胞(例えば、HeLaまたはCEF細胞)において行われる。
【0130】
ポックスウイルス産生
典型的に、本発明の改変ポックスウイルスは、感染性ポックスウイルス粒子が産生および回収されるように適切な条件下で、トランスフェクトされた、または感染した宿主細胞を培養する工程を含む従来技法を用いて適切な宿主細胞株の中に産生される。
【0131】
従って、別の局面において、本発明は、本明細書に記載の改変ポックスウイルスを産生するための方法に関する。好ましくは、前記方法は、(a)プロデューサー細胞株を調製する工程、(b)調製されたプロデューサー細胞株に改変ポックスウイルスをトランスフェクトする工程、または調製されたプロデューサー細胞株に改変ポックスウイルスを感染させる工程、(c)ウイルス(例えば、感染性ポックスウイルス粒子)の産生が可能であるように適切な条件下で、トランスフェクトされた、または感染したプロデューサー細胞株を培養する工程、(d)前記プロデューサー細胞株の培養物から、産生されたウイルスを回収する工程、任意で(e)前記回収されたウイルスを精製する工程を含む。
【0132】
一態様において、プロデューサー細胞は、HeLa細胞(例えば、ATCC-CRM-CCL-2商標もしくはATCC-CCL-2.2商標)、HER96、PER-C6(Fallaux et al., 1998, Human Gene Ther. 9: 1909-17)、およびハムスター細胞株、例えば、BHK-21(ATCC CCL-10)からなる群より選択される哺乳動物(例えば、ヒトもしくは非ヒト)細胞、またはトリ細胞、例えば、WO2005/042728、WO2006/108846、WO2008/129058、WO2010/130756、WO2012/001075などに記載のうちの1つ)、ならびに受精卵から得られたニワトリ胚から調製された初代ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)である。
【0133】
プロデューサー細胞は、好ましくは、必要であれば、血清および/または適切な増殖因子が加えられる場合がある、または加えられない場合がある(例えば、合成培地、好ましくは、動物由来製品もしくはヒト由来製品を含まない合成培地)、適切な培地中で培養される。適切な培地は、プロデューサー細胞に応じて当業者によって容易に選択され得る。このような培地は市販されている。プロデューサー細胞は、好ましくは、感染前1~8日にわたって、+30℃~+38℃に含まれる温度(より好ましくは、約37℃)で培養される。必要であれば、総細胞数を増やすために1~8日の数回の継代が行われる場合がある。
【0134】
工程(b)では、適切な条件下で、プロデューサー細胞の増殖性感染を可能にする適切な感染多重度(MOI)を用いてプロデューサー細胞に改変ポックスウイルスを感染させる。例示目的で、適切なMOIは10-3~20であり、特に好ましくは、MOIは0.01~5を含み、より好ましくは0.03~1を含む。感染工程は、プロデューサー細胞の培養に用いられる培地と同じでもよく、異なってもよい培地中で行われる。
【0135】
次いで、工程(c)では、子孫ポックスウイルス(例えば、感染性ウイルス粒子)が産生されるまで、感染したプロデューサー細胞が、当業者に周知の適切な条件下で培養される。感染したプロデューサー細胞の培養も、好ましくは、プロデューサー細胞の培養に使用した、および/または感染工程に使用した培地と同じでもよく、異なってもよい培地中で+32℃~+37℃で1~5日間行われる。
【0136】
工程(d)では、工程(c)において産生されたポックスウイルスが培養上清および/またはプロデューサー細胞から収集される。プロデューサー細胞からの回収には、ウイルスを遊離するためにプロデューサー細胞膜を破壊する工程が必要となる場合がある。プロデューサー細胞膜の破壊は、凍結/解凍、低浸透圧溶解、超音波処理、顕微溶液化(microfluidization)、高剪断(高速とも呼ばれる)ホモジナイゼーション、または高圧ホモジナイゼーションを含むが、これに限定されない当業者に周知の様々な技法によって誘導することができる。
【0137】
次いで、回収されたポックスウイルスは用量単位で分配され、本発明に従って使用される前に少なくとも部分的に精製されてもよい。例えば、清澄化、酵素的処理(例えば、エンドヌクレアーゼ、プロテアーゼなど)、クロマトグラフィー工程、および濾過工程を含む、数多くの精製工程および方法が当技術分野において利用可能である。適切な方法が当技術分野において説明されている(例えば、WO2007/147528;WO2008/138533、WO2009/100521、WO2010/130753、WO2013/022764を参照されたい)。
【0138】
一態様において、本発明はまた、本明細書に記載の改変ポックスウイルスに感染した細胞も提供する。
【0139】
組成物
本発明はまた、治療的有効量の本明細書に記載の改変ポックスウイルス(活性薬剤)と、薬学的に許容されるビヒクルを含む組成物も提供する。このような組成物は、1回または数回、同じ経路または異なる経路を介して投与されてもよい。
【0140】
「治療的有効量」は、1つまたは複数の有益な結果を生じるのに十分な、改変ポックスウイルスの量に対応する。このような治療的有効量は、様々なパラメータ、特に、投与方法;疾患状態;対象の年齢および体重;対象が処置に応答する能力;同時処置の種類;処置の頻度;ならびに/または予防もしくは療法の必要の関数として変化することがある。予防的使用が関係する時には、本発明の組成物は、特に、リスクのある対象において、増殖性疾患(例えば、がん)の発症および/または確立および/または再発を阻止または遅延するのに十分な用量で投与される。「治療的」使用の場合、前記組成物は、増殖性疾患(例えば、がん)を有すると診断された対象に、疾患を処置するという目標をもって、最終的には、1つまたは複数の従来の治療モダリティに付随して投与される。特に、治療的有効量は、ベースライン状態と比べて、または処置されていない場合は予想された状態と比べて、臨床状態の観察可能な改善、例えば、腫瘍数の減少、腫瘍サイズの縮小、転移数または転移の程度(extend)の減少、軽快の長さの増加、疾患状態の安定化(すなわち、悪化なし)、疾患進行または重篤度の遅延または減速、疾患状態の寛解または緩和、生存期間の延長、標準的な処置に対する応答の向上、生活の質の改善、死亡率の低下などを引き起こすのに必要な量でもよい。例えば、腫瘍を監視するために、検査室で日常的に用いられる技法(例えば、フローサイトメトリー、組織学、医用イメージング)が使用され得る。
【0141】
治療的有効量はまた、有効な、非特異的(先天的)免疫応答および/または特異的(適応)免疫応答の発生を引き起こすのに必要な量である場合がある。典型的に、免疫応答、特に、T細胞応答の発生はインビトロで評価されてもよく、適切な動物モデルにおいて評価されてもよく、対象から収集した生物学的試料を用いて評価されてもよい(ELISA、フローサイトメトリー、組織学など)。処置される対象に存在する抗腫瘍応答に関与する異なる免疫細胞集団、例えば、細胞傷害性T細胞、活性化細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー細胞、および活性化ナチュラルキラー細胞を特定するために様々な利用可能な抗体も用いられる場合がある。臨床状態の改善は、医師または他の熟練した医療スタッフが通常使用する任意の関連する臨床測定法によって簡単に評価することができる。
【0142】
「薬学的に許容されるビヒクル」という用語は、哺乳動物、特に、ヒト対象における投与と適合する、任意の、および全ての担体、溶媒、希釈剤、賦形剤、アジュバント、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、吸収剤などを含むことが意図される。薬学的に許容されるビヒクルの非限定的な例には、水、NaCl、正常食塩溶液、乳酸加リンゲル液、糖類溶液(例えば、グルコース、トレハロース、サッカロース、デキストロースなど)、アルコール、油、ゼラチン、炭水化物、例えば、ラクトース、アミロースまたはデンプン、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロースなどが含まれ、他の生理的平衡食塩水も使用される場合がある(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, A. Gennaro, Lippincott, Williams&Wilkinsの最新版を参照されたい)。
【0143】
一態様において、前記組成物は、冷凍温度(例えば、-70℃~-10℃)、冷蔵温度(例えば、4℃)、または周囲温度(例えば、20~25℃)で製造および長期保管(すなわち、少なくとも6ヶ月、好ましくは、少なくとも2年)する条件下で改変ポックスウイルス活性薬剤の安定性を確実にするように適切に製剤化される。このような製剤は一般的に水溶液などの液体担体を含む。
【0144】
有利なことに、前記組成物は、ヒトでの使用のために、好ましくは生理学的pH、またはわずかに塩基性のpH(例えば、約pH7~約pH9。pHは7~8を含むことが特に好ましく、具体的には7.5に近い)で適切に緩衝化される。適切な緩衝液には、TRIS(tris(ヒドロキシメチル)メチルアミン)、TRIS-HCl(tris(ヒドロキシメチル)メチルアミン-HCl)、HEPES(4-2-ヒドロキシエチル-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、リン酸緩衝液(例えば、PBS)、ACES(N-(2-アセトアミド)-アミノエタンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン-N,N’-bis(2-エタンスルホン酸))、MOPSO(3-(N-モルホリノ)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、TES(2-{[tris(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}エタンスルホン酸)、DIPSO(3-[bis(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸)、MOBS(4-(N-モルホリノ)ブタンスルホン酸)、TAPSO(3-[N-Tris(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、HEPPSO(4-(2-ヒドロキシエチル)-ピペラジン-1-(2-ヒドロキシ)-プロパンスルホン酸)、POPSO(2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)ピペラジン-1-イル]プロパン-1-スルホン酸)、TEA(トリエタノールアミン)、EPPS(N-(2-ヒドロキシエチル)-ピペラジン-N’-3-プロパンスルホン酸)、およびTRICINE(N-[Tris(ヒドロキシメチル)-メチル]-グリシン)が含まれるが、それに限定されるわけではない。好ましくは、前記緩衝液は、TRIS-HCl、TRIS、トリシン、HEPES、およびNa2HPO4とKH2PO4の混合物またはNa2HPO4とNaH2PO4の混合物を含むリン酸緩衝液より選択される。前記緩衝液(特に前述したもの、特にTRIS-HCl)は、好ましくは10~50mMの濃度で存在する。
【0145】
適切な浸透圧を確実にするために製剤には一価塩を含めることも有益な場合がある。前記一価塩は特にNaClおよびKClより選択される場合があり、好ましくは、前記一価塩は、NaCl、好ましくは、10~500mMの濃度のNaClである。
【0146】
前記組成物はまた、低い保管温度で改変ポックスウイルスを守るために凍結防御物質を含むように製剤化される場合がある。適切な凍結防御物質には、好ましくは、0.5~20%(g単位の重量/L単位の体積。w/vと呼ばれる)の濃度で、スクロース(またはサッカロース)、トレハロース、マルトース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、およびグリセロールが含まれるが、それに限定されるわけではない。例えば、スクロースは好ましくは5~15%(w/v)の濃度で存在する。
【0147】
改変ポックスウイルス組成物、特に、その液体組成物は、安定性を改善するために、薬学的に許容されるキレート剤をさらに含む場合がある。薬学的に許容されるキレート剤は、特に、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1,2-bis(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、および2,3-ジメルカプト-1-プロパンスルホン酸(DMPS)より選択され得る。薬学的に許容されるキレート剤は、少なくとも50μMの濃度、特に好ましくは50~1000μMの濃度で存在する。好ましくは、前記薬学的に許容されるキレート剤は、150μMに近い濃度で存在するEDTAである。
【0148】
改変ポックスウイルス組成物の安定性を高めるために、さらなる化合物がさらに存在する場合がある。このようなさらなる化合物には、C2-C3アルコール(望ましくは、0.05~5%(体積/体積またはv/v)の濃度)、グルタミン酸ナトリウム(望ましくは、10mM未満の濃度)、非イオン性界面活性剤(US7,456,009、US2007-0161085)、例えば、0.1%未満の低濃度のTween80(ポリソルベート80とも知られる)が含まれるが、それに限定されるわけではない。MgCl2またはCaCl2などの二価塩は液体状態で様々な生物製品の安定化を誘導することが見出されている(Evans et al. 2004, J Pharm Sci. 93:2458-75およびUS7,456,009を参照されたい)。アミノ酸、特に、ヒスチジン、アルギニン、および/またはメチオニンは液体状態で様々なウイルスの安定化を誘導することが見出されている(WO2016/087457を参照されたい)。
【0149】
デキストランまたはポリビニルピロリドン(PVP)などの高分子量重合体の存在は、真空乾燥および凍結乾燥を伴うプロセスによって得られる凍結乾燥組成物に特に適しており、これらの重合体の存在は凍結乾燥中のケーク(cake)の形成を助ける(例えば、WO03/053463;WO2006/085082;WO2007/056847;WO2008/114021およびWO2014/053571を参照されたい)。
【0150】
本発明によれば、前記組成物の製剤はまた、インビボで正しい分布または遅延放出を確実なものにするように投与方法に適合することもできる。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸、およびポリエチレングリコールなどの生分解性および生体適合性の重合体を使用することができる(例えば、J. R. Robinson編 「Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems」, Marcel Dekker, Inc., New York, 1978; WO01/23001; WO2006/93924; WO2009/53937を参照されたい)。
【0151】
例示目的で、-20℃~5℃での本明細書に記載の組成物の保存には、サッカロース5%(w/v)、グルタミン酸ナトリウム10mM、およびNaCl 50mMを含むTris緩衝化製剤(Tris-HCl pH8)が適合される。
【0152】
投与量
好ましい態様において、前記組成物は個々の用量で製剤化され、各用量は、使用される定量法に応じて、約103~1012vp(ウイルス粒子)、iu(感染単位)、またはpfu(プラーク形成単位)の改変ポックスウイルスを含有する。試料中に存在するウイルスの量は、日常的な滴定法によって、例えば、許容細胞(例えば、HeLa細胞)感染後にプラーク数を数えてプラーク形成単位(pfu)力価を得ることによって、A260吸光度(vp力価)を測定することによって、または定量免疫蛍光法によって、例えば、抗ウイルス抗体(iu力価)を用いた定量免疫蛍光法によって求めることができる。適切な投与量を対象または対象群に合わせるのに必要な、計算のさらなる改良は、関連する状況を考慮して、専門家によって日常的になされ得る。全般的な案内として、ポックスウイルス組成物に適した個々の用量は、約103~約1012pfu、有利なことには、約104pfu~約1011pfu、好ましくは、約105pfu~約1010pfu、より好ましくは、約106pfu~約109pfuを含み、特に、約106、5x106、107、5x107、108、または5x108pfuの個々の用量が特に好ましい。
【0153】
投与
本発明の状況では、非経口経路、局部経路、または粘膜経路を含む、従来の投与経路のどれでも適用することができる。非経口経路は注射または注入として投与するためのものであり、全身経路ならびに局所経路を包含する。ポックスウイルス組成物を投与するために使用され得る非経口注射タイプには、静脈内(静脈の中に)、血管内(血管の中に)、動脈内(肝臓動脈などの動脈の中に)、皮内(真皮の中に)、皮下(皮膚の下に)、筋肉内(筋肉の中に)、腹腔内(腹膜の中に)、および腫瘍内(腫瘍の中に、またはそのすぐ近くに)と、乱切も含まれる。投与は単回ボーラス用量の形をとってもよく、例えば、連続灌流ポンプによるものでもよい。粘膜投与には、経口/食事経路、鼻腔内経路、気管内経路、肺内経路、膣内経路、または直腸内経路が含まれるが、それに限定されるわけではない。局部投与も経皮的手段(例えば、パッチなど)を用いて実施することができる。好ましくは、改変ポックスウイルス組成物は静脈内投与のために、または腫瘍での、もしくはその付近での腫瘍内投与のために製剤化されている。
【0154】
投与では、従来の注射器および針(例えば、Quadrafuse注射針)、または対象における改変ポックスウイルスの送達を容易にするか、もしくは改善することができる当技術分野において利用可能な任意の化合物もしくは装置(例えば、筋肉内投与を容易にするためのエレクトロポレーション)が用いられる場合がある。代替案はニードルレス(needleless)注射装置(例えば、Biojector(商標)装置)の使用である。経皮パッチも想定される場合がある。
【0155】
本明細書に記載の組成物は単回投与または一連の投与に適している。休薬期間後に繰り返される連続した投与サイクルを介して進行することも可能である。各投与間の間隔は、3日~約6ヶ月(例えば、24時間、48時間、72時間、毎週、2週間ごと、毎月、または年4回など)でもよい。間隔はまた不定期でもよい。用量は上記の範囲内で投与ごとに変化することがある。好ましい治療計画はポックスウイルス組成物の2~10回の毎週投与と、おそらく、それに続く、さらに長い間隔(例えば、3週間)での2~15回の投与を伴う。
【0156】
本発明のm2欠陥ポックスウイルスおよび組成物を使用する方法
別の局面において、本明細書に記載の組成物は、本明細書に記載のモダリティに従って増殖性疾患を処置または予防するために使用するためのものである。従って、本発明はまた、前記組成物を、処置を必要とする対象(好ましくは、がんに罹患している対象)に、このような疾患を処置または予防するのに十分な量で投与する工程を含む処置方法、ならびに前記組成物を対象に投与する工程を含む、腫瘍細胞増殖を阻害するための方法も提供する。本発明の文脈において、本明細書に記載の方法および使用は、増殖性疾患の発生または進行の減速、治癒、寛解、または管理を目標としている。
【0157】
本明細書で使用する「増殖性疾患」という用語は、がん、ならびに破骨細胞活性の増加に関連する疾患(例えば、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症など)、ならびに心血管疾患(例えば、血管壁の平滑筋細胞の増殖に起因する再狭窄)、を含む、制御されていない細胞増殖および拡大に起因する様々な疾患の幅広いグループを包含する。無秩序な細胞分裂および成長は、隣接組織に浸潤する悪性腫瘍が形成する原因となる場合があり、リンパ系または血流を介して身体の離れた部分に転移することもできる。「がん」という用語は、「腫瘍」、「悪性腫瘍」、「新生物」などという用語のどれとも区別なく使用することができ、任意のタイプの組織、器官、または細胞、任意の段階の悪性腫瘍(例えば、前病変(prelesion)からステージIV)を含むことが意図され、固形腫瘍ならびに血液によって運ばれる腫瘍ならびに原発がんおよび転移がんを包含する。
【0158】
本発明の組成物および方法を用いて処置され得るがんの代表例には、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫、および白血病、さらに具体的には、骨がん、胃腸がん、肝臓がん、膵臓がん、胃がん、結腸直腸がん、食道がん、口咽頭がん、喉頭がん、唾液腺がん、甲状腺がん、肺がん、頭頚部がん、皮膚がん、扁平上皮がん、黒色腫、子宮がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、外陰部がん、卵巣がん、乳がん、前立腺がん、内分泌系がん、軟部組織肉腫、膀胱がん、腎臓がん、グリア芽細胞腫、および様々なタイプの中枢神経系(CNS)などが含まれるが、それに限定されるわけではない。一態様において、本発明に従う方法および使用は、腎臓がん(例えば、明細胞がん)、前立腺がん(例えば、ホルモン難治性前立腺腺がん)、乳がん(例えば、転移性乳がん)、結腸直腸がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん)、肝臓がん(例えば、肝細胞がん)、胃がん、胆管がん、子宮内膜がん、膵臓がん、および卵巣がんからなる群より選択されるがんを処置するための方法および使用である。
【0159】
典型的に、本明細書に記載の組成物の投与は、ベースライン状態と比べて、または処置されていない場合は予想された状態と比べて臨床状態の観察可能な改善によって証明することができる、処置される対象への治療的利益をもたらす。臨床状態の改善は、医師または他の熟練した医療スタッフが通常使用する任意の関連する臨床測定法によって簡単に評価することができる。本発明の文脈において、治療的利益は一過的でもよく(投与中止後、1ヶ月もしくは数ヶ月にわたる)、持続的でもよい(数ヶ月もしくは数年にわたる)。対象ごとに大幅に変化することがある臨床状態の自然経過として、治療的利益が、処置される対象一人一人において観察される必要はないが、有意な数の対象において観察される必要がある(例えば、2つの群間の統計的に有意な差は、チューキー(Tukey)パラメトリック検定、クラスカル・ワリス(Kruskal-Wallis)検定、マン・ホイットニー(Mann and Whitney)によるU検定、スチューデントt検定、ウィルコクソン(Wilcoxon)検定など)などの当技術分野において公知の任意の統計検定によって求めることができる)。
【0160】
例えば、がんに罹患した対象における治療的利益は、例えば、腫瘍数の減少、腫瘍サイズの縮小、転移数または転移の程度の減少、軽快の長さの増加、疾患状態の安定化(すなわち、悪化なし)、疾患進行速度またはその重篤度の低下、生存期間の延長、標準的な処置に対する応答の向上、疾患の代用マーカーの寛解、生活の質の改善、死亡率の低下、および/または疾患の再発の予防などによって証明することができる。
【0161】
血液検査、生物学的流体および生検材料の分析、ならびに医用イメージング法などの適切な測定法を用いて臨床利益を評価することができる。これらは、投与前(ベースライン)、処置中の様々な時点、および処置の中止後に行うことができる。このような測定法は医療検査室および病院において日常的に評価され、多数のキットが市販されている(例えば、イムノアッセイ、定量PCRアッセイ)。
【0162】
好ましい態様は、がん、好ましくは、腎臓がん、結腸直腸がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん)、黒色腫、および卵巣がんを有する対象を処置するために使用するための、改変ポックスウイルス、望ましくは、腫瘍退縮性改変ポックスウイルス、好ましくは、腫瘍退縮性ワクシニアウイルス(例えば、Copenhagen株)、特に好ましくは、本明細書に記載のように抗CTLA-4抗体をコードする腫瘍退縮性ワクシニアウイルスを含む組成物に向けられる。
【0163】
別の態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスまたは組成物は、抗腫瘍性の適応免疫応答を強化するために、または抗腫瘍応答を強化もしくは延長するために使用するためのものである。
【0164】
別の局面において、改変ポックスウイルスまたはその組成物は、処置される対象において免疫応答を刺激または改善するために使用または投与される。従って、本発明はまた、免疫応答を刺激または改善するための方法であって、免疫応答の刺激または改善を必要とする対象に、本明細書に記載のモダリティに従って、対象の免疫を刺激または改善するのに十分な量の組成物を投与する工程を含む方法も包含する。刺激または改善された免疫応答は、特異的(すなわち、エピトープ/抗原に向けられる)および/または非特異的(先天的)な、体液性および/または細胞性の、特に、CD4+またはCD8+を介したT細胞応答であり得る。本明細書に記載の組成物が免疫応答を刺激または改善する能力はインビトロで(例えば、対象から収集した生物学的試料を用いて)評価されてもよく、インビボで当技術分野において標準的な様々な直接的または間接的なアッセイを用いて評価されてもよい(例えば、Coligan et al., 1992 and 1994, Current Protocols in Immunology; ed J Wiley & Sons Inc, National Institute of Healthまたは後の版を参照されたい)。ポリペプチドの抗原性に関して上記で引用されたものも適している。
【0165】
特に、および従来の(m2陽性)ポックスウイルスと比較して、本明細書に記載の改変ポックスウイルスまたは組成物はまた、以下の目的:
(特に、抗原性ポリペプチドに対する)リンパ球を介した免疫応答を刺激もしくは改善する;
APC活性を刺激もしくは改善する;
抗腫瘍応答を刺激もしくは改善する;
CD28シグナル伝達経路を刺激もしくは改善する;
処置される対象もしくは処置される対象の群において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスによって提供される治療効力を改善する;および/または
処置される対象もしくは処置される対象の群において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスによって提供される毒性を低減する
のいずれか、またはその任意の組み合わせにも有用である。
【0166】
併用療法
一態様において、本発明の改変ポックスウイルス、組成物、または方法は単独の療法として用いられる。別の態様において、これらは、1つまたは複数のさらなる療法、特に、処置される対象を苦しめているがんのタイプに適した標準治療療法と一緒に使用または実施することができる。様々なタイプのがんに対する標準治療療法が当業者に周知であり、通常、Cancer Networkおよび診療ガイドラインに開示されている。このような1つまたは複数のさらなる療法は、外科手術、放射線療法、化学療法、寒冷療法、ホルモン療法、毒素療法、免疫療法、サイトカイン療法、標的がん療法、遺伝子療法、光線力学的療法、および移植などからなる群より選択される。
【0167】
このようなさらなる抗がん療法は、本明細書に記載の改変ポックスウイルスまたは組成物の前に、その後に、それと同時に、またはそれが割り込むやり方で標準的な診療に従って対象に投与される。前記組成物と、さらなる抗がん療法が治療効果を発揮する期間が重複している限り、2種類以上の療法の同時投与は、薬剤が同時に、または同じ経路によって投与されることを必要としない。同時投与は、改変ポックスウイルス組成物を、他の治療剤と同じ日の中で(例えば、0.5時間、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間)投与する工程を含む。任意の順序が本発明によって意図されるが、改変ポックスウイルス組成物は他の治療剤の前に対象に投与されることが好ましい。
【0168】
特定の態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスまたは組成物は外科手術と一緒に使用される場合がある。例えば、前記組成物は、(例えば、局所適用することによって、例えば、切除された区画の中に局所適用することによって)腫瘍の部分的または全体的な外科的切除の後に投与される場合がある。
【0169】
他の態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスまたは組成物は放射線療法に付随して使用することができる。当業者は適切な放射線療法プロトコールおよびパラメータを容易に組み立てることができる(例えば、Perez and Brady, 1992, Principles and Practice of Radiation Oncology, 2nd Ed. JB Lippincott Coを参照されたい;当業者に容易に明らかになるように適切な改変および修正を用いる)。特にがん処置において使用され得る放射線のタイプは当技術分野において周知であり、電子線、直線加速器または放射線源、例えば、コバルトまたはセシウム、プロトン、および中性子からの高エネルギー光子を含む。放射性同位体の線量範囲は多種多様であり、同位体の半減期、発せられる放射線の強度およびタイプ、ならびに腫瘍細胞による取り込みに左右される。長期間(3~6週間)の通常のX線線量または高い単回線量が本発明によって意図される。
【0170】
特定の態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスまたは組成物は化学療法と一緒に使用される場合がある。がんの処置に現在利用することができる適切な化学療法剤の代表例には、アルキル化剤、トポイソメラーゼI阻害剤、トポイソメラーゼII阻害剤、白金誘導体、チロシンキナーゼ受容体阻害剤、シクロホスファミド、代謝拮抗物質、DNA傷害剤、および有糸分裂阻害剤が含まれるが、それに限定されるわけではない。感染症の処置に現在利用することができる適切な化学療法剤の代表例には、特に、抗生物質、代謝拮抗物質、抗有糸分裂薬、および抗ウイルス薬(例えば、インターフェロンα)が含まれる。
【0171】
さらなる態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスまたは組成物は、抗新生物抗体ならびにsiRNAおよびアンチセンスポリヌクレオチドなどの免疫療法と一緒に使用される場合がある。
【0172】
なおさらなる態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスまたは組成物はアジュバントと一緒に使用される場合がある。適切なアジュバントの代表例には、TLR3リガンド(Claudepierre et al., 2014, J. Virol. 88(10): 5242-55)、TLR9リガンド(例えば、Fend et al., 2014, Cancer Immunol. Res. 2, 1163-74; Carpentier et al., 2003, Frontiers in Bioscience 8, e115-127; Carpentier et al., 2006, Neuro-Oncology 8(1): 60-6; EP1162982;US7,700,569およびUS7,108,844)、ならびにPDE5阻害剤、例えば、シルデナフィル(US5,250,534、US6,469,012、およびEP463756)が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0173】
さらなる態様において、本明細書に記載の改変ポックスウイルスまたは組成物は、プライミング(priming)組成物とブースティング(boosting)組成物の連続投与を含むプライムブースト(prime boost)法に従って使用される場合がある。典型的に、プライミング組成物とブースティング組成物は、本明細書に記載の改変ポックスウイルスである少なくとも1つと共通点がある、少なくとも抗原性ドメインをコードする異なるベクターを使用する。さらに、プライミング組成物とブースティング組成物は同じ投与経路によって、または異なる投与経路によって同じ部位または別の部位に投与することができる。
【0174】
本発明の他の特徴、目的、および利点は説明および図面から、ならびに特許請求の範囲から明らかである。以下の実施例は、本発明の好ましい態様を例示するために組み入れられる。しかしながら、本開示を考慮すれば、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示された特定の態様に変更を加えることができると理解するはずである。
【実施例
【0175】
材料および方法
タンパク質およびウイルス
C末端にHisタグがある、またはHisタグがない、組換えFc融合タンパク質(ヒトおよびマウス)をR&D Systemsに注文した。ヒトCD80-FcおよびCD86-Fcを社内で、ビオチンアミドヘキサノイル-6-アミノヘキサン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(Sigma)を用いてビオチン化した。
【0176】
様々なワクシニアウイルスを使用した:
・野生型ワクシニア(Copenhagen、Wyeth、およびWestern Reserve株);
・チミジンキナーゼとリボヌクレオチド還元酵素活性の両方に欠陥をもつ二重欠失ワクシニアウイルス(Copenhagen株)(tk-;rr-;WO2009/065546に記載);
・tk、rr-、およびm2活性に欠陥をもつ三重欠失ワクシニアウイルス(Copenhagen株)。三重欠失ウイルスは、下記で説明するように、M2L遺伝子座のオープンリーディングフレームへの特異的相同組換えによって、二重欠失tk-rr-から作製した。
【0177】
ワクシニアウイルスに加えて、試験したポックスウイルスは全て、他で特定しない限り野生型株であった。
【0178】
rr-、tk-ワクシニアウイルスにおけるM2L欠失
インビボ研究のために、J2R遺伝子座において、p11K7.5プロモーター下でホタルルシフェラーゼをコードするように、二重(tk-rr-)および三重(tk-rr-m2-)欠失ワクシニアウイルスを操作した。
【0179】
VVゲノムに導入したM2L遺伝子欠失は、m2 ORFの上流にある64ヌクレオチドと、m2 ORFの最初の169のコドンを含む。欠失は、PUC18に由来するトランスファープラスミドを用いて相同組換えすることで行った。このトランスファープラスミドは、ワクシニアpH5Rプロモーター制御下で、選択マーカーである高感度緑色蛍光タンパク質/キサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(EGFP/GPT)をコードする発現カセットで隔てられた、左(VVゲノムアクセッションM35027のnt26980-27479)アームおよび右(nt28051-28550)アームを含んだ。結果として生じたプラスミドを、Amaxa Nucleofactorを用いてエレクトロポレーションによって、ルシフェラーゼをコードするワクシニアウイルス(rr-;tk-/ルシフェラーゼ)に感染させたニワトリ胚線維芽細胞(CEF)に移入した。組換えウイルスをEGFP/GPT選択によって単離した。M2Lの欠失とEGFP/GPTカセットの挿入をPCR分析によって確認した。選択することなく、CEFにある組換えウイルスを継代することによって、EGFP/GPT選択カセットを除去した。一次研究ストックをCEFで産生させた。M2L遺伝子の欠失はPCRおよび配列決定によって確認された。
【0180】
MOI 0.05および3日間のインキュベーションで感染させた後にウイルスがCEFで産生された。感染させて3日後に、感染細胞と培養上清とを含有する粗収集物を回収し、使用まで-20℃で保管した。精製前に、ウイルス粒子を放出するために、この懸濁液をホモジナイズした。次いで、大きな細胞破片をデプス濾過(depth filtration)によって除去した。その後で、清澄されたウイルス懸濁液を濃縮し、タンジェンシャルフロー濾過およびサイズ中空糸微量濾過フィルター(size hollow fiber microfiltration filter)を用いることで製剤緩衝液と一緒にダイアフィルトレーションにかけた。最後に、精製されたウイルスを同じタンジェンシャルフロー濾過システムを用いてさらに濃縮し、等分し、使用まで-80℃で保管した。
【0181】
B7結合のELISAアッセイ
96ウェルプレート(Nunc immune plate Medisorp)を、コーティング緩衝液(50mM炭酸Na pH9.6)に溶解した0.5μg/mLのB7、CTLA4、またはCD28タンパク質100μLで、4℃で一晩コーティングした。マイクロプレートをPBS/0.05%Tween20で洗浄し、200μLのブロッキング溶液(PBS;0.05%Tween20; 5%Non-Fat Dry Milk(Biorad))で飽和させた。全ての抗体調製物と希釈液は、ブロッキング溶液に溶解して作製した。3つ組で、100μLの試料を各ウェルに、一部の実験(結合曲線)については2倍段階希釈で添加した。次いで、マイクロプレートを、10000倍希釈した抗Flag-HRP(Sigma)100μLとインキュベートした。次いで、マイクロプレートを100μL/ウェルの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB, Sigma)とインキュベートし、反応を100μLの2M H2SO4で止めた。プレートリーダー(TECAN Infinite M200PRO)を用いて吸光度を450nmで測定した。分析とグラフ表示のために吸光度の値をソフトウェアGraphPadPrismに転送した。
【0182】
競合ELISA
実験条件と溶液は特に定めのない限り上記と同一であった。CTLA4/CD80、CD28/CD80、およびPDL1/CD80競合アッセイについては、100μLのCTLA4、CD28、およびPDL1を0.25(CTLA4)または1μg/mL(CD28およびPD-L1)でコーティングした。試料を添加し、一定濃度のCD80(CTLA4、CD28、およびPD-L1それぞれについて50ng/mL、250ng/mL、または500ng/mL)を含有するブロッキング溶液で希釈(2倍段階希釈)した。CD86/CTLA4およびCD28/CD86競合アッセイについては、100μLのCD86またはCD28を0.25(CD86)または2μg/mL(CD28)でコーティングした。試料を添加し、それぞれ、一定濃度のCTLA4(100ng/mL)またはCD86(500ng/mL)を含有するブロッキング溶液で希釈(2倍段階希釈)した。1/2000の抗Hisタグ-HRP(Qiagen)または1/1000のストレプトアビジンHRP(Southern Biotech)を結合体化試薬として使用した。上記のようにプレートをさらに処理し、結果を分析した。
【0183】
ウエスタンブロット
5% β-メルカプトエタノール(BME)を含有する(還元条件)、または含有しない(非還元条件)Laemmli緩衝液に溶解して、25マイクロリットルの試料を調製した。Criterion TGX 4-15% stain freeゲル(Biorad)上での電気泳動後に、タンパク質をPVDF膜(Transblot Turbo System)に転写した。タンパク質/抗体インキュベーションと洗浄のためにIBind Flex Western system(Invitrogen)を使用した。ブロットを1/1000の2.5μg/mL CD80-Fc、CD86-Fc、CTLA4-Fc、または抗Flag-HRPでプローブした。CD80-Fc、CD86-Fc、およびCTLA4-Fcについては、1/3000のHRP抗ヒトFc(Bethyl)を結合抗体として使用した。ブロックする、抗体を希釈する、iBind Flex Cardを洗浄する、および湿らすために1X iBind Flex溶液を使用した。Amersham ECL Prime Western Blotting試薬を用いて免疫複合体を検出した。Molecular Imager ChemiDOC XRS(Biorad)を用いて化学ルミネセンスを記録した。
【0184】
アフィニティクロマトグラフィー
MVAまたはワクシニアウイルスCopenhagenのいずれかによって感染(MOI 0.05)させたCEFの上清を、感染72時間後に収集した。上清を遠心分離し、細胞破片およびワクシニアウイルスの大部分を除去するために0.2μmフィルターで濾過した。次いで、0.05%Tween20を加えた処理済み上清を、vivaspin20 30000 MWCOカットオフ濃縮器(Sartorius)を用いて約20倍濃縮した。ストレプトアビジン磁気ビーズ(GE healthcare)を無関係のモノクローナルビオチン化抗体(chCXIIG6)、CTLA4-Fc-Biot、またはCD86-Fc-Biotでコーティングした。非特異的結合を除去するために、4mLの濃縮上清(MVAおよびワクシニアウイルスCopenhagen)を24μLのchCXIIG6-ストレプトアビジンビーズとインキュベートした。この最初のインキュベーションのフロースルーを2つの等しい部分に分け、CTLA4-Fc-Biot-ストレプトアビジンビーズまたはCD86-Fc-Biot-ストレプトアビジンビーズとインキュベートして、以下の4つのアーム:MVA上清+CTLA4ビーズ(MVA A4);MVA上清+CD86ビーズ(MVA CD);ワクシニアウイルス+CTLA4ビーズ上清(VV A4)およびワクシニアウイルス+CD86ビーズ(VV CD86)を得た。ビーズをPBS、0.05%Tween20に続いてPBSでよく洗浄した後に、結合したタンパク質を50μLの0.1M酢酸で2回溶出させ、4μLの2M Tris Baseを添加することで、すぐに中和した。次いで、2回の溶出液をプールした後にMS分析した。
【0185】
消化のためのタンパク質調製
10μLまたは20μLの試料を蒸発させ、25mM NH4HCO3に溶解した10mM DTT 10μLに可溶化することで還元した(57℃で1時間)。還元されたシステイン残基を、25mM NH4HCO3に溶解した55mMヨードアセトアミド10μLで、暗所、室温で30分間アルキル化した。25mM NH4HCO3で新鮮に希釈したトリプシン(12.5ng/μL; Promega V5111)を試料に1:100(酵素/タンパク質)比で30μlの最終体積になるように添加し、37℃で5時間インキュベートした。トリプシン活性は、5μLのH2O/TFA 5%による酸性化によって阻害される。
【0186】
MS/MS分析
試料を、四重極-Orbitrapハイブリッド質量分析計(Q-Exactive plus, Thermo Scientific, San Jose, CA)と連結したnanoUPLCシステム(nanoAcquity, Waters)によって分析した。UPLCシステムには、Symmetry C18プレカラム(precolumn)(20х0.18mm, 5μm粒径, Waters, Milford, USA)とACQUITY UPLC(登録商標)BEH130 C18分離カラム(separation column)(75μm×200mm, 1.7μm粒径, Waters)が備わっている。溶媒系は、水に溶解した0.1%ギ酸(溶媒A)と、アセトニトリルに溶解した0.1%ギ酸(溶媒B)からなった。2μLの各試料を注射した。3分間の間にペプチドを5μL/分で、99%Aと1%Bを用いて捕らえた。溶出は400nL/分の流速で60℃で79分間の1~35%B直線勾配を用いて行った。キャリーオーバーを最小にするために、各試料後に行う溶媒ブランク注射に加えて、各試料間にカラム洗浄(20分の間に50%ACN)を含めた。
【0187】
Q-Exactive Plusは、ソース温度(source temperature)を250℃に、スプレー電圧を1.8kVに設定してポジティブイオンモードで操作した。フルスキャンMSスペクトル(300~1800m/z)を、m/z200で140,000の分解能、50msの最大注入時間、および3x106電荷(charge)のAGC目標値で取得し、ロックマスオプション(lock-mass option)を可能にした(445.12002 m/z)。2m/zウィンドウ(window)を用いて、1回のフルスキャンごとに10個までの最も強い前駆体を単離し、高エネルギー衝突解離(HCD、27eVの標準化された衝突エネルギー)を用いて断片化し、既に断片化されている前駆体の動的排除(dynamic exclusion)を60secに設定した。MS/MSスペクトルを、m/z200で17,500の分解能、100msの最大注入時間、1x105のAGC目標値で取得した。システムはXCaliburソフトウェア(v3.0.63; Thermo Fisher Scientific)によって完全に制御された。
【0188】
MS/MSデータ解釈
Mascot(バージョン2.5.1, Matrix science, London, England)を用いて、MS/MSデータを、ニワトリ(Gallus gallus)およびワクシニアウイルスUniprotデータベースに由来する組み合わされた標的-デコイ(combined target-decoy)データベース(01-04-2018。33939の標的配列と同数の逆のデコイ配列を含む)と突き合わせて検索した。標的タンパク質hCTLA4、hCD86、およびhCXIIG6、ならびに標的-デコイを手作業でデータベースに加えた。このデータベースは、よくある汚染物質(ヒトケラチンおよびブタトリプシン)を含み、社内データベース作成ツールボックス(http://msda.u-strasbg.fr)を用いて作成された。以下のパラメータを適用した:トリプシンによるワンミスドクリビッジ(one missed cleavage)および可変修飾(variable modification)(メチオニンの(酸化(+16Da)、システインのカルバミドメチル化(+57Da)が考慮された。検索ウィンドウ(search window)を前駆体イオンについては25ppm、断片イオンについては0.07Daに設定した。Mascot結果ファイル(.dat)をProlineソフトウェア(http://proline.profiproteomics.fr/)にインポートし、タンパク質を、1に等しいプリティランク(pretty rank)、調整e値に基づいてペプチドスペクトルマッチ上で1%FDR、1個のタンパク質につき少なくとも1個の特異的なペプチド、タンパク質セット上で1%FDR、およびMascot Modified Mudpitスコアリングで検証した。
【0189】
混合リンパ球反応(MLR)
m2-ウイルスがリンパ球を活性化する能力をMLRアッセイで評価した。CEF細胞にCOPTG19289、VVTG18058、またはMVAN33を感染させ(MOI 0.05)、感染させて48時間後に培養上清を収集し、vivaspin 20 30000 MWCOカットオフ濃縮器(Sartorius)を用いて約20倍濃縮した。濃縮上清を、希釈せずに、または10倍もしくは100倍に希釈して、それぞれ、2倍、0.2倍、および0.02倍の最終「上清濃度」となるように添加した(200μLに20μL)。
【0190】
異なる健常ドナーからの血液をEtablissement Francais du sang(EFS Grand Est, 67065 Strasbourg)で購入した。PBMCをフィコール-パーク(Ficoll-Paque)法(Ficoll-Paque PLUS, GE Healthcare)によって精製し、20%FBS(胎仔ウシ血清)と10%DMSOを加えたRPMI培地に溶解して約1x107細胞/mLで再懸濁し、使用まで-150℃で保管した。PBMCを37℃で解凍し、10%FBSを含むRMPI培地に再懸濁し、300gで5分間遠心分離した。収集した細胞をRMPI培地+10%FBSに再懸濁し、細胞濃度を3x106細胞/mLに調節した。2人の異なるドナーに由来するPBMC 100μLを3つ組で96ウェルマイクロプレートのウェルに入れて混合した。上記の感染細胞上清20μLを各ウェルに添加し、マイクロプレートを5%CO2雰囲気中で37℃で72時間インキュベートした。
【0191】
次いで、MLRの培養上清を収集し、ヒトインターロイキン-2(IL-2)をELISAによってヒトIL-2*-2ELISA MAX(商標)deluxe Setキット(BioLegend)を用いて測定した。測定値は、所定の試料の3つのレプリケートのIL-2濃度の平均を、培地とインキュベートしたPBMCの3つのレプリケートのIL-2濃度の平均で割ることで正規化した。
【0192】
ヒト化NCG-34+マウスにおけるインビボ実験
マウスヒト化
NOD/Shi-scid/IL-2Rγヌル免疫不全マウス系統(NCG)はTaconicによって提供された。4週齢動物をブスルファンで腹腔内処置し(ケモアブレーション(chemoablation))、翌日、CD34+ヒト幹細胞(50,000個の細胞/マウス)を静脈内注射(IV)した。細胞注射の14週間後に、全血中白血球の中のヒトCD45+細胞をフローサイトメトリーで分析することによって移植レベルをモニタリングした。ヒト化率は循環hCD45/全CD45(mCD45+hCD45)の比と定義された。
【0193】
Tリンパ球免疫表現型
腫瘍移植の2日前に血液(100μL)を後眼窩洞から収集した。hCD45(Ref 563879; BD)、CD4(Ref 130-092-373; Miltenyi)、CD3(Ref 130-109-462; Miltenyi)およびCD8(Ref 130-096-561; Miltenyi)に対して作られた抗体とlive/dead yellowマーカー(Ref L34968; Thermofisher)を用いたフローサイトメトリー(Attune NxT, Lifetechnologies)によってヒトCD45+、CD3+、CD3+CD4+、およびCD3+CD8+リンパ球集団を評価した。簡単に述べると、血液試料を様々な抗体と4℃で30分間インキュベートした。次いで、High Yield Lysis緩衝液(HYL250; Thermo Fischer Scientific)を用いて赤血球を室温(RT)で15分間溶解し、そのすぐ後でフローサイトメトリー分析を行った(Attune NxT, Life technologies)。
【0194】
腫瘍退縮性ウイルスを用いた処置
ヒト結腸直腸がん細胞HCT-116をATCC(CCL-247(商標))から購入し、10%FBS+ペニシリン/ストレプトマイシンを加えたMcCoy's5A培地中で増殖させ、トリプシンで37℃で10分間剥離させた。洗浄後に、細胞を滅菌PBSに5x107細胞/mlで再懸濁し、100μlの細胞懸濁液(5x106個の細胞)をマウスの片方の側腹部に皮下注射した。平均腫瘍量がほぼ70mm3に達した時に、マウスをヒト化率および腫瘍サイズに基づいて5つの群に無作為化した(5匹のマウス/群)。
・群1にはビヒクルを与えた。
・群2には105pfuのVVTG18058を与えた。
・群3には106pfuのVVTG18058を与えた。
・群4には105pfuのCOPTG19289を与えた。
・群5には106pfuのCOPTG19289を与えた。
【0195】
各群について、D0と定義した無作為化日に、100ulのウイルス調製物を単回静脈内(IV)注射した。予想外の苦痛の徴候があるか、マウスを毎日モニタリングした。体重と腫瘍量を週3回モニタリングした。カリパスを用いて腫瘍直径を測定した。腫瘍量(mm3)を以下の式:体積=1/2(長さx幅2)に従って計算した。腫瘍量が1500mm3を超えた時に、または体重減少が25%を上回った時に動物を屠殺した。
【0196】
実施例1: ワクシニアウイルスm2タンパク質がB7を介した共刺激経路に干渉する能力の特定と、その結合特性の特徴付け
ワクシニアウイルス感染細胞の上清はCTLA4とCD80またはCD86との相互作用を阻害する
異なるウイルス候補によって提供されるCD80/CTLA4およびCD86/CTLA4ブロッキング活性を定量的にモニタリングするために2つのアッセイをセットアップした。これらのアッセイでは、ヒトCTLA4(hCTLA4)をELISAプレート上に固定化し、可溶性のタグ化されたhCD80またはhCD86を添加した。この設定では、固定化されたパートナーまたは可溶性パートナーのいずれかに結合する、あらゆる競合分子がシグナル減少を誘導する(競合アッセイ)。抗hCTLA4抗体イピリムマブ(Yervoy)と、感染していないDF1(入手可能なニワトリ細胞株;例えば、ATCC(登録商標)CRL-12208(商標)で入手可能である)の上清を、それぞれ、陽性対照および陰性対照として使用した。驚くべきことに、コーティングされたhCTLA-4と相互作用するYervoyと同様に、ワクシニアウイルス(Copenhagen、Wyeth、およびWestern Reserve株)に感染した細胞の全ての上清がCD80/CTLA4およびCD86/CTLA4アッセイの両方で用量反応で競合することが見出された(図1Aおよび1B)。これに対して、感染していないDF1細胞の上清は、全く効果がなかった。興味深いことに、改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)に感染したDF1の上清はhCTLA4/hCD80およびhCTLA4/hCD86相互作用を全く阻害しなかった。このことから、この干渉能力は、弱毒化プロセス中に6つのゲノム断片(欠失I~VI)を失ったこのウイルスには保存されていないことが分かる(データは示さず)。これらの結果から、VV上清中にある何かがCTLA-4とCD80およびCD86との結合に干渉したことが示唆される。
【0197】
細胞または培地成分が関与するアーチファクトを除外するために、異なる起源に由来する異なる細胞株(トリ初代細胞株およびヒト腫瘍細胞株)を試験し、これもFACS競合方法についてアッセイした。
【0198】
競合FACS分析は、表面にhCD80およびhCD86を天然で示すヒト細胞株(すなわち、KM-H2、ホジキンリンパ腫)を用いて行った。可溶性組換えCTLA4-FcとKM-H2細胞との結合が蛍光色素結合抗Fc抗体を用いて示された。CTLA4-Fcとコインキュベートした時に、陰性対照のように振る舞うMVA感染細胞と著しい対照をなして、ワクシニアウイルス感染細胞の上清はCTLA4-Fc結合においてKM-H2細胞と競合した(データは示さず)。
【0199】
CTLA4とCD80またはCD86との結合に干渉する能力を評価するために、(DF1の代わりに)異なるポックスウイルスに感染したHeLa細胞の上清を用いて競合ELISAを行った。様々なワクシニアウイルス株(Wyeth、WR、およびCopenhagen)ならびに他のオルトポックス(例えば、アライグマ痘、ウサギ痘、牛痘、MVA)、アビポックス(鶏痘)、およびパラポックスウイルス(偽牛痘ウイルス)を試験した。感染していないHeLa細胞を陰性対照として使用した。このスクリーニング実験では、最適な感染を保証するために高MOI(MOI 1)でHeLa細胞に異なるポックスウイルスを感染させた。結果として生じた上清を収集し、CTLA4-FcとCD80との結合を阻害する能力(OD450nmで表される)を評価することによって試験した。図2に図示したように、3種類のワクシニアウイルス株またはアライグマ痘(RCN)、ウサギ痘(RPX)、および牛痘(CPX)に感染した細胞の上清は全て、hCTLA4とhCD80との結合に干渉することができた。これらの結果から、これらのポックスウイルスへの感染中に分泌された因子がCTLA4-B7経路に干渉したことが分かる。この阻害活性に関与する新たな未知の因子を「干渉因子」(IF)と呼んだ。再度、MVAならびに偽牛痘ウイルス(PCPV)および鶏痘ウイルス(FPV)のような他のいくつかのポックスウイルスに感染した細胞の上清は、感染していないHeLa細胞(HeLa)と同様にCTLA4/CD80-CD86相互作用の阻害を全く示さなかった。
【0200】
「干渉因子」はワクシニアウイルス上清に存在するが、MVA上清には存在しない
VV感染上清中に存在するどの分子とIFが相互作用するかを見つけ出すために、MVAまたはワクシニアウイルスに感染していない、または感染したCEF(CEPとも呼ばれる)の上清のウエスタンブロットを、上記のELISAアッセイの3つの成分(すなわち、hCD80、hCD86、およびhCTLA4)でプローブした。CEFは、IFを産生するワクシニアウイルスと、IFを産生しないMVAを両方とも許容するので選択された。ウエスタンブロットをプローブするのに使用したタンパク質はそれぞれ、特に、二量体化と、同じ抗Fc結合抗体を用いた検出を可能にするFc部分との融合であった。各上清を、そのまま、または20倍(x20)濃縮して使用した。図3に示したブロットは、約200kDaの大きな分子がワクシニアウイルス感染上清にしか存在しないことを明確に証明し、(少なくとも、これらのイムノブロット条件では)hCD80とhCD86の両方で強調されるが、hCTLA4では強調されなかった。このバンドは非濃縮上清でも簡単に検出された。hCD80-FcとhCD86-Fcの両方との反応性は還元条件で失われた(どのバンドも検出されなかった)。このことから、IFの構造ならびにCD80およびCD86との相互作用を維持するために、ジスルフィド内結合および/またはジスルフィド間結合が必要なことが分かる(データは示さず)。著しい対照をなして、MVA上清中にバンドは強調されなかった。
【0201】
結合特性の特徴付け:ワクシニアウイルス上清中に存在する「干渉因子」はCD80およびCD86とCTLA4およびCD28との結合を阻害するが、CD80とPD-L1の結合に可能性をもたせる(potentialize)
上記で論じたように、CD80およびCD86は適応性T細胞応答の調節に関与する重要な共刺激抗原である。CD80およびCD86は免疫応答の点で、負の(両方の場合はCTLA4、CD80だけの場合はPD-L1)アウトカムと、正の(CD28)アウトカムを収めて、いくつかの分子相互作用に関与するので、これらの5種類の特異的な相互作用のそれぞれでIF効果を解読するために異なるELISAをセットアップした。非組換えワクシニアウイルス(VV)に感染したCEFからの無希釈上清を、これらの異なるアッセイにおいて試験し、MVA感染CEFの上清および抗hCTLA4抗体Yervoy(10μg/ml)と比較した。感染していないCEF細胞の上清を陰性対照として使用した。図4に図示したように、VV上清は、Yervoyと同様に(CD80への接近、従って、CTLA4/CD80連結を阻止する、YervoyとそのCTLA-4標的の結合により予想されるように)、(OD450nm吸光度の印象的な減少によって証明されるように)CD80およびCD86とCTLA4との相互作用を阻害した。著しい対照をなして、MVA感染細胞の上清は影響を及ぼさなかった(負のCEF対照と同じ吸光度)。さらに、VV上清はCD80またはCD86とCD28との正の相互作用も消失できた(非感染CEF細胞の上清を用いて測定した吸光度と比べて著しいOD450nm吸光度の減少)。対照的に、MVA感染細胞の上清とYervoyは(CTLA4受容体しか標的としない抗体について予想されるように)影響を及ぼさなかった(陰性対照と同じ吸光度)。これらの結果から、VV感染細胞の上清に「IF」が存在することが確認されたのに対して、MVAゲノムは、このような因子を産生しない。
【0202】
驚くべきことに、ワクシニアウイルス上清の存在によってPD-L1/CD80相互作用は増加し(陰性対照と比べてOD450nm吸光度が著しく増加し)、そのため、PDL1を介した免疫抑制シグナル伝達が強化された。対照的に、YervoyとMVA感染CEF上清はPDL1/CD80に影響を及ぼさなかった(非感染対照と同じ吸光度)。予想されたように、組換えhCD80、hCTLA4、およびhPD1は、この相互作用を消失させた。この結果から、IFと、CD80上のCTLA4結合部位は完全に重複していないことが分かる。最近、CD80/PD-L1相互作用はTreg生存に結び付けられたことに留意しなければならない。
【0203】
これらの結果は、ポックスウイルスm2ポリペプチドによって示された免疫抑制性の改善を強調する。実際に、m2は、CD80/CD28、CD86/CD28をブロックすることによって、およびPDL1-CD80経路に可能性をもたせることによって免疫抑制経路を押し進めるのに対して、CTLA4-Fcは、免疫抑制性PDL1-CD80相互作用を含む、これらの3つの経路を阻害する。
【0204】
m2ポックスウイルスタンパク質が干渉因子であることを明らかにする
約200kDaの見かけの分子量と、IFがMVA感染上清中に存在しないという事実に基づいて、明白な候補を見つけずに、潜在的な候補があるかどうか、ワクシニアCopenhagen株とMVAとの間で異なる37の遺伝子を調べた。約200kDaのタンパク質は特定することができなかった。これらの37の遺伝子候補のうち、コードされている最大のタンパク質は、147kDaの理論上の質量があるDNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo147(J6R)である。従って、200kDaより小さなものが観察された。一次構造に基づいて、IFと結び付けることができる明白なウイルスタンパク質候補はなかった。
【0205】
従って、IFを捕獲するためにアフィニティクロマトグラフィー(図5Aの模式図を参照されたい)を用いて、IFを特定する実験アプローチを試みた。このアフィニティクロマトグラフィーにワクシニアウイルス感染CEF(VV感染)の20倍濃縮上清をロードした。並行して、MVA感染細胞(MVA感染)の20倍濃縮上清を処理した。固定化CTLA4(陰性対照)または固定化CD86-Fc融合物にVVおよびMVA上清をかけた後に、酸によって溶出させた。アフィニティクロマトグラフィーアームの異なる溶出液をトリプシン(trypsic)消化後にMS/MS(質量分析法)で分析した。得られたm/zデータを用いて、ニワトリ(Gallus gallus)およびワクシニアウイルスデータバンクをプローブした。CD86でコーティングしたビーズとインキュベートしたワクシニア感染CEFの上清から1つのヒットしか得られなかった。これは、M2L遺伝子座によってコードされるワクシニアウイルスタンパク質m2タンパク質の75%(ペプチドシグナルを含む)または82%(ペプチドシグナルを含まない)をカバーする(図5B。検出されたペプチドによってカバーされる配列を太字で示した)。この結果は、MVAゲノムにM2L遺伝子座が存在しないことと、m2が予測シグナルペプチドを有し、このため推定分泌タンパク質だという事実と完全に一致する。
【0206】
しかしながら、m2タンパク質は計算分子量が25kDaしかなく、SDS-PAGE上で観察されたIFの200kDa質量から程遠い、35kDaタンパク質としてSDS-PAGEで還元条件で移動すると報告されている(Hinthong et al. 2008)。それにもかかわらず、我々の知るところでは、非還元条件のSDS-PAGE上でのm2タンパク質の挙動は記録に残されていなかった。従って、本発明者らは、IFが、サブユニット間ジスルフィド結合がある、VV m2タンパク質が関与するホモ多量体複合体またはヘテロ多量体複合体である可能性があり、そのために、SDS-PAGE上の見かけの質量が約200kDaになると仮定する。
【0207】
実施例2: m2欠陥ポックスウイルスはIFをもはや産生しない
M2L欠失ポックスウイルスの構築
IFへのm2の関与を、ワクシニアウイルスゲノムにあるM2L遺伝子を欠失させることによってさらに調べた。具体的には、ルシフェラーゼを発現する二重欠失(DD)ワクシニアウイルス(すなわち、WO2009/065546に記載されており、VVTG18277と名付けられたtk-、rr--)においてM2L遺伝子座を破壊し、それによって、上記のようにルシフェラーゼを発現する組換え三重欠失(TD)ウイルス(すなわち、tk-rr-、m2-)(COPTG19289)を得た。m2 ORFの上流にある64ヌクレオチドから169の最初のコドンに及ぶM2L部分的欠失はm2タンパク質発現を抑制し(m2-)、親と比較して、CEFにおけるウイルス複製に重大な影響を及ぼさなかった(データは示さず)。
【0208】
M2L欠失ウイルスはIFをもはや産生しない
ヒトHeLaおよびトリDF1細胞にDDおよびTDウイルスを感染させた時に得られた上清を、前記のとおり競合ELISAによって試験した。図6に示したように、M2L欠失ワクシニアウイルスCOPTG19289に感染させた時に収集した上清は、陰性対照と比較して吸光度の測定値が強く減少した親DDウイルス(VVTG18277)とは異なり、(感染していないHeLaまたはDF1細胞において測定したものと同じ吸光度によって証明されたように)CTLA4/CD80相互作用をもはや阻害することができなかった。
【0209】
さらに、上記のようにウェスタンブロッティングにかけた時に、CD80-FcまたはCD86-Fcプローブを用いて検出される200kDaに移動する大きな複合体は、M2L欠失ウイルスの上清を用いた時にはもはや検出されなかった(データは示さず)。これらの結果から、m2は少なくともIFの一部であることが裏付けられた。
【0210】
実施例3: m2欠陥組換えポックスウイルス
ルシフェラーゼ(遺伝子をJ2R遺伝子座に挿入した)を発現するtk-rr-m2-腫瘍退縮性ワクシニアウイルスの構築は前記で説明した。
【0211】
腫瘍退縮活性
LOVO(ATCC(登録商標)CCL-229(商標))およびHT116(ATCC(登録商標)CCL-247(商標))結腸がん細胞を96ウェルプレートに8.105細胞/ウェルの細胞密度で播種した。感染前にプレートを37℃、5%CO2で4時間インキュベートした。細胞に、両方ともルシフェラーゼを発現するtk-rr-m2-COPTG19289ウイルスまたはtk-rr-VVTG18277ウイルスに、10-1~10-4粒子/細胞のMOI範囲で感染させた。感染させて96時間後(D4)に、細胞生存率を、セルカウンター(Vi-Cell, Beckman coulter)を用いてトリパンブルー排除によって求めた。LOVO(図7A)およびHCT116(図7B)の細胞生存率(%)の定量から、m2に欠陥をもつCOPTG19289ウイルスによって提供される腫瘍退縮能力は、LOVO細胞およびHCT116においてm2陽性VVTG18277を用いて得られるものと同等であることが証明された。具体的には、VVTG18277およびCOPTG19289に10-1および10-2のMOIで感染させた時には、LOVO細胞は溶解した。これに対して、10-3という低いMOIでは、80%の細胞生存率が観察され、10-4のMOIでは、完全に維持された。HCT116細胞では、10-1、10-2、および10-3のMOIでは細胞生存を全く検出できず(0%)、10-4のMOIでは細胞の50%未満が生存可能であったので、ウイルス腫瘍退縮活性はさらに高くなった。モック処置は細胞に影響を及ぼさず、LOVOおよびHCT116細胞の100%の生存率を求めるために使用した。
【0212】
このように二重欠失ウイルスと三重欠失ウイルスとの間に差異が無いことは、黒色腫B16F10(ATCC(登録商標)CCL-6475(商標))、マウス結腸がんCT26WT(ATCC(登録商標)CRL-2638(商標))、およびマウス結腸腺がんMC38WT細胞(Kerafast and Cellosaurus CVCL_B288から入手可能)を含む、他の腫瘍細胞株において確認された。両ワクシニアウイルスとも、これらの3つの細胞株では10-1のMOIで、B16F10およびMC38WTでは10-2のMOIで腫瘍退縮性であったのに対して、CT26WTでは部分的に腫瘍退縮性であった。
【0213】
結論として、組換えm2に欠陥をもつウイルスは、m2陽性対応物と同等の腫瘍退縮活性を示した。このことは、M2L遺伝子座の損傷が腫瘍細胞株における腫瘍退縮活性に悪影響を及ぼさなかったことを裏付けている。
【0214】
インビボでのトランスジーン発現
皮下注射後のB16F10腫瘍移植C57BL/6マウスにおいて、tk-rr-m2-腫瘍退縮性ワクシニアウイルス(COPTG19289)から生じたルシフェラーゼ発現を評価し、tk-rr-VVTG18277ウイルスを用いて得られたものと比較した。0日目、3日目、6日目、10日目、および14日目に各ウイルス(107pfu)を腫瘍内注射し、腫瘍1グラムあたりのルシフェラーゼ活性(RLU/g腫瘍)を評価するために1日目、2日目、6日目、9日目、13日目、および16日目に腫瘍サンプリングを収集した。図8に図示したように、両ウイルスとも、ウイルス注射後、初日(D1およびD2)に強力なルシフェラーゼ活性が検出され、その後に減少した。しかしながら、VVTG18277に感染させて13日後にルシフェラーゼ発現はバックグラウンドレベルに達した。これに対して、COPTG19289に感染させた場合には、弱いが持続的な発現レベルが測定され、長い期間(D9、D13、およびD16)にわたって維持された。
【0215】
抗腫瘍活性
tk-rr-m2-腫瘍退縮性ワクシニアウイルス(COPTG19289)によって提供される抗腫瘍活性を、3つの腫瘍モデル、それぞれB16F10、CT26、およびHT116、においてアッセイした。
【0216】
最初の設定では、C57BL/6マウス(10匹のマウス/群)にB16F10腫瘍を皮下注射で移植した。腫瘍が25~100mm3の体積に達した時に、各動物の腫瘍を測定し、マウスを無作為化し、D0、D3、D6、D10、およびD14に腫瘍内経路によって107pfuのCOPTG19289、VVTG18277、またはモックビヒクル(陰性対照)を注射した。動物生存と腫瘍成長を週2回追跡した(腫瘍量が2000mm3以上に達した時にマウスを殺した)。2つのVV処置群間に大きな差はなかった。特に、いくつかの動物は、両群において、ゆっくりとした腫瘍成長を示した。対照的に、モック処置動物での腫瘍成長は非常に速く、24日で2000mm3に達し、このためD24に全マウスが死んだ。マウスの生存はワクシニアウイルス処置によって改善した。具体的に、この実験において50%生存期間はtk-rr-VVTG18277で処置したマウスではD23、tk-rr-m2-COPTG19289で処置したマウスではD28で得られた。分かりやすくするために、10匹の注射したマウスのうち2匹が数日後に死んだことを除けば(データは示さず)、生存曲線は2つのVV群間で合致した。
【0217】
抗腫瘍活性はまた、皮下注射によってCT26腫瘍を移植したBalb/cマウスでもアッセイした。腫瘍が25~100mm3の体積に達した時に、腫瘍を個々に測定し、マウスを無作為化した後に(D0)、tk-rr-m2-腫瘍退縮性ワクシニアウイルス(COPTG19289)またはtk-rr-VVTG18277ウイルスまたはモックビヒクルを腫瘍内注射した(10匹のマウス/群)。D0、D3、D6、D10、およびD14に107pfuの各ワクシニアウイルス調製物(またはモック)に相当する50μlを腫瘍に注射した。腫瘍成長を週2回追跡し、腫瘍量が2000mm3以上に達した時にマウスを殺した。図9に図示したように、モック処置動物の腫瘍量は急速に増加してD28には2000mm3に達した。これに対して、VV処置群では腫瘍成長は遅延し、tk-rr-m2-ワクシニアウイルスを用いた場合だけ腫瘍量は1000mm3より少なかった。
【0218】
抗腫瘍活性はまた、皮下注射によってHT116腫瘍を移植したSwissヌードマウスでもアッセイした(10匹のマウス/群)。腫瘍移植の10日後に、2つの異なる用量、それぞれ105および107pfuのワクシニアウイルスを静脈内注射した。腫瘍成長を週2回追跡し、腫瘍量が2000mm3以上に達した時にマウスを殺した。予想されたように、モック処置動物の腫瘍量は急速に増加して、腫瘍を移植して45日後には2000mm3以上に達した。これに対して、105pfuのVVで処置した群では腫瘍成長は遅延した。特に、図10に図示したように、107pfuのワクシニアウイルスを注射した2つの群では腫瘍成長は完全に阻害された。
【0219】
結論として、ワクシニアウイルスが免疫抑制性M2タンパク質を産生できなくする、VV M2L遺伝子座の改変は、トランスジーンの腫瘍退縮活性、抗腫瘍効果、および発現に影響を及ぼさない。
【0220】
実施例4: 混合リンパ球反応(MLR)アッセイ
COPTG19289(tk-、rr-、およびm2-)、またはVVTG18058(tk-rr-)、またはMVAN33に感染したCEF細胞から得られた上清を、リンパ球を活性化する能力があるかMLRで評価した。感染させて(MOI 0.05)、48時間後に培養上清を収集し、約20倍濃縮した。
【0221】
健常ドナーから収集した血液からPBMCをFicoll-Paque PLUS(GE healthcare)によって精製した。より具体的には、2人の異なるドナーに由来する3x105個のPBMCを96ウェルマイクロプレートの中で混合した。濃縮上清を、希釈せずに、または10倍または100倍に希釈して、それぞれ、2倍、0.2倍、および0.02倍の最終「上清濃度」となるようにPBMC培養物に添加し(200μLに20μL)、5%CO2雰囲気中で37℃で72時間培養した。RPMI培地の添加を陰性対照として使用した。リンパ球活性化マーカーとして、培養上清中のIL-2分泌をELISA(BioLegendのIL-2*-2ELISA MAX(商標)deluxe Setキット)で定量した。測定値は、所定の試料の3つのレプリケートのIL-2濃度の平均を、培地とインキュベートしたPBMCの3つのレプリケートのIL-2濃度の平均で割ることで正規化した。
【0222】
陰性対照は、1である、正規化されたリンパ球活性化状態である。図11に図示したように、MVAとCOPTG19289(tk-rr-m2-;TD)に感染した細胞の上清の存在下でインキュベートしたPBMCはリンパ球活性化を誘導し、10倍または100倍に希釈した時には1に近い値、無希釈で試験された時には1を超える値に達した。著しい対照をなして、VVTG18058(tk-rr-;DD)感染上清は、試験した全ての希釈液で、はっきりとしたリンパ球活性化阻害を示し、これにより、M2をコードするウイルスの免疫抑制活性が確認された。
【0223】
実施例5: ヒト化NCG-CD34+マウスにおける抗腫瘍活性
CD34+ヒト幹細胞でヒト化し、ヒト結腸直腸がん細胞HCT-116を移植したNOD/Shi-scid/IL-2Rγヌル免疫不全マウス系統(NCG)において、m2-COPTG19289ウイルスによって提供される抗腫瘍活性を評価した(5x106個の細胞をマウスの片方の側腹部にSC注射した。これはD0に相当する)。移植して12日後(D12)に、マウスに105pfuまたは106pfuの用量でCOPTG19289(tk-rr-m2-;TD)またはそのm2+対応物VVTG18058(tk-rr-;DD)の単回IV注射を与えた。ビヒクル処置マウスを陰性対照として使用した。細胞移植後少なくとも60日にわたって腫瘍成長とマウス生存をモニタリングした。
【0224】
図12AおよびBに図示したように、腫瘍量はビヒクル処置マウス群では急速に増加した。著しい対照をなして、m2-COPTG19289(TD)またはm2+VVTG18058(DD)で処置したマウスでは、どんな用量が注射されても腫瘍成長がはっきりと阻害されたが、一部の動物では用量依存的な毒性問題が発生した。従って、腫瘍成長の阻止を60日期間にわたってモニタリングした。106用量では、両ウイルスとも腫瘍成長をほぼ同じ効力で遅延したが(図12A)、DD VVTG18058ウイルスと比較してTDウイルスCOPTG19289の方が低い毒性が観察された。注意すべきことに、細胞移植して55日後に1匹のTD処置動物には腫瘍が無く、85日を過ぎても依然として腫瘍が無い状態が続いた。105用量では、TDウイルスCOPTG19289はDD VVTG18058ウイルスと比べて改善した抗腫瘍効果を示した(図12B)。より具体的には、腫瘍成長はTD群では5/5匹の動物ではっきりと阻害されたのに対して、DD群では2/5の動物で阻害された。さらに、DD群と比較してTD群では毒性低下が観察された。
【0225】
マウス生存を比較すると、106pfu(図13A)または105pfu(図13B)の単回IV注射後にm2-COPTG19289(TD)により提供される抗腫瘍効果は、m2+VVTG18058(DD)と比べて、改善したことが確認された。より具体的には、ビヒクル処置動物の100%が52日で死んだのに対して、VVTG18058(DD)処置によって生存期間ははっきりと延長し、COPTG19289(TD)処置ではさらに延長した。例えば、50%生存期間(図13A)は陰性対照では52日、DD-106pfu処置群では54日、TD-106pfu処置群では70日だと見積もられた。
【0226】
さらに、105pfu用量では50%生存期間はDDウイルスでは52日、TDウイルスでは80日であった。
【0227】
これらの結果は、がんなどの病態を処置するための、m2欠陥ポックスウイルスによって提供される治療上の利益が改善したことを示す。
【0228】
参考文献
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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