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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】弾性波デバイス用複合基板
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20250127BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H9/25 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021561007
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2021023918
(87)【国際公開番号】W WO2022054372
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020152198
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】堀 裕二
(72)【発明者】
【氏名】山寺 喬紘
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/130128(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/154950(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/163729(WO,A1)
【文献】特開2018-061226(JP,A)
【文献】特開2001-053579(JP,A)
【文献】特開平05-063500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性材料層、支持基板、および前記圧電性材料層と前記支持基板との間にあるx層(xは3以上の整数である)の中間層を備えており、前記圧電性材料層、前記支持基板および前記中間層が下記の式(1)を満足するとともに、xが偶数の場合には下記の式(2)を満足し、xが奇数の場合には下記の式(3)を満足することを特徴とする、弾性波デバイス用複合基板。

<Rn+1 ・・・ (1)

(式(1)において、
nは1からxまでのすべての整数を表し、
は前記圧電性材料層から見てn層目の前記中間層の前記圧電性材料層側の表面の算術平均粗さであり、
とR n+1 との差が0.2nm以上であり、
x+1は前記支持基板の前記圧電性材料層側の表面の算術平均粗さであって、1.5~5nmである。)

n-1<V ・・・ (2)

(式(2)において、
nは2以上、x以下のすべての偶数を示し、
は前記圧電性材料層から見てn層目の前記中間層の音速である。)

n-1>V ・・・ (3)

(式(3)において、
nは1以上、x以下のすべての奇数を示し、
は前記圧電性材料層から見てn層目の前記中間層の音速であり、
は前記圧電性材料層の音速である。)
【請求項2】
前記中間層が、ケイ素、酸化ケイ素、アルミナ、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ハフニウムおよび酸化チタンからなる群より選ばれた材質からなることを特徴とする、請求項1記載の弾性波デバイス用複合基板。
【請求項3】
前記支持基板の前記圧電性材料層側の前記表面が研削砥石による加工またはブラスト加工により粗されていることを特徴とする、請求項1または2記載の弾性波デバイス用複合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス用複合基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸リチウムとサファイアとを酸化珪素層を介して貼り合わせた表面弾性波フィルターは、その接合界面でバルク波が発生し、通過域および高周波域に不要レスポンスが現れることが知られている。これを防ぐ目的で接合界面に粗面を導入し、バルク波を散乱させ不要レスポンスを抑制する手法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1では、接合面を粗面化したとき、その粗面の幾何学的仕様について、粗面を構成する凹凸構造の断面曲線における要素の平均長さRSmと表面弾性波の波長λとの比を0.2以上、7.0以下とし、また凹凸構造の断面曲線における算術平均粗さRaを100nm以上としている。一方、特許文献2では、粗面の高低差について規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6250856号公報
【文献】米国公開第2017-063333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、十分に高いスプリアス抑制効果を得るためには、圧電性材料基板の裏面を大幅に粗らす加工が必要になる。しかし、こうした加工を裏面に行った圧電性材料基板を用いて接合体を作成すると、圧電性材料を薄化したときに、その表面に加工変質層が現れ、特性の劣化が生じやすい。また、圧電性材料基板を支持基板上の中間層に対して接合するのに際して、圧電性材料基板の裏面の粗度が大きいと、接合強度を高くすることが難しい。
【0006】
本発明の課題は、圧電性材料基板と支持基板との接合体からなる弾性波デバイス用複合基板において、圧電性材料基板と支持基板との接合強度を向上させるとともに、バルク波の反射を効率的に減少させてスプリアスを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、圧電性材料層、支持基板、および前記圧電性材料層と前記支持基板との間にあるx層(xは3以上の整数である)の中間層を備えており、前記圧電性材料層、前記支持基板および前記中間層が下記の式(1)を満足するとともに、xが偶数の場合には下記の式(2)を満足し、xが奇数の場合には下記の式(3)を満足することを特徴とする、弾性波デバイス用複合基板にかかるものである。

<Rn+1 ・・・ (1)

(式(1)において、
nは1からxまでのすべての整数を表し、
は前記圧電性材料層から見てn層目の前記中間層の前記圧電性材料層側の表面の算術平均粗さであり、
とR n+1 との差が0.2nm以上であり、
x+1は前記支持基板の前記圧電性材料層側の表面の算術平均粗さであって、1.5~5nmである。)

n-1<V ・・・ (2)

(式(2)において、
nは2以上、x以下のすべての偶数を示し、
は前記圧電性材料層から見てn層目の前記中間層の音速である。)

n-1>V ・・・ (3)

(式(3)において、
nは1以上、x以下のすべての奇数を示し、
は前記圧電性材料層から見てn層目の前記中間層の音速であり、
は前記圧電性材料層の音速である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、圧電性材料基板と支持基板との接合体からなる弾性波デバイス用複合基板において、支持基板から圧電性材料層へと向かって中間層の算術平均粗さを段階的に低くすることで、圧電性材料基板に対する接合強度が向上する。これとともに、圧電性材料層から支持基板へと向かって音速の早い中間層と音速の遅い中間層とを順次隣接して設けることで、バルク波の反射が効率的に減少し、スプリアス波が顕著に抑制されることを見いだし、本発明に到達した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は、支持基板上に中間層X、2および接合層Mを設けた状態を示す模式的断面図であり、(b)は、圧電性材料基板上に接合層Yを設けた状態を示す断面図であり、(c)は、支持基板と圧電性材料基板との接合体7Aを示す断面図である。
図2】(a)は、支持基板上に中間層X、3、2および接合層Mを設けた状態を示す模式的断面図であり、(b)は、圧電性材料基板上に接合層Yを設けた状態を示す断面図であり、(c)は、支持基板と圧電性材料基板との接合体7Bを示す断面図である。
図3】(a)は、接合体の圧電性材料基板を加工により薄くした状態を示し、(b)は、弾性波素子8を示す。
図4】支持基板上の中間層の音速を例示するグラフである。
図5】支持基板上の中間層の音速を例示するグラフである。
図6】実施例の弾性波素子のS11の周波数特性を示すグラフである。
図7】比較例の弾性波素子のS11の周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明を更に詳細に説明する。
まず、図1(a)に示すように、支持基板Sの表面Sa上に、中間層X、2および接合層Mを順次形成する。次いで、接合層Mの表面Maを精密研磨加工、例えば化学機械研磨加工する。次いで、中間層Mの表面Maを表面活性化する。
【0011】
一方、図1(b)に示すように、圧電性材料層PZの主面PZa上に接合層Yを設ける。接合層Yの表面Yaを表面活性化する。次いで、接合層Mの表面Maと接合層Yの表面Yaとを接触させ、直接接合することによって、図1(c)に示す接合体7Aを得ることができる。接合層Yと接合層Mとは同じ材質である場合には両者が実質的に一体化し、中間層1となる。
【0012】
また、図2は、圧電性材料層と支持基板との間に四層の中間層を設けた実施例である。
まず、図2(a)に示すように、支持基板Sの表面Sa上に、中間層X、3、2および接合層Mを順次形成する。次いで、最も上層の接合層Mの表面Maを精密研磨加工、例えば化学機械研磨加工する。次いで、接合層Mの表面Maを表面活性化する。
【0013】
一方、図2(b)に示すように、圧電性材料基板PZの表面PZaを粗面化加工する。圧電性材料基板PZの主面PZa上に接合層Yを設ける。接合層Yの表面Yaを表面活性化する。次いで、接合層Mの表面Maと接合層Yの表面Yaとを接触させ、直接接合することによって、図2(c)に示す接合体7Bを得ることができる。
【0014】
次いで、図3(a)に示すように、圧電性材料基板PZを加工によって薄くし、圧電性材料基板PZCを形成することで、接合体7Cを得る。この状態で、圧電性材料基板PZC上に電極を設けても良い。しかし、好ましくは、図3(b)に示すように、圧電性材料基板PZCの加工面上に所定の電極9を形成し、弾性波素子8を得ることができる。
【0015】
ここで、圧電性材料層と支持基板との間の複数層の中間層の各算術平均粗さRaおよび各音速を調節することによって、支持基板と圧電性材料基板との接合強度を高くできるととともに、スプリアス波を抑制することできる。こうした構成について更に説明する。
【0016】
まず、圧電性材料層PZ(PZC)と支持基板Sの表面Saとの間にx層(xは3以上である)の中間層を設ける。3層以上の中間層が必要であるのは、中間層の算術平均粗さを段階的に低くするとともに、バルク波の反射を効率的に減少させてスプリアスを抑制するためである。こうした観点からは、中間層の層数は4層以上とすることが更に好ましい。また、中間層の層数の上限は特に無いが、中間層の層数が増えると製造コストが増加するので、この観点からは、中間層の層数は、10層以下であることが好ましい。
【0017】
接合体は、式(1)を満足するとともに、xが偶数の場合には下記の式(2)を満足し、xが奇数の場合には下記の式(3)を満足する。
まず、式(1)は、支持基板および各中間層の各表面の算術平均粗さについて規定するものである。
【0018】
<Rn+1 ・・・ (1)

(式(1)において、
nは1からxまでのすべての整数を表し、
は前記圧電性材料層から見てn層目の前記中間層の前記圧電性材料層側の表面の算術平均粗さであり、
とR n+1 との差が0.2nm以上であり、
x+1は前記支持基板の前記圧電性材料層側の表面の算術平均粗さであって、1.5~5nmである。)
【0019】
すなわち、圧電性材料層PZから見て一層目の中間層1の圧電性材料層側表面1aの算術平均粗さRは、二層目の中間層2の圧電性材料層側表面2aの算術平均粗さRよりも低く、圧電性材料層PZから見て二層目の中間層2の圧電性材料層側表面2aの算術平均粗さRは、三層目の中間層3の圧電性材料層側表面3aの算術平均粗さRよりも低くなっており、この後も支持基板へと向かって中間層の圧電性材料層側表面の算術平均粗さが順次高くなっている。そして、支持基板Sに最も近い中間層Xの圧電性材料層側表面Xaの算術平均粗さRxよりも支持基板Sの圧電性材料層側表面Saの算術平均粗さRx+1のほうが高くなっている。
つまり、支持基板から圧電性材料層へと向かって、各中間層の圧電性材料層側の各表面の算術平均粗さを順次低くしている。
【0020】
例えば、図1(c)の例では、圧電性材料層PZと支持基板Sとの間に3層の中間層1、2、Xが存在する(x=3)。この場合には、圧電性材料層PZから見て一層目の中間層1の圧電性材料層側表面1aの算術平均粗さRが、二層目の中間層2の圧電性材料層側表面2aの算術平均粗さRよりも低く、二層目の中間層2の表面2aの算術平均粗さRが、三層目(x層目)の中間層Xの表面Xaの算術平均粗さRよりも低く、三層目の中間層Xの表面Xaの算術平均粗さRが、支持基板Sの表面Saの算術平均粗さRx+1よりも低い。すなわち、圧電性材料層から離れるに従って、中間層の表面の算術平均粗さが段階的に高くなっている。
【0021】
また、図2(c)の例では、圧電性材料層PZと支持基板Sとの間に4層の中間層1、2、3、Xが存在する(x=4)。この場合には、圧電性材料層PZから見て一層目の中間層1の圧電性材料層側表面1aの算術平均粗さRが、二層目の中間層2の圧電性材料層側表面2aの算術平均粗さRよりも低く、二層目の中間層2の表面2aの算術平均粗さRが、三層目(x層目)の中間層3の表面3aの算術平均粗さRよりも低く、三層目の中間層3の表面3aの算術平均粗さRが、四層目(x層目)の中間層Xの表面Xaの算術平均粗さRよりも低く、四層目の中間層Xの表面Xaの算術平均粗さRが、支持基板Sの表面Saの算術平均粗さRx+1よりも低い。すなわち、圧電性材料層から離れるに従って、中間層の表面の算術平均粗さが段階的に高くなっている。
【0022】
このように、圧電性材料層から離れるに従って中間層の表面が粗くなるようにすることで、圧電性材料基板との接合強度を高くすることができる。
【0023】
こうした観点からは、Rx+1とRとの差は、0.2nm以上であることが好ましく、0.5nm以上であることが更に好ましい。また、実際的な観点からは、Rx+1とRとの差は、1nm以下であることが多い。
また、本発明の観点からは、Rn-1とRとの差は、0.2nm以上であることが好ましく、0.5nm以上であることが更に好ましい。また、実際的な観点からは、Rn-1とRとの差は、1nm以下であることが多い。
【0024】
また、支持基板Sの表面Saの算術平均粗さRx+1は、1.5~5nmであることが好ましく、1.5~4.0nmであることが更に好ましい。また、接合強度の観点からは、圧電性材料層に最も近い(一層目の)中間層1の表面1aの算術平均粗さRは、1nm以下であることが好ましく、0.3nm以下であることが更に好ましい。
【0025】
更に、本発明の接合体は、各層の音速について、所定の関係を満足する必要がある。すなわち、xが偶数の場合には下記の式(2)を満足し、xが奇数の場合には下記の式(3)を満足する。
n-1<V ・・・ (2)
(式(2)において、
nは2以上、x以下のすべての偶数を示し、
は前記圧電性材料層から見てn層目の前記中間層の音速である。)

n-1>V ・・・ (3)
(式(3)において、
nは1以上、x以下のすべての奇数を示し、
は前記圧電性材料層から見てn層目の前記中間層の音速であり、
は前記圧電性材料層の音速を示す)
【0026】
例えば、図1(c)の例では、圧電性材料層と支持基板との間に三層の中間層1、2、Xを形成している。x=3であるので、式(3)を満足する。
ゆえに、式(3)は、例えば図4に示すようになる。なお、Vx+1は、支持基板Sの音速である。
【0027】
一般に、xが奇数の場合には、nは1以上、x以下の奇数である。ゆえに、支持基板から圧電性材料層へと向かって、以下のように配列される。
x-1>V:Vx-3>Vx-2・・・・・・V>V:V>V
この場合、Vn-1とVn-2との大小関係は限定はされないが、
n-2<Vn-1
の関係を満足することが特に好ましい。
【0028】
xが偶数の場合には、
n-1<V ・・・ (2)
を満足するので、圧電性材料層から支持基板へと向かって、各中間層の音速は、以下のようになる。
x-1<V:Vx-3<Vx-2・・・・・・V<V:V<V
【0029】
例えば、図2(c)の例では、圧電性材料層と支持基板との間に四層の中間層1、2、3、Xを形成している。x=4であるので、式(2)は以下のようになる。
<V:V<V
ゆえに、例えば図5に示すようになる。なお、Vx+1は、支持基板Sの音速である。
この場合、Vn-1とVn-2との大小関係は限定はされないが、
n-2>Vn-1
の関係を満足することが好ましい。
【0030】
本発明の観点からは、式(2)、式(3)において、それぞれ、Vn-1とVとの差は、200m/sec以上であることが好ましく、500m/sec以上であることが更に好ましい。また、実際上の観点からは、式(2)、式(3)において、それぞれ、Vn-1とVとの差は、3000m/sec以下であることが多い。
本発明の観点からは、VとVとの差は200m/sec以上であることが好ましく、500m/sec以上であることが更に好ましい。また、VとVとの差の上限は特にないが、実際上の観点からは、3000m/sec以下であってよい。
また、Vn-2とVn-1とが異なる場合には、Vn-2とVn-1との差は、1000m/sec以上であることが好ましく、3000m/sec以上であることが更に好ましい。また、実際上の観点からは、Vn-2とVn-1との差は、10,000m/sec以下であることが多い。
【0031】
支持基板の材質は特に限定されないが、好ましくは、シリコン、水晶、サファイアからなる群より選ばれた材質からなる。これによって、弾性波素子の周波数の温度特性を一層改善することができる。
また、支持基板の圧電性材料層側の表面が研削砥石による加工またはブラスト加工により粗されていてもよい。
また、ブラスト加工とは、コンプレッサーエアーで研磨材を表面に吹き付ける加工である。
【0032】
各中間層、圧電性材料基板上の各中間層の成膜方法は限定されないが、スパッタリング、化学的気相成長法(CVD)、蒸着を例示できる。
【0033】
各中間層の材質は、表面活性化処理が可能であれば特に限定されないが、金属酸化膜が好ましく、ケイ素、酸化ケイ素、アルミナ、五酸化タンタル、五酸化ニオブおよび酸化チタンからなる群より選ばれた材質が特に好ましい。また、表面活性化処理方法は、用いる接合層の材質に応じて適切なものを選択することができる。こうした表面活性化方法としては、プラズマ活性化とFAB(Ar原子ビーム)を例示できる。
【0034】
各中間層の厚さは、本発明の観点からは、0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることが更に好ましく、0.1μm以上であることが特に好ましい。また、各中間層の厚さは、3μm以下であることが好ましく、2μm以下が好ましく、1μm以下が更に好ましい。
【0035】
また、複数の中間層の合計厚さは、本発明の観点からは、0.1~5μmであることが好ましく、0.2~2μmであることが更に好ましい。
【0036】
本発明で用いる圧電性材料基板は、タンタル酸リチウム(LT)単結晶、ニオブ酸リチウム(LN)単結晶、ニオブ酸リチウム-タンタル酸リチウム固溶体が好ましい。これらは弾性波の伝搬速度が速く、電気機械結合係数が大きいため、高周波数且つ広帯域周波数用の弾性表面波デバイスとして適している。
【0037】
また、圧電性材料基板の主面の法線方向は、特に限定されないが、例えば、圧電性材料基板がLTからなるときには、弾性表面波の伝搬方向であるX軸を中心に、Y軸からZ軸に32~55°回転した方向のもの、オイラー角表示で(180°,58~35°,180°)、を用いるのが伝搬損失が小さいため好ましい。圧電性材料基板がLNからなるときには、(ア)弾性表面波の伝搬方向であるX軸を中心に、Z軸から-Y軸に37.8°回転した方向のもの、オイラー角表示で(0°,37.8°,0°)を用いるのが電気機械結合係数が大きいため好ましい、または、(イ)弾性表面波の伝搬方向であるX軸を中心に、Y軸からZ軸に40~65°回転した方向のもの、オイラー角表示で(180°,50~25°,180°)を用いるのが高音速が得られるため好ましい。更に、圧電性材料基板の大きさは、特に限定されないが、例えば、直径100~200mm,厚さが0.15~1μmである。
【0038】
例えば、支持基板上の最表面の接合層Mの表面と、圧電性材料基板PZの支持基板側表面PZaまたは圧電性材料基板上の接合層Yの表面Yaとを表面活性化し、直接接合する。例えば、各表面に150℃以下でプラズマを照射し、接合面を活性化させる。本発明の観点からは、窒素プラズマを照射することが好ましいが、酸素プラズマを照射した場合にも、本発明の接合体を得ることが可能である。
【0039】
表面活性化時の圧力は、100Pa以下が好ましく、80Pa以下が更に好ましい。また、雰囲気は窒素のみであって良く、酸素のみであってよいが、窒素、酸素の混合物であってもよい。
【0040】
プラズマ照射時の温度は150℃以下とすることが好ましい。これによって、接合強度が高く、かつ結晶性の劣化のない接合体が得られる。この観点から、プラズマ照射時の温度を150℃以下とするが、100℃以下とすることが更に好ましい。
また、プラズマ照射時のエネルギーは、30~150Wが好ましい。また、プラズマ照射時のエネルギーと照射時間との積は、0.12~1.0Whが好ましい。
【0041】
プラズマ処理した圧電性材料基板の接合面と接合層の接合面を室温で互いに接触させる。このとき真空中で処理してもよいが、より好ましくは大気中で接触させる。
【0042】
アルゴン原子ビームによる表面活性化を行う際には、特開2014-086400に記載のような装置を使用してアルゴン原子ビームを発生させ、照射することが好ましい。すなわち、ビーム源として、サドルフィールド型の高速原子ビーム源を使用する。そして、チャンバーに不活性ガスを導入し、電極へ直流電源から高電圧を印加する。これにより、電極(正極)と筺体(負極)との間に生じるサドルフィールド型の電界により、電子eが運動して、アルゴン原子とイオンのビームが生成される。グリッドに達したビームのうち、イオンビームはグリッドで中和されるので、アルゴン原子のビームが高速原子ビーム源から出射される。ビーム照射による活性化時の電圧は0.5~2.0kVとすることが好ましく、電流は50~200mAとすることが好ましい。
【0043】
次いで、支持基板上の最表面の接合層Mの表面Maと、圧電性材料基板PZの表面PZaあるいは圧電性材料基板上の接合層Yの表面Yaとを接触させ、接合する。この後、アニール処理を行うことによって、接合強度を向上させることが好ましい。アニール処理時の温度は、100℃以上、300℃以下が好ましい。
【0044】
本発明の接合体は、弾性波素子に対して好適に利用できる。すなわち、本発明の接合体、および圧電性材料基板上に設けられた電極を備えている、弾性波素子である。
具体的には、弾性波素子としては、弾性表面波デバイスやラム波素子、薄膜共振子(FBAR)などが知られている。例えば、弾性表面波デバイスは、圧電性材料基板の表面に、弾性表面波を励振する入力側のIDT(Interdigital Transducer)電極(櫛形電極、すだれ状電極ともいう)と弾性表面波を受信する出力側のIDT電極とを設けたものである。入力側のIDT電極に高周波信号を印加すると、電極間に電界が発生し、弾性表面波が励振されて圧電性材料基板上を伝搬していく。そして、伝搬方向に設けられた出力側のIDT電極から、伝搬された弾性表面波を電気信号として取り出すことができる。
【0045】
圧電性材料基板上の電極を構成する材質は、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、金が好ましく、アルミニウムまたはアルミニウム合金がさらに好ましい。アルミニウム合金は、Alに0.3から5重量%のCuを混ぜたものを使用するのが好ましい。この場合、CuのかわりにTi、Mg、Ni、Mo、Taを使用しても良い。
【実施例
【0046】
(実施例1)
図1図3を参照しつつ説明した方法に従い、図3(b)に示す弾性波素子8を作製した。
具体的には、厚さ350μmの両面が鏡面加工された42YカットX伝搬LiTaO3基板(圧電性材料基板)PZを用意した。また、厚みが675μmの高抵抗(>2kΩ・cm)Si(100)基板(支持基板)Sを用意した。基板サイズはいずれも150mmである。
【0047】
次いで、支持基板Sの表面SaをGC#6000相当の研削砥石で研削加工を施した。全面が均一に加工されるように加工代を5μmとした。加工後の支持基板表面Saを光干渉式粗さ測定器で測定したところ、算術平均粗さRx+1は3.2nmであった。
【0048】
支持基板Sの表面Saを洗浄した後、スパッタ装置でTa2O5からなる中間層Xを成膜した。この時の中間層Xの厚みは1200nmであった。成膜後のウエハーをいったん取り出し、表面Xaの算術平均粗さRを測定したところ、1.9nmと大きく減少していた。中間層X上に連続してシリコンからなる中間層2を800nm成膜した。中間層2の表面2aの算術平均粗さRは1.3nmであった。更に、酸化珪素からなる接合層Mを厚さ400nm成膜し、最終的に3層の積層構造を設けた。接合層Mの表面Maの算術平均粗さは1.0nmであり、当初の3.2nmより大幅に滑らかな表面が得られていた。最表面の接合層の表面をCMP加工し,約30nmを除去した。その結果表面の算術平均粗さを0.6nmとすることができた。
【0049】
また、圧電性材料基板PZの表面PZa上に、酸化珪素からなる接合層Yを厚さ100nmだけ成膜した。この時の接合層Yの表面Yaの算術平均粗さは1.2nmであった。この表面をCMPにより約50nm加工したところ、算術平均粗さは0.3nmであった。
【0050】
こうして得られた圧電性材料基板上の接合層の接合面および支持基板上の最表面の接合層の表面をそれぞれ洗浄および表面活性化した。具体的には、純水を用いた超音波洗浄を実施し、スピンドライにより基板表面を乾燥させた。次いで、洗浄後の支持基板をプラズマ活性化チャンバーに導入し、窒素ガスプラズマで30℃で接合面を活性化した。また、圧電性材料基板を同様にプラズマ活性化チャンバーに導入し、窒素ガスプラズマで30℃で接合面を表面活性化した。表面活性化時間は40秒とし、エネルギーは100Wとした。表面活性化中に付着したパーティクルを除去する目的で、上述と同じ超音波洗浄、スピンドライを再度実施した。
【0051】
次いで、各基板の位置合わせを行い、室温で両基板の活性化した接合面同士を接触させた。圧電性材料基板側を上にして接触させた。この結果、基板同士の密着が広がる様子(いわゆるボンディングウェーブ)が観測され、良好に予備接合が行われたことが確認できた。次いで、接合強度を増すことを目的に、接合体を窒素雰囲気のオーブンに投入し、150℃で10時間保持した。オーブンから取り出した接合体の接合強度をクラックオープニング方で測定したところ、2.3J/mと十分な接合強度が得られていることが分かった。
【0052】
加熱後の接合体の圧電性材料基板の表面を研削加工、ラップ加工、およびCMP加工に供し、圧電性材料基板の厚さが20μmとなるようにした。
次いで、本発明の効果を確認するために、接合体の圧電性材料基板上に、金属アルミニウムからなる櫛歯電極を形成し、表面弾性波素子の共振子を作製した。その諸元を以下に示す。
IDT周期 6μm
IDT開口長 300um
IDT本数 80本
反射器本数 40本
【0053】
ネットワークアナライザでその反射特性を測定したところ、図6に示すように反共振周波数より高い領域での最大スプリアスの大きさは2.2dBであった。
【0054】
以下に、本実施例における支持基板、中間層、圧電性材料基板の各物性をまとめて示す。また、各部分の音速を図4に示す。
表面の算術平均粗さ(nm) 音速(m/sec)
圧電性材料層PZC ― 5,574
一層目の中間層1 1.0 4,173
二層目の中間層2 1.3 7,458
三層目の中間層X 1.9 5,235
支持基板S 3.2 ━
【0055】
ただし、各部分の音速は、以下のように定義する。
すなわち物質の弾性率をE、密度をρとした場合、音速Vを以下の式を用いて算出する。
【数1】
圧電体結晶の場合はこれらパラメータについて種々報告がなされているが(例えば弾性波デバイス技術 日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会編などが詳しい)、誘電薄膜についてはそれぞれ測定が必要である。Si基板の上にそれぞれの物質をスパッタリング法により製膜する。この時の厚みは約1μmとした。これら膜に対してまずはX線反射法により密度を測定した。更にナノインデンテーション試験により弾性率を測定し、それぞれの膜の音速を上記式に基づいて算出する。
また、各表面の算術平均粗さは、日立ハイテック製の原子間力顕微鏡(AFM)で10x10μmの範囲を観察し、表面の凹凸データから算出した。
【0056】
(実施例2)
実施例1と同様にして、図2(c)に示すような接合体7Bを作製し、更に図3に示すような処理を施してSAW素子を得た。
ただし、支持基板上に中間層X、3、2、接合層Mを設けた。具体的には、算術平均粗さRaが3.2nmのシリコンからなる支持基板Sの表面Saを洗浄した後、スパッタ装置で酸化アルミニウムからなる中間層Xを成膜した。この時の中間層Xの厚みは600nmであった。成膜後のウエハーをいったん取り出し、中間層Xの表面Xaの算術平均粗さRを測定したところ、2.7nmまで減少していた。再度同じウエハー上に連続して 酸化珪素からなる中間層3を1000nm成膜した。この時の算術平均粗さは1.6nmであった。更にケイ素からなる中間層2を厚さ300nm成膜した後、酸化珪素からなる接合層Mを連続して350nm成膜し、最終的に4層の膜構造をもつ支持基板を得た。この時の中間層2、接合層Mの算術平均粗さはそれぞれ1.3nm,1.2nmと初期の3.2nmより大幅に滑らかな表面が得られていた。最表面の接合層Mの表面MaをCMP加工し、約30nmを除去した。その結果接合層Mの表面Maの算術平均粗さを0.55nmとすることができた。
【0057】
他は実施例1と同様にして図3(c)のようなSAW素子を作製し、同様の測定を実施したところ、最大スプリアスの大きさは1.3dBであった。
【0058】
各層の表面粗さおよび音速は以下のようである。また、各部分の音速を図5に示す。
表面の算術平均粗さ(nm) 音速(m/sec)
圧電性材料層PZC ━ 5,574
一層目の中間層1 1.2 5,235
二層目の中間層2 1.3 6,872
三層目の中間層3 1.6 5,235
四層目の中間層X 2.7 7,458
支持基板S 3.2 ━
【0059】
(比較例1)
実施例1と同様にして、図1に示すような接合体を作製し、更に図3に示すような処理を施してSAW素子を得た。
ただし、本例では、実施例1とは各中間層の材質を変更した。具体的には、算術平均粗さRa=2.8nmのシリコンからなる支持基板Sの表面Saに、酸化アルミニウムからなる中間層X(600nm)、酸化珪素からなる中間層2(1200nm)、シリコンからなる最表面の接合層M(400nm)を続けて成膜し、三層構造を得た。各中間層2、接合層Mの各算術平均粗さはそれぞれ1.2nm、1.0nm、0.9nmであった。最表層の接合層を20nm程度CMP研磨し、鏡面とした。次いで圧電性材料基板上の接合層の表面と支持基板上の最表面の中間層の表面にArの中性原子を照射した後、直接接合した。
【0060】
実施例1と同様に圧電性材料基板厚みを20μmまで加工した後に周波数特性を測定したところ、図7に示すようなS11の周波数変化のチャートが得られた。また最大スプリアスの大きさは14.4dBであった。
【0061】
各層の表面粗さおよび音速は以下のようである。
表面の算術平均粗さ(nm) 音速(m/sec)
圧電性材料層PZC ━ 5,574
一層目の中間層1 0.9 6,872
二層目の中間層2 1.0 5,235
三層目の中間層X 1.2 7,458
支持基板S 2.8 ━
【0062】
(比較例2)
実施例1と同様にして、図1に示すような接合体を作製し、更に図3に示すような処理を施してSAW素子を得た。
ただし、本例では、実施例1とは各中間層の材質を変更した。具体的には、算術平均粗さRa=2.9nmのシリコンからなる支持基板Sの表面Saに、ケイ素からなる中間層X(600nm)、酸化アルミニウムからなる中間層2(1200nm)、ケイ素からなる最表面の接合層M(400nm)を続けて成膜した。各中間層2、接合層Mの成膜時の各算術平均粗さはそれぞれ2.2nm、1.7nm、1.6nmであった。最表層の接合層を80nm程度CMP研磨し、鏡面とした。次いで圧電性材料基板の表面と支持基板上の最表面の接合層の表面にArの中性原子を照射した後、直接接合した。
【0063】
実施例1と同様に圧電性材料基板厚みを20μmまで加工した後に周波数特性を測定したところ、最大スプリアスの大きさは17.8dBであった。
【0064】
各層の表面粗さおよび音速は以下のようである。
表面の算術平均粗さ(nm) 音速(m/sec)
圧電性材料層PZC ━ 5,574
一層目の中間層1 1.6 6,872
二層目の中間層2 1.7 7,458
三層目の中間層X 2.2 6,872
支持基板S 2.9 ━


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7