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特許7625552繊維強化樹脂シート、繊維強化樹脂チョップ材、繊維強化樹脂複合材、および樹脂成形品
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  • 特許-繊維強化樹脂シート、繊維強化樹脂チョップ材、繊維強化樹脂複合材、および樹脂成形品 図1
  • 特許-繊維強化樹脂シート、繊維強化樹脂チョップ材、繊維強化樹脂複合材、および樹脂成形品 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂シート、繊維強化樹脂チョップ材、繊維強化樹脂複合材、および樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20250127BHJP
   B29C 70/14 20060101ALI20250127BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20250127BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
C08J5/04 CES
C08J5/04 CEX
B29C70/14
B32B27/12
B32B27/28 102
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022088777
(22)【出願日】2022-05-31
(65)【公開番号】P2023176478
(43)【公開日】2023-12-13
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】金森 尚哲
(72)【発明者】
【氏名】兼岩 秀和
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-090772(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143645(WO,A1)
【文献】特開2004-122683(JP,A)
【文献】特開2021-066081(JP,A)
【文献】特開2023-182354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04
B29C 70/14
B32B 27/12
B32B 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10μm以上50μm以下の厚さを有するエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムと、繊維方向が同一方向に配向した状態で前記エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに含浸された複数の強化繊維と、を含み、
前記強化繊維の体積含有率Vfは、2%以上53%以下であり、かつ、
厚さが20μm以上80μm以下である、繊維強化樹脂シート。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化樹脂シートを、短辺の長さが2mm以上20mm以下、かつ、長辺の長さが10mm以上40mm以下の矩形に細断してなる、繊維強化樹脂チョップ材。
【請求項3】
請求項2に記載の繊維強化樹脂チョップ材を複数含み、
前記複数の繊維強化樹脂チョップ材が厚さ方向に積層されている、繊維強化樹脂複合材。
【請求項4】
1枚以上のキャリアシートをさらに含み、
前記キャリアシートは、その一方または両方の面において、積層された前記複数の繊維強化樹脂チョップ材を支持している、請求項に記載の繊維強化樹脂複合材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムと強化繊維とを含む繊維強化樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂複合材は、スポーツやレジャー用途から、自動車や航空機等の産業用途まで、幅広く用いられている材料である。繊維強化樹脂複合材は、強化繊維等の長繊維(連続繊維)からなる補強材を樹脂マトリックスへ含浸させた中間材料、すなわちプリプレグ(以下、「繊維強化樹脂シート」とも言う)を用いて製造される。具体的には、繊維強化樹脂シートを複数積層して加熱および硬化、または加熱および冷却して固化させることにより、繊維強化樹脂複合材またはそれを含む樹脂成形品を得ることができる。
【0003】
従来、繊維強化樹脂複合材の製造の際に、強度および剛性に優れているとの観点から、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂が多く用いられていた(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、熱硬化性樹脂を用いた繊維強化樹脂シートは、耐衝撃性が低く、かつ二次加工性および量産性が困難であるという課題があった。そのため、近年では、マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂を用いて強化繊維を含浸させた繊維強化樹脂シートが広く開発されている。このような繊維強化樹脂シートは、加熱による溶融および冷却による固化が容易である。そのため、熱可塑性樹脂を用いた繊維強化樹脂シートは、成形加工時における操作性に優れ、繊維強化樹脂複合材またはそれを含む樹脂成形品の生産時間短縮等の効果も見込まれ、かつ、コスト低減にも繋がる。
【0004】
一方、このような繊維強化樹脂複合材が用いられる例として、自動車等に搭載するために好適な二層構造の耐圧容器が知られている。例えば、特許文献2には、ガスバリアー性を有する内殻と、内殻を覆うように設けられる耐圧性の繊維強化ブラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)製の外殻(すなわち、繊維強化樹脂複合材)とを有するガスボンベが記載されている。具体的には、特許文献2には、ガスバリアー性の観点から、内殻をポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂等で作り、耐圧性とガスボンベの軽量化の観点から、外殻を繊維強化プラスチックで構成することが記載されている。また、外殻の繊維強化プラスチックに用いられる樹脂としては、熱硬化性樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられている。
【0005】
また、ガスバリアー性に優れた樹脂として、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂が知られている。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂は、水素、窒素、酸素等の多数のガスを通し難い性質を有する。そのため、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムは、食品、医薬品、化粧品、農産物、工業製品等の包装容器、自動車のガソリンタンク等に広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-118381号公報
【文献】特開平8-219391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂は、広く知られている。しかしながら、マトリックス樹脂としてエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を用いた中間材料である繊維強化樹脂シート(またはプレプリグ)は報告されていない。これは、マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂を用いて繊維強化樹脂シートを成形する場合、ポリアミド樹脂が用いられることが非常に多いためと考えられる。具体的には、ポリアミド樹脂は、熱硬化性樹脂には劣るが、他の熱可塑性樹脂と比較して高い強度(例えば、引張強度、曲げ強度等)や耐熱性を有する。一方、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂は、柔軟性や弾力性に顕著に優れ、このような性質を要する樹脂成形品の製造のために広く用いられている。従って、優れたガスバリアー性および高強度の両方を要する樹脂成形品の多くは、一般的に、ガスバリアー性を有する樹脂からなる層と、ポリアミド樹脂または熱硬化性樹脂を含む繊維強化樹脂複合材からなる層の2層構造で構成されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
このような事情から、異なる樹脂からなる2層構造で構成しなくても、最終的な樹脂成形品に優れたガスバリアー性および高い強度を付与できる、中間材料としての繊維強化樹脂シートがあれば好ましい。加えて、繊維強化樹脂シートは、様々な形状の樹脂成形品に適用できるように、良好な成形加工性も有するとより好ましい。
【0009】
そこで、本発明は、優れたガスバリアー性および高強度を有する繊維強化樹脂複合材を得ることができ、かつ良好な成形加工性を有する繊維強化樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
【0011】
本発明の第1の局面に係る繊維強化樹脂シートは、10μm以上50μm以下の厚さを有するエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムと、繊維方向が同一方向に配向した状態で前記エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに積層された複数の強化繊維と、を含み、
前記強化繊維の体積含有率Vfは、20%以上70%以下であり、かつ、
厚さが20μm以上80μm以下である。
【0012】
本発明の第2の局面に係る繊維強化樹脂チョップ材は、第1の局面に係る繊維強化樹脂シートを、短辺の長さが2mm以上20mm以下、かつ、長辺の長さが10mm以上40mm以下の矩形に細断してなる。
【0013】
本発明の第3の局面に係る繊維強化樹脂複合材は、第1の局面に係る繊維強化樹脂シートを複数含み、
前記複数の繊維強化樹脂シートが、前記強化繊維の繊維方向が同一方向となる状態または二次元平面に角度差を有する状態において、厚さ方向に積層されている。
【0014】
あるいは、本発明の第3の局面に係る繊維強化樹脂複合材は、第2の局面に係る繊維強化樹脂チョップ材を複数含み、
前記複数の繊維強化樹脂チョップ材が厚さ方向に積層されている。
【0015】
上記第3の局面に係る繊維強化樹脂複合材において、1枚以上のキャリアシートをさらに含み、
前記キャリアシートは、その一方または両方の面において、積層された前記複数の繊維強化樹脂チョップ材を支持していることが好ましい。
【0016】
本発明の第4の局面に係る樹脂成形物は、第3の局面に係る繊維強化樹脂複合材を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れたガスバリアー性および高強度を有する繊維強化樹脂複合材を得ることができ、かつ良好な成形加工性を有する繊維強化樹脂シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本実施形態における繊維強化樹脂複合材の1例である積層チョップドシートの概略断面図である。
図2図2は、本実施形態における繊維強化樹脂複合材の1例である、キャリアシートを含む積層チョップドシートの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、優れたガスバリアー性(特に水素ガスに対するガスバリアー性)および高強度を有する繊維強化樹脂複合材を得ることができ、かつ良好な成形加工性を有する中間材料としての繊維強化樹脂シートについて、検討した。そこで、まず、本発明者らは、これらの全ての効果を達成できる繊維強化樹脂シートの開発において、樹脂マトリックスとしてガスバリアー性に優れたエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を用いることを想定した。ここで、一般的に、繊維強化樹脂複合材(または繊維強化樹脂シート)における強化繊維の体積含有率Vfがより大きい程、繊維強化樹脂複合材またはその樹脂成形品の強度もより大きくなる傾向にある。しかしながら、中間材料である繊維強化樹脂シートの製造時において、樹脂マトリックスに含浸させる強化繊維の量を過度に増加すると、シートが厚くなってしまい、その成形加工性が低下してしまう。また、シートを薄くするために、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの厚さを薄くすると、シートから製造される繊維強化樹脂複合材およびその樹脂成形品のガスバリアー性が劣ることも考えられる。さらには、強化繊維の体積含有率Vfの値が、直接的または間接的に、繊維強化樹脂複合材および樹脂成形品のガスバリアー性に影響を与えることも予測される。このように、中間材料としての繊維強化樹脂シートの成形加工性、ならびにそのシートを用いて得られる繊維強化樹脂複合材および樹脂成形品のガスバリアー性および強度を全て好適とすることは難しいと想定される。
【0020】
しかし、本発明者らが鋭意検討を行った結果、熱可塑性樹脂としてエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を選択し、所定の構造を有する繊維強化樹脂シートを構成して、かつ、樹脂フィルムの厚さ、強化繊維の体積含有率Vfおよびシートの厚さを所定の範囲内で適切に調整することによって、前述したような繊維強化樹脂シートを提供できることが分かった。
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、ここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0022】
<繊維強化樹脂シート>
1.繊維強化樹脂シートの構成
まず、本実施形態における繊維強化樹脂シートの構成を説明する。
【0023】
本実施形態における繊維強化樹脂シートは、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムと、当該エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに積層された複数の強化繊維とを含む。複数の強化繊維は、その繊維方向が同一方向に配向した状態で、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに積層されている。具体的には、複数の強化繊維は、その繊維方向が繊維強化樹脂シートの長手方向に対して略平行となる状態、かつ、同一方向に配向した状態で、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに積層され得る。
【0024】
ここで、本明細書において、「強化繊維はエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに積層されている」とは、「強化繊維が各々の強化繊維の少なくとも一部においてエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに融着した上で積層されている」、「強化繊維が各々の強化繊維の少なくとも一部においてエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに付着した上で積層されている」、「強化繊維が各々の強化繊維の少なくとも一部においてエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに圧着した上で積層されている」、および、「強化繊維が各々の強化繊維の略半分においてエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルム表面から内部に含浸している」の意味を含む。このような「積層」の具体的な意味は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの物性値、形状、積層のために行われる処理の種類およびその条件等に応じて変化する。換言すると、本明細書における「積層」とは、「積層」の際に、必要に応じて加熱、冷却および/または加圧処理を施してもよいことを意味する。
【0025】
以下、繊維強化樹脂シートに含まれる各構成要素を説明する。
【0026】
[エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルム]
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムは、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を含有するフィルムである。さらに、必要に応じて、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムは、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂以外にも、他の熱可塑性樹脂、他の添加物等を含んでもよい。
【0027】
以下、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに含まれる各成分を説明する。
【0028】
(エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂)
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂は、エチレン単位およびビニルアルコール単位を含有する共重合体からなる樹脂である。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂は、当業者に公知の任意の方法によって製造することができる。例えば、エチレンとビニルエステルとを共重合させてエチレン-ビニルエステル共重合体樹脂を得た後、得られた共重合体樹脂をアルカリ触媒等を用いてケン化することによって、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を得ることができる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルを用いることができる。これらのうち、酢酸ビニルであることが好ましい。
【0029】
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂は、本実施形態におけるガスバリアー性、強度および成形加工性の効果を阻害しない範囲であれば、エチレンおよびビニルアルコール以外の共重合成分を含有しもよい。そのような他の共重合成分としては、例えば、ビニルシラン化合物に由来する単位が挙げられる。ビニルシラン化合物に由来する単位としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシランに由来する単位等を使用できる。これらのうち、ビニルトリメトキシシランに由来する単位またはビニルトリエトキシシランに由来する単位を使用することが好ましい。
【0030】
さらに、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂は、他の共重合成分として、プロピレン、ブテン等のα-オレフィン;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸、またはそのエステル;および、N-ビニルピロリドン等のビニルピロリドンに由来する単位を含んでもよい。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂中のエチレン単位およびビニルアルコール単位以外の共重合成分の含有量は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下である。
【0031】
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂のエチレン単位含有量は、18モル%~50モル%であることが好ましい。エチレン単位含有量が18モル%以上であると、得られるフィルムの耐屈曲性を向上させることができる。エチレン単位含有量は、より好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは25モル%以上である。一方、エチレン単位含有量が50モル%以下であると、フィルムのガスバリアー性をより向上させることができる。エチレン単位含有量は、より好ましくは45モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下である。
【0032】
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂のケン化度は、90モル%以上であることが好ましい。ケン化度が90モル%以上であると、フィルムのガスバリアー性をより向上させることができる。ケン化度は、95モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。エチレン単位含有量およびケン化度は、当業者に公知の任意の方法によって測定することができ、例えば、H-NMR測定により求めることができる。
【0033】
また、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂のメルトフローレート(温度210℃、荷重2.16kgにおいて測定)は、0.1g/10分~200g/10分であることが好ましい。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂のMFRがこのような範囲であると、溶融成形性が良好となり、フィルムを良好に形成することができる。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂のメルトフローレートは、より好ましくは0.5g/10分以上、さらに好ましくは1g/10分以上である。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂のメルトフローレートは、より好ましくは50g/10分以下、さらに好ましくは30g/10分以下、特に好ましくは15g/10分以下である。本明細書において、メルトフローレートは、JIS K 7210:1999に準拠して測定される値とする。
【0034】
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂の融点は、100℃~230℃であることが好ましい。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂の融点が100℃以上であると、成形後のフィルムにガスバリアー性を確実に付与できる。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂の融点が230℃以下であると、溶融成形性および熱安定性を低下させることなく、フィルムを良好に形成することができる。本明細書において、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂の融点は、JIS K7121:2012に基づいて測定される値とする。
【0035】
このようなエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂としては、当業者に公知の任意の市販品を使用してもよい。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂の市販品としては、例えば、(株)クラレ製の「エバール(登録商標)F104B」、(株)クラレ製の「エバール(登録商標)E105B」、(株)クラレ製の「エバール(登録商標)F101A/B」、三菱ケミカル(株)製の「ソアライト」、三菱ケミカル(株)製の「ソノアール」等が挙げられる。
【0036】
(その他の添加剤)
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムは、本実施形態におけるガスバリアー性、強度および成形加工性の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、当業者に公知の任意の添加剤を含んでもよい。例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの貯蔵安定性向上、硬化物の変色または変質の回避のために、酸化防止剤、光安定剤、耐候性改良材等を添加することができる。
【0037】
他の添加剤としては、例えば、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマー、難燃剤(例えばリン含有ポリアミド樹脂や赤燐、ホスファゼン化合物、リン酸塩類、リン酸エステル類等)、シリコーンオイル、湿潤分散剤、消泡剤、脱泡剤、天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸の金属塩、酸アミド、エステル類、パラフィン類等の離型剤、結晶質シリカ、溶融シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナ、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム等の粉体や金属酸化物、金属水酸化物、ガラス繊維、カーボンナノチューブ、フラーレン等の無機フィラー、炭素繊維、セルロースナノファイバー等の有機フィラー、ベンガラ等の着色剤、シランカップリング剤、導電材、スリップ剤、レベリング剤、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の重合禁止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0038】
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの製造方法は特に限定されず、当業者に公知の任意の方法によって製造することができる。例えば、ロールコート、リバースコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコート、グラビアコート、溶融押出成形法、溶液流延法、Tダイ法、カレンダー法等が挙げられる。また、共押出法やラミネート法を用いることによって、フィルムの厚さを厚くしたり、樹脂組成の異なる樹脂フィルムを積層したりすることもできる。
【0039】
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの厚さは、10μm以上50μm以下である。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの厚さを10μm以上にすることによって、強化繊維の体積含有率Vfおよびシートの厚さが所定の範囲内となるように繊維強化樹脂シートを成形した際、優れたガスバリアー性(特に水素ガスに対するガスバリアー性)を有する繊維強化樹脂複合材を得ることができる。さらに、繊維強化樹脂シートの形態を良好に維持することができる。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの厚さを50μm以下にすることによって、強化繊維の体積含有率Vfおよびシートの厚さが所定の範囲内となるように繊維強化樹脂シートを成形した際、繊維強化樹脂シートは良好な成形加工性を有する。
【0040】
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの厚さは、好ましくは15μm以上である。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの厚さは、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。
【0041】
このようなエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムは、本実施形態における繊維強化樹脂シートを製造するための中間材料である。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの一方または両方の面に、繊維方向が同一方向に配向した状態となるように複数の強化繊維が積層され、加熱、冷却および/または加圧処理される。その結果、本実施形態における繊維強化樹脂シートを得ることができる。より高い強度が得られ、かつ加工時のハンドリング性に優れるとの観点から、複数の強化繊維はエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの両方の面に積層されていることが好ましい。あるいは、本実施形態における繊維強化樹脂シートは、2枚以上のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムを含み、複数の強化繊維が1枚のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに積層されており、別のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムが当該複数の強化繊維が積層された樹脂フィルムの面上に配置されていてもよい。すなわち、繊維強化樹脂シートは、2枚以上のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムで複数の強化繊維を挟むように形成されていてもよい。
【0042】
[複数の強化繊維]
複数の強化繊維は、繊維方向が同一方向に配向した状態で、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに積層されている。積層されている複数の強化繊維は、強化繊維束から開繊した複数の強化繊維である。
【0043】
本明細書において、「(複数の強化繊維の)繊維方向が同一方向に配向した状態」とは、各々の強化繊維の繊維方向が略平行方向に延びている状態を意味する。
【0044】
複数の強化繊維がこのような状態でエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに(具体的にはエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルム表面上に)積層されていることによって、繊維強化樹脂シートが良好な成形加工性を有し、高強度を有する繊維強化樹脂複合材を得ることができる。さらに、このような構成を有する繊維強化樹脂シートを中間材料として用いると、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムのみからなる構成と比べて、顕著に優れたガスバリアー性(特に水素ガスに対するガスバリアー性)を有する繊維強化樹脂複合材を得ることができる。
【0045】
強化繊維の材料としては、特に限定されないが、繊維強化樹脂シートを構成する強化繊維として当業者に公知の任意の繊維から用途等に応じて適宜選択すればよい。具体例としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維、バサルト繊維等の各種の繊維を用いることができる。これらのうち、比強度および比弾性の観点から、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、または窒化珪素繊維であることが好ましい。さらに、これらのうち、繊維強化樹脂シートを用いて製造した樹脂成形品の強度および耐食性等の向上の観点から、炭素繊維であることがより好ましい。炭素繊維は、強度が特に高いPAN(ポリアクリロニトリル)系の炭素繊維であることがさらに好ましい。強化繊維として炭素繊維を用いる場合、金属による表面処理を施してもよい。なお、これら強化繊維束から開繊した強化繊維は、同一方向に配向した状態であれば、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0046】
2.繊維強化樹脂シートの物性
次いで、本実施形態における繊維強化樹脂シートの物性を説明する。
【0047】
本実施形態における繊維強化樹脂シートでは、繊維強化樹脂シートに対する強化繊維の体積含有率Vfは20%以上70%以下である。強化繊維の体積含有率Vfを20%以上にすることによって、繊維強化樹脂シートは、強化繊維によって十分に補強され、高い強度(特に、引張強度および曲げ強度)を有する繊維強化樹脂複合材を得ることができる。強化繊維の体積含有率Vfを70%以下にすることによって、樹脂フィルムおよびシートの厚さが所定の範囲内となるように繊維強化樹脂シートを成形した際、繊維強化樹脂シートが良好な成形加工性を有し、かつ、優れたガスバリアー性(特に水素ガスに対するガスバリアー性)を有する繊維強化樹脂複合材を得ることができる。
【0048】
強化繊維の体積含有率Vfは、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは45%以上である。また、強化繊維の体積含有率Vfは、好ましくは65%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは55%以下、特に好ましくは50%以下である。
【0049】
強化繊維の体積含有率Vfは、強化繊維の種類および太さ、強化繊維が配向する繊維幅、フィルムの厚さ等だけでなく、繊維強化樹脂シートの製造時に加える温度および圧力等を適宜制御することによって、上記範囲内に調整することができる。本明細書において、強化繊維の体積含有率Vfは、後述する実施例と同様に、燃焼法によって測定される値とする。
【0050】
本実施形態における繊維強化樹脂シートの厚さは、20μm以上80μm以下である。繊維強化樹脂シートの厚さは、好ましくは25μm以上、より好ましくは30μm以上である。また、繊維強化樹脂シートの厚さは、好ましくは70μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。
【0051】
樹脂フィルムおよび強化繊維の体積含有率Vfを所定の範囲内とし、かつ、シートの厚さを上記範囲内でなるべく薄くすると、樹脂フィルムと強化繊維とが大部分において融着した上で積層される。その結果、繊維強化樹脂シートを用いて繊維強化樹脂複合材を構成した際、強化繊維の強度を十分に発揮させることができる。また、繊維強化樹脂シートから得られる繊維強化樹脂複合材に応力がかかった際、層間剥離が発生し難くなり、かつ、疲労特性にも優れる。さらに、繊維強化樹脂シートの成形加工性がより優れる。
【0052】
繊維強化樹脂シートの厚さは、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの厚さも影響するが、繊維強化樹脂シートの製造時に加える温度および圧力等を適宜制御することによって上記範囲内に調整することができる。
【0053】
本実施形態における繊維強化樹脂シートによると、優れたガスバリアー性(特に水素ガスに対するガスバリアー性)だけでなく、優れた補強効果や耐疲労特性を有する繊維強化樹脂複合材を得ることができる。さらに、繊維強化樹脂シートは、その厚さが比較的薄いため、良好な成形加工性を有する。従って、本実施形態における繊維強化樹脂シートは、例えば、ガス、特に水素ガスを遮断または遮蔽する必要があり、かつ高強度も要求される樹脂成形品を製造する際の材料として好適に用いられる。さらには、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートによると、空隙をなるべく少なくしながら繊維強化樹脂シートを複数枚積層して高密度で様々な形状を成形することができる。そのため、最終的に様々な種類や形状の樹脂成形品を製造することができる。
【0054】
<繊維強化樹脂チョップ材>
本実施形態における繊維強化樹脂チョップ材は、前述の実施形態における繊維強化樹脂シートを、短辺の長さが2mm以上20mm以下、かつ、長辺の長さが10mm以上40mm以下の矩形に細断してなる(または、矩形に細断して形成される。)。すなわち、繊維強化樹脂チョップ材は、前述の実施形態における繊維強化樹脂シートと同様に、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムと、その繊維方向が同一方向に配向した状態でエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに積層された複数の強化繊維とを含む。
【0055】
繊維強化樹脂チョップ材(以下、単に「チョップ材」とも称する)は、後述の実施形態で述べる繊維強化樹脂複合材を製造するために、好適に用いることができる。
【0056】
前述したように、繊維強化樹脂シートにおいて、複数の強化繊維は、その繊維方向が繊維強化樹脂シートの長手方向に対して略平行となる状態、かつ、同一方向に配向した状態で、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムに積層され得る。そのため、繊維強化樹脂シートを細断してなるチョップ材においても、複数の強化繊維は、その繊維方向がチョップ材の長手方向(長辺の方向)に対して略平行となる状態、かつ、同一方向に配向した状態で、樹脂フィルムに積層され得る。
【0057】
チョップ材のサイズがより大きいほど、より高強度の繊維強化樹脂複合材または樹脂成形品が製造できるが、その賦形性は低くなる。一方、チョップ材のサイズがより小さいほど、その賦形性はより優れ、自由度の高い形状の繊維強化樹脂複合材または樹脂成形品を製造することができる。しかし、この場合、樹脂成形品等の強度は低下する。チョップ材のサイズは、このようなサイズによる賦形性と力学特性とのバランスを考慮し、樹脂成形品の用途に応じて、適宜調整すればよい。
【0058】
チョップ材の短辺の長さは、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上、特に好ましくは5mm以上である。また、チョップ材の短辺の長さは、好ましくは30mm以下、より好ましくは20mm以下、さらに好ましくは15mm以下、特に好ましくは10mm以下である。チョップ材の長辺の長さは、好ましくは5mm以上、より好ましくは10mm以上、さらに好ましくは15mm以上、特に好ましくは20mm以上である。また、チョップ材の長辺の長さは、好ましくは50mm以下、より好ましくは40mm以下、さらに好ましくは30mm以下、特に好ましくは25mm以下である。
【0059】
チョップ材の厚さは、前述の実施形態における繊維強化樹脂シートの厚さと同じであり、20μm以上80μm以下である。好ましい厚さも、前述の実施形態における繊維強化樹脂シートの厚さと同じである。すなわち、本実施形態におけるチョップ材は、その薄さと小さいサイズのために、空隙をなるべく少なくしながら複数枚積層することができる。つまり、本実施形態におけるチョップ材を用いることによって、密度をより高くすることができるため、最終的に、顕著に優れた強度と優れたガスバリアー性(特に水素ガスに対するガスバリアー性)を有し、かつ、自由度のより高い形状の樹脂成形品を製造することができる。
【0060】
<繊維強化樹脂複合材>
繊維強化樹脂複合材については、2つの具体的な実施形態を挙げることができる。以下、詳細に説明する。
【0061】
第1の実施形態における繊維強化樹脂複合材は、前述の実施形態における繊維強化樹脂シートを複数含み、複数の繊維強化樹脂シートが、厚さ方向に積層されている。前述した通り、第1の実施形態における繊維強化樹脂複合材は、優れたガスバリアー性(特に水素ガスに対するガスバリアー性)および高強度を有する。
【0062】
ここで、本明細書において、「繊維強化樹脂シート(または繊維強化樹脂チョップ材)が積層されている」とは、「繊維強化樹脂シート(または繊維強化樹脂チョップ材)が少なくとも一部において固定された上で積層されている」、「繊維強化樹脂シート(または繊維強化樹脂チョップ材)が少なくとも一部において結合した上で積層されている」、「繊維強化樹脂シート(または繊維強化樹脂チョップ材)が少なくとも一部において融着した上で積層されている」、「繊維強化樹脂シート(または繊維強化樹脂チョップ材)が少なくとも一部において付着した上で積層されている」、および、「繊維強化樹脂シート(または繊維強化樹脂チョップ材)が少なくとも一部において圧着した上で積層されている」の意味を含む。このような「繊維強化樹脂シート(または繊維強化樹脂チョップ材)の積層」の具体的な意味は、繊維強化樹脂シート(または繊維強化樹脂チョップ材)の物性値、形状、積層のために行われる処理の種類およびその条件等に応じて変化する。換言すると、本明細書における「繊維強化樹脂シート(または繊維強化樹脂チョップ材)の積層」とは、「繊維強化樹脂シートまたは繊維強化樹脂チョップ材の積層」の際に、必要に応じて加熱、冷却および/または加圧処理を施してもよいことを意味する。
【0063】
積層される複数の繊維強化樹脂シートは、所望する繊維強化樹脂複合材の形状に合わせて必要に応じて細断等が行われ、積層されてもよい。繊維強化樹脂シートの積層枚数も、特に限定されず、所望する繊維強化樹脂複合材の大きさ等に合わせて適宜設定すればよい。
【0064】
複数の繊維強化樹脂シートは、その強化繊維の繊維方向が任意の方向となる状態において、厚さ方向に積層され得る。例えば、複数の繊維強化樹脂シートが、強化繊維の繊維方向が同一方向となる状態において、厚さ方向に積層されていてもよい。あるいは、複数の繊維強化樹脂シートが、強化繊維の繊維方向が二次元平面に角度差を有する状態において、厚さ方向に積層されていてもよい。
【0065】
後者の例としては、複数の繊維強化樹脂シートが、強化繊維の繊維方向が角度差45°を有する4軸方向に並ぶように、厚さ方向に積層されていてもよい。換言すれば、複数の繊維強化樹脂シートが、強化繊維の繊維方向が二次元平面において0°、45°、-45°および90°の4軸方向に並ぶように、厚さ方向に積層されていてもよい。繊維強化樹脂シートがこのような繊維方向で積層されることによって、各々の繊維方向に沿った引張強度および曲げ強度を向上させることができ、繊維強化樹脂複合材全体としての強度を効果的に向上させることができる。なお、この場合、繊維強化樹脂シートは、厚さ方向に4×n枚(nは1以上の整数)積層されていることが好ましい。あるいは、複数の繊維強化樹脂シートが、強化繊維の繊維方向が二次元的にランダムになる状態(疑似等方)において、厚さ方向に積層されていてもよい。
【0066】
第2の実施形態における繊維強化樹脂複合材は、前述の実施形態における繊維強化樹脂チョップ材を複数含み、複数の繊維強化樹脂チョップ材が、厚さ方向に積層されている。前述した通り、第2の実施形態における繊維強化樹脂複合材も、優れたガスバリアー性(特に水素ガスに対するガスバリアー性)および高強度を有する。
【0067】
このような繊維強化樹脂複合材は、複数のチョップ材がその強化繊維の繊維方向が任意の方向となる状態において、厚さ方向に積層されていてもよい。複数のチョップ材は、その強化繊維の繊維方向が二次元的にランダムになる状態(疑似等方)で積層されていることが好ましい。
【0068】
図1に、繊維強化樹脂複合材の1例である積層チョップドシートの概略断面図を示す。図1に示すように、積層チョップドシートCSは、複数のチョップ材Cが、厚さ方向に積層されて構成されている。具体的には、積層チョップドシートCSは、積み重なった複数のチョップ材Cが一体化して構成されている。tは、積層チョップドシートCSの厚さである。積層チョップドシートCSの厚さtは、チョップ材Cの積層枚数を適宜調整することによって制御することができる。
【0069】
あるいは、第2の実施形態における繊維強化樹脂複合材は、1枚以上のキャリアシートをさらに含んでもよい。キャリアシートは、その一方または両方の面において、積層された複数のチョップ材を支持している。
【0070】
図2に、繊維強化樹脂複合材の1例であるキャリアシートを含む積層チョップドシートの概略断面図を示す。図2に示すように、複数のチョップ材Cが厚さ方向に積層されて積層体を構成し、積層体がキャリアシートRの上面において支持されている。具体的には、積層チョップドシートCSは、積み重なった複数のチョップ材Cが互いに一体化し、かつキャリアシートRとその上面における多数のチョップ材Cとが一体化して構成されている。キャリアシートRを含む積層チョップドシートCSの厚さtは、キャリアシートRの厚さとチョップ材Cの積層枚数を適宜調整することによって制御することができる。
【0071】
なお、図2では、キャリアシートRの上面のみにチョップ材Cを積層して積層チョップドシートCSを製造する場合を例示したが、キャリアシートRの両面にチョップ材Cを積層してもよい。この場合、キャリアシートRにチョップ材Cを積層する作業(つまり、チョップ材CをキャリアシートR上にランダムに配置して加熱および加圧処理する作業)を、キャリアシートRの上面および下面に対し順に行うとよい。すなわち、キャリアシートRの上面にチョップ材Cを積層した後、キャリアシートRの下面が上にくるようにキャリアシートRを裏返す。そして、その状態でチョップ材Cを積層する作業を同様に繰り返す。その結果、キャリアシートRの両面にチョップ材Cが積層された積層チョップドシートを作製することができる。
【0072】
<樹脂成形品>
本実施形態における樹脂成形品は、前述の実施形態における繊維強化樹脂複合材を含む。
【0073】
樹脂成形品は、当業者に公知の任意の成形方法により、前述の実施形態における繊維強化樹脂複合材を用いて製造可能な任意の形状の樹脂成形品であればどのようなものでもよい。樹脂成形品としては、例えば、一般産業用途、スポーツ用途、航空宇宙用途等におけるガス封入部材、ガス遮断部材、ガス遮蔽部材等が挙げられる。具体的には、樹脂成形品としては、例えば、自動車、二輪自動車、鉄道車両等の各種車両、船舶等の移動体に用いられているガス封入部材、食品、医薬品、工業製品等に適用されるガス遮断部材、ガス遮蔽部材等が挙げられる。これらのうち、樹脂成形品は、優れたガスバリアー性(特に水素ガスに対するガスバリアー性)および強度が要求される、ガスボンベ、ガスタンク、エアータンク等の耐圧容器、高耐久保護袋、耐圧ホースの保護シース層、海中ケーブルの保護シース層等の保護材等であることが好ましい。特に、従来の自動車等に搭載されている耐圧容器は、一般的に、2種以上の樹脂材料を用いた2層構造で形成されるが(例えば、特許文献2参照)、本実施形態によると、耐圧容器を1種の樹脂材料を用いた1層構造で形成することができる。換言すると、本実施形態における樹脂成形品(例えば耐圧容器)は、中間材料として前述の実施形態の繊維強化樹脂シートが用いられているため、このシートを材料として1層構造で形成した場合であっても、樹脂成形品は優れたガスバリアー性および高強度を有する。
【0074】
樹脂成形品の製造方法は、特に限定されないが、例えば、次の製造方法が挙げられる。まず、前述の実施形態で述べた積層チョップドシートを所定のサイズの板状に切り出し、これを複数枚準備する。次いで、準備した複数枚の積層チョップドシートを、厚さ方向に積み重ねつつ、熱プレス機等の金型内に配置する。その後、積み重ねられた複数枚の積層チョップドシートを、加熱および/または加圧処理ならびに必要に応じて冷却処理を行う。このような方法によって、樹脂成形品を製造することができる。
【0075】
上述したような製造方法によると、特に優れたガスバリアー性(特に水素ガスに対するガスバリアー性)および高い強度を有する樹脂成形品を得ることができる。具体的には、前述したように、積層チョップドシートは、複数のチョップ材が、その強化繊維の繊維方向が二次元的にランダムになる状態(疑似等方)で積層することができる。そのため、積層チョップドシートがプレス加工された際、強化繊維が細断される可能性を低減することができ、かつ、プレス加工時の樹脂の流動を促進して樹脂成形品の形状自由度を高めることができる。これにより、強化繊維による補強効果を等方的に発揮させつつ、種々の形状の樹脂成形品を支障なく成形することができる。
【実施例
【0076】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0077】
本実施例では、強化繊維の体積含有率Vfは、燃焼法によって測定した。また、本実施例では、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの厚さ、および繊維強化樹脂シートの厚さは、(株)ミツトヨ製のマイクロメーターを用いて測定した。
【0078】
本実施例では、樹脂フィルムにおける樹脂の種類、フィルムの厚さ、強化繊維の体積含有率Vfおよび繊維強化樹脂シートの厚さを変えて、各実施例および各比較例の繊維強化樹脂シートを作製した。また、作製した各々の繊維強化樹脂シートを切り出して、成形加工性の評価に用いる評価用繊維強化樹脂シートを得た。さらに、作製した各々の繊維強化樹脂シートを用いて、ガスバリアー性および強度の測定に用いる繊維強化樹脂複合材の試験片を作製した。
【0079】
[繊維強化樹脂シート、繊維強化樹脂複合材およびそれらの試験片の作製方法]
まず、各実施例および各比較例における繊維強化樹脂シート、繊維強化樹脂複合材およびそれらの試験片の作製方法を、以下詳細に説明する。
【0080】
(実施例1)
繊維強化樹脂シートを作製するために、まず、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムを作製した。Tダイが取り付けられた押出成形機を用い、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂((株)クラレ製、「エバール(登録商標) F104B」、エチレン単位含有量32モル%)のペレットをフィルム状に成形した。
【0081】
このエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムと、強化繊維として炭素繊維(東レ社製、「TORAYCA」、グレード:T-700(PAN系炭素繊維)、繊維径:7μm、フィラメント数:12K、繊度:800tex)とを用い、炭素繊維束を開繊しながら繊維強化樹脂シートを製造した。得られた繊維強化樹脂シートは、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムの両面に、開繊された炭素繊維束が積層している状態である。
【0082】
このように得られた繊維強化樹脂シートを、10mm(短軸方向の長さ)×3m(長軸方向の長さ)のサイズに切り出すことによって、成形加工性の評価用の繊維強化樹脂シートを得た。
【0083】
ガスバリアー性の測定用の繊維強化樹脂複合材の試験片は、次のように作製した。まず、得られた繊維強化樹脂シートを295mm(短軸方向の長さ)×295mm(長軸方向の長さ)のサイズに切り出した。次いで、炭素繊維が角度差45°を有する4軸方向に並ぶように、切り出したシートを12枚積層した。次いで、積層したシートを加熱しながら加圧し、続いて冷却しながら加圧した。そして、金型から厚さ0.3mmの繊維強化樹脂複合材を取り出し、この繊維強化樹脂複合材を、直径Φ60mm×厚さ0.3mmのサイズとなるように切り出した。
【0084】
引張強度および曲げ強度の測定用の繊維強化樹脂複合材の試験片は、次のように作製した。まず、得られた繊維強化樹脂シートを295mm(短軸方向の長さ)×295mm(長軸方向の長さ)のサイズに切り出した。次いで、炭素繊維が角度差45°を有する4軸方向に並ぶように、切り出したシートを96枚積層した。次いで、積層したシートを加熱しながら加圧し、続いて冷却しながら加圧した。そして、金型から厚さ2mmの繊維強化樹脂複合材を取り出し、この繊維強化樹脂複合材を、25mm(短軸方向の長さ)×100mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズおよび15mm(短軸方向の長さ)×100mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズに切り出した。
【0085】
実施例1における、樹脂フィルムの厚さ、繊維強化樹脂シートの炭素繊維の体積含有率Vfおよび繊維強化樹脂シートの厚さは、後の表1にまとめて示す。なお、各実施例および各比較例において、繊維強化樹脂複合材の試験片の炭素繊維の体積含有率Vfは、繊維強化樹脂シートの炭素繊維の体積含有率Vfと同じである。
【0086】
(実施例2~実施例5および比較例1~比較例4)
使用するペレット量および炭素繊維量を変動させることにより、フィルムの厚さ、強化繊維の体積含有率Vfおよび繊維強化樹脂シートの厚さを変えたこと以外は実施例1と同じ方法によって、繊維強化樹脂シートを得た。実施例2~実施例5および比較例1~比較例4におけるこれらの物性は、後の表1にまとめて示す。さらに、得られた繊維強化樹脂シートを、実施例1の評価用シートと同じサイズに切り出すことによって、成形加工性の評価用の繊維強化樹脂シートを得た。
【0087】
積層する繊維強化樹脂シートの枚数を変えたこと以外は実施例1と同じ方法によって、実施例1の試験片と同じサイズを有するガスバリアー性の測定用の繊維強化樹脂複合材の試験片を得た。具体的には、実施例2~実施例5では、積層する繊維強化樹脂シートの枚数を、各々、6枚、6枚、4枚または4枚とした。比較例1~比較例4では、積層する繊維強化樹脂シートの枚数を、各々、12枚、12枚、4枚または4枚とした。
【0088】
さらに、積層する繊維強化樹脂シートの枚数を変えたこと以外は実施例1と同じ方法によって、実施例1の試験片と同じサイズを有する引張強度および曲げ強度の測定用の繊維強化樹脂複合材の試験片を得た。具体的には、実施例2~実施例5では、積層する繊維強化樹脂シートの枚数を、各々、48枚、48枚、32枚または32枚とした。比較例1~比較例4では、積層する繊維強化樹脂シートの枚数を、各々、96枚、96枚、32枚または32枚とした。
【0089】
(比較例5)
比較例5では、強化繊維を積層させず、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムのみからなる樹脂シートを製造した。具体的には、Tダイが取り付けられた押出成形機を用い、成形温度230℃の条件下で、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂((株)クラレ製、「エバール(登録商標) F104B」、エチレン単位含有量32モル%)のペレットを厚さ300μmのフィルム状に成形した。
【0090】
得られた樹脂フィルムのみからなる樹脂シートを、実施例1の評価用シートと同じサイズに切り出すことによって、成形加工性の評価用の樹脂シートを得た。
【0091】
さらに、得られた樹脂フィルムのみからなる樹脂シートを、直径Φ60mm×厚さ0.3mmのサイズとなるように切り出し、ガスバリアー性の測定用の試験片を得た。
【0092】
実施例1の試験片と同じサイズになるように、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂のみからなる樹脂成形物を別途作製することによって、引張強度および曲げ強度の測定用の樹脂成形物の試験片を得た。
【0093】
(比較例6)
樹脂の種類をポリアミド9T(クラレ製、「ジェネスタ」(登録商標))とし、使用するペレット量および炭素繊維量を変動させることにより、フィルムの厚さ、強化繊維の体積含有率Vfおよび繊維強化樹脂シートの厚さを変えたこと以外は実施例1と同じ方法によって、繊維強化樹脂シートを得た。比較例6における、これらの物性は、後の表1にまとめて示す。さらに、得られた繊維強化樹脂シートを、実施例1の評価用シートと同じサイズに切り出すことによって、成形加工性の評価用の繊維強化樹脂シートを得た。
【0094】
積層する繊維強化樹脂シートの枚数を6枚としたこと以外は実施例1と同じ方法によって、実施例1の試験片と同じサイズを有するガスバリアー性の測定用の繊維強化樹脂複合材の試験片を得た。
【0095】
さらに、積層する繊維強化樹脂シートの枚数を48枚としたこと以外は実施例1と同じ方法によって、実施例1の試験片と同じサイズを有する引張強度および曲げ強度の測定用の繊維強化樹脂複合材の試験片を得た。
【0096】
(比較例7)
樹脂の種類をポリアミド6(三菱ケミカル社製、「ダイアミロン」、グレード:C-Z(融点Tm225℃))とし、使用するペレット量および炭素繊維量を変動させることにより、フィルムの厚さ、強化繊維の体積含有率Vfおよび繊維強化樹脂シートの厚さを変えたこと以外は実施例1と同じ方法によって、繊維強化樹脂シートを得た。比較例7におけるこれらの物性は、後の表1にまとめて示す。さらに、得られた繊維強化樹脂シートを、実施例1の評価用シートと同じサイズに切り出すことによって、成形加工性の評価用の繊維強化樹脂シートを得た。
【0097】
積層する繊維強化樹脂シートの枚数を2枚としたこと以外は実施例1と同じ方法によって、実施例1の試験片と同じサイズを有するガスバリアー性の測定用の繊維強化樹脂複合材の試験片を得た。
【0098】
さらに、積層する繊維強化樹脂シートの枚数を16枚としたこと以外は実施例1と同じ方法によって、実施例1の試験片と同じサイズを有する引張強度および曲げ強度の測定用の繊維強化樹脂複合材の試験片を得た。
【0099】
次に、切り出した各々の繊維強化樹脂複合材の試験片を用いて、繊維強化樹脂複合材のガスバリアー性、引張強度および曲げ強度を、以下に示す方法で測定した。さらに、切り出した各々の繊維強化樹脂複合シートを用いて、繊維強化樹脂複合シートの成形加工性を、以下に示す方法で評価した。
【0100】
[ガスバリアー性の測定]
繊維強化樹脂複合材のガスバリアー性は、次の方法によって測定した。具体的には、JIS K 7126-1:2006に準拠した差圧式のガスクロマトグラフ法を適用し、直径Φ60mm×厚さ0.3mmの繊維強化樹脂複合材の試験片の水素透過係数を測定した。測定には、差圧式ガス・蒸気透過率測定装置(装置:GTRテック・ヤナコテクニカルサイエンス社製 GTR-30XAD2、G2700T・F-2)を用いた。水素透過係数(cc・20μm/(m・24h・atm))は、20℃、相対湿度0℃、1atmの条件下において測定した。水素透過係数の値が小さい程、ガスバリアー性が良好である。水素透過係数が16cc・20μm/(m・24h・atm)未満であった場合、繊維強化樹脂複合材は良好なガスバリアー性を有すると判定した。
【0101】
[引張強度(MPa)の測定]
繊維強化樹脂複合材の引張強度は、次の方法によって測定した。具体的には、25mm(短軸方向の長さ)×100mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズの繊維強化樹脂複合材の試験片の引張強度を、JIS K 7164:2005に準じて測定した。維強化樹脂複合材の引張強度が400MPa以上である場合、十分な引張強度を有すると判定した。
【0102】
[曲げ強度(MPa)の測定]
繊維強化樹脂の曲げ強度は、次の方法によって測定した。具体的には、15mm(短軸方向の長さ)×100mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズの繊維強化樹脂複合材の試験片の曲げ強度を、JIS K 7074:1988に規定されている炭素繊維強化プラスチックの4点曲げ(B法)での曲げ試験方法に準じて測定した。維強化樹脂複合材の曲げ強度が500MPa以上である場合、十分な曲げ強度を有すると判定した。
【0103】
[成形加工性の評価]
繊維強化樹脂シートの成形加工性は、次の方法によって評価した。10mm(短軸方向の長さ)×3m(長軸方向の長さ)のサイズに切り出した繊維強化樹脂シートを、直径30cmの円柱へ巻き付け、巻き付け後の繊維強化樹脂シートの様子を目視にて観察した。評価は、以下の3段階に分けた。
◎:繊維強化樹脂シートは、毛羽や皺の発生なく、円柱に容易に巻き付けられている。
○:繊維強化樹脂シートは、円柱に巻き付けられているが、毛羽や皺が発生している。
×:繊維強化樹脂シートを円柱に巻き付けられない。
【0104】
[結果]
各実施例および各比較例における、樹脂フィルム、繊維強化樹脂シートおよび繊維強化樹脂複合材の構成、物性等、ならびに、ガスバリアー性、引張強度、曲げ強度および成形加工性の測定または評価結果を、以下の表1にまとめて示す。なお、表1において、「EVOH」はエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂であり、「PA9T」はポリアミド9Tであり、「PA6」はポリアミド6である。
【0105】
【表1】
【0106】
[考察]
(実施例1~実施例5)
実施例1~実施例5では、中間材料である繊維強化樹脂シートが、樹脂フィルムの厚さが10μm以上50μm以下、強化繊維の体積含有率Vfが20%以上70%以下、かつ、その厚さが20μm以上80μm以下との3つの要件を全て満たしている。上記表1に示すように、実施例1~実施例5では、ガスバリアー性(気体透過係数)、引張強度、曲げ強度および成形加工性の全ての評価結果が、良好であった。
【0107】
特に、実施例1~実施例5の繊維強化樹脂複合材の試験片は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムのみから構成される比較例5の樹脂成形物と比べて、引張強度、曲げ強度および成形加工性だけでなく、ガスバリアー性も顕著に優れていた。
【0108】
加えて、実施例1~実施例3の強化繊維の体積含有率Vfは、比較例1の強化繊維の体積含有率Vfよりも小さい値となっている。それにもかかわらず、実施例1~実施例3の繊維強化樹脂複合材は、比較例1の繊維強化樹脂複合材と比べて、通常予測される結果とは逆に、より高い引張強度および曲げ強度を有していた。これは、実施例1~実施例3の繊維強化樹脂複合材は、強化繊維と樹脂の分散性が良好な繊維強化樹脂シートが何層も重なって構成されているため、強化繊維本来の強度を発現したと想定される。さらに、比較例1の繊維強化樹脂複合材は、樹脂フィルムが薄すぎたため、品質のバラツキや含浸が不足する箇所が発生し、それによって強度が劣ったと想定される。なお、繊維強化樹脂複合材における強化繊維と樹脂の分散性は、樹脂フィルムの厚さと強化繊維の体積含有率Vfと繊維強化樹脂シートの厚さとのバランスを適切に調整することによって、良好になると考えられる。
【0109】
(比較例1)
比較例1では、繊維強化樹脂シートの強化繊維と樹脂との含浸性が悪く、シート上に毛羽が多く発生していた。そのため、比較例1では、実施例1~実施例5の結果と比べて、ガスバリアー性および成形加工性が劣っていた。これは、樹脂フィルムが薄すぎて、かつ、強化繊維の体積含有率Vfが大きすぎたためと考えられる。
【0110】
(比較例2)
比較例2では、繊維強化樹脂シートの強化繊維と樹脂との間に隙間が多く生じており、シート上に皺が多く発生していた。そのため、比較例2では、実施例1~実施例5の結果と比べて、ガスバリアー性および成形加工性が劣っていた。これは、樹脂フィルムおよび繊維強化樹脂シートが薄すぎたためと考えられる。
【0111】
(比較例3)
比較例3の繊維強化樹脂複合材は、十分な引張強度および曲げ強度を有していなかった。これは、樹脂フィルムが厚く、その一方で、強化繊維の体積含有率Vfが小さかったためと考えられる。
【0112】
(比較例4)
比較例4の繊維強化樹脂シートは、柔軟性がなく、円柱に巻き付けることができず、成形加工性に劣っていた。これは、樹脂フィルムおよび繊維強化樹脂シートが厚すぎたためと考えられる。
【0113】
(比較例5)
強化繊維が積層されていない比較例5の樹脂成形物は、実施例1~実施例5の結果と比べて、ガスバリアー性に顕著に劣っていた。さらに、引張強度も顕著に劣っていた。また、樹脂成形物は破断しなかったため、曲げ強度も測定できず、その強度は当然劣っていた。加えて、成形加工性に関しても、樹脂シートを円柱に巻き付け難かった。これは、樹脂フィルムに強化繊維が積層されていない場合、樹脂シートは柔軟性に優れるが、シートに巻き付けるために必要な十分なコシがないためである。
【0114】
(比較例6)
比較例6では、実施例1~実施例5(特に実施例3)の結果と比べて、ガスバリアー性が劣っていた。これは、樹脂の種類がエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂よりもガスバリアー性に劣るポリアミド9Tであるためと考えられる。
【0115】
(比較例7)
比較例7では、実施例1~実施例5の結果と比べて、ガスバリアー性が劣っていた。これは、樹脂の種類が樹脂の種類がエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂よりもガスバリアー性に劣るポリアミド6であるためと考えられる。
【0116】
上述してきたように、樹脂フィルムの厚さが10μm以上50μm以下、強化繊維の体積含有率Vfが20%以上70%以下、かつ、その厚さが20μm以上80μm以下との3つの要件を満たす繊維強化樹脂シートは、優れたガスバリアー性および高い強度(引張強度および曲げ強度)を有する繊維強化樹脂複合材を得ることができ、かつ良好な成形加工性を有する。
【0117】
今回開示された実施形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、前述した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0118】
C チョップ材
CS 積層チョップドシート
R キャリアシート
図1
図2