(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】ばら積み貨物船
(51)【国際特許分類】
B63B 11/00 20060101AFI20250127BHJP
B63B 25/04 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
B63B11/00 Z
B63B25/04 Z
(21)【出願番号】P 2022180088
(22)【出願日】2022-11-10
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】520357718
【氏名又は名称】日本シップヤード株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593172223
【氏名又は名称】今治造船株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502116922
【氏名又は名称】ジャパンマリンユナイテッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】橘 洋一
(72)【発明者】
【氏名】米田 智亮
(72)【発明者】
【氏名】上野 周作
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-122188(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111634367(CN,A)
【文献】特開2016-179753(JP,A)
【文献】特開2012-002159(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2022-0074458(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 11/00
B63B 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばら積み貨物を収容する複数の船倉と、上甲板上に設置された居住区と、を備えたばら積み貨物船において、
前記複数の船倉は、船首側から船尾方向に向かってそれぞれ隔壁により区切られて配置されており、最も船尾側に配置された船倉のハッチカバーと前記居住区との間の上甲板上に配置された、排ガス中の二酸化炭素を回収する船上CO
2回収装置又は蓄電池等の二次電池を含む、
ことを特徴とするばら積み貨物船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばら積み貨物を船倉に収容して輸送するために設計されたばら積み貨物船に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の観点から環境を汚染する物質や廃棄物の排出を低減するゼロエミッションが提言されている。例えば、国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップには、二酸化炭素(CO2)の発生が少ない代替燃料の利用、排ガス中の二酸化炭素(CO2)を回収する船上CO2回収技術の開発、二次電池の利用等の項目が挙げられている。これらのゼロエミッション技術の実現に際し、それらの要素に応じた機器を船体に設置する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、船体の上甲板上に上部構造体が設置された船舶において、前記上甲板上における前記上部構造体の船体前後方向と直交する両側に、それぞれ燃料タンクを配置することが開示されている。特許文献1に記載された発明は、貨物の積載容積を減少させることなく液化ガスの燃料タンクを設置することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載された発明では、居住区の両側に燃料タンクを配置するスペースを確保していることから、居住区を含む上部構造体の設計変更の負担が大きいという問題がある。
【0006】
また、特許文献1に記載された発明は、液化ガスの燃料タンクを搭載する船舶に限定された設計であるため、液化ガス燃料以外の代替燃料を使用した場合、船上CO2回収を設置する場合、二次電池を設置する場合等の他の用途に使用する場合には基本設計から見直さなければならないという問題がある。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、上甲板上の空間を種々の用途に利用することができる、ばら積み貨物船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、ばら積み貨物を収容する複数の船倉と、上甲板上に設置された居住区と、を備えたばら積み貨物船において、前記複数の船倉は、船首側から船尾方向に向かってそれぞれ隔壁により区切られて配置されており、最も船尾側に配置された船倉のハッチカバーと前記居住区との間の上甲板上に配置された、排ガス中の二酸化炭素を回収する船上CO2回収装置又は蓄電池等の二次電池を含む、ことを特徴とするばら積み貨物船が提供される。
【発明の効果】
【0015】
上述した本発明に係るばら積み貨物船によれば、上甲板上のハッチカバーと居住区との間に多目的スペースを形成したことにより、多目的スペースを種々の用途に利用することができ、船体構造の基本設計を大きく見直すことなく、また貨物ホールド容積の減少を抑制しつつ、レトロフィットにより必要な要素を事後的に搭載することができ、新造船として搭載することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るばら積み貨物船を示す図であり、(A)は側面図、(B)は平面図、である。
【
図2】従来のばら積み貨物船と比較するための側面図であり、(A)は本実施形態、(B)は従来のばら積み貨物船、を示している。
【
図3】多目的スペースの利用方法を示す第一利用形態を示す側面図である。
【
図4】多目的スペースの利用方法を示す第二利用形態を示す側面図である。
【
図5】本発明の第二実施形態に係るばら積み貨物船を示す部分側面図であり、(A)多目的スペースを設置した状態、(B)は第一利用形態、(C)は第二利用形態、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について
図1(A)~
図5(C)を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の第一実施形態に係るばら積み貨物船を示す図であり、(A)は側面図、(B)は平面図、である。
図2は、従来のばら積み貨物船と比較するための側面図であり、(A)は本実施形態、(B)は従来のばら積み貨物船、を示している。なお、各図において、説明の便宜上、必要に応じて船体の内部構造を図示してある。
【0018】
ばら積み貨物船1は、例えば、
図1に示したように、ばら積み貨物を収容する船倉2と、上甲板11上に設置された居住区3と、上甲板11上に設置されたデッキクレーン4と、排ガスを排出するファンネル5と、を備えている。ばら積み貨物は、例えば、穀物、鉄鉱石、石炭等の梱包されていない貨物である。
【0019】
船倉2は、例えば、船首側から船尾方向に向かって、第一船倉21、第二船倉22、第三船倉23、第四船倉24及び第五船倉25にそれぞれ隔壁12(バルクヘッド)により区切られている。なお、船倉2の個数は任意であり、図示した構造に限定されるものではない。
【0020】
第一船倉21~第五船倉25は、それぞれ上部の開口部を塞ぐ蓋を形成する第一ハッチカバー21a,第二ハッチカバー22a,第三ハッチカバー23a,第四ハッチカバー24a,第五ハッチカバー25aを備えている。
【0021】
居住区3は、操舵室や船員客室を有する船上構造物である。居住区3は、例えば、
図1(B)に示したように、ファンネル5の両側部及び前方を囲むように配置される。居住区3の下方には、エンジン等を設置する機関室6が配置される。また、上甲板11上に機関室6の一部を構成するエンジンケーシング(機関囲壁)が配置される場合には、居住区3はこのエンジンケーシング(機関囲壁)の両側部及び前方を囲むように配置されてもよい。
【0022】
機関室6は、船体内を区画する船尾隔壁13及び第五船倉25の隔壁12(バルクヘッド)により船長方向に区切られた空間に形成されている。機関室6は、配管等の機器を設置するコネクションスペースを備えていてもよい。
【0023】
デッキクレーン4は、例えば、船首側から船尾側に向かって、第一デッキクレーン41、第二デッキクレーン42、第三デッキクレーン43及び第四デッキクレーン44を備えている。なお、デッキクレーン4の台数は任意であり、図示した構造に限定されるものではない。また、説明の便宜上、
図1(A)ではデッキクレーン4の使用状態を図示し、
図1(B)ではデッキクレーン4の航行状態を図示してある。
【0024】
本実施形態に係るばら積み貨物船1は、船倉4(第五船倉25)のハッチカバー(第五ハッチカバー25a)と居住区3との間の上甲板11上に設置され多目的の用途に利用可能な多目的スペース7を有することを特徴とする。
【0025】
ここで、
図2(B)は従来のばら積み貨物船1′を示す側面図である。従来のばら積み貨物船1′では、一般的にファンネル5′の前方に居住区3′が配置されている。居住区3′の前端は、強度設計上、第五船倉25′と機関室6′との間に配置された隔壁12′(バルクヘッド)の延長線上に配置される。
【0026】
したがって、第五ハッチカバー25a′と居住区3′の間隔が狭くこのスペースを利用することはできない。なお、第四デッキクレーン44′のブームの長さは、他のデッキクレーン(第一デッキクレーン41′~第三デッキクレーン43′)と同様にハッチ寸法に応じた長さを有している。
【0027】
それに対して、
図2(A)に示した本実施形態に係るばら積み貨物船1は、第五ハッチカバー25aの船尾側コーミングを船首側に移動させ、居住区3を船尾側に移動させることによって、第五ハッチカバー25aと居住区3との間隔を大きく広げて多目的スペース7を形成している。
【0028】
このとき、居住区3の後端を船尾隔壁13上に位置させることにより、居住区3の強度部材として船尾隔壁13を有効利用することができる。
【0029】
多目的スペース7は、種々の用途に利用されるが、例えば、多目的スペース7に20フィートコンテナ(長さ6.06m×幅2.44m)を縦置きで積載する場合(コンテナの長手方向を船長方向に配置する場合)を想定すれば、多目的スペース7の船長方向の長さLは少なくとも7m以上であることが好ましい。
【0030】
また、多目的スペース7に20フィートコンテナ(長さ6.06m×幅2.44m)を横置きで積載する場合(コンテナの長手方向を船幅方向に配置する場合)を想定すれば、多目的スペース7の船長方向の長さLは少なくとも3m以上であることが好ましい。
【0031】
図1(A)及び
図1(B)に点線の枠線で示したように、多目的スペース7は、上甲板11上に形成された、船長方向の長さLを短辺とし、船幅を長辺とする長方形の平面を有する空間を構成する。また、多目的スペース7の高さは、例えば、居住区3の操舵室を遮らない高さに設定される。
【0032】
したがって、本実施形態に係るばら積み貨物船1によれば、居住区3の前方の上甲板11上に形成された多目的スペース7に種々の船上構造物を設置することが可能となる。
【0033】
また、多目的スペース7は、図示したように、機関室6の前壁を構成する隔壁12(バルクヘッド)を跨ぐように配置される。このように、多目的スペース7の船長方向の略中心に隔壁12が位置するように多目的スペース7を形成することにより、多目的スペース7の上に配置される船上構造物の強度部材として隔壁12を有効利用することができる。
【0034】
また、第四デッキクレーン44は、多目的スペース7に設置される構造物又は搭載する機器や貨物の搬送に利用可能に構成される。具体的には、第四デッキクレーン44は、他のデッキクレーン(第一デッキクレーン41~第三デッキクレーン43)よりも長いブームを備えている。
【0035】
多目的スペース7は、例えば、代替燃料の燃料タンクを設置する場所、コンテナを積載する場所、排ガス中の二酸化炭素を回収する船上CO2回収装置を設置する場所、蓄電池等の二次電池を設置する場所等として利用することができる。
【0036】
ここで、
図3は、多目的スペースの利用方法を示す第一利用形態を示す側面図である。
図3に示した第一利用形態は、多目的スペース7にメタノール燃料供給設備8を設置したものである。メタノール燃料供給設備8は、例えば、多目的スペース7の上甲板11上に配置された燃料機器室81と、燃料機器室81の上方に設置された燃料タンク82と、を備えている。なお、メタノール燃料供給設備8は図示した構成に限定されるものではない。
【0037】
上述したように、国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップでは、低炭素燃料又はカーボンニュートラル燃料の一つとしてメタノールが注目されており、重油に代わりメタノールを燃料とする船舶の導入が進められようとしている。
【0038】
しかしながら、現時点ではメタノール燃料の供給体制の構築は十分とは言えない。特に不定期航路に配船されるばら積み貨物船(バルクキャリア)においては、メタノール燃料船を導入する場合であっても、従来の重油を一定量積載できるようにしておくことが望ましい。
【0039】
メタノールの燃料体積(熱量あたりの体積)は重油の約2.4倍であること及びメタノール燃料タンクを暴露甲板(上甲板11)の下方に配置する場合には周囲に保護区画(コファダム)が必要になることから、従来の重油燃料タンクを一定量維持した状態で、暴露甲板(上甲板11)の下方にメタノール燃料タンクを追設する場合には、貨物ホールド容積が減少してしまうこととなる。
【0040】
貨物ホールド容積を減少させないためには、暴露甲板(上甲板11)の上方にメタノール燃料タンクを配置することが考えられるが、ばら積み貨物船(バルクキャリア)ではハッチカバーがありスペースが限られるため、暴露甲板(上甲板11)上のスペースを有効に使用することが重要となる。
【0041】
第一利用形態に示したばら積み貨物船1では、暴露甲板(上甲板11)に多目的スペース7を形成していることから、図示したように、代替燃料の一つであるメタノール燃料をばら積み貨物船に適用する場合であっても、暴露甲板(上甲板11)上にメタノール燃料供給設備8を容易に設置することができる。
【0042】
また、多目的スペース7を機関室6と第五船倉25との間の隔壁12を跨ぐように配置することにより、メタノール燃料供給設備8に必要な配管83を機関室6の上方の上甲板11に容易に貫通させることもできる。また、メタノール燃料供給設備8と居住区3との間にメタノール燃料供給設備8の振動を抑制する補強部材を配置するようにしてもよい。
【0043】
したがって、上述した本実施形態の第一利用形態に係るばら積み貨物船1によれば、船体構造の基本設計を大きく見直すことなく、レトロフィットによりメタノール燃料供給設備8を事後的に搭載することができる。
【0044】
また、メタノール燃料供給設備8は、新造船として多目的スペース7に搭載することもできる。この場合、多目的スペース7は、予めメタノール燃料供給設備8を設置する空間として定義されることから、本実施形態によれば、ばら積み貨物を収容する船倉2と、上甲板11上に設置された居住区3と、を備え、船倉2のハッチカバー(第五ハッチカバー25a)と居住区3との間の上甲板11上に配置された、代替燃料(メタノール燃料)の燃料タンク82を含むばら積み貨物船1が提供されることとなる。
【0045】
ここで、
図4は、多目的スペースの利用方法を示す第二利用形態を示す側面図である。
図4に示した第二利用形態は、多目的スペース7にコンテナ積載設備9を設置したものである。コンテナ積載設備9は、例えば、20フィートコンテナ(コンテナ91)を上甲板11上に積載することが設備である。なお、コンテナ積載設備9の構成及びコンテナ91の積載数等の構成は図示した構成に限定されるものではない。
【0046】
第二利用形態に示したばら積み貨物船1では、従来の重油を燃料とするばら積み貨物船において、例えば、メタノール燃料船への改造を実施するまでの間、多目的スペース7をコンテナ積載スペースとして有効利用することができる。
【0047】
また、コンテナ積載設備9は、新造船として多目的スペース7に搭載することもできる。この場合、多目的スペース7は、予めコンテナ積載設備9を設置する空間として定義されることから、本実施形態によれば、ばら積み貨物を収容する船倉2と、上甲板11上に設置された居住区3と、を備え、船倉2のハッチカバー(第五ハッチカバー25a)と居住区3との間の上甲板11上に配置された、コンテナ積載設備9を含むばら積み貨物船1が提供されることとなる。
【0048】
次に、本発明の第二実施形態に係るばら積み貨物船1について、
図5(A)~
図5(C)を参照しつつ説明する。ここで、
図5は、本発明の第二実施形態に係るばら積み貨物船を示す部分側面図であり、(A)は多目的スペースを有する第二実施形態、(B)は第一利用形態、(C)は第二利用形態、を示している。なお、上述した実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0049】
図5(A)に示した第二実施形態は、
図1に示した第一実施形態と比較して、第五船倉25の隔壁12(バルクヘッド)を船首側に移動させたものである。この場合、多目的スペース7の前端の下方に第五船倉25の隔壁12(バルクヘッド)が配置されることとなる。
【0050】
図5(B)に示した第二実施形態の第一利用形態は、多目的スペース7にメタノール燃料供給設備8を設置したものである。また、
図5(C)に示した第二実施形態の第一利用形態は、多目的スペース7にコンテナ積載設備9を設置したものである。これらの利用形態によれば、メタノール燃料供給設備8又はコンテナ積載設備9の前端の下方に隔壁12を配置することができる。
【0051】
したがって、これらの利用形態によれば、貨物ホールド容積の減少を最小限に抑制しつつ、多目的スペース7の上に配置される船上構造物の強度部材として隔壁12を有効利用することができる。
【0052】
また、図示しないが、上述したように、多目的スペース7は、排ガス中の二酸化炭素を回収する船上CO2回収装置を設置する場所、蓄電池等の二次電池を設置する場所等としても利用することができる。また、メタノール燃料以外の代替燃料を使用する場合にも多目的スペース7を有効利用することができる。また、これらの機器は、多目的スペース7に相当する空間に新造船として搭載することもできる。
【0053】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
1 ばら積み貨物船
2 船倉
3 居住区
4 デッキクレーン
5 ファンネル
6 機関室
7 多目的スペース
8 メタノール燃料供給設備
9 コンテナ積載設備
11 上甲板
12 隔壁
13 船尾隔壁
21 第一船倉
21a 第一ハッチカバー
22 第二船倉
22a 第二ハッチカバー
23 第三船倉
23a 第三ハッチカバー
24 第四船倉
24a 第四ハッチカバー
25 第五船倉
25a 第五ハッチカバー
41 第一デッキクレーン
42 第二デッキクレーン
43 第三デッキクレーン
44 第四デッキクレーン
81 燃料機器室
82 燃料タンク
83 配管
91 コンテナ