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特許7625565鉛フリー、銅フリー系スズ合金及びボールグリッドアレイパッケージ用はんだボール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】鉛フリー、銅フリー系スズ合金及びボールグリッドアレイパッケージ用はんだボール
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20250127BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20250127BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20250127BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20250127BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
C22C13/00
C22C13/02
H01L21/92 603B
H01L23/12 501C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022184605
(22)【出願日】2022-11-18
(65)【公開番号】P2023088276
(43)【公開日】2023-06-26
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】110146765
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517252808
【氏名又は名称】昇貿科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】張峻瑜
(72)【発明者】
【氏名】李志祥
(72)【発明者】
【氏名】潘思辰
(72)【発明者】
【氏名】李文和
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-109229(JP,A)
【文献】特開2019-155465(JP,A)
【文献】特開2018-001179(JP,A)
【文献】特開2003-094195(JP,A)
【文献】特開2021-126686(JP,A)
【文献】特開2000-280090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00-35/40
C22C 13/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛フリー、銅フリー系スズ合金の重量パーセントを100 wt%として計算する鉛フリー、銅フリー系スズ合金であって、
1.5~2.5 wt%の銀と、
0.01~2.5 wt%のビスマスと、
0~2.0 wt%のアンチモンと、
0.005~0.1 wt%のニッケルと、
0.005~0.02 wt%のゲルマニウムと、
余剰量の錫と、で構成されることを特徴とする鉛フリー、銅フリー系スズ合金。
【請求項2】
前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は0.5~1.5 wt%のアンチモンを含むことを特徴とする請求項1に記載の鉛フリー、銅フリー系スズ合金。
【請求項3】
前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は0.045~0.055 wt%のニッケルを含むことを特徴とする請求項1に記載の鉛フリー、銅フリー系スズ合金。
【請求項4】
前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は0.005~0.015 wt%のゲルマニウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の鉛フリー、銅フリー系スズ合金。
【請求項5】
請求項1に記載の鉛フリー、銅フリー系スズ合金で製造されていることを特徴とするボールグリッドアレイパッケージ用はんだボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫合金及び前記錫合金で製造されているボールグリッドアレイパッケージ用はんだボールに関し、より詳しくは、鉛フリー、銅フリー系スズ合金(alloy without lead,copper,and tin)及び前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金で製造されているボールグリッドアレイパッケージ用はんだボールに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子のI/O数(input/output)の増加に伴って、パッケージ技術は本来チップ周辺でパッケージを行うワイヤボンディング(wire bonding)のみに使用可能であったものから、現在ではチップの底部表面にパッケージを行うボールグリッドアレイ(ball grid array;略称BGA)パッケージにも使用可能になっている。この技術は半導体素子に対しICボンディングパッド再レイアウト(I/O distribution)を行うことで、ボンディングパッドを半導体素子の底部に分布させてI/O密度を高めている。
【発明の概要】
【0003】
ボールグリッドアレイパッケージの導通方法は、金属バンプ、導電性接着剤及び導電性フィルム等に分かれる。また、金属バンプ技術に属するはんだバンプが主流である。ボールグリッドアレイパッケージは非ウェハーレベルパッケージ及びウェハーレベルパッケージに分かれる。
【0004】
また、非ウェハーレベルパッケージとは、シリコンチップをワイヤボンディングまたはフリップチップ(flip chip)方式により有機基板に溶接した後、シリコンチップと有機基板との間にアンダーフィル(underfill)を注入し、その後に有機基板の他端にはんだボールを溶接してはんだバンプを形成し、電子素子を形成することを指す。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有機基板とシリコンチップとの膨張率の差が大きいため、電子素子自身または環境に温度変化が生じた場合、熱膨張率ミスマッチ(mismatch in coefficient of thermal expansion)による熱応力が電子素子と回路基板との間の溶接点(はんだバンプ)を損壊させてしまった(有機基板とシリコンチップとの間の溶接点にはアンダーフィルがあるため、通常は損壊しない)。
【0006】
ウェハーレベルパッケージとは、シリコンウェハー上で大部分のまたは全部のパッケージ試験プロセスを直接実行した後、切断して単独のチップを製造し、チップは有機基板を介さずにチップ上でICボンディングパッド再レイアウトを直接実行した後にはんだボールを溶接し、はんだバンプを形成することを指す。パッケージ後のチップのサイズがベアチップと略一致するため、ウェハーレベルチップスケールパッケージ(wafer level chip scale package;略称WLCSP)と呼ばれている。然しながら、シリコンチップと回路基板との膨張率の差が大きいため、両者間の接合体とする溶接点(はんだバンプ)は電子素子自身または環境に温度変化が生じた際の熱応力に耐えられる必要がある。また、ウェハーレベルパッケージの多くは軽量で薄型な小型モバイル装置に適用されるため、溶接点(はんだバンプ)は機械的衝撃に対する高い耐久力を有している必要がある。
【0007】
従来の錫合金に主に求められる特性は合金強度及び熱循環の信頼性であった。然しながら、合金強度及び熱循環の信頼性を同時に高めることを追求すると、錫合金の展延性が低くなり、錫合金の機械的衝撃に対する信頼性も低下した。
【0008】
そこで、ボールグリッドアレイ(BGA)パッケージに用いるはんだボールを調製可能な錫合金を見つけ出し、且つ前記錫合金は溶接した後に得られる構造(例えば、はんだバンプ)が優れた機械的衝撃に対する信頼性を備えると同時に、良好な溶接性、展延性、抗酸化能及び熱循環の信頼性を有することが、現在鋭意研究を進める上での目標となっている。
【0009】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題点を解決することを課題の一例とする。すなわち、本発明は、鉛フリー、銅フリー系スズ合金を提供することを第一の目的とする。前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金はボールグリッドアレイ(BGA)パッケージに用いるはんだボールを製造可能であり、且つ前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は溶接後に得られる構造(例えば、はんだバンプ)が優れた機械的衝撃に対する信頼性を備えると同時に、良好な溶接性、展延性、抗酸化能及び熱循環の信頼性も兼ね備えている。
【0010】
ここでは、本発明に係る鉛フリー、銅フリー系スズ合金は、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金重量パーセントは100 wt%であり、0.01~3.0 wt%の銀と、0.01~5.0 wt%のビスマスと、0~2.0 wt%のアンチモンと、0.005~0.1 wt%のニッケルと、0.005~0.02 wt%のゲルマニウムと、余剰量の錫と、を含んで構成されている。
【0011】
本発明の第二の目的は、ボールグリッドアレイパッケージ用はんだボールを提供する。
【0012】
ここでは、本発明に係るボールグリッドアレイパッケージ用はんだボールは、前述の鉛フリー、銅フリー系スズ合金で製造されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の鉛フリー、銅フリー系スズ合金は、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金重量パーセントは100 wt%であり、0.01~3.0 wt%の銀と、0.01~5.0 wt%のビスマスと、0~2.0 wt%のアンチモンと、0.005~0.1 wt%のニッケルと、0.005~0.02 wt%のゲルマニウムと、余剰量の錫と、を含んで構成されている。
【0014】
ここで説明すべき点は、本発明に係る鉛フリー、銅フリー系スズ合金は実質的に鉛(Pb)及び銅(Cu)を含まない点である。前述の実質的に鉛及び銅を含まないとは、原則的に錫合金に鉛及び銅を意図的に添加しないことを指すのみであり(例えば、製造過程において意図的ではない不可避な不純物や接触によるものは除く)、よって、本発明の主旨に基づいて実質的に鉛及び銅を含まないと見なし、或いは鉛及び銅非含有と見なす。 wt%は重量パーセントを指し、本明細書中の wt%は重量パーセントを指す。また、本発明及び特許請求の範囲に記載の数値範囲の限定はエンド値を含む。
【0015】
また、「余剰量の錫」という用語は誤解を避けるため、製造過程における意図的ではない不可避な不純物も排除すると理解すべきではない。よって、不純物が存在する場合、「余剰量の錫」は前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金から100 wt%の重量パーセントまで補足し、且つ錫に不可避な不純物を加えて組成されたものと理解すべきである。
【0016】
好ましくは、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は1.5~2.5 wt%の銀を含む。より好ましくは、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は1.75~2.25 wt%の銀を含む。
【0017】
好ましくは、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は2~3 wt%のビスマスを含む。より好ましくは、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は2.25~2.75 wt%のビスマスを含む。
【0018】
好ましくは、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は0.5~1.5 wt%のアンチモンを含む。より好ましくは、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は0.75~1.25 wt%のアンチモンを含む。
【0019】
好ましくは、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は0.045~0.055 wt%のニッケルを含む。より好ましくは、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は0.0475~0.0525 wt%のニッケルを含む。
【0020】
好ましくは、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は0.005~0.015 wt%のゲルマニウムを含む。より好ましくは、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は0.0075~0.0125 wt%のゲルマニウムを含む。
【0021】
好ましくは、ビスマス及びアンチモンの重量パーセントは1.0~4.5 wt%の間の範囲である。より好ましくは、ビスマス及びアンチモンの重量パーセントは3.0~4.0 wt%の間の範囲である。さらに好ましくは、ビスマス及びアンチモンの重量パーセントは3.0~3.75 wt%の間の範囲である。特に好ましくは、ビスマス及びアンチモンの重量パーセントは3.25~3.75 wt%の間の範囲である。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明によれば、次のような効果がある。
本発明に係る鉛フリー、銅フリー系スズ合金は0.01~3.0 wt%の銀と、0.01~5.0 wt%のビスマスと、0~2.0 wt%のアンチモンと、0.005~0.1 wt%のニッケルと、0.005~0.02 wt%のゲルマニウムと、余剰量の錫と、を同時に含んで構成されている。このため、本発明に係る鉛フリー、銅フリー系スズ合金はボールグリッドアレイ(BGA)パッケージ用はんだボールを製造可能であり、且つ前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は溶接後に得られる構造(例えば、はんだバンプ)が、優れた機械的衝撃に対する信頼性を備えると同時に、良好な溶接性、展延性、抗酸化能及び熱循環の信頼性を兼ね備えている。
【0023】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】比較例1で形成された二つハンダボールによる不良はんだ接点のスライスを説明する写真である。
図2】実施例1で形成された正常はんだ接点のスライスを説明する写真である。
図3】比較例1で形成されたはんだ接点のインク染色面積が断面積の50%を超過である場合の観察結果を説明する写真である。
図4】実施例1で形成されたはんだ接点のインク染色面積が断面積の50%を未超過である場合の観察結果を説明する写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
<実施例1~11と比較例1~19>
鉛フリー、銅フリー系スズ合金を準備した。
実施例1~11及び比較例1~9の鉛フリー、銅フリー系スズ合金は、下記表1に示す金属成分及び重量パーセント( wt%)に基づいて、下記ステップを経て製造した。
ステップ(1):対応する金属成分及び重量パーセントに基づいて、対応する金属材料を準備する。
ステップ(2):準備した金属材料を加熱して溶融し、鋳造して実施例1~11及び比較例1~9の鉛フリー、銅フリー系スズ合金を形成する。
【表1】
【0027】
<合金性質試験>
まず、説明すべき点は、実施例及び比較例の鉛フリー、銅フリー系スズ合金はスラスト試験により溶接性を評価し、引張試験により合金の展延性を評価し、基板レベル(Board Level)溶接試験により抗酸化能を評価し、熱循環試験により溶接点及び接合構造の熱疲労強度(即ち、熱循環の信頼性)を評価し、機械的衝撃試験により溶接点及び接合構造の機械的耐衝撃性(即ち、機械的衝撃に対する信頼性)を評価した。
【0028】
スラスト試験、基板レベル溶接試験、熱循環試験及び機械的衝撃試験の試験方法について下述する。
【0029】
<スラスト試験>
球径0.45 mmの実施例または比較例の鉛フリー、銅フリー系スズ合金により製造したはんだボールによりボールグリッドアレイ(BGA)素子に対しリボールを行った(素子のサイズは14 mm×14 mmとし、リボールリフロー(Reball reflow)曲線のピーク値の温度は240℃とする)。リボールが完了した後、プッシュプル試験機によりはんだバンプのスラスト試験を行った(プッシュカッターの移動速度は100 μm/s)。各組の合金BGAサンプルが15個のはんだバンプを押すと共にその推力強度を記録した。15個のはんだバンプの推力強度の平均値を実験結果とする。
【0030】
<判定基準>
平均推力強度が13 Nを超えている場合、リボールの溶接性が良好であると判定し、「○」と標示する。平均推力強度が11~13 Nの間の範囲である場合、リボールの溶接性が許容可能であると判定し、「△」と標示する。平均推力強度が11N未満である場合、リボールの溶接性が不足していると判定し、「X」と標示する。
【0031】
<引張試験>
実施例または比較例の鉛フリー、銅フリー系スズ合金の引張試験を行った。引張サンプルの製作及び試験方法はASTM E8に準拠して行い、引張速度は6mm/minであり、引張試験の伸長率の結果に基づいて合金の展延性を比較した。本試験において、各合金は3つの引張サンプルの試験を行い、得られた3つの伸長率の結果から平均値を取得した。
【0032】
<判定基準>
平均伸長率が25%超である場合、合金が良好な展延性を有していると判定し、「○」と標示する。平均伸長率が20~25%の間の範囲である場合、合金の展延性が許容可能であると判定し、「△」と標示する。平均伸長率が20%未満である場合、合金の展延性が不足していると判定し、「X」と標示する。
【0033】
<基板レベル溶接試験>
球径0.63 mmの実施例または比較例の鉛フリー、銅フリー系スズ合金で製造したはんだボールによりボールグリッドアレイ(BGA)素子に対しリボールを行った(素子のサイズは35 mm×35 mmとし、リボールリフロー曲線のピーク値の温度は250℃とする)。リボールが完了した後、BGA素子をまず高温高湿度(85℃/85% RH)で240時間放置した後、対応する回路基板サンプルとのリフロー溶接を行った(リフロー曲線のピーク値の温度は245℃とする)。本試験の目的は、実施例または比較例の鉛フリー、銅フリー系スズ合金で製造したはんだボールのリボール後に形成されたはんだバンプの基板レベルプロセスにおける抗酸化能をテストすることである。高温高湿度プロセスは素子上にあるはんだバンプの酸化反応を加速させるために用いられている。合金の抗酸化能ははんだバンプと回路基板とを溶接する際の溶接性に影響する。合金の抗酸化能が不足している場合、はんだバンプと回路基板とを溶接する際に溶接性が不足し、基板レベルプロセス後に発生するダブルボール不良の発生率が増加する。
【0034】
本試験では基板レベル後のサンプルに対しX線によりダブルボールの発生率を分析した。判定基準は、ダブルボール発生率が10%未満である場合、基板レベルの溶接性(即ち、抗酸化能)が良好であると判定し、「○」と標示する。ダブルボール発生率が10~20%の間の範囲である場合、基板レベルの溶接性(即ち、抗酸化能)が許容可能であると判定し、「△」と標示する 。ダブルボール発生率が20%超である場合、基板レベルの溶接性(即ち、抗酸化能)が失敗であると判定し、「X」と標示する。
【0035】
<熱循環試験>
球径0.45 mmの実施例または比較例の鉛フリー、銅フリー系スズ合金で製造したはんだボールによりボールグリッドアレイ(BGA)素子に対しリボールを行った(素子のサイズは14 mm×14 mmとし、リボールリフロー曲線のピーク値の温度は250℃とする)。リボールが完了した後、BGA素子を対応する回路基板サンプルとリフロー溶接し(リフロー曲線のピーク値の温度は245℃とする)、且つ溶接が完了した後のサンプルに対し熱循環試験を行った(試験条件は-40~125℃とし、昇温及び降温速度は15℃/minとし、保温時間は10分間とし、計600回循環させた)。次に、熱循環が完了した後のサンプルに対し赤インク浸漬試験を行った。赤インク浸漬試験方法は、まずサンプルを赤インクに浸漬し、インクが乾燥してから素子を抜去し、最後に素子を抜去した後の溶接点の断面を顕微鏡で観察した。各サンプルは全素子の計192個の溶接点に対し観察を行った。各実施例または比較例の鉛フリー、銅フリー系スズ合金のはんだボールによりそれぞれ製作した1つのBGA素子の溶接サンプルに対し赤インク浸漬試験を行い、且つ192個の各溶接点に対し断面の観察を行った。本試験の目的は、実施例または比較例の鉛フリー、銅フリー系スズ合金のはんだボールの溶接点及び溶接点と銅基材との接合構造の熱疲労強度をテストすることである。合金の溶接点自身及び銅基材との接合構造の熱疲労強度が不足している場合、溶接点または接合構造が反復して熱循環する応力により熱疲労を起こして破壊され、溶接点の信頼性に影響が及んだ。本試験は熱循環後のサンプルに対し赤インク浸漬試験を行い、熱循環試験中に溶接点に欠陥や断裂が生じた場合、赤インク浸漬試験後に溶接点の断面にインク染色現象が発生する。溶接点の断面に発生したインク染色の程度及び数量は溶接点及び接合構造に発生した破壊の程度及び数量を示し、異なるサンプルの溶接点のインク染色状況を比較して溶接点及び接合構造の熱疲労強度を判定する。
【0036】
<判定基準>
全ての溶接点のインク染色面積が断面の面積の50%を未超過である場合、合金の溶接点及び接合構造の熱疲労強度が良好であると判定し、「○」と標示する。インク染色面積が50%を超過した溶接点の数量が10個未満である場合、合金の溶接点及び接合構造の熱疲労強度が許容可能であると判定し、「△」と標示する。インク染色面積が50%を超過した溶接点の数量が10個以上である場合、合金の溶接点及び接合構造の熱疲労強度が不足していると判定し、「X」と標示する。
【0037】
<機械的衝撃試験>
球径0.45 mmの実施例または比較例の鉛フリー、銅フリー系スズ合金で製造したはんだボールによりボールグリッドアレイ(BGA)素子に対しリボールを行った(素子のサイズは14 mm×14 mmとし、リボールリフロー曲線のピーク値の温度は250℃とする)。リボールが完了した後、BGA素子を対応する回路基板サンプルにリフロー溶接し(リフロー曲線のピーク値の温度は245℃とする)、且つ溶接が完了した後のサンプルに対し機械的衝撃試験を行った(試験条件は1500 gの加速度とし、0.5 msの衝撃停留時間とし、計50回衝撃試験を行った)。次に、機械的衝撃試験が完了した後のサンプルに対し赤インク浸漬試験を行った。赤インク浸漬試験方法は、まずサンプルを赤インクに浸漬し、インクが乾燥した後に素子を抜去し、最後に素子を抜去した後の溶接点の断面を顕微鏡で観察し、各サンプルは全素子の計192個の溶接点に対し観察を行った。各実施例または比較例の鉛フリー、銅フリー系スズ合金のはんだボールによりそれぞれ製作した1つのBGA素子の溶接サンプルに対し赤インク浸漬試験を行い、且つ192個の各溶接点に対し断面の観察を行った。本試験の目的は、実施例または比較例の鉛フリー、銅フリー系スズ合金のはんだボールのリボール後に形成されたはんだバンプの溶接点及びバンプの溶接点と銅基材との接合構造の機械的耐衝撃性をテストすることである。合金の溶接点自身及び銅基材との接合構造の機械的耐衝撃性が不足している場合、溶接点または接合構造が機械的衝撃力に耐えられず破壊されてしまい、溶接点の信頼性に影響が及んだ。本試験では、機械的衝撃試験を行った後のサンプルに対し赤インク浸漬試験を行い、機械的衝撃試験中に溶接点に欠陥や断裂が生じた場合、赤インク浸漬試験後に溶接点の断面にインク染色現象が発生する。溶接点の断面に発生したインク染色の程度及び数量は、溶接点及び接合構造に発生した破壊の程度及び数量を示し、よって、異なるサンプルの溶接点のインク染色状況を比較することで溶接点及び接合構造の機械的耐衝撃性を判定する。
【0038】
<判定基準>
全ての溶接点のインク染色面積が断面の面積の50%を未超過である場合、合金の溶接点及び接合構造の機械的耐衝撃性が良好であると判定し、「○」と標示する。インク染色面積が50%を超過した溶接点の数量が10個未満である場合、合金の溶接点及び接合構造の機械的耐衝撃性が許容可能であると判定し、「△」と標示する。インク染色面積が50%を超過した溶接点の数量が10個以上である場合、合金の溶接点及び接合構造の機械的耐衝撃性が不足していると判定し、「X」と標示する。
【0039】
次に、図1~4を参照しながら、本発明の比較例1と実施例1をさらに詳しく説明する。図1は比較例1で形成された二つハンダボールによる不良はんだ接点のスライスを説明する写真である。図2は実施例1で形成された正常はんだ接点のスライスを説明する写真である。図3は比較例1で形成されたはんだ接点のインク染色面積が断面積の50%を超過である場合の観察結果を説明する写真である。図4は実施例1で形成されたはんだ接点のインク染色面積が断面積の50%を未超過である場合の観察結果を説明する写真である。
【0040】
また、説明すべき点は、同じ実施例または同じ比較例に対し前述のスラスト試験、基板レベル溶接試験、熱循環試験及び機械的衝撃試験の4つの試験を行い、試験結果中に1つでも「X」があった場合、表1中の「総合的評価結果」欄には「X」と標示し、この実施例または比較例が本発明の要求を満たしていないことを示す。試験結果中に1つでも「△」があった場合、表1中の「総合的評価結果」欄には「△」と標示し、この実施例または比較例が本発明の要求を満たしていることを示す。3つの試験結果が全て「○」であった場合、表1中の「総合的評価結果」欄には「○」と標示し、この実施例が本発明の要求を満たしているのみならず、最良の実施例であることを示す。
【0041】
<合金性質の試験結果及び討論>
以下、異なる銀含有量、異なるビスマス含有量、異なるアンチモン含有量、異なるニッケル含有量、異なるゲルマニウム含有量、及び異なる銅含有量より得られた結果に基づいてそれぞれ討論する。
【0042】
【表2】
【0043】
図2から分かるように、銀の重量パーセントは、引張試験結果(即ち、合金の展延性)、合金の溶接点及び接合構造の熱疲労強度(即ち、熱循環の信頼性)、及び機械的耐衝撃性(即ち、機械的衝撃に対する信頼性)に影響を及ぼす。銀の重量パーセントが低過ぎる場合、鉛フリー、銅フリー系スズ合金が熱循環試験をパスできなくなる。銀の重量パーセントが高過ぎる場合、鉛フリー、銅フリー系スズ合金が引張試験及び機械的衝撃試験をパスできなくなる。
【0044】
比較例1は銀を含まず、熱循環試験は「X」と標示されており、銀の重量パーセントが低過ぎる(0.01 wt%未満)ため合金の熱循環の信頼性が不足していることを示している。比較例2では4.0 wt%の銀を採用し、引張試験及び機械的衝撃試験は「X」と標示されており、銀の重量パーセントが高過ぎる(3.0 wt%超)ため合金の展延性及び機械的衝撃に対する信頼性が不足していることを示している。実施例2では0.01 wt%の銀を採用し、実施例1では2.0 wt%の銀を採用し、実施例3では3.0 wt%の銀を採用し、表2の「総合的評価結果」欄には全て「△」または「○」と標示されており、鉛フリー、銅フリー系スズ合金中に0.01~3.0 wt%の銀を含むことで本発明の要求を満たしていることを示している。
【0045】
【表3】
【0046】
図3から分かるように、ビスマスの重量パーセントは、合金の引張試験結果(即ち、合金の展延性)、合金の溶接点及び接合構造の熱疲労強度(即ち、熱循環の信頼性)及び機械的耐衝撃性(即ち、機械的衝撃に対する信頼性)に影響を及ぼしている。ビスマスの重量パーセントが低過ぎる場合、鉛フリー、銅フリー系スズ合金が熱循環試験をパスできなくなる。ビスマスの重量パーセントが高過ぎる場合、鉛フリー、銅フリー系スズ合金が引張試験及び機械的衝撃試験をパスできなくなる。
【0047】
比較例3ではビスマスを含まず、熱循環試験は「X」と標示されており、ビスマスの重量パーセントが低過ぎる(0.01 wt%未満)ため合金の熱循環の信頼性が不足していることを示している。比較例4では6.0 wt%のビスマスを採用し、引張試験及び機械的衝撃試験は「X」と標示されており、ビスマスの重量パーセントが高過ぎる(5.0 wt%超)ために合金の展延性及び機械的衝撃に対する信頼性が不足していることを示している。実施例4では0.01 wt%のビスマスを採用し、実施例1では2.5 wt%のビスマスを採用し、実施例5では5.0 wt%のビスマスを採用し、表3の「総合的評価結果」欄には全て「△」または「○」と標示されており、鉛フリー、銅フリー系スズ合金中に0.01~5.0 wt%のビスマスを含むことで本発明の要求を満たしていることを示している。
【0048】
【表4】
【0049】
図4から分かるように、アンチモンの重量パーセントがスラスト試験結果(即ち、溶接性)、引張試験結果(即ち、合金の展延性)、溶接点及び接合構造の熱疲労強度(即ち、熱循環の信頼性)及び機械的耐衝撃性(即ち、機械的衝撃に対する信頼性)に影響を及ぼしている。アンチモンの重量パーセントが低い場合、鉛フリー、銅フリー系スズ合金が熱循環試験中に許容可能となる。アンチモンの重量パーセントが高過ぎる場合、鉛フリー、銅フリー系スズ合金がスラスト試験、引張試験及び機械的衝撃試験をパスできなくなる。
【0050】
比較例5では3.0 wt%のアンチモンを採用し、スラスト試験、引張試験及び機械的衝撃試験は「X」と標示されており、アンチモンの重量パーセントが高過ぎる(2.0 wt%超)ために合金の溶接性、展延性及び機械的衝撃に対する信頼性が不足していることを示している。実施例6では0 wt%のアンチモンを採用し、実施例1では1.0 wt%のアンチモンを採用し、実施例7では2.0 wt%のアンチモンを採用し、表4の「総合的評価結果」欄には全て「△」または「○」と標示されており、鉛フリー、銅フリー系スズ合金中に0~2.0 wt%のアンチモンを含むことで本発明の要求を満たしていることを示している。
【0051】
【表5】
【0052】
図5から分かるように、ニッケルの重量パーセントが合金の溶接点及び接合構造の熱疲労強度(即ち、熱循環の信頼性)及び機械的耐衝撃性(即ち、機械的衝撃に対する信頼性)に影響を及ぼしていることを示している。ニッケルの重量パーセントが低過ぎることで、鉛フリー、銅フリー系スズ合金が熱循環試験をパスできなくなる。ニッケルの重量パーセントが高過ぎる場合、鉛フリー、銅フリー系スズ合金が機械的衝撃試験をパスできなくなる。
【0053】
比較例6ではニッケルを含まず、熱循環試験は「X」と標示されており、ニッケルの重量パーセントが低過ぎる(0.005 wt%未満)ために合金の熱循環の信頼性が不足していることを示している。比較例7では0.2 wt%のニッケルを採用し、機械的衝撃試験は「X」と標示されており、ニッケルの重量パーセントが高過ぎる(0.1 wt%超)ため合金の機械的衝撃に対する信頼性が不足していることを示している。実施例8では0.005 wt%のニッケルを採用し、実施例1では0.05 wt%のニッケルを採用し、実施例9では0.1 wt%のニッケルを採用し、表5の「総合的評価結果」欄には全て「△」または「○」と標示されており、鉛フリー、銅フリー系スズ合金中に0.005~3.1 wt%のニッケルを含むことで本発明の要求を満たしていることを示している。
【0054】
【表6】
【0055】
図6から分かるように、ゲルマニウムの重量パーセントが合金のスラスト試験結果(即ち、溶接性)及び基板レベル溶接試験結果(即ち、抗酸化能)に影響を及ぼしている。ゲルマニウムの重量パーセントが低過ぎる場合、鉛フリー、銅フリー系スズ合金が基板レベル溶接試験をパスできなくなる。ゲルマニウムの重量パーセントが高過ぎる場合、鉛フリー、銅フリー系スズ合金がスラスト試験をパスできなくなる。
【0056】
比較例8ではゲルマニウムを含まず、基板レベル溶接環試験が「X」と標示されており、ゲルマニウムの重量パーセントが低過ぎる(0.005 wt%未満)ことで合金の抗酸化能が不足していることを示している。比較例9では0.05 wt%のゲルマニウムを採用し、スラスト試験は「X」と標示されており、ゲルマニウムの重量パーセントが高過ぎる(0.02 wt%超)ことで合金の溶接性が不足していることを示している。実施例10では0.005 wt%のゲルマニウムを採用し、実施例1では0.01 wt%のゲルマニウムを採用し、実施例11では0.02 wt%のゲルマニウムを採用し、表6の「総合的評価結果」欄には全て「△」または「○」と標示されており、鉛フリー、銅フリー系スズ合金中に0.005~0.02 wt%のゲルマニウムを含むことで本発明の要求を満たしていることを示している。
【0057】
<結論>
前述の結果及び討論に基づいて、実施例1~11の鉛フリー、銅フリー系スズ合金の「総合的評価結果」欄には全て「△」または「○」と標示されており、スラスト試験、基板レベル溶接試験、熱循環試験及び機械的衝撃試験を同時にパスしていることを示している。本発明に係る鉛フリー、銅フリー系スズ合金(実施例1~11参照)によりボールグリッドアレイ(BGA)パッケージに用いるはんだボールを製造することで、前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金を溶接した後に得られる構造(例えば、はんだバンプ)が、優れた機械的衝撃に対する信頼性を備えると同時に、良好な溶接性、展延性、抗酸化能及び熱循環の信頼性も兼ね備える。
【0058】
以上を総合すると、本発明に係る鉛フリー、銅フリー系スズ合金が0.01~3.0 wt%の銀、0.01~5.0 wt%のビスマス、0~2.0 wt%のアンチモン、0.005~0.1 wt%のニッケル、0.005~0.02 wt%のゲルマニウム、及び余剰量の錫を同時に含むため、本発明に係る鉛フリー、銅フリー系スズ合金はボールグリッドアレイ(BGA)パッケージに用いるはんだボールを製造可能であり、且つ前記鉛フリー、銅フリー系スズ合金は溶接後に得られる構造(例えば、はんだバンプ)が優れた機械的衝撃に対する信頼性を備えると同時に、良好な溶接性、展延性、抗酸化能及び熱循環の信頼性を兼ね備え、本発明の目的を確実に達成している。
【0059】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
図1
図2
図3
図4