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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】オルトメタル化金属化合物の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/00 20060101AFI20250127BHJP
   C07D 213/06 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
C07F15/00 E
C07D213/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022504190
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 EP2020070397
(87)【国際公開番号】W WO2021013775
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】19187468.4
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516264118
【氏名又は名称】ユー・ディー・シー アイルランド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ、ステッセル
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-513546(JP,A)
【文献】ADVANCED FUNCTIONAL MATERIALS,2017年,Volume27, Issue35,1702856(Pages 1-10)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 15/00
C07D 213/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウム化合物と、前記イリジウムにシクロメタル化の下で配位する1以上の配位子とを反応させることによってシクロメタル化イリジウム錯体を製造する方法であって、
前記方法が、少なくとも1つのカルボン酸の存在下で、無水媒体中で行われ、
前記シクロメタル化イリジウム錯体が下記式(1)、(2)または(3)の構造を有することを特徴とする方法
【化1】
(ここで、
Lは、出現毎に同一であるかまたは異なり、式(2)中では二座シクロメタル化配位子、または式(1)および(3)中では二座シクロメタル化副配位子であり;
L’は、出現毎に同一であるかまたは異なり、式(2)中では二座配位子、または式(1)および(3)中では二座副配位子であり;
L’’は、両方のイリジウム原子に配位するビス二座シクロメタル化副配位子であり;
Vは、出現毎に同一であるかまたは異なり、ブリッジユニットであり、式(1)中では副配位子LおよびL’を互いに連結し三脚型六座配位子を形成し、式(3)中では副配位子LおよびL’を互いに連結し全体で12座配位子を形成する)
【請求項2】
前記シクロメタル化イリジウム錯体が下記式(1a)、(2a)または(3a)のうちの1つの構造を有する、請求項に記載の方法
【化2】
(ここで、使用される記号は、請求項に記載の定義を有する)
【請求項3】
前記配位子または副配位子が、1つの炭素原子および1つの窒素原子、または2つの炭素原子を介して、イリジウムに配位することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
Lおよび/またはL’が、出現毎に同一であるかまたは異なり、下記式(L-1)または(L-2)の構造である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法
【化3】
(ここで、点線は、式(1)または(3)中のブリッジVへの副配位子の結合であり、式(2)では存在しないものであり、かつ、ここで、使用される他の記号は以下のとおりである:
CyCは、出現毎に同一であるかまたは異なり、5~14の芳香族環原子を有する、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール基であり、それぞれのケースにおいて、炭素原子を介して金属に配位し、共有結合を介してCyDに結合されており;
CyDは、出現毎に同一であるかまたは異なり、5~14の芳香族環原子を有する、置換または非置換のヘテロアリール基であり、窒素原子を介して、またはカルベン炭素原子を介して、金属に配位し、共有結合を介してCyCに結合されており;
同時に、2以上の任意の置換基が共に環系を形成していていもよい)
【請求項5】
Lおよび/またはL’が、出現毎に同一であるかまたは異なり、式(L-1-1)、(L-1-2)および(L-2-1)~(L-2-4)のうちの1つの構造であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法
【化4】
(ここで、式(1)または(3)の化合物中の「o」は、ブリッジVへの結合位置を示し、このケースにおいて対応するXはCであり、かつ、ここで、使用される記号は以下のとおりである:
Xは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CRまたはNであり、ただし、環あたり最大で2つの記号XがNであり;
Rは、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、D、F、Cl、Br、I、N(R、OR、SR、CN、NO、COOR、C(=O)N(R、Si(R、B(OR、C(=O)R、P(=O)(R、S(=O)R、S(=O)、OSO、1~20の炭素原子を有する直鎖のアルキル基または2~20の炭素原子を有する、アルケニルもしくはアルキニル基または3~20の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、アルキル、アルケニルまたはアルキニル基は、それぞれのケースにおいて、1以上のRラジカルによって置換されていてもよく、かつ、ここで、1以上の非隣接のCH基が、Si(R、C=O、NR、O、SまたはCONRによって置き換えられていてもよい)、または5~40の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上の非芳香族Rラジカルによって置換されていてもよい、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系であり;同時に、2つのRラジカルが共に環系を形成していてもよく;
は、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、D、F、Cl、Br、I、N(R、OR、SR、CN、NO、Si(R、B(OR、C(=O)R、P(=O)(R、S(=O)R、S(=O)、OSO、1~20の炭素原子を有する直鎖のアルキル基または2~20の炭素原子を有する、アルケニルもしくはアルキニル基または3~20の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、アルキル、アルケニルまたはアルキニル基は、それぞれのケースにおいて、1以上のRラジカルによって置換されていてもよく、かつ、ここで、1以上の非隣接のCH基がSi(R、C=O、NR、O、SまたはCONRによって置き換えられていてもよい)、または5~40の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系であり;同時に、2以上のRラジカルが共に環系を形成していてもよく;
は、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、D、F、または1~20の炭素原子を有する、脂肪族有機ラジカル(例えば、ヒドロカルビルラジカル(ここで、1以上の水素原子がFによって置き換えられていてもよい)である)
【請求項6】
配位子または副配位子LまたはL’のうちのちょうど1つが、2つのD基を介してイリジウムに配位する下記式(L-39)の配位子または副配位子であり、錯体が式(1)または(3)の錯体である場合に、「o」で印される位置を介してVに結合される(このケースにおいて対応するXはCである)ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法
【化5】
(ここで、
Dは、CまたはNであり、ただし、1つのDはCであり、他のDがNであり;
Xは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CRまたはNであり;
Zは、CR’、CRまたはNであり、ただし、ちょうど1つのZがCR’であり、他のZはCRまたはNであり;
ここで、環あたり最大1つの記号XまたはZがNであり;
R’は、下記式(17)または(18)の基であり
【化6】
ここで、点線は、基の連結を示し;
R’’は、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、D、F、CN、1~10の炭素原子を有する直鎖のアルキル基(ここで、1以上の水素原子がDまたはFによって置き換えられていてもよい)、または3~10の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、1以上の水素原子がDまたはFによって置き換えられていてもよい)、または2~10の炭素原子を有するアルケニル基(ここで、1以上の水素原子がDまたはFによって置き換えられていてもよい)であり;同時に、2つの隣接R’’ラジカルまたは隣接フェニル基上の2つのR’’ラジカルが共に環系を形成していてもよく;または、隣接フェニル基上の2つのR’’が共にC(R、NR、OおよびSから選択される基であり、2つのフェニル基がブリッジ基と共にカルバゾール、ジベンゾフラン、またはジベンゾチオフェンとなり、さらなる基R’’は上記の定義のとおりであり;
nは、0、1、2、3、4または5である)
【請求項7】
副配位子L’’が下記式(19)または(20)の構造を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法
【化7】
(ここで、Xは請求項に記載の定義を有し、点線はVへの結合を示し、*はイリジウム原子への配位を示し、かつ、さらに:
Dは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CまたはNであり;
式(19)中のQは、下記式(Q-1)~(Q-3)のうちの1つの基であり、式(20)中のQは、下記式(Q-4)~(Q-15)のうちの1つの基であり、
【化8】
ここで、点線は、それぞれのケースにおいて、式(19)または(20)内の結合を示し、*は、この基がイリジウム原子へ配位する位置を印し、かつXは、請求項に記載の定義を有する)
【請求項8】
L’がLと同一であるかまたは異なること、またはL’がアセチルアセトナート、ピコリン酸誘導体、ピラゾリルボレート、またはヒドロキシキノリナートの基から選択されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Vが下記式(21)の基を示す(ここで、点線は副配位子LおよびL’の結合位置を示す)ことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【化9】
(ここで、
は、出現毎に同一であるかまたは異なり、CRまたはNであり;
は、出現毎に同一であるかまたは異なり、CRまたはNであり;
Aは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CR-CR、CR-O、CR-NR、C(=O)-O、C(=O)-NR、または以下の式(22)の基であり:
【化10】
ここで、点線は、それぞれのケースにおいて、二座副配位子LまたはL’のこの構造への結合位置を示し、*は式(21)の単位の中央の三価アリールまたはヘテロアリール基への結合位置を示す)
【請求項10】
使用される前記イリジウム化合物が、ハロゲン化イリジウム、イリジウムカルボキシラート、COD-イリジウム(I)化合物、イリジウムケトケトネート、または下記式(34)~(39)のうちの1つの化合物であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法
【化11】
(ここで、R、CyCおよびCyDは請求項4および5に記載の定義を有し、かつ、さらなる記号および添え字は以下のとおりである:
Halは、出現毎に同一であるかまたは異なり、F、Cl、BrまたはIであり;
Katは、出現毎に同一であるかまたは異なり、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオン、4~40の炭素原子を有するテトラアルキルアンモニウムカチオン、または4~40の炭素原子を有するテトラアルキルホスホニウムカチオンであり;
zは、0~100であり;
yは、0~100である)
【請求項11】
前記カルボン酸が式R-COOHまたはHOOC-R-COOHの構造(ここで、Rは、1~20の炭素原子を有する直鎖のアルキル基または3~20の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、アルキル基は、それぞれのケースにおいて、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい)、または2~20の炭素原子を有し、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、アルケニルもしくはアルキニル基、5~40の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、または5~20の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、アラルキルもしくはヘテロアラルキル基からなる群から選択され、かつ、ここで、Rは、1~20の炭素原子を有する直鎖のアルキレン基または3~20の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキレン基(ここで、アルキレン基は、それぞれのケースにおいて、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい)、2~20の炭素原子を有し、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、アルケニルもしくはアルキニル基、5~40の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上の非芳香族Rラジカルによって置換されていてもよい、二価の芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、または5~20の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、二価のアラルキルもしくはヘテロアラルキル基からなる群から選択される)を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
使用される前記カルボン酸が、酢酸、プロピオン酸、ピバル酸、安息光酸、サリチル酸、フェニル酢酸、アジピン酸、またはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
水和物がイリジウム化合物として使用されるとき、水補足剤(例えば、カルボン酸無水物、ハロゲン化カルボニル、オルトカルボン酸トリアルキル、カルボジイミド、五酸化リン、塩化チオニル、または塩化ホスホリル)が添加されることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ハロゲン化物がイリジウム化合物として使用されるとき、ハロゲン化物補足剤(例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、またはカルボン酸の亜鉛塩)が添加されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
キラルのエナンチオマー的に純粋なカルボン酸が使用されることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、単純なイリジウム反応物質からシクロメタル化イリジウム化合物を調製する方法に関する。
【0002】
有機金属イリジウム化合物は、多くの多様な広く電子産業に貢献しうる用途における機能材料として、特に有機エレクトロルミネッセンス素子の燐光発光体として、使用される。これには、対応する高純度の有機金属化合物への効果的な化学合成が必要となる。Irの希少性を考慮すると、特に上記の化合物類の資源を節約する使用が非常に重要である。
【0003】
シクロメタル化有機イリジウム化合物の調製として、さまざまな方法が知られている。これらに共通するのは、その方法が有機溶媒中、または有機溶媒と水の混合物中で、しばしば高温で、長い反応時間で行われることである。塩素含有イリジウム反応物質が使用される場合、塩素を取り除くために銀塩がしばしば使用されるが、これによって、イリジウム錯体の純度の問題が生じる。それゆえ、銀塩の使用は好ましくない。
【0004】
例えば、高融点プロトン性化合物、例えば、ヒドロキノン、フェノール、ナフトール、レゾシノール、カテコール、ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物、を用いた溶融物中での方法が知られている。これらの化合物は、特に、多脚配位子(例えばWO2016/124304)または他に対応する二核錯体(例えばWO2018/041769)とのシクロメタル化反応に、良好な反応媒体であることがわかっている。溶融物中で240℃より高い、オルトメタル化反応は、急速に、選択的に、明確な副反応なしに、進行する。水-およびアルコール-溶解性反応媒体の除去は優れている。反応生成物がこれらの媒体に不溶であるからである。したがって、実験室での操作では、この反応は、非常に良好な、スペース、時間、収率で行われる。対照的に、この方法を、生産規模のバッチ式反応操作にスケールアップすることは技術的に困難である。比較的大きな体積を、急速にかつ240℃を越える要求される温度に過熱することなく加熱すること、または反応後に再度それらを冷却することは、技術的に非常に難しいからである。さらに、反応混合物が冷却されるにつれ固化することが不利であることがわかってきている。これによって、撹拌および後処理に関する問題となるからである。さらなる要因は、そのような高温プロセスにおける特定の安全性への要件であり、これは実際に、プラントおよび建物インフラ(例えば広いexゾーン(爆発危険ゾーン)のために別の建物)に対する非常に高い要求となる。さらに、プロセスのスケールアップにおいて、自然発火性のイリジウムがいくつかのケースにおいて観察され、粗生成物が大気下で吸引乾燥される場合に自己点火をもたらし、したがって安全性への大きなリスクとなる。それゆえ、いまだ改良が求められる。
【0005】
したがって、本発明の根底にある課題は、シクロメタル化イリジウム錯体、特に多脚シクロメタル化イリジウム錯体、および対応する多核錯体が、単純な方法で、容易に得られるイリジウム反応物質、例えばハロゲン化イリジウム(III)水和物または酢酸イリジウム(III)、から穏やかな条件で高収率で、合成することができる広範に適用可能な方法を提供することである。銀塩の添加をせずに、多脚シクロメタル化錯体および対応する多核錯体の広く適用可能な合成方法の提供が、特に課題である。さらに、この方法では、自然発火性の副生成物は形成されない。さらに、反応物質および反応媒体は、毒性がなく、商業的に入手しやすい。本発明によって解決するさらなる課題は、ハロゲン化イリジウムだけでなく、ハロゲンフリー、特に塩素フリー、反応物質から進めることができる方法を提供することである。このケースの反応は、ステンレス鋼反応器でも可能であるが、塩素含有反応物質の使用のケースにおいて、不活性反応器、例えばガラスまたはエナメル、中で行われるべきである。
【0006】
驚くべきことに、さまざまなイリジウム(III)またはイリジウム(I)反応物質(例えばハロゲン化イリジウム、酢酸イリジウムまたは他のイリジウム反応物質)から進めるシクロメタル化イリジウム錯体の合成は、無水有機カルボン酸中で、高収率および純度で行われることがわかった。ここでの反応は、比較的穏やかな条件、つまり190℃より低い温度および低圧で進行する。
【0007】
したがって、本発明は、イリジウム化合物と、シクロメタル化の下でイリジウムに配位する1以上の配位子とを反応させることによってシクロメタル化イリジウム錯体を調製する方法であって、その方法がカルボン酸の存在下で、無水媒体中で行われることを特徴とする。
【0008】
本発明の意味において、シクロメタル化イリジウム錯体は、少なくとも1つの二座シクロメタル化配位子または副配位子を有するイリジウム錯体である。ここで、イリジウム錯体は、単核または多核であってよく、例えば二核または三核である。好ましくは、3つの二座シクロメタル化配位子または副配位子を有するトリスシクロメタル化イリジウム錯体である。本発明の意味において、用語「シクロメタル化イリジウム錯体」は、少なくとも1つがシクロメタル化された3つの二座配位子がブリッジを介して互いに共有結合によって結合され、それによって三脚型六座配位子を形成するイリジウム錯体も含む。多脚錯体についても同様である。本発明の意味において、シクロメタル化配位子は、金属と金属サイクルを形成し、金属に配位子が少なくとも1つの金属-炭素結合が配位子と金属の間に存在するように配位する、配位子である。
【0009】
配位子によって、ホモレプティックまたはヘテロレプティック金属錯体のいずれかが合成されうる。ホモレプティック錯体は、同一の配位子のみが金属に結合される化合物を意味するものと解される。ヘテロレプティック錯体は、異なる配位子が金属に結合されるものである。これは、同一の基本構造を有するが異なる置換をされている配位子と同様に、異なる基本構造を有する配位子にも適用される。
【0010】
本発明の好ましい形態において、シクロメタル化イリジウム錯体は、3つの二座配位子が共有結合によってブリッジを介して結合されておらず、三脚型六座配位子を形成する場合に、ホモレプティック錯体である。3つの二座配位子がブリッジを介して共有結合によって結合され、三脚型六座配位子を形成する場合、好ましくは、三脚型配位子のそれぞれの二座副配位子が互いに異なることが同様に好ましい。
【0011】
本発明のさらに好ましい形態において、シクロメタル化イリジウム錯体は錯体のフェイシャル異性体である。本発明の意味において、フェイシャルまたはメリジオナル配位は、6つのドナー原子を有するイリジウムの8面体環境を示す。フェイシャル配位は、3つの同一のドナー原子が(疑似)八面配位多面体中の三角面を占め、かつ最初とは異なる3つの同一のドナー原子が(疑似)八面配位多面体中の別の三角面を占めるときに、起こる。メリジオナル配位では、3つの同一のドナー原子は(疑似)八面配位多面体中の1つのメリジアン(meridian)を占め、かつ最初とは異なる3つの同一のドナー原子が(疑似)八面配位多面体中の他のメリジアンを占める。これは、3つのドナー窒素原子および3つのドナー炭素原子の配位の例によって以下に示される(スキーム1)。この定義はドナー原子に関するものであり、これらのドナー原子を提供する二座配位子に関するものではないため、3つの二座シクロメタル化配位子は同一であるかまたは異なっていてもよく、それにもかかわらず、本発明の意味において、フェイシャルまたはメリジオナル配位に対応する。同一のドナー原子は、同一の要素(例えば、炭素または窒素)からなるものであり、これらの要素が異なる構造に組み込まれるにかかわらないと解される。
スキーム1:
【化1】
【0012】
本発明の方法によって得られるイリジウム錯体は、好ましくは、以下の式(1)、(2)または(3)の構造を有する。
【化2】
ここで、
Lは、出現毎に同一であるかまたは異なり、式(2)中では二座シクロメタル化配位子、または式(1)および(3)中では二座シクロメタル化副配位子であり;
L’は、出現毎に同一であるかまたは異なり、式(2)中では二座配位子、または式(1)および(3)中では二座副配位子であり;
L’’は、両方のイリジウム原子に配位するビス二座シクロメタル化副配位子であり;
Vは、出現毎に同一であるかまたは異なり、ブリッジユニットであり、式(1)中では副配位子LおよびL’を互いに連結し三脚型六座配位子を形成し、式(3)中では副配位子LおよびL’を互いに連結し全体で12座配位子を形成する。
【0013】
本発明の方法に使用される配位子は、式(1)の錯体では、式(4)の化合物に対応する。
【化3】
ここで、記号は上記に記載の定義を有し、副配位子Lは炭素-イリジウム結合ではなく炭素-水素結合を有し、副配位子L’はイリジウムへの結合ではなく水素原子を有する。
【0014】
本発明の方法で使用される配位子は、式(2)の錯体では、LおよびL’に対応し、ここで、配位子Lは炭素-イリジウム結合ではなく炭素-水素結合を有し、配位子L’はイリジウムへの結合ではなく水素原子を有する。
【0015】
本発明の方法で使用される配位子は、式(3)の錯体では、式(5)の化合物に対応する。
【化4】
ここで、記号は上記に記載の定義を有し、副配位子L’’は炭素-イリジウム結合ではなく炭素-水素結合を有し、副配位子L’はイリジウムへの結合ではなく水素原子を有する。
【0016】
ここで、二座配位子または副配位子L’はシクロメタル化または非シクロメタル化であってよく、式(1)および(2)中のLおよびL’はL’がシクロメタル化配位子の場合に同一であってもよい。
【0017】
本発明の好ましい形態において、LおよびL’はモノアニオン性配位子であり、L’’はジアニオン性配位子である。
【0018】
式(1)の錯体中の式(4)の配位子は、同一または異なっていてもよい、3つの二座副配位子LおよびL’を有する三脚型六座配位子である。「二座(Bidentate)」は、錯体中の特定の副配位子が2つの配位部位を介してイリジウムに配位、または結合することを意味する。「三脚型(Tripodal)」は、配位子が、ブリッジVに結合された、3つの副配位子を有することを意味する。配位子が3つの二座副配位子を有するので、全体として、6座配位子、つまり6つの配位部位を介してイリジウムに配位または結合する配位子である。本発明の意味において、「二座副配位子(bidentate subligand)」という表現は、ブリッジVが存在しない場合に、LおよびL’がそれぞれのケースにおいて二座配位子であることを意味する。しかしながら、この二座配位子から水素原子が形式上取り去られ、ブリッジVに連結した結果、もはや分離した配位子ではなく、六座配位子の一部であり、それゆえ、用語「副配位子」が使用される。
【0019】
式(3)の配位子中の式(5)の配位子は、2つのイリジウム原子に配位する12座ビス三脚型配位子である。ここで、配位子は、2つの半分のそれぞれに2つのイリジウム原子のうちの1つにそれぞれ配位する2つの二座副配位子L’を含み、両方のイリジウム原子に配位するビス二座副配位子L’’を含む。
【0020】
本発明の好ましい形態において、配位子L’は、二座シクロメタル化配位子または副配位子である。したがって、本発明の方法によって得られる金属錯体は、好ましくは、以下の式(1a)、(2a)または(3a)の構造を有する。
【化5】
ここで、使用される記号は上記の定義を有する。
【0021】
以下に、二座シクロメタル化配位子または副配位子Lについて記載する。L’が二座シクロメタル化配位子または副配位子である場合、以下の好ましいものもL’に適用する。配位子または副配位子Lは、1つの炭素原子および1つの窒素原子を介して、または2つの炭素原子を介して、イリジウムに配位する。Lは2つの炭素原子を介してイリジウムに配位する場合、2つの炭素原子のうちの1つがカルベン炭素原子である。本発明の好ましい形態において、少なくとも2つの配位子または副配位子LおよびL’は同一である。式(2)の錯体において、好ましくは、全ての配位子LおよびL’が同一であり、錯体がホモレプティック錯体である。
【0022】
より好ましくは、それぞれの配位子または副配位子LおよびL’は、配位原子として1つの炭素原子および1つの窒素原子を有する。
【0023】
イリジウムおよび配位子または副配位子LおよびL’から形成される金属サイクルが5員環である場合が、さらに好ましい。これは、以降に図式化して示される。
【化6】
ここで、Nは配位窒素原子であり、Cは配位炭素原子であり、示される炭素原子は、配位子または副配位子LまたはL’の原子である。
【0024】
本発明の好ましい形態において、配位子または副配位子Lおよび、適切な場合にL’が出現毎に同一であるかまたは異なり、以下の式(L-1)および(L-2)の構造である。
【化7】
ここで、点線は、式(1)または(3)中のブリッジVへの副配位子の結合であり、式(2)では存在しないものであり、かつ、ここで、使用される他の記号は以下である。
CyCは、出現毎に同一であるかまたは異なり、5~14の芳香族環原子を有する、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール基であり、それぞれのケースにおいて、炭素原子を介して金属に配位し、共有結合を介してCyDに結合されており;
CyDは、出現毎に同一であるかまたは異なり、5~14の芳香族環原子を有する、置換または非置換のヘテロアリール基であり、窒素原子を介して、またはカルベン炭素原子を介して、金属に配位し、共有結合を介してCyCに結合されており;
同時に、2以上の任意の置換基が共に環系を形成していていもよく;任意のラジカルは好ましくは以下に定義されるRラジカルから選択される。
【0025】
CyDは、非荷電の窒素原子を介して、またはカルベン炭素原子を介して配位し、CyCはアニオン性炭素原子を介して配位する。
【0026】
CyCおよびCyD上のRラジカルとしては、好ましくは以下である。
Rは、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、D、F、Cl、Br、I、N(R、OR、SR、CN、NO、COOR、C(=O)N(R、Si(R、B(OR、C(=O)R、P(=O)(R、S(=O)R、S(=O)、OSO、1~20の炭素原子を有する直鎖のアルキル基または2~20の炭素原子を有する、アルケニルもしくはアルキニル基または3~20の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、アルキル、アルケニルまたはアルキニル基は、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよく、ここで1以上の非隣接CH基はSi(R、C=O、NR、O、SまたはCONRによって置き換えられていてもよい)、または5~40の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上の非芳香族Rラジカルによって置換されていてもよい、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系であり;同時に、2つのRラジカルが共に環系を形成していてもよく;
は、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、D、F、Cl、Br、I、N(R、OR、SR、CN、NO、Si(R、B(OR、C(=O)R、P(=O)(R、S(=O)R、S(=O)、OSO、1~20の炭素原子を有する直鎖のアルキル基または2~20の炭素原子を有する、アルケニルもしくはアルキニル基または3~20の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、アルキル、アルケニルまたはアルキニル基は、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよく、ここで1以上の非隣接CH基はSi(R、C=O、NR、O、SまたはCONRによって置き換えられていてもよい)、または5~40の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系であり;同時に、2以上のRラジカルが共に環系を形成していてもよく;
は、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、D、F、または1~20の炭素原子を有する、脂肪族有機ラジカル、特にヒドロカルビルラジカル、であり、これは1以上の水素原子がFによって置き換えられていてもよい。
【0027】
2つのRまたはRラジカルが共に環系を形成する場合、これは単環もしくは多環の、脂肪族、ヘテロ脂肪族、芳香族またはヘテロ芳香族であってよい。このケースにおいて、共に環系を形成するこれらのラジカルは隣接していてもよく、これは、これらのラジカルが同一の炭素原子または直接互いに隣接している炭素原子に、結合されていることを意味し、これらはさらに互いから取り除かれていてもよい。さらに、CyCおよびCyD上の置換基が共に環を形成し、その結果、CyCおよびCyDが共に二座配位子として単一の縮合アリールまたはヘテロアリール基を形成していてもよい。
【0028】
本発明の意味において、2以上のラジカルが共に環を形成してもよい、という用語は、とりわけ、2つのラジカルが、2つの水素原子の形式的な削除と共に、化学結合によって互いに結合されることを意味するものと解される。これは、以下のスキームによって示される。
【化8】
【0029】
さらに、上述の用語は、2つのラジカルのうちの1つが水素である場合に、2つめのラジカルがその水素原子が結合された位置で結合し、環を形成することを意味するものとも解される。これは、以下のスキームによって示される。
【化9】
【0030】
さらに、上記の用語は、2つのラジカルがアルケニル基である場合、ラジカルが共に環を形成し、縮合アリール基を形成することを意味するものと解される。同様に、アリールオキシ置換基のケースにおいて縮合ベンゾフラン基の形成も可能であり、アリールアミノ置換基のケースにおいて縮合インドール基の形成も可能である。これらは、以下のスキームによって示される。
【化10】
【0031】
本発明の意味において、用語「アルキル基」は、直鎖または分岐のアルキル基と、環状アルキル基の両方を含む包括的な用語である。同様に、「アルケニル基」および「アルキニル基」は、直鎖または分岐のアルケニルまたはアルキニル基と、環状アルキニル基を含む包括的な用語である。
【0032】
本発明の意味において、環状、アルキル、アルコキシまたはチオアルコキシ基は、単環、二環、または多環基を意味するものと解される。
【0033】
本発明の意味において、C-~C20-アルキル基(さらに、これらの個々の水素原子またはCH基は、上記した基によって置換されていてもよい)は、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、シクロプロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、シクロブチル、2-メチルブチル、n-ペンチル、s-ペンチル、t-ペンチル、2-ペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、s-ヘキシル、t-ヘキシル、2-ヘキシル、3-ヘキシル、ネオヘキシル、シクロヘキシル、1-メチルシクロペンチル、2-メチルペンチル、n-ヘプチル、2-ヘプチル、3-ヘプチル、4-ヘプチル、シクロヘプチル、1-メチルシクロヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、シクロオクチル、1-ビシクロ[2.2.2]オクチル、2-ビシクロ[2.2.2]オクチル、2-(2,6-ジメチル)オクチル、3-(3,7-ジメチル)オクチル、アダマンチル、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、2,2,2-トリフルオロエチル、1,1-ジメチル-n-ヘキサ-1-イル、1,1-ジメチル-n-ヘプタ-1-イル、1,1-ジメチル-n-オクタ-1-イル、1,1-ジメチル-n-デカ-1-イル、1,1-ジメチル-n-ドデカ-1-イル、1,1-ジメチル-n-テトラデカ-1-イル、1,1-ジメチル-n-ヘキサデカ-1-イル、1,1-ジメチル-n-オクタデカ-1-イル、1,1-ジエチル-n-ヘキサ-1-イル、1,1-ジエチル-n-ヘプタ-1-イル、1,1-ジエチル-n-オクタ-1-イル、1,1-ジエチル-n-デカ-1-イル、1,1-ジエチル-n-ドデカ-1-イル、1,1-ジエチル-n-テトラデカ-1-イル、1,1-ジエチル-n-ヘキサデカ-1-イル、1,1-ジエチル-n-オクタデカ-1-イル、1-(n-プロピル)シクロヘキサ-1-イル、1-(n-ブチル)シクロヘキサ-1-イル、1-(n-ヘキシル)シクロヘキサ-1-イル、1-(n-オクチル)シクロヘキサ-1-イル-および1-(n-デシル)シクロヘキサ-1-イルラジカルを意味するものと解される。アルケニル基は、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、シクロペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、ヘプテニル、シクロヘプテニル、オクテニル、シクロオクテニルまたはシクロオクタジエニルを意味するものと解される。アルキニル基は、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、へプチニルまたはオクチニルを意味するものと解される。OR基は、例えば、メトキシ、トリフルオロメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、i-プロポキシ、n-ブトキシ、i-ブトキシ、s-ブトキシ、t-ブトキシまたは2-メチルブトキシを意味するものと解される。
【0034】
本発明の意味において、アリール基は、6~30の炭素原子を含み;本発明の意味において、ヘテロアリール基は、2~30の炭素原子と少なくとも1つのヘテロ原子を含み、ただし、炭素原子とヘテロ原子の合計が少なくとも5である。ヘテロ原子は、好ましくは、N、Oおよび/またはSから選択される。アリール基またはヘテロアリール基は、ここでは単一の芳香環、すなわちベンゼン、または単一のヘテロ芳香族環、例えばピリジン、ピリミジン、チオフェン等、または縮合された、アリールもしくはヘテロアリール基、例えばナフタレン、アントラセン、フェナントレン、キノリン、イソキノリン等を意味するものと解される。互いに単結合によって結合された芳香族系(例えばビフェニル)は、対照的に、アリールまたはヘテロアリール基とはいわず、芳香族環系という。
【0035】
本発明の意味において、芳香族環系は、環系中に6~40の炭素原子、好ましくは6~30の炭素原子を有する。本発明の意味において、ヘテロ芳香族環系は、環系中に、2~40の炭素原子、好ましくは2~30の炭素原子と、少なくとも1つのヘテロ原子を含み、ただし、炭素原子とヘテロ原子の合計が少なくとも5である。ヘテロ原子は、好ましくは、N、Oおよび/またはSから選択される。本発明の意味において、芳香族もしくはヘテロ芳香環系は、必ずしもアリールもしくはヘテロアリール基のみを含むのではなく、その中で2以上の、アリールもしくはヘテロアリール基が非芳香族単位、例えば、炭素、窒素または酸素原子によって連結されていることもできる系を意味するものと解されるべきである。これらは、同様に、2以上のアリールまたはヘテロアリール基が違いに直接結合される系、例えば、ビフェニル、ターフェニル、ビピリジンまたはフェニルピリジン、を意味すると解される。例えば、フルオレン、9,9’-スピロビフルオレン、9,9-ジアリールフルオレン、トリアリールアミン、ジアリールエーテル、スチルベン等の系もまた、本発明の意味において、芳香族環系とみなされ、また、2以上のアリール基が、例えば、短いアルキル基によって、結合されている系も同様である。好ましい芳香族またはヘテロ芳香族環系は、単純なアリールまたはヘテロアリール基、および2以上のアリールまたはヘテロアリール基が違いに直接結合されている基(例えば、ビフェニルまたはビピリジン)、およびフルオレンもしくはスピロビフルオレンである。
【0036】
5~40の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて上記のRラジカルまたはヒドロカルビルラジカルによって置換されていてもよく、任意のいかなる位置を介して芳香族またはヘテロ芳香族環系に結合されていてもよい、芳香族またはヘテロ芳香族環系は、特に、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ベンズアントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ペリレン、フルオランテン、ベンゾフルオランテン、ナフタセン、ペンタセン、ベンゾピレン、ビフェニル、ビフェニレン、ターフェニル、ターフェニレン、フルオレン、スピロビフルオレン、ジヒドロフェナントレン、ジヒドロピレン、テトラヒドロピレン、シス-もしくはトランス-インデノフルオレン、シス-もしくはトランス-インデノカルバゾール、シス-もしくはトランス-インドロカルバゾール、トルキセン、イソトルキセン、スピロトルキセン、スピロイソトルキセン、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、イソベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、ピロール、インドール、イソインドール、カルバゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントリジン、ベンゾ-5,6-キノリン、ベンゾ-6,7-キノリン、ベンゾ-7,8-キノリン、フェノチアジン、フェノキサジン、ピラゾール、インダゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ナフトイミダゾール、フェナントリミダゾール、ピリジミダゾール、ピラジニミダゾール、キノキサリニミダゾール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、ナフトオキサゾール、アントロキサゾール、フェナントロキサゾール、イソオキサゾール、1,2-チアゾール、1,3-チアゾール、ベンゾチアゾール、ピリダジン、ヘキサアザトリフェニレン、ベンゾピリダジン、ピリミジン、ベンゾピリミジン、キノキサリン、1,5-ジアザアントラセン、2,7-ジアザピレン、2,3-ジアザピレン、1,6-ジアザピレン、1,8-ジアザピレン、4,5-ジアザピレン、4,5,9,10-テトラアザペリレン、ピラジン、フェナジン、フェノキサジン、フェノチアジン、フルオルビン、ナフチリジン、アザカルバゾール、ベンゾカルボリン、フェナントロリン、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-オキサジアゾール、1,2,5-オキサジアゾール、1,3,4-オキサジアゾール、1,2,3-チアジアゾール、1,2,4-チアジアゾール、1,2,5-チアジアゾール、1,3,4-チアジアゾール、1,3,5-トリアジン、1,2,4-トリアジン、1,2,3-トリアジン、テトラゾール、1,2,4,5-テトラジン、1,2,3,4-テトラジン、1,2,3,5-テトラジン、プリン、プテリジン、インドリジン、およびベンゾチアジアゾールから誘導される基、またはそれらの系の組み合わせに由来する基を意味するものと解される。
【0037】
好ましくは、全ての配位子または副配位子Lおよび、適当な場合にL’が式(L-1)の構造を有するか、または全ての配位子または副配位子Lおよび、適当な場合にL’が式(L-2)の構造を有する。
【0038】
本発明の好ましい形態において、CyCは、6~13の芳香族環原子を有する、より好ましくは6~10の芳香族環原子を有する、最も好ましくは6の芳香族環原子を有する、アリールまたはヘテロアリール基であり、炭素原子を介して金属に配位し、これは1以上のRラジカルによって置換されていてもよく、共有結合を介してCyDに結合される。
【0039】
CyC基の好ましい形態は、以下の式(CyC-1)~(CyC-20)の構造であり、ここで、それぞれのケースにおいて、CyC基は♯で印された位置でCyDに結合し、*によって印された位置でイリジウムに配位する。
【化11】
ここで、Rは上記に記載のとおりであり、さらに:
Xは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CRまたはNであり、ただし、環あたり最大2つの記号XがNであり;
Wは、出現毎に同一であるかまたは異なり、NR、O、SまたはBRであり;
ただし、ブリッジVが式(1)または(3)中のCyCに結合される場合、1つの記号XがCであり、ブリッジVはこの炭素原子に結合される。CyC基がブリッジVに結合される場合、結合は好ましくは上記の式中の「o」で印された位置を介して、そのケースにおいて「o」が印された記号Xは好ましくはCである。「o」で印された記号Xを全く含まない上記の構造は、好ましくは、ブリッジVに直接結合されない。このようなブリッジへの結合は嵩高い理由により有利でないからである。
【0040】
好ましくはCyC中の記号Xの1以下がNであり、より好ましくは、記号Xの全てがCRである。ただし、式(1)のブリッジVがCyCに結合する場合、1つの記号XはCであり、ブリッジVがこの炭素原子に結合する。
【0041】
好ましいCyC基は、以下の式(CyC-1a)~(CyC-20a)の基である。
【化12-1】
【化12-2】
ここで、使用される記号は上記に記載された意味を有し、ブリッジVが式(1)または(3)中のCyCに結合する場合、1つのRラジカルが存在せず、かつブリッジVが対応する炭素原子に結合する。CyC基がブリッジVに結合する場合、結合は、好ましくは上記の式の「o」で印された位置を介し、このケースにおいてこの位置のRラジカルは好ましくは存在しない。「o」で印される炭素原子を全く含まない上記の構造は、好ましくはブリッジVに直接的に結合しない。
【0042】
(CyC-1)~(CyC-19)基のうちの好ましい基は、(CyC-1)、(CyC-3)、(CyC-8)、(CyC-10)、(CyC-12)、(CyC-13)および(CyC-16)基であり、特に好ましくは、(CyC-1a)、(CyC-3a)、(CyC-8a)、(CyC-10a)、(CyC-12a)、(CyC-13a)および(CyC-16a)基である。
【0043】
本発明のさらに好ましい形態において、CyDは、5~13の芳香族環原子を有する、より好ましくは6~10の芳香族環原子を有する、ヘテロアリール基であり、電荷を有さない窒素原子を介して、またはカルベン炭素原子を介して、配位し、1以上のRラジカルによって置換されていてもよく、共有結合を介して、CyCに、結合する。
【0044】
CyD基の好ましい形態は、以下の式(CyD-1)~(CyD-12)の構造であり、ここで、CyD基は、それぞれのケースにおいて、♯で示される位置でCyCに、*で示される位置でイリジウムに結合する。
【化13】
ここで、X、WおよびRは上記に記載の意味を有し、ただし、式(1)または(3)中のブリッジVがCyDに結合する場合、1つの記号XがCであり、ブリッジVはこの炭素原子に結合する。CyD基がブリッジVに結合する場合、その結合は好ましくは上記式中の「o」を印された位置を介しており、よってこのケースにおいて「o」と印された記号Xは好ましくはCである。「o」と印された記号Xを含まない上記の構造は、好ましくはブリッジVに直接結合しない。そのようなブリッジへの結合は立体的な理由により有利でないからである。
【0045】
このケースにおいて、(CyD-1)~(CyD-4)、および(CyD-7)~(CyD-12)基は、非荷電の窒素原子を介して、(CyD-5)および(CyD-6)基はカルベン炭素原子を介して、イリジウムに配位する。
【0046】
好ましくは、CyD中の記号Xの1以下がNであり、より好ましくは記号Xの全てがCRであり、ただし、式(1)または(3)中のブリッジVがCyDに結合する場合、1つの記号XがCであり、ブリッジVがこの炭素原子に結合する。
【0047】
特に好ましいCyD基は、以下の式(CyD-1a)~(CyD-12b)の基である。
【化14】
ここで、使用される記号は上記に記載された意味を有し、ブリッジVが式(1)または(3)中のCyDに結合する場合、1つのRラジカルは存在せず、ブリッジVが対応する炭素原子に結合する。CyD基がブリッジVに結合する場合に、その結合は好ましくは上述の式の「o」で示された位置を介して結合し、このケースにおいてこの位置におけるRラジカルが好ましくは存在しない。「o」によって示される炭素原子を含まない上述の構造は、好ましくはブリッジVに直接的に結合しない。
【0048】
(CyD-1)~(CyD-12)基のうちの好ましい基は、(CyD-1)、(CyD-2)、(CyD-3)、(CyD-4)、(CyD-5)および(CyD-6)基、特に(CyD-1)、(CyD-2)および(CyD-3)であり、特に好ましくは、(CyD-1a)、(CyD-2a)、(CyD-3a)、(CyD-4a)、(CyD-5a)および(CyD-6a)基、特に(CyD-1a)、(CyD-2a)および(CyD-3a)である。
【0049】
本発明の好ましい形態において、CyCは、6~13の芳香族環原子を有する、アリールまたはヘテロアリール基であり、同時に、CyDは、5~13の芳香族環原子を有するヘテロアリール基である。より好ましくは、CyCは、6~10の芳香族環原子を有する、アリールまたはヘテロアリール基であり、同時に、CyDは、5~10の芳香族環原子を有するヘテロアリール基である。最も好ましくは、CyCは、6つの芳香族環原子を有する、アリールまたはヘテロアリール基であり、CyDは、6~10の芳香族環原子を有するヘテロアリール基である。同時に、CyCおよびCyDは、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい。
【0050】
上述の好ましい基(CyC-1)~(CyC-20)および(CyD-1)~(CyD-12)は所望により違いに連結されていてもよい。ここで、式(1)または(3)の化合物において、CyCまたはCyD基の少なくとも1つがブリッジVへの好適な連結サイトを有することが必要であり、上記の式の好適な連結サイトは「o」で印されている。
【0051】
好ましいとして記載されたCyCおよびCyD基(つまり、式(CyC-1a)~(CyC-20a)、および式(CyD1-a)~(CyD-14b)の基)が互いに結合されることが特に好ましい。
【0052】
(CyC-1)、(CyC-3)、(CyC-8)、(CyC-10)、(CyC-12)、(CyC-13)および(CyC-16)基、特に(CyC-1a)、(CyC-3a)、(CyC-8a)、(CyC-10a)、(CyC-12a)、(CyC-13a)および(CyC-16a)基、のうちの1つが、(CyD-1)、(CyD-2)および(CyD-3)基のうちの1つと、特に(CyD-1a)、(CyD-2a)および(CyD-3a)基のうちの1つと、結合されることが特に好ましい。
【0053】
好ましい副配位子(L-1)は、式(L-1-1)および(L-1-2)の構造であり、好ましい副配位子(L-2)は、式(L-2-1)~(L-2-4)の構造である。
【化15】
ここで、使用される記号は上記に記載の定義を有し、式(1)または(3)の化合物中の「о」はブリッジVへの結合位置を示し、このケースにおいて、対応するXはCである。
【0054】
特に好ましい副配位子(L-1)は、式(L-1-1a)および(L-1-2b)の構造であり、特に好ましい副配位子(L-2)は、式(L-2-1a)~(L-2-4a)の構造である。
【化16】
ここで、使用される記号は上記に記載の意味を有し、式(1)または(3)中の「о」はブリッジVへの結合位置を示し、このケースにおいて、対応するRは存在しない。
【0055】
1つがCyCに、他方がCyDに結合される2つのRラジカルが共に環系を形成する場合、これによって架橋された配位子または副配位子LまたはL’ができ、このケースにおいて、これらの架橋された副配位子のいくつかが全体で1つのより大きなヘテロアリール基、例えばベンゾ[h]キノリン等を形成する。CyCおよびCyD上の置換基の間の環は、好ましくは以下の式(6)~(15)のうちの1つの基によって形成される。
【化17】
ここで、Rは、上記に記載の意味を有し、点線の結合は、CyCおよびCyDへの結合を意味する。ここで、上記で述べられたうちの非対称な基は、それぞれ2つの取りうる方法で、組み入れられていてよい。例えば、式(15)の基において、酸素原子がCyC基に、かつカルボニル基がCyD基に結合されるか、または酸素原子がCyD基に、かつカルボニル基がCyC基に結合されていてよい。
【0056】
同時に、式(12)の基は、特に6員環の環形成となる場合に好ましく、例えば、式(L-21)および(L-22)に示される。
【0057】
異なる環上の2つのRラジカルの間の環形成を通して生じる、好ましい配位子は、以下に示される式(L-3)~(L-30)の構造である。
【化18-1】
【化18-2】
ここで、使用される記号は上記に記載の定義を有し、式(1)または(3)中の「о」はこの副配位子がV基へ結合する位置を示し、対応する記号XはCである。
【0058】
式(L-3)~(L-30)の配位子または副配位子の好ましい形態において、合計で1つの記号XがNであり、他の記号XがCRであるか、または全ての記号XがCRである。
【0059】
本発明のさらなる形態において、(CyC-1)~(CyC-20)または(CyD-1)~(CyD-14)基において、または配位子もしくは副配位子(L-1-1)~(L-30)において、窒素原子に隣接する置換基として結合されたR基が水素または重水素でない場合に、原子Xのうちの1つがNであることが好ましい。このことは、好ましい構造(CyC-1a)~(CyC-20a)または(CyD-1a)~(CyD-14b)にも同様に適用され、非配位窒素原子に隣接して結合された置換基は、好ましくは水素または重水素ではないR基である。このケースにおいて、この置換基Rは、好ましくは、CF、OCF、1~10の炭素原子を有するアルキル基、特に3~10の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基、OR(ここで、Rは、1~10の炭素原子を有するアルキル基、特に3~10の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基)、2~10の炭素原子を有するジアルキルアミノ基、または5~10の芳香族環原子を有する、アリールもしくはヘテロアリール基から選択される基である。これらの基は、立体的に嵩高い基である。さらに好ましくは、このRラジカルは、隣接するRラジカルと環を形成していてもよい。
【0060】
さらに好適な二座配位子または副配位子は、以下の式(L-31)または(L-32)の配位子または副配位子である。
【化19】
ここで、Rは、上記に記載の意味を有し、*はイリジウムへの配位位置を示し、式(1)または(3)中の「о」はVへの副配位子の結合位置を示し、使用される他の記号は以下のとおりである。
Xは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CRまたはNであり、ただし、環あたり1以下の記号XがNである。
配位子または副配位子(L-31)および(L-32)中の隣接する炭素原子に結合された2つのRラジカルが互いに芳香環を形成する場合に、2つの隣接する炭素原子と一緒のこの環は、好ましくは以下の式(16)の構造である。
【化20】
ここで、点線の結合は、配位子または副配位子内のこの基の結合を示し、Yは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CRまたはNであり、好ましくは記号Yの1以下がNである。
【0061】
配位子または副配位子(L-31)または(L-32)の好ましい形態において、1以下のこのような縮合基が存在する。したがって、配位子または副配位子は、好ましくは、以下の式(L-33)~(L-38)である。
【化21】
ここで、Xは出現毎に同一であるかまたは異なり、CRまたはNであるが、Rラジカルは共に芳香族またはヘテロ芳香族環系を形成せず、さらなる記号は上記に記載の意味を有する。
【0062】
本発明の好ましい形態において、式(L-31)~(L-38)の配位子または副配位子において、合計で0、1または2の記号Xおよび存在する場合にYがNである。より好ましくは、合計で0または1の記号Xおよび存在する場合にYが、Nである。
【0063】
式(L-33)~(L-38)の好ましい形態は、以下の式(L-33a)~(L-38f)の構造である。
【化22-1】
【化22-2】
【化22-3】
ここで、使用される記号は上記に記載の定義を有し、式(1)または(3)中の「о」は、ブリッジVへの結合の位置を示し、このケースにおいて、対応するR基は存在しない。
【0064】
本発明の好ましい形態において、オルト位で金属に配位するX基はCRである。オルト位で金属に配位のために結合されるRラジカルは、好ましくはH、D、Fおよびメチルからなる群から選択される。
【0065】
本発明のさらなる形態において、原子Xのうちの1つがNであることが好ましいが、これは、この窒素原子に隣接して結合された置換基が、水素もしくは重水素ではないR基である場合である。このケースにおいて、この置換基Rは、好ましくは、CF、OCF、1~10の炭素原子を有するアルキル基、特に3~10の炭素原子を有する、分枝もしくは環状のアルキル基、OR(ここで、Rは、1~10の炭素原子を有するアルキル基、特に3~10の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基)、2~10の炭素原子を有するジアルキルアミノ基、または5~10の芳香族環原子を有する、アリールもしくはヘテロアリール基から選択される基である。これらの基は、立体的に嵩高い基である。さらに好ましくは、このRラジカルはまた、隣接するRラジカルと共に環を形成していてもよい。
【0066】
本発明の好ましい形態において、配位子または副配位子LまたはL’のうちのちょうど1つが、以下の式(L-39)の配位子または副配位子であって、2つのD基を介してイリジウムに配位する。
【化23】
ここで、式(1)または(3)中の「o」は、ブリッジVへの結合の位置を示し、そのケースにおいて対応するXはCであり、かつさらに:
Dは、CまたはNであり、ただし、1つのDがCであり、他のDはNであり;
Xは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CRまたはNであり;
Zは、CR’、CRまたはNであり、ただし、ちょうど1つのZはCR’であり、他のZはCRまたはNであり;
ここで、全体環あたり最大1つの記号XまたはZがNであり;
R’は、以下の式(17)または(18)の基であり:
【化24】
ここで、点線は基の結合を示し;
R’’は、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、D、F、CN、1~10の炭素原子を有する直鎖のアルキル基(ここで、1以上の水素原子はDまたはFによって置き換えられていてもよい)、3~10の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、1以上の水素原子はDまたはFによって置き換えられていてもよい)、または2~10の炭素原子を有するアルケニル基(ここで、1以上の水素原子はDまたはFによって置き換えられていてもよい)であり;同時に、2つの隣接R’’ラジカルまたは隣接フェニル基上の2つのR’’ラジカルが、共に環系を形成していてもよく;または、隣接フェニル基上の2つのR’’が共に、C(R、NR、OおよびSから選択される基であり、2つのフェニル環が架橋基と共に、カルバゾール、フルオレン、ジベンゾフランまたはジベンゾチオフェンとなり、かつさらなるR’’は上記に記載のとおりであり;
nは、0、1、2、3、4または5である。
【0067】
隣接フェニル基上の2つの置換基R’’による環形成のケースにおいて、得られるのはフルオレンまたはフェナントレンまたはトリフェニレンであってよい。同様に、上記のように、隣接フェニル基上の2つのR’’が共に、NR、OおよびSから選択され、2つのフェニル基が架橋基と共に、カルバゾール、ジベンゾフランまたはジベンゾチオフェンとなることも可能である。
【0068】
本発明の好ましい形態において、Xは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CRである。さらに好ましくは、1つのZ基がCRであり、他のZ基がCR’である。より好ましくは、式(L-39)の配位子または副配位子において、X基は出現毎に同一であるかまたは異なり、CRであり、かつ、同時に、1つのZ基はCRであり、他のZはCR’である。配位子または副配位子LまたはL’は、好ましくは以下の式(L-39a)または(L-39b)のうちの1つの構造を有し、ここで、式(L-39)の多脚構造のためのブリッジVへの結合は、「o」と印された位置を介しており、この位置で結合されるRラジカルは存在しない。
【化25】
ここで、使用される記号は上記に記載の定義を有し、式(1)または(3)中の副配位子は「o」で印された位置を介して橋頭Vに結合する場合に、Rラジカルは存在しない。
【0069】
より好ましくは、式(L-39)の副配位子Lは、以下の式(L-39a’)または(L-39b’)のうちの1つの構造を有し、ここで、式(L-39)の多脚構造のためのブリッジVへの結合は、「o」と印された位置を介しており、この位置で結合されるRラジカルは存在しない。
【化26】
ここで、使用される記号は上記の定義を有する。
【0070】
式(L-39)または式(L-39a)、(L-39b)、(L-39a’)および(L-39d’)の副配位子L中のRラジカルは、好ましくは、H、D、CN、OR、1~6の炭素原子を有する、好ましくは1、2または3の炭素原子を有する、直鎖のアルキル基または3、4、5または6の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基または2~6の炭素原子、好ましくは2、3または4の炭素原子、を有するアルケニル基(これらのそれぞれは、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい)、1以上の非芳香族Rラジカルによって置換されていてもよいフェニル基からなる群から選択される。ここで、2以上の隣接Rラジカルが共に環系を形成することも可能である。
【0071】
このケースにおいて、オルト位で配位原子に結合された置換基Rは、好ましくはH、D、Fおよびメチル、より好ましくはH、Dおよびメチル、特にはHおよびDからなる群から選択される。
【0072】
さらに、R’に対してオルト位である全ての置換基RがHまたはDであることが好ましい。
【0073】
式(L-39)の副配位子L中のRラジカルが共に環系を形成する場合、好ましくは脂肪族、ヘテロ脂肪族またはヘテロ芳香族環系であることが好ましい。さらに、好ましくは、副配位子LまたはL’の2つの環上の2つのRラジカルの間の環形成であり、好ましくはフェナントリジンまたはさらに窒素原子を含んでいてもよいフェナントリジンを形成する。Rラジカルが共にヘテロ芳香族環系を形成する場合、これは好ましくはキノリン、イソキノリン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェンおよびカルバゾール(これらのそれぞれは1以上のRラジカルによって置換されていてもよく、かつ、ここで、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェンおよびカルバゾール中のそれぞれの炭素原子はNによって置き換えられていてもよい)からなる群から選択される構造を形成する。特に好ましくは、キノリン、イソキノリン、ジベンゾフランおよびアザジベンゾフランである。ここで、縮合構造はあらゆる可能な位置で結合されることが可能である。縮合ベンゾ基を有する好ましい副配位子LまたはL’は、以下の式(L-39c)~(L-39j)の構造であり、ここで、式(L-39)の多脚構造のためのブリッジVへの結合は、「o」によって特定される位置を介する。
【化27】
ここで、配位子はそれぞれ1以上のさらなるRラジカルによって置換されていてもよく、縮合構造は1以上のRラジカルによって置換されていてもよい。好ましくは、さらなるRまたはRラジカルが存在しない。
【0074】
縮合ベンゾフランまたはアザベンゾフラン基を有する好ましい式(L-39)の副配位子LまたはL’は、以下の式(L-39k)~(L-39z)の構造であり、式(L-39)の多脚構造のためのブリッジVへの結合は、「o」によって特定される位置を介する。
【化28】
ここで、配位子はそれぞれ1以上のさらなるRラジカルによって置換されていてもよく、縮合構造は1以上のRラジカルによって置換されていてもよい。好ましくは、さらなるRまたはRラジカルが存在しない。同様に、これらの構造中のOがSまたはNRによって置き換えられることが可能である。
【0075】
上記のように、R’は、式(17)または(18)の基である。ここで、2つの基は、単に、式(17)の基は配位子または副配位子LまたはL’にパラ位で、式(18)の基はメタ位で結合される点で異なる。
【0076】
本発明の好ましい形態において、n=0、1または2であり、好ましくは0または1であり、最も好ましくは0である。
【0077】
本発明のさらなる好ましい形態において、炭素原子(これによって式(17)または(18)の基がフェニルピリジン配位子に結合される)に対してオルト位で結合される両方の置換基R’’は、同一であるかまたは異なり、HまたはDである。
【0078】
式(17)の構造の好ましい形態は式(17a)~(17h)の構造であり、式(18)の構造の好ましい形態は、式(18a)~(18h)の構造である。
【化29-1】
【化29-2】
ここで、Eは、C(R、NR、OまたはSであり、使用されるさらなる記号は上記の定義を有する。ここで、Rは、E=C(Rである場合に、好ましくは、出現毎に同一であるかまたは異なり、1~6の炭素原子、好ましくは1~4の炭素原子を有するアルキル基であり、より好ましくはメチルである。さらに、E=NRである場合に、Rは、好ましくは、5~30の芳香族環原子、好ましくは6~24の芳香族環原子、より好ましくは6~12の芳香族環原子を有する、芳香族またはヘテロ芳香族環系であり、特にはフェニルである。
【0079】
式(17)または(18)の基または好ましい形態上の好ましい置換基R’’は、H、D、CNおよび1~4の炭素原子を有するアルキル基からなる群から選択され、より好ましくはH、Dまたはメチルである。
【0080】
副配位子L’’は、両方のイリジウム原子に配位するビス二座シクロメタル化副配位子である。本発明の好ましい形態において、副配位子は、以下の式(19)または(20)の副配位子である。
【化30】
ここで、Xは上記に記載の定義を有し、点線はVへの結合を示し、*はイリジウム原子への配位を示し、かつさらに:
Dは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CまたはNであり;
式(19)中のQは、式(Q-1)~(Q-3)のうちの1つの基であり、式(20)中のQは、式(Q-4)~(Q-15)のうちの1つの基であり、
【化31】
ここで、点線は、それぞれのケースにおいて、式(19)または(20)内の結合を示し、*は、この基がイリジウム原子へ配位する位置を印し、かつXは、上記に記載の定義を有する。
【0081】
式(Q-1)~(Q-15)中、Q基あたり互いに直接結合されない好ましくは2以下のX基がNであり、より好ましくは1以下のX基がNである。最も好ましくは、全てのXがCRであり、特にCHであり、(Q-1)~(Q-3)および(Q-7)~(Q-9)中の全てのRがHまたはD特にHである。
【0082】
式(20)の化合物では、好ましくは、基(Q-4)、(Q-5)および(Q-7)~(Q-9)である。
【0083】
本発明の好ましい形態において、式(19)または(20)の副配位子は、2つのイリジウム原子のそれぞれに、Q中の配位原子として、および配位原子Dとして利用できる、ちょうど1つの炭素原子および1つの窒素原子と共に配位する。したがって、Q基が式(Q-1)、(Q-4)、(Q-7)、(Q-10)または(Q-13)の基を示す場合、つまり、窒素原子を介して2つのイリジウム原子のそれぞれに配位する場合、2つのD基は好ましくは炭素原子である。Q基が式(Q-2)、(Q-5)、(Q-8)、(Q-11)または(Q-14)の基を示す場合、つまり、炭素原子を介して2つのイリジウム原子のそれぞれに配位する場合、2つのD基は好ましくは窒素原子である。Q基が式(Q-3)、(Q-6)、(Q-9)、(Q-12)または(Q-15)の基を示す場合、つまり、1つの炭素原子および1つの窒素原子を介して2つのイリジウム原子に配位する場合、好ましくは、2つのD基のうちの1つが窒素原子であり、もう一つのD基が炭素原子であり、それぞれのイリジウム原子が1つの炭素原子および1つの窒素原子によって配位される。
【0084】
本発明の好ましい形態において、さらに、式(19)または(20)中に示される記号Xは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CRであり、特にCHまたはCDである。
【0085】
L’が非シクロメタル化配位子または副配位子である場合、L’の好ましい形態は、アセチルアセトナートもしくはその誘導体、ピコリン酸もしくはその誘導体、ピラゾリルボレートまたはヒドロキシキノリンもしくはその誘導体である。
【0086】
式(1)および(3)の錯体は、六座または12座配位子であり、ここで式(1)の3つの副配位子LおよびL’は1つのブリッジ単位Vによって互いに共有結合されており、式(3)の3つの副配位子L’およびL’’は2つのブリッジ単位Vによって互いに共有結合される。
【0087】
本発明の好ましい形態において、ブリッジ単位Vは以下の式(21)の基であり、ここで、点線の結合は、式(1)中に副配位子LまたはL’、および式(3)中のL’’の位置を示す。
【化32】
ここで、
は、出現毎に同一であるかまたは異なり、CRまたはNであり;
は、出現毎に同一であるかまたは異なり、CRまたはNであり;
Aは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CR-CR、CR-O、CR-NR、C(=O)-O、C(=O)-NRまたは以下の式(22)の基であり
【化33】
ここで、それぞれのケースにおいて、点線は、式(1)中の二座副配位子LまたはL’または式(3)中のL’およびL’’のこの構造への結合位置を示し、*は、式(21)の単位の中央三価のアリールまたはヘテロアリール基への結合位置を示す。
【0088】
=CRの場合の式(22)の基の好ましい置換基は、上記の置換基Rから選択される。
【0089】
本発明の好ましい形態において、Aは、出現毎に同一であるかまたは異なり、CR-CRまたは式(22)の基である。好ましくは、以下の形態である:
-全ての3つのA基は、式(22)の同一の基である;
-2つのA基が式(22)の同一の基であり、3つめのA基がCR-CRである;
-1つのA基が式(22)の同一の基であり、他の2つのA基が同一のCR-CR基である;または
-全ての3つのA基が同一のCR-CR基である。
【0090】
ここで、「式(22)の同一の基」は、これらの基全てが同一の基本骨格および同一の置換基を有することを意味する。さらに、「同一のCR-CR基」は、これらの基が全て同一の置換基を有することを意味する。
【0091】
AがCR-CRである場合、Rは、好ましくは、出現毎に同一であるかまたは異なり、HまたはDであり、より好ましくはHである。
【0092】
式(22)の基は、芳香族またはヘテロ芳香族6員環である。本発明の好ましい形態において、式(22)の基は、アリールまたはヘテロアリール基中に1以下のヘテロ原子を含む。これは、この基に結合される置換基がヘテロ原子を含むことができないことを意味しない。さらに、この定義は、置換基による環形成が縮合芳香族またはヘテロ芳香族構造(例えばナフタレン、ベンゾイミダゾール等)を形成しないことを意味しない。式(22)の基は、好ましくは、ベンゼン、ピリジン、ピリミジン、ピラジンおよびピリダジン、特にベンゼンから選択される。
【0093】
式(22)の基の好ましい形態は、以下の式(22a)~(22h)の構造である。
【化34】
ここで、使用される記号は上記の定義を有する。
【0094】
特に好ましくは、式(22a)~(22h)の所望により置換された6員の芳香環および6員のヘテロ芳香環である。非常に好ましくは、オルト-フェニレン、つまり式(22a)の基である。
【0095】
同時に、上記の置換基の記載のように、隣接置換基が共に環系を形成し、縮合アリールおよびヘテロアリール基を含む縮合構造(例えば、ナフタレン、キノリン、ベンゾイミダゾール、カルバゾール、ジベンゾフランまたはジベンゾチオフェン)を形成することも可能である。
【0096】
以降に、橋頭V、つまり式(21)の構造の好ましい形態が記載される。式(21)の基の好ましい形態は、以下の式(23)~(26)の構造である。
【化35】
ここで、使用される記号は上記の定義を有する。
【0097】
より好ましくは、式(23)~(26)の中央環中の全ての置換基RがHであり、よって構造は、好ましくは式(23a)~(26a)から選択される。
【化36】
ここで、使用される記号は上記の定義を有する。
【0098】
より好ましくは、式(23)~(26)の基は、以下の式(23b)~(26b)の構造から選択される。
【化37】
ここで、Rは、出現毎に同一であるかまたは異なり、HまたはDであり、好ましくはHである。
【0099】
好適な橋頭Vのさらなる例は、以下に示される構造である。
【化38】
【0100】
上述の副配位子L、L’およびL’’に、さらに式(21)の構造の二価のアリーレンまたはヘテロアリーレン基、つまり式(22)の構造においても、存在してもよい好ましい置換基についての記載が以下に続く。
【0101】
本発明の一形態において、金属錯体は、隣接する炭素原子に結合され、以下に示される式の1つによる脂環を共に形成する、2つのR置換基または2つのR置換基を含む。このケースにおいて、この脂環を形成する2つのR置換基は、式(21)のブリッジおよび/または1以上の二座副配位子または配位子に、存在していてもよい。2つの置換基Rが共に環形成することによって形成された脂環は、好ましくは以下の式(27)~(33)のうちの1つによって示される。
【化39】
ここで、RおよびRは上記の定義を有し、点線の結合は配位子における2つの炭素原子の結合を示し、さらに:
Gは、1、2または3の炭素原子を有し、1以上のRラジカルによって置換されていてもよいアルキレン基、-CR=CR-、または5もしくは6の芳香族環原子を有し、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、オルト結合された、アリーレンもしくはヘテロアリーレン基であり;
は、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、F、OR、1~10の炭素原子を有する直鎖のアルキル基、3~10の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、アルキル基は、それぞれのケースにおいて1つ以上のRラジカルによって置換されていてもよく、1つ以上の隣接しないCH基は、RC=CR、C≡C、Si(R、C=O、NR、O、SまたはCONRによって置き換えられていてもよい)、または5もしくは6の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、アリールもしくはヘテロアリール基であり;同時に、同一の炭素原子に結合された2つのRラジカルが共に脂肪族または芳香族環系を形成し、スピロ系を形成していてもよく;さらに、Rが隣接するRまたはRラジカルと共に脂肪族環系を形成していてもよい。
【0102】
上述の式(27)~(33)の構造において、二重結合は、2つの炭素原子の間で形式的な意味で形成される。これは、化学構造を単純化したものであって、2つの炭素原子が芳香族またはヘテロ芳香族環系に組み入れられ、これらの2つの炭素原子の間の結合は、形式的に、単結合の結合次数の二重結合の結合次数の間である。
【0103】
式(27)~(33)の基の好ましい形態は、出願WO2014/023377、WO2015/104045およびWO2015/117718に見つけることができる。
【0104】
Rラジカルが、二座配位子または副配位子L、L’またはL’’内、または式(21)もしくは好ましい形態内で結合された式(22)の二価のアリーレンもしくはヘテロアリーレン基内で、結合される場合、これらのRラジカルは、出現毎に同一であるかまたは異なり、好ましくは、H、D、F、Br、I、N(R、CN、Si(R、B(OR、C(=O)R、1~10の炭素原子を有する直鎖のアルキル基、2~10の炭素原子を有するアルケニル基、3~10の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、アルキルまたはアルコキシ基は、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよい)、または6~24の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系からなる群から選択され;同時に、2つの隣接するRラジカルが共に、またはRがRと共に、単環状もしくは多環状の、脂肪族または芳香族環系を形成していてもよい。より好ましくは、これらのRラジカルは、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、D、F、N(R、1~6の炭素原子を有する直鎖のアルキル基、3~10の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、1以上の水素原子がDまたはFによって置き換えられていてもよい)、または6~18の芳香族環原子、特に6~13の芳香族環原子を有し、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、芳香族またはヘテロ芳香族環系からなる群から選択され;同時に、2つの隣接するRラジカルが共に、またはRがRラジカルと共に、単環もしくは多環の、脂肪族または芳香族環系を形成していてもよい。
【0105】
好ましいRラジカルは、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、D、F、N(R、CN、1~10の炭素原子を有する直鎖のアルキル基、2~10の炭素原子を有するアルケニル基、3~10の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、アルキル基は、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよい)、または6~24の芳香族環原子を有し、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、芳香族またはヘテロ芳香族環系であり;同時に、2以上の隣接するRラジカルが共に、単環もしくは多環の脂肪族環系を形成していてもよい。Rに結合された特に好ましいRラジカルは、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、F、CN、1~5の炭素原子を有する直鎖のアルキル基、3~5の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(これらのそれぞれは、1以上のラジカルRによって置換されていてもよい)、または6~18の芳香族環原子、特に6~13の芳香族環原子を有し、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、芳香族またはヘテロ芳香族環系であり;同時に、2以上の隣接するRラジカルが共に単環もしくは多環の、脂肪族環系を形成していてもよい。
【0106】
好ましいRラジカルは、出現毎に同一であるかまたは異なり、H、F、または1~5の炭素原子を有する脂肪族ヒドロカルビルラジカル、または6~12の炭素原子を有する芳香族ヒドロカルビルラジカルであり、同時に、2以上のR置換基が共に、単環または多環の、脂肪族環系を形成していてもよい。
【0107】
上述の好ましい形態は、所望により、請求項1の範囲の中で、互いに組み合わせうる。本発明の特に好ましい形態において、上述の好ましい形態は同時に適用される。
【0108】
一般に、本発明の方法によって、有機エレクトロルミネッセンス素子の従来技術によって使用される全てのシクロメタル化イリジウム錯体が得られる。例えば、得られる錯体としては、出願WO00/70655、WO2001/41512、WO2002/02714、WO2002/15645、EP1191613、EP1191612、EP1191614、WO05/033244、WO05/019373、US2005/0258742、WO2009/146770、WO2010/015307、WO2010/031485、WO2010/054731、WO2010/054728、WO2010/086089、WO2010/099852、WO2010/102709、WO2011/032626、WO2011/066898、WO2011/157339、WO2012/007086、WO2014/008982、WO2014/023377、WO2014/094961、WO2014/094960、WO2015/036074、WO2015/104045、WO2015/117718、WO2016/015815、WO2016/124304、WO2017/032439、WO2018/011186、WO2018/001990、WO2018/019687、WO2018/019688、WO2018/041769、WO2018/054798、WO2018/069196、WO2018/069197、WO2018/069273、WO2018/178001、WO2018/177981、WO2019/020538、WO2019/115423、WO2019/158453、WO2019/179909およびUS2020/0048290、未公開文献EP19156381.6に開示されるものが挙げられる。
【0109】
一般に、有機エレクトロルミネッセンス素子に使用されるシクロメタル化錯体で通常使用される全ての配位子が、本発明による方法に使用されうる。
【0110】
本発明の方法において反応物質として使用されてもよい有用なイリジウム化合物には、さまざまな化合物が含まれる。好ましいイリジウム反応物質は、ハロゲン化イリジウム、特に塩化イリジウム、イリジウムカルボキシラート、特に酢酸イリジウム、イリジウム-COD錯体、イリジウムケトケトネート、および以下に記載の化合物である。
【0111】
本発明の方法において反応物質として使用されてもよい好ましいイリジウム化合物は、以下の式(34)~(39)の化合物である。
【化40】
ここで、R、CyCおよびCyDは、上記に記載の定義を有し、使用される他の記号は以下のとおりである:
Halは、出現毎に同一であるかまたは異なり、F、Cl、BrまたはIであり;
Katは、出現毎に同一であるかまたは異なり、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオン、4~40の炭素原子を有するテトラアルキルアンモニウムカチオン、または4~40の炭素原子を有するテトラアルキルホスホニウムカチオンであり;
zは、0~100であり;
yは、0~100である。
【0112】
COD-イリジウム(I)化合物、例えば[(COD)IrCl](CAS[12112-67-3])または(COD)Ir(Ind)(CAS[102525-11-1])も好適である。ここで、CODはシクロオクタジエンを示し、Indはインデニルを示す。
【0113】
式(34)のハロゲン化イリジウム水和物、特に塩化イリジウム水和物は、様々な量のHClおよび/または水を含みうる吸湿性化合物であるため、定義された化合物ではない。ここで、バッチの水含有量はイリジウム含有量によって典型的に報告される。本発明の意味において、用語「ハロゲン化イリジウム」または「ハロゲン化イリジウム水和物」は水および存在するハロゲン化水素の量に関わらず、全てのこれらの化合物を含む。
【0114】
式(36)のイリジウムカルボキシラート(例えば、酢酸イリジウム)も、完全に化学量論的または定義された化合物ではなく、有用な化合物としては、様々な量の酢酸、水、水酸化物を含みうる様々なカルボキシラートが挙げられ、例えば、CAS[37598-27-9]、[126310-98-3]または[52705-52-9]の化合物である。本発明の意味において、用語「イリジウムカルボキシラート」は、それらの厳密な組成に関わらず、全てのこれらの化合物を含む。
【0115】
式(36)、(37)および(38)中のRは、好ましくは、1~10の炭素原子を有するアルキル基、または5~12の芳香族環原子を有し、1以上のRによって置換されていてもよい芳香族もしくはヘテロ芳香族環系である。より好ましくは、式(36)、(37)および(38)中のRは、好ましくは、1~5の炭素原子を有するアルキル基、特にメチルまたはtert-ブチルである。
【0116】
式(34)の好ましい化合物は、添え字zが1~10、より好ましくは2~4である化合物である。式(34)の好ましい化合物は、添え字yが0~10、より好ましくは0~3である化合物でもある。より好ましくは、同時に、z=2~4かつy=0~3である。
【0117】
式(35)の好ましい化合物は、添え字zが0~10であり、より好ましくは0~3である化合物である。式(35)の好ましい化合物は、添え字yが0~10であり、より好ましくは0~3であり、さらにより好ましくは0である化合物でもある。より好ましくは、同時に、z=0~3かつy=0~3である。
【0118】
添え字zおよびyは、整数である必要はない。反応物質は、非化学量論的量の水およびハロゲン化水素を含んでいてもよいからである。水の含有量は、特に、それぞれのバッチで異なる。吸湿性金属塩が含まれるからである。
【0119】
式(34)、(35)、(38)および(39)の好ましい化合物は、記号Halは、出現毎に同一であるかまたは異なり、ClまたはBr、より好ましくはClである化合物でもある。
【0120】
本方法は、少なくとも1つのカルボン酸存在下で、無水媒体中で、本発明によって行われる。カルボン酸は、1以上のカルボキシ基(-COOH)を有する有機化合物である。好適なカルボン酸は、室温で液体であるものと、室温で固体であるが反応条件下で溶解するものとの両方である。
【0121】
本発明の好ましい形態は、式R-COOHのモノカルボン酸、または式HOOC-R-COOHのビスカルボン酸を含む。ここで、Rは、1~20の炭素原子を有する直鎖のアルキル基または3~20の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、アルキル基は、それぞれのケースにおいて、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい)、または2~20の炭素原子を有し、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、アルケニルもしくはアルキニル基、5~40の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、または5~20の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、アラルキルもしくはヘテロアラルキル基からなる群から選択される。Rは、1~20の炭素原子を有する直鎖のアルキレン基または3~20の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキレン基(ここで、アルキレン基は、それぞれのケースにおいて、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい)、2~20の炭素原子を有し、1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、アルケニルもしくはアルキニル基、5~40の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上の非芳香族Rラジカルによって置換されていてもよい、二価の芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、または5~20の芳香族環原子を有し、それぞれのケースにおいて1以上のRラジカルによって置換されていてもよい、二価のアラルキルもしくはヘテロアラルキル基からなる群から選択される。Rは、上記に記載の定義を有する。
【0122】
本発明の好ましい形態において、Rは、1~10の炭素原子を有する、より好ましくは1、2、3または4の炭素原子を有する直鎖のアルキル基、または3~10の炭素原子、より好ましくは3、4、5または6の炭素原子を有する分岐もしくは環状のアルキル基(ここで、アルキル基は、それぞれのケースにおいて、フェニル基によって置換されていてもよい)、または6~12の芳香族環原子を有する芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、好ましくはそれぞれのケースにおいて1以上の1~4の炭素原子を有するアルキル基によって置換されていてもよいフェニル基、または6~12の芳香族環原子を有するアラルキル基からなる群から選択される。
【0123】
本発明のさらに好ましい形態において、Rは、1~10の炭素原子を有する、より好ましくは1、2、3または4の炭素原子を有する、直鎖のアルキレン基、3~10の炭素原子を有する、より好ましくは3、4、5または6の炭素原子を有する、分岐もしくは環状のアルキレン基(ここで、アルキレン基は、それぞれのケースにおいて、フェニル基によって置換されていてもよい)、または6~12の芳香族環原子を有する二価の芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、好ましくはそれぞれのケースにおいて1~4の炭素原子を有する1以上のアルキル基によって置換されていてもよいフェニレン基、または6~12の芳香族炭素原子を有するアラルキル基からなる群から選択される。
【0124】
好ましいカルボン酸は、酢酸、プロピオン酸、ピバル酸、安息香酸、フェニル酢酸、アジピン酸、およびそれらの混合物である。特に好ましくは、酢酸、ピバル酸、安息香酸、サリチル酸、またはフェニル酢酸、およびこれらの混合物である。
【0125】
配位子は、例えば、氷酢酸に難溶性であることがある。このケースにおいて、安息香酸、サリチル酸またはフェニル酢酸のような芳香族構造部分を有するカルボン酸の使用または添加が有利である。
【0126】
例えば、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸のようなジカルボン酸も好適である。さらに好適なカルボン酸は、特にα-、β-、γ-、またはε-アミノ酸、例えばグリシン、アラニン、フェニルアラニンまたはε-アミノカプロン酸、およびヒドロキシカルボン酸、特にα-、β-、γ-、またはε-ヒドロキシカルボン酸、例えばリンゴ酸、D-、L-もしくはメソ-酒石酸、クエン酸、グリコール酸、D-もしくはL-マンデル酸または乳酸である。
【0127】
本発明の一形態において、カルボン酸または2以上のカルボン酸の混合物が、単一の溶媒として使用される。本発明のさらなる形態において、使用される溶媒が、1以上のカルボン酸および1以上の不活性有機溶媒(例えば、ジオキサン、トルエン、アニソール、キシレン、メシチレンまたは様々なエチレングリコールエーテル)の混合物である。ここで、「不活性」は、その溶媒が使用されるカルボン酸と反応せず、かつ酸性プロトン、特にヒドロキシ基、を全く有さないことを意味する。不活性溶媒は、pKa>15によって特徴づけられる。有機溶媒の使用は、配位子の溶解性を向上させるために有用である。さらに、有機溶媒の使用は、特に生産規模での、反応系を単純化する。
【0128】
使用されるカルボン酸の量は、好ましくは、イリジウム反応物質のmmolに対して1~100gであり、より好ましくはイリジウム反応物質のmmolに対して10~50gである。
【0129】
イリジウム反応物質によって、反応混合物にさらなる添加剤を加えることが好ましい。
【0130】
使用されるイリジウム反応物質が水和物(例えば塩化イリジウム水和物)である場合は特に、水補足剤を添加することが好ましい。本発明の意味において、水補足剤は、反応条件下で水と化学的に反応する化合物であり、これによって反応混合物から水を除去する。ここで、水補足剤が、反応混合物の水含有量(例えば、Chemie、unserer Zeit 2000、No.3に記載されるように、カールフィッシャー滴定によって決定される)が10ppm未満である十分に反応する反応条件下で、水と化学的に反応するように選択されることが好ましい。当業者は、どの化合物が水と反応し、反応混合物から水を取り除くことができるかについて一般的にわかっている。
【0131】
好適な水補足剤は、例えば、カルボン酸無水物、ハロゲン化カルボニル、特に塩化カルボニル、オルトカルボン酸トリアルキルまたはカルボジイミドだけでなく、水と反応する無機化合物(例えば、五酸化リン(P10)、塩化チオニル、または塩化ホスホリル)も挙げられる。好適なカルボン酸無水物およびハロゲン化カルボニルの例としては、反応混合物において使用されるカルボン酸に対応するもの、つまり、例えば、酢酸が使用される場合に無水酢酸または塩化アセチル、ピバル酸が使用される場合にピバル酸無水物または塩化ピバロイル、安息香酸が使用される場合に無水安息香酸または塩化ベンゾイル、フェニル酢酸が使用される場合にフェニル酢酸無水物または塩化フェニル酢酸等である。さらなる好適な塩化カルボニルは、塩化オキサリルである。例えば、無水酢酸または塩化アセチルを、高融点または高沸点のカルボン酸と同時に使用することも可能である。ここで、反応中に形成された酢酸を留去することが好ましい。好適なオルトカルボン酸トリアルキルの例は、オルトギ酸トリメチルおよびオルト酢酸トリエチルである。好適なカルボジイミドの一例は、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCI)である。これらの化合物は全て、本発明の意味において、水補足剤である。
【0132】
水補足剤の量は、好ましくは3~30当量であり、より好ましくは5~20当量であり、最も好ましくは10~20当量である。ここで、当量は、使用されるイリジウム反応物質のモル量を基準にする。
【0133】
無水イリジウム反応物質のケースにおいて、水補足剤の添加によるさらなる利益はない。
【0134】
ハロゲン化物がイリジウム反応物質、例えばハロゲン化イリジウム水和物または[(COD)IrCl]として使用される場合に特に、塩の添加もまた有益である。この塩はハロゲン化物補足剤として作用すると考えられ、本発明の意味において、ハロゲン化物補足剤は、反応媒体中でイリジウム反応物質のハロゲン化物と難溶性塩を形成する化合物である。しかしながら、従来技術とは対照的に、銀塩の添加は必要とされない。多くの塩がカルボン酸塩中で難溶性であり、そして分離困難なハロゲン化銀を形成することを避けることができるからである。好適なハロゲン化物補足剤は、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたは亜鉛塩、特に反応媒体で使用されるカルボン酸の対応する塩である。さらに、高融点または高沸点カルボン酸が使用される場合であっても、対応する酢酸塩も好適であり、このケースにおいて、形成される酢酸は反応の間で好ましくは留去される。好適なアルカリ金属塩は、好ましくはリチウム、ナトリウムまたはカリウム塩、好ましくはナトリウムまたはカリウム塩、より好ましくはカリウム塩である。したがって、酢酸が使用される場合に酢酸カリウムを使用することだけでなく、他のカルボン酸が使用される場合、ピバル酸が使用される場合にピバル酸カリウム、安息香酸が使用される場合に安息香酸カリウム、サリチル酸が使用される場合にサリチル酸カリウム、が使用されることも好ましい。これらの化合物の全ては、本発明の意味において、ハロゲン化物補足剤である。
【0135】
ハロゲン化物補足剤として使用される添加塩の量は、好ましくは10~100当量であり、より好ましくは10~50当量であり、最も好ましくは20~40当量である。ここで、当量は、使用されるイリジウム反応物質のモル量を基準にする。
【0136】
ハロゲン化物フリーイリジウム反応物質のケースでは、ハロゲン化物補足剤の添加によるさらなる利益はない。
【0137】
反応は、好ましくは室温~250℃、好ましくは60~230℃、より好ましくは80~200℃、さらにより好ましくは100~180℃、特に好ましくは120~160℃の温度範囲内で行われる。ここで、この温度は反応容器のジャケット温度である。反応温度は使用されるイリジウム反応物質にも依存する。例えば、反応性イリジウム反応物質、例えば(COD)Ir(Ind)のケースにおいて、100℃未満の反応温度で非常に良好な収率を得るのに十分であり、一方、例えば、塩化イリジウム水和物を使用するケースでは、120~160℃の範囲での反応温度で、はるかに良好な収率が達成される。
【0138】
本発明の好ましい形態において、反応は、保護ガス雰囲気、特に窒素またはアルゴン下で行われる。
【0139】
本発明の一形態において、反応は、還流下で常圧で行われる。さらなる形態において、反応は、還流下で、密閉系、例えば、密閉アンプルまたはオートクレーブ中で行われる。ここで、圧力は、溶液の上の蒸気圧に対応する。
【0140】
反応媒体中で使用される配位子に対するイリジウムの好ましいモル比は、使用されるイリジウム反応物質および使用される配位子によって異なる。三脚型六座配位子が式(1)の錯体として使用される場合、Irの配位子に対する比1:0.9~1:5が好ましく、特には、比1:1~1:1.05である。式(2)の錯体では、好ましくは、Irの配位子に対する比は1:1~1:20であり、より好ましくは1:3~1:15であり、最も好ましくは1:10~1:13である。式(3)の錯体では、好ましくは、Irの配位子に対する比は、1.5:1~10:1であり、好ましくは1.9:1~3:1であり、最も好ましくは1.9:1~2:1である。
【0141】
反応は、好ましくは、1~1000時間、より好ましくは5~500時間、最も好ましくは10~200時間内で行われる。
【0142】
ハロゲン含有イリジウム反応物質が使用される場合、使用される反応容器は、スチールタンクではなく、例えば、ガラス、エナメルまたはテフロンで製造された反応容器であることがさらに好ましい。
【0143】
さらに反応の加速は、マイクロ波照射を用いることで達成できる。シクロメタル化反応がマイクロ波で一般に行われる方法は、例えば、WO2004/108738に開示される。
【0144】
反応混合物の後処理は本発明の方法では単純である。シクロメタル化イリジウム化合物は、通常、反応中で部分的または完全に析出するからである。これは、イリジウム化合物が不要である溶媒、例えばアルコール(例えばエタノール)、水、またはアルコールおよび水の混合物、を用いて、析出によって完遂することができる。さらに、生成物からの過剰な配位子を溶解させるために、有機溶媒(例えば、トルエン、キシレンまたはジオキサン)を添加することも有用である。そして、生成物は、分離され、ろ過および不要である溶媒(例えば、水、アルコール(例えばエタノール)、またはアルコールおよび水の混合物)で洗浄することにより精製される。必要に応じて、イリジウム錯体で通常行われている方法、例えば再結晶化、クロマトグラフ、熱抽出、昇華および/または熱処理、によってさらなる精製をすることもできる。
【0145】
本発明の方法によって得られる錯体は、典型的にラセミ体で得られるキラル化合物である。キラルのエナンチオマー的に純粋なカルボン酸の使用によって、エナンチオマー的に豊富なまたはエナンチオマー的に純粋な錯体を合成することも可能である。この目的のために好適な例は、α-アミノカルボン酸(例えば、アラニン、フェニルアラニン等のさまざまなものが利用可能である)の使用である。また、ヒドロキシカルボン酸(例えば、マレイン酸または酒石酸)も好適である。
【0146】
本発明による方法は、従来技術に対して、以下の有利な点を提供する:
1.本発明の方法は、他のイリジウム反応物質、また容易に入手可能なハロゲン化イリジウムから、1つのステップおよび非常に高い収率で、シクロメタル化イリジウム錯体、特にトリス-シクロメタル化イリジウム錯体を得ることを可能にする。一方、従来技術による多くの方法では、より複雑な反応物質(例えば、イリジウムケトケトネート錯体またはクロロ架橋二量体イリジウム錯体)から出発し、および/または低い収率である。
2.本発明の方法で使用されるカルボン酸は、通常の有機製造を越える特別な安全対策を必要とすることなく、有機製造における標準的な方法で使用されうる。
3.190℃までのプロセス温度および6barまでの圧力は有機製造における通常の範囲内であり、この目的のために特別な技術的手段は必要とされない。これは、特に、約120℃および還流下での雰囲気の好ましい領域における反応レジームに当てはまる。
4.加熱時間および冷却時間は、通常の有機製造において困難なく実施することができ、プロセスクリティカルではない。
5.後処理は、ろ過、遠心分離、洗浄および/または乾燥、ならびに再結晶、クロマトグラフィ、昇華および/または熱処理による精製のような典型的な単純なプロセスステップを含む。
6.イリジウムミラーまたはイリジウムブラックの形態の金属イリジウムの形成は観察されない。より具体的には、自然発火性元素状イリジウムの形成は観察されず、これは反応安全性の大きな改善となる。
【0147】
より具体的には、上記に詳述した利点から、本発明の方法は、実験室規模だけでなく、製造規模でのシクロメタル化イリジウム錯体の調整に非常に良好な適合性を有することがわかる。
【0148】
本発明は、以下の実施例によりさらに詳細に説明されるが、それらにより本発明は限定されない。有機および有機金属合成の分野の当業者は、本発明の反応を他の系においてさらなる発明的工夫なしに行うことができる。特に、本方法は、さらなる発明的工夫なしに、異なる置換の系またはフェニルまたはピリジンの代わりに配位子として他のアリールもしくはヘテロアリール基を含む系で行われうる。同様に、当業者は、カルボン酸、他の水補足剤および/または他の塩基を添加により本発明の方法を行うことができる。
【0149】
実施例:
以下の合成は、特に記載がない限り、保護ガス雰囲気下で乾燥溶媒中で行われる。金属錯体は、さらに、光を排除して、または黄色光のもとで扱われる。溶媒や試薬は、例えば、Sigma-AldrichまたはABCRから入手できる。角括弧内の各数字または個別化合物に示された数字は、文献から知られる化合物のCAS番号に関する。複数のエナンチオマー、ジアステレオマーまたは互変異性体を有しうる化合物の場合、代表的な方法で示される。
【0150】
1)一般的な手順
三脚型六座配位子、イリジウム反応物質および反応媒体R、および適当な場合に添加剤A(乾燥剤、水補足剤)および添加剤B(カルボン酸塩、ハロゲン化物補足剤として使用される)の混合物を、最初に、アルゴン雰囲気下で、密閉可能な耐圧反応容器(例えば、セプタムキャップを有するクリンプネックボトル)に投入され、加熱ブロック中で特定の温度(=ブロック温度に加熱する)に加熱される。サンプルは、特定の時間で採取され、H NMR分光法および/またはHPLCによって分析される。H NMR分光法分析では、反応混合物2滴が0.75mlのDMSO-D6で希釈され、混合物は透明な溶液となるまで加熱され、そして、通常のように分析される。続いて、反応混合物のスペクトルをDMSO-D6中の対応する配位子および錯体のスペクトルと比較し、積分によって定量する。この方法の誤差は、±5%と推測される。HPLCは標準的な方法で行われる(HPLCカラム:Chromolith-Performance RP-18e、100-4.6mm、グラジエント:水-アセトニトリル、検出254nm)。報告される転化率は、配位子ピークおよび錯体ピークの面積%に基づく。以降に特定される実験は、モル量1eq=100μmolで行われる。
【0151】
結果は表1のとおりである。それぞれの見出しはどのパラメーターが変化したかを示す。略語は表の下に説明される。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
1)Δ、Δ-/Λ、Λ-&Δ、Λ-ジアステレオマー混合物 約1:1
2)キラル誘導のための100eqアラニンの添加、Δ、Δ-/Λ、Λ-&Δ、Λ-ジアステレオマー混合物 約1:4
略語:
HOAc:無水酢酸、氷酢酸[64-19-7]
HOPiv:ピバル酸[75-98-9]
HOBnz:安息香酸[65-85-0]
HOPhe:フェニル酢酸[103-82-2]
AcO:無水酢酸[108-24-7]
ピバル酸無水物[1538-75-6]
BnzO:無水安息香酸[93-97-0]
AcCl:塩化アセチル[75-36-5]
TMOF:オルトギ酸トリメチル[149-73-5]
TEOA:オルト酢酸トリエチル[78-39-7]
10:十酸化四リン[1314-56-3]
LiOAc:酢酸リチウム、無水[546-89-4]
NaOAc:酢酸ナトリウム、無水[127-09-3]
KOAc:酢酸カリウム、無水[127-08-2]
NHOAc:酢酸アンモニウム[631-61-8]
Zn(OAc):酢酸亜鉛、無水[557-34-6]
ピバル酸カリウム、無水[19455-23-3]
KOBnz:安息香酸カリウム、無水[582-25-2]
L-alanine:L-アラニン[56-41-7]
IrClxHO:三塩化イリジウム水和物、本発明の意味において、以下に示される化合物の総称、使用される化合物のIr含有量に応じて化学量論的に調整される:
IrClx3HO:[13569-57-8]
IrClxXHO:[14996-61-3]
IrClx4HO:[16938-21-9]
IrClx1HO:[1542203-90-6]
IrClx2HO:[1593479-74-3]
IrClxHClxHO:[717927-65-6]
Ir(OAc):酢酸イリジウム、本発明の意味において、以下に示される化合物の総称、使用される化合物のIr含有量に応じて化学量論的に調整される:
Ir(OAc):[37598-27-9]
[Ir122416]CH:[52705-52-8]
[Ir(COD)Cl):シクロ-1,5-オクタジエニルイリジウム(I)クロリドダイマー[12112-67-3]
(Ind)Ir(COD):(1,5-シクロオクタジエン)(η5-インデニル)イリジウム(I)[102525-11-1]
A.P.:密閉された反応容器中で、所定の温度で、反応混合物の自己発生圧力下で
V.A.:大気に対して、実験室に対してアルゴンで被われたクリンプネックボトル、
温度の数字:反応混合物中で測定された温度
【0152】
L1の例を用いた調製スケールでの方法のパフォーマンス:
【化41】
A:無水酢酸および酢酸カリウムを有する氷酢酸中
アルゴン雰囲気下で撹拌されたテフロンインサートを有するオートクレーブに、9.18g(10mmol)の配位子L1、3.53g(10mmol)のIrClx3HO、29.45g(300mmol)の酢酸カリウム、無水、300mlの氷酢酸および9.47ml(100mmol)の無水酢酸が投入され、密閉され、そしてよく撹拌しながら160℃で48時間(圧力:4.3bar)加熱される。冷却後、黄色懸濁液が撹拌しながら1000mlの脱塩水に注がれ、そして、黄色固体は吸引ろ過され、それぞれ200mlの水で3回、それぞれ50mlのエタノールで2回洗浄され、そして減圧下で乾燥される。固体は300mlの温ジクロロメタン(DCM)で1時間懸濁され、そして300gのシリカゲル60(メルク)でクロマトグラフに付される。黄色の主画分(Rf~0.9)が選択され、DCMは標準圧力下で温度50℃の水浴で、ロータリーエバポレーターで、継続的にEtOhの添加によって留去されたDCMの体積を置き換えながら、留去される。DCM留去が完了すると、混合物は減圧下で約100mlの体積に濃縮され、黄色固体は両頭フリットによってろ過され、そして残留物はそれぞれ50mlのエタノールで2回洗浄され、アルゴンストリームで最初に乾燥され、そして減圧下で乾燥される(p~10-3mbar、T~100℃)。収量:10.19g(9.20mmol);理論の92%;純度:>99.5% H NMRおよびHPLCによる。このように得られた生成物は、WO2016/124304に開示されるように、熱抽出および分別昇華によってさらに精製される。
【0153】
B:ピバル酸無水物およびピバル酸カリウムを有するピバル酸中
酢酸の代わりにピバル酸、無水酢酸の代わりにピバル酸無水物、および酢酸カリウムの代わりにピバル酸カリウムを用いること、および精密ガラススターラー、還流コンデンサーおよびアルゴンブランケットを有する2lの四つ口丸底フラスコ中で反応を行うこと以外は、A)に記載の手順。内部温度~165℃。収量:10.44g(9.43mmol);理論の94%;純度:>99.5% H NMRおよびHPLCによる。
【0154】
C:無水酢酸および酢酸カリウムを有するピバル酸中
ピバル酸無水物の代わりに無水酢酸およびピバル酸カリウムの代わりに酢酸カリウムを用いること、および精密ガラススターラー、還流コンデンサーおよびアルゴンブランケットを有する2lの四つ口丸底フラスコ中で反応を行うこと以外は、B)に記載の手順。水分離器に集められた酢酸は、ときおり廃棄される。内部温度~155℃。収量:10.51g(9.50mmol);理論の95%;純度:>99.5% H NMRおよびHPLCによる。
【0155】
D:無水安息香酸および安息香酸カリウムを有する安息香酸中
酢酸の代わりに安息香酸、無水酢酸の代わりに無水安息香酸、および酢酸カリウムの代わりに安息香酸カリウムを用いること、および精密ガラススターラー、還流コンデンサーおよびアルゴンブランケットを有する2lの四つ口丸底フラスコ中で反応を行うこと以外は、A)に記載の手順。内部温度~168℃。後処理で、温かい、いまだ液体の反応混合物が水に注がれる。収量:10.51g(9.49mmol);理論の95%;純度:>99.5% H NMRおよびHPLCによる。
【0156】
無水酢酸および酢酸カリウムを有するフェニル酢酸中
ピバル酸の代わりにフェニル酢酸を用いて、C)に記載の手順。内部温度~152℃。後処理で、温かい、いまだ液体の反応混合物が水に注がれる。収量:10.84g(9.80mmol);理論の98%;純度:>99.5% H NMRおよびHPLCによる。
【0157】
サリチル酸/メシチレン中のIr(OAc)
精密ガラススターラー、水分離器(10mlタンク)、還流コンデンサーおよびアルゴンブランケットを備える500mlの四つ口丸底フラスコに、アルゴン雰囲気下、9.18g(10mmol)の配位子L1、3.69g(10mmol)の酢酸イリジウム(III)Ir(OAc)、40gのサリチル酸および40mlのメシチレンが投入され、還流下で22時間加熱される(内部温度約158℃)。当初の青色溶液は時間とともに黄色懸濁液となる;いくつかの酢酸はまた最初に分離され、廃棄される。22時間後、混合物は90℃に冷却され、200mlのエタノールが慎重に滴下され、混合物が撹拌されながら40℃に冷却され、そして黄色固体が吸引ろ過され、それぞれ30mlのメタノールで3回洗浄され、減圧下で乾燥される。さらなる精製はAに開示される。収量:10.86g(9.20mmol);理論の98%;純度:>99.5% H NMRおよびHPLCによる。このように得られた生成物は、WO2016/124304に開示されるように、熱抽出および分別昇華によってさらに精製される。
【0158】
メシチレンの他に、アニソールも使用可能である。
【0159】
配位子:
表2に使用される配位子を示す。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】