(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】飲食品検体、環境検体、又は生体検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するための方法及びキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20250127BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20250127BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20250127BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20250127BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20250127BHJP
C07K 16/12 20060101ALN20250127BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20250127BHJP
【FI】
G01N33/569 B ZNA
G01N33/569 E
G01N33/569 D
G01N33/543 521
C12Q1/06
C12M1/34 B
C12M1/34 F
C07K17/00
C07K16/12
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2022575652
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2022001197
(87)【国際公開番号】W WO2022154094
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2021004806
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021004815
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克佳
(72)【発明者】
【氏名】小田 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】菅田 三加
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-088854(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0070792(KR,A)
【文献】特開2013-164414(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104297474(CN,A)
【文献】国際公開第2020/111223(WO,A1)
【文献】特開2002-202309(JP,A)
【文献】特開2017-133952(JP,A)
【文献】国際公開第2010/079739(WO,A1)
【文献】特開2001-281254(JP,A)
【文献】国際公開第00/006603(WO,A1)
【文献】特開平08-319297(JP,A)
【文献】国際公開第2019/243714(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0281074(US,A1)
【文献】特表2020-521127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/543,33/569,
C07K 16/12,
C12N 15/13,
C12Q 1/04,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲食品検体、環境検体、及び生体検体から選択される検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するための方法であって、
該方法が、検体中の少なくとも2以上の異なる属の細菌の有無及び/又は存在量を、抗原抗体反応に基づき同時検出する工程を含み、
前記検出工程が、前記2以上の属の細菌に由来する成分と抗原抗体反応を生じる抗体を検体と接触させる工程、及び、接触後の検体中に生じる抗原抗体反応の有無及び/又は強度を測定する工程を含み、
前記2以上の属の細菌に由来する成分と抗原抗体反応を生じる抗体が、前記2以上の属の細菌のリボソームタンパク質L7/L12と抗原抗体反応を生じる抗体である、方法。
【請求項2】
飲食品検体、環境検体、及び生体検体から選択される検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するための方法であって、
該方法が、検体中の少なくとも2以上の異なる属の細菌の有無及び/又は存在量を、抗原抗体反応に基づき同時検出する工程を含み、
前記検出工程が、前記2以上の属の細菌に由来する成分と抗原抗体反応を生じる抗体を検体と接触させる工程、及び、接触後の検体中に生じる抗原抗体反応の有無及び/又は強度を測定する工程を含み、
前記方法が、前記抗体と検体との接触前に、検体中の細菌を溶菌する工程を更に含む、方法。
【請求項3】
前記2以上の属の細菌に由来する成分と抗原抗体反応を生じる抗体が、前記2以上の属の細菌のリボソームタンパク質L7/L12と抗原抗体反応を生じる抗体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記検出工程において、エシェリキア(Escherichia)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、クレブシェラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属からなる群より選択される2以上の異なる属の細菌を同時検出する、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記検出対象となる2以上の属の細菌が、グラム陰性菌及びグラム陽性菌の双方を含む、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記検出工程において、少なくとも3以上、又は4以上、又は5以上、又は6以上、又は7以上、又は8以上、又は9以上、又は10以上、又は11以上の異なる属の細菌を同時検出する、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記2以上の属の細菌に由来する成分と抗原抗体反応を生じる抗体が、検体中に存在しうる1種又は2種以上の非細菌由来成分と交差反応しない、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記2以上の属の細菌に由来する成分と抗原抗体反応を生じる抗体と交差反応しない非細菌由来成分が、ウイルス、植物、及び/又は動物に由来する有機物成分である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記2以上の属の細菌に由来する成分と抗原抗体反応を生じる抗体が、モノクローナル抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体である、請求項1~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記モノクローナル抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が、
重鎖可変領域配列として、配列番号1、配列番号3、及び配列番号5から選択される少なくとも何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域配列として、配列番号2、配列番号4、及び配列番号6から選択される少なくとも何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
をそれぞれ含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記モノクローナル抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が、
重鎖可変領域配列として配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号2のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号3のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号4のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号5のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号6のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11の何れか一項に記載の方法であって、前記方法が、
(I)検体と、固相担体と連結された捕捉用抗体と、検出用標識を有する検出用抗体との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉すると共に、検体中の細菌を標識する工程、及び
(II)検体中の検出対象細菌を検出用標識に基づき検出する工程
により、検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出することを含むと共に、
捕捉用抗体及び検出用抗体のうち、一方の抗体が、1種又は2種以上の検出対象細菌と抗原抗体反応を生じる、1種又は2種以上の特異性抗体であり、他方の抗体が、前記検出対象細菌を含む5以上の属の細菌と抗原抗体反応を生じる、1種又は2種以上の汎用性抗体であ
る、方法。
【請求項13】
飲食品検体、環境検体、及び生体検体から選択される検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するための方法であって、
該方法が、検体中の少なくとも2以上の異なる属の細菌の有無及び/又は存在量を、抗原抗体反応に基づき同時検出する工程を含み、
前記検出工程が、前記2以上の属の細菌に由来する成分と抗原抗体反応を生じる抗体を検体と接触させる工程、及び、接触後の検体中に生じる抗原抗体反応の有無及び/又は強度を測定する工程を含み、
前記方法が、
(I)検体と、固相担体と連結された捕捉用抗体と、検出用標識を有する検出用抗体との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉すると共に、検体中の細菌を標識する工程、及び
(II)検体中の検出対象細菌を検出用標識に基づき検出する工程
により、検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出することを含むと共に、
捕捉用抗体及び検出用抗体のうち、一方の抗体が、1種又は2種以上の検出対象細菌と抗原抗体反応を生じる、1種又は2種以上の特異性抗体であり、他方の抗体が、前記検出対象細菌を含む5以上の属の細菌と抗原抗体反応を生じる、1種又は2種以上の汎用性抗体であ
る、方法。
【請求項14】
前記工程(I)が、
(Ia-1)検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と細菌との抗原抗体反応により、検体中の細菌を標識する工程、及び、
(Ia-2)検出用抗体により標識された細菌を含む検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と細菌-検出用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉する工程
を含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(I)が、
(Ib-1)検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と細菌との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉する工程、及び、
(Ib-2)捕捉用抗体により捕捉された細菌を含む検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と細菌-捕捉用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の細菌を標識する工程
を含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項16】
捕捉用抗体が汎用性抗体であり、検出用抗体が特異性抗体である、請求項12~15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
検出用抗体が汎用性抗体であり、捕捉用抗体が特異性抗体である、請求項12~15の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
汎用性抗体が、少なくともエシェリキア(大腸菌)属(Escherichia)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属(Staphylococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、クレブシェラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属から選択される5以上の属の細菌と抗原抗体反応を生じる、請求項12~17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
特異性抗体が、少なくともエシェリキア(大腸菌)属(Escherichia)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属(Staphylococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、クレブシェラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属から選択される1以上の属の細菌と特異的に抗原抗体反応を生じる、請求項12~18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
汎用性抗体が、
重鎖可変領域配列として、配列番号1、配列番号3、及び配列番号5から選択される少なくとも何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域配列として、配列番号2、配列番号4、及び配列番号6から選択される少なくとも何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
をそれぞれ含む、請求項12~19の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
汎用性抗体が、
重鎖可変領域配列として配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号2のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号3のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号4のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号5のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号6のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、
請求項20に記載の方法。
【請求項22】
特異性抗体が、
重鎖可変領域配列として、配列番号7、配列番号9、配列番号11、及び配列番号13から選択される少なくとも何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域配列として、配列番号8、配列番号10、配列番号12、及び配列番号14から選択される少なくとも何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
をそれぞれ含む、請求項12~21の何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
特異性抗体が、
重鎖可変領域配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号9のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号10のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号13のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号14のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、
請求項22に記載の方法。
【請求項24】
飲食品検体、環境検体、及び生体検体から選択される検体の細菌による汚染度を判定するための方法であって、
該方法が、請求項1~23の何れか一項に記載の方法により、前記検体中の1又は2以上の属の細菌の有無及び/又は存在量を、抗原抗体反応に基づき同時検出する工程を含む、方法。
【請求項25】
請求項1~11の何れか一項に記載の方法により、飲食品検体、環境検体、及び生体検体から選択される検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するためのキットであって、請求項1~11の何れか一項に記載の抗体を含むキット。
【請求項26】
請求項12~23の何れか一項に記載の方法により、飲食品検体、環境検体、及び生体検体から選択される検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するためのキットであって、請求項12~23の何れか一項に記載の捕捉用抗体及び検出用抗体を含むと共に、前記の捕捉用抗体及び検出用抗体のうち、一方が前記汎用性抗体であり、他方が前記特異性抗体である、キット。
【請求項27】
検体を展開させ、検体と捕捉用抗体との接触を行うための不溶性膜担体を更に含み、
前記不溶性膜担体上に、捕捉用抗体が固定化された検出ラインが設けられてなると共に、
検体中の2種以上の細菌を単一の検出ラインで検出するように構成される、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記キットがイムノクロマトキットである、請求項26又は27に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品検体、環境検体、又は生体検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するための方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲食品検体、環境検体、又は生体検体の細菌の有無や存在量を検出する、又は、細菌による汚染度を判定する方法としては、検体を培養して細菌の増殖を確認する培養法(例えば特許文献1:特開昭63-233774号公報;特許文献2:国際公開第2019/142848号)や、検体中の細菌の細胞内ATP(アデノシン三リン酸)を検出するATP法(例えば特許文献3:特開平11-239493号公報;特許文献4:特開2009-136205号公報)等が知られていた。
【0003】
しかし、従来の培養法は、培養設備を要する上に、検出までに数日~1週間もの時間を要し、検査の場所、手間及び時間の面で課題があった。また、培養条件(培地成分、好気性/嫌気性雰囲気、設定温度等)に合致した特定の細菌しか生えず、広範な属の細菌を同時に検出できないという課題もあった。また、従来のATP法は、ATPが細菌細胞のみならず真核細胞(動物細胞、植物細胞)等にも存在するため、飲食品や環境に由来する真核細胞から細菌を識別することが困難であるという課題があった。
【0004】
飲食品検体、環境検体、又は生体検体中の細菌の有無及び/又は存在量の検出を要する実際の場面としては、飲食品や環境の衛生管理における細菌検査のように、種々の細菌を個別に検出するのではなく、複数属の細菌を網羅的且つ迅速に検出することが必要な場面(例えば、総菌数、一般細菌数、大腸菌群、腸内細菌科菌群の検出)も存在する。よって、飲食品、環境、生体等に存在する複数属の細菌を一括して検出可能な方法があれば、その技術的意義及び有用性は高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-233774号公報
【文献】国際公開第2019/142848号
【文献】特開平11-239493号公報
【文献】特開2009-136205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一態様は、飲食品検体、環境検体、生体検体等の検体中の細菌の有無及び/又は存在量を短時間で簡便且つ効率的に検出することが可能な方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意検討の結果、検体中の複数属の異なる細菌の有無及び/又は存在量を、抗原抗体反応に基づき同時検出することにより、検体中の細菌の有無及び/又は存在量を短時間で簡便且つ効率的に検出することが可能となることに想到した。また、種々の細菌と広範に抗原抗体反応を生じる汎用性抗体と、特定の細菌と特異的に抗原抗体反応を生じる1又は2以上の特異性抗体とを併用して用いることにより、検体中の1種又は複数種の細菌を他の成分から識別し、その有無又は存在量を迅速且つ簡便に検出することが可能となることに想到した。その上で、複数属の細菌と抗原抗体反応を生じる抗体を実際に作製し、これらの抗体を用いることにより、検体中の複数属の異なる細菌の有無及び/又は存在量を短時間で簡便且つ効率的に検出することが可能となることを実証し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明の主旨は以下に存する。
[項1]飲食品検体、環境検体、及び生体検体から選択される検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するための方法であって、
該方法が、検体中の少なくとも2以上の異なる属の細菌の有無及び/又は存在量を、抗原抗体反応に基づき同時検出する工程を含む方法。
[項2]前記検出工程において、エシェリキア(Escherichia)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、クレブシェラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属からなる群より選択される2以上の異なる属の細菌を同時検出する、項1に記載の方法。
[項3]前記検出対象となる2以上の属の細菌が、グラム陰性菌及びグラム陽性菌の双方を含む、項1又は2に記載の方法。
[項4]前記検出工程において、少なくとも3以上、又は4以上、又は5以上、又は6以上、又は7以上、又は8以上、又は9以上、又は10以上、又は11以上の異なる属の細菌を同時検出する、項1~3の何れか一項に記載の方法。
[項5]前記検出工程が、前記2以上の属の細菌に由来する成分と抗原抗体反応を生じる抗体を検体と接触させる工程、及び、接触後の検体中に生じる抗原抗体反応の有無及び/又は強度を測定する工程を含む、項1~4の何れか一項に記載の方法。
[項6]前記抗体が、前記2以上の属の細菌のリボソームタンパク質L7/L12と抗原抗体反応を生じる抗体である、項5に記載の方法。
[項7]前記抗体と検体との接触前に、検体中の細菌を溶菌する工程を更に含む、項5又は6に記載の方法。
[項8]前記抗体が、検体中に存在しうる1種又は2種以上の非細菌由来成分と交差反応しない、項5~7の何れか一項に記載の方法。
[項9]前記抗体と交差反応しない非細菌由来成分が、ウイルス、植物、及び/又は動物に由来する有機物成分である、項8に記載の方法。
[項10]前記抗体が、モノクローナル抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体である、項5~9の何れか一項に記載の方法。
[項11]前記モノクローナル抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が、
重鎖可変領域配列として、配列番号1、配列番号3、及び配列番号5から選択される少なくとも何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域配列として、配列番号2、配列番号4、及び配列番号6から選択される少なくとも何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
をそれぞれ含む、項10に記載の方法。
[項12]前記モノクローナル抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が、
重鎖可変領域配列として配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号2のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号3のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号4のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号5のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号6のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、
項11に記載の方法。
[項13]項5~12の何れか一項に記載の方法であって、前記方法が、
(I)検体と、固相担体と連結された捕捉用抗体と、検出用標識を有する検出用抗体との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉すると共に、検体中の細菌を標識する工程、及び
(II)検体中の検出対象細菌を検出用標識に基づき検出する工程
により、検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出することを含むと共に、
捕捉用抗体及び検出用抗体のうち、一方の抗体が、1種又は2種以上の検出対象細菌と抗原抗体反応を生じる、1種又は2種以上の特異性抗体であり、他方の抗体が、前記検出対象細菌を含む5以上の属の細菌と抗原抗体反応を生じる、1種又は2種以上の汎用性抗体であり、且つ、
前記汎用性抗体又は前記特異性抗体の何れか一方が、項5~12の何れか一項に記載の抗体である、方法。
[項14]前記工程(I)が、
(Ia-1)検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と細菌との抗原抗体反応により、検体中の細菌を標識する工程、及び、
(Ia-2)検出用抗体により標識された細菌を含む検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と細菌-検出用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉する工程
を含む、項13に記載の方法。
[項15]前記工程(I)が、
(Ib-1)検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と細菌との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉する工程、及び、
(Ib-2)捕捉用抗体により捕捉された細菌を含む検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と細菌-捕捉用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の細菌を標識する工程
を含む、項13に記載の方法。
[項16]捕捉用抗体が汎用性抗体であり、検出用抗体が特異性抗体である、項13~15の何れか一項に記載の方法。
[項17]検出用抗体が汎用性抗体であり、捕捉用抗体が特異性抗体である、項13~15の何れか一項に記載の方法。
[項18]汎用性抗体が、少なくともエシェリキア(大腸菌)属(Escherichia)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属(Staphylococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、クレブシェラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属から選択される5以上の属の細菌と抗原抗体反応を生じる、項13~17の何れか一項に記載の方法。
[項19]特異性抗体が、少なくともエシェリキア(大腸菌)属(Escherichia)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属(Staphylococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、クレブシェラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属から選択される1以上の属の細菌と特異的に抗原抗体反応を生じる、項13~18の何れか一項に記載の方法。
[項20]汎用性抗体が、
重鎖可変領域配列として、配列番号1、配列番号3、及び配列番号5から選択される少なくとも何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域配列として、配列番号2、配列番号4、及び配列番号6から選択される少なくとも何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
をそれぞれ含む、項13~19の何れか一項に記載の方法。
[項21]汎用性抗体が、
重鎖可変領域配列として配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号2のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号3のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号4のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号5のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号6のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、
項20に記載の方法。
[項22]特異性抗体が、
重鎖可変領域配列として、配列番号7、配列番号9、配列番号11、及び配列番号13から選択される少なくとも何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域配列として、配列番号8、配列番号10、配列番号12、及び配列番号14から選択される少なくとも何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
をそれぞれ含む、項13~21の何れか一項に記載の方法。
[項23]特異性抗体が、
重鎖可変領域配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号9のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号10のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、又は、
重鎖可変領域配列として配列番号13のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域配列として配列番号14のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、
項22に記載の方法。
[項24]飲食品検体、環境検体、及び生体検体から選択される検体の細菌による汚染度を判定するための方法であって、
該方法が、項1~23の何れか一項に記載の方法により、前記検体中の少なくとも2以上の属の細菌の有無及び/又は存在量を、抗原抗体反応に基づき同時検出する工程を含む、方法。
[項25]項5~12の何れか一項に記載の方法により、飲食品検体、環境検体、及び生体検体から選択される検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するためのキットであって、項5~12の何れか一項に記載の抗体を含むキット。
[項26]項13~23の何れか一項に記載の方法により、飲食品検体、環境検体、及び生体検体から選択される検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するためのキットであって、項13~23の何れか一項に記載の捕捉用抗体及び検出用抗体を含むと共に、前記の捕捉用抗体及び検出用抗体のうち、一方が前記汎用性抗体であり、他方が前記特異性抗体である、キット。
[項27]検体を展開させ、検体と捕捉用抗体との接触を行うための膜担体を更に含み、
前記担体上に、捕捉用抗体が固定化された検出ラインが設けられてなると共に、
検体中の2種以上の細菌を単一の検出ラインで検出するように構成される、項26に記載のキット。
[項28]前記キットがイムノクロマトキットである、項26又は27に記載のキット。
[項29]前記の捕捉用抗体及び検出用抗体が、検出対象である検体中の細菌のリボソームタンパク質L7/L12と共に抗原抗体反応して、サンドイッチ構造を形成し得るように選択され、
前記イムノクロマトキットが、検体を展開させ、検体と捕捉用抗体との接触を行うための不溶性膜担体と、前記不溶性膜担体上に設けられ、前記検出用抗体が添着されたコンジュゲートパッドとを含むと共に、
前記不溶性膜担体上の前記コンジュゲートパッドに対してクロマト展開方向に、前記捕捉用抗体が固定化されている、項28に記載のキット。
[項30]項29に記載のイムノクロマトキットを製造するための方法であって、
前記不溶性膜担体上に、前記検出用抗体が添着された前記コンジュゲートパッドを積層する工程、及び
前記不溶性膜担体上の前記コンジュゲートパッドに対してクロマト展開方向に、前記捕捉用抗体を固定化する工程
を少なくとも含む製造方法。
[項31]前記捕捉用抗体として前記特異性抗体を用い、前記検出用抗体として前記汎用性抗体を用いる、項30に記載の製造方法。
[項32]前記特異性抗体が、少なくともエシェリキア(大腸菌)属(Escherichia)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属(Staphylococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、クレブシェラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属から選択される1以上の属の検出対象細菌と特異的に抗原抗体反応を生じる抗体である、項30又は31に記載の製造方法。
[項33]前記汎用性抗体が、少なくともエシェリキア(大腸菌)属(Escherichia)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属(Staphylococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、クレブシェラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属から選択される5以上の検出対象細菌と特異的に抗原抗体反応を生じる、項30~32の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、飲食品検体、環境検体、又は生体検体中の細菌の有無及び/又は存在量を短時間で簡便且つ効率的に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、ラテラルフロー方式のイムノクロマト検出装置の検出機構の一例である、ストリップ状の検出機構の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0012】
なお、本明細書において引用される特許公報、特許出願公開公報及び非特許公報を含む全ての文献は、その全体が援用により、あらゆる目的において本明細書に組み込まれる。
【0013】
また、本明細書に記載のアミノ酸配列を表す式では、別途記載のある場合を除き、アミノ酸を1文字コードで表すものとする。
【0014】
本発明の一態様は、飲食品検体、環境検体、又は生体検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するための方法(以下適宜「本発明の方法」と称する。)に関する。本発明の方法は、検体中の複数属の細菌の有無及び/又は存在量を、抗原抗体反応に基づき同時検出することを含む。一態様によれば、斯かる抗原抗体反応に基づく検出は、例えば、検体中の複数属の細菌に由来する成分と抗原抗体反応を生じる抗体(以下適宜「本発明の抗体」と称する。)を検体と接触させ、接触後の検体中に生じる抗原抗体反応の有無及び/又は強度を測定することにより行われる。本発明の方法を用いれば、例えば、飲食品検体、環境検体、又は生体検体の細菌による汚染度を短時間で簡便且つ効率的に判定することが可能となる。
【0015】
また、斯かる本発明の方法を実施するための、本発明の抗体を含むキット(本発明のキット)も、本発明の対象となる。
【0016】
以下、まずは斯かる本発明の方法について説明した後、本発明の方法に使用される本発明の抗体について説明し、続いて本発明の方法の中でも特に好ましい態様(本発明の方法(2))について説明し、その後に本発明の方法に用いられるキットについて説明する。
【0017】
[1.検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するための方法(1)]
本発明の方法は、飲食品検体、環境検体、及び生体検体から選択される検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するための方法である。本発明の方法は、検体中の複数属の細菌の有無及び/又は存在量を、抗原抗体反応に基づき同時検出することを含む。なお、本発明の方法を用いて、例えば、当該検体の細菌による汚染度を判定してもよい。
【0018】
検体としては、飲食品検体、環境検体、又は生体検体(以下、飲食品検体及び環境検体をまとめて適宜「飲食品・環境検体」と略称し、飲食品検体、環境検体、及び生体検体をまとめて適宜「飲食品・環境・生体検体」と略称する場合がある。))が挙げられる。飲食品検体の種類は特に制限されないが、例としては肉、魚、野菜、惣菜、加工飲食品、調味料等の食材や、水、お茶、コーヒー、ジュース、酒類等の飲料等から取得した検体が挙げられる。環境検体の種類も特に制限されないが、例としては、飲食品製造設備、飲食提供現場、医療設備、医療現場等の環境における、手指、作業着、作業靴、爪ブラシ、まな板、包丁、取っ手、ベルトコンベア、包装材、作業机、ベット、蛇口、シャワー、医療器具等の表面を、液性媒体(水、生理等張液、エタノール等)を含浸させた清浄綿や清浄クロス等の採取用具(スワブ)で拭って得られた検体や、更には水道水、井戸水、河川や温泉の水等の液性検体等が挙げられる。生体検体の種類は特に制限されないが、全血、血清、血漿、尿、便、手、唾液、喀痰、汗、鼻汁、咽頭ぬぐい、鼻腔吸引液、肺洗浄液等のヒト又は非ヒト動物に由来する検体が挙げられる。斯かる飲食品・環境・生体検体は、広範な種類の細菌によって汚染される可能性がある。
【0019】
前述したように、斯かる飲食品・環境・生体検体の細菌汚染を検出するには、従来は培養法やATP法を用いる必要があった。しかし、培養法は、培養設備及び煩雑な培養の作業を要する上に、検出までに数日~1週間もの時間を要し、且つ、培養条件に合致した特定の細菌しか検出できなかった。ATP法は、真核細胞(動物細胞、植物細胞)等にも存在するため、飲食品や環境、生体に由来する真核細胞から細菌を識別することが困難であった。
【0020】
本発明の方法では、検体中の複数属の細菌の有無及び/又は存在量を、抗原抗体反応に基づき同時検出する。本発明において「抗原抗体反応」とは、抗体がその抗原と特異的に結合することをいう。抗原抗体反応を用いることで、簡便な設備及び操作により、現場にて即時に検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出することが可能となる。また、本発明において複数種又は複数属の細菌の「同時」検出とは、複数種又は複数属の細菌を一括して検出することを意味し、必ずしも時間的に同時に検出することに限定されるものではない。また、2以上の属の細菌の「同時」検出には、最終的に2以上の属の細菌を検出する態様のみならず、最終的に検出される細菌が例え単一の属であっても、2以上の属の細菌と一括して(即ち「同時」に)抗原抗体反応を生じる抗体(即ち後述の汎用性抗体)を用いて検出を行う態様も含まれるものとする。本発明では、検出対象となる複数属の細菌由来の成分と特異的に抗原抗体反応を生じる抗体(本発明の抗体)を適切に選択して用いることで、検出対象となる複数属の細菌を同時に検出することが可能となり、且つ、細菌以外の成分による偽陽性を低減し、検出感度及び検出精度を向上させることが可能となる。その結果、複数属の細菌による検体の汚染度を、短時間で簡便且つ効率的に判定することが可能となる。
【0021】
本発明の方法による細菌としては、飲食品・環境・生体検体において特に検出要請の高い代表的な細菌属である、エシェリキア(Escherichia)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、クレブシェラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属(以下適宜「特定細菌属」と称する。)に属する細菌が挙げられる。本発明の方法では、これらの特定細菌属のうち、少なくとも2以上の属(複数属)の細菌との抗原抗体反応を検出することが好ましく、中でも少なくとも3以上、又は4以上、又は5以上、又は6以上、又は7以上、又は8以上、又は9以上、又は10以上の属、特に11の特定細菌属の全ての細菌との抗原抗体反応を検出することがとりわけ好ましい。
【0022】
エシェリキア(Escherichia)属の細菌としては、大腸菌(Escherichia coli, E. coli, EC)、エシェリキア アルベルティ(Escherichia albertii, E. albertii)等が挙げられる。本発明の方法が、エシェリキア(Escherichia)属の細菌との抗原抗体反応を検出する場合、これらのうち1又は2以上の任意の細菌との抗原抗体反応を検出すればよいが、少なくとも大腸菌(Escherichia coli)との抗原抗体反応を検出することが好ましい。
【0023】
スタフィロコッカス(Staphylococcus)属の細菌としては、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus, S. aureus, SA)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis, S. epidermidis)、スタフィロコッカス・アルジェンテウス(Staphylococcus argenteus, S. argenteus)等が挙げられる。本発明の方法が、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属の細菌との抗原抗体反応を検出する場合、これらのうち1又は2以上の任意の細菌との抗原抗体反応を検出すればよいが、少なくとも黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)との抗原抗体反応を検出することが好ましい。
【0024】
シュードモナス(Pseudomonas)属の細菌としては、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa, P. aeruginosa, PA)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens, P. fluorescens)、シュードモナス・ホスホレッセンス(Pseudomonas phosphorescence, P. phosphorescence)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida, P. putida)等が挙げられる。本発明の方法が、シュードモナス(Pseudomonas)属の細菌との抗原抗体反応を検出する場合、これらのうち1又は2以上の任意の細菌との抗原抗体反応を検出すればよいが、少なくとも緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)との抗原抗体反応を検出することが好ましい。
【0025】
バチルス(Bacillus)属の細菌としては、枯草菌(Bacillus subtilis, B. subtilis, BS)、セレウス菌(Bacillus cereus, B. cereus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis, B. licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium, B. megaterium)等が挙げられる。本発明の方法が、バチルス(Bacillus)属の細菌との抗原抗体反応を検出する場合、これらのうち1又は2以上の任意の細菌との抗原抗体反応を検出すればよいが、少なくとも枯草菌(Bacillus subtilis )との抗原抗体反応を検出することが好ましい。
【0026】
クレブシェラ(Klebsiella)属の細菌としては、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae, K. pneumoniae, KP)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca, K. oxytoca)、クレブシエラ・アエロゲネス(Klebsiella aerogenes, K. aerogenes)等が挙げられる。本発明の方法が、クレブシェラ(Klebsiella)属の細菌との抗原抗体反応を検出する場合、これらのうち1又は2以上の任意の細菌との抗原抗体反応を検出すればよいが、少なくともクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)との抗原抗体反応を検出することが好ましい。
【0027】
セラチア(Serratia)属の細菌としては、セラチア・リクファシエンス(Serratia liquefaciens, S. liquefaciens, SL)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens, S. marcescens)、セラチア・フォンティコラ(Serratia fonticola, S. fonticola)等が挙げられる。本発明の方法が、セラチア(Serratia)属の細菌との抗原抗体反応を検出する場合、これらのうち1又は2以上の任意の細菌との抗原抗体反応を検出すればよいが、少なくともセラチア・リクファシエンス(Serratia liquefaciens)との抗原抗体反応を検出することが好ましい。
【0028】
ラーネラ(Rahnella)属の細菌としては、ラーネラ・アクアティリス(Rahnella aquatilis, R. aquatilis, RA)、ラーネラ・ビクトリアナ(Rahnella victoriana, R.victoriana)、ラーネラ・ブルチ(Rahnella bruchi, R. bruchi)等が挙げられる。本発明の方法が、ラーネラ(Rahnella)属の細菌との抗原抗体反応を検出する場合、これらのうち1又は2以上の任意の細菌との抗原抗体反応を検出すればよいが、少なくともラーネラ・アクアティリス(Rahnella aquatilis)との抗原抗体反応を検出することが好ましい。
【0029】
シトロバクター(Citrobacter)属の細菌としては、シトロバクター・フレウンディー(Citrobacter freundii, C. freundii, CF)、シトロバクター・アマロナティカス(Citrobacter amalonaticus, C. amalonaticus)、シトロバクター・ダイバーサス(Citrobacter diversus, C. diversus)等が挙げられる。本発明の方法が、シトロバクター(Citrobacter)属の細菌との抗原抗体反応を検出する場合、これらのうち1又は2以上の任意の細菌との抗原抗体反応を検出すればよいが、少なくともシトロバクター・フレウンディー(Citrobacter freundii)との抗原抗体反応を検出することが好ましい。
【0030】
リステリア(Listeria)属の細菌としては、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes, L. monocytogenes, LM)、リステリア・イノクア(Listeria innocua, L. innocua)、リステリア・イバノビ(Listeria ivanovii, L. ivanovii)等が挙げられる。本発明の方法が、リステリア(Listeria)属の細菌との抗原抗体反応を検出する場合、これらのうち1又は2以上の任意の細菌との抗原抗体反応を検出すればよいが、少なくともリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)との抗原抗体反応を検出することが好ましい。
【0031】
エンテロバクター(Enterobacter)属の細菌としては、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae, E. cloacae, ECL)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes, E. aerogenes)、エンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii, E. sakazakii)等が挙げられる。本発明の方法が、エンテロバクター(Enterobacter)属の細菌との抗原抗体反応を検出する場合、これらのうち1又は2以上の任意の細菌との抗原抗体反応を検出すればよいが、少なくともエンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)との抗原抗体反応を検出することが好ましい。
【0032】
サルモネラ(Salmonella)属の細菌としては、サルモネラ菌(Salmonella enteritidis, S. enteritidis, SE)、サルモネラ・インファンティス(Salmonella infantis, S. infantis)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium, S. typhimurium)等が挙げられる。本発明の方法が、サルモネラ(Salmonella)属の細菌との抗原抗体反応を検出する場合、これらのうち1又は2以上の任意の細菌との抗原抗体反応を検出すればよいが、少なくともサルモネラ菌(Salmonella enteritidis)との抗原抗体反応を検出することが好ましい。
【0033】
前述の細菌以外にも、本発明の方法により検出可能な細菌の属としては、限定されるものではないが、エンテロコッカス(Enterococcus)属、モラクセラ(Moraxella)属、エロモナス(Aeromonas)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、マイクロコッカス(Micrococcus)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、カンピロバクター(Campylobacter)属、プロテウス(Proteus)属、及びビブリオ(Vibrio)属等が挙げられる。
【0034】
なお、本発明の一態様によれば、検出対象の細菌として、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する細菌(以下「腸内細菌科細菌」とする。)が含まれていてもよい。本態様において特に検出要請の高い腸内細菌科細菌としては、限定されるものではないが、飲食品や環境において特に検出要請の高い代表的な腸内細菌属である、エシェリキア属、クレブシエラ属、シトロバクター属、エンテロバクター属、プロテウス属、サルモネラ属、及びセラチア属等に属する腸内細菌科細菌が挙げられる。また、本態様において検出可能なその他の腸内細菌科細菌としては、限定されるものではないが、例えばエルシニア属、エルウィニア属、ハフニア属、モーガネラ属、オベッサムバクテリウム属、プロビデンシア属、シゲラ属、エロモナス属、及びペクトバクテリウム属等に属する腸内細菌科細菌が挙げられる。
【0035】
なお、一態様としては、検出対象の複数属の細菌として、グラム陰性菌及びグラム陽性菌の双方を含むことが好ましい。両者はその細胞膜・細胞壁の構造が大きく異なるため、従来技術では両者を同時検出することは困難であるが、本発明の方法であれば、検出に使用する抗体を適切に設計すれば、グラム陰性菌及びグラム陽性菌の同時検出も可能だからである。
【0036】
本発明の方法によれば、飲食品・環境・生体検体中の細菌の有無及び/又は存在量を、抗原抗体反応に基づき同時検出することにより、従来の培養法及びATP法と比較して、検体中の細菌の有無及び/又は存在量を短時間で簡便且つ効率的に検出することが可能となる。また、本発明の方法を用いれば、例えば、飲食品・環境・生体検体の細菌による汚染度を、遥かに迅速且つ簡便に判定することが可能となる。
【0037】
[2.検体中の複数属の細菌に由来する成分と抗原抗体反応を生じる抗体]
本発明の方法において、検体中の複数属の細菌の有無及び/又は存在量を、抗原抗体反応に基づき同時検出する手法は、特に限定されるものではない。一態様によれば、斯かる抗原抗体反応に基づく検出は、複数属の細菌に由来する成分と抗原抗体反応を生じる抗体(本発明の抗体)を検体と接触させ、接触後の検体中に生じる抗原抗体反応の有無及び/又は強度を測定することにより、好適に行われる。以下、斯かる本発明の抗体について説明する。
【0038】
本発明において「抗体」とは、特定の抗原又は物質を認識しそれに結合するタンパク質で、免疫グロブリン(Ig)という場合もある。一般的な抗体は、通常、ジスルフィド結合により相互結合された2つの軽鎖(軽鎖)及び2つの重鎖(重鎖)を有する。軽鎖にはλ鎖及びκ鎖と呼ばれる2種類が存在し、重鎖にはγ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖及びε鎖と呼ばれる5種類が存在する。その重鎖の種類によって、抗体には、それぞれIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEという5種類のアイソタイプが存在する。
【0039】
重鎖は各々、重鎖定常(CH)領域及び重鎖可変(VH)領域を含む。軽鎖は各々、軽鎖定常(CL)領域及び軽鎖可変(VL)領域を含む。軽鎖定常(CL)領域は単一のドメインから構成される。重鎖定常(CL)領域は、3つのドメイン、即ちCH1、CH2及びCH3から構成される。軽鎖可変(VL)領域及び重鎖可変(VH)領域は各々、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存性の高い4つの領域(FR-1、FR-2、FR-3、FR-4)と、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の3つの領域(CDR-1、CDR-2、CDR-3)とから構成される。重鎖定常(CH)領域は、3つのCDR(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3)及び4つのFR(FR-H1、FR-H2、FR-H3、FR-H4)を有し、これらはアミノ末端からカルボキシ末端へと、FR-H1、CDR-H1、FR-H2、CDR-H2、FR-H3、CDR-H3、FR-H4の順番で配列される。軽鎖定常(CL)領域は、3つのCDR(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3)及び4つのFR(FR-L1、FR-L2、FR-L3、FR-L4)を有し、これらはアミノ末端からカルボキシ末端へと、FR-L1、CDR-L1、FR-L2、CDR-L2、FR-L3、CDR-L3、FR-L4の順番で配列される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。
【0040】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。ポリクローナル抗体は、通常は抗原で免疫した動物の血清から調製される抗体で、構造の異なる種々な抗体分子種の混合物である。一方、モノクローナル抗体とは、特定のアミノ酸配列を有する軽鎖可変(VL)領域及び重鎖可変(VH)領域の組み合わせを含む単一種類の分子からなる抗体をいう。モノクローナル抗体は、抗体産生細胞由来のクローンから産生することも可能であるが、抗体のタンパク質のアミノ酸をコードする遺伝子配列を有する核酸分子を取得し、斯かる核酸分子を用いて遺伝子工学的に作製することも可能である。また、重鎖及び軽鎖、或いはそれらの可変領域やCDR等の遺伝子情報を用いて抗体の結合性や特異性の向上のための改変等を行うことも、この分野での当業者にはよく知られた技術である。
【0041】
また、本発明の抗体は、抗体の断片及び/又は誘導体であってもよい。抗体の断片としては、F(ab’)2、Fab、Fv等が挙げられる。抗体の誘導体としては、軽鎖及び/又は重鎖の定常領域部分に人工的にアミノ酸変異を導入した抗体、軽鎖及び/又は重鎖の定常領域のドメイン構成を改変した抗体、1分子あたり2つ以上のFc領域を有する抗体、糖鎖改変抗体、二重特異性抗体、抗体又は抗体の断片を抗体以外のタンパク質と結合させた抗体コンジュゲート、抗体酵素、タンデムscFv、二重特異性タンデムscFv、ダイアボディ(Diabody)等が挙げられる。更には、前記の抗体又はその断片若しくは誘導体が非ヒト動物由来の場合、そのCDR以外の配列の一部又は全部をヒト抗体の対応配列に置換したキメラ抗体又はヒト化抗体も、本発明の抗体に含まれる。なお、別途明記しない限り、本発明において単に「抗体」という場合、抗体の断片及び/又は誘導体も含むものとする。
【0042】
本発明の抗体が、ある細菌と抗原抗体反応を生じるとは、斯かる細菌が有する何らかの成分を抗原として、特異的に結合することをいう。本発明の抗体の抗原となる細菌の成分は制限されない。細菌の細胞外に露出する細胞壁や細胞膜等に含まれる成分でもよく、細菌の細胞外に露出しない細胞質、細胞小器官、核等に含まれる成分でもよい。本発明の抗体が、細菌の細胞外に露出しない成分と抗原抗体反応を生じる場合、斯かる細菌の成分と本発明の抗体を抗原抗体反応させるには、本発明の抗体を飲食品・環境・生体検体と接触させる前に、検体に対して細菌を溶菌させる処理を施してもよい。斯かる細菌の溶菌処理については後述する。
【0043】
本発明の抗体は、少なくともエシェリキア(大腸菌)属(Escherichia)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属(Staphylococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、クレブシエラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、
エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属、から選択される、5以上、又は6以上、又は7以上、又は8以上、又は9以上、又は10以上、又は11以上の属の細菌と抗原抗体反応を生じる抗体であることが好ましい。これらの属の具体的な細菌種については、前述したとおりである。
【0044】
中でも、本発明の抗体は、以上説明した特定細菌属及び/又は選択細菌属の何れかの細菌のリボゾームタンパク質と抗原抗体反応を生じることが好ましい。中でも、リボソームタンパク質L7/L12と抗原抗体反応を生じることが好ましい。本発明において「リボソームタンパク質L7/L12」、或いは単に「L7/L12」とは、微生物のタンパク質合成に必須のリボゾームタンパク質の1種であり、種々の細菌が共通して有するタンパク質である。首記の細菌のリボゾームタンパク質L7/L12に対して抗原抗体反応を生じる抗体及びその作製方法については、例えば本願発明者等の以前の特許出願に係る特許公報である国際公開第2000/006603号等の記載を参照することができる。
【0045】
本発明の抗体の抗原となる細菌の成分は制限されない。細菌の細胞外に露出する細胞壁や細胞膜等に含まれる成分でもよく、細菌の細胞外に露出しない細胞質、細胞小器官、核等に含まれる成分でもよい。本発明の抗体が、細菌の細胞外に露出しない成分と抗原抗体反応を生じる場合、斯かる細菌の成分と本発明の抗体を抗原抗体反応させるには、本発明の抗体を飲食品・環境・生体検体と接触させる前に、検体に対して科細菌を溶菌させる処理を施してもよい。斯かる溶菌処理については後述する。
【0046】
本発明の抗体と検出対象となる細菌との抗原抗体反応の程度は特に制限されないが、少なくとも公知の何らかの検出手法により検出できる程度の抗原抗体反応が生じればよい。抗体と細菌との抗原抗体反応を検出する手法としては、限定されるものではないが、後述の各種の公知の免疫学的測定法が挙げられる。
【0047】
また、本発明の抗体は、検体中に存在しうる1種又は2種以上の非細菌由来成分と交差反応を生じないことが好ましい。斯かる非細菌由来成分の例としては、制限されるものではないが、例えばウイルス、植物、及び/又は動物に由来する各種の生体有機化合物であって、細菌が有さない化合物が挙げられる。斯かる生体有機化合物の具体例としては、タンパク質、糖類、糖タンパク質、脂質、複合脂質、核酸等が挙げられる。本発明の抗体は、これらの非細菌由来成分のうち、少なくとも1種、又は2種以上、通常3種以上、更には4種以上、又は5種以上、又は6種以上、又は7種以上、又は8種以上、とりわけ9種以上、特に10種以上の非細菌由来の生体有機化合物と交差反応しないことが好ましい。
【0048】
抗体は極めて抗原特異性が高いため、特定の抗原を特異的に捕捉するには有効であるが、複数種の異なる対象物質の検出等には不向きであると考えられていた。ましてや、飲食品検査時の検出対象となる細菌の属及び種類は極めて多様であることから、こうした複数属の細菌を抗原抗体反応により同時に検出することは、従来は極めて困難であると考えられてきた。しかし、本発明者らは、後述の実施例に記載のように、飲食品検体又は環境検体の検査時の検出対象となる複数属の細菌と抗原抗体反応を生じ、これらの細菌の同時検出に使用できる抗体を取得することに成功した。斯かる知見は、従来の技術常識に反する極めて意外な知見である。
【0049】
本発明の抗体の構造は特に制限されないが、好ましくは以下の通りである。なお、以下に説明する構造的特徴のみから規定される抗体も、本発明の抗体に含まれるものとする。
【0050】
具体的に、本発明の抗体は、重鎖及び軽鎖の各可変領域のアミノ酸配列として、以下のアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0051】
重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列としては、配列番号1、配列番号3、及び配列番号5から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。中でも、VH配列としては、配列番号1、配列番号3、及び配列番号5から選択される何れか1つのアミノ酸配列であることがとりわけ好ましい。
【0052】
軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列として、配列番号2、配列番号4、及び配列番号6から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。中でも、VL配列としては、配列番号2、配列番号4、及び配列番号6から選択される何れか1つのアミノ酸配列であることがとりわけ好ましい。
【0053】
中でも、好ましい重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列の組み合わせとしては、制限されるものではなく、配列番号1、配列番号3、及び配列番号5から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号2、配列番号4、及び配列番号6から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)とを任意に組み合わせることが可能であるが、中でも以下の何れかの組み合わせとすることがとりわけ好ましい。
【0054】
・配列番号1のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号2のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)との組み合わせ。
【0055】
・配列番号3のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号4のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)との組み合わせ。
【0056】
・配列番号5のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号6のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)との組み合わせ。
【0057】
なお、本発明において、2つのアミノ酸配列の「相同性」とは、両アミノ酸配列をアラインメントした際に各対応箇所に同一又は類似のアミノ酸残基が現れる比率であり、2つのアミノ酸配列の「同一性」とは、両アミノ酸配列をアラインメントした際に各対応箇所に同一のアミノ酸残基が現れる比率である。なお、2つのアミノ酸配列の「相同性」及び「同一性」は、例えばBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラム(Altschul et al., J. Mol. Biol., (1990), 215(3):403-10)等を用いて求めることが可能である。
【0058】
また、ある抗体の重鎖及び軽鎖の各可変配列から、各CDRの配列を同定する方法としては、例えばKabat法(Kabat et al., The Journal of Immunology, 1991, Vol.147, No.5, pp.1709-1719)やChothia法(Al-Lazikani et al., Journal of Molecular Biology, 1997, Vol.273, No.4, pp.927-948)が挙げられる。これらの方法は本分野の技術常識であるが、例えばDr. Andrew C.R. Martin’s Groupのウェブサイト(http://www.bioinf.org.uk/abs/)等も参照できる。
【0059】
なお、あるアミノ酸に類似するアミノ酸としては、例えばアミノ酸の極性、荷電性、及びサイズに基づく以下の分類において、同一の群内に属するアミノ酸が挙げられる(何れも各アミノ酸の種類を一文字コードで表示する。)。
・芳香族アミノ酸:F、H、W、Y;
・脂肪族アミノ酸:I、L、V;
・疎水性アミノ酸:A、C、F、H、I、K、L、M、T、V、W、Y;
・荷電アミノ酸:D、E、H、K、R等;
・正荷電アミノ酸:H、K、R;
・負荷電アミノ酸:D、E;
・極性アミノ酸:C、D、E、H、K、N、Q、R、S、T、W、Y;
・小型アミノ酸:A、C、D、G、N、P、S、T、V等;
・超小型アミノ酸:A、C、G、S。
【0060】
また、あるアミノ酸に類似するアミノ酸としては、例えばアミノ酸の側鎖の種類に基づく以下の分類において、同一の群内に属するアミノ酸も挙げられる(何れも各アミノ酸の種類を一文字コードで表示する。)。
・脂肪族側鎖を有するアミノ酸:G、A、V、L、I;
・芳香族側鎖を有するアミノ酸:F、Y、W;
・硫黄含有側鎖を有するアミノ酸:C、M;
・脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸:S、T;
・塩基性側鎖を有するアミノ酸:K、R、H;
・酸性アミノ酸及びそれらのアミド誘導体:D、E、N、Q。
【0061】
本発明の抗体を作製する方法は、特に制限されない。本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合、検出対象となる細菌由来の成分を用いて作成することができる。使用可能な細菌由来の成分としては、細菌の菌体そのもの、それを溶菌した溶解物、その電気泳動による分画物等が挙げられる。細菌溶解物の電気泳動による分画物を用いる場合、どの分画を用いるかは制限されないが、例えば分子量約10~20kDa付近に相当する分画を選択して用いることが好ましい。また、細菌由来成分として、細菌に含まれるリボソームタンパク質を用いることが好ましく、とりわけ、リボソームタンパク質L7/L12を用いることが好ましい。これら細菌由来の成分を、必要に応じてアジュバントとともに動物へ接種せしめ、その血清を回収することで、前記所定の複数種の細菌と抗原抗体反応を生じる抗体(ポリクローナル抗体)を含む抗血清を得ることができる。接種する動物としてはヒツジ、ウマ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等であり、特にポリクローナル抗体作製にはヒツジ、ウサギ等が好ましい。また、得られた抗血清より抗体を精製・分画し、所望の細菌と抗原抗体反応を生じること、及び、飲食品、環境、又は生体由来の他の成分と交差反応を生じないことを指標として、公知の手法により適宜スクリーニングを行うことにより、より特異性に優れた所望の抗体を得ることが可能である。更に、所望の抗体分子を産生する抗体産生細胞を単離し、骨髄腫細胞と細胞融合させて自律増殖能を持ったハイブリドーマを作製することにより、モノクローナル抗体を得ることも可能である。また、動物への感作を必要としない方法として、抗体の重鎖可変(VH)領域若しくは軽鎖可変(VL)領域又はそれらの一部を発現するファージライブラリーを用いて、検出対象となる細菌由来の成分と特異的に結合する抗体や特定のアミノ酸配列からなるファージクローンを取得し、その情報から抗体を作製する技術も利用可能である。
【0062】
また、上記手順により所望の抗体が得られれば、斯かる抗体の構造、具体的には重鎖定常(CH)領域、重鎖可変(VH)領域、軽鎖定常(CL)領域、及び/又は軽鎖可変(VL)領域のアミノ酸配列の一部又は全部を、公知のアミノ酸配列解析法を用いて解析することができる。こうして得られた所望の抗体のアミノ酸配列に対し、抗体の結合性や特異性の向上のための改変等を行う手法も、当業者には公知である。更には、所望の抗体のアミノ酸配列の全部又は一部(特に重鎖可変(VH)領域及び軽鎖可変(VL)領域の全部又は一部、中でも各CDRのアミノ酸配列)を利用し、必要に応じて公知の抗体のアミノ酸配列の一部(特に重鎖定常(CH)領域及び軽鎖定常(CL)領域、並びに場合により重鎖可変(VH)領域及び軽鎖可変(VL)領域の各FRのアミノ酸配列)と組み合わせることにより、同様の抗原特異性を有する蓋然性の高い別の抗体を設計することも可能である。
【0063】
所望の抗体のアミノ酸配列が特定されれば、公知の手法により、斯かる所望の抗体のアミノ酸配列の全部又は一部をコードする塩基配列を有する核酸分子を作製し、斯かる核酸分子を用いて遺伝子工学的に抗体を作製することも可能である。更には、斯かる塩基配列から所望の抗体の各構成要素を発現するためのベクターやプラスミド等を作製し、宿主細胞(哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞、微生物細胞等)に導入して、当該抗体を産生させることも可能である。また、得られた抗体の性能の向上や副作用の回避を目的に、抗体の定常領域の構造に改変を入れることや、糖鎖の部分での改変を行うことも、当業者によく知られた技術によって適宜行うことができる。
【0064】
なお、以上説明した、本発明の抗体を製造する方法、本発明の抗体をコードする核酸分子、斯かる核酸分子を含むベクター又はプラスミド、斯かる核酸分子やベクター又はプラスミドを含む細胞、更には本発明の抗体を産生するハイブリドーマ等も、本発明の対象となる。
【0065】
なお、本明細書に記載の抗体の作製・改変等の技法は、何れも当業者には公知であるが、例えばAntibodies; A laboratory manual, E. Harlow et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2014)等の記載を参照することができる。また、本明細書に記載の分子生物学的技法(例えばアミノ酸配列解析法、核酸分子の設計・作製法、ベクターやプラスミドの設計・作製法等)も、何れも当業者には公知であるが、例えばMolecular Cloning, A laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Shambrook, J. et al. (1989)等の記載を参照することができる。
【0066】
このように、各細菌のリボソームタンパク質を認識して抗原抗体反応を生じる抗体(本発明の抗体)を用い、これを検体と接触させて抗原抗体反応を検出する態様は、本発明の方法の好ましい態様である。ここで、本発明の抗体を検体と接触させる前に、検体中に存在する細菌のリボソームタンパク質を細菌の細胞膜外に露出させることで、検出感度を向上させることができる。従って、後述の本発明の抗体を用いる本発明の方法の好ましい態様においては、本発明の抗体を検体に接触させる前に、検体に対して細菌を溶菌させる処理を施してもよい。斯かる細菌の溶菌処理としては、限定されるものではないが、加熱処理、超音波処理、界面活性剤による化学処理等が挙げられる。溶菌処理に用いられる条件は、検体に含まれる細菌の種類に応じて適宜決定可能である。また、本発明の抗体を用いる本発明の方法の好ましい態様において、本発明の抗体を用いて飲食品・環境・生体検体と接触させる手法も、任意である。
【0067】
本発明の抗体を用いる本発明の方法の好ましい態様において、抗原抗体反応を検出するための免疫学的測定法は、限定されない。免疫学的測定法の例としては、限定されるものではなく、単一の抗体を用いる方法でもよく、二種以上の抗体を用いる方法でもよい。
【0068】
単一の抗体を用いる免疫学的測定法の例としては、限定されるものではないが、細菌の抗原を担持させたマイクロタイタープレートを用い、抗体による抗原抗体反応を確認するELISA(酵素結合免疫吸着)法;センサ表面に抗体(又は抗原)を担持させ、抗原(又は抗体)との抗原抗体反応を電気的(例えば交流インピーダンス法、FET(電界効果トランジスタ)法等)又は光学的(例えばSPR(表面プラズモン共鳴)法等)に確認するバイオセンサ等、種々の公知の免疫学的測定を挙げることができるが、何れに対しても本発明の方法を用いることが可能である。
【0069】
二種以上の抗体を用いる免疫学的測定法の例としては、限定されるものではないが、抗体を担持させたマイクロタイタープレートを用いるELISA法;抗体を担持させたラテックス粒子(例えばポリスチレンラテックス粒子等)を用いるラテックス粒子凝集測定法;抗体を担持させたメンブレン等を用いるイムノクロマト法;着色粒子又は発色能を有する粒子、酵素若しくは蛍光体等で標識した検出用抗体と、磁気微粒子等の固相担体に固定化した捕捉用抗体とを用いるサンドイッチアッセイ法等、種々の公知の免疫学的測定法が挙げられる。なお、サンドイッチアッセイ法等の検出用抗体及び捕捉用抗体という二種以上の抗体を併用する免疫学的測定法の場合、本発明の抗体は捕捉用抗体として用いてもよく、検出用抗体として用いてもよい。
【0070】
[3.検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するための方法(2)]
特に本発明では、サンドイッチアッセイ法として、検体と、固相担体と連結された捕捉用抗体と、検出用標識を有する検出用抗体との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉すると共に、検体中の細菌を標識する工程、及び、検体中の検出対象細菌を検出用標識に基づき検出する工程により、検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出する方法を用いることが好ましい。以下、斯かる方法(これを以下適宜「本発明の方法(2)」と略称する。)について説明する。
【0071】
本発明の方法(2)は、(I)検体と、固相担体と連結された捕捉用抗体と、検出用標識を有する検出用抗体との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉すると共に、検体中の細菌を標識する工程、及び(II)検体中の検出対象細菌を検出用標識に基づき検出する工程により、検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出することを含む方法である。本方法においては更に、捕捉用抗体及び検出用抗体のうち、一方の抗体が、1種又は2種以上の検出対象細菌と抗原抗体反応を生じる、1種又は2種以上の特異性抗体であり、他方の抗体が、前記検出対象細菌を含む5以上の属の細菌と抗原抗体反応を生じる、1種又は2種以上の汎用性抗体である。
【0072】
本発明の方法(2)の一態様(これを適宜「態様A」とする。)としては、前記工程(I)が、
(Ia-1)検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と細菌との抗原抗体反応により、検体中の細菌を標識する工程、及び、
(Ia-2)検出用抗体により標識された細菌を含む検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と細菌-検出用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉する工程
を含んでいてもよい。
【0073】
本発明の方法(2)の別の態様(これを適宜「態様B」とする。)としては、前記工程(I)が、
(Ib-1)検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と細菌との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉する工程、及び、
(Ib-2)捕捉用抗体により捕捉された細菌を含む検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と細菌-捕捉用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の細菌を標識する工程
を含んでいてもよい。
【0074】
何れの態様においても、捕捉用抗体が汎用性抗体であり、検出用抗体が特異性抗体であってもよく、検出用抗体が汎用性抗体であり、捕捉用抗体が特異性抗体であってもよい。また、前記の汎用性抗体及び特異性抗体のうち、何れを本発明の抗体とすることも可能である。中でも、本発明の一態様によれば、本発明の抗体は、限定されるものではないが、汎用性抗体として用いることが好ましい。なお、別途断り書きのない限り、本明細書において「特異性抗体」とは、最終的な検出対象となる1種又は2種以上の細菌(検出対象細菌)と抗原抗体反応を生じる抗体を意味し、「汎用性抗体」とは、前記の検出対象細菌を含む5以上、又は6以上、又は7以上、又は8以上、又は9以上、又は10以上、又は11以上の属の細菌と抗原抗体反応を生じる抗体を意味するものとする。
【0075】
本発明の方法(2)において、態様A及び態様Bのうち何れの形態を選択するかは、実際に使用する免疫測定法の種類や検体の種類に応じて決定すればよい。免疫測定法としては、限定されるものではないが、抗体を担持させたマイクロタイタープレートを用いるELISA(酵素結合免疫吸着)法;抗体を担持させたラテックス粒子(例えばポリスチレンラテックス粒子等)を用いるラテックス粒子凝集測定法;抗体を担持させたメンブレン等を用いるイムノクロマト法;着色粒子又は発色能を有する粒子、酵素若しくは蛍光体等で標識した検出用抗体と、磁気微粒子等の固相担体に固定化した捕捉用抗体とを用いるサンドイッチアッセイ法等、種々の公知の免疫学的測定法が挙げられる。
【0076】
以下、特に免疫測定法としてイムノクロマト法を使用し、態様Aに係る本発明の方法(2)を実施する場合を例として説明するが、他の免疫測定法を使用する場合は各特徴を適宜変更して実施することができる。
【0077】
前記工程(Ia-1)、即ち、検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と細菌との抗原抗体反応により、検体中の細菌を標識する工程では、検出用標識を有する検出用抗体を検体と接触させ、検出用抗体と細菌との抗原抗体反応により、検体中の細菌を標識する。検体を検出用抗体と接触させる手法は制限されないが、通常は検出用抗体が含浸された部材領域に、水系検体として調製した検体を導入して一定時間維持することにより実施すればよい。具体的な態様は工程(a)の捕捉の態様等によっても異なるが、例として、捕捉用抗体が固定化された固相担体(多孔膜)の上流に、検出用抗体が添着されたコンジュゲートパッドを配置し、水系検体として調製した検体をコンジュゲートパッド部に導入して透過させることにより、検体と検出用抗体を接触させればよい。別の例として、固相担体として流路を用いる場合には、流路上に固定された捕捉用抗体の位置よりも上流側で、又は固相担体への導入前に、水系検体として調製した検体と検出用抗体を接触させればよい。
【0078】
前記工程(Ia-2)、即ち、検出用抗体により標識された細菌を含む検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と細菌-検出用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉する工程では、捕捉用抗体を検体と接触させ、捕捉用抗体と細菌との抗原抗体反応により、検体中の細菌を捕捉する。検体を捕捉用抗体と接触させる手法は制限されないが、通常は捕捉用抗体の存在する領域に水系検体として調製した検体を導入して一定時間維持することにより実施すればよい。具体的な態様は捕捉用抗体の固相担体の種類等によっても異なるが、例として、固相担体として多孔膜を使用し、捕捉用抗体を固定化した多孔膜に細菌-検出用抗体複合体を導入して透過させることにより、多孔膜に固定化された捕捉用抗体に検体中の細菌を捕捉させればよい。別の例として、固相担体として流路上の一領域に捕捉用抗体を固定化し、当該流路に細菌-検出用抗体複合体を流通させることにより、当該流路上の一領域に固定化された捕捉用抗体に検体中の細菌を捕捉させてもよい。
【0079】
前記工程(II)、即ち、検体中の検出対象細菌を検出用標識に基づき検出する工程では、捕捉用抗体により捕捉され、検出用抗体により標識された検出対象の細菌を、その検出用標識に基づき検出する。その検出法は特に制限されず、検出用標識の種類に応じて適宜選択すればよいが、例えば金コロイド等の金属コロイドを検出用標識として用いた場合、検出対象細菌に結合した金コロイドの有無又は存在量を、目視やカメラ等任意の手法で検出すればよい。
【0080】
以上説明した本発明の方法(2)によれば、多数種の細菌と広く抗原抗体反応を生じる汎用性抗体と、特定種の細菌とのみ特異的に抗原抗体反応を生じる特異性抗体を適切に組み合わせることにより、所望の細菌を検体中の他の細菌や他の成分から識別し、簡便かつ効率的に検出できることが可能となる。特に、複数の特異性抗体を適切に組み合わせて用いることにより、種々の所望の組み合わせの細菌に対応した検出系の設計が可能となる。また、捕捉用抗体及び検出用抗体を使用する免疫測定法であれば、任意の免疫測定法を利用して本発明の方法(2)を実施することができる。
【0081】
具体的に、本発明の抗体を前記の汎用性抗体として用いる場合には、最終的な検出対象となる細菌を含む広範な属の(通常5属以上の)細菌と抗原抗体反応を生じる(即ち、比較的特異性の低い)本発明の抗体を汎用性抗体として用意すると共に、汎用性抗体が抗原抗体反応を生じる細菌のうち、最終的な検出対象の細菌に対して特異的に抗原抗体反応を生じ、その他の細菌とは抗原抗体反応を生じない抗体を特異性抗体として用意し、これらを組み合わせて用いればよい。
【0082】
前述のように、汎用性抗体は、捕捉用抗体として用いてもよいし、検出用抗体として用いてもよいが、検出用抗体として用いることが好ましい。検出用抗体には、検出用の標識を施す必要があるが、用いる抗体種に応じて標識条件(pH、塩濃度、緩衝液種類など)の最適化を行う必要がある。汎用性抗体を検出用抗体として用いることで、検出対象の細菌が変わっても、同一の汎用性抗体を使用できるので、かかる標識条件最適化を行う必要が無く、サンドイッチアッセイ用のキットを製造する上で有利な効果を有する。
【0083】
一方、前述の汎用性抗体を前記の特異性抗体として用いる場合には、最終的な検出対象となる2属以上の細菌と抗原抗体反応を生じ、それ以外の属の細菌とは抗原抗体反応を生じない(即ち、比較的特異性の高い)本発明の抗体を特異性抗体として用意すると共に、検出対象の細菌に加えてその他の(本発明の抗体が抗原抗体反応を生じない)広範な属の細菌と抗原抗体反応を生じる抗体を汎用性抗体として用意し、これらを組み合わせて用いればよい。
【0084】
本発明の方法(2)において、特異性抗体は、限定された属の細菌とのみ抗原抗体反応を生じることが好ましい。具体的には、特異性抗体が抗原抗体反応を生じる細菌の範囲を、検出対象となる細菌の範囲と一致させる。単一の特異性抗体のみを用いる場合には、その特異性抗体が抗原抗体反応を生じる細菌の範囲を、検出対象となる細菌の範囲と一致させる。一方、2以上の特異性抗体を併用する場合には、それら特異性抗体が各々抗原抗体反応を生じる細菌の範囲を合わせた場合に、検出対象となる細菌の範囲と一致すればよい。特に後者の態様によれば、各々別の細菌と抗原抗体反応を生じる複数の特異性抗体を適切に組み合わせることによって、検出対象とする細菌の範囲を種々調整することが可能となり、極めて有利である。
【0085】
本発明の方法(2)において、各々の特異性抗体は、少なくとも1つの属の細菌と抗原抗体反応を生じればよい。各特異性抗体が抗原抗体反応を生じる具体的な細菌の属は限定されないが、少なくともエシェリキア(大腸菌)属(Escherichia)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属(Staphylococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、クレブシェラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属から選択される1以上の属の細菌と抗原抗体反応を生じることが好ましい。
【0086】
本発明の方法(2)において、各々の汎用性抗体は、少なくともエシェリキア(大腸菌)属(Escherichia)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属(Staphylococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、クレブシエラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属から選択される、5以上、又は6以上、又は7以上、又は8以上、又は9以上、又は10以上、又は11以上の属の細菌と抗原抗体反応を生じる抗体であることが好ましい。
【0087】
本発明の方法(2)において、汎用性抗体及び特異性抗体の構造は特に限定されないが、重鎖及び軽鎖の各可変領域のアミノ酸配列として、以下のアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0088】
汎用性抗体の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列としては、配列番号1、配列番号3、及び配列番号5から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。中でも、VH配列としては、配列番号1、配列番号3、及び配列番号5から選択される何れか1つのアミノ酸配列であることがとりわけ好ましい。
【0089】
汎用性抗体の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列としては、配列番号2、配列番号4、及び配列番号6から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。中でも、VL配列としては、配列番号2、配列番号4、及び配列番号6から選択される何れか1つのアミノ酸配列であることがとりわけ好ましい。
【0090】
汎用性抗体として好ましい重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列の組み合わせとしては、制限されるものではなく、配列番号1、配列番号3、及び配列番号5から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号2、配列番号4、及び配列番号6から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)とを任意に組み合わせることが可能であるが、中でも以下の何れかの組み合わせとすることがとりわけ好ましい。
【0091】
・配列番号1のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号2のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)との組み合わせ。
【0092】
・配列番号3のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号4のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)との組み合わせ。
【0093】
・配列番号5のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号6のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)との組み合わせ。
【0094】
一方、特異性抗体の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列としては、配列番号7、配列番号9、配列番号11、及び配列番号13から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。中でも、VH配列としては、配列番号7、配列番号9、配列番号11、及び配列番号13から選択される何れか1つのアミノ酸配列と同一の配列であることがとりわけ好ましい。
【0095】
特異性抗体の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列としては、配列番号8、配列番号10、配列番号12、及び配列番号14から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。中でも、VL配列としては、配列番号8、配列番号10、配列番号12、及び配列番号14から選択される何れか1つのアミノ酸配列と同一の配列であることがとりわけ好ましい。
【0096】
特異性抗体として好ましい重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列の組み合わせとしては、制限されるものではなく、配列番号7、配列番号9、配列番号11、及び配列番号13から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号8、配列番号10、配列番号12、及び配列番号14から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)とを任意に組み合わせることが可能であるが、中でも以下の何れかの組み合わせとすることがとりわけ好ましい。
【0097】
・配列番号7のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号8のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)との組み合わせ。
【0098】
・配列番号9のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号10のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)との組み合わせ。
【0099】
・配列番号11のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号12のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)との組み合わせ。
【0100】
・配列番号13のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号14のアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)との組み合わせ。
【0101】
[4.検体中の細菌の有無及び/又は存在量を検出するためのキット]
前述した本発明の方法に使用するべく、前述した本発明の抗体を含むキット(本発明のキット)も、本発明の対象となる。
【0102】
本発明のキットは、本発明の抗体に加えて、本発明の抗体を使用して本発明の方法を実施するのに必要な1種又は2種以上の試薬、検出用装置若しくはその構成部材、及び/又は、本発明の方法を実施するための手順を記載した指示書を含む。斯かる試薬の種類や指示書の記載内容、更には本発明のキットに含まれる他の構成要素は、複数属の細菌の検出に使用される具体的な免疫学的測定法の種類に応じて適宜決定すればよい。
【0103】
本発明のキットが検出用装置又はその構成部材を含む場合、斯かるキットにより構成される装置は、本発明の抗体を使用して本発明の方法を実施するのに必要な構成要素を備えた装置(以下適宜「本発明の装置」と略称する。)である。本発明の装置の具体的な構成要素は、本発明の方法の具体的な実施形態である免疫学的測定法の種類に応じて、適宜調整することができる。前述のように、免疫学的測定法の例としては、限定されるものではないが、抗体を担持させたマイクロタイタープレートを用いるELISA(酵素結合免疫吸着)法;抗体を担持させたラテックス粒子(例えばポリスチレンラテックス粒子等)を用いるラテックス粒子凝集測定法;抗体を担持させたメンブレン等を用いるイムノクロマト法;着色粒子又は発色能を有する粒子、酵素若しくは蛍光体等で標識した検出用抗体と、磁気微粒子等の固相担体に固定化した捕捉用抗体とを用いるサンドイッチアッセイ法、1つの抗体を用いるELISA法、バイオセンサ法等、種々の公知の免疫学的測定法が挙げられるところ、斯かる種々の免疫学的測定法を実施するために必要な構成要素を備えた装置が、本発明の装置となる。
【0104】
また、検体中の複数属の細菌の有無及び/又は存在量を同時に且つ簡易に検出可能な装置の具体例としては、ラテラルフロー方式の装置と、フロースルー方式の装置とを挙げることができる。ここで、ラテラルフロー方式とは、捕捉用抗体を表面に固定化させた検出領域を含むメンブレンに対し、検出対象検体及び検出用抗体を平行に展開させ、メンブレンの検出領域に捕捉された目的物質を検出する方法である。一方、フロースルー方式とは、捕捉用抗体を表面に固定化させたメンブレンに、検出対象検体及び検出用抗体を垂直に通過させ、メンブレンの表面に捕捉された目的物質を検出する方法である。本発明の方法は、ラテラルフロー方式の装置とフロースルー方式の装置の何れに対しても適用することが可能である。
【0105】
ラテラルフロー方式の装置及びフロースルー方式のイムノクロマト検出装置はいずれも公知であり、本開示で説明する事項以外の手順については当業者が技術常識に基づいて適宜設計できる。以下、ラテラルフロー方式のイムノクロマト検出装置の検出機構の概略構成について、図面を参照しながらについて説明するが、これらはあくまでも検出手順の概略構成の一例に過ぎず、ラテラルフロー方式のイムノクロマト検出装置の構成は図面に例示する態様には何ら限定されない。
【0106】
図1は、ラテラルフロー方式のイムノクロマト検出装置の検出機構の一例である、ストリップ状の検出機構の概略構成を示す断面図である。
図1の検出機構10は、クロマト展開用の不溶性膜担体1上のストリップ長さ方向一端側(検体流れBの上流側)に、ストリップ状の検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)2(このパッドに検出用抗体が含浸されている。)及び検体添加用部材(サンプルパッド)3が配置され、他端側(検体流れBの下流側)に吸収用部材(吸収パッド)4が配置されている。不溶性膜担体1上のストリップ長さ方向中央部には、捕捉用抗体が固定化された部位5、必要に応じて対照試薬が固定化された部位6が配置されている。なお、対照試薬は、被分析物質とは結合せず検出用抗体とは結合する試薬である。検体Aを検体添加用部材(サンプルパッド)3上に適用すると、検体Aは、検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)2を通過して不溶性膜担体1を検体流れAの方向に流れる。この際に、検体中の被分析物質(本発明では検出対象の細菌)が検出用抗体と結合して、被分析物質-検出用抗体複合体が形成される。検体Aが捕捉用抗体固定部位5を通過すると、検体中の被分析物質が捕捉用抗体と結合して、捕捉用抗体-被分析物質-検出用抗体複合体が形成される。さらに、検体Aが対照試薬固定部位6を通過すると、検出用抗体のうち被分析物質と結合していないものが対照試薬6と結合し、これによって、検査の終了(すなわち検体Aが捕捉用抗体5を通過したこと)を確認できる。ここで、捕捉用抗体固定部位5に存在する捕捉用抗体-被分析物質-検出用抗体複合体中の検出用抗体が有する標識を、公知の手段で検出することにより、被分析物質の有無又は存在量を検出することが出来る。必要に応じて、検出用抗体の標識を公知の手法により増感して、検出を容易にしてもよい。
【0107】
捕捉用抗体に使用する固相担体の種類は特に制限されないが、具体的には、セルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、PVDF(PolyVinylidene DiFluoride)、グラスファイバー等からなる多孔膜;ガラス、プラスチック、PDMS(Poly(dimethylsiloxane))、シリコン等からなる流路;糸、紙、繊維等が挙げられる。
固相担体に抗体を連結する手法も特に制限されないが、具体的には抗体の疎水性を利用した物理吸着による固定、抗体の官能基を利用した化学結合による固定等の手法が挙げられる。
【0108】
検出用抗体に使用する検出用標識の種類も特に制限されず、検出方法に応じて適宜選択すればよいが、具体的には金コロイド、白金コロイド、パラジウムコロイド等の金属コロイド;セレニウムコロイド、アルミナコロイド、シリカコロイド等の非金属コロイド;着色樹脂粒子、染料コロイド、着色リポソーム等の不溶性粒状物質;アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ等の発色反応触媒酵素;蛍光色素、放射性同位体;化学発光標識、生物発光標識、電気化学発光標識等が挙げられる。
【0109】
抗体に標識を付加する手法も特に制限されないが、具体的には抗体の疎水性を利用した物理吸着、抗体の官能基を利用した化学結合等の手法が挙げられる。
【0110】
なお、検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)2及び検体添加用部材(サンプルパッド)3は、任意に省略することもできる。本機構において検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)2を有しない場合、検体A及び検出用抗体を、予め混合した状態又は別々の状態で、同時に又は順次に、不溶性膜担体1上の一端に適用することにより、上記の検査と同様の検査を行うことができる。
【0111】
また、捕捉用抗体と検出用抗体とを入れ替えても、同様の検出が可能な検出キットを構築することができる。すなわち、捕捉用抗体が汎用性抗体であり、検出用抗体が特異性抗体であってもよく、検出用抗体が汎用性抗体であり、捕捉用抗体が特異性抗体であってもよい。また、前記の汎用性抗体及び特異性抗体のうち、何れか又は両方を本発明の抗体とすることも可能であるのは、前述のとおりである。
【0112】
中でも、前述のように検出用抗体を汎用性抗体とすることがさらに好ましい。例として、金コロイドを検出用の標識として用いる場合、使用する抗体種に応じて、標識条件(pH、塩濃度、ブロッキング剤、緩衝液種類、分散液種類、遠心条件など)の過度な最適化を行う必要がある。一方、捕捉用抗体は不溶性膜担体上に塗布・乾燥するのみなので抗体種に応じた過度な条件最適化は不要である。本発明の汎用性抗体は、細菌種に依らず広く抗原抗体反応するため、検出対象の細菌が変わっても、同一の汎用性抗体(検出用抗体)を使用できるので、かかる過度な標識条件最適化を行う必要が無く、イムノクロマトキットを製造する上で極めて有利な効果を奏する。
【0113】
以上説明した本発明の一態様に係るラテラルフロー方式のイムノクロマト検出方法及び装置では、検出対象となる2以上の属の細菌を、単一の検出ライン(
図1の例では捕捉用抗体固定部位5)において一括で検出することが可能となる。従来のラテラルフロー方式のイムノクロマト検出方法及び装置では、複数の検出対象物を検出する場合、各検出対象物毎に検出ライン(
図1の例では捕捉用抗体固定部位5)を設けなければならず、惹いては検出対象物の数に対応する検出ラインを設ける必要があった。従って、装置の大型化を招いていた上に、検出対象物の数が多すぎる場合にはそもそも一台の装置での検出が困難又は不可能であった。これに対して、本発明の一態様に係るラテラルフロー方式のイムノクロマト検出方法及び装置では、検出用抗体及び捕捉用抗体の組み合わせを適切に組み合わせることにより、単一の検出ラインで複数属の検出対象細菌を同時に検出可能である。これにより、装置の小型化が可能であると共に、検出対象細菌の種数・属数が多い場合でも、原理的には一台の装置で検出が可能であり、検出対象細菌の総量を単一の検出ラインで判定できる。
【0114】
また、本発明では、上述のイムノクロマトキットを製造するための方法であって、前記不溶性膜担体上に、前記検出用抗体が添着された前記コンジュゲートパッドを積層する工程、及び前記不溶性膜担体上の前記コンジュゲートパッドに対してクロマト展開方向に、前記捕捉用抗体を固定化する工程を少なくとも含む製造方法も提供される。
【0115】
ここで、前記の捕捉用抗体及び検出用抗体のうち、何れを前記の特異性抗体とし、何れを前記の汎用性抗体としてもよいが、前記捕捉用抗体として前記特異性抗体を用い、前記検出用抗体として前記汎用性抗体を用いることが好ましい。
【0116】
ここで、前記特異性抗体としては、少なくともエシェリキア(大腸菌)属(Escherichia)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属(Staphylococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、クレブシェラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属から選択される1以上の属の検出対象細菌と特異的に抗原抗体反応を生じる抗体であることが好ましい。
【0117】
また、汎用性抗体としては、少なくともエシェリキア(大腸菌)属(Escherichia)、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属(Staphylococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、クレブシェラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、ラーネラ(Rahnella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、リステリア(Listeria)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、及びサルモネラ(Salmonella)属から選択される5以上の属の検出対象細菌と特異的に抗原抗体反応を生じることが好ましい。
【0118】
以上の本発明のイムノクロマトキットの製造方法によれば、複数種のバリエーションのイムノクロマトキットを製造/量産するに当たり、検出用抗体として同一の汎用性抗体を共通に使用することが可能であるため、捕捉用抗体の選択のみを行うことで複数種のイムノクロマトキットを製造することができる点でも、極めて有効である。
【実施例】
【0119】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例にも束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0120】
[1.抗体の作製]
・汎用性抗体A(PA51B2)の作製
免疫原の細菌として緑膿菌(PA)を用いた。緑膿菌のリボソームタンパク質L7/L12に対する抗体を、国際公開第2000/06603号公報に記載の方法を参照して作製した。具体的には、緑膿菌のリボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列の全部をコードしたDNAを組み込んだ発現ベクターで形質転換した大腸菌をLB培地等を用いて培養し、アフィニティカラムにより発現ベクター由来のタグ配列を利用して融合タンパク質として精製した。この緑膿菌L7/L12全長タンパク質を免疫原として、ハイブリドーマ取得の定法に従い、免疫原の濃度が0.4mg/mLとなるようPBSで調製し、フロイントのアジュバントを同量加え、免疫原量が50μg/回となるようマウスに4回免疫した。試験採血により血清抗体価上昇を確認後、マウスの脾臓細胞を摘出した。摘出したマウス脾臓細胞をミエローマ細胞と融合し、種々のハイブリドーマを取得した。
【0121】
取得した種々のハイブリドーマをHAT培地で培養し、培養上清中の抗体を用いてスクリーニングを行った。スクリーニングは、複数属の細菌溶解物を抗原として固相化したELISA法により実施し、大腸菌(EC)、黄色ブドウ球菌(SA)、緑膿菌(PA)、枯草菌(BS)、クレブシエラ・ニューモニエ(KP)、セラチア・リクファシエンス(SL)、ラーネラ・アクアティリス(RA)、シトロバクター・フレウンディー(CF)、リステリア・モノサイトゲネス(LM)、エンテロバクター・クロアカ(ECL)、及びサルモネラ菌(SE)という11菌種の細菌の溶解物と同時に反応性を示す抗体を産生するハイブリドーマを選択した。モノクローナル抗体産生の定法に従い、選択したハイブリドーマを、ウシ胎児血清(FBS)を10%添加したTIL MediaI培地で培養し、マウスの腹腔内に投与し、腹水を回収した。回収した腹水は遠心により浮遊物・赤血球を分離後、目開き0.45μmのフィルタでろ過した。得られたろ液をProtein Gカラムに通して抗体を吸着させることにより、マウス腹水から本発明の抗体に該当する汎用性抗体A(PA51B2)を精製取得した。
【0122】
・汎用性抗体B(LP54A3)の作製
免疫原の細菌としてレジオネラ菌(LP)を用い、レジオネラ菌のリボソームタンパク質L7/L12を免疫原とした他は、汎用性抗体A取得の手順と同様の手順で、本発明の抗体に該当する汎用性抗体B(LP54A3)を作製した。
【0123】
・汎用性抗体C(CP141A190.1)の作製
免疫原の細菌としてクラミジア菌(CP)を用い、クラミジア菌のリボソームタンパク質L7/L12を免疫原とした他は、汎用性抗体A取得の手順と同様の手順で、本発明の抗体に該当する汎用性抗体C(CP141A190.1)を作製した。
【0124】
・特異性抗体A(HI142D11.3)の作製
免疫原の細菌としてインフルエンザ菌(HI)を用いた。インフルエンザ菌のリボソームタンパク質L7/L12に対する抗体を、国際公開第2000/06603号公報に記載の方法を参照して作製した。具体的には、インフルエンザ菌のリボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列の全部をコードしたDNAを組み込んだ発現ベクターで形質転換した大腸菌をLB培地等を用いて培養し、アフィニティカラムにより発現ベクター由来のタグ配列を利用して融合タンパク質として精製した。このインフルエンザ菌L7/L12全長タンパク質を免疫原として、ハイブリドーマ取得の定法に従い、免疫原の濃度が0.4mg/mLとなるようPBSで調製し、フロイントのアジュバントを同量加え、免疫原量が50μg/回となるようマウスに4回免疫した。試験採血により血清抗体価上昇を確認後、マウスの脾臓細胞を摘出した。摘出したマウス脾臓細胞をミエローマ細胞と融合し、種々のハイブリドーマを取得した。
【0125】
取得した種々のハイブリドーマをHAT培地で培養し、培養上清中の抗体を用いてスクリーニングを行った。スクリーニングは、前述したELISA法により実施し、9菌種(大腸菌(EC)、緑膿菌(PA)、クレブシエラ・ニューモニエ(KP)、セラチア・リクファシエンス(SL)、ラーネラ・アクアティリス(RA)、シトロバクター・フレウンディー(CF)、リステリア・モノサイトゲネス(LM)、エンテロバクター・クロアカ(ECL)、及びサルモネラ菌(SE))の細菌溶解物と同時に反応性を示す抗体を産生するハイブリドーマを選択した。モノクローナル抗体産生の定法に従い、選択したハイブリドーマをウシ胎児血清(FBS)を10%添加したTIL MediaI培地で培養し、マウスの腹腔内に投与し、腹水を回収した。回収した腹水は遠心により浮遊物・赤血球を分離後、目開き0.45μmのフィルタでろ過した。得られたろ液をProtein Gカラムに通して抗体を吸着させることにより、得られた特異性抗体A(HI142D11.3)をマウス腹水から精製取得した。
【0126】
・特異性抗体B(SA75B2)の作製
同様に、免疫原の細菌として黄色ブドウ球菌(SA)を用い、前記と同様の手順で、種々のハイブリドーマを取得したのち、2菌種(黄色ブドウ球菌(SA)及び枯草菌(BS))の細菌溶解物と反応性を示す抗体を産生するハイブリドーマを選択した。その後は前述と同様の手順で、特異性抗体B(SA75B2)を作製した。
【0127】
・特異性抗体C(PA78A2)の作製
免疫原の細菌として緑膿菌(PA)を用い、緑膿菌のリボソームタンパク質L7/L12を免疫原とした他は、汎用性抗体A取得の手順と同様の手順で、種々のハイブリドーマを取得したのち、緑膿菌(PA)1菌種の細菌溶解物と反応性を示す抗体を産生するハイブリドーマを選択した。その後は前述と同様の手順で、特異性抗体C(PA78A2)を作製した。
【0128】
・特異性抗体D(EC50C1)の作製
同様に、免疫原の細菌として大腸菌(EC)を用い、大腸菌のリボソームタンパク質L7/L12を免疫原とした他は、汎用性抗体A取得の手順と同様の手順で、種々のハイブリドーマを取得したのち、大腸菌(EC)、クレブシエラ・ニューモニエ(KP)、セラチア・リクファシエンス(SL)、ラーネラ・アクアティリス(RA)、シトロバクター・フロインディー(CF)、エンテロバクター・クロアカ(ECL)、及びサルモネラ菌(SE)という7菌種の細菌溶解物と反応性を示す抗体を産生するハイブリドーマを選択した。その後は前述と同様の手順で、特異性抗体D(EC50C1)を作製した。
【0129】
・汎用性抗体A~C及び特異性抗体A~Dの重鎖及び軽鎖各可変配列のアミノ酸配列決定
上記手順で作製した汎用性抗体A~C(本発明の抗体)及び特異性抗体A~Dについて、重鎖及び軽鎖各可変配列のアミノ酸配列の一例を、常法に従って決定した。各アミノ酸配列と各配列番号との対応を以下に示す。
【0130】
・汎用性抗体A(PA51B2):
重鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号1)
軽鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号2)
・汎用性抗体B(LP54A3):
重鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号3)
軽鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号4)
・汎用性抗体C(CP141A190.1):
重鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号5)
軽鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号6)
・特異性抗体A(HI142D11.3):
重鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号7)
軽鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号8)
・特異性抗体B(SA75B2):
重鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号9)
軽鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号10)
・特異性抗体C(PA78A2):
重鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号11)
軽鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号12)
・特異性抗体D(EC50C1):
重鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号13)
軽鎖可変配列・アミノ酸配列(配列番号14)
【0131】
[2.抗体と細菌との抗原抗体反応の検出1/溶菌抗原固相ELISA]
上記手順で作製した汎用性抗体A~C(本発明の抗体)及び特異性抗体A~Dを用いて、複数属の細菌との反応性に関するデータをELISA法で取得した。複数属の細菌としては、飲食品又は環境検体中で検出頻度が高い大腸菌(EC)、黄色ブドウ球菌(SA)、緑膿菌(PA)、枯草菌(BS)、クレブシエラ・ニューモニエ(KP)、セラチア・リクファシエンス(SL)、ラーネラ・アクアティリス(RA)、シトロバクター・フレウンディー(CF)、リステリア・モノサイトゲネス(LM)、エンテロバクター・クロアカ(ECL)、及びサルモネラ菌(SE)という11菌種を選択した。上記の各細菌をATCCより購入・培養し、それぞれ1×e8cfu/mLずつ準備し、PBS中に懸濁した。超音波処理によって各細菌を溶菌し、目開き0.45μmのフィルタでろ過してデブリを除去することにより、各細菌の細菌溶解物を得た。
【0132】
ELISA用の96穴ポリスチレンプレートの各ウエルに上記細菌溶解物を50μLずつ滴下し、プレート底面に固相化した。PBS-T(Tween 20入りPBS)で各ウエルを3回洗浄後、1%BSA(Bovine Serum Albumin:牛血清アルブミン)入りのPBSでブロッキング処理を施した。ブロッキング後、PBS-Tで3回洗浄した後、各ウエルに10μg/mLの汎用性抗体A~C及び特異性抗体A、Bを50μLずつ滴下し、1時間抗原抗体反応を行った。反応後、PBS-Tで3回洗浄した後、0.5μg/mLの検出用の酵素であるHRP(Horse Radish Peroxidase:ホースラディッシュペルオキシダーゼ)を標識した2次抗体(Goat Anti-mouse IgG:ヤギ抗マウスIgG)を50μLずつ滴下し反応を行った。反応後、PBS-Tで5回洗浄した後、各ウエルに発色基質であるTMB(Tetramethylbenzidine:テトラメチルベンジジン)と過酸化水素の混合物100μLずつを滴下し発色反応を行った。10分後、反応停止液である塩酸を各ウエルに滴下したのち、各ウエルの450nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。
【0133】
測定結果を下記表1に示す。本表に示す結果によれば、汎用性抗体A~Cは、菌なしの検体に比べ、前記の各細菌の検体とは感度良く(吸光度は何れの菌に対しても0.3以上であり、ほとんどの場合は、1.0以上)反応することが示された。すなわち、別々の細菌で免疫して取得した汎用性抗体A~Cの何れも、前記の各細菌の検体と抗原抗体反応を生じうる(検出できる)ことが確認された。一方、特異性抗体A~Dは、特定の細菌のみと抗原抗体反応性を示した。
【0134】
【0135】
[3.抗体と細菌との抗原抗体反応の検出2/リコンビナント抗原固相ELISA]
上記手順で作製した汎用性抗体A~C(本発明の抗体)及び特異性抗体A~Dを用いて、複数属の細菌のリボソームタンパク質L7/L12との反応性に関するデータをELISA法で取得した。複数属の細菌としては、飲食品又は環境検体中で検出頻度が高い大腸菌(EC)、黄色ブドウ球菌(SA)、緑膿菌(PA)、枯草菌(BS)、クレブシエラ・ニューモニエ(KP)、セラチア・リクファシエンス(SL)、ラーネラ・アクアティリス(RA)、シトロバクター・フレウンディー(CF)、リステリア・モノサイトゲネス(LM)、エンテロバクター・クロアカ(ECL)、及びサルモネラ菌(SE)という11菌種を選択した。各菌種のリボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列をコードしたDNAを組み込んだ発現ベクターで形質転換した大腸菌をLB培地等を用いて培養し、アフィニティカラムにより発現ベクター由来のタグ配列を利用して融合タンパク質として精製することで、各菌種のリボソームタンパク質L7/L12を取得した。
【0136】
ELISA用の96穴ポリスチレンプレートの各ウエルに10ng/mLの各菌種のリボソームタンパク質L7/L12を50μLずつ滴下し、底面に固相化した。PBS-T(Tween20入りPBS)で各ウエルを3回洗浄後、1%BSA(Bovine Serum Albumin:牛血清アルブミン)入りのPBSでブロッキング処理を施した。ブロッキング後、PBS-Tで3回洗浄した後、各ウエルに10μg/mLの汎用性抗体A~C及び特異性抗体A~Dの何れかを50μLずつ滴下し1時間抗原抗体反応を行った。反応後、PBS-Tで3回洗浄した後、0.5μg/mLの検出用の酵素であるHRP(Horse Radish Peroxidase:ホースラディッシュペルオキシダーゼ)を標識した2次抗体(Goat Anti-mouse IgG:ヤギ抗マウスIgG)を50μLずつ滴下し反応を行った。反応後、PBS-Tで5回洗浄した後、各ウエルに発色基質であるTMB(Tetramethylbenzidine:テトラメチルベンジジン)と過酸化水素の混合物100μLずつを滴下し発色反応を行った。10分後、反応停止液である塩酸を各ウエルに滴下したのち、各ウエルの450nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。
【0137】
測定結果を下記表2に示す。本表によれば、汎用性抗体A~Cは、菌なしの検体に比べ、前記の各細菌の検体とは感度良く(吸光度は何れの菌に対しても0.3以上であり、ほとんどの場合は1.0以上)反応することが示された。すなわち、別々の細菌で免疫して取得した汎用性抗体A~Cの何れも、前記の各細菌の検体のリボソームタンパク質L7/L12と抗原抗体反応を生じうる(検出できる)ことが確認された。一方、特異性抗体A~Dは、特定の細菌のみと抗原抗体反応性を示した。
【0138】
【0139】
[4.抗体と飲食品・環境検体中の非細菌成分との交差反応性の検証/固相ELISA]
上記手順で作製した汎用性抗体A~C(本発明の抗体)及び特異性抗体A~Dを用いて、各種の飲食品・環境検体中の非細菌成分(飲食品・環境成分)との反応性に関するデータをELISA法で取得した。食品検体としては、生魚(ブリ、アジ)、生めん(焼きそば)、生卵、惣菜(ポテトサラダ)、野菜(キュウリ(果菜)、ニンジン(根菜)、及びレタス(葉菜))、精肉及び加工肉(牛バラカルビ、牛かたロース、豚ロース、とりムネ肉、及びハム)を、スーパーで購入して使用した。これらの食材を各々25g秤量し、市販のストマッカー袋に入れ、225mlのPBSを加えストマッカー処理した。ストマッカー処理液の一部を目開き0.45μmのフィルタで細菌を含む固形物を除去することにより、ELISA用の細菌を含まない食品サンプルとした。飲料検体としては、牛乳及びお茶を、スーパーで購入して使用した。これらの飲料を各々、PBS中に1/10の濃度となるよう懸濁し、目開き0.45μmのフィルタで細菌を含む固形物を除去することにより、ELISA用の細菌を含まない飲料サンプルとした。環境検体としては、手指、まな板、包丁、冷蔵庫の取っ手を、市販のふき取り用キット(ELMEX社製Pro・mediaST-25、PBS)を用いて検体表面をふき取り、キット付属のPBS中に懸濁した後、目開き0.45μmのフィルタで細菌を含む固形物を除去することにより、ELISA用の細菌を含まない環境サンプルとした。
【0140】
ELISA用の96穴ポリスチレンプレートの各ウエルに上記飲食品サンプルおよび環境サンプルを50μLずつ滴下し、プレート底面に固相化した。PBS-Tで各ウエルを3回洗浄後、1%BSA入りのPBSでブロッキング処理を施した。ブロッキング後、PBS-Tで3回洗浄した後、各ウエルに10μg/mLの汎用性抗体A~C及び特異性抗体A~Dを50μLずつ滴下し、1時間反応を行った。反応後、PBS-Tで3回洗浄した後、0.5μg/mLの検出用の酵素であるHRPを標識した2次抗体(Goat Anti-mouse IgG:ヤギ抗マウスIgG)を50μLずつ滴下し反応を行った。反応後、PBS-Tで5回洗浄した後、各ウエルに発色基質であるTMBと過酸化水素の混合物100μLずつを滴下し発色反応を行った。10分後、反応停止液である塩酸を各ウエルに滴下したのち、各ウエルの450nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。
【0141】
測定結果を下記表3に示す。本表に示す結果から、汎用性抗体A~Cは、上記の細菌を含まない飲食品・環境検体中の何れの成分とも反応しない(吸光度は何れも0.3未満)ことが示された。前述の実施例の結果と合わせると、汎用性抗体A~Cは何れも、上記の飲食品・環境検体中の何れの非細菌成分(飲食品・環境成分)とも反応せず、検出対象となる特定の複数属の細菌のみと反応すること、すなわち、飲食品・環境検体中の検出対象となる特定の複数属の細菌の有無及び/又は存在量を高い選択性を持って検出できることが確認された。また、特異性抗体A~Dも、飲食品・環境検体中の非細菌成分の何れとも、交差反応性を示さなかった。
【0142】
【0143】
[5.イムノクロマト検出キットの作製]
・イムノクロマト検出キットの作製:
本発明の抗体に該当する前記の汎用性抗体Aを2次抗体(検出用抗体)として、前記の特異性抗体A~Dを1次抗体(捕捉用抗体)として、下記表4の(a)~(c)に記載の組み合わせで用いて、3種類のイムノクロマト検出キット(a)~(c)を作製した。また、1次抗体と2次抗体に用いる抗体の種類を入れ替えて、下記表4の(d)~(f)に記載の組み合わせで用いて、同様の検出が可能な検出キットを作製した。特に、共通の汎用性抗体Aを検出用抗体として用いることで、抗体ごとの標識条件の過度な最適化も必要なく、簡便に各種検出キットを構築することが可能であった。
【0144】
【0145】
・イムノクロマトグラム展開用膜担体の作製:
10mMリン酸ナトリウム緩衝液溶液中に、1次抗体((a)は特異性抗体C、(b)は、特異性抗体D、(c)は特異性抗体A、Bの混合物)1.5mg/mL及びトレハロース3%(v/v)を含む溶液を調製した。得られた溶液を、幅2.5cm、長さ15cmにカットした市販のニトロセルロース膜に、1cm2あたり1μL液量で塗布し、乾燥させて、イムノクロマト展開用膜担体とした。
【0146】
・金コロイド標識検出用抗体及び金コロイド標識検出用抗体含浸部材の作製:
チューブに市販の金コロイド溶液(粒径60nm)を加えたのち、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を加え混合した。ここに、2次抗体(汎用性抗体A)1/10量を加えて混合し、抗体濃度0.1mg/mLの溶液を調製した。この溶液を室温で30分間静置して、抗体を金コロイド粒子表面に結合させた。その後、金コロイド溶液における最終濃度が0.1%となるようにカゼイン溶液を加えて混合し、60分静置することで、ブロッキング処理を施した。この溶液を8000gで20分間遠心分離したのち、上清をピペットで除去した。ここに、金コロイド分散液(0.25%カゼイン、40mM NaCl、5%スクロース、10mM Tris-HCl(pH8.2))を加え混合し再分散し、金コロイド標識検出用抗体溶液を調製した。この検出用抗体溶液を市販のガラス繊維シートに浸み込ませた後、乾燥させて、金コロイド標識検出用抗体含浸部材とした。
【0147】
・イムノクロマト検出キットの組み立て:
上述した手順で作製したイムノクロマト展開用膜担体及び金コロイド標識検出用抗体含浸部材に加えて、さらに検体添加用部材として綿布と、吸収用部材として濾紙を用意した。そして、これらの部材を市販のポリエチレン基材に貼り合せた後、5mm幅に切断し、
図1と同様の構成の検出機構を有するイムノクロマト検出キットを作製した。
【0148】
[6.イムノクロマト検出キットによる細菌の検出]
上記作製したイムノクロマト検出キット(a)~(c)を各々用いて、複数属の細菌の検出を行った。細菌としては、飲食品・環境検体中で検出頻度が高い大腸菌(EC)、黄色ブドウ球菌(SA)、緑膿菌(PA)、枯草菌(BS)、クレブシエラ・ニューモニエ(KP)、セラチア・リクファシエンス(SL)、ラーネラ・アクアティリス(RA)、シトロバクター・フレウンディー(CF)、リステリア・モノサイトゲネス(LM)、エンテロバクター・クロアカ(ECL)、及びサルモネラ菌(SE)という11菌種を使用した。上記の11菌種を各々1×e8cfu/mLずつ用意し、PBS中に懸濁した。超音波処理によって各細菌を溶菌し、11菌種の細菌溶解物(イムノクロマトアッセイ用細菌サンプル)を得た。また、細菌溶解物が入っていないPBS溶液を菌なしサンプルとして用意した。これらの各サンプルに、イムノクロマト展開用として、終濃度1%となるようTween20を添加し、イムノクロマト用のサンプルを作製した。
【0149】
作製したサンプル(菌なしサンプル及び11種の細菌溶解物のサンプル)を上述したイムノクロマト検出キットの検体添加用部材領域に添加し、30分後に、膜担体の捕捉用抗体塗布部位のライン発色を目視で確認した。
【0150】
作製したサンプル(菌なしサンプル及び11種の細菌溶解物のサンプル)を上述した条件(a)~(c)のイムノクロマト検出キットの検体添加用部材領域に添加し、30分後に、膜担体の捕捉用抗体塗布部位のライン発色を目視で確認した。結果を下記表5に示す。本表の結果によれば、目的通りに、検出キット(a)では、緑膿菌(PA)1菌種のみが検出され、検出キット(b)では、腸内細菌科細菌に属する7菌種が検出され、検出キット(c)では、11菌種全て(全細菌)が検出された。すなわち、限定された属の細菌とのみ抗原抗体反応を生じる特異性抗体(前記の特異性抗体A(PA78A2)、特異性抗体B(EC50C1)、特異性抗体C(HI142D11.3)、特異性抗体D(SA75B2))を、多数の属の細菌と広く抗原抗体反応を生じる汎用性抗体(前記の汎用性抗体A(PA51B2))と、目的に応じてイムノクロマト検出キット化することで、検出目的の細菌を簡便・迅速に検出できることが示された。
【0151】
前述のように、検出対象の菌種が変わっても、共通の汎用性抗体(検出用抗体として用いることがさらに好ましい)が使用でき、検出対象菌種に応じた特異性抗体(捕捉用抗体として用いることがさらに好ましい)と組み合わせることで、対象菌種を検出できるイムノクロマトキットを過度な条件検討をすることなく製造することができた。なお、前記表4の(d)~(f)の組み合わせを用いた検出キットについても、同様の結果が得られた。
【0152】
【0153】
[7.イムノクロマト検出キットによる抗体と飲食品・環境成分との交差反応性の検証]
上記作製したイムノクロマト検出キット(a)~(c)を各々用いて、各種の飲食品・環境検体中の非細菌成分(飲食品・環境成分)との反応性に関するデータを取得した。食品検体としては、生魚(ブリ、アジ)、生めん(焼きそば)、生卵、惣菜(ポテトサラダ)、野菜(キュウリ(果菜)、ニンジン(根菜)、及びレタス(葉菜))、精肉及び加工肉(牛バラカルビ、牛かたロース、豚ロース、とりムネ肉、及びハム)を、スーパーで購入して使用した。これらの食材を各々25g秤量し、市販のストマッカー袋に入れ、225mlのPBSを加えストマッカー処理した。ストマッカー処理液の一部を目開き0.45μmのフィルタで細菌を含む固形物を除去することにより、イムノクロマト用サンプルとした。飲料検体としては、牛乳及びお茶を、スーパーで購入して使用した。これらの飲料を各々、PBS中に1/10の濃度となるよう懸濁し、目開き0.45μmのフィルタで細菌を含む固形物を除去することにより、イムノクロマト用サンプルとした。環境検体としては、手指、まな板、包丁、冷蔵庫の取っ手を、市販のふき取り用キット(ELMEX社製Pro・mediaST-25、PBS)を用いて検体表面をふき取り、キット付属のPBS中に懸濁した後、目開き0.45μmのフィルタで細菌を含む固形物を除去することにより、イムノクロマト用サンプルとした。
【0154】
上記作製した各種の飲食品・環境検体のイムノクロマト用サンプルを、上述したイムノクロマト検出キット(a)~(c)の各々の検体添加用部材領域に添加し、30分後に、膜担体の捕捉用抗体塗布部位のライン発色を目視で確認した。結果を表6に示す。目的通りに、検出キット(a)~(c)は、上記の飲食品・環境検体中の成分に対しては交差反応性を示さなかった。前述の実施例とあわせると、前記の汎用性抗体と特異性抗体とを組み合わせて作製したイムノクロマト検出キット(a)~(c)は、上記の飲食品・環境検体中の非細菌成分(飲食品・環境成分)とは反応せず、検出対象となる複数属の細菌のみを高い選択性を以て簡便・迅速に検出できることが確認された。なお、前記表4の(d)~(f)の組み合わせを用いた検出キットについても、同様の結果が得られた。
【0155】
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明は、飲食品・環境・生体検体中の複数属の細菌の同時且つ簡便な検出が求められる分野、主に医療や飲食品の分野に幅広く利用でき、その産業上の有用性は極めて高い。
【符号の説明】
【0157】
10 検出機構
1 クロマト展開用不溶性膜担体
2 検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)
3 検体添加用部材(サンプルパッド)
4 吸収用部材(吸収パッド)
5 捕捉用抗体固定化部位
6 対照試薬固定化部位
A 検体
B 検体流れ
【配列表】