(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20250127BHJP
B60W 30/08 20120101ALI20250127BHJP
B60W 40/08 20120101ALI20250127BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20250127BHJP
B60W 50/12 20120101ALI20250127BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20250127BHJP
【FI】
G08G1/16 F
G08G1/16 D
B60W30/08
B60W40/08
B60W50/14
B60W50/12
B60W60/00
(21)【出願番号】P 2023035934
(22)【出願日】2023-03-08
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓真
(72)【発明者】
【氏名】古森 雄一
(72)【発明者】
【氏名】杉村 優子
(72)【発明者】
【氏名】増掛 佑一
(72)【発明者】
【氏名】梶原 悠吾
(72)【発明者】
【氏名】野相 祥平
【審査官】宮本 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-174861(JP,A)
【文献】特開2019-046165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を制御する車両制御装置であって、
前記車両の周辺状況を認識する認識部と、
前記認識部の認識結果に基づき第1実行条件が成立したことに応じて、前記車両の乗員に対して第1警報を行う第1制御を実行可能な第1制御部と、
前記認識部の認識結果に基づき第2実行条件が成立したことに応じて、前記車両の制動又は操舵を制御するとともに前記乗員に対して第2警報を行う第2制御を実行可能な第2制御部と、
前記乗員の異常を検知する乗員異常検知部と、
前記乗員異常検知部によって前記乗員の異常が検知されたことに応じて、前記車両を減速又は停止させるとともに第3警報を行う第3制御を実行可能な第3制御部と、
前記第1制御、前記第2制御、及び前記第3制御の実行を調停する調停部と、
を備え、
前記調停部は、
前記第1制御及び前記第3制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第1制御よりも前記第3制御を優先して実行させ、
前記第2制御及び前記第3制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第3制御よりも前記第2制御を優先して実行させ
、
前記第3制御の実行中に前記第1実行条件が成立した場合には、前記第3制御を継続させ、
前記第3制御の実行中に前記第2実行条件が成立した場合には、前記第3制御を中断又は中止させて前記第2制御を実行させる、
車両制御装置。
【請求項2】
車両を制御する車両制御装置であって、
前記車両の周辺状況を認識する認識部と、
前記認識部の認識結果に基づき第1実行条件が成立したことに応じて、前記車両の乗員に対して第1警報を行う第1制御を実行可能な第1制御部と、
前記認識部の認識結果に基づき第2実行条件が成立したことに応じて、前記車両の制動又は操舵を制御するとともに前記乗員に対して第2警報を行う第2制御を実行可能な第2制御部と、
前記乗員の異常を検知する乗員異常検知部と、
前記乗員異常検知部によって前記乗員の異常が検知されたことに応じて、前記車両を減速又は停止させるとともに第3警報を行う第3制御を実行可能な第3制御部と、
前記第1制御、前記第2制御、及び前記第3制御の実行を調停する調停部と、
を備え、
前記調停部は、
前記第1制御及び前記第3制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第1制御よりも前記第3制御を優先して実行させ、
前記第2制御及び前記第3制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第3制御よりも前記第2制御を優先して実行させ
、
前記乗員異常検知部は、第1検知条件が成立し、当該第1検知条件の成立後に第2検知条件がさらに成立したことに応じて、前記乗員の異常を検知し、
前記車両制御装置は、
前記第1検知条件が成立してから前記第2検知条件が成立するまでの期間に、前記乗員に対して第4警報を行う第4制御を実行可能な第4制御部をさらに備え、
前記調停部は、
前記第4制御の実行をさらに調停可能に構成され、
前記第1制御及び前記第4制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第4制御よりも前記第1制御を優先して実行させる、
車両制御装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の車両制御装置であって、
前記調停部は、
前記第4制御の実行中に前記第1実行条件が成立した場合には、前記第4制御を中断又は中止させて前記第1制御を実行させる、
車両制御装置。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の車両制御装置であって、
前記第2制御部は、
前記乗員異常検知部によって前記乗員の異常が検知されたことに応じて、前記第2実行条件を変更可能に構成され、
前記乗員の異常が検知された場合には、前記乗員の異常が検知されていない場合よりも、前記第2制御が実行されやすくなるように前記第2実行条件を変更する、
車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脆弱な立場にある交通参加者にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供するための取り組みが活発化している。この取り組みの1つとして、交通の安全性や利便性を改善すべく、自動車などの車両における運転支援技術や自動運転技術に関する研究開発が行われている。
【0003】
運転支援技術の一例として、運転者が車両を運転する能力を失っている異常状態(例えば、居眠り運転状態や心身機能停止状態など)に陥っていることを検知すると、車両を自動的に停止(換言すると停車)させるようにした技術がある。
【0004】
下記特許文献1には、衝突の可能性が有ると判定されたことに応じて車両を自動で減速させる減速制御の作動モードを、ドライバー(運転者)の異常が検知されている場合には、当該異常が検知されていない場合の通常モードから特別モードに設定し、特別モードでは通常モードよりも車両の周囲の物体を衝突の対象候補として特定する範囲を拡大するようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、運転支援に関わる複数の制御の実行条件が同時期にそれぞれ成立した場合にどの制御を優先して実行するかについては十分に検討されておらず、車両の安全性を向上させる観点から改善の余地があった。
【0007】
本発明は、運転支援に関わる複数の制御の実行条件が同時期に成立したとしても、車両を適切に制御して、車両の安全性の向上を図れる車両制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
車両を制御する車両制御装置であって、
前記車両の周辺状況を認識する認識部と、
前記認識部の認識結果に基づき第1実行条件が成立したことに応じて、前記車両の乗員に対して第1警報を行う第1制御を実行可能な第1制御部と、
前記認識部の認識結果に基づき第2実行条件が成立したことに応じて、前記車両の制動又は操舵を制御するとともに前記乗員に対して第2警報を行う第2制御を実行可能な第2制御部と、
前記乗員の異常を検知する乗員異常検知部と、
前記乗員異常検知部によって前記乗員の異常が検知されたことに応じて、前記車両を減速又は停止させるとともに第3警報を行う第3制御を実行可能な第3制御部と、
前記第1制御、前記第2制御、及び前記第3制御の実行を調停する調停部と、
を備え、
前記調停部は、
前記第1制御及び前記第3制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第1制御よりも前記第3制御を優先して実行させ、
前記第2制御及び前記第3制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第3制御よりも前記第2制御を優先して実行させ、
前記第3制御の実行中に前記第1実行条件が成立した場合には、前記第3制御を継続させ、
前記第3制御の実行中に前記第2実行条件が成立した場合には、前記第3制御を中断又は中止させて前記第2制御を実行させる、
車両制御装置である。
本発明の他の一態様は、
車両を制御する車両制御装置であって、
前記車両の周辺状況を認識する認識部と、
前記認識部の認識結果に基づき第1実行条件が成立したことに応じて、前記車両の乗員に対して第1警報を行う第1制御を実行可能な第1制御部と、
前記認識部の認識結果に基づき第2実行条件が成立したことに応じて、前記車両の制動又は操舵を制御するとともに前記乗員に対して第2警報を行う第2制御を実行可能な第2制御部と、
前記乗員の異常を検知する乗員異常検知部と、
前記乗員異常検知部によって前記乗員の異常が検知されたことに応じて、前記車両を減速又は停止させるとともに第3警報を行う第3制御を実行可能な第3制御部と、
前記第1制御、前記第2制御、及び前記第3制御の実行を調停する調停部と、
を備え、
前記調停部は、
前記第1制御及び前記第3制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第1制御よりも前記第3制御を優先して実行させ、
前記第2制御及び前記第3制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第3制御よりも前記第2制御を優先して実行させ、
前記乗員異常検知部は、第1検知条件が成立し、当該第1検知条件の成立後に第2検知条件がさらに成立したことに応じて、前記乗員の異常を検知し、
前記車両制御装置は、
前記第1検知条件が成立してから前記第2検知条件が成立するまでの期間に、前記乗員に対して第4警報を行う第4制御を実行可能な第4制御部をさらに備え、
前記調停部は、
前記第4制御の実行をさらに調停可能に構成され、
前記第1制御及び前記第4制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第4制御よりも前記第1制御を優先して実行させる、
車両制御装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、運転支援に関わる複数の制御の実行条件が同時期に成立したとしても、車両を適切に制御して、車両の安全性の向上を図れる車両制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態の制御装置100を含む車両システム1の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】制御装置100による前方交差車両警報制御の一例を示す図である。
【
図3】制御装置100による衝突低減制御の一例を示す図である。
【
図4】制御装置100による乗員異常対応制御及び乗員異常検知時制御の一例を示す図である。
【
図5】制御装置100による各制御の調停の一例を示す図である。
【
図6】制御装置100が実行する処理の一例を示すフローチャート(その1)である。
【
図7】制御装置100が実行する処理の一例を示すフローチャート(その2)である。
【
図8】運転者の異常が検知されていない場合と、運転者の異常が検知されている場合とのそれぞれにおける衝突低減制御の実行条件の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の車両制御装置の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせのすべてが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち2つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、以下では、同一又は類似の要素には同一又は類似の符号を付して、その説明を適宜省略又は簡略化することがある。また、図面は、符号の向きに見るものとする。
【0012】
<車両システム1の全体構成>
図1は、本発明の車両制御装置の一実施形態である制御装置100を含む車両システム1の全体構成を示すブロック図である。車両システム1が搭載される車両を、以下、「自車両M」と称する。自車両Mは、例えば、二輪、三輪、又は四輪などの自動車であり、その駆動源は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどの内燃機関、電動機、あるいはこれらの組み合わせである。電動機は、内燃機関に連結された発電機による発電電力、あるいは二次電池や燃料電池の放電電力を使用して動作する。
【0013】
車両システム1は、例えば、カメラ10と、レーダ装置12と、LIDAR(Light Detection and Ranging)14と、物体認識装置16と、通信装置20と、HMI(Human Machine Interface)30と、車両センサ40と、ドライバモニタカメラ50と、ナビゲーション装置60と、MPU(Map Positioning Unit)70と、運転操作子80と、ウインカー91(ハザードランプ93)と、ホーン装置92と、制御装置100と、走行駆動力出力装置200と、ブレーキ装置210と、ステアリング装置220と、電動パーキングブレーキ装置230と、を備える。これらの装置や機器は、例えば、CAN(Controller Area Network)通信線などの多重通信線やシリアル通信線、又は無線通信網によって互いに接続されている。
【0014】
カメラ10は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの固体撮像素子を利用したデジタルカメラであり、自車両Mの周辺を撮像する。カメラ10は、自車両Mの任意の箇所に取り付けられる。
【0015】
レーダ装置12は、自車両Mの周辺にミリ波などの電波を放射するとともに、物体で反射された電波(反射波)を検出して少なくとも物体の位置(距離及び方位)を検出する。レーダ装置12は、自車両Mの任意の箇所に取り付けられる。
【0016】
LIDAR14は、自車両Mの周辺に光(あるいは光に近い波長の電磁波)を照射し、散乱光を測定する。LIDAR14は、発光から受光までの時間に基づいて、対象までの距離を検出する。照射される光は、例えば、パルス状のレーザー光である。LIDAR14は、自車両Mの任意の箇所に取り付けられる。また、自車両Mは、LIDAR14を備えていなくてもよい。
【0017】
物体認識装置16は、カメラ10、レーダ装置12、及びLIDAR14のうち一部又は全部の検出結果に対してセンサフュージョン処理を行って、物体の位置、種類、速度などを認識する。物体認識装置16は、認識結果を制御装置100に出力する。物体認識装置16は、カメラ10、レーダ装置12、及びLIDAR14の検出結果をそのまま制御装置100に出力してもよい。また、自車両MがLIDAR14を備えていない場合、物体認識装置16は、カメラ10、及びレーダ装置12の検出結果に対してセンサフュージョン処理を行うことで、物体の位置などを認識するようにしてもよい。
【0018】
通信装置20は、例えば、セルラー網やWi-Fi(登録商標)網、Bluetooth(登録商標)、DSRC(Dedicated Short Range Communication)などを利用して、自車両Mの周辺に存在する他車両と通信し、あるいは無線基地局を介して各種サーバ装置と通信する。
【0019】
HMI30は、自車両Mの乗員に対して各種情報を提示するとともに、乗員による入力操作を受け付ける。HMI30は、MID(Multi Information Display)31aを含む各種表示装置、スピーカ31bを含む各種音響装置、SOSボタン32を含む各種操作子などを有する。
【0020】
車両センサ40は、自車両Mの走行速度(以下、「車速」とも称する)を検出する車速センサ、加速度を検出する加速度センサ、鉛直軸回りの角速度を検出するヨーレートセンサ、自車両Mの向きを検出する方位センサなどを含む。
【0021】
ドライバモニタカメラ50は、例えば、CCDやCMOSなどの固体撮像素子を利用したデジタルカメラである。ドライバモニタカメラ50は、自車両Mの運転席に着座した乗員(以下、「運転者」とも称する)の頭部を正面から(すなわち顔面を撮像する向きで)撮像可能な位置及び向きで、自車両Mにおける任意の箇所に取り付けられる。
【0022】
ナビゲーション装置60は、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機61と、ナビHMI62と、経路決定部63とを備える。ナビゲーション装置60は、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に第1地図情報64を保持している。
【0023】
GNSS受信機61は、GNSS衛星から受信した信号に基づいて、自車両Mの位置を特定する。自車両Mの位置は、車両センサ40の出力を利用したINS(Inertial Navigation System)によって特定又は補完されてもよい。
【0024】
ナビHMI62は、表示装置、スピーカ、タッチパネル、キーなどを含む。ナビHMI62は、前述したHMI30と一部又は全部が共通化されてもよい。
【0025】
経路決定部63は、例えば、GNSS受信機61により特定された自車両Mの位置(あるいは入力された任意の位置)から、ナビHMI62を用いて乗員により入力された目的地までの経路(以下、「地図上経路」とも称する)を、第1地図情報64を参照して決定する。第1地図情報64は、例えば、道路を示すリンクと、リンクによって接続されたノードとによって道路形状が表現された情報である。第1地図情報64は、道路の曲率やPOI(Point Of Interest)情報などを含んでもよい。地図上経路は、MPU70に出力される。
【0026】
ナビゲーション装置60は、地図上経路に基づいて、ナビHMI62を用いた経路案内を行ってもよい。ナビゲーション装置60は、通信装置20を介してナビゲーションサーバに現在位置と目的地を送信し、ナビゲーションサーバから地図上経路と同等の経路を取得してもよい。
【0027】
MPU70は、例えば、推奨車線決定部71を含み、HDDやフラッシュメモリなどの記憶装置に第2地図情報72を保持している。推奨車線決定部71は、ナビゲーション装置60から提供された地図上経路を複数のブロックに分割し(例えば、車両進行方向に関して100[m]毎に分割し)、第2地図情報72を参照してブロック毎に推奨車線を決定する。推奨車線決定部71は、例えば、左から何番目の車線を走行するといった決定を行う。推奨車線決定部71は、地図上経路に分岐箇所が存在する場合、自車両Mが、分岐先に進行するための合理的な経路を走行できるように、推奨車線を決定する。
【0028】
第2地図情報72は、第1地図情報64よりも高精度な地図情報である。第2地図情報72は、例えば、車線の中央の情報あるいは車線の境界の情報などを含んでいる。また、第2地図情報72には、道路情報、交通規制情報、住所情報、施設情報、電話番号情報などが含まれてよい。第2地図情報72は、通信装置20が他装置と通信することにより、随時、アップデートされてよい。
【0029】
運転操作子80は、例えば、ステアリングホイール82の他、ウインカーレバー、アクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバー、その他の操作子を含む。運転操作子80には、操作量あるいは操作の有無を検出するセンサが取り付けられており、その検出結果は、制御装置100、走行駆動力出力装置200、ブレーキ装置210、及びステアリング装置220のうち一部又は全部に出力される。
【0030】
ステアリングホイール82は、必ずしも環状である必要は無く、異形ステアやジョイスティック、ボタンなどの形態であってもよい。ステアリングホイール82には、ステアリング把持センサ84が取り付けられている。ステアリング把持センサ84は、静電容量センサなどにより実現され、運転者がステアリングホイール82を把持しているか否かを検知可能な信号を制御装置100に出力する。
【0031】
ウインカー91は、自車両Mの左側(例えば左前と左後)及び右側(例えば右前と右後)のそれぞれに、自車両Mの外部から視認可能に設けられたランプ(灯体)などにより構成される方向指示器である。ウインカー91は、運転者が操作可能に設けられたウインカーレバーの操作に応じて点灯又は消灯する。
【0032】
また、ウインカー91は、自車両Mの左側及び右側のそれぞれに設けられた各ランプが一斉に点滅(以下、「ハザード点滅」とも称する)することにより、自車両Mの存在や異常の発生を車外に対して報知するハザードランプ93としても機能し得る。ハザードランプ93は、報知装置の一例である。なお、本実施形態では、ハザードランプ93をウインカー91により実現したが、ハザードランプ93はウインカー91とは異なるランプによって実現されてもよい。
【0033】
ホーン装置92は、ホーンを吹き鳴らすこと(以下、「ホーン吹鳴」とも称する)により、自車両Mの存在や異常の発生を車外に対して報知する。ホーン装置92は、報知装置の他の一例である。
【0034】
走行駆動力出力装置200は、自車両Mが走行するための走行駆動力(トルク)を車輪(具体的には駆動輪。例えば前輪)に出力する。走行駆動力出力装置200は、例えば、内燃機関、電動機、及び変速機などの組み合わせと、これらを制御するECU(Electronic Control Unit)とを備える。走行駆動力出力装置200のECUは、制御装置100から入力される情報、あるいは運転操作子80から入力される情報に従って、上記の構成を制御する。
【0035】
ブレーキ装置210は、例えば、ブレーキキャリパーと、ブレーキキャリパーに油圧を伝達するシリンダと、シリンダに油圧を発生させる電動モータと、ブレーキECUとを備える。ブレーキECUは、制御装置100から入力される情報、あるいは運転操作子80から入力される情報に従ってブレーキ装置210の電動モータを制御し、制動操作に応じたブレーキトルクが各車輪に出力されるようにする。
【0036】
ステアリング装置220は、例えば、ステアリングECUと、電動モータとを備える。ステアリング装置220の電動モータは、例えば、ラックアンドピニオン機構に力を作用させて転舵輪の向きを変更する。ステアリングECUは、制御装置100から入力される情報、あるいは運転操作子80から入力される情報に従って、ステアリング装置220の電動モータを駆動し、転舵輪の向きを変更させる。
【0037】
電動パーキングブレーキ装置230は、例えば、自車両Mの車輪(例えば後輪。すなわち非駆動輪)のブレーキキャリパーを把持するようにブレーキパッドを駆動させることによってブレーキキャリパーに作用する把持力(制動力)を発生させる電動モータと、電動パーキングブレーキECU(以下、「EPB-ECU」とも称する)とを備える。EPB-ECUは、制御装置100から入力される情報、あるいは運転操作子80から入力される情報に従って電動パーキングブレーキ装置230の電動モータを制御し、自車両Mの車輪を固定させる。すなわち、電動パーキングブレーキ装置230は、電子制御により車輪を固定可能に構成される。
【0038】
制御装置100は、自車両Mの全体を統括制御するコンピュータであり、例えば、認識部110と、第1制御部120と、第2制御部130と、乗員異常検知部140と、第3制御部150と、第4制御部160と、を備える。認識部110、第1制御部120、第2制御部130、乗員異常検知部140、第3制御部150、第4制御部160及び調停部170の各機能部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらのうち一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部:circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、制御装置100のHDDやフラッシュメモリなどの記憶装置にあらかじめ格納されていてもよい。
【0039】
認識部110は、カメラ10、レーダ装置12、及びLIDAR14から物体認識装置16を介して入力される情報に基づいて、自車両Mの周辺状況を認識する。具体的には、認識部110は、自車両Mの周辺にある物体の位置、及び物体の速度、加速度などの走行状態を認識する。物体の位置は、例えば、自車両Mの代表点(重心や駆動軸中心など)を原点とした絶対座標上の位置として認識され、制御に使用される。物体の位置は、その物体の重心やコーナーなどの代表点で表されてもよいし、領域で表されてもよい。物体の「状態」とは、物体の加速度やジャーク、あるいは「行動状態」(例えば車線変更をしている、又はしようとしているか否か)を含んでもよい。認識部110が認識する物体には、例えば、自車両Mの前方を走行する他車両(以下、「先行車両」とも称する)M1が含まれる。ここで、先行車両は、自車両Mと同じ車線(例えば後述の自車線L1)において、自車両Mの前方を走行する車両とすることができる。
【0040】
また、認識部110は、例えば、自車両Mが走行している走行環境を認識する。一例として、認識部110は、第2地図情報72から得られる道路区画線のパターン(例えば実線と破線の配列)と、カメラ10によって撮像された画像から認識される自車両Mの周辺の道路区画線のパターンとを比較することで、自車両Mの走行車線(以下、「自車線L1」とも称する)を認識する。なお、認識部110は、道路区画線に限らず、道路区画線や路肩、縁石、中央分離帯、ガードレールなどを含む走路境界(道路境界)を認識することで、走行車線を認識してもよい。この認識において、ナビゲーション装置60から取得される自車両Mの位置やINSによる処理結果が加味されてもよい。また、認識部110は、例えば、停止線(一時停止線を含む)、料金所、道路上の障害物など、自車両Mが停止すべき所定の停止位置をさらに認識してもよい。
【0041】
また、認識部110は、例えば、走行車線を認識する際に、走行車線に対する自車両Mの位置や姿勢を認識する。一例として、認識部110は、自車両Mの基準点の車線中央からの乖離、及び自車両Mの進行方向の車線中央を連ねた線に対してなす角度を、走行車線に対する自車両Mの相対位置及び姿勢として認識してもよい。これに代えて、認識部110は、走行車線のいずれかの側端部(道路区画線又は道路境界)に対する自車両Mの基準点の位置などを、走行車線に対する自車両Mの相対位置として認識してもよい。
【0042】
第1制御部120は、認識部110の認識結果に基づき第1実行条件が成立したことに応じて、自車両Mの乗員(例えば運転者)に対して第1警報を行う第1制御を実行可能な機能を有する。ここで、第1実行条件は、例えば、自車両Mの周辺において、自車両Mと衝突する危険性のある物体が検出されることである。また、第1警報は、例えば、自車両Mと衝突する危険性のある物体が自車両Mの周辺に存在することを報知する警報である。
【0043】
一例として、以下では、第1制御を、前方交差車両警報制御(FCTA:Front Cross Traffic Alert)として説明する。前方交差車両警報制御の実行条件は、
図2に示すように、自車両Mが交差点CPを低速走行するとき、又は交差点CPにて停止状態から発進するときに、左右前方(図示の例では、右前方)から自車両Mに接近する他車両(以下、「交差車両」とも称する)M2が検出されることである。
【0044】
第1制御部120は、上記の実行条件が成立したことに応じて前方交差車両警報制御を実行すると、第1警報の一例として、前方の交差車両M2に対する注意を促す警報画像G1をMID31aに表示させるとともに、所定の警報音をスピーカ31bから出力させる。
【0045】
第2制御部130は、認識部110の認識結果に基づき第2実行条件が成立したことに応じて、自車両Mの制動又は操舵を制御するとともに乗員に対して第2警報を行う第2制御を実行可能な機能を有する。ここで、第2実行条件は、例えば、第1実行条件と同様に、自車両Mの周辺において、自車両Mと衝突する危険性のある物体が検出されることである。また、第2警報は、例えば、第1警報と同様に、自車両Mと衝突する危険性のある物体が自車両Mの周辺に存在することを報知する警報である。そして、第2制御は、例えば、衝突する危険性のある物体との衝突を回避するような自車両Mの走行制御をさらに含む。
【0046】
一例として、以下では、第2制御を、衝突軽減制御(CMBS:Collision Mitigation Brake System)として説明する。衝突軽減制御の実行条件は、
図3に示すように、自車両Mの走行中に、自車線L1を走行する先行車両M1などの自車両Mと衝突する危険性のある物体が自車両Mの前方に検出されることである。
【0047】
第2制御部130は、上記の実行条件が成立したことに応じて衝突軽減制御を実行すると、第2警報の一例として、制動操作を行うように指示する警報画像G2をMID31aに表示させるとともに、所定の警報音をスピーカ31bから出力させる。また、第2制御部130は、衝突軽減制御を実行すると、自車両Mから、衝突する危険性のある物体(図示の例では、先行車両M1)までの距離などに応じて、自動的に自車両Mの制動を行い得る。さらに、このとき、第2制御部130は、衝突する危険性のある物体との衝突を回避するように自車両Mの操舵についても制御するようにしてもよい。
【0048】
乗員異常検知部140は、SOSボタン32に対する操作、ドライバモニタカメラ50によって撮像された運転者の映像、及びステアリング把持センサ84からの信号などに基づいて、自車両Mの運転者の異常を検知する。ここで、運転者の異常とは、例えば、急病・失神などにより運転者が意識を喪失している状態や、居眠り・脇見などにより運転者が運転に集中できない状態といった、運転者が安全な運転操作を行うことができない蓋然性の高い状態をいう。
【0049】
本実施形態では、乗員異常検知部140は、第1検知条件が成立し、当該第1検知条件の成立後に第2検知条件がさらに成立したことに応じて、運転者の異常を検知するものとする。ここで、第1検知条件は、例えば、運転者の姿勢崩れ、閉眼、又はステアリングホイール82から両手を離すといった、安全な運転操作を行うことができないと考えられる所定の状態が検出されることである。また、第2検知条件は、例えば、第1検知条件が成立してから一定時間内(例えば5秒以内)に所定のキャンセル操作がないことである。
【0050】
すなわち、本実施形態において、乗員異常検知部140は、運転者の姿勢崩れなどが検出され、且つ、その後の一定時間内にキャンセル操作がなかった場合に、運転者の異常を検知する。また、本実施形態では、第1検知条件が成立してから第2検知条件が成立するまでの期間におけるSOSボタン32の押下を、キャンセル操作とする。なお、乗員異常検知部140は、例えば、第1検知条件が成立する前にSOSボタン32が押下された場合には、その時点で運転者の異常を検知するようにしてもよい。
【0051】
第3制御部150は、乗員異常検知部140によって運転者の異常が検知されたこと、すなわち第2検知条件が成立したことに応じて、自車両Mを減速又は停止させるとともに第3警報を行う第3制御を実行可能な機能を有する。ここで、第3警報は、例えば、自車両Mの運転者に異常が発生したことを自車両Mの周辺の交通参加者に報知する警報である。また、第3制御は、例えば、自車両Mが停止するまで、自車線L1内で自車両Mを徐々に減速させるといった自車両Mの走行制御を含む。運転者の異常が検知されたことに応じて、このような第3制御が行われるようにすることで、自車両Mを安全に停止させて、自車両Mの運転者を速やかに救助することを可能にする。なお、第3制御は、停止させた自車両Mの車輪を電動パーキングブレーキ装置230によって固定するといった制御をさらに含んでいてもよい。
【0052】
一例として、以下では、第3制御を、乗員異常対応制御として説明する。乗員異常対応制御の具体的な一例については後述する。
【0053】
第4制御部160は、第1検知条件が成立してから第2検知条件が成立するまでの期間に、運転者に対して第4警報を行う第4制御を実行可能な機能を有する。ここで、第4警報は、例えば、第1検知条件が成立したことを報知する警報、及び/又は第3制御の開始を予告する警報である。一例として、以下では、第4制御を、乗員異常検知時制御として説明する。
【0054】
図4を参照して、乗員異常対応制御及び乗員異常検知時制御の一例について具体的に説明する。
図4の例では、時期t1において運転者に異常が発生し、時期t1後の時期t2において第1検知条件が成立し、時期t2後の時期t3において第2検知条件が成立したものとする。
【0055】
図4の例の場合、第4制御部160は、時期t2から時期t3までの期間に乗員異常検知時制御(すなわち第4制御)を実行する。第4制御部160は、乗員異常検知時制御を実行すると、
図4中の(a)に示すように、第4警報の一例として、乗員異常対応制御の開始を予告するとともに、キャンセル操作について案内するメッセージ(図示の例では「ドライバーの異常を検知しました。間もなく減速します。キャンセルするにはSOSボタンを押してください。」というメッセージ)をMID31aに表示させる。これにより、もし、運転者に異常が発生していないならば(換言すると乗員異常対応制御の作動を運転者が望まないならば)、キャンセル操作を行うように促すことができる。
【0056】
そして、時期t2から一定時間が経過した時期t3までにキャンセル操作が行われなかった場合、第3制御部150は、時期t3から乗員異常対応制御(すなわち第3制御)を実行する。第3制御部150は、乗員異常対応制御を実行すると、自車両Mが停止するまで、自車線L1内で自車両Mを徐々に減速させる。このとき、第3制御部150は、例えば、自車両Mが自車線L1から逸脱しないように自車両Mの操舵を制御しつつ、自車両Mを徐々に減速させていく。そして、
図4の例では、時期t3後の時期t4にて、乗員異常対応制御により自車線L1で自車両Mが停止されている。
【0057】
また、第3制御部150は、乗員異常対応制御を実行すると、
図4中の(b)に示すように、第3警報の一例として、運転者の異常が検知されたため乗員異常対応制御が実行されていることを案内するメッセージ(図示の例では「ドライバーの異常を検知しました。減速中です。」というメッセージ)をMID31aに表示させる車内報知を行う。
【0058】
さらに、第3制御部150は、乗員異常対応制御を実行すると、第3警報の他の一例として、ホーン吹鳴及びハザード点滅による車外報知も行う。このような車外報知を行うことにより、自車両Mの運転者に異常が発生したことを自車両Mの周辺の交通参加者に報知することができる。
【0059】
さらに、第3制御部150は、乗員異常対応制御を実行すると、例えば自車両Mの製造業者が管理するコールセンターの端末装置又はサーバ装置といった所定の外部装置へ、通信装置20などを制御して所定の緊急通報情報を送信するようにしてもよい。ここで、緊急通報情報は、例えば、自車両Mの運転者に異常が発生したこと示す情報と、自車両Mの現在位置を示す情報とを含む。これにより、コールセンターなどの従業員に対し、自車両Mの運転者を救助するため、救急車などの緊急車両を手配するように促すことが可能となる。また、第3制御部150は、SOSボタン32の押下によって運転者の異常が検知された場合にはその時点で緊急通報情報を送信するようにし、ドライバモニタカメラ50によって撮像された映像などによって運転者の異常が検知された場合には自車両Mを停止させた時点で緊急通報情報を送信するようにしてもよい。これにより、緊急通報情報を適切なタイミングで送信することが可能となる。
【0060】
ところで、前方交差車両警報制御(すなわち第1制御)、衝突軽減制御(すなわち第2制御)、及び乗員異常対応制御(すなわち第3制御)のそれぞれの実行条件が同時期に成立するといったことも発生し得る。自車両Mの安全性を確保する観点から、このように運転支援に関わる複数の制御の実行条件が同時期に成立したとしても、自車両Mを適切に制御することが望まれる。
【0061】
そこで、本実施形態において、制御装置100は、前方交差車両警報制御(すなわち第1制御)、衝突軽減制御(すなわち第2制御)、及び乗員異常対応制御(すなわち第3制御)の実行を調停する調停部170をさらに備える。さらに、この調停部170は、乗員異常検知時制御の実行も調停可能に構成されてもよい。
【0062】
<調停部170による各制御の調停の一例>
図5を参照して、調停部170による各制御の調停の一例について具体的に説明する。
図5中の(a)に示すように、調停部170は、運転者の異常が検知されていないときに(すなわち第2検知条件の成立前に)衝突軽減制御の実行条件(すなわち第2実行条件)が成立した場合には、第2制御部130による衝突軽減制御を実行させる。すなわち、この場合には、衝突軽減制御にかかる警報(例えば
図3に示した警報画像G2の表示)が行われるとともに、衝突軽減制御にかかる自車両Mの走行制御として自車両Mが自動的に制動され得る。
【0063】
また、
図5中の(b)に示すように、調停部170は、運転者の異常が検知されているときに(すなわち第2検知条件の成立後に)衝突軽減制御の実行条件が成立した場合には、運転者の異常検知に応じて開始された第3制御部150による乗員異常対応制御を中断又は中止させ、第2制御部130による衝突軽減制御を実行させる。すなわち、この場合も、衝突軽減制御にかかる警報が行われるとともに、衝突軽減制御にかかる自車両Mの走行制御として自車両Mが自動的に制動され得る。
【0064】
また、
図5中の(c)に示すように、調停部170は、運転者の異常が検知されていないときに前方交差車両警報制御の実行条件(すなわち第1実行条件)が成立した場合には、第1制御部120による前方交差車両警報制御を実行させる。すなわち、この場合には、前方交差車両警報制御にかかる警報(例えば
図2に示した警報画像G1の表示)が行われる。
【0065】
また、
図5中の(d)に示すように、調停部170は、運転者の異常が検知されているときに前方交差車両警報制御の実行条件が成立した場合には、第1制御部120による前方交差車両警報制御を実行させず、第3制御部150による乗員異常対応制御を継続させる。すなわち、この場合には、前方交差車両警報制御の実行条件成立後も、例えば
図4中の(b)に示した乗員異常対応制御にかかる警報が行われるとともに、乗員異常対応制御にかかる自車両Mの走行制御として自車両Mの減速が継続(又は停止状態が維持)される。
【0066】
<制御装置100による処理>
次に、制御装置100が実行する処理の一例について、
図6及び
図7を参照しながら説明する。例えば、制御装置100は、自車両Mのイグニッション電源がオンであるときに、
図6及び
図7に示す処理を所定の周期で実行する。
【0067】
図6に示すように、制御装置100は、まず、乗員異常検知時制御の実行条件である第1検知条件が成立したか否かを判定する(ステップS1)。第1検知条件が成立していないと判定した場合(ステップS1:NO)、制御装置100は、後述するステップS4の処理に進む。
【0068】
第1検知条件が成立したと判定したならば(ステップS1:YES)、制御装置100は、例えば前方交差車両警報制御や衝突低減制御といった乗員異常検知時制御以外の制御の実行中であるか否かを判定する(ステップS2)。乗員異常検知時制御以外の制御の実行中であると判定したならば(ステップS2:YES)、制御装置100は、後述するステップS4の処理に進む。一方、乗員異常検知時制御以外の制御の実行中ではないと判定したならば(ステップS2:NO)、制御装置100は、乗員異常検知時制御を開始する(ステップS3)。
【0069】
次に、制御装置100は、乗員異常対応制御の実行条件である第2検知条件が成立したか否かを判定する(ステップS4)。第2検知条件が成立しないと判定した場合(ステップS4:NO)、制御装置100は、後述するステップS9の処理に進む。一方、第2検知条件が成立したと判定した場合(ステップS4:YES)、制御装置100は、衝突軽減制御の実行中であるか否かを判定する(ステップS5)。衝突軽減制御の実行中であると判定した場合(ステップS5:YES)、制御装置100は、後述するステップS9の処理に進む。
【0070】
衝突軽減制御の実行中ではないと判定した場合(ステップS5:NO)、制御装置100は、前方交差車両警報制御の実行中であるか否かを判定する(ステップS6)。前方交差車両警報制御の実行中であると判定した場合(ステップS6:YES)、制御装置100は、前方交差車両警報制御を中止するとともに(ステップS7)、乗員異常対応制御を開始して(ステップS8)、後述するステップS9の処理に進む。一方、前方交差車両警報制御の実行中ではないと判定した場合(ステップS6:NO)、制御装置100は、そのまま乗員異常対応制御を開始して(ステップS8)、後述するステップS9の処理に進む。
【0071】
次に、制御装置100は、衝突軽減制御の実行条件が成立したか否か判定する。衝突軽減制御の実行条件が成立していないと判定した場合(ステップS9:NO)、制御装置100は、後述するステップS13の処理に進む。一方、衝突軽減制御の実行条件が成立したと判定した場合(ステップS9:YES)、制御装置100は、例えば乗員異常対応制御、前方交差車両警報制御、又は乗員異常検知時制御といった衝突低減制御以外の制御の実行中であるか否かを判定する(ステップS10)。
【0072】
衝突低減制御以外の制御の実行中であると判定したならば(ステップS10:YES)、制御装置100は、実行中の制御を中止するとともに(ステップS11)、衝突低減制御を実行して(ステップS12)、後述するステップS13の処理に進む。一方、衝突低減制御以外の制御の実行中ではないと判定した場合(ステップS10:NO)、制御装置100は、そのまま後述するステップS13の処理に進む。
【0073】
次に、制御装置100は、前方交差車両警報制御の実行条件が成立したか否か判定する。前方交差車両警報制御の実行条件が成立していないと判定した場合(ステップS13:NO)、制御装置100は、後述するステップS18の処理に進む。一方、前方交差車両警報制御の実行条件が成立したと判定した場合(ステップS13:YES)、制御装置100は、衝突軽減制御又は乗員異常対応制御の実行中であるか否か判定する(ステップS14)。衝突軽減制御又は乗員異常対応制御の実行中であると判定した場合(ステップS14:YES)、制御装置100は、後述するステップS18の処理に進む。
【0074】
衝突軽減制御又は乗員異常対応制御の実行中ではないと判定した場合(ステップS14:NO)、制御装置100は、乗員異常検知時制御の実行中であるか否か判定する(ステップS15)。乗員異常検知時制御の実行中であると判定した場合(ステップS15:YES)、制御装置100は、乗員異常検知時制御を中止し(ステップS17)、前方交差車両警報制御を実行する(ステップS18)。一方、乗員異常検知時制御の実行中ではないと判定した場合(ステップS15:NO)、そのまま前方交差車両警報制御を実行する(ステップS18)。
【0075】
次に、制御装置100は、乗員異常検知時制御の実行中であるか否かを判定する(ステップS18)。乗員異常検知時制御の実行中ではないと判定した場合(ステップS18:NO)、制御装置100は、一連の処理を終了する。乗員異常検知時制御の実行中であると判定した場合(ステップS18:YES)、制御装置100は、キャンセル操作があったか否かを判定する(ステップS19)。キャンセル操作がないと判定した場合(ステップS19:NO)、制御装置100は、一連の処理を終了する。
【0076】
一方、キャンセル操作があったと判定した場合(ステップS19:YES)、制御装置100は、乗員異常検知時制御を終了し(ステップS20)、一連の処理を終了する。
【0077】
以上に説明したように、制御装置100は、前方交差車両警報制御(すなわち第1制御)及び乗員異常対応制御(すなわち第3制御)のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前方交差車両警報制御よりも乗員異常対応制御を優先して実行させる。運転者に異常が発生している状態では、前方交差車両警報制御を実行したとしても、前方交差車両警報制御による警報に応じて運転者が何らかの行動をとるといったことは難しい。そこで、制御装置100は、前方交差車両警報制御及び乗員異常対応制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、自車両Mを自動的に減速又は停止させるという走行制御を含む乗員異常対応制御を優先して実行する。これにより、前方交差車両警報制御及び乗員異常対応制御のそれぞれの実行条件が同時期に成立したとしても、より安全性の向上につながり得る乗員異常対応制御によって自車両Mを適切に制御でき、安全性の向上を図れる。
【0078】
また、制御装置100は、衝突低減制御(すなわち第2制御)及び乗員異常対応制御(すなわち第3制御)のそれぞれの実行条件が成立した場合には、乗員異常対応制御よりも衝突低減制御を優先して実行させる。自車両Mの制動又は操舵という走行制御を含む衝突低減制御は、乗員異常対応制御よりもさらに安全性の向上に寄与し得ると考えられる。そこで、制御装置100は、衝突低減制御及び乗員異常対応制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、衝突低減制御を優先して実行することで、これらの実行条件が同時期に成立したとしても、より安全性の向上につながり得る衝突低減制御によって自車両Mを適切に制御でき、安全性の向上を図れる。
【0079】
また、制御装置100は、乗員異常対応制御(すなわち第3制御)の実行中に、前方交差車両警報制御の実行条件(すなわち第1実行条件)が成立した場合には、前方交差車両警報制御(すなわち第1制御)を実行させずに乗員異常対応制御を継続させる。これにより、乗員異常対応制御の実行中に前方交差車両警報制御の実行条件が成立したとしても、引き続き、より安全性の向上につながり得る乗員異常対応制御によって自車両Mを適切に制御でき、安全性の向上を図れる。
【0080】
また、制御装置100は、乗員異常対応制御(すなわち第3制御)の実行中に、衝突軽減制御の実行条件(すなわち第2実行条件)が成立した場合には、乗員異常対応制御を中断又は中止させて衝突軽減制御を実行する。これにより、乗員異常対応制御の実行中に衝突低減制御の実行条件が成立した後には、より安全性の向上につながり得る衝突低減制御によって自車両Mを適切に制御でき、安全性の向上を図れる。
【0081】
また、制御装置100は、第1検知条件が成立してから第2検知条件が成立するまでの期間に、乗員異常対応制御(すなわち第3制御)の開始を予告する乗員異常検知時制御(すなわち第4制御)を実行可能に構成される。そして、制御装置100は、前方交差車両警報制御(すなわち第1制御)及び乗員異常検知時制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、乗員異常検知時制御よりも前方交差車両警報制御を優先して実行する。自車両Mの周辺状況の認識結果に基づき実行される前方交差車両警報制御は、乗員異常検知時制御よりも安全性の向上に寄与し得ると考えられる。そこで、制御装置100は、前方交差車両警報制御及び乗員異常検知時制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前方交差車両警報制御を優先して実行することで、これらの実行条件が同時期に成立したとしても、より安全性の向上につながり得る前方交差車両警報制御によって自車両Mを適切に制御でき、安全性の向上を図れる。
【0082】
また、制御装置100は、乗員異常検知時制御(すなわち第4制御)の実行中に、前方交差車両警報制御の実行条件(すなわち第1実行条件)が成立した場合には、乗員異常検知時制御を中断又は中止させて前方交差車両警報制御を実行する。これにより、乗員異常検知時制御の実行中に前方交差車両警報制御の実行条件が成立した後には、より安全性の向上につながり得る前方交差車両警報制御によって自車両Mを適切に制御でき、安全性の向上を図れる。
【0083】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前述した実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0084】
例えば、前述した実施形態では、第2制御が衝突軽減制御であるものとして説明したが、第2制御は、衝突軽減制御に限られず、路外逸脱抑制制御(RDM:Road Departure Mitigaion)や衝突回避操舵支援制御(ESS:Evasive Steering Support)などであってもよい。
【0085】
また、第2制御部130は、乗員異常検知部140によって運転者の異常が検知されたことに応じて、衝突軽減制御(すなわち第2制御)の実行条件である第2実行条件を変更可能に構成され、運転者の異常が検知された場合には、運転者の異常が検知されていない場合よりも、衝突軽減制御が実行されやすくなるように第2実行条件を変更してもよい。
【0086】
例えば、
図8中の(a)に示すように、第2制御部130は、運転者の異常が検知されていないときには、走行する自車両Mと、その前方に存在する先行車両M1との車間距離がd1になったことに応じて、衝突軽減制御を実行する。これに対し、
図8中の(b)に示すように、第2制御部130は、運転者の異常が検知されているときには、走行する自車両Mと、その前方に存在する先行車両M1との車間距離がd1よりも大きいd2になったことに応じて、衝突軽減制御を実行する。これにより、運転者の異常が検知されていないときに衝突軽減制御が過剰に実行されてしまうのを抑制できる一方、運転者の異常が検知されたときにはより早期に衝突軽減制御が作動されるようにして、自車両Mの安全性の向上を図れる。
【0087】
本明細書等には少なくとも以下の事項が記載されている。なお、括弧内には、前述した実施形態において対応する構成要素等を示しているが、これに限定されるものではない。
【0088】
(1) 車両(自車両M)を制御する車両制御装置(制御装置100)であって、
前記車両の周辺状況を認識する認識部(認識部110)と、
前記認識部の認識結果に基づき第1実行条件が成立したことに応じて、前記車両の乗員に対して第1警報を行う第1制御を実行可能な第1制御部(第1制御部120)と、
前記認識部の認識結果に基づき第2実行条件が成立したことに応じて、前記車両の制動又は操舵を制御するとともに前記乗員に対して第2警報を行う第2制御を実行可能な第2制御部(第2制御部130)と、
前記乗員の異常を検知する乗員異常検知部(乗員異常検知部140)と、
前記乗員異常検知部によって前記乗員の異常が検知されたことに応じて、前記車両を減速又は停止させるとともに第3警報を行う第3制御を実行可能な第3制御部(第3制御部150)と、
前記第1制御、前記第2制御、及び前記第3制御の実行を調停する調停部(調停部170)と、
を備え、
前記調停部は、
前記第1制御及び前記第3制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第1制御よりも前記第3制御を優先して実行させ、
前記第2制御及び前記第3制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第3制御よりも前記第2制御を優先して実行させる、
車両制御装置。
【0089】
(1)によれば、第1制御、第2制御、及び第3制御のそれぞれを適切に実行することが可能となり、車両の安全性の向上を図れる。例えば、乗員に異常が発生している状態では、乗員に対する第1警報を行う第1制御を実行したとしても、当該警報に応じて乗員が何らかの行動をとるといったことは難しい。このため、乗員の異常が検知された場合、すなわち、第3制御の実行条件が成立した場合には、第1制御の実行条件が成立したとしても、車両を減速又は停止させるという走行制御を含む第3制御を優先的に実行することで、これらの実行条件が同時期に成立したとしても、第3制御によって車両を適切に制御でき、安全性の向上を図れる。また、第2制御及び第3制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、車両の制動又は操舵という走行制御を含む第2制御を優先させた方が安全性の向上につながり得る。このため、第2制御及び第3制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、第2制御を優先的に実行することで、これらの実行条件が同時期に成立したとしても、第2制御によって車両を適切に制御でき、安全性の向上を図れる。
【0090】
(2) (1)に記載の車両制御装置であって、
前記調停部は、
前記第3制御の実行中に前記第1実行条件が成立した場合には、前記第3制御を継続させ、
前記第3制御の実行中に前記第2実行条件が成立した場合には、前記第3制御を中断又は中止させて前記第2制御を実行させる、
車両制御装置。
【0091】
(2)によれば、第3制御の実行中に第1制御の実行条件(すなわち第1実行条件)が成立したとしても、引き続き、より安全性の向上につながり得る第3制御によって車両を適切に制御でき、安全性の向上を図れる。また、(2)によれば、第3制御の実行中に第2制御の実行条件(すなわち第2実行条件)が成立した場合には、当該実行条件の成立後、より安全性の向上につながり得る第2制御によって車両を適切に制御でき、安全性の向上を図れる。
【0092】
(3) (1)又は(2)に記載の車両制御装置であって、
前記乗員異常検知部は、第1検知条件が成立し、当該第1検知条件の成立後に第2検知条件がさらに成立したことに応じて、前記乗員の異常を検知し、
前記車両制御装置は、
前記第1検知条件が成立してから前記第2検知条件が成立するまでの期間に、前記乗員に対して第4警報を行う第4制御を実行可能な第4制御部(第4制御部160)をさらに備え、
前記調停部は、
前記第4制御の実行をさらに調停可能に構成され、
前記第1制御及び前記第4制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、前記第4制御よりも前記第1制御を優先して実行させる、
車両制御装置。
【0093】
車両の周辺状況の認識結果に基づき実行される第1制御は、第4制御よりも安全性の向上に寄与し得ると考えられる。(3)によれば、第1制御及び第4制御のそれぞれの実行条件が成立した場合には、第1制御を優先して実行することで、これらの実行条件が同時期に成立したとしても、第1制御によって車両を適切に制御でき、安全性の向上を図れる。
【0094】
(4) (3)に記載の車両制御装置であって、
前記調停部は、
前記第4制御の実行中に前記第1実行条件が成立した場合には、前記第4制御を中断又は中止させて前記第1制御を実行させる、
車両制御装置。
【0095】
(4)によれば、第4制御の実行中に第1制御の実行条件(すなわち第1実行条件)が成立した場合には、当該実行条件の成立後、より安全性の向上につながり得る第1制御によって車両を適切に制御でき、安全性の向上を図れる。
【0096】
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の車両制御装置であって、
前記第2制御部は、
前記乗員異常検知部によって前記乗員の異常が検知されたことに応じて、前記第2実行条件を変更可能に構成され、
前記乗員の異常が検知された場合には、前記乗員の異常が検知されていない場合よりも、前記第2制御が実行されやすくなるように前記第2実行条件を変更する、
車両制御装置。
【0097】
(5)によれば、乗員の異常が検知された場合には、乗員の異常が検知されていない場合よりも、第2制御が実行されやすくできる。これにより、乗員の異常が検知されていないときに第2制御が過剰に実行されてしまうのを抑制できる一方、乗員の異常が検知されているときには第2制御をより早期に実行することが可能となり、車両の安全性の向上を図れる。
【符号の説明】
【0098】
1 車両システム
100 制御装置(車両制御装置)
110 認識部
120 第1制御部
130 第2制御部
140 乗員異常検知部
150 第3制御部
170 調停部
160 第4制御部
M 自車両(車両)