(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
B01D 63/02 20060101AFI20250127BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D63/00 500
(21)【出願番号】P 2023531465
(86)(22)【出願日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2022017935
(87)【国際公開番号】W WO2023276414
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2021108770
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 松喜
(72)【発明者】
【氏名】伊東 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】江本 剛
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-061666(JP,A)
【文献】特開昭61-157309(JP,A)
【文献】特開平06-277460(JP,A)
【文献】特開2015-181986(JP,A)
【文献】特開2015-181985(JP,A)
【文献】特開平08-084914(JP,A)
【文献】特開2015-024408(JP,A)
【文献】実開平04-078929(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端が開口した筒状のケースと、
前記ケース内に配される複数の中空糸膜と、
前記ケースにおける開口側かつ前記複数の中空糸膜の端部において、各中空糸膜の中空内部を開放させた状態で、中空糸膜同士の間の隙間を塞ぎ、かつ中空糸膜同士を固定する封止固定部と、
前記ケースと前記封止固定部との間の環状隙間を封止する封止部と、
を備える中空糸膜モジュールであって、
前記封止部は、前記ケースと接する部位のうちの少なくとも一部が前記ケースに拘束されないことにより、前記ケースと前記封止固定部との間の隙間の間隔が変化する方向への伸縮が許容され
つつ、前記ケースの内周面と前記封止固定部の外周面に対して接着されていることを特徴とする
中空糸膜モジュール。
【請求項2】
少なくとも一端が開口した筒状のケースと、
前記ケース内に配される複数の中空糸膜と、
前記ケースにおける開口側かつ前記複数の中空糸膜の端部において、各中空糸膜の中空内部を開放させた状態で、中空糸膜同士の間の隙間を塞ぎ、かつ中空糸膜同士を固定する封止固定部と、
前記ケースと前記封止固定部との間の環状隙間を封止する封止部と、
を備える中空糸膜モジュールであって、
前記封止部は、前記ケースと接する部位のうちの少なくとも一部が前記ケースに接着されないことにより、前記ケースと前記封止固定部との間の隙間の間隔が変化する方向への伸縮が許容され
つつ、前記ケースの内周面と前記封止固定部の外周面に対して接着されていることを特徴とする
中空糸膜モジュール。
【請求項3】
少なくとも一端が開口した筒状のケースと、
前記ケース内に配される複数の中空糸膜と、
前記ケースにおける開口側かつ前記複数の中空糸膜の端部において、各中空糸膜の中空内部を開放させた状態で、中空糸膜同士の間の隙間を塞ぎ、かつ中空糸膜同士を固定する封止固定部と、
前記ケースと前記封止固定部との間の環状隙間を封止する封止部と、
を備える中空糸膜モジュールであって、
前記ケースの端面側には、前記封止固定部と接する内周面に隣接する平面状部分と前記封止固定部の外周面と対向する内周面部分とを有し、前記封止部が設けられる環状の切り欠きが設けられており、前記封止部は、前記平面状部分と接する部分のうちの少なくとも一部が接着されないことにより、前記ケースと前記封止固定部との間の隙間の間隔が変化する方向への伸縮が許容され
つつ、前記ケースの内周面と前記封止固定部の外周面に対して接着されていることを特徴とする
中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記ケースはポリフェニレンスルファイドにより構成され、前記封止固定部はエポキシ樹脂により構成され、前記封止部は液状シリコーンが硬化した材料により構成されると共に、
前記開口の中心を含む面で前記封止固定部と前記封止部を切断した断面で見た場合に、前記封止固定部における前記中空糸膜が伸びる方向に対して垂直方向の幅をL1とし、前記平面状部分と前記封止部のうち接触されない部分における前記垂直方向の長さをL2とすると、0.01×L1≦L2≦0.1×L1を満たすことを特徴とする請求項
3に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記ケースはポリフェニレンスルファイドにより構成され、前記封止固定部はエポキシ樹脂により構成され、前記封止部は液状シリコーンが硬化した材料により構成されると共に、
前記開口の中心を含む面で前記封止固定部と前記封止部を切断した断面で見た場合に、前記封止固定部における前記中空糸膜が伸びる方向に対して垂直方向の幅をL1とし、前記平面状部分と前記封止部のうち接触されない部分における前記垂直方向の長さをL2とすると、0.02×L1≦L2≦0.05×L1を満たすことを特徴とする請求項
3に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記ケースの内周面のうち前記封止固定部と接する部分には環状凹部が設けられていることを特徴とする請求項1~
5のいずれか一つに記載の中空糸膜モジュール。
【請求項7】
前記ケースの内周面のうち前記封止固定部と接する部分には段差が設けられていることを特徴とする請求項1~
5のいずれか一つに記載の中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の中空糸膜を備える中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュールは、濾過の他、加湿を行う目的等に利用されている。中空糸膜モジュールにおいては、ケース内に複数の中空糸膜が束の状態で設けられている。そして、束状の中空糸膜の端部においては、ポッティング材料によって、各中空糸膜の中空内部を開放させつつ、中空糸膜同士の間の隙間を塞ぎ、かつ中空糸膜同士を固定する封止固定部が設けられている。この封止固定部は、ケースに対して直接接着されて固定されることもあるが、封止固定部とケースとの間に隙間ができて漏れてしまう使用環境下では、封止固定部とケースとの間の環状隙間に他の封止部が設けられることがある。例えば、ゴム製のシール部材を接着により固定したり、液状シールを注入後に硬化させたりすることで封止部が設けられている。これにより、封止固定部とケースとの間の環状隙間が封止部によって封止される。
【0003】
しかしながら、使用環境における温度変化が大きいと、封止固定部とケースとの熱膨張量の差が大きくなり、従来の封止部の構造では、十分に封止できない場合がある。例えば、燃料電池においては、電解質膜を湿らせておくために、中空糸膜モジュールが好適に採用されているが、燃料電池において求められる使用環境の温度範囲が増々広くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-208013号公報
【文献】特開2017-70934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、使用環境の温度範囲が広い条件においても、安定した密封性を得ることのできる中空糸膜モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明の中空糸膜モジュールは、
少なくとも一端が開口した筒状のケースと、
前記ケース内に配される複数の中空糸膜と、
前記ケースにおける開口側かつ前記複数の中空糸膜の端部において、各中空糸膜の中空内部を開放させた状態で、中空糸膜同士の間の隙間を塞ぎ、かつ中空糸膜同士を固定する封止固定部と、
前記ケースと前記封止固定部との間の環状隙間を封止する封止部と、
を備える中空糸膜モジュールであって、
前記封止部は、前記ケースと前記封止固定部との間の隙間の間隔が変化する方向への伸縮が許容されつつ、前記ケースの内周面と前記封止固定部の外周面に対して接着されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、ケースと封止固定部の熱膨張量の差が異なることで、ケースと封止固定部との間の隙間の間隔が変化しても、封止部が伸縮することにより、ケースと封止固定部との間の環状隙間が封止された状態が維持される。
【0009】
前記封止部は、前記ケースと接する部位のうちの少なくとも一部が前記ケースに拘束されないことにより、前記ケースと前記封止固定部との間の隙間の間隔が変化する方向への伸縮が許容されるとよい。
【0010】
前記封止部は、前記ケースと接する部位のうちの少なくとも一部が前記ケースに接着されないことにより、前記ケースと前記封止固定部との間の隙間の間隔が変化する方向への伸縮が許容されるとよい。
【0011】
前記ケースの端面側には、前記封止固定部と接する内周面に隣接する平面状部分と前記封止固定部の外周面と対向する内周面部分とを有し、前記封止部が設けられる環状の切り欠きが設けられており、前記封止部は、前記平面状部分と接する部分のうちの少なくとも一部が接着されないことにより、前記ケースと前記封止固定部との間の隙間の間隔が変化する方向への伸縮が許容されるとよい。
【0012】
前記ケースはポリフェニレンスルファイドにより構成され、前記封止固定部はエポキシ樹脂により構成され、前記封止部は液状シリコーンが硬化した材料により構成されると共に、前記開口の中心を含む面で前記封止固定部と前記封止部を切断した断面で見た場合に、前記封止固定部における前記中空糸膜が伸びる方向に対して垂直方向の幅をL1とし、前記平面状部分と前記封止部のうち接触されない部分における前記垂直方向の長さをL2とすると、0.01×L1≦L2≦0.1×L1を満たすとよい。
【0013】
前記ケースはポリフェニレンスルファイドにより構成され、前記封止固定部はエポキシ樹脂により構成され、前記封止部は液状シリコーンが硬化した材料により構成されると共に、前記開口の中心を含む面で前記封止固定部と前記封止部を切断した断面で見た場合に、前記封止固定部における前記中空糸膜が伸びる方向に対して垂直方向の幅をL1とし、前記平面状部分と前記封止部のうち接触されない部分における前記垂直方向の長さをL2とすると、0.02×L1≦L2≦0.05×L1を満たすとよい。
【0014】
前記ケースの内周面のうち前記封止固定部と接する部分には環状凹部が設けられているとよい。
【0015】
これにより、ケースに対する封止固定部の位置ずれが抑制される。
【0016】
前記ケースの内周面のうち前記封止固定部と接する部分には段差が設けられているとよい。
【0017】
これにより、ケースに対する封止固定部の位置ずれが抑制される。
【0018】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、使用環境の温度範囲が広い条件においても、安定した密封性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は本発明の実施例1に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図である。
【
図3】
図3は本発明の実施例2に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図の一部拡大図である。
【
図4】
図4は本発明の実施例3に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図の一部拡大図である。
【
図5】
図5は本発明の実施例4に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図である。
【
図6】
図6は本発明の実施例5に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0022】
(実施例1)
図1及び
図2を参照して、本発明の実施例1に係る中空糸膜モジュールについて説明する。
図1は本発明の実施例1に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図であり、ケースの開口の中心を含む面で中空糸膜モジュールを切断した断面図である。
図2は
図1の一部拡大図であり、封止部の付近を拡大した図である。
【0023】
<中空糸膜モジュールの全体構成>
本実施例に係る中空糸膜モジュール10は、両端が開口した筒状のケース100と、ケース100内に配される複数の中空糸膜200と、複数の中空糸膜200の端部に設けられる封止固定部310,320とを備えている。本実施例においては、束状の中空糸膜200の両端にそれぞれ封止固定部310,320が設けられている。これら封止固定部310,320においては、各中空糸膜200の中空内部を開放させた状態で、中空糸膜同士の間の隙間を塞ぎ、かつ中空糸膜同士を固定するように構成されている。そして、本実施例に係る中空糸膜モジュール10においては、ケース100と封止固定部310,320との間の環状隙間をそれぞれ封止する封止部410,420が設けられている。また、ケース100の両端には、それぞれ蓋部材510,520が設けられている。
【0024】
ケース100は、アルミニウムなどの金属やポリフェニレンスルファイド(PPS)などの樹脂材料により構成される。このケース100には、流体の入口や出口として利用される貫通孔121,122が設けられている。図示の例では、2か所に貫通孔が設けられているが、貫通孔の個数は適宜設定することができる。また、ケース100の端面側には、環状の切り欠き131,132が設けられている。本実施例においては、ケースの両端に、それぞれ切り欠き131,132が設けられている。これらの切り欠き131,132は、ケース100における封止固定部310,320と接する内周面110に隣接する平面状部分と、封止固定部310,320の外周面と対向する内周面部分とを有する(
図2中の平面状部分131aと内周面部分131bを参照)。なお、ケース100の形状については、円筒形状、箱型形状など各種の形状を採用し得る。
【0025】
中空糸膜200の素材については、中空糸膜モジュール10が加湿装置や除湿装置に適用される場合には、例えば、孔径制御による毛管凝縮機構により水分を透過する特性を有するPPSU(ポリフェニルスルホン)などを好適に用いることができる。なお、製膜溶液(中空糸膜の原料)を調整する際、溶媒中にPPSUと親水性高分子(ポリビニルポロリドン)を添加した製膜溶液を用いて紡糸を行うことで親水性を有する中空糸膜を得ることができる。また、溶解拡散により水分を透過する特性を有する親水性の材料であるナフィオン(登録商標)を用いることもできる。以上のような材料は、低溶出性であり、かつ強度も高いため、加湿装置や除湿装置に好適に用いることができる。本実施例においては、全ての中空糸膜200が直線状に伸びた状態で束となって、ケース100に収容されている。
【0026】
封止固定部310,320は、エポキシ樹脂やウレタン樹脂などのポッティング材料により構成される。なお、中空糸膜200の束の端部に液状のポッティング材料を充填して硬化した後に、中空糸膜200の束の一部と共に硬化したポッティング材料を切断することで、封止固定部310,320を得ることができる。これにより、封止固定部310,320においては、各中空糸膜200の中空内部を開放させた状態で、中空糸膜同士の間の隙間を塞ぎ、かつ中空糸膜同士を固定することができる。また、本実施例においては、ケース100に中空糸膜200の束を配置させた状態で、液状のポッティング材料を充填し、硬化された封止固定部310,320を作成した後に、ケース100と封止固定部310,320とを剥離させている。
図2中、ケース100の内周面110と封止固定部310とが接する部分(図中2点鎖線の部分)は剥離された部分である。剥離させる理由について、簡単に説明する。ケース100と封止固定部310,320とを接着した状態で用いる場合においては、各部材の材料及び寸法や使用条件によっては、各部材の線膨張の差異によって、部分的に剥離が生じることがある。これにより、剥離していない部分に線膨張による応力が集中してしまい、密封性が低下してしまうことも懸念される。そこで、予め、全面に亘って剥離させておくことで、上記のような不具合を未然に防ぐことが可能となる。
【0027】
封止部410,420は、ゴムなどのエラストマー材料からなるシール部材、または、液状シール(例えば、液状シリコーン)が硬化された部材により構成される。これらの封止部410,420は、それぞれ、ケース100の切り欠き131,132に設けられる。
【0028】
蓋部材510,520には、それぞれ流体の入口や出口として利用される貫通孔511,521が設けられている。本実施例においては、蓋部材510,520とケース100との間の隙間は、封止部410,420により封止される。ただし、蓋部材510,520とケース100との間の隙間は、他の封止部材によって封止することもできるし、封止部410,420と他の封止部材の双方で封止することもできる。
【0029】
以上のように構成される中空糸膜モジュール10を加湿装置として用いる場合について説明する。例えば、
図1に示すように、加湿対象気体(乾燥空気等)が、蓋部材510の貫通孔511からケース100の内部へと供給される。これにより、加湿対象気体は、各中空糸膜200の中空内部を通り蓋部材520の貫通孔521から排出される(矢印R1参照)。また、湿潤気体が、貫通孔122からケース100の内部へと供給される。これにより、湿潤気体は各中空糸膜200の膜外を通って、貫通孔121からケース100の外部へと流れていく(矢印R2参照)。これにより、中空糸膜200の膜分離作用によって、湿潤気体中の水分が加湿対象気体側に移動して、加湿対象気体は加湿される。
【0030】
<封止部>
封止部410,420について、詳細に説明する。本実施例に係る封止部410,420は、それぞれ、ケース100と封止固定部310,320との間の隙間の間隔が変化する方向への伸縮が許容されつつ、ケース100の内周面110と封止固定部310,320の外周面に対して接着されている。より具体的には、封止部410,420は、ケース100と接する部位のうちの少なくとも一部がケース100に拘束されないことにより、ケース100と封止固定部310,320との間の隙間が変化する方向への伸縮が許容されるように構成されている。更に具体的には、封止部410,420は、ケース100と接する部位のうちの少なくとも一部がケース100に接着されないことにより、ケース100と封止固定部310,320との間の隙間が変化する方向への伸縮が許容されるように構成されている。以下、この点について、封止部410の付近の拡大図を示す
図2を参照して説明する。なお、封止部420についての構成及び作用は封止部410と同様であるので、その説明は省略する。
【0031】
封止部410においては、その外周面410Sは全面的にケース100の内周面110(切り欠き131の内周面部分131b)に接着され、内周面410Tは全面的に封止固定部310の外周面に接着されている。しかしながら、封止部410は、切り欠き131の平面状部分131aのうちの少なくとも一部に対して接着されないように構成されている。なお、本実施例においては、封止部410における平面状部分131aに対向する面410Uと平面状部分131aは全面的に接着されないように構成されている。これにより、封止部410は、ケース100と封止固定部310との間の隙間の間隔が変化する方向への伸縮が許容される。
【0032】
封止部410がゴムなどのエラストマー材料からなるシール部材により構成される場合には、封止部410の外周面410Sと内周面410T(ケース100の内周面110と封止固定部310の外周面でもよい)に接着剤を塗布し、外周面410Sと内周面Tのみを接着すればよい。また、封止部410が液状シールが硬化された部材により構成される場合には、液状シールを充填する前に、切り欠き131の平面状部分131aに、液状シールが接着されない材料でコーティングを施したり、マスキングを施したりすればよい。例えば、テフロン(登録商標)などのフッ素系の材料でコーティング等を施せばよい。この場合、平面状部分131aにコーティングを施した後に、封止固定部310を作成し、切り欠き131に液状シールを充填して封止部410を設けることができる。
【0033】
<本実施例に係る中空糸膜モジュールの優れた点>
本実施例に係る中空糸膜モジュール10によれば、ケース100と封止固定部310,320の熱膨張量の差が異なることで、ケース100と封止固定部310,320との間の隙間の間隔が変化すると、封止部410,420は伸縮する。これにより、ケース100と封止固定部310,320との間の環状隙間が封止された状態が維持される。従って、使用環境の温度範囲が広い条件においても、安定した密封性を得ることができる。また、ケース100と封止固定部310,320が中空糸膜200が伸びる方向に対して相対的に位置ずれするような挙動を示したとしても、封止部410,420の伸縮により、封止部410,420と封止固定部310,320との接着部、封止部410,420とケース100の内周面110との接着部、及び封止部410,420自体に作用する応力の負荷を抑制することもできる。
【0034】
ここで、封止部410,420において、ケース100に拘束されない(接着されない)部分の範囲については、使用環境における温度範囲と各種部材の寸法及び熱膨張係数に応じて適宜設定すればよい。以下、その一例を説明する。なお、ここでは、封止部410について説明するが、封止部420においても同様であることは言うまでもない。
【0035】
ケース100がポリフェニレンスルファイド(PPS)により構成され、封止固定部310がエポキシ樹脂により構成され、封止部410が液状シリコーンが硬化した材料により構成される場合について説明する。
【0036】
ケース100の開口の中心を含む面で封止固定部310と封止部410を切断した断面で見た場合に、封止固定部310における中空糸膜200が伸びる方向に対して垂直方向の幅をL1とし、平面状部分131aと封止部410のうち接触されない部分における上記の垂直方向の長さをL2とする(
図1参照)。
【0037】
すると、0.01×L1≦L2≦0.1×L1を満たすのが望ましく、0.02×L1≦L2≦0.05×L1を満たすのが、より一層望ましい。なお、下限値については、封止固定部310とケース100の熱膨張量の差によって、封止部410が伸縮する際に、封止部410と封止固定部310との接着部、封止部410とケース100との接着部、及び封止部410の伸び縮みに悪影響を及ぼさない観点により設定される。また、上限値については、ケース100を必要以上に大型化させない観点により設定される。
【0038】
例えば、ケース100が円筒形状で、その内径が160mmの場合には、L1=160mmとなる。この場合、L2を1.6mm以上16mm以下に設定するのが望ましく、L2を3.2mm以上8mm以下に設定するのがより望ましい。また、ケース100が箱型形状で、その開口部が200mm×160mmの場合、長辺に平行な断面で見た場合については、L1=200mmとなる。この場合、L2を2mm以上20mm以下に設定するのが望ましく、L2を4mm以上10mm以下に設定するのがより望ましい。そして、短辺に平行な断面で見た場合については、L1=160mmとなる。この場合、L2を1.6mm以上16mm以下に設定するのが望ましく、L2を3.2mm以上8mm以下に設定するのがより望ましい。
【0039】
以上のように設定すれば、車載用の燃料電池に中空糸膜モジュール10が適用されて、-30℃以下の寒冷地で使用される環境下でも、安定した密封性を維持することができる。なお、燃料電池の稼働中においては、中空糸膜モジュール10は100℃以上の環境下に曝される。従って、使用環境温度が、おおよそ-40℃以上120℃以下の場合でも、本実施例に係る中空糸膜モジュール10を好適に用いることができる。
【0040】
(実施例2)
図3には、本発明の実施例2が示されている。本実施例においては、ケースの構成が上記実施例1とは異なる場合の構成を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0041】
図3は本発明の実施例2に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図の一部拡大図であり、封止部の付近を拡大した図である。本実施例においては、ケース100の内周面110のうち封止固定部310と接する部分には環状凹部111が設けられている。そのため、封止固定部310には、この環状凹部111に入り込むように環状の凸部311が設けられる。従って、封止固定部310がケース100に対して位置ずれしてしまうことが抑制される。これにより、封止部410に作用するせん断応力を緩和することができる。なお、封止部410等の構成については、上記実施例1と同様であるので、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、本実施例においても、実施例1と同様に、ケース100と封止固定部310,320とを剥離させている。
図3中、ケース100の内周面110と封止固定部310とが接する部分(図中2点鎖線の部分)は剥離された部分である。
【0042】
(実施例3)
図4には、本発明の実施例3が示されている。本実施例においては、ケースの構成が上記実施例1とは異なる場合の構成を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0043】
図4は本発明の実施例3に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図の一部拡大図であり、封止部の付近を拡大した図である。本実施例においては、ケース100の内周面110のうち封止固定部310と接する部分には、内部側の面110aと外部側の面110bとを有する段差が設けられている。そのため、封止固定部310も、この段差に倣うように段差が設けられる。従って、封止固定部310がケース100に対して、特に内部側に位置ずれしてしまうことが抑制される。これにより、封止部410に作用するせん断応力を緩和することができる。なお、封止部410等の構成については、上記実施例1と同様であるので、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、本実施例においても、実施例1と同様に、ケース100と封止固定部310,320とを剥離させている。
図4中、ケース100の内周面110と封止固定部310とが接する部分(図中2点鎖線の部分)は剥離された部分である。
【0044】
(実施例4)
図5には、本発明の実施例4が示されている。本実施例においては、内ケース(インナーパイプ)を備える場合の構成を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0045】
図5は本発明の実施例4に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図であり、ケースの開口の中心を含む面で中空糸膜モジュールを切断した断面図である。本実施例に係る中空糸膜モジュール10Xは、筒状のケース100Xと、ケース100Xの内部に備えられる内ケース(インナーパイプ)150とを備えている。本実施例の場合には、ケース100Xと内ケース150のとの間の環状隙間に複数の中空糸膜200が配される。複数の中空糸膜200の端部に封止固定部310,320が設けられる点については、上記実施例1と同様である。内ケース150には、流体の入口や出口として利用される貫通孔151が設けられている。
【0046】
以上のように構成される中空糸膜モジュール10Xを加湿装置として用いる場合について説明する。例えば、
図5に示すように、加湿対象気体(乾燥空気等)は、蓋部材510の貫通孔511からケース100Xの内部へと供給される。これにより、加湿対象気体は、各中空糸膜200の中空内部を通り蓋部材520の貫通孔521から排出される(矢印R1参照)。また、湿潤気体は、内ケース150の端部から内ケース150の内部へと供給される。これにより、湿潤気体は内ケース150の貫通孔151からケース100X内に入り、各中空糸膜200の膜外を通って、貫通孔120からケース100の外部へと流れていく(矢印R2参照)。これにより、中空糸膜200の膜分離作用によって、湿潤気体中の水分が加湿対象気体側に移動して、加湿対象気体は加湿される。
【0047】
本実施例においても、封止部410,420等の構成については、上記実施例1と同様であるので、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、本実施例においても、実施例2,3に示す構成を採用することができる。また、本実施例においても、実施例1と同様に、ケース100Xと封止固定部310,320とを剥離させている。
【0048】
(実施例5)
図6には、本発明の実施例5が示されている。上記実施例1においては、中空糸膜の束の両側にそれぞれ封止固定部を設ける場合の構成について示したが、本実施例においては、中空糸膜の束をU字形状の折り曲げて、中空糸膜の束の一端部に封止固定部を設ける場合の構成について示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0049】
図6は本発明の実施例5に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図であり、ケースの開口の中心を含む面で中空糸膜モジュールを切断した断面図である。本実施例に係る中空糸膜モジュール10Yは、一端が開口した筒状のケース100Yと、ケース100Y内に配される複数の中空糸膜200Yと、複数の中空糸膜200Yの端部に設けられる封止固定部300とを備えている。本実施例においては、束状の中空糸膜200YがU字形状に折り曲げられて、ケース100Yの開口側に封止固定部300が設けられている。封止固定部300においては、実施例1と同様に各中空糸膜200Yの中空内部を開放させた状態で、中空糸膜同士の間の隙間を塞ぎ、かつ中空糸膜同士を固定するように構成されている。そして、本実施例に係る中空糸膜モジュール10Yにおいては、ケース100Yと封止固定部300との間の環状隙間を封止する封止部400が設けられている。また、ケース100Yの一端側には蓋部材500が設けられている。
【0050】
本実施例においては、ケース100Yにおける開口とは反対側に流体の入口や出口として利用される貫通孔123が設けられている。また、蓋部材500にも、流体の入口や出口として利用される貫通孔501が設けられている。
【0051】
以上のように構成される中空糸膜モジュール10Yを濾過装置として用いる場合について説明する。例えば、
図6に示すように、濾過対象液が、ケース100Yの貫通孔123からケース100Yの内部へと供給される。これにより、濾過対象液は、各中空糸膜200Yの膜外から中空内部へと流れていき、封止固定部300の端部から排出され、更に、蓋部材500の貫通孔501から排出される(矢印R参照)。これにより、濾過対象液に含まれる不純物等は、中空糸膜200Yにより取り除かれて、濾過された液体がケース100Y及び蓋部材500から排出される。
【0052】
本実施例においても、封止部400の構成については、上記実施例1と同様であるので、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、本実施例においても、実施例2,3に示す構成を採用することができる。また、本実施例においても、実施例1と同様に、ケース100Yと封止固定部300とを剥離させている。
【0053】
(その他)
上記各実施例においては、封止部は、ケースと接する部位のうちの少なくとも一部がケースに接着されないことにより、ケースと封止固定部との間の隙間の間隔が変化する方向への伸縮が許容される構成を示した。しかしながら、例えば、封止部と切り欠きにおける平面状部分との間に隙間を設けることで、ケースと封止固定部との間の隙間の間隔が変化する方向への伸縮が許容される構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0054】
100,100X,100Y ケース
110 内周面
111 環状凹部
120,121,122,123 貫通孔
131,132 切り欠き
131a 平面状部分
131b 内周面部分
150 内ケース
151 貫通孔
200,200Y 中空糸膜
300,310,320 封止固定部
311 凸部
400,410,420 封止部
410S 外周面
410T 内周面
500,510,520 蓋部材
501,511,521 貫通孔