(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】トキシンB遺伝子(tcdB)を検出するためのプライマー
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/689 20180101AFI20250128BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20250128BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20250128BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20250128BHJP
【FI】
C12Q1/689 Z ZNA
C12Q1/6844 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/31
(21)【出願番号】P 2020053767
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-01-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】道渕 真史
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-529090(JP,A)
【文献】特開2020-010636(JP,A)
【文献】特開2013-255492(JP,A)
【文献】国際公開第2019/118735(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/031973(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれ得るクロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)のトキシンB遺伝子(tcdB)を検出するために用いられるプライマー
セットであって、以下の(1)
に記載のプライマーをフォワードプライマーとして含み、かつ以下の(2)
に記載のプライマーをリバースプライマーとして含むことを特徴とする、tcdB検出用プライマー
セット。
(1
)配列番号
8で示される塩基配
列からなるプライマー。
(2
)配列番号13若しくは配列番号1
4で示される塩基配
列からなるプライマー。
【請求項2】
請求項1に記載のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行う工程を包含する、tcdB検出方法。
【請求項3】
前記核酸増幅反応を行う工程において、PCR法、LAMP法、LCR法、TMA法、SDA法、又はRT-PCR法を行う、請求項
2に記載のtcdB検出方法。
【請求項4】
前記核酸増幅反応を行う工程においてPCR法を行う、請求項
2又は
3に記載のtcdB検出方法。
【請求項5】
蛍光プローブ法または核酸クロマト法により検出する工程を包含する、請求項
2~
4のいずれかに記載のtcdB検出方法。
【請求項6】
配列番号15若しくは16のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなる核酸プローブをハイブリダイズさせて検出する工程を包含する、請求項
2~
5のいずれかに記載のtcdB検出方法。
【請求項7】
前記核酸プローブが、末端のシトシンのうち少なくとも一つが蛍光色素で標識されている核酸プローブである、請求項
6に記載のtcdB検出方法。
【請求項8】
Taq、Tth、Bst、KOD、Pfu、Pwo、Tbr、Tfi、Tfl、Tma、Tne、Vent、及びDEEPVENTからなる群より選択される少なくとも1種のDNAポリメラーゼを用いる、請求項
2~
7のいずれかに記載のtcdB検出方法。
【請求項9】
請求項1に記載のプライマーセットを含む、tcdBを検出するために用いられるキット。
【請求項10】
配列番号15若しくは16のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなる核酸プローブを更に含む、請求項
9に記載のキット。
【請求項11】
Taq、Tth、Bst、KOD、Pfu、Pwo、Tbr、Tfi、Tfl、Tma、Tne、Vent、及びDEEPVENTからなる群より選択される少なくとも1種のDNAポリメラーゼを更に含む、請求項
9又は
10に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれるクロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)のトキシンB遺伝子(tcdB)を検出するためのプライマーに関する。更に、本発明は、該プライマーを用いて、試料中に含まれるtcdBを検出する方法及びその方法に用いるための試薬・キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile、別名:Clostridium difficile)(以下、C.difficileとも称する)は、院内感染の原因微生物のひとつであり、簡便、迅速、高感度に検出することが臨床診断上重要である。
【0003】
具体的には、C.difficileは抗菌薬の投与に関連した下痢症・腸炎の主要な原因菌であることが知られている。例えば、抗菌薬治療により正常な腸内細菌叢が乱れると、C.difficileのうち有毒株である毒素産生菌が、トキシンA、トキシンB、バイナリートキシン等の毒素を産生し、その毒素によって下痢・腸炎等を引き起こす。したがって、本菌が産生する毒素の検出を行うことがC.difficile感染症の検査、診断に重要である。従来、毒素検出はイムノクロマト法を用いて行われていたが、該方法は感度が低いという問題があった。そこで、高感度な核酸増幅法を用いることで、これらの毒素産生に関与する遺伝子を検出する方法が開発されてきた(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、C.difficileの毒素産生に関与する遺伝子、特にトキシンAよりも一般に強い毒性を示すとされているトキシンB遺伝子(tcdB)を、さらに簡便、高感度に検出する方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、簡便でありながら、高感度に試料中に含まれるC.difficileのtcdBを検出する手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究の結果、特定のプライマーを用いることで、高感度に試料中に含まれるtcdBを検出できることを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明の概要は以下の通りである。
【0008】
[項1] 試料中に含まれ得るクロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)のトキシンB遺伝子(tcdB)を検出するために用いられるプライマーであって、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13若しくは配列番号14のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列において連続する少なくとも15塩基以上の塩基配列を含むことを特徴とする、tcdB検出用プライマー。
[項2] 以下の(1)または(2)のいずれか1つ以上に該当する、項1に記載のプライマー。
(1)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、若しくは配列番号8のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなるプライマー。
(2)配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13若しくは配列番号14のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなるプライマー。
[項3] 前記(1)に記載のプライマーをフォワードプライマーとして含み、かつ前記(2)に記載のプライマーをリバースプライマーとして含む、tcdB検出用のプライマーセット。
[項4] 項1若しくは2に記載のプライマー又は項3に記載のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行う工程を包含する、tcdB検出方法。
[項5] 前記核酸増幅反応を行う工程において、PCR法、LAMP法、LCR法、TMA法、SDA法、又はRT-PCR法を行う、項4に記載のtcdB検出方法。
[項6] 前記核酸増幅反応を行う工程においてPCR法を行う、項4又は5に記載のtcdB検出方法。
[項7] 蛍光プローブ法または核酸クロマト法により検出する工程を包含する、項4~6のいずれかに記載のtcdB検出方法。
[項8] 配列番号15若しくは16のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなる核酸プローブをハイブリダイズさせて検出する工程を包含する、項4~7のいずれかに記載のtcdB検出方法。
[項9] 前記核酸プローブが、末端のシトシンのうち少なくとも一つが蛍光色素で標識されている核酸プローブである、項8に記載のtcdB検出方法。
[項10] Taq、Tth、Bst、KOD、Pfu、Pwo、Tbr、Tfi、Tfl、Tma、Tne、Vent、DEEPVENT及びそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種のDNAポリメラーゼを用いる、項4~9のいずれかに記載のtcdB検出方法。
[項11] 試料中に含まれ得るクロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)のトキシンB遺伝子(tcdB)を検出するために用いられるプローブであって、配列番号15若しくは配列番号16のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなる、tcdB検出用プローブ。
[項12] 末端のシトシンのうち少なくとも一つが蛍光色素で標識されている、項11に記載のtcdB検出用プローブ。
[項13] 項1若しくは2に記載のプライマー又は項3に記載のプライマーセットを含む、tcdBを検出するために用いられるキット。
[項14] 項11又は12に記載のtcdB検出用プローブを更に含む、項13に記載のキット。
[項13] Taq、Tth、Bst、KOD、Pfu、Pwo、Tbr、Tfi、Tfl、Tma、Tne、Vent、DEEPVENT及びそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種のDNAポリメラーゼを更に含む、項13又は14に記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、簡便でありながら、高感度に試料中に含まれるtcdBを検出できるようになる。本発明のプライマー、並びに該プライマーを用いた検出方法、試薬、及びキットを使用することで、tcdBの簡便、高感度な検出が可能になり、臨床診断の分野に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の結果を示す図である。それぞれ異なる核酸プライマーを用いた場合の非特異産物の発生の有無を示す。
【
図2】実施例2の結果を示す図である。tcdB遺伝子を用いた場合の検出結果を示す。
【
図3】実施例3の結果を示す図である。ゲノムDNAを用いた場合のtcdB遺伝子の検出結果を示す。
【
図4】実施例4の結果を示す図である。ゲノムDNAを用いた場合のtcdB遺伝子の最小検出感度を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説するが、本発明はこれらに限定されない。
【0012】
[Clostridioides difficileトキシンB遺伝子(tcdB)を検出するためのプライマー]
本発明の実施態様の一つは、試料中に含まれ得るC.difficileのtcdBを検出するために用いられるプライマーであって、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13若しくは配列番号14のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列において連続する少なくとも15塩基以上の塩基配列を含むことを特徴とする、tcdB検出用プライマーである。
【0013】
[Clostridioides difficileトキシンB遺伝子(tcdB)]
Clostridioides difficile(クロストリジオイデス・ディフィシル)は、院内感染の原因微生物のひとつであり、毒素産生菌はその毒素によって抗菌薬に関連した下痢症・腸炎を引き起こす。主要な毒素は、トキシンAおよびトキシンBであるが、ほかにもバイナリートキシン等を毒素として産生することもある。
【0014】
従来、これらの毒素検出法として、イムノクロマト法等が用いられてきたが、感度が低いという問題があった。そこで、高感度な核酸増幅法を用いることで、これら毒素産生に関与する遺伝子を検出するための方法が開発されてきた(特許文献1)。
【0015】
C.difficileの毒素産生に関与する遺伝子は、tcdA、tcdB、tcdC変異、cdtA、cdtB等があるが、特に毒性が強いとされるトキシンBをコードする遺伝子であるtcdBの検出が重要である。
【0016】
本発明者は、従来技術よりも簡便にtcdBを検出するため、鋭意研究の結果、本発明のプライマーを開発した。
【0017】
本発明の核酸プライマーは、以下の特徴を有する:
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13若しくは配列番号14のいずれかで示される塩基配列またはそれらに相補的な塩基配列において連続する少なくとも15塩基以上の塩基配列を含む。
【0018】
上記の特徴を有するプライマーとしては、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、若しくは配列番号14のいずれかで示される塩基配列またはそれらに相補的な塩基配列において連続する少なくとも15塩基以上の塩基配列からなるものであれば、特に限定されないが、前記塩基配列において連続する少なくとも17塩基以上の塩基配列からなるものが好ましく、前記塩基配列において連続する少なくとも18塩基以上の塩基配列からなるものがより好ましく、前記塩基配列において連続する少なくとも19塩基以上の塩基配列からなるものが更に好ましく、前記塩基配列の全長配列からなるものが特に好ましい。
【0019】
特定の実施形態では、以下の(1)または(2)のいずれか1つ以上に該当するプライマーをtcdBプライマーとして使用する:
(1)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、若しくは配列番号8のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなるプライマー。
(2)配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13若しくは配列番号14のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなるプライマー。
特定の好ましい実施形態では、前記(1)に記載の配列番号1~8のいずれかで示される塩基配列からなるプライマーを少なくとも1つ使用し、かつ、前記(2)に記載の配列番号9~14のいずれかで示される塩基配列からなるプライマーを少なくとも1つ使用する。なかでも、前記(1)に記載のプライマーをフォワードプライマーとし、かつ前記(2)に記載のプライマーをリバースプライマーとするtcdB検出用プライマーセットとして使用することが好ましい。これらの場合において、前記(1)又は(2)に記載のプライマーはそれぞれ1種類のプライマーを選択して用いても良いし、前記(1)のプライマーとして2種以上のプライマーを組み合わせて使用してもよいし、前記(2)のプライマーとして2種以上のプライマーを組み合わせて使用してもよい。
【0020】
核酸検査法は、従来から周知であり、既に当該技術分野において確立されている。このような核酸検査法では短時間で正確に標的核酸を特異的に増幅する核酸プライマーの設計が重要である。
【0021】
一つの実施形態において、本発明では上記の特徴を有するプライマー(本発明ではこれを「核酸プライマー」という場合がある)又はプライマーセット(本明細書では、これを「核酸プライマー対」という場合がある)を選択して用いて核酸増幅反応を行う。これにより、正確にtcdB遺伝子を特異的に増幅でき、高感度なtcdB検出が可能になる。
【0022】
[tcdB検出方法]
本発明の実施態様の一つは、試料中に含まれ得るクロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)のトキシンB遺伝子(tcdB)を検出する方法であって、前記のいずれかに記載のプライマー又はプライマーセットを少なくとも含む反応液を用いて、以下の工程(1)~(3)を行うことを特徴とする、tcdB検出方法である。
(1)tcdBを含みうる試料を提供する工程。
(2)前記反応液を用いて核酸増幅反応を行う工程。
(3)工程(2)で得られうる増幅産物に、プローブをハイブリダイズさせ、該反応液の蛍光強度を測定する工程。
【0023】
[試料]
本発明において使用できる試料はtcdBを含む可能性のあるものであれば特に限定されない。例えば、生体試料や食品、環境試料だけでなく、精製核酸等が挙げられる。また、試料は核酸抽出やいくつかの前処理を行ってもよい。試料の核酸抽出や前処理は、当該技術分野で一般的に行われている。前処理としては、ろ過、遠心分離、希釈処理、加熱処理、酸処理、アルカリ処理、有機溶媒処理、懸濁処理、破砕処理、磨砕処理等が挙げられるが、本発明ではこれらに限定されない。
【0024】
生体試料の例として、特に制限されないが、動植物組織、体液、排泄物、細胞、細菌、ウイルス等が挙げられる。さらに挙げると、血液、血液培養液、尿、膿、髄液、胸水、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、喀痰、組織切片、皮膚、吐瀉物、糞便、分離培養コロニー、カテーテル洗浄液等が挙げられる。
【0025】
食品の例として、水、アルコール飲料、清涼飲料水、加工食品、野菜、畜産物、海産物、卵、乳製品、生肉、生魚、惣菜等が挙げられる。また、食品を測定試料とする場合、その食品の一部あるいは全部を使用できるだけでなく、食品表面を拭き取ったものも使用できる。さらに、調理器具やドアノブを拭き取った材料あるいはそれらを洗浄した洗浄液も試料として用いることができる。
【0026】
環境試料の例として、水、氷、土壌、空気やエアゾール等が挙げられる。ここでいう水とは、例として、水道水、海水あるいは川や滝、湖、池等から採取した水等が挙げられる。また、施設の壁面、床面、設備や備品、便器等を拭き取ったものあるいはそれらを洗浄した洗浄液も試料として用いることができる。
【0027】
本発明には上記のようないずれの試料も用いることができるが、C.difficileが下痢症・腸炎の主要な原因菌という観点から、生体試料(例えば、動植物組織、体液、排泄物、組織切片、皮膚、吐瀉物、糞便、分離培養コロニー)を用いるのが好ましく、排泄物、吐瀉物、糞便、分理培養コロニーを用いるのがより好ましく、糞便、分離培養コロニーを用いるのが更に好ましい。本発明によれば、このような試料を用いる場合であっても特異的にtcdBの標的配列を増幅でき、高感度にtcdBを検出することが可能である。
【0028】
試料の採取方法、調製方法等は、特に制限されず、試料の種類、目的に応じて公知の方法を用いることができる。
【0029】
[核酸増幅反応]
核酸増幅法は数コピーの標的核酸を可視化可能なレベル、すなわち数億コピー以上に増幅する技術であり、生命科学研究分野のみならず、臨床診断、食品衛生検査、環境検査等の分野においても広く用いられている。そのような核酸増幅法としては、PCR法、LAMP法、LCR法、TMA法、SDA法、RT-PCR法、RT-LAMP法、NASBA法、TRC法、TMA法等が挙げられる。これらの技術は既に当該技術分野において確立されており、目的に合わせて方法を選択することができる。本発明のtcdB検出方法に用いる核酸増幅法は、より確実に本発明の効果が得られ易いという観点から、PCR法、LAMP法、LCR法、TMA法、SDA法、又はRT-PCR法であることが好ましく、なかでもPCR法が好ましいが、これに限定されない。
【0030】
[PCR]
PCR反応は、主にDNAポリメラーゼによって触媒される反応であり、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの乖離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことによって標的核酸を増幅する。DNAポリメラーゼとしては、Taq、Tth、Bst、KOD、Pfu、Pwo、Tbr、Tfi、Tfl、Tma、Tne、Vent、DEEPVENTやその変異体が挙げられる。より簡便で特異性の高い核酸増幅を可能にできるという観点から、本発明では、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いることが好ましい。
【0031】
なお、本明細書において、DNAポリメラーゼの変異体とは、その由来である野生型DNAポリメラーゼのアミノ酸配列に対して、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、なかでも好ましくは99%以上の配列同一性を有し、且つ、野生型DNAポリメラーゼと同様にDNAを増幅する活性を有するものをいう。ここで、アミノ酸配列の同一性を算出する方法としては、当該分野で公知の任意の手段で行うことができる。例えば、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、一例として、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、アミノ酸配列の同一性を算出することが可能である。また、本発明に用いられ得る変異体は、その由来である野生型DNAポリメラーゼのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加(以下、これらを纏めて「変異」ともいう)したアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、且つ、野生型DNAポリメラーゼと同様にDNAを増幅する活性を有するものであってもよい。ここで1又は数個とは、例えば、1~80個、好ましくは1~40個、よりこのましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個であり得るが、特に限定されない。
【0032】
[ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ]
本発明で用いるDNAポリメラーゼは、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが好ましいが、これに限定されない。前記ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、特に制限されないが、好ましくは古細菌(Archea)由来のDNAポリメラーゼである。
【0033】
[古細菌由来のDNAポリメラーゼ]
ファミリーBに属する古細菌由来のDNAポリメラーゼとしては、パイロコッカス(Pyrococcus)属およびサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されるDNAポリメラーゼが挙げられる。また、本発明には、ファミリーBに属する古細菌由来のDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体も含まれる。DNAポリメラーゼの変異体には、ポリメラーゼ活性の増強、エキソヌクレアーゼ活性の欠損、基質特異性の調整等を目的とした変異体が挙げられるが、これらに限定されない。
パイロコッカス属由来のDNAポリメラーゼとしては、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus sp.GB-D、Pyrococcus woesei、Pyrococcus abyssi、Pyrococcus horikoshiiから単離されたDNAポリメラーゼ、及びこれらに由来するDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体を含むが、これらに限定されない。
サーモコッカス属に由来するDNAポリメラーゼとしては、Thermococcus kodakaraensis、Thermococcus gorgonarius、Thermococcus litoralis、Thermococcus sp.JDF-3、Thermococcus sp.9degrees North-7(Thermococcus sp.9°N-7)、Thermococcus siculiから単離されたDNAポリメラーゼ、及びこれらに由来するDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体を含むが、これらに限定されない。
これらのDNAポリメラーゼを用いたPCR酵素は市販されており、Pfu(Staragene社)、KOD(Toyobo社)、Pfx(Life Technologies社)、Vent(New England Biolabs社)、Deep Vent(New England Biolabs社)、Tgo(Roche社)、Pwo(Roche社)などが挙げられ、そのいずれもが本発明に用いられ得る。
【0034】
なかでも、伸長性や熱安定性の優れたKOD DNAポリメラーゼ及びその変異体(例えば、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を欠失させたKOD DNAポリメラーゼ等)が好ましい。
【0035】
KOD DNAポリメラーゼは、ファミリーAに属するDNAポリメラーゼであるTaq DNAポリメラーゼに比べて、正確性、増幅効率、伸長性、クルードサンプル耐性に優れている。本発明では、このようなKOD DNAポリメラーゼを使用することで、後述の実施例に示すように、簡便でありながら特異的なtcdBの増幅を可能にし、高感度なtcdBの検出が可能となる。
【0036】
本発明のtcdB検出方法においては、上記プライマー又はプライマーセットのいずれかを含む反応液で行う核酸増幅工程により得られた増幅産物に、該増幅産物の一部と複合体を形成可能なように設計された核酸プローブ(好ましくは、末端のシトシンのうち少なくとも一つが蛍光色素で標識されている核酸プローブ)をハイブリダイズさせ、該反応液の蛍光強度を測定し、tcdBを検出する。また、tcdBの検出は、蛍光プローブ法に替えて、核酸クロマト法により検出してもよい。核酸クロマト法は当該分野で公知の任意の手法で行うことができ、例えば、上記のようにして得られた増幅産物と複合体形成可能な標識プローブと、メンブレンストリップ上に固定された前記増幅産物と複合体形成可能な核酸オリゴとで、前記増幅産物をハイブリダイズすることにより検出できる。
【0037】
上記核酸プライマーのいずれかを含む核酸増幅工程の条件(例えば、温度、pH、陽イオン濃度、溶液中の有機溶媒の存在等)は、核酸プローブのハイブリダイズ条件等と合わせて至適化すればよく、当業者であれば適宜設定可能である。
【0038】
また核酸増幅工程をPCR法で行う場合、熱サイクル条件は特に限定されず、当業者により適宜設定され得る。一例として、核酸増幅反応は、最初の熱変形工程が80~100℃で10秒~15分、繰り返しの熱変形工程が80~100℃で0.5~300秒、アニーリンクが40~80℃で1~300秒、伸長反応工程が60~85℃で1~300秒程度行い、この繰り返しを30~70回繰り返すことが好ましい。
【0039】
一つの実施形態において、tcdB検出方法として、以下の工程(1)~(5)の工程を包含する方法を例示することができる。
(1)Clostridioides difficileのtcdB遺伝子の領域に特異的な少なくとも1つ以上のフォワードプライマーを用意する。
(2)Clostridioides difficileのtcdB遺伝子の領域に特異的な少なくとも1つ以上のリバースプライマーを用意する。
(3)被検核酸及び前記核酸プライマーのセットを含む反応液を用意し、該反応液によって被検核酸を増幅する。
(4)工程(3)によって得られた核酸増幅産物と、該核酸増幅産物の一部と複合体を形成せしめるように設計された核酸プローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成せしめる工程。
(5)工程(4)で得られた複合体を検出する工程。
【0040】
(1)及び(2)に記載の上記プライマーのうち、従来と比較して非特異増幅を抑え高感度にtcdB遺伝子を検出するためには、(1)のプライマーとして、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、若しくは配列番号8のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなるプライマーを使用することが望ましく、かつ(2)のプライマーとして、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13若しくは配列番号14のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなるプライマーを使用することが望ましい。
【0041】
特定の実施形態では、上記方法において、フォワードプライマーとして前記(1)の配列番号4~8のいずれかで示される塩基配列、好ましくは配列番号8で示される塩基配列において連続する20塩基以上26塩基以下の塩基配列からなる核酸プライマーを使用し、かつ、リバースプライマーとして前記(2)の配列番号11~14のいずれかで示される塩基配列、好ましくは配列番号13及び/又は配列番号14で示される塩基配列において連続する20塩基以上26塩基以下の塩基配列からなる核酸プライマーを使用することが好ましい。
【0042】
上記の核酸プライマー対は前記(1)及び(2)に該当すれば特に限定されるものではないが、センス鎖に由来する配列とアンチセンス鎖に由来する配列の組み合わせでなければならない。
【0043】
本発明のプライマー又はプライマーセットを用いて得られた増幅産物は、任意の解析法により検出することができ、例えば、電気泳動法、蛍光融解曲線分析法、各種プローブ法(Qプローブ、TaqManプローブ、モレキュラービーコンプローブ、FRETハイブリダイゼーションプローブ、スコーピオンプローブなど)、インターカレーター法(例えば、SYBRGREEN、EvaGreenなどの市販のインターカレーター色素を使用する方法)、又はこれらを任意に組み合わせた方法等により検出可能である。より高感度な検出が可能であるという観点からは、Qプローブを用いる融解曲線分析で検出することが好ましい。
【0044】
Qプローブ(「グアニン消光プローブ」ともいう)は、KURATAらにより開発された蛍光プローブ(蛍光消光プローブ)である(特許第5354216号公報)。このプローブは、少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されているハイブリダイゼーションプローブである。
【0045】
例えば、Qプローブで用いられる蛍光消光色素としては特に限定されないが、フルオレセインまたはその誘導体(例えば、フルオレセインイソチオシアネート)、ローダミンまたはその誘導体(例えば、テトラメチルローダミン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、カルボキシローダミン、x-ローダミン、スルホローダミン101酸クロリド)、BODIPYまたはその誘導体(例えば、BODIPY-FL、BODIPY-FL/C3、BODIPY-FL/C6、BODIPY-5-FAM、BODIPY-TMR、BODIPY-TR、BODIPY-R6G、BODIPY-564、BODIPY-581、BODIPY-591、BODIPY-630、BODIPY-650、BODIPY-665)等が挙げられる。蛍光消光色素の詳細は、特許第5813263号公報等に記載があり、本発明も該技術を参照できる。
【0046】
本発明では、少なくとも一つの末端塩基がシトシンである塩基配列からなり、当該末端塩基のシトシンが蛍光消光色素で標識されているプローブが好ましい。このようなプローブは、増幅産物にハイブリダイズした際に、増幅産物中のグアニン塩基と塩基対を形成して相互作用することで消光できるため、非常に簡便に反応液の蛍光強度の変化を測定することができる。
【0047】
なお、該プローブがハイブリダイズした際に、該プローブのシトシン塩基と増幅産物中のグアニン塩基が塩基対を形成しなくとも、それらの塩基同士の距離が近ければ蛍光は消光できる。例えば、詳細は特許第5354216号公報に記載があり、本発明も該技術を参照できる。即ち、該プローブがハイブリダイズした際に、該プローブのシトシン塩基に対して、増幅産物中のグアニン塩基が例えば1~3塩基の範囲内に存在すれば消光できる(シトシン塩基と塩基対を形成する塩基を1とする)。
【0048】
本発明のtcdB検出方法が核酸プローブを用いる場合、その核酸プローブの塩基配列は、本発明のプライマー又はプライマーセットを用いた場合に得られる増幅産物の一部と複合体を形成可能な限り特に限定されない。特定の好ましい実施形態では、配列番号15若しくは16に示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列において連続する少なくとも15塩基以上の塩基配列を含むプローブであることが好ましく、前記塩基配列において連続する少なくとも17塩基以上の塩基配列を含むプローブであることが好ましい。特に好ましいプローブは、配列番号15若しくは16に示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなるプローブである。このようなプローブを用いることにより、tcdBのより高感度な検出が可能となる。
【0049】
[tcdBを検出するための試薬]
本発明の別の実施態様として、試料中に含まれ得るtcdBを検出するための試薬が挙げられる。試薬には、前述の特徴を備えた核酸プライマーに加えて、核酸増幅に必要な成分が少なくとも含まれる。必要な成分は、実施する核酸増幅反応によって異なっており、それぞれ公知の方法を用いることができる。例えば、PCR反応を用いて試料中に含まれるtcdBを検出する場合、オリゴヌクレオチドプローブ、DNAポリメラーゼ、オリゴヌクレオチドプライマー、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、マグネシウム塩を少なくとも含むことが好ましい。目的の実験に応じて各成分の濃度は適宜調整できるが、例えば、オリゴヌクレオチドプローブは0.1~1μMが好ましく、0.2~0.5μMがより好ましい。DNAポリメラーゼは0.01~1U/uLが好ましく、0.1~0.5U/uLがより好ましい。オリゴヌクレオチドプライマーはそれぞれ異なるが、0.1~10μMが好ましい。デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)は0.02~1mMが好ましく、0.1~0.5mMがより好ましい。マグネシウム塩は0.1~6mMが好ましく、1~5mMがより好ましい。
【0050】
さらに、非特異増幅の抑制や反応促進を目的として、当該技術分野で知られる添加物等を加えてもよい。非特異増幅の抑制を目的とする添加物として、抗DNAポリメラーゼ抗体やリン酸等が挙げられる。反応促進を目的とする添加物として、ウシ血清アルブミン(BSA)、プロテアーゼインヒビター、シングルストランド結合タンパク質(SSB)、T4遺伝子32タンパク質、tRNA、硫黄または酢酸含有化合物類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、ベタイン、エクトイン、トレハロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ゼラチン、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、酢酸テトラメチルアンモニウム(TMAA)、ポリエチレングリコール、トリトン(Triton)、ツイーン(Tween20)、ノニデットP40などが挙げられる。本発明では、これらの添加物を1種類以上組み合わせて使用してもよいが、これらに限定されない。
【0051】
例えば、前記(1)及び(2)に該当する核酸プライマーのセットで増幅した核酸増幅産物と、該核酸増幅産物の一部と複合体を形成せしめるように設計された核酸プローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成せしめる。
【0052】
核酸増幅産物を含む試料に核酸プローブを添加するタイミングは、特に制限されず、例えば、前述の核酸増幅反応前、核酸増幅反応途中及び核酸増幅反応後のいずれかに、増幅反応の反応系に添加してもよい。
特に、増幅反応と検出反応は連続的に行うことができるため、増幅反応前に添加することが好ましい。このように核酸増幅反応前に核酸プローブを添加する場合は、例えば、その3’末端に蛍光色素を付加したり、リン酸基を付加したりすることが好ましい。
【0053】
前記核酸プローブは、核酸増幅産物を含む液体試料に添加してもよいし、溶媒中で核酸増幅産物と混合してもよい。前記溶媒としては、特に制限されず、例えば、Tris-HCl等の緩衝液、KCl、MgCl2、MgSO4、グリセロール等を含む溶媒、PCR反応液等、従来公知のものがあげられる。
【0054】
[tcdBを検出するためのキット]
さらに、本発明の別の実施態様として、試料中に含まれ得るtcdBを検出するための試薬を含むキットが挙げられる。キットの構成は、前記プライマー又はプライマーセットを含む前記tcdB検出試薬を含み、tcdBを検出できるよう構成されていれば特に限定されない。本キットはさらに、前記プライマー又はプライマーセットを用いて得られる増幅産物の一部と複合体を形成可能なプローブ(好ましくは、末端のシトシンのうち少なくとも一つが蛍光色素で標識されているプローブ)を含んでいてもよい。さらに、本キットは、効率よく特異性の高い核酸増幅を行うために、Taq、Tth、Bst、KOD、Pfu、Pwo、Tbr、Tfi、Tfl、Tma、Tne、Vent、DEEPVENT及びそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種のDNAポリメラーゼを更に含むことが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1:tcdB遺伝子増幅における非特異増幅の確認
(1-1)方法
非特異増幅を抑えて高感度にtcdBを検出できる核酸プライマーを設計するために、鋳型を加えず、計10通りの核酸プライマー対で非特異増幅の有無を確認した。本試験で使用した核酸プライマー対の組み合わせを表1に示す。ここで、各プライマーは、配列番号1~14、17~24に示される塩基配列からなる核酸を常法に従って合成したものを使用した。
【表1】
【0057】
(1-2)反応液
SYBR qPCR Mix(東洋紡社)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。反応液の調製等はSYBR qPCR Mix(東洋紡社)の取扱説明書に従った。
1.5μM フォワードプライマー(*)
0.5μM リバースプライマー(*)
(*)2種類のフォワードプライマー(又はリバースプライマー)を使用する場合は、各々のフォワードプライマー(又はリバースプライマー)を半量ずつとし、その総量が上記所定の量となるようにした。
(1-3)反応
Rotor-Gene(TM) Qを用いて、前記反応液を以下の温度サイクルで反応させ、各サイクルにおける蛍光強度を測定した。
94℃ 30秒、
98℃ 1秒-52℃ 10秒-63℃ 10秒(サイクル数50回)
(1-4)結果
図1は、測定で得られた蛍光強度をサイクル数にプロットした図である。鋳型を加えていないにもかかわらず核酸プライマーの組み合わせによっては、サイクル数が増えるにしたがって、非特異増幅による蛍光強度の増加が確認された。一方で、組み合わせNo.1~No.5では非特異増幅が確認されないことが示された。
【0058】
実施例2:tcdB遺伝子増幅の確認
(2-1)方法
非特異増幅を抑えて高感度にtcdBを検出できる核酸プライマーを設計するために、鋳型としてtcdB遺伝子を1反応あたり10000コピー加え、計5通りの核酸プライマー対でtcdB遺伝子増幅を確認した。核酸プライマー対の組み合わせを表2に示す。ここで、各プライマーは、配列番号1~14に示される塩基配列からなる核酸を常法に従って合成したものを使用した。
【表2】
【0059】
(2-2)反応液
SYBR qPCR Mix(東洋紡社)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。反応液の調製等はSYBR qPCR Mix(東洋紡社)の取扱説明書に従った。
1.0μM フォワードプライマー(*)
1.0μM リバースプライマー(*)
(*)2種類のフォワードプライマー(又はリバースプライマー)を使用する場合は、各々のフォワードプライマー(又はリバースプライマー)を半量ずつとし、その総量が上記所定の量となるようにした。
(2-3)反応
Rotor-Gene(TM) Qを用いて、前記反応液を以下の温度サイクルで反応させ、各サイクルにおける蛍光強度を測定した。
98℃ 120秒、
98℃ 10秒-50℃ 10秒-68℃ 30秒(サイクル数40回)
(2-4)結果
図2は、測定で得られた蛍光強度をサイクル数にプロットした図である。すべての核酸プライマー対でtcdB遺伝子の増幅が確認された。
【0060】
実施例3:ゲノムDNAを用いたtcdBの検出
(3-1)方法
上記実施例2の表2に示した5つの核酸プライマー対(但し、核酸プライマー対の組み合わせNo.5では、リバースプライマーとして配列番号14の塩基配列からなる核酸プライマーのみを使用)と3’末端をBODIPY-FLで標識した、増幅産物に複合体を形成せしめるように設計した核酸プローブを用いてtcdB遺伝子の検出を行った。
測定に使用したゲノムDNAはClostridioides difficileゲノムDNA(ATCC 9689D-5)であり、8000コピー/テストを測定した。
(3-2)反応液
ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。
3μM フォワードプライマー
1.2μM リバースプライマー(0.6μM 配列番号14で示される核酸プライマー(組み合わせNo.5のみ))
0.4μM 配列番号15若しくは配列番号16に示される塩基配列からなる核酸プローブ(3’末端をBODIPY-FL標識)
(3-3)反応
GENECUBE(登録商標)を用いて、前記反応液を以下の温度サイクルで反応させ、核酸増幅を行った。核酸増幅反応後に以下の条件による融解曲線分析を行った。
97℃ 15秒、
97℃ 1秒-54℃ 5秒-63℃ 2秒(サイクル数60回)
94℃ 30秒 39℃ 30秒 40-75℃ 0.09℃/sec
(3-4)結果
図3に、融解曲線分析の結果を示す。
図3より、核酸プライマー対の組合せNo.1~5のいずれを用いた場合でも、融解曲線分析によって試料中に含まれるtcdBを検出できることが示された。なかでも、組合せNo.3~5の核酸プライマー対を用いた場合に、高いピークが認められ、特に高感度に検出可能であることが示された。
【0061】
実施例4:ゲノムDNAを用いた最小検出感度の確認
(4-1)方法
組み合わせNo.5の核酸プライマー対と3’末端をBODIPY-FLで標識した、増幅産物に複合体を形成せしめるように設計した核酸プローブを用いてtcdB遺伝子の検出を行った。
測定に使用したゲノムDNAはClostridioides difficileゲノムDNA(ATCC 9689D-5)であり、3コピー/テスト及び1コピー/テストを測定した。
(4-2)反応液
ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。
3μM 配列番号8で示される核酸プライマー
1.2μM 配列番号13で示される核酸プライマー
0.6μM 配列番号14で示される核酸プライマー
0.4μM 配列番号15で示される核酸プローブ(3’末端をBODIPY-FL標識)
(4-3)反応
GENECUBE(登録商標)を用いて、前記反応液を以下の温度サイクルで反応させ、核酸増幅を行った。核酸増幅反応後に以下の条件による融解曲線分析を行った。
97℃ 15秒、
97℃ 1秒-54℃ 5秒-63℃ 2秒(サイクル数60回)
94℃ 30秒 39℃ 30秒 40-75℃ 0.09℃/sec
(4-4)結果
図4に、融解曲線分析の結果を示す。
図4より、本発明の核酸プライマーセットを用いることにより、融解曲線分析によって試料中に含まれるtcdBを高感度に検出できることが示された。この試験結果から、本発明の核酸プライマー対を使用することで、1コピー/テストであっても検出できる場合はあるものの、より正確な測定を可能とする最小検出感度は3コピー/テストであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に記載のプライマー又はプライマーセットを使用した方法、試薬またはキットを使用することで、簡便、高感度に試料中に含まれるtcdBを検出できるようになった。したがって、本発明は研究用途のみならず、院内感染等のおそれがある場合に、その原因菌の毒素遺伝子であるtcdBを迅速、簡便、高感度に検出することを可能とし、臨床診断や環境検査等にも大きく貢献することができる。
【配列表】