(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20250128BHJP
G05B 19/4065 20060101ALI20250128BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
B23Q17/09 C
G05B19/4065
B23Q17/24 Z
(21)【出願番号】P 2020137944
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 健司
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-512185(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/220776(JP,A1)
【文献】再公表特許第2017/002186(JP,A1)
【文献】特開2001-129711(JP,A)
【文献】特開平4-232407(JP,A)
【文献】特開2015-131357(JP,A)
【文献】特公昭47-001276(JP,B1)
【文献】特開昭64-045503(JP,A)
【文献】米国特許第5189625(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/155- 3/157
B23Q 17/09
B23Q 17/24
G05B 19/18 - 19/46
B23B 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に複数の刃が設けられた工具と、
前記工具の形状を測定するための測定装置と、
ワークの加工に用いられる前の前記工具の形状である加工前形状と、前記測定装置によって測定された、前記ワークの加工に用いられた後の前記工具の形状である加工後形状との差が、所定の閾値以上であることを検知することによって加工後の前記工具の少なくとも1つの前記刃の欠けを検出する刃欠け検出手段と、
前記加工後の前記工具を用いた前記ワークの次回加工時の加工条件を取得する加工条件取得手段と、
前記加工条件取得手段が取得した前記加工条件に基づいて、前記閾値を算出する閾値算出手段と、を備える、
工作機械。
【請求項2】
前記工具は、その先端が前記工具の中心軸上に存在し、
前記刃欠け検出手段は、前記加工前形状と、前記測定装置によって前記工具の先端を測定して得られた前記加工後形状との差が、所定の閾値以上であることを検知することによって加工後の前記工具の少なくとも1つの前記刃の欠けを検出する、
請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記工具は、その先端が前記工具の中心軸から外周側に離れた位置に少なくとも存在し、
前記刃欠け検出手段は、前記加工前形状と、前記測定装置によって前記工具の先端位置の外周端部を測定して得られた前記加工後形状との差が、所定の閾値以上であることを検知することによって加工後の前記工具の少なくとも1つの前記刃の欠けを検出する、
請求項1に記載の工作機械。
【請求項4】
前記加工条件取得手段が取得する前記加工条件は、荒加工に関する条件及び荒加工よりも後に行われる仕上げ加工に関する条件を含み、
前記閾値算出手段が算出する前記閾値は、前記加工条件が前記荒加工に関する条件であった場合よりも、前記加工条件が前記仕上げ加工に関する条件であった場合の方が小さい値である、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の工作機械。
【請求項5】
前記加工条件取得手段は、前記工具を用いてワークを加工する際の前記工具の経路を作成するCAM装置から、前記工具の刃数、前記工具の径、及び前記工具の長さを含む前記加工条件を取得し、
前記刃欠け検出手段は、前記加工条件取得手段が前記CAM装置から取得した前記工具の刃数及び前記工具の形状に基づき、前記測定装置による前記工具の前記各刃の形状の測定を行う、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、主軸に取り付けられたドリル等の工具の折損を検知することができる工作機械が開示されている。特許文献1に記載の工作機械は、工具の折損を検知するために、レーザ装置を用いている。レーザ装置は、レーザ光を照射可能な発光体と、発光体から照射されたレーザ光を受光する受光体とを備える。そして、特許文献1に記載の工作機械は、工具の先端部がレーザ光を通過するよう工具を移動させ、この間、受光体によるレーザ光の受光が途切れた場合は工具に折損が無いと判断し、受光体がレーザ光を受光し続けた場合は工具が折れて短くなっていると判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の工具の折損検知方法において、例えば工具の外周部に設けられた刃欠けがあるものの工具の長さ自体は不変である場合は、工具に折損が生じていないと判断される。この場合、刃が欠けた工具を用いてワーク(被削材)を加工することとなるが、ワークの加工精度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、工具の刃欠けを検出することができる工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、外周部に複数の刃が設けられた工具と、前記工具の形状を測定するための測定装置と、ワークの加工に用いられる前の前記工具の形状である加工前形状と、前記測定装置によって測定された、前記ワークの加工に用いられた後の前記工具の形状である加工後形状との差が、所定の閾値以上であることを検知することによって加工後の前記工具の少なくとも1つの前記刃の欠けを検出する刃欠け検出手段と、前記加工後の前記工具を用いた前記ワークの次回加工時の加工条件を取得する加工条件取得手段と、前記加工条件取得手段が取得した前記加工条件に基づいて、前記閾値を算出する閾値算出手段と、を備える、工作機械を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、工具の刃欠けを検出することができる工作機械を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態における、工作機械の模式的な全体構成図である。
【
図2】
図2は、実施の形態における、ツールチェック手段が行う処理のフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施の形態における、機械座標の原点位置からレーザ光までの長さを測定する方法を示すための模式図である。
【
図4】
図4は、実施の形態における、ホルダからの工具の突出長さを測定する方法を示すための模式図である。
【
図5】
図5(a)は、実施の形態における、フラットエンドミルの側面図であり、
図5(b)は、実施の形態における、ホルダからのフラットエンドミルの突出長さを測定する際のフラットエンドミルとレーザ光との位置関係を示す模式図。
【
図6】
図6(a)は、実施の形態における、ドリルの側面図であり、
図6(b)は、実施の形態における、ホルダからのドリルの突出長さを測定する際のドリルとレーザ光との位置関係を示す模式図。
【
図7】
図7は、実施の形態における、工具の刃欠け検出のフローチャートを示す図である。
【
図8】
図8(a)は、工具の刃先の形状をトレースする方法を説明するための模式図であり、
図8(b)は、遮光検知信号の一例を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、一部、刃欠けが生じている工具の刃先の形状をトレースする方法を説明するための模式図であり、
図9(b)は、遮光検知信号の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施の形態における、加工前形状、刃欠け限界線、及び加工後形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図10を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0010】
(工作機械1の構成)
図1は、本形態の工作機械1の模式的な全体構成図である。本形態において、工作機械1の使用状態における鉛直方向をZ方向という。また、以後において、上下の表現は、工作機械1の使用状態における鉛直方向の上下を意味するものとする。
【0011】
本形態の工作機械1は、例えばNCプログラムに従って主軸16に取り付けられた工具3等の動きを制御する制御装置2を備えた3軸の立形マシニングセンタである。なお、これに限られず、工作機械1としては、テーブル13や主軸16の回転方向を含めた4軸以上の立形マシニングセンタや、横型マシニングセンタ、ターニングセンタ等の他の工作機械1を採用することができる。工作機械1は、ベッド11、サドル12、テーブル13、コラム14、主軸頭15、主軸16、工具3、測定装置4及び制御装置2を備える。
【0012】
ベッド11の上面には、Z方向に直交するY方向に延在する案内面111が設けられている。案内面111は、ベッド11上に配されるサドル12をY方向に案内する。サドル12の上面には、Y方向とZ方向との双方に直交するX方向に延在する案内面121が設けられている。案内面121は、サドル12上に配されるテーブル13をX方向に案内する。ベッド11に対するサドル12のY方向の移動手段、及びサドル12に対するテーブル13のX方向の移動手段のそれぞれは、例えば図示しないボールねじ及びサーボモータを用いて実現することができ、テーブル13の移動量は、サーボモータの出力軸に設けられたエンコーダから制御装置2に出力される。
【0013】
ベッド11の上面のY方向の端部には、コラム14が設けられている。本形態において、コラム14はベッド11に固定されている。以後、Y方向におけるベッド11におけるコラム14が設けられた側を後方といい、その反対側を前方という。コラム14は、ベッド11の上面から上方に立設した部位と、当該部位の上端部から先端側に突出した部位とを有し、略L字状を呈している。コラム14の前面には、Z方向に延在する案内面141が設けられている。案内面141は、コラム14の前方に配される主軸頭15をZ方向に案内する。コラム14に対する主軸頭15のZ方向の移動手段は、例えばボールねじ及びサーボモータを用いて実現することができ、主軸頭15の移動量は、サーボモータの出力軸に設けられたエンコーダから制御装置2に出力される。エンコーダから出力される各種移動手段の移動量に基づいて、制御装置2は、主軸頭15の基準点150(
図3及び
図4参照)の位置を取得できるよう構成されている。主軸頭15の基準点150は、制御装置2が取得する座標点であり、本形態においてはZ方向における主軸頭15の下端位置であって、X方向及びY方向における主軸16の中心軸が存在する位置である。
【0014】
主軸頭15には、エンドミル、ドリル等の切削工具等の工具が取り付けられる主軸16が設けられている。主軸16は、工具3を脱着可能に保持するとともに、保持した工具3を回転させることができるよう構成されている。主軸16は、スピンドルやシャフトとも称される。
【0015】
テーブル13上には、後述のように、工具3の寸法測定や、工具3の刃欠けの検出を行うための測定装置4が固定されている。本形態において、測定装置4はレーザ装置であり、本形態においては測定装置4をレーザ装置4という。レーザ装置4は、上方に開口するU字状を呈しており、互いにX方向に対向する位置に、レーザ光43をX方向に照射する照射部41と、照射部41から照射されたレーザ光43を受光する受光部42と備える。レーザ装置4は、レーザ光43が物体によって遮断されると、受光部42がスキップ信号を制御装置2に出力するよう構成されている。制御装置2は、スキップ信号を受信した時の主軸頭15の基準点150(
図3及び
図4参照)の座標位置を記憶する。
【0016】
制御装置2は、ベッド11に対するサドル12のY方向の移動、サドル12に対するテーブル13のX方向の移動、及びコラム14に対する主軸頭15のZ方向の移動等を制御することで、主軸頭15の動きを制御する。工作機械1にてワークを加工する際は、制御装置2は、例えばCAD(Computer Aided Design)機能を備えたCAD装置5を用いて作成されたワークの目標形状に基づいてCAM(Computer Aided Manufacturing)機能を備えたCAM装置6によって生成された工具経路(CL:Cutter Location)に沿って、主軸16に取り付けられた工具3を移動させる。制御装置2は、CAM装置6によって生成された工具経路データを、工作機械1が読み取り可能なNC(Numerical Control)プログラムに変換するポスト処理を行う。
【0017】
制御装置2は、CPU(演算処理装置)及びCPU動作時の演算領域となるRAMを有する制御部21と、ROMを含む記憶部22とを備える。記憶部22は、制御装置2が実施する各種機能を実現するためのプログラム、工作機械1におけるレーザ装置4の位置情報、及びレーザの焦点位置等を記憶している。制御部21は、加工条件取得手段211、ツールチェック手段212、加工手段213、刃欠け検出手段214、及び閾値算出手段215を備え、記憶部22に記憶されたプログラムをCPUが実行することにより各種機能を実現する。
【0018】
(加工条件取得手段211による処理)
加工条件取得手段211は、CAM装置6から、加工に用いる工具3の種類、刃数、径、長さ、ワークに対する工具3の送り速度、加工時の工具3の回転速度、工具経路等の加工条件を取得し、記憶部22に記憶させる。加工条件取得手段211は、有線又は無線の通信手段によりCAM装置6と通信を行うインターフェイスを介して、CAM装置6から前述の加工条件を取得する。
【0019】
(ツールチェック手段212による処理)
図2は、ツールチェック手段212が行う処理のフローチャートである。
図2に示すごとく、ツールチェック手段212は、まず、工具振れ確認を行う。工具振れ確認においては、ステップS1において、工具3を加工時の回転速度で回転させ、レーザ装置4を用いて工具3の半径R´[mm]を測定する。
【0020】
ステップS1において工具3の半径R´を測定するにあたっては、ベッド11に対するサドル12のY方向の移動手段、サドル12に対するテーブル13のX方向の移動手段、及びコラム14に対する主軸頭15のZ方向の移動手段を制御し、工具3が、レーザ光43近傍の位置に配されるよう主軸頭15を移動させる。そして、主軸16及び主軸16に固定された工具3を、主軸16の中心軸周りに回転させながら、レーザ光43に向けてY方向の一方側からアプローチする。そして、工具3がレーザ光43を遮ると、受光部42からスキップ信号が出力され、工具3がレーザ光43を遮ったときの主軸頭15の基準点150のY方向位置(すなわち、レーザ光43から工具3の半径分離れた位置)が各種サーボモータに設けられたエンコーダから読み取られる。そして、測定された主軸頭15の基準点150のY方向位置と、記憶部22が記憶しているレーザ光43のY方向の位置とから、工具3の半径R´が測定される。ここで、半径R´を測定する工具3のZ方向位置は、工具3の種類に応じて変更され得る。例えば工具3がボールエンドミルであれば、CAM装置6から取得したボールエンドミルのボール半径と同等の長さ(例えばボール半径+0.1mm等)だけ工具3の下端位置から上側にずれた位置等において、工具3の半径を測定する。また、工具3がフラットエンドミルである場合は、工具3の下端位置の外周部において、工具3の半径を測定する。これにより、工具3の主要部(加工部)の半径が測定される。工具3の種類及び形状と工具3の半径を測定する工具3のZ方向位置との対応関係は、予め記憶部22に記憶されており、CAM装置6から工具3の種類や形状を取得することで工具3の半径を測定する工具3のZ方向位置が自動的に出力されるようになっている。
【0021】
そして、
図2のステップS1に示すごとく、測定された工具3の半径R´と、加工条件取得手段211がCAM装置6から取得した工具3の理論半径値R[mm]とから、測定された工具3の半径R´と理論半径値Rとが、R´≦(R+0.005mm)、を満たしているか否かを判定する。不等式R´≦(R+0.005mm)中の0.005mmは、許容される工具3の振れ量であり、工具3の種類、ワーク加工後に形成される製品の寸法公差等に応じて適宜変更し得る。測定された工具3の半径R´が、R+0.005mmを超える場合は、ステップS2に移り、工具3が回転によって外周側に過度に振れる工具振れが生じているものと判断し、アラームを発する。一方、測定された工具3の半径R´が、R+0.005mm以下の場合は、工具振れが生じていないと判断し、次のステップである工具長確認へ移行する。
【0022】
次いで、工具長確認を行う。工具長確認においては、ステップS3において、レーザ装置4を用いて、ホルダ18からの工具3のZ方向の突出長さL´を測定する。
【0023】
ステップS3における突出長さL´を測定する方法について、
図3及び
図4を用いて説明する。まず、
図3に示すごとく、主軸16に、Z方向の長さAが予め高精度に測定されたマスターバー7を取り付ける。そして、主軸頭15の基準点150が機械座標の原点位置17のZ方向の高さにある位置から、主軸頭15及びマスターバー7を、マスターバー7の下端部がレーザ光43を遮る位置まで降下させる。マスターバー7の下端がレーザ光43を遮ると、受光部42からスキップ信号が出力され、各種サーボモータに設けられたエンコーダから読み取られた情報を基に、原点位置17から主軸頭15の基準点150までの長さBが取得される。そして、既知のマスターバー7のZ方向の長さAと、測定された原点位置17から主軸頭15の基準点150までの長さBとの和の長さC=A+Bを算出する。この長さCは、原点位置17とレーザ光43までのZ方向の長さである。このように、予め、原点位置17とレーザ光43までのZ方向長さCを取得しておく。ここで、例えば、複数のワークを連続的に加工する場合等は、工作機械1の使用によって主軸16周辺が高温になる一方、他の部位は比較的低温となるため、例えばコラム14に反り等の熱変異が発生し、レーザ装置4による長さCの結果に誤差が生じ得る。そのため、長さCは、加工するワークが入れ替わる毎に測定される。
【0024】
そして、
図4に示すごとく、主軸16に取り付けられた工具3におけるホルダ18からの突出長さL´を測定するにあたっては、まず、Z方向から見たときの基準点150とレーザ光43との位置を次のように調整する。まず、
図5(a)に示すような、工具3の先端(下端)が工具3の中心軸から外周側に離れた位置に少なくとも存在するような、フラットエンドミル31、リーマ等の工具3の突出長さL´を測定する場合は、
図5(b)に示すごとく、Z方向から見たときの工具3の外周端部の位置をレーザ光43の焦点位置と一致させる。また、
図6(a)に示すような、工具3の先端(下端が)工具3の中心軸上に存在するような、ドリル32、ボールエンドミル等の工具3の突出長さL´を測定する場合は、
図6(b)に示すごとく、Z方向から見たときの工具3の中心位置(基準点150)をレーザ光43の焦点位置と一致させる。これは、工具形状測定の際に、工具3を確実に焦点に当てて測定し、測定精度を確保するためである。ここで、Z方向から見たときの工具3とレーザ光43の焦点位置との位置関係は、加工条件取得手段211がCAM装置6から取得した工具3の種類、形状等の情報を用いて自動的に出力される。工具3の種類及び形状と主軸頭15の基準点150及びレーザ光43の位置関係との関係は、予め記憶部22に記憶されている。
【0025】
次に、主軸16からマスターバー7を取り外すとともに、主軸16に、ホルダ18を介して工具3を取り付ける。そして、
図4に示すごとく、主軸頭15の基準点150が機械座標の原点位置17のZ方向の高さにある位置から、主軸頭15、主軸16及び工具3を、工具3がレーザ光43を遮る位置まで降下させる。工具3の下端がレーザ光43を遮ると、受光部42からスキップ信号が出力され、各種サーボモータに設けられたエンコーダから読み取られた情報を基に、原点位置17から主軸頭15の基準点150までの長さBαが取得される。そして、前述のように予め取得した原点位置17からレーザ光43までのZ方向の長さCから長さBαを差し引くことにより、主軸頭15の基準点150から工具3の下端位置までの長さDが得られる。ここで、工具3は、ホルダ18を介して主軸16に取り付けられているが、ホルダ18はZ方向の長さEが予め正確に測定されて既知のものを用いる。そこで、長さDから、既知のホルダ18のZ方向の長さEを差し引くことにより、ホルダ18からの工具3のZ方向の突出長さL´が得られる。以上により、突出長さL´が得られる。
【0026】
そして、
図2に示すごとく、ステップS3において、測定された突出長さL´と加工条件取得手段211がCAM装置6から取得した工具3の理論突出長さLとが、L<L´≦(L+3mm)を満たしているか否かを判定する。不等式L<L´≦(L+3mm)中の3mmは、理論突出長さLに対する実際の工具の長さL´の差の許容値であり、工具3の種類、ワーク加工後に形成される製品の寸法公差等に応じて適宜変更し得る。測定された工具3の突出長さL´が、CAM装置6による工具経路算出時に用いた工具3の理論突出長さLよりも短い場合は、加工時にホルダ18がワークに干渉するおそれがあり、かつ、測定された工具3の長さL´が所定長さ(L+3mm)よりも大きい場合は、加工不良の原因となる。そのため、測定された工具3の突出長さL´と理論突出長さLとが、L<L´≦(L+3mm)を満たしていない場合は、ステップS4において、ホルダ18に対する工具3の取り付けに異常があると判断しアラームを発する。一方、測定された工具3の突出長さL´と理論突出長さLとが、L<L´≦(L+3mm)を満たしている場合は、ホルダ18に対する工具3の取り付けが正常になされているものと判断し、次のステップである工具径測定へ移行する。
【0027】
次いで、工具径確認を行う。工具径確認においては、ステップS5において、レーザ装置4を用いて、工具3を静止させた状態(非回転状態)における、工具3の直径OD´[mm]を測定する。
【0028】
ステップS5における静止状態の工具3の直径OD´を測定する方法について説明する。まず、工具3をレーザ光43に対してY方向の一方側から近付け、工具3がレーザ光43に接触した時点の基準点150のY方向位置を測定する。同様に、工具3をレーザ光43に対してY方向の他方側から近付け、工具3がレーザ光43に接触した時点の基準点150のY方向位置を測定する。そして、これらの測定値の差に基づいて、工具3の一端から他端までの長さを算出する。かかる長さを、工具3をその中心軸周りに所定角度ずつ回転させて姿勢を変更させながら複数回繰り返して算出し、各算出値の最大値を工具3の直径とする。なお、Z方向における工具3の直径の測定位置は、ステップS1における、Z方向の半径R´の測定位置と同様とすることができる。
【0029】
そして、測定された工具3の直径OD´と、加工条件取得手段211がCAM装置6から取得した工具3の理論直径値OD[mm]とから、測定された工具3の直径OD´と理論直径値ODとが、(OD-0.5mm)<OD´<(OD+0.5mm)を満たすか否かを判定する。つまり、測定された工具3の直径OD´が、CAM装置6から取得した工具3の理論直径値ODと同等かを確認する。不等式(OD-0.5mm)<OD´<(OD+0.5mm)中の0.5mmは、理論直径値ODに対する実際の工具3の直径OD´の差の許容値であり、工具3の種類、ワーク加工後に形成される製品の寸法公差等に応じて適宜変更し得る。測定された工具3の直径OD´と理論直径値ODとが、(OD-0.5mm)<OD´<(OD+0.5mm)を満たしていない場合は、ステップS6において、意図された工具3(CAM装置6による工具経路作成時に設定された工具3)と異なる工具が主軸16に取り付けられている可能性があるとして、アラームを発する。一方、測定された工具3の直径OD´と理論直径値ODとが、(OD-0.5mm)<OD´<(OD+0.5mm)を満たしている場合は、意図された工具3が主軸16に取り付けられているとして、ツールチェックを終了する。
【0030】
(加工手段213による処理)
加工手段213は、加工条件取得手段211がCAM装置6から取得した工具経路データをポスト処理して生成されたNCプログラムに従い、ベッド11に対するサドル12のY方向の移動手段、サドル12に対するテーブル13のX方向の移動手段、及びコラム14に対する主軸頭15のZ方向の移動手段を制御してワークの加工を行う。NCプログラムには、ワークに対する工具3の送り速度、工具3の回転速度、工具3の工具経路等の加工条件に関する指令が含まれている。
【0031】
(刃欠け検出手段214及び閾値算出手段215による処理)
刃欠け検出手段214は、加工手段213による加工に用いられた後の工具3に刃欠けが生じているか否かを検出する。
図7に、刃欠け検出のフローチャートを示している。
【0032】
ステップSaにおいて、刃欠け検出手段214は、まず、加工前の工具3の刃先33(
図5(a)参照)の形状(加工前形状301)を、レーザ装置4を用いて測定(トレース)する。
図8(a)は、刃欠けが生じていない工具3の刃先33の形状をトレースする方法を説明するための模式図である。
図8(a)においては、1つの工具3と、これをトレースするためのレーザ光43とを、右側程時間が進む時系列で示している。ここで、工具3は、エンドミル31(
図5(a)参照)であり、螺旋状に延びる4つの刃を備える場合を想定している。便宜上、工具3の4つの刃を、トレース時の工具3の反回転方向の順に第1刃部3a、第2刃部3b、第3刃部3c、及び第4刃部3dと呼ぶ。また、
図8(a)において、便宜上、第1刃部3a上に「1」、第2刃部3b上に「2」、第3刃部3c上に「3」、第4刃部3d上に「4」を表示している。
【0033】
工具3の刃先33の形状を、レーザ装置4を用いてトレースする際において、刃欠け検出手段214は、各種サーボモータを制御して主軸頭15を移動させて、工具3の下端位置とレーザ光43とがZ方向の同じ位置となるよう工具3を移動させる。そして、
図8(a)に示すごとく、工具3を1回転させ、各刃先33にレーザ光43を照射する。ここで、刃欠け検出手段214は、工具3を回転させたときに、工具3の第1刃部3a、第2刃部3b、第3刃部3c、及び第4刃部3dのそれぞれの刃先33がY方向のレーザ光43側の端部の位置(
図8(a)における工具3の紙面上端位置)に来た時にのみレーザ光43が照射されるよう、レーザ装置4によるレーザ光43の照射タイミングと、工具3の回転速度とを同期している。それゆえ、刃欠け検出手段214は、工具3を1回転させ、当該1回転中に4回照射されるレーザ光43のそれぞれが遮光されたか否かを検出する。この作業を、工具3がレーザ光43に当たらない位置から始め、レーザ光43と工具3とのY方向の相対距離を徐々に近付けながら複数回行う。そして、各刃先33によってレーザ光43が遮光されたときの基準点150の位置とレーザ光43との位置関係から、工具3の下端位置における各刃先33の位置を検出する。
【0034】
ここで、レーザ光43が照射されている状態においてレーザ光43が遮光された場合(すなわち、受光部42がレーザ光43を受光しない場合)、刃欠け検出手段214はレーザ装置4から遮断検知信号を受け取るように構成されている。
図8(b)は、工具3を1回転した際、4回照射されるレーザ光43のすべてが工具3のそれぞれの刃の刃先33によって遮光された場合に検出される遮光検知信号の例を示している。
図8(b)において、t1は、第1刃部3aの刃先33にレーザ光43を照射した時間であり、t2は、第2刃部3bの刃先33にレーザ光43を照射した時間であり、t3は、第3刃部3cの刃先33にレーザ光43を照射した時間であり、t4は、第4刃部3dの刃先33にレーザ光43を照射した時間である。このように、1回転当たり4回照射されるレーザ光43のすべてが遮光された場合、遮光検知信号は途切れることなく検出される。
【0035】
そして、工具3の各刃先33の位置の検出を、工具3の下端位置から上側に所定長さ離れた位置まで繰り返す。本形態においては、工具3の下端位置から上側に20mm離れた位置まで繰り返す。ここで、各刃は螺旋状に形成されているため、工具3をレーザ光43に対して下側にずらした場合、各刃先33の位置が回転方向にずれることとなる。このことを考慮し、刃欠け検出手段214は、工具3をZ方向のいずれの位置において刃先33の位置を検出する場合であっても、工具3の各刃の刃先33がY方向におけるレーザ光43側の端部の位置に来た時にのみレーザ光が照射されるよう、レーザ装置4によるレーザ光43の照射タイミングと、工具3の回転とを同期している。
【0036】
以上のように、加工前の工具3の刃先33の形状(加工前形状301)をトレースする。
図10に、加工前形状301に関するトレース結果を一点鎖線で示している。
図10に示す図は、下側からみた工具3の刃先33の外形形状の一部に相当する。
【0037】
そして、ステップSbにおいて、CAM装置6から1回目の加工後の工具3を用いたワークの次回加工時(すなわち2回目の加工時)の加工条件を取得する。そして、ステップScにおいて、工具3を用いた1回目のワークの加工後、閾値算出手段215は、トレースされた加工前形状301と、CAM装置6から取得された、1回目の加工後の工具3を用いたワークの次回加工時(すなわち2回目の加工時)の加工条件とに基づき、
図10に示すごとく、許容される刃の刃欠け量(許容刃欠け量W)を算出する。加工条件は、荒加工、及び荒加工より後に行われる仕上げ加工に関する条件を含む。荒加工は、仕上げ加工に比べ、加工の精度が要求されず、比較的工具3の刃欠けが許容されやすい一方、仕上げ加工は、荒加工に比べ加工の精度が要求され、工具3に許容刃欠け量Wは小さい。そこで、閾値算出手段215は、
図7に示すごとく、ステップSdにおいて、CAM装置6から取得された、1回目の加工後の工具3を用いたワークの次回加工時(2回目の加工時)の加工条件を考慮し、許容される許容刃欠け量Wを決定し、
図10に示すごとく、加工前形状301から許容刃欠け量Wだけ内側の位置を、許容される刃の外形形状(以後、刃欠け限界線300と呼ぶ)として算出する。すなわち、刃欠け限界線300は、加工前形状301の各部の位置を、当該各部の法線方向の内側に許容刃欠け量Wだけ縮小させたものである。許容刃欠け量Wは、例えば2回目の加工時の加工条件が、荒加工である場合は0.05mm、仕上げ加工である場合は0.05mmよりも小さい値、例えば0.02mmとすることができる。
【0038】
そして、
図7に示すごとく、ステップSeにおいて、刃欠け検出手段214は、レーザ装置4を用いて、1回目の加工後の工具3の刃先33の形状(加工後形状302)をトレースする。加工後形状302のトレースは、加工前形状301のトレースと同様に行う。トレースされた加工後形状302を
図10に実線で示している。
【0039】
次いで、ステップSfにおいて、刃欠け検出手段214は、トレースされた加工後形状302に、刃欠け限界線300よりも内側に位置している部分があるか否かを判定する。すなわち、刃欠け検出手段214は、加工前形状301と加工後形状302との差が、所定の閾値以上であるかを確認する。刃欠け検出手段214は、加工後形状302の少なくとも一部が、刃欠け限界線300よりも内側に位置している場合は、工具3に刃欠けありと判定し、ステップSgに移行してアラームを発生させる。
【0040】
ここで、
図9(a)は、一部、刃欠けが生じている工具3の刃先33の形状をトレースする方法を説明するための模式図である。
図9(b)は、工具3を1回転した際、4回照射されるレーザ光43のうちの1つのみが工具3の刃によって遮光されない場合に検出される遮光検知信号の例を示している。ここでは、
図9(a)に示すごとく、工具3の4つの刃のうちの第3刃部3cに刃欠けが生じている場合を想定する。この場合、ステップSeにおいて工具3の半径から許容刃欠け量Wだけ内周側にずれた位置(すなわち刃欠け限界線300の位置)をレーザ光43でトレースする際、第1刃部3a、第2刃部3b、及び第4刃部3dのそれぞれの刃先33によってレーザ光43が遮断されるが、第3刃部3cによってレーザ光43は遮断されない。そのため、工具3の半径から許容刃欠け量Wだけ内周側にずれた位置をレーザ光でトレースする際に、
図9(b)に示すごとく、時間t3の間の摩耗検知信号が途切れ、刃欠け検出手段214は、当該途切れを検出することにより刃欠けが検出される。一方、刃欠け検出手段214は、加工後形状302のいずれも刃欠け限界線300の内側に位置していない場合は、工具3の刃先33の形状をトレースする際に、工具が1回転する間に摩耗検知信号が途切れず、これによって工具3に刃欠けなしと判断することができ、2回目の加工へ移る。このように、刃欠け検出手段214は、加工前形状301と加工後形状302との差が、所定の閾値(すなわち許容刃欠け量W)以上であることを検知することによって加工後の工具3の刃欠けを検出する。
【0041】
(実施の形態の作用及び効果)
本形態の工作機械1は、加工前形状301と加工後形状302との差が、所定の閾値(許容刃欠け量W)以上であることを検知することによって加工後の工具3の刃欠けを検出する刃欠け検出手段214を備える。それゆえ、工具の刃の欠けを検出することができる。
【0042】
また、工具3は、その先端が工具3の中心軸上に存在する場合(例えばドリル、ボールエンドミル等)、刃欠け検出手段214は、加工前形状と、レーザ装置4によって工具3の先端を測定して得られた加工後形状との差が、所定の閾値以上であることを検知することによって加工後の工具3の少なくとも1つの刃の欠けを検出する。そして、工具3は、その先端が工具3の中心軸から外周側に離れた位置に少なくとも存在する場合(例えばフラットエンドミルやリーマ等)、刃欠け検出手段214は、加工前形状と、レーザ装置4によって工具3の先端位置の外周端部を測定して得られた加工後形状との差が、所定の閾値以上であることを検知することによって加工後の工具3の少なくとも1つの刃の欠けを検出する。これにより、工具形状測定の際に、工具3を確実に焦点に当てて測定することができ、工具3の形状測定の精度を高めることができる。
【0043】
また、本形態の工作機械1は、加工後の工具3を用いたワークの次回加工時の加工条件を取得する加工条件取得手段211と、加工条件取得手段211が取得した加工条件に基づいて、前記所定の閾値(許容刃欠け量W)を算出する閾値算出手段215とを備える。それゆえ、加工条件に応じて、工具3の刃欠け検出の閾値を適宜変更することにより、許容される工具3の刃欠け量に応じた工具3の刃欠け検出を行うことが可能となる。
【0044】
また、閾値算出手段215が算出する閾値は、加工条件が荒加工に関する条件であった場合よりも、加工条件が仕上げ加工に関する条件であった場合の方が小さい値である。すなわち、仕上げ加工の方が荒加工よりも、要求される加工精度が高いため、次回の加工が荒加工である場合は、ある程度大きめの許容刃欠け量Wを設定し、次回の加工が仕上げ加工である場合は、ある程度小さめの許容刃欠け量Wを設定することで、効率的な工具3の交換を補助することが可能となる。
【0045】
また、刃欠け検出手段214は、加工条件取得手段211がCAM装置6から取得した工具3の刃数及び工具3の形状に基づき、測定装置4による工具3の各刃の形状の測定を行う。これら、工具3の刃数及び工具3の形状は、一般的に工作機械1がCAM装置6から取得する情報であるため、これを利用することにより、別途工具3の歯数や工具3の形状を入力する必要がなくなり、工作機械1によるワークの加工の自動化を図りやすい。
【0046】
以上のごとく、本形態によれば、工具3の刃欠けを検出することができる工作機械1を提供することが可能となる。
【0047】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0048】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。
【0049】
例えば、前記実施の形態においては、工具の形状を測定するための測定装置をレーザ装置としたが、これに限られず、例えば画像処理によって工具の形状を測定してもよい。ここで、工作機械内には、加工時に生じる粉塵、クーラントのミスト等が存在するが、レーザ光はこれらの影響を受け難いため、レーザ装置が測定装置として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0050】
1…工作機械
211…加工条件取得手段
214…刃欠け検出手段
215…閾値算出手段
3…工具
4…測定装置(レーザ装置)