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特許7625837積層ポリエステルフィルム、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20250128BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250128BHJP
   B05D 7/04 20060101ALI20250128BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20250128BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
B32B27/36
B05D7/24 303B
B05D7/04
B32B27/18 J
C08J7/00 303
C08J7/00 CFD
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020203877
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2021098362
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019228874
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】澤本 恵子
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 照也
(72)【発明者】
【氏名】荒本 光
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悠
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-336341(JP,A)
【文献】特開2009-155570(JP,A)
【文献】特開2008-177165(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0171193(US,A1)
【文献】特開2019-025764(JP,A)
【文献】特開2010-229288(JP,A)
【文献】特開2017-065053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05B 12/16-12/36,14/00-16/80
B05D 1/00-7/26
C08J 7/00
C09D 1/00-10/00,101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂層(X)を有する積層ポリエステルフィルムであって、前記樹脂層(X)が、直径が50nm以下である単層または2層のカーボンナノチューブ(a)と無機粒子(b)を含み、前記樹脂層(X)表面の表面比抵抗値をP1(Ω/□)、前記樹脂層(X)表面を下記の条件でコロナ放電処理を実施した後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値をP2(Ω/□)としたとき、下記式1、2を満たす積層ポリエステルフィルム。
P1<1.0×10 (式1)
P2/P1≦50 (式2)
[コロナ放電処理条件]
出力100W、セラミック電極との放電ギャップ1mm、電極移動速度6m/分、処理回数5回の条件にてコロナ放電処理を実施。
【請求項2】
前記無機粒子(b)が、Si、Al、Ti、Zr、Se、Feからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物粒子である、請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記樹脂層(X)中のカーボンナノチューブ(a)の含有量が、樹脂層(X)全体に対して0.05重量%以上、5.0重量%以下である請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記樹脂層(X)中の無機粒子(b)の含有量が、樹脂層(X)全体に対して5.0重量%以上である、請求項1~のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
放電処理を行う用途に用いられる請求項1~のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムの少なくとも片面に、カーボンナノチューブ(a)と無機粒子(b)を含む塗料組成物(x)を塗布し、その後ポリエステルフィルムを一軸または二軸延伸法によって延伸し、ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させる工程を含む積層ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルム、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルム、中でも二軸配向ポリエステルフィルムは、機械的性質、電気的性質、寸法安定性、透明性、耐薬品性などに優れた性質を有するため、磁気記録材料、包装材料などの多くの用途において広く使用されている。
【0003】
ところが、一般にポリエステルは絶縁性樹脂であることから、二軸配向ポリエステルフィルムは、そのままでは帯電防止性を有さないという欠点を有している。帯電防止性は、帯電による塵埃付着に起因する異物欠点を抑制する目的で付与される特性であり、絶縁性の材料の表面や内層に導電性を付与することで電荷の偏りを中和することが出来る。ポリエステルフィルムに帯電防止性を付与する方法のうち、ポリエステルフィルムの表面に導電性の塗布層を設ける方法は、フィルムの持つ各種安定特性を活かしながら導電性を付与することが容易であり、従来から種々の方法で帯電防止性を与えるための検討がなされてきた。
【0004】
例えばイオン導電タイプの帯電防止剤であるスチレンスルホン酸共重合体を塗布する方法(特許文献1)や、電子伝導タイプの帯電防止剤であるポリチオフェン系導電剤にエポキシ架橋剤を併用し、塗膜の透明性と帯電防止性を両立する方法(特許文献2)、カーボンナノチューブを帯電防止剤として用いる手法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-204240号公報
【文献】特開2004-58648号公報
【文献】特許第4454426号公報
【文献】特開2010-013135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、イオン導電タイプの帯電防止剤を使った特許文献1の帯電防止方法では、導電性が不十分であり、かつ摩耗により性能が失われやすい課題がある。また、特許文献2や特許文献3の技術では、後述するコロナ放電処理時に帯電防止性が低下すること、また帯電防止成分は有色であり透明性を損ないやすいこと、さらには品質管理上も特性に影響を与えるなどの問題があった。
【0007】
ところで、帯電防止性を付与した二軸配向ポリエステルフィルムが用いられる用途として、電子部品やOLED部材のプロテクトフィルムやカバーテープ用途などが挙げられる。ここでは特に電子部品のカバーテープを例に課題を説明する。電子部品からカバーテープを剥離するときに、カバーテープの剥離帯電により、電子部品が不用意に飛び出し、電子部品が散逸する、あるいは、帯電したテープと電子部品との間で放電が起こり、電子部品が電気的に破壊する問題が発生する。一般的に電子部品を、該カバーテープとキャリアテープによりパッケージした際、カバーテープ側から電子部品の検査、例えば、異なる品種が混入していないか、ICチップのリード端子の曲がりや充填方向の間違いがないかなどの検査が行われる。これらの検査を容易に行うため、カバーテープの透明性に対する要求は強く、透明性の高い透明ポリエステルフィルムや透明ポリオレフィンフィルムなどに帯電防止加工を施した物が使用されていた。
【0008】
ところがカバーテープの作成工程においては、基材である導電性ポリエステルフィルムにプライマーやシーラントなど複数の層を形成するため、加工工程での摩擦により、帯電防止性が低下することが課題であった。さらに、例えば特許文献4に挙げられるように、基材のポリエステルフィルムとシーラント材の接着性を高めるために放電処理のような表面処理を施す場合があるが、上述した特許技術に挙げられた技術では、この処理により帯電防止性能が低下することが明らかとなった。
【0009】
そこで本発明の課題は、帯電防止性に優れ、更には放電処理後にも優れた帯電防止性を維持できる積層ポリエステルフィルム、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る積層ポリエステルフィルム、およびその製造方法は、次の構成を有するものである。
(1)ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂層(X)を有する積層ポリエステルフィルムであって、前記樹脂層(X)が、カーボンナノチューブ(a)と無機粒子(b)を含む積層ポリエステルフィルム。
(2)前記樹脂層(X)表面の表面比抵抗値をP1(Ω/□)としたとき、下記式1を満たす(1)に記載の積層ポリエステルフィルム。
P1<1.0 (式1)
(3)前記樹脂層(X)表面を下記の条件でコロナ放電処理を実施した後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値をP2(Ω/□)としたとき、下記式2を満たす(2)に記載の積層ポリエステルフィルム。
P2/P1≦100 (式2)
[コロナ放電処理条件]
出力100W、セラミック電極との放電ギャップ1mm、電極移動速度6m/分、処理回数5回の条件にてコロナ放電処理を実施。
(4)前記無機粒子(b)が、Si、Al、Ti、Zr、Se、Feからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物粒子である、(1)~(3)のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
(5)前記樹脂層(X)中のカーボンナノチューブ(a)の含有量が、樹脂層(X)全体に対して0.05重量%以上、5.0重量%以下である(1)~(4)のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
(6)前記樹脂層(X)中の無機粒子(b)の含有量が、樹脂層(X)全体に対して5.0重量%以上である、(1)~(5)のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
(7)放電処理を行う用途に用いられる(1)~(6)のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムの少なくとも片面に、カーボンナノチューブ(a)と無機粒子(b)を含む塗料組成物(x)を塗布し、その後ポリエステルフィルムを一軸または二軸延伸法によって延伸し、ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させる工程を含む積層ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、帯電防止性に優れ、さらに本発明の積層ポリエステルフィルムは、放電処理後も優れた帯電防止性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂層(X)を有する積層ポリエステルフィルムであって、前記樹脂層(X)が、カーボンナノチューブ(a)(以下、CNT(a)と表記)と無機粒子(b)を含む積層ポリエステルフィルムである。
【0013】
<基材となるポリエステルフィルム>
本発明の積層ポリエステルフィルムには、基材となるポリエステルフィルム(基材フィルム)の少なくとも片面に樹脂層(X)が設けられている。
【0014】
本発明において基材となるポリエステルフィルムを構成するポリエステルとは、ジカルボン酸とジオールの重縮合によって生成するエステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称である。好ましいポリエステルとしては、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレート、ブチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、および1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどから選ばれた少なくとも1種のジカルボン酸を主要構成樹脂とするものが挙げられる。これら構成樹脂は、1種のみ用いても2種以上併用してもよい。
【0015】
なお、本発明の積層ポリエステルフィルムに用いられる基材フィルムは、単層フィルムであっても2層以上の積層フィルムであってもよい。例えば、内層部と表層部とを有する複合体フィルムであって、内層部に実質的に粒子を含有せず、表層部のみに粒子を含有させた層を設けた積層フィルムを挙げることができる。
【0016】
なお、基材となるポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤および架橋剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0017】
また、本発明の基材となるポリエステルフィルムとして、二軸配向ポリエステルフィルムを用いることが好ましい。ここで、「二軸配向」とは、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。二軸配向ポリエステルフィルムは、一般に、未延伸状態のポリエステルシートをシート長手方向および幅方向に各々2.5~5倍程度延伸し、その後、熱処理を施し、結晶配向を完了させることにより得ることができる。
【0018】
本発明の基材となるポリステルフィルムの層厚みは、用途に応じて適宜選択されるが、通常好ましくは10~500μmであり、より好ましくは20~300μmである。
【0019】
<樹脂層(X)>
本発明の樹脂層(X)は、CNT(a)と無機粒子(b)を含む必要がある。
【0020】
かかる樹脂層(X)とすることで、該樹脂層(X)をポリエステルフィルムの少なくとも片面に有する積層ポリエステルフィルムは、帯電防止性に優れ、かつ放電処理を実施した後の帯電防止性にも優れる。
【0021】
以下、本発明の積層ポリエステルフィルムにて用いられる樹脂層(X)について説明する。
【0022】
(1)樹脂層(X)
本発明の樹脂層(X)は、CNT(a)と無機粒子(b)を含むことが必要である。樹脂層(X)は、樹脂層(X)表面の表面比抵抗値をP1(Ω/□)としたとき、下記式1を満たすことがより好ましい。
P1<1.0×10 (式1)
樹脂層(X)表面のコロナ放電処理試験前後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値の測定方法については後述する。
【0023】
P1が1.0×10以上の場合は、帯電防止性が悪化し、高いレベルの帯電防止性が要求される電子部品のプロテクトフィルムやカバーテープ用途に用いる場合は実用上問題がある。またP1は10×1.0以下であることが好ましく、1.0×10以下であることがより好ましい。
【0024】
P1が式1を満足させる方法としては、樹脂層(X)にCNT(a)を含有せしめる方法が挙げられ、好ましくは、CNT(a)を含有する塗料組成物(x)から樹脂層を形成せしめて、樹脂層(X)を得る手法が挙げられる。
【0025】
また、本発明の樹脂層(X)は、樹脂層(X)表面を下記の条件でコロナ放電処理を実施した後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値をP2(Ω/□)としたとき、下記式2を満たすことがさらに好ましい。
P2/P1≦100 (式2)
[コロナ放電処理条件]出力100W、セラミック電極との放電ギャップ1mm、電極移動速度6m/分、処理回数5回の条件にてコロナ放電処理を実施。
【0026】
なおコロナ放電処理方法およびコロナ放電処理試験前後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値の測定方法については後述する。
【0027】
P2/P1が100を超える場合は、コロナ放電処理やプラズマ放電処理といった放電処理後の帯電防止性が悪化することを表しており、シーラント材の接着性を高めるために放電処理のような表面処理を施す用途に用いる場合は、実用上問題となる場合がある。また、P2/P1は0.1以上、100以下であることが好ましい。より好ましくは、0.1以上、50以下である。
【0028】
P2/P1が式2を満足させる方法としては、樹脂層(X)にCNT(a)と無機粒子(b)を含有せしめる方法が挙げられ、好ましくは、CNT(a)と無機粒子(b)を含有する塗料組成物(x)から樹脂層を形成せしめて、樹脂層(X)を得る手法が挙げられる。
【0029】
(2)CNT(a)
本発明の積層ポリエステルフィルムでは、樹脂層(X)に、CNT(a)を含む必要がある。本発明でいうCNTとは炭素原子だけで構成されたハニカム構造のグラフェンシートが円筒状に丸まったシームレス(継ぎ目のない)チューブのことを指す。実質的にグラフェンシートを1層に巻いたものを単層CNT、2層に巻いたものを2層CNT、3層以上の多層に巻いたものを多層CNTという。本発明に用いられるCNT(a)は、直線又は屈曲形の単層CNT、直線又は屈曲形の2層CNT、直線又は屈曲形の多層CNTのいずれか、又は、それらの組み合わせたものであることが好ましい。
【0030】
なお、ハニカム構造とは、主として六員環からなるネットワーク構造を指すが、CNTの構造上、チューブの屈曲部分や断面の閉塞部分に五員環や七員環などの六員環以外の環状構造を有していても良い。
【0031】
本発明に用いられるCNT(a)は、上記のCNTの中でも、導電性の点から、直線又は屈曲形の単層CNT、直線および/または屈曲形の2層CNTを用いることが好ましい。単層CNTおよび2層CNTは、溶媒中への分散性や耐久性、製造コストの点で優れている。一方、3層以上の多層CNTでは分散性や製造コストに優れる反面、十分な導電性が得られない場合がある。
【0032】
また、本発明に使用するCNT(a)は直径が1nm以上であることが好ましい。また、CNT(a)の直径は50nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以下である。直径が50nmを超えるとCNTは3層以上の多層構造となり、導電経路が層間で発散してしまい導電性が低下することがある。また、直径が50nmを超えるCNTを用いて、直径が50nm以下のCNTと同等の導電性を発現させようとすると多量のCNTが必要となり、導電性フィルムの透明性が極端に損なわれるばかりでなく、制限無く量を増やしても、十分な導電性を達成できない場合がある。さらには、CNTの直径が50nmを超えると、導電層の接着性や耐摩耗性を低下せしめることがある。一方、直径が1nm未満のCNTは、製造することが困難である。
【0033】
本発明に使用するCNT(a)のアスペクト比は100以上であることが好ましい。また、CNTのアスペクト比は5000以下であることが好ましい。CNTのアスペクト比を上記範囲内とすることにより、樹脂層(X)の導電性を高めることができる。CNTのアスペクト比を上述の範囲とすると、樹脂層(X)の形成において、後述するインラインコーティング法を用いた場合、延伸工程にてCNTが適度にほぐれ、CNT間の導電経路が切れることなく、またCNT間に十分な隙間を確保したネットワークを形成させることができる。かかるネットワーク構造が形成されると、フィルムの透明度を高めつつ、良好な導電特性を発現させることができる。
【0034】
なお、アスペクト比とは、カーボンチューブの長さ(nm)をカーボンチューブの直径(nm)で除したもの(カーボンチューブの長さ(nm)/カーボンチューブの直径(nm))である。
【0035】
かかる特性を有するCNTは、化学的蒸着堆積法、触媒気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法などの公知の製造方法により得られる。CNTを作製する際には、同時にフラーレンやグラファイト、非晶性炭素が副生成物として生成され、またニッケル、鉄、コバルト、イットリウムなどの触媒金属も残存するので、これらの不純物を除去し精製するのが好ましい。不純物の除去には、硝酸、硫酸などの酸処理とともに超音波分散処理が有効であり、またフィルターによる分離を併用することは純度を向上させる上でさらに好ましい。
【0036】
単層CNTや2層CNTは一般に多層CNTよりも細く、均一に分散すれば単位体積当たりの導電経路数がより多く確保でき導電性が高い反面、製法によっては半導体性のCNTが副生成物として多くできる場合があり、その場合には導電性のCNTを選択的に製造するか、選別する必要が生じる。多層CNTは一般的に導電性を示すが、層数が多すぎると単位重量当たりの導電経路数が低下する。よって多層CNTを使用する場合でも、そのCNT直径が50nm以下であることが好ましく、より好ましくは直径20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。また、単層CNTや2層CNTを用いる場合はその構造上、直径は20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下であることが、導電性の観点から好ましい。
【0037】
本発明で用いられる樹脂層(X)中のCNT(a)の含有量は、樹脂層(X)全体に対して0.05重量%以上、10.0重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.5重量%以上、10重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以上、5.0重量%以下である。0.05重量%未満であると、樹脂層(X)が充分な帯電防止性能を有さない。また10.0重量%を超えると、CNT同士の分子間力による凝集力が高くなり、CNTの分散性が低下するため、樹脂層(X)の透明性や塗布概観が悪化する場合がある。
【0038】
(3)無機粒子(b)
本発明では、樹脂層(X)が、CNT(a)に加えて、無機粒子(b)を含むことが必要である。本発明において用いられる無機粒子(b)としては、Si、Al、Ti、Zr、Se、Feからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物粒子などが挙げられる。
【0039】
本発明に用いられる無機粒子(b)の代表的な例としては、SiO、Al、TiO、ZrOを挙げることができる。
【0040】
本発明の積層ポリエステルフィルムの樹脂層(X)中に、CNT(a)と無機粒子(b)を含むと、樹脂層(X)の導電性を大きく向上させる(表面比抵抗値を大きく低下させる)ことができる。これは、樹脂層(X)中に、無機粒子(b)を含むことで、樹脂(X)層中でのCNTの存在できる空間体積が減少し、それによりCNTの密度が向上し、CNT同士がネットワークを形成しやすくなった結果、導電パスが形成しやすくなり帯電防止性が向上するものと推定している。また、本発明者らが鋭意検討した結果、驚くべきことに、積層ポリエステルフィルムの樹脂層(X)中に、CNT(a)と無機粒子(b)を含むと、放電処理を行った際においても帯電防止性の低下を抑制することができることがわかった。この効果がどのようにして得られるかは明らかになっているわけではないが、CNTを含む樹脂層(X)に放電処理を行うと、CNT(a)がダメージを受けてCNT(a)の導電パスが崩れるのに対し、無機粒子(b)がある場合では、CNT(a)の周囲に無機粒子(b)が密に配置されることで、CNT(a)がダメージを受けにくくなり、放電処理後にも優れた帯電防止性を発現するものと推定している。
【0041】
また、樹脂層(X)中の無機粒子(b)の含有量が、樹脂層(X)全体に対して5.0重量%以上であることが好ましい。より好ましくは10.0重量%以上、さらに好ましくは20.0重量%以上である。かかる含有量とすると、樹脂層(X)表面の表面抵抗値P1(Ω/□)を1.0×10以下にすることが容易になるため好ましい。さらにP2/P1を100以下にすることが容易となるため好ましい。一方、透明性、加工性の観点からは25.0重量%以下であることが好ましい。
【0042】
本発明の積層ポリエステルフィルムに用いられる無機粒子(b)は、無機粒子(b)の表面の一部または全部に、アクリル樹脂(c)を有する組成物(bc)であることが好ましい。アクリル樹脂(c)を有する組成物(bc)とすることで、積層ポリエステルフィルムの樹脂層(X)中の無機粒子(b)をナノ分散させることができ、放電処理時にCNTにダメージを受けることを抑制する効果が高く得られるため好ましい。
【0043】
無機粒子(b)の表面の一部または全部に、アクリル樹脂(c)を有する組成物(bc)とする方法は特に限られるものでは無いが、例えば、後述する無機粒子(b)をアクリル樹脂(c)で表面処理する方法などを挙げることができる。具体的には、以下の(i)~(iv)の方法が例示される。なお、本発明において、表面処理とは、特定の元素を有す無機粒子(b)の表面の全部または一部にアクリル樹脂(c)を吸着・付着させる処理をいう。
【0044】
(i)無機粒子(b)とアクリル樹脂(c)をあらかじめ混合した混合物を溶媒中に添加した後、分散する方法。
【0045】
(ii)溶媒中に、無機粒子(b)とアクリル樹脂(c)を順に添加して分散する方法。
【0046】
(iii)溶媒中に、無機粒子(b)とアクリル樹脂(c)をあらかじめ分散し、得られた分散体を混合する方法。
【0047】
(iv)溶媒中に、無機粒子(b)を分散した後、得られた分散体にアクリル樹脂(c)を添加する方法。
【0048】
これらのいずれの方法によっても目的とする効果を得ることができる。
【0049】
また、分散を行う装置としては、ディゾルバー、ハイスピードミキサー、ホモミキサー、ミーダー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、SCミル、アニュラー型ミル、ピン型ミル等が使用できる。
【0050】
また、分散方法としては、上記装置を用いて、回転軸を周速5~15m/sで回転させる。回転時間は5~10時間である。
【0051】
また、分散時に、ガラスビーズ等の分散ビーズを用いることが分散性を高める点でより好ましい。ビーズ径は、好ましくは0.05~0.5mm、より好ましくは0.08~0.5mm、特に好ましくは0.08~0.2mmである。
【0052】
混合、攪拌する方法は、容器を手で振って行ったり、マグネチックスターラーや攪拌羽根を用いたり、超音波照射、振動分散などを行うことができる。
【0053】
なお、無機粒子(b)の表面の全部または一部への、アクリル樹脂(c)の吸着・付着の有無は、次の分析方法により確認可能である。測定対象物を、日立卓上超遠心機(日立工機株式会社製:CS150NX)により遠心分離を行い(回転数3,0000rpm、分離時間30分)、無機粒子(b)(及び無機粒子(b)の表面に吸着したアクリル樹脂(c))を沈降させた後、上澄み液を除去し、沈降物を濃縮乾固する。濃縮乾固した沈降物をX線光電子分光法(XPS)により分析し、無機粒子(b)の表面におけるアクリル樹脂(c)の有無を確認する。無機粒子(b)の表面に、無機粒子(b)の合計100重量%に対して、アクリル樹脂(c)が1重量%以上存在することが確認された場合、金無機粒子(b)の表面に、アクリル樹脂(c)が吸着・付着しているものとする。
【0054】
(4)樹脂(c)
本発明では、樹脂層(X)が、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン共重合樹脂の少なくとも1種の樹脂を含む樹脂(c)を含むことが、樹脂層の造膜性を高め、帯電防止性を維持する観点から好ましい。
【0055】
本発明で樹脂層(X)に用いられるポリエステル樹脂としては、前述した基材となるポリエステルフィルムを構成するポリエステルとして例示したポリエステルと同様の骨格を有するポリエステルを例示することができる。
【0056】
前記CNT(a)、無機粒子(b)、樹脂(c)を含む樹脂層(X)を有する積層ポリエステルフィルムを得る方法としては、例えば、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、前記CNT(a)、無機粒子(b)、樹脂(c)を含む塗料組成物(x)を塗布した後、樹脂層(X)を形成させる方法が挙げられる。樹脂(c)にポリエステル樹脂を含み、塗料組成物(x)の溶媒として水を用いる場合には、ポリエステル樹脂の接着性を向上させるため、あるいはポリエステル樹脂の水溶性化を容易にするために、ポリエステル樹脂はカルボン酸塩基を含む化合物やスルホン酸塩基を含む化合物を共重合することが好ましい。カルボン酸塩基を含む化合物としては、例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、4-メチルシクロヘキセン-1,2,3-トリカルボン酸、トリメシン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフルフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフルフリル)-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、2,2’,3,3’-ジフェニルテトラカルボン酸、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸など、あるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
スルホン酸塩基を含む化合物としては、例えば、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホイソフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、スルホ-p-キシリレングリコール、2-スルホ-1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどあるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を用いることができるが、これに限定されるものではない。
好ましいポリエステル樹脂としては、酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフルフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸を、またグリコール成分としてエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコールを用いた共重合体などが挙げられる。
【0058】
本発明で用いられるアクリル樹脂とは、後述するアクリルモノマーと必要に応じて他種モノマーを、乳化重合、懸濁重合などの公知のアクリル樹脂の重合方法によって共重合させることで得られる樹脂を表す。
【0059】
アクリル樹脂に用いるアクリルモノマーとしては、例えばアルキルアクリレート(アルキル基としてはメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、2-エチルヘキシル、シクロヘキシルなど)、アルキルメタクリレート(アルキル基としてはメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、2-エチルヘキシル、シクロヘキシルなど)、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのヒドロキシ基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N,N-ジメチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-フェニルアクリルアミドなどのアミド基含有モノマー、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのアミノ基含有モノマー、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジル基含有モノマー、アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩など)などのカルボキシル基またはその塩を含有するモノマーなどを挙げることができる。
【0060】
また、これらアクリルモノマーは、他種モノマーと併用して用いることもできる。他種モノマーとしては、例えばアリルグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有モノマー、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物基を含有するモノマー、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリスアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アルキルイタコン酸モノエステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルピロリドンなどを用いることができる。
【0061】
アクリルモノマーは1種または2種以上を用いて重合させるが、他種モノマーを併用する場合、全モノマー中、アクリルモノマーの割合が50重量%以上、さらには70重量%以上となることが好ましい。
【0062】
また、本発明で用いられるウレタン樹脂とは、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物を、乳化重合、懸濁重合などの公知のウレタン樹脂の重合方法によって反応させることで得られる樹脂を表す。
【0063】
ポリヒドロキシ化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ポリカーボネートジオール、グリセリンなどを挙げることができる。
【0064】
さらに、前述したとおり、本発明の積層ポリエステルフィルムにおいて無機粒子(b)が、その表面の一部または全部に、アクリル樹脂(c)を有する組成物(bc)であることが好ましい。アクリル樹脂(c)を有する組成物(bc)を用いることで、積層ポリエステルフィルム中の無機粒子(b)をナノ分散させることができ、積層ポリエステルフィルムの透明性を維持することができる。
【0065】
本発明におけるアクリル樹脂(c)とは、式(1)で表されるモノマー単位(c)と、式(2)で表されるモノマー単位(c)と、式(3)で表されるモノマー単位(c)を有する樹脂であることが好ましい。
【0066】
【化1】
【0067】
(式(1)において、R基は、水素元素またはメチル基を表す。またnは、9以上34以下の整数を表す。)。
【0068】
【化2】
【0069】
(式(2)において、R基は、水素元素またはメチル基を表す。また、R基は、飽和の炭素環を2つ以上含む基を表す。)。
【0070】
【化3】
【0071】
(式(3)において、R基は、水素元素またはメチル基を表す。また、R基は、水酸基、カルボキシル基、3級アミノ基、4級アンモニウム塩基、スルホン酸基、または、リン酸基を表す。)
ここで、本発明におけるアクリル樹脂(c)は、式(1)で表されるモノマー単位(d)を有する樹脂であることが好ましい。
【0072】
式(1)において、nが9未満のモノマー単位を有するアクリル樹脂を用いると、水系溶媒(水系溶媒の詳細については、後述する。)中における無機粒子(b)の分散性が不安定となる。式(1)におけるnが9未満のモノマー単位を有するアクリル樹脂を用いると、塗料組成物中において無機粒子(b)が激しく凝集し、場合によっては水系溶媒中で無機粒子(b)が沈降することがある。その結果、放電処理時にCNTにダメージを受けることを抑制する効果が損なわれる場合がある。一方、式(1)におけるnが34を越えるモノマー単位を有するアクリル樹脂は、水系溶媒への溶解性が著しく低いので、水系溶媒中においてアクリル樹脂の凝集が起こりやすくなる。かかる凝集体は、可視光の波長より大きいため、透明性の良好な積層ポリエステルフィルムを得ることができなくなる場合がある。上記のような式(1)で表されるモノマー単位(c)を有する樹脂を用いることで、無機粒子(b)が適度な相互作用で水系溶媒中では分散する一方で、乾燥後は複数の無機粒子(b)が異方性を持って、積層ポリエステルフィルムの樹脂層(X)中でナノオーダーレベルに微細に凝集することで、CNT(a)の暴露を抑えることができ、コロナ耐性を向上することができる。
【0073】
本発明におけるアクリル樹脂(c)が、式(1)で表されるモノマー単位(c)を有するためには、次の式(4)で表される(メタ)アクリレートモノマー(c’)を原料として用い、重合することが必要である。
【0074】
該(メタ)アクリレートモノマー(c’)としては、式(4)におけるnが9以上34以下の整数で表される(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、より好ましくは11以上32以下の(メタ)アクリレートモノマー、更に好ましくは13以上30以下の(メタ)アクリレートモノマーである。
【0075】
【化4】
【0076】
(メタ)アクリレートモノマー(c’)は、式(4)におけるnが9以上34以下である(メタ)アクリレートモノマーであれば特に制限されないが、具体的にはデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、1-メチルトリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、テトラコシル(メタ)アクリレート、トリアコンチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、特にドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは1種で使用してもよく、2種以上の混合物を使用してもよい。
【0077】
また、本発明におけるアクリル樹脂(c)は、前記式(2)で表されるモノマー単位(c)を有する樹脂であることが重要である。
【0078】
式(2)において、飽和の炭素環を1つのみ含むモノマー単位を有するアクリル樹脂を用いると、立体障害としての機能が不十分となり、塗料組成物中において無機粒子(b)が凝集または沈降したり、場合によっては水系溶媒中で無機粒子(b)が沈降することがある。その結果、積層ポリエステルフィルムの透明性が損なわれる場合がある。
【0079】
かかる凝集体は、可視光の波長より大きいため、透明性の良好な積層ポリエステルフィルムを得ることができなくなる場合ある。本発明におけるアクリル樹脂(c)が、式(2)で表されるモノマー単位(c)を有するためには、次の式(5)で表される(メタ)アクリレートモノマー(c’)を原料として用い、重合することが必要である。
【0080】
式(5)で表される(メタ)アクリレートモノマー(c’)としては、架橋縮合環式(2つまたはそれ以上の環がそれぞれ2個の元素を共有して、結合した構造を有する)、スピロ環式(1個の炭素元素を共有して、2つの環状構造が結合した構造を有する)などの各種環状構造、具体的には、ビシクロ、トリシクロ、テトラシクロ基などを有する化合物が例示でき、その中でも特にバインダーとの相溶性の観点から、ビシクロ基を含有する(メタ)アクリレートが好ましい。
【0081】
【化5】
【0082】
上記ビシクロ基を含有する(メタ)アクリレートとしては、イソボニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、ジシロクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジメチルアダマンチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、特にイソボニル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0083】
さらに、本発明におけるアクリル樹脂(c)は、前記式(3)で表されるモノマー単位(c)を有する樹脂であることが好ましい。
【0084】
式(3)におけるR基が、水酸基、カルボキシル基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、スルホン酸基、リン酸基、のいずれも有しないモノマー単位を有するアクリル樹脂を用いると、アクリル樹脂の水系溶媒中への相溶性が不十分となり、塗料組成物中において、アクリル樹脂が析出したり、それに伴い無機粒子(b)が凝集または沈降したり、乾燥工程において無機粒子(b)が凝集したりすることがある。
【0085】
かかる凝集体は、可視光の波長より大きいため、透明性の良好な積層ポリエステルフィルムを得ることができなくなる場合がある。本発明におけるアクリル樹脂(c)が、式(3)で表されるモノマー単位(c)を有するためには、式(6)で表される(メタ)アクリレートモノマ(c’)を原料として用い、重合することが必要である。
【0086】
式(6)で表される(メタ)アクリレートモノマー(c’)として次の化合物が例示される。
【0087】
【化6】
【0088】
水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2、3-ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステル化物、あるいは、該モノエステル化物にε-カプロラプトンを開環重合した化合物などが挙げられ、特に2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0089】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸などのα、β-不飽和カルボン酸、あるいは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと酸無水物とのハーフエステル化物などが挙げられ、特にアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0090】
3級アミノ基含有モノマーとしては、N、N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、などのN、N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N、N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN、N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられ、特にN、N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0091】
4級アンモニウム塩基含有モノマーとしては、上記3級アミノ基含有モノマーにエピハロヒドリン、ハロゲン化ベンジル、ハロゲン化アルキルなどの4級化剤を作用させたものが好ましく、具体的には、2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムブロマイド、2-(メタクリロイオキシ)エチルトリメチルアンモニウムジメチルホスフェートなどの(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩、メタクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムブロマイドなどの(メタ)アクリロイルアミノアルキルトリアルキルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム(メタ)アクリレートなどのテトラアルキル(メタ)アクリレート、トリメチルベンジルアンモニウム(メタ)アクリレートなどのトリアルキルベンジルアンモニウム(メタ)アクリレートなどが挙げられ、特に2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライドが好ましい。
【0092】
スルホン酸基含有モノマーとしては、ブチルアクリルアミドスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などの(メタ)アクリルアミド-アルカンスルホン酸、あるいは、2-スルホエチル(メタ)アクリレートなどのスルホアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、特に2-スルホエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0093】
リン酸基含有アクリルモノマーとしては、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、特にアシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0094】
この中でも、特にアクリル樹脂(c)が、前記式(3)で表されるモノマー単位(c)を有する樹脂であり、式(3)におけるR基が、水酸基、カルボキシル基であることが、後述する無機粒子(b)と吸着力が高く、より強固な膜を形成できる点で好ましい。
【0095】
本発明で用いられるアクリルウレタン共重合樹脂とは、アクリル樹脂とウレタン樹脂が共重合された樹脂であれば特に限定されないが、特にアクリル樹脂をスキン層とし、ウレタン樹脂をコア層とするアクリルウレタン共重合樹脂が、本積層ポリエステルフィルム上に積層される積層体との接着性に優れるために好ましい。
【0096】
また、積層ポリエステルフィルムは、基材となるポリエステルフィルム(基材フィルム)の少なくとも片面に樹脂層(X)を有することが必要であるが、さらにもう一方の面にも樹脂層(X)を有していてもよく、また樹脂層(X)とは異なる樹脂層(Y)を設けてもよい。樹脂層(Y)を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミド樹脂及びこれらの樹脂の共重合樹脂が挙げられる。またこれらの樹脂を単独又は複数から選ばれるものも用いることができる。樹脂層(X)とは反対側にも樹脂層を設けることで、例えば、本発明の積層ポリエステルフィルムの樹脂層(X)と反対面の樹脂層に易滑性粒子を含有させることで、フィルムのハンドリング性をさらに向上させることができるため、好ましい。
【0097】
(5)架橋剤(d)
本発明の積層ポリエステルフィルムは、樹脂層(X)中に、CNT(a)、無機粒子(b)、樹脂(c)の他に架橋剤(d)を含んでいても良い。架橋剤(d)を含有する塗料組成物により形成されると、積層ポリエステルフィルムの樹脂層(X)が緻密架橋構造となるため、帯電防止性能の安定性に優れ好ましい。架橋剤(d)としては、メラミン化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。
【0098】
メラミン系化合物としては、例えば、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、及びこれらの混合物などを用いることができる。具体的には、トリアジンとメチロール基を有する化合物が特に好ましい。本発明におけるメラミン化合物とは、次に述べるメラミン化合物が、ウレタン樹脂や、アクリル樹脂、オキサゾリン化合物、またはカルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物などと架橋構造を形成する場合は、メラミン化合物に由来する成分を意味する。またメラミン系化合物としては単量体、2量体以上の多量体からなる縮合物にいずれでもよく、これらの混合物でもよい。エーテル化に用いられる低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノールなどを用いることができる。基としては、イミノ基、メチロール基、あるいはメトキシメチル基やブトキシメチル基等のアルコキシメチル基を1分子中に有するもので、イミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂などである。その中でもメチロール化メラミン樹脂が最も好ましい。更に、メラミン系化合物の熱硬化を促進するため、例えばp-トルエンスルホン酸などの酸性触媒を用いてもよい。
【0099】
このようなメラミン系化合物用いると、メラミン系化合物の自己縮合だけでなく、アクリル樹脂に含まれる水酸基やカルボン基とメラミン系化合物の反応が進行し、より強固な層を得ることができ、帯電防止性の安定性に優れたフィルムとすることができる。
【0100】
オキサゾリン化合物とは、次に述べるオキサゾリン化合物、もしくはオキサゾリン化合物がウレタン樹脂や、アクリル樹脂、メラミン化合物、イソシアネート化合物、またはカルボジイミド化合物などと架橋構造を形成する場合は、オキサゾリン化合物に由来する成分を意味する。オキサゾリン化合物としては、該化合物中に官能基としてオキサゾリン基を有するものであれば特に限定されるものではないが、オキサゾリン基を含有するモノマーを少なくとも1種以上含み、かつ、少なくとも1種の他のモノマーを共重合させて得られるオキサゾリン基含有共重合体からなるものが好ましい。
【0101】
オキサゾリン基を含有するモノマーとしては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンなどを用いることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することもできる。中でも、2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0102】
オキサゾリン化合物において、オキサゾリン基を含有するモノマーに対して用いられる少なくとも1種の他のモノマーとしては、該オキサゾリン基を含有するモノマーと共重合可能なモノマーであれば、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドなどの不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの含ハロゲン-α,β-不飽和モノマー類、スチレン、α-メチルスチレンなどのα,β-不飽和芳香族モノマー類などを用いることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することもできる。
【0103】
本発明におけるカルボジイミド化合物とは、次に述べるカルボジイミド化合物、もしくはカルボジイミド化合物がウレタン樹脂や、アクリル樹脂、メラミン化合物、イソシアネート化合物、またはオキサゾリン化合物などと架橋構造を形成する場合は、カルボジイミド化合物に由来する成分を意味する。カルボジイミド化合物とは、該化合物中に官能基としてカルボジイミド基、またはその互変異性の関係にあるシアナミド基を分子内に1個または2個以上有する化合物であれば特に限定されるものではない。
【0104】
カルボジイミド化合物の製造には公知の技術を適用することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物を触媒存在下で重縮合することによりカルボジイミド化合物が得られる。該カルボジイミド化合物の出発原料であるジイソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族、脂環式ジイソシアネートなどを用いることができ、具体的にはトリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネートなどを用いることができる。
【0105】
(6)CNT分散剤(e)
本発明では、樹脂層(X)を形成する塗料組成物(x)に、CNT(a)、無機粒子(b)の他、CNT分散剤(e)を含むことが好ましい。
【0106】
CNT分散剤(e)としては、水溶性セルロースおよび/または水溶性セルロール誘導体、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリビニルピロリドン系重合体などが挙げられる。中でも、水溶性セルロースおよび/または水溶性セルロース誘導体であることが好ましい。
【0107】
本発明に用いられるポリスチレンスルホン酸塩の代表的な例としては、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カルシウムを挙げることができる。
【0108】
また、本発明に用いられるポリビニルピロリドン系重合体の代表的な例としては、ポリビニルピロリドンを挙げることができる。
【0109】
更に本発明に用いられる水溶性セルロース誘導体の代表的な例としては、カルボキシセルロールの金属塩が挙げられる。ここでカルボキシセルロースとはセルロースの骨格を構成するグルコピラノースモノマーのヒドロキシ基がカルボキシ基に置換されたセルロースである(グルコピラノースモノマーが複数のヒドロキシ基を有する場合は、少なくとも1つのヒドロキシ基がカルボキシ基に置換されていれば良い)。ここで、カルボキシ基とは狭義のカルボキシ基だけでなく、カルボキシアルキル基をも含む概念である。カルボキシセルロースの金属塩とすることで、水溶性を飛躍的に高め、CNT分散能を高めることができる。また、カルボキシセルロースの金属塩の中でも、水溶性が良好である点からカルボキシアルキルセルロースの金属塩が好ましく、より好ましくは安価で幅広く工業的に使用されているカルボキシメチルセルロースの金属塩が好ましく、中でも好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウムが挙げられる。特に好ましくは、カルボキシメチルセルロースナトリウムである。
【0110】
塗料組成物(x)中に上記のようなCNT分散剤(e)を含むことで、CNTを水に容易に可溶にし、さらに溶媒中でCNT近傍にCNT分散剤(e)が均一に拡散するため、CNT同士の親和性による凝集を抑制することができる。すなわち、安定かつ微分散された、CNTを含む塗料組成物を作製することができる。
【0111】
また、本発明では、CNT分散剤(e)が、塗料組成物(x)中の固形分重量に対して0.1重量%以上、15重量%以下であることが好ましい。更に好ましくは、0.1重量%以上、7.5重量%である。CNT分散剤(e)の含有量を0.1重量%以上にすることにより、塗料組成物(x)ならびに樹脂層(X)中のCNT(a)を均一に分散させることができ、透明性、帯電防止性の点から好ましい。
【0112】
また、本発明では、塗料組成物(x)中のCNT(a)とCNT分散剤(e)の含有量の比率、(e)/(a)が0.5以上、15以下であることが好ましい。更に好ましくは0.5以上5以下である。(e)/(a)を0.5以上とすることにより、樹脂(c)や架橋剤(d)と混合した際もCNTが凝集を起こすことなく安定に塗料組成物(x)を作製できる。また、(e)/(a)が15.0を超える場合は、CNT(a)に対して、CNT分散剤(e)の量が過剰となり、樹脂層(X)の帯電防止性が劣ることがある。
【0113】
(7)塗料組成物(x)
本発明の積層ポリエステルフィルムは、例えば、CNT(a)と無機粒子(b)、必要に応じて前述の樹脂(c)、架橋剤(d)、CNT分散剤(e)を含む塗料組成物(x)を用いて、ポリエステルフィルムに樹脂層(X)を積層することにより作成することができる。
【0114】
CNT(a)と無機粒子(b)を含む塗料組成物(x)は、塗剤の保存安定性やハンドリング性向上の点から、微量の水溶性有機溶媒を含有してもよい。水溶性有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコールおよびイソプロピルアルコール等の水溶性アルコール類、アセトン等の水溶性ケトン類、およびメチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトールおよびブチルカルビトール等の水溶性エーテル類が挙げられる。これらは、単独または複数混合して使用可能である。水溶性有機溶媒の含有量は、防爆性および環境汚染の点から、塗料組成物(x)全量に対して好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは7重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下である。
【0115】
CNT(a)と無機粒子(b)を含む塗料組成物(x)から形成される樹脂層(X)を有する積層ポリエステルフィルムを得る方法としては、ポリエステルフィルムに樹脂層(X)を積層する方法などが挙げられる。中でも、ポリエステルフィルムに樹脂層(X)を構成する塗料組成物(x)をコーティング(塗布)し、積層する方法が好ましい。塗剤をコーティング方法としては、ポリエステルフィルムの製造工程とは別工程でコーティングを行う方法、いわゆるオフラインコーティング方法と、ポリエステルフィルムの製造工程中にコーティングを行い、ポリエステルフィルムに樹脂層(X)が積層された積層ポリエステルフィルムを一気に得る、いわゆるインラインコーティング方法がある。しかしながら、コストの面や塗布厚みの均一化の面からインラインコーティング方法を採用することが好ましく、その場合に用いられる塗液の溶剤は、環境汚染や防爆性の点から水系であることが好ましく、水を用いることが最も好ましい態様である。
【0116】
例えば、溶融押し出しされた結晶配向前のポリエステルフィルムを長手方向に2.5~5倍程度延伸し、一軸延伸されたフィルムに連続的に樹脂層(X)を構成する塗料組成物(x)を塗布する。塗布されたフィルムは段階的に加熱されたゾーンを通過しつつ乾燥され、幅方向に2.5~5倍程度延伸される。更に、連続的に150~250℃の加熱ゾーンに導かれ結晶配向を完了させる方法(インラインコート法)によって得ることができる。
【0117】
本発明では、加熱ゾーンで高温の熱処理を施すことで、樹脂(c)と架橋剤(d)の架橋反応が進行し、樹脂層(X)の帯電防止性能の安定性が向上する。従って、性能の面でもインラインコーティング方法を採用することが好ましい。
【0118】
溶剤として水を用いた塗料組成物(水系塗剤)の塗布方法としては、例えば、リバースコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、ロッドコート法およびダイコート法などを用いることができる。
【0119】
塗料組成物(x)を塗布する前に、基材であるポリエステルフィルムの表面にコロナ放電処理などを施すことが好ましい。これは、ポリエステルフィルムと樹脂層(X)との接着性が向上し、塗布性も良好となるためである。
【0120】
樹脂層(X)中には、発明の効果を損なわない範囲であれば、架橋剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤および界面活性剤などを配合しても良い。
【0121】
(8)積層ポリエステルフィルム
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ヘイズが3.0%以下であると、積層ポリエステルフィルムを通して各種検査を実施する際の視認性が向上するため好ましい。より好ましくは2.5%以下である。
【0122】
<積層ポリエステルフィルムの製造方法>
次に積層ポリエステルフィルムの製造方法を説明する。まず、ポリエステルフィルムにポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す。)フィルムを用いた場合を例にして説明するが、当然これに限定されるものではない。まず、PETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化せしめて未延伸(未配向)PETフィルム(Aフィルム)を作製する。このフィルムを80~120℃に加熱したロールで長手方向に2.5~5.0倍延伸して一軸配向PETフィルム(Bフィルム)を得る。このBフィルムの片面に所定の濃度に調製した本発明の塗料組成物を塗布する。この時、塗布前にPETフィルムの塗布面にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ放電処理等の表面処理を行うことで、塗料組成物のPETフィルムへの濡れ性を向上させ、塗料組成物のはじきを防止し、均一な塗布厚みを達成することができる。
【0123】
塗布後、PETフィルムの端部をクリップで把持して80~130℃の熱処理ゾーン(予熱ゾーン)へ導き、塗料組成物の溶媒を乾燥させる。乾燥後幅方向に1.1~5.0倍延伸する。引き続き160~240℃の熱処理ゾーン(熱固定ゾーン)へ導き1~30秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させる。
【0124】
この熱処理工程(熱固定工程)で、必要に応じて幅方向、あるいは長手方向に3~15%の弛緩処理を施してもよい。また、発明の効果を損なわない範囲で、積層ポリエステルフィルムに走行性(易滑性)や耐候性、耐熱性などの機能を持たせるため、ポリエステルフィルム原料に粒子を添加してもよい。ポリエステルフィルム原料に添加する粒子の材質としては、添加剤、例えば、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、易滑剤などが使用できる。また、この場合に用いられる塗剤は、環境汚染や防爆性の点で水系塗剤が好ましく用いられる。
【0125】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
(1)透明性の測定方法
透明性は、ヘイズ(%)により評価した。ヘイズの測定は、常態(温度23℃、相対湿度65%)において、積層ポリエステルフィルムを1時間放置した後、日本電色工業(株)製濁度計「NDH5000」を用いて行った。3回測定した平均値を、その積層ポリエステルフィルムのヘイズとした。
【0126】
(2)塗布外観
塗布外観については、積層ポリエステルフィルムを3波長蛍光灯(パナソニック(株)製、3波長形昼白色(F・L 15EX-N 15W))の直下30cmに置き、視角を変えながら目視により観察し、以下の評価を行った。A以上のものを良好とし、Bは実用上問題ないレベルとした。
【0127】
S:凝集物や塗布ムラが見られない
A:凝集物や塗布ムラが僅かに見える。
【0128】
B:凝集物や塗布ムラが見える。
【0129】
C:凝集物や塗布ムラが目立つ。
【0130】
(3)帯電防止性(表面比抵抗)の測定方法および評価方法
帯電防止性は、表面比抵抗により評価した。なお、測定面は積層ポリエステルフィルムの樹脂層(X)積層面とする。単位は、Ω/□である。
【0131】
(3-1)コロナ放電処理試験前の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値P1の評価方法
積層ポリエステルフィルムを常態(温度23℃、相対湿度65%)において24時間放置後、その雰囲気下でデジタル超高抵抗/微小電流計(アドバンテスト社製、R8340A)を用いて、印加電圧100Vで10秒間印加後の表面比抵抗値を求めた。該測定値を湿熱処理試験前の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値P1(Ω/□)とした。表面比抵抗が9×1011Ω/□以下のものであれば実用上問題のないレベルの帯電防止性を有していることを示し、5×1010Ω/□以下のものは優れた帯電防止性を有していることを示す。
【0132】
(3-2)コロナ放電処理試験後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値P2の評価方法
積層ポリエステルフィルムを10cm×20cmに切り出した。続いて春日電機(株)製コロナ表面改質評価装置TEC-4AXを用いて、積層ポリエステルフィルムを樹脂層(X)が上向きになるようにアース板に設置し、コロナ放電処理出力100W、セラミック電極との放電ギャップ1mm、電極移動速度6m/分、処理回数5回の条件にてコロナ放電処理を行った。コロナ放電処理を実施した積層ポリエステルフィルムサンプルについて、(3-1)と同様の方法で表面比抵抗値を求めた。該測定値を湿熱処理試験後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値P2(Ω/□)とした。表面比抵抗が9×1011Ω/□以下のものであれば実用上問題のないレベルの帯電防止性を有していることを示し、5×1010Ω/□以下のものは優れた帯電防止性を有していることを示す。
【0133】
(4)樹脂層(X)に含有する無機粒子種の分析方法
(4-1)樹脂層(X)の無機粒子含有の有無
SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて樹脂層(X)の表面を10万倍の倍率で観察し、EDX(エネルギー分散型X線分光法)による元素分析を実施し、無機粒子の含有有無を判断した。
【0134】
具体的には、日立ハイテクノロジーズ製電界放射型走査電子顕微鏡(型番S-4800)で観察される、表面形状について、BrukerAXS製QUANTAX Flat QUAD System (型番 Xflash 5060FQ)で元素検出を測定し、Si、Al、Ti、Zr、Se、Feからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物粒子の有無を確認した。
【0135】
(4-2)樹脂層(X)中の無機粒子の含有量
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて断面を観察することにより、樹脂成型体断面に含まれる無機粒子の含有量を、以下の方法に従い測定した。まず樹脂層(X)の断面の超薄切片をTEMにより10万倍の倍率で撮影した。続いて画像処理ソフトEasyAccess Ver6.7.1.23 にて画像をグレースケールに変換し、ホワイトバランスを最明部と最暗部が8bitのトーンカーブに収まるように調整、さらに個別のフィラー成分の境界が明確に見分けられるようにコントラストを調節した。次いでソフトウェア(画像処理ソフトImageJ/開発元:アメリカ国立衛生研究所(NIH))を用いて、前述の境界を境に画素の2値化を行い、Analize Particles(粒子解析)機能により個々の無機粒子のなす領域を抽出し、そこから該当領域の占有面積率の合計を算出し、体積充填率とした。
【実施例
【0136】
次に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例1~3、7、8、14、15、18~20、24、25、30および34は参考例1~3、7、8、14、15、18~20、24、25、30および34に読み替えるものとする。また、CNT(a)とCNT分散剤(e)を含むCNT水分散体(ae)の合成法と、アクリル樹脂(c)の水分散体、ポリエステル樹脂(c-2)の水溶液の合成法を参考例に示す。
【0137】
(参考例1)CNT(a)とCNT分散剤(e)を含むCNT水分散体(ae-1)の調製
CNTとして、直線2層CNT(サイエンスラボラトリー社製、直径5nm、アスペクト比3000):a-1を1.0mgと、CNT分散剤(e)のカルボキシメチルセルロースナトリウム(シグマアルドリッチジャパン(株))(以下、CMC-Naと略す。)を3.0mgと水666mgをサンプル管に入れ、CNT水分散体を調製し、超音波破砕機(東京理化器機(株)製VCX-502、出力250W、直接照射)を用いて30分間超音波照射し、均一なCNT(a-1)とCNT分散剤(e)からなるCNT水分散体(ae-1)(CNT(a-1)濃度0.15重量%、CNT分散剤(e)0.45重量%、CNT分散剤(e)/CNT(a-1)=3.0)を得た。
【0138】
(参考例2)CNT(a)とCNT分散剤からなるCNT水分散体(ae-2)の調製
CNTとして、単層CNT(サイエンスラボラトリー社製、直径1.1nmnm、アスペクト比5000):a-2を1.0mgと、CNT分散体(e)のカルボキシメチルセルロースナトリウム(シグマアルドリッチジャパン(株))(以下、CMC-Naと略す。)を3.0mgと水666mgをサンプル管に入れ、CNT水分散体を調製し、超音波破砕機(東京理化器機(株)製VCX-502、出力250W、直接照射)を用いて30分間超音波照射し、均一なCNT(a-2)とCNT分散剤(e)からなるCNT水分散体(ae-2)(CNT(a-2)濃度0.15重量%、CNT分散剤(e)0.45重量%、CNT分散剤(e)/CNT(a)=3.0)を得た。
【0139】
(参考例3)
無機粒子(b)の表面にアクリル樹脂(c)を有する組成物(bc)を含有するエマルジョン(EM-1)
攪拌機、温度計、還流冷却管の備わった通常のアクリル樹脂反応槽に、溶剤としてイソプロピルアルコール100重量部を仕込み、加熱攪拌して100℃に保持した。
この中に、(メタ)アクリレート(c’-1)として、n=19のエイコシルメタクリレート40重量部、(メタ)アクリレート(c’-2)として、2個の環を有するイソボニルメタクリレート40重量部、その他水酸基を有する(メタ)アクリレート(c’-3)として、2-ヒドロキシエチルアクリレート20重量部からなる混合物を3時間かけて滴下した。そして、滴下終了後、100℃で1時間加熱し、次にt-ブチルパーオキシ2エチルヘキサエート1重量部からなる追加触媒混合液を仕込んだ。次いで、100℃で3時間加熱した後冷却し、アクリル樹脂(c-1)を得た。
【0140】
無機粒子(b)としてAl元素を含む無機粒子(“NanoTek”Alスラリー(シーアイ化成株式会社製 数平均粒子径60nm:b-1)を用い、水系溶媒中に、“NanoTek”Alスラリーと上記アクリル樹脂(c-1)を順に添加し、以下の方法で分散せしめ、無機粒子(b-1)とアクリル樹脂(c-1)の混合組成物(bc)含有するエマルジョン(EM-1)を得た。(前記(ii)の方法。)
無機粒子(b-1)およびアクリル樹脂(c-1)の添加量比(重量比)は、(b-1)/(c-1)=50/50とした(なお重量比は、小数点第1位を四捨五入して求めた)。分散処理は、ホモミキサーを用いて行い、周速10m/sで5時間回転させることによって行った。また、最終的に得られた組成物(bc)における、粒子(b-1)とアクリル樹脂(c-1)の重量比は、(b-1)/(c-1)=40/60であった(なお、重量比は小数点第1位を四捨五入して求めた)。
【0141】
なお、得られた組成物(bc)を、日立卓上超遠心機(日立工機株式会社製:CS150NX)により遠心分離を行い(回転数3000rpm、分離時間30分)、無機粒子(b)(及び無機粒子(b)の表面に吸着したアクリル樹脂(c))を沈降させた後、上澄み液を除去し、沈降物を濃縮乾固させた。濃縮乾固した沈降物をX線光電子分光法(XPS)により分析した結果、無機粒子(b)の表面にアクリル樹脂(c)が存在することが確認された。つまり、無機粒子(b)の表面には、アクリル樹脂(c)が吸着・付着しており、得られた組成物(bc)が無機粒子(b)の表面にアクリル樹脂(c)を有する粒子に該当することが判明した。
【0142】
(参考例4)
無機粒子(b)の表面にアクリル樹脂(c)を有する組成物(bc)を含有するエマルジョン(EM-2)
無機粒子(a)として、Si元素を含む“スノーテックス(登録商標)”コロイダルシリカスラリー(日産化学工業株式会社製 数平均粒子径80nm):b-2を使用した以外は、参考例3と同様の方法で、EM-2を得た。
【0143】
(参考例5)
無機粒子(b)の表面にアクリル樹脂(c)を有する組成物(bc)を含有するエマルジョン(EM-3)
無機粒子(b)として、Zr元素を含む“ナノユース(登録商標)”ZR(日産化学工業株式会社製 数平均粒子径90nm):b-3を使用した以外は、参考例3と同様の方法で、EM-3を得た。
【0144】
(参考例6)
無機粒子(b)の表面にアクリル樹脂(c)を有する組成物(bc)を含有するエマルジョン(EM-4)
無機粒子(b)として、Ti元素を含む“NanoTek”TiOスラリー(シーアイ化成株式会社製 数平均粒子径36nm):b-4を使用した以外は、参考例3と同様の方法で、EM-4を得た。
【0145】
(参考例7)
ポリエステル樹脂(c-2)
テレフタル酸50質量部、イソフタル酸50質量部、エチレングリコール50質量部、ネオペンチルグリコール30質量部を重合触媒である三酸化アンチモン0.3質量部と酢酸亜鉛0.3質量部とともに窒素パージした反応器に仕込み、水を除去しながら常圧下で190~220℃で12時間重合反応を行い、ポリエステルグリコールを得た。次に、得られたポリエステルグリコールに5-ナトリウムスルホイソフタル酸を5質量部、溶媒としてキシレンを反応器に仕込み、0.2mmHgの減圧下、260℃にてキシレンを留去しつつ、3時間重合させ、親水性官能基を有するポリエスエル樹脂(c-2)を得た。このポリエステル樹脂(c-2)を、アンモニア水およびブチルセルロースを含む水系溶媒に溶解させ、水溶液とした。
【0146】
(実施例1)
・塗料組成物:
CNT水分散体(ae-1)、エマルジョン(EM-1)、アクリル樹脂(c-1)、メラミン化合物(d)を固形分質量比で(ae-1)/(EM-1)/(c)/(d)=2/2.5/95/2となるように混合した(CNT(a-1)/無機粒子(b-1)/アクリル樹脂(c-1)/メラミン化合物(d)=0.5/1/96.5/2)。
さらに、ポリエステルフィルムへの塗布性を向上するために、フッ素系界面活性剤(互応化学工業(株)製“プラスコート”RY-2)を、上記の混合した塗料組成物全体100質量部に対して0.1質量部になるように添加した。
【0147】
メラミン化合物(d):(株)三和ケミカル製、“ニカラック”(登録商標)MW-035(固形分濃度70質量%、溶媒:水)
・ポリエステルフィルム:
1次粒径0.3μmのシリカ粒子を4質量%、含有したPETペレット(極限粘度0.64dl/g)を十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、約280℃で溶融しシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。この未延伸フィルムを90℃に加熱して長手方向に3.1倍延伸し、一軸延伸フィルム(Bフィルム)とした。
【0148】
・積層フィルム
一軸延伸フィルムに空気中でコロナ放電処理を施した後、表1に示す塗料組成物をワイヤーバーコートを用いて塗布厚み約6μmで塗布した。続いて、塗料組成物を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向の両端部をクリップで把持して予熱ゾーンに導いた。予熱ゾーンの雰囲気温度は90~100℃にし、塗料組成物の溶媒を乾燥させた。引き続き、連続的に100℃の延伸ゾーンで幅方向に3.6倍延伸し、続いて240℃の熱処理ゾーンで20秒間熱処理を施し、樹脂層を形成せしめ、さらに同温度にて幅方向に5%の弛緩処理を施し、ポリエステルフィルムの結晶配向の完了した積層フィルムを得た。得られた積層フィルムにおいてPETフィルムの厚みは50μm、樹脂層の厚みは70nmであった。
【0149】
得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1に優れ、透明性も良好であった。
【0150】
(実施例2~17)
CNT(a-1)、無機粒子(b-1)、樹脂(c)、架橋剤(d)の固形分質量比を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0151】
(実施例18)
エマルジョンとして(EM-2)(無機粒子(b)として無機粒子(b-2))を使用した以外は、実施例7と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0152】
(実施例19~23)
CNT(a-1)、無機粒子(b-2)、樹脂(c)、架橋剤(d)の固形分質量比を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例8~12と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0153】
(実施例24)
エマルジョンとして(EM-3)(無機粒子(b)として無機粒子(b-3))を使用した以外は、実施例7と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0154】
(実施例25~29)
CNT(a-1)、無機粒子(b-3)、樹脂(c)、架橋剤(d)の固形分質量比を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例8~12と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0155】
(実施例30)
エマルジョンとして(EM-4)(無機粒子(b)として無機粒子(b-4))を使用した以外は、実施例9と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0156】
(実施例31、32)
CNT(a-1)、無機粒子(b-4)、樹脂(c)、架橋剤(d)の固形分質量比を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例10、11と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0157】
(実施例33)
CNT水分散体(ae)としてCNT水分散体(ae-2)を使用した以外は、実施例10と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0158】
(実施例34)
CNT水分散体(ae-1)、無機粒子(b-1)、アクリル樹脂(c)、メラミン化合物(d)を固形分比で(ae-1)/(b-1)/(c)/(d)=4/1/96/2)となるように混合した以外は、実施例7と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0159】
(実施例35)
CNT水分散体(ae-1)、エマルジョン(EM-1)、ポリエステル樹脂(c-2)、メラミン化合物(d)を固形分質量比で(ae-1)/(EM-1)/(c-2)/(d)=4/25/50/24となるように混合した(CNT(a-1)/無機粒子(b-1)/アクリル樹脂(c-1)/ポリエステル樹脂(c-2)/メラミン化合物(d)=1/10/15/50/24)。さらに、ポリエステルフィルムへの塗布性を向上するために、フッ素系界面活性剤(互応化学工業(株)製“プラスコート”RY-2)を、上記の混合した塗料組成物全体100質量部に対して0.1質量部になるように添加した。その後は実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0160】
(実施例36)
架橋剤(d)をメラミン化合物(d)から、オキサゾリン化合物(d-2)に変更した以外は、実施例35と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0161】
オキサゾリン化合物(d-2):(株)日本触媒製“エポクロス”(登録商標)WS-700(固形分濃度25質量%、溶媒:水)
(実施例37)
架橋剤(d)をメラミン化合物(d)から、カルボジイミド化合物(d-3)に変更した以外は、実施例35と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0162】
カルボジイミド化合物(d-3):日清紡ケミカル(株)製“カルボジライト”(登録商標)V02-L2(固形分濃度40質量%、溶媒:水)
(実施例38)
架橋剤(d)を固形分質量比でメラミン化合物(d)/オキサゾリン化合物(d-2)=12/12となるように変更した以外は、実施例35と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0163】
(実施例39)
架橋剤(d)を固形分質量比でオキサゾリン化合物(d-2)/カルボジイミド化合物(d-3)=12/12となるように変更した以外は、実施例35と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。初期の表面比抵抗値、表面比抵抗の変化P2/P1、透明性ともに良好であった。
【0164】
(比較例1)
無機粒子(b)を使用しない以外は実施例7と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。無機粒子(b)を使用していないため、表面比抵抗の変化P2/P1が悪いものであった。
【0165】
(比較例2)
無機粒子(b)、樹脂(c)を固形分質量比で(b)/(c)=10/90となるように変更した以外は、実施例10と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性を表に示す。CNT(a)を使用していないため、初期の表面比抵抗値が悪いものであった。
【0166】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、帯電防止性に優れ、更には放電処理後にも優れた帯電防止性を維持できることから、放電処理を行う用途に好適に用いられることができる。