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特許7625838ポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20250128BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20250128BHJP
   C08G 63/189 20060101ALI20250128BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20250128BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/32
C08G63/189
B32B27/36
C08J5/18 CFD
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020203879
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091206
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小島 博二
(72)【発明者】
【氏名】灘波 朋也
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-205729(JP,A)
【文献】特開2016-024313(JP,A)
【文献】特開平08-048758(JP,A)
【文献】特開平08-048759(JP,A)
【文献】特開2020-117575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00 - 64/42
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸単位とアルキレングリコール単位を有するポリエステルであって、全ジカルボン酸成分に対してナフタレンジカルボン酸成分の含有量が95mol%以上、全ジオール成分に対してエチレングリコール成分の含有量が95mol%以上であり、ポリアルキレングリコール成分を含有し、窒素雰囲気下で300℃、150分加熱したときの熱減量が0.3重量%以下、示差走査熱量測定におけるガラス転移温度が100℃以上110℃以下、固体状態での結晶化温度が200℃以上220℃以下であるポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
アルカリ金属元素含有量がポリエステル樹脂組成物の質量に対して10ppm以上100ppm以下である請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記アルカリ金属を含有する化合物がリン酸アルカリ金属塩である請求項記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコールであり、数平均分子量が200以上600以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコールの含有量がポリエステル樹脂組成物の質量に対して4重合%以上8重量%以下である請求項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を80重量%以上含むポリエステルフィルム。
【請求項7】
請求項に記載のポリエステルフィルムからなる層を少なくとも1層含む積層ポリエステルフィルムであって、示差走査熱量測定における最も高いガラス転移温度が100℃以上である積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
層数が50以上である請求項記載の多層積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
請求項またはに記載の積層ポリエステルフィルムからなる熱線反射ポリエステルフィルム。
【請求項10】
積層数が100層以上の請求項8記載の多層積層ポリエステルフィルムであり、多層積層ポリエステルフィルム全体のナフタレンジカルボン酸成分と、テレフタル酸成分のモル比(ナフタレンジカルボン酸成分/テレフタル酸成分)が0.86以上である多層積層ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンナフタレートは機械特性、耐熱性に優れ、様々な用途に適用されている。
【0003】
しかし、ポリエチレンナフタレートは、溶融粘度が高く、溶融重合での高分子量化には限度があり、得られるポリマーは脆くなることから、様々な共重合組成物が検討されている。
【0004】
例えば特許文献1には、ポリエチレングリコール、またはポリテトラメチレングリコールを共重合することにより、結晶性を向上させる技術が開示されており、実施例には分子量1000~2000のポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエチレンナフタレートについて開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、親水性化合物を10~50重量%共重合したポリエチレンナフタレートについて開示されており、実施例には分子量1000~6000のポリエチレングリコールを共重合したポリエチレンナフタレートについて開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの技術では、ポリアルキレングリコール起因と思われる熱分解を抑制するには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-48758号公報
【文献】特開2013-87153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐熱性に優れた、二軸延伸フィルム、特に積層ポリエステルフィルムに好適なポリエステル樹脂組成物及びそれを用いてなるフィルム、積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明の目的は、芳香族ジカルボン酸単位とアルキレングリコール単位を有するポリエステルであって、全ジカルボン酸成分に対してナフタレンジカルボン酸成分の含有量が95mol%以上、全ジオール成分に対してエチレングリコール成分の含有量が95mol%以上であり、ポリアルキレングリコール成分を含有し、窒素雰囲気下で300℃、150分加熱したときの熱減量が0.3重量%以下、示差走査熱量測定におけるガラス転移温度が100℃以上110℃以下、固体状態での結晶化温度が200℃以上220℃以下であるポリエステル樹脂組成物により達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性に優れたポリエステル樹脂組成物を提供することができ、さらに、それを用いてなるフィルム、積層ポリエステルフィルムを提供することができる。これらのフィルムは液晶ディスプレイなどの光学用途に適用することができ、特に、屈折率分布を制御した多層積層ポリエステルフィルムとすることにより全光線反射ポリエステルフィルム、熱線反射ポリエステルフィルムなどの用途に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物は、芳香族ジカルボン酸単位とアルキレングリコール単位を有するポリエステルであって、全ジカルボン酸成分に対してナフタレンジカルボン酸成分の含有量が95mol%以上、全ジオール成分に対してエチレングリコール成分の含有量が95mol%以上であり、ポリアルキレングリコール成分を含有する必要がある。
【0012】
本発明のポリエステル樹脂において、ナフタレンジカルボン酸成分含有量は、高屈折率化の点から全ジカルボン酸成分に対して95mol%以上含有する必要があり、さらには98mol%以上であることが好ましい。また、5mol%以下の範囲で、他のジカルボン酸成分を用いることができ、例えばテレフタル酸成分、イソフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、デカリン酸成分、アジピン酸成分、セバシン酸成分などを挙げることができるが、中でもテレフタル酸成分、イソフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、デカリン酸成分などの芳香族化合物、および脂環族化合物であることが高屈折率化、耐熱性の点から好ましい。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂組成物のアルキレングリコール成分としては、高屈折率化、結晶性、溶融粘度、製膜性の点から全ジオール成分に対して、エチレングリコールを95mol%以上含有する必要がある。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールを含有している必要があり、耐熱性、製膜製の点からポリエステル樹脂組成物に対して4重量%以上8重量%以下であることが好ましい。ポリアルキレングリコールの含有量が8重量%を超える場合、ポリアエルキレングリコールの分解物起因の分解ガスが発生し、フィルムに気泡が発生することにより、光学欠点となることがある。
このようなポリアルキレングリコールとしては、耐熱性、製膜製の点からポリエチレングリコールやポリテトラメチレングリコールが上げられるが、ガラス転移温度の設計や耐熱性の点からポリエチレングリコールであることが好ましい。ポリエチレングリコールの熱分解では、ホルムアルデヒドが発生しやすいが、ポリテトラメチレングリコールでは、分解物であるテトラメチレングリコール単位の化合物が分子内縮合によりテトラヒドロフランを生成することから、ポリテトラメチレングリコールは多量の分解ガスを発生させる懸念がある。
ポリエチレングリコールの数平均分子量としては、反応性、耐熱性の点から、200以上600以下であることが好ましい。
【0014】
このようなポリアルキレングリコールの添加時期としては、ポリエステル樹脂の製造工程であるエステル交換反応前から重縮合反応開始前までの任意の段階で添加することができるが、反応性の点から、エステル交換反応前に添加することが好ましい。
【0015】
本発明のポリエステル樹脂組成物において、アルカリ金属元素含有量としては、耐熱性の点からポリエステル樹脂組成物の質量に対して10ppm以上100ppm以下であることが好ましく、さらには、異物低減の点から80ppm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の熱減量は、窒素雰囲気下で300℃、150分加熱した際の重量減少が0.3重量%以下である必要があり、より好ましくは0.25重量%以下である。具体的には、セイコーインスツルメンツ社製TG/DTA6200を用いて、窒素雰囲気下(50ml/min)、室温から300℃まで20℃/分の速度で昇温し、300℃到達時点の重量を基準として、300℃で150分経過後の重量との差を熱減量として算出した値である。300℃到達時点をゼロ点とするのは、通常は乾燥工程で除去されるポリエステル樹脂組成物中の低沸点オリゴマー成分、および水分の影響をキャンセルするためである。熱減量が0.3重量%を超える場合、ポリエチレングリコール起因であるホルムアルデヒドの生成が増加し、Tダイ周辺のホルムアルデヒド濃度が高くなったり、気泡発生によるフィルム欠点の原因になることがある。
【0017】
アルカリ金属元素としては、耐熱性、異物低減の点から、ナトリウム、またはカリウムであることが好ましく、化合物としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムなどの水和物または無水物であることが好ましい。アルカリ金属化合物の添加時期としては、ポリエステル樹脂の製造工程であるエステル交換反応開始から重縮合反応開始前までの任意の段階で添加することができるが、リン酸アルカリ金属化合物として添加する場合は、エステル交換反応終了後から重縮合反応開始前までの間に添加することが好ましい。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂組成物のガラス転移温度(中間点ガラス転移温度:各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と,ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度)としては、製膜性の点から100℃以上110℃以下であることが好ましい。具体的には、ポリエステル樹脂組成物10mgを300℃で溶融し、5分間保持した後、室温まで急冷し、その後、16℃/分の昇温速度で昇温したときのガラス転移温度である。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂組成物の固体状態での結晶化温度は、耐熱性の点から200℃以上220℃以下であることが好ましい。具体的には、ポリエステル樹脂組成物10mgを300℃で溶融し、5分間保持した後、室温まで急冷、その後16℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、5分間保持した後、サンプルを一旦取り出し、鉄板の上で室温まで急冷し、再び16℃/分の速度で昇温した際の結晶化ピークのピーク温度が結晶化温度である。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、従来公知の方法によって製造することができる。
以下に具体的な製造例を示すが、これに限定されない。
ナフタレンジカルボン酸ジメチル95.5重量部、エチレングリコール47.6重量部、ポリエチレングリコール(数平均分子量400)6.3重量部を反応容器に仕込み、180℃で溶解後、攪拌しながらエステル交換反応触媒を添加する。
【0021】
ポリアルキレングリコールの添加時期としては、エステル交換反応前から重縮合反応開始前までの任意の段階で添加することができるが、反応性の点から、エステル交換反応前に添加することが好ましい。
【0022】
エステル交換反応触媒としては、チタンアルコキシド、チタンキレート化合物、酢酸マンガン、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムなどの酢酸金属塩など、公知のエステル交換能を有する化合物を用いることができ、酢酸マンガン4水和物であれば、0.05~0.06重量部をエチレングリコール溶液として添加すれば十分に反応が進行する。
エステル交換反応触媒添加後は、3~4時間かけて、副生物であるメタノールを留去させながら240℃まで昇温する。エステル交換反応終了の目安は副生物であるメタノールの留出量が理論量(100%反応するとナフタレンジカルボン酸ジメチルの2倍モル量のメタノールが発生)に対して90%以上であることが好ましい。エステル交換反応終了後、耐熱安定剤である各種リン化合物や、酸化防止剤、消泡剤などを添加することができる。
【0023】
リン化合物としては、例えばリン酸系、亜リン酸系、ホスホン酸系、ホスフィン酸系化合物等を挙げることができ、リン酸、亜リン酸、トリメチフホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテートなど、公知のリン化合物を使用することができる。このとき、リン酸アルカリ金属塩を併用すると耐熱性向上の点で好ましい。このようなリン化合物の添加量としては、ポリエステル樹脂組成物100重量部に対して、リン酸0.022重量部、リン酸二水素ナトリウム2水和物0.026重量部とすると、マンガン元素とリン元素のモル比率が1.0付近となり、耐熱性が良好となる。
【0024】
リン化合物等の添加物の添加終了後、反応生成物を重縮合用装置に移行し、重縮合反応触媒を添加する。重縮合反応触媒としては、公知の化合物を使用することができ、例えば、チタンキレート化合物、チタンアルコキシド、二酸化ゲルマニウム、三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アルミニウム触媒などを挙げることができる。重縮合触媒の添加量としては、三酸化アンチモンの場合、0.015重量部程度で十分である。
【0025】
アルカリ金属化合物の添加時期としては、エステル交換反応開始から重縮合反応開始前までの任意の段階で添加することができるが、リン酸アルカリ金属化合物として添加する場合は、エステル交換反応終了後から重縮合反応開始前までの間に添加することが好ましい。
【0026】
重縮合反応触媒を添加後、装置内を133Pa以下まで減圧しながら、3~4時間かけて290℃まで昇温し、副生物を留去しながら重縮合反応をすすめ、反応物が所定の粘度になったところで反応を終了し、溶融ポリエステルを水槽へ吐出する。吐出されたポリエステルは水槽で急冷され、カッターでチップとする。
【0027】
このようにしてポリエステル樹脂組成物を得ることができるが、上記は一例であって、原料や触媒および重合条件はこれに限定されるわけではない。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムは、本発明のポリエステル樹脂組成物を80重量%以上含んでいることが、耐熱性、光学特性の点から好ましい。
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいては、積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂層の少なくとも一つが本発明のポリエステル樹脂組成物を80重量%以上含有することが好ましく、かつもう一方のポリエステル樹脂層が非晶性ポリエステル樹脂から構成されることが好ましい。本発明のポリエステル樹脂組成物を80重量%以上含有する層は、延伸・熱処理工程において、延伸前の非晶状態のときよりも高い面内屈折率とすることができる。一方、非晶性ポリエステル樹脂の場合においては、熱処理工程においてガラス転移温度をはるかに超える温度で熱処理を行うことにより、延伸工程で生じる若干の配向も完全に緩和でき、非晶状態の低い屈折率を維持することができる。このように、フィルムの製造における延伸、熱処理工程において本発明のポリエステル樹脂組成物を80重量%以上含有する層と非晶性ポリエステル樹脂からなる層との間に容易に屈折率差を設けることができる。
【0029】
次に、本発明の積層ポリエステルフィルムの好ましい製造方法を、本発明のポリエステル樹脂組成物、非晶性ポリエステル樹脂を用いた例にとって以下に説明するが、これに限定されるものではない。また、積層ポリエステルフィルムは、特開2007-307893号公報の〔0053〕~〔0063〕段に基づいて製造することができる。
【0030】
また、複数のポリエステル樹脂からなる積層ポリエステルフィルムを作製する場合には、本発明のポリエステル樹脂組成物、非晶性ポリエステル樹脂など複数の樹脂を2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出し、積層装置に送り込む。積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィードブロックやスタティックミキサー等を用いることができるが、特に、本発明の構成を効率よく得るためには、多数の微細スリットを有する部材を少なくとも別個に2個以上含むフィードブロックを用いることが好ましい。このようなフィードブロックを用いると、装置が極端に大型化することがないため、熱劣化による異物が少なく、積層数が極端に多い場合でも、高精度な積層が可能となる。また、幅方向の積層精度も従来技術に比較して格段に向上する。また、任意の層厚み構成を形成することも可能となる。本発明の積層ポリエステルフィルムは層数が50以上である多層積層ポリエステルフィルムであることが好ましい。好ましくは100層以上、更に好ましくは200層以上であり、3000層以下が好ましい。
【0031】
このようにして所望の層構成に形成した溶融多層積層体をダイへと導き、キャスティングドラム等の冷却体上に押し出し、冷却固化し、キャスティングフィルムが得られる。この際、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させることが好ましい。また、スリット状、スポット状、面状の装置からエアーを吹き出してキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させたり、ニップロールにて冷却体に密着させ急冷固化させたりする方法も好ましい。このようにして得られたキャスティングフィルムは、二軸延伸されることが好ましい。ここで、二軸延伸とは、長手方向および幅方向に延伸することをいう。延伸は、逐次に二方向に延伸しても良いし、同時に二方向に延伸してもよい。また、さらに長手方向および/または幅方向に再延伸を行ってもよい。
【0032】
逐次二軸延伸の場合についてまず説明する。ここで、長手方向への延伸とは、フィルムに長手方向の分子配向を与えるための延伸を言い、通常は、ロールの周速差により施され、この延伸は1段階で行ってもよく、また、複数本のロール対を使用して多段階に行っても良い。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2~15倍が好ましく、積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂のいずれかに本発明のポリエステル組成物を用いた場合には、2~7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては多層積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂のガラス転移温度~ガラス転移温度+100℃の範囲が好ましい。
【0033】
このようにして得られた一軸延伸されたフィルムに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。
【0034】
また、幅方向の延伸とは、フィルムに幅方向の配向を与えるための延伸をいい、通常は、テンターを用いて、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、幅方向に延伸する。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2~15倍が好ましく、積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂のいずれかに本発明のポリエステル樹脂組成物を用いた場合には、2~7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては多層積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂のガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃の範囲が好ましい。
【0035】
こうして二軸延伸されたフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、テンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行うのが好ましい。熱処理を行うことにより、フィルムの寸法安定性が向上する。このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱処理から徐冷の際に弛緩処理などを併用してもよい。
【0036】
このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。
【0037】
本発明の100層以上を積層した多層積層ポリエステルフィルムは、多層積層ポリエステルフィルム全体の組成として、ナフタレンジカルボン酸成分とテレフタル酸成分のモル比(ナフタレンジカルボン酸成分/テレフタル酸成分)が0.85%以上であることが必要であり、反射特の点から0.90以上であることが好ましい。ナフタレンジカルボン酸成分は高屈折率化に大きく寄与する成分であり、含有量が多いことはポリエステル層の一方(ポリエステル層A)がより屈折率が高いことを意味する。テレフタル酸成分が少ないことは、低屈折率に寄与し、もう一方のポリエステル層(ポリエステル層B)の屈折率が低下することを意味する。従って、ナフタレンジカルボン酸成分とテレフタル酸成分のモル比が大きくなることは、高屈折率層と低屈折率層の屈折率差が大きくなることを示しており、反射特性などの光学特性が向上する。
本発明の積層ポリエステルフィルムは、赤外線などを反射する熱線反射ポリエステルフィルムとして用いられることが好ましい。
本発明のポリエステル積層ポリエステルフィルムは、ガラス転移温度が100℃以上であるポリエステル樹脂組成物からなる層を含むことが耐熱性の点から好ましい。さらには、ガラス転移温度が110℃以下であることが製膜性の点から好ましい。
【実施例
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0039】
(1)ポリエステル樹脂組成物、フィルムの熱特性(ガラス転移温度、固体状態の結晶化温度)
測定するサンプルを約10mg秤量し、アルミニウム製パン、パンカバーを用いて封入し、示差走査熱量計(Q2000型、TAインスツルメント社製)によって測定した。測定においては窒素雰囲気中で300℃まで昇温、5分間保持した後、取り出して鉄板上で室温まで急冷、再び窒素雰囲気中で20℃から16℃/分の速度で300℃昇温、5分間保持する。16℃/分の速度で昇温したときの中間点ガラス転移温度(各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と,ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度)、16℃/分で昇温したときに観察される結晶化に由来するピーク温度(結晶化温度)を測定した。
(2)ポリマー中のアルカリ金属量の定量
原子吸光分析法(日立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度計180-80。フレーム:アセチレン-空気)にて定量を行った。
【0040】
(3)屈折率(光学特性)
ポリエステル樹脂組成物をベント付き二軸押出機にて280℃の溶融状態とした後、ギヤポンプおよびフィルターを介して、T-ダイに導いてシート状に成形した後、静電印加にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、厚み100μmの未延伸シートを得た。
得られた未延伸シートの屈折率について、JIS K7142(1996)A法に従って屈折率を測定した。
【0041】
(4)溶液ヘイズ(光学特性)
ポリエステル樹脂組成物2gを20mLのオルトクロロフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタンの3/2(容積比)混合溶液に溶解し、光路長20mmのセルを用い、ヘイズメーター(スガ試験機社製 HZ-1)を用いて、積分球式光電光度法にて測定した。
溶液ヘイズは、値が低いほど透明性に優れることを示す指標であり、1.0%以下(○、△)を合格とした。
【0042】
0.5%以下 ・・・・ ○
0.6%以上1.0%以下 ・・・・ △
1.1%以上 ・・・・ ×。
【0043】
(5)ΔIV(耐熱性)
ポリエステル樹脂組成物7gを試験管に秤量し、160℃、8時間真空乾燥する。乾燥後のポリエステル樹脂組成物を窒素雰囲気下、290℃、1時間の溶融処理を行い、乾燥前の固有粘度(IV)と溶融処理後の固有粘度の差をΔIVとして算出した。
固有粘度(IV)は、JIS K7367-5:2000(ISO 1628-5:1998)に則って検量線を作成し、ポリマー0.1gをo-クロロフェノール10mlに160℃、20分で溶解し、25℃で測定した。
ΔIVの差が小さいほど溶融時の耐熱性が良好であることを示す指標であり、ΔIVが0.5以下を合格とした。
0.30以下 ・・・・ ○
0.31以上0.50以下 ・・・・ △
0.51以上 ・・・・ ×。
【0044】
(6)フィルム中のナフタレンジカルボン酸成分、テレフタル酸成分の測定
NMRにより多層積層ポリエステルフィルム中のナフタレンジカルボン酸成分、およびテレフタル酸成分の含有量を求めた。多層積層ポリエステルフィルムをサンプリングした後、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)/重クロロホルム(体積比1/1)に溶解し、1H-NMRを用いて定量した。定量後、ナフタレンジカルボン酸成分とテレフタル酸成分のモル比(ナフタレンジカルボン酸成分/テレフタル酸成分)を算出した。
【0045】
(7)熱減量の測定
セイコーインスツルメンツ社製TG/DTA6200を用いて、窒素流通下(50ml/min)、室温から300℃まで20℃/分の速度で昇温し、300℃到達時点の重量を基準として、300℃で150分した後の重量との差を熱減量として算出した。
【0046】
300℃到達時点をゼロ点とするのは、通常は乾燥工程で除去されるポリエステル樹脂組成物中の低沸点オリゴマー成分、および水分の影響をキャンセルするためである。
真空乾燥機にて減圧下、180℃で3時間以上乾燥した樹脂を用いて、島津製作所(株)島津フローテスタCFT-500形Aにて測定した。樹脂量は約5g、溶融温度は270℃に設定する。荷重は10N、20N、50N(サンプルセットを始めて5分後に荷重スタート)として、それぞれの荷重における剪断速度と溶融粘度を求めた。ダイスはφ1mm、L=10mmであった。各荷重それぞれの測定回数は3回とし、それぞれの平均値を求めて得られた各荷重での溶融粘度、剪断速度の数値データをグラフ化し、そのグラフから剪断速度100(1/sec)の値を求めた。
【0047】
(8)反射率(光学特性)
5cm×5cmで切り出した積層ポリエステルフィルムを日立製作所製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)に付属の積分球を用いた基本構成で反射率・透過率測定を行った。反射率測定では、装置付属の酸化アルミニウムの副白板を基準として測定した。反射率測定では、サンプルの長手方向を上下方向にして、積分球の後ろに設置した。透過率測定では、サンプルの長手方向を上下方向にして、積分球の前に設置した。測定条件:スリットは2nm(可視)/自動制御(赤外)とし、ゲインは2と設定し、走査速度を600nm/分で測定し、方位角0度における反射率を得た。
【0048】
(9)製膜性
得られた積層ポリエステルフィルムにおいてフローマークの有無で製膜性を判断し、目視でフローマークのないものを合格とした。
【0049】
実施例1
ナフタレンジカルボン酸ジメチル95.5重量部、エチレングリコール47.6重量部、ポリエチレングリコール(数平均分子量400)9.2重量部を反応容器に仕込み180℃で溶解した後、攪拌しながら酢酸マンガン4水和物0.055重量部、三酸化アンチモン0.015重量部を添加し、エステル交換反応を開始した。3.5時間かけてメタノールを留出させながら235℃まで昇温し、エステル交換反応を終了した。リン酸0.022重量部、リン酸二水素ナトリウム2水和物0.026重量部、IRGANOX1010を0.1重量部添加し、余剰のエチレングリコールを留去させた。
【0050】
反応物を重縮合反応用容器に移行し、240℃から昇温しながら、133Pa以下まで減圧し、余剰のエチレングリコールを留去させながら290℃まで昇温した。所定の溶融粘度になったところで、水槽に吐出し、ストランドカッターにてチップ化した。
【0051】
得られたポリエステル組成物の熱減量は0.09重量%であり、ガラス転移温度(Tg)は101℃、固体状態からの結晶化温度(Tc)は216℃、溶液ヘイズ0.2%であった。
【0052】
得られたポリエステル組成物(以下ポリエステルAとする)、全ジオール成分に対してシクロヘキサンジメタノールを30mol%共重合したガラス転移温度が79℃の非晶性(融点無し)のPET樹脂(以下ポリエステルB)を、それぞれ、ベント付き二軸押出機にて280℃の溶融状態とした後、ギヤポンプおよびフィルターを介して、201層のフィードブロックにて合流させた。なお、積層ポリエステルフィルムの両表層部分はポリエステルAとなるようにし、かつポリエステルAを主成分とするA層と隣接する、ポリエステルBを主成分とするB層の層厚みは、ほぼ同じになるようにした。201層フィードブロックにて合流させ後、T-ダイに導いてシート状に成形した後、静電印加にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、キャストフィルムを得た。なお、ポリエステルAとポリエステルBの重量比が約1:1になるように吐出量を調整し、隣接する層の厚み比が約1となるにようにした。
【0053】
得られたキャストフィルムを、ポリエステルAのガラス転移温度+10℃の温度に設定したロール群で加熱した後、延伸区間長100mmの間で、フィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、縦方向に4.0倍延伸し、その後一旦冷却した。
つづいて、この一軸延伸フィルムをテンターに導き、100℃の熱風で予熱後、ポリエステルAのガラス転移温度+20℃の温度で横方向に均一な延伸速度で4.0倍延伸した。延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で235℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度にて幅方向に2%の弛緩処理を施し、その後、室温まで徐冷後、巻き取った。得られた積層ポリエステルフィルムの厚みは40μmであった。
【0054】
得られた積層ポリエステルフィルムは、フローマークもなく、透明性に優れ、可視光領域(400~800nm)の反射率が低く、かつ、赤外領域(900~1200nm)の反射率が高い熱線反射用フィルムとして適用可能なフィルムであった。結果を表1に示す。
【0055】
なお、フィルムのガラス転移温度、結晶融解熱量はサンプルとして表層(ポリエステルAの層)を削り取り、(1)ポリエステル組成物、フィルムの熱特性の測定方法に従って測定した。
【0056】
実施例2~7,比較例1,2(実施例2、3を参考例1,2と読み替える)
ポリエチレングリコールの添加量および分子量、アルカリ金属元素の含有量、アルカリ金
属化合物の種類を変更する以外は、実施例1と同様にしてポリエステル組成物、および積
層ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表1、表2に示す。
【0057】
実施例2はPEG400の添加量、およびアルカリ金属化合物の添加量を増やしたところ、ガラス温度が低下し、熱減量が増加、溶液ヘイズも高くなる傾向にあったが、本発明の請求項1の範囲内であり、熱線反射用フィルムとして問題ない性能であった。
【0058】
実施例3はPEG400の添加量を減らしたところ、熱減量が減少し、ガラス転移温度が高くなり、製膜時にフローマークが発生したが、本発明の請求項1の範囲内であり、熱線反射用フィルムとして問題ない性能であった。
【0059】
実施例4はPEG200に変更し、アルカリ金属化合物の添加量を減らしたところ、Tgが上昇傾向にあり、Tcが低下する傾向にあったが、本発明の請求項1の範囲内であり、熱線反射用フィルムとして問題ない性能であった。
【0060】
実施例5はPEG600に変更し、アルカリ金属化合物の添加量を増やしたところ、溶液ヘイズが高くなる傾向にあったが、本発明の請求項1の範囲内であり、熱線反射用フィルムとして問題ない性能であった。
【0061】
実施例6はアルカリ金属化合物の添加量を「0」に変更したところ、耐熱性(ΔIV)が低下する傾向にあったが、本発明の請求項1の範囲内であり、熱線反射用フィルムとして問題ない性能であった。
【0062】
実施例7はアルカリ金属化合物の添加量を増加させたところ、溶液ヘイズが高くなる傾向にあったが、本発明の請求項1の範囲内であり、熱線反射用フィルムとして問題ない性能であった。
【0063】
比較例1はPEG400の添加量を増やしたところ、熱減量が0.57重量%と熱分解ガス抑制効果が不十分であった。
【0064】
比較例2はPEG1000に変更したところ、熱減量が0.31重量%と熱分解ガス抑制効果が不十分であった。
【0065】
比較例3
ナフタレンジカルボン酸ジメチルを87.7重量部、テレフタル酸ジメチルを7.7重量部、ポリエチレングリコール(数平均分子量400)を6.4重量部とする以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物、および積層ポリエステルフィルムを得た。結果を表2に示す。得られたポリエステル樹脂組成物は、熱減量が0.33重量%と熱分解ガス抑制効果が不十分であった。
【0066】
実施例8
ナフタレンジカルボン酸ジメチルを92.9重量部、テレフタル酸ジメチルを3.9重量部、ポリエチレングリコール(数平均分子量400)を4.8重量部とする以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物、および積層ポリエステルフィルムを得た。結果を表1に示す。得られたポリエステル樹脂組成物は、屈折率が低下し、熱減量が増加する傾向にあったが、本発明の請求項1の範囲内であり、熱線反射用フィルムとして問題ない性能であった。
【0067】
実施例9
ナフタレンジカルボン酸ジメチルを95.3重量部、p-キシレングリコールを2.7重量部、ポリエチレングリコール(数平均分子量400)を4.7重量部とする以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物、および積層ポリエステルフィルムを得た。結果を葉1に示す。得られたポリエステル樹脂組成物は、熱減量が増加する傾向にあったが、本発明の請求項1の範囲内であり、熱線反射用フィルムとして問題ない性能であった。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】