(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 3/00 20060101AFI20250128BHJP
B41M 1/08 20060101ALI20250128BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20250128BHJP
C09D 11/101 20140101ALI20250128BHJP
C09D 11/107 20140101ALI20250128BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20250128BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20250128BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20250128BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
B41M3/00 Z
B41M1/08
B41M1/30 D
B41M1/30 Z
C09D11/101
C09D11/107
B32B27/00 E
B32B27/34
B32B27/36 102
B32B27/40
(21)【出願番号】P 2020545204
(86)(22)【出願日】2020-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2020031077
(87)【国際公開番号】W WO2021044838
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2019160394
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020031217
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】定国 広宣
(72)【発明者】
【氏名】井上 武治郎
(72)【発明者】
【氏名】小清水 昇
(72)【発明者】
【氏名】堤 優介
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/163941(WO,A1)
【文献】特開2001-151847(JP,A)
【文献】特開2019-059850(JP,A)
【文献】特開2019-081887(JP,A)
【文献】特開2019-104180(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0039362(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
B32B 1/00-43/00
B41M 1/00- 3/18
7/00- 9/04
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線硬化型インキをフィルムに印刷する工程、前記インキが印刷された面に電子線を照射する工程、を含む印刷物の製造方法であって、前記フィルムは、ポリアミドフィルム層と、少なくとも一方の面の最表層としてポリカーボネートポリオールがポリオール成分として用いられたポリウレタンを含む層とを含み、該ポリウレタンを含む層が設けられた側の表面から30kGyの電子線を照射したときの該フィルムの表層に存在す
るラジカルの量が、2×10
18個/g以上であるフィルムであり、前記のインキは前記ポリカーボネートポリオールがポリオール成分として用いられたポリウレタンを含む層に印刷される、印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記フィルムは、ポリカーボネートポリオールがポリオール成分として用いられたポリウレタンを含む層が設けられた側の表面の表面粗さRaが5~30nmである、請求項
1に記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記フィルムは、ポリカーボネートポリオールがポリオール成分として用いられたポリウレタンを含む層の側の表面からの測定において、FT-IR-ATR法にて求められる、炭素-窒素単結合の伸縮振動のピーク強度ν1と炭素-酸素二重結合の伸縮振動のピーク強度ν2との比、ν1/ν2、が1~2の範囲内であることを特徴とする請求項1
または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記フィルムの厚さが、10μm以上30μm以下である、請求項1~
3のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記インキとして、(a)酸価が30mgKOH/g以上250mgKOH/g以下のアクリル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型インキを用いる、請求項1~
4のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項6】
前記アクリル樹脂は、エチレン性不飽和基を有するアクリル樹脂であり、かつ、前記インキは、(b)顔料、および、(c)水酸基を有する(メタ)アクリレートを含有していることを特徴とする請求項
5に記載の印刷物の製造方法。
【請求項7】
前記インキが、さらに(d)炭素数8以上18以下の鎖状脂肪族骨格を有する2官能(メタ)アクリレートを含む請求項
5または6に記載の印刷物の製造方法。
【請求項8】
前記インキが、さらに(e)ウレタン(メタ)アクリレートを含む請求項
5~7のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項9】
インキをフィルムに印刷する工程が水なし平版印刷版を用いて行われることを特徴とする、請求項1~
8のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項10】
ポリアミドフィルム層と、少なくとも一方の面の最表層としてポリカーボネートポリオールがポリオール成分として用いられたポリウレタンを含む層とを含むフィルムのポリカーボネートポリオールがポリオール成分として用いられたポリウレタンを含む層側の面に電子線硬化型印刷用インキの硬化物が積層された、積層体であって、前記フィルムは、ポリウレタンを含む層が設けられた側の表面から30kGyの電子線を照射したときの該フィルムの表層に存在す
るラジカルの量が、2×10
18個/g以上である積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線などの活性エネルギー線を照射することで、インキを瞬時に硬化させることができる活性エネルギー線硬化型印刷用インキの利用が、設備面、安全面、環境面、生産性の高さから多くの分野で広がっている。また、印刷工程で用いるインキの洗浄剤としても、大量の石油系溶剤が使用されていることから、揮発性溶剤を含まない水を主成分とする洗浄剤が利用できる活性エネルギー線硬化型平版印刷用インキが開示されている。
【0003】
活性エネルギー線硬化型印刷用インキは、常温で、短時間で硬化できることから、耐熱性の乏しいプラスチック基材上に皮膜を形成するために最適な材料であると考えられている。しかしながら、活性エネルギー線硬化型印刷用インキを用いてフィルムへの印刷を行うと、インキとフィルムとの間の密着性が不足することがあった。
【0004】
このため、フィルムとの密着性が優れる活性エネルギー線硬化型印刷用インキの開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。また、フィルムの表面を改質することでインキとフィルムとの間の密着性を向上させようとする技術も開発されている(例えば、特許文献2~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-168730号公報
【文献】特開2011-94125号公報
【文献】国際公開第2018/163941号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらのような技術を用いたときでも、インキとフィルムとの間の密着性が不足することがあった。特に、食品包装フィルムに印刷する場合において、インキが印刷されたフィルムをボイル殺菌やレトルト殺菌のために煮沸処理した時に、インキとフィルムとの密着性が大きく低下することがあった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ボイル殺菌やレトルト殺菌のような煮沸処理をした後にもインキとフィルムとの密着性が良好である印刷物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電子線硬化型インキをフィルムに印刷する工程、前記インキが印刷された面に電子線を照射する工程、を含む印刷物の製造方法であって、前記フィルムは、ポリアミドフィルム層と、少なくとも一方の面の最表層としてポリカーボネートポリオールがジオール成分として用いられたポリウレタンを含む層とを含み、該ポリウレタンを含む層が設けられた側の表面から30kGyの電子線を照射したときの該フィルムの表層に存在するラジカルの量が、2×1018個/g以上であるフィルムであり、前記のインキは前記ポリカーボネートポリオールがポリオール成分として用いられたポリウレタンを含む層に印刷される、印刷物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の印刷物の製造方法によれば、ボイル殺菌やレトルト殺菌のような煮沸処理後においてもインキと該フィルムとの間の密着性を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る印刷物の製造方法の一例を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る印刷物の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に例示的に示された実施の形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0012】
本発明の実施の形態に係る印刷物の製造方法は、インキをフィルムに印刷した後、そのインキが付与された面に活性エネルギー線を照射する。そして、前記のフィルムは、ポリアミドフィルム層(以下、この層を「ポリアミド基材層」と称することがある)と、少なくとも一方の面の最表層としてポリカーボネートポリオールがポリオール成分として用いられたポリウレタンを含む層とを含むフィルムであることを特徴とする。
【0013】
このような印刷物の製造方法の具体的な実施の形態は、例えば次のとおりである。まず、インキをフィルム上に塗布する工程により、フィルム面上にインキ皮膜を得る。次に、そうして得られたフィルム上のインキ皮膜に活性エネルギー線を照射する工程により、インキを硬化させて印刷物を得る。
【0014】
インキをフィルム上へ塗布する方法としては、フレキソ印刷、平版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、バーコーター等の周知の方法が挙げられる。特に、インキを高速に被印刷物に付与し、かつ安価に大量の印刷が可能であることから、平版印刷が好ましく用いられる。
【0015】
平版印刷には、水なし平版印刷版を用いる方式と、水あり平版印刷版を用いる方式がある。本発明の印刷物の製造方法においては、水なし平版印刷版を用いることが好ましい。水なし平版印刷版を用いる方式では、印刷時に湿し水を用いないため、インキに活性エネルギー線を照射した際にラジカルを安定的に発生させられる。そのため、インキを十分に硬化させ、インキとフィルムとの密着性を十分に保つことができる。
【0016】
印刷物上のインキの厚みは0.1~50μmであることが好ましい。インキの厚みが上記範囲であることにより、インキとフィルムとの密着性を低下させることなく、良好な印刷品質を保ちつつ、インキコストを低減させることができる。
【0017】
次に、
図1を用いて、水なし平版印刷版を用いる場合の、本発明の実施の形態に係る印刷物の製造方法の一例を説明する。なお、以下ではブランケット4を使用した例を説明するが、本発明はこれに限定されず、ブランケット4を使用せず直接インキローラー1から版胴3に装着された平版印刷版2の表面に活性エネルギー線硬化型インキを付着させた後、インキを直接平版印刷用基材に転写しても構わない。また、以下ではフィルム5の上方から前記インキを供給する例を説明するが、フィルム5の下方からインキを供給しても構わない。なお、
図1では活性エネルギー線を照射する機構は図示していない。
【0018】
まず、平版印刷版2を版胴3に装着する。平版印刷版2はその表面にインキ反発層および感熱層(それぞれ図示していない。)を所望のパターンで有する。
【0019】
次に、インキローラー1にインキを供給する。インキローラー1に供給されたインキは、版胴3に装着された平版印刷版2の表面にある感熱層表面に付着する。インキはインキ反発層には付着しない。
【0020】
平版印刷版2の感熱層表面に付着したインキは、ブランケット4との接点において、ブランケット4の表面に転写する。ブランケット4に付着したインキは、支持ローラー6上に配置されたフィルム5との接点において、フィルム5に転写する。
【0021】
そして、フィルム5に活性エネルギー線を照射し、インキを硬化させることにより、印刷物が得られる。活性エネルギー線としては、上記インキの硬化反応に必要な励起エネルギーを有するものであれば、特に制限されることはなく、例えば、紫外線や電子線などが好ましく用いられる。特に、フィルムとインキとの密着性を高めるために、電子線が好ましく用いられる。
【0022】
紫外線により硬化させる場合は、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、発光ダイオード等の紫外線照射装置が好ましく用いられる。波長350~420nmの輝線を発する発光ダイオードを用いることは、発熱を抑制するとともに、省電力・低コスト化の点から好ましい。例えば波長385nmの輝線を発する発光ダイオードを用いる場合、照射強度5~20mW/cm2の照度を有する発光ダイオードによって、コンベアーによる搬送速度が50~150m/分で硬化させることが生産性の面から好ましい。
【0023】
電子線により硬化させる場合は、100~500keVのエネルギー線を有する電子線装置が好ましく用いられる。電子線による硬化の特長としては、インキが顔料等の色素を含んでいるものであっても、透過性が低下しにくいため、インキの内部まで硬化させやすいという点が挙げられる。この電子線量の測定は、フィルム線量計が使用され、ラジオクロミック線量計が好適に使用される。
【0024】
本発明において、インキを電子線で硬化させるために必要な電子線量は、インキの膜厚や顔料の密度などに依存するが、好ましくは5kGy~100kGyであり、より好ましくは10kGy~50kGy、さらに好ましくは15~30kGyである。
【0025】
上に例示した製造方法において、各ローラーの回転スピードは、特に限定されるものではなく、印刷物に要求される品質、タクトタイム、インキの性質に応じて、適宜設定することができる。
【0026】
印刷後のインキローラー1、平版印刷版2、およびブランケット4の上に残ったインキは、水、または水を主成分とする水溶液により容易に除去することができる。
【0027】
(フィルム)
本発明では、フィルムとして、ポリアミド基材層と、少なくとも一方の面の最表層としてポリカーボネートポリオールがポリオール成分として用いられたポリウレタンを含む層(以下、この層を「易接着層」と称する場合がある)とを含むフィルムを用いる。通常、ポリウレタンは、ポリイソシアネートとポリオールを原料として合成されるが、特にポリオールの種類を変更することによって、耐熱性や耐水性に関する特性が大きく変化する。本発明においては、ポリオールとしてポリカーボネートポリオールを用いることによって、ポリウレタンの耐熱性や耐水性を高めることができる。このようなポリウレタンを含有する層がフィルムの最表層であることによって、ボイル殺菌やレトルト殺菌のための煮沸処理後においてもインキとインキが付与されたフィルムとの間の密着性を良好に保つことができる。
【0028】
ポリオールには、水酸基が2個ついているジオールと水酸基が3個ついているトリオールとが良く知られており、本発明においてはいずれも好適に用いられる。したがって、ポリカーボネートジオールとポリカーボネートトリオールとのいずれもが好ましく用いられるが、生産量やコストの観点から、ポリカーボネートジオールがより好適に用いられる。
【0029】
ポリカーボネートジオールは原料モノマーとして、ジヒドロキシ化合物とカーボネート化合物とを用いて、エステル交換反応させることによって、合成することができる。
【0030】
ジヒドロキシ化合物の例としては、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオールおよび2-ペンチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオールなどの2,2-ジアルキル置換1,3-プロパンジオール類、2,2,4,4-テトラメチル-1,5-ペンタンジオールおよび2,2,9,9-テトラメチル-1,10-デカンジオールなどのテトラアルキル置換アルキレンジオール類、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等の環状基を含むジオール類、2,2-ジフェニル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジビニル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチニル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメトキシ-1,3-プロパンジオール、ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)エーテル、ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)チオエーテル並びに2,2,4,4-テトラメチル-3-シアノ-1,5-ペンタンジオールなどが挙げられる。
【0031】
また、カーボネート化合物としては、本発明の効果を損なわない限り限定されないが、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、またはアルキレンカーボネートが挙げられる。具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ヘキサメチレンカーボネート等が挙げられ、エチレンカーボネート、ヘキサメチレンカーボネート等のアルキレンカーボネートが、柔軟性が高く密着性を向上させる点から好ましい。
【0032】
ポリイソシアネートについては、一つの分子中に2個のイソシアネート基を有するジイソシアネートが一般的に用いられる。その具体例としては、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネートや、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネートや、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水素添加TDI)等の脂環式イソシアネートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
本発明においては、上記のように、ポリカーボネートポリオールがポリオール成分として用いられたポリウレタンを含む層を最表層に有するが、該層に用いられるポリウレタンは実質的に他のポリマー種が共重合されていないことが好ましい。ここでいう「実質的」の意味は、分子中に他のポリマー種の繰り返し単位、例えばアクリル酸アルキルエステル単位、メタクリル酸アルキルエステル単位など、の含有量が5モル%以下、好ましくは1モル以下であることをいう。
【0034】
本発明においては、上記のようなポリウレタンを含む層(易接着層)があらかじめ基材フィルムの表面に設けられたフィルムを使用してもよいし、基材となるフィルムの表面に上記のようなポリウレタンを含む層を後からコーティング法などで形成して使用してもよい。
【0035】
易接着層の形成方法は、特に制限されるものではないが、コーティング方法を用いることが好ましい。具体的には、基材の製造工程とは別工程で形成する方法、いわゆるオフラインコーティング方法と、製造工程中にコーティングを行う方法、いわゆるインラインコーティング方法がある。
【0036】
オフラインコーティング方法としては、ロールコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、ダイコーティング法およびグラビアコーティング法等があり、これらを組み合わせた方法も用いることができる。
【0037】
製造コストや膜厚均一性の観点からインラインコーティング方法が好ましく用いられる。インラインコーティング方法の場合は、基材となる樹脂を溶融押し出ししてから巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法を指し、通常は、溶融押出し後・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸(未配向)基材(A)、その後に長手方向に延伸された一軸延伸(一軸配向)基材(B)、またはさらに幅方向に延伸された熱処理前の二軸延伸(二軸配向)基材(C)の何れかの基材に塗布する。
【0038】
塗布方法としては公知の手法を用いることができるが、例えば、リバースコート法、スプレーコート法、バーコーティング法、グラビアコーティング法、ロッドコーティング法およびダイコーティング法などを用いることができる。結晶配向が完了する前の上記(A)、(B)の何れかの基材に、塗液を塗布し、その後、塗液が塗布された基材を一軸方向又は二軸方向に延伸し、溶媒の沸点より高い温度で熱処理を施し基材となる樹脂の結晶配向を完了させるとともに易接着層を設ける方法を採用することが好ましい。この方法によれば、基材の製膜と、塗液の塗布乾燥を同時に行うことができるために製造コスト上のメリットがある。また、塗布後に延伸を行うために易接着層の厚みをより薄くすることが容易である。中でも、長手方向に一軸延伸された基材(B)に、塗液を塗布し、その後、幅方向に延伸し、熱処理する方法が優れている。
【0039】
本発明において、インキが印刷されるフィルムの厚みは、5μm以上200μm以下であることが好ましく、10μm以上30μm以下であることが好ましい。
【0040】
本発明において、インキが印刷されるフィルムは、易接着層が設けられた側の表面から30kGy(キログレイ)の電子線を照射したときに、該フィルムの表層に存在するラジカルの量が、該フィルム1gあたり2×1018個以上、すなわち、2×1018個/g以上であるものが好ましい。また、前記ラジカルの量を面積あたりに換算すると、該フィルム1cm2あたり3.4×1015個以上、すなわち、3.4×1015個/cm2以上であるものが好ましい。なお、電子線の吸収線量はkGy(キログレイ)という単位で表し、1kGyは照射される物質1kgあたりに1ジュールのエネルギー吸収があることを表す。フィルム表層に電子線を照射すると、インキにラジカルが発生し、その結果インキが硬化するが、インキを透過した電子線は、フィルムの表層にも作用するため、フィルムの表層、すなわち易接着層および表面近傍に存在するポリアミド基材層などの他の構成からもラジカルが発生する。フィルムの表層に存在するラジカルの量が多いほど、インキとフィルム表層で架橋反応が進行しやすくなるため、硬化後のインキである印刷物とフィルム表層との密着性がより高くなると考えられる。
【0041】
フィルム表層に電子線を照射させたときにフィルム表層に存在するラジカルの量は、電子スピン共鳴(ESR)装置を用いて、測定することができる。30kGyの電子線を照射後のフィルム表層に存在するフリーラジカルの量が、上記ラジカルの量である。
【0042】
上記フィルム表層に電子線を照射させたときに発生するラジカルの量を、上記範囲とするためには、基材としてはポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルム等が挙げられるが、本発明においては、コーティングが容易であるポリアミドフィルムが用いられる。ポリアミドフィルムは、引張強度、衝撃強度、ピンホール強度などの物理強度や耐熱性に優れているフィルムである。
【0043】
本発明において、ポリアミド基材層に用いうる材料としては、例えば、興人フィルム(株)製の“ボニールQ”などが挙げられる。
【0044】
易接着層が設けられた側の表面からの測定において、FT-IR-ATR法にて求められる炭素-窒素単結合の伸縮振動のピーク強度ν1と炭素-酸素二重結合の伸縮振動のピーク強度ν2との比、ν1/ν2は、0.5~1の範囲内であることが好ましい。(以下、前記の炭素-窒素単結合の伸縮振動のピーク強度ν1と炭素-酸素二重結合の伸縮振動のピーク強度ν2との比を単にν1/ν2として表す。)前記炭素-窒素単結合の伸縮振動のピーク強度ν1は、およそ1530cm-1付近の波数に現れるピークの面積で表せる。また、前記炭素-酸素二重結合の伸縮振動のピーク強度ν2は、およそ1740cm-1付近の波数に現れるピークの面積で表せる。なお、ポリアミド基材層に由来するピークが観測されたときは、当該ピークは除いた上でν1/ν2は求めるものとする。
【0045】
前記炭素-窒素単結合の伸縮振動のピーク強度ν1は、ウレタン結合の存在量を反映すると考えられ、前記炭素-酸素二重結合の伸縮振動のピーク強度ν2は、ポリオール起因のカーボネート結合の存在量を反映すると考えられる。すなわち、ν1/ν2が、0.5以上であることによって、ウレタン結合の割合が十分であることから、インキと該フィルムとの間の密着性を良好に保つことができる。一方、ν1/ν2が、1以下であることによって、ポリオール成分の割合が十分であることから、柔軟性が高く耐熱性も良好な易接着層とできる。
【0046】
電子線照射装置としては、従来公知のものを使用でき、例えばカーテン型電子線照射装置やライン照射型低エネルギー電子線照射装置等を好適に使用することができる。
【0047】
本発明において、易接着層が設けられた側の表面の表面粗さRaは、5~30nmであることが好ましい。Raを5nm以上とすることで、インキ界面に対してアンカー効果が発生するため、インキとの密着力を上昇させることができる。また、Raを30nm以下とすることで、インキの濡れを妨げない。
【0048】
表面粗さRaは、例えば原子間力顕微鏡(AFM)等を用いて、JIS R 1683:2007に記載の方法に基づいて、測定することができる。
【0049】
Raを上記範囲にするためには、例えば、易接着層中に、平均粒子径D50が10~20nm程度の微粒子を含ませることが好ましい。当該微粒子の易接着層中の含有量は、特に制限はないが、ポリウレタン100質量部に対して0.1~10質量部とすることが好ましい。なお、平均粒子径D50は、動的光散乱法により測定して得られる体積基準粒度分布において、小粒径側からの通過分積算が50%となるときの粒子径のことをいう。微粒子としては、分散性や安定性、コストの点から、シリカ粒子、アルミナ粒子等が好適に用いられる。
【0050】
(インキ)
本発明で用いられるインキは、活性エネルギー線で硬化するものが好適に用いられる。活性エネルギー線を照射することで、印刷物上のインキを硬化させることができる。活性エネルギー線でインキが硬化するとき、一般に、硬化収縮による内部応力が発生しやすいため、インキとフィルムとの密着性が低下する要因となる。しかし、印刷対象のフィルムが上記のようなフィルムであることによって、上記インキとフィルムとの密着性を良好に保つことができる。
【0051】
本発明で用いられるインキの実施形態の1つとしては、活性エネルギー線硬化印刷用インキであって、該インキに含まれる樹脂として、(a)酸価が30mgKOH/g以上250mgKOH/g以下のアクリル樹脂を用いることが好ましい。上記酸価は、60mgKOH/g以上200mgKOH/g以下がより好ましく、75mgKOH/g以上150mgKOH/g以下が特に好ましい。酸価が上記範囲内にあると、活性エネルギー線によるインキ硬化反応の感度が高まり、低エネルギー照射でも良好なインキ硬化膜を得ることができるのに加え、高い耐水性を実現することができる。酸価は、JIS K 0070:1992の試験方法第3.1項の中和滴定法に準拠して求めることができる。
【0052】
また、前記のアクリル樹脂は、エチレン性不飽和基を有するものであることが好ましい。エチレン性不飽和基を有することで、高感度な活性エネルギー線硬化性を備えることに加え、硬化膜の耐水性にも優れる。
【0053】
また、側鎖にエチレン性不飽和基を有することで、エチレン性不飽和基を有する樹脂自身が活性エネルギー線による硬化性を有する。このため活性エネルギー線の照射により高分子量である樹脂間のラジカル反応によりインキが硬化するので、硬化に必要な活性エネルギー線の照射量が少なくて済み、その結果、高感度な活性エネルギー線の硬化性を有する。
【0054】
これにより、例えば、活性エネルギー線として紫外線を照射することでインキを瞬時に硬化させるUV印刷においても、少ない紫外線照射量でも十分なインキの硬化性を得ることができることとなる。そして、印刷スピードの向上による生産性の大幅向上や、省電力UV光源(例えば、メタルハライドランプやLED)適用による低コスト化などが可能となる。
【0055】
さらに、前記のアクリル樹脂は、エチレン性不飽和基を含み、また、適度な酸価を有していることによって、それを用いたインキと前記フィルムとの密着性にも優れる。これは、前記フィルムの表層が、ポリカーボネートポリオールをジオール成分として含むポリウレタンを含有する層であることから、インキ中の樹脂に含まれるカルボキシル基とフィルム表面に存在するアミノ基等との結合が生じるためであると考えられる。
【0056】
また、本発明に用いるインキは、前記アクリル樹脂以外の樹脂で、エチレン性不飽和基およびカルボキシル基を有する樹脂を好ましく含むことができる。そのような樹脂を含むインキは、高感度な活性エネルギー線硬化性を備えることに加え、硬化膜の耐水性にも優れる。また、当該アクリル樹脂以外の樹脂の酸価としては、30mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。そのような樹脂としては、例えば、スチレンマレイン酸樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0057】
前記アクリル樹脂、および、前記アクリル樹脂以外の樹脂で、エチレン性不飽和基およびカルボキシル基を有する樹脂の重量平均分子量は、硬化膜の耐水性を得るため5,000以上であることが好ましく、15,000以上であることがより好ましく、20,000以上であることがさらに好ましい。また、樹脂の水溶性を得るため100,000以下であることが好ましく、75,000以下であることがより好ましく、50,000以下であることがさらに好ましい。本明細書において、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算で測定を行い、得ることができる。
【0058】
本発明で用いられるインキ中に含まれる、前記アクリル樹脂、および、前記アクリル樹脂以外の樹脂で、エチレン性不飽和基およびカルボキシル基を有する樹脂の含有量は、印刷に必要なインキの粘度と硬化に必要な感度を得るため5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、印刷に必要なインキの流動性とローラー間の転移性を得るため60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0059】
また、本発明で用いられるインキは、(b)顔料、および(c)水酸基を有する(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0060】
(b)顔料としては、無機顔料と有機顔料から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0061】
本発明で用いる無機顔料の具体例としては、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ベンガラ、カドミウムレッド、黄鉛、亜鉛黄、紺青、群青、有機ベントナイト、アルミナホワイト、酸化鉄、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム等が挙げられる。
【0062】
有機顔料の具体例としては、フタロシアニン系顔料、溶性アゾ系顔料、不溶性アゾ系顔料、レーキ顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、スレン系顔料、金属錯体系顔料等が挙げられ、その具体例としてはフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アゾレッド、モノアゾレッド、モノアゾイエロー、ジスアゾレッド、ジスアゾイエロー、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンダ、イソインドリンイエロー等が挙げられる。
【0063】
これらの(b)顔料は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0064】
本発明で用いられるインキ中に含まれる(b)顔料は、印刷紙面濃度を得るためにインキ100質量%中、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。また、インキの流動性を向上し、良好なローラー間転移性を得るためにはインキ100質量%中、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0065】
また、(c)水酸基を有する(メタ)アクリレートを用いることは、水酸基が顔料を分散安定化する作用を有するため、インキの流動性が向上し、粘性やレベリング性などのインキ物性を調整することが可能となる。また、活性エネルギー線の照射により硬化するため、硬化膜の耐水性を向上することができる。
【0066】
(c)水酸基を有する(メタ)アクリレートの水酸基価は、50mgKOH/g以上であると、顔料分散性が向上するため、好ましい。より好ましくは75mgKOH/g以上、さらに好ましくは100mgKOH/g以上である。また、前記水酸基価は、200mgKOH/g以下であることにより、インキの流動性を良好に保つことが出来るため、好ましい。より好ましくは180mgKOH/g以下、さらに好ましくは160mgKOH/g以下である。
【0067】
(c)水酸基を有する(メタ)アクリレートの具体例としては、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、イソシアヌル酸、およびジペンタエリスリトール等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、およびこれらのアルキレンオキシド付加物が挙げられる。より具体的には、トリメチロールプロパンのジ(メタ)アクリレート、グリセリンのジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのジ、トリ、テトラ又はペンタ(メタ)アクリレート、およびこれらのエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体、テトラエチレンオキシド付加体等が挙げられる。また、複数の水酸基、カルボキシル基を有する化合物にグリシジル(メタ)アクリレートを反応させて得られる(メタ)アクリレートも用いることができる。前記複数の水酸基、カルボキシル基を有する化合物としては、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノールF、水添ビスフェノールFが挙げられる。より具体的にはビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールFのジ(メタ)アクリレート、およびこれらのエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体、テトラエチレンオキシド付加体等が挙げられる。上記の中でも、顔料分散性に優れ、耐地汚れ性が向上することから、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジグリセリントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0068】
(c)水酸基を有する(メタ)アクリレートの含有量は、印刷に適したインキ粘度が得られるためインキ100質量%中、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。また、良好な感度と十分な耐水性を有する硬化膜が得られるため70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。
【0069】
本発明で用いられるインキは、さらに、(d)炭素数8以上18以下の鎖状脂肪族骨格を有する2官能(メタ)アクリレート(以下、「(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレート」と称する)を含むことが好ましい。ただし、(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートのうち、水酸基を有するものは、前記(c)水酸基を有する(メタ)アクリレートに分類するものとする。(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートの水酸基価は5mgKOH/g以下であり、疎水性を示すことが好ましい。(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートが有する鎖状脂肪族骨格としては、直鎖骨格、分岐骨格どちらでも良く、飽和結合、不飽和結合のどちらでも良い。疎水性を示す(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートは、(b)エチレン性不飽和基およびカルボキシル基を有する樹脂、および(c)水酸基を有する(メタ)アクリレートと適度に相溶性が悪く、インキ中の分子鎖の絡み合いが抑制されることにより、インキが転移する際の曳糸性が抑制され、インキ転移性が向上する。また、本発明で用いられるインキが疎水性を示す(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートを含むことにより、インキの表面張力が低減し、基材への濡れ性が向上することでインキ転移性や、基材に対する密着性が向上する。ここで、インキ転移性とは、ゴム(金属)ローラーからゴム(金属)ローラー、ゴム(金属)ローラーから版、版からブランケット、ブランケットから基材へインキが転移する際の転移率のことである。
【0070】
(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートの炭素数は、(b)エチレン性不飽和基およびカルボキシル基を有する樹脂、および(c)水酸基を有する(メタ)アクリレートとの相溶性を適度に保ち、インキ転移性を向上させるために、8以上が好ましく、より好ましくは9以上であり、さらに好ましくは10以上である。(b)エチレン性不飽和基およびカルボキシル基を有する樹脂、および(c)水酸基を有する(メタ)アクリレートとの相溶性の悪化、インキの粘性の上昇、およびインキ転移性の悪化を抑制するために、(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートの炭素数は18以下が好ましく、より好ましくは16以下であり、さらに好ましくは14以下である。
【0071】
(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートのインキ中の含有量は、相溶性を適度に保ち、インキ転移性を向上させるために、インキの総質量に対して1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。また、同様の理由から、(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートの含有量は、本発明で用いられるインキ100質量%中、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、8質量%以下がさらにより好ましい。
【0072】
(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートの具体例としては、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,11-ウンデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,13-トリデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,14-テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,15-ペンタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,16-ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,17-ヘプタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,18-オクタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、4-メチル-1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、4-エチル-1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また炭素数8以上18以下の脂肪族骨格を繰り返し単位として有するポリエステルジ(メタ)アクリレートでもよい。また、これらを2種以上含んでもよい。上記の中でも、(b)エチレン性不飽和基およびカルボキシル基を有する樹脂、および(c)水酸基を有する(メタ)アクリレートとの相溶性を適度に保ち、インキ転移性を向上させるために、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。なおここで官能数は、(メタ)アクリレートに由来する構造の数をいう。
【0073】
(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、インキ被膜を柔軟化し、基材との密着性を付与することができるために、100以上が好ましく、150以上がより好ましくは、200以上がさらに好ましい。また、インキの粘性が保たれ流動性が良好となるため1,000以下が好ましく、700以下がより好ましく、500以下がさらに好ましい。なお、重量平均分子量は、化学構造がわかっている場合は、そのものの分子量であり、また分子量分布をもっているときは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算で測定を行い、得ることができる。
【0074】
(b)エチレン性不飽和基およびカルボキシル基を有する樹脂全量を基準(1.00質量部)とした際の、前記(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートの割合は、樹脂(a)との相溶性を適度に保ち、インキ転移性を向上させるために、0.10質量部以上が好ましく、0.15質量部以上がより好ましく、0.20質量部以上がさらに好ましい。また、同様の理由から、(b)エチレン性不飽和基およびカルボキシル基を有する樹脂全量を基準(1.00質量部)とした際の、前記(d)脂肪族2官能(メタ)アクリレートの割合は、0.60質量部以下が好ましく、0.45質量部以下がより好ましく、0.30質量部以下がさらに好ましい。
【0075】
本発明で用いられるインキは、さらに、(e)ウレタン(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0076】
(e)ウレタン(メタ)アクリレート中に含まれるウレタン結合同士間の水素結合はハードセグメントを形成し、インキ皮膜に強靱性を付与することができると共に、プラスチックフィルムなどの表面とも強固な結合をすることで良好な密着性を付与することができる。特に、本発明のフィルム表層の易接着層とは、分子構造的特徴が類似していることから、インキの易接着層に対する親和性を高め、極めて良好な密着性を得ることができる。また、(e)ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオールを含むことでソフトセグメントを形成し、インキ皮膜に柔軟性を付与することができる。
【0077】
(e)ウレタン(メタ)アクリレートは、エステル構造、ポリカーボネート構造のいずれか1種以上を有することが好ましい。ウレタン(メタ)アクリレートがエステル構造、ポリカーボネート構造のいずれか1種以上を有することで、これらの剛直な構造により、インクの耐熱性や塗膜物性を効果的に向上させることができる。また、これらの剛直な構造により、形成される分子鎖の絡み合いが抑制され、インキの粘度も低く抑え、インキの流動性が向上することで印刷時の良好な転移性を得ることができる。
【0078】
エステル構造を与えるアルコールとしては多価アルコールが好ましく、またエステル構造を与えるジカルボン酸としては、特に限定されるものではないが、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、セバシン酸等が挙げられる。このうち、比較的安価であること、良好な耐熱性を持つこと、インキへの良好な相溶性を保つことから、イソフタル酸とアジピン酸が特に好ましい。
【0079】
また、カーボネート構造を有するウレタンを与えるカーボネートポリオールとしては、ペンタメチレンカーボネートジオール、ヘキサメチレンカーボネートジオール、ヘキサンカーボネートジオール、デカンカーボネートジオール等が挙げられる。しかしながら、カーボネート結合の高い凝集力ゆえに、カーボネート結合量が増えるにつれ、増粘やインキとの相溶性が悪化する。そのため、カーボネート結合の水素結合力を抑制する分岐鎖を持つ、ペンタメチレンカーボネートジオールもしくはヘキサメチレンカーボネートジオールが特に好ましい。
【0080】
また、前記の(e)ウレタン(メタ)アクリレートとしては、次に示す特徴(1)~(6)のいずれかを充足するものが好ましく採用できる。
(1)少なくとも芳香環構造または脂環構造を有するポリイソシアネートから得られるウレタン構造と、カルボン酸から得られるエステル構造とを有する化合物であること。
(2)少なくとも脂環構造を有するジイソシアネートから得られるウレタン結合構造と、アジピン酸またはイソフタル酸からから得られるエステル構造とを有する化合物であること。
(3)少なくとも芳香環構造または脂環構造を有するポリイソシアネートから得られるウレタン構造と、カーボネートジポリオールからなるカーボネート構造とを有する化合物であること。
(4)少なくとも脂環構造を有するジイソシアネートから得られるウレタン構造と、ポリペンタメチレンカーボネートジオールおよびポリヘキサメチレンカーボネートジオールからから選ばれる少なくとも一方から選ばれるカーボネート構造とを有する化合物であること。
(5)水酸基含有アクリル酸エステルを、イソシアネート化合物と反応させて得られる、ウレタン構造とアクリル基とを有する化合物であること。
(6)ペンタエリスリトールトリアクリレートを、芳香環構造を有するジイソシアネート化合物と反応させて得られるウレタン構造とアクリル基を有する化合物であること。
【0081】
(e)ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、インキの耐熱水性が向上できるので100以上とすることが好ましく、また1分子中のポリオール成分からなるソフトセグメント比率が一定以上あることで塗膜に柔軟性を付与し密着力を向上させることができることから、300以上がより好ましく、500以上がさらに好ましく、800以上がさらに好ましく、1,000以上がさらに好ましく、1,500以上がさらに好ましい。また、インキとの相溶性を保つことでインキの流動性が保たれ、印刷時に良好な塗膜外観(レベリング性)や耐地汚れ性を得ることができるため、10,000以下が好ましく、7,000以下がより好ましく、5,000以下がさらに好ましい。なお、前記樹脂の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算で測定を行い、算出することができる。
【0082】
(e)ウレタン(メタ)アクリレートのインキ全量に対する含有量は、良好な密着性を得るため1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上がさらに好ましい。また、30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下とすることで、樹脂との良好な相溶性を保つことができる。それによりインキのタックの上昇を抑制し、絵柄の位置精度の良好な印刷物を得ることができる。また、インキの流動性を好適に保つことができるので、良好なレベリング性に優れ、また地汚れのない印刷物を得ることができるため好ましい。
【0083】
本発明で用いられるインキは、特にインキの硬化を紫外線で行う時には、光重合開始剤を含むことが好ましい。また、光重合開始剤の効果を補助するために増感剤を含んでも良い。
【0084】
光重合開始剤としては、一般的なものとしてα-アミノアルキルフェノン系開始剤及びチオキサントン系開始剤などが挙げられるが、それに加えてアシルホスフィンオキシド化合物を含むことが好ましい。アシルホスフィンオキシド化合物は、350nm以上の長波長域の光も吸収するため、紫外光を吸収あるいは反射する顔料が含まれる系においても、高い感度を有する。加えて、アシルホスフィンオキシド化合物は、いったん反応した後は光吸収が無くなるフォトブリーチング効果を有し、この効果により、優れた内部硬化性を示す。
【0085】
α-アミノアルキルフェノン系開始剤の具体例としては、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モリフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-[-4(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-オンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、両方を合わせて用いてもよい。これらの重合開始剤は入手が容易であるという観点から好ましい。
【0086】
チオキサントン系開始剤としては、例えば、2、4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等が挙げられる。
【0087】
インキ中、光重合開始剤の含有量は、インキ総質量に対して、0.1質量%以上含むことで、良好な感度を得られ好ましい。1質量%以上含むことがより好ましく、3質量%以上含むことがさらに好ましい。また、光重合開始剤を20質量%以下含むことで、インキの保存安定性が向上することから好ましい。15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0088】
増感剤の具体例としては、2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,3-ビス(4-ジエチルアミノベンザル)シクロペンタノン、2,6-ビス(4-ジメチルアミノベンザル)シクロヘキサノン、2,6-ビス(4-ジメチルアミノベンザル)-4-メチルシクロヘキサノン、ミヒラーケトン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)-ベンゾフェノン、4,4-ビス(ジメチルアミノ)カルコン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)カルコン、p-ジメチルアミノシンナミリデンインダノン、p-ジメチルアミノベンジリデンインダノン、2-(p-ジメチルアミノフェニルビニレン)-イソナフトチアゾール、1,3-ビス(4-ジメチルアミノベンザル)アセトン、1,3-カルボニル-ビス(4-ジエチルアミノベンザル)アセトン、3,3-カルボニル-ビス(7-ジエチルアミノクマリン)、N-フェニル-N-エチルエタノールアミン、N-フェニルエタノールアミン、N-トリルジエタノールアミン、ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、ジエチルアミノ安息香酸イソアミル、3-フェニル-5-ベンゾイルチオテトラゾール、1-フェニル-5-エトキシカルボニルチオテトラゾールなどが挙げられる。
【0089】
増感剤を含有する場合、その含有量は、インキが良好な感度を得られることから、前記インキの0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。また、前記インキの保存安定性が向上することから、前記インキの20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0090】
本発明で用いられるインキにおいては、光重合開始剤や増感剤は1種または2種以上使用することができる。
【0091】
本発明で用いられるインキは、乳化剤を含むことが好ましい。インキが乳化剤を含むことにより、水あり平版印刷時においては、適切な量(一般にインキ全量の10~20質量%と言われる)の湿し水を取り込み乳化することで、非画線部の湿し水に対する反発性が増し、インキの耐地汚れ性が向上する。
【0092】
本発明で用いられるインキは、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。
【0093】
本発明で用いられるインキの好適な例として、例えば、国際公開第2017/47817号や国際公開第2018/163941号に記載されているものを挙げることができる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの例に限定して解釈されるものではない。
【0095】
<インキ原料>
顔料:リオノールブルーFG7330(東洋カラー(株)製)
アクリル樹脂1:25質量%のメタクリル酸メチル、25質量%のスチレン、50質量%のメタクリル酸からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.6当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させて、アクリル樹脂1を得た。得られた樹脂1は重量平均分子量34,000、酸価102mgKOH/g、ヨウ素価2.0mol/kgであった
ヒドロキシル(メタ)アクリレート:水酸基を有する(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物“Miramer”(登録商標)M340(MIWON社製)、水酸基価115mgKOH/g
脂肪族2官能(メタ)アクリレート:1,10-デカンジオールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、NKエステル A-DOD-N)。水酸基価0mgKOH/g。
【0096】
ウレタンアクリレート:脂環式ジイソシアネート(水添XDI)とカルボン酸(イソフタル酸およびアジピン酸)とポリオールと2-ヒドロキシエチルアクリレートからなる、重量平均分子量(Mw)3600、ウレタン結合分率8質量%のウレタンアクリレート。
【0097】
光重合開始剤1:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド“ルシリン”(登録商標)TPO(BASF社製)
光重合開始剤2:2-[4-(メチルチオ)ベンゾイル]-2-(4-モルホリニル)プロパン“イルガキュア”(登録商標)907(BASF社製)
増感剤:4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(保土ヶ谷化学社製)
体質顔料:“ミクロエース”(登録商標)P-3(日本タルク(株)製)
重合禁止剤:p-メトキシフェノール(和光純薬工業(株)製)
乳化剤:“レオドール”(登録商標)TW-L120(花王(株)製)HLB値16.7
添加剤:ラウリルアクリレート(和光純薬工業(株)製)
ワックス:“KTL”(登録商標)4N(喜多村社製)。
【0098】
<フィルム>
フィルム1:ポリアミドフィルム“ボニールQ”(興人フィルム(株)製) 易接着層を有するフィルム。膜厚15μm。易接着層は、ポリカーボネートポリオールをジオール成分として含むポリウレタンを含有する層である。
【0099】
フィルム2:ポリアミドフィルム“エンブレム”(登録商標)ON (ユニチカ(株)製)の表面を、“ETERNACOLL”(登録商標)UW5502((宇部興産(株)製)、ポリカーボネートポリオールをジオール成分として含むポリウレタン)を水で10倍に希釈したものによりコーティングしたもの。膜厚15μm。
【0100】
フィルム3:ポリアミドフィルム“エンブレム”(登録商標)ON (ユニチカ(株)製)の表面を、“ETERNACOLL”(登録商標)UW5502((宇部興産(株)製)、ポリカーボネートポリオールをジオール成分として含むポリウレタン)100質量部に対して、“スノーテックス”(登録商標)ST-C(日産化学(株)製、コロイダルシリカ、粒子径12nm)1質量部を添加し水で10倍に希釈したものによりコーティングしたもの。膜厚15μm。
【0101】
フィルム4:ポリアミドフィルム“エンブレム”(登録商標)ON (ユニチカ(株)製)の表面を、“ETERNACOLL”(登録商標)UW5502((宇部興産(株)製)、ポリカーボネートポリオールをジオール成分として含むポリウレタン)100質量部に対して、“スノーテックス”(登録商標)ST-C(日産化学(株)製、コロイダルシリカ、粒子径12nm)5質量部を添加し水で10倍に希釈したものによりコーティングしたもの。膜厚15μm。
【0102】
フィルム5:ポリアミドフィルム“エンブレム”(登録商標)ON (ユニチカ(株)製)の表面を、“ETERNACOLL”(登録商標)UW5002E((宇部興産(株)製)、ポリカーボネートポリオールをジオール成分として含むポリウレタン)を水で10倍に希釈したものによりコーティングしたもの。膜厚15μm。
【0103】
フィルム6:ポリアミドフィルム“エンブレム”(登録商標)ON (ユニチカ(株)製)の表面を、“ETERNACOLL”(登録商標)UW3018((宇部興産(株)製)、ポリカーボネートポリオールをジオール成分として含むポリウレタン)を水で10倍に希釈したものによりコーティングしたもの。膜厚15μm。
【0104】
フィルム7:ポリアミドフィルム“エンブレム”(登録商標)ON (ユニチカ(株)製)の表面を、“エラストロン”(登録商標)H38(第一工業製薬(株)製、ポリエーテルポリオールをジオール成分として含むポリウレタン)を水で10倍に希釈したものによりコーティングしたもの。膜厚15μm。
【0105】
フィルム8:ポリアミドフィルム“エンブレム”(登録商標)ON (ユニチカ(株)製)の表面を、“エラストロン”(登録商標)E37(第一工業製薬(株)製、ポリエステルポリオールをジオール成分として含むポリウレタン)を水で10倍に希釈したものによりコーティングしたもの。膜厚15μm。
【0106】
<フィルムの表層に存在するラジカル量の測定>
電子スピン共鳴(ESR)装置ELEXSSYS E580(BRUKER社製)を用いて、30kGyの電子線を照射した後にフィルム表層に存在するラジカルの量を、測定した。なお、電子線を照射したフィルム試料は、照射後直ちにドライアイスを用いて低温雰囲気で貯蔵し、ラジカル量を測定する寸前に、室温雰囲気に戻して測定を実施した。詳細条件は下記の通りである。
【0107】
測定温度:室温
中心磁場:3368G付近
磁場掃引範囲:400G
変調:100kHz、2G
マイクロ波:9.44GHz、0.1mW
掃引時間:83.89s×4times
時定数:163.84ms
データポイント数:1024ポイント
キャビティー:Super-High-Q
表1にラジカル量の測定結果を示す。
【0108】
<フィルム表層のFT-IR-ATR測定>
フィルム1の易接着層を有する面およびフィルム2~8のコーティング面の側から、FT-IR(Bio-Rad Digilab社製「FTS-55A」)を用いて、フィルム表層を減衰全反射(ATR)法により測定した。得られたスペクトルから1510~1550cm-1に存在するピークの面積を窒素-水素単結合の伸縮振動のピーク強度ν1とし、1720~1760cm-1に存在するピークの面積を炭素-酸素二重結合の伸縮振動のピーク強度ν2として、ν1/ν2を算出した。ここでν1を算出するに当たり、1510cm-1の値および1550cm-1の値を結ぶ直線を引き、これをベースラインとした。1510cm-1~1550cm-1の範囲において、このベースラインと得られたスペクトルとで囲まれた面積がν1として算出した。同様に、ν2を算出するに当たっては、1720cm-1の値および1760cm-1の値を結ぶ直線を引き、1720~1760cm-1の範囲において、このベースラインと得られたスペクトルとで囲まれた面積をν2 として算出した。表1にν1/ν2の評価結果を示す。
【0109】
<フィルムコーティング面の表面粗さRaの測定>
フィルム1の易接着層を有する面およびフィルム2~8のコーティング面について、原子間力顕微鏡Dimension FastScan(BRUKER社製)を用いて、JIS R 1683:2007、規格名称 原子間力顕微鏡によるファインセラミックス薄膜の表面粗さ測定方法に準拠して、表面粗さRaを測定した。表1にRaの測定結果を示す。
【0110】
<水なし平版印刷試験>
水なし平版印刷版(TAN-E、東レ(株)社製)をオフセット印刷機(オリバー266EPZ、桜井グラフィックシステム社製)に装着し、実施例1~4、6~10および比較例1~2に示す組成の各インキを用いて、フィルムに印刷し、印刷物を得た。
【0111】
<水あり平版印刷試験>
水あり平版印刷版(XP-F、富士フィルム(株)社製)をオフセット印刷機(オリバー266EPZ、桜井グラフィックシステム社製)に装着し、湿し水にエッチ液(SOLAIA-505、T&K TOKA社製)を3重量%混合した水道水を用い、実施例5のインキを用いて、フィルムに印刷し、印刷物を得た。
【0112】
<電子線の照射条件>
電子線照射装置(LB1036、(株)アイ・エレクトロンビーム製)を用いて、加速電圧110kV、ビーム電流5.0mA、吸収線量30kGyの条件で、インキを硬化させて印刷物を作製した。
【0113】
<紫外線の照射条件>
紫外線照射装置(USHIO(株)製、120W/cm、超高圧メタルハライドランプ1灯)を用いて、ベルトコンベアースピード50m/分にてインキを硬化させて印刷物を作製した。
【0114】
<インキ転移性の評価>
実施例および比較例に記載の活性エネルギー線硬化型平版印刷用インキを用いて、水なし平版印刷試験(実施例1~4、6~10、比較例1~2)もしくは水あり平版印刷試験(実施例5)によって、表2に記載の各フィルムに印刷速度200m/分、活性エネルギー線硬化型平版印刷用インキ供給量50%で、1,000m印刷した後、電子線もしくは紫外線を用いてインキを硬化させて印刷物を作製した。上質紙を紙白(反射濃度0の基準)としてベタ部の濃度を反射濃度計(GretagMacbeth製、SpectroEye、ステータスE)を用いて評価した。インキ転移性は、その値が大きいほど良好であると判断した。
【0115】
<剥離強度>
フィルム上の印刷物の剥離強度試験および評価基準は、規格番号JIS K 6854-2:1999、規格名称 接着剤-はく離接着強さ試験方法-第2部:180度はく離に準拠して行った。実施例および比較例に記載の活性エネルギー線硬化型平版印刷用インキを用いて、水なし平版印刷試験(実施例1~4、6~10、比較例1~2)もしくは水あり平版印刷試験(実施例5)によって、表2に記載の各フィルムに印刷速度200m/分、活性エネルギー線硬化型平版印刷用インキ供給量50%で、1,000m印刷した後、電子線もしくは紫外線を用いてインキを硬化させて印刷物を作製した。印刷物の表面に、2液型接着剤(LX-500/KR-90S:DIC(株)製)を3.5g/m2になるように塗布し、ラミネートフィルムを貼付け後、オーブンに入れて温度60℃で1日放置して硬化させて、剥離強度評価サンプルを作製した。また、剥離強度評価サンプルの一部は100℃の熱水に30分間浸漬させて、ボイル後剥離強度評価サンプルを作製した。これらのサンプルをカッターで15mm幅に切り、印刷物とフィルムの剥離強度を測定した。測定には、引張試験機を用い、荷重速度100mm/分で180度剥離試験を行った。
【0116】
剥離強度が1N/15mm未満であると密着力が極めて不十分であり、1N/15mm以上3N/15mm未満であると密着力が不十分であり、3N/15mm以上5N/15mmであると密着力が良好であり、5N/15mm以上であると密着力が極めて良好と判断した。
【0117】
[実施例1]
表2に示すインキ組成にて各成分を秤量し、三本ロールミル“EXAKT”(登録商標)M-80S(EXAKT社製)を用いて、ギャップ1で3回通すことでインキを得た。作成したインキを水なし平版印刷方式にて、フィルム1に印刷して、電子線照射装置で硬化して印刷物を作成した。インキ転移性は、1.60と良好であった。剥離強度は、5.7N/15mmであり、密着力は極めて良好だった。また、ボイル後剥離強度も、5.8N/15mmであり、ボイル後の密着力も極めて良好だった。
【0118】
[実施例2]
表2に示すインキ組成にて各成分を秤量し、三本ロールミル“EXAKT”(登録商標)M-80S(EXAKT社製)を用いて、ギャップ1で3回通すことでインキを得た。作成したインキを水なし平版印刷方式にて、フィルム1に印刷して、電子線照射装置で硬化して印刷物を作成した。インキ転移性は、1.75であり、極めて良好であった。剥離強度は、6.4N/15mmであり、密着力は極めて良好だった。また、ボイル後剥離強度も、6.6N/15mmであり、ボイル後の密着力も極めて良好だった。
【0119】
[実施例3]
表2に示すインキ組成にて各成分を秤量し、三本ロールミル“EXAKT”(登録商標)M-80S(EXAKT社製)を用いて、ギャップ1で3回通すことでインキを得た。作成したインキを水なし平版印刷方式にて、フィルム1に印刷して、電子線照射装置で硬化して印刷物を作成した。インキ転移性は、1.72であり、極めて良好であった。剥離強度は、8.1N/15mmであり、密着力は極めて良好だった。また、ボイル後剥離強度も、8.5N/15mmであり、ボイル後の密着力も極めて良好だった。
【0120】
[参考例1]
表2に示すインキ組成にて各成分を秤量し、三本ロールミル“EXAKT”(登録商標)M-80S(EXAKT社製)を用いて、ギャップ1で3回通すことでインキを得た。作成したインキを水なし平版印刷方式にて、フィルム1に印刷して、紫外線照射装置で硬化して印刷物を作成した。インキ転移性は、1.60と良好であった。剥離強度は、4.6N/15mmであり、密着力は良好だった。また、ボイル後剥離強度も、4.4N/15mmであり、ボイル後の密着力も良好だった。
【0121】
[実施例5]
表2に示すインキ組成にて各成分を秤量し、三本ロールミル“EXAKT”(登録商標)M-80S(EXAKT社製)を用いて、ギャップ1で3回通すことでインキを得た。作成したインキを水あり平版印刷方式にて、フィルム1に印刷して、電子線照射装置で硬化して印刷物を作成した。インキ転移性は、1.55と良好であった。剥離強度は、3.5N/15mmであり、密着力は良好だった。また、ボイル後剥離強度も、3.3N/15mmであり、ボイル後の密着力も良好だった。
【0122】
[実施例6~8]
フィルムの種類をそれぞれフィルム2(実施例6)、フィルム3(実施例7)、フィルム4(実施例8)に変更する以外は実施例1と同様の操作で印刷実験を実施し、インキ転移性、フィルムとの密着性を評価した。インキ転移性は、いずれも1.60と良好であった。剥離強度は、実施例6では4.8N/15mmであり、密着力は良好だった。実施例7、8では、それぞれ5.1N/15mm、6.1N/15mmとなり、密着力は非常に良好だった。また、ボイル後剥離強度は、実施例6では4.5N/15mmであり、ボイル後の密着力も良好だった。実施例7、8では、5.2N/15mm,5.9N/15mmとなり、ボイル後の密着力も非常に良好だった。
【0123】
[実施例9~10]
フィルムの種類をそれぞれフィルム5(実施例9)、フィルム6(実施例10)に変更する以外は実施例1と同様の操作で印刷実験を実施し、インキ転移性、フィルムとの密着性を評価した。インキ転移性は、いずれも1.60と良好であった。剥離強度は、実施例9では6.1N/15mmであり、密着力は非常に良好だった。実施例10では、4.4N/15mmとなり、密着力は良好だった。また、ボイル後剥離強度は、実施例9では4.7N/15mmであり、実施例10では、4.6N/15mmとなり、ボイル後の密着力も良好だった。
【0124】
[比較例1]
フィルムの種類をフィルム7に変更する以外は実施例1と同様の操作で印刷実験を実施し、インキ転移性、フィルムとの密着性を評価した。インキ転移性は、1.60と良好であった。剥離強度は、4.2N/15mmであり、密着力は良好だった。しかし、ボイル後剥離強度は、1.6N/15mmであり、ボイル後の密着力は不十分だった。
【0125】
[比較例2]
フィルムの種類をフィルム8に変更する以外は実施例1と同様の操作で印刷実験を実施し、インキ転移性、フィルムとの密着性を評価した。インキ転移性は、1.60と良好であった。剥離強度は、4.6N/15mmであり、密着力は良好だった。しかし、ボイル後剥離強度は、1.9N/15mmであり、ボイル後の密着力は不十分だった。
【0126】
【0127】
【符号の説明】
【0128】
1 インキローラー
2 平版印刷版
3 版胴
4 ブランケット
5 フィルム
6 支持ローラー