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特許7625897超音波トランスデューサ、超音波プローブ、および超音波診断装置
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  • 特許-超音波トランスデューサ、超音波プローブ、および超音波診断装置 図1
  • 特許-超音波トランスデューサ、超音波プローブ、および超音波診断装置 図2
  • 特許-超音波トランスデューサ、超音波プローブ、および超音波診断装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】超音波トランスデューサ、超音波プローブ、および超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20250128BHJP
   H04R 1/30 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
A61B8/00
H04R1/30 330
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021030196
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131315
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 唯子
(72)【発明者】
【氏名】城野 純一
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-113279(JP,A)
【文献】特開2021-016424(JP,A)
【文献】特開2000-028595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
H04R 1/00-1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料を含む圧電材と、
前記圧電材上に配置された少なくとも1層の整合層と、
を含む超音波トランスデューサであって、
前記圧電材は、前記圧電材料を複数の領域に分割する、少なくとも1つの第1の溝をさらに有し、
前記第1の溝の幅は15~45μmであり、
前記圧電材の前記第1の溝に、エポキシ樹脂および有機フィラーを含む充填材が充填されており、
前記有機フィラーは、エラストマー粒子であって、粒子径が0.1~μmの反応性有機フィラーと、粒子径0.7~10.0μmの非反応性有機フィラーとを含み、
前記有機フィラーの総量が、充填材100質量部に対して50質量部以上60質量部以下であり、
前記有機フィラーの累積粒度分布における累積百分率10%値が、0.9μm以上である、
超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記整合層が、前記圧電材の前記第1の溝に接続された第2の溝を有しており、
前記第2の溝に、前記充填材が充填されている、
請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
前記整合層が複数の層の積層体であり、前記複数の層の最上層が、前記第2の溝を有さない、
請求項2に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項4】
前記最上層の組成が、前記充填材と同じ組成である、
請求項3に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項5】
前記有機フィラーが、シリコーン、ウレタン、アクリル、およびブタジエンからなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項6】
前記反応性有機フィラーが、表面に前記エポキシ樹脂と反応可能な構造を有する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項7】
前記充填材が、カップリング剤を含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の超音波トランスデューサを含む、
超音波プローブ。
【請求項9】
請求項8に記載の超音波プローブを含む、
超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波トランスデューサ、超音波プローブ、および超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波プローブを、ヒトやその他の動物等を含む被検査対象に当てるかまたはその内部へ挿入して超音波を照射し、その反射波を受信し、解析することによって診断を行う装置である。当該超音波診断装置によれば、例えば生体の組織の形状や動き等を画像や映像として得ることが可能である。超音波診断装置は、安全性が高いため繰り返して検査を行うことができるという利点を有する。
【0003】
上記超音波診断装置に使用する超音波プローブは、超音波を送受信するための超音波トランスデューサ等を内蔵する。超音波トランスデューサは、診断装置からの電気信号(送信信号)を受信し、受信した送信信号を超音波信号に変換して送波する。また、被検査対象内で反射された超音波を受波し、これを電気信号(受信信号)に変換して診断装置に送信する。
【0004】
超音波トランスデューサは、信号を超音波に変換したり、受波した超音波を電気信号に変換したりするための圧電材、圧電材と被検査対象との間の音響インピーダンスを整合させるための整合層、超音波を所望の位置に収束させるための音響レンズ等を含む。このような超音波トランスデューサの指向性等を高めるために、圧電材中の圧電材料を複数の領域に分割し、これらの間に充填材を充填すること等が従来行われている。充填材によって、外部からの衝撃による圧電材の破損や、隣接する圧電材間でのクロストークを低減できる。
【0005】
例えば特許文献1では、所定の体積弾性率を有するエポキシ樹脂を圧電材料どうしの間に充填することが提案されている。また、特許文献2では、シリコーン樹脂を圧電材料どうしの間に充填することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-25611号公報
【文献】特開昭63-164700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが検討したところ、特許文献1のように、エポキシ樹脂等の比較的硬い樹脂を圧電材料どうしの間に配置すると、超音波トランスデューサの機械的強度が高まり、外部からの衝撃に対する耐久性が高まる。ただし、超音波トランスデューサの指向性が低下しやすい、という課題があった。一方、特許文献2のように、シリコーン樹脂等、比較的柔らかい樹脂を圧電材料どうしの間に配置すると、超音波トランスデューサの指向性は良好であるものの、超音波トランスデューサの機械的強度を十分に高められない、という課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものである。本発明は、機械的強度が高く、かつ指向性が良好な超音波トランスデューサや、これを含む超音波プローブ、超音波診断装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の超音波トランスデューサを提供する。
圧電材材料を含む圧電材と、前記圧電材上に配置された整合層と、を含む超音波トランスデューサであって、前記圧電材は、前記圧電材料を複数の領域に分割する、少なくとも1つの第1の溝をさらに有し、前記圧電材の前記第1の溝に、エポキシ樹脂および有機フィラーを含む充填材が充填されており、前記有機フィラーの累積粒度分布における累積百分率10%値が、0.9μm以上である、超音波トランスデューサ。
【0010】
本発明は、上記超音波トランスデューサを含む超音波プローブも提供する。さらに、本発明は、上記超音波プローブを含む超音波診断装置も提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、機械的強度が高く、かつ指向性が良好な超音波トランスデューサや、これを含む超音波プローブ、超音波診断装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る超音波トランスデューサの全体構造の一例を示す断面図である。
図2図2は、図1に示す超音波トランスデューサの圧電材の構造を説明する平面図である。
図3図3は、一実施の形態に係る超音波トランスデューサを含む超音波診断装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
1.超音波トランスデューサ
本発明は、後述の超音波プローブを有する超音波診断装置等に使用するための超音波トランスデューサに関する。本発明の超音波トランスデューサは、少なくとも、圧電材と整合層とを有していればよいが、通常、バッキング材や、電気端子取り出し層、音響レンズ等を有する。図1は、本発明の一実施の形態に係る超音波トランスデューサ100の全体構造の一例を示す断面図である。本実施形態の図1に示すように、超音波トランスデューサ100は、バッキング材110と、当該バッキング材110上に配置された電気端子取り出し部(フレキシブルプリント基板)120と、当該電気端子取り出し部120上に配置された圧電材130と、圧電材130上に配置された整合層140と、整合層140上に配置された音響レンズ150と、を少なくとも含む。また、圧電材130は、圧電材料130aと、当該圧電材料130aを複数の領域に分割する、少なくとも1つの第1の溝130bと、を有しており、当該第1の溝130bには、充填材160が充填されている。また、本実施の形態では、整合層140が3層で構成されており、その一部(第1整合層140aおよび第2整合層140b)は、上記第1の溝130bに接続された第2の溝140dを有しており、当該第2の溝140dにも、充填材160が充填されている。また、圧電材130の電気端子取り出し部120側および整合層140側には、それぞれ信号電極170aおよび170bが配置されている。
【0015】
前述のように、従来の超音波トランスデューサでは、圧電材において、複数の領域に分割された圧電材料の間に、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂等を充填することが提案されていた。しかしながら、エポキシ樹脂を充填した場合には、充填材の硬度が高く、超音波を伝達しやすいことから、得られる超音波トランスデューサの指向性が低くなりやすかった。一方、シリコーン樹脂を充填した場合には、充填材の強度が十分でなく、落下等による機械的衝撃を受けた際に容易に変形してしまい、圧電材を十分に保護できない、という課題があった。
【0016】
そこで、本実施の形態では、上記圧電材130の第1の溝130bおよび整合層140の第2の溝140dにエポキシ樹脂および有機フィラーを含む充填材160を配置している。またこのとき、有機フィラーの累積粒度分布における累積百分率10%値が、0.9μm以上となるように調整されている。
【0017】
このように充填材160がエポキシ樹脂を含むと、充填材160の硬度が十分に硬くなり、外部からの衝撃を受けても、圧電材130が影響を受け難くなる。一方で、充填材160が、上記累積粒度分布を有する有機フィラーを有すると、当該有機フィラーによって超音波が減衰されたり、散乱されたりする。そのため、隣接する圧電材料130a間で超音波が伝わり難くなり、機械的強度だけでなく、指向性も良好になる。
【0018】
以下、本実施形態の超音波トランスデューサ100の各構成について説明する。なお、本明細書では、超音波トランスデューサの音響レンズ150側を上面側とも称し、バッキング材110側を背面側とも称する。
【0019】
(バッキング材)
バッキング材110は、後述の電気端子取り出し部120や、圧電材130等を支持するための部材であって、圧電材130から背面側に向かう超音波を減衰させるための部材としても機能する。
【0020】
本実施の形態では、バッキング材110が一層で構成されているが、バッキング材110は、複数の層で構成されていてもよい。また、本実施形態のバッキング材110は、電気端子取り出し部120との界面側に、複数の溝(図示せず)を有している。当該溝の平面視形状は、後述の圧電材130内に形成されている第1の溝130bの平面視形状と同一であり、当該溝は、第1の溝130bと連通している。また、バッキング材110が有する溝内には後述の充填材160が充填されている。ただし、バッキング材110は溝を有していなくてもよい。一方で、溝が電気端子取り出し部120側からバッキング材110の背面側まで延在していてもよい。
【0021】
バッキング材110の材料は特に制限されず、その例には、音響インピーダンスを調整するための材料を充填した合成ゴム、天然ゴム、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、熱可塑性樹脂等の有機材料、マコールガラス等の無機材料、有機無機複合材料等が含まれる。また、バッキング材110は、内部に微細な空隙を有する多孔質材料等で構成されていてもよい。
【0022】
ここで、バッキング材110の形状は、送波された超音波を減衰することができれば、特に限定されない。
【0023】
(電気端子取り出し部)
電気端子取り出し部120は、圧電材130中の圧電材料130aに信号電極170a、170bを介して信号を伝えたり、圧電材130から信号電極170a、170bを介して信号を受信したりするための部材である。当該電気端子取り出し部120は、上記バッキング材110と後述の圧電材130との間に配置される。また外部の電源や診断装置等と電気的に接続される。
【0024】
本実施の形態では、電気端子取り出し部120は、フレキシブルプリント基板(以下、「FPC」とも称する)を含み、当該FPCが複数の溝(図示せず)によって分割されている。FPCは、圧電材130のための電極となる配線を有する。FPCは、適切なパターンを有していれば、市販品であってもよい。各溝の平面視形状は、後述の圧電材130の第1の溝130bの平面視形状と同様であり、当該溝は、第1の溝130bと連通している。また、当該溝内には後述の充填材160が充填されている。
【0025】
(圧電材)
圧電材130は、電気端子取り出し部120上(本実施の形態では、信号電極170aを介して電気端子取り出し部120上)に配置された圧電材料130aと、当該圧電材料130aを複数の領域に分割する第1の溝130bと、を含む。
【0026】
圧電材130の平面視形状を、図2に示す。図2は、超音波トランスデューサ100から信号電極170b、整合層140、および音響レンズ150を取り外したときの圧電材130の形状である。当該圧電材130では、圧電材料130aを分割するように、第1の溝130bが設けられている。第1の溝130bが圧電材料130aを分割するとは、第1の溝130bが圧電材料130aの整合層140側の領域を複数の領域に分割していればよく、例えば分割された圧電材料130aどうしが電気端子取り出し部120側でつながっていてもよい。
【0027】
本実施の形態では、第1の溝130bによって分割された複数の圧電材料130aの形状が全て同一である。ただし、各圧電材料130aの形状は、超音波トランスデューサ100の用途に応じて適宜選択され、全てが同一の形状でなくてもよい。また、本実施形態において、第1の溝130bによって分割された圧電材料130aの形状は、直方体状であるが、第1の溝130bによって分割された圧電材料130aの形状は直方体状に制限されず、所望の方向に超音波を発振したりすることが可能であれば、その形状は特に制限されない。
【0028】
圧電材130の厚みは、超音波トランスデューサの種類や、超音波トランスデューサが発振する周波数に応じて適宜選択されるが、例えば50μm以上400μm以下である。
【0029】
圧電材130が有する、それぞれの第1の溝130bの幅は、15~45μmである。その深さは、圧電材料130aを第1の溝130bによって完全に分断しない場合、第1の溝の深さ130bは圧電材130の厚みに対しておよそ80~90%が好ましい。一方で、圧電材130を構成する圧電材料130aを第1の溝130bによって完全に分断し、整合層140に溝を設けない場合には、第1の溝130b、電気端子取り出し部120に形成される溝(図示せず)、およびバッキング材110に形成される溝を合わせた溝の深さが、圧電材料130aの厚みより10~100μm長くなるようにすることが好ましい。一方、圧電材130を構成する圧電材料130aを第1の溝130bによって完全に分断し、さらに整合層140にも溝を設ける場合には、第1の溝130b、後述の第2の溝140d、電気端子取り出し部120に形成される溝(図示せず)、およびバッキング材110に形成される溝を合わせた溝の深さが、圧電材料130aの厚みおよび切断する整合層の厚みより10~100μm長くなるようにすることが好ましい。また、隣り合う第1の溝130bどうしの間隔は、150~600μmであるが、適宜変更できる。
【0030】
上記圧電材料130aの例には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系等の圧電セラミック;マグネシウム酸ニオブ酸鉛・チタン酸鉛固溶体(PMN-PT)、亜鉛酸ニオブ酸鉛・チタン酸鉛固溶体(PZN-PT)等の圧電単結晶;およびこれらの材料と高分子材料を複合した複合圧電材;等が含まれる。
【0031】
また、圧電材130の両面に配置される複数の信号電極170aおよび170bは、圧電材130に電圧を印加するための電極である。信号電極170aおよび170bは、上述の電気端子取り出し部120と電気的に接続され、かつ十分に圧電材130との間で信号を授受可能であれば特に制限されず、例えば金や銀、銅等からなる層とすることができる。
【0032】
(整合層)
整合層140は、上記圧電材130上(本実施の形態では、圧電材料130aの信号電極170b上)に配置される層であり、圧電材130と音響レンズ150との間の音響特性を整合させるための層である。整合層140は、一層で構成されていてもよいが、通常、音響インピーダンスが異なる複数層から構成される。整合層の層数は特に制限されず、通常2層以上が一般的である。図1に示すように、本実施の形態では、整合層140が、第1の整合層140a、第2の整合層140bおよび第3の整合層140cを含む積層体である。
【0033】
整合層140を構成する各層の音響インピーダンスは、各層を構成する成分によって適宜調整できる。例えば、各整合層140a、140b、140cがそれぞれ、樹脂およびフィラーを含む層である場合、これらのフィラーの種類や量を調整すること等によって、各層の音響インピーダンスを調整できる。なお、各整合層140a、140b、140cは、同一の樹脂および同一のフィラーを含む層であってもよく、異なる樹脂および/または異なるフィラーを含む層であってもよい。さらに、各層の厚みは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0034】
整合層140中に含まれる樹脂の種類やフィラーの種類は特に制限されない。樹脂の例には、エポキシ樹脂等が含まれる。一方、フィラーの例には、フェライト等の無機微粒子;シリコーン微粉末等の有機微粒子;が含まれる。本実施の形態では、第3整合層140cの組成が、後述の充填材160の組成と相違する。ただし、第3整合層140cの組成は、充填材160の組成と同じであってもよい。
【0035】
また、本実施の形態では、第1の整合層140aおよび第2の整合層140bが、上述の圧電材130の第1の溝130b上に接続された、第2の溝140dを有する。第2の溝140dの平面視形状は、第1の溝130bの平面視形状と同一である。一方で、整合層140の最も音響レンズ150側の最上層(本実施の形態では、第3の整合層140c)が、第2の溝140dを有さない。ただし、当該実施の形態に限定されず、最上層(第3の整合層140c)が第2の溝140dを有していてもよい。また、最上層に、複数の第2の溝140dのうちの一部のみに連通する溝を有していてもよい。この場合、当該溝には、充填材160が充填されていてもよく、例えば空隙とされていてもよく、さらには充填材160と異なる組成の充填物が充填されていてもよい。
【0036】
(音響レンズ)
音響レンズ150は、圧電材130から送波された超音波を集束させるための部材である。図1に示すように、本実施の形態では、音響レンズ150は、図1のY方向に延材し、かつZ方向に突出するシリンドリカル型の音響レンズである。X方向に垂直な断面の形状は全て同一である。また、当該音響レンズ150では、各圧電材料130aが発振する超音波をZ方向に集束させて超音波トランスデューサ100の外部に出射させる。
【0037】
音響レンズ150は、被検査対象、例えば生体に適した音響特性を有する材料で構成されている。例えば、音響レンズ150は、シリコーンゴム等、被検査対象に比較的近い音響インピーダンスを有する材料で構成されることが好ましい。
【0038】
(充填材)
充填材160は、上述の圧電材130の第1の溝130b、整合層140の第2の溝140d、およびバッキング材110や電気端子取り出し部120の溝等に充填された部材であり、隣り合う圧電材料130a間での超音波の干渉を抑制して超音波トランスデューサ100の指向性を高めたり、超音波トランスデューサ100の強度を高め、外部からの衝撃に対する機械的耐性を高めたりするための部材である。
【0039】
充填材160は、上述の圧電材130の第1の溝130b、整合層140の第2の溝140d、バッキング材110の溝、電気端子取り出し部120の溝内に隙間なく充填されていることが好ましい。ただし、必要に応じて一部に空隙があってもよい。さらに、上記圧電材130の第1の溝130b、整合層140の第2の溝140d、バッキング材110の溝、電気端子取り出し部120の溝の一部には、上記エポキシ樹脂および有機フィラーを含む充填材160と異なる組成の充填物が充填されていてもよい。
【0040】
当該充填材160は、エポキシ樹脂および、累積粒度分布における累積百分率10%値が、0.9μm以上である有機フィラーを含む。充填材160中では、エポキシ樹脂がバインダとなり、当該バインダ中に有機フィラーが分散された状態となっている。
【0041】
当該充填材160が含むエポキシ樹脂は特に制限されず、その例には、ビスフェノールA型やビスフェノールF型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;レゾールノボラック型やフェノール変性ノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂;ナフタレン構造含有型や、アントラセン構造含有型、フルオレン構造含有型等の多環芳香族型エポキシ樹脂;水添脂環型エポキシ樹脂;液晶性エポキシ樹脂等が含まれる。充填材160は、エポキシ樹脂を一種類のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0042】
上記エポキシ樹脂の中でも、耐薬品性の観点で、複数のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましく、一分子中のエポキシ基の数は、例えば3~4個とすることができる。また、ガラス転移温度(Tg)が高いものや、架橋密度が高いものも好ましい。したがって、上記の中でも、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0043】
なお、充填材160中の上記エポキシ樹脂の量は、充填材160の総量100質量部に対して、40質量部以上60質量部以下が好ましく、40質量部以上55質量部以下がより好ましく、40質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。エポキシ樹脂の割合が40質量部以上であると、超音波トランスデューサの強度が高まる。一方で、エポキシ樹脂の割合が60質量部以下であると、有機フィラーの量が相対的に多くなり、超音波トランスデューサ100の指向性が良好になる。
【0044】
一方、有機フィラーは、有機樹脂を含み、かつ所定の粒子径を有する粒子であれば特に制限されないが、有機フィラーは、エラストマー粒子であることが好ましい。エラストマー粒子が含むエラストマーの例には、シリコーン、ウレタン、アクリル、ブタジエン等が含まれる。
【0045】
ここで、有機フィラーの累積粒度分布における累積百分率10%値は、0.9μm以上である。有機フィラーの累積百分率10%値が0.9μm以上であると、上述のように、超音波トランスデューサの耐久性(機械的強度)を維持しつつ、優れた指向性が得られる。
【0046】
上記累積粒度分布は、走査電子顕微鏡(SEM)により200個程度の粒子の粒子径を測定し、当該測定結果に基づいて算出する。硬化前の充填材用組成物から有機フィラーを分取する方法としては、充填材用組成物中のエポキシ樹脂をエタノール等の有機溶剤で溶解等させて除去し、有機フィラーのみを取り出す方法が挙げられる。一方、充填材160から累積粒度分布を測定する場合、超音波トランスデューサ100をY方向に沿ってダイシングソーやダイヤモンドカッター等を用いて断面を切り出し、エネルギー分散型X線分析法(EDS)や波長分散型X線分析法(WDS)によって充填材160を元素分析する。これにより、有機フィラー由来の元素(シリコーンならばSi)をマッピングし、有機フィラーを特定する。そして、特定された有機フィラーの粒径を走査電子顕微鏡(SEM)により測定し、累積粒度分布を算出する。なお、累積百分率10%値とは、上記方法で測定された累積粒度分布において、粒度が小さい側から累積頻度10%における粒子径をいう(以下、「D10」とも称する)。さらに、充填材160が複数の有機フィラーを含む場合には、これらを全て混合した状態で、上記累積粒度分布を測定する。
【0047】
また、本実施の形態では、有機フィラーの粒度分布が広いことが好ましい。有機フィラーの粒度分布が広いと、大きい粒子や小さい粒子が多数存在するため、大きい粒子の間に小さい粒子が充填されやすくなる。その結果、一つの圧電材料130aから、これに隣接する圧電材料130aに伝達する超音波の経路が分断されやすくなる。その結果、隣接する圧電材料130a間で超音波が伝わり難くなり、超音波トランスデューサ100の指向性が高くなりやすい。
【0048】
有機フィラーの粒度分布が広いことを示す指標として、累積粒度分布における累積百分率50%値や累積百分率90%値がある。累積百分率50%値や累積百分率90%値と上記累積百分率10%値との差が大きいほど、粒度分布が広いといえる。累積百分率90%値は、1.5μm以上3.5μm以下が好ましく、1.75μm以上3.0μm以下がより好ましく、2.0μm以上2.5μm以下がより好ましい。累積百分率90%値が当該範囲になる場合には、超音波トランスデューサの耐久性(強度)を維持しつつ、優れた指向性がさらに得られやすくなる。
【0049】
ここで、充填材160は、有機フィラーを一種のみ含んでいてもよいが、有機フィラーを二種以上含むことが好ましい。充填材160が有機フィラーを二種以上含むと、上記累積百分率10%値や累積百分率50%値、累積百分率90%値を満たしやすくなる。
【0050】
複数の有機フィラーのうち、少なくとも1つは、エポキシ樹脂と反応可能な構造を有する有機フィラー(以下、「反応性有機フィラー」とも称する)であることが好ましい。ここで、エポキシ樹脂と反応可能な構造とは、エポキシ基、アミノ基等をいう。充填材160が反応性有機フィラーを含むと、充填材160中での有機フィラーの分散性が良好になり、超音波トランスデューサの指向性がより良好になる。なお、充填材160が反応性有機フィラーを含むか否か、すなわち有機フィラーがエポキシ樹脂と反応可能な構造を有するか否かは、充填材160の断面を走査電子顕微鏡(SEM)等によって観察して確認できる。例えば、充填材160が反応性有機フィラーを含む場合、エポキシ樹脂と反応性有機フィラーとが密着して隙間が確認されない。一方、充填材160がエポキシ樹脂と反応可能な構造を有さない場合には、エポキシ樹脂とフィラーとの間に間隙が確認される。
【0051】
充填材160は、反応性有機フィラーを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0052】
反応性有機フィラーの粒子径は、0.1μm以上5.5μm以下が好ましく、0.1μm以上5.0μm以下がより好ましく、0.1μm以上4.5μm以下がさらに好ましい。平均粒子径は、走査電子顕微鏡により測定される。一方で、反応性有機フィラーの平均粒子径が1.2μm以上であると、上述の累積粒度分布を満たしやすくなる。
【0053】
反応性有機フィラーは、有機フィラーの総量100質量部に対して、10質量部以上30質量部以下が好ましく、10質量部以上25質量部以下がより好ましく、10質量部以上20質量部以下がさらに好ましい。反応性有機フィラーの割合が10質量部以上であると、充填材160内での有機フィラーの分散性が良好になる。一方で、反応性有機フィラーの割合が30質量部以下であると、充填材160を作製する際の充填材用組成物の粘度が過度に高まることなく、上述の第1の溝130bや第2の溝140d等を隙間なく充填できる。
【0054】
上述のように、反応性有機フィラーは、バインダ樹脂との親和性が高いことから、多量に使用すると、第1の溝130b等への充填材160の充填が難しくなることがある。そこで、有機フィラーは、反応性有機フィラーと共に、エポキシ樹脂に対して反応性を有さず、かつ反応性有機フィラーとは異なる粒子径を有するフィラー(以下、「非反応性有機フィラー」とも称する)を含むことが好ましい。
【0055】
非反応性有機フィラーの例には、シリコーン粒子、ウレタン粒子、アクリル粒子、ブタジエン等が含まれる。これらの中でも、シリコーン粒子が低温においてもゴムの弾性率を維持できるとの観点で特に好ましい。充填材160は、非反応性有機フィラーを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0056】
非反応性有機フィラーの粒子径は、0.3μm以上10.0μm以下が好ましく、0.5μm以上7.5μm以下がより好ましく、0.7μm以上5.0μm以下が好ましい。平均粒子径は、走査電子顕微鏡により測定される。非反応性有機フィラーの平均粒子径が2.0μm以上であると、上述の累積粒度分布を満たしやすくなる。
【0057】
非反応性有機フィラーは、有機フィラーの総量100質量部に対して、70質量部以上90質量部以下が好ましく、75質量部以上90質量部以下がより好ましく、80質量部以上90質量部以下がさらに好ましい。非反応性有機フィラーの割合が90質量部以上であると、充填材160を作製する際の充填材用組成物の粘度が過度に高まることなく、上述の第1の溝130bや第2の溝140d等に充填材160を隙間なく形成しやすくなる。一方、非反応性有機フィラーの割合が70質量部以下であると、反応性有機フィラーの量が十分に多くなり、充填材160内に均一に有機フィラーが分散されやすくなる。
【0058】
また、有機フィラーの含有割合(総量)は、充填材100質量部に対して、40質量部以上60質量部以下が好ましく、45質量部以上60質量部以下がより好ましく、50質量部以上60質量部以下がさらに好ましい。有機フィラーの割合が60質量部以上であると、超音波トランスデューサ100の指向性が高まる。一方で、有機フィラーの割合が40質量部以下であると、エポキシ樹脂の割合が十分に多くなり、超音波トランスデューサ100の強度が高まる。
【0059】
充填材160は、上記エポキシ樹脂および有機フィラーの他に、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分の例には、カップリング剤が含まれる。充填材160がカップリング剤を含むと、上述の非反応性有機フィラーの分散性が高まる。カップリング剤の例にはエポキシ基やアミノ基を含むシランカップリング剤やチタンカップリング剤等が含まれる。
【0060】
カップリング剤は市販品であってもよく、その例には、A-186、A-187、A-1871、A-1100、A-1110、A-1120、A-2120、Y-9669(いずれも商品名、モメンティブ社製);KBM-602、KBM-603、KBM-903、KBE-903、KBE-9103P、KBM-573、KBM-575、KBM-303、KBM-402、KBM-403、KBE-402、KBE-403(いずれも商品名、信越化学工業社製);DOWSIL Z-6610 Silane、DOWSIL Z-6011 Silane、XIAMETER OFS-6020 Silane、DOWSIL Z-6094 Silane、DOWSIL Z-6883 Silane、XIAMETER OFS-6032 Silane、DOWSIL Z-6269 Silane、DOWSIL SZ 6032 Silane、XIAMETER OFS-6040 Silane、DOWSIL Z-6044 Silane、DOWSIL Z-6043 Silane(いずれも商品名、DOWSILおよびXIAMETERは登録商標、東レダウコーニング製);S310、S320、S330、S340、S350、S510、S530(いずれも商品名、JNC社製);プレンアクト アミノ基含有の44(味の素ファインテクノ社製)が含まれる。
【0061】
また、充填材160は、無機粒子を少量含んでいてもよいが、無機粒子の量は、充填材160の総量100質量部に対して10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。充填材160中の無機粒子の量が1質量部以下であると、相対的にエポキシ樹脂や有機フィラーの量が十分になり、上述の極度や指向性が得られやすくなる。
【0062】
(超音波トランスデューサの製造方法)
上述の超音波トランスデューサの製造方法は特に制限されず、上述の構造とすることが可能であればよい。以下にその一例を示すが、当該方法に制限されない。
【0063】
当該製造方法では、溝を有していないバッキング材、溝を有していない平板状の電気端子取り出し部、両面に信号電極が形成され、かつ第1の溝を形成していない、平板状の圧電材料を貼り合わせる(貼り合わせ工程)。そして、圧電材(信号電極)上に整合層を形成し(整合層形成工程)、整合層側からバッキング材に向けて複数の溝を形成する(溝形成工程)。その後、溝形成工程で形成した溝に、それぞれ充填材用組成物を充填し、硬化させ(充填材形成工程)、整合層上に音響レンズを貼りつける(音響レンズ貼付工程)。必要に応じて、これら以外の工程を含んでいてもよい。
【0064】
・貼り合わせ工程
貼り合わせ工程では、溝を有していない平板状のバッキング材と、溝を有しておらず、1枚のフィルムに所望の回路等が配置された電気端子取り出し部と、両面に信号電極が形成され、かつ第1の溝を有していない、平板状の圧電材料と、を貼り合わせる。貼り合わせ順序は特に制限されず、先にバッキング材と電気端子取り出し部とを貼り合わせてもよく、圧電材料と電気端子取り出し部とを貼り合わせてもよい。これらの貼り合わせる方法は特に制限されず、例えば接着剤等で接着してもよい。
【0065】
また、圧電材料の表面に信号電極を形成する方法も特に制限されず、例えば金および銀等を蒸着したり、スパッタリングしたりして形成してもよい。また、圧電材料に銀を焼き付けてもよい。さらに、銅等の導体を圧電材に貼り付けてパターニングしてもよい。
【0066】
・整合層形成工程
整合層形成工程では、上記圧電材料(ここでは一方の信号電極)上に整合層を形成する。整合層の形成方法は特に制限されず、予め作製した整合層を1層ずつ貼り合わせてもよく、予め整合層を複数層積層しておき、これを圧電材料に貼り合わせてもよい。さらに、圧電材料上に整合層用組成物を塗布し、硬化させる工程を繰り返し行ってもよい。当該整合層形成工程で形成する整合層は、第2の溝を有していない。
【0067】
なお、整合層形成工程で全ての整合層を形成してもよいが、整合層の一部のみに第2の溝を設ける場合には、溝を設ける整合層のみ形成する。
【0068】
・溝形成工程
溝形成工程では、整合層側からバッキング材にかけて、溝を形成する。溝の形成方法は特に制限されず、上述の第1の溝、第2の溝の幅、圧電材料の厚み等に応じて適宜選択される。例えば、ダイシングソーやダイヤモンドカッターで切削してもよく、Micro ElectroMechanical Systems(MEMS)加工によって切削してもよい。
【0069】
・充填材形成工程
充填材充填工程では、上述の溝形成工程で形成した溝に、充填材用組成物を導入し、硬化させる。このとき、溝に充填材用組成物を充填するだけでなく、上述の整合層上にもう充填材用組成物を塗布して硬化させて、これを整合層の一部(例えば上述の第3整合層140c)としてもよい。この場合、充填材形成工程で形成される整合層(例えば上述の第3整合層140c)は、第2の溝140dを有さない。
【0070】
上記充填材用組成物を溝に充填する方法は特に制限されず、例えばヘラ等によって充填材用組成物を注入してもよい。また、当該充填材用組成物を整合層上に形成する方法も特に制限されず、例えば充填材用組成物を溝に注入する際に使用する、ヘラ等によって塗布してもよい。
【0071】
充填材用組成物は、上記エポキシ樹脂の前駆体(以下、「プレポリマー」とも称する)と、上述の有機フィラーと、必要に応じて硬化剤や、カップリング剤等とを含む組成物である。
【0072】
プレポリマーの例には、上述のエポキシ樹脂のモノマーやオリゴマー等が含まれる。また、上記有機フィラーやカップリング剤は、上述したものと同様である。
【0073】
一方、プレポリマーを硬化させるための硬化剤の例には、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,4-ジアミノ-6-〔2’-メチルイミダゾリル-(1’)〕エチル-s-トリアジンなどのトリアジン化合物;1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU);トリエチレンジアミン;ベンジルジメチルアミン;トリエタノールアミン;鎖状脂肪族ポリアミン;環状脂肪族ポリアミンおよび脂肪芳香族ポリアミンなどの脂肪族ポリアミン;メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等の芳香族アミン;およびアミンアダクトやケチミン等の変性アミン;が含まれる。
【0074】
上記鎖状脂肪族ポリアミンの例には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロプレンジアミンおよびジエチルアミノプロピルアミンが含まれる。
【0075】
上記環状脂肪族ポリアミンの例には、N-アミノエチルピベラジン、ラミロンC-260、AralditHY-964、メンセンジアミン、イソフオロンジアミン、SCure211、SCure212、ワンダミンHM、および1.3BAC(いずれもスリーボンド社製)が含まれる。
【0076】
上記脂肪芳香族ポリアミンの例には、m・キシレンジアミン、ショーアミンX、アミンブラック、ショーアミンブラック、ショーアミンN、ショーアミン1001およびショーアミン1010(いずれもスリーボンド社製)が含まれる。
【0077】
また、上記充填材用組成物の硬化方法は、充填材用組成物中の硬化剤の種類等によって適宜選択されるが、通常、加熱によって固化させることが好ましい。加熱温度は、適宜選択される。加熱は公知の方法によって行うことができ、例えばヒータや恒温槽等によって行うことができる。
【0078】
・音響レンズ貼付工程
上記充填材形成工程後、整合層上に音響レンズを貼り付ける。音響レンズの貼り付け方法は特に制限されず、例えば接着剤等によって接着できる。
【0079】
2.超音波プローブおよび超音波診断装置
上述の超音波トランスデューサは、例えば図3に示すような、超音波プローブ100aや、超音波診断装置10等に使用できる。超音波診断装置10は、上述の超音波トランスデューサを備えた超音波プローブ100a、本体部11、コネクタ部12およびディスプレイ13等を備える。
【0080】
超音波プローブ100aは、上記超音波トランスデューサ(図示せず)を含んでいればよく、コネクタ部12に接続されたケーブル14を介して本体部11と接続される。
【0081】
本体部11からの電気信号(送信信号)は、ケーブル14を通じて超音波プローブ100aの圧電材に送信される。この送信信号は、圧電材によって超音波に変換され、被検査対象内に送波される。送波された超音波は被検査対象内で反射される。そして、当該反射波の一部が圧電材によって受波され、電気信号(受信信号)に変換され、本体部11に送信される。受信信号は、超音波診断装置10の本体部11において画像データに変換されディスプレイ13に表示される。
【0082】
上述の実施の形態の超音波トランスデューサを備える超音波診断装置では、指向性が高く、正確な診断を行うことが可能となる。さらに、上述の超音波トランスデューサは、強度が高く、落下による衝撃等にも耐えられることから、様々な分野の超音波診断装置に使用できる。
【実施例
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
1.超音波トランスデューサの作製
・比較例1
固定板の上に、バッキング材、およびフレキシブルプリント基板(電気端子取り出し部)をこの順に接着剤で接着した。また、両面に信号電極が配置された4.6mm×42.5mmの、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で構成された圧電材料を準備した。そして、一方の信号電極がフレキシブルプリント基板に隣接するように、圧電材とフレキシブルプリント基板とを接着した。
【0085】
次いで、圧電材料およびフレキシブルプリント基板にダイシングソーを用いて、各部材の積層面に垂直な溝を設けた。なお、平面視したときに平行になるように、かつ、複数の溝が等間隔に位置するように、複数の溝を形成して圧電材とした。溝の幅は、20μmとした。また、このとき、バッキング材は完全に切断されないように溝の深さを調整した。
【0086】
次いで、充填材用組成物を以下のように準備した。エポキシ樹脂1(商品名:C1163A、テスク社製)と、有機フィラー含有エポキシ樹脂2(商品名:EP2240、エボニック社製(有機フィラー表面にエポキシ樹脂と反応可能な構造を含む)、フィラーの粒子径:0.1~3μm)と、アミン系硬化剤1(商品名:C1163B、テスク社製)と、アミン系硬化剤2(商品名:ST12、三菱ケミカル社製)とを、質量比33:37:17:13で混合した。
【0087】
そして、上記充填材用組成物をヘラで圧電材上に塗布し、真空脱泡を3分行った。上記圧電材の信号電極上に、3層の整合層(第1整合層および第2整合層、第3整合層)を形成した。各整合層は、いずれも、エポキシ樹脂とフェライトまたはシリコーン微粉末との混錬物の硬化物とした。60℃で4時間加熱後、上記第3整合層上に、音響レンズを接着剤で接着して、超音波トランスデューサ1を得た。
【0088】
上記充填材用組成物をエタノール中に入れ、充填材用組成物中のエポキシ樹脂を除去し、有機フィラーのみを取り出した。そして、当該有機フィラーについて、走査電子顕微鏡(SEM)により200個程度の粒子の粒子径を測定し、当該測定結果に基づいて算出したそして、有機フィラーの累積粒度分布における累積百分率10%値を特定したところ、0.4μmであった。
【0089】
・比較例2
固定板の上に、バッキング材、およびフレキシブルプリント基板(電気端子取り出し部)をこの順に接着剤で接着した。また、両面に信号電極が配置された4.6mm×42.5mmの、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で構成された圧電材料を準備した。そして、一方の信号電極がフレキシブルプリント基板に隣接するように、圧電材料とフレキシブルプリント基板とを接着した。上記圧電材料の信号電極上に、比較例1と同様に、2層の整合層(第1整合層および第2整合層)を形成した。
【0090】
次いで、整合層(第1整合層および第2整合層)、圧電材料層、およびフレキシブルプリント基板に、ダイシングソーを用いて、各部材の積層面に垂直な溝を設けた。なお、平面視したときに平行になるように、かつ、複数の溝が等間隔に位置するように、複数の溝を形成した。溝の幅は、20μmとした。また、このとき、バッキング材は完全に切断されないように溝の深さを調整した。
【0091】
次いで、充填材用組成物を以下のように準備した。シリコーン樹脂(商品名:KE-1604、信越化学工業社製)と、アミン系硬化剤3(商品名:CAT1604、信越化学工業社製)とを質量比、90:10で混合した。
【0092】
そして、ヘラ塗布、真空脱泡3分よって上記充填材用組成物を上記溝に充填した。さらに第3整合層を接着して、60℃で2時間加熱し、その後、上記整合層(第3整合層)上に、音響レンズを接着剤で接着して、超音波トランスデューサ2を得た。
【0093】
・比較例3
充填材用組成物を、エポキシ樹脂1(商品名:C1163A、テスク社製)と、有機フィラー含有エポキシ樹脂2(商品名:EP2240、エボニック社製(有機フィラー表面にエポキシ樹脂と反応可能な構造を含む))と、アミン系硬化剤1(商品名:C1163B、テスク社製)と、アミン系硬化剤2(商品名:ST12、三菱ケミカル社製)とを、質量比33:37:17:13で混合した組成物とし、60℃で4時間加熱した以外は、比較例2と同様に超音波トランスデューサ3を得た。
【0094】
比較例1と同様の方法で、得られた充填材中の有機フィラーのみを有機溶剤で希釈して取り出し、有機フィラーの累積粒度分布における累積百分率10%値を走査電子顕微鏡(SEM)により、比較例1と同様に特定したところ、0.4μmであった。
・比較例4
比較例3の充填材用組成物100質量部に、さらに三酸化タングステン粉末30質量部を加えた組成物を、充填材用組成物とし、60℃で4時間加熱した以外は、比較例2と同様に超音波トランスデューサ4を作製した。
【0095】
比較例1と同様の方法で、得られた充填材中の有機フィラーのみを有機溶剤で希釈して取り出し、有機フィラーの累積粒度分布における累積百分率10%値を走査電子顕微鏡(SEM)により、比較例1と同様の方法により測定したところ、0.4μmであった。
【0096】
・比較例5
比較例3の充填材用組成物100質量部に、さらにシリコーン複合パウダー(商品名:KMP-605、信越化学工業社製、粒子径:0.7~5μm)50質量部加えた組成物を、充填材用組成物とし、60℃で4時間加熱した以外は、比較例2と同様に超音波トランスデューサ5を作製した。
【0097】
比較例1と同様の方法で、得られた充填材中の有機フィラーのみを有機溶剤で希釈して取り出し、有機フィラーの累積粒度分布における累積百分率10%値を走査電子顕微鏡(SEM)により、比較例1と同様の方法により測定したところ、0.8μmであった。
【0098】
・実施例1
比較例3の充填材用組成物100質量部に、さらにシリコーン複合パウダー(商品名:KMP-605、信越化学工業社製、粒子径:0.7~5μm)75質量部加えた組成物を、充填材用組成物とし、60℃で4時間加熱した以外は、比較例2と同様に超音波トランスデューサ6を作製した。
【0099】
比較例1と同様の方法により、得られた充填材中の有機フィラーのみを有機溶剤で希釈して取り出し、有機フィラーの累積粒度分布における累積百分率10%値を走査電子顕微鏡(SEM)により、比較例1と同様の方法により測定したところ、0.9μmであった。
【0100】
・実施例2
比較例3の充填材用組成物100質量部に、さらにシリコーン複合パウダー(商品名:KMP-605、信越化学工業社製、粒子径:0.7~5μm)100質量部加えた組成物を、充填材用組成物とし、60℃で4時間加熱した以外は、比較例2と同様に超音波トランスデューサ7を作製した。
【0101】
比較例1と同様の方法により、得られた充填材中の有機フィラーのみを有機溶剤で希釈して取り出し、有機フィラーの累積粒度分布における累積百分率10%値を走査電子顕微鏡(SEM)により、比較例1と同様の方法により測定したところ、1.0μmであった。
【0102】
2.評価
上記各超音波トランスデューサの指向性および強度について、以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0103】
(1)指向性評価方法
球状のターゲットが配置されている水槽の水面近傍に、上述の超音波トランスデューサを含む超音波プローブを配置した。超音波プローブには、パルサーレシーバーおよびオシロスコープを電気的に接続した。パルサーレシーバーは、オリンパス社製超音波パルサーレシーバー:MODEL5900PRとし、オシロスコープは、TFF社製オシロスコープ:TDS5032とした。
【0104】
そして、水中に浸漬させた超音波プローブのプローブヘッド部から、球状のターゲットに向かって超音波を送信し、反射波を受信することによって、超音波プローブの指向性を求めた。球状のターゲットと、測定対象となる超音波プローブ中の素子との角度を-40°、-30°、-20°、-10°、0°、+10°、+20°、+30°、+40°としたときの指向性、具体的には各角度の送受信周波数特性においてリップルの有無を評価した。なお、球状のターゲットと、測定対象となる超音波プローブ中の素子とが一直線上に位置する場合を0°と設定した。評価は以下の基準とした。
(評価基準)
〇:球状のターゲットと、測定対象となる超音波プローブの測定対象素子との角度が±40°の場合の送受信周波数特性において、最大となる感度SMAXと、リップルとなっている部分の最小の感度SMINの差分ΔSの絶対値が10dB未満である
△:球状のターゲットと、測定対象となる超音波プローブの測定対象素子との角度が±40°の場合の送受信周波数特性において、最大となる感度SMAXと、リップルとなっている部分の最小の感度SMINの差分の絶対値ΔSが10dB以上20dB未満である
×:球状のターゲットと、測定対象となる超音波プローブの測定対象素子との角度が±40°の場合の送受信周波数特性において、最大となる感度SMAXと、リップルとなっている部分の最小の感度SMINの差分の絶対値ΔSが20dB以上である
【0105】
(2)落下試験評価方法
上述の超音波トランスデューサを有する超音波プローブを準備した。そして、先端が鋼球になっており、かつ、超音波プローブ(ケーブル、コネクタは含まない)と同じ重さである重りを超音波プローブの音響レンズ上面に落下させた。重りを落下させる高さは、音響レンズより10cm高い位置から開始し、10cm刻みで上げていった。その都度、超音波プローブの静電容量を評価し、静電容量低下が見られるまで試験を継続し、最大122cmまで試験を行った。
(評価基準)
〇:高さ122cmから重りを落下させた後の超音波トランスデューサの静電容量Saが、試験前の静電容量Sbと比較して、その差分Sa-Sb=ΔScが-5pF以下である素子がない場合
×:高さ122cmから重りを落下させた後の超音波トランスデューサの静電容量Saが、試験前の静電容量Sbと比較して、その差分Sa-Sb=ΔScが-5pF以下である素子が1ch以上ある場合
【0106】
3.結果
【表1】
【0107】
上記表1に示されるように、圧電材が圧電材料を隔てる溝(第1の溝)を有し、かつ当該溝内に、エポキシ樹脂および有機フィラーを含み、さらに有機フィラーの累積粒度分布における累積百分率10%値(D10)が0.9μm以上である場合に、超音波の指向性が良好になり、落下試験の結果も良好になった(実施例1および2)。
【0108】
一方で、充填材が有機フィラーを含んでいたとしても、累積粒度分布における累積百分率10%(D10)が0.9μm未満である場合には、指向性が低くなりやすかった(比較例1、3~5)。また、充填材が有機フィラーを含まないシリコーン樹脂の場合には、指向性は良好であったものの、落下試験の結果が低かった(比較例2)。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の超音波トランスデューサは、機械的強度が高く、かつ指向性に優れている。したがって、各種超音波診断装置等に有用である。
【符号の説明】
【0110】
10 超音波診断装置
11 本体部
12 コネクタ部
13 ディスプレイ
14 ケーブル
100 超音波トランスデューサ
100a 超音波プローブ
110 バッキング材
120 電極端子取り出し部
130 圧電材
130a 圧電材料
130b 第1の溝
140 整合層
140a 第1の整合層
140b 第2の整合層
140c 第3の整合層(最上層)
140d 第2の溝
150 音響レンズ
160 充填材
170a、170b 信号電極
図1
図2
図3