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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】切削加工監視システム
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20250128BHJP
【FI】
B23Q17/09 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021044522
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022143805
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】久保 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 涼太
(72)【発明者】
【氏名】今井 康晴
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-107311(JP,A)
【文献】特開2020-163564(JP,A)
【文献】特開2019-014005(JP,A)
【文献】特開2018-118359(JP,A)
【文献】特開2013-132706(JP,A)
【文献】特開2007-190628(JP,A)
【文献】特開平06-155239(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0262392(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102009031166(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0116725(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00-23/00
G01H 1/00-17/00
B23B 1/00-25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋削工具の旋削加工中の工具刃先を連続的に撮影するカメラと、
前記工具刃先と前記カメラとを直接または他の部材を介して連結し、前記工具刃先の振動を前記カメラに伝達する振動伝達部材と、
前記カメラが撮影した各画像に写った情報の経時的な変化に基づいて、前記旋削工具の振動状態を解析する解析部と、を備える、
切削加工監視システム。
【請求項2】
前記振動伝達部材は、前記工具刃先の振動を増幅させて前記カメラに伝達する、
請求項1に記載の切削加工監視システム。
【請求項3】
前記解析部は、各前記画像に写る刃先稜線の輪郭長の変化に基づいて、振動発生の有無を解析する、
請求項1または2に記載の切削加工監視システム。
【請求項4】
前記解析部は、各前記画像に写る刃先稜線の位置の変化に基づいて、振動発生の有無を解析する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の切削加工監視システム。
【請求項5】
前記解析部は、各前記画像に写る前記工具刃先の特徴点の位置の変化に基づいて、振動発生の有無を解析する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の切削加工監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、切削加工におけるトラブルや加工品位の低下を防止するために用いられる切削加工監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤加工では一般に、工具刃先の摩耗や欠損などの発生をいち早く察知し、工具を交換するなどの対応が必要となる。このため従来、工具刃先をカメラで撮影し、その画像から刃先の状態を調べる方法が知られている。例えば、特許文献1では、切削前後の待機状態にて工具刃先をカメラで撮影し、二値画像から摩耗量を判定している。また、特許文献2では、切削中の工具刃先を赤外線カメラでとらえ、それをニューラルネットワークで学習することで異常判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-114694号公報
【文献】特開平11-267949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、切削中の工具刃先の振動発生の有無を検知することができなかった。具体的には、例えば、工具刃先の損傷に起因して切削抵抗が高まることにより発生する振動や、切削条件の不適切さから生じるびびり振動などをリアルタイムに検知することが困難であった。
【0005】
本発明は、切削中の工具刃先の振動発生の有無をリアルタイムに検知することができる切削加工監視システムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切削加工監視システムの一つの態様は、旋削工具の旋削加工中の工具刃先を連続的に撮影するカメラと、前記工具刃先と前記カメラとを直接または他の部材を介して連結し、前記工具刃先の振動を前記カメラに伝達する振動伝達部材と、前記カメラが撮影した各画像に写った情報の経時的な変化に基づいて、前記旋削工具の振動状態を解析する解析部と、を備える。
【0007】
本発明では、旋削加工中の工具刃先を、カメラにより連続的に、すなわちリアルタイムで撮影する。なお本発明でいう「連続的に撮影する」とは、少なくとも毎秒10コマ以上の画像を撮影することを指す。そして、取得した複数の画像を経時的に比較し、画像情報の変化からカメラのブレの大きさや周期などを記憶し、その結果を切削時の振動の異常判定に用いる。また、切削条件改善のための指標とすることができる。なお本発明でいう「振動」とは、例えば、工具刃先の損傷に起因して切削抵抗が高まることにより発生する振動や、切削条件の不適切さから生じるびびり振動などが含まれる。
【0008】
本発明によれば、振動伝達部材により、工具刃先の振動が安定してカメラに伝達される。このため、カメラが撮影した画像情報に基づいて、解析部が振動発生の有無をリアルタイムで正確に解析できる。
以上より本発明によれば、切削中の工具刃先の振動発生の有無をリアルタイムに検知することができる。
【0009】
上記切削加工監視システムにおいて、前記振動伝達部材は、前記工具刃先の振動を増幅させて前記カメラに伝達することが好ましい。
【0010】
この場合、例えば工具刃先の振動が小さい場合でも、振動伝達部材を介することで振動が増幅されるため、カメラが撮影する画像情報に振動発生による経時的な変化が安定して現れる。このため、より高精度に振動発生の有無を検知できる。このような作用(機能)を有する場合、振動伝達部材は振動増幅部材と言い換えてもよい。
【0011】
上記切削加工監視システムにおいて、前記解析部は、各前記画像に写る刃先稜線の輪郭長の変化に基づいて、振動発生の有無を解析することとしてもよい。
【0012】
切削中にカメラで連続的に撮影される画像の中には、工具刃先が切屑で隠れたものや、溶着が多く付着して刃先が見えづらいものなどが含まれている。そこで、例えば、連写される多数の画像の中から、切刃の輪郭(刃先稜線)が所定刃長以上写っているものを所定のパターンとして分類し、所定のパターンに分類された各画像の刃先稜線の輪郭長の経時的な変化を測定することで、工具刃先の振動発生の有無をより正確に解析することができる。具体的には、例えば、cannyフィルタ等の画像処理により、撮像視野内の刃先稜線(エッジ)を検出し、各画像のエッジのピクセル数つまり刃先稜線の輪郭長の経時的な変化(ピクセル数の増減の幅や周期など)を測定することで、刃先の振動発生の有無を検知することができる。
【0013】
上記切削加工監視システムにおいて、前記解析部は、各前記画像に写る刃先稜線の位置の変化に基づいて、振動発生の有無を解析することとしてもよい。
【0014】
この場合、解析部は、例えば画像処理により、各画像の撮像視野の外枠(撮像視野の外縁)のうち一辺と、刃先稜線との間の距離を測定する。刃先稜線の経時的な位置変化量や周期などを測定することで、より簡易的な手法により、工具刃先の振動発生の有無を解析できる。
【0015】
上記切削加工監視システムにおいて、前記解析部は、各前記画像に写る前記工具刃先の特徴点の位置の変化に基づいて、振動発生の有無を解析することとしてもよい。
【0016】
この場合、解析部は、各画像情報から、例えばすくい面上の模様の一部を構成する特徴点の経時的な位置の変化を測定する。これにより、簡易的な手法によって、工具刃先の振動発生の有無を解析できる。なお、特徴点として、切削時の切屑や溶着による影響を受けにくい部分、つまり切屑や溶着によって隠されにくい部分を選択することで、解析の精度をより安定して高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一つの態様の切削加工監視システムによれば、切削中の工具刃先の振動発生の有無をリアルタイムに検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、第1実施形態の旋削装置の一例を示す側面図である。
図2図2は、第1実施形態の切削加工監視システムの一例を示す機能ブロック図である。
図3図3は、分類部により第1のパターンに分類される画像の一例を示す。
図4図4は、分類部により第2のパターンに分類される画像の一例を示す。
図5図5は、分類部により第3のパターンに分類される画像の一例を示す。
図6図6は、第1のパターンに分類された画像の解析(画像処理)の一例を示す。
図7図7は、第1実施形態の切削加工監視装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、第2実施形態の切削加工監視システムにおいて、取得した各画像に写る刃先稜線の経時的な位置の変化を示すグラフの一例である。
図9図9は、第2実施形態の切削加工監視装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、第2実施形態の切削加工監視システムの変形例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態の切削加工監視システム10について、図1図7を参照して説明する。本実施形態の切削加工監視システム10は、旋削装置20と、切削加工監視装置30と、を含む。
【0020】
図1および図2に示すように、旋削装置20は、NC旋盤等の工作機械である。旋削装置20は、金属製等の被削材Wを旋削加工する装置である。すなわち、切削加工監視システム10は、NC旋盤等の工作機械による旋削加工(旋盤加工)に用いられる。旋削加工とは、バイト等の旋削工具による切削加工を指す。
【0021】
旋削装置20は、旋削工具21と、刃物台22と、カメラ23と、振動伝達部材24と、チャック(図示省略)と、を備える。つまり切削加工監視システム10は、カメラ23と、振動伝達部材24と、を備える。
【0022】
図1に示すように、旋削工具21は、例えば、ホルダ25の先端部に切削インサート26が着脱可能に取り付けられる刃先交換式バイト等である。すなわち、旋削工具21は、ホルダ25と、切削インサート26と、を有する。なおこの構成に限らず、旋削工具21は、例えば、工具刃先がホルダと一体に形成されたソリッドタイプのバイト等であってもよい。
【0023】
ホルダ25は、一方向に延びる柱状である。図1に示す例では、ホルダ25が延びる一方向が、水平面Hに対して角度θで傾斜する。角度θは、例えば30°などである。ホルダ25の後端部は、刃物台22に支持される。旋削工具21と刃物台22とは、一体に固定される。
【0024】
切削インサート26は、例えば超硬合金製等である。切削インサート26は、例えば、四角形板状などの多角形板状、または円板状等である。本実施形態では切削インサート26が、例えば菱形板状である。
図3に示すように、切削インサート26は、すくい面26aと、図示されない逃げ面と、すくい面26aと逃げ面との稜線部に配置される切刃26bと、を有する。本実施形態では、切削インサート26の少なくとも一部、具体的には、少なくともすくい面26aおよび切刃26bを含む部分を、単に「工具刃先」または「刃先」と呼ぶ場合がある。
【0025】
すくい面26aは、切削インサート26の板厚方向を向く一対の板面のうち、少なくとも一方の板面に配置される。図1に示すように、すくい面26aは、切削インサート26の上側を向く一方の板面、つまり上面に配置される。図1に示す例では、すくい面26aが、水平面Hに対してホルダ25が傾斜する角度θと略同じ角度で、水平面Hに対して傾斜する。
【0026】
図5に示すように、本実施形態のすくい面26aは、特徴点26cを有する。特徴点26cは、すくい面26aに設けられる模様の一部を構成する。特徴点26cは、例えば、切屑Cの排出処理を円滑に行う目的、外観デザイン性を高める目的、および識別性を高める目的などですくい面26aに設けられる。本実施形態では特徴点26cが、例えば、突起状のチップブレーカ等である。
【0027】
図1に示すように、切刃26bは、旋削工具21の先端部に配置される。中心軸O回りに回転する被削材Wに対して、切刃26bが接触させられることにより、被削材Wに旋削加工が行われて、図5に示すような加工面Waが形成される。
【0028】
本実施形態では、図3に示すように切削インサート26の上面すなわちすくい面26aを正面に見て、切刃26bが、略V字状である。具体的に、この切刃26bは、曲線状に延びる1つのコーナ刃と、このコーナ刃の両端に接続されて直線状に延びる一対の直線刃と、を有する。
【0029】
図1に示すように、刃物台22は、旋削工具21を支持する。刃物台22は、被削材Wに対して旋削工具21を、少なくとも水平面が拡がる方向、すなわち水平面の面方向に沿って移動させる。なお刃物台22は、被削材Wに対して旋削工具21を、鉛直方向に移動させてもよい。
【0030】
カメラ23は、旋削工具21および被削材Wの上側に配置される。カメラ23は、例えば、グローバルシャッター方式のカメラである。カメラ23は、工具刃先を連続的に撮影する。なお本実施形態でいう「連続的に撮影する」とは、少なくとも毎秒10コマ以上の画像を撮影することを指す。具体的に本実施形態では、カメラ23が、例えば毎秒30コマ以上の速さで工具刃先を連写する。切削時において、カメラ23は、工具刃先とともに被削材Wの加工面Waも撮影する。
【0031】
本実施形態ではカメラ23が、すくい面26aと垂直な方向から、工具刃先を撮影する。具体的に、カメラ23は、鉛直方向に対して所定角度だけ傾斜した方向から、工具刃先を撮影する。この所定角度は、すくい面26aが水平面Hに対して傾斜する角度(角度θに相当)と、略同じ角度である。カメラ23と工具刃先との間の距離は、例えば、300mm以上である。
【0032】
カメラ23は、振動伝達部材24を介して刃物台22と固定される。このため、カメラ23は、刃物台22の移動に追随して移動可能である。カメラ23は、例えば図3図5に示すように、撮像視野内の工具刃先が同一位置となるように旋削工具21に対して位置決めされる。
【0033】
振動伝達部材24は、旋削工具21の工具刃先とカメラ23とを、直接または他の部材を介して連結する。図1に示すように、本実施形態では振動伝達部材24が、工具刃先とカメラ23とを、旋削工具21の一部(ホルダ25)および刃物台22を介して、間接的に連結する。振動伝達部材24は、その先端部がカメラ23と接続され、後端部が刃物台22と接続される。振動伝達部材24は、屈曲または湾曲するアーム状の部材である。振動伝達部材24の全長は、例えば300mm以上である。
【0034】
振動伝達部材24は、工具刃先の振動を直接または他の部材を介して間接的に、カメラ23に伝達する。振動伝達部材24は、工具刃先の振動を増幅させて、カメラ23に伝達する。このため本実施形態において、振動伝達部材24は、振動増幅部材24と言い換えてもよい。
なお本実施形態でいう「振動」とは、例えば、工具刃先の損傷に起因して切削抵抗が高まることにより発生する振動や、切削条件の不適切さから生じるびびり振動などが含まれる。
【0035】
振動伝達部材24は、少なくとも2つ以上の軸部24aと、隣り合う軸部24aの端部同士を接続する少なくとも1つ以上の関節部24bと、振動伝達部材24の後端部と刃物台22とを固定する固定台24cと、を有する。
【0036】
軸部24aは、例えばシャフトやパイプ等である。
関節部24bは、図示しないノブ等を操作することにより、軸部24aの端部同士を回動不能に固定するロックモードと、軸部24aの端部同士を回動可能に連結するフリーモードと、に切り替え可能である。関節部24bが設けられることで、振動伝達部材24は、変形可能である。振動伝達部材24の形状を変化させることにより、カメラ23は、工具刃先と正対するように位置調整可能である。なお切削時において、関節部24bはロックモードとされる。
【0037】
固定台24cは、例えば磁力等により、振動伝達部材24を刃物台22に固定する。このため、振動伝達部材24は、刃物台22に対して取り付け位置を調整可能である。すなわち本実施形態では、固定台24cの刃物台22への取り付け位置を調整することによっても、カメラ23を、工具刃先と正対するように位置調整可能である。
【0038】
特に図示しないが、チャックは、被削材Wを着脱可能に保持する。チャックは、被削材Wをその中心軸O回りに回転させる。
【0039】
また特に図示しないが、旋削装置20は、切刃26bや加工面Waの輪郭を強調するためのバックライトや、すくい面26aを照らすフロントライトを備えていてもよい。これにより、カメラ23のシャッタースピードをより高めてもよい。
【0040】
図2に示すように、切削加工監視装置30は、画像取得部31と、記憶部32と、分類部33と、解析部34と、表示部35と、を備える。つまり切削加工監視システム10は、分類部33と、解析部34と、を備える。
【0041】
画像取得部31は、カメラ23が撮影した画像つまり画像データを取得する。画像取得部31は、取得した画像情報を記憶部32に記憶させる。なお、切削加工監視装置30は、例えば、取得した画像情報と、工具ID、装置IDおよびユーザID等とを対応付けて、記憶部32に記憶させてもよい。
【0042】
記憶部32は、切削加工監視装置30が利用する各種情報を記憶する。記憶部32は、取得した画像情報を記憶する。記憶部32は、例えば、分類部33が画像を分類するために用いるディープラーニングの教師データや学習結果等を記憶する。
【0043】
分類部33は、例えば、記憶部32に記憶された学習結果に基づいて、ディープラーニングによる画像分類を実行する。すなわち、分類部33は、カメラ23が撮影した複数の画像を、各画像に写った情報に基づいて複数のパターンのいずれかに分類する。本実施形態では、複数のパターンが、第1のパターン(刃先稜線)と、第2のパターン(溶着)と、第3のパターン(被削材の加工面)と、を含む。
【0044】
具体的に、分類部33は、図3に示すように、撮像視野内に切刃26bの所定刃長以上の刃先稜線が写った画像を、複数のパターンのうち第1のパターンに分類する。図3に示す一例では、切刃26bが被削材Wと接触しておらず、撮像視野内において刃先稜線全体が明確に写っている。
【0045】
また、分類部33は、図4に示すように、工具刃先に溶着TAが写った画像を、複数のパターンのうち第2のパターンに分類する。図4に示す一例では、工具刃先に付着した溶着TAによって、すくい面26aの少なくとも一部と、切刃26bの少なくとも一部とが隠されている。
【0046】
また、分類部33は、図5に示すように、被削材Wの加工面Waが写った画像を、複数のパターンのうち第3のパターンに分類する。図5に示す一例では、切刃26bにより切削された直後の加工面Waの表面および輪郭が明確に写っている。
なお図3図5に示す各画像は、図1に示すように、板状の被削材Wを旋削加工した際に撮影された工具刃先の画像である。この際の被削材Wの材質はステンレスであり、被削材Wの回転数は毎分100回であり、切削はドライ環境にて行った。
【0047】
分類部33による画像の分類は、例えば下記の方法により行われる。
まず、被削材Wを本切削加工する前に行うテスト切削加工にて、カメラ23により複数の画像を撮影する。これにより取得した複数の画像を、切刃26bが被削材Wに接触しておらず刃先稜線が明確に見える第1のパターン(刃先稜線)と、切刃26bが被削材Wに接触していないがすくい面26aに溶着TAが載っている第2のパターン(溶着)と、切刃26bが被削材Wと接触した瞬間を捉えた第3のパターン(被削材の加工面)と、に分類して記憶し(教師データ)、この分類方法をディープラーニングによって学習する。すなわち、記憶部32の教師データに基づいて、第1~第3のパターンの分類を推定する機械学習を実行し、その学習結果を記憶部32にフィードバックするなどにより、画像分類の判定精度を高める。
なお、この分類は一例であり、どのような分類の方法が適切かは、切削条件や被削材Wの種類、形状などによって異なる。
また、上述した画像データの分類(選別)には、画像自動認識ソフトウェアであるHALCON(株式会社リンクス製)などを用いることができる。
【0048】
解析部34は、カメラ23が撮影した各画像に写った情報の経時的な変化に基づいて、旋削工具21の振動状態を解析する。本実施形態では解析部34が、複数のパターンのうち第1のパターン(所定のパターン)に分類された各画像情報の経時的な変化から、工具刃先の振動状態を解析する。解析部34としては、例えば、画像処理プログラムなどを用いることができる。
【0049】
具体的に、解析部34は、第1のパターンに分類された各画像に写る刃先稜線の輪郭長の変化に基づいて、振動発生の有無を解析する。より詳しくは、旋削工具21に振動が発生した場合には、各画像に写る切刃26bの位置が相互に変化し、これにともなって、各画像の撮像視野内に含まれる刃先稜線の刃長つまり輪郭長も変化するので、この現象を利用して解析を行う。
【0050】
図6は、解析部34により切刃26bの刃先稜線を画像処理した一例を示している。図6に示すように、本実施形態では解析部34が、例えば、cannyフィルタ等の画像処理により、撮像視野内の切刃26bの刃先稜線(エッジ)を検出し、各画像のエッジのピクセル数つまり刃先稜線の輪郭長の経時的な変化(ピクセル数の増減の幅や周期など)を測定することで、刃先の振動発生の有無を解析する。
このようにして、解析部34は旋削工具21の振動状態を解析する。なお上記解析は一例であり、第1のパターンの解析に他の解析方法を用いてもよい。
【0051】
また解析部34は、第2のパターンに分類された各画像を解析する。また解析部34は、第3のパターンに分類された各画像を解析する。第2、第3のパターンの各解析内容については、説明を省略する。
【0052】
表示部35は、切削加工監視システム10の各種情報を表示する。表示部35には、例えば、上述した解析部34の解析結果などが表示される。
【0053】
図7は、切削加工監視装置30の処理の一例を示すフローチャートである。
図7に示すように、まず、画像取得部31が、カメラ23から出力される画像情報を取得する(ステップS1)。
次に、分類部33は、記憶部32に記憶された学習結果に基づいて、各画像を第1~第3のパターンに分類する(ステップS2)。すなわち、分類部33は、取得した画像情報を学習結果と照らし合わせることにより、各画像を第1~第3のパターンのいずれかに分類する。
【0054】
次に、解析部34は、第1のパターン(所定のパターン)に分類された各画像に写る情報の経時的な変化に基づいて、工具刃先の振動発生の有無を解析する(ステップS3)。すなわち、解析部34は、画像処理を用いて、第1のパターン(刃先稜線)に分類された各画像情報とその経時的な変化から、上述したような解析を行う。
次に、表示部35が、解析部34から出力された解析結果を表示する(ステップS4)。ステップS4の処理後に、切削加工監視装置30は、上記一例の処理を終了する。
【0055】
以上説明した本実施形態の切削加工監視システム10では、旋削加工中の工具刃先を、カメラ23により連続的に、すなわちリアルタイムで撮影する。そして、取得した複数の画像を経時的に比較し、画像情報の変化からカメラ23のブレの大きさや周期などを記憶し、その結果を切削時の振動の異常判定に用いる。また、切削条件改善のための指標とすることができる。
【0056】
本実施形態によれば、振動伝達部材24により、工具刃先の振動が安定してカメラ23に伝達される。このため、カメラ23が撮影した画像情報に基づいて、解析部34が振動発生の有無をリアルタイムで正確に解析できる。
以上より本実施形態によれば、切削中の工具刃先の振動発生の有無をリアルタイムに検知することができる。
【0057】
また本実施形態では、振動伝達部材(振動増幅部材)24が、工具刃先の振動を増幅させてカメラ23に伝達する。
この場合、例えば工具刃先の振動が小さい場合でも、振動伝達部材24を介することで振動が増幅されるため、カメラ23が撮影する画像情報に振動発生による経時的な変化が安定して現れる。このため、より高精度に振動発生の有無を検知できる。
【0058】
また本実施形態では、解析部34が、各画像に写る刃先稜線の輪郭長の経時的な変化に基づいて、振動発生の有無を解析する。具体的には、解析部34が、分類部33によって第1のパターン(所定のパターン)に分類された各画像を用いて、上記解析を行う。
切削中にカメラ23で連続的に撮影される画像の中には、工具刃先が切屑Cで隠れたものや、溶着TAが多く付着して刃先が見えづらいものなどが含まれている。そこで、例えば、連写される多数の画像の中から、切刃26bの輪郭(刃先稜線)が所定刃長以上写っているものを所定のパターンとして分類し、所定のパターンに分類された各画像の刃先稜線の輪郭長の経時的な変化を測定することで、工具刃先の振動発生の有無をより正確に解析することができる。
【0059】
また本実施形態では、分類部33が、ディープラーニングによる画像分類を実行する。
この場合、分類部33による分類の判定精度が、ディープラーニング(深層学習)により安定して高められる。
【0060】
また本実施形態では、カメラ23が、すくい面26aと垂直な方向から、つまりすくい面26aと正対する方向から、工具刃先を撮影する。
この場合、カメラ23が工具刃先に焦点を合わせやすく、上述した本実施形態による作用効果がより安定して得られる。
【0061】
また本実施形態では、カメラ23と工具刃先との間の距離が、300mm以上である。
上記距離が300mm以上であると、例えば、切削インサート26を新しいものに交換したり、切刃26bをインデックス(使用コーナを変更)したりする場合に、つまり刃先交換する場合において、カメラ23が作業の邪魔になりにくい。また、切削中に切屑Cが延びたり飛散したりした場合でもカメラ23に接触しにくいため、有効な画像を安定して取得できる。
【0062】
また本実施形態では、振動伝達部材24の全長が、300mm以上である。
上記全長が300mm以上であると、工具刃先の振動が好適に増幅されて、カメラ23に安定して伝達されやすくなる。
【0063】
また本実施形態では、振動伝達部材24が変形可能である。
この場合、振動伝達部材24の形状を変化させることにより、カメラ23が工具刃先と正対するように位置調整可能である。このため、例えば、旋削工具21の工具形状や種類、被削材Wの形状等が変更された場合でも、簡単な調整により、カメラ23によって工具刃先を正確に撮影できる。
【0064】
また本実施形態では、振動伝達部材24が磁力等により、刃物台22に対して取り付け位置を調整可能に固定される。
この場合、振動伝達部材24の刃物台22への取り付け位置を適宜変更することで、カメラ23が工具刃先と正対するように位置調整可能である。このため、例えば、旋削工具21の工具形状や種類、被削材Wの形状等が変更された場合でも、簡単な調整により、カメラ23によって工具刃先を正確に撮影できる。
【0065】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態の切削加工監視システム40について、図2図3図5、および図8図10を参照して説明する。なお本実施形態では、前述の実施形態と同じ構成については同じ符号を付して、その説明を省略する場合がある。
【0066】
図2において、本実施形態の切削加工監視システム40は、前述の実施形態とは、少なくとも解析部34の解析内容が異なる。
本実施形態では解析部34が、例えば、分類部33により所定のパターンに分類された画像のみを対象にするのではなく、カメラ23が撮影したすべての画像を対象に、各画像に写った情報の経時的な変化に基づいて、旋削工具21の振動状態を解析する。このため本実施形態では、図10に示す切削加工監視システム40の変形例のように、切削加工監視装置30が、分類部33を備えていなくてもよい。
【0067】
具体的に、本実施形態では解析部34が、各画像に写る切刃26bの刃先稜線の位置の変化に基づいて、振動発生の有無を解析する。
図3に示すように、解析部34は、例えば画像処理により、各画像の撮像視野の外枠(撮像視野の外縁)のうち一辺Vと、切刃26bの刃先稜線との間の距離Dを、ピクセル数として測定する。
【0068】
図8に示すグラフは、各画像から得られた距離Dの経時的な変化を表している。図8においては、横軸(切削時間)の符号P付近より、縦軸(距離D ピクセル数)の増減の幅が大きくなっている。つまり、切削時間のP時点より、旋削工具21に振動が発生したことが推定できる。
【0069】
あるいは、図5に示すように、解析部34は、各画像に写る工具刃先の特徴点26cの位置の変化に基づいて、振動発生の有無を解析してもよい。特徴点26cの経時的な位置の変化に基づく解析方法については、例えば、上述した刃先稜線の経時的な位置の変化に基づく解析方法と同様に行うことができる。
【0070】
図9は、本実施形態の切削加工監視装置30の処理の一例を示すフローチャートである。
図9に示すように、まず、画像取得部31が、カメラ23から出力される画像情報を取得する(ステップS11)。
次に、解析部34は、取得した各画像(全画像)に写る情報の経時的な変化に基づいて、工具刃先の振動発生の有無を解析する(ステップS12)。すなわち、解析部34は、画像処理を用いて、各画像情報とその経時的な変化から、上述したような解析を行う。
次に、表示部35が、解析部34から出力された解析結果を表示する(ステップS13)。ステップS13の処理後に、切削加工監視装置30は、上記一例の処理を終了する。
【0071】
以上説明した本実施形態の切削加工監視システム40によれば、前述の実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0072】
また本実施形態では、解析部34が、各画像に写る刃先稜線の経時的な位置の変化に基づいて、振動発生の有無を解析する。
この場合、刃先稜線の経時的な位置変化量や周期などを測定することで、より簡易的な手法により、工具刃先の振動発生の有無を解析できる。
【0073】
また本実施形態において、解析部34が、各画像に写る工具刃先の特徴点26cの経時的な位置の変化に基づいて、振動発生の有無を解析することとしてもよい。
この場合にも、簡易的な手法によって、工具刃先の振動発生の有無を解析できる。なお、特徴点26cとして、切削時の切屑Cや溶着TAによる影響を受けにくい部分、つまり切屑Cや溶着TAによって隠されにくい部分を選択することで、解析の精度をより安定して高めることができる。
【0074】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0075】
前述の実施形態では、振動伝達部材24が、ロックモードとフリーモードとに切り替え可能であり、すなわち変形可能に構成される例を挙げたが、これに限らない。振動伝達部材24は、変形不能に構成されていてもよい。また刃先振動を安定してカメラ23に伝達できればよいことから、その形状はアーム状に限らない。
また振動伝達部材24は、刃物台22の代わりに、例えばホルダ25等に固定されていてもよい。
【0076】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態および変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の切削加工監視システムによれば、切削中の工具刃先の振動発生の有無をリアルタイムに検知することができる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0078】
10,40…切削加工監視システム、21…旋削工具、23…カメラ、24…振動伝達部材(振動増幅部材)、26c…特徴点、34…解析部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10