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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】離型フィルム、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20250128BHJP
   B05D 5/08 20060101ALI20250128BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20250128BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
B32B27/36
B05D5/08 Z
H05K3/46 B
H05K3/46 G
B32B27/00 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021051894
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149646
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 公典
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/129962(WO,A1)
【文献】特開2000-117899(JP,A)
【文献】特開2001-205763(JP,A)
【文献】特開2017-111855(JP,A)
【文献】国際公開第2019/073737(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/123248(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B05D
H05K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムと、
前記ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に設けられた離型層とを備え、
前記離型層の算術平均粗さRaが20nm以下であり、前記離型層の十点平均粗さRzが300nm以下であり、
前記離型層の表面自由エネルギーが20dyne/cm~32dyne/cmであり、
熱収縮率が、長手方向で1.5%以下であり、幅方向で0.0%~0.5%であ
前記離型層が離型剤を含有し、前記離型剤が長鎖アルキル基含有化合物であり、
前記ポリエステルフィルムがポリエチレンナフタレートフィルムである、
多層プリント配線板を製造するための離型フィルム。
【請求項2】
前記離型層が光硬化性樹脂を含有する、請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項3】
記離型層が硬化されている、請求項1または2に記載の離型フィルム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の離型フィルムを製造する方法であって、
前記離型層を形成するための塗工液を前記ポリエステルフィルムに塗る工程と、
前記ポリエステルフィルム上の前記塗工液を、前記ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂のガラス転移点以下の温度で乾燥させる工程とを含む、
離型フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記塗工液を乾燥させる前記工程によって形成された塗膜を光硬化させる工程をさらに含む、請求項4に記載の離型フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型フィルム、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層プリント配線板は、表面導体層を含めた複数の層(たとえば3層以上)に導体パターンがあるプリント配線板である。多層プリント配線板は、内層基板に絶縁層と導体層を交互に積み重ねるビルドアップ法で製造される。
【0003】
多層プリント配線板を製造するためのビルドアップ法では、たとえば、絶縁層と、絶縁層を支持する離型フィルムとを備えるビルドアップ用フィルムを被着体(たとえば導体層)に積層し、絶縁層を熱硬化させる、という手順を踏むことがある(たとえば特許文献1参照)。ビルドアップ法では、絶縁層に穴(すなわちバイアまたはビアホール)を形成する目的で、離型フィルム越しに絶縁層にレーザーを照射することもある。
【0004】
ところで、特許文献2にはプリプレグ保護用フィルムが記載されている。このプリプレグ保護用フィルムは、ポリエチレンナフタレートフィルムと離型層とを備える。このプリプレグ保護用フィルムは、プリプレグの表面に異物が付着することを防止するために、プリプレグに貼り合わせるものである。なお、プリプレグとは、ガラス布などの補強材に樹脂を含浸させたうえで、Bステージまで硬化させたシート状の材料である。
【0005】
プリプレグ保護用フィルムへの要求特性と、ビルドアップ法向け離型フィルムへの要求特性とは同じではない。なぜなら、これらの用途が異なるためである。実際、ビルドアップ法向け離型フィルムは、プリプレグ保護用フィルムに比べて高度な平面性が求められる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-37957号公報
【文献】特開2001-205763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それはさておき、ビルドアップ法では、絶縁層の熱硬化によって絶縁層の浮き(すなわち、絶縁層が離型フィルムから部分的に分離すること)が生じることがある。絶縁層の浮きは抑制することが望ましい。
【0008】
これに加えて、絶縁層から離型フィルムを剥離する際の剥離力は強過ぎないことが望ましい。なぜなら、この剥離力が過度に強いと、絶縁層の破れや、絶縁層の部分的な残留(具体的には、絶縁層が離型層に部分的に残留すること)が生じることがあるためである。
【0009】
本発明は、絶縁層の浮きを抑制することができ、しかも、絶縁層から離型フィルムを剥離する際の剥離力が過度に強くなることを回避することができる離型フィルム、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明は、下記項1の構成を備える。
【0011】
項1
ポリエステルフィルムと、
前記ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に設けられた離型層とを備え、
前記離型層の算術平均粗さRaが20nm以下であり、前記離型層の十点平均粗さRzが300nm以下であり、
前記離型層の表面自由エネルギーが20dyne/cm~32dyne/cmであり、
熱収縮率が、長手方向で1.5%以下であり、幅方向で0.0%~0.5%である、
離型フィルム。
ここで、熱収縮率は、離型フィルム(これは、離型フィルムから切り出したフィルムサンプルであり得る)を、150℃で30分間加熱したときの熱収縮率である。熱収縮率は、次の式で算出される。
熱収縮率=(ΔL/L)×100
ここで、Lは、加熱前の標点間距離である。ΔLは、加熱による寸法変化量である。ΔLは、加熱前の標点間距離(L)から加熱後の標点間距離(L)を引くことによって求められる。
【0012】
項1によれば、離型フィルムがポリエステルフィルムを備えるため、絶縁層(具体的には、多層プリント配線板を製造するための絶縁層)を支持することができる。それに加えて、ポリエステルフィルムのため、剛性や耐熱性が優れている。
【0013】
しかも、離型フィルムが離型層を備えるため、絶縁層から離型フィルムを容易に剥離することができる。
【0014】
そのうえ、離型層の算術平均粗さRaが20nm以下であり、離型層の十点平均粗さRzが300nm以下であるため、絶縁層の表面(具体的には、離型層と接していた表面)が過度に粗くなることを防止でき、その結果、絶縁層上への配線の形成(たとえば微細配線の形成)が可能となる。
【0015】
さらに、離型層の表面自由エネルギーが32dyne/cm以下であるため、離型フィルムを絶縁層から剥離する際の剥離力が過度に強くなることを回避することができる。よって、絶縁層の部分的な残留(具体的には、絶縁層が離型層に部分的に残留すること)や、絶縁層の破れを抑制または低減することができる。
【0016】
さらに、離型層の表面自由エネルギーが20dyne/cm以上であるため、離型層と絶縁層との密着力が過度に低くなることを防止でき、その結果、絶縁層の浮きを抑制することができる。
【0017】
さらに、熱収縮率が、幅方向で0.0%以上であるため、絶縁層を熱硬化させる際に離型フィルムの幅方向の熱膨張が実質的に生じず、その結果、絶縁層の浮きを抑制することができる。
【0018】
さらに、熱収縮率が、長手方向で1.5%以下であり、幅方向で0.5%以下であるため、絶縁層を熱硬化させる際に生じ得る離型フィルムの熱収縮を抑制することができ、その結果、絶縁層の厚みのばらつきを抑えることができる。
【0019】
本発明は、下記項2以降の構成をさらに備えることが好ましい。
【0020】
項2
前記ポリエステルフィルムがポリエチレンナフタレートフィルムである、項1に記載の離型フィルム。
【0021】
項2によれば、ポリエステルフィルムがポリエチレンナフタレートフィルムであるため、離型フィルムの剛性や耐熱性を高めることができる。その結果、たとえば、穴を形成する目的で離型フィルム越しに絶縁層にレーザーを照射した際の穴形状の均一性を高めることができる。
【0022】
項3
前記離型層が離型剤を含有し、前記離型剤が長鎖アルキル基含有化合物であり、
前記離型層が硬化されている、
項1または2に記載の離型フィルム。
【0023】
仮に、離型層が、離型剤としてシリコーン系剥離剤を含有したとすると、絶縁層の表面(具体的には、離型層と接していた表面)にシリコーン系剥離剤が残留するおそれがある。シリコーン系剥離剤の残留は、不具合の原因となり得る。
【0024】
これに対して、項3によれば、離型層が、離型剤として、シリコーン系剥離剤ではなく長鎖アルキル基含有化合物を含有するため、絶縁層の表面に、離型層に由来し得たシリコーン系剥離剤が残留するということがない。よって、シリコーン系剥離剤の残留に起因する不具合を回避することができる。
【0025】
しかも、離型層が硬化されているため、離型層の耐熱性を高めることができる。
【0026】
項4
前記長手方向のヤング率、および前記幅方向のヤング率の合計が11.0GPa以上である、項1~3のいずれかに記載の離型フィルム。
【0027】
項4によれば、長手方向のヤング率、および幅方向のヤング率の合計が11.0GPa以上であるため、つまり剛性に優れるため、穴を形成する目的で離型フィルム越しに絶縁層にレーザーを照射した際の穴形状の均一性を高めることができる。
【0028】
項5
項1~4のいずれかに記載の離型フィルムを製造する方法であって、
前記離型層を形成するための塗工液を前記ポリエステルフィルムに塗る工程と、
前記ポリエステルフィルム上の前記塗工液を、前記ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂のガラス転移点以下の温度で乾燥させる工程とを含む、
離型フィルムの製造方法。
【0029】
項5によれば、塗工液を、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂のガラス転移点以下の温度で乾燥させるため、ポリエステルフィルムに加わる熱に起因するしわ(以下、「熱しわ」と言う。)の発生を抑制することができる。よって、離型フィルムの平面性を向上することができる。
【0030】
項6
前記塗工液を乾燥させる前記工程によって形成された塗膜を光硬化させる工程をさらに含む、項5に記載の離型フィルムの製造方法。
【0031】
項6によれば、塗膜を光硬化させるため、熱硬化にくらべて、ポリエステルフィルムに加わる熱を低減することができ、その結果、熱しわの発生をいっそう抑制することができる。よって、離型フィルムの平面性を向上することができる。
【0032】
項7
前記離型フィルムが、多層プリント配線板を製造するための離型フィルムである、項1~6のいずれかに記載の離型フィルム、および/またはその製造方法。
ここで、「多層プリント配線板を製造するための離型フィルム」は、多層プリント配線板を製造するための絶縁層などの部材を支持するための離型フィルムを意味する。
【0033】
項8
前記離型フィルムが、セラミックグリーンシート製造用離型フィルムである、項1~7のいずれかに記載の離型フィルム、および/またはその製造方法。
【0034】
項8によれば、離型フィルム(具体的には、離型フィルムの離型層)に、セラミックグリーンシートを形成するためのセラミックスラリーを塗布し、乾燥する、という手順でセラミックグリーンシートを製造することができる。項8によれば、上述の項1~項7の説明で登場した「絶縁層」を、セラミックグリーンシートまたはセラミックスラリーに読み替えた課題を解決することができる。また、項8によれば、上述の項1~項7の説明で登場した「絶縁層」を、セラミックグリーンシートまたはセラミックスラリーに読み替えた効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の離型フィルムによれば、絶縁層の浮きを抑制することができ、しかも、絶縁層から離型フィルムを剥離する際の剥離力が過度に強くなることを回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0037】
<1.離型フィルム>
本実施形態の離型フィルムは、多層プリント配線板を製造するために好適に使用することができる。具体的には、多層プリント配線板を製造するための絶縁層を支持するための支持フィルムとして好適に使用することができる。より具体的には、本実施形態の離型フィルムは、ビルドアップ法で多層プリント配線板を製造する際に絶縁層を支持するための支持フィルムとして好適に使用することができる。
【0038】
本実施形態の離型フィルムは、ポリエステルフィルムと離型層とを備える。具体的には、本実施形態の離型フィルムは、ポリエステルフィルムと、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に設けられた離型層とを備える。
【0039】
<1.1.ポリエステルフィルム>
【0040】
ポリエステルフィルムはポリエステル樹脂を含有する。ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分と、ポリアルコール成分とで構成されることができる。つまり、ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸とポリアルコールとが脱水縮合した構造を有することができる。なお、これは、ポリエステル樹脂の構造を説明する記載に過ぎず、ポリエステル樹脂の製法を脱水縮合に限定する意図を有さない。なお、多価カルボン酸は、カルボキシ基を複数有する化合物を意味する。ポリアルコールは、アルコール性ヒドロキシ基を複数有する化合物を意味する。
【0041】
ポリエステル樹脂は、たとえば、ジカルボン酸成分とジオール成分とで構成されることができる。つまり、ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオールとが脱水縮合した構造を有することができる。なお、これは、ポリエステル樹脂の構造を説明する記載に過ぎず、ポリエステル樹脂の製法を脱水縮合に限定する意図を有さない。
【0042】
ポリエステルフィルムとして、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムなどを挙げることができる。なかでも、ポリエチレンナフタレートフィルムが好ましい。ポリエステルフィルムがポリエチレンナフタレートフィルムであると、離型フィルムの剛性や耐熱性を高めることができる。その結果、たとえば、穴を形成する目的で離型フィルム越しに絶縁層にレーザーを照射した際の穴形状の均一性を高めることができる。
【0043】
ポリエチレンナフタレートフィルムを構成するポリマー(具体的にはポリエステル樹脂)の主成分がポリエチレン-2,6-ナフタレートであることが好ましい。「主成分がポリエチレン-2,6-ナフタレートである」は、ポリマー全繰り返し単位の少なくとも90モル%がエチレン-2,6-ナフタレート残基であることを意味する。すなわち、ポリエステル樹脂を構成する全繰り返し単位の90モル%以上がエチレン-2,6-ナフタレート残基であることを意味する。このように、ポリエチレンナフタレートフィルムを構成するポリマーは、最大で10モル%の共重合成分を含んでいてもよい。共重合成分について、ジカルボン酸としては、たとえば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などを挙げることができる。なかでもテレフタル酸が好ましい。いっぽう、ジオールとしては、たとえば、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどを挙げることができる。
【0044】
ポリマー全繰り返し単位の95モル%以上がエチレン-2,6-ナフタレート残基であることが好ましい。すなわち、ポリエステル樹脂を構成する全繰り返し単位の95モル%以上がエチレン-2,6-ナフタレート残基であることが好ましい。なぜなら、エチレン-2,6-ナフタレート残基の割合が高いほど、ガラス転移点を高めることができるとともに、離型フィルムの剛性や耐熱性を高めることができるためである。
【0045】
ポリマー全繰り返し単位の100モル%がエチレン-2,6-ナフタレート残基であることがより好ましい。つまり、ポリエチレンナフタレートフィルムを構成するポリマーがポリエチレン-2,6-ナフタレートのホモポリマーであることが好ましい。
【0046】
ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂のガラス転移点は100℃以上が好ましく、105℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましく、115℃以上がさらに好ましい。他方、ガラス転移点の上限は、たとえば150℃、140℃、130℃などを挙げることができる。
【0047】
ポリエステルフィルムは不活性粒子を含有することが好ましい。ポリエステルフィルムが不活性粒子を含有することによって、工程内でのハンドリング性や、巻取り性を向上することができる。
【0048】
不活性粒子としては、たとえば、シリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、カーボンブラックなどの無機粒子を挙げることができ、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、架橋シリコーン樹脂などの有機粒子を挙げることもできる。なかでも、球状シリカ粒子、多孔質シリカ粒子が好ましい。
【0049】
球状シリカ粒子としては、長径を短径で割った比(すなわち、長径/短径)が1.0~1.2であり、かつ、平均粒径が0.05μm~5μmであるものが好ましい。平均粒径は、0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましい。他方、平均粒径は、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。球状シリカ粒子は、たとえば、オルトケイ酸エチル[Si(OC]の加水分解から含水シリカ[Si(OH)]単分散球をつくり、この単分散球を脱水化処理してシリカ結合[Si-O-Si]を三次元的に成長させることで製造できることが、日本化学会誌(’81,No.9,1503頁)に記載されている。
【0050】
多孔質シリカ粒子は、一次粒子の凝集体の形態をとる凝集粒子である。多孔質シリカ粒子の平均粒径、具体的には凝集粒子としての平均粒径は、0.1μm~5μmが好ましく、0.3μm~3μmがより好ましい。多孔質シリカ粒子を構成する一次粒子の平均粒径は0.005μm~0.1μmが好ましい。一次粒子の平均粒径が0.005μm以上であると、スラリー段階での多孔質シリカ粒子の解砕を低減できるので、再凝集(具体的には、解砕後の再凝集)を抑制できる。一次粒子の平均粒径が0.1μm以下であると、多孔質シリカ粒子の多孔質性が優れるため、ポリマーとの親和性に優れる。その結果、ボイドを低減することができるので、ボイドに起因したポリエステルフィルムの透明性の低下を抑制することができる。これに加えて、スラリー段階での多孔質シリカ粒子の解砕を低減できるので、再凝集(具体的には、解砕後の再凝集)を抑制できる。ところで、多孔質シリカ粒子の細孔容積は、0.5ml/g~2.0ml/gが好ましく、0.6ml/g~1.8ml/gがより好ましい。0.5ml/g以上であると、多孔質シリカ粒子の多孔質性が優れるため、ポリマー(すなわちポリエステル樹脂)との親和性に優れる。その結果、ボイドを低減することができるので、ボイドに起因したポリエステルフィルムの透明性の低下を抑制することができる。2.0ml/g以下であると、多孔質シリカ粒子の解砕を低減できるので、再凝集(具体的には、解砕後の再凝集)を抑制できる。その結果、多孔質シリカ粒子の大きさのばらつきが過度に大きくなることを防止できる。
【0051】
不活性粒子の含有量は、ポリエステルフィルムを100質量%としたとき(すなわち、ポリエステルフィルムを構成する組成物を100質量%としたとき)、0.005質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましい。不活性粒子の含有量は、ポリエステルフィルムを100質量%としたとき、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
【0052】
ポリエステルフィルムは、ほかの添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、たとえば、安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、染料または顔料などを挙げることができる。
【0053】
ポリエステルフィルムには表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、たとえばコロナ放電処理を挙げることができる。もちろん、ポリエステルフィルムには表面処理が施されていなくてもよい。
【0054】
ポリエステルフィルムの厚みは、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。ポリエステルフィルムの厚みは、250μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。なお、ポリエステルフィルムは、単層構成であってもよく、複層構成であってもよい。
【0055】
ポリエステルフィルムは二軸延伸ポリエステルフィルムであることが好ましい。このようなポリエステルフィルムは、たとえば、ポリマーを冷却したうえで粒状(たとえばペレット状)にし、これを乾燥した後に押出機に供給し、ダイからシートを溶融押出しし、次いで、このシートを回転冷却ドラムで急冷し、二軸延伸し、熱固定するという手順で作製することができる。二軸延伸は、縦横同時二軸延伸であってもよく、逐次二軸延伸であってもよい。なかでも、逐次二軸延伸が好ましい。逐次二軸延伸では、たとえば、回転冷却ドラムを経たシートを、縦方向すなわちMachine Direction(以下、「MD」と言う。)方向に延伸し、MD方向延伸後のシートを、横方向すなわちTransverse Direction(以下、「TD」と言う。)方向に延伸することが好ましい。必要に応じて、熱弛緩処理を施してもよい。熱弛緩処理によって、離型フィルムの加熱寸法変化を低減することができる。なお、必要に応じて、逐次二軸延伸後に、縦方向または横方向のいずれか、または両方向に再延伸してもよい。
【0056】
好ましい延伸条件(たとえば延伸温度、延伸倍率)は次の通りある。延伸温度について、第1段目の延伸温度(たとえば縦方向の延伸温度。以下、「T1」と言う。)は、(Tg-10)℃~(Tg+45)℃であり、第2段目の延伸温度(たとえば横方向の延伸温度。以下、「T2」と言う。)が、(T1-15)℃~(T1+40)℃であることが好ましい。Tgは、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂のガラス転移点である。延伸倍率については、一軸方向(すなわち、縦方向または横方向のどちらか一方)における延伸倍率が、2.5倍以上が好ましく、3倍~5倍がより好ましい。面積倍率は、8倍以上が好ましく、10倍~16倍がより好ましい。熱固定温度は、180℃~250℃であることが好ましく、230℃~250℃であることがより好ましい。
【0057】
<1.2.離型層>
離型層は、硬化性樹脂を含有する組成物を硬化した層であることが好ましい。硬化性樹脂としては、たとえば、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂などを挙げることができる。なかでも、メラミン樹脂、アクリル樹脂が好ましく、アクリル樹脂がより好ましい。
【0058】
硬化性樹脂は、たとえば、光硬化性樹脂(たとえば紫外線硬化性樹脂)であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよい。これらの例として、たとえば、光硬化性アクリル樹脂、熱硬化性メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0059】
硬化性樹脂としては光硬化性樹脂が好ましい。光硬化性アクリル樹脂がより好ましく、紫外線硬化性アクリル樹脂がさらに好ましい。
【0060】
すなわち、離型層は、光硬化性樹脂を含有する組成物を硬化した層であることが好ましい。つまり、離型層は光硬化されていることが好ましい。離型層が光硬化されていると、離型層の耐熱性を高めることができる。これに加えて、離型層が光硬化されていると、離型フィルムの平面性を向上することができる。これについて説明する。離型層が光硬化されている、という構成によれば、離型層を形成する際に、離型層を、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂のガラス転移点以下の温度で硬化することが可能である。その場合(具体的には、ポリエステル樹脂のガラス転移点以下の温度で離型層を硬化する場合)には、ポリエステルフィルムに加わる熱に起因するしわ(すなわち、熱しわ)の発生を抑制することができる。よって、離型フィルムの平面性を向上することができる。なお、離型層は紫外線硬化されていることがより好ましい。
【0061】
離型層は離型剤を含有することが好ましい。すなわち、上述の組成物(具体的には、硬化性樹脂を含有する組成物)は離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、たとえば、長鎖アルキル系離型剤、シリコーン系剥離剤などを挙げることができる。なかでも長鎖アルキル系離型剤が好ましい。すなわち、離型層は、離型剤として長鎖アルキル基含有化合物を含有することが好ましい。離型層が、離型剤として、シリコーン系剥離剤ではなく長鎖アルキル基含有化合物を含有すると、絶縁層の表面に、離型層に由来し得たシリコーン系剥離剤が残留するということがない。よって、シリコーン系剥離剤の残留に起因する不具合を回避することができる。
【0062】
長鎖アルキル基含有化合物について、長鎖アルキル基は、炭素数8以上のアルキル基であることが好ましい。炭素数は10以上であってもよく、12以上であってもよい。長鎖アルキル基は、炭素数30以下のアルキル基であることが好ましい。炭素数は28以下であってもよく、26以下であってもよい。なお、長鎖アルキル基含有化合物は、長鎖アルキル基を側鎖に有することが好ましい。
【0063】
長鎖アルキル基含有化合物としては、たとえば、長鎖アルキル基含有ポリビニル樹脂、長鎖アルキル基含有アルキド樹脂、長鎖アルキル基含有アクリル樹脂、長鎖アルキル基含有ポリエステル樹脂などを挙げることができる。なかでも、長鎖アルキル基含有ポリビニル樹脂が好ましい。
【0064】
離型層は添加剤を含有していてもよい。すなわち、上述の組成物(具体的には、硬化性樹脂を含有する組成物)は添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、たとえば光重合開始剤、不活性粒子を挙げることができる。
【0065】
離型層は、添加剤として不活性粒子を含有していてもよい。すなわち、上述の組成物(具体的には、硬化性樹脂を含有する組成物)が不活性粒子を含有していてもよい。離型層が不活性粒子を含有することによって、離型フィルムのハンドリング性や、巻取り性を向上することができる。不活性粒子としては、たとえば、シリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、カーボンブラックなどの無機粒子を挙げることができ、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、架橋シリコーン樹脂などの有機粒子を挙げることもできる。なかでも、シリカ粒子が好ましい。後述の表面粗さ範囲(具体的には、算術平均粗さRa20nm以下、かつ十点平均粗さRz300nm以下)を考慮すると、不活性粒子としては微細なものが好ましい。具体的には、粒径50nm以下のものが好ましい。
【0066】
離型層の算術平均粗さRaは20nm以下であり、離型層の十点平均粗さRzは300nm以下である。これによって、絶縁層の表面(具体的には、離型層と接していた表面)が過度に粗くなることを防止でき、その結果、絶縁層上への配線の形成(たとえば微細配線の形成)が可能となる。算術平均粗さRaは、15nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。他方、十点平均粗さRzは、250nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましい。これらの下限値は適宜設定できる。たとえば算術平均粗さRaは、1nm以上であってもよく、3nm以上であってもよく、5nm以上であってもよい。他方、十点平均粗さRzは、30nm以上であってもよく、50nm以上であってもよく、75nm以上であってもよい。算術平均粗さRaや十点平均粗さRzは、たとえば、ポリエステルフィルムに添加され得る粒子(たとえば不活性粒子)の大きさや、離型層の厚みによって調製することができる。算術平均粗さRaや十点平均粗さRzは、実施例に記載の方法で測定され、算出される値である。
【0067】
離型層の表面自由エネルギーは20dyne/cm~32dyne/cmである。32dyne/cm以下であるため、離型フィルムを絶縁層から剥離する際の剥離力が過度に強くなることを回避することができる。よって、絶縁層の部分的な残留(具体的には、絶縁層が離型層に部分的に残留すること)や、絶縁層の破れを抑制または低減することができる。20dyne/cm以上であるため、離型層と絶縁層との密着力が過度に低くなることを防止でき、その結果、絶縁層の浮きを抑制することができる。表面自由エネルギーは22dyne/cm以上が好ましく、24dyne/cm以上がより好ましい。表面自由エネルギーは、実施例に記載の方法で測定され、算出される値である。
【0068】
離型層の厚みは、0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。離型層の厚みは、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましく、2μm以下がさらに好ましい。
【0069】
<1.3.離型フィルムの特性>
本実施形態の離型フィルムは、熱収縮率が、長手方向で1.5%以下であり、幅方向で0.5%以下である。これによって、絶縁層を熱硬化させる際に生じ得る離型フィルムの熱収縮を抑制することができ、その結果、絶縁層の厚みのばらつきを抑えることができる。なお、離型フィルムの長手方向の長さは、幅方向の長さよりも大きい。長手方向は、Machine Direction(MD)方向と言い換えることができる。いっぽう、幅方向は、Transverse Direction(TD)方向と言い換えることができる。
【0070】
本実施形態の離型フィルムは、熱収縮率が、幅方向で0.0%以上である。これによって、絶縁層を熱硬化させる際に離型フィルムの幅方向の熱膨張が実質的に生じず、その結果、絶縁層の浮きを抑制することができる。
【0071】
本実施形態の離型フィルムは、長手方向のヤング率、および幅方向のヤング率の合計が11.0GPa以上であることが好ましく、11.5GPa以上であることがより好ましい。この合計が11.0GPa以上であると、剛性に優れるため、穴を形成する目的で離型フィルム越しに絶縁層にレーザーを照射した際の穴形状の均一性を高めることができる。この合計は、たとえば13.0GPa以下であってもよい。
【0072】
本実施形態の離型フィルムの離型層に粘着テープ(日東電工社製の「31Bテープ」)を貼り合わせ、剥離角度180°、剥離速度300mm/分で離型フィルムから粘着テープを剥離した際の剥離強度は、3.0N/25mm幅以下が好ましい。3.0N/25mm幅以下であると、絶縁層に対する密着力が過度に大きくならないため、絶縁層の部分的な残留(具体的には、絶縁層が離型層に部分的に残留すること)や、絶縁層の破れを抑制することができる。
【0073】
離型フィルムの厚みを100%としたとき、離型層の厚みは10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。離型層の厚みは1%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましい。
【0074】
本実施形態の離型フィルムの厚みは、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。離型フィルムの厚みは、250μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0075】
<2.離型フィルムの製造方法>
本実施形態の離型フィルムの製造方法は、離型層を形成するための塗工液をポリエステルフィルムに塗る工程(以下、「工程A」と言う。)と、ポリエステルフィルム上の塗工液を、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂のガラス転移点以下の温度で乾燥させる工程(以下、「工程B」と言う。)と、工程Bによって形成された塗膜を光硬化させる工程(以下、「工程C」と言う。)とを含む。
【0076】
工程Aでは、ポリエステルフィルムに塗工液を塗る。塗工液は、離型層の含有可能成分(たとえば、上述した硬化性樹脂や離型剤)に加えて、たとえば溶剤などを含むことができる。溶剤として、たとえば、炭化水素系溶剤や水などを挙げることができる。塗工方法としては、たとえば、ブレードコート法、バーコーター法、グラビアコーター法またはリバースグラビアコーター法などを挙げることができる。
【0077】
工程Bでは、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂のガラス転移点以下の温度(以下、「乾燥温度」と言う。)で塗工液を乾燥させる。乾燥温度は、たとえば、(Tg-5)℃以下が好ましく、(Tg-10)℃以下がより好ましく、(Tg-15)℃以下がさらに好ましい。仮に、乾燥温度がTgを超えたとすると、ポリエステルフィルムが幅方向に収縮するため、長手方向に延びるしわ(つまり熱しわ)が発生し、その結果、絶縁層の厚みのばらつきが過度に大きくなる。これに対して、工程Bでは、塗工液を、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂のガラス転移点以下の温度で乾燥させるため、熱しわの発生を抑制することができる。よって、離型フィルムの平面性を向上することができる。
【0078】
工程Bでは、ポリエステルフィルムに張力をかけた状態で塗工液を乾燥させることが好ましい。この張力は適宜設定できる。この張力が過度に大きいと、離型フィルムの熱収縮率が、幅方向で0.0%未満(つまりマイナス)になる傾向がある。
【0079】
工程Cでは、工程Bによって形成された塗膜を光硬化させる。これによって、熱硬化にくらべて、ポリエステルフィルムに加わる熱を低減することができ、その結果、熱しわの発生を抑制することができる。よって、離型フィルムの平面性を向上することができる。工程Cでは、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂のガラス転移点以下の温度で塗膜を硬化させることが好ましい。塗膜は紫外線硬化させることが好ましい。
【0080】
このような手順で、塗膜の硬化物、すなわち離型層をポリエステルフィルム上に形成することができる。
【0081】
<3.上述の実施形態には種々の変更を加えることができる>
上述の実施形態には、種々の変更を加えることができる。たとえば、以下の変形例から、一つまたは複数を選択して、上述の実施形態に変更を加えることができる。
【0082】
上述の実施形態では、離型フィルムに絶縁層が積層された状態で絶縁層を熱硬化する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。
【0083】
上述の実施形態では、絶縁層に穴を形成するために、離型フィルム越しに絶縁層にレーザーを照射する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。
【0084】
上述の実施形態では、離型フィルムを、ビルドアップ法で多層プリント配線板を製造する際に絶縁層を支持するための支持フィルムとして使用する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、離型フィルムを、セラミックグリーンシートの製造のために使用してもよい。この目的で離型フィルムを使用する場合、離型フィルムの離型層に、セラミックグリーンシートを形成するためのセラミックスラリーを塗布し、乾燥する、という手順でセラミックグリーンシートを製造することができる。
【実施例
【0085】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ質量部および質量%を意味する。
【0086】
<各特性の測定方法>
(1)表面自由エネルギー
離型フィルムから切り出したフィルムサンプルを、23℃、65%RHの条件下で、24時間調湿した。このフィルムサンプルの離型層の表面について、自動接触角測定装置(協和界面科学社製のDMo-501)を使用して、表面自由エネルギー成分が既知の液体試料3種、具体的には、水、エチレングリコール、ヨウ化メチレンの静的接触角を測定した。この測定は、液体試料それぞれについて5回ずつおこなった。その平均値を接触角とした。そのうえで、各液体試料の表面張力および表面張力成分値(表1参照)を用いて、下記式1のFowkesの拡張式より離型層表面の表面自由エネルギーを算出した。
γ=γ +γ +γ h・・・(式1)
式1中、γ は分散成分、γ は極性成分、γ は水素結合成分を表す。
【表1】
【0087】
(2)熱収縮率
離型フィルムから切り出した30cm四方のフィルムサンプルに、長手方向(具体的には、離型フィルムの長手方向)および幅方向(具体的には、離型フィルムの幅方向)それぞれに二つの標点をつけた。このフィルムサンプルをギヤオーブン内に吊り下げ、150℃で30分間加熱した。これを、室温(具体的には23℃)に戻した後に標点間距離を測定した。各方向について、加熱前の標点間距離(L)から加熱後の標点間距離(L)を引くことによって、加熱による寸法変化量(ΔL)を求めた。次いで、式2にしたがって各方向の熱収縮率(%)を求めた。
熱収縮率=(ΔL/L)×100・・・(式2)
この測定は、サンプル数n=5でおこなった。その平均値を熱収縮率として表2に示す。
【0088】
(3)算術平均粗さRa、および十点平均粗さRz
非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製のNew View7300)を用いて、測定倍率25倍、測定面積283μm×213μm(=0.0603mm)の条件でデータを取得した。このデータから、非接触式三次元表面粗さ計に内蔵された表面解析ソフトMetro Proを用いて算術平均粗さRa、および十点平均粗さRzを求めた。これは、測定箇所を変えて3回をおこなった。その平均値を、算術平均粗さRa、および十点平均粗さRzとして表2に示す。
【0089】
(4)ヤング率
離型フィルムから切り出した幅10mm、長さ15cmの試験片を、室温(具体的には23℃)、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製のテンシロン)で引っ張り、試験片にかかる力および伸びを測定した。この測定で得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線からヤング率を計算した。長手方向のヤング率、および幅方向のヤング率の合計を表2に示す。
【0090】
(5)平面性
離型フィルムの幅方向中央部から切り出した幅1m×長さ10mのフィルムサンプルを、フィルムサンプルの幅方向と、細長い3波長蛍光灯の軸方向とが平行になるように3波長蛍光灯の下に置いたうえで、フィルムサンプルへの3波長蛍光灯の映り込みを目視で検査した。フィルムサンプルに映り込んだ3波長蛍光灯の像は、フィルムサンプルに熱しわがある場合、乱れたり、断続的になる。3波長蛍光灯の像が、ほぼ一直線であった場合を〇と判定し、この像が乱れていた、および/または断続的であった場合を×と判定した。
【0091】
(6)穴形状(すなわちレーザー穴あけ性)
離型フィルムから切り出したフィルムサンプルに、炭酸ガスレーザー穴あけ装置(住友重機械工業社製のIMPACT-GS500)で、穴径100μmの貫通孔を20個形成した。各貫通孔について、レーザー入射側の最大孔径と最小孔径とを、顕微鏡観察で測定した。最大孔径の平均値と、最小孔径の平均値とが近いほど、穴形状の均一性が高い。最大孔径の平均値が、最小孔径の平均値の1.07倍以下であった場合を〇と判定し、1.07倍超えであった場合を×と判定した。
【0092】
(7)絶縁層の浮き
ビスフェノール型エポキシ樹脂(三菱化学社製のjER828)100質量部、メチルHHPA主成分の酸無水物(新日本理化社製のリカシッド MH-700)90質量部、および硬化促進剤(酸アプロ社製のU-CAT18X)2質量部を混合することによってエポキシ樹脂組成物を作製した。このエポキシ樹脂組成物を、離型フィルムから切り出したフィルムサンプルの離型層に塗布した。この際、エポキシ樹脂組成物の厚みが20μmになるように塗布した。フィルムサンプルに塗布されたエポキシ樹脂組成物の表面が硝子板に接するように、これらを貼り合わせ、乾燥機にて160℃で30分間加熱した。この加熱の後に、エポキシ樹脂層(すなわち、エポキシ樹脂組成物からなる絶縁層)の浮きの有無を目視で確認した。浮きが発生しなかった場合を〇と判定し、浮きが発生した場合を×と判定した。
【0093】
(8)剥離力
離型フィルムから切り出した試験片の離型層に粘着テープ(日東電工社製の「31Bテープ」)を貼り合わせ、剥離角度180°、剥離速度300mm/分で試験片から粘着テープを剥離した際の剥離強度を測定した。
【0094】
(9)ガラス転移点(Tg)
ポリマーのガラス転移点(補外開始温度)は、DSC(TAインスツルメンツ社製のThermal Analyst2100)を用いて、試料量10mg、昇温速度20℃/minで測定した。
【0095】
(10)固有粘度
ポリマーの固有粘度は、ポリマーをo-クロロフェノールに溶解して35℃で測定して求めた。
【0096】
<実施例1>
平均粒径0.5μmのシリカ粒子を0.2質量%含む、固有粘度(o-クロロフェノール、35℃)0.6dl/gのポリエチレン-2,6-ナフタレートホモポリマーを冷却してペレット状にしたものを、180℃で3時間乾燥した。これを押出機に投入し、溶融状態でダイスから押出し、これを、40℃に維持された回転冷却ドラムに制電密着法で密着させ(つまり急冷し)、未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを140℃にて縦方向に3.6倍に延伸し、次いで130℃にて横方向に3.8倍に延伸し、240℃で熱固定処理をおこない、厚み25μmのポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム)を得た。
【0097】
いっぽう、紫外線硬化性樹脂(昭和電工マテリアルズ社製のHA7975)と、長鎖アルキルペンダントポリマー(ライオンスペシャリティケミカルズ社製のピーロイル1050)とを固形分比で85:15になるように混合することによって、離型層を形成するための塗工液を作製した。この塗工液をPENフィルムにリバースグラビア塗工法で、離型層の厚み(具体的には乾燥後の厚み)が1.0μmとなるように塗った。塗工液中の溶剤を100℃で揮発させた。つまり、塗工液を100℃で乾燥させた。なお、この乾燥は、PENフィルムに70N/mの張力をかけた状態でおこなった。乾燥後の塗膜に、1000mJ/cmの紫外線を照射することによって塗膜を硬化させた。このような手順で離型フィルムを得た。
【0098】
<実施例2>
離型層の厚み(具体的には乾燥後の厚み)が0.5μmとなるように塗工液をPENフィルムに塗ったこと以外は、実施例1と同様の手順で離型フィルムを作製した。
【0099】
<実施例3>
紫外線硬化性樹脂(昭和電工マテリアルズ社製のHA7975)と、長鎖アルキルペンダントポリマー(ライオンスペシャリティケミカルズ社製のピーロイル1050)とを固形分比で90:10になるように混合することによって、塗工液を作製した以外は、実施例1と同様の手順で離型フィルムを作製した。
【0100】
<比較例1>
長鎖アルキルペンダントポリマーを使用せずに塗工液を作製した以外は、実施例1と同様の手順で離型フィルムを作製した。
【0101】
<比較例2>
紫外線硬化性樹脂(昭和電工マテリアルズ社製のHA7975)に代えて熱硬化性樹脂(DIC社製のアクリディック55-467)を使用したこと、PENフィルムに230N/mの張力をかけた状態において塗工液を150℃で乾燥させ硬化させたこと、および紫外線を照射しなかったこと以外は、実施例1と同様の手順で離型フィルムを作製した。
【0102】
【表2】
【0103】
離型剤(具体的には長鎖アルキルペンダントポリマー)を使用しなかった比較例1の離型フィルムは、表面自由エネルギーが過度に大きく、その結果、剥離力が強くなり過ぎた。
【0104】
PENフィルムに230N/mの張力をかけた状態において塗工液を150℃で乾燥させ硬化させた比較例2の離型フィルムでは熱しわが生じた。つまり、平面性が悪かった。これに加えて、絶縁層の浮きも生じた。これ(すなわち、絶縁層の浮きの発生)は、張力が過度に大きかった結果、塗工液を乾燥および硬化させる際に、離型フィルムの幅方向の熱膨張が生じたためだと考えられる。
【0105】
これに対して、実施例1~3の離型フィルムは、剥離力が適度であり、しかも平面性に優れており、そのうえ絶縁層の浮きが生じなかった。