(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】走査型プローブ顕微鏡および制御方法
(51)【国際特許分類】
G01Q 10/06 20100101AFI20250128BHJP
G01Q 60/24 20100101ALI20250128BHJP
【FI】
G01Q10/06
G01Q60/24
(21)【出願番号】P 2021089041
(22)【出願日】2021-05-27
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平出 雅人
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/013288(WO,A1)
【文献】特開2000-329678(JP,A)
【文献】特開2019-117110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/06
G01Q 60/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を測定する走査型プローブ顕微鏡であって、
前記試料が配置される試料台と、
前記試料に対向して配置される探針と、
前記探針と前記試料との間に作用する物理量が一定となるように第1制御が実行されることにより、前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に移動させる第1駆動機構と、
前記第1制御が実行されたにもかかわらず前記物理量が一定とならない場合に前記試料の測定を停止する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記試料の同一の測定経路において、前記試料の高さ方向と直交する第1方向および該第1方向とは逆方向である第2方向で前記探針を相対的に往復移動させて、前記試料の測定データを取得し、
前記物理量が一定とならない場合において、前記第1方向での前記探針の移動により取得した第1測定データと、前記第2方向での前記探針の移動により取得した第2測定データの時系列を逆転させたデータとの一致度が閾値より大きい場合に、前記試料は過大な凹部または過大な凸部を有するという原因を示す原因情報を記憶し、
前記物理量が一定とならない場合において、前記一致度が前記閾値より小さい場合に、前記走査型プローブ顕微鏡の熱ドリフトが発生しているという原因を示す原因情報を記憶する、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
試料を測定する走査型プローブ顕微鏡であって、
前記試料が配置される試料台と、
前記試料に対向して配置される探針と、
前記探針と前記試料との間に作用する物理量が一定となるように第1制御が実行されることにより、前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に移動させる第1駆動機構と、
前記第1制御が実行されたにもかかわらず前記物理量が一定とならない場合に前記試料の測定を停止する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記試料の同一の測定経路において、前記試料の高さ方向と直交する第1方向および該第1方向とは逆方向である第2方向で前記探針を相対的に往復移動させて、前記試料の測定データを取得し、
前記物理量が一定とならない場合において、前記第1方向での前記探針の移動により取得した第1測定データと、前記第2方向での前記探針の移動により取得した第2測定データの時系列を逆転させたデータとの一致度が閾値より大きい場合に、前記試料の測定範囲を前記物理量が一定とならなかった箇所を除く測定範囲に設定する第2制御を実行し、
前記第2制御を実行した後、前記試料の測定を再開する、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
試料を測定する走査型プローブ顕微鏡であって、
前記試料が配置される試料台と、
前記試料に対向して配置される探針と、
前記探針と前記試料との間に作用する物理量が一定となるように第1制御が実行されることにより、前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に移動させる第1駆動機構と、
前記第1制御が実行されたにもかかわらず前記物理量が一定とならない場合に前記試料の測定を停止する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記試料の同一の測定経路において、前記試料の高さ方向と直交する第1方向および該第1方向とは逆方向である第2方向で前記探針を相対的に往復移動させて、前記試料の測定データを取得し、
前記物理量が一定とならない場合において、前記第1方向での前記探針の移動により取得した第1測定データと、前記第2方向での前記探針の移動により取得した第2測定データの時系列を逆転させたデータとの一致度が閾値より小さい場合に、予め定められた待機時間に亘って前記試料の測定を停止する第2制御を実行し、
前記第2制御を実行した後、前記試料の測定を再開する、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
試料を測定する走査型プローブ顕微鏡であって、
前記試料が配置される試料台と、
前記試料に対向して配置される探針と、
前記探針と前記試料との間に作用する物理量が一定となるように第1制御が実行されることにより、前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に移動させる第1駆動機構と、
前記第1制御が実行されたにもかかわらず前記物理量が一定とならない場合に前記試料の測定を停止する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記試料の同一の測定経路において、前記試料の高さ方向と直交する第1方向および該第1方向とは逆方向である第2方向で前記探針を相対的に往復移動させて、前記試料の測定データを取得し、
前記物理量が一定とならない場合において、前記第1方向での前記探針の移動により取得した第1測定データと、前記第2方向での前記探針の移動により取得した第2測定データの時系列を逆転させたデータとの一致度が閾値より小さい場合に、
前記試料の第1測定経路における前記第1測定データと前記第2測定データとに基づいて第1測定差分値を算出し、
前記試料の第2測定経路における前記第1測定データと前記第2測定データとに基づいて第2測定差分値を算出し、
前記第1測定経路において前記探針の相対的な往復移動が終了したときから、前記第2測定経路において前記探針の相対的な往復移動が終了したときまでの経過時間を取得し、
前記第1測定差分値と、前記第2測定差分値と、前記経過時間とに基づいて、待機時間を算出し、
算出された前記待機時間に亘って前記試料の測定を停止する第2制御を実行し、
前記第2制御を実行した後、前記試料の測定を再開する、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記物理量が一定とならない場合に、前記試料の測定を停止した後、第2制御を実行し、
前記第2制御を実行した後、前記試料の測定を再開する、
請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
前記走査型プローブ顕微鏡は、前記探針と前記試料台との間隔を増大させる退避処理を実行する第2駆動機構をさらに備え、
前記第2制御は、前記退避処理を含む、
請求項5に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
前記第1駆動機構は、
印加された電圧に応じて、前記試料台を駆動し、
印加された電圧が0である場合には、前記試料台を初期位置に駆動し、
前記第2制御は、前記第1駆動機構に
印加される電圧を0にする処理を含む、
請求項5または
請求項6に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項8】
前記設定される測定範囲は、前記箇所と隣接している範囲である、
請求項2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項9】
前記制御装置は、前記第1測定データおよび前記第2測定データが記憶されていない場合には、前記試料の測定を停止する、
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項10】
前記制御装置は、前記原因情報に基づく通知を実行する、
請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項11】
前記制御装置は、
前記試料の測定を停止した後に前記試料の測定を再開する第1モードと、
前記試料の測定を停止した後に前記試料の測定を再開しない第2モードとをユーザの入力により切替可能である、
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項12】
試料が配置される試料台と、
前記試料に対向して配置される探針と、
前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に移動させる第1駆動機構とを備え、前記試料を測定する走査型プローブ顕微鏡の制御方法であって、
前記制御方法は、
前記探針と前記試料との間に作用する物理量が一定となるような第1制御を実行することと、
前記第1制御が実行されたにもかかわらず前記物理量が一定とならない場合に前記試料の測定を停止することと
、
前記試料の同一の測定経路において、前記試料の高さ方向と直交する第1方向および該第1方向とは逆方向である第2方向で前記探針を相対的に往復移動させて、前記試料の測定データを取得することと、
前記物理量が一定とならない場合において、前記第1方向での前記探針の移動により取得した第1測定データと、前記第2方向での前記探針の移動により取得した第2測定データの時系列を逆転させたデータとの一致度が閾値より大きい場合に、前記試料は過大な凹部または過大な凸部を有するという原因を示す原因情報を記憶することと、
前記物理量が一定とならない場合において、前記一致度が前記閾値より小さい場合に、前記走査型プローブ顕微鏡の熱ドリフトが発生しているという原因を示す原因情報を記憶することとを備える、制御方法。
【請求項13】
試料が配置される試料台と、
前記試料に対向して配置される探針と、
前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に移動させる第1駆動機構とを備え、前記試料を測定する走査型プローブ顕微鏡の制御方法であって、
前記制御方法は、
前記探針と前記試料との間に作用する物理量が一定となるような第1制御を実行することと、
前記第1制御が実行されたにもかかわらず前記物理量が一定とならない場合に前記試料の測定を停止することと、
前記試料の同一の測定経路において、前記試料の高さ方向と直交する第1方向および該第1方向とは逆方向である第2方向で前記探針を相対的に往復移動させて、前記試料の測定データを取得することと、
前記物理量が一定とならない場合において、前記第1方向での前記探針の移動により取得した第1測定データと、前記第2方向での前記探針の移動により取得した第2測定データの時系列を逆転させたデータとの一致度が閾値より大きい場合に、前記試料の測定範囲を前記物理量が一定とならなかった箇所を除く測定範囲に設定する第2制御を実行することと、
前記第2制御を実行した後、前記試料の測定を再開することとを備える、制御方法。
【請求項14】
試料が配置される試料台と、
前記試料に対向して配置される探針と、
前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に移動させる第1駆動機構とを備え、前記試料を測定する走査型プローブ顕微鏡の制御方法であって、
前記制御方法は、
前記探針と前記試料との間に作用する物理量が一定となるような第1制御を実行することと、
前記第1制御が実行されたにもかかわらず前記物理量が一定とならない場合に前記試料の測定を停止することと、
前記試料の同一の測定経路において、前記試料の高さ方向と直交する第1方向および該第1方向とは逆方向である第2方向で前記探針を相対的に往復移動させて、前記試料の測定データを取得することと、
前記物理量が一定とならない場合において、前記第1方向での前記探針の移動により取得した第1測定データと、前記第2方向での前記探針の移動により取得した第2測定データの時系列を逆転させたデータとの一致度が閾値より小さい場合に、予め定められた待機時間に亘って前記試料の測定を停止する第2制御を実行することと、
前記第2制御を実行した後、前記試料の測定を再開することとを備える、制御方法。
【請求項15】
試料が配置される試料台と、
前記試料に対向して配置される探針と、
前記探針を前記試料の表面に沿って相対的に移動させる第1駆動機構とを備え、前記試料を測定する走査型プローブ顕微鏡の制御方法であって、
前記制御方法は、
前記探針と前記試料との間に作用する物理量が一定となるような第1制御を実行することと、
前記第1制御が実行されたにもかかわらず前記物理量が一定とならない場合に前記試料の測定を停止することと、
前記試料の同一の測定経路において、前記試料の高さ方向と直交する第1方向および該第1方向とは逆方向である第2方向で前記探針を相対的に往復移動させて、前記試料の測定データを取得することと、
前記物理量が一定とならない場合において、前記第1方向での前記探針の移動により取得した第1測定データと、前記第2方向での前記探針の移動により取得した第2測定データの時系列を逆転させたデータとの一致度が閾値より小さい場合に、
前記試料の第1測定経路における前記第1測定データと前記第2測定データとに基づいて第1測定差分値を算出することと、
前記試料の第2測定経路における前記第1測定データと前記第2測定データとに基づいて第2測定差分値を算出することと、
前記第1測定経路において前記探針の相対的な往復移動が終了したときから、前記第2測定経路において前記探針の相対的な往復移動が終了したときまでの経過時間を取得することと、
前記第1測定差分値と、前記第2測定差分値と、前記経過時間とに基づいて、待機時間を算出することと、
算出された前記待機時間に亘って前記試料の測定を停止する第2制御を実行することと、
前記第2制御を実行した後、前記試料の測定を再開することとを備える、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、走査型プローブ顕微鏡および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料の表面に沿って相対移動されるプローブを備えた走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)が提案されている。たとえば、特開2021-004859号公報(特許文献1)に記載のSPMは、制御装置と、試料が配置される試料台と、該試料の表面に沿って相対移動させる探針とを備える。SPMは、該試料台をX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に駆動することにより該試料を測定する。また、制御装置は、探針と試料との間に作用する物理量(たとえば、原子間力)が一定となるようにフィードバック制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のSPMによる試料の測定中において、上述のフィードバック制御が実行されたにも関わらず、探針と試料との間に作用する物理量が一定とならない場合がある。この場合とは、たとえば、SPMが測定することができない程大きな凸部が試料に存在する場合である。試料に該凸部が存在する状態で測定を継続すると、不正確な測定結果を取得してしまうという問題が生じ得る。
【0005】
この発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、探針と試料との間に作用する物理量が一定とならない場合であっても、不正確な測定結果を取得することを低減する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の走査型プローブ顕微鏡は、試料を測定する。走査型プローブ顕微鏡は、走査型プローブ顕微鏡であって、試料が配置される試料台と、試料に対向して配置される探針と、探針と試料との間に作用する物理量が一定となるように第1制御が実行されることにより、探針を試料の表面に沿って相対的に移動させる第1駆動機構と、第1制御が実行されたにもかかわらず物理量が一定とならない場合に試料の測定を停止する制御装置とを備える。
【0007】
本開示の制御方法は、走査型プローブ顕微鏡の制御方法である。走査型プローブ顕微鏡は、試料が配置される試料台と、試料に対向して配置される探針と、探針を試料の表面に沿って相対的に移動させる第1駆動機構とを備える。制御方法は、探針と試料との間に作用する物理量が一定となるような第1制御を実行することと、第1制御が実行されたにもかかわらず物理量が一定とならない場合に試料の測定を停止することとを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、探針と試料との間に作用する物理量が一定となるように制御が実行されたにも関わらず物理量が一定とならない場合には、試料の測定を停止する。したがって、本開示によれば、不正確な測定結果を取得することを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係るSPMの構成を概略的に示す図である。
【
図2】情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図5】熱ドリフトの発生の検出の手法を示す図である。
【
図6】過大凹凸部が試料に存在する場合の第2制御を示す図である。
【
図7】SPMの動作方法を説明するためのフローチャートである。
【
図8】第3実施形態のSPMの動作方法を説明するためのフローチャートである。
【
図10】表示装置の表示領域に表示される通知文の一例を示す。
【
図12】待機時間の予測の手法を説明するための図である。
【
図14】変形例のSPMの動作方法を説明するためのフローチャートである。
【
図15】待機時間算出処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡(SPM)の構成を概略的に示す図である。本実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡100は、代表的には、プローブ(探針)3と試料Sの表面との間に働く物理量を利用して試料Sの表面の形状を測定する原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)である。その他の走査型プローブ顕微鏡、例えば走査型トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)にも本開示を同様に適用することができる。なお、物理量は、たとえば、原子間力(引力または斥力)である。以下では、試料Sの高さ方向をZ軸方向とし、Z軸方向に直交する方向をX軸方向およびY軸方向とする。
【0012】
図1に示すように、走査型プローブ顕微鏡100は、主たる構成要素として、測定装置10と、情報処理装置20と、表示装置30と、入力装置40とを備える。測定装置10は、主たる構成要素として、光学系1と、カンチレバー2と、微動機構12(スキャナ)と、試料台14と、粗動機構13と、XY方向駆動部16と、Z方向駆動部18と、フィードバック信号発生部22とを有する。本実施の形態の「微動機構12」は、本開示の「第1駆動機構」に対応し、本実施の形態の「粗動機構13」は、本開示の「第2駆動機構」に対応する。
【0013】
試料Sは、試料台14上に配置される。試料台14は、微動機構12上に配置される。微動機構12は、試料Sと探針3との相対的な位置関係を変化させるための移動装置である。微動機構12は、XYスキャナ12xyと、Zスキャナ12zとを有する。XYスキャナ12xyは、試料台14を、X軸方向およびY軸方向に移動させる。Zスキャナ12zは、試料台14をZ軸方向に微動させる。XYスキャナ12xyは、XY方向駆動部16から印加される電圧によって変形する圧電素子を有する。Zスキャナ12zは、Z方向駆動部18から印加される電圧によって伸縮する圧電素子を有する。この圧電素子により、Zスキャナ12zは伸縮する。なお、XYスキャナ12xyおよびZスキャナ12zは、圧電素子を有する構成に限定されない。
【0014】
本実施の形態においては、Z方向駆動部18が印加する電圧が、最大値Vmaxであるときに、試料台14はZ軸方向において最も高い位置に駆動される。また、Z方向駆動部18が印加する電圧が、最小値Vminであるときに、試料台14はZ軸方向において最も低い位置に駆動される。たとえば、最大値Vmaxは、+V1(V1は正の実数)であり、最小値Vminは、-V1である。また、Z方向駆動部18が印加する電圧が、0であるときに、試料台14は、初期位置に駆動される。本実施の形態においては、初期位置は、Z軸方向において中央の位置となる。なお、変形例として、Z方向駆動部18が印加する電圧が最大値Vmaxであるときに、試料台14はZ軸方向において最も低い位置に駆動され、該電圧が最小値Vminであるときに、試料台14はZ軸方向において最も高い位置に駆動されてもよい。
【0015】
カンチレバー2は、板ばね状に形成されており、その一方端がホルダ4によって支持されている。カンチレバー2の他方端は自由端であり、試料Sに対向するように配置される。
図1に示した例では、Z軸方向の上方に配置されている。カンチレバー2は、試料Sと対向する表面と、表面と反対側の裏面とを有する。カンチレバー2の自由端の先端部の表面には、試料Sに対向するように探針3が配置されている。当該先端部の裏面は、光を反射するように構成されている。探針3と試料Sとの間に働く物理量(たとえば、原子間力)によって、カンチレバー2の先端部がZ軸方向に変位する。
【0016】
カンチレバー2のZ軸方向の上方には、カンチレバー2の撓み量(すなわち、先端部の変位量)を検出するための光学系1が設けられている。光学系1は、試料Sの測定時にレーザ光をカンチレバー2の裏面(反射面)に照射し、当該反射面で反射されたレーザ光を検出する。具体的には、光学系1は、レーザ光源6と、ビームスプリッタ5と、反射鏡7と、光検出器8とを有する。
【0017】
レーザ光源6は、レーザ光を発射するレーザ発振器を有する。光検出器8は、入射されたレーザ光を検出するフォトダイオードを有する。レーザ光源6から発射されたレーザ光LAは、ビームスプリッタ5で反射され、カンチレバー2の裏面(反射面)に照射される。カンチレバー2の裏面で反射されたレーザ光は、さらに反射鏡7によって反射されて光検出器8に入射する。
【0018】
光検出器8は、カンチレバー2のZ軸方向(変位方向)に複数(たとえば、2つ)に分割された受光面を有する。あるいは、光検出器8は、Z軸方向およびY軸方向に4分割された受光面を有する。カンチレバー2の先端部がZ軸方向に変位すると、複数の受光面に照射される光量の割合が変化することから、その複数の受光光量に基づいて、カンチレバー2の撓み量(変位量)を検出することができる。
【0019】
フィードバック信号発生部22は、光検出器8から与えられる検出信号を演算処理することによって、カンチレバー2の撓み量を算出する。フィードバック信号発生部22は、探針3と試料Sとの間の原子間力が一定になるように試料SのZ方向位置を制御する。以下では、この制御は、「フィードバック制御」と称される。また、フィードバック制御は、本開示の「第1制御」に対応する。具体的には、フィードバック信号発生部22は、算出したカンチレバー2の撓み量と目標値との偏差Sdを算出し、偏差SdがゼロになるようにZスキャナ12zを駆動するための制御量を算出する。フィードバック信号発生部22は、この制御量に対応してZスキャナ12zを変位させるための電圧値Vzを算出する。フィードバック信号発生部22は、電圧値Vzを示す電圧信号をZ方向駆動部18に出力する。Z方向駆動部18は、電圧値VzをZスキャナ12zに印加する。このように、Z方向駆動部18は、フィードバック信号発生部22からの電圧値の入力を受付け、該電圧値に基づいた電圧をZスキャナ12zに印加する。
【0020】
情報処理装置20は、予め設定された走査条件に従って、試料台14が探針3に対してX軸およびY軸方向に相対移動するように、XY方向駆動部16をX軸方向の電圧値VxおよびY軸方向の電圧値Vyを算出し、XY方向駆動部16に出力する。XY方向駆動部16は、電圧値VxおよびVyをXYスキャナ12xyに印加する。
【0021】
粗動機構13は、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に試料台14を移動させる。また、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向において、微動機構12による試料台14の第1移動範囲は、粗動機構13による試料台14の第2移動範囲よりも小さくなるように構成されている。また、後述の原因により、SPM100が試料Sを適切に測定できない場合がある。この場合には、情報処理装置20の制御により粗動機構13は、退避処理を実行する。退避処理は、探針3と試料台14との間隔を増大させる処理である。粗動機構13は、情報処理装置20により駆動される。
【0022】
情報処理装置20は、主として測定装置10の動作を制御する。Z軸方向のフィードバック量(Zスキャナ12zへの印加電圧Vzおよび偏差Sd)を示す測定データはZ方向駆動部18から情報処理装置20に送られる。測定データは、試料SのY軸方向(
図3参照)において、所定の間隔毎に定められている測定点毎に送信される。情報処理装置20は、測定データを記憶する。情報処理装置20は、予め記憶されている電圧Vzとそれに対応した試料S(試料台14)のZ軸方向の変位量との関係を示す相関情報に基づいて、電圧Vzから試料SのZ軸方向の変位量を算出する。算出された変位量は、試料SのZ軸方向の位置を示す値(以下、「Z値」とも称する)を反映した値である。情報処理装置20は、走査範囲におけるX軸およびY軸方向の各位置において、試料SのZ軸方向の変位量を算出することにより、試料Sの表面の形状を表す2次元または3次元の測定データを作成する。情報処理装置20は、該測定データに基づいて試料Sの表面の形状などの情報を表示装置30に表示させる。
【0023】
情報処理装置20により作成された画像データは、XY平面上の各位置におけるZ軸方向の位置を示す値(Z値)とを含んでいる。なお、Z値は、試料台14上の各位置における表面の高さに対応し、そのうち試料Sが存在する位置では試料Sを含む高さに対応している。情報処理装置20は、作成した画像データを表示装置30に表示する。また、入力装置40からは、ユーザから様々な情報が入力される。
【0024】
[情報処理装置のハードウェア構成]
図2は、情報処理装置20のハードウェア構成例を示す図である。
図2を参照して、情報処理装置20は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)160と、ROM(Read Only Memory)162と、RAM(Random Access Memory)164と、HDD(Hard Disk Drive)166と、通信I/F(Interface)168と、表示I/F170と、入力I/F172とを有する。各構成要素はデータバスによって相互に接続されている。なお、情報処理装置20のハードウェア構成のうち少なくとも一部分は、測定装置10の内部にあってもよい。あるいは、情報処理装置20は、走査型プローブ顕微鏡100とは別体として構成し、走査型プローブ顕微鏡100との間で双方向に通信を行なうように構成してもよい。
【0025】
通信I/F168は、測定装置10と通信するためのインターフェイスである。表示I/F170は、表示装置30と通信するためのインターフェイスである。入力I/F172は、入力装置40と通信するためのインターフェイスである。
【0026】
ROM162は、CPU160にて実行されるプログラムを格納する。RAM164は、CPU160におけるプログラムの実行により生成されるデータ、および通信I/F168を経由して入力されるデータを一時的に格納することができる。RAM164は、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能し得る。HDD166は、不揮発性の記憶装置である。HDD166に代えて、フラッシュメモリなどの半導体記憶装置を採用してもよい。
【0027】
ROM162に格納されているプログラムは、記憶媒体に格納されて、プログラムプロダクトとして流通されてもよい。または、プログラムは、情報提供事業者によって、いわゆるインターネットなどによりダウンロード可能なプロダクトプログラムとして提供されてもよい。情報処理装置20は、記憶媒体またはインターネットなどにより提供されたプログラムを読み取る。情報処理装置20は、読み取ったプログラムを所定の記憶領域(例えばROM162)に記憶する。CPU160は、当該プログラムを実行することにより、後述する画像データの取得処理を実行することができる。
【0028】
表示装置30は、画像データの取得条件を設定するための設定画面を表示することができる。また、画像データの取得中、表示装置30は、情報処理装置20にて作成された画像データおよび、この画像データを処理して得られたデータを表示することができる。
【0029】
入力装置40は、ユーザ(例えば、分析者)からの情報処理装置20に対する指示を含む入力を受け付ける。入力装置40は、キーボード、マウスおよび、表示装置30の表示画面と一体的に構成されたタッチパネルなどを含み、画像の取得条件などを受け付ける。
【0030】
[試料Sの測定範囲]
ユーザは、入力装置40から、試料Sの測定範囲を入力可能である。
図3は、測定範囲R1の一例を示す図である。
図3の例では、測定範囲R1は矩形状に設定されている。
図3に示すように、情報処理装置20は、試料SのY軸方向の測定経路L(1ライン目の経路)に沿って、探針3が往復するように相対移動させる。
図3の例では、Y軸の正方向が、本開示の「第1方向」に対応し、Y軸の負方向が、本開示の「第2方向」に対応する。測定経路Lにおいて、探針3の往復移動が終了すると、探針3は、X軸方向に所定量分、相対移動される。そして、探針3は、次の測定経路(2ライン目の経路)において、再び往復するように相対移動する。このように、探針3は、測定範囲R1において、全てのラインにおいて往復移動する。なお、変形例として、探針3は、X軸方向に往復移動するようにしてもよい。
【0031】
[情報処理装置の処理]
図4は、情報処理装置20の機能ブロック図である。情報処理装置20は、入力部102と、処理部104と、駆動部106と、記憶部108とを有する。入力部102には、Z方向駆動部18からの測定データ(印加電圧Vzおよび偏差Sd)が入力される。この測定データは、処理部104に出力される。処理部104は、試料SのZ軸方向の変位量を算出することにより、測定データを作成する。ここで、探針3が上述の第1方向に相対移動されたときに処理部104が作成するデータを「第1測定データ」と称する。第1測定データは、往路における測定データである。また、探針3が上述の第2方向に相対移動されたときに処理部104が作成するデータを「第2測定データ」と称する。第2測定データは、復路における測定データである。このように、処理部104は、第1測定データおよび第2測定データを作成する。
【0032】
また、処理部104は、偏差Sdがゼロとなっているかを判断する。試料Sの測定において、正常な状況である場合には、上述のフィードバック制御が実行されることにより偏差Sdはゼロとなる。しかしながら、以下に示す原因により、偏差Sdはゼロとはならない場合がある。原因は、第1原因と第2原因とを含む。
【0033】
第1原因は、後述の過大凹凸部が試料Sに存在するという原因である。過大凹凸部は、過度に高い凸部および過度に深い凹部をいう。過度に高い凸部は、Z軸方向の上述の第1移動範囲(微動機構12による試料台14の移動範囲)より長い高さを有する凸部である。また、過度に深い凹部は、Z軸方向の上述の第1移動範囲より長い深さを有する凹部である。ここで、微動機構12による試料台14の第1移動範囲は数μmから数十μmである。
【0034】
第2原因は熱ドリフトが発生しているという原因である。熱ドリフトは、SPM100による試料Sの測定中に、SPM100の機器または試料Sからの発熱により生じる。SPM100装置全体の熱ドリフトにより、意図しない、探針3と試料Sとの相対位置の変化が生じる場合がある。
【0035】
意図しない探針3と試料Sとの相対位置の変化には、探針3が時間の経過とともに試料Sに近づく場合と、探針3が時間の経過とともに試料Sに遠ざかる場合とがある。例えば、探針3が試料Sに近づく方向に熱ドリフトが発生している場合には、試料Sの測定を継続すると、Zスキャナ12zが縮みきっている状態となっても偏差Sdがゼロにならないという現象が起こり得る。逆に、探針3が試料Sから遠ざかる方向に熱ドリフトが発生している場合には、Zスキャナ12zが伸びきっている状態となっても偏差Sdがゼロにならないという現象が起こり得る。つまり、熱ドリフトが発生することによりZスキャナ12zにZ方向駆動部18が印加する電圧が、最大値Vmaxの状態、または、最小値Vminの状態となっているため、上述のフィーバック制御が実行されたにも関わらず偏差Sdがゼロにならない(原子間力が一定にならない)。このような状態を、微動機構12の稼働範囲を超える熱ドリフトによる影響が発生した状態と称する。
【0036】
以下では、「時間の経過とともに、探針3と試料Sとが近づくように作用する熱ドリフト」は、「第1熱ドリフト」とも称される。また、「時間の経過とともに、探針3と試料Sとが遠ざかるように作用する熱ドリフト」は、「第2熱ドリフト」とも称される。また、熱ドリフトが発生した場合において、途中から該熱ドリフトの種別が変化することはないとする。たとえば、第1熱ドリフトが発生した場合において、途中から第2熱ドリフトが発生する場合はないとする。また、第2熱ドリフトが発生した場合において、途中から第1熱ドリフトが発生する場合はないとする。
【0037】
次に、原因の種別(第1原因および第2原因のいずれであるか)を特定する手法を説明する。処理部104は、偏差Sdがゼロではないと判断した場合には、記憶部108に記憶されている測定データ(過去に取得された測定データ)を取得する。たとえば、処理部104は、直近に記憶された(直近に取得された)N個の測定データを取得する。Nは1以上の整数である。なお、N個の測定データの各々に第1測定データと第2測定データとが含まれている。そして、処理部104は、該測定データに基づいて、原因の種別を特定する。
【0038】
図5は、過去の測定データの一例である。
図5(A)~
図5(C)において、横軸は、時間tを示し、縦軸は、SPM10により測定された試料Sの高さを示す。また、
図5では、往路の測定データおよび復路の測定データが示されている。往路における測定の開示時刻を「t0」とし、往路から復路への反転時刻を「t1」とし、復路における測定の終了時刻を「t2」とする。なお、
図5の例では、便宜上、往路から復路への反転時において、往路における測定の終了時刻と、復路における測定の開始時刻とが同一となっているが、測定の終了時刻と、復路における測定の開始時刻とは異なる場合がある。
【0039】
処理部104は、復路における測定データを、該復路の測定データの時系列を逆転させた逆データ(第3測定データ)に変換する。そして、処理部104は、該復路に対応する往路の測定データ(第1測定データ)と、逆データとの一致度を算出する。一致度は、往路の測定データと、逆データとの一致度合いを示す値である。一致度は、例えば、往路の測定データと、逆データとの試料Sの複数の同一位置の測定データにより示される値の差分の平均値または標準偏差に基づいて算出される。
【0040】
図5(A)は、熱ドリフトが生じておらず、過大凹凸部が存在するという原因(つまり第1原因)を説明するための図である。
図5(A)に示すように、往路における測定期間の測定データと、逆データとは一致している(一致度は、閾値以上である)。したがって、処理部104は、偏差Sdがゼロではない場合において、
図5(A)に示す過去の測定データを取得した場合には、第1原因を特定する。
【0041】
図5(B)は、探針3と、試料Sとが近づくように作用する熱ドリフト(第1熱ドリフト)が発生している場合を示す。
図5(B)において、復路における測定データは、該第1熱ドリフトの影響により、探針3と、試料Sとが近づくことを示すデータとなっている。
【0042】
図5(C)は、探針3と、試料Sとが遠ざかるように作用する熱ドリフト(第2熱ドリフト)が発生している場合を示す。
図5(C)において、復路における測定データは、該第2熱ドリフトの影響により、探針3と、試料Sとが遠ざかることを示すデータとなっている。なお、
図5(B)および
図5(C)の復路において、熱ドリフトが発生していないときの波形(正常波形)が破線で示されている。
【0043】
なお、
図5の測定データは一例である。たとえば、SPM100の構成によっては、第1熱ドリフトが発生しているときに
図5(C)の測定データが取得され、第2熱ドリフトが発生しているときに
図5(B)の測定データが取得される場合がある。
【0044】
図5(B)および
図5(C)に示すように、往路における測定期間の測定データと、逆データとは一致していない(一致度は、閾値未満である)。したがって、処理部104は、偏差Sdがゼロではない場合において、
図5(B)に示す過去の測定データを取得した場合には、第2原因(第1熱ドリフトの発生)を特定する。また、処理部104は、偏差Sdがゼロではない場合において、
図5(C)に示す過去の測定データを取得した場合には、第2原因(第2熱ドリフトの発生)を特定する。
【0045】
また、処理部104は、原因の種別を特定したときには、該原因の種別を特定可能なフラグ(原因情報)を記憶部108に記憶させる。処理部104は、第1原因を特定した場合には、凹凸部フラグを記憶部108に記憶させる。この凹凸部フラグは、過大凹凸部が検出されたことを示すフラグである。処理部104は、第2原因を特定した場合には、熱ドリフトフラグを記憶部108に記憶させる。熱ドリフトフラグは、熱ドリフトが検出されたことを示すフラグである。さらに処理部104は、第1原因または第2原因を特定すると該特定した原因を示す原因信号を測定装置10に送信する。測定装置10は、この原因信号を受信することにより、発生した原因を特定できる。
【0046】
また、試料Sに第1原因である過大凹凸部がある場合には、SPM100は、適切に試料Sを測定できないのみならず、測定を継続すると、試料Sおよび探針3が接触することによって、試料Sおよび探針3の少なくとも一方が破損する場合がある。そこで、本実施形態のSPM100は、第1原因の影響を解消するための第2制御を実行し、該第2制御の後に測定を継続する。
【0047】
図6は、第1原因の影響を解消するための第2制御を示す図である。
図6においては、試料Sと、ユーザにより設定された測定範囲R1とが示されている。そして、
図6(A)に示すように部分αにおいて、偏差Sdがゼロにならなかった(特殊な凸部が存在した)とする。この場合には、駆動部106は、粗動機構13を駆動することにより、退避処理(探針3と試料台14(試料S)との間隔を増大させる処理)を実行する。これにより、SPM100は、探針3と試料Sとの衝突を防止できる。そして、測定装置10は、Z方向駆動部18からZスキャナ12zに印加される電圧を0にする。過大凹凸部の形状に追従するために、Zスキャナ12zが縮みきっている、あるいは、伸びきっている可能性が高いためである。さらに、処理部104は、
図6(B)に示すように、測定範囲を、測定範囲R1から新たな測定範囲R2に変更する。駆動部106は、粗動機構13を駆動することにより新たな測定範囲R2を測定可能なように移動する。そして、
測定装置10は、測定範囲R2において、試料Sの測定を再開する。Z方向駆動部18からZスキャナに印加される電圧を0にしたため、試料台14は、初期位置に駆動される。したがって、SPM100は、探針3と試料台14とが衝突することを低減できるとともに、Zスキャナ12zの伸縮範囲に余裕をもって測定範囲R2を測定することができる。
【0048】
ここで、測定範囲R2は、部分αが除外された範囲、つまり、原子間力が一定とならなかった部分αを除く測定範囲であって、測定範囲R1と同じ面積にすることが望ましい。より詳細には、測定範囲R2は、部分αと隣接する範囲である。「部分αと隣接する」とは、「測定範囲R2を形成する枠上に部分αが存在する」を意味してもよい。また、「部分αと隣接する」とは、「測定範囲R2を形成する枠から所定距離、離れている」を意味してもよい。また、情報処理装置20は、第1原因が発生した部分αのXY座標を記憶する。そして、情報処理装置20は、部分αのXY座標を基準にして、測定範囲R2を新たに設定する。
【0049】
また、新たな測定範囲R2で再度の第1原因が発生した場合には、該再度の第1原因が発生した部分αが除外された新たな測定範囲が設定される。このように、SPM100は、第1原因が発生せずに該測定範囲での測定が完了するまで、測定範囲の再設定を繰り返す。また、試料Sにおいて、測定範囲の再度の設定を複数回実行したにもかかわらず、第1原因が発生しない測定範囲が設定できなかった場合には、SPM100は、該試料Sについての測定は不可能であるとして判断して測定処理を終了する。したがって、情報処理装置20は、該測定不可能であることを示す通知を実行する。
【0050】
また、第2原因である熱ドリフトが発生している場合には、SPM100は、適切に試料Sを測定できない。そこで、本実施形態のSPM100は、第2原因の影響を低減させるための第2制御を実行し、該第2制御の後に測定を継続する。
【0051】
試料Sの測定中、偏差Sdがゼロにならなかった(微動機構12の稼働範囲を超える熱ドリフトによる影響が発生した)とする。この場合には、駆動部106は、粗動機構13を駆動することにより、退避処理(探針3と試料台14(試料S)との間隔を増大させる処理)を実行する必要がある。第1原因および第2原因を解消するための第2制御は、この退避処理を含む。これにより、探針3と試料Sとの衝突を防止できる。そして、測定装置10は、Zスキャナ12zへの印加電圧を0にする。前述の通り、「微動機構12の稼働範囲を超える熱ドリフトによる影響が発生した状態」では、Zスキャナ12zにZ方向駆動部18が印加する電圧が、最大値Vmaxの状態、または、最小値Vminの状態となっているため、該電圧を0に調整する。第1原因および第2原因を解消するための第2制御は、印加電圧を0にする処理を含む。さらに、駆動部106は、粗動機構13を駆動することにより再び探針3と試料Sを近接させ、測定範囲R1において試料Sの測定を再開する。Z方向駆動部18からZスキャナに印加される電圧を0にしたため、Zスキャナ12zは再び伸縮することができる。
【0052】
[SPMの動作方法]
図7は、SPM100の動作方法を説明するためのフローチャートである。
図7の処理は、設定された測定範囲の測定点毎に実行される。
【0053】
ステップS2において、SPM100は、偏差Sdを取得する。次にステップS4において、SPM100は、フィードバック制御を実行することによりSd=0となるようにZスキャナ12zを駆動する。次に、ステップS5において、SPM100は、Sd=0となっているか否かを判断する。SPM100は、Sd=0となっている場合には、ステップS21において、該Sd=0と判断されたときの測定データを記憶部108に記憶させる。次に、ステップS22において、SPM100は、試料Sの測定が終了したか否かを判断する。S22においてYESと判断された場合には、処理は終了する。一方、ステップS22において、NOと判断された場合には、処理は、ステップS2に戻る。
【0054】
また、ステップS5でNOと判断された場合には、ステップS6において、SPM100は、測定を一旦停止する。次に、ステップS7において、SPM100は、粗動機構13を駆動することにより、試料台14をカンチレバー2から退避させる。そして、S8において、SPM100は、Z方向駆動部18からZスキャナ12への印加電圧を0にする。さらに、ステップS9においては、SPM100は、Sd=0とならなかった原因を特定する。
【0055】
図8は、ステップS9の原因特定処理を説明するための図である。ステップS72において、SPM100は、測定データが記憶部108に記憶されているか否かを判断する。ここで、測定データは、
図7の処理が開始された試料Sについての測定データである。測定データが存在しない場合(たとえば、1ライン目の測定が終了していない場合)には、SPM100は原因を特定できない。したがって、ステップS72において、測定データが記憶部108に記憶されていない場合には(ステップS72でNO)、ステップS82において、SPM100は、測定を停止し、その後、処理を終了する。また、SPM100は、処理を終了した旨をユーザに通知するようにしてもよい。
【0056】
一方、ステップS72においてYESと判断された場合には、処理は、ステップS74に進む。ステップS74において、SPM100は、上述の逆データを生成する。次に、ステップS76において、往路データと、生成された逆データとの一致度が、閾値以上であるか否かを判断する(
図5の説明参照)。
【0057】
ステップS76においてYESと判断された場合(つまり、
図5(A)である場合)には、ステップS78において、SPM100は、過大凹凸部を検出する(第1原因を特定する)。一方、ステップS76においてNOと判断された場合(つまり、
図5(B)または
図5(C)である場合)には、ステップS80において、SPM100は、熱ドリフトを検出する(第2原因を特定する)。
【0058】
説明を
図7に戻す。SPM100は、ステップS9の処理が終了すると、ステップS10において、特定した原因を判別する。原因が過大凹凸部である場合には、処理は、ステップS11に進み、原因が熱ドリフトである場合には、処理は、ステップS16に進む。
【0059】
ステップS11において、SPM100は、凹凸部フラグを所定の記憶領域(たとえば、
図2に示すRAM164)に記憶する。次に、ステップS12において、SPM100は、過大凹凸部の箇所(つまり、ステップS5において偏差Sd=0ではないと判断された箇所)が除外された新たな測定範囲R2(
図6参照)を設定する。次に、ステップS14において、SPM100は、該新たな測定範囲R2において試料Sの測定を再開し、処理は、ステップS2に戻る。
【0060】
また、ステップS16においてSPM100は、熱ドリフトフラグを記憶する。次に、ステップS20において、SPM100は、再び粗動機構13を駆動することにより、探針3と試料台14(試料S)を近接させて、測定範囲R1において試料Sの測定を再開し、処理は、ステップS2に戻る。
【0061】
従来のSPMによる試料の測定中において、上述のフィードバック制御が実行されたにも関わらず、原子間力が一定とならない場合がある。この場合とは、たとえば、SPMが測定することができない程大きな凸部が試料に存在する場合である。試料に該凸部が存在する状態で測定を継続すると、不正確な測定結果を取得してしまうという問題が生じ得る。
【0062】
そこで、SPM100は、Sd=0とはならない場合には(ステップS5でNOと判断された場合には)、ステップS6において、測定を停止する。したがって、SPM100は、不正確な測定結果を取得することを低減することができる。
【0063】
また、SPMが試料の測定が停止したままであると、試料の測定終了時間の遅延が生じるという問題が生じ得る。
【0064】
また、たとえば、SPM100が長時間を要する測定を実行する場合がある。長時間を要する測定とは、たとえば、高画素での測定、遅い走査速度での測定、複数の試料の測定などである。このように長時間を要する測定の場合には、ユーザは、SPM100から離れた場所に位置する場合がある。この場合において、ユーザが意図せずに、試料の測定が停止してしまうと、ユーザが測定停止に気が付かずに長時間が経過してしまう恐れがある。また、再度、測定を開始する必要があり、ユーザの負担を強いることになる。
【0065】
これに対し、原子間力が一定とならない場合には、SPM100は、試料Sの測定を停止した後、第2制御を実行し、第2制御を実行した後、前記試料の測定を再開する(
図7のステップS14およびステップS20参照)。また、第2制御は、発生した原因による影響を低減するための制御である。本実施の形態では、この第2制御は、たとえば、ステップS7、およびステップS8などである。そして、SPM100は、該第2制御を実行した後、試料の測定を再開する(ステップS14およびステップS20)。したがって、SPM100は、Sd=0とはならない原因を解消した後に、試料Sの測定を再開できる。よって、ユーザは、試料の測定の遅延が生じることを低減できる。また、ユーザは、再度、試料Sを測定させる操作をSPM100に対して行う必要がなく、その結果、ユーザの負担を軽減できる。
【0066】
また、第2制御は、試料台14の退避処理(ステップS7)を含む。したがって、探針3と試料台14とが衝突することを低減できる。
【0067】
また、第2制御は、Zスキャナ12zへの印加電圧を0にする処理を含む。したがって、試料台14は、初期位置に駆動される。よって、SPM100は、探針3と試料台14とが衝突することを低減できるとともに、Zスキャナ12zの伸縮範囲に余裕をもって測定範囲R2を測定することができる。
【0068】
また、SPM100は、過去の第1測定データおよび第2測定データに基づいて原因を特定する(
図8参照)。したがって、SPM100は、原子間力が一定とならなかった原因を特定することができる。
【0069】
また、SPM100は、上述の往路データと逆データとの一致度が閾値よりも高い場合には、凹凸部フラグを記憶するとともに、ステップS12の制御を第2制御として実行する。ステップS12の制御は、試料Sの測定範囲を原子間力が一定とならなかった箇所を除く測定範囲に設定する制御である。したがって、SPM100は、試料Sの測定範囲R1を部分αを除く測定範囲R2に設定することにより、特殊な凸部以外の箇所の試料Sを測定することができる。
【0070】
また、
図6に示すように、新たに設定される測定範囲R2は、特殊凸部が存在する部分α(フィーバック制御が実行されたにも関わらず偏差Sdがゼロにならない部分)と隣接する範囲となる。したがって、測定範囲を変更する際のXY平面での移動量を最小にすることができる。
【0071】
また、SPM100は、第1測定データおよび第2測定データが取得されていない場合には(
図8のステップS72でNO)、試料の測定を停止する(ステップS82)。したがって、Sdがゼロではない原因が特定できない状態で試料Sの測定が継続されることを防止できる。
【0072】
[その他の実施形態]
(1) 情報処理装置20は、特定された原因(記憶されたフラグの種別)に基づく通知を実行するようにしてもよい。たとえば、第1原因が特定されたとき(測定範囲R1を測定範囲R2に設定したとき)には、表示装置30によりユーザに通知するようにしてもよい。
図9は、表示装置30の表示領域30Aに表示される通知文の一例を示す。
図9の例においては「測定不可能な凸部または凹部があったため測定範囲が変更されました」という通知文140が表示されている。この通知は、第1原因が発生した以降の所定のタイミングで実行される。この所定のタイミングは、たとえば、測定範囲R2での試料Sの測定が終了したタイミングである。これにより、SPM100は、測定範囲内に測定不可能な凸部または凹部があったこと、および測定範囲が変更されたことを、ユーザに認識させることができる。
【0073】
また、情報処理装置20は、第2原因が発生したときに表示装置30によりユーザに通知するようにしてもよい。
図10は、表示装置30の表示領域30Aに表示される通知文の一例を示す。
図10の通知文150は、「熱ドリフトが発生しました」という文である。このような通知により、SPM100は、熱ドリフトが発生したことを、ユーザに認識させることができる。
【0074】
(2)
図6では、試料Sの特殊凸部または特殊凹部が検出された場合には、SPM100は、自動で測定範囲を変更する構成を説明した。しかしながら、このように測定範囲の変更をユーザが所望していない場合などがある。このような点を鑑み、SPM100は、自動測定モードと、停止モードとをユーザが選択できる構成を採用してもよい。自動測定モードは、試料Sの測定を停止した後に試料Sの測定を再開するモードである。停止モードは、試料Sの測定を停止した後に試料Sの測定を再開しないモードである。自動測定モードは、本開示の「第1モード」に対応し、停止モードは、本開示の「第2モード」に対応する。
【0075】
図11は、モードの選択画面の一例である。この選択画面は、表示装置30の表示領域30Aに表示される。この選択画面には、「モードを選択してください」という文190と、自動測定モードの選択肢192と、停止モードの選択肢194とが含まれている。
【0076】
ユーザは、所望の選択肢のチェックボックスにチェックを入力することによりモードを設定できる。ユーザは、たとえば、入力装置40を用いて、チェックボックスにチェックを付与する。SPM100は、ユーザからのモードの選択の入力を受け付けることにより、該選択されたモードを設定する。このように、停止モードおよび自動測定モードのいずれかをユーザは選択できることから、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0077】
(3)
図7では、熱ドリフトが発生している場合には、ステップS8でZスキャナ12zへの
印加電圧を0にリセットした後、直ちにステップS20で測定を再開する構成を説明した。しかしながら、直ちに測定を再開するとSPM100全体の熱ドリフトの影響が残存している場合があり、再び微動機構12の稼働範囲を超える熱ドリフトによる影響により、意図しない、探針3と試料Sとの相対位置の変化が生じる場合がある。
【0078】
そこで、試料Sの測定を再開する前にSPM100全体の熱ドリフトが低減または消滅するための待機時間を設けてもよい。このように、熱ドリフトが発生した場合の第2制御は、待機時間に亘って試料Sの測定を停止する処理を含む。
【0079】
この変形例では、この待機時間の算出の手法を説明する。一般的に、熱ドリフトが発生した場合には、該発生時からの時間の経過とともに、熱ドリフト量(熱ドリフトの影響度合い)は低減する(
図12のグラフA参照)。この変形例のSPM100は、この現象に基づいて、待機時間を算出(または推定)する。
【0080】
図12は、待機時間の予測の手法を説明するための図である。
図12に示すように、タイミングt11での熱ドリフト量M1と、タイミングt12での熱ドリフト量M2と、プロットA1と、プロットA2とが示されている。さらに、待機時間と、熱ドリフトとの関係を示す関数のグラフAが示されている。
【0081】
情報処理装置20は、熱ドリフト量M1と、熱ドリフト量M2と、経過時間T0とに基づいて、関数のグラフAを作成する。より詳細には、情報処理装置20は、熱ドリフト量M1と、熱ドリフト量M2との差分ΔMを算出する。そして、情報処理装置20は、差分ΔMを経過時間T0で除算することにより、熱ドリフト量の変化率を算出する。そして、該変化率に基づいて、関数のグラフAを作成する。関数の作成式については、たとえば、記憶部108に記憶されている。
【0082】
そして、情報処理装置20は、グラフAに基づいて熱ドリフト量が最小値M0となるとき(タイミングt13)までの時間T1を待機時間として算出する。なお、待機時間T1の開始タイミングは、たとえば、待機時間T1の算出が終了したタイミングである。
【0083】
図13は、熱ドリフト量M1と、熱ドリフト量M2とを説明するための図である。情報処理装置20は、2以上の測定経路(2ライン以上)の過去の測定データを用いる。
図13(A)に示すように、情報処理装置20は、試料Sの第1測定経路(
図13の例では、1ライン目)において、第1測定データ(往路の測定データ)および第2測定データ(復路の測定データ)に基づいて第1測定差分値M1aを算出する。具体的には、情報処理装置20は、往路の逆データ(時系列が逆転されたデータ)を算出する。
図13(A)では、往路の逆データは、破線で示されている。そして、情報処理装置20は、該逆データと、復路データとの差分値である第1測定差分値M1aを算出する。第1測定差分値M1aは、熱ドリフト量に応じた値である。熱ドリフト量が大きいほど、測定差分値も大きくなる。また、情報処理装置20は、第1測定差分値M1aに対して、所定の係数Cを乗算することにより、熱ドリフト量M1を算出する。係数Cは、実数であり、1としてもよい。
【0084】
また、
図13(B)に示すように、情報処理装置20は、試料Sの第2測定経路(
図13の例では、2ライン目)において、第1測定データ(往路の測定データ)および第2測定データ(復路の測定データ)に基づいて第2測定差分値M2aを算出する。具体的には、情報処理装置20は、往路の逆データ(時系列が逆転されたデータ)を算出する。
図13(B)では、往路の逆データは、破線で示されている。そして、情報処理装置20は、該逆データと、復路データとの差分値である第2測定差分値M2aを算出する。
第2測定差分値M2aは、熱ドリフト量に応じた値である。また、上述のように、一般的に、熱ドリフトが発生した場合には、該発生時からの時間の経過とともに、熱ドリフト量は低減する。したがって、第2測定差分値M2aは、第1測定差分値M1aよりも小さい。また、情報処理装置20は、
第2測定差分値
M2aに対して、上記の係数Cを乗算することにより、熱ドリフト量M2を算出する。
【0085】
さらに、情報処理装置20は、第1測定経路において探針3の相対的な往復移動が終了したとき(
図12のタイミングt11)から、前記第2測定経路において前記探針の相対的な往復移動が終了したとき(
図12のタイミングt12)までの経過時間T0を取得する。情報処理装置20は、探針3の走査速度および測定する画素数などから経過時間T0を取得できる。また、情報処理装置20は、経過時間T0を計測するためのタイマを有していてもよい。
【0086】
そして、情報処理装置20は、熱ドリフト量M1(第1測定差分値M1aから算出される値)と、熱ドリフト量M2(第2測定差分値M2aから算出される値)と、経過時間T0とに基づいて、グラフAを作成し、該グラフAを用いて、待機時間T1を算出する。
【0087】
図14は、本変形例のSPMの動作方法を説明するためのフローチャートである。
図14のフローチャートでは、
図7のフローチャートのステップS16とステップS20との間に、ステップS17およびステップS18が追加されている。
【0088】
ステップS16の処理が終了すると、ステップS17において、SPM100は、待機時間T1を算出する。次に、ステップS18において、SPM100は、待機時間T1が経過したか否かを判断する。SPM100は、待機時間に亘って試料Sの測定を停止する処理を上述の第2制御として実行する(ステップS18でNO)。そして、待機時間T1が経過したときには(ステップS18でYES)、ステップS20において、SPM100は、試料Sの測定を再開する。
【0089】
図15は、ステップS17の待機時間算出処理のフローチャートである。ステップS102において、SPM100は、過去の第1測定経路における第1測定データおよび第2測定データに基づいて第1測定差分値M1aを算出する。次に、ステップS104において、SPM100は、過去の第2測定経路における第1測定データおよび第2測定データに基づいて第2測定差分値M2aを算出する
。
【0090】
次に、ステップS106において、SPM100は、経過時間T0を取得する。そして、SPM100は、グラフAを作成することにより、待機時間T1を算出する。なお、この変形例では、
図12に示すように2つのプロット(プロットA1およびプロットA2)のデータを用いて、待機時間T1を算出したが、3つ以上のプロットのデータを用いて、グラフAを算出するようにしてもよい。
【0091】
この変形例によれば、SPM100は発生している熱ドリフト量に応じた待機時間T1を算出することができる。さらに、SPM100は、待機時間T1が経過した後に試料Sの測定を再開することから、熱ドリフトの影響が低減された測定を試料Sに対して実行することができる。
【0092】
また、この変形例では、SPM100は、待機時間T1を算出したが、待機時間T1は、予め定められた時間としてもよい。予め定められた時間は、たとえば、1時間である。また、待機時間T1は、ユーザが設定可能としてもよい。このような構成であっても、SPM100は、待機時間T1が経過した後に試料Sの測定を再開することから、熱ドリフトの影響が低減された測定を試料Sに対して実行することができる。
【0093】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0094】
(第1項) 一態様に係る走査型プローブ顕微鏡は、試料を測定し、試料が配置される試料台と、試料に対向して配置される探針と、探針と試料との間に作用する物理量が一定となるように第1制御が実行されることにより、探針を試料の表面に沿って相対的に移動させる第1駆動機構と、第1制御が実行されたにもかかわらず物理量が一定とならない場合に試料の測定を停止する制御装置とを備える。
【0095】
このような構成によれば、探針と試料との間に作用する物理量が一定とならない場合であっても、試料の測定を停止することから、不正確な測定結果を取得することを低減できる。
【0096】
(第2項) 第1項に記載の走査型プローブ顕微鏡は、制御装置は、物理量が一定とならない場合に、試料の測定を停止した後、第2制御を実行し、第2制御を実行した後、試料の測定を再開する。
【0097】
このような構成によれば、探針と試料との間に作用する物理量が一定とならない場合であっても、試料の測定を再開することができる。
【0098】
(第3項) 第2項に記載の走査型プローブ顕微鏡は、探針と試料台との間隔を増大させる退避処理を実行する第2駆動機構をさらに備え、第2制御は、退避処理を含む。
【0099】
このような構成によれば、探針と試料との間に作用する物理量が一定とならない場合に、探針と試料台との間隔を増大させる退避処理が実行されることから、探針と試料台とが衝突することを低減できる。
【0100】
(第4項) 第2項または第3項に記載の走査型プローブ顕微鏡において、第1駆動機構は、印加された電圧に応じて、試料台を駆動し、印加された電圧が0である場合には、試料台を初期位置に駆動し、第2制御は、第1駆動機構に印加される電圧を0にする処理を含む。
【0101】
このような構成によれば、探針と試料との間に作用する物理量が一定とならない場合に、試料台を初期位置に駆動できることから、試料の測定の再開の際に、探針と試料台とが衝突することを低減できる。
【0102】
(第5項) 第2項~第4項のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡において、制御装置は、試料の同一の測定経路において、試料の高さ方向と直交する第1方向および該第1方向とは逆方向である第2方向で探針を相対的に往復移動させて、試料の測定データを取得し、同一の測定経路において、第1方向での探針の移動により取得した第1測定データと、第2方向での探針の移動により取得した第2測定データとを記憶し、物理量が一定とならない場合に、記憶された第1測定データと第2測定データとに基づいて、物理量が一定とならなかった原因を特定し、該特定した原因を特定可能な原因情報を記憶する。
【0103】
このような構成によれば、第1測定データと第2測定データとに基づいて原因情報を特定することができる。
【0104】
(第6項) 第5項に記載の走査型プローブ顕微鏡において、制御装置は、第1測定データと第2測定データの時系列を逆転させたデータとの一致度が閾値以上である場合に、試料の測定範囲を物理量が一定とならなかった箇所を除く測定範囲に設定する制御を第2制御として実行する。
【0105】
このような構成によれば、上述の一致度が閾値以上である場合には、走査型プローブ顕微鏡が測定不可能な凸部または凹部が試料に存在していた可能性が高い。このような凸部または凹部が存在する箇所を含む測定範囲での測定は不可能であることから、凸部または凹部が存在する箇所を除く測定範囲を設定することにより、試料を適切に測定することができる。
【0106】
(第7項) 第6項に記載の走査型プローブ顕微鏡において、設定される測定範囲は、箇所と隣接している範囲である。
【0107】
このような構成によれば、範囲を変更する際の第1駆動機構の駆動量を最小にすることができる。
【0108】
(第8項) 第5項~第7項のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡において、制御装置は、第1測定データと第2測定データの時系列を逆転させたデータとの一致度が閾値未満である場合に、予め定められた待機時間に亘って前記試料の測定を停止する処理を前記第2制御として実行する。
【0109】
このような構成によれば、走査型プローブ顕微鏡は、待機時間が経過した後に試料の測定を再開することから、熱ドリフトの影響が低減された測定を試料Sに対して実行することができる。
【0110】
(第9項) 第5項~第7項のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡において、制御装置は、第1測定データと第2測定データの時系列を逆転させたデータとの一致度が閾値未満である場合に、前記試料の第1測定経路における前記第1測定データと前記第2測定データとに基づいて第1測定差分値を算出し、前記試料の第2測定経路における前記第1測定データと前記第2測定データとに基づいて第2測定差分値を算出し、前記第1測定経路において前記探針の相対的な往復移動が終了したときから、前記第2測定経路において前記探針の相対的な往復移動が終了したときまでの経過時間を取得し、前記第1測定差分値と、前記第2測定差分値と、前記経過時間とに基づいて、待機時間を算出し、算出された前記待機時間に亘って前記試料の測定を停止する処理を前記第2制御として実行する。
【0111】
このような構成によれば、発生している熱ドリフト量に応じた待機時間を算出することができる。さらに、走査型プローブ顕微鏡は、待機時間が経過した後に試料の測定を再開することから、熱ドリフトの影響が低減された測定を試料Sに対して実行することができる。
【0112】
(第10項) 第5項~第9項のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡において、制御装置は、第1測定データおよび第2測定データが記憶されていない場合には、試料の測定を停止する。
【0113】
このような構成によれば、上述の第1測定データおよび第2測定データが記憶されていない場合、たとえば、上記の1回の往復移動が終了していない場合には、原因を特定することができない。この場合には、試料の測定を停止できることから、安全性を担保することができる。
【0114】
(第11項) 第5項~第10項のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡において、制御装置は、原因情報に基づく通知を実行する。
【0115】
このような構成によれば、原因が発生した旨をユーザに認識させることができる。
(第12項) 第2項~第11項のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡において、制御装置は、試料の測定を停止した後に試料の測定を再開する第1モードと、試料の測定を停止した後に試料の測定を再開しない第2モードとをユーザの入力により切替可能である。
【0116】
このような構成によれば、試料の測定を停止した後に試料の測定を再開する第1モードと、記試料の測定を停止した後に試料の測定を再開しない第2モードとのいずれかをユーザは選択できる。
【0117】
(第13項) 別の態様に係る制御方法は、試料が配置される試料台と、試料に対向して配置される探針と、探針を試料の表面に沿って相対的に移動させる第1駆動機構とを備え、試料を測定する走査型プローブ顕微鏡の制御方法であって、制御方法は、探針と試料との間に作用する物理量が一定となるような第1制御を実行することと、第1制御が実行されたにもかかわらず物理量が一定とならない場合に試料の測定を停止することとを備える。
【0118】
このような構成によれば、探針と試料との間に作用する物理量が一定とならない場合であっても、試料の測定を停止することから、不正確な測定結果を取得することを低減できる。
【0119】
なお、上述した実施の形態および変更例について、明細書内で言及されていない組み合わせを含めて、不都合または矛盾が生じない範囲内で、実施の形態で説明された構成を適宜組み合わせることは出願当初から予定されている。
【0120】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0121】
1 光学系、2 カンチレバー、3 探針、4 ホルダ、5 ビームスプリッタ、6 レーザ光源、7 反射鏡、8 光検出器、10 測定装置、12 微動機構、13 粗動機構、14 試料台、20 情報処理装置、22 フィードバック信号発生部、30 表示装置、30A 表示領域、40 入力装置、100 走査型プローブ顕微鏡、102 入力部、104 処理部、106 駆動部、162 ROM、164 RAM。