(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】膜・電極接合体の製造方法、及び製造装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20250128BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20250128BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2021512599
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2020047642
(87)【国際公開番号】W WO2021132138
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2019231592
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新宅 有太
(72)【発明者】
【氏名】坂下 竜太
(72)【発明者】
【氏名】出原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 潔
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 五月
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-158518(JP,A)
【文献】特開2004-253267(JP,A)
【文献】特開2005-222894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
H01M 4/86
H01M 4/88
C25B 1/00
C25B 9/00
C25B 11/00
C25B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜に触媒層付きガス拡散層が接合されてなる膜・電極接合体の製造方法であって、
接合前の触媒層の表面のみに大気雰囲気下において液体を付与する液体付与工程と、
液体が付与された触媒層付きガス拡散層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着工程と、
を有し、前記液体付与工程において付与する液体が水を含む液体である膜・電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記水を含む液体における水の含有割合が50質量%以上、100質量%以下である請求項1に記載の膜・電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記液体付与工程において付与する液体が純水である請求項2に記載の膜・電極接合体の製造方法。
【請求項4】
前記液体付与工程において、触媒層付きガス拡散層の触媒層表面に液滴状に前記液体を付与する請求項1~3のいずれかに記載の膜・電極接合体の製造方法。
【請求項5】
前記液体付与工程において、前記液体をスプレーによって付与する請求項4に記載の膜・電極接合体の製造方法。
【請求項6】
前記液体付与工程において、前記熱圧着工程における前記液体の量が前記触媒層の表面1cm
2辺り0.1μL以上5μL以下である請求項1~5のいずれかに記載の膜・電極接合体の製造方法。
【請求項7】
前記電解質膜として炭化水素系電解質膜を用いる請求項1~6のいずれかに記載の膜・電極接合体の製造方法。
【請求項8】
前記電解質膜の表面に、請求項1~7のいずれかに記載の方法により触媒層付きガス拡散層を接合することを含む膜・電極接合体の製造方法。
【請求項9】
電解質膜の一方の面に触媒溶液を塗布・乾燥して第1の触媒層を形成する工程と、
前記電解質膜の他方の面に、第2の触媒層付きガス拡散層を接合する工程と、
を有し、
前記第2の触媒層付きガス拡散層を接合する工程が、接合前の第2の触媒層の表面のみに大気雰囲気下において液体を付与する液体付与工程と、
液体が付与された第2の触媒層付きガス拡散層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着工程と、
を有する膜・電極接合体の製造方法。
【請求項10】
前記第1の触媒層をカバーフィルムで被覆する工程を更に有し、かつ前記第2の触媒層付きガス拡散層を接合する工程を、前記第1の触媒層がカバーフィルムで被覆された状態で行う請求項9に記載の膜・電極接合体の製造方法。
【請求項11】
前記第1の触媒層を形成する工程が、
前記第1の触媒層が乾燥する前にガス拡散層で被覆する工程と、
前記ガス拡散層を通して前記第1の触媒層を乾燥する工程と、
を含む請求項9に記載の膜・電極接合体の製造方法。
【請求項12】
電解質膜の一方の面に、第1の触媒層付きガス拡散層を接合する工程と、
電解質膜の他方の面に触媒溶液を塗布・乾燥して第2の触媒層を形成する工程と、
を有し、
前記第1の触媒層付きガス拡散層を接合する工程は、接合前の第1の触媒層の表面のみに大気雰囲気下において液体を付与する液体付与工程と、
液体が付与された第1の触媒層付きガス拡散層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着工程と、
を有する膜・電極接合体の製造方法。
【請求項13】
電解質膜に触媒層付きガス拡散層が接合されてなる膜・電極接合体の製造装置であって、
接合前の触媒層の表面に液体を付与する液体付与手段と、
液体が付与された触媒層付きガス拡散層と電解質膜とを
それぞれ搬送しながら熱圧着により接合する熱圧着手段と、
を有し、前記液体付与手段において付与する液体が水を含む液体である膜・電極接合体の製造装置。
【請求項14】
前記液体付与手段は、触媒層の表面に液滴状に前記液体を付与する手段である請求項13に記載の膜・電極接合体の製造装置。
【請求項15】
前記液体付与手段がスプレーである、請求項14に記載の膜・電極接合体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池等の電気化学装置に利用される、高分子電解質膜と触媒層が接合されてなる部材、すなわち膜・触媒接合体の一つの実施態様である「膜・電極接合体」の製造方法、及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素、メタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって、電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。なかでも固体高分子形燃料電池は、標準的な作動温度が100℃前後と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として幅広い応用が期待されている。高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」ということがある)は、固体高分子形燃料電池のキーマテリアルであり、近年ではさらに、固体高分子電解質膜型水電解装置や電気化学式水素ポンプといった水素インフラ関連機器への適用についても検討が進んでいる。
【0003】
高分子電解質膜をこうした電気化学機器に適用するに際し、電解質膜と触媒層を接合した部材が利用される。このような部材の例としては、電解質膜の表面に触媒層付きガス拡散層を形成した膜・電極接合体(MEA)が代表である。
【0004】
MEAの製造方法としては例えば以下の方法が知られている。まず、ガス透過性を有するカーボンペーパー等からなる、ガス拡散層と称されるシートを基材として用いて、このシートの表面に触媒溶液を塗布する。そして、塗布された触媒溶液中の溶媒を蒸発させて乾燥した触媒層付きガス拡散層を形成する。さらに、この乾燥した触媒層付きガス拡散層と電解質膜とを面プレスやロールプレスを用いて熱圧着して触媒層付きガス拡散層を高分子電解質膜に接合する。このように一旦触媒層を乾燥状態とした上で電解質膜に接合する方法を採るのは、触媒溶液中の溶媒が電解質膜に付着すると電解質膜が膨潤してシワが発生し、形が崩れてしまうためである。
【0005】
しかし乾燥状態にある触媒層付きガス拡散層を電解質膜に熱圧着する場合には、長時間高温高圧のプレスにかけないと触媒層と電解質膜との密着性が不充分となるおそれがある。一方で触媒層と電解質膜との密着性を向上させるために過酷な熱圧着条件を与えると、触媒層が圧縮変形することでガス拡散性が低下してしまい良好な発電性能が得られないおそれや、電解質膜への熱応力によるダメージが生じて耐久性が低下するおそれ、さらにはガス拡散層が圧縮変形することでガス拡散性が低下したり破損してしまうおそれがある。一方、触媒層付きガス拡散層や電解質膜へのダメージを低減するために単純にプレスの温度と圧力を低くするだけでは、その分プレス時間を伸ばす必要があるため生産性が大きく低下してしまう。
【0006】
そこで、熱圧着条件を緩和しつつ電解質膜と触媒層との良好な密着性を実現するために様々な技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
例えば特許文献1のように、触媒溶液を半乾燥させて触媒層に溶媒成分をわずかに残留させた状態で電解質膜と接合させる方法や、特許文献2のように、乾燥した触媒層の表面に、プロトン伝導性を有するバインダー樹脂を含む溶液を塗布し、溶液が完全に乾燥する前に電解質膜と接合させる方法、特許文献3のように、電解質膜と触媒層を含む積層体を液体中に浸漬した状態で圧着する方法が提案されている。
【文献】特許第4240272号明細書
【文献】特開2013-69535号公報
【文献】特開2009-140652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法によれば、触媒層に、電解質膜の触媒層との接合面のみを軟化することができる程度の溶媒成分を残存させておくことで電解質膜にシワを発生させることなく、緩和した熱圧着条件で電解質膜と触媒層との密着性を良好にすることができる。しかし、触媒溶液中の溶媒を加熱により部分的に除去しつつ、溶媒残存量を触媒層の全面で同一な状態とする乾燥制御は困難であり、触媒層面内の乾燥状態の違いによって、電解質膜と触媒層の界面抵抗が大きいものや、電解質膜の変形によるシワや触媒層表面にクラックが生じたものが混在して品質が安定しないという問題を有している。また、溶媒残存量のマージンが狭く、生産性低下によるコストアップにつながるという問題も有している。さらには触媒溶液の溶媒構成に制限を受けるため、触媒層の品種変更に柔軟に対応することが困難である。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法によれば、プロトン伝導性を有するバインダー樹脂の溶液を触媒層の電解質膜との接合面に塗布して、溶液が完全に乾燥する前に接合することで溶液が接着剤の役割を果たし、低温低圧でも電解質膜と触媒層の密着性を良好にすることができる。しかし、電解質膜と触媒層の接合に、プロトン伝導性を有するバインダー樹脂の溶液を使用するため製造コストアップにつながる。さらに、バインダー樹脂が電解質膜と同様の成分であり、実質上電解質膜の膜厚が増大することによって電気抵抗が増加すること、また溶液中の有機溶媒が電解質膜と触媒層との界面に残存することによって、発電性能の低下を引き起こす可能性があるといった問題も有している。
【0010】
また、特許文献3に記載の方法によれば、電解質膜を含む被接合体と触媒層を含む被接合体を液体中に浸漬した状態で圧着する圧着工程により、電解質膜や触媒層中の電解質が液体を充分に吸収し、柔らかくなった状態でプレスされ、接合相手である触媒層やガス拡散層の接合面の凹凸部に入りこんで強い接合性が得られ、プレス時の温度や圧力を高くすることなく、膜・電極接合体を構成する層間の接合性を高めることができる。しかし、接合に関与する界面以外の部材全体を液体に浸漬させるため、電解質膜の膨潤を抑制して形態を保持することが困難である。さらに、圧着後の乾燥による部材ごとの変形挙動が異なるため均一で平坦な接合体を得ることが困難であり、ロール状の長尺部材を用いた連続的な加工による生産性の向上が難しいという問題も有している。
【0011】
本発明の課題は、高分子電解質膜と触媒層付きガス拡散層が接合されてなる部材(以下、「膜・電極接合体」という)を製造するに際し、熱圧着条件(プレス圧力、プレス温度、プレス時間)の緩和と、触媒層付きガス拡散層と電解質膜との密着性向上の両立を、高い生産性で実現できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の膜・電極接合体の製造方法は、次の構成を有する。すなわち、
電解質膜に触媒層付きガス拡散層が接合されてなる膜・電極接合体の製造方法であって、接合前の触媒層の表面のみに大気雰囲気下において液体を付与する液体付与工程と、液体が付与された触媒層付きガス拡散層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着工程と、を有する膜・電極接合体の製造方法、である。
【0013】
また本発明の膜・電極接合体の製造装置は、次の構成を有する。すなわち、
電解質膜に触媒層付きガス拡散層が接合されてなる膜・電極接合体の製造装置であって、接合前の触媒層の表面に液体を付与する液体付与手段と、液体が付与された触媒層付きガス拡散層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着手段と、を有する膜・電極接合体の製造装置、である。
【0014】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、前記液体付与工程において付与する液体が水を含む液体であることが好ましい。
【0015】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、前記水を含む液体における水の含有割合が90質量%以上、100質量%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、前記液体付与工程において付与する液体が純水であることが好ましい。
【0017】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、前記液体付与工程において、触媒層付きガス拡散層の触媒層表面に液滴状に前記液体を付与することが好ましい。
【0018】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、前記液体付与工程において、前記液体をスプレーによって付与することが好ましい。
【0019】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、前記液体付与工程において、前記熱圧着工程における前記液体の量が前記触媒層の表面1cm2辺り0.1μL以上5μL以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、前記電解質膜として炭化水素系電解質膜を用いることが好ましい。
【0021】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、前記電解質膜の表面に、前記いずれかの方法により触媒層付きガス拡散層を接合することを含むことが好ましい。
【0022】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、電解質膜の一方の面に触媒溶液を塗布・乾燥して第1の触媒層を形成する工程と、前記電解質膜の他方の面に、前記いずれかの方法により触媒層付きガス拡散層を接合して第2の触媒層を形成する工程と、を有することが好ましい。
【0023】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、前記第1の触媒層をカバーフィルムで被覆する工程を更に有し、かつ前記第2の触媒層を形成する工程を、第1の触媒層がカバーフィルムで被覆された状態で行うことが好ましい。
【0024】
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、電解質膜の一方の面に触媒溶液を塗布して第1の触媒層を形成する工程と、前記第1の触媒層が乾燥する前にガス拡散層で被覆する工程と、前記ガス拡散層を通して触媒層を乾燥する工程と、前記電解質膜の他方の面に、前記いずれかに記載の方法により触媒層付きガス拡散層を接合して第2の触媒層を形成する工程と、を有することが好ましい。
【0025】
本発明の膜・電極接合体の製造装置は、前記液体付与手段は、触媒層の表面に液滴状に前記液体を付与する手段であることが好ましい。
【0026】
本発明の膜・電極接合体の製造装置は、前記液体付与手段がスプレーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、熱圧着条件(プレス圧力、プレス温度、プレス時間)の緩和と、触媒層付きガス拡散層と電解質膜との密着性向上を、高い生産性で両立しながら膜・電極接合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の膜・電極接合体製造装置の第一の実施形態の概略構成を示す側面図である。
【
図2】本発明の膜・電極接合体製造装置の第二の実施形態において第一の触媒層を形成するための概略構成を示す側面図である。
【
図3】本発明の膜・電極接合体製造装置の第二の実施形態において第二の触媒層を形成するための概略構成を示す側面図である。
【
図4】本発明の膜・電極接合体製造装置の第三の実施形態において第一の触媒層を形成するための概略構成を示す側面図である。
【
図5】本発明の膜・電極接合体製造装置の第三の実施形態において第二の触媒層を形成するための概略構成を示す側面図である。
【
図6】本発明の膜・電極接合体製造装置の第一の実施形態において遮熱板を説明するための概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
何ら本発明を限定するものではないが、本発明の作用としては、以下のようなことが考えられる。熱圧着工程において、触媒層付きガス拡散層の電解質膜との接合面に液体が付与された状態で電解質膜と触媒層付きガス拡散層とが挟圧されることで、界面に存在する空気が追い出されて電解質膜と触媒層付きガス拡散層の間にほぼ液体のみが存在する状態となる。この状態でさらに熱が加えられることで液体が蒸発し界面が真空化するため触媒層付きガス拡散層と電解質膜との密着性が向上する。さらに電解質膜が液体と接触して軟化するため、両者の密着性はより一層向上する。なお電解質膜は液体と接触している間、熱圧着時の挟圧によって保持されているため、膨潤の発生を防止することができる。また界面で蒸発した液体は、多孔質構造を有した触媒層付きガス拡散層の空孔部を通過することで膜・電極接合体の外に排出される。
【0030】
なお、本明細書における「膜・電極接合体」とは、例えば、ガス透過性を有するカーボンペーパー等からなる基材(ガス拡散層)の片面に触媒層が形成されてなる触媒層付きガス拡散層いわゆるガス拡散電極と電解質膜が接合された部材を指すものであり、また、電解質膜と触媒層との接合面に着目していることから「膜・触媒接合体」の技術分野に含まれる。
【0031】
また、すでに電解質膜の一方の面に触媒層が形成されている状態からさらに他方の面に触媒層付きガス拡散層を接合する操作や電解質膜の一方の面に触媒層付きガス拡散層を接合した後さらに他方の面に触媒層を形成する操作も「膜・電極接合体の製造」に含むものとする。上記した電解質膜の一方の面あるいは他方の面に触媒層を形成する方法としては、例えば、直接に触媒層を塗布する方法、触媒層転写シートを用いて触媒層を転写する方法を採用することができる。
【0032】
〔電解質膜〕
本発明の膜・電極接合体の製造方法及び製造装置に供される電解質膜は、プロトン伝導性を有し、固体高分子形燃料電池、固体高分子電解質膜型水電解装置、電気化学式水素ポンプなどに用いられる電解質膜として作動する限り特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用できる。このような電解質膜としては、高分子電解質膜が好ましく、例えば、パーフルオロスルホン酸からなるフッ素系電解質膜や炭化水素系骨格にプロトン伝導性を付与した炭化水素系ポリマーからなる炭化水素系電解質膜も用いることができる。
【0033】
特に炭化水素系電解質膜は、フッ素系電解質膜に比べガラス転移温度が高い上に加熱時の収縮変形が大きいため、通常の熱圧着方法では優れた生産性を持つ転写条件を見出すことが困難な場合が多く、本発明の製造方法、製造装置を好適に適用できる。
【0034】
また、電解質膜として、高分子電解質と多孔質基材とが複合化された複合電解質膜を用いることができる。
【0035】
〔複合電解質膜〕
複合電解質膜は、高分子電解質と多孔質基材とを複合化したものであり、例えば、多孔質基材に高分子電解質を充填(含浸)することによって得られる。多孔質基材としては、例えば、炭化水素系高分子化合物を主成分とする炭化水素系多孔質基材、フッ素系高分子化合物を主成分とするフッ素系多孔質基材などが挙げられる。
【0036】
炭化水素系高分子化合物としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリーレンホスフィンオキシド、ポリエーテルホスフィンオキシド、ポリベンズオキサゾール(PBO)、ポリベンズチアゾール(PBT)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミドスルホン(PIS)などが挙げられる。
【0037】
フッ素系高分子化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられる。
【0038】
耐水性や耐薬品性、機械特性の観点から、PE、PP、PPS、PEK、PBI、PTFE、ポリヘキサフルオロプロピレン、FEP、PFAが好ましく、さらに、耐薬品性、化学的耐久性の観点からPTFE、ポリヘキサフルオロプロピレン、FEP、PFAがより好ましく、分子配向により高い機械強度を有することから、PTFEが特に好ましい。
【0039】
複合電解質膜としては、炭化水素系電解質とフッ素系多孔質基材とを複合化したものが、特に好ましい。この場合、複合化に際し、炭化水素系電解質溶液にノニオン性フッ素系界面活性剤を加えることによって、フッ素系多孔質基材に炭化水素系電解質を隙間なく高効率で充填(含浸)させやすくなる。
【0040】
複合電解質膜は、例えば、多孔質基材に高分子電解質溶液を多孔質基材に含浸した後に、乾燥させて高分子電解質溶液に含まれる溶媒を除去することによって製造することができる。上記含浸方法としては、次のような方法が挙げられる。
【0041】
(1)高分子電解質溶液に浸漬した多孔質基材を引き上げながら余剰の溶液を除去して膜厚を制御する方法、
(2)多孔質基材上に高分子電解質溶液を流延塗布する方法、
(3)支持基材上に流延塗布された高分子電解質溶液の上に多孔質基材を貼り合わせて含浸させる方法。
【0042】
〔触媒層〕
本発明の膜・電極接合体の製造方法及び製造装置に供される触媒層は、固体高分子形燃料電池、固体高分子電解質膜型水電解装置、電気化学式水素ポンプなどに用いられる触媒層として作動する限り特に限定されるものではない。一般的には、カーボン粒子などの導電性粒子と、導電性粒子に担持された白金粒子または白金合金粒子などの触媒粒子と、プロトン伝導性を有するイオノマーなどの電解質成分とからなる多孔質構造を有した触媒層を用いることができる。
【0043】
一例として、導電性粒子としては、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンなどのカーボン、酸化錫、酸化チタンなどの金属酸化物、などが好適に用いられる。触媒粒子としては、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウムなどの貴金属単体か、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などと白金との合金または白金、ルテニウムとの3元系合金、酸化イリジウムなどが好適に用いられる。また、電解質成分としては、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーの“ナフィオン”(登録商標、ケマーズ社製)、“アクイヴィオン”(登録商標、Solvay社製)、“フレミオン”(登録商標、旭硝子(株)製)、“アシプレックス”(登録商標、旭化成(株)製)、“フミオン”F(登録商標、FuMA-Tech社製)などや、炭化水素系ポリマーのポリスルホンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸などが好適に用いられる。
【0044】
触媒溶液は、これらの触媒層材料が、乾燥によって蒸発する溶媒に分散されたもので、電解質膜上に触媒層を形成するに足るものであれば特に限定されるものでない。一般的には、溶媒として、水や、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブタノール、エチレングリコール等のアルコール、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが好適に用いられる。
【0045】
〔ガス拡散層〕
本発明の膜・電極接合体の製造方法及び製造装置に供されるガス拡散層は、固体高分子形燃料電池、固体高分子電解質膜型水電解装置、電気化学式水素ポンプなどに用いられるガス拡散層として作動する限り特に限定されるものではない。一般的には、電気抵抗が低く、集電あるいは給電を行うことができ触媒層を形成できるものを用いることができる。ガス拡散層の構成材としては、例えば、炭素質、導電性無機物質が挙げられ、例えば、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛などの炭素材、ステンレススチール、モリブデン、チタンなどが例示される。これらの、形態は特に限定されず、例えば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、燃料透過性の点から炭素繊維などの繊維状導電性物質(導電性繊維)が好ましい。導電性繊維を用いたガス拡散層としては、織布あるいは不織布いずれの構造も使用可能である。かかる織布としては、平織、斜文織、朱子織、紋織、綴織など、特に限定されること無く用いられる。また、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、ウォータージェットパンチ法、メルトブロー法によるものなど特に限定されること無く用いられる。また編物であってもよい。これらの布帛において、特に炭素繊維を用いた場合、耐炎化紡績糸を用いた平織物を炭化あるいは黒鉛化した織布、耐炎化糸をニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法などによる不織布加工した後に炭化あるいは黒鉛化した不織布、耐炎化糸あるいは炭化糸あるいは黒鉛化糸を用いた抄紙法によるマット不織布などが好ましく用いられる。特に、薄く強度のある布帛が得られる点から不織布、やクロスを用いるのが好ましい。かかるガス拡散層に用いられる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などがあげられる。こうした炭素繊維として、たとえば、東レ(株)製カーボンペーパーTGPシリーズ、SOシリーズ、E-TEK社製カーボンクロスなどが用いられる。
【0046】
また、かかるガス拡散層には、水の滞留によるガス拡散・透過性の低下を防ぐための撥水処理や、水の排出路を形成するための部分的撥水、親水処理や、抵抗を下げるための炭素粉末の添加、耐電位腐食性を付与するための白金めっき等を行うこともできる。また、電極基材と触媒層の間に、少なくとも無機導電性物質と疎水性ポリマーを含む導電性中間層を設けることもできる。特に、電極基材が空隙率の大きい炭素繊維織物や不織布である場合、導電性中間層を設けることで、触媒溶液がガス拡散層にしみ込むことによる性能低下を抑えることができる。
【0047】
〔触媒層付きガス拡散層〕
本発明の膜・電極接合体の製造方法及び製造装置に供される触媒層付きガス拡散層は、前記ガス拡散層に前記触媒層を形成したものである限り限定されるものではない。一般的には、前記ガス拡散層に前記触媒溶液を直接塗布、乾燥したものを用いることができる。または、前記触媒溶液を一度ガス拡散層とは別の仮基材上に塗布、乾燥してシート状に成形したのち、前記ガス拡散層と熱圧着し、前記仮基材を除去したものを用いることができる。
【0048】
〔液体付与工程〕
液体付与工程は、接合前の触媒層付きガス拡散層の触媒層表面、すなわち電解質膜との接合面に液体を付与する工程である。液体の付与とは、触媒層付きガス拡散層の触媒層表面に液体が露出した状態で付着している状態を形成することを意味する。液体は実質的に触媒層内部へ浸透させないことが好ましい。液体が触媒層内部へ浸透させないと、触媒層中の電解質成分が溶解するおそれがなく、触媒層の強度が低下せず、熱圧着工程におけるクラック発生を有効に防止することができる。
【0049】
液体付与工程において、液体は大気雰囲気下で触媒層表面のみに付与される。触媒層の表面のみに液体が付与されることによって、触媒層と電解質膜の両方に液体を付与するのに比べて、工程制御のパラメータが少なくなるため製造条件が安定しやすく、接合面の液体付与量を制御・管理しやすくなるという利点、および熱圧着工程の前に液滴同士が接触することによる接合面内の液量のばらつきが抑制できるという利点がある。
【0050】
また、大気雰囲気下で液体を付与することによって、触媒層表面のみへの液体付与が可能となり、触媒層内部への液体の浸透を抑制することができる。触媒層内部への液体の浸透を抑制することによって、触媒層の強度低下やクラック発生を有効に抑制することができる。触媒層内部に浸透した液体は、界面の密着性向上には寄与せず、むしろ蒸発させるためのエネルギー消費量が増大することから、触媒層内部への液体の浸透を抑制することは製造コストの点からも有効である。
【0051】
液体付与工程において、液体は、後工程である熱圧着工程での加熱によって蒸発し、かつ電解質膜と触媒層付きガス拡散層に対して毒性を持たない材料であれば特に限定されない。例えば水や、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブタノール等のアルコールや、それらの混合液を用いることができるが、少なくとも水を含む液体を用いることが望ましい。熱圧着時に液体が急激な温度変化を起こすと、電解質膜にシワが発生する場合があるが、水は上記アルコールに比べ沸点、比熱が高く、熱圧着時の温度上昇が緩やかであるため、水を含む液体であればそれらのダメージを抑制することができる。また水はアルコールに比べ触媒層への浸透性が低いため、触媒層に液体が浸透することによるクラックの発生を防ぐことができる。さらに水を含む液体を用いることで低コストに本発明を実施できる上、製造上の環境負荷も小さくできる。なお本発明の製造方法、及び製造装置によって接合した膜・電極接合体に液体が残留した場合でも、水であればこれを用いた機器性能への影響がない。水を含む液体としては、水の含有割合が50質量%~100質量%であることがより好ましく、90質量%~100質量%であることがさらに好ましく、一層好ましくは100質量%である。すなわち液体として純水を用いることが最も好ましい。ここで純水とは、不純物を含まない高純度の水のことであり、逆浸透膜とイオン交換樹脂を通じて採水される市販の純水製造装置で得られるJIS K 0557(1998)A4レベルの水か、それと同等の品質を有するものを指す。
【0052】
なお液体には、全体として流動性を有しており本発明の効果が得られる限り、固形分材料が溶解、もしくは分散した状態で含まれていてもよい。
【0053】
液体付与工程において、液体の付与方法は特に限定されず、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーター等を用いて触媒層表面に一様な塗布膜を形成する方法触媒層表面に液体を液滴状に付与する方法が挙げられるが、触媒層表面に液体を液滴状に付与する方法が特に好ましい。ここで液滴状とは、液滴が触媒層表面に無数に付着して存在する様子を指す。なお液滴とは、表面張力によってまとまった液体のかたまりの内、その大きさが触媒層上で1cm2以下であるものとする。液滴状の付与であれば、接合時に電解質膜を軟化させるための必要最低限の少量の液体を、接合面に均一に付与することが可能である。なお付与された液滴が均一であるとは、接合面1cm2辺りに付与された液体の総量がいずれの位置においても同等であることを意味する。また、水のように触媒層に対してはじきやすく一様な塗布膜の形成が難しい液体であっても、液滴状であれば容易に付与することが可能である。さらに液滴状であれば触媒層との接触面積が小さいため熱圧着されるまでの液体の触媒層内部へ浸透を最小限に抑えることが可能である。なお、液滴は熱圧着工程における挟圧によって液滴が界面で押し広げられて周囲の液滴と結合するため、界面の全ての面で電解質膜を軟化させることが可能である。
【0054】
液体付与工程においては、熱圧着工程において圧着が開始される時の液量が、触媒層表面1cm2辺り0.1μL以上5μL以下となるように液体を付与しておくことが好ましい。熱圧着工程における液量が上記好ましい範囲の場合、電解質膜を十分に軟化することができ、密着性が十分で、熱圧着工程における挟圧時に部分的に液滴が結合せずに電解質膜の軟化されない部分が生じるおそれは無く、一方、搬送中に液だれが生じることはなく、熱圧着時の加熱で略全量の液体が蒸発するので界面に残存する液体によって挟圧が除荷された瞬間に電解質膜が膨潤したりするおそれは無い。液量について、より好ましくは触媒層表面1cm2辺り0.1μL以上0.8μL以下である。なお液量は、触媒層付きガス拡散層の触媒層の表面に、重量を測定したPETフィルム等のサンプル片を触媒層と積層するように貼り付けておき、液体付与工程で液体を付与した後、熱圧着工程においてサンプル片と電解質膜が接触する直前に液体付きサンプル片を取り出してその重量を測定し、重量差から1cm2辺りの液体の体積を計算することで測定することができる。このときのサンプル片の大きさは一辺1cmから10cmの正方形とすることができる。
【0055】
また、付与される液滴の平均直径は小さい程好ましく、具体的には触媒層表面に付着した状態で300μm以下であることが好ましい。平均直径が小さい程、液滴間距離を短くできるため熱圧着工程での挟圧時に、より少ない液量で液滴の結合ができる。
【0056】
液体付与工程において、液体を液滴状に付与する手段としては、特に限定されず、スプレーやインクジェットによって液滴を吹き付ける方法、加湿雰囲気下で接合面に液滴を結露させる方法、超音波振動子等によってミスト化した液体を吹き付ける方法等を用いることができるが、液量を制御しつつ効率的に液体を付与することができる点で、スプレーによって液滴を吹き付ける方法が好ましい。また、液滴を吹き付けるスプレーとしては特に限定されず、圧搾空気によって液体を微細化して噴霧する2流体スプレーノズル等を用いることができる。
【0057】
上記したような液体を液滴状に付与する手段を使用する場合、液滴が周囲に飛散することを抑制するために、スプレーノズル等の液体付与手段をチャンバーで囲むことが好ましい。また、チャンバー内は減圧しなくてもよいが、少し減圧して大気圧に対して負圧にすることによって、チャンバーと触媒層との空隙から液滴が周囲に飛散することが抑制されるので好ましい。
【0058】
〔熱圧着工程〕
液体付与工程を経た触媒層付きガス拡散層は、次に電解質膜と熱圧着する熱圧着工程を行う。熱圧着工程とは、触媒層付きガス拡散層と電解質膜を、触媒層付きガス拡散層の液体が付与された面と電解質膜が接触する積層状態で、加熱、挟圧することで、それらを接合する工程である。
【0059】
熱圧着工程において、触媒層付きガス拡散層と電解質膜とが接触してから、それらに挟圧力が作用するまでの時間は0.1秒以下が好ましい。この時間が上記好ましい範囲であると電解質膜が液体の付着によって膨潤する可能性が低く、液体の付着と熱圧着による電解質膜の固定が略同時に行われるので膨潤を抑制することができる。
【0060】
熱圧着工程における加熱温度は、特に制限されるものではないが、触媒層付きガス拡散層に付与した液体の沸点(以下、「液体沸点」と言う)以上220℃以下が好ましい。加熱温度とは、熱圧着工程中の電解質膜と触媒層の接合面での最高到達温度であり、測定には熱電対を用いることができる。加熱温度が上記好ましい範囲の場合、液体の蒸発に時間を要さず生産性に優れる一方、電解質膜が熱によるダメージを受けるおそれはない。熱圧着工程における加熱温度は、より好ましくは液体沸点以上160℃以下である。なお、液体沸点とは、外圧が1気圧のときの沸点とし、蒸発する液体が単一組成である場合はその液体の沸点を意味し、混合物である場合は混合物の各成分のうち単体として最も沸点が高いものの値を意味することとする。
【0061】
熱圧着工程において電解質膜と触媒層に与えられる圧力は適宜設定され得るが、1MPa以上20MPa以下であることが好ましい。上記好ましい範囲の場合、電解質膜と触媒層付きガス拡散層を十分に密着できる一方、触媒層付きガス拡散層や電解質膜に過剰な圧力がかからないので触媒層付きガス拡散層の構造が破壊されず、電解質膜への機械的ダメージが大きくならず、耐久性や発電性能が低下したりするおそれはない。熱圧着工程における圧力は、より好ましくは1MPaから10MPaである。
【0062】
熱圧着工程における挟圧形態は、特に限定されず、熱プレスロールのように電解質膜と触媒層付きガス拡散層とが単一の線状に接触する線接触の態様や、ダブルベルトプレス機構のように電解質膜と触媒層付きガス拡散層とが面状に搬送方向に幅をもって接触する面接触の態様であることができる。
【0063】
〔ロール・ツー・ロール方式による製造方法〕
本発明の膜・電極接合体の製造方法は、ロール・ツー・ロール方式で行うことが好ましい。すなわち、液体付与工程、熱圧着工程を、ロール・ツー・ロール方式で連続的に行う方式である。
【0064】
ロール・ツー・ロール方式の製造方法は、例えば、長尺ロール状の電解質膜および長尺ロール状の触媒層付きガス拡散層をそれぞれ連続的に、巻き出し、搬送して、液体付与工程、加熱圧着工程を実施して得られた膜・電極接合体をロール状に巻き取る製造方法である。
【0065】
後述する、膜・電極接合体の製造装置は、ロール・ツー・ロール方式の製造方法を実施することができる製造装置の一例である。
【0066】
なお、上記は本発明の製造方法についての説明であるが、上記の説明及び下記の実施形態の記載から容易に理解されるように、本明細書は当該製造方法を実施するための下記のような製造装置も開示するものである。
(1)電解質膜に触媒層付きガス拡散層が接合されてなる膜・電極接合体の製造装置であって、接合前の触媒層の表面に液体を付与する液体付与手段と、液体が付与された触媒層付きガス拡散層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着手段と、を有する膜・電極接合体の製造装置、
(2)前記液体付与手段は、触媒層の表面に液滴状に前記液体を付与する手段である、(1)に記載の膜・電極接合体の製造装置、
(3)前記液体付与手段がスプレーである、(2)に記載の膜・電極接合体の製造装置。
【0067】
以下、本発明の具体的な実施形態について、本発明の製造方法を実現する製造装置の模式図を参照しながら説明する。なお、以下の説明は本発明の理解を容易にするために記載したものであり、本発明を何ら限定するものではないが、当業者には容易に理解されるように、個々の実施形態における好ましい態様や態様の変形についての言及は、同時に上位概念としての本発明の製造方法または製造装置の説明と解釈し得るものである。なお、本明細書においては、便宜上各図面の上方を「上」、下方を「下」として説明するが、各図面の上下方向は必ずしも地面に対する垂直方向に限定されるものではない。
【0068】
[第一の実施形態:膜・電極接合体の製造1]
図1は、本発明の膜・電極接合体製造装置の概略構成を示す側面図である。
【0069】
本実施形態に係る膜・電極接合体製造装置100においては、膜・電極接合体の製造は次の様に実施される。
【0070】
電解質膜10は、電解質膜供給ロール11より巻き出され、ガイドロール12を通して熱圧着部Pに供給される。巻き出された電解質膜10の上方及び下方には、それぞれ触媒層付きガス拡散層供給ロール21A、21Bが設置されている。電解質膜10の上面に接合される触媒層付きガス拡散層は触媒層付きガス拡散層20Aを用いて形成される。触媒層付きガス拡散層20Aは、予めガス拡散層に、例えば触媒溶液の塗布等により作製され、触媒層付きガス拡散層供給ロール21Aから巻き出され、バックアップロール31A、ガイドロール22Aの順に、それぞれ、触媒層形成面とは反対側のガス拡散層側を担持されながら搬送される。電解質膜10の下面に形成される触媒層付きガス拡散層を形成するための触媒層付きガス拡散層20Bは触媒層付きガス拡散層供給ロール21Bから巻き出され、バックアップロール31B、ガイドロール22Bの順に、それぞれガス拡散層側を担持されながら搬送される。このようにして触媒層付きガス拡散層20A、20Bの触媒層の形成された面が電解質膜10と対向するように熱圧着部Pに供給される。
【0071】
なお、ガス拡散層は、通気性を有している。通気性を有するとは、気体を透過し得る性質を持つことを意味し、例えば厚み方向に連通した空孔を有している場合等が挙げられる。通気性を持つことで熱圧着時に生じる液体の蒸気を効果的に排出することができる。
【0072】
ガイドロール12、及び22A、22Bには、熱圧着部Pに供給される電解質膜10、及び触媒層付きガス拡散層20A、21Bのシワやたるみを除去するために、エキスパンダーロールを用いることが好ましい。
【0073】
なお、本実施形態に係る膜・電極接合体の製造装置100においては、電解質膜10の両面に触媒層付きガス拡散層を接合するよう構成されているが、電解質膜10の片面のみに触媒層付きガス拡散層を接合するように構成してもよい。
【0074】
電解質膜の片面のみに触媒層付きガス拡散層を接合することにより、電解質膜のもう一方の面にさらに触媒層付きガス拡散層を接合する前に、額縁状にくりぬかれたフィルムを挟持させるなどして機能を付与することが可能となる。または、電解質膜の片面のみに触媒層付きガス拡散層を接合させた状態で所望の寸法に裁断し、さらに額縁状のフィルム材料や触媒層付きガス拡散層と接合することにより枚葉のMEAとすることが可能となる。
【0075】
本実施形態においては、バックアップロール31Aに担持された触媒層付きガス拡散層20Aに対向してスプレーノズル30Aが設けられている。スプレーノズル30Aは吐出口がバックアップロール31Aの中心軸に向けられており、バックアップロール31Aから所定の間隔を隔てた位置に設けられている。なお、スプレーノズル30Aは触媒層付きガス拡散層20Aの基材幅に応じて、触媒層付きガス拡散層20Aの幅方向に1つ以上備えられるものである。
【0076】
スプレーノズル30Aは図示しない水供給タンクから水が供給されて、供給された水を吐出口から吐出し、触媒層付きガス拡散層の電解質膜との接合面に液滴を付与する。
【0077】
さらにスプレーノズル30Aと、スプレーノズル30Aの吐出口から触媒層付きガス拡散層までの液滴が飛翔する空間Sは、ノズルチャンバー32Aによって囲われており、ノズルチャンバー32Aには、空間Sを減圧する減圧タンク34Aが減圧の切換を行うバルブ33Aを介して配管で接続されている。減圧タンク34Aによって、空間Sを製造装置の環境圧に対して負圧にすることで、ノズルチャンバー32Aと触媒層付きガス拡散層20Aの間に設けられた隙間から外気をわずかに吸引してスプレーノズル30Aからの余分な液滴が周囲に飛散することを防止する。なおノズルチャンバー32A内に溜まった水は、ノズルチャンバー32Aに設けられた図示しないドレンから排出されて水供給タンクに戻り再利用される。
【0078】
なお上記は触媒層付きガス拡散層20Aに対する液体付与手段の説明であるが、触媒層付きガス拡散層20Bに対して設けられる液体付与手段(スプレーノズル30B、ノズルチャンバー32B、バルブ33B、減圧タンク34B)も同様の構成であるため説明を省略する。
【0079】
ノズルチャンバー32A、32Bは減圧しなくてもよいが、少し減圧することによって液滴の周囲への飛散を防止することができるので好ましい。この場合、減圧度が大きすぎると、ノズルチャンバー32A、32B内への外気吸引量が大きくなるため、ノズルチャンバー32A、32B内の気流が乱れ、液滴の付与精度が低下するおそれがある。したがって、ノズルチャンバー32A、32Bの減圧度は、例えば、製造装置の環境圧(大気圧)に対して-50.0kPaまでの範囲が適当であり、-10.0kPaまでの範囲が好ましく、-5.0kPaまでの範囲がより好ましい。
【0080】
このように、電解質膜10、及び電解質膜10との接合面に液体が付与された触媒層付きガス拡散層20A、20Bは熱圧着部Pに供給されて熱プレスロール40A、40Bの間を通過する。なお、
図6に示すように触媒層付きガス拡散層20Aと熱プレスロール40A、触媒層付きガス拡散層20Bと熱プレスロール40Bの間に、それぞれ遮熱板41A、41Bを設けることが好ましい。遮熱板41A、41Bを設けることで、熱プレスロール40A、40Bから放射される輻射熱によって、触媒層付きガス拡散層20A、20Bに付与された液体の熱プレス前の蒸発を防止できる。
【0081】
熱プレスロール40A、40Bは、図示しない駆動手段と連結されており、速度を制御しながら回転可能である。この熱プレスロール40A、40Bが電解質膜10、触媒層付きガス拡散層20A、20Bに熱と圧力をかけながら一定速度で回転することで、電解質膜10と触媒層付きガス拡散層20A、20Bの搬送速度を同期させて搬送しながら、電解質膜10の両面に触媒層付きガス拡散層を熱圧着させて膜・電極接合体13aを形成する。なお熱ロールプレス40A、40Bについて、加熱装置、加圧装置等の図示は省略した。
【0082】
熱プレスロール40A、40Bの材質は特に限定されるものではないが、一方のロールをステンレス等の金属とし、もう一方のロールは、ゴムに代表される樹脂もしくはエラストマー材質等の弾性体を表層に被覆した構造とすることが好ましい。熱プレスロール40A、40Bの一方のロールを金属とすることで、電解質膜と触媒層付きガス拡散層を十分に加熱することが可能であり、もう一方のプレスロールの表層を弾性体とすることで、プレスロールが触媒層付きガス拡散層20A、20Bに対して柔軟に変形し、良好な線接触を維持することで基材幅方向の線圧を均一にすることが可能である。
【0083】
弾性体の材質としては、例えばゴムを用いる場合には、フッ素ゴムや、シリコンゴム、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、ネオプレン、CSM(クロロスルホン化ポリエチレンゴム)、ウレタンゴム、NBR(ニトリルゴム)、エボナイトなどを用いることができる。また、弾性体のゴム硬度はショアA規格で70~97°の範囲であることが好ましい。弾性体のゴム硬度が上記好ましい範囲であると弾性体の変形量が適度で、触媒層付きガス拡散層20A、20Bとの挟圧接触幅が大きくなりすぎず、電解質膜10と触媒層の接合に必要な圧力を確保することができ、一方、挟圧接触幅が小さくなりすぎず、接合に必要な挟圧時間を確保できる。
【0084】
熱プレスロール40A、40Bの加熱手段としては、各種ヒーター、蒸気、オイル等の熱媒を使用することができるが、特に限定されるものではない。また加熱温度は上下のロールで同じ温度であっても良いし、異なる温度であっても良い。
【0085】
熱プレスロール40A、40Bにおける挟圧力の制御方法は、特に限定されず、油圧シリンダー等の加圧手段を用いて挟圧力を制御しても良いし、サーボモーター等を用いた位置制御によって熱プレスロール40A、40B間に一定間隔の隙間を設け、隙間の大きさによって挟圧力を制御しても良い。
【0086】
なお本実施形態においては、熱圧着部Pに線接触機構である熱プレスロール40A、40Bを用いたが、これに限定されるものではない。複数のロールにより複数の線接触で電解質膜10、触媒層付きガス拡散層20A、20Bを挟圧する機構であってもよいし、面接触で挟圧を行うダブルベルトプレス機構を用いても良い。複数組のロールを用いる場合、ロール設置数は特に限定されないが、2~10組であることが好ましい。
【0087】
このように、熱圧着部Pを通過し、電解質膜10の両面に触媒層付きガス拡散層が接合されて、膜・電極接合体13aとなる。
【0088】
なお送り出しロール14は、図示しない駆動手段と連結可能であり、プレスロール40A、40Bが電解質膜10、触媒層付きガス拡散層20A、20Bを挟圧していない状態では、速度制御を行って電解質膜10を搬送することができる。
【0089】
また、熱圧着部Pで電解質膜の両面に触媒層が接合された膜・電極接合体13aを加熱するための加熱手段(不図示)を設置することができる。加熱手段は、例えば、熱圧着部Pから送り出しロール14までの間に設置することができる。加熱手段としては、熱風や加熱ロールを用いることができる。熱風温度や加熱ロールの表面温度、例えば、120℃~250℃が適当であり、150℃~230℃が好ましい。
【0090】
[第二の実施形態:膜・電極接合体の製造2]
第二の実施形態においては、まず
図2に示す触媒層形成装置101によって電解質膜の片面に第1の触媒層を形成する。第1の触媒層の形成は次の様に実施される。
【0091】
本実施形態においては、電解質膜10’は支持体上に支持された状態で触媒層形成装置101に供給される。電解質膜の支持体の材質は特に限定されるものではないが、例えばPETフィルムを用いることができる。
【0092】
支持体付きの電解質膜10’は、電解質膜供給ロール11より巻き出され、ガイドロール12を通して触媒溶液塗布手段72に供給される。触媒溶液塗布手段72は、バックアップロール73に担持される電解質膜10’に対向して備えられている。触媒溶液塗布手段72は、触媒溶液タンク70から触媒溶液送液ポンプ71を用いて触媒溶液が供給され、供給された触媒溶液を電解質膜上に塗布することで塗布膜を形成する。触媒溶液塗布手段72における触媒溶液の塗布方法は特に限定されるものではない。グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーター、ロールコーター、スプレーコーター、スクリーン印刷法などの方法を用いることができる。
【0093】
なお、本実施形態においては、電解質膜10’に触媒溶液を塗布して触媒層を形成しているが、触媒層転写シートを用いて触媒層を電解質膜10’に転写・形成してもよい。
【0094】
次に電解質膜上に形成された触媒溶液の塗布膜を、乾燥手段74によって乾燥し、触媒溶液中の溶媒を蒸発させて乾燥した第1の触媒層を形成する。乾燥手段74における触媒溶液の乾燥方法は特に限定されるものではない。熱風などの熱媒体を送風する方法や熱ヒーターを用いる熱オーブン方式などを用いることができる。
【0095】
このように電解質膜上に第1の触媒層が形成された膜・第1の触媒層接合体16は送り出しロール14によって送り出されて、支持体付きの状態で巻取ロール17によってロール状に巻き取られる。
【0096】
次いで、
図3に示す実施形態に係る膜・電極接合体製造装置102によって電解質膜の第1の触媒層が形成された面の裏面に第2の触媒層を形成する。第2の触媒層の形成は次の様に実施される。
【0097】
膜・第1の触媒層接合体16は、供給ロール18より巻き出され、ガイドロール12を通り、さらにガイドロール26A、26Bを介して支持体51が電解質膜との界面から剥離される。このとき剥離された支持体51は支持体巻取ロール50に巻き取られる。
【0098】
支持体51が剥離された膜・第1の触媒層接合体16に、ガイドロール27A、27Bを介して、カバーフィルム供給ロール60から巻き出されたカバーフィルム61が第1の触媒層面にラミネートされ、その後、熱圧着部Pに供給される。なお、カバーフィルム61のラミネートは支持体51の剥離を行う前に行っても良い。
【0099】
カバーフィルム61は、第2の触媒層を形成する工程中第1の触媒層を保護するために用いられるものであり、着脱によって触媒層の機能に支障をきたさないものであれば材質は特に限定されるものでない。一般的には、紙などに代表される天然繊維のシートや、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィドなどに代表される炭化水素系プラスチックフィルム、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などに代表されるフッ素系フィルム、または、これらの材料にアクリル系粘着剤、ウレタンアクリレート系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤などを付与し、被着体との密着性を高めた材料を用いることができる。密着性を高めた材料であれば電解質膜が液体と接触している間、電解質膜を担持することができるため電解質膜の膨潤を防止する効果をさらに得ることができる。
【0100】
熱圧着部Pに供給された膜・第1の触媒層接合体16は第一の実施形態と同様の液体付与工程、熱圧着工程によって、第1の触媒層がカバーフィルムで被覆された状態で第2の触媒層が触媒層付きガス拡散層として熱圧着されて膜・電極接合体13cとなる。
【0101】
熱圧着部Pを通過した膜・電極接合体13cは巻取ロール15によってロール状に巻き取られる。なお、カバーフィルム61は膜・電極接合体13cに接合された状態で巻き取っても良いし、プレス直後に熱プレスロール40Bにおいて膜・電極接合体13cから剥離しても良い。カバーフィルム61が膜・電極接合体13cに接合された状態で巻き取ることにより触媒層付電解質膜のシワや伸びを抑制し触媒層を外的要因による物理的ダメージから保護することができる。また、熱圧着直後にカバーフィルム61を剥離し触媒層を露出させることにより熱圧着工程で生じる液体の蒸気を効果的に排出することができる。この場合、巻き取る前に触媒層を新たなカバーフィルムで保護することもできる。
【0102】
この状態では、電解質膜に第1の触媒層が形成された面にガス拡散層がないが、さらにガス拡散層を接合する前に、額縁状にくりぬかれたフィルムを挟持させるなどして機能を付与することが可能となる。または、電解質膜に第1の触媒層が形成された面にガス拡散層がない状態で所望の寸法に裁断し、さらに額縁状のフィルム材料やガス拡散層と接合することにより枚葉のMEAとすることが可能となる。またさらに、電解質膜に第1の触媒層形成用触媒溶液を塗布し、乾燥する前にガス拡散層で被覆し、ガス拡散層を通して触媒層を乾燥するという一連の工程を経てガス拡散層を積層してもよい。
【0103】
[第三の実施形態:膜・電極接合体の製造3]
第三の実施形態においては、まず
図4に示す実施形態に係る膜・電極接合体製造装置103によって電解質膜の片面に第1の触媒層付きガス拡散層を形成する。第1の触媒層付きガス拡散層の形成は次の様に実施される。
【0104】
本実施形態においては、電解質膜10’は支持体上に支持された状態で触媒層形成装置103に供給される。支持体付きの電解質膜10’は、電解質膜供給ロール11より巻き出され、熱圧着部Pに供給される。熱圧着部Pに供給された電解質膜10’は第一の実施形態と同様の液体付与工程、熱圧着工程によって第1の触媒層付きガス拡散層が熱圧着されて、膜・第1の触媒層接合体16’となる。
【0105】
膜・第1の触媒層付きガス拡散層接合体16’は支持体が付いた状態で送り出しロール14によって送り出され、巻取ロール17によってロール状に巻き取られる。
【0106】
次いで
図5に示す実施形態に係る触媒層形成装置104によって電解質膜の第1の触媒層付きガス拡散層が形成された面の裏面に第2の触媒層を形成する。第2の触媒層の形成は、次の様に実施される。
【0107】
膜・第1の触媒層接合体16’は、供給ロール18より巻き出され、ガイドロール26A、26Bを介して支持体51が電解質膜との界面から剥離される。このとき剥離された支持体51は支持体巻取ロール50に巻き取られる。
【0108】
支持体51が剥離された膜・第1の触媒層付きガス拡散層接合体16’は第三の実施形態と同様の触媒溶液塗布手段72、乾燥手段74によって第2の触媒層が形成され膜・電極接合体13dとなる。
【0109】
膜・電極接合体13dは送り出しロール14によって送り出されて、巻取ロール15によってロール状に巻き取られる。
【0110】
この状態では、電解質膜に第2の触媒層が形成された面にガス拡散層が存在しないが、さらにガス拡散層を接合する前に、額縁状にくりぬかれたフィルムを挟持させるなどして機能を付与することが可能となる。または、電解質膜に第2の触媒層が形成された面にガス拡散層がない状態で所望の寸法に裁断し、さらに額縁状のフィルム材料やガス拡散層と接合することにより枚葉のMEAとすることが可能となる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0112】
実施例1~6において、触媒層付きガス拡散層には、基材であるSGL社製ガス拡散層28BC上に、田中貴金属工業(株)製Pt担持カーボン触媒TEC10E50Eと “ナフィオン”(登録商標)溶液からなる触媒塗液を塗工し、乾燥して作製した触媒層付きガス拡散層をロール体とした触媒層付きガス拡散層ロール(基材幅100mm、厚み240μm)を使用した(白金担持量:0.3mg/cm2)。
【0113】
また、実施例2~6における電解質膜の製造は、特開2018-60789号公報に記載の製法を参照して行った。
【0114】
[実施例1]
図1に示す概略構成の装置を用いて、前述の第一の実施形態に記載の方法に従い、電解質膜として用いた市販の“ナフィオン”(登録商標)膜、品名NR211(膜厚25μm)の一方の面に、前述の触媒層付きガス拡散層の触媒層を接合した。
【0115】
液体付与工程においては、(株)いけうち製の扇形スプレーノズルCBIMV 80005Sを用いて純度100%の水を触媒層に1cm2辺り0.4μLの量にて、液滴状に付与させた。
【0116】
熱圧着工程においては、直径250mmの一対の熱プレスロールを用い、ロールの一方をステンレスロール、もう一方を硬度90°(ショアA)のフッ素ゴムロールとした。また熱プレスロールの圧力は3.0MPaとした。なお圧力は富士フイルム(株)製のプレスケールを用いた測定値である。ロール表面温度は160℃とし、接合界面に備えた熱電対によって加熱温度を測定した結果115℃であった。電解質膜と触媒層付きガス拡散層の搬送速度は4.0m/minとした。
【0117】
得られた膜・電極接合体を目視評価した結果、触媒層付きガス拡散層の破損や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
[実施例2]
図1に示す概略構成の装置を用いて、前述の第一の実施形態に記載の方法に従い、下記式(G1)で表されるポリマーからなるポリエーテルケトン系高分子電解質膜の一方の面に、前述の実施例1で用いたものと同じ触媒層付きガス拡散層の触媒層を接合した。
【0118】
【0119】
液体付与工程においては、(株)いけうち製の扇形スプレーノズルCBIMV 80005Sを用いて純度100%の水を触媒層に1cm2辺り0.4μL付与させた。
【0120】
熱圧着工程においては、直径250mmの一対の熱プレスロールを用い、ロールの一方をステンレスロール、もう一方を硬度90°(ショアA)のフッ素ゴムロールとした。また熱プレスロールの圧力は4.8MPaとした。なお圧力は富士フイルム(株)製のプレスケールを用いた測定値である。ロール表面の温度は160℃とし、接合界面に備えた熱電対によって加熱温度を測定した結果115℃であった。電解質膜と触媒層付きガス拡散層の搬送速度は4.0m/minとした。
【0121】
得られた膜・電極接合体を目視評価した結果、触媒層付きガス拡散層の破損や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0122】
[実施例3]
図1に示す概略構成の装置を用いて、前述の第一の実施形態に記載の方法に従い、下記式(G2)で表されるポリマーからなるポリアリーレン系高分子電解質膜の一方の面に、前述の触媒層付きガス拡散層の触媒層を接合した。
【0123】
【0124】
(式(G2)において、k、m及びnは整数であり、kは25、mは380、nは8である。)
液体付与工程および熱圧着工程は、実施例2と同様に行った。
【0125】
得られた膜・電極接合体を目視評価した結果、触媒層付きガス拡散層の破損や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
[実施例4]
図1に示す概略構成の装置を用いて、前述の第一の実施形態に記載の方法に従い、下記式(G3)で表されるセグメントと下記式(G4)で表されるセグメントからなるポリエーテルスルホン系高分子電解質膜の一方の面に、前述の触媒層付きガス拡散層の触媒層を接合した。
【0126】
【0127】
(式(G3)、(G4)において、p、q及びrは整数であり、pは170、qは380、rは4である。)
液体付与工程および熱圧着工程は、実施例2と同様に行った。
【0128】
得られた膜・電極接合体を目視評価した結果、触媒層付きガス拡散層の破損や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0129】
[実施例5]
前述の第二の実施形態に記載の方法に従い、膜・電極接合体を製造した。
【0130】
図2に示す概略構成の装置を用いて、前記式(G1)で表されるポリマーからなるポリエーテルケトン系高分子電解質膜の一方の面に、触媒溶液を塗布、乾燥し、第1の触媒層を形成した。触媒溶液には、田中貴金属工業(株)製Pt担持カーボン触媒TEC10E50Eと“ナフィオン”(登録商標)溶液からなる触媒塗液を用いた。120℃で5分間乾燥させ、層厚5μmの触媒層が得られた。
【0131】
次いで、
図3に示す概略構成の装置を用いて、第2の触媒層付きガス拡散層を第1の触媒層が形成されたポリエーテルケトン系高分子電解質膜のもう一方の面に、前述の触媒層付きガス拡散層の触媒層を接合し、第2の触媒層付きガス拡散層を形成した。第1の触媒層面にラミネートするカバーフィルムには、東レ(株)製PETフィルムの“ルミラー”(登録商標)膜厚75μmを用いた。液体付与工程および熱圧着工程は実施例2と同様の方法を用いた。
【0132】
得られた膜・電極接合体からカバーフィルムを剥離したところ、カバーフィルム上に付着物等は認められなかった。また得られた膜・電極接合体を目視評価した結果、触媒層付きガス拡散層の破損や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0133】
[実施例6]
前述の第三の実施形態に記載の方法に従い、膜・電極接合体を製造した。
【0134】
図4に示す概略構成の装置を用いて、前記式(G1)で表されるポリマーからなるポリエーテルケトン系高分子電解質膜の一方の面に、前述の触媒層付きガス拡散層から第1の触媒層を接合した。液体付与工程および熱圧着工程は実施例2と同様の方法を用いた。
【0135】
次いで、
図5に示す概略構成の装置を用いて、第1の触媒層付きガス拡散層が形成された電解質膜のもう一方の面に、実施例5と同様の触媒溶液を塗布、乾燥し、第2の触媒層を形成した。
【0136】
得られた膜・電極接合体を目視評価した結果、触媒層付きガス拡散層の破損や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0137】
[実施例7]
電解質膜として下記複合電解質膜を用いること以外は、実施例1と同様にして膜・電極接合体を製造した。得られた膜・電極接合体を目視評価した結果、触媒層付きガス拡散層の破損や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0138】
<複合電解質膜>
厚みが6μmのPTFE多孔質基材(ドナルドソン社製の“テトラテックス”登録商標)に、下記フッ素系電解質溶液を含浸させた複合電解質膜。
【0139】
<フッ素系電解質溶液>
20%“ナフィオン(登録商標)”n-プロパノール溶液100質量部に、エチレングリコールを80質量部添加し、減圧下でn-プロパノールを除去することにより溶媒置換し、“ナフィオン”のエチレングリコール溶液を得た。
【0140】
[実施例8]
電解質膜として下記の複合電解質膜を用いること以外は、実施例5と同様にして膜・電極接合体を製造した。得られた膜・電極接合体を目視評価した結果、触媒層付きガス拡散層の破損や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0141】
<複合電解質膜>
厚みが6μmのPTFE多孔質基材(ドナルドソン社製の“テトラテックス”登録商標)に、下記の炭化水素系電解質溶液を含浸させた複合電解質膜。
【0142】
<炭化水素系電解質溶液>
前記式(G1)で表されるポリエーテルケトン系高分子電解質を溶解したN-メチルピロリドン(NMP)溶液(電解質濃度13質量%)の100質量部に、ノニオン性フッ素系界面活性剤(ネオス(株)製のポリオキシエチレンエーテル系界面活性剤“フタージェント”(登録商標)FTX-218)0.26質量部を溶解して調製した。
【0143】
[実施例9]
図1の製造装置において、ノズルチャンバー32Aおよび32Bを減圧しないこと以外は、実施例1と同様にして膜・電極接合体を製造した。得られた膜・電極接合体を目視評価した結果、触媒層付きガス拡散層の破損や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0144】
[比較例1]
液体付与工程を実施しない以外は、実施例2と同様にして、電解質膜の一方の面に、前述の実施例1で用いたものと同じ触媒層付きガス拡散層から触媒層を接合し、得られた膜・電極接合体を目視評価した結果、電解質膜と触媒層の密着不良が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の膜・電極接合体は、例えば、固体高分子形燃料電池、固体高分子電解質膜型水電解装置、電気化学式水素ポンプなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0146】
100、102、103:膜・電極接合体製造装置
101、104:触媒層形成装置
10、10’:電解質膜
11、18:電解質膜供給ロール
13a、13b、13c、13d:膜・電極接合体
14:送り出しロール
15、17:巻取ロール
16:膜・第1の触媒層接合体
16’:膜・第1の触媒層付きガス拡散層接合体
12、22A、22B、26A、26B、27A、27B:ガイドロール
20A、20B:触媒層付きガス拡散層
21A、21B:触媒層付きガス拡散層供給ロール
30A、30B:スプレーノズル
31A、31B、73:バックアップロール
32A、32B:ノズルチャンバー
33A、33B:バルブ
34A、34B:減圧タンク
40A、40B:熱プレスロール
41A、41B:遮熱板
50:支持体巻取ロール
51:支持体
60:カバーフィルム供給ロール
70:触媒溶液タンク
71:触媒溶液送液ポンプ
72:塗布手段
74:乾燥手段
P:熱圧着部
S:空間