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特許7626109サーモクロミック樹脂複合材料及びそれを用いた積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】サーモクロミック樹脂複合材料及びそれを用いた積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/12 20060101AFI20250128BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20250128BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20250128BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20250128BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20250128BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20250128BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20250128BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C08L33/12
C08L27/16
C08L67/04
C08K3/40
C08K3/04
B32B7/027
B32B15/08 D
B32B15/082 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022109911
(22)【出願日】2022-07-07
(65)【公開番号】P2024008219
(43)【公開日】2024-01-19
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】釘本 恒
(72)【発明者】
【氏名】竹田 康彦
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-192525(JP,A)
【文献】特開平02-102043(JP,A)
【文献】特開2019-031606(JP,A)
【文献】特開2018-095801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメタクリル酸メチル15~84質量%とポリフッ化ビニリデン15~84質量%とポリカプロラクトン1~40質量%とを含有するサーモクロミック樹脂組成物、及び
前記サーモクロミック樹脂組成物100質量部に対して、黒色顔料及び黒色染料からなる群から選択される少なくとも1種の黒色着色料0.0005~0.03質量部
を含有することを特徴とするサーモクロミック樹脂複合材料。
【請求項2】
前記サーモクロミック樹脂組成物100質量部に対して、50質量部以下のガラス系フィラーを更に含有することを特徴とする請求項1に記載のサーモクロミック樹脂複合材料。
【請求項3】
前記ガラス系フィラーの二酸化ケイ素純度が90%以上であることを特徴とする請求項2に記載のサーモクロミック樹脂複合材料。
【請求項4】
前記黒色着色料がグラファイト構造を有する炭素粒子であることを特徴とする請求項1に記載のサーモクロミック樹脂複合材料。
【請求項5】
請求項1に記載のサーモクロミック樹脂複合材料からなる部材と、前記部材の片面の少なくとも一部に配置された可視光の反射率が70%以上の金属膜とを備えることを特徴とする積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーモクロミック樹脂複合材料及びそれを用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温度変化に応じて色や透明性が変化するサーモクロミック材料が注目されている。例えば、特開2001-354952号公報(特許文献1)には、水又は有機溶媒に染料、無機顔料及び/又は有機顔料を溶解又は分散させた溶液又は分散液を、高分子水溶液及び/又はハイドロゲル水溶液に添加した後、これを濃縮することによって得られるサーモクロミック材料が開示されている。しかしながら、このサーモクロミック材料は、媒質として水を含んでいるため、高温下(例えば、70℃以上)において可視光の吸収率が低くなり、低温下(例えば、40℃以下)において可視光の吸収率が高くなる部材に利用することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-354952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高温下(例えば、70℃以上)において可視光の吸収率が低くなり、低温下(例えば、40℃以下)において可視光の吸収率が高くなる樹脂複合材料、並びに、高温下(例えば、70℃以上)において可視光の反射率が高くなり、低温下(例えば、40℃以下)において可視光の反射率が低くなる複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとポリカプロラクトンとを特定の割合で含有する樹脂組成物が70℃以上の高温下において透明性が向上するサーモクロミック効果を発現し、この樹脂組成物に黒色着色料を配合した樹脂複合材料においては、70℃以上の高温下において可視光の吸収率が低くなり、40℃以下の低温下において可視光の吸収率が高くなることを見出し、さらに、この樹脂複合材料からなる部材の片面に金属膜を設けた積層体においては、70℃以上の高温下において可視光の反射率が高くなり、40℃以下の低温下において可視光の反射率が低くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0007】
[1]ポリメタクリル酸メチル15~84質量%とポリフッ化ビニリデン15~84質量%とポリカプロラクトン1~40質量%とを含有するサーモクロミック樹脂組成物、及び前記サーモクロミック樹脂組成物100質量部に対して、黒色顔料及び黒色染料からなる群から選択される少なくとも1種の黒色着色料0.0005~0.03質量部を含有する、サーモクロミック樹脂複合材料。
【0008】
[2]前記サーモクロミック樹脂組成物100質量部に対して、50質量部以下のガラス系フィラーを更に含有する、[1]に記載のサーモクロミック樹脂複合材料。
【0009】
[3]前記ガラス系フィラーの二酸化ケイ素純度が90%以上である、[2]に記載のサーモクロミック樹脂複合材料。
【0010】
[4]前記黒色着色料がグラファイト構造を有する炭素粒子である、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載のサーモクロミック樹脂複合材料。
【0011】
[5][1]~[4]のうちのいずれか1項に記載のサーモクロミック樹脂複合材料からなる部材と、前記部材の片面の少なくとも一部に配置された可視光の反射率が70%以上の金属膜とを備える、積層体。
【0012】
なお、本発明のサーモクロミック樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が低くなり、40℃以下の低温下での可視光の吸収率が高くなり、また、本発明の積層体において、70℃以上の高温下での可視光の反射率が高くなり、40℃以下の低温下での可視光の反射率が低くなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0013】
すなわち、ポリカプロラクトンは、融点が約60℃であるため、40℃以下の低温下においては結晶相を形成する。したがって、本発明のサーモクロミック樹脂複合材料を40℃以下の低温下に曝すと、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとのポリマーブレンドからなる海相と少なくとも一部のポリカプロラクトンの結晶からなる島相を有する海島構造が形成される。40℃以下の低温下において、このような海島構造を有するサーモクロミック樹脂複合材料に可視光を照射すると、入射した可視光は、前記島相により散乱し、前記サーモクロミック樹脂複合材料内を伝搬する際の光路長が長くなるため、前記サーモクロミック樹脂複合材料に含まれる黒色着色料によって吸収されやすくなる。その結果、40℃以下の低温下においては可視光の吸収率が高くなると推察される。また、40℃以下の低温下において、本発明の積層体に可視光を照射すると、前記本発明のサーモクロミック樹脂複合材料からなる部材において可視光が吸収され、金属膜による可視光の反射が少なくなるため、可視光の反射率が低くなると推察される。
【0014】
一方、ポリカプロラクトンは、約60℃で溶融するため、70℃以上の高温下においては結晶が完全に融解する。したがって、本発明のサーモクロミック樹脂複合材料を70℃以上の高温下に曝すと、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとを所定の割合で含有するポリマーブレンドからなる海相と溶融状態のポリカプロラクトンからなる島相を有する海島構造が形成される。70℃以上の高温下において、このような海島構造を有するサーモクロミック樹脂複合材料に可視光を照射すると、溶融状態のポリカプロラクトンの屈折率と、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとを所定の割合で含有するポリマーブレンドの屈折率とが一致するため、入射した可視光の散乱が抑制され、前記サーモクロミック樹脂複合材料内を伝搬する際の光路長が短くなるため、前記サーモクロミック樹脂複合材料に含まれる黒色着色料による可視光の吸収が起こりにくくなる。その結果、70℃以上の高温下においては可視光の吸収率が低くなると推察される。また、70℃以上の高温下において、本発明の積層体に可視光を照射すると、前記本発明のサーモクロミック樹脂複合材料からなる部材においては可視光が吸収されにくく、金属膜による可視光の反射が多くなるため、可視光の反射率が高くなると推察される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、70℃以上の高温下において可視光の吸収率が低くなり、40℃以下の低温下において可視光の吸収率が高くなる樹脂複合材料を得ることが可能となる。また、このような樹脂複合材料からなる部材の片面に金属膜を設けることによって、70℃以上の高温下において可視光の反射率が高くなり、40℃以下の低温下において可視光の反射率が低くなる積層体を得ることが可能となる。さらに、このような積層体においては、太陽光による発熱量を、温度を変化させることによって制御することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
〔サーモクロミック樹脂複合材料〕
先ず、本発明のサーモクロミック樹脂複合材料について説明する。本発明のサーモクロミック樹脂複合材料は、アクリルポリマー15~84質量%とポリフッ化ビニリデン15~84質量%とポリカプロラクトン1~40質量%とを含有するサーモクロミック樹脂組成物、及び前記サーモクロミック樹脂組成物100質量部に対して、黒色顔料及び黒色染料からなる群から選択される少なくとも1種の黒色着色料0.0005~0.03質量部を含有するものである。また、本発明のサーモクロミック樹脂複合材料においては、前記サーモクロミック樹脂組成物100質量部に対して、50質量部以下のガラス系フィラーが更に含まれていることが好ましい。
【0018】
(アクリルポリマー)
本発明に用いられるアクリルポリマーとしては、アクリルモノマーの単独重合体及び共重合体が挙げられる。アクリルモノマーの共重合体におけるアクリルモノマー単位の割合としては、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、90モル%以上が特に好ましい。このようなアクリルポリマーの中でも、耐熱性及び透明性に優れており、また、得られる樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が低くなるという観点から、アクリルモノマーの単独重合体が好ましい。
【0019】
前記アクリルモノマーとしては、例えば、メタクリル酸アルキルエステル(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)、アクリル酸アルキルエステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)、メタクリル酸、アクリル酸が挙げられる。これらのアクリルモノマーの中でも、耐熱性及び成形加工性に優れているという観点から、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。
【0020】
また、アクリルモノマーの共重合体における他の共重合モノマーとしては、例えば、オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等)、芳香族ビニルモノマー(例えば、スチレン、α-メチルスチレン等)が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられるアクリルポリマーとして具体的には、ポリメタクリル酸アルキルエステル(例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル等)、ポリアクリル酸アルキルエステル(例えば、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等)、アクリル酸・メタクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等)、メタクリル酸アルキルエステル・アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、メタクリル酸メチル・アクリル酸エチル共重合体等)、エチレン・メタクリル酸アルキルエステル(例えば、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体等)、エチレン・アクリル酸アルキルエステル(例えば、エチレン・アクリル酸エチル共重合体等)、スチレン・メタクリル酸アルキルエステル(例えば、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体等)、スチレン・アクリル酸アルキルエステル(例えば、スチレン・アクリル酸エチル共重合体等)が挙げられる。これらのアクリルポリマーの中でも、耐熱性及びポリフッ化ビニリデンとの相溶性に優れているという観点から、ポリメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、ポリメタクリル酸メチルがより好ましい。
【0022】
また、本発明に用いられるアクリルポリマーにおいては、60℃における屈折率が1.44~1.56であることが好ましく、1.46~1.56であることがより好ましく、1.46~1.54であることが更に好ましく、1.47~1.51であることが特に好ましい。前記アクリルポリマーの屈折率が前記下限未満、或いは、前記上限を超えると、ポリカプロラクトンとの屈折率差が大きくなり、得られる樹脂組成物において、70℃以上の高温下での透明性が低下し、得られる樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が高くなる傾向にある。
【0023】
(ポリフッ化ビニリデン)
本発明に用いられるポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンの単独重合体及び共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデンの共重合体におけるフッ化ビニリデン単位の割合としては、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、90モル%以上が特に好ましい。このようなポリフッ化ビニリデンの中でも、前記アクリルポリマー(特に、ポリメタクリル酸メチル)との相溶性に優れているという観点から、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましい。
【0024】
フッ化ビニリデンの共重合体における他の共重合モノマーとしては、例えば、フルオロオレフィン(例えば、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等)、芳香族ビニル(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-フルオロスチレン、α-フルオロスチレン等)が挙げられる。
【0025】
また、本発明に用いられるポリフッ化ビニリデンにおいては、60℃における屈折率が1.36~1.47であることが好ましく、1.36~1.46であることがより好ましく、1.37~1.46であることが更に好ましく、1.40~1.44であることが特に好ましい。前記ポリフッ化ビニリデンの屈折率が前記下限未満、或いは、前記上限を超えると、ポリカプロラクトンとの屈折率差が大きくなり、得られる樹脂組成物において、70℃以上の高温下での透明性が低下し、得られる樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が高くなる傾向にある。
【0026】
(ポリカプロラクトン)
本発明に用いられるポリカプロラクトンは、ε-カプロラクトンの開環重合体である。このようなε-カプロラクトンの開環重合体は、ε-カプロラクトンの単独重合体であっても、ε-カプロラクトンと他のモノマーとの共重合体であってもよい。ε-カプロラクトンの共重合体におけるε-カプロラクトン単位の割合としては、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、90モル%以上が特に好ましい。このようなポリカプロラクトンの中でも、耐熱性に優れており、また、得られる樹脂組成物において、40℃以下の低温下での不透明性が高くなり、得られる樹脂複合材料において、40℃以下の低温下での可視光の吸収率が高くなるという観点から、ε-カプロラクトンの単独開環重合体が好ましい。
【0027】
ε-カプロラクトンの共重合体における他の共重合モノマーとしては、例えば、グリコール酸、乳酸が挙げられる。
【0028】
また、本発明に用いられるポリカプロラクトンにおいては、60℃における屈折率が1.41~1.51であることが好ましく、1.44~1.48であることがより好ましい。前記ポリカプロラクトンの屈折率が前記下限未満、或いは、前記上限を超えると、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとを所定の割合で含有するポリマーブレンドとの屈折率差が大きくなり、得られる樹脂組成物において、70℃以上の高温下での透明性が低下し、得られる樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が高くなる傾向にある。
【0029】
(サーモクロミック樹脂組成物)
本発明に用いられるサーモクロミック樹脂組成物は、前記アクリルポリマー15~84質量%と前記ポリフッ化ビニリデン15~84質量%と前記ポリカプロラクトン1~40質量%とを含有するものである。このようなサーモクロミック樹脂組成物は、70℃以上の高温下において透明性が向上する、すなわち、サーモクロミック効果を発現し、得られる樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が低くなる。
【0030】
前記サーモクロミック樹脂組成物において、前記アクリルポリマーの含有量は15~84質量%であることが必要である。前記アクリルポリマーの含有量が前記下限未満、或いは、前記上限を超えると、サーモクロミック効果が発現せず、70℃以上の高温下においても透明性が向上せず、得られる樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が高くなる。また、サーモクロミック効果が十分に発現し、70℃以上の高温下において透明性が十分に向上し、得られる樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が低くなるという観点から、前記アクリルポリマーの含有量としては、25~77質量%が好ましく、40~75質量%がより好ましい。
【0031】
また、前記サーモクロミック樹脂組成物において、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量は15~84質量%であることが必要である。前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が前記下限未満、或いは、前記上限を超えると、サーモクロミック効果が発現せず、70℃以上の高温下においても透明性が向上せず、得られる樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が高くなる。また、サーモクロミック効果が十分に発現し、70℃以上の高温下において透明性が十分に向上し、得られる樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が低くなるという観点から、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量としては、20~72質量%が好ましく、20~55質量%がより好ましい。
【0032】
さらに、前記サーモクロミック樹脂組成物において、前記ポリカプロラクトンの含有量は1~40質量%であることが必要である。前記ポリカプロラクトンの含有量が前記下限未満になると、サーモクロミック性が発現せず、40℃以下の低温下において透明性が低下しにくく、得られる樹脂複合材料において、40℃以下の低温下での可視光の吸収率が低くなる。他方、前記ポリカプロラクトンの含有量が前記上限を超えると、60℃以上における樹脂組成物の機械的性質が低下する。また、サーモクロミック効果が十分に発現し、40℃以下の低温下において透明性が低下し、得られる樹脂複合材料において、40℃以下の低温下での可視光の吸収率が高くなるという観点から、前記ポリカプロラクトンの含有量としては、3~40質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましい。
【0033】
また、前記サーモクロミック樹脂組成物においては、前記アクリルポリマーと前記ポリフッ化ビニリデンとを所定の割合で含有するポリマーブレンドからなる海相と少なくとも一部の前記ポリカプロラクトンからなる島相とを備える海島構造が形成されていることが好ましい。このような海島構造が形成されていることによって、40℃以下の低温下においては、島相の前記ポリカプロラクトンが結晶化して樹脂組成物が不透明となり、得られる樹脂複合材料において、可視光の吸収率が高くなり、70℃以上の高温下においては、前記ポリカプロラクトンが融解して島相の屈折率が海相の前記ポリマーブレンドと同程度の屈折率となるため、透明性が向上してサーモクロミック効果が発現し、得られる樹脂複合材料において、可視光の吸収率が低くなる。
【0034】
前記海島構造において、前記島相の大きさとしては、島相の最大長さ(島相が円形の場合には直径)が50nm~100μmであることが好ましく、100nm~80μmであることがより好ましく、150nm~50μmであることが特に好ましい。島相の大きさが前記下限未満になると、サーモクロミック効果が十分に発現せず、40℃以下の低温下において透明性が低下しにくく、得られる樹脂複合材料において、40℃以下の低温下での可視光の吸収率が低くなる傾向にあり、他方、島相の大きさが前記上限を超えると、成形加工性が低下する傾向にある。
【0035】
(黒色着色料)
本発明に用いられる黒色着色料は、黒色顔料及び黒色染料からなる群から選択される少なくとも1種である。前記黒色顔料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維、チタンブラック、ペリレンブラック、及び銅、鉄、マンガン、コバルト、クロム、ニッケル、亜鉛、カルシウム、銀等の金属の酸化物、複合酸化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩等が挙げられる。前記黒色染料としては、アントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系、アゾ系、メチン系、キノリン系等の有機染料が挙げられる。このような黒色着色料の中でも、サーモクロミック樹脂組成物との親和性の観点から、グラファイト構造を有する炭素粒子が好ましい。
【0036】
本発明のサーモクロミック樹脂複合材料においては、前記黒色着色料の30質量%以上(好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上)が前記海島構造の島相(前記ポリカプロラクトンからなる相)に存在していることが好ましい。これにより、40℃以下の低温下での可視光の吸収率が高くなる。すなわち、40℃以下の低温下において、前記ポリカプロラクトンは結晶相を形成するため、前記サーモクロミック樹脂複合材料に入射した可視光は前記結晶相により散乱する。このとき、前記黒色着色料が島相に存在することによって、可視光が効率よく吸収される。
【0037】
前記黒色顔料の大きさ及び形状としては、直径が5nm~30μm(好ましくは7nm~20μm、より好ましくは10nm~10μm)の球状が好ましい。前記黒色顔料の大きさが前記下限未満になると、サーモクロミック樹脂複合材料の作製時に黒色顔料の取扱いが煩雑となる傾向にあり、他方、前記黒色顔料の大きさが前記上限を超えると、樹脂組成物の相構造が乱れ、温度による可視光吸収率の変化が小さくなる傾向にある。
【0038】
(ガラス系フィラー)
本発明に用いられるガラス系フィラーとしては特に制限はないが、二酸化ケイ素純度が90%以上のものであることが好ましい。二酸化ケイ素純度が90%以上のガラス系フィラーは、70℃以上の高温下において、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとを所定の割合で含有するポリマーブレンドや前記ポリカプロラクトンと同程度の屈折率を有するため、前記アクリルポリマーと前記ポリフッ化ビニリデンと前記ポリカプロラクトンと前記ガラス系フィラーとを含む樹脂組成物においては、70℃以上の高温下での透明性が向上し、前記サーモクロミック効果が維持され、得られる樹脂複合材料においては、70℃以上の高温下での可視光の吸収率を低く維持したまま、耐傷付性を向上させることができる。また、前記アクリルポリマーと前記ポリフッ化ビニリデンと前記ポリカプロラクトンと前記ガラス系フィラーとを含む樹脂組成物において、前記サーモクロミック効果が十分に維持され、70℃以上の高温下での透明性が十分に向上し、得られる樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が十分に低くなるという観点から、前記ガラス系フィラーの二酸化ケイ素純度としては、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。一方、二酸化ケイ素純度が前記下限未満のガラス系フィラーは、70℃以上の高温下において、前記ポリマーブレンドや前記ポリカプロラクトンと大きく異なる屈折率を有するため、前記アクリルポリマーと前記ポリフッ化ビニリデンと前記ポリカプロラクトンと前記ガラス系フィラーとを含む樹脂組成物において、前記サーモクロミック効果が維持されず、70℃以上の高温下での透明性が低下し、得られる樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が高くなる傾向にある。
【0039】
前記ガラス系フィラーにおいては、60℃における屈折率が1.40~1.50であることが好ましく、1.44~1.48であることがより好ましい。前記ガラス系フィラーの屈折率が前記下限未満、或いは、前記上限を超えると、前記アクリルポリマーと前記ポリフッ化ビニリデンと前記ポリカプロラクトンと前記ガラス系フィラーとを含む樹脂組成物において、70℃以上の高温下での透明性が低下し、得られる樹脂複合材料において、70℃以上の高温下での可視光の吸収率が高くなる傾向にある。
【0040】
また、前記ガラス系フィラーの大きさ及び形状としては、直径が100nm~2mm(好ましくは200nm~1.5mm、より好ましくは500nm~1mm)の球状や、繊維径が100nm~2mm(好ましくは200nm~1.5mm、より好ましくは500nm~1mm)であり、繊維長が100μm~50mm(好ましくは200μm~30mm、より好ましくは300μm~10mm)の繊維状が好ましい。ガラス系フィラーの大きさが前記下限未満になると、取り扱いが困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向にある。
【0041】
(サーモクロミック樹脂複合材料)
本発明のサーモクロミック樹脂複合材料は、前記サーモクロミック樹脂組成物100質量部に対して、前記黒色着色料を0.0005~0.03質量部含有するものである。このサーモクロミック樹脂複合材料は、温度によって可視光の吸収率が変化するものであり、70℃以上の高温下において可視光の吸収率が低くなり、40℃以下の低温下において可視光の吸収率が高くなるものである。例えば、厚さ0.5mmの板状の前記サーモクロミック樹脂複合材料の場合、40℃以下の低温下と70℃以上の高温下との可視光吸収率の差は10%以上となる。一方、黒色着色料の含有量が前記下限未満になると、可視光の吸収率が向上せず(特に、40℃以下の低温下において)、他方、黒色着色料の含有量が前記上限を超えると、可視光の吸収率が高くなりすぎ、温度による可視光吸収率の変化が起こりにくくなる。また、40℃以下の低温下と70℃以上の高温下との可視光吸収率の差を大きくするという観点から、黒色着色料の含有量としては、前記サーモクロミック樹脂組成物100質量部に対して、0.001~0.025質量部が好ましく、0.002~0.020質量部がより好ましく、0.003~0.015質量部が特に好ましい。
【0042】
また、本発明のサーモクロミック樹脂複合材料においては、前記サーモクロミック樹脂組成物100質量部に対して、50質量部以下のガラス系フィラーが更に含まれていることが好ましい。ガラス系フィラーを含有することによって、得られる樹脂複合材料の耐傷付性が向上するとともに、サーモクロミック樹脂複合材料の放射冷却能を向上させることができる。一方、ガラス系フィラーの含有量が前記上限を超えると、成形加工性が低下する傾向にある。また、得られる樹脂複合材料の耐傷付性、放射冷却能及び成形加工性の観点から、ガラス系フィラーの含有量としては、前記サーモクロミック樹脂組成物100質量部に対して、5~40質量部がより好ましく、10~30質量部が特に好ましい。
【0043】
このようなサーモクロミック樹脂複合材料の製造方法としては特に制限はなく、溶融混練等の公知の混練方法を採用することができるが、前記黒色着色料を前記ポリカプロラクトンからなる島相中に存在させ、この島相を均一に分散させるという観点から、先ず、前記黒色着色料と前記ポリカプロラクトンとをドライブレンドした後、得られた混合物を混練(好ましくは溶融混練)してマスターバッチを調製し、次に、前記アクリルポリマーと前記ポリフッ化ビニリデンと前記ポリカプロラクトンと前記マスターバッチと、必要に応じて前記ガラス系フィラーとをドライブレンドした後、得られた混合物を混練(好ましくは溶融混練)することによって、本発明のサーモクロミック樹脂複合材料を製造することができる。さらに、このサーモクロミック樹脂複合材料は、所望の形状に成形してもよい。
【0044】
〔積層体〕
次に、本発明の積層体について説明する。本発明の積層体は、前記本発明のサーモクロミック樹脂複合材料からなる部材と、前記部材の片面の少なくとも一部に配置された可視光の反射率が70%以上の金属膜とを備えるものである。
【0045】
(サーモクロミック樹脂複合材料からなる部材)
本発明に用いられるサーモクロミック樹脂複合材料からなる部材は、前記本発明のサーモクロミック樹脂複合材料を所望の形状に成形することによって得られるものである。このような前記サーモクロミック樹脂複合材料からなる部材の形状としては特に制限はなく、例えば、角板や円板等の板状、可撓性のあるフィルム状等が挙げられる。
【0046】
前記サーモクロミック樹脂複合材料からなる部材が板状部材の場合、その厚さとしては、0.01~3.0mmが好ましく、0.05~2.5mmがより好ましく、0.1~2.0mmが特に好ましい。前記板状部材の厚さが前記下限未満になると、温度による可視光吸収率の変化が小さくなる傾向にあり、他方、前記板状部材の厚さが前記上限を超えると、可視光吸収率の温度応答性が低下する傾向にある。
【0047】
(金属膜)
本発明に用いられる金属膜は可視光(特に、波長589nm)の反射率が70%以上の金属膜である。金属膜の可視光反射率が前記下限未満になると、温度による可視光吸収率の変化が小さくなる。また、金属膜の可視光反射率としては、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が特に好ましい。
【0048】
このような金属膜としては、例えば、銀箔(可視光(波長589nm)反射率:94%)、アルミニウム箔(可視光(波長589nm)反射率:81%)が挙げられる。
【0049】
前記金属膜において、主成分である金属(例えば、銀箔の場合は銀、アルミニウム箔の場合はアルミニウム)の含有率(純度)としては70質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましく、80質量%以上が特に好ましい。主成分である金属の含有率(純度)が前記下限未満になると、温度による可視光吸収率の変化が小さくなる傾向にある。
【0050】
また、前記金属膜の厚さとしては、50nm~100μmが好ましく、75nm~50μmがより好ましく、100nm~25μmが特に好ましい。前記金属膜の厚さが前記下限未満になると、温度による可視光吸収率の変化が小さくなる傾向にあり、他方、前記板状部材の厚さが前記上限を超えると、部材の可撓性が低下する傾向にある。
【0051】
(積層体)
本発明の積層体は、前記サーモクロミック樹脂複合材料からなる部材と、前記部材の片面の少なくとも一部に配置された前記金属膜とを備えるものである。この積層体は、温度によって可視光の反射率が変化するものであり、70℃以上の高温下において可視光の反射率が高くなり、40℃以下の低温下において可視光の反射率が低くなるものである。例えば、厚さ0.5mmの前記サーモクロミック樹脂複合材料からなる板状部材を備える積層体の場合、40℃以下の低温下と70℃以上の高温下との可視光(波長589nm)の反射率の差は10%以上となる。
【0052】
このような積層体の製造方法としては特に制限はなく、例えば、前記サーモクロミック樹脂複合材料からなる部材と前記金属膜とを重ね合わせた後、プレス成形等により熱圧着してもよいし、前記サーモクロミック樹脂複合材料からなる部材の表面に前記金属膜を蒸着させてもよい。
【実施例
【0053】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた原料を以下に示す。
【0054】
(原料)
PMMA:ポリメタクリル酸メチル(株式会社クラレ製「パラペットGグレード」、屈折率:1.492(23℃)、1.489(60℃))。
PVDF:ポリフッ化ビニリデン(アルドリッチ社製、カタログ番号:427144、屈折率:1.42(23℃))。
PCL:ポリカプロラクトン(アルドリッチ社製、カタログ番号:440744、屈折率:1.46(50℃))。
黒色顔料:カーボンブラック(アルドリッチ社製、カタログ番号:05-1530-5-500G-J、粒径:24nm)。
黒色染料:油溶性アジン系染料(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及び油溶性アントラキノン系染料の混合物、オリエント化学工業株式会社製「NUBIAN BLACK PC-8550」)。
SiO:二酸化ケイ素(株式会社アドマテックス製「SO-C6」、二酸化ケイ素純度:99%以上、粒径:1.8~2.3μm)。
銀箔:ケニス株式会社製、カタログ番号:68381066、厚さ:400nm。
【0055】
(実施例1)
先ず、PCL(100質量部)と黒色顔料(0.44質量部)とをドライブレンドした後、得られた混合物を卓上型小型混練機(Haake社製「Minilab」)に投入し、170℃で5分間混練してマスターバッチ(MB1)を調製した。
【0056】
次に、PMMAが52質量部、PVDFが28質量部、PCLが20質量部、黒色顔料が0.01質量部、SiOが25質量部となるように、PMMAとPVDFとPCLと前記マスターバッチ(MB1)とSiOとをドライブレンドした後、得られた混合物を卓上型小型混練機(Haake社製「Minilab」)に投入し、220℃で5分間混練して樹脂複合材料を調製した。
【0057】
得られた樹脂複合材料を、卓上プレス機を用いて温度220℃、圧力6MPaで30秒間プレス成形し、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製した。
【0058】
(実施例2~6)
PMMA、PVDF、PCL、黒色顔料及びSiOの含有量を表1に示す量に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂複合材料を調製し、さらに、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製した。
【0059】
(実施例7)
黒色顔料の代わりに黒色染料(0.44質量部)を用いた以外は実施例1と同様にしてマスターバッチ(MB2)を調製した。前記マスターバッチ(MB1)の代わりに、このマスターバッチ(MB2)を用いた以外は実施例3と同様にして樹脂複合材料を調製し、さらに、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製した。
【0060】
(比較例1)
PMMA(65質量部)とPVDF(35質量部)と黒色顔料(0.005質量部)とSiO(25質量部)とをドライブレンドした後、得られた混合物を卓上型小型混練機(Haake社製「Minilab」)に投入し、220℃で5分間混練して樹脂複合材料を調製した。実施例1で調製した樹脂複合材料の代わりに、この樹脂複合材料を用いた以外は実施例1と同様にして、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製した。
【0061】
(比較例2)
PMMA、PVDF、PCL、黒色顔料及びSiOの含有量を表1に示す量に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂複合材料を調製し、さらに、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製した。
【0062】
<光吸収率>
ヘイズメーター(スガ試験機株式会社製「HGM-3DP」)の試料室内に温調器を設置し、このヘイズメーターを用いて、各温度(25~100℃)における平板の全光線透過率[%]を測定し、得られた全光線透過率から、下記式:
光吸収率[%]=100-全光線透過率[%]
により光吸収率[%]を求めた。その結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示したように、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとポリカプロラクトンと黒色着色料とを所定の割合で含有する樹脂複合材料(実施例1~7)は、室温下(25℃)と高温下(80℃)の可視光吸収率の差が10%以上であり、温度により可視光吸収率が変化するサーモクロミック樹脂複合材料であることが確認された。
【0065】
一方、ポリカプロラクトンを含まない樹脂複合材料(比較例1)は、光の散乱源が含まれていないため、温度による可視光吸収率の変化は見られなかった。
【0066】
また、所定量を超える黒色着色料を含有する樹脂複合材料(比較例2)は、可視光吸収率が高くなりすぎるため、温度による可視光吸収率の変化は見られなかった。
【0067】
(実施例8)
実施例1で作製した平板を銀箔の上に静置した後、卓上プレス機を用いて温度220℃、圧力6MPaで30秒間プレス成形し、前記平板の裏面全体に銀箔が熱圧着された積層板を作製した。
【0068】
(実施例9)
実施例1で作製した平板の代わりに、実施例3で作製した平板を用いた以外は実施例8と同様にして、前記平板の裏面全体に銀箔が熱圧着された積層板を作製した。
【0069】
(実施例10)
実施例1で作製した平板の代わりに、実施例5で作製した平板を用いた以外は実施例8と同様にして、前記平板の裏面全体に銀箔が熱圧着された積層板を作製した。
【0070】
(実施例11)
実施例1で作製した平板の代わりに、実施例7で作製した平板を用いた以外は実施例8と同様にして、前記平板の裏面全体に銀箔が熱圧着された積層板を作製した。
【0071】
(比較例3)
PMMA(52質量部)とPVDF(28質量部)とPCL(20質量部)とSiO(25質量部)とをドライブレンドした後、得られた混合物を卓上型小型混練機(Haake社製「Minilab」)に投入し、220℃で5分間混練して樹脂複合材料を調製した。実施例1で調製した樹脂複合材料の代わりに、この樹脂複合材料を用いた以外は実施例1と同様にして、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製し、さらに、実施例1で作製した平板の代わりに、この平板を用いた以外は実施例8と同様にして、前記平板の裏面全体に銀箔が熱圧着された積層板を作製した。
【0072】
(比較例4)
実施例1で作製した平板の代わりに、比較例1で作製した平板を用いた以外は実施例8と同様にして、前記平板の裏面全体に銀箔が熱圧着された積層板を作製した。
【0073】
(比較例5)
実施例1で作製した平板の代わりに、比較例2で作製した平板を用いた以外は実施例8と同様にして、前記平板の裏面全体に銀箔が熱圧着された積層板を作製した。
【0074】
<光反射率>
得られた積層板の裏面(銀箔の表面)にラバーヒーターを設置し、25℃及び70℃において、積分球を装着した紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製「UV-3600」)を用いて、積層板の表面(銀箔がない面)に波長589nmの光を照射して積層板の光反射率[%]を測定した。その結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示したように、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとポリカプロラクトンと黒色着色料とを所定の割合で含有する樹脂複合材料からなる平板の裏面全体に銀箔を熱圧着させた積層板(実施例8~11)は、室温下(25℃)に比べて高温下(70℃)の光反射率が向上することが確認された。
【0077】
一方、黒色着色料を含まない樹脂複合材料からなる平板の裏面全体に銀箔を熱圧着させた積層板(比較例3)、ポリカプロラクトンを含まない樹脂複合材料からなる平板の裏面全体に銀箔を熱圧着させた積層板(比較例4)、及び所定量を超える黒色着色料を含有する樹脂複合材料からなる平板の裏面全体に銀箔を熱圧着させた積層板(比較例5)はいずれも、温度による光反射率の変化が非常に小さかった。
【0078】
<太陽光による発熱量>
ラバーヒーターとデータロガーを用いて屋外実験機を作製し、この屋外実験機に実施例9で作製した積層板を設置し、45℃及び70℃において、積層板の表面(銀箔がない面)に太陽光を照射しなかった場合と照射した場合のヒーター入熱量を測定し、下記式:
太陽光による発熱量=太陽光を照射した場合のヒーター入熱量-太陽光を照射しなかった場合のヒーター入熱量
により、太陽光による発熱量を算出した。その結果を表3に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
表3に示したように、実施例9で作製した積層板は、45℃と70℃との間で、太陽光による発熱量が変化したことから、温度変化によって太陽光による発熱量が自律的に変化する複合材料であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本発明によれば、70℃以上の高温下において可視光の吸収率が低くなり、40℃以下の低温下において可視光の吸収率が高くなる樹脂複合材料を得ることが可能となる。また、このような樹脂複合材料からなる部材の片面に金属膜を設けることによって、70℃以上の高温下において光反射率が高くなり、40℃以下の低温下において光反射率が低くなる積層体を得ることが可能となる。
【0082】
このような本発明の積層体に太陽光を照射した場合、温度が低い場合には、太陽光の吸収率が高くなる(可視光の反射率が低くなる)ため、太陽光による発熱量が多くなり、他方、温度が高い場合には、太陽光の吸収率が低くなる(可視光の反射率が高くなる)ため、太陽光による発熱量が少なくなる。
【0083】
したがって、本発明の積層体は、外気温の変化によって太陽光による発熱量が変化する自律的な温調材料として応用することができ、例えば、住居、工場、倉庫等の建造物、自動車、電車等の輸送車両の分野等に用いられる積層体として有用である。また、このような積層体を被着体(例えば、屋根、壁面)の表面に、積層体の金属膜側に被着体が配置されるように貼り付けることによって、温度が低い場合には、前記積層体が太陽光により発熱するため、この発熱によって被着体を加熱することが可能となり、また、温度が高い場合には、前記積層体において太陽光が反射されるため、太陽光による被着体の加熱を抑制することが可能となる。