(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】ウイルスの検出方法、検出システムおよび検出キット
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20250128BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20250128BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N33/569 G
G01N33/543 575
(21)【出願番号】P 2023542318
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2022029738
(87)【国際公開番号】W WO2023021985
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2021134064
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】叶井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 雅俊
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-23985(JP,A)
【文献】特表2004-537038(JP,A)
【文献】国際公開第2020/179303(WO,A1)
【文献】特開2004-313755(JP,A)
【文献】国際公開第2007/026689(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0125011(US,A1)
【文献】中国実用新案第212483445(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第111505076(CN,A)
【文献】NGUYEN, Peter Q.et al.,Wearable materials with embedded synthetic biology sensors for biomolecule detection,Nature biotechnology,2021年06月,VOL.39,1066-1074,https://doi.org/10.1038/s41587-021-00950-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/83
G01N 33/48-33/98
C12Q 1/00-1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクを用いたウイルスの検出方法であって、
前記マスクは、前記ウイルスと結合する抗体が固定された層である抗体層を含み、
前記検出方法は、
被験者が着用した前記マスクの前記抗体層に、前記ウイルスに結合する部位と励起光を受けて蛍光を発生する部位とを含むラベルを
含むラベル液を噴霧するステップと、
前記抗体層に励起光を照射するステップとを備える、ウイルスの検出方法。
【請求項2】
前記ラベルは、前記ウイルスへの結合によらず前記励起光を受けて蛍光を発する性質を有し、
前記抗体層から前記ウイルスに結合していないラベルである非結合ラベルを除去するステップをさらに備える、請求項1に記載のウイルスの検出方法。
【請求項3】
前記非結合ラベルを除去するステップは、前記非結合ラベルを吸引する、または、吹き飛ばすことで、前記抗体層から前記非結合ラベルを除去するステップを含む、請求項2に記載のウイルスの検出方法。
【請求項4】
前記非結合ラベルを除去するステップは、リンス液を用いて前記抗体層を洗浄することによって、前記抗体層から前記非結合ラベルを除去するステップを含む、請求項2に記載のウイルスの検出方法。
【請求項5】
前記励起光は、近赤外領域の波長域の光である、請求項1に記載のウイルスの検出方法。
【請求項6】
前記抗体層は、前記マスクの前記被験者側の面に配置される、請求項1に記載のウイルスの検出方法。
【請求項7】
マスクを用いたウイルスの検出システムであって、
前記マスクは、前記ウイルスと結合する抗体が固定された層である抗体層を含み、
前記検出システムは、
被験者が着用した前記マスクの前記抗体層に、前記ウイルスに結合する部位と励起光を受けて蛍光を発生する部位とを含むラベルを
含むラベル液を噴霧するラベル付加器と、
前記抗体層に励起光を照射する照射器と、
前記励起光によって前記抗体層から発生する蛍光を検出する検出器とを備える、ウイルスの検出システム。
【請求項8】
前記抗体層から前記ウイルスに結合していないラベルである非結合ラベルを除去するラベル除去器をさらに備える、請求項7に記載のウイルスの検出システム。
【請求項9】
前記検出器において蛍光が検出されたことを報知する報知器をさらに備える、請求項7に記載のウイルスの検出システム。
【請求項10】
ウイルスの検出キットであって、
前記ウイルスと結合する抗体が固定された抗体層を含むマスクと、
被験者が着用した前記マスクの前記抗体層に、前記ウイルスに結合する部位と励起光を受けて蛍光を発生する部位とを含むラベルを
含むラベル液を噴霧するラベル付加器と、を備える、ウイルスの検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスの検出方法、検出システムおよび検出キットに関し、より特定的には、被験者着用後のマスクを用いてウイルスを検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスを病原体とする感染症の飛沫感染や空気感染を防ぐために、不織布等で作成されたマスクで口および鼻を防護することが広く行なわれている。非特許文献1では、このマスクの内側に、遺伝子回路を埋め込み、標的となるウイルスの分子を検出すると色の変化を起こすバイオセンサとする研究が開示されている。このように構成すれば、当該マスクを着用する被験者が標的となるウイルスに感染しているか否かが容易に判定できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Peter Q. Nguyen et al.,"Wearable materials with embedded synthetic biology sensors for biomolecule detection",Nature biotechnology,28 June 2021,https://doi.org/10.1038/s41587-021-00950-3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、非特許文献1に開示される構成においては、特殊な遺伝子回路を埋め込んだマスクを製造する必要があるため、マスクのコストが高くなるおそれがある。
【0005】
本開示は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、簡易な構成のマスクを用いて、ウイルスを検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、マスクを用いたウイルスの検出方法に関する。マスクは、ウイルスと結合する抗体が固定された抗体層を含む。検出方法は、被験者が着用したマスクの抗体層に、ウイルスに結合する部位と励起光を受けて蛍光を発生する部位とを含むラベルを付加するステップと、抗体層に励起光を照射するステップとを備える。
【0007】
本発明の第2の態様は、マスクを用いたウイルスの検出システムに関する。マスクは、ウイルスと結合する抗体が固定された抗体層を含む。検出システムは、ラベル付加器と、照射器と、検出器とを備える。ラベル付加器は、被験者が着用したマスクの抗体層に、ウイルスに結合する部位と励起光を受けて蛍光を発生する部位とを含むラベルを付加する。照射器は、抗体層に励起光を照射する。検出器は、励起光によって抗体層から発生する蛍光を検出する。
【0008】
本発明の第3の態様は、ウイルスの検出キットに関する。検出キットは、マスクと、ラベル付加器とを備える。マスクは、ウイルスと結合する抗体が固定された抗体層を含む。ラベル付加器は、被験者が着用したマスクの抗体層に、ウイルスに結合する部位と励起光を受けて蛍光を発生する部位とを含むラベルを付加する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、本開示によれば、被験者の口や鼻から排出され、マスクの抗体層に結合するウイルスを、ラベルから発生する蛍光により検出できる。このように、抗体層を設けた簡易な構成のマスクを用いて、ウイルスを検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に従うウイルスの検出システムの概要を説明する図である。
【
図2】本発明の実施の形態に従うウイルスの検出方法を説明する図である。
【
図3】本発明の実施の形態に従うウイルスの検出システムおよび検出装置の構成を説明する図である。
【
図4】ウイルスの検出に関する処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0012】
[1.ウイルスの検出システムの概要]
図1は、本発明の実施の形態に従うウイルスの検出システム100の概要を説明する図である。
【0013】
図1を参照して、検出システム100は、ラベル付加器51、ラベル除去器52および検出ユニット6を含む。また検出システム100においてウイルスを検出するために、マスク1が用いられる。
【0014】
マスク1は、ウイルス3と結合する抗体2が固定された抗体層11を含む。抗体層11は、例えば、マスク1の被験者側の面(内側)に配置される。このように構成すると、被験者の呼吸器系から排出されたウイルス3が抗体層11に結合する。抗体層11を、マスク1の内側に配置することで、抗体層11がマスク1のより外側に配置される場合に比べ、被験者以外の人間から排出されたウイルスが抗体層11に結合しにくくなる。なお、マスク1は、抗体層11より外側に、被験者以外の人間から排出されたウイルスを捕集するためのフィルタを含んでもよい。マスク1は、例えば、一般的なポリプロピレン不織布マスクの被験者側の面に、抗体層11を重ねたものでもよい。
【0015】
ラベル付加器51は、被験者が着用したマスク1の抗体層11にラベル4を付加するために用いられる。ラベル4は、ウイルス3に結合する部位41と励起光を受けて蛍光を発生する部位42とを含む。ラベル付加器51は、例えば、ラベル4を含むラベル液45を収納するスプレーボトルである。ラベル液45は、ラベル4をラベル液45中で安定に保つことに適した液体であり、例えば、緩衝液に、ラベル4と、必要に応じてラベル4の凝集を防ぐ成分とを加えたものである。
【0016】
ラベル除去器52は、抗体層11に結合していないラベル4を除去するために用いられる。ラベル除去器52は、例えば、ファン521を含む器具である。
【0017】
ラベル付加器51およびラベル除去器52を、ラベル付加に関する1つのユニットとして、ラベル付加ユニット5としてもよい。なお、ラベル付加ユニット5は他の器具を含んでもよい。ラベル付加ユニットは、例えば、ラベル付加器51およびラベル除去器52を含むクリーンベンチまたは実験台である。
【0018】
検出ユニット6は、照射器61と検出器62とを含む。照射器61は、検出ユニットに収納された抗体層11に、励起光を照射する。検出器62は、励起光によって抗体層11から発生する蛍光を検出する。検出ユニット6は、例えば、一般的な蛍光検出装置である。
【0019】
[2.従来のウイルスの検出方法との比較]
マスクを用いたウイルスの検出方法として、マスクに遺伝子回路を組み込み、ウイルスのRNAを検出して色の変化を起こすように構成する検出方法が知られていた(非特許文献1)。ただし、この検出方法においては、特殊な遺伝子回路を組み込んだマスクを準備する必要があり、マスクのコスト、ひいては検出方法自体のコストが高くなるおそれがあった。
【0020】
そこで、本実施の形態に従うウイルスの検出方法では、ウイルスと結合した抗体を固定した抗体層を含むマスクを用いる。このような抗体層を含むマスクとして、ダチョウ抗体マスクが知られている。具体的には、被験者が着用したマスクの抗体層に、ウイルスに結合する部位と、励起光を受けて蛍光を発生する部位とを含むラベルが、ラベル付加器によって付加される。抗体層にウイルスが結合していれば、抗体層に励起光を照射すると蛍光が発生する。よって、本実施の形態に従うウイルスの検出方法においては、簡易な構成のマスクを用いて、ウイルスを検出できる。
【0021】
[3.ウイルスの検出方法]
図2は、本発明の実施の形態に従うウイルスの検出方法を説明する図である。
図2を参照して、(1)~(5)は、ウイルスの検出方法の各ステップの順序を表す。
【0022】
図2(1)において、被験者は、マスク1を準備する。
図2(2)において、被験者がマスク1を着用すると、被験者の口や鼻から排出されたウイルス3が、抗体層11の抗体2に結合する。
【0023】
続く、
図2(3)~(5)のステップは、例えば検査技師により実行される。
図2(3)において、検査技師は、ラベル付加器51を用いて、被験者が着用したマスク1の抗体層11にラベル4を付加する。例えば、ラベル付加器51からラベル4を含む液体であるラベル液45が噴霧されることにより、ラベル4が付加される。
【0024】
ラベル付加器51によって、抗体層11にラベル4が付加されると、一部のラベル4は、部位41において、ウイルス3に結合する。このウイルス3に結合したラベル4を、本実施の形態においては「結合ラベル4A」と称する。一方で、一部のラベル4はウイルス3に結合していない状態のまま、抗体層11に存在する。このウイルス3に結合していないラベル4を、本実施の形態においては「非結合ラベル4B」と称する。非結合ラベル4Bは、例えば、抗体層11のウイルス3以外の部分に付着している。
【0025】
図2(4)において、検査技師は、ラベル除去器52を用いて、抗体層11から非結合ラベル4Bを除去する。これにより、抗体層11に存在するラベル4はウイルス3に結合した結合ラベル4Aのみとなる。
【0026】
ラベル除去器52は、ファン521を回転させることで、非結合ラベル4Bを吸引あるいは吹き飛ばして、抗体層11から除去する。ラベル除去器52により生じた非結合ラベル4Bを含む排気は、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)等のエアフィルタで濾されて外部に排気される。
【0027】
図2(5)において、検査技師は、検出ユニット6内に抗体層11を配置する。検査技師は、照射器61から抗体層11に励起光を照射するとともに、励起光によって結合ラベル4Aの部位42から発生する蛍光を検出器62を用いて検出する。このようにして、ウイルス3に結合した結合ラベル4Aの蛍光を検出することによって、抗体層11に結合したウイルス3を検出できる。すなわち、マスク1を着用した被験者がウイルス3に感染しているか否かを判定することができる。
【0028】
図2(5)において照射器61から照射される励起光により、結合ラベル4Aだけでなくマスク1を構成する材料自体が光を発生させることがある。例えば、一般的な不織布マスクに広く用いられているポリプロピレン不織布は、紫外線を励起すると蛍光を発生することが知られている。不織布で生じる蛍光の波長域が結合ラベル4Aで生じる蛍光の波長域とオーバラップしていると、ウイルスを正確に検出できないことがある。本実施形態では、照射器61から照射される励起光として、近赤外領域の波長域の光を用いることができる。この場合、マスク1の一部にポリプロピレン不織布を含むように構成しても、ポリプロピレン不織布自体は蛍光を発生しないため、抗体層11における結合ラベル4Aからの蛍光の検出に干渉しない。
【0029】
図2(3)以降のステップは、検査技師がマスク1から単離された「抗体層11を含む一部」に対して行ってもよい。例えば検査技師がマスクの耳にかける部分を除去すると、残りの部分の取り扱いは容易になる。
【0030】
また、上記したように、マスク1の抗体層11より外側に、被験者以外の人間から排出されたウイルスを捕集するためのフィルタが含まれていてもよい。この場合、例えば
図2(3)のステップの前に当該フィルタを取り除くと、当該フィルタに捕集されたウイルスが、抗体層11に結合したウイルス3の検出に干渉しないというメリットがある。
【0031】
また、被験者が
図2(3)以降のステップを実行する技術を有する場合は、
図2(3)以降のステップを自身で実行してもよい。
【0032】
図2(4)のステップにおいて、非結合ラベル4Bは、例えば、リンス液を用いて抗体層11を洗浄することにより、抗体層11から除去されてもよい。リンス液とは、抗体層11を洗浄することに適した液体であり、例えば緩衝液である。
【0033】
ラベル4は、ウイルス3に結合していなくても蛍光を発生させる第1の種類のラベルであってもよいし、ウイルス3と結合した状態でのみ蛍光を発生させる第2の種類のラベルであってもよい。第1の種類のラベルおよび第2の種類のどちらについても、公知のラベルを利用可能である。
【0034】
第1の種類のラベルには、比較的安価であるというメリットがある。第1の種類のラベルは、例えばインドシアニングリーン(ICG)である。なお、ICGは近赤外領域の波長域の励起光に対しても蛍光を発生することが知られている。
【0035】
第2の種類のラベルには、第1の種類のラベルよりは高価な傾向があるものの、非結合ラベルの状態で励起光を照射されても蛍光を発生しないという特性から、
図2(4)に示した非結合ラベルの除去のステップを省略できるというメリットがある。
【0036】
以上の例において、マスク1およびラベル付加器51に収納されるラベル4は、消耗品である。これらの消耗品である、マスク1およびラベル付加器51に収納されるラベル4の少なくとも1つは、適宜検査技師または被験者に補給されるように構成してもよい。例えば、マスク1およびラベル液45をウイルス3の検出キットとして、被験者および被験者が所属する施設に販売できるように構成してもよい。
【0037】
[4.検出システムおよび検出装置の構成]
図3は本発明の実施の形態に従うウイルスの検出システム100および検出装置100Aの構成を説明する図である。
図3を参照して、
図1において概要を説明したウイルスの検出システム100をより詳細に説明し、続いて、ウイルスの検出システム100を検出装置100Aとして実現した場合の構成を説明する。
【0038】
ラベル付加ユニット5について、
図1~
図2においては、ラベル付加器51を、ラベル液45を含むスプレーボトルとして例示したが、これに限定されない。また、ラベル除去器52を、ファン521を含む器具として例示したが、これに限定されない。
【0039】
例えば、ラベル付加ユニット5はラベル付加器51とラベル除去器52を含む1つの装置であってもよい。この場合、例えば、ラベル付加ユニット5は、ラベル付加ユニット5内に、マスク1を設置するための格子状のテーブルを有する。ラベル付加ユニット5は、当該テーブルの上方に、ラベル付加器51の一形態であるラベル液45の噴霧器を含む。また、ラベル付加ユニット5は、当該テーブルの上方の噴霧器と重ならない位置に、ラベル除去器52の一形態である吸引機を含む。噴霧器および吸引機は、例えば後述する制御ユニットにより制御される。この場合、例えば検査技師が、ラベル付加ユニット5にマスク1または「抗体層11を含む一部」を収納すれば、自動的に、噴霧器がラベル液45を抗体層11に噴霧し、そののち、吸引機が非結合ラベル4Bを吸引するように構成される。
【0040】
検出ユニット6は、
図1で説明した照射器61と、検出器62とを含む。検出ユニット6は、報知器63をさらに含んでよい。報知器63は、検出ユニット6における、ウイルス3の検出を視覚的および/または聴覚的に検査技師に報知する機器である。ウイルス3の検出は、例えば検出された蛍光の強度が閾値を超えたか否かで判定される。
【0041】
報知器63は、例えば、ディスプレイ、ランプまたはスピーカである。報知器63は、例えば、照射器61および検出器62を備える蛍光検出装置の外側に設けられる。このように構成すれば、検査技師は、検出器62においてウイルス3が検出されたことを容易に認識できる。
【0042】
このような検出システム100によれば、
図1で説明したウイルスの検出方法が実行できる。
【0043】
なお、検出システム100は、ラベル付加ユニット5および検出ユニット6を含む、検出装置100Aとして実現されてもよい。この場合、例えば、検出装置100Aは、ラベル付加ユニット5および検出ユニット6に加え、制御ユニット7を含む。制御ユニット7は、各ユニットを制御する。制御ユニット7は、例えば、コンピュータの基本構成であるプロセッサ71およびメモリ72を含む。プロセッサ71およびメモリ72は共通のバス73で互いに接続される。検出装置100Aは、他にも、検査技師または被験者が、検出装置100Aを操作するための入力部、および、ラベル付加ユニット5および検出ユニット6へのマスク1または「抗体層11を含む一部」の挿入/取り出しを行なうハンドリング機器をさらに備えてもよい。なお、検出装置100A内で、ラベル付加ユニット5および検出ユニット6は、別体(例えば2つの筐体)として設けられてもよいし、一体(例えば1つの筐体)として設けられてもよい。
【0044】
検出装置100Aでは、例えば、マスク1または「抗体層11を含む一部」が収納されると、上記した一連のウイルスの検出方法が自動で実行される。この場合、検出装置100Aへの収納および検出装置100Aの操作は、検査技師でなく、被験者自身でなされてもよい。すなわち、検出装置100Aによれば、被験者による、ウイルス3への感染のセルフチェックが可能である。
【0045】
よって、例えば、検出装置100Aを被験者の所属する施設の入り口に設置すれば、被験者が、施設に入る際、または、施設から出る際に、マスク1を検出装置100Aに収納し、当該セルフチェックを行なうことも可能である。この場合、報知器63により、抗体層11からウイルス3が検出されたことが報知されると、当該被験者は施設への入退出ができなくなるように構成してもよい。検出装置100Aに、被験者を特定する器具(例えば光学カメラ、または、施設における被験者のIDカードセンサ)を含むように構成して、ウイルス3に感染した被験者が特定できるように構成してもよい。このように構成すれば、施設内外におけるウイルス3の感染拡大の防止に役立つ。
【0046】
[5.検出装置における処理の流れ]
図4は、検出装置100Aによるウイルス3の検出に関する処理を説明するフローチャートである。
図4の処理は、検出装置100Aの制御ユニット7によって実行される。
【0047】
図4を参照して、ステップST02において、制御ユニット7は、検出装置100Aに抗体層11または抗体層11を含むマスク1が収納されたことを検出する。当該収納は、例えば検出装置100A内の、抗体層11または抗体層11を含むマスク1が収納される箇所に取り付けられた図示しない重量センサを用いて検出される。ステップST04において、制御ユニット7は、ラベル付加器51を用いて、抗体層11にラベル4を付加する。ステップST06において、制御ユニット7は、ラベル除去器52を用いて、抗体層11から非結合ラベル4Bを除去する。ステップST08において、制御ユニット7は、照射器61を用いて、抗体層11に励起光を照射する。ステップST10において、制御ユニット7は、検出器62を用いて、抗体層11に結合する結合ラベル4Aから発生する蛍光を検出する。ステップST12において、制御ユニット7は、報知器63を用いて、検出器62において蛍光が検出されたことを報知する。
【0048】
よって、検出装置100Aの制御ユニット7が
図4のフローチャートに従って処理を実行すれば、抗体層11に付着したウイルス3が検出できる。すなわち、簡易な構成のマスク1を用いて、ウイルス3を検出できる。
【0049】
このように、本実施の形態に従うウイルスの検出方法、検出システム100および検出装置100Aは、簡易な構成のマスク1を用いて、マスク1を着用した被験者に対し、ウイルス3による感染症の検査を行なうことができる。
【0050】
通常、感染症の検査は、感染症特有の症状が見られた場合に、感染の有無を確認する目的で実施される。しかし、例えば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のように、感染しても無症状であることが多い感染症もある。この場合、無症状の感染者は検査を受ける機会がなく、無自覚に周囲に感染を拡大させるおそれがある。
【0051】
一方、本実施の形態に従うウイルスの検出方法、検出システム100および検出装置100Aにおいては、ウイルス3に対する感染症の検査が容易であり、かかる費用も安価で、被験者への身体的な負担もない。よって、無症状者を含めた多くの被験者の検査を行なうことも容易である。すなわち、無症状者であっても、他者に感染させるリスクのある感染者であるかを検査できる機会を広げることで、無症状者による無自覚な感染の拡大を抑制できる。
【0052】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0053】
(第1項)一態様に係るウイルスの検出方法は、
マスクを用いたウイルスの検出方法であって、
マスクは、ウイルスと結合する抗体が固定された層である抗体層を含み、
検出方法は、
被験者が着用したマスクの抗体層に、ウイルスに結合する部位と励起光を受けて蛍光を発生する部位とを含むラベルを付加するステップと、
抗体層に励起光を照射するステップとを備えていてよい。
【0054】
第1項に記載のウイルスの検出方法によれば、被験者の口や鼻から排出されたウイルスが、マスクの抗体層に結合する。結合したウイルスは、蛍光を発生するラベルにより検出される。ゆえに、簡易な構成のマスクを用いて、ウイルスを検出できる。
【0055】
(第2項)第1項に記載のウイルスの検出方法において、ラベルは、ウイルスへの結合によらず励起光を受けて蛍光を発する性質を有し、抗体層からウイルスに結合していないラベルである非結合ラベルを除去するステップをさらに備えてもよい。
【0056】
第2項に記載のウイルスの検出方法によれば、抗体層に存在するラベルはウイルスに結合した結合ラベルのみとなる。よって、抗体層に励起光を照射すると、ウイルスに結合した結合ラベルのみの蛍光が検出でき、非結合ラベルの影響を排除することができる。したがって、抗体層に結合したウイルスが検出できる。
【0057】
(第3項)第2項に記載のウイルスの検出方法において、非結合ラベルを除去するステップは、非結合ラベルを吸引する、または、吹き飛ばすことで、抗体層から非結合ラベルを除去するステップを含んでもよい。
【0058】
第3項に記載のウイルスの検出方法によれば、抗体層に存在するラベルはウイルスに結合した結合ラベルのみとなる。よって、抗体層に励起光を照射すると、ウイルスに結合した結合ラベルのみの蛍光が検出でき、非結合ラベルの影響を排除することができる。したがって、抗体層に結合したウイルスが検出できる。さらに、ラベル除去器により生じた非結合ラベルを含む排気を、HEPAフィルタ等のエアフィルタで濾すことで、容易に外部に排気できる。
【0059】
(第4項)第2項に記載のウイルスの検出方法において、非結合ラベルを除去するステップは、リンス液を用いて抗体層を洗浄することによって、抗体層から非結合ラベルを除去するステップを含んでもよい。
【0060】
第4項に記載のウイルスの検出方法によれば、抗体層に存在するラベルはウイルスに結合した結合ラベルのみとなる。よって、抗体層に励起光を照射すると、ウイルスに結合した結合ラベルのみの蛍光が検出でき、非結合ラベルの影響を排除することができる。したがって、抗体層に結合したウイルスが検出できる。さらに、例えば通常の抗体-抗原反応後の洗浄に用いるリンス液を用いて、非結合ラベルを除去できる。よって、当該除去のために特別な器具または技術を準備する必要がない。
【0061】
(第5項)第1~4項のいずれか1項に記載のウイルスの検出方法において、励起光は、近赤外領域の波長域の光であってもよい。
【0062】
第5項に記載のウイルスの検出方法によれば、一般的な不織布マスクに広く用いられているポリプロピレン不織布に励起光をあてても、蛍光を発生しない。よって、ポリプロピレン不織布を含むマスクを用いた場合でも、抗体層における結合ラベルからの蛍光を適切に検出することができる。
【0063】
(第6項)第1~5項のいずれか1項に記載のウイルスの検出方法において、抗体層は、マスクの被験者側の面に配置されていてもよい。
【0064】
第6項に記載のウイルスの検出方法によれば、被験者の呼吸器系から排出されたウイルスが抗体層に結合しやすくなる。
【0065】
(第7項)一態様に係るウイルスの検出システムは、
マスクを用いたウイルスの検出システムであって、
マスクは、ウイルスと結合する抗体が固定された層である抗体層を含み、
検出システムは、
被験者が着用したマスクの抗体層に、ウイルスに結合する部位と励起光を受けて蛍光を発生する部位とを含むラベルを付加するラベル付加器と、
抗体層に励起光を照射する照射器と、
励起光によって抗体層から発生する蛍光を検出する検出器とを備えていてよい。
【0066】
第7項に記載のウイルスの検出システムによれば、被験者の口や鼻から排出されたウイルスが、マスクの抗体層に結合する。結合したウイルスは、蛍光を発生するラベルにより検出される。ゆえに、簡易な構成のマスクを用いて、ウイルスを検出できる。
【0067】
(第8項)第7項に記載のウイルスの検出システムにおいて、抗体層からウイルスに結合していないラベルである非結合ラベルを除去するラベル除去器をさらに備えていてもよい。
【0068】
第8項に記載のウイルスの検出システムによれば、抗体層に存在するラベルはウイルスに結合した結合ラベルのみとなる。よって、抗体層に励起光を照射すると、ウイルスに結合した結合ラベルのみの蛍光が検出でき、非結合ラベルの影響を排除することができる。したがって、抗体層に結合したウイルスが検出できる。
【0069】
(第9項)第7項または第8項に記載のウイルスの検出システムにおいて、検出器において蛍光が検出されたことを報知する報知器をさらに備えていてもよい。
【0070】
第9項に記載のウイルスの検出システムによれば、検査技師は、検出器においてウイルスが検出されたことを容易に認識できる。
【0071】
(第10項)一態様に係るウイルスの検出キットは、
ウイルスと結合する抗体が固定された抗体層を含むマスクと、
被験者が着用したマスクの抗体層に、ウイルスに結合する部位と励起光を受けて蛍光を発生する部位とを含むラベルを付加するラベル付加器と、を備えていてもよい。
【0072】
第10項に記載のウイルスの検出キットによれば、被験者の口や鼻から排出されたウイルスが、マスクの抗体層に結合する。結合したウイルスには、蛍光を発生するラベルが付加される。ゆえに、このマスクの抗体層に励起光を照射すれば、蛍光を用いて抗体層に付着したウイルスが検出できる。ゆえに、簡易な構成のマスクを用いて、ウイルスを検出できる。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1 マスク、2 抗体、3 ウイルス、4 ラベル、4A 結合ラベル、4B 非結合ラベル、5 ラベル付加ユニット、6 検出ユニット、7 制御ユニット、11 抗体層、41,42 部位、45 ラベル液、51 ラベル付加器、52 ラベル除去器、61 照射器、62 検出器、63 報知器、71 プロセッサ、72 メモリ、73 バス、100 検出システム、100A 検出装置、521 ファン。