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特許7626290組成物および紫外線吸収性光学レンズの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】組成物および紫外線吸収性光学レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20250128BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20250128BHJP
   C08K 5/3475 20060101ALI20250128BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20250128BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250128BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20250128BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C09K3/00 104B
C09K3/00 104C
C08K5/3492
C08K5/3475
C09D201/00
C09D7/63
G02B5/22
C08L33/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024140737
(22)【出願日】2024-08-22
【審査請求日】2024-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2023217862
(32)【優先日】2023-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2024132020
(32)【優先日】2024-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 僚一
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏明
(72)【発明者】
【氏名】千葉 優美香
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-092082(JP,A)
【文献】特開2023-149430(JP,A)
【文献】特開2017-095559(JP,A)
【文献】特開2009-120638(JP,A)
【文献】特開2021-012355(JP,A)
【文献】特開2003-107202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位および芳香環を有する紫外線吸収剤(A)(ただし、酸性基を有さない)、リアジン部位またはベンゾトリアゾール部位を有する酸性基含有化合物(B)(ただし、染料を除く)、ならびに水を含有する組成物。
【請求項2】
紫外線吸収剤(A)と酸性基含有化合物(B)との質量比が、50:50~99:1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
酸性基含有化合物(B)の酸性基は、カルボキシ基またはスルホ基である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
紫外線吸収剤(A)は、ナフチル部位を有する化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~いずれか1項に記載の組成物を光学レンズに塗工する、紫外線吸収性光学レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収剤を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線吸収剤は、一般的に環構造を有しており疎水性が高いため、水に溶解し難い性質を有する。そのため紫外線吸収剤は、水溶液や水分散体に加工する場合、溶剤や無溶剤で使用する場合と異なり分散や溶解の難易度が高かった。
【0003】
例えば、特許文献1には、非反応性紫外線吸収剤化合物と、該紫外線吸収剤化合物用の乳化剤または分散剤と、水と、場合によっては、ポリシロキサンをベースとした生成物とを含有する繊維処理水性組成物が開示されている(請求項)。特許文献2には、紫外線吸収剤、アニオン系界面活性剤および水を含む組成物が開示されている(実施例8)。特許文献3には、ベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤とポリグリセリンモノアルキルエステルを含有する紫外線吸収剤水分散組成物が開示されている(請求項)。特許文献4には、紫外線吸収剤(A)及び芳香族多価カルボン酸と水酸基含有化合物とのエステル化反応物である芳香族多価カルボン酸誘導体(B)を含有することを特徴とする繊維用処理剤組成物が開示されている(請求項)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-92874号公報
【文献】特開2000-119261号公報
【文献】特開2009-120638号公報
【文献】特開2009-235606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の紫外線吸収剤の水分散体は、紫外線吸収剤の分散度が低く、粗大粒子が多く、その平均粒子径も大きかった。そのため前記水分散体は、経時で紫外線吸収剤が沈降するため使用時に再攪拌が必要になる等、生産性が低かった。また前記水分散体の塗工物は、平均粒子径が大きいため可視光領域で光散乱を起こし透明性が低かった。また、水分散体は、平均粒子径が大きいことおよび粗大粒子に起因して、粒子中に紫外線吸収剤が偏在するため、その使用量の割に紫外線吸収効果が低かった。
【0006】
本発明は、経時安定性が良好で、透明性が良好かつ可視光領域の光散乱を抑制し、良好な紫外線吸収性を有する塗工物を形成できる組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>本発明の組成物は、トリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位および芳香環を有する紫外線吸収剤(A)(ただし、酸性基を有さない)、ならびにトリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位を有する酸性基含有化合物(B)(ただし、染料を除く)を含有する。
<2>紫外線吸収剤(A)と酸性基含有化合物(B)との質量比が、50:50~99:1である、<1>の組成物。
<3>酸性基含有化合物(B)の酸性基は、カルボキシ基またはスルホ基である<1>または<2>の組成物。
<4>紫外線吸収剤(A)は、ナフチル部位を有する化合物である、<1>~<3>いずれかの組成物。
<5>トリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位および芳香環を有する紫外線吸収剤(A)(ただし、酸性基を有さない)、トリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位を有する酸性基含有化合物(B)、ならびに水を含む、組成物。
<6><1>~<5>いずれかの組成物を光学レンズに塗工する、紫外線吸収性光学レンズの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
上記の本発明によれば、本発明は、経時安定性が良好で、透明性が良好かつ可視光領域の光散乱を抑制し、良好な紫外線吸収性を有する塗工物を形成できる組成物を提供できる。また、本発明は、紫外線吸収性光学レンズの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の組成物は、トリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位および芳香環を有する紫外線吸収剤(A)(ただし、酸性基を有さない)、ならびにトリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位を有する酸性基含有化合物(B)(ただし、染料を除く)(以下、酸性基含有化合物(B)という)を含有する。
本発明のトリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位および芳香環を有する紫外線吸収剤(A)(ただし、酸性基を有さない)は、300~450nm範囲の極大吸収波長が350~450nmであるものが好ましく、更には350~400nmであるものがより好ましい。
【0010】
本発明の組成物が課題を解決できるメカニズムは次の通り推測する。
酸性基含有化合物(B)は、紫外線吸収剤(A)の分散助剤であり、水分散中でトリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位が紫外線吸収剤(A)に吸着し、酸性基が電荷反発部位として機能する事で水分散性に作用する。
【0011】
<紫外線吸収剤(A)>
トリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位および芳香環を有する紫外線吸収剤(A)(以下、紫外線吸収剤(A)という)は、酸性基を有さない化合物である。紫外線吸収剤(A)の極大吸収波長は、波長300~450nmが好ましく、350~450nmがより好ましく350~400nmがさらに好ましい。
紫外線吸収剤(A)は、トリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位を基本骨格とし芳香環が前記基本骨格に結合することで上記紫外線吸収性が得られる。
【0012】
紫外線吸収剤(A)の芳香環は、例えば、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、キノリル基等が挙げられる。これらの中でも波長350~400nmの紫外線吸収性の観点でナフチル基が好ましい。
【0013】
トリアジン部位および芳香環を有する紫外線吸収剤は、例えば、2-[4,6-ジ(2,4-キシリル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-オクチルオキシフェノール、2‐[4,6‐ビス(2,4‐ジメチルフェニル)‐1,3,5‐トリアジン‐2‐イル]‐5‐[3‐(ドデシルオキシ)‐2‐ヒドロキシプロポキシ]フェノール、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンと(2-エチルヘキシル-グリシド酸エステルの反応生成物、2,4-ビス「2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル」-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3-5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2’-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2’-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシロキシフェノール(III-5)ビスエチルヘキシロキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、下記一般式(1)~(3)で示す化合物等が挙げられる。
【0014】
【化1】


【0015】
一般式(1)~(3)中、R1b~R1g、R2a~R2g、及びR3a~R3gは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトリル基、ニトロ基、R、Ar、及び下記一般式(4-1)~(4-3)で示す基からなる群より選択されるいずれかを表す。
は、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルケニル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及び炭素数1~20のアルケニルオキシ基からなる群より選択されるいずれかを表し、水酸基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトリル基、またはニトロ基の置換基を有してもよく、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルケニル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及び炭素数1~20のアルケニルオキシ基の炭素原子と炭素原子の間が一つまたは複数の-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-、または-NHCO-で連結されていてもよい。
Arは、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のアリールオキシ基、及びビフェニル基からなる群より選択されるいずれかを表し、水酸基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルケニルオキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトリル基、またはニトロ基の置換基を有してもよい。
【0016】
一般式(2)~(3)中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水酸基、R、及びArからなる群より選択されるいずれかを表す。
【0017】
一般式(4-1)
【化2】
【0018】
一般式(4-1)中、Xは、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-、及び-NHCO-からなる群より選択されるいずれかを表し、Rは、水素原子、水酸基、R、及びArからなる群より選択されるいずれかを表す。ただし、一般式(4-1)中の*は、一般式(1)~(3)のナフタレン環との結合部位を表す。
【0019】
一般式(4-2)
【化3】
【0020】
一般式(4-2)中、X、Xは、それぞれ独立に、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-、及び-NHCO-からなる群より選択されるいずれかを表し、Rは、炭素数6~20のアリーレン基を表し、R10は、RまたはArを表す。ただし、一般式(4-2)中の*は、一般式(1)~(3)のナフタレン環との結合部位を表す。
【0021】
一般式(4-3)
【化4】
【0022】
一般式(4-3)中、X、Xは、それぞれ独立に、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-、及び-NHCO-からなる群より選択されるいずれかを表し、R11は、直鎖または分岐鎖状の炭素数1~20のアルキレン基、または炭素数6~20のアリーレン基を表し、R12は、RまたはArを表し、nは1~20である。ただし、一般式(4-3)中の*は、一般式(1)~(3)のナフタレン環との結合部位を表す。
【0023】
市販品としては、ケミプロ化成社製「KEMISORB 102」、BASFジャパン社製「TINUVIN 400」、「TINUVIN 405」、「TINUVIN 460」、「TINUVIN 477-DW」、「TINUVIN 479」、「TINUVIN 1577」、ADEKA社製「アデカスタブLA-46」、「アデカスタブLA-F70」、サンケミカル社製「CYASORB UV-1164」等が挙げられる。
【0024】
ベンゾトリアゾール部位および芳香環を有する紫外線吸収剤は、例えば、2-(5メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、オクチル-3[3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネートと2-エチルヘキシル-3-[3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネートの混合物、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3-tブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、5%の2-メトキシ-1-メチルエチルアセテートと95%のベンゼンプロパン酸,3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ,C7-9側鎖および直鎖アルキルエステルの化合物、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-エチルヘキシル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチル-フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-3-t-ブチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1-3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-3-メチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチル-フェノール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]等が挙げられる。
【0025】
市販品としては、BASFジャパン社製「TINUVIN P」、「TINUVIN PS」、「TINUVIN 109」、「TINUVIN 234」、「TINUVIN 326」、「TINUVIN 328」、「TINUVIN 329」、「TINUVIN 360」、「TINUVIN 384-2」、「TINUVIN 900」、「TINUVIN 928」、「TINUVIN 970」、「TINUVIN 99-2」、「TINUVIN 1130」、ADEKA社製「アデカスタブLA-29」、大塚化学社製「RUVA-93」等が挙げられる。
【0026】
紫外線吸収剤(A)は、単独または2種以上併用して使用できる。
【0027】
<酸性基含有化合物(B)>
酸性基含有化合物(B)は、紫外線吸収剤(A)の分散助剤であり、トリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位が紫外線吸収剤(A)に吸着し、その酸性基が水分散性に作用する。また、酸性基含有化合物(B)は、染料以外の化合物である。酸性基含有化合物(B)は、染料のように着色力が無いため、例えば、本明細書の組成物を透明な樹脂とともに成形体を作製する際、成形体の透明性を損ないにくい。なお、紫外線吸収剤(A)も着色力を有しない。本明細書で着色力とは、有彩色に着色できる作用をいう。
酸性基含有化合物(B)は、紫外線吸収剤(A)の基本骨格がトリアジン部位、ベンゾトリアゾール部位のいずれであっても紫外線吸収剤(A)に吸着し良好な水分散性が得られる。この理由として酸性基含有化合物(B)のトリアジン部位、ベンゾトリアゾール部位は、平面構造であるため、紫外線吸収剤(A)のトリアジン部位、ベンゾトリアゾール部位の平面構造に十分吸着する。そのため、その後の分散工程、攪拌工程および組成物の経時条件においても紫外線吸収剤(A)から脱離し難く分散性を損ない難い。なお、酸性基含有化合物(B)は、紫外線吸収剤(A)と同じ骨格を有する場合、紫外線吸収剤(A)により吸着し、さらに良好な水分散性が得られる。
【0028】
酸性基含有化合物(B)の酸性基は、例えば、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基など挙げられる。これらの中でも分散性の観点でカルボキシル基、スルホ基が好ましく、スルホ基がより好ましい。
【0029】
以下、酸性基含有化合物(B)を例示する。なお、酸性基含有化合物(B)が例示化合物に限定されないことはいうまでもない。
【0030】
【化5】
【0031】
酸性基含有化合物(B)は、単独で使用しても良いし、2種以上混合しても良い。
【0032】
紫外線吸収剤(A)と酸性基含有化合物(B)との質量比は、分散性の観点から、50:50~99:1が好ましく、70:30~95:5がより好ましい。
【0033】
紫外線吸収剤(A)の含有量は、組成物の不揮発分中、5~50質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましく、5~20質量%がさらに好ましい。
【0034】
本発明の組成物は、紫外線吸収剤(A)(ただし、酸性基を有さない)、酸性基含有化合物(B)、および水の分散物であることが好ましい。なお、前記水に替えてまたは併用して溶剤を使用することもできる。また、水や溶剤を使用せずに無溶剤で混錬することで組成物を作製することもできる。
【0035】
水は分散媒である。本明細書で分散媒は、水以外に溶剤を使用できる。
溶剤は、水溶性溶剤、非水性溶剤が挙げられる。
水溶性溶剤は、例えばアセトン、ダイアセトンアルコール、γ-ブチロラクトン等のケトン類、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のグリコールエーテル類、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどの高極性溶媒等が挙げられる
非水溶性溶剤は、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、ヘキサン、トルエンなどの炭化水素類等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0036】
本発明の組成物は、必要に応じて、分散剤、バインダー樹脂、界面活性剤、色素誘導体、消泡剤、増粘剤、表面調整剤等の添加剤を含有できる。
【0037】
本発明の組成物は、例えば、紫外線吸収剤(A)、酸性基含有化合物(B)および水を分散処理して作製できる。また、必要に応じて上記添加剤を配合し攪拌混合して組成物を作製することもできる。分散処理は複数回行うことができる。また、添加剤を配合するタイミングは任意である。
【0038】
分散処理に使用する分散機は、例えば、ニーダー、超音波分散機、3本ロール、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等が挙げられる。
【0039】
分散処理後、組成物は、分離やろ過を行い粗大粒子を除去できる。
前記分離は、重力加速度3000~25000Gの遠心分離等、前記ろ過は、焼結フィルタやメンブレンフィルタによる濾過、デッドエンド式濾過、クロスフロー式濾過等が挙げられる。
【0040】
本発明の組成物は、紫外線吸収性と分散性に優れており、長期保存後でも分散性に優れるものであるため、例えば、各種の樹脂成形体、合成ゴム、繊維材料、インク、化粧品、光学レンズ等の各種用途に好適に使用できる。光学レンズは、スマートフォン、タブレット端末、ノートPC、眼鏡、カメラ、ビデオカメラ、顕微鏡、望遠鏡、医療機器等に使用できる。なお、本明細書の組成物は、樹脂や成形体等を任意に着色するために染料を含有することを妨げない。
【0041】
<光学レンズ>
本発明の紫外線吸収性光学レンズの製造方法は、組成物を光学レンズに塗工することが好ましい。前記塗工により組成物が光学レンズの表面に付着または内部に含浸し所望の紫外線吸収性が得られれば十分である。なお、塗工には、含浸法も含まれる。
【0042】
前記塗工は、例えば、スピンコーターを使用して光学レンズの表面に組成物の被膜を形成し紫外線吸収性光学レンズを作製する方法(1)、光学レンズを組成物中に浸漬し、紫外線吸収剤(A)および酸性基含有化合物(B)を前記レンズ中に含浸させる、次いで取り出し紫外線吸収性光学レンズを作製する方法(2)等の一般的な方法を使用できる。塗工後、必要に応じて室温放置または乾燥機等を使用して乾燥できる。なお、本明細書の紫外線吸収性光学レンズの製造方法において、光学レンズは、本明細書の組成物を塗工する前のレンズである。また、紫外線吸収性光学レンズは、光学レンズに本明細書の組成物を塗工した後のレンズである。
【実施例
【0043】
以下、実施例で本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されない。なお、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」である。
【0044】
<紫外線吸収剤(A)>
【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】
【0045】
<酸性基含有化合物(B)>
【化11】

【化12】

【化13】

【化14】
【0046】
<分散組成物の製造>
[実施例1]
(分散組成物(C-1))
下記の組成の混合物を均一に撹拌混合した後、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、アイガーミルで3時間分散した後、0.5μmのフィルタで濾過し、分散組成物を作製した。
紫外線吸収剤(A-1) :10.0部
酸性基含有化合物(B-1): 1.0部
消泡剤(BYK-024 ビックケミー社製):0.3部
精製水 :88.7部
【0047】
[実施例2~22、比較例1~4]
(分散組成物(C-2~C-26))
分散組成物(C-1)の配合を表1に示す組成、量に変更した以外は分散組成物(C-1)と同様に行い分散組成物(C-2~C-26)をそれぞれ作製した。
【0048】
【表1】
【0049】
表中の用語は以下の通りである。
添加剤A:色素誘導体 下記化学式で示す化合物
【化15】
【0050】
添加剤B:分散剤 Efka PX 4701(BASFジャパン社製、不揮発分100%)
【0051】
<分散組成物の評価>
得られた分散組成物を下記の通り評価した。結果を表2に示す。
【0052】
(粘度評価)
得られた分散組成物について、E型粘度計(東機産業社製「ELD型粘度計」)を用いて、25℃・回転数50rpmにおける粘度を測定した。以下の基準で評価した。
◎:5mPa・s未満 極めて良好
○:5mPa・s以上、10mPa・s未満 良好
△:10mPa・s以上、30mPa・s未満 実用域
×:30mPa・s以上 実用不可
【0053】
(保存安定性)
得られた分散組成物を40℃の恒温機に1週間保存、経時促進させた後、粘度評価と 同様にして粘度を測定し、経時前後での分散組成物の粘度変化率を求めた。以下の基準で評価した。
◎:変化率が±3%未満 極めて良好
○:変化率が±3%以上、±5%未満 良好
△:変化率が±5%以上、±15%未満 実用域
×:変化率が±15%以上 実用不可
【0054】
(紫外線吸収性-1)
得られた分散組成物の不揮発分を300ppmになるように精製水で濃度調製した後、分散組成物の吸光度を、紫外可視分光光度計「U-4100」(日立製作所株式会社製)を用いて測定した。以下の基準で評価した。
○:380nmの吸光度が1.0以上 良好
△:380nmの吸光度が0.5以上、1.0未満 実用域
×:380nmの吸光度が0.5未満 実用不可
【0055】
(紫外線吸収性-2)
得られた分散組成物の不揮発分を300ppmになるように精製水で濃度調製した後、分散組成物の吸光度を、紫外可視分光光度計「U-4100」(日立製作所株式会社製)を用いて測定した。以下の基準で評価した。
○:400nmの吸光度が0.5以上 良好
△:400nmの吸光度が0.2以上、0.5未満 実用域
×:400nmの吸光度が0.2未満 実用不可
【0056】
(均一性)
得られた分散組成物の分散状態を均一性で目視評価した。なお評価基準は以下の通りである。
○:目視で粗大粒子が確認できない 良好
△:目視で粗大粒子が確認できる 実用域
×:粗大粒子が沈降している 実用不可
【0057】
【表2】
【0058】
表2の結果から実施例1~16の分散組成物は、酸性基含有化合物(B)の作用により紫外線吸収剤(A)を水中で安定に分散できる。これにより粘度、保存安定性、均一性評価で良好な結果を示した。その中でも紫外線吸収剤(A)と酸性基含有化合物(B)が強固に吸着するため、トリアジン同士、またはベンゾトリアゾール同士の組み合わせがより良好であった。そして、酸性基含有化合物(B)の酸性基は、電荷反発力が強いスルホ基が特に良好であった。
また、紫外線吸収性の観点では、トリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位および芳香環を有する紫外線吸収剤を含有する分散組成物が良好であり、400nmでの吸光度の観点で、トリアジン部位およびナフタレン環を有する紫外線吸収剤を含有する分散組成物が特に良好であった。
【0059】
<光学レンズの評価>
[実施例23]
分散組成物C-1を、液温95℃に保ち、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートからなる屈折率1.50の光学レンズ「HILUX1.5」(HOYA社製)を1時間浸漬して浸透させた。室温で5時間放置して紫外線吸収性光学レンズ(眼鏡用レンズ)を得た。次いで以下の評価を行った。
【0060】
[実施例24~47、比較例5~8]
実施例23の材料を表3に示す通りに変更した以外は、実施例23と同様に行い紫外線吸収性光学レンズを作成した。結果を表3に示す。
【0061】
[紫外線吸収性]
得られた紫外線吸収性光学レンズの波長400nmの紫外線吸収性を紫外可視分光光度計「U-4100」(日立製作所社製)を用いて透過スペクトルを測定し、波長400nmの光の透過率から、以下の式を用いて紫外線吸収率を算出し、紫外線吸収性とした。
紫外線吸収率=[1-400nmの光の透過率]×100(%)
【0062】
【表3】
【0063】
表中の屈折率は、以下の光学レンズを使用した。
1.50:「HILUX1.5」(HOYA社製、アリルカーボネート樹脂)
1.53:「Phoenix」(HOYA社製、ウレタンウレア樹脂)
1.60:「EYAS」(HOYA社製、チオウレタン樹脂)
1.67:「EYNOA」(HOYA社製、チオウレタン樹脂)
【0064】
表3に示す通り、紫外線吸収剤(A)および酸性基含有化合物(B)を含有する組成物を使用して製造した紫外線吸収性光学レンズは、紫外線吸収性が良好であり、紫外線を吸収する眼鏡用レンズとして好適に使用できる。
【要約】
【課題】本発明は、経時安定性が良好で、透明性が良好かつ可視光領域の光散乱を抑制し、良好な紫外線吸収性を有する塗工物を形成できる組成物の提供を目的とする。
【解決手段】トリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位および芳香環を有する紫外線吸収剤(A)(ただし、酸性基を有さない)、ならびにトリアジン部位またはベンゾトリアゾール部位を有する酸性基含有化合物(B)(ただし、染料を除く)を含有する組成物である。
【選択図】なし