(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20250128BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
F16H25/24 L
F16H25/24 B
F16H25/22 Z
(21)【出願番号】P 2024557184
(86)(22)【出願日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2024021848
【審査請求日】2024-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2023136092
(32)【優先日】2023-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 将史
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-211043(JP,A)
【文献】特開2016-125538(JP,A)
【文献】特開2022-032066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸と、
前記ねじ軸と平行な軸方向に貫通する貫通孔を有し、前記貫通孔に前記ねじ軸が挿入されたナットと、
前記ナットと前記ねじ軸との間に配置された複数のボールと、
を備え、
前記ナットの内周面は、
前記ボールが転動する内周軌道面が設けられた本体内周面と、
前記本体内周面よりも前記ナットの前記軸方向の端寄りに配置された縮径内周面と、
を有し、
前記縮径内周面の径は、前記本体内周面の径よりも小さ
く、
前記ナットの前記内周面は、前記本体内周面と前記縮径内周面との間に配置され、前記本体内周面の径よりも大径の逃げ溝面を有している
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記ナットの前記軸方向のうち、内周側に前記縮径内周面が配置された部分は、内周側に前記本体内周面が配置された部分よりも、径方向の厚みが大きい肉厚部であり、
前記肉厚部の外周面の少なくとも一部は、他の部品が嵌合する嵌合面となっている
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記嵌合面の軸方向の長さは、前記縮径内周面の前記軸方向の長さよりも小さく、
前記肉厚部の外周面は、
前記他の部品が嵌合せず、露出する露出面と、
前記露出面よりも小径の前記嵌合面と、
を有している
請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記ナットの前記軸方向のうち、内周側に前記縮径内周面が配置された部分は、内周側に前記本体内周面が配置された部分よりも、径方向の厚みが大きい肉厚部であり、
前記肉厚部は、前記ナットの端部に配置され、
前記肉厚部の端面は、押圧面となっている
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
前記縮径内周面と前記押圧面が交わる角部は、面取りされている
請求項4に記載のボールねじ装置。
【請求項6】
前記縮径内周面及び前記逃げ溝面は、前記本体内周面の軸方向両側にそれぞれ設けられている
請求項
1に記載のボールねじ装置。
【請求項7】
前記ナットの前記内周面は、
前記本体内周面と前記逃げ溝面との間に配置され、前記ナットの前記軸方向の前記端に向かって次第に拡径する第1テーパ面と、
前記逃げ溝面と前記縮径内周面の間に配置され、前記ナットの前記軸方向の前記端に向かって次第に縮径する第2テーパ面と、
を有している
請求項
1又は請求項
6に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ナットと、ナットを貫通するねじ軸と、ナットとねじ軸との間に配置された複数のボールと、を備えている。ボールねじ装置の使用方法を説明すると、下記特許文献1では、ナットが軸受に支持されている。また、ナットにギヤが嵌合している。よって、ナットに回転運動が伝達され、ねじ軸が直線運動を行う。一方、下記特許文献2では、ねじ軸にギヤが嵌合している。よって、ねじ軸に回転運動が伝達され、ナットが直線運動を行う。また、下記特許文献2では、ナットがブレーキパッドを押圧する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-131124号公報
【文献】特開2016-035322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ナットの内周面には、ボールの転動を円滑にするためグリースが塗布されている。ナットに対しねじ軸が軸方向に相対的に移動するとき、ナットの内周側にあるグリースは、ねじ軸の移動に追従し、ナットの外側に漏出する。よって、漏出するグリース量の低減が望まれている。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、漏出するグリース量の低減を図ることができるボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るボールねじ装置は、ねじ軸と、前記ねじ軸と平行な軸方向に貫通する貫通孔を有し、前記貫通孔に前記ねじ軸が挿入されたナットと、前記ナットと前記ねじ軸との間に配置された複数のボールと、を備えている。前記ナットの内周面は、前記ボールが転動する内周軌道面が設けられた本体内周面と、前記本体内周面よりも前記ナットの前記軸方向の端寄りに配置された縮径内周面と、を有している。前記縮径内周面の径は、前記本体内周面の径よりも小さい。
【0007】
本開示によれば、縮径内周面とねじ軸の隙間は、本体内周面とねじ軸の隙間よりも小さい。よって、ナットに対しねじ軸が軸方向に相対的に移動する際、ねじ軸の外周面に付着したグリースは、縮径内周面に掻き取られる。これにより、ナットの外側に漏出するグリース量が低減する。
【0008】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記ナットの前記軸方向のうち、内周側に前記縮径内周面が配置された部分は、内周側に前記本体内周面が配置された部分よりも、径方向の厚みが大きい肉厚部である。前記肉厚部の外周面の少なくとも一部は、他の部品が嵌合する嵌合面となっている。
【0009】
前記構成によれば、肉厚部は、径方向の厚みが大きく、温度変化による形状の変化が生じ難い。これにより、嵌合面と他の部品の間に隙間が生じたり、若しくは他の部品に対する締め代が所定量よりも大きくなったりする、ということが回避される。
【0010】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記嵌合面の軸方向の長さは、前記縮径内周面の前記軸方向の長さよりも小さい。前記肉厚部の外周面は、前記他の部品が嵌合せず、露出する露出面と、前記露出面よりも小径の前記嵌合面と、を有している。
【0011】
前記構成によれば、小径な嵌合面を形成すると、肉厚部の強度が低下する。一方で、嵌合面は、縮径内周面よりも軸方向の長さが小さい。よって、嵌合面が小径であっても、肉厚部の強度の低下が小さく抑えられる。
【0012】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記ナットの前記軸方向のうち、内周側に前記縮径内周面が配置された部分は、内周側に前記本体内周面が配置された部分よりも、径方向の厚みが大きい肉厚部である。前記肉厚部は、前記ナットの端部に配置されている。前記肉厚部の端面は、押圧面となっている。
【0013】
肉厚部は、径方向の厚みが大きいため、強度が向上している。よって、肉厚部の端面が押圧面となっていても、肉厚部は変形し難い。
【0014】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記縮径内周面と前記押圧面が交わる角部は、面取りされている。
【0015】
前記構成によれば、角部に応力が集中し難く、角部が破損し難い。
【0016】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記ナットの前記内周面は、前記本体内周面と前記縮径内周面との間に配置され、前記本体内周面の径よりも大径の逃げ溝面を有している。
【0017】
前記構成によれば、本体内周面の端部を研磨した後に砥石を逃げ溝面の内部に逃がすことができる。よって、本体内周面の端部を確実に研磨することができる。
【0018】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記縮径内周面及び前記逃げ溝面は、前記本体内周面の軸方向両側にそれぞれ設けられている。
【0019】
前記構成によれば、ナットの一端だけでなく、ナットの両端からグリースが漏出し難くなる。また、本体内周面の両側に逃げ溝面が設けられるため、本体内周面の両端部を確実に研磨できる。
【0020】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記ナットの前記内周面は、前記本体内周面と前記逃げ溝面との間に配置され、前記ナットの前記軸方向の前記端に向かって次第に拡径する第1テーパ面と、前記逃げ溝面と前記縮径内周面の間に配置され、前記ナットの前記軸方向の前記端に向かって次第に縮径する第2テーパ面と、を有している。
【0021】
前記構成によれば、第1テーパ面と第2テーパ面とに応力が集中し難く、ナットが破損し難い。
【発明の効果】
【0022】
本開示のボールねじ装置によれば、ナットの外側に漏出するグリース量が低減する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施形態1のボールねじ装置をねじ軸の中心線に沿って切った断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1のナットを中心線に沿って切った断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のボールねじ装置において、ナットの第1方向の端部の近傍を拡大した図である。
【
図4】
図4は、実施形態2のボールねじ装置の一部を拡大した図である。
【
図5】
図5は、実施形態3のボールねじ装置をねじ軸の中心線に沿って切った断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態4のボールねじ装置の一部を拡大した図である。
【
図7】
図7は、実施形態5のボールねじ装置のナットの断面を拡大した図である。
【
図8】
図8は、変形例1のナットを軸方向に切って展開した展開図である。
【
図9】
図9は、変形例2のナットを軸方向に切って展開した展開図である。
【
図10】
図10は、変形例3のナットを軸方向に切って展開した展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0025】
(実施形態1)
図1は、実施形態1のボールねじ装置をねじ軸の中心線に沿って切った断面図である。
図1に示すように、ボールねじ装置100は、ねじ軸1と、ねじ軸1に貫通されるナット2と、ねじ軸1とナット2との間に配置された複数のボール(不図示)と、を備えている。以下、ねじ軸1の中心線O1と平行な方向を軸方向と称する。
【0026】
ねじ軸1の外周面には、外周軌道面5が設けられている。外周軌道面5は、ねじ軸1の一端6から他端7まで延在している。以下、軸方向のうち一端6が指す方向を第1方向X1と称する。また、他端7が指す方向を第2方向X2と称する。
【0027】
ナット2は、中心線O1を中心に円筒状に形成されている。よって、ナット2は、軸方向に貫通する貫通孔10を有している。貫通孔10にねじ軸1が挿入されている。ナット2の外周面14の径は、第1方向X1の端から第2方向X2の端まで変わることなく、一定となっている。ナット2は、第1方向X1を向く第1端面11と第2方向X2を向く第2端面12とを有している。
【0028】
図2は、実施形態1のナットを中心線に沿って切った断面図である。
図2に示すように、ナット2の内周面20は、内周面20の中央部に配置された本体内周面21と、内周面20の第1方向X1の端部に配置された第1縮径内周面22aと、本体内周面21と第1縮径内周面22aとの間に配置された第1逃げ溝面23aと、内周面20の第2方向X2の端部に配置された第2縮径内周面22bと、本体内周面21と第2縮径内周面22bとの間に配置された第2逃げ溝面23bと、を有している。
【0029】
本体内周面21の径は、r1となっている。また、本体内周面21には、ねじ溝面30と4つの循環部31(
図2で1つの循環部31が不図示)が設けられている。なお、
図2の仮想線H1は、本体内周面21から第2方向X2への延長線である。
【0030】
ねじ溝面30は、ねじ軸1の外周軌道面5と対向し、外周軌道面5と同じ螺旋方向に延在する溝面である。本実施形態のねじ溝面30は、4つの内周軌道面32により構成されている。内周軌道面32は、切削により形成されている。4つの内周軌道面32は、他の内周軌道面32と繋がっていない。
【0031】
内周軌道面32と外周軌道面5との間の空間は、軌道を構成している。この軌道には、複数のボール(不図示)が配置されている。ボール(不図示)には、グリース80(
図2で不図示。
図3のグリース80を参照)が供給されている。よって、ナット2の内周面20のうち本体内周面21(主に内周軌道面32及び循環部31)に多くのグリースが付着している。
【0032】
循環部31は、鍛造によりナット2の内周面20に成形されたS字溝面である。S字溝面は、内周軌道面32の一端と他端とを接続する。これにより、軌道の一端から他端へ移動したボールは、S字溝面により軌道の一端に循環する。
【0033】
次に、第1縮径内周面22aと第2縮径内周面22bについて説明する。なお、第1縮径内周面22aと第2縮径内周面22bは、ナット2の軸方向の中央部を通る仮想平面Pを基準として面対称となっている。よって、以下の説明では、第1縮径内周面22aを代表例とし、第2縮径内周面22bの説明を省略する。また、第1縮径内周面22aと第2縮径内周面22bをまとめて縮径内周面22と称する。
【0034】
第1縮径内周面22aは、中心線O1を中心に環状となっている。第1縮径内周面22aの径r2は、本体内周面21の径r1よりも小さい(r1>r2)。よって、第1縮径内周面22aは、本体内周面21よりも径方向内側に突出している(
図2の仮想線H1を参照)。このため、ナット2の軸方向のうち、内周側に第1縮径内周面22aが設けられている部分は、内周側に本体内周面21が設けられている部分よりも、径方向の厚みが大きい。以下、ナット2の軸方向のうち、内周側に第1縮径内周面22aが設けられている部分を第1肉厚部24aと称する。また、ナット2の軸方向のうち内周側に第2縮径内周面22bが設けられた部分を、第2肉厚部24bと称する。第1肉厚部24aと第2肉厚部24bをまとめて肉厚部24と称する。
【0035】
次に、第1逃げ溝面23aと第2逃げ溝面23bについて説明する。なお、第1逃げ溝面23aと第2逃げ溝面23bは、仮想平面Pを基準として面対称となっている。よって、以下の説明では、第1逃げ溝面23aを代表例とし、第2逃げ溝面23bの説明を省略する。また、第1逃げ溝面23aと第2逃げ溝面23bをまとめて逃げ溝面23と称する。
【0036】
第1逃げ溝面23aは、中心線O1を中心に環状となっている。第1逃げ溝面23aの径r3は、第1縮径内周面22aの径r2よりも大きい(r3>r2)。また、第1逃げ溝面23aの径r3は、本体内周面21の径r1よりも大きい(r3>r1)。よって、第1縮径内周面22aは、本体内周面21よりも径方向外側に窪む凹面となっている。
【0037】
図3は、
図1のボールねじ装置において、ナットの第1方向の端部の近傍を拡大した図である。
図3に示すように、第1縮径内周面22a(縮径内周面22)と第1端面11が交わる角部27は、角面取りされている。このため、ナット2に荷重が作用した場合、角部27に応力が集中し難い構造となっている。なお、本開示の角部27は、角面取りでなく、丸面取りされてもよい。
【0038】
本体内周面21と第1逃げ溝面23aとの間には、第1テーパ面28が設けられている。第1テーパ面28は、第1方向X1に向かって次第に拡径している。また、第1逃げ溝面23aと第1縮径内周面22aの間には、第2テーパ面29が設けられている。第2テーパ面29は、第1方向X1に向かって次第に縮径している。よって、ナット2に荷重が作用した場合、第1テーパ面28及び第2テーパ面29に応力が集中し難い。
【0039】
次に実施形態1のボールねじ装置100の作用効果について説明する。
図3に示すように、ねじ軸1のねじ山4と本体内周面21との間には、隙間S1が設けられている。また、ねじ軸1のねじ山4と縮径内周面22との間には、隙間S2が設けられている。なお、
図3の仮想線H2は、縮径内周面22から第2方向X2への延長線である。
【0040】
また、隙間S1には、ねじ軸1のねじ山4に付着したグリース80が介在することがある。ナット2に対しねじ軸1が第1方向X1に相対的に移動すると(
図3の矢印A参照)、ねじ山4に付着したグリース80は、隙間S2を通過し、ナット2の外部に漏出する。
【0041】
本実施形態において、縮径内周面22の径r2は、本体内周面21の径r1よりも小さい。つまり、隙間S2の大きさL2は、隙間S1の大きさL1よりも小さい。よって、ねじ軸1が第1方向X1に移動すると、ねじ山4に付着したグリース80のうち仮想線H2よりも径方向外側に配置される部分は、縮径内周面22に掻き取られる。よって、ナット2の外側に漏出するグリース量が低減する。
【0042】
また、縮径内周面22は、本体内周面21の軸方向の両側にそれぞれ設けられている。よって、ねじ軸1が第1方向X1に移動した場合に限らず第2方向X2に移動した場合にも、グリース80は縮径内周面22(第2縮径内周面22b)に掻き取られる。よって、ナット2の外側に漏出するグリース量が大きく低減する。
【0043】
また、本体内周面21にS字溝面(循環部31)を鍛造し、ねじ溝面30(内周軌道面32)を形成した後、本体内周面21の径をr1とするため、本体内周面21を砥石で研磨することがある。また、研磨は、本体内周面21に沿って砥石を軸方向に移動させ、研磨する個所を軸方向に変える。仮に本体内周面21の隣に縮径内周面22があると、砥石が縮径内周面22と接触し、本体内周面21の端部を研磨できない。一方、本実施形態によれば、砥石を本体内周面21の端部から軸方向外側に移動させること、つまり逃げ溝面23の内部に逃がす(移動させる)ことができる。よって、本体内周面21の端部を確実に研磨することができる。なお、本開示において、本体内周面21の研磨は、本体内周面21のねじ溝面30(内周軌道面32)の形成後に限定されない。
【0044】
以上、実施形態1のボールねじ装置100は、ねじ軸1と、ねじ軸1と平行な軸方向に貫通する貫通孔10を有し、貫通孔10にねじ軸1が挿入されたナット2と、ナット2とねじ軸1との間に配置された複数のボールと、を備えている。ナット2の内周面20は、ボールが転動する内周軌道面32が設けられた本体内周面21と、本体内周面21よりもナット2の軸方向の端寄りに配置された縮径内周面22と、を有している。縮径内周面22の径r2は、本体内周面21の径r1よりも小さい。
【0045】
本実施形態によれば、ナット2の外側に移動するグリース80は、縮径内周面22に掻き取られる。よって、ナット2の外側に漏出するグリース量が低減する。
【0046】
また、実施形態1のボールねじ装置100において、縮径内周面22とナット2の端面(第1端面11及び第2端面12)が交わる角部27が面取りされている。また、実施形態1のボールねじ装置100において、ナット2の内周面20は、本体内周面21と逃げ溝面23との間に配置され、ナット2の軸方向の端に向かって次第に拡径する第1テーパ面28と、逃げ溝面23と縮径内周面22の間に配置され、ナット2の軸方向の端に向かって次第に縮径する第2テーパ面29と、を有している。
【0047】
これにより、角部27、第1テーパ面28、及び第2テーパ面29は、応力が集中し難く、破損し難い。
【0048】
また、実施形態1のボールねじ装置100において、ナット2の内周面20は、本体内周面21と縮径内周面22との間に配置され、本体内周面21の径よりも大径の逃げ溝面23を有している。
【0049】
これにより、本体内周面21の端部を確実に研磨することができる。
【0050】
また、実施形態1のボールねじ装置100において、縮径内周面22及び逃げ溝面23は、本体内周面21の軸方向両側にそれぞれ設けられている。
【0051】
これによれば、ナット2の外側に漏出するグリース量が大きく低減する。また、本体内周面21の両端部を確実に研磨することができる。
【0052】
以上、実施形態1について説明したが、実施形態1では、縮径内周面22及び逃げ溝面23は、本体内周面21に対し軸方向の両側に設けられているが、本開示は、本体内周面21に対し軸方向の片側にのみ設けられていてもよい。また、本開示の角部27は、面取りされていなくてもよい。また、本開示は、第1テーパ面28及び第2テーパ面29が径方向に延在する面(第1逃げ溝面23aに直交する面)であってもよい。また、本開示のナットは、逃げ溝面23(第1逃げ溝面23a、第2逃げ溝面23b)を有していなくてもよい。つまり、本開示のナットは、本体内周面21が研磨されていなくてもよい。または、本開示のナットは、逃げ溝面23(第1逃げ溝面23a、第2逃げ溝面23b)の有無にかかわらず、本体内周面21が研磨されてもよい。
【0053】
次に本開示のボールねじ装置の他の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、実施形態1のボールねじ装置100との相違点に絞って説明する。
【0054】
(実施形態2)
図4は、実施形態2のボールねじ装置の一部を拡大した図である。実施形態2のボールねじ装置100Aは、ナット2の外周面14に軸受90の内輪91が嵌合している点で、実施形態1と相違する。なお、軸受90の外輪92は、ハウジング93に嵌合している。つまり、ナット2は、ハウジング93に回転自在に支持されている。以下、詳細を説明する。
【0055】
内輪91は、ナット2の第1方向X1の端部に嵌合している。言い換えると、内輪91は、第1肉厚部24aに嵌合している。以下、第1肉厚部24aの外周面のうち内輪91が嵌合している部分を嵌合面15と称する。嵌合面15の径は、ナット2の外周面14よりも小径となっている。また、嵌合面15の軸方向の長さL3は、第1肉厚部24aの軸方向の長さ(第1縮径内周面22aの軸方向の長さL4)よりも小さい。よって、第1肉厚部24aの外周面は、小径の嵌合面15と、嵌合面15よりも第2方向X2に配置され、内輪91(他の部品)が嵌合せずに露出している露出面16と、嵌合面15と露出面16との間で径方向に延在し、かつ第1方向X1を向く段差面17と、を有している。
【0056】
実施形態2によれば、段差面17に内輪91が第1方向から当接している。よって、ナット2による第1方向X1への位置ずれが規制される。一方、第1肉厚部24aは、小径の嵌合面15が形成され、強度が低下している。ただし、嵌合面15は、第1肉厚部24a(第1縮径内周面22a)よりも軸方向の長さが小さい。よって、嵌合面15の形成による第1肉厚部24a強度の低下は小さく抑えられている。
【0057】
また、嵌合面15は、第1肉厚部24a(肉厚部24)に設けられている。肉厚部24は、径方向の厚みが大きく、温度変化による形状の変化が生じ難い。言い換えると、嵌合面15の径が変形し難い。よって、嵌合面15と内輪91の間に隙間が生じたり、若しくは内輪91に対する締め代が所定量よりも大きくなったりする、ということが回避される。
【0058】
以上、実施形態2について説明したが、本開示は、嵌合面15の軸方向の長さL3が第1縮径内周面22aの軸方向の長さL4と同一であってもよい。又は、嵌合面15の軸方向の長さL3が第1縮径内周面22aの軸方向の長さL4よりも大きくてもよい。このような変形例であっても、肉厚部24の内周側に縮径内周面22が設けられ、実施形態1と同様に、グリース80の漏出が少なく抑制される。また、本開示は、嵌合面15がナット2の外周面14と同径であってもよい。
【0059】
(実施形態3)
図5は、実施形態3のボールねじ装置をねじ軸の中心線に沿って切った断面図である。実施形態3のボールねじ装置100Bは、ブレーキキャリパー200に使用されている点で実施形態1と相違する。なお、ブレーキキャリパー200は、図示しない車輪と供回りするブレーキディスク201を2つのブレーキパッド202(
図5で1つのブレーキパッド202のみ図示)で挟み、車輪の回転運動を制動するための装置である。以下、詳細を説明する。
【0060】
実施形態3のボールねじ装置100Bにおいて、ナット2の外周面14は、ハウジング220の摺動面221に摺動自在に支持されている。また、外周面14の第1方向X1の端部には、切り欠き18が設けられ、回り止め突起19が嵌合している。回り止め突起19は、軸方向に延在する溝222に摺動自在に挿入している。よって、ナット2は、ハウジング220に対し、軸方向に移動可能であり、かつ中心線O1回りに回動不能に支持されている。なお、切り欠き18は、第1肉厚部24aの周方向の一部を切り欠いている。そのほか、第2肉厚部24b(ナット2)の第2端面12は、ブレーキパッド202に当接し、ブレーキパッド202を第2方向X2に押圧する押圧面12Aとなっている。
【0061】
ねじ軸1の一端6には、第1方向X1に突出する連結軸8が設けられている。連結軸8は、動力伝達軸210と嵌合している。また、動力伝達軸210は、軸受211により回転自在にハウジング220に支持されている。この動力伝達軸210には、図示しないモータで生成された回転運動が伝達される。よって、モータが駆動すると、ねじ軸1は動力伝達軸210と供回りする。そして、ナット2が第2方向X2に移動し、押圧面12Aがブレーキパッド202を第2方向X2へ押圧する。これにより、ブレーキディスク201が2つのブレーキパッド202に挟まれ、車輪に制動力が付与される。
【0062】
実施形態3によれば、ナット2の第2方向X2の端部は、ブレーキパッド202を押圧し、大きな荷重が作用する。一方、ナット2の第2方向X2の端部は、第2肉厚部24bであり、強度が向上している。よって、ナット2の第2方向X2の端部は、座屈などの変形が生じ難い。なお、ナット2に変形が生じると、ボールの円滑な転動が阻害され、ボールねじ装置100の作動性が低下する。よって、第2肉厚部24b(ナット2)の変形防止により、ボールねじ装置100の作動性も確保される。
【0063】
第2端面12(押圧面12a)と第2縮径内周面22bとが交わる角部27は、面取りされている。また、第2縮径内周面22bと第2逃げ溝面23bとの間は、第2テーパ面29(
図3参照)となっており、角部が設けられていない。第2逃げ溝面23bと本体内周面21の間は、第1テーパ面28(
図3参照)となっており、角部が設けられていない。以上から、ナット2は、応力が集中し易い角部を有しておらず、ナット2の破損が抑制される。
【0064】
(実施形態4)
図6は、実施形態4のボールねじ装置の一部を拡大した図である。
図6に示すように、実施形態4のボールねじ装置100Cにおいて、縮径内周面22がナット2の軸方向(第1方向X1)の端部に配置されていない点で、実施形態1と相違する。言い換えると、実施形態4のナット2の内周面20において、縮径内周面22よりも軸方向の外側(
図6において第1方向X1)に、端部内周面25が設けられている点で、実施形態1と相違する。
【0065】
端部内周面25の径r4は、本体内周面21の径r1(
図2参照)と同一である。よって、端部内周面25は、縮径内周面22よりも大径である。このため、実施形態4の縮径内周面22は、内周面20の軸方向の端部ではなく、本体内周面21よりも軸方向の端寄りとなっている。なお、端部内周面25の径r4は、本体内周面21の径r1と同一でなくてもよい。
【0066】
以上、実施形態4であっても、縮径内周面22とねじ山4の隙間S2の大きさは、実施形態1と変わらずL2(
図3参照)である。よって、実施形態1と同様に、ねじ山4に付着したグリース80のうち仮想線H2よりも径方向外側に配置される部分は、縮径内周面22に掻き取られる。このため、漏出するグリース量が低減する。
【0067】
(実施形態5)
図7は、実施形態5のボールねじ装置のナットの断面を拡大した図である。実施形態5のボールねじ装置100Dにおいて、ナット2の循環部31は、S字溝面に変えてコマ(不図示)となっている点で、実施形態1と相違する。よって、実施形態5のナット2には、コマ(不図示)を収容するための矩形状の貫通孔33が複数形成されている。
【0068】
この実施形態5であってもナット2は縮径内周面22を有する。よって、漏出するグリース量が低減する。このように本開示は、循環部31の種類は特に問わない。言い換えると、本開示は、チューブなどの循環部でもよい。
【0069】
また、実施形態5のナット2は、ねじ溝面30が本体内周面21以外の個所にも形成されている点で、実施形態1と相違する。具体的に実施形態5のねじ溝面30は、ナット2の内周面20の一端から他端まで、ねじ溝面30が形成されている。このようなねじ溝面30は、転造又は切削により形成できる。また、本実施形態では、ねじ溝面30が螺旋方向に連続している。
【0070】
また、実施形態5の縮径内周面22(22a、22b)は、ねじ溝面30により切り欠かれている。このため、実施形態5の縮径内周面22(22a、22b)は、螺旋状となっている(
図7のドットで塗られた範囲を参照)。また、ねじ溝面30は、ねじ軸1の外周軌道面5と対向している。つまり、縮径内周面22(22a、22b)は、ねじ軸1のねじ山4と対向している。
【0071】
以上、実施形態5であっても、縮径内周面22(22a、22b)とねじ山4との隙間S2の大きさは、変わらずL2(
図3参照)である。よって、漏出するグリース量が低減する。
【0072】
そのほか、実施形態5には、実施形態1と同じ逃げ溝面23(23a、23b)が形成されている(
図2参照)。ただし、逃げ溝面23(23a、23b)は、ねじ溝面30により切り欠かれている。なお、
図7の破線Qで示す範囲が逃げ溝面23(23a、23b)である。このように、実施形態5では、内周面20に逃げ溝面23(23a、23b)の一部が残っている。よって、本実施形態においても、本体内周面21を研磨する際、逃げ溝面23(23a、23b)に砥石を逃がすことができ、本体内周面21の端部を確実に研磨することができる。
【0073】
以上、各実施形態について説明したが、本開示は、上記した例に限定されない。例えば、ナット2の内周面20に形成されるねじ溝面30に関し、実施形態1では、本体内周面21にのみ形成されている。また、実施形態5のねじ溝面30は、ナット2の内周面20の一端から他端まで延在している。しかしながら、本開示はこれに限定されない。例えば、切削によりねじ溝面30を形成する際、ナット2の内周面20の一端から開始し、他端に到達する前に切削を止めてもよい。このように切削を途中でやめた場合、切削具が径方向内側に次第に逃げた跡(切り上がり)が内周面20に形成される。以下、この切り上がりの位置に関し、詳細を説明する。なお、切削は、ナット2の内周面20の第2方向X2の端から開始した例を挙げて説明する。
【0074】
図8は、変形例1のナットを軸方向に切って展開した展開図である。
図8に示すように、変形例1のナット2Eでは、切削が第2テーパ面29まで行われている。なお、ねじ溝面30の幅は、第2テーパ面29よりも大きい。このため、切り上がり36は、逃げ溝面23(22a)と第2テーパ面29に跨っている。
【0075】
図9は、変形例2のナットを軸方向に切って展開した展開図である。
図9に示すように、変形例2のナット2Fでは、切削が第1逃げ溝面23a(逃げ溝面23)まで行われている。このため、切り上がり36は、逃げ溝面23(23a)に設けられている。
【0076】
図10は、変形例3のナットを軸方向に切って展開した展開図である。
図9に示すように、変形例2のナット2Gでは、切削が第1テーパ面28まで行われている。なお、ねじ溝面30の幅は、第1テーパ面28よりも大きい。このため、切り上がり36は、と第2テーパ面29及び本体内周面21に跨っている。
【0077】
以上、変形例について説明したが、本開示は、切り上がり36が本体内周面21に設けられている例であってもよい。
【0078】
なお、本開示は、以下のような構成の組み合わせであってもよい。
(1)
ねじ軸と、
前記ねじ軸と平行な軸方向に貫通する貫通孔を有し、前記貫通孔に前記ねじ軸が挿入されたナットと、
前記ナットと前記ねじ軸との間に配置された複数のボールと、
を備え、
前記ナットの内周面は、
前記ボールが転動する内周軌道面が設けられた本体内周面と、
前記本体内周面よりも前記ナットの前記軸方向の端寄りに配置された縮径内周面と、
を有し、
前記縮径内周面の径は、前記本体内周面の径よりも小さい
ボールねじ装置。
(2)
前記ナットの前記軸方向のうち、内周側に前記縮径内周面が配置された部分は、内周側に前記本体内周面が配置された部分よりも、径方向の厚みが大きい肉厚部であり、
前記肉厚部の外周面の少なくとも一部は、他の部品が嵌合する嵌合面となっている
(1)に記載のボールねじ装置。
(3)
前記嵌合面の軸方向の長さは、前記縮径内周面の前記軸方向の長さよりも小さく、
前記肉厚部の外周面は、
前記他の部品が嵌合せず、露出する露出面と、
前記露出面よりも小径の前記嵌合面と、
を有している
(2)に記載のボールねじ装置。
(4)
前記ナットの前記軸方向のうち、内周側に前記縮径内周面が配置された部分は、内周側に前記本体内周面が配置された部分よりも、径方向の厚みが大きい肉厚部であり、
前記肉厚部は、前記ナットの端部に配置され、
前記肉厚部の端面は、押圧面となっている
(1)から(3)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
(5)
前記縮径内周面と前記押圧面が交わる角部は、面取りされている
(4)に記載のボールねじ装置。
(6)
前記ナットの前記内周面は、前記本体内周面と前記縮径内周面との間に配置され、前記本体内周面の径よりも大径の逃げ溝面を有している
(1)から(5)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
(7)
前記縮径内周面及び前記逃げ溝面は、前記本体内周面の軸方向両側にそれぞれ設けられている
(6)に記載のボールねじ装置。
(8)
前記ナットの前記内周面は、
前記本体内周面と前記逃げ溝面との間に配置され、前記ナットの前記軸方向の前記端に向かって次第に拡径する第1テーパ面と、
前記逃げ溝面と前記縮径内周面の間に配置され、前記ナットの前記軸方向の前記端に向かって次第に縮径する第2テーパ面と、
を有している
(6)又は(7)に記載のボールねじ装置。
【符号の説明】
【0079】
1 ねじ軸
2、2E、2F、2G ナット
4 ねじ山
5 外周軌道面
14 外周面
15 嵌合面
16 露出面
17 段差面
20 内周面
21 本体内周面
22 縮径内周面
23 逃げ溝面
24 肉厚部
25 端部内周面
27 角部
28 第1テーパ面
29 第2テーパ面
30 ねじ溝面
31 循環部
32 内周軌道面
36 切り上がり
80 グリース
100、100A、100B、100D ボールねじ装置
200 ブレーキキャリパー
S1、S2 隙間
【要約】
漏出するグリース量の低減を図る本開示のボールねじ装置は、ねじ軸と、ねじ軸と平行な軸方向に貫通する貫通孔を有し、貫通孔にねじ軸が挿入されたナットと、ナットとねじ軸との間に配置された複数のボールと、を備えている。ナットの内周面は、ボールが転動する内周軌道面が設けられた本体内周面と、本体内周面よりもナットの軸方向の端寄りに配置された縮径内周面と、を有している。縮径内周面の径は、本体内周面の径よりも小さい。