IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社の特許一覧

特許7626312耐水性を有する接着性ポリオルガノシロキサン組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】耐水性を有する接着性ポリオルガノシロキサン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20250131BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250131BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20250131BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20250131BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20250131BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20250131BHJP
   C09J 183/05 20060101ALI20250131BHJP
   C09J 183/07 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/013
C08K3/34
C08K5/54
C08L83/07
C09J11/04
C09J183/05
C09J183/07
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022500711
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2021047284
(87)【国際公開番号】W WO2022138627
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-01-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2020211566
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221111
【氏名又は名称】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】高梨 正則
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】小出 直也
【審判官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103881393(CN,A)
【文献】国際公開第2020/203297(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021826(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021824(WO,A1)
【文献】特開2016-151010(JP,A)
【文献】特開2014-218564(JP,A)
【文献】特開2011-246536(JP,A)
【文献】特開2011-98566(JP,A)
【文献】特開2010-13521(JP,A)
【文献】特開2009-292928(JP,A)
【文献】特開2009-234112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L83/00-83/16
C08K3/00-13/08
C09J183/00-183/16
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1分子中に付加反応を起こし得るアルケニル基を2つ以上有するポリオルガノシロキサン;
(b)前記(a)のアルケニル基との反応性を有する架橋基を1分子中に3つ以上有する架橋剤;
(c)前記(a)及び(b)の架橋反応を触媒し得る、硬化触媒;
(d)次式:
Si(OR4-n
(式中、Rは炭素数8~30の1価アルキル基であり、Rは水素又は炭素数1~6のアルキル基であり、nは1~3の整数である)で示される、ケイ素原子に直接結合した、炭素数8~30の1価アルキル基及び加水分解可能な基を有するケイ素化合物;及び
(e)シリカ、ケイ酸塩鉱物又はそれらの混合物である鱗片状の形状を有する無機微粒子
を含み、前記(a)が、下記式(1):
(R 3-p Si-O-(Si(R) (R 2-r O) -SiR (R 3-q ・・・(1)
(式中、
は、それぞれ独立して、アルケニル基であり、
Rは、それぞれ独立して、1価の有機基であり、
p及びqは、各々独立して、0、1又は2であり、
rは、それぞれ独立して、0、1又は2であり、
nは、23℃における粘度を0.1~500Pa・sとする数である)
で表される直鎖状ポリオルガノシロキサンを含み、
前記(e)鱗片状の形状を有する無機微粒子が、前記(a)~(d)成分の合計100質量部に対して10~38.7質量部の量で含まれる、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項2】
前記(c)が、白金化合物である、請求項1記載の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項3】
前記(d)ケイ素原子に直接結合した、炭素数8~30の1価アルキル基及び加水分解可能な基を有するケイ素化合物が、炭素数8~20の1価アルキル基を有する、請求項1又は2記載の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
前記(d)ケイ素原子に直接結合した、炭素数8~30の1価アルキル基及び加水分解可能な基を有するケイ素化合物が、組成物全体の100質量部に対して0.01~10.0質量部含まれる、請求項1~のいずれか一項記載の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項5】
さらに、接着性付与剤を含む、請求項1~のいずれか一項記載の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項記載の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を含む、接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性を有する接着性ポリオルガノシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム状弾性体を生じる硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、接着剤に利用可能な材料として種々知られている。ポリオルガノシロキサン組成物は、硬化反応の機構によって付加硬化型、湿気硬化型に大別される。付加反応硬化型のポリオルガノシロキサン組成物は、光の照射、或いは室温又は40℃から150℃程度の加熱により硬化して各種被着体に対する接着性を発現する。特許文献1には、ジルコニウム化合物及び特定の接着性付与剤を含む接着性ポリオルガノシロキサン組成物が提案されている(特開2019-151695号公報)。
【0003】
ポリオルガノシロキサンを接着剤として用いる需要の強い用途の一つに、航空機や自動車用途がある。航空機、自動車産業及び関連する電子材料分野においては、地球環境問題への対応、小型軽量化への要求が年々高まっており、鉄やアルミニウム等の金属からプラスチック材料への代替が検討されている。このため、ポリオルガノシロキサン組成物を接着剤とするにあたり様々な基材に対する接着性が求められ、材料の検討がなされている(特開2003-221506号公報、特開2016-199687号公報)。
【0004】
このほかに自動車用途では、接着部位がエンジンオイルやLLC液のような不凍液に接触したり、熱による過酷な条件に晒されたりする。このため、耐油性や、物性の劣化が少ないことも接着剤に要求される特性の一つである(特開2003-183504号公報、特開2003-327829号公報、特開2015-067647号公報)。従来用いられていた有機ゴム等が抱える問題の一つであった信頼性不足の解消のためにも、ポリオルガノシロキサン組成物が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-151695号公報
【文献】特開2003-221506号公報
【文献】特開2016-199687号公報
【文献】特開2003-183504号公報
【文献】特開2003-327829号公報
【文献】特開2015-067647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車関連用途では、加熱を伴う過酷な環境だけでなく接着部位が風雨に晒されることも少なくない。そのため、接着剤の信頼性を高めるために耐水性能を備えていることが必要とされる。特に数年単位の長期にわたって接着性を維持しうることが要求される。しかしながら既存の製品では、まだ十分な耐水特性を備えていなかった。場合によっては、水に浸漬される環境下で、剥離や腐食が発生することがある。本発明者らが見出したところによると、従来の接着剤では、耐水試験(接着させた基材との浸漬試験)において、接着部分からの剥離等の現象が生じており、特に温水中での加速試験でより顕著であることがわかった。
航空機や自動車用途では長期の信頼性は安全に関わる要素でもあるため、特に長期にわたって、接着剤の耐水性を向上させることに対する需要は強く存在する。
【0007】
本発明は、水溶液(水、LLCや塩水等)に接する部分での各種基材への接着耐久性を向上させた接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討したところによると、接着剤が水によって剥離又は腐食する原因として、接着剤と基材の間に水分等が浸透し、接着している部分の結合の切断が起こることによる密着力の低下が考えられることがわかった。これを防ぐために、水が浸透する距離を長くすることや、水自体の浸透を防ぐために疎水化を行うことが有効である。本発明者らは付加硬化型の接着剤におけるこの問題を解決するため、長鎖アルキル基を有するシラン化合物を添加することが効果的であることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、水溶液(水、LLCや塩水等)に接する部分での各種基材への接着耐久性を向上させた、接着剤として利用可能なポリオルガノシロキサン組成物が提供される。
すなわち、本発明は以下の[1]~[9]に関する。
[1](a)1分子中に付加反応を起こし得る硬化性官能基を2つ以上有するポリオルガノシロキサン;
(b)前記(a)の硬化性官能基との反応性を有する架橋基を1分子中に3つ以上有する架橋剤;
(c)前記(a)及び(b)の架橋反応を触媒し得る、硬化触媒;及び
(d)ケイ素原子に直接結合した、炭素数8~30の1価アルキル基及び加水分解可能な基を有するケイ素化合物;
を含む、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
[2]前記(a)が、1分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンであり、前記(c)が、白金化合物である、前記[1]の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
[3]さらに、(e)鱗片状の形状を有する無機微粒子を、前記(a)~(d)成分の合計100質量部に対して10~500質量部の量で含む、前記[1]又は[2]記載の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
[4]前記鱗片状の形状を有する無機微粒子が、シリカ、ケイ酸塩鉱物又はそれらの混合物を含む、前記[3]記載の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
[5]前記(d)ケイ素原子に直接結合した、炭素数8~30の1価アルキル基及び加水分解可能な基を有するケイ素化合物が、次式:
Si(OR4-n
(式中、Rは炭素数8~30の1価アルキル基であり、Rは水素又は炭素数1~6のアルキル基であり、nは1~3の整数である)で示される化合物である、前記[1]~[4]のいずれか記載の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
[6]前記(d)ケイ素原子に直接結合した、炭素数8~30の1価アルキル基及び加水分解可能な基を有するケイ素化合物が、炭素数8~20の1価アルキル基を有する、前記[1]~[5]のいずれか記載の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
[7]前記(d)ケイ素原子に直接結合した、炭素数8~30の1価アルキル基及び加水分解可能な基を有するケイ素化合物が、組成物全体の100質量部に対して0.01~10.0質量部含まれる、前記[1]~[6]のいずれか記載の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
[8]さらに、接着性付与剤を含む、前記[1]~[7]のいずれか記載の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
[9]前記[1]~[8]のいずれか記載の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を含む、接着剤。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、(a)1分子中に付加反応を起こし得る硬化性官能基を2つ以上有するポリオルガノシロキサン;(b)前記(a)の硬化性官能基との反応性を有する架橋基を1分子中に3つ以上有する架橋剤;(c)前記(a)及び(b)の架橋反応を触媒し得る、硬化触媒;及び(d)ケイ素原子に直接結合した、炭素数8~30の1価アルキル基及び加水分解可能な基を有するケイ素化合物;を含み、さらに場合により(e)無機微粒子を含む、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物に関する。
以下、本発明の組成物について、項目毎に詳細に説明する。なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0011】
本明細書において用いられる場合、「有機基」とは、炭素を含有する基を意味する。有機基の価数はnを任意の自然数として「n価の」と記載することにより示される。したがって、例えば「1価の有機基」とは、結合手を1つのみ有する、炭素を含有する基を意味する。結合手は、炭素以外の元素が有していてもよい。価数を特に明示しない場合でも、当業者であれば文脈から適した価数を把握することができる。
【0012】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」とは、炭素及び水素を含む基であって、分子から少なくとも1個の水素原子を脱離させた基を意味する。かかる炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、1つ又はそれ以上の置換基により置換されていてもよい、炭素原子数1~20の炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよく、飽和又は不飽和のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、1つ又はそれ以上の環構造を含んでいてもよい。尚、かかる炭化水素基は、その末端又は分子鎖中に、1つ又はそれ以上の窒素原子(N)、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、ケイ素原子(Si)、アミド結合、スルホニル結合、シロキサン結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基等の、ヘテロ原子又はヘテロ原子を含む構造を有していてもよい。
【0013】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」の置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子;1個又はそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、C3-10不飽和シクロアルキル基、5~10員のヘテロシクリル基、5~10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6-10アリール基及び5~10員のヘテロアリール基から選択される基が挙げられる。
【0014】
本明細書において、アルキル基及びフェニル基は、特記しない限り、非置換であっても、置換されていてもよい。かかる基の置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基及びC2-6アルキニル基から選択される1個又はそれ以上の基が挙げられる。
【0015】
・成分(a)
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、成分(a)として、1分子内に付加反応を起こし得る硬化性官能基を2つ以上有するポリオルガノシロキサンを少なくとも1種含む。成分(a)は、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物のベースポリマーとして機能する。ここで、「硬化性官能基」とは、硬化反応を起こすことが可能な官能基を指し、本発明においては、付加反応を起こす官能基を指す。各々の硬化性官能基は、同じ官能基であることが好ましいが、付加反応を起こす官能基であれば、異なる種類の官能基であっても同一分子内に混在することができる。硬化性官能基は、ポリオルガノシロキサン分子の任意の位置に存在することができる。例えば直鎖状のポリオルガノシロキサンの場合、分子末端に硬化性官能基を有していてもよく、末端以外の部位に側鎖として存在していてもよい。硬化性官能基は、直鎖状のポリオルガノシロキサンの場合、好ましくは成分(a)の分子主鎖の両末端に少なくとも1つずつ存在する。またここで、本明細書において、成分(a)の分子主鎖とは、成分(a)の分子中で相対的に最も長い結合鎖を表す。
【0016】
成分(a)の分子骨格は、シロキサン結合が主骨格であるものであれば、特に制限されない。シロキサン骨格が、2価の有機基により中断されていてもよい。ここで、本明細書においてシロキサン化合物の構造を説明するにおいては、シロキサン化合物の構造単位を以下のような略号によって記載することがある。以下、これらの構造単位をそれぞれ「M単位」「D単位」等ということがある。
M:-Si(CH1/2
:-SiH(CH1/2
Vi:-Si(CH=CH)(CH1/2
D:Si(CH2/2
:SiH(CH)O2/2
T:Si(CH)O3/2
Q:SiO4/2
以下、本明細書において、シロキサン化合物は、上記の構造単位を組み合わせて構築されるものであるが、上記構造単位のメチル基がフッ素のようなハロゲン、フェニル基のような炭化水素基等、他の基に置き換わったものを少なくとも部分的に含んでいてもよい。また、例えばD 2020と記した場合には、D単位が20個続いた後D単位が20個続くことを意図するものではなく、各々の単位は任意に配列していてもよいことが理解される。シロキサン化合物は、T単位又はQ単位により、3次元的に様々な構造を取ることができる。よって成分(a)は、直鎖状、分岐鎖状、環状、これらの構造の組合せ等任意の分子骨格をとることができる。成分(a)は、好ましくは、直鎖状の分子骨格を有する。
【0017】
本発明の一態様において、成分(a)としては、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に平均で2個以上有し、後述する(b)のヒドロシリル基(Si-H基)との付加反応により、網状構造を形成することができるものであれば、特に限定されない。成分(a)は、代表的には、一般式(I):
(R(RSiO(4-a-b)/2 (I)
(式中、
は、アルケニル基であり;
は、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であり;
aは、1~3の整数であり;
bは、0~2の整数であり、但し、a+bは1~3である)
で示されるアルケニル基含有シロキサン単位を、分子中に、少なくとも2個有する。
【0018】
成分(a)の具体的な例の一つとしては、(a1)直鎖状ポリオルガノシロキサンが例示される。(a1)としては、下記式(1):
(R3-pSi-O-(Si(R)(R2-rO)-SiR(R3-q・・・(1)
(式中、
は、それぞれ独立して、硬化性官能基であり、
Rは、それぞれ独立して、1価の有機基であり、
p及びqは、各々独立して、0、1又は2であり、
rは、それぞれ独立して、0、1又は2であり、
nは、23℃における粘度を0.1~500Pa・sとする数である)
で表される直鎖状ポリオルガノシロキサンが例示される。Rとしては、炭化水素基、特にアルキル基、アルケニル基、アリール基を有するものが好ましい。屈折率等の物性を制御する観点から、Rの少なくとも一部がフェニル基等のアリール基であってもよい。Rが全てメチルであるようなポリオルガノシロキサンが、入手の容易性から特に好ましく用いられる。硬化性官能基の位置に関しては、上記式(1)においてrが2であるポリオルガノシロキサン、すなわち、分子の両末端のみに硬化性官能基が少なくとも1つずつ存在する直鎖状ポリオルガノシロキサンが好ましい。
【0019】
成分(a)の具体的な例の別の一つとしては、(a2)分岐状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンが例示される。(a2)としては、必須の単位としてSiO4/2単位とRSiO1/2単位を含み、任意の単位としてRSiO2/2単位及び/又はRSiO3/2単位を含む、分岐状のポリオルガノシロキサンが挙げられる。ここで、Rは、R又はRであるが、1分子中の全てのRのうち2個以上がR(即ち、アルケニル基)である。硬化反応において架橋点となるように、1分子中の全てのRのうち少なくとも3個のRがRであり、残余がRであることが好ましい。組成物の硬化物が、優れた機械的強度を有する観点から、RSiO1/2単位とSiO4/2単位の比率が、モル比として、1:0.8~1:3の範囲であり、常温で固体ないし粘稠な半固体の樹脂状のものが好ましい。
(a2)において、Rは、RSiO1/2単位のRとして存在してもよく、RSiO2/2単位又はRSiO3/2単位のRとして存在してもよい。室温で速い硬化が得られる観点から、RSiO1/2単位の一部又は全部が、R SiO1/2単位であること、RSiO2/2単位の一部又は全部が、RSiO2/2単位であることが好ましい。
【0020】
上記成分(a)は、付加反応によって硬化する(メタ)アクリル基又はビニル基のような、脂肪族不飽和結合、特にアルケニル基を有する基と結合したSi原子を2つ以上有する化合物であることができる。成分(a)は、硬化性官能基として、1分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンであることが好ましい。付加反応を起こす硬化性官能基は、ビニル基であることがより好ましい。
【0021】
付加反応を起こす硬化性官能基を有するポリオルガノシロキサンとしては、前記式(1)において、p及びqが2であり、rが2であること、すなわち、分子末端のみに1つずつ、計2つの付加反応可能な基、特にビニル基を有するものが好ましい。このような成分(a)として利用可能なポリオルガノシロキサンは、市販されているものを利用することができる。また、公知の反応により硬化性官能基を導入したポリオルガノシロキサンを用いてもよい。成分(a)としては、置換基の位置又は種類、重合度などにより区分して、1種類の化合物のみを用いてもよいし、2種類以上の化合物を混合して用いてもよい。成分(a)はポリオルガノシロキサンであるので、種々の重合度を有するポリオルガノシロキサンの混合物であってもよい。
【0022】
成分(a)の配合量は、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物が取り扱い可能な粘度の範囲になる量であれば、特に制限されない。成分(a)の量を基準として、以下個別に示す好ましい範囲内で、他の成分の配合量を適宜設定することができる。
【0023】
・成分(b)
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、架橋剤として、前記成分(a)が有する硬化性官能基との反応性を有する架橋基を1分子中に3つ以上有する化合物を含む(以下、単に「成分(b)」ということがある)。架橋剤を含むことにより、硬化性組成物から得られる硬化物の物性、例えば引張強度や弾性率が良好になる。成分(b)が有する架橋基としては、一般的にシリコーンの硬化反応に利用される反応に活性な官能基を用いることができる。架橋基としては例えば、ケイ素に直接結合した水素原子、即ちSi-H基を採用することができる。成分(b)が1分子あたりに有する架橋基の数は3つ以上であり、このため架橋反応により網目状構造をもたらすことができる。各々の架橋基は、同一のケイ素原子に結合していてもよいし、異なるケイ素原子に結合していてもよい。
【0024】
成分(b)は、1つだけケイ素を有する化合物、即ちシランの誘導体であってもよく、2つ以上のケイ素を有する化合物であってもよい。2つ以上のケイ素を有する化合物である場合、成分(b)は、各ケイ素原子が酸素で架橋されるシロキサン結合により連結した構造を有することが好ましい。2つ以上のケイ素原子を含む成分(b)の分子骨格は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。成分(b)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を同時に用いてもよい。
【0025】
成分(b)の架橋基としては、Si-H結合が挙げられる。そのような架橋基を有する架橋剤としては、水素基を含有するシロキサンである、ハイドロジェンポリオルガノシロキサンが用いられる。ハイドロジェンポリオルガノシロキサンは、Si-H結合を有するシロキサン化合物であり、架橋剤となる成分である。ハイドロジェンポリオルガノシロキサンは、代表的には、下記式(2):
(R(RSiO(4-x-y)/2 (2)
(式中、
は、水素原子であり、
は、C1-6アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、好ましくはメチル)又はフェニル基であり;
xは、1又は2であり;
yは、0~2の整数であり、ただし、x+yは1~3である)
で示される単位を、Si-H結合の数が3以上となるように、好ましくは分子中に2個以上有する。
【0026】
ハイドロジェンポリオルガノシロキサンにおけるシロキサン骨格は、環状、分岐状、直鎖状のものが挙げられるが、好ましくは、環状又は直鎖状の骨格であり、より好ましくは、直鎖状の骨格である。ハイドロジェンポリオルガノシロキサンの主鎖は、直鎖状の骨格であることが好ましいが、置換基として分岐した構造を有するような骨格であってもよい。また、1分子に含まれるケイ素原子に結合した水素基(すなわち、Si-H結合と等価である)の数は3個以上であるが、1分子当たりの平均で5個以上であることがより好ましく、8個以上であることがさらにより好ましい。ハイドロジェンポリオルガノシロキサンにおけるその他の条件、水素基以外の有機基、結合位置、重合度、構造等については特に限定されないが、直鎖状の構造である場合は重合度が5~200、特に10~100の範囲であると、得られる組成物の取扱い性がより向上する傾向にあることから好ましい。用いることができるハイドロジェンポリオルガノシロキサンの具体例は、Si-H結合を有する単位(M又はD単位)を8個以上含み、重合度が10~100の範囲である、直鎖状の骨格を有するハイドロジェンポリオルガノシロキサンである。
【0027】
成分(b)は、成分(a)の反応性官能基1モルに対して、架橋基を、例えば0.1~20モルの範囲で含むことができ、具体的には、0.2~10モルの範囲で含むことができる。成分(b)の配合量は、成分(a)が有する反応性官能基の量に応じて、後述の基準を用いながら、適正な範囲に収まるように設計することができる。成分(b)としては、架橋基の位置又は種類、ハイドロジェンポリオルガノシロキサンである場合はその重合度などにより区分して、1種類の化合物のみを用いてもよいし、2種類以上の化合物を混合して用いてもよい。成分(b)は、種々の重合度を有するハイドロジェンポリオルガノシロキサンの混合物であってもよい。
成分(b)におけるシロキサン骨格は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよく、直鎖状が好ましい。
【0028】
成分(b)は、(b1)両末端が、それぞれ独立して、R SiO1/2単位で閉塞され、中間単位がR SiO2/2単位のみからなる、直鎖状ハイドロジェンポリオルガノシロキサン、又は、(b2)R SiO1/2単位とSiO4/2単位のみからなる、ハイドロジェンポリオルガノシロキサン(上記各式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子又は脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であるが、但し、Rのうち、1分子当たり少なくとも平均で3つ以上は水素原子である)であることが好ましい。(b1)及び(b2)の場合において、R SiO1/2単位としては、HR SiO1/2単位及びR SiO1/2単位が挙げられ、R SiO2/2単位としては、HRSiO2/2単位及びR SiO2/2単位(上記各式中、Rは、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基である)が挙げられる。(b1)の場合において、ケイ素原子に結合する水素原子は、末端に存在していても、中間単位に存在していてもよいが、中間単位に存在することが好ましい。
【0029】
成分(b)としては、(b1-1)両末端がM単位(トリメチルシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(メチルハイドロジェンシロキサン単位)のみからなる直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、(b1-2)両末端がM単位(トリメチルシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(ジメチルシロキサン単位)及びD単位(メチルハイドロジェンシロキサン単位)のみからなり、ジメチルシロキサン単位1モルに対して、メチルハイドロジェンシロキサン単位が0.1~3.0モルである直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、又は(b2-1)M単位(ジメチルハイドロジェンシロキサン単位)及びQ単位(SiO4/2単位)のみからなるポリメチルハイドロジェンシロキサンが特に好ましい。
【0030】
成分(b)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0031】
成分(b)がハイドロジェンポリオルガノシロキサンである場合、その配合量は、前記成分(a)の硬化性官能基、特にビニル基のような不飽和基1個に対し、ケイ素原子に直接結合した水素原子が0.1~10.0個となる量であることが好ましい。0.1個より少ないと、硬化が十分な速度で進行しないことがあり、10.0個を超えると、硬化物が硬くなりすぎ、また硬化後の物性にも悪影響を及ぼすことがある。硬化性官能基がビニル基である場合、分子内にビニル基を一つ有するポリオルガノシロキサンの量は、当該ハイドロジェンポリオルガノシロキサンの有するSi-H結合と不飽和結合、特にビニル基の物質量の比(H/Vi比)で調整することもできる。H/Vi比は、0.2~5.0の範囲であることが好ましく、0.5~3.0の範囲であることがより好ましい。H/Vi比を0.2以上とすることで、十分な速度での硬化を達成することができ、各種基材に対してより良好な接着性を示すこともできる。また、H/Vi比を5.0以下とすることで、組成物の硬化を十分な量で達成し、硬度を適度に保つことができ、耐熱性を保持しより良好な接着性を維持することができる。
【0032】
成分(b)は、硬化性組成物中、成分(a)の反応性官能基1モルに対して、例えば、架橋基を0.1モル以上含むことができ、具体的には、0.2モル以上含むことができる。成分(b)は、成分(a)の反応性官能基1モルに対して、例えば、架橋基を20モル以下含むことができ、具体的には10モル以下含むことができ、より具体的には5モル以下含むことができる。
【0033】
・成分(c)
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、前記成分(a)と成分(b)との架橋反応を触媒しうる硬化触媒を含む(以下、単に「成分(c)」ということがある)。硬化触媒としては、付加硬化型の触媒が用いられる。代表的な例として、白金触媒が挙げられる。白金触媒は、前記成分(b)の硬化性官能基と前記成分(b)の水素基を反応させ、硬化物を得るための硬化用触媒である。この白金化合物としては、塩化白金酸、白金オレフィン錯体、白金ビニルシロキサン錯体、白金リン錯体、白金アルコール錯体、白金黒等が例示される。その配合量は、前記成分(a)に対し、白金元素として0.1~1000ppmとなる量である。0.1ppmより少ないと十分に硬化せず、また1000ppmを超えても特に硬化速度の向上は期待できない。また、用途によってはより長いポットライフを得るために、反応抑制剤の添加により、触媒の活性を抑制することができる。公知の白金族金属用の反応抑制剤として、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニル-2-シクロヘキサノール等のアセチレンアルコール、マレイン酸ジアリル、また、テトラメチルエチレンジアミン、ピリジン等の3級アミンが挙げられる。
【0034】
・成分(d)
本発明の硬化性組成物には、ケイ素原子に直接結合した、炭素数8~30の1価アルキル基及び加水分解可能な基を有するケイ素化合物が含まれる(以下、単に「成分(d)」ということがある)。特定の理論に束縛されるものではないが、成分(d)は、組成物の硬化途上又は硬化後に基材表面に移行し、加水分解可能な基が基材表面に付着する反応を起こすか、或いは、シリコーンゴム自体を疎水化することで、湿気を通しにくくする作用があると考えられる。また、成分(d)は、比較的炭素鎖の長いアルキル基を有していることで、硬化性組成物に適度な疎水性をもたらすことができ、これが硬化性組成物全体の耐水性に寄与するものと考えられる。成分(d)は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
成分(d)が有する1価アルキル基は、炭素数が8~30のものであるが、ここでは、ケイ素原子に結合した炭素原子が属する炭素鎖が炭素数8以上の長さであることを指す。炭素数は8~20の範囲であることが、硬化性組成物中の他の成分との親和性の観点から、より好ましい。1価アルキル基の例としては、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、トリアコンチル基等の直鎖状アルキル基;イソノニル基、2-メチルノニル基等の分岐鎖状アルキル基等が挙げられる。1価アルキル基は、水酸基のような疎水性を低下させるものでなければ、臭素、塩素、フッ素のような官能基を1つ以上有していてもよい。
【0036】
「加水分解可能な基」とは、本明細書において用いられる場合、加水分解反応を受け得る基、すなわち、加水分解反応により、化合物の主骨格から脱離し得る基を意味する。加水分解可能な基の例としては、-OR’、-OCOR’、-O-N=CR’、-NR’、-NHR’、ハロゲン原子(これら式中、R’は、置換又は非置換の炭素原子数1~4のアルキル基を示す)等が挙げられ、各種基材への腐食を起こしにくい、シリコーン組成物として化学的に安定であること等のため、好ましくは-OR’(即ち、アルコキシ基)である。R’の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基等の非置換アルキル基;クロロメチル基等の置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。すなわち、加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基のようなアルコキシ基であることが好ましい一態様である。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、これらの中では、塩素原子が好ましい。
【0037】
成分(d)のケイ素化合物は、炭素数8~30の1価アルキル基及び加水分解可能な基を少なくとも1つずつ有しているものであれば、その構造に特に制限はない。アルキル基は2つ以上有していてもよく、互いに異なる種類のアルキル基であってもよいが、成分(d)としては、1価アルキル基を1つ有するものであることが好ましい。加水分解可能な基は、1分子中に2つ以上あってもよいが、成分(d)としては、加水分解可能な基を3つ有するものであることが好ましい。成分(d)は、炭素数8~30の1価アルキル基及び加水分解可能な基以外の基、例えば低級アルキル基やフェニル基を有していてもよい。成分(d)が1分子中に有するケイ素原子の数は特に制限されないが、ケイ素原子を1~10個有する化合物であることが好ましく、ケイ素原子を1つ有する化合物であることがより好ましい。1価アルキル基及び加水分解可能な基は、同じケイ素原子に結合していてもよいし、異なるケイ素原子に結合していてもよい。同じケイ素原子に1価アルキル基及び加水分解可能な基が結合していることが好ましい。
【0038】
(d)ケイ素原子に直接結合した、炭素数8~30の1価アルキル基及び加水分解可能な基を有するケイ素化合物は、好ましくは、次式(3):
Si(OR4-n (3)
(式中、Rは炭素数8~30の1価アルキル基、好ましくは炭素数8~20の1価アルキル基であり、Rは水素又は炭素数1~6のアルキル基であり、nは1~3の整数であり、好ましくは1である)で示される化合物である。特に好ましい態様では、成分(d)は、1つのケイ素原子に1つの1価アルキル基と3つの加水分解可能な基を有する化合物である。
【0039】
成分(d)としては、上記条件を満たすケイ素化合物で市販のものを用いてもよく、当業者に公知の方法により調製した化合物を用いてもよい。具体的な化合物としては、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
成分(d)は、本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物100質量部に対して、0.01~10質量部含まれることが好ましく、0.1~5質量部含まれることがより好ましく、0.3~2.5質量部含まれることがさらにより好ましい。この範囲とすることで、耐水性を発揮するに十分な疎水性を組成物に与えることができ、かつ接着剤としたときの特性を損なうことがない。
【0041】
・成分(e)
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物には、任意追加的な成分として、鱗片状の無機充填材が含まれていてもよい(以下、単に「成分(e)ということがある」)。鱗片状の無機充填材は、本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を接着剤として用いたときに、接着剤の層において湿気の侵入を空間的に阻害する役割を果たし得るものと考えられる。そのため、成分(e)は硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の耐水性に寄与し得る。無機微粒子としては、鱗片状のものであればその種類は特に制限されないが、ケイ素酸化物、ケイ酸塩鉱物が好ましくマイカ微粉末がより好ましい。これらの鱗片状の無機微粒子は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0042】
鱗片状の無機充填材の平均粒子径は、分散性、硬化性組成物の流動性を保つ観点から、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下であり、特に好ましくは30μm以下である。ここで、鱗片状の無機充填材の平均粒子径は、鱗片状粒子の長軸方向の長さを意味する。平均粒子径の測定値は、レーザー回折・散乱法により測定したメジアン径(d50)である。
【0043】
成分(e)は、前記(a)~(d)成分の合計100質量部に対して、10~500質量部含まれることが好ましく、15~300質量部含まれることがより好ましく、20~200質量部含まれることがさらに好ましい。添加量が前記(a)~(d)成分の合計の100質量部に対して10質量部より少なすぎると、耐水性への効果が十分ではなく、500質量部より多すぎると、粘度が大きくなり取り扱い性を阻害することがある。
【0044】
[硬化性ポリオルガノシロキサン組成物]
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサンは、上記成分(a)ないし(d)を含有し、さらに場合により上記成分(e)を含有するものである。
【0045】
本発明のポリオルガノシロキサン組成物は、各成分が均一に混合されており、基材への適用が可能な程度の流動性を有している限り、その性状に特段の制限はない。ポリオルガノシロキサン組成物の粘度は、主に成分(a)の粘度によって制御することができ、0.1~500Pa・sの範囲であることが、操作性の観点から好ましい。また、ポリオルガノシロキサン組成物は、各成分が全て混合された状態である1液型、又は、成分(b)と成分(c)を分けて配合した2液型の組成物であることができる。1液型と2液型のどちらの組成物とするかは、作業性や硬化条件等を考慮して、適宜選択することができ、その手法は当業者に公知である。
【0046】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、その目的・効果を損なうものでない限り、公知のその他の成分を配合することができる。添加剤として、難燃剤、接着性付与剤、耐熱付与剤、希釈剤、有機溶剤、無機又は有機顔料等を適宜配合することができる。また、前記成分(a)や成分(b)に該当しないシロキサン樹脂を配合することもできる。そのような樹脂として、硬化性官能基を1つだけ有するポリオルガノシロキサン、ジメチルシロキサンのような硬化性官能基を有さないポリオルガノシロキサン等が挙げられる。これらの樹脂は、希釈剤として用いることができる。
【0047】
<その他の樹脂>
硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、前記成分(a)及び(b)に該当しないシロキサン樹脂をさらに含んでもよい。そのような樹脂は、粘度を調整するための希釈剤としても用いることができる。そのようなシロキサン樹脂としては、前記M、D、T、Q単位の組合せで得られる樹脂のうち硬化性官能基を持たないか又は1つだけ有するもの、特に下記式(4):
(R3-pSi-O-(SiRO)-SiR・・・(4)
(式中、R、R、p、nは、式(1)において定義したとおりである)
で示されるような、1つだけ硬化性官能基を有するシロキサンや、式(5):
Si-O-(SiRO)-SiR・・・(5)
(式中、R、nは、式(1)において定義したとおりである)
で示される、硬化性官能基を有さないシロキサンを用いることができる。このようなシロキサン樹脂を用いることで、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を硬化させたときの硬度を制御することや、組成物の粘度を制御することができ、取り扱い性や要求される物性に対して広く対応することができる。
【0048】
このような樹脂は、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物中、成分(a)100質量部に対して、例えば、50質量部以下含むことができ、具体的には、0.1~50質量部含むことができ、より具体的には、1~30質量部含むことができる。
【0049】
<<分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個有するハイドロジェンポリオルガノシロキサン>>
組成物は、更に、分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個有するハイドロジェンポリオルガノシロキサンを含むことができる。このようなシロキサンは、成分(a)と付加反応することにより、鎖延長剤として機能し得る。このようなシロキサンの例は、分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個有すること以外は、成分(b)において説明したとおりである。このようなシロキサンは、成分(b)において前記した一般式(2)で示される単位をSi-H結合の数が2となるように、好ましくは分子中に2個有する。
【0050】
本成分におけるシロキサン骨格は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよく、直鎖状が好ましい。また、本成分のシロキサンは、両末端が、それぞれ独立して、R SiO1/2単位で閉塞され、中間単位がR SiO2/2単位のみからなる(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子又は脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であるが、但し、Rのうち、1分子当たり2つが水素原子である)、直鎖状ハイドロジェンポリオルガノシロキサンであることがより好ましい。ケイ素原子に結合する水素原子は、末端に存在していても、中間単位に存在していてもよいが、末端に存在することが好ましい。よって、本成分のシロキサンとしては、両末端がM単位(ジメチルハイドロジェンシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(ジメチルシロキサン単位)のみからなるポリメチルハイドロジェンシロキサンが特に好ましい。
【0051】
<接着性付与剤>
硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、接着性付与剤をさらに含んでもよい。接着性付与剤は、組成物の硬化物の、ガラス、金属、プラスチック等の基材への密着性を向上させる成分である。接着性付与剤としては、金属アルコキシド類、加水分解性シリル基を有する化合物、一分子中に加水分解性シリル基と反応性有機官能基を有する化合物、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子と2価の芳香族基を有する化合物、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子と反応性有機官能基を有する化合物、並びに/又はそれらの部分加水分解縮合物が挙げられる。金属アルコキシドの例としては、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリプロポキシド、アルミニウムトリブトキシドのようなアルミニウムアルコキシド;チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトライソプロペニルオキシドのようなチタンアルコキシド等の金属アルコキシド類が挙げられる。有機化合物の接着性付与剤としては、アミノ基含有シラン、イソシアヌレート類、カルバシラトラン化合物が挙げられる。具体的な例として、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランのオリゴマー、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0052】
接着性付与剤としては、さらに、以下のものを例示することができる。
(E1)ケイ素原子に結合した水素原子と、ケイ素原子に結合した下記式(6):
【化1】

で示される側鎖とを有する有機ケイ素化合物、
(E2)Si(OR基とエポキシ基含有基を有する有機ケイ素化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物、
(E3)Si(OR基と脂肪族不飽和炭化水素基を有するシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物、並びに
(E4)Si(ORで示されるテトラアルコキシシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物。
(上記各式中、Qは、ケイ素原子とエステル結合の間に2個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;Qは、酸素原子と側鎖のケイ素原子の間に3個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;Rは、炭素数1~4のアルキル基又は2-メトキシエチル基を表し;Rは、炭素数1~3のアルキル基を表し;nは、1~3の整数である)
【0053】
(E1)、(E2)、(E3)及び(E4)は、それぞれ、1種又は2種以上の組合せであってもよい。例えば、(E)は、1種の(E1)と2種の(E2)と2種の(E3)との組合せであってもよい。
【0054】
<<(E1)>>
(E1)は、組成物の硬化の際に(A)と付加反応して、(A)及び(B)との付加反応によって架橋したシロキサン構造に導入され、式(6)の側鎖が接着性を発現する部分として、組成物の室温における接着性に寄与する成分である。また、(E1)の側鎖に存在するアルコキシ基(以下、ORは、炭素数1~4のアルコキシ基又は2-メトキシエトキシ基を表す)は、(E2)、(E3)及び/又は(E4)のアルコキシ基との共加水分解・縮合反応により、(E2)、(E3)及び/又は(E4)をシロキサン構造に導入することにも寄与する。
【0055】
は、合成及び取扱いが容易なことから、エチレン基及び2-メチルエチレン基が好ましい。Qは、合成及び取扱いが容易なことから、トリメチレン基が好ましい。Rは、良好な接着性を与え、かつ加水分解によって生じるアルコールが揮発しやすいことから、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0056】
(E1)の特徴である上記の水素原子と上記の側鎖とは、合成が容易なことから、別個のケイ素原子に結合していることが好ましい。したがって、(E1)の基本部分は、鎖状、分岐状又は環状シロキサン骨格を形成していることが好ましく、特定の化合物を制御よく合成し、精製しうることから、環状シロキサン骨格が特に好ましい。(E1)に含まれるSi-H結合の数は、1個以上の任意の数であり、環状シロキサン化合物の場合、2個又は3個が好ましい。
【0057】
(E1)の例としては、下記の化合物が挙げられる。
【化2】
【0058】
<<(E2)>>
(E2)は、ケイ素原子に結合したアルコキシ基と、(E1)、(E3)及び/又は(E4)のケイ素原子に結合したアルコキシ基との共加水分解・縮合反応によって、架橋したシロキサン構造に導入され、エポキシ基が接着性を発現する部分として、組成物の室温における接着性、特にプラスチックに対する接着性の向上に寄与する成分である。
【0059】
は、良好な接着性を与えることから、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。nは、2又は3が好ましい。エポキシ基含有基としては、合成が容易で、加水分解性がなく、優れた接着性を示すことから、3-グリシドキシプロピル基のような、エーテル酸素原子を含む脂肪族エポキシ基含有基;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基のような脂環式エポキシ基含有基等が好ましい。Si(ORn基は、分子中に2個以上あってもよい。OR基の数は、分子中2個以上であることが好ましい。OR基とエポキシ基含有基とは、同一のケイ素原子に結合していてもよく、別のケイ素原子に結合していてもよい。
【0060】
(E2)としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのような3-グリシドキシプロピル基含有アルコキシシラン類;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシランのような2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基含有アルコキシシラン類;nが2以上のこれらシラン類の部分加水分解縮合物;並びに鎖状又は環状メチルシロキサンのメチル基の一部が、トリメトキシシロキシ基又は2-(トリメトキシシリル)エチル基と、上記のエポキシ基含有基とで置き換えられた炭素/ケイ素両官能性シロキサン等が挙げられる。
【0061】
<<(E3)>>
(E3)は、組成物の硬化の際に(B)と付加反応して、(A)及び(B)との付加反応によって架橋したシロキサン構造に導入され、側鎖に存在するアルコキシ基が、接着性を発現する部分として、組成物の室温における接着性、特に金属に対する接着性の向上に寄与する成分である。また、(E3)のアルコキシ基は、(E1)、(E2)及び/又は(E4)のアルコキシ基との共加水分解・縮合反応により、(E1)、(E2)及び/又は(E4)を架橋したシロキサン構造に導入するにも寄与する。(E3)は、Si(OR基と1個の脂肪族不飽和炭化水素基を有するシラン化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物であることが好ましい。
アルコキシ基が他の(E3)のアルコキシ基、及び(E2)と併用する場合は、(E2)のアルコキシ基との共加水分解・縮合反応によって、他の(E3)及び/又は(E2)をシロキサン構造に導入する。
【0062】
は、良好な接着性を与えることから、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。nは、2又は3が好ましい。脂肪族不飽和炭化水素基は、一価の基であることが好ましい。脂肪族不飽和炭化水素基は、ビニル、アリル、3-ブテニルのようなアルケニル基の場合、ケイ素原子に直接結合していてもよく、3-アクリロキシプロピル、3-メタクリロキシプロピルのように、不飽和アシロキシ基が3個以上の炭素原子を介してケイ素原子に結合していてもよい。不飽和炭化水素基含有基としては、合成及び取扱いが容易なことから、ビニル基、メタクリロキシプロピル基等が好ましい。Si(ORn基は、分子中に2個以上あってもよい。OR基の数は、分子中2個以上であることが好ましい。OR基と脂肪族不飽和炭化水素基とは、同一のケイ素原子に結合していてもよく、別のケイ素原子に結合していてもよい。
【0063】
(E3)としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、メチルビニルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、メチルアリルジメトキシシランのようなアルケニルアルコキシシラン類及び/又はその部分加水分解縮合物;3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのような(メタ)アクリロキシプロピル(メチル)ジ-及び(メタ)アクリロキシプロピルトリ-アルコキシシラン類及び/又はその部分加水分解縮合物等が挙げられる。
【0064】
<<(E4)>>
(E4)は、組成物の室温における金属への接着性を、更に向上させる成分である。Rとしては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルのような、直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられ、容易に入手でき、取扱いが容易で、接着性の向上効果が著しいことから、メチル基、エチル基が好ましい。また、(E4)は、テトラアルコキシシラン化合物単体で使用できるが、加水分解性に優れる点及び毒性が低くなる点から、テトラアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物であることが好ましい。
【0065】
<<他の接着性付与剤>>
(E1)~(E4)以外の他の接着性付与剤としては、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリプロポキシド、アルミニウムトリブトキシドのようなアルミニウムアルコキシド;チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトライソプロペニルオキシドのようなチタンアルコキシド等、オクタン酸ジルコニウム、テトラ(2-エチルヘキサン酸)ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム等のジルコニウムアシレート;n-プロピルジルコネート、n-ブチルジルコネート等のジルコニウムアルコキシド(但し、ジルコニウムキレートを除く。);トリブトキシジルコニウムアセチルアセトネート、ジブトキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセトアセテート等のジルコニウムキレート等の金属アルコキシド類等が挙げられる。
【0066】
他の接着性付与剤としては、さらに、
【化3】

【化4】

等の一分子中に加水分解性シリル基と反応性有機官能基を有する化合物及び/又はその部分加水分解縮合物(但し、(E1)~(E4)を含まない);
【化5】

等の一分子中にケイ素原子に結合した水素原子と反応性有機官能基を有する化合物;
【化6】

(式中、kは1~3の整数である)等の一分子中にケイ素原子に結合した水素原子と2価の芳香族基を有する化合物等が挙げられる。他の接着性付与剤の併用により、更に接着強さを高めることができる。
【0067】
(E)は、(E1)、(E2)、(E3)及び/又は(E4)の組合せを含むことが好ましい。(E1)~(E4)は、それぞれ1種又は2種以上の組合せであってもよい。例えば、(E)は、1種の(E1)と2種の(E2)と2種の(E3)との組合せであってもよい。
【0068】
接着性付与剤は、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物中、成分(a)100質量部に対して、例えば、10質量部以下含むことができ、具体的には、0.01~10質量部含むことができ、より具体的には、0.1~5質量部含むことができる。接着性付与剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0069】
<その他の無機微粒子>
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、前述の(e)以外の無機微粒子を含むことができる。そのような無機微粒子としては、シリコーンゴムにおいて充填材として用いられる無機材料を用いることができる。無機材料の粒子は鱗片状以外の形状をとることができ、例えば、球形、不定形などの形状をとることができる。無機材料としては、煙霧質シリカ、焼成シリカ、シリカエアロゲル、沈澱シリカ、珪藻土、粉砕シリカ、溶融シリカ、煙霧質酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム等の酸化物;これらの表面をトリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の疎水化剤で処理したもの;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛等の炭酸塩;アルミノケイ酸、ケイ酸カルシウム等のケイ酸塩;タルク;グラスウール等の複合酸化物;カーボンブラック、銅粉、ニッケル粉等の導電性充填剤等が例示される。
【0070】
その他の無機微粒子として例えば、煙霧質シリカは、本発明の硬化性組成物中全体の100質量部に対して、1~50質量部含まれることが好ましく、2~30質量部含まれることがより好ましく、5~15質量部含まれることがさらに好ましい。この範囲であれば、本発明の効果を損なうことなく、硬化前の組成物の流動性の調整や組成物を硬化させたときの硬度、耐久性等を補強することができる。煙霧質シリカ以外の無機充填材については、当業者であれば充填材の種類、役割に応じて配合量を適宜変更することができる。
【0071】
<溶剤>
硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、溶剤を含んでいてもよい。この場合、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、その用途、目的に応じて適当な溶剤に所望の濃度に溶解して使用し得る。上記溶剤の濃度は、例えば、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物100質量部に対して、80質量部以下であってもよく、50質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよい。硬化性組成物の粘度を調整する観点からは、溶剤を含むことが好ましい。溶剤を含むことにより、硬化性組成物の取り扱い性が良好になり得る。
【0072】
本発明の一態様は、上記硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を含む、接着剤である。接着剤としては、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物に加え、上記接着性付与剤を含むことが好ましい。
【0073】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を接着剤として用いた物品において、当該組成物の硬化物と各種基材とは、接着部分を有していればよく、その形状には限定されない。例えば、基材と組成物の硬化物との接着部分を含む物品の製造方法の態様の一つは、基材を含む部品及び組成物を準備する工程;前記基材の表面に前記組成物を塗布する工程;並びに前記組成物を硬化して、前記基材及び前記組成物の硬化物を接着する工程を含む。
【0074】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を含有する接着剤が適用される基材は、その材質に特に制限はない。基材としては、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、黄銅、ステンレス等の金属;エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂等のエンジニアリングプラスチック;ガラス等を使用することができる。また、必要に応じて、空隙の壁面等に対して常法に従ってプライマー処理を施してもよい。基材の形状、厚みなども特に制限されない。
【0075】
硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を含む接着剤は、基材を含む部品の表面の接着すべき部位に、所定の厚さで、滴下、注入、流延、容器からの押出し、バーコート、ロールコート等のコーティング、スクリーン印刷、ディップ法、刷毛塗り法、スプレー法、ディスペンス法等の方法により適用される。これらの手法は、当業者に公知の手法である。組成物は、前記部品の表面上に全体的かつ均一に塗布されてもよく、線状、ストライプ状、ドット状等のように不均一又は部分的に塗布されてもよい。組成物の適用厚さは、通常0.01~3mm、好ましくは0.05~2mmである。
【0076】
前記部品の表面に塗布された組成物は、室温(例えば、23℃)で放置して又はより高温に加熱して硬化させることにより、前記基材と組成物の硬化物とを接着させることができる。より高温に加熱する場合は、室温よりも短時間で硬化させることができ、作業効率の向上を図ることができる。
【0077】
加熱条件は、組成物が適用される部材の耐熱温度に合わせて適宜調整することができ、硬化時間を決めることができる。例えば、室温(23℃)超200℃以下の熱を、1分~2週間、好ましくは5分~72時間の範囲で加えることができる。加熱温度は、操作性の観点から、40~180℃であることが好ましく、50~150℃であることが特に好ましい。加熱時間は、硬化工程の簡便さの観点から、5分~72時間であることが好ましく、5分~24時間であることが特に好ましい。また、室温で硬化させる場合、硬化時間は、1週間以下であることが好ましく、72時間以下であることがより好ましく、24時間以下が特に好ましい。
【0078】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を接着剤として用いた物品は、接着面の耐水性をはじめ耐久性能に優れているため、航空機、自動車用途、電子材料分野において各種部品として良好に用いることができる。
【実施例
【0079】
本発明の組成物を、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。なお、以下の実施例において石英粉末を使用している実施例7~10は、「参考例」とそれぞれ読み替えるものとする。
【0080】
<硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の調製>
[実施例1]
成分(a)として、あらかじめ所定量のMVi (なお、M Vi はQ単位により分岐構造を有する非直鎖状のポリオルガノシロキサンである)を溶解させたMvin1vi(式中、n1は、23℃における粘度が10Pa・sであるような値である)で示される直鎖状ポリメチルビニルシロキサン及びMvin2vi(式中、n2は、23℃における粘度が1.0Pa・sであるような値である)で示される直鎖状ポリメチルビニルシロキサン及び充填剤としてのヘキサメチルジシラザン(HMDZ)で処理した煙霧質シリカ及び炭酸カルシウム、成分(e)として鱗片状雲母(平均粒径23μm)を万能混練機に移して、室温(23℃)で60分間撹拌し、150℃で60分間減圧下に撹拌した。50℃以下まで冷却して、成分(c)として白金含有量3.4%のPt-オクタノール錯体、反応抑制剤を加えて30分間撹拌した。こうして得た混合物に、成分(b)としてMD 2020Mで示されるハイドロジェンポリオルガノシロキサン、成分(d)としてオクチルトリエトキシシラン(C17Si(OEt))並びに接着性付与剤を加え、室温で10分間撹拌した。
接着性付与剤は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン及び下記式で示されるシロキサンを用いた。
【化7】

反応抑制剤は、マレイン酸ジアリル及び3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オールを用いた。
【0081】
[実施例2]
実施例1において0.5質量部用いたオクチルトリエトキシシランの量を1.5質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、組成物2を得た。
【0082】
[実施例3]
実施例1において用いたオクチルトリエトキシシランをデシルトリメトキシシラン(C1021Si(OMe))0.5質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、組成物3を得た。
【0083】
[実施例4]
実施例3において0.5質量部用いたデシルトリメトキシシランを1.5質量部に変更した以外は実施例3と同様にして、組成物4を得た。
【0084】
[実施例5]
実施例1において用いたオクチルトリエトキシシランをヘキサデシルトリメトキシシラン(C1633Si(OMe))0.5質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、組成物5を得た。
【0085】
[実施例6]
実施例5において0.5質量部用いたヘキサデシルトリメトキシシランを1.5質量部に変更した以外は実施例5と同様にして、組成物6を得た。
【0086】
[比較例1]
実施例1において用いたオクチルトリエトキシシランをヘキシルトリメトキシシラン(C11Si(OMe))0.5質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、組成物を得た。
【0087】
[比較例2]
実施例2において用いたオクチルトリエトキシシランをヘキシルトリメトキシシラン(C11Si(OMe))1.5質量部に変更した以外は実施例2と同様にして、組成物を得た。
【0088】
[比較例3]
成分(d)に対応するシラン化合物を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、組成物を得た。
【0089】
[比較例4]
無機微粒子として鱗片状雲母に代えて石英粉末(平均粒径5μm)を用いたこと以外は比較例3と同様にして、組成物を得た。
【0090】
[試験例1:剥離試験]
厚み2mmのアルミニウムプレートに実施例又は比較例の組成物を均一な厚み(0.5mm)に塗布し、熱風循環式乾燥機中で150℃1時間加熱することにより組成物を硬化させた。ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物が塗布されたアルミニウムプレートを、80℃の温水中に浸漬させ、特定の時間が経過したのちに剥離試験を行った。アルミニウムプレートを手動で剥がし、剥がした面を目視で観察した。結果を表1及び2に纏めている。表において、〇は凝集破壊が起きたことを示し、このとき接着剤は基材への接着性を保っている。△は凝集破壊と剥離が混在していることを示し、×は接着剤が剥離したことを示す。横線(-)の箇所は、接着剤が剥離した後であるため試験を省略している。
【0091】
【表1】
【0092】
従来の接着剤に相当する、長鎖アルキル基を有するシラン化合物を添加していない比較例3では、上記条件での試験では2週間以内で接着部位が剥離してしまった。一方で実施例1~6より、長鎖アルキル基を有するシラン化合物を添加することにより、長期にわたる耐水性が向上することがわかった。炭素鎖数が小さいヘキシルトリアルコキシシランを添加した比較例1及び2では、シラン化合物を添加していない比較例3と同程度の耐水性を示すにとどまり、長期的な安定性は得られなかった。実施例1~6と比較例1~2との比較により、炭素鎖数が小さいアルキルシラン化合物より、長鎖アルキル基を有するシラン化合物を用いることが、耐水性を高めるうえで有効であることがわかった。また、比較例3と4との比較により、鱗片状の微粒子が耐水性の向上には効果的であることが示されている。
【0093】
[実施例7]
鱗片状雲母を石英粉末(平均粒径5μm)に、接着性付与剤として用いたテトラエトキシシランをテトラメトキシシランオリゴマーにそれぞれ変更した以外は、実施例3と同様にして、組成物7を得た。
【0094】
[実施例8]
実施例7において0.5質量部用いたデシルトリメトキシシランの量を1.5質量部に変更した以外は実施例7と同様にして、組成物8を得た。
【0095】
[実施例9]
実施例7において用いたデシルトリメトキシシランをヘキサデシルトリメトキシシラン0.5質量部に変更した以外は実施例7と同様にして、組成物9を得た。
【0096】
[実施例10]
実施例9において0.5質量部用いたヘキサデシルトリメトキシシランを1.5質量部に変更した以外は実施例9と同様にして、組成物10を得た。
【0097】
[比較例5]
実施例7において用いたデシルトリメトキシシランをヘキシルトリメトキシシラン0.5質量部に変更した以外は実施例7と同様にして、組成物を得た。
【0098】
[比較例6]
実施例8において用いたデシルトリメトキシシランをヘキシルトリメトキシシラン(C11Si(OMe))1.5質量部に変更した以外は実施例8と同様にして、組成物を得た。
【0099】
[比較例7]
成分(d)に対応するシラン化合物を用いなかったこと以外は実施例7と同様にして、組成物を得た。
【0100】
[試験例2:剥離試験]
試験例1と同様の条件にて、組成物の剥離試験を行った。結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
実施例7~10、比較例5~7の比較により、異なる無機微粒子を有する系でも同様に長鎖アルキル基を有するシラン化合物が、耐水性の向上に高い効果を奏することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の組成物は、長期にわたる高い耐水性を備えており、水分との接触が想定される部位を有する基材どうしの接着に有用である。そのため、航空機や自動車の接着剤に利用可能である。