(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】マイクロニードルによる顔全体の色調を明るくする美容方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/02 20060101AFI20250131BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20250131BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20250131BHJP
A45D 44/22 20060101ALN20250131BHJP
A61K 9/70 20060101ALN20250131BHJP
A61K 31/728 20060101ALN20250131BHJP
A61K 47/36 20060101ALN20250131BHJP
A61M 37/00 20060101ALN20250131BHJP
A61P 17/00 20060101ALN20250131BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20250131BHJP
【FI】
A61K8/02
A61K8/73
A61Q19/00
A45D44/22 C
A61K9/70 401
A61K31/728
A61K47/36
A61M37/00 500
A61M37/00 530
A61P17/00
A61P43/00 125
(21)【出願番号】P 2019064284
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-03
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】松永 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】佐山 和彦
【合議体】
【審判長】瀬良 聡機
【審判官】井上 典之
【審判官】小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0043429(KR,A)
【文献】登録実用新案第3192249(JP,U)
【文献】特開2018-162234(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/002466(JP,A1)
【文献】再公表特許第2011/115272(JP,A1)
【文献】再公表特許第2012/057123(JP,A1)
【文献】松永由紀子,「DDS製品開発の最前線 自己溶解型マイクロニードル技術の化粧品領域への応用」,Drug Delivery System,2015年,30巻,4号,371-376頁
【文献】勝見英正,「総説 マイクロニードルの製剤学的特徴と経皮吸収促進法としての利用」,オレオサイエンス,2017年,17巻,11号,567-574頁
【文献】権英淑ほか,「最近のトピックス マイクロニードル製品化への道程」,薬剤学,2009年,69巻,4号,272-276頁
【文献】権英淑ほか,「化粧品・医薬品デバイスとしてのマイクロニードルの開発」,生産と技術,2012年,64巻,2号,63-68頁
【文献】山崎さつきほか,「顔面部血流に与える鍼刺激の影響について」,全日本鍼灸学会誌,2018年,68巻,2号,104-112頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 90/00
A61K 9/00 - 9/72
A61K 47/00 - 47/69
A61K 31/00 - 33/44
A61P 1/00 - 43/00
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸から構成される複数のマイクロニードルが配されたマイクロニードルシートを
目の下のくま部位に貼付することにより、
目元または頬部の
赤み又は黄みを
改善する美容方法。
【請求項2】
マイクロニードルの高さが50~200μmである、請求項
1に記載の美容方法。
【請求項3】
マイクロニードルシートの面積が500~3,000mm
2である、請求項1又は2に記載の美容方法。
【請求項4】
ヒアルロン酸から構成されるマイクロニードルが複数配され、
目の下のくま部位に貼付することにより、目元または頬部の赤み又は黄みを改善する
ための、マイクロニードルシート製剤。
【請求項5】
マイクロニードルの高さが50~200μmである、請求項
4に記載のマイクロニードルシート製剤。
【請求項6】
面積が500~3,000mm
2である、請求項
4又は5に記載のマイクロニードルシート製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顔全体の血行を良くし、色調を明るくする新規の美容方法の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
美容に関し、対象者の肌状態に適合した化粧水、化粧料の使用やマッサージといった日常のケアのみならず、イオン導入やレーザーの採用など、美容技術は日々進化し続けている。近年美容業界で注目を浴びているのは「マイクロニードル技術」である。美容業界におけるマイクロニードル技術とは、ヒアルロン酸などの生分解性の成分を針状に固め、肌と密着させることで、その成分が溶け出し、より深い潤いなどを肌に与えることを可能にした技術である。ヒアルロン酸などをただ肌の表層に塗るだけではなく、皮膚の内部に浸透させることを追求して開発されたスキンケアアイテムである。数時間程度、例えば一晩肌に貼ることで、マイクロニードルにより得られる美容効果には潤いを高めるだけでなく、肌のハリや弾力を高める、目の下のくま・くすみを改善するなどいった効果も認められている。
【0003】
顔色は加齢やストレスなどにより、顔面がうっ血して色調が暗くなる傾向にある。顔の色調を明るくする、あるいは明るく保つことは、見た目を若々しくするために重要な要素である。そのためにも肌の血行を良くして新陳代謝の活性化を図るなど、日々の努力が必要である。したがって、簡易に顔面の血行を良くし、顔全体の色調を明るくする手段が美容業界で所望される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、顔全体の血行を良くし、顔全体の色調を明るくする新規の美容方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者はマイクロニードルを目の下に連用すると、目の下のくまの色調が改善されるのみならず、驚くべきことに顔全体の血行を良好にし、顔全体の色調が明るくなることも見出し、本発明を完成するに至った。マイクロニードルにそのような効果があることは知られていない。したがって、本願は下記に発明を提供する。
【0007】
(1)複数のマイクロニードルが配されたマイクロニードルシートを顔の一部に貼付することにより、顔全体の色調を明るくする美容方法。
(2)マイクロニードルシートを目の下のくま部位に貼付する、(1)の美容方法。
(3)マイクロニードルがヒアルロン酸から構成される、(1)又は(2)の美容方法。
(4)マイクロニードルの高さが50~200μmである、(1)~(3)のいずれかの美容方法。
(5)マイクロニードルシートの面積が500~3,000mm2である、(1)~(4)のいずれかの美容方法。
(6)ヒアルロン酸から構成されるマイクロニードルが複数配され、顔の一部に貼付することにより、血行を良好にする、マイクロニードルシート製剤。
(7)顔全体の色調を明るくする、(6)のマイクロニードルシート製剤。
(8)目の下のくま部位に貼付する、(6)又は(7)のマイクロニードルシート製剤。
(9)マイクロニードルの高さが50~200μmである、(6)~(8)のいずれかのマイクロニードルシート製剤。
(10)面積が500~3,000mm2である、(6)~(9)のいずれかのマイクロニードルシート製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマイクロニードルシートを顔の一部に貼付け、所定期間連用して使用すれば、同シートを貼付けた部分のみならず、顔全体の血行を良好にし、顔全体の色調を明るくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】マイクロニードルシートの貼付けが、貼付け部位のみならず、その周囲部の血行も良好にすることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明でいうマイクロニードルシートは、複数の微細なマイクロニードルが基板の表面に形成されてなるマイクロニードルアレイをいう。
【0011】
本発明の美容方法は、マイクロニードルシートを顔の一部、好ましくは目の下のくまが形成されている部位に数時間、例えば一晩、好ましくは1~12時間、例えば3時間~10時間貼付することを例えば週1~4回、好ましくは週2回、例えば1~6か月にわたり、好ましくは2か月にわたり、連用することで実施される。この連用方法は継続的に行っても、例えば数か月の間隔を空け、年に数回断続的に実施するものであってもよい。
【0012】
本発明のマイクロニードルシートの使用による美容方法によれば、顔の一部に同シートを貼付し、連用することで、同シートが貼付された部分のみならず、その部分を超えて、顔面の広範囲にわたり血行を良くし、その結果うっ血が原因でくすみ、暗くなった顔面の色調を明るくすることができる。顔の色調の程度は、例えば分光測色系によりL値やa値の変化を追跡することで判定できる。L値は皮膚の透明感の指標であり、その値が増大すると皮膚の透明感の改善が認められたことを意味し、延いては皮膚が明るく見えることを示す。a値は皮膚の赤みの指標であり、低下すると赤みの改善が認められたことを意味し、延いては皮膚の色が白くなることを示す。顔の血行はレーザードップラー試験やレーザーイメージングスペックルの追跡などにより判定できる。
【0013】
本発明で使用されるマイクロニードルを形成する材料は、皮膚に刺入し、刺激をもたらすよう、ある程度の硬さを呈するものであればよく、材料自体は特に制限されるものではない。しかしながら、皮膚に長時間貼付けるものであるため、生体適合性のある材料である必要があり、好ましくは生体内で溶解又は膨潤しうる材料で形成される。そのような材料として例えば、ヒアルロン酸、キトサン、マルトース、アルギネイト、アミロース、アガロース等の多糖類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類、スターチ等が挙げられ、各材料単独で形成されたものであっても、2種以上の材料を適宜配合させた混合物から形成されたものであってもよい。特に好ましい材料はヒアルロン酸である。ヒアルロン酸は通常は塩の状態で用いられ、塩としてはナトリウム塩、カリウム塩などの金属塩が挙げられる。ヒアルロン酸は例えばHPLCなどで測定して平均分子量1万以下の低分子量のものから、80万以上の高分子量のものが使用可能で、適宜、低分子量と高分子量のものを混合して使用することができる。あるいは、マイクロニードルを形成する材料は生体内で溶解又は膨潤せず、生体に影響を及ぼさない樹脂などで形成されていてもよく、例えば材料として限定するわけではないが、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、エチルセルロース、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、SIS樹脂、SEBS樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、アルミニウム等が挙げられる。
【0014】
マイクロニードルシートの基板はその表面にマイクロニードルを形成しうるものであれば、その材質はマイクロニードルと同じでも異なってもよく、特に限定されることなく、例えば、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、エチルセルロース、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、SIS樹脂、SEBS樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、アルミニウム等のフィルム又はシートが挙げられる。又、コラーゲン及び/又はゼラチンよりなるフィルム又はシートであってもよい。
【0015】
マイクロニードルには従来から経皮吸収製剤として使用されている水溶性の薬物及び化粧品の成分、例えばパルミチン酸アスコルビル、コウジ酸、ルシノール、トラネキサム酸、4-メトキシサリチル酸カリウム、ピリミジニルピラゾール化合物、ハクシニンエキス、油用性甘草エキス、ビタミンA誘導体等の美白成分;レチノール、レチノイン酸、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等の抗しわ成分;酢酸トコフェロール、カプサイシン、ノリル酸バニリルアミド等の血行促進成分;ラズベリーケトン、月見草エキス、海草エキス等のダイエット成分;イソプロピルメチルフェノール、感光素、酸化亜鉛等の抗菌成分;ビタミンD2、ビタミンD3、ビタミンK等のビタミン類など薬効成分が添加されていてもよい。
【0016】
マイクロニードルの形状は特に限定されないが、皮膚に刺入しやすく且つ刺入に際し苦痛を伴わないように円錐型、円錐台型又はコニーデ型などが好ましい。尚、コニーデ型とは、いわゆる火山型と呼ばれる形状であり、円錐台型の側面が内側方向に湾曲した形状である。
【0017】
マイクロニードルの根元の直径は細くなると皮膚に刺入する際に折れやすくなり、太くなると皮膚に刺入する際に苦痛を伴うので0.15~1.0mm、好ましくは0.15~0.5mm程度が適当である。先端直径は、細くなると(尖っていると)皮膚に刺入する際に折れやすくなり、太くなると皮膚に刺入しにくくなり苦痛を伴うので0.01~0.2mmが適当である。
【0018】
マイクロニードルの高さは、皮膚に刺入し、刺激をもたらす程度の高さが必要であるが、高すぎると皮膚基底膜に達する虞があり、また皮膚に刺入する際に折れやすくなることもあるので、50μm~1000μm、好ましくは100~500μm程度が適当である。又、マイクロニードルとマイクロニードルのピッチは、短くなると皮膚に刺入しにくくなり、長くなると面積あたりのマイクロニードルの数が少なくなり、本発明の効果が発揮できなくなり得るので、0.3~1.0mmが適当である。
【0019】
本発明ではマイクロニードルシートを顔の一部に貼付けることで顔全体の血行を良くし、色調を明るくする効果を発揮するものであるため、マイクロニードルシートの面積はある程度の大きさを有することが好ましい。特に限定されるものではないが、好ましくはその面積は少なくとも200 mm2、好ましくは500~3,000mm2である。
【0020】
本発明のマイクロニードルアレイの製造方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法で製造されればよく、例えば、下記の製造方法が挙げられる。
(1)マイクロニードルの形状が穿設された型に、ヒアルロン酸などといったマイクロニードル形成材料を主体とする素材に必要に応じて医薬成分や化粧品成分が添加されたものの水溶液を流延し、室温下又は加熱して水分を蒸発して乾燥すると共に基板を積層した後剥離して基板上にマイクロニードルを転写する方法。
【0021】
(2)上記型表面上に上記水溶液の層を形成するように流延し、室温下又は加熱して水分を蒸発して乾燥した後剥離する方法。この方法では、基板及びマイクロニードルが共にマイクロニードル形成材料を主体とする素材に必要に応じて医薬成分や化粧品成分が添加されたものよりなるマイクロニードルアレイが得られる。
【0022】
(3)マイクロニードル形成材料を主体とする素材に必要に応じて医薬成分や化粧品成分が添加されたものの水溶液を基板上にマイクロニードルの形状に射出成形した後室温下又は加熱して水分を蒸発して乾燥する方法。
【実施例】
【0023】
実験1
年齢30~55歳の目の下にくまが観察される健常人女性31名についてマイクロニードルシートを週に2回、就寝時の間、4週間にわたり、両目の下のくま部分、所謂色素沈着部位に連用した。使用したマイクロニードルシートの仕様は以下の通りである。
材質:ヒアルロン酸ナトリウム(平均分子量5~10万)配合
面積 約975 mm2
針の高さ: 200μm
針の本数: 2000
根元の直径: 200μm
針のピッチ: 540μm
【0024】
4週後の被験者の顔の色調を分光測色系(コニカミノルタ:機種名 CM-600d)を用い、測定した。その結果を以下の表に示す。
【表1】
【0025】
上記表で、L値は肌の透明感、a値は肌の赤み、b値は肌の黄味を表し、L値は値が高いほど、a値とb値は値が低いほど良好な結果を意味する。
上記表から明らかなとおり、マイクロニードルシートを連用すると、同シートを貼付した色素沈着部位での赤み(a値)が改善されるのみならず、同シートを直接貼付してない頬部においても、赤み(a値)については改善が認められた。
【0026】
実験2
さらに上記被験者の顔面の血流状態を、レーザードップラー(機種名:OMEGAFLO-N1 OMEGA WAVE社)により測定した。その結果を以下の表に示す。
【表2】
【0027】
上記表から明らかなとおり、マイクロニードルシートを連用すると、同シートを貼付した色素沈着部位での血流量および血流速度が有意に増大することがわかる。したがって、同シートを連用することで、うっ血が改善され、色調の改善が認められるものと考えられる。
【0028】
興味深いことに、上記被験者のうち、およそ2割程度の者は、同シートを貼付した部分よりも、その周囲である頬の部分でa値の改善、即ち赤みの改善が顕著に認められた。そのうちの1名の結果を以下の表に示す。
【表3】
【0029】
よって、数人の被験者について、マイクロニードルシートの貼付部位の周囲の血流について血行促進が起きているかどうか調べた。
詳しくは、マイクロニードルシートを目の周囲に貼付け、その周囲の血流状態を、レーザーイメージングスペックル(PeriCam PSI: PERIMED社、スウェーデン)を用い、レーザーを生体組織に照射してスペックル(斑点)を形成させ、血流の動きによるそのスペックルの変化を追跡することで血流状態を判定した。その結果を
図1に示す。マイクロニードルシートを貼付けた部位のみならず、その周囲の血流状態も促進されることがわかった。したがって、マイクロニードルを使用することで、うっ血が原因による顔のくすみが改善されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のマイクロニードルシートを使用すれば、顔の一部に貼付け、所定期間連用するだけで、同シートを貼付けた部分のみならず、顔全体の血行を良好にし、顔全体の色調を明るくすることが可能となる。