(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】ゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶、結晶構造解析用試料の作製方法および分子構造決定方法
(51)【国際特許分類】
C07D 487/16 20060101AFI20250128BHJP
C07C 63/28 20060101ALI20250128BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20250128BHJP
C30B 29/54 20060101ALI20250128BHJP
G01N 23/20 20180101ALI20250128BHJP
C07F 15/06 20060101ALN20250128BHJP
【FI】
C07D487/16 CSP
C07C63/28
B01J20/22 Z
C30B29/54
G01N23/20
C07F15/06
(21)【出願番号】P 2020112547
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】河野 正規
(72)【発明者】
【氏名】大津 博義
(72)【発明者】
【氏名】和田 雄貴
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2018/159692(JP,A1)
【文献】国際公開第2016/143872(WO,A1)
【文献】KIM,J. et al.,Structural Investigation of Chemiresistive Sensing Mechanism in Redox-Active Porous Coordination Network,Inorganic Chemistry,2017年,Vol.56, No.15,p.8735-8738
【文献】NAKANISHI,K. et al.,Do Anionic π Molecules Aggregate in Solution? A Case Study with Multi-interactive Ligands and Network Formation,Chemistry - A European Journal,2019年,Vol.25, No.66,p.15182-15188
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/16
B01J 20/22
C30B 29/54
G01N 23/20
C07F 15/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶であって、
前記細孔性ネットワーク錯体結晶は、三座配位子、コネクター分子および遷移金属を含み、
前記三座配位子は、3-ピリジニル基の窒素原子がそれぞれ配位子として機能する下記一般式(II)で表される3分岐構造の化合物であ
り、
前記コネクター分子は二座配位子であり、前記二座配位子のそれぞれの配位子と当該コネクター分子の重心との成す角度が
110~180°であり、
4つの前記遷移金属が、2つの前記三座配位子と3つの前記コネクター分子に配位して形成されてなる構造単位を有し、
前記三座配位子および前記コネクター分子が前記遷移金属と配位結合を介して規則的に形成された三次元ネットワーク構造を有し、当該三次元ネットワーク構造内に、ゲスト分子を内包する、中空を有する細孔が形成されており、
前記遷移金属が、銅、クロム、カドミウム、亜鉛およびコバルトから選択され、
前記3-ピリジニル基の
窒素と前記遷移金属の結合によって、当該3-ピリジニル基の軸の自由回転が抑制されたゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶。
【化1】
但し、一般式(II)中のXは、一般式(III)で表される基および化学式(IV)で表される基から選択され、Y
1
~Y
3
はそれぞれ独立に、Xと前記3-ピリジニル基が直結する単結合、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合から選択される。
【化2】
但し、一般式(III)中のZ
1
~Z
6
はそれぞれ独立に、C-HまたはNである。
【化3】
【請求項2】
前記遷移金属には、更に溶媒分子が配位しており、前記遷移金属と前記溶媒分子の配位結合は、前記遷移金属と前記三座配位子および前記遷移金属と前記コネクター分子の配位結合よりも弱い請求項1に記載のゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶。
【請求項3】
前記遷移金属は2価の金属である請求項1または2に記載のゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶。
【請求項4】
前記細孔は、ハニカム状の孔部と、前記ハニカム状の孔部同士を連通させる、当該ハニカム状の孔部よりもサイズの小さい孔部を含む請求項1~3のいずれかに記載のゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶。
【請求項5】
前記コネクター分子が、下記化合物(VI)からなる群から選択される二座配位子である請求項1~4のいずれかに記載のゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶。
【化4】
・・・(VI)
【請求項6】
前記ゲスト分子の分子量が500~3000の中分子である請求項1~5のいずれかに記載のゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶。
【請求項7】
解析対象化合物を溶媒に溶解した試料を用意し、
前記試料に、
請求項1~6のいずれか1項に記載のゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶を分散させ、
前記細孔性ネットワーク錯体結晶の細孔内に、前記解析対象化合物を取り込む結晶構造解析用試料の作製方法。
【請求項8】
請求項7に記載の結晶構造解析用試料の作製方法により得られた結晶構造解析用試料を用いて、結晶構造解析を行うことを特徴とする解析対象化合物の分子構造決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶に関する。更に、前記細孔性ネットワーク錯体結晶を利用した結晶構造解析用試料の作製方法および分子構造決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属イオンと有機配位子からなる細孔性ネットワーク錯体(PCN(Porous Coordination Network))は、溶媒を取り除いても構造を維持できる無限構造であり、その細孔を活用した技術が提案されている。例えば、細孔内のゲストの吸脱着に応じて可逆的に構造変化を起こすPCN(非特許文献1)、2,4,6-トリス(4-ピリジル)トリアジンの配位子とZnBr2とを組み合わせたPCN(非特許文献2,3)、トリピリジルヘキサアザフェナレネート(K+TPHAP-)の配位子とZnI2とを組み合わせたPCNが報告されている(非特許文献4)。また、本発明者らは、先般、2,4,6-トリス(3-ピリジル)ヘキサアザフェナレネートの配位子と塩化コバルト(II)、テレフタル酸を用いたPCNの合成例を報告した(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Sujit K. Ghosh et al., Angew. Chem., 2013, 125, 1032
【文献】Masaki Kawano et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 1269 -1271
【文献】Makoto Fujita et al. NATURE CHEMISTRY, VOL 3, 2011
【文献】Masaki Kawano, et al. CrystEngComm., 2014, 16, 6335
【文献】河野正規ら、「多点相互作用配位子の置換基制御によるネットワーク錯体合成」、日本結晶学会年会予稿集、2018年11月,PB-I-04。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PCNはゼオライトや活性炭と比較して非常に大きな表面積を有しており、構造のカスタマイズにより等構造を生成できることから、触媒担体・吸着・分離精製の分野において注目されている。また、ゲスト分子の解析に利用できるPCN結晶を提供できれば、特に、これまで解析が難しいとされてきた中分子(分子量が500~3000程度の分子)の解析が可能なPCN結晶を提供できれば、医薬品開発の飛躍的な加速化が期待できる。しかし、中分子をゲスト分子として取り込むためには、細孔径を大きくすることが求められる。また、解析精度向上のために、PCN結晶の構造的揺らぎを抑制することが望ましい。
【0005】
なお、上記においてはゲスト分子として中分子を用いる場合について説明したが、分子量によらず同様の課題が生じ得る。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、細孔径が大きく、且つ構造的揺らぎを抑制できるゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶、結晶構造解析用試料の作製方法および分子構造決定方法を提供することを第一の目的とする。また、解析用以外の用途にも利用できる細孔性ネットワーク錯体結晶を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本発明の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]: ゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶であって、
三次元ネットワーク構造を有し、ゲスト分子を内包する細孔が形成されており、
前記三次元ネットワーク構造は、三座配位子およびコネクター分子が遷移金属に配位されてなり、
前記三座配位子は、3-ピリジニル基の窒素原子がそれぞれ配位子として機能する下記一般式(I)で表される3分岐構造の化合物であり(但し、Wはヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族基)、
【化1】
前記コネクター分子は二座配位子であり、前記二座配位子のそれぞれの配位子と当該コネクター分子の重心との成す角度が70~180°であり、
前記3-ピリジニル基の軸の自由回転が抑制されたゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶。
[2]: 前記遷移金属には、更に溶媒分子が配位しており、前記遷移金属と前記溶媒分子の配位結合は、前記遷移金属と前記三座配位子および前記遷移金属と前記コネクター分子の配位結合よりも弱い[1]に記載のゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶。
[3]: 前記遷移金属は2価の金属である[1]または[2]に記載のゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶。
[4]: 前記細孔は、ハニカム状の孔部と、前記ハニカム状の孔部同士を連通させる、当該ハニカム状の孔部よりもサイズの小さい孔部を含む[1]~[3]のいずれかに記載のゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶。
[5]: 前記三座配位子が一般式(II)で表される[1]~[4]いずれかに記載のゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶。
【化2】
但し、一般式(II)中のXは、一般式(III)で表される化合物および化合物(IV)で表される化合物から選択され、Y
1~Y
3はそれぞれ独立に、Xと前記3-ピリジニル基が直結する単結合、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合から選択される。
【化3】
但し、一般式(III)中のZ
1~Z
6はそれぞれ独立に、C-HまたはNである。
【化4】
[6]: 前記ゲスト分子の分子量が500~3000の中分子である[1]~[5]のいずれかに記載のゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶。
[7]: 解析対象化合物を溶媒に溶解した試料を用意し、
前記試料に、
[1]~[6]のいずれかに記載のゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶を分散させ、
前記細孔性ネットワーク錯体結晶の細孔内に、前記解析対象化合物を取り込む結晶構造解析用試料の作製方法。
[8]: [7]に記載の結晶構造解析用試料の作製方法により得られた結晶構造解析用試料を用いて、結晶構造解析を行うことを特徴とする解析対象化合物の分子構造決定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、細孔径が大きく、且つ構造的揺らぎを抑制できるゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体結晶、結晶構造解析用試料の作製方法および分子構造決定方法を提供できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)従来の三座配位子の模式的説明図。(b)本実施形態に係る三座配位子の模式的説明図。
【
図2】本実施形態のPCN結晶の構造単位の一例を示す模式的構造図。
【
図3】本実施形態のPCN結晶の一例を示す模式的構造図。
【
図4】本実施形態に係るPCNにおける三座配位子の3-ピリジニル基の窒素の立体的配置の一例を説明するための模式図。
【
図5】本実施形態に係るPCNの遷移金属と層間コネクターの結合状態の一例を示す模式的構造図。
【
図6】(a)実施例1に係るPCN結晶の粉末X線プロファイル。(b)実施例1に係るPCN結晶を乳鉢で粉砕した後の粉末X線プロファイル。(c)シミュレーションにより得られた実施例1に係るPCN結晶のX線プロファイル。
【
図8】実施例1に係るPCN結晶のX線構造解析により求められたc軸方向からみた構造図。
【
図9】
図8から三座配位子を隠したPCN結晶のX線構造解析により求められたc軸方向からみた構造図。
【
図10】実施例1に係るPCN結晶において、三座配位子を隠し、且つb軸方向からみたX線構造解析により求められた構造図。
【
図11】実施例1に係るPCN結晶のDMFの一部を水分子に置換したX線構造解析により求められた構造の部分拡大図。
【
図12】実施例1に係るPCN結晶のDTG-DTAプロファイルを示す図。
【
図13】実施例2に係るPCN結晶の細孔に捕捉されたゲスト分子(アントラセン)のX線構造解析により求められた構造図。
【
図14】ヨウ素のDMF溶液にPCN結晶を加えた後の経時的な吸収スペクトル図。
【
図15】ヨウ素をゲストとして取り込んだPCN結晶に紫外光を照射したときの経時的な吸光度変化を示す図。
【
図16】実施例4に係るPCN結晶の細孔に捕捉されたゲスト分子(トリフェニレン)のX線構造解析により求められた構造図。
【
図17】実施例5に係るPCN結晶の細孔に捕捉されたゲスト分子(ベニバナ色素カルタミン)のX線構造解析により求められた構造図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれる。また、以降の図における各部のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、これに限定されるものではない。
【0011】
本実施形態に係るゲスト分子解析用の細孔性ネットワーク錯体(以下、PCNという)結晶は、三次元ネットワーク構造を有する。この三次元ネットワーク構造は、三座配位子およびコネクター分子が遷移金属に配位されてなる。また、PCN結晶には、ゲスト分子を内包する細孔が形成されている。
【0012】
三座配位子は、3-ピリジニル基の窒素原子がそれぞれ配位子として機能する下記一般式(I)で表される3分岐構造の化合物である。
【化5】
但し、式(1)中のWはヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族基である。
三座配位子の3-ピリジニル基の窒素原子がそれぞれ遷移金属に配位され、当該配位によって、3-ピリジニル基の軸の自由回転が抑制されている。
【0013】
コネクター分子は二座配位子であり、当該コネクター分子の重心と、前記二座配位子のそれぞれの配位子との成す角度を70~180°とする。ここでいう重心とは、コネクター分子の質量中心である。
【0014】
ところで、上記非特許文献2,3で開示したPCNに用いられる三座配位子は、2,5,8トリ(4’‐ピリジル)-1,3,4,6,7,9-ヘキサアザフェナレン(4-TPHAP
-)であり,4-ピリジニル基を3つ有する3分岐構造の化合物である。この4-ピリジニル基の軸は
図1(a)に示すように自由回転しており、同図に示すように対称性に優れる。そして、この4-ピリジニル基の窒素と遷移金属が配位したPCNにおいても、4-ピリジニル基の軸の自由回転自体は阻害されない。
【0015】
これに対して、本実施形態で用いるPCN結晶の三座配位子は、一般式(I)に示すように3つの3-ピリジニル基を配位子とする3分岐構造の化合物である。この三座配位子は、
図1(b)に示すように、3-ピリジニル基の軸の自由回転によりトポロジー的な構造の自由度が増す。換言すると、3-ピリジニル基を有する3分岐構造の三座配位子を用いることによって、対称性を低下させた構造を取り得る。
【0016】
また、本実施形態で用いるPCN結晶は、3-ピリジニル基の窒素と遷移金属の結合によって、ピリジニル基の軸の自由回転が阻害される。3-ピリジニル基の自由回転の抑制によって、4-ピリジニル基を有する3分岐構造の三座配位子を用いる場合よりも、動的運動を低減させることができる。その結果、ゲスト分子の解析精度向上効果、並びにこれまで解析が難しかったゲスト分子の解析を行うことが期待できる。加えて、3-ピリジニル基を有する3分岐構造の三座配位子を有するPCN結晶を用いることによって、細孔の開口径を広げることができる。
【0017】
三次元ネットワークの細孔は、三座配位子およびコネクター分子が遷移金属と配位結合を介して複数組み合わされて、規則的に形成される。細孔の形状は、用いる原料分子により変わり得る。好適な例として、ハニカム状の孔部と、このハニカム状の孔部同士を連通させる、当該ハニカム状の孔部よりもサイズの小さい孔部を含む態様が例示できる。三座配位子、コネクター分子および遷移金属の種類に応じて、細孔の開口径のサイズを容易に調整することができる。
【0018】
三座配位子は、上記式(I)を満たし、3つの3-ピリジニル基の窒素原子をそれぞれ配位子とする化合物であり、コネクター分子および遷移金属と共にPCN結晶を形成できる化合物であればよく限定されないが、二次元ネットワークを形成するために実質的に平面形状の三座配位子を用いることが好ましい。また、三座配位子の3-ピリジニル基を頂点とする三角形型であることが好ましい。式(1)中のWは、π-π相互作用が可能な非局在化した芳香族平面であることが好ましい。三座配位子は一種単独で用いても二種以上を併用して用いてもよい。
【0019】
三座配位子の好適例として、一般式(II)で表される化合物を例示できる。
【化6】
但し、一般式(II)中のXは、一般式(III)で表される化合物および化合物(IV)で表される化合物から選択され、Y
1~Y
3はそれぞれ独立に、Xと前記3-ピリジニル基が直結する単結合、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合から選択される。
【化7】
但し、一般式(III)中のZ
1~Z
6はそれぞれ独立に、C-HまたはNである。
【化8】
【0020】
特に好適な三座配位子として、下記式から選択される化合物群から選ばれる化合物を例示できる。
【化9】
【0021】
遷移金属の種類は特に限定されない。具体例としては、銅、クロム、カドミウム、亜鉛、コバルトが例示できる。遷移金属の価数は特に限定されないが、PCN結晶の合成しやすさの観点からは2価であることが好ましい。遷移金属は複数種用いることも可能であるが、構造解析の簡易性の観点からは単独で用いることが好ましい。
【0022】
コネクター分子の配位子は、窒素原子、酸素原子、リン原子などのヘテロ原子が例示できる。窒素原子は、例えばアミノ基、ピリジニル基の窒素を用いることができる。酸素原子は、例えばカルボキシ基、カルボニル基、水酸基、ニトロ基の酸素を用いることができる。リン原子は、例えばフェニルホスフィン基のリンを用いることができる。コネクター分子の二座配位子のそれぞれの配位子と当該コネクター分子の重心との成す角度は、90°以上が好ましく、110°以上がより好ましく、140°以上が更に好ましく、160°以上が特に好ましい。
【0023】
コネクター分子の好適例としては、下記化合物が例示できる。
【化10】
【0024】
本実施形態のPCN結晶は種々の形態を取り得る。
図2にPCN結晶の構造単位の一例を、
図3に、このPCN結晶の一部の構造図を示す。PCN結晶1の構造単位は、
図2の例においては、4つの遷移金属3(Co
2+)が、2つの三座配位子2と3つのコネクター分子4(テレフタル酸のカルボキシ基)に配位して形成されてなる。また、遷移金属は、2分子の溶媒分子5(DMF)が遷移金属に配位している。また、細孔は、
図3の例においては、ハニカム状に配列され、六角形状の細孔6を有する三次元ネットワーク構造を有する。PCN結晶の安定性の観点からは、二次元ネットワークの六角形状の開口部は巨視的視点において六角形状であることが好ましい。
【0025】
更に、
図2のPCN結晶においては、合成時に用いた溶媒分子であるDMF2分子が単位構造あたりコバルトイオンに配位している。このような単位結晶に取り込まれる溶媒分子は、遷移金属との結合が、遷移金属と三座配位子の配位結合、並びに遷移金属とコネクター分子の配位結合よりも弱いことが好ましい。このような溶媒分子を結晶構造単位に取り込むことにより、ゲスト分子を解析する際の構造の揺らぎを減少させ、解析精度を高める効果が期待できる。また、取り込むゲスト分子に応じて溶媒置換することも可能になり、解析対象を増加させることが期待できる。更に、細孔内部のこれらの溶媒分子を、解析上で確認することが可能となる。
【0026】
図2のPCN結晶1のCo
2+は、
図5の部分拡大図に示すように、三座配位子の3-ピリジニル基の窒素原子およびテレフタル酸のカルボキシ基に配位する。この例においては、三座配位子の3-ピリジニル基のうちの2つは
図4に示すように近接するように配置され、Co
2+を介して1つのテレフタル酸により固定されている。このように、PCN結晶1の三座配位子2は対称性の低い構造で固定されている。3-ピリジニル基を用いることにより構造的な揺らぎを抑制し、フレームワーク構造を剛直化すると共に、構造の周期性を高め、結晶性を挙げることが可能となる。このため、構造解析に好適な結晶を提供できる。
【0027】
コネクター分子の構造、三座配位子の構造を変更することにより、細孔の形状を調節することが可能である。ネットワーク構造を形成する原子のファンデルワールス半径の球で充填されていない細孔を立方体とみなしたときの体対角距離として表される細孔のサイズは、例えば、0.8~1.2nmである。細孔の開口部で切り口をつくり、その切り口を四角形とみなした時の短軸方向距離と定義されるPCN結晶の細孔の最大径は限定されないが、結晶構造解析用試料として利用する観点からは1.5~5.0nmであることが好ましい。より好ましくは2.0~5.0nmであり、更に好ましくは2.5~5.0nmある。細孔の開口径は、主として三座配位子の種類により決定される。二次元ネットワークの細孔の開口径のサイズを1.5nm以上とすることにより、例えば分子量が100~7000程度の分子の化合物を選択的に中空内に取り込むことができ、結晶構造解析をはじめとする種々の用途に応用することが可能となる。
【0028】
本実施形態に係るPCN結晶は、例えば医薬品やペプチド等の分子量の高いゲスト分子結晶構造解析用の結晶として好適である。また、
図2に示したように、有機溶媒を配位子として有する結晶とすることにより、溶媒分子に対するゲスト分子の位置も解析できる。更に、この有機溶媒と遷移金属との結合を、三座配位子と遷移金属、並びにコネクター分子と遷移金属との配位結合よりも弱いものとすることにより、他の溶媒分子に置換する自由度を高めることができる。従って、ゲスト分子に応じてPCN結晶の細孔の環境場を調整することが可能となる。これらの効果より、結晶構造解析の精度を高めることが期待できる。
【0029】
上記においては、解析用として用いる例を挙げたが、物質の精製処理や閉鎖空間での反応場としての応用にも好適である。また、ゼオライトなどに比べて表面積が格段に高いことから、吸着材、浄化用途などへの応用が期待できる。更に、有機物などをセンシングする用途、即ち化学センサ材料として利用できる。また、UV光などの外部刺激に対して、吸着しているゲスト分子を放出するドラッグデリバリーシステムなどへの応用が期待できる。
【0030】
(製造方法)
次に、PCN結晶の製造方法の一例について説明する。但し、本発明のPCN結晶の製造方法は以下の方法に限定されるものではない。
【0031】
まず、三座配位子と、遷移金属または遷移金属化合物と、コネクター分子を容器に入れて加温し、ソルボサーマル法により合成することができる。これにより、自己組織化的にワンポット反応により細孔を有するPCN結晶を製造できる。PCNの合成後、洗浄を充分に行うことにより結晶が得られる。ソルボサーマル法に代えて、溶液拡散法、電気化学合成法、マイクロ波照射法、メカノケミカル合成法、超音波合成法によりPCNを合成してもよい。溶媒やその濃度、金属と配位子のモル比、温度、金属イオンを変えることにより種々のPCNを合成できる。
【0032】
用いる三座配位子と遷移金属のモル比は、1:1~1:10、好ましくは1:1~1:5、より好ましくは1:1~1:3である。コネクター分子と遷移金属のモル比は、1:1~1:7、好ましくは1:1~1:5、より好ましくは1:1~1:3である。
【0033】
用いる有機溶媒としては、三座配位子、遷移金属をそれぞれ均一に溶解できる溶媒であればよく、特に限定されない。溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、メシチレン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類;テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が例示できる。溶媒は一種単独で用いても、二種以上を併用して用いてもよい。
これらの中でも、より収率よく本発明の細孔性ネットワーク錯体を合成することができることから、遷移金属化合物の溶媒として芳香族炭化水素類が好ましく、ニトロベンゼンがより好ましい。また、三座有機配位子の溶媒としては、芳香族炭化水素類、スルホキシド類が好ましく、スルホキシド類が特に好ましい。
【0034】
析出したPCN結晶は濾取により回収できる。PCN結晶の構造は、元素分析、IR、UV吸収スペクトル、可視光吸収スペクトル、X線単結晶構造解析等により確認できる。
【0035】
(結晶構造解析用試料の作製方法)
次に、本実施形態に係る結晶構造解析用試料の作製方法について説明する。本実施形態に係る結晶構造解析用試料の作製は、本実施形態のPCN結晶の細孔内に解析対象化合物を取り込み、当該化合物の構造解析用試料とするものである。
【0036】
まず、解析対象化合物を溶媒に溶解した試料を用意し、この試料に、本実施形態に係るPCN結晶を分散させる。そして、PCN結晶の細孔内に解析対象化合物を取り込み、溶媒を留去する工程等を経て作製される。
【0037】
解析対象化合物を含む混合物とPCN結晶を接触させ、解析対象化合物の分子をPCN結晶の細孔に取り込ませる方法としては、公知の方法により行うことが可能である。
【0038】
解析対象化合物は、PCN結晶の細孔に入り得る大きさのものである限り、特に限定されない。低分子化合物、医薬品等の中分子化合物、キラル化合物等の多岐にわたる化合物に適用できる。例えば、分子量50~7000程度の分子を解析できる。好適には、5000以下の化合物であることが好ましく、より好ましくは480~4000,特に好ましくは500~3000である。
【0039】
PCN結晶と、前記解析対象化合物を接触させる方法は特に限定されない。例えば、解析対象化合物の溶液を調製し、PCN結晶をこの溶液と接触させる方法や、解析対象化合物が液体又は気体である場合は、直接、PCN結晶を解析対象化合物と接触させる方法により解析対象化合物の分子をPCN結晶の細孔に取り込ませることができる。この中でも、より良質の結晶構造解析用試料が得られ易いことから、解析対象化合物の溶液を調製し、PCN結晶をこの溶液と接触させる方法が好ましい。
【0040】
また、解析対象化合物を含む溶液を用いる場合や、解析対象化合物が液体である場合において、解析対象化合物を含む溶液等に前記単結晶を浸漬させる方法、前記単結晶をキャピラリーの中に詰めた後、解析対象化合物を含む溶液等を、そのキャピラリー内を通過させる方法等により、接触操作を行うことができる。
【0041】
解析対象化合物を含む溶液の溶媒は、用いる単結晶を溶解せず、かつ、解析対象化合物を溶解するものであればよい。また、有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;n-ブタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;N,N-ジメチルホルムアミド、n-メチルピロリドン等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;水;等が挙げられる。溶媒は一種単独または二種以上を併用して用いることができる。
【0042】
解析対象化合物と本実施形態に係るPCN結晶の接触時間は特に限定されないが、通常、数分~数日である。化合物によっては、適宜、接触時間をより短時間化、または長時間化することが可能である。接触温度は例えば-30~200℃の範囲とすることができ、特に限定されない。解析対象化合物の取扱容易な温度で接触させることが好ましい。
【0043】
結晶構造解析用試料は、PCN結晶の細孔内に、解析対象化合物の分子が取り込まれてなるものである。細孔の開口径のサイズより、解析対称化合物は細孔内に規則的に配列されることになる。なお、ここでいう規則的に配列されるとは、解析対象化合物の分子が、結晶構造解析によって構造を決定することができる程度に細孔内に取り込まれていることをいう。
【0044】
結晶構造解析用試料は、解析対象化合物の分子構造を決定することができるものであればよく、PCN結晶のすべての細孔内に解析対象化合物の分子が取り込まれている必要はない。解析対象化合物の分子構造は、上記結晶構造解析用試料を用いて、解析対象化合物の結晶構造解析を行うことにより決定される。構造解析は、X線回折、中性子線回折等を利用できる。結晶構造解析用試料の作製方法により得られた結晶構造解析用試料を用いて、結晶構造解析を行うことで、解析対象化合物の分子構造を決定することができる。
【0045】
[実施例]
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実験例1)
[2,5,8トリ(3’‐ピリジル)-1,3,4,6,7,9-ヘキサアザフェナレンカリウム(3-TPHAPK)の合成]
3-アミジノピリジン塩酸塩4.1g(26.0mmol)とカリウムトリシアノメチド0.86g(6.7mmol)を乳鉢で良くかきまぜた後、耐圧容器に移し180℃で20時間加熱した。得られた黒色固体を乳鉢に移しすりつぶして粒径を小さくした後、蒸留水300cm3を加え、3時間室温で撹拌し、ろ過を行った。その後、酢酸エチルを用いて不純物を有機層が無色になるまで抽出した。そして、ロータリーエバポレーターを用いて水層を乾固させた。得られた褐色固体を5M塩酸に飽和溶液となるよう溶解させた。その後、5M水酸化カリウム水溶液を少しずつ滴下し、固体の析出が止まるまで加えた。析出した固体をろ過した。得られた固体をメタノールに溶解させ、アセトンをその三倍量以上加え、ろ過した後、ろ液を減圧下乾固することにより、黄土色粉末286mg(0.65mol、収率:9%)を得た。
【0047】
NMRおよび元素分析結果は以下の通りであり、式(VI)に示す化合物が得られたことを確認した。
【化11】
1 H NMR : δ = 7.55 (ddd, 3H, J = 0.8, 4.8, 8.0Hz ), 8.69 (dd, 3H, J = 2.0, 8.6 Hz), 8.78 (dt, J = 2.0, 8.4 Hz), 9.61 (d, 3H, J = 2.8 Hz).
13 CNMR : δ 103.0 , 123.7 , 134.6 , 135.9 , 149.7 , 151.7 , 166.4 , 166.7.
calcd. (%) for C 22.7 H 23.08 KN 9 O 4.84 (=C 22 H 12 N 9 K (CH 4 O) 0.70 (H 2 O) 4.14 ): C, 50.63; H,4.32; N,23.41;. Found: C, 50.63; H,4.09; N, 23.41.
【0048】
[PCNの合成]
次いで、上記3-KTPHAP15.8mg(35.82μmol)、テレフタル酸(BDC)17.9mg(107.7μmol)、塩化コバルト(II)25.1mg(193.3μmol)を耐圧容器の中に入れ、脱水DMFを10cm3入れて80℃で7日間反応させることにより赤紫色結晶45.1mg(17.5μmol)を得た。収率は97.7%であった。
元素分析結果を以下に示す。
calcd (%) for Co4C98.45H140.15N32.55(= Co4C92H92N26O16(C3H7NO)2.15(H2O)16.55): C, 45.96; H,5.49; N,15.33;. Found: C, 45.96; H, 5.49; N, 15.55.
【0049】
[PCN結晶の構造]
図6に、実施例1に係るPCN結晶の粉末X線プロファイルを示す。
図6(a)に実施例1に係るPCN結晶のX線プロファイルを、
図6(b)に実施例1のPCN結晶を乳鉢で粉砕した後のX線プロファイルを、
図6(c)にシミュレーションによるX線プロファイルを示す。
図6(a)においては、単結晶のまま測定を行ったため、選択配向を起こし、相対強度が単結晶のシミュレーションと異なる部分があると考えられる。一方、
図6(b)においては、20°のピークが小さくなり、シミュレーションに近いグラフとなることを確認した。また、
図6(b)の結果より高い純度でPCN結晶が得られていると推測できる。
【0050】
実施例1に係るX線構造解析から得られるPCN結晶の単位構造図を
図2に、また、実施例1のPCN結晶の電子顕微鏡写真を
図7に示す。実施例1のPCN結晶中の3-TPHAP(2,5,8トリ(3’‐ピリジル)-1,3,4,6,7,9-ヘキサアザフェナレン)は、
図4に示すように、3-ピリジニル基が対称性の低い配置で固定されており、PCN結晶の構造のトポロジーは3,6-cであった。この3,6-cのトポロジーは過去に報告例がないPCN結晶である。
【0051】
図8~
図10に、実施例1のPCN結晶の分子配列を説明するための構造図を示す。
図8は、PCN結晶をc軸方向(テレフタル酸の長軸方向)からみた構造図であり、
図9は、
図8において3-TPHAPを隠した構造図、即ち、c軸方向からみた構造図である。
図10は、PCN結晶から3-TPHAPを隠し、b軸方向(3-TPHAPの積層方向)における構造図(上面図)である。これらの図より、PCN結晶においてコネクター分子であるテレフタル酸(BDC)とコバルトイオンはハニカム構造の二次元シートを形成しており、その間に3-TPHAPが架橋して3次元構造が構築されていることがわかる。テレフタル酸と結合する2つのCo
2+は10.4Åの距離であり、三座配位子の3-ピリジニル基の窒素原子間の距離と概ね一致することを確認した。
【0052】
実施例1のPCN結晶の細孔径は、最大開口径が8.3×12.5Åであり、空隙率は48.8%であった。更に、コバルトイオンにDMFが配位しており、このDMFがPCN結晶において規則正しく整列していることを確認できた。DMFが配位していることにより、ゲスト分子の解析を容易に行うことができるというメリットがある。このDMFは、単位結晶構造中に4分子含まれており、相対的に遷移金属との結合が弱い部位である。このため、単位結晶構造からDMFを他の溶媒に置換させたり、DMFを熱により除去したりすることが可能である。
【0053】
実施例1のPCN結晶は、
図5に示すように、Co
2+が非対称に配位していること、置換活性な配位子であるDMFは互いに隣り合っていることを確認した。Co
2+とDMF1との距離は2.0962Åであり、Co
2+とDMF2との距離は2.1230Åであった。この結果より、2つのDMFの配位結合の強度に差があることがわかる。このうちDMF2は結合長が長いので、より弱い結合であると考えられる。
【0054】
図11は、実施例1のPCN結晶の一つのCo
2+に配位する片方のDMFを水に変えたPCN結晶の構造図である。Co
2+とDMFの距離は2.102Åであり、Co
2+と水の距離は2.57Åであった。また、実施例1のPCN結晶のX線構造解析により求まった構造を表1に示す。なお、括弧内の数値はその表中の数値に対する統計的誤差を表す。
【0055】
【0056】
図12に、実施例1に係るPCN結晶のTG-DTAのプロファイルを示す。同図より、400
℃程度まで安定な結晶であることを確認した。100℃までは表面と細孔内の溶媒であるDMFが脱離し、その後200℃付近で配位したDMFが脱離すると考えられる。また、400℃付近にて配位しているコネクター分子が脱離すると考えられる。
【0057】
[ゲスト分子の解析]
(実施例2)
次に、実施例1に係るPCN結晶を用いて結晶構造解析用試料を作製した。まず、実施例1のPCN結晶をDMFにより3回洗浄した。その後、DMFを溶媒とするアントラセン飽和溶液にPCN結晶を加え、PCN結晶へのアントラセンの包接を行った。4日経過後、単結晶X線構造解析(シンクロトロンPAL-2D)により構造解析を行った。
【0058】
図13に、実施例1に係るPCN結晶に対して、アントラセンをゲスト分子として取り込んだときのX線構造解析による構造図を示す。また、この実施例2のPCN結晶のX線構造解析により求まった構造を表2に示す。なお、括弧内の数値はその表中の数値に対する統計的誤差を表す。
【0059】
【0060】
図13より明らかなように、PCN結晶とアントラセンの間の水素結合、CH・・・πのような相互作用は確認されなかった。これは、アントラセン分子は溶媒DMFに溶媒和された状態で取り込まれていることを意味する。このように、PCN結晶の構造に由来する相互作用の影響を緩和して、ゲスト分子の解析を行うことができるという優れた効果を有している。
【0061】
(実施例3)
実施例1に係るPCN結晶にヨウ素を取り込んだ実施例の一例について説明する。0.25mMのヨウ素を溶解させたDMF溶液を3cm
3量り取り、この中にPCN結晶1.7mgを加えた。そのヨウ素吸着の結果、即ち、吸収スペクトルの経時変化のプロファイルを
図14(a)に示す。時間が経過するにつれて、DMF-ヨウ素会合体の吸収が減っていくことから、PCN結晶にヨウ素が取り込まれていることがわかる。
【0062】
次に、ヨウ素のDMF溶液にPCN結晶を充分加えたサンプルに紫外光を照射した。その結果、
図15に示すように、UV照射時間の増加につれて,ヨウ素-DMFの会合体のピークが増えることが確認された。これは、PCN結晶が入っていないヨウ素含有DMF溶液では起きなかったことであり、PCN結晶に取り込まれたヨウ素が紫外光により細孔から放出されたことを示唆するものである。
【0063】
紫外光照射によるPCN結晶からのヨウ素の放出の後、紫外光照射をオフすることにより、再びPCN結晶へのヨウ素取り込みが確認された。また、ヨウ素のPCN結晶内への吸着速度は、初回に比べて殆ど変化していないことを確認した。これらの結果より、紫外光照射によって、PCN結晶の細孔性が変わらずに保たれており、細孔性を保ちながらヨウ素の放出・包接を紫外線により制御できることがわかる。
【0064】
(実施例4)
実施例1に係るPCN結晶にトリフェニレンを取り込んだ実施例の一例について説明する。まず、実施例1のPCN結晶を酢酸エチルに浸し溶媒交換を行った。その後、酢酸エチルを溶媒とするトリフェニレン飽和溶液にPCN結晶を加え、PCN結晶へのアントラセンの包接を行った。7日経過後、単結晶X線構造解析により構造解析を行った。
【0065】
図16より明らかなように、PCN結晶とトリフェニレンの間の水素結合、CH・・・πのような相互作用は確認されなかった。これは、トリフェニレン分子は溶媒酢酸エチルに溶媒和された状態で取り込まれていることを意味する。このように、PCN結晶の構造に由来する相互作用の影響を緩和して、ゲスト分子の解析を行うことができるという優れた効果を有している。
【0066】
【0067】
(実施例5)
実施例1に係るPCN結晶に中分子であるカルタミンを取り込んだ実施例の一例について説明する。まず、DMFを0.9μL、水を0.1μL混合した溶液にカルタミン約0.8mgを溶解させた。その後、実施例1のPCN結晶を保存溶媒であるDMFと共に加えることにより、PCN結晶へのカルタミンの包接を行った。7日経過後、単結晶X線構造解析により構造解析を行った。
【0068】
図17より明らかなように、PCN結晶が溶媒和状態を捕捉することができるため、中分子サイズの構造解析が可能となった。
【表4】
【符号の説明】
【0069】
1 PCN結晶
2 三座配位子
3 遷移金属
4 コネクター分子
5 溶媒分子
6 細孔