IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジャパンマテックス株式会社の特許一覧

特許7626422ポリイミドを含有する水性分散液およびこれらの製造方法
<>
  • 特許-ポリイミドを含有する水性分散液およびこれらの製造方法 図1
  • 特許-ポリイミドを含有する水性分散液およびこれらの製造方法 図2
  • 特許-ポリイミドを含有する水性分散液およびこれらの製造方法 図3
  • 特許-ポリイミドを含有する水性分散液およびこれらの製造方法 図4
  • 特許-ポリイミドを含有する水性分散液およびこれらの製造方法 図5
  • 特許-ポリイミドを含有する水性分散液およびこれらの製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】ポリイミドを含有する水性分散液およびこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20250128BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20250128BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20250128BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20250128BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20250128BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20250128BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250128BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20250128BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250128BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20250128BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20250128BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20250128BHJP
   C09D 197/00 20060101ALI20250128BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C08K5/17
C08K5/06
C08L97/00
C08L71/02
C08K9/06
C08K3/013
C09D179/08 A
C09D7/63
C09D7/20
C09D7/61
C09D7/62
C09D197/00
C09D171/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020155575
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049388
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390015679
【氏名又は名称】ジャパンマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 勝朗
(72)【発明者】
【氏名】塚本 浩晃
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-521212(JP,A)
【文献】特開平11-060947(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181145(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料、ワニス、コーティング剤、およびサイジング剤からなる群より選択される剤として使用するための水性分散液であって、ポリアミド酸、アミン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、およびリグニンが分散しており、
10~30重量%のポリアミド酸、5~20重量%のアミン、および5~20%のプロピレングリコールモノメチルエーテルを含有する、水性分散液。
【請求項2】
15~25重量%のポリアミド酸、10~15重量%のアミン、および5~15%のプロピレングリコールモノメチルエーテルを含有する、請求項に記載の水性分散液。
【請求項3】
10~30重量%のリグニンを含む、請求項1または2に記載の水性分散液。
【請求項4】
さらにポリエチレングリコールを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項5】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、四フッ化エチレン)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エポキシ、フェノール、ウレタン、アクリル、FRP、および無機フィラーからなる群より選択される少なくとも1つをさらに含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の水性分散液。
【請求項6】
前記無機フィラーが、ピンクトルマリン、ブラックトルマリン、および六晶石(登録商標)からなる群より選択される1種以上の微粒子であり、前記無機フィラーの粒径が3μm以下である、請求項に記載の水性分散液。
【請求項7】
前記無機フィラーがシランカップリング剤で処理されている、請求項5または6に記載の水性分散液。
【請求項8】
ポリアミド酸、アミン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、およびリグニンが分散し、10~30重量%のポリアミド酸、5~20重量%のアミン、および5~20%のプロピレングリコールモノメチルエーテルを含有する水性分散液1を調製する工程、ならびに
前記水性分散液にアルカリ性水溶液を添加して、前記水性分散液のpHを8~10に調整する工程
を含む、塗料、ワニス、コーティング剤、およびサイジング剤からなる群より選択される剤として使用するための水性分散液の製造方法。
【請求項9】
pH調整工程の前に、無機フィラーを粉砕し、ふるいにかけて粒径を3μm以下の極性結晶体微粒子を入手する工程、および
前記無機フィラーを含む水性分散液2を調製する工
を含む、請求項に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項10】
前記無機フィラーが、ピンクトルマリン、ブラックトルマリン、および六晶石(登録商標)からなる群より選択される1種以上である、請求項に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項11】
前記無機フィラーがシランカップリング剤で処理されている、請求項9または10に記載の水性分散液の製造方法
【請求項12】
請求項1~のいずれか1項に記載の水性分散液をコーティング面に塗布する工程
を含む、コーティング方法。
【請求項13】
前記水性分散液を塗布した前記コーティング面を350~500℃未満に加熱処理する工程をさらに含む、請求項12に記載のコーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドベースの水性分散液およびこれらの製造方法に関し、より詳しくは、ポリアミド酸(アミク酸)配合のPIA水性分散液をベースとし、リグニン等の有効成分を含む水性分散液、およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、塗料やコーティング材料用のポリイミドを含む水性混合物およびこれらの製造方法が知られている。例えば、食品工業用品、フライパンや鍋等の厨房器具、アイロン等の家庭用品、電気工業用品、機械工業用品等の表面加工に用いられる、ポリイミドとPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂を製造するための水性混合物が知られている。
【0003】
このような水性混合物として、例えば、特許文献1には、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、少なくとも含フッ素基と親油性基を含有するフッ素系添加剤とを含み、カールフィッシャー法による水分量が5000ppm以下であるフッ素系樹脂の非水系分散体と、ポリイミド前駆体溶液と、を少なくとも含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物が開示されている。
【0004】
この特許文献1によると、フッ素系樹脂の分散状態を均一にコントロールしたポリイミド前駆体溶液組成物、この組成物により得られる耐熱性、機械特性、摺動性、絶縁性、低誘電率化、低誘電正接化などの電気特性、加工性に優れるポリイミド、ポリイミドフィルム、および、それらの製造方法、並びに、そのポリイミドやポリイミドフィルムを用いた回路基板、カバーレイフィルム、絶縁膜、配線基板用相関絶縁膜、表面保護層、摺動層、剥離層、繊維、フィルター材料、電線被覆材、ベアリング、塗料、断熱軸、トレー、シームレスベルトなどの各種ベルト、テープ、チューブなどが提供されるとしている。しかし、特許文献1に記載の組成物は、ポリイミドとフッ素樹脂を均一に分散させるために、溶媒として有機溶媒を使用していたため、取り扱い性(安全性、環境負荷、設備費等)に問題があった。そのため、取り扱い性に優れる、有機溶媒を使用しないポリイミドとフッ素樹脂の混合水性分散液が求められていた。
【0005】
このような従来技術の問題点を解決するために、本発明者らは、有機溶媒を使用しなくても優れた接着性能および耐熱性能を備えた水系のポリイミド-フッ素樹脂混合分散液の開発を試みた。その結果、本発明者らは、このような分散液として、ポリイミドと、フッ素樹脂と、アルミナと、過硫酸カリウムとを含む、ポリイミドとフッ素樹脂が均一に分散した水性の混合分散液、およびこの分散液から製造された混合粉体ならびにこれらの製造方法を完成した(特願2019-98015)。
【0006】
しかし、上記の混合分散液の系は比較的複雑であり、分散液の作成の煩雑さやコストの点で、依然として改良する余地があるものであった。
【0007】
一方、環境に対する負荷が少ない工業原料の開発が注目されている中で、工業原料としてのリグニンが注目を集めている。リグニンは、セルロース、ヘミセルロースとともに植物細胞壁を構成する主要成分の一つであり、芳香環をもつ不定形な高分子化合物である。リグニンは、工業的にはパルプ製造時の排液中に変性した構造として得ることができる。リグニンは、森林資源に富む我が国においては比較的豊富な供給量を確保でき(粗く見積もると、地域農林業が持続的に産み出す植物性資源の2~3割はリグニンである、また天然由来のフェノール樹脂であることから、通常の工業材料としてのフェノール樹脂の代替物として使用できる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-210886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、ポリイミドベースの水性分散液とリグニンの組み合わせを用いて、塗料の開発を進めたが、その性能は必ずしも満足のゆくものではなかった。ところが、水性分散液中のポリイミドと添加剤を変更することにより、高レベルの接着性、絶縁性、耐熱性、耐蝕性を備えた、水性混合液からなる塗料、コーティング、サイジング剤、及びその製造方法を提供できることを見い出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明者らは、ポリイミドベースの水性分散液は、ポリアミド酸配合のPIA水性分散液をベースとしており、リグニン等の有効成分を含めることにより、優れた取り扱い性(安全性、環境負荷、設備費等)ならびに優れた接着性能および耐熱性能を発揮する、塗料、コーティング、及びサイジング剤用の水性分散液が得られることを見い出し、本発明を完成した。
【0011】
請求項1に係る発明は、塗料、ワニス、コーティング剤、およびサイジング剤からなる群より選択される剤として使用するための水性分散液であって、ポリアミド酸、アミン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、およびリグニンが分散しており、10~30重量%のポリアミド酸、5~20重量%のアミン、および5~20%のプロピレングリコールモノメチルエーテルを含有する水性分散液に関する。
【0013】
請求項に係る発明は、15~25重量%のポリアミド酸、10~15重量%のアミン、および5~15%のプロピレングリコールモノメチルエーテルを含有する、請求項に記載の水性分散液に関する。
【0015】
請求項に係る発明は、10~30重量%のリグニンを含む、請求項1または2に記載の水性分散液に関する。
【0016】
請求項に係る発明は、さらにポリエチレングリコールを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性分散液に関する。
【0017】
請求項に係る発明は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、四フッ化エチレン)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エポキシ、フェノール、ウレタン、アクリル、FRP、および無機フィラーからなる群より選択される少なくとも1つをさらに含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の水性分散液に関する。
【0018】
請求項に係る発明は、前記無機フィラーが、ピンクトルマリン、ブラックトルマリン、および六晶石(登録商標)からなる群より選択される1種以上の微粒子であり、前記無機フィラーの粒径が3μm以下である、請求項に記載の水性分散液に関する。
【0019】
請求項に係る発明は、前記無機フィラーがシランカップリング剤で処理されている、請求項5または6に記載の水性分散液に関する。
【0020】
請求項に係る発明は、ポリアミド酸、アミン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、およびリグニンが分散し、10~30重量%のポリアミド酸、5~20重量%のアミン、および5~20%のプロピレングリコールモノメチルエーテルを含有する水性分散液1を調製する工程、ならびに上記水性分散液にアルカリ性水溶液を添加して、前記水性分散液のpHを8~10に調整する工程を含む、塗料、ワニス、コーティング剤、およびサイジング剤からなる群より選択される剤として使用するための水性分散液の製造方法に関する。
【0021】
請求項に係る発明は、pH調整工程の前に、無機フィラーを粉砕し、ふるいにかけて粒径を3μm以下の極性結晶体微粒子を入手する工程、および前記無機フィラーを含む水性分散液2を調製する工程を含む、請求項に記載の水性分散液の製造方法に関する。
【0022】
請求項10に係る発明は、前記無機フィラーが、ピンクトルマリン、ブラックトルマリン、および六晶石(登録商標)からなる群より選択される1種以上である、請求項に記載の水性分散液の製造方法に関する。
【0023】
請求項11に係る発明は、前記無機フィラーがシランカップリング剤で処理されている、請求項9または10に記載の水性分散液の製造方法。
【0024】
請求項12に係る発明は、請求項1~のいずれか1項に記載の水性分散液をコーティング面に塗布する工程を含む、コーティング方法に関する。
請求項13に係る発明は、前記水性分散液を塗布した前記コーティング面を350~500℃未満に加熱処理する工程をさらに含む、請求項12に記載のコーティング方法に関する。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に係る発明によれば、ポリアミド酸、アミン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、およびリグニンが分散しており、10~30重量%のポリアミド酸、5~20重量%のアミン、および5~20%のプロピレングリコールモノメチルエーテルを含有する水性分散液であるので、塗料、ワニス、コーティング剤、およびサイジング剤からなる群より選択される剤として使用するための、ポリアミド酸、アミン、プロピレングリコールモノメチルエーテルが均一に分散した水性の混合分散液を提供することができる。また、リグニンを含むので、より優れた塗工性を備える水性分散液とすることができる。
それゆえに、有機溶媒を使用しなくとも、優れたコーティング特性を有する、塗料、コーティング剤、およびサイジング剤からなる群より選択される剤として使用するための水性分散液とすることができる。
また、この水性分散液は、有機溶媒を含まないため、優れた取り扱い性(安全性、環境負荷、設備費等)を有する。
さらに、この水性分散液は、10~30重量%のポリアミド酸、5~20重量%のアミン、および5~20%のプロピレングリコールモノメチルエーテルを含有するので、高性能の粘着性・接着性機能を有し、加えて優れた耐熱性、絶縁性、輻射放熱特性、防錆・防蝕性も兼ね備えた塗膜またはコーティングを形成することができる。
【0027】
請求項に係る発明によれば、15~25重量%のポリアミド酸、10~15重量%のアミン、および5~15%のプロピレングリコールモノメチルエーテルを含有するので、高性能の粘着性・接着性機能を有し、加えて優れた耐熱性、絶縁性、輻射放熱特性、防錆・防蝕性も兼ね備えた塗膜またはコーティングを形成するための水性分散液とすることができる。
【0029】
請求項に係る発明によれば、10~30重量%のリグニンを含むので、より優れた塗工性を備える水性分散液とすることができる。
【0030】
請求項に係る発明によれば、さらにポリエチレングリコールを含むので、より優れた塗工性を備える水性分散液とすることができる。
【0031】
請求項に係る発明によれば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、四フッ化エチレン)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エポキシ、フェノール、ウレタン、アクリル、FRP、および無機フィラーからなる群より選択される少なくとも1つをさらに含有するので、より優れた耐熱性能、加工性、および成形性、高接着性、絶縁性を備える組成物を提供することができる。
【0032】
請求項に係る発明によれば、無機フィラーが、ピンクトルマリン、ブラックトルマリン、および六晶石(登録商標)からなる群より選択される1種以上の微粒子であり、前記無機フィラーの粒径が3μm以下であるので、より優れた耐熱性能、加工性、および成形性を備える組成物を提供することができる。
【0033】
請求項に係る発明によれば、無機フィラーがシランカップリング剤で処理されているので、より優れた耐熱性能、加工性、および成形性を備える組成物を提供することができる。
【0034】
請求項に係る発明によれば、ポリアミド酸、アミン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、およびリグニンが分散し、10~30重量%のポリアミド酸、5~20重量%のアミン、および5~20%のプロピレングリコールモノメチルエーテルを含有する水性分散液1を調製する工程、ならびに上記水性分散液にアルカリ性水溶液を添加して、前記水性分散液のpHを8~10に調整する工程を含む、塗料、ワニス、コーティング剤、およびサイジング剤からなる群より選択される剤として使用するための水性分散液の製造方法であるので、有機溶媒を含まない水溶液に対する分散性を高めることができ、分散性に優れ、優れたコーティング特性を有する水性分散液を製造することができる。
【0035】
請求項に係る発明によれば、pH調整工程の前に、無機フィラーを粉砕し、ふるいにかけて粒径を3μm以下の極性結晶体微粒子を入手する工程、および前記無機フィラーを含む水性分散液2を調製する工程を含むので、有機溶媒を含まない水溶液に対する分散性を高めることができ、より分散性に優れ、より優れたコーティング特性を有するポリイミド-フッ素樹脂-極性結晶体微粒子混合水性分散液を製造することができる。
【0036】
請求項10に係る発明によれば、無機フィラーが、ピンクトルマリン、ブラックトルマリン、および六晶石(登録商標)からなる群より選択される1種以上であるので、より優れたコーティング特性を有する混合水性分散液を製造することができる。
【0037】
請求項11に係る発明は、無機フィラーがシランカップリング剤で処理されているので、より優れたコーティング特性を有する混合水性分散液を製造することができる。
【0038】
請求項12に係る発明によれば、請求項1~のいずれか1項に記載の水性分散液をコーティング面に塗布する工程を含むので、優れた耐熱性、絶縁性、輻射放熱特性、防錆・防蝕性も兼ね備えた塗膜またはコーティングを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)を含む本発明の水性分散液を用いて作製した塗膜(厚さ3μm)の耐熱性試験の結果を示す説明図である。
図2】PMを含む本発明の水性分散液を用いて作製した塗膜(厚さ6μm)の耐熱性試験の結果を示す説明図である。
図3】PM、PTFE、およびアルミナフィラーを含む本発明の水性分散液を用いて作製した塗膜(厚さ6μm)の耐熱性試験の結果を示す説明図である。
図4】PM、PTFE、およびアルミナフィラーを含む本発明の水性分散液を用いて作製した塗膜(厚さ11μm)の耐熱性試験の結果を示す説明図である。
図5】PMおよびPTFEを含む本発明の水性分散液を用いて作製した塗膜(厚さ6μmおよび11μm)、ならびに、PMおよびPTFEに加えてトルマリンを用いて作製した塗膜(厚さ5μmおよび9μm)における耐沸騰水試験の結果を示す説明図である。
図6】PMおよびクレゾールノボラックエポキシ樹脂エマルジョンを含む本発明の水性分散液を用いて作製した塗膜(厚さ7μmおよび14μm)、ならびに、PMおよびクレゾールノボラックエポキシ樹脂エマルジョンに加えてトルマリンを用いて作製した塗膜(厚さ7μmおよび14μm)における耐沸騰水試験の結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係る塗料、コーティング剤、およびサイジング剤からなる群より選択される剤として使用するための、ポリアミド酸、アミン、プロピレングリコールモノメチルエーテルを含有する水性分散液の好適な実施形態について説明する。
【0041】
本発明の水性分散液に使用される水はイオン交換水である。本発明の水性分散液は、その機能を発揮するために、構成成分の電気的相互作用が重要である。したがって、本発明においてはイオン交換水が好適に用いられ、水道水は基本的に使用されない。
【0042】
上記分散液は、混合水性分散液であってもよい。この混合水性分散液は、ポリアミド酸、アミン、プロピレングリコールモノメチルエーテルを含む。
【0043】
ポリアミド酸とは、アミク酸とも称し、化学材料として広く使われているポリイミドの前駆体として知られている。最近では、廃棄物としてのポリイミドを分解することによってポリアミド酸を工業的に得て、これを新たにポリイミドを合成するための原料として使うことが行われている(特許6402283号、特許6487501号、特許6186171号など)。
【0044】
ポリイミド(PI)は、分子構造中にイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。ポリイミドは、例えば、下記式で示される一般的な合成方法によって合成することができる。この合成方法では、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを原料に等モルで重合させ、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を得る。
【0045】
【化1】
このポリアミド酸を200℃以上の加熱、または触媒を用いて脱水・環化(イミド化)反応を進め、ポリイミドを得る。触媒を用いる場合はアミン系化合物が多く用いられ、イミド化によって発生した水を速やかに除去するための脱水剤としてカルボン酸無水物を併用する場合もある。
【0046】
【化2】
【0047】
本明細書において、ポリイミドの原料になり得る化合物をポリイミド前駆体と称する。ポリイミド前駆体には、ポリアミド酸が含まれる。また、ポリイミド前駆体は、特許第5695675号、または同第6186171号に記載される物質を含み得る。ポリイミド前駆体は、例えば、下記に示すようなものである。
【0048】
【化3】
【0049】
【化4】
(式中、記号Xは、アルカリ金属(リチウム/Li、ナトリウム/Na、カリウム/K、ルビジウム/Rb、又はセシウム/Ce)であり、添字n及びlは、ポリイミド構造の両側に位置するポリアミド酸構造の存在量(モル数)を示す記号であって、通常、0.1~0.8の範囲内の値であり、添字mは、ポリイミド構造の存在量(モル数)を示す記号であって、通常、0.2~0.9の範囲内の値である。)
【0050】
上記のポリイミドは特に限定されず、例えば、無水ピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸無水物の反応等により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられ、当業者に自明のものであればいかなるものでも用いることができる。
また、上記のポリイミドは、使用済みのポリイミドを粉砕してリサイクルしたものでも良く、未使用のものでも良い。
ポリイミドの形状は特に限定されないが、混合水性分散液中で浮遊分散状態を長期間保ちやすいという観点から、微粒子であり粒子の大きさが1μm~100μmの範囲にあることが望ましい。
ポリイミドの含有量は、混合水性分散液に対して、10重量%~40重量%であることが望ましく、15重量%~30重量%であることがより望ましい。
【0051】
本発明の水性分散液は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含む。ポリアミド酸は、160℃以上の加熱により脱水・環化(イミド化)することができる。このイミド化のプロセスにより、ポリアミド酸含有混合水性分散液は、より強固なコーティングを形成することができる。
【0052】
さらに、本発明の水性分散液は、ポリイミドの前駆体として、ポリアミド酸またはポリアミドエステルから選択される1種以上のポリイミド類縁体を含んでもよい。これらのポリイミド類縁体は、混合水性分散液の接着性能にプラスの効果をもたらし、高耐熱性、高強度のコーティング膜を作製するために必須の成分である。好ましくは、本発明の混合水性分散液は、ポリアミド酸を含むポリイミド分散液を含む。
【0053】
本発明において好ましく用いられる、原料としてのポリイミドを含有する製剤としては、例えば、株式会社仲田コーティング製、W-20などが挙げられるが、これに限定されない。
【0054】
また、このような製剤は、リン酸、エタノール分散液、アミン、プロピレングリコール、ノニオン成分(中性の添加剤)、着色成分としてのカーボンブラック等を含んでもよい。
【0055】
本発明の水性分散液に含有されるポリアミド酸の量は、水性分散液全体の1~50重量%、5~40重量%、または10~30重量%であり、好ましくは10~30重量%である。10~30重量%のポリアミド酸を含有することにより、より優れた塗工性を備える水性分散液とすることができる。
【0056】
本明細書において使用される、「アミン」という用語は、当業者によって通常理解される意味を有し、すなわち、アミンとは、アンモニアの水素原子を炭化水素基または芳香族原子団で置換した化合物の総称であり、置換した数が1つであれば第一級アミン、2つであれば第二級アミン、3つであれば第三級アミンという。また、アルキル基が第三級アミンに結合して第四級アンモニウムカチオンとなる。アンモニアもアミンに属する。本発明で使用されるアミンとしては、メチルジエタノールアミン(MDEA)が挙げられるがこれに限定されない。化学的には塩基や配位子として広く利用される一方、工業的な用途としては、合成触媒として、エレクトロニクス関連、集積回路や液晶ディスプレイ、半導体関連、電子デバイスの原料、ポリマー及び樹脂添加剤としての使用が挙げられる。なお、ここで、電子デバイスとは、電子の働きを応用し、増幅など能動的な仕事を行う素子の総称である。
【0057】
本発明の水性分散液に含有されるアミンの量は、水性分散液全体の1~50重量%、2~30重量%、または5~20重量%であり、好ましくは5~20重量%である。5~20重量%のアミンを含有することにより、より優れた塗工性を備える水性分散液とすることができる。
【0058】
本明細書において使用される、「プロピレングリコールモノメチルエーテル」という用語は、当業者によって通常理解される意味を有し、すなわち、下記の化学式(C4H10O2)を有し、分子量は90.12、化合物であり、別名としては、1-メトキシ-2-プロパノールとも称する。プロピレングリコールモノ、メチルエーテルは、低毒性溶剤、インキ溶剤、電子材料のフラックス洗浄剤、複写液、グリコール系溶剤の代替品、工業用洗剤、接着剤の溶剤が挙げられる。
【0059】
【化5】
【0060】
本発明の水性分散液に含有されるプロピレングリコールモノメチルエーテルの量は、水性分散液全体の1~50重量%、2~30重量%、または5~20重量%であり、好ましくは5~20重量%である。5~20重量%のプロピレングリコールモノメチルエーテルを含有することにより、より優れた塗工性を備える水性分散液とすることができる。
【0061】
本発明の水性分散液は、リグニンを含んでもよい。リグニンは、リグニンは木材の主要成分の1つであるフェノール性の高分子で、木材中の繊維同士を接着させる役割を果たしている。すなわち、高等植物の木化に関与する高分子のフェノール性化合物である。リグニンは、光合成(一次代謝)により同化された炭素化合物が、更なる代謝(二次代謝)を受けることで合成されるフェニルプロパノイドのうち、p-クマリルアルコール(p-ヒドロキシシンナミルアルコール)・コニフェリルアルコール・シナピルアルコールという3種類のリグニンモノマー(モノリグノール)が、酵素(ラッカーゼ・ペルオキシダーゼ)の触媒の元で1電子酸化されてフェノキシラジカルとなり、これがランダムなラジカルカップリングで高度に重合することにより三次元網目構造を形成した、巨大な生体高分子である。
【0062】
リグニンは、木材の主要成分の1つであるが、日光(紫外線)を受けると茶褐色に変色するため、木材からパルプを製造する際に、求められる紙の品質に応じて、木材チップからリグニンを除去することが不可欠となっている。このように、紙を製造するプロセスにおいて、廃棄物としての大量のリグニンが生じるので、このリグニンを工業的に有効利用する方法が模索されてきた。リグニンは、天然に存在するフェノール樹脂と言えるので、合成のフェノール樹脂の代替原料として使用できる可能性がある。本発明者らは、塗料、コーティング剤、およびサイジング剤からなる群より選択される剤として使用するための水性分散液の原料として、リグニンを使用することの可能性に着目した。
【0063】
本発明におけるリグニンは、水性塗料組成物における樹脂の代替品として使用されるため、その使用量は、特に限定されないが、水性分散液全体の1~50重量%、5~40重量%、または10~30重量%であり、10~30重量%が特に好ましい。10~30重量%のリグニンを含むことにより、より優れた塗工性を備える水性分散液とすることができる。
【0064】
本発明の水性分散液は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エポキシ、フェノール、ウレタン、アクリル、FRP、および無機フィラーからなる群より選択される少なくとも1つをさらに含有してもよい。本明細書において、「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、」、「エポキシ」、「フェノール」、「ウレタン」、「アクリル」、「FRP」、および「無機フィラー」という用語は、当業者によって通常理解される意味を有する。
【0065】
「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、四フッ化エチレン)」とは、はテトラフルオロエチレンの重合体で、フッ素原子と炭素原子のみからなるフッ素樹脂(フッ化炭素樹脂)である。テフロン(登録商標)の商品名で知られる。化学的に安定で耐熱性、耐薬品性に優れ、電気関係や高温腐食性流体を扱う化学的機械的用途において広く加工用素材として利用される。また、「テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)」および「テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)」も、PTFEと同様の性質を備え、同様の用途に使用される。
【0066】
「エポキシ」という用語は、ここでは「エポキシ樹脂」を意味し、これは、高分子内に残存させたエポキシ基で架橋ネットワーク化させることが可能な熱硬化性樹脂の総称である。エポキシ樹脂は、耐熱性温度は80℃、耐寒性温度は-30℃であり、毒性や引火性が小さいので取り扱いしやすい。
【0067】
「フェノール」という用語は、ここでは「フェノール樹脂」を意味し、これは、フェノールとホルムアルデヒドを原料とした熱硬化性樹脂の1つであり、世界で初めて植物以外の原料より人工的に合成された樹脂である。なお、前述のリグニンは天然のフェノール樹脂である。フェノール樹脂は、耐熱性は150~180℃であり、接着性が大きく、耐酸性が強く、電気絶縁性が高い、という特徴がある。
【0068】
本発明の水性分散液は、無機フィラーを含んでもよい。この無機フィラーは、好ましくは、少なくとも何らかの電気的性質を備えた任意の鉱物由来の微粒子である。さらに好ましくは、この無機フィラーは、極性結晶体であることが好ましい。本明細書において、極性結晶体とは、片側にプラス電極(+)、対する側にマイナス電極(-)を有する結晶体をいう。極性結晶体は、常に不安定な状態(電位差)を生じており、この電位差があるためにマイナス電極から絶えずプラス電極に向けて電子が放たれ流れている。本願明細書において、極性結晶体微粒子とは、ピンクトルマリン、ブラックトルマリン、および六晶石(登録商標)からなる群より選択される1種以上であるがこれらに限定されない。
【0069】
極性結晶体のうち、特によく知られているものはトルマリンである。トルマリンは、化学式XYAl(BOSiO18(O,OH,F)からなる結晶体であり、このうち、ドラバイト(dravite)(苦土電気石)NaMgAl(BOSi18(OH)、elbaite(エルバイト)(リシア電気石)Na(Li,Al)Al(BOSi18(OH)、ショール(鉄電気石)NaFeAl(BOSi18(OH)、ウバイト(uvite)CaMg(AlMg)(BOSi18(OH,F)は、電気石と呼ばれているものである。
【0070】
トルマリンは、1703年、現スリランカのセイロン島で発掘され、ヨーロッパに渡ったといわれている。その後1880年、ノーベル物理学賞を受けたピエール・キュリーはトルマリンの結晶に外部から圧力をかけると結晶表面に電荷が生じることを発見した。また、トルマリンに熱エネルギーを加えたときも電荷が生じることが明らかとなった。トルマリンに圧力を加えたときに生じる現象を圧電気(ピエゾ電気)といい、熱を加えたとき結晶の両極に電子が分かれ、プラスとマイナスの電気が生じる現象を焦電気(ピロ電気)という。トルマリンは、圧力や熱を加えたときに、石の両極にプラスとマイナスの電極が生じ電気が発生する。プラス極は電子を引き寄せ、マイナス極から結晶の外(水の中やカラダの皮膚表面など電気の流れやすい所)に電子を放出する。この発生した水や空気中の水分を電気分解し、ヒドロキシルイオン(H2-)という、マイナスイオンを放出する。
【0071】
本発明は、極性結晶体を使用することにより、卓越したコーティング特性を備えたコーティング剤、塗料を得ることができるが、これはトルマリンの上記のような電気的特性によるものと推定されるが、これに限定されない。
【0072】
極性結晶体としては、六晶石(登録商標)を使用してもよい。六晶石(登録商標)は、凝灰岩質玄武岩で、短冊状の斜長石とその間を充填する単斜輝石・不透明鉱物・少量の橄欖石、球状又は不定形のセラドナイトからなり、いわゆる紫水晶の周辺岩石中で取り囲む分布をする鉱物である。成分としては、Fe2O3を重量比で5%以上含むものが好ましく、特に7%以上含むものが好ましい。
【0073】
本発明は、無機フィラーとして、シランカップリング剤で処理されている無機フィラーを用いてもよい。シランカップリング剤の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物から選択される1種以上が挙げられるがこれらに限定されない。
【0074】
なお、混合水性分散液は、上記した構成要素以外にも、混合水性分散液を改質するためにその他の添加物等を含有していてもよい。
添加物としては、例えば、溶剤、粘着付与剤、可塑剤、硬化剤、架橋剤、希釈剤、充填剤、増粘剤、顔料等が挙げられるが、これに限定されず、混合水性分散液の性質を改質するために通常用いられ、当業者に自明のものであれば、いかなるものでも用いることができる。
【0075】
以下、塗料、コーティング剤、およびサイジング剤からなる群より選択される剤として使用するための、ポリアミド酸、アミン、プロピレングリコールモノメチルエーテルを含有する水性分散液の製造方法について説明する。
【0076】
この水性分散液の製造方法は、ポリアミド酸、アミン、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルを含む水性分散液1を調製する工程、ならびに上記水性分散液にアルカリ性水溶液を添加して、前記水性分散液のpHを約10に調整する工程を含む。
【0077】
この水性分散液の製造方法は、さらに、pH調整工程の前に、無機フィラーを粉砕し、ふるいにかけて粒径を3μm以下の極性結晶体微粒子を入手する工程、および上記無機フィラーを含む水性分散液2を調製する工程、および350~500℃未満に加熱処理する工程を含んでもよい。
【0078】
ポリイミドは、水系溶媒に溶け難い場合がある。そのため、ポリイミドの水分散性を向上させるために、混合水性分散液を調製する前に、ポリイミドを前処理することもできる。
前処理工程は、ポリイミドを、リン酸エタノール溶液と混合して、その後混合液を乾燥させて水分を蒸発させ、ポリイミド-リン酸混合粉体を製造することを含む。
ポリイミド-リン酸混合粉体を用いることにより、ポリイミド単体を用いた場合よりも、ポリイミドの水分散性を大きく向上させることができ、より容易に本発明に係る混合水性分散液を製造することができる。
なお、この前処理工程を行わなくとも、本発明に係る混合水性分散液を製造できることは言うまでもない。
【0079】
調製した水性分散液は、水分を蒸発させることで粉体とすることができる。
上記の粉体は、ポリイミドが均一に混合され、優れた接着性および耐熱性を有しているため、高耐熱製品等の幅広い製品に使用できる優れた成形材料として用いることができる。
【0080】
上記の粉体は、本発明に係るポリアミド酸、アミン、プロピレングリコールモノメチルエーテルを含有する水性分散液を乾燥させ、水分を蒸発させることにより製造される。
なお、上記の粉体を製造するための乾燥方法は特に限定されず、本発明に係る水性分散液の水分を蒸発させ粉体とすることができる方法であればいかなる方法を用いても良い。
【0081】
本発明の水性分散液を使用するコーティング方法は、上記の水性分散液をコーティング面に塗布する工程、および350~500℃未満まで加熱処理する工程を含む。
加熱処理は焼成とも称し、本発明のコーティングを生成するために必要な工程であるが、加熱処理の方法は特に限定されず、当該分野において使用される通常の加熱装置が使用できる。
【0082】
本発明の水性分散液を使用するコーティング方法は、通常は、金属面などの硬い面への塗膜やコーティングなどを意図しているものであるが、薄膜やテープなどの柔らかい表面や極薄のフィルム等にも適用することができる。とりわけ、絶縁性や耐熱性が要求されるテープやフィルムに対して、本発明の水性分散液から作られるコーティングは有効である。
【実施例
【0083】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されるものではない。
【0084】
(ベース素材混合液の調製)
20重量%のPIA粉体、12重量%のアミン、10重量%のプロピレングリコールモノメチルエーテル、および58重量%のイオン交換水を混合し、適量のアミンを添加することによりpHを10に調整した。
【0085】
(リグニン液の調製)
20重量%のリグニン粉体(改質リグニン、PEG入り)、20重量%のプロピレングリコールモノメチルエーテル、13重量%のアミン、および47重量%のイオン交換水を混合し、適量のアミンを添加することによりpHを10に調整した。
【0086】
(実施例1:リグニンハイブリッド塗料の配合)
30重量%のベース素材混合液、および70重量%のリグニン液を混合して、リグニンハイブリッド塗料を配合した。
【0087】
(実施例2:PTFEハイブリッド塗料の配合)
30重量%のベース素材混合液、および70重量%のPTFEディスパージョン(水分40重量%、固形分60重量%)を混合して、PTFEハイブリッド塗料を配合した。
【0088】
(実施例3:エポキシハイブリッド塗料の配合)
49重量%のベース素材混合液、および51重量%のクレゾールノボラックエポキシ樹脂エマルジョン(固形分45重量%)を混合して、エポキシハイブリッド塗料を配合した。
【0089】
(性能評価試験1-碁盤目試験)
(試験方法)
碁盤目試験は以下の通りに実施した。
1.実施例および比較例の組成物を、夫々恒温振とう機で、60℃、2時間攪拌した。
2.攪拌した実施例および比較例を、バーコーターを用いて、厚さ2mmのアルミ板(夫々、n=2)に塗工してサンプルを調製した。
3.サンプルを、380℃で15~20分間焼成した。
4.焼成したサンプルを用いて、JIS K5600 5-6に規定される碁盤目試験(クロスカット法)を行った。
【0090】
(試験結果)
碁盤目試験の結果から、比較例は、従来の塗膜の接着性能にとどまっている程度のものであった。一方で、リグニン、PTFE樹脂、またはエポキシ樹脂を含む実施例は、比較例と比較して強固な接着性を示していた。
【0091】
(性能評価試験2-布テープを使った剥離試験(テープ剥離試験))
(テープ剥離試験)
碁盤目試験は以下の通りに実施した。
1.実施例および比較例を、夫々恒温振とう機で、60℃、2時間攪拌した。
2.50mm×100mm×2mmサイズのアルミ板(夫々、n=2)の全長に沿って、布テープ(1cm×10cm)を貼り付けた。布テープの全長はアルミ板の全長よりも長くした。このアルミ板をテストピースとして使用した。布テープの上から、テストピースの長さ方向の半分まで、攪拌した実施例および比較例を、バーコーターを用いて塗工した。
3.テストピースのコーティング面を、380℃で15~20分間焼成した。
4.テストピースの全体に、トップコートとして、PTFEディスパージョン(固形分60%、水40%)を塗布し(厚さ35μm~60μm)、乾燥させた。
5.乾燥させたテストピースにおいて、トップコートのみの側から、布テープを上方に引っ張ってはがし、特に、トップコートのみの部分と、実施例又は比較例を塗布した部分との境目からの布テープのはがれ具合を評価した。
【0092】
(試験結果)
テープ剥離試験の結果から、比較例は、従来の塗膜の接着性能にとどまっている程度のものであった。一方で、リグニン、PTFE樹脂、またはエポキシ樹脂を含む実施例は、比較例と比較して強固な接着性を示していた。
【0093】
本発明の水性混合液に係る塗料の性能を以下の表1に要約する。
【0094】
【表1】

【0095】
(性能評価試験3-塗膜耐熱性試験)
(手順)
塗膜耐熱性試験は以下の通りに実施した。
1.本発明の水性分散液を、夫々恒温振とう機で、60℃、2時間攪拌した。
2.攪拌した本発明の水性分散液を、#14バーコーターを用いて、厚さ2mmの純アルミ板に膜厚3μmまたは6μmとなるように塗工してサンプルを調製した。
3.サンプルを、下記の条件にてそれぞれ焼成した。
(1)60~420℃×45分間
(2)150~440℃×45分間
(3)150~460℃×58分間
(4)60~500℃×75分間
4.目的温度まで昇温する中で硬化も同時実施し、目的温度になったら取り出して、急冷の後、外観評価およびテープ剥がし試験を行った。
(試験結果)
比較例の塗膜耐熱性は420℃より下であったが、実施例(シランカップリング剤あり)の水性分散液の塗膜耐熱性は目視上460℃が上限であり、密着性については420℃が上限であった。この傾向は、塗膜の厚みが3μmの場合と6μmの場合とで同様であった。さらに、PTFE/アルミナフィラーありの実施例においては、膜耐熱性は目視上480℃が上限であり、密着性については480℃が上限であった。この傾向は、塗膜の厚みが6μmの場合と11μmの場合とで同様であった。
【0096】
(性能評価試験4-塗装後の耐沸騰水試験)
(手順)
塗装後の耐沸騰水試験は以下の通りに実施した。
1.本発明の水性分散液を、夫々恒温振とう機で、60℃、2時間攪拌した。
2.攪拌した本発明の水性分散液を、#14、28バーコーターを用いて、厚さ2mmの純アルミ板に膜厚5μm、6μm、9μmまたは11μmとなるように塗工してサンプルを調製した。
3.硬化サンプルを、下記の条件にて、沸騰水入りの鍋に投入後、120分間放置し、その後外観・テープ剥がしで密着性を評価した。
(試験結果)
PTFEを含有する本発明の水性分散液、およびPTFEとエポキシを含有する元の水性分散液は、上記効果条件下では耐沸騰水試験に合格した。
【0097】
(図面に示す試験結果の詳細な説明)
下記において、図1~6に示される実験の詳細をそれぞれ表2~7として示す。
図1は、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)を含む本発明の水性分散液を用いて作製した塗膜(厚さ3μm)の耐熱性試験の結果を示す。図1の試験の詳細を表2に示す。この塗料の耐熱性は、440℃付近で限界であり、それ以上の温度では、樹脂の変質または脱落が観察され、塗膜としては使うことができなかった。
【0098】
【表2】
【0099】
図2は、PMを含む本発明の水性分散液を用いて作製した塗膜(厚さ6μm)の耐熱性試験の結果を示す。図2の試験の詳細を表3に示す。この塗料の耐熱性は、440℃付近で限界であり、それ以上の温度では、樹脂の変質または脱落が観察され、塗膜としては使うことができなかった。
【0100】
【表3】
【0101】
図3は、PM、PTFE、およびアルミナフィラーを含む本発明の水性分散液を用いて作製した塗膜(厚さ6μm)の耐熱性試験の結果を示す。図3の試験の詳細を表4に示す。この塗料の耐熱性は、460℃でも良好であったが、480℃で若干の不具合が見い出され、500℃では樹脂の変質または脱落が観察され、塗膜としては使うことができなかった。
【0102】
【表4】
【0103】
図4は、PM、PTFE、およびアルミナフィラーを含む本発明の水性分散液を用いて作製した塗膜(厚さ11μm)の耐熱性試験の結果を示す。図4の試験の詳細を表5に示す。この塗料の耐熱性は、460℃でも良好であったが、480℃で若干の不具合が見い出され、500℃では樹脂の変質または脱落が観察された。
【0104】
【表5】
【0105】
図5は、PMおよびPTFEを含む本発明の水性分散液を用いて作製した塗膜(厚さ6μmおよび11μm)の耐沸騰水試験の結果を示す。図5の試験の詳細を表6に示す。この塗膜は、耐沸騰水試験において非常に良好な結果であった。
【0106】
【表6】
【0107】
図6は、PMおよびクレゾールノボラックエポキシ樹脂エマルジョンを含む本発明の水性分散液を用いて作製した塗膜(厚さ7μmおよび14μm)の耐沸騰水試験の結果を示す説明図である。図6の試験の詳細を表7に示す。この塗膜は、耐沸騰水試験において非常に良好な結果であった。
【0108】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明に係る水性分散液は、ポリアミド酸、アミン、プロピレングリコールモノメチルエーテルを含有するので、優れた接着性能および耐熱性能を発揮する、塗料、コーティング剤、およびサイジング剤からなる群より選択される剤として使用することができ、また、簡便な操作により、このような水性分散液を製造することができる。
さらに、有機溶媒を使用しなくとも、有機溶媒を含まないため、優れた取り扱い性(安全性、環境負荷、設備費等)を有する。
それゆえに、本発明に係るポリイミド含有水性分散液は、鍋、釜、フライパン等の耐熱塗料、編物、織物、ガラス布材、炭素繊維、炭化繊維などの耐熱含浸剤、その他種々の製品のコーティング剤、塗料、ワニス等として好適に用いられる。とりわけ、本発明に係るポリイミド含有水性分散液は、その高耐熱性、高絶縁性、高接着性により、電気自動車(EV)や5G(大容量・高速度通信)機器の製造工程において、特に好適に使用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6