(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】皮膚消毒剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/14 20060101AFI20250128BHJP
A61K 31/045 20060101ALI20250128BHJP
A01N 33/12 20060101ALI20250128BHJP
A01N 31/04 20060101ALI20250128BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20250128BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20250128BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20250128BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20250128BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20250128BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20250128BHJP
A61P 31/02 20060101ALI20250128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
A61K31/14
A61K31/045
A01N33/12 101
A01N31/04
A01N25/00 101
A01P1/00
A61K47/10
A61K47/36
A61K47/14
A61K47/22
A61P31/02
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2020174995
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】319001710
【氏名又は名称】シーバイエス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 めぐみ
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-210266(JP,A)
【文献】特開2008-189645(JP,A)
【文献】特開2019-052107(JP,A)
【文献】特開2009-173641(JP,A)
【文献】特開2018-008934(JP,A)
【文献】特開2011-079791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)~(E)成分を、組成物全体に対し下記割合で含有するとともに、水を含有し、且つpH(JIS Z-8802:2011「pH測定方法」)が25℃で8~11であ
り、下記(D)成分に対する(C)成分の割合(C/D)が、0.1111~0.625であることを特徴とする皮膚消毒剤組成物:
(A)カチオン性界面活性剤0.01~5質量%、
(B)低級アルコール35~60質量%、
(C)有機酸およびそのアルカリ金属塩からなる群から選択される少なくとも一種0.01~2質量%、
(D)無機アルカリ性物質0.1~5質量%、
(E)保湿剤0.001~2質量%。
【請求項2】
前記(A)成分が、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、オクチルデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムメトサルフェイト、ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩、塩化アルキルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の皮膚消毒剤組成物。
【請求項3】
前記(B)成分が、エチルアルコール、イソプロパノールから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の皮膚消毒剤組成物。
【請求項4】
前記(C)成分が、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸及びこれらのアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の皮膚消毒剤組成物。
【請求項5】
前記(D)成分が、炭酸水素アルカリ金属塩、炭酸カリウム、アルカリ金属水酸化物から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の皮膚消毒剤組成物。
【請求項6】
前記(E)成分が、グリセリン、ヒアルロン酸ナトリウム、アジピン酸ジイソプロピル、アラントイン、ミリスチン酸イソプロピルから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の皮膚消毒剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスおよび食中毒菌の双方に効果を発現する皮膚消毒剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノロウイルスによる食中毒が問題になっている。その感染力の強さに起因して発生件数の増加とともに、大規模な食中毒事件を引き起こしている。ノロウイルスによる食中毒の原因は、カキなどの2枚貝を食することにあるといわれていたが、最近では、食品、糞便や嘔吐物に含まれるノロウイルスが、人から人へ感染すること、さらに、汚染された食品や水を介して清浄な表面に接触することなどにより広がってしまうといった二次汚染が主原因であることがわかってきた。
【0003】
この二次汚染を防ぐためには、まな板、包丁などの調理器具・用具の殺菌、出入り口のドアノブ等の洗浄および嘔吐物の処理と共に、手指の消毒が重要となってくる。
【0004】
ところで、「ノロウイルス」とは、カリシウイルス科のノロウイルス属に属するRNA型ウイルスである。RNAの周りをカプシドと呼ばれるたんぱく質の殻で覆われており、エンベロープと呼ばれる糖と脂質からなる膜を持っていない。
【0005】
一般にエンベロープを持っているウイルスは、薬剤により簡単にエンベロープが破壊され、宿主細胞のレセプターと結合できなくなるので不活化できる。しかし、ノロウイルスはこのエンベロープを持っていないために、薬剤に対して抵抗を有している。
【0006】
ノロウイルスの不活化の方法としては、次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いる方法が知られている(非特許文献1)。しかしながら、この方法は刺激性の点から手指の消毒には使用できない。別の方法として、アルコールを主成分とする消毒剤組成物を用いる方法が知られている。
【0007】
例えば、特開2014-19659号公報(特許文献1)には、(A)エタノールを50~70重量%、ならびに、(B)有機酸、有機酸塩及びエタノールアミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種を0.05~4.50重量%含み、pHが6~12であることを特徴とする、ノロウイルスに対して優れた消毒効果を有するアルコール系消毒液、及び、当該消毒液を用いた消毒方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】「平成27年度 ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書」国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部、平成28年11月18日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、既存のアルコール系消毒剤組成物はノロウイルスに対して不活化効果は有するものの、手指等の皮膚の消毒のために用いると、皮膚の荒れを引き起こすという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明を完成するに至った。
[1]下記の(A)~(E)成分を、組成物全体に対し下記割合で含有するとともに、水を含有し、且つpH(JIS Z-8802:2011「pH測定方法」)が25℃で8~11であることを特徴とする皮膚消毒剤組成物:
(A)カチオン性界面活性剤0.01~5質量%、
(B)低級アルコール35~60質量%、
(C)有機酸およびそのアルカリ金属塩からなる群から選択される少なくとも一種0.01~2質量%、
(D)無機アルカリ性物質0.1~5質量%、
(E)保湿剤0.001~2質量%。
[2]前記(A)成分が、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、オクチルデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムメトサルフェイト、ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩、塩化アルキルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムから選ばれる少なくとも一種である[1]に記載の皮膚消毒剤組成物。
[3]前記(B)成分が、エチルアルコール、イソプロパノールから選ばれる少なくとも一種である[1]又は[2]に記載の皮膚消毒剤組成物。
[4]前記(C)成分が、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸及びこれらのアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種である[1]~[3]に記載の皮膚消毒剤組成物。
[5]前記(D)成分が、炭酸水素アルカリ金属塩、炭酸カリウム、アルカリ金属水酸化物から選ばれる少なくとも一種である[1]~[4]に記載の皮膚消毒剤組成物。
[6]前記(E)成分が、グリセリン、ヒアルロン酸ナトリウム、アジピン酸ジイソプロピル、アラントイン、ミリスチン酸イソプロピルから選ばれる少なくとも一種である[1]~[5]に記載の皮膚消毒剤組成物。
【発明の効果】
【0012】
すなわち、本発明は、ウイルスおよび食中毒菌の双方に不活化効果または殺菌効果を発現する消毒剤組成物であって、手指等の皮膚に適用しても皮膚への影響が少ない消毒剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、(A)カチオン性界面活性剤、(B)低級アルコール、(C)有機酸およびそのアルカリ金属塩、(D)無機アルカリ性物質、(E)保湿剤と、水とを用いて得られる。
【0015】
本発明の皮膚消毒剤組成物に用いられる(A)成分のカチオン性界面活性剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、オクチルデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムメトサルフェイト、ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩、塩化アルキルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化セチルピリジウム、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。これらは単独で用いても、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
上記(A)成分のカチオン性界面活性剤は、皮膚消毒剤組成物中に、0.01~5質量%の範囲で含めることができる。殺菌性、貯蔵安定性の観点から、0.02~2質量%の範囲に設定することが好ましく、0.05~1質量%の範囲がさらに好ましい。カチオン性界面活性剤が多いほど殺菌効果やウイルス不活化効果は高くなるが、多すぎると皮膚刺激性が高くなる。また、組成物全体のバランスとして不利になり、貯蔵安定性の低下や殺菌効果およびウイルス不活化効果の上限近くになり経済的に有利でない場合がある。
【0017】
本発明の皮膚消毒剤組成物に用いられる(B)成分の低級アルコールとしては、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、変性アルコール等があげられる。変性アルコールとしては、例えば、ゲラニオール,八アセチル化ショ糖,フェニルエチルアルコール,ブルシン,リナノール,ジエチルフタレート,リナリールアセテート,ベンジルアセテート,10質量%安息香酸デナトニウムアルコール溶液,フレーバーH-No.11やH-13等の変性剤により変性された各種変性エチルアルコール等があげられる。これらは単独で用いても、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、市販品であれば、アルコール濃度が60~100質量%のものが好ましく用いられる。特に、安全性、毒性の点からエチルアルコールが好適に用いられる。
【0018】
上記(B)成分の低級アルコールは、皮膚消毒剤組成物中に、35~60質量%の範囲で含めることができる。好ましくは、殺菌効果、ウイルス不活化効果、皮膚への影響、貯蔵安定性の観点から、37~54質量%がより好ましく、39~49質量%の範囲に設定することがさらに好ましい。少ないと皮膚への影響が少なくなるが、殺菌効果やウイルス不活化効果に乏しく、また乾燥性も劣り使い勝手が悪くなる。また多いと殺菌効果や特にウイルスの不活化効果は向上するが、皮膚へ影響が大きくなり、他の配合成分が析出して貯蔵安定性の低下につながる。
【0019】
上記(C)成分の有機酸およびそのアルカリ金属塩としては、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸及びこれらのアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種であって、アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。さらに詳しくは、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム等が挙げられる。これらは単独で用いても、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記(C)成分の有機酸およびそのアルカリ金属塩は、皮膚消毒剤組成物中に、0.01~2質量%の範囲で含めることができる。好ましくは、ウイルス不活化効果、貯蔵安定性の観点から、0.1~1質量%の範囲に設定することが好ましい。少なすぎるとウイルス不活化効果に乏しく、多すぎると貯蔵安定性の低下につながる。
【0021】
上記(D)成分の無機アルカリ性物質としては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩等が挙げられる。より具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。これらは単独で用いても、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。貯蔵安定性の点から、好ましくは、炭酸水素アルカリ金属塩、炭酸カリウム、アルカリ金属水酸化物であり、特に、炭酸水素ナトリウムと水酸化カリウムとの組み合わせが、ウイルスの不活化、貯蔵安定性、皮膚への刺激性の点で好適である。
【0022】
上記(D)成分の無機アルカリ性物質は、0.1~5質量%の範囲で含めることができる。好ましくは、ウイルスの不活化、貯蔵安定性、皮膚への刺激性の点から、0.3~3質量%、さらに好ましくは、0.5~1.5質量%である。少なすぎるとウイルス不活化効果に乏しく、多すぎると貯蔵安定性が低下し、皮膚への影響が大きくなり不利になる。
【0023】
上記(E)成分の保湿剤としては、グリセリン、ヒアルロン酸ナトリウム、アジピン酸ジイソプロピル、アラントイン、ミリスチン酸イソプロピル、ジグリセリン、エリスリトール、キシリトール、リビトール、アラビトール、ガラクチトール、ソルビトール、イジトール、マンニトール、パラチニット、マルチトール、ラクチトール、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、マルトテトライトール、イソマルトテトライトール、オリゴ糖類、多糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、アロエ抽出物、ヘチマ抽出物等が挙げられる。
【0024】
上記(E)成分の保湿剤は、0.001~2質量%の範囲で含めることができる。好ましくは、皮膚への刺激緩和性、貯蔵安定性、使用感の点から、0.1~1質量%である。少なすぎると皮膚への刺激緩和性が劣り、多すぎると貯蔵安定性が低下し、手指等に適用した後の肌触りが不快に感じる可能性がある。
【0025】
そして、本発明の皮膚消毒剤組成物の原液のpH(JISZ-8802:2011「pH測定方法」)は、25℃で、8~11の範囲であることが好ましく、特に、殺菌効果、ウイルス不活化効果、皮膚への影響の点から、8.5~10.5の範囲であることが好ましい。低すぎると殺菌効果、ウイルス不活化効果が劣り、高すぎると皮膚への影響の点から不利である。特に8.8~10.5の範囲にすると、有機物汚れが存在している場合でもウイルス不活化効果が得られるので好ましい。
【0026】
本発明の皮膚消毒剤組成物に用いられる水としては、水道水、軟水、イオン交換水、純水、精製水等があげられるが、組成物の貯蔵安定性の点から、軟水、イオン交換水、純水、精製水等の使用が好ましい。
【0027】
本発明の皮膚消毒剤組成物において水は、本発明の皮膚消毒剤組成物中において、他の成分との総和が100質量%になるのに必要な量として残質量%配合される。
【0028】
さらに、本発明の皮膚消毒剤組成物には、必要に応じて、カチオン性界面活性剤以外の界面活性剤、染料、香料、金属腐食抑制剤、酸化防止剤、水溶性増粘剤等の粘度調整剤等を用いることができる。
【0029】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、各成分が液体である場合には混合攪拌することにより、また固形成分を含む場合には水にまず溶解後、他の液体成分を添加し混合攪拌することが一般的であるが、その組成によっては、各成分の添加順序、溶解順序、必要に応じて行われる加温/冷却等の製造手順は、特に制限されるものではない。
【0030】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、適宜の方法により使用することができ、例えばスプレー等により手指等の表面に噴霧し、所定時間後、概ね30秒~2分間程度放置し、乾燥させる。具体的には、本発明の皮膚消毒剤組成物の原液を内填した専用のディスペンサーを、厨房内、台所、出入口等に配置し、使用時毎に、約6~12ml/m2の割合で噴霧することにより、手指等に対して、殺菌消毒を行うことができる。本発明の皮膚消毒剤組成物を手指等に噴霧した後、皮膚消毒剤組成物が付着した部分を擦ることで、皮膚消毒剤組成物の乾燥が早まる。
【0031】
また、本発明の皮膚消毒剤組成物は、プラスチック容器、ポンプ付き容器、パウチ、チューブ等に充填されて提供される。また、1回毎に使用される相当量で、個包装し、携帯性をもたせて提供することもできる。
【0032】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、ウイルスや食中毒菌の付着した被殺菌消毒物を殺菌消毒するために用いることができる。ここで「ウイルス」としては、カリシウイルスが挙げられ、好ましくはノロウイルスである。また「食中毒菌」としては、黄色ブドウ球菌、病原大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクター、腸炎ビブリオ、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌等が挙げられ、好ましくは黄色ブドウ球菌、病原大腸菌等の細菌である。「殺菌消毒」とは、ウイルスの不活化、及び/又は細菌の殺菌/除菌を意味する。
【実施例】
【0033】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。本発明は、これらに限定されるものではない。なお、以下の記載において「%」は質量%を意味する。
【0034】
後記の表1~表7に示す組成により、実施例1~27、比較例1~10の皮膚消毒剤組成物(以下、供試薬剤ともいう。)を調製した。そして、得られた供試皮膚消毒剤組成物について、ウイルスに対する不活化力、食中毒菌に対する殺菌力、pH、貯蔵安定性、皮膚水分量(皮膚への影響)の試験項目について、以下の試験方法と判定基準により評価し、その結果を後記の表1~表7に併せて示した。
【0035】
(1)pH
pHメーター(型式:pH METER F-12、堀場製作所社製)を用いて、JIS Z-8802:2011「pH測定方法」にしたがって、供試薬剤の原液のpHを測定した。
【0036】
(2)貯蔵安定性
〔試験方法〕
供試薬剤を100mLの透明プラスチック瓶に入れ、恒温槽(形式:冷凍冷蔵庫HRF、ホシザキ社製)により 0℃の雰囲気下に3週間保管後、その外観を目視により観察し、以下の判定基準で評価した。
〔判定基準〕
○:沈殿、析出、分離が生じない
△:沈殿、析出、分離のいずれかがやや生じる
×:沈殿、析出、分離のいずれかが多く生じる
【0037】
(3)皮膚水分量(皮膚への影響)
〔試験方法〕
供試薬剤2mlを手の平に取り、手指にまんべんなく塗り広げた。10分後に水分計ASA-M2/S(アサヒバイオメッド社製)を用いて水分量を測定し、試験前に測定した水分量と比較し、水分量変化率を算出した。
〔判定基準〕
◎:変化率が200%以上
〇:変化率が150%以上、200%未満
△:変化率が100%以上、150%未満
×:変化率が100%未満
水分量変化率が100%以上であれば、保湿効果がある(皮膚への影響が少ない)と判断した。
【0038】
(4)使用感
〔試験方法〕
供試薬剤2mlを手の平に取り、手指にまんべんなく塗り広げた。1分後の手肌の感触を下記の判断基準に基づいて官能評価した。
〔判定基準〕
◎:べたつき、ざらつきがほとんど感じられない
○:べたつき、ざらつきのいずれかが若干感じられる
×:べたつき、ざらつきのいずれかが著しく感じられる
【0039】
(5)ネコカリシウイルス(Feline calicivirus,FCV)
不活化試験
1.試験方法
ノロウイルスの代替ウイルスであるFCVを用いて、実施例及び比較例の皮膚消毒剤組成物のノロウイルス不活化効果の判定試験を行った。試験方法は公知の手法(食品衛生検査指針微生物編(2015)「ウイルス不活化試験」;「平成27年度 ノロウイルスの不活化条件に関する調査 報告書」国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部等)に準じた手法で行った。
【0040】
すなわち、ウイルス液(FCV F9株)と実施例及び比較例の各皮膚消毒剤組成物とをそれぞれ1:9の割合で混合し、室温で30秒間放置し、その後2%FBSを添加したDMEM培地で7倍希釈して反応を停止した。次いで、7倍階段希釈を行い、各希釈液をネコ腎由来細胞(CRFK細胞)に接種して、50%感染終末点法(TCID50/ml)で生存ウイルス量を定量した。
【0041】
有機汚れを想定した有機物負荷試験を行うために、10%肉エキス(ナカライテスク)を添加したMEM培地とウイルス液とを等量混合して5%肉エキスを含むウイルス液を調製し、このウイルス液についても上記と同様の操作を行い、生存ウイルス量を定量した。
【0042】
有効性の判定に際しては、反応後のウイルス希釈を7倍階段希釈で行ったことから、実測値(log7)をlog10へと換算し、当該換算値に基づいて判定を行った。不活化効果については感染価減少量に基づいて判定し、接種したウイルスとの感染価(log10換算値)の差に従って、◎:十分な効果あり(4log10以上の感染価減少量)、○:効果あり(2log10以上4log10未満の感染価減少量)、ならびに×:効果なし(2log10未満の感染価減少量)と判定した。
【0043】
(6)食中毒菌に対する殺菌試験
〔試験方法〕
Association of Official Agricultural Chemists(AOAC)のサニタイザー試験法に準じて行なった。詳しくは、供試薬剤原液9.9mlに、Nutrient Broth(NB)培地(MERCK社製)に108~109になるよう調整した菌液を0.1ml加える。30秒接触させた後、その1mlを不活化剤入りリン酸緩衝液9mlに加え、その後すぐに段階希釈を行う。Plate Count Agar(PCA)培地(MERCK社製)で混釈し、37℃で48時間培養後に生存菌数を測定した。接種菌数と生存菌数の対数差からLogReductionを算出し、以下の判定基準で評価した。
なお、供試菌としては、大腸菌(Escherichia coli NBRC-3972)と黄色ブドウ球菌(Staphylococus aureus NBRC-12732)を用いた。
〔判定基準〕
○:LogReductionが5以上
×:LogReductionが5未満
【0044】
なお、以下の表1~表7に示した成分の詳細は以下のとおりである。ただし、これらの表において、各成分の組成を示す数字は、純分で示したものである。
【0045】
(A)成分
・BAC:塩化ベンザルコニウム
製品名:GEM、三洋化成工業社製、有効成分50%
・BZC:塩化ベンゼトニウム
製品名:ハイアミン1622-I、ロンザ社製、有効成分100%
・DOAC:ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド
製品名:バーダックLF-80、ロンザ社製、有効成分80%
・DDAS:ジデシルジメチルアンモニウムメトサルフェイト
製品名:リポガード210-80MSPG、
ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、有効成分80%
・DHAC:塩化アルキルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム
製品名:プラパゲンHY、クラリアント社製、有効成分40%
【0046】
(B)成分
・エタノール
製品名:トレーサブル95 1級、日本アルコール販売株式会社製、
有効成分量95%
・IPA:イソプロピルアルコール
製品名:イソプロピルアルコール、関東化学社製(試薬1級)、
有効成分量99%
【0047】
(C)成分
・クエン酸
製品名:クエン酸(無水)、扶桑化学工業社製、有効成分量100%
・乳酸ナトリウム
製品名:発酵乳酸ナトリウム50%、コービオン社製、有効成分量50%
・グルコン酸ナトリウム
製品名:ヘルシャスA、扶桑化学工業社製、有効成分量100%
【0048】
(D)成分
・重炭酸ナトリウム
製品名:重曹局方用Eグレード、トクヤマ社製、有効成分量100%
・炭酸カリウム
製品名:炭酸カリウム、AGC社製、有効成分100%
・炭酸ナトリウム
製品名:ソーダ灰(デンス)、トクヤマ社製、有効成分量100%
・水酸化カリウム
製品名:水酸化カリウム、関東化学社製、有効成分85%
・水酸化ナトリウム
製品名:水酸化ナトリウム、関東化学社製、有効成分95%
【0049】
(E)成分
・保湿剤1:グリセリン
製品名:濃グリセリン、ミヨシ油脂社製、有効成分100%
・保湿剤2:ヒアルロン酸ナトリウム
製品名:ヒアルロン酸液HA-LQH1P、キューピー社製、有効成分1%
・保湿剤3:アジピン酸ジイソプロピル
製品名:NIKKOL DID、日光ケミカルズ社製、有効成分100%
・保湿剤4:アラントイン
製品名:アラントイン、川研ファインケミカル社製、有効成分100%
・保湿剤5:ミリスチン酸イソプロピル
製品名:NIKKOL IPM-100、日光ケミカルズ社製、
有効成分100%
【0050】
・精製水(局方)
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【表7】
比較例9:室温で配合した時点で析出したので、pHの測定を実施していない。
【0058】
上記表1~表7の評価結果から、実施例1~27は、いずれの項目においてもほぼ良好な結果が得られていることがわかる。いずれもFCVの不活化効果及び食中毒菌に対する殺菌効果が得られ、貯蔵安定性に優れるだけでなく、保湿効果があるので皮膚水分量を保つことにより、皮膚への影響を少なくする効果が得られることが確認された。これに対し、比較例1~10は、少なくともいつくかの項目において、実用上の問題があることがわかる。