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特許7626432エレクトロスプレー用ノズル、及びエレクトロスプレー装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】エレクトロスプレー用ノズル、及びエレクトロスプレー装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 5/025 20060101AFI20250128BHJP
   B05B 5/03 20060101ALI20250128BHJP
   B05B 5/08 20060101ALI20250128BHJP
   B05B 1/14 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
B05B5/025 A
B05B5/03
B05B5/08 B
B05B1/14 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021005027
(22)【出願日】2021-01-15
(65)【公開番号】P2022109624
(43)【公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000117009
【氏名又は名称】旭サナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】小田 真也
(72)【発明者】
【氏名】白松 憲一郎
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-005838(JP,U)
【文献】特開2008-043944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 5/025
B05B 5/03
B05B 5/08
B05B 1/14
B05D 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスプレーイオン化法により液体を噴霧するエレクトロスプレー用のノズルであって、
溝形状に形成されて外部から供給された塗布液を流すことが可能な複数の液体流路を有し、前記液体流路に流れる塗布液に対して外部から供給された電圧を印加可能な電極部材と、
外部から供給された気体を前記液体流路の延伸方向に沿って流すことが可能な気体流路を形成する気体流路形成部材と、を備え、
前記気体流路に流れる気体の圧力によって前記液体流路を流れる塗布液が前記液体流路内に押さえ付けられる、
エレクトロスプレー用ノズル。
【請求項2】
エレクトロスプレーイオン化法により液体を噴霧するエレクトロスプレー用のノズルであって、
溝形状に形成されて外部から供給された塗布液を流すことが可能な複数の液体流路を有し、前記液体流路に流れる塗布液に対して外部から供給された電圧を印加可能な電極部材を備え、
前記液体流路は、使用時に水平に配置される基端側領域と、前記基端側領域に対して下流側に設けられ前記基端側領域に対して折れ曲がっており使用時に下方へ傾斜した状態となる先端側領域と、を有している、
レクトロスプレー用ノズル。
【請求項3】
前記液体流路の先端部側に設けられて、前記気体流路を流れる気体を前記液体流路から離れる方向へ誘導する誘導部を更に備えている、
請求項に記載のエレクトロスプレー用ノズル。
【請求項4】
請求項2に記載のエレクトロスプレー用ノズルと、
前記エレクトロスプレー用ノズルが有する前記液体流路に塗布液を供給する塗布液供給装置と、
前記エレクトロスプレー用ノズルが有する前記電極部材に電圧を供給する電圧供給装置と、
を備えるエレクトロスプレー装置。
【請求項5】
請求項又はに記載のエレクトロスプレー用ノズルと、
前記エレクトロスプレー用ノズルが有する前記液体流路に塗布液を供給する塗布液供給装置と、
前記エレクトロスプレー用ノズルが有する前記気体流路に気体を供給する気体供給装置と、
前記エレクトロスプレー用ノズルが有する前記電極部材に電圧を供給する電圧供給装置と、
を備えるエレクトロスプレー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレクトロスプレー用ノズル、及びエレクトロスプレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗装や洗浄液などの塗布技術としてエレクトロスプレー法が注目されている。エレクトロスプレー法は、塗料や洗浄液などの塗布液に高電圧を印加し、ノズル先端から流出する塗布液を静電気力によって霧化させ、高電圧に帯電した霧状の塗布液を対向電極となる被塗物に引き寄せて塗布する技術である。エレクトロスプレー法は、塗布液を霧化つまり微粒子化するためにエア等の気体を用いず、また、帯電した塗布液が静電気力によって被塗物に引き寄せられて吸着することから、塗布液の拡散が少なく塗着効率が高い。そのため、エレクトロスプレー法は、従来のエアスプレー法に比べて塗布液の使用量の減少や廃液処理を削減することができるため、環境負荷を低減可能な技術として期待されている。
【0003】
しかしながら、エレクトロスプレー法は、従来のエアスプレー法のように塗布液を微粒子化する際にエアの圧力等の外力を用いないため、従来のエアスプレー法に比べて単位時間当たりの塗布量が少ない。そのため、従来のエレクトロスプレー法は、例えば生産工程での塗装のように、短時間で多量の塗布が必要となる用途への適用が難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-526334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エレクトロスプレーイオン化法により液体を塗布するものにおいて、安定した霧化を行いつつ単位時間当たりの塗布量を増大させることができるエレクトロスプレー用ノズル、及びエレクトロスプレー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のエレクトロスプレー用ノズルは、エレクトロスプレーイオン化法により液体を噴霧するエレクトロスプレー用のノズルであって、溝形状に形成されて外部から供給された塗布液を流すことが可能な複数の液体流路を有し、前記液体流路に流れる塗布液に対して外部から供給された電圧を印加可能な電極部材を備える。
【0007】
実施形態のエレクトロスプレー装置は、上記エレクトロスプレー用ノズルと、前記エレクトロスプレー用ノズルが有する前記液体流路に塗布液を供給する塗布液供給装置と、前記エレクトロスプレー用ノズルが有する前記電極部材に電圧を供給する電圧供給装置と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態によるエレクトロスプレー装置の構成の一例を模式的に示す図
図2】一実施形態によるエレクトロスプレー用ノズルの一例を概略的に示す斜視図
図3】一実施形態によるエレクトロスプレー用ノズルの一例を概略的に示す断面図
図4】一実施形態によるエレクトロスプレー用ノズルの一例を概略的に示すもので、図3のX4-X4線に沿って示す断面図
図5】変形例1によるエレクトロスプレー用ノズルの一例を概略的に示す断面図
図6】変形例2によるエレクトロスプレー用ノズルの一例を概略的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0010】
図1に示すエレクトロスプレー装置1は、例えば塗料や洗浄液などの塗布液をエレクトロスプレー法によって噴霧し、これにより被塗物90に塗布液を塗布することができる装置である。すなわち、図1のエレクトロスプレー装置1は、例えば生産工程等において製品に塗料を塗布して塗装するための塗装装置や、製品に洗浄液を塗布して洗浄するための洗浄装置に適用することができる。すなわち、エレクトロスプレー装置1は、その用途によって例えば塗装装置や洗浄装置と称することもできる。なお、エレクトロスプレー装置1の適用対象は、上述した塗装装置や洗浄装置に限られず、塗布対象物に塗布液を塗布するための装置に広く適用することができる。
【0011】
エレクトロスプレー装置1は、図1に示すように、塗布液供給装置10、気体供給装置20、電圧供給装置30、制御装置40、支持部材50、及びエレクトロスプレー用ノズル60を備えている。なお、以下の説明では、エレクトロスプレー用ノズルを単にノズルと称する。また、本実施形態では、図1における紙面の下側が塗布液の吐出方向側であってノズル60の先端側となり、図1における紙面の上側が塗布液の吐出方向と反対側であってノズル60の基端側となる。
【0012】
塗布液供給装置10は、ノズル60に対して塗料や洗浄液等の塗布液を供給するためのものである。本実施形態の場合、塗布液供給装置10は、塗布液タンク11及び塗布液供給ポンプ12を有している。塗布液タンク11は、塗料や洗浄液などの塗布液が貯留されている。塗布液供給ポンプ12は、塗布液タンク11内の塗布液を所定の吐出圧でノズル60に供給する機能を有する。
【0013】
塗布液供給ポンプ12の吸い込み口は、塗布液ホース13を介して塗布液タンク11に接続されている。塗布液供給ポンプ12の吐出口は、塗布液ホース13及び支持部材50を介してノズル60に接続されている。塗布液供給ポンプ12から吐出された塗布液は、塗布液ホース13及び支持部材50を介してノズル60に供給される。本実施形態の場合、塗布液ホース13は、電気絶縁性を有する例えば合成樹脂製で構成されている。また、塗布液供給ポンプ12は、例えばシリンジポンプで構成されており、ノズル60に対する塗布液の供給量を高精度で制御することができる。なお、塗布液供給ポンプ12は、シリンジポンプに限られない。
【0014】
気体供給装置20は、ノズル60に対して気体を供給するためのものである。気体供給装置20から供給される気体は、塗布液に溶解しない不溶解性の気体又は溶解し難い難溶解性の気体であり、例えば圧縮空気や窒素等の不活性ガスとすることができる。気体供給装置20は、例えば圧縮空気を生成するコンプレッサや、圧縮気体が充填されたガスボンベ及びガスボンベからの気体の流出圧力を調整するレギュレータ等で構成することができる。本実施形態の場合、気体供給装置20は、エアコンプレッサで構成されている。
【0015】
気体供給装置20の吐出口は、気体ホース21及び支持部材50を介してノズル60に接続されている。気体供給装置20から吐出された気体は、気体ホース21及び支持部材50を介してノズル60に供給される。本実施形態の場合、気体ホース21は、電気絶縁性を有する例えば合成樹脂製で構成されている。
【0016】
電圧供給装置30は、電源装置と称することもでき、ノズル60と被塗物90との間に数kV~数十kVの高電圧を印加する機能を有する。電圧供給装置30は、昇圧回路や整流回路を有しており、エレクトロスプレー装置1の駆動に必要な電圧、つまり塗布液を帯電し霧化させるために必要な直流の高電圧を供給する。電圧供給装置30の出力側は電源ケーブル31を介してノズル60に接続されている。また、電圧供給装置30及び被塗物90は、アース線32を介して接地されている。
【0017】
制御装置40は、図示しないCPUや、ROM、RAM等を有したマイクロコンピュータを有して構成されている。本実施形態の場合、制御装置40は、塗布液供給装置10この場合塗布液供給ポンプ12、気体供給装置20、及び電圧供給装置30に電気的に接続されており、塗布液供給ポンプ12から吐出される塗布液の量、気体供給装置20から吐出される気体の量、及び電圧供給装置30の出力電圧を制御することができる。これにより、制御装置40は、ノズル60に供給する塗布液及び気体の量と、その塗布液に印加する電圧とを自動又は半自動で制御することができる。
【0018】
なお、エレクトロスプレー装置1は、必ずしも制御装置40を備えている必要はない。エレクトロスプレー装置1が制御装置40を備えない場合、エレクトロスプレー装置1のユーザは、塗布液供給ポンプ12、気体供給装置20、及び電圧供給装置30を手動で調整することで、塗布液の供給量、気体の供給量、及び印加電圧を調整する。
【0019】
支持部材50は、ノズル60が取り付けられてノズル60を支持するとともに、塗布液ホース13及び気体ホース21とノズル60とを接続する機能を有する。本実施形態では、支持部材50は例えば非導電性プラスチック等の非金属材料で構成されている。本実施形態の場合、ノズル60は、支持部材50に着脱可能に構成されている。これにより、ユーザは、例えばノズル60内に塗布液の目詰まり等が発生してメンテナンスが必要となった場合の処置等を容易に行うことができる。
【0020】
ノズル60は、塗布液供給装置10から供給された塗布液を、エレクトロスプレーイオン化法によって噴霧する機能を有する。本実施形態の場合、ノズル60は、図2から図4に示すように、電極部材70及び筐体80を有している。
【0021】
電極部材70は、導電性を有する部材、例えば金属部材によって構成されている。電極部材70は、例えばアルミニウム、鉄、金、銀、チタン、ステンレス、クロムで構成することができるが、これらに限られない。電極部材70は、塗布液供給装置10から供給された塗布液に接触して電圧供給装置30から供給された高電圧を塗布液に印加する機能を有する。
【0022】
本実施形態の場合、電極部材70は、例えば金属製の板部材を加工して構成されている。電極部材70は、図2及び図4に示すように、複数の液体流路71を有している。各液体流路71は、電極部材70の少なくとも一方の面を厚み方向に掘り下げた溝形状に形成されている。各液体流路71は、直線状に延びておりそれぞれ並行に配置されている。本実施形態の場合、液体流路71は、図4に示すように、液体流路71の延伸方向に対して直交する平面で切断した断面が、一方向に開放された半円形状に形成されている。なお、液体流路71は、液体流路71の延伸方向に対して直交する平面で切断した断面が、例えば矩形形状に形成されたものであっても良い。
【0023】
各液体流路71は、直接的又は間接的に塗布液供給装置10に接続されている。本実施形態の場合、各液体流路71は、支持部材50及び塗布液ホース13を介して塗布液供給装置10の塗布液供給ポンプ12に接続されている。塗布液供給ポンプ12から吐出された塗布液は、支持部材50及び塗布液ホース13からノズル60に供給されて、各液体流路71に分岐して流れる。なお、各図面において、矢印Aは、塗布液の流れを示している。そして、各液体流路71を流れる塗布液には、ノズル60の外部この場合電圧供給装置30から電極部材70に供給される電圧が印加される。
【0024】
本実施形態の場合、電極部材70は、電極部材70の先端側つまり塗布液の流れの下流側が折り曲げられた形状となっている。そして、液体流路71は、塗布液の流れ方向において電極部材70の先端まで形成されている。つまり、本実施形態の液体流路71は、図2及び図3に示すように、基端側領域711と、先端側領域712とを有して構成されている。そして、先端側領域712は、基端側領域711に対して傾斜して配置されている。
【0025】
本実施形態の場合、基端側領域711は、電極部材70に設けられた液体流路71のうちノズル60の使用時に水平に配置される部分であり、先端側領域712に対して上流側つまりノズル60の基端側に設けられている。また、先端側領域712は、電極部材70に設けられた液体流路71のうちノズル60の使用時に被塗物90側この場合下方へ傾斜する部分であり、基端側領域711に対して下流側つまりノズル60の先端側に設けられている。本実施形態の場合、各液体流路71において、基端側領域711の全長は、先端側領域712の全長よりも長く設定されている。そして、図2及び図3に示すように、先端側領域712の少なくとも一部又は全部は、筐体80から外部に露出している。また、先端側領域712の最先端つまり電極部材70の先端部分は、図2に示すように、先細るように尖っている。
【0026】
この場合、先端側領域712における電極部材70の肉厚は、100μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは30μm以下であることが良い。本実施形態の場合、先端側領域712における電極部材70の肉厚は、20μm以上でかつ100μm以下に設定されている。
【0027】
筐体80は、ノズル60の外殻を構成するものであり、電極部材70の一部を収容するとともに、塗布液供給装置10から供給された塗布液及び気体供給装置20から供給された気体を内部に流す機能を有する。筐体80は、例えば電気絶縁性を有する樹脂材で構成することができる。筐体80は、例えば筒状に形成されている。本実施形態の場合、筐体80は、断面が矩形の筒状に形成されている。筐体80は、液体出口81、気体流路82、気体出口83、及び誘導部84を有している。すなわち、本実施形態の場合、筐体80は、気体流路82を形成するための気体流路形成部材として機能する。
【0028】
液体出口81は、筐体80に導入された塗布液を筐体80の外部に流出させるための出口である。塗布液供給装置10から供給されて筐体80内に導入された塗布液は、電極部材70の液体流路71に沿って流れ、液体出口81から筐体80の外部に流れ出る。
【0029】
気体流路82は、筐体80内に設けられた空間で形成されており、液体流路71の延伸方向に沿って延びている。気体流路82は、例えば気体流路82の延伸方向つまり気体が流れる方向に対して直交する平面で切断した断面が一方向に長い矩形状又は楕円形状若しくは長円形状に形成することができる。本実施形態の場合、気体流路82の断面は水平方向に長い矩形状に形成されている。
【0030】
本実施形態の場合、電極部材70のうち筐体80内に収納されている部分において、液体流路71が設けられている面は筐体80の内面から離され、かつ、液体流路71が設けられている面とは反対側の面つまり液体流路71が設けられていない面は筐体80の内面に接している。そして、気体流路82は、電極部材70のうち液体流路71側の面と筐体80の内面との間の空間によって形成されている。
【0031】
気体流路82は、直接的又は間接的に気体供給装置20に接続されている。本実施形態の場合、気体流路82は、支持部材50及び気体ホース21を介して気体供給装置20に接続されている。そして、気体供給装置20から気体ホース21及び支持部材50を介して気体流路82に供給された気体は、液体流路71の延伸方向に沿って気体流路82内を流れる。なお、各図面において、矢印Bは、気体の流れを示している。
【0032】
気体出口83は、筐体80に導入された気体を筐体80の外部に流出させるための出口である。誘導部84は、筐体80において液体流路71の先端部側に設けられている。誘導部84は、気体流路82を流れる気体を、液体流路71を流れる塗布液から分離する機能つまり液体流路71から離れる方向へ誘導する機能を有する。誘導部84は、液体出口81と気体出口83との間に設けられており、液体出口81と気体出口83との間を仕切っている。誘導部84は、例えば平板状に形成されて先端側領域712の傾斜方向とは逆方向この場合上方向へ傾斜している。
【0033】
気体供給装置20から供給されて筐体80内に導入された気体は、筐体80内を気体流路82に沿って流れ、その後、気体出口83から筐体80の外部に流れ出る。このとき、気体流路82を流れる気体は、誘導部84に誘導されて、気体出口83から先端側領域712の傾斜方向とは逆方向この場合上方向へ流れ出る。また、この場合、気体流路82を流れる気体の速度は、液体流路71を流れる塗布液の速度と異ならせることができる。
【0034】
この構成において、塗布液供給ポンプ12から筐体80内に供給された塗布液は、筐体80内に収容された電極部材70の複数の液体流路71に分岐して流れる。そして、塗布液は、電極部材70で構成された液体流路71に触れて高電圧に帯電し、液体出口81から先端側領域712に湧き出る。そして、液体出口81から先端側領域712に湧き出た塗布液は、塗布液の表面張力で球形になる。このとき、先端側領域712で球形となった塗布液と、対向電極となる被塗物90との間に静電気力が発生し、球形の塗布液の先端部が被塗物90側に引き寄せられる。すると、図3に示すように、円錐形状のテイラーコーンTが形成される。
【0035】
そして、塗布液に作用する静電気力が塗布液の表面張力より大きくなるとテイラーコーンTの先端から高電圧に帯電した帯電液滴Dが放出される。この帯電液滴Dは、静電気力による反発と液剤蒸発の促進により徐々に微細化され霧化状態となる。霧化状態となった微細な液滴は、静電気力によって被塗物90に引き寄せられ、被塗物90に吸着する。
【0036】
以上説明した実施形態によれば、ノズル60は、エレクトロスプレーイオン化法により液体を噴霧するエレクトロスプレー用のノズルであって、電極部材70を備える。電極部材70は、溝形状に形成されて外部この場合、塗布液供給装置10から供給された塗布液を流すことが可能な複数の液体流路71を有し、液体流路71に流れる塗布液に対して外部から供給された電圧を印加可能である。また、エレクトロスプレー装置1は、ノズル60と、ノズル60が有する液体流路71に塗布液を供給する塗布液供給装置10と、ノズル60が有する電極部材70に電圧を供給する電圧供給装置30と、を備える。
【0037】
ここで、例えばエレクトロスプレー用のノズルの形状としては例えば単純な円筒形状を採用することが考えられる。この場合、ノズル内を流れる塗布液に高電圧を印加するための電極は、例えば円柱棒状の芯材をノズル内に通す構成や、ノズルの内面を電極とする構成が考えられる。これらの構成において単位時間当たりの塗布量を増大させるためには、ノズルの径を大きくするつまりノズルの断面積を大きくする必要がある。
【0038】
しかしながら、前者の構成の場合、芯材の径を大きくしても、その径の増大に比例しては、塗布液の霧化効率が向上しないことがわかっている。また、後者の構成において、ノズルの断面積はノズルの半径の2乗に比例するのに対し、ノズルの円周はノズルの半径に比例する。このため、後者の構成においてノズルの径を大きくしても、塗布液に対する電極の接触面積は塗布液の増加量に比例して増えないため、塗布液の霧化の安定性が低下する。そのため、従来の構成では、エレクトロスプレーイオン化法を採用した構成において塗布量を増大させることは難しかった。
【0039】
これに対し、本実施形態のノズル60において、電極部材70は、複数の液体流路71を有し、液体流路71に流れる塗布液に対して外部から供給された電圧を印加可能に構成されている。これによれば、複数の液体流路71によって塗布液の流量を確保しつつ、電極部材70との接触面積を確保することができる。したがって、本実施形態のノズル60を用いたエレクトロスプレー装置1によれば、安定した霧化を行いつつ単位時間当たりの塗布量を増大させることができる。そして、これにより、本実施形態のノズル60を用いたエレクトロスプレー装置1は、例えば単位時間当たりの塗布量が多い塗装装置や洗浄装置等にも適用することができる。その結果、本実施形態によれば、従来のエアスプレー法に比べて塗布液の使用量を減少や廃液処理を削減することができ、ひいては、環境負荷を低減に寄与することができる。
【0040】
また、液体流路71は、基端側領域711と先端側領域712とを有している。基端側領域711は、液体流路71のうち使用時に水平に配置される領域である。先端側領域712は、基端側領域711に対して下流側に設けられ、基端側領域711に対して折れ曲がっており、使用時に下方へ傾斜した状態となる領域である。
【0041】
この構成において、ノズル60内に供給された塗布液は、まず基端側領域711を水平方向に流れ、その後、先端側領域712の傾斜に沿って下方へ流れる。これによれば、ノズル60内を流れる塗布液が、重力によって塊となって落下することを抑制できる。これにより、ノズル60から塗布液の塊が被塗布物に落下することを抑制でき、その結果、塗布の品質を向上させることができる。
【0042】
また、ノズル60は、筐体80を更に備える。本実施形態の場合、筐体80は、ノズル60の外部この場合気体供給装置20から供給された気体を液体流路71の延伸方向に沿って流すことが可能な気体流路82を形成する気体流路形成部材として機能する。そして、エレクトロスプレー装置1は、ノズル60が有する気体流路82に気体を供給する気体供給装置20を更に備えている。
【0043】
これによれば、気体流路82に気体を流すことにより、その気体の圧力によって液体流路71を流れる塗布液を液体流路71内に押さえ付けることができる。これにより、塗布液が液体流路71から飛び出すことを抑制でき、これにより、液体流路71の内面つまり電極部材70との接触を確実なものとして、霧化の安定性を向上させることができる。
【0044】
更に、例えばエレクトロスプレー装置1を塗料等のような非ニュートン流体を塗布する装置に用いる場合、気体流路82を流れる気体はニュートン流体である一方で、液体流路71を流れる塗料等は非ニュートン流体となる。このため、非ニュートン流体である塗料等の流れと平行に、ニュートン流体である気体を流すことによって、液体流路71を流れる非ニュートン流体に渦が発生し易くなる。そして、この渦によって液体流路71を流れる液体がかき混ぜられる。その結果、液体流路71の内面つまり電極部材70との接触が向上し、霧化の安定性を更に効果的に向上させることができる。
【0045】
ここで、ノズル60内に導入された塗布液及び気体がノズル60から同一方向へ吐出されると、ノズル60から吐出された気体に塗布液が巻き込まれて拡散し易くなり、その結果、被塗物90への塗布効率が低下し易くなる。
【0046】
そこで、本実施形態のノズル60は、誘導部84を更に備えている。本実施形態の場合、誘導部84は筐体80に設けられている。誘導部84は、液体流路71の先端部側に設けられており、気体流路82を流れる気体を液体流路71から離れる方向へ誘導する機能を有する。すなわち、ノズル60内に供給された塗布液及び気体は、ノズル60内の同一空間を平行に流れた後、誘導部84によって分離されて、それぞれ異なる方向へ流出する。これによれば、ノズル60から吐出された気体に塗布液が巻き込まれて拡散することを抑制でき、その結果、被塗物90への塗布効率の向上を図ることができる。
【0047】
次に、本実施形態のいくつかの変形例について図5及び図6も参照して説明する。図5及び図6に示す変形例は、気体出口83の位置すなわち誘導部84の位置が上記実施形態と異なる。図5に示す変形例1において、気体出口83及び誘導部84は、液体出口81に対してつまり液体流路71の最先端部よりも更にノズル60の先端側に位置している。すなわち、図5の例の場合、気体出口83及び誘導部84は、ノズル60の最先端部に設けられている。この場合、液体出口81は、気体出口83に対してノズル60の基端側つまり下流側に位置している。
【0048】
一方、図6に示す変形例2において、気体出口83及び誘導部84は、液体出口81に対してつまり液体流路71の基端部側に位置している。すなわち、図6の例の場合、液体流路71の先端側領域712は、ノズル60の最先端部に設けられている。この場合、気体出口83は、気体出口83に対してノズル60の基端側つまり下流側に位置している。これらによっても、上記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0049】
以上説明した実施形態は、例として提示したものであり、上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…エレクトロスプレー装置、10…塗布液供給装置、20…気体供給装置、30…電圧供給装置、60…エレクトロスプレー用ノズル、70…電極部材、71…液体流路、80…筐体(気体流路形成部材)、82…気体流路、84…誘導部、711…基端側領域、712…先端側領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6