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特許7626445ピルボックス型伝送窓およびその製造方法
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  • 特許-ピルボックス型伝送窓およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】ピルボックス型伝送窓およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 23/40 20060101AFI20250128BHJP
   H01P 1/08 20060101ALI20250128BHJP
   H01J 23/36 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
H01J23/40 A
H01P1/08
H01J23/36
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021091131
(22)【出願日】2021-05-31
(65)【公開番号】P2022183690
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2024-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181135
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】小杉 直史
(72)【発明者】
【氏名】中島 研二
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-114002(JP,A)
【文献】特開昭61-279036(JP,A)
【文献】特開2003-209402(JP,A)
【文献】特開2022-089496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/40
H01P 1/08
H01J 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波管の入出力窓を有するピルボックス型伝送窓であって、
円板状のセラミックスの外周部分にメタライズ層が形成された円板状部材と、
該円板状部材と同一の外径を有する金属により構成され、該円板状部材を両側から挟んで配置されて前記円板状部材の外周部部分と一体化された一対の環状部材と、
該一対の環状部材と前記円板状部材との外径と前記一対の環状部材と前記円板状部材が入る程度に同一な内径を有する金属により構成され、これら一対の金属部品および前記円板状部材を内側に保持する筒状部材と、
前記環状部材と前記筒状部材との間でこれらの回転を抑制する規制部材と、
を有するピルボックス型伝送窓。
【請求項2】
前記規制部材は、
前記環状部材の半径方向外方に突出する凸部と、
前記筒状部材に形成されて前記凸部が挿入される切り欠きと、
を有する請求項1に記載のピルボックス型伝送窓。
【請求項3】
前記凸部は、前記環状部材の外周の複数個所から各々半径方向外方へ突出して設けられた、
請求項2に記載のピルボックス型伝送窓。
【請求項4】
前記環状部材の一方の面が前記円板状部材に向けられ、前記環状部材の他方の面が高周波回路の真空領域に接続される請求項1~3のいずれか1項に記載のピルボックス型伝送窓。
【請求項5】
マイクロ波管の入出力窓を有するピルボックス型伝送窓の製造方法であって、
円板状のセラミックスの外周部分にメタライズ層を形成した円板状部材を構成する工程と、
該円板状部材と同一の外径を有する金属により一対の環状部材を構成する工程と、
該環状部材により前記円板状部材を両側から挟んで一体に結合する工程と、
該一対の環状部材と前記円板状部材との外径と前記一対の環状部材と前記円板状部材が入る程度に同一な内径を有する金属により構成された筒状部材の内側に前記一対の環状部材および前記円板状部材を配置する工程と、
を有し、さらに、
前記筒状部材の内側に前記一対の環状部材および前記円板状部材を配置する工程の前に、前記環状部材と前記筒状部材との間でこれらの回転を抑制する規制部材により、前記環状部材を前記筒状部材に対して円周方向へ位置決めする工程を有する、
ピルボックス型伝送窓の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピルボックス型伝送窓およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信・放送の大容量化・高速化を目的として、通信・放送に使用される周波数の高周波数化および広帯域化が進んでいる。特に衛星放送および衛星通信の分野では高出力・広帯域といった特徴を持つ大電力増幅器が必要であり、進行波管増幅器が用いられている。進行波管は内部に真空部を有し、真空部と大気圧部を分離するための高周波伝達経路に、高周波窓と呼ばれる部品を有する。
【0003】
この高周波窓のうち、特に大電力高周波窓として、高周波伝送経路に誘電体を挟み込んだピルボックス型高周波窓が広く使用される。しかしながら、ピルボックス型高周波窓は、ゴーストモードと呼ばれる誘電体、および高周波窓構造による不要共振が発生することが知られており、広帯域化の妨げとなっている。
このようなマイクロ波の入出力窓として使用されるピルボックス型導波管窓に関連する技術として、特許文献1が出願されている。
この特許文献1には、マイクロ波管にRF(radio frequency)信号の損失を低減することと、マイクロ波管内を真空封止することとの2つの目的のために、RF信号の入出力窓としてピルボックス型真空窓を設ける技術が開示されている。
【0004】
前記ピルボックス型高周波窓にあっては、ゴーストモードが発生することがある。このゴ-ストモードが発生すると、進行波管の利得・群遅延偏差の周波数特性、およびリターンロスが悪化し、通信品質を悪化させるおそれがある。また、ゴーストモードによる電力損失により誘電体が発熱し、発熱に伴う熱膨張に伴う応力によってクラックが発生すると、高周波窓の本来の役割である、真空部と大気圧部との分離という機能が損なわれることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-287382号公報
【0006】
ところで、前記ゴーストモードの発生への対策として、複数種の部品を用意し、使用周波数帯域において、ゴーストモードが発生し難い組み合わせとなる部品を選択し、数多くの部品から選別することで解決することができるが、適切な部品の選別に伴うロスの発生は、進行波管の低価格化を妨げる一因となるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、ゴーストモード発生を抑制することができるピルボックス型真空窓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明にかかるピルボックス型伝送窓は、マイクロ波管の入出力窓を構成するピルボックス型伝送窓であって、円板状のセラミックスの外周部分にメタライズ層が形成された円板状部材と、該円板状部材と略同一の外径を有する金属により構成され、該円板状部材を両側から挟んで配置されて前記円板状部材の外周部部分と一体化された一対の環状部材と、該一対の環状部材と前記円板状部材との外径と略等しい内径を有する金属により構成され、これら一対の金属部品および前記円板状部材を内側に保持する筒状部材と、前記環状部材と前記筒状部材との間でこれらの回転を抑制する規制部材とを有する。
【0009】
本発明にかかるピルボックス型伝送窓の製造方法は、マイクロ波管の入出力窓を有するピルボックス型伝送窓の製造方法であって、円板状のセラミックスの外周部分にメタライズ層を形成した円板状部材を構成する工程と、該円板状部材と略同一の外径を有する金属により一対の環状部材を構成する工程と、該環状部材により前記円板状部材を両側から挟んで一体に結合する工程と、該一対の環状部材と前記円板状部材との外径と略等しい内径を有する金属により構成された筒状部材の内側に前記一対の環状部材および前記円板状部材を配置する工程と、を有し、さらに、前記筒状部材の内側に前記一対の環状部材および前記円板状部材を配置する工程の前に、前記環状部材と前記筒状部材との間でこれらの回転を抑制する規制部材により、前記環状部材を前記筒状部材に対して円周方向へ位置決めする工程を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、ピルボックス型伝送窓におけるゴーストモードを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明にかかるピルボックス型伝送窓の最小構成例の斜視図である。
図2】本発明にかかるピルボックス型伝送窓の製造方法の最小構成例の工程図である。
図3】本発明の一実施形態にかかるピルボックス型伝送窓の斜視図である。
図4】一実施形態の比較例のピルボックス型伝送窓の斜視図である。
図5】一実施形態と比較例とのピルボックス型伝送窓の損失特性を0°、4°、10°の回転角度において示した図表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の最小構成例にかかるピルボックス型伝送窓について図1を参照して説明する。
この最小構成にかかるピルボックス型伝送窓は、マイクロ波管の入出力窓を有するピルボックス型伝送窓であって、円板状のセラミックスの外周部分にメタライズ層が形成された円板状部材1と、該円板状部材1と略同一の外径を有する金属により構成され、該円板状部材1を両側から挟んで配置されて前記円板状部材1の外周部部分と一体化された一対の環状部材2と、該一対の環状部材2と前記円板状部材1との外径と略等しい内径を有する金属により構成され、これら一対の金属部品および前記円板状部材を内側に保持する筒状部材3と、前記環状部材と前記筒状部材との間でこれらの回転を抑制する規制部材4とを有する。
【0013】
以上のように構成されたピルボックス型伝送窓は、規制部材4によって環状部材2がセラミックス製の円板状部材1とともに、筒状部材3に対して回転を規制された状態で取り付けられる。この結果、回転方向のずれに起因する不要な共振を抑制することができる。
【0014】
本発明の最小構成にかかるピルボックス型伝送窓の製造方法について、図1図2を参照して説明する。
この最小構成にかかるマイクロ波管の入出力窓を構成するピルボックス型伝送窓の製造方法は、円板状のセラミックスの外周部分にメタライズ層を形成した円板状部材1を構成する工程SP1と、該円板状部材1と略同一の外径を有する金属により一対の環状部材2を構成する工程SP2と、該環状部材2により前記円板状部材1を両側から挟んで一体に結合する工程SP3と、該一対の環状部材2と前記円板状部材1との外径と略等しい内径を有する金属により構成された筒状部材3の内側に前記一対の環状部材2および前記円板状部材1を配置する工程と、を有し、さらに、前記筒状部材3の内側に前記一対の環状部材2および前記円板状部材1を配置する工程の前に、前記環状部材2と前記筒状部材3との間でこれらの回転を抑制する規制部材4により、前記環状部材2を前記筒状部材3に対して円周方向へ位置決めする工程を有する。
【0015】
上記の製造方法によれば、ピルボックス型伝送窓は、規制部材4によって環状部材が円筒部材に対して回転を規制された状態で取り付けられる。この結果、回転方向のずれに起因する不要な共振を抑制することができる。
【0016】
本発明の一実施形態に係る構成について図3図5を参照して説明する。なお、図1と共通の構成には、同一符号を付し、説明を簡略化する。
このピルボックス型伝送窓は、進行波管の高周波回路(真空領域)の途中に接続されて、マイクロ波を真空内に取り入れる入り口または、大気中に取り出す出入り口としての機能を果たす。
【0017】
一実施形態のピルボックス型伝送窓は、前記最小構成例と同様、円板状のセラミックスで構成された本体1aの外周部分1bにメタライズ層が形成された円板状部材1を有する。また環状部材2Aは、円板状部材1の両側に配置されて円板状部材1を両側から挟む。
前記環状部材2Aは、金属により構成された環状本体20を有し、この環状本体20の一方の面は、一体の金属により角筒状に構成された矩形導波管21を有する。そして、前記一対の環状部材2Aの一方の矩形導波管21が高周波回路(真空領域)に接続され、他方の矩形導波管21が大気圧の領域に接続される。
【0018】
筒状部材3Aは、前記一対の環状部材2Aと前記円板状部材1との外径と略等しい内径を有する金属により構成され、これら一対の環状部材2A、前記円板状部材1を内側に保持すべく筒状に構成されている。前記筒状部材3Aは、全体を二つの半割円筒状に分割するように配置された切り欠き41を有する。この切り欠き41は、前記筒状部材3Aをそれぞれ半割状をなすように上下の領域に区画する。また、切り欠き41は、筒状部材3Aの外周部で軸線Cと平行な方向へ貫通するとともに、筒状部材3Aの一の側面寄りの位置で半径方向へ貫通している。また前記切り欠き41の寸法は、前記突起40が通過し得る大きさに設定されている。そして、突起40と切り欠き41とによって、円板状部材1Aと円筒状部材3Aとの軸線Cまわりの回転を規制する規制部を構成する。
【0019】
上記構成のピルボックス型伝送窓にあっては、前記円板状部材1と環状部材2Aと筒状部材3Aとを各々図3に示す形状に形成した後、下記の工程にしたがって組立てることにより製造される。
一対の環状部材2Aの間に円板状部材1を挟み、外周のメタライズ部を利用してろう付けし、一体化する。
ここで、一対の環状部材2Aは、互いに円周方向へ突起40の位置を合わせて組み合わせられる。
前記突起40と筒状部材3Aの切り欠き41と位置合わせし、一体となった円板状部材1と環状部材2Aとを円筒部材3Aに挿入する。
前記円板状部材1と環状部材2Aとは、前記突起40が切り欠き41に挿入されることにより、前記円筒部材3A内で軸線Cを中心とする回転方向へ位置決めされる。また、前記円板状部材1と環状部材2Aとは、前記円筒部材3Aにろう付けにより一体に固定される。
以上のように構成されたピルボックス型伝送窓は、電子銃からコレクタに到る高周波回路(真空領域)へ前記矩形導波管21の一方を接続し、他方の矩形導波管21を大気開放側の回路部品等に接続して使用され、例えば、高周波回路へRF信号を入出力する電子部品との接続に利用される。
【0020】
一実施形態のピルボックス型伝送窓の作用を図4に示す比較例と比較して説明する。
まず、図4より比較例のピルボックス型伝送窓について説明する。
図4に示すピルボックス型伝送窓は、板状のセラミックスにより構成された円板状部材1を一対の環状部材2Bで両側から挟んだ構成を有する。
前記環状部材2Bは、金属により構成された(一実施形態の環状本体のような突起のない)環状本体20’を有し、この環状本体20’の一方の面は、一体の金属により構成された矩形導波管21を有する。
【0021】
この比較例のピルボックス型伝送窓にあっては、突起と切り欠きからなる規制部材を備えていないことから、組立時に高周波窓を構成する部品が回転方向(軸線C回りの方向)にずれることがある。
【0022】
また、この回転方向へのずれによって、ゴーストモードが発生する。比較例のピルボックス型伝送窓を使用して回転方向へのずれ量(回転角)が4°、および10°生じた場合と、一実施形態のピルボックス型伝送窓を使用することによって回転方向へのずれ量がない(0°)状態で組立てた場合の(ゴーストモードに起因するリターン損失の大きさ)特性を測定した例を図5に示す。
【0023】
図5に示すように、一実施形態のピルボックス型伝送窓を使用することによって、回転角を0°とした場合においては、51GHz(ギガヘルツ)の周波数で最も損失が小さい特性を有する。
これに対して、比較例のピルボックス型伝送窓を使用して回転角が4°となった場合の解析例では、51GHzよりわずかに高い周波数で損失が最大となり、51GHzを挟んだ低周波側と高周波側との双方で損失が最小となる。また、回転角が10°となった測定例では、51GHzよりわずかに高い周波数で損失が最大となり、51GHzを挟んで、前記回転角が4°の場合よりさらに低周波側とさらに高周波側とで損失が最小となる。
しかしながら、比較例のピルボックス型伝送窓を使用して回転角が4°あるいは10°となったいずれの場合にあっても、一実施形態のピルボックス型伝送窓を使用して回転角を0°とした場合に比して、最小損失が大きくなることが理解される。
【0024】
以上説明したように、一実施形態のピルボックス型高周波窓は、ピルボックス型高周波窓に支持部品を追加したものであって、一般的なピルボックス型高周波窓と異なる点として、高周波伝送部品と支持部品に凹凸構造を持つことにより回転を規制する構造を有する。したがって、組立時にこの凹凸構造を嵌合することにより、各部品の回転方向の角度の変化を抑制することができ、使用帯域内へのゴーストモードによる悪影響を抑制することができる。
【0025】
また、一実施形態にかかる構造、および製造方法にかかるピルボックス型伝送窓によれば、下記の構成上の特徴により、効果を得て目的を達成することができる。
(1)軸線Cに直交する方向に凹凸構造を設ける。
この特徴により、比較例と同様の円形の単純な形状のセラミックを用いたシンプルな構造とすることが可能であり、生産性向上・低価格化に寄与することが可能である。
(2)高周波伝送部品に凸構造、支持部品に凹構造を設ける。
この特徴により、高周波伝送部品に凹構造、支持部品に凸構造を設けた場合に必要となるセラミックへの切り欠き加工が必要なくなり、切り欠き部からのクラック進展等の恐れがなくなるため、生産性向上に寄与することが可能である。
この結果、ピルボックス型伝送窓を備える進行波管を低価格化を図ることができる。
【0026】
また本発明は、進行波管用ピルボックス型高周波窓の他、クライストロン・ジャイロトロン等の真空部を持つ電子管全般へ利用することができる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、高周波伝送装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 円板状部材
1a 本体
1b 外周部分
2、2A、2B 環状部材
3、3A 筒状部材
4 規制部材
20、20’ 環状本体
21 矩形導波管
40 突起
41 切り欠き
図1
図2
図3
図4
図5