(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】SN-38誘導体、当該誘導体を含むナノ粒子、医薬及び当該ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 519/00 20060101AFI20250128BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20250128BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20250128BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C07D519/00 CSP
A61K31/4745
A61K9/10
A61P35/00
A61P43/00 123
(21)【出願番号】P 2023505158
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2022001163
(87)【国際公開番号】W WO2022190626
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2021040799
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠井 均
(72)【発明者】
【氏名】谷田 恵太
(72)【発明者】
【氏名】小関 良卓
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-534092(JP,A)
【文献】特表2018-520148(JP,A)
【文献】国際公開第2019/236954(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/155501(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107669626(CN,A)
【文献】HE, D. et al.,Self-assembling nanowires of an amphiphilic camptothecin prodrug derived from homologous derivative,Chemical Communications,2016年,Vol. 52,No. 98,pp. 14145-14148,Supporting Information
【文献】WANG, H. et al.,Reduction-Responsive Dithiomaleimide-Based Nanomedicine with High Drug Loading and FRET-Indicated Dr,Chemical Communications,2015年,Vol. 51,No. 23,pp. 4807-4810,Supporting Information
【文献】GUO, X. et al.,Dimeric Drug Polymeric Micelles with Acid-Active Tumor Targeting and FRET-Traceable Drug Release,Advanced Materials,2018年,Vol. 30,No. 3,pp. 1705436 (1 of 10)-1705436 (10 of 10),Supporting Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 519/00
A61K 31/00
A61K 9/00
A61K 47/00
A61P 35/00
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【化1】
[式中、R
1は同一又は異なって、ヒドロキシ基
、C2~C10アシルオキシ基、C3~C10シクロアルキルカルボニルオキシ基、C4~C10シクロアルキルアルキルカルボニルオキシ基、C4~C10アルキルシクロアルキルカルボニルオキシ基、C1~C10アルキルカルバモイルオキシ基又はC1~C10アルコキシカルボニルオキシ基を示す。
R
2は同一又は異なって、置換基を有してもよいエチレン基又はトリメチレン基を示す。]
【請求項2】
R
1がヒドロキシ基又は
C2~C10アシルオキシ基である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
以下の化学構造式で示される、SNC0DC、SNC2DC、SNC3DC、SNC4DC、SNC6DC、SNC8DC、SNC10DC、SNC3NDC、SNC4NDC、SNBocDC、SNC5DC-(A)、SNC5DC-(B)、SNC0DC-(C)、SNC0DC-(D)、SNC0DC-(E)、SNC0DC-(F)、SNC0DC-(G)、SNC0DC-(H)及びSNC0DC-(I)からなる群から選ばれる基の二量体である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【化2】
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物又はその塩を95質量%以上含み、前記化合物のClogPが5.0~14の範囲であり、かつ、平均粒子径が1μm未満であり、略球形であるナノ粒子。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物又はその塩又は請求項4に記載のナノ粒子を含む医薬。
【請求項6】
癌の予防又は治療のための請求項5に記載の医薬。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物又はその塩の水混和性有機溶媒溶液を水に注入する工程を含む、ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2021年3月12日に出願された、日本国特許出願第2021-40799号明細書(その開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。本発明はSN-38誘導体、当該誘導体を含むナノ粒子、医薬及び当該ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、キャリアに起因する様々な問題点を回避するため、キャリアフリーなナノ薬剤の開発が数多く行われでいる。薬物血漿を粉砕・破砕するトップダウン法、分子からナノ粒子を作製するボトムアップ法等いくつかの手法が知られている。かかる状況の下、本発明者らは、独自の有機ナノ粒子作製手法である「再沈法」を開発し、粒子径100nm以下のナノ粒子を作製する技術を確立している(非特許文献1、特許文献1)。これらの方法により得られる、キャリアフリーなナノ薬剤は高い薬理効果を有することがこれまでに明らかになっている。
【0003】
しかし、いまだに、新たな有機ナノ粒子及び当該有機ナノ粒子を構成するための新たな化合物の開発が望まれている。例えば、抗腫瘍剤として用いた場合、腫瘍組織で選択的な薬物放出が可能な有機ナノ粒子が熱望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Jpn. J. Appl. Phys. 1992, 31, L1132-L1134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新たな有機ナノ粒子及び当該有機ナノ粒子を構成するための新たな化合物を提供することを課題とする。典型的な実施形態においては、本発明は、腫瘍組織で選択的な薬物放出が可能な有機ナノ粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる状況の下、本発明者らは、がん細胞内に高濃度で存在する化合物であって、電子供与体として作用し、ジスルフィド結合をシステインに還元するグルタチオン(GSH)に着目し、SS結合を解して抗腫瘍剤化合物を二量体化することを試みた。より具体的には、まず多種多様な化合物のなかから下記式で示されるSN-38
【0008】
【0009】
を選択した。そして、SN-38の一級ヒドロキシ基(上記式中、*で示されるヒドロキシ基)同士をS-S結合を介して連結した化合物を合成し、その性能を評価したところ、血中での迅速な加水分解により患部到達前に薬物を放出してしまう問題があった。そのため、次に、SN-38の一級ヒドロキシ基をC6アシルオキシで置換した誘導体を元に、これらの三級ヒドロキシ基(上記式中、**で示されるヒドロキシ基)同士をS-S結合を介して連結した下記化合物
【0010】
【0011】
を合成し、ナノ粒子を作製したところ、作製したナノ・プロドラッグは7日間以上の良好な分散安定性を示した。しかし、当該ナノ・プロドラッグにジチオスレイトール及びグルタチオン(還元型)を添加してS-S結合をトリガーとした薬物放出が達成されるか確認したところ、S-S結合の開裂は多少進むものの、開裂反応は途中で止まってしまった。また、C6アシルオキシ置換SH-38誘導体の生成も確認されなかったことから、S-S結合の開裂により生じる基-C-C(=O)-CH2-CH2-CH2-S-SHからが脱離し、環形成をしてC6アシルオキシ置換SH-38誘導体及びジヒドロチオフェン-2(3H)-オンを形成する反応も進まなかったものと考えられる。これらの結果を元に本発明者らはさらに多種多様な反応系を検討し、鋭意研究した結果、SH-38又はその誘導体をS-S結合を介して二量体化する際に、上記の化合物のようにエステル結合ではなく、カーボネート結合(-O-C(=O)-O-)を用いることにより、SH-38又はその誘導体の解離が良好に進むことを見出した。本発明はかかる新たな知見に基づくものである。従って、本発明は以下の項を提供する:
項1.下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【0012】
【0013】
[式中、R1は同一又は異なって、水素、ヒドロキシ基又は炭素含有有機基を示す。R2は同一又は異なって、置換基を有してもよいエチレン基又はトリメチレン基を示す。]
項2.ClogPが5.0~14.0である、項1に記載の化合物又はその塩。
【0014】
項3.R1が水素、ヒドロキシ基、-O-C(=O)-L-R3(式中、Lは単結合又はリンカー基を示す。R3は置換基を有してもよい不飽和炭化水素環基又は複素環基を示す)又は-O-C(=O)-(Y)n-R4(式中、Yは窒素原子又は酸素原子を示す。nは0又は1を示す。R4はC2~C10のアルキル基、C3~C10のシクロアルキル基、C4~C10のシクロアルキル-アルキル基又はC4~C10のアルキル-シクロアルキル基を示す)である、項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【0015】
項4.項1~3のいずれか一項に記載の化合物又はその塩を含むナノ粒子。
【0016】
項5.項1~3のいずれか一項に記載の化合物又はその塩又は項4に記載のナノ粒子を含む医薬。
【0017】
項6.癌の予防又は治療のための項5に記載の医薬。
【0018】
項7.項1~3のいずれか一項に記載の化合物又はその塩の水混和性有機溶媒溶液を水に注入する工程を含む、ナノ粒子の製造方法。
【0019】
項8.それを必要とする対象に項1~3のいずれか一項に記載の化合物又はその塩又は項4に記載のナノ粒子の有効量を投与することを含む、癌を予防又は治療する方法。
【0020】
項9. 癌の予防又は治療剤を製造するための、項1~3のいずれか一項に記載の化合物又はその塩又は項4に記載のナノ粒子の使用。
【0021】
項10.癌の予防又は治療における使用のための項1~3のいずれか一項に記載の化合物又はその塩又は項4に記載のナノ粒子。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、腫瘍組織で選択的な薬物放出が可能な有機ナノ粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】試験例1におけるin vitro活性試験の結果を示す。
【
図2】実施例1における化合物Bのナノ粒子のSEM写真を示す。
【
図3】試験例2を行う際に用いる化合物の選定の結果を示す。
【
図4】実施例9におけるSNC4DCのナノ粒子のSEM写真及び粒径の経時変化の結果を示す。
【
図5】試験例2におけるin vivo抗腫瘍活性試験の結果を示す。
【
図6】試験例2の各試験区における体重の経時的変化を図
6に示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
化合物又はその塩
本発明は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を提供する:
【0025】
【0026】
[式中、R1は同一又は異なって、水素、ヒドロキシ基又は炭素含有置換基を示す。R2は同一又は異なって、置換基を有してもよいエチレン基又はトリメチレン基を示す。]
本発明において、炭素含有有機基としては、1~20個、好ましくは2~17個の炭素を有する有機基等が挙げられる。炭素含有有機基は、酸素、硫黄及び窒素からなる群より選択される少なくとも1個のヘテロ原子を有していてもよい。より具体的には、炭素含有有機基としては、アルキル基、アルコキシ基、-O-C(=O)-L-R3(式中、Lは単結合又はリンカー基を示す。R3は置換基を有してもよい不飽和炭化水素環基又は複素環基を示す)、-O-C(=O)-(Y)n-R4(式中、Yは窒素原子又は酸素原子を示す。nは0又は1を示す。R4はC2~C10のアルキル基、C3~C10のシクロアルキル基、C4~C10のシクロアルキル-アルキル基又はC4~C10のアルキル-シクロアルキル基を示す)等が挙げられる。一般式-O-C(=O)-L-R3で表される炭素含有有機基としては、例えば、5-(1,2-ジチオラン-3-イル)ペンタノイルオキシ基等が挙げられる。-O-C(=O)-(Y)n-R4で表される炭素含有有機基としては、例えば、アシルオキシ基、シクロアルキルカルボニルオキシ基、シクロアルキルアルキルカルボニルオキシ基、アルキルシクロアルキルカルボニルオキシ基、アルキルカルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0027】
本発明において「アルキル基」とは、直鎖状又は分枝鎖状の飽和炭化水素基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等のC1-C10アルキル基が挙げられ、好ましくはC1-C8アルキル基等が挙げられ、より好ましくはC1-C6アルキル基等が挙げられ、より好ましくはC1-C3アルキル基等が挙げられる。
【0028】
本発明において「アルコキシ基」としては、アルキル部分が前述のアルキル基であるアルコキシ基が挙げられる。より具体的には、アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基等のC1-C10アルコキシ基等が挙げられ、好ましくはC1-C8アルコキシ基等が挙げられ、より好ましくはC1-C6アルコキシ基等が挙げられ、より好ましくはC1-C3アルコキシ基等が挙げられる。
本発明において、アシルオキシ基とは、直鎖又は分枝鎖状(好ましくは直鎖状)の飽和炭化水素が結合したカルボニルオキシ基を示し、例えば、アセトキシ基、プロピオニロキシ基、ブチリロキシ基、イソブチリロキシ基、ピバロイロキシ基、ペンタノイロキシ基、ヘキサノイロキシ基、ヘプタノイロキシ基、オクタノイロキシ基、ノナノイロキシ基、デカノイロキシ基、ウンデカノイロキシ基、ドデカノイロキシ基等が挙げられる。本発明においては、C2~C10アシルオキシ基が好ましく、C4~C8アシルオキシ基がより好ましく、C4~C6アシルキシ基がさらに好ましい。本発明において、「CXアシルオキシ基」とは、カルボニル基を構成する炭素原子も含めた炭素数がX個であるアシルオキシ基を意味する。従って、例えば、アセトキシ基(-O-C(=O)-CH3)はC2アシルオキシ基であり、ウンデカノイロキシ基(-O-C(=O)-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH3)はC11アシルオキシ基である。
本発明において「シクロアルキル基」とは、環状の炭化水素基を示し、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロシル基等のC3-C10アルキル基が挙げられ、好ましくはC3-C8アルキル基等が挙げられ、より好ましくはC3-C6アルキル基等が挙げられ、より好ましくはC3-C4アルキル基等が挙げられる。
本発明において「シクロアルキル-アルキル基」は、1個のシクロアルキル基で置換がされたアルキル基を示す。「シクロアルキル-アルキル基」としては、シクロアルキル部分が前述のシクロアルキル基であり、かつアルキル部分が前述のアルキル基であるシクロアルキル-アルキル基が挙げられる。本発明においては、C4-C10のシクロアルキル-アルキル基が好ましく、C4-C6のシクロアルキル-アルキル基が好ましい。本発明において、「C4-C10のシクロアルキル-アルキル基」とは、シクロアルキル部分とアルキル部分との炭素数の合計が4~10であるシクロアルキル-アルキル基を示す。より具体的には、シクロアルキル-アルキル基としては、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロノニルメチル、1-シクロプロピルエチル、2-シクロプロピルエチル、3-シクロプロピルプロピル、6-シクロプロピルヘキシル等が挙げられ、シクロプロピルメチル等が好ましい。
本発明において「アルキル-シクロアルキル基」は、1個のアルキル基で置換がされたシクロアルキル基を示す。「アルキル-シクロアルキル基」としては、アルキル部分が前述のアルキル基であり、かつシクロアルキル部分が前述のシクロアルキル基であるアルキル-シクロアルキル基が挙げられる。本発明においては、C4-C10のアルキル-シクロアルキル基が好ましく、C4-C6のアルキル-シクロアルキル基が好ましい。本発明において、「C4-C10のアルキル-シクロアルキル基」とは、アルキル部分とシクロアルキル部分との炭素数の合計が4~10であるアルキル-シクロアルキル基を示す。より具体的には、アルキル-シクロアルキル基としては、1-メチルシクロプロピル、2-メチルシクロプロピル、1-メチルシクロブチル、2-メチルシクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル、5-メチルシクロノニル、2-エチルシクロプロピル、2-プロピルシクロプロピル、2-ヘキシルシクロプロピル等が挙げられ、1-メチルシクロプロピル、2-メチルシクロプロピル等が好ましい。
一般式(1)において、R1は同一又は異なってもよいが、同一であることが好ましい。
【0029】
一般式(1)において、R2で示されるエチレン基又はトリメチレン基は、無置換でも、置換基を有していてもよい。R2で示されるエチレン基又はトリメチレン基が置換基を有する場合、当該置換基としては特に限定されないが、例えば、アルキル基(例えば、C1-C10アルキル基)等が挙げられる。R2で示されるエチレン基又はトリメチレン基が置換基を有する場合、当該置換基の数は限定されないが、例えば、1つのR2あたり1個又は2個の置換基を有することが好ましい。1つのR2あたり2個の置換基を有る場合、エチレン基又はトリメチレン基を構成するメチレン基うち1つの炭素に2個の置換基が結合していることが好ましい。
【0030】
本発明においてリンカー基としては、例えば、-O-C(=O)-L1-L2-、-O-C(=S)-L1-L2-、-O-C(=O)-O-L1-L2-、-O-C(=O)-NH-L1-L2-、-O-C(=S)-NH-L1-L2-(式中、L1は単結合又は二価の直鎖C1~6(好ましくはC3~5)飽和炭化水素基を示す。L2は単結合又は-O-C(=O)-を示す。)等が挙げられる。これらのリンカー基は、上記表記において左側の結合手で-O-C(=O)-と結合し、右側の結合手でR3と結合する。例えば、リンカー基が基-O-C(=O)-L1-L2-の場合、当該基-O-C(=O)-L1-L2-は、酸素側の結合手で-O-C(=O)-と結合し、L2側でR3と結合する。また、L2が-O-C(=O)-の場合、-O-側の結合手でL1と結合し、-C(=O)-側の結合手でR3と結合する。
【0031】
本発明において、「不飽和炭化水素環基」とは、少なくとも1つ(好ましくは2つ以上)の二重結合を有する炭化水素環基を意味し、アリール基及び非芳香族系不飽和炭化水素環基が挙げられ、非芳香族系不飽和炭化水素環基が好ましい。不飽和炭化水素環基としては、例えば、炭素数5~10のものが挙げられる。不飽和炭化水素環基が有する二重結合の数も限定されないが、例えば、1~5個、好ましくは2~4個等が挙げられる。
【0032】
本発明において「アリール基」とは、芳香族炭化水素の芳香環から水素をひとつ取り除いてなる一価の基であり、例えば、ナフチル基等の炭素数6~10の単環式又は二環式のアリール基が挙げられる。
【0033】
本発明において「非芳香族系不飽和炭化水素環基」とは、不飽和炭化水素環基のうちアリール基以外のものを示し、炭素数5~10(好ましくは炭素数6~8)の単環式又は二環式(好ましくは単環式)のものが挙げられる。非芳香族系不飽和炭化水素環基が有する二重結合の数も限定されないが、例えば、1~4個、好ましくは2~3個等が挙げられる。より具体的には、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタ-2,4-ジエニル基、シクロヘキサ-2,4-ジエニル基、シクロへプタ-2,4,6-トリエニル基、1H-インデニル基、1,2-ジヒドロナフチル基等が挙げられる。
【0034】
本発明において「複素環基」としては、例えば、炭素を1~9個(好ましくは1~7個、より好ましくは2~5個、さらに好ましくは2~4個)有し、かつ酸素、硫黄及び窒素からなる群より選択される少なくとも1個(好ましくは1~3個、より好ましくは2個)のヘテロ原子を有する、単環式又は二環式(好ましくは単環式)の飽和又は不飽和(好ましくは飽和)複素環が挙げられる。複素環に含まれるヘテロ原子としては、硫黄が好ましい。複素環としては、例えば、4~10員環が好ましく、4~6員環がより好ましい。より具体的には、複素環としては、例えば、ジチエタニル基、ジチオラニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチオフェニル基、テトラゾリジニル基、ピロリジニル基、モルホリニル基、ピリジニル基、ピペリジニル基、ジチアニル基、フラニル基、チオフェニル基、キノリニル基等が挙げられる。
【0035】
本発明において、不飽和炭化水素環基及び/又は複素環基は、置換基を有してもよい。置換基としては、アルキル基、オキソ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アミン基、ハロゲン基等が挙げられ、アルキル基、オキソ基等が好ましい。かかる実施形態において、不飽和炭化水素環基又は複素環基が置換基を複数有する場合、それらの置換基は同一でも異なってもよい。不飽和炭化水素環基及び/又は複素環基が置換基を有する場合、置換基の数は限定されず、少なくとも1個、1~3個、1~2個等が挙げられる。
【0036】
本発明のうち、R1が置換基を有してもよい不飽和炭化水素環基である実施形態において、当該「置換基を有してもよい不飽和炭化水素環基」は、芳香族性を示す(共鳴構造のように電子が非局在化している)ことが好ましい。従って、当該実施形態においては、「置換基を有してもよい不飽和炭化水素環基」の好ましい例としては、アリール基;置換基を有するアリール基であって芳香族性を示す基等が挙げられる。また、「置換基を有してもよい不飽和炭化水素環基」の好ましい例としては、非芳香族系不飽和炭化水素環基の1つ以上の水素が上記置換基に置換されてなる基であって、芳香族性を示すようになったものも挙げられる。
置換基を有する不飽和炭化水素環基としては、好ましくは、5-イソプロピル-7-オキソシクロヘプタ-1,3,5-トリエニル基等が挙げられる。
【0037】
本発明において、「アミン基」としては、置換基として、アルキル基、アリール基等を1個又は2個有するアミノ基を示す。アミン基が上記置換基を2個有する場合、当該2個の置換基は同一でも異なってもよい。
【0038】
本明細書においては、一般式(1)で表される化合物又はその塩を単に化合物(1)と示すこともある。本発明の典型的な実施形態において、化合物(1)は抗腫瘍剤、より具体的には、抗腫瘍剤のプロドラッグとして使用される。従って、本発明において、化合物(1)は、血中での加水分解(カーボネート部位の開裂によるプロドラッグ分子からの活性成分の放出)が抑制され、かつ腫瘍細胞内では加水分解されて活性成分であるSN-38又はその誘導体を生成することが好ましい。本発明においては、血中の加水分解耐性、ナノ粒子作製の際に要求される分散安定性、がん細胞内での選択的な薬物放出性等の観点から、化合物(1)としては、ClogPが5.0~14.0であるものが好ましく、7.0~12.0であるものがより好ましい。ClogPとは、ChemDraw Professional 16.0の「CLogP」プログラムを用いて対象化合物の構造式から算出した、オクタノール/水分配係数であるLogPである。
【0039】
本発明のうちいくつかの代表的な化合物についてCLogPの値を下記表1に示す。
【0040】
【0041】
上記表中の「SN-38 dimer (S-S, carbonate)」とは、上記一般式(1)においてR1が共にヒドロキシ基であり、R2が共にエチレン基である化合物を示す。上記表中の「SN-38xCa dimer (S-S, carbonate)」とは、上記一般式(1)においてR1が共に炭素数a個のアシルオキシ基であり、R2が共にエチレン基である化合物を示す。例えば、SN-38xC2 dimer (S-S, carbonate)は、上記一般式(1)においてR1が共にアセトキシ基であり、R2が共にエチレン基である化合物を示す。
【0042】
また、化合物(1)の具体例としては、以下の基の二量体が挙げられる:
【化5】
【化6】
【化7】
【0043】
本発明において、塩とは、薬学的に許容され得る塩を意図する。また、化合物(1)の塩は、酸付加塩と塩基との塩を包含する。酸付加塩の具体例として、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸塩、及びグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等の酸性アミノ酸塩が挙げられる。塩基との塩の具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩のようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、ピリジン塩、トリエチルアミン塩のような有機塩基との塩、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩等が挙げられる。
【0044】
化合物(1)又はその塩は、水和物又は溶媒和物の形で存在することもあるので、これらの水和物及び溶媒和物もまた本発明の有効成分である化合物に包含される。また、本発明化合物には、幾何異性体、立体異性体、光学異性体等の異性体が存在する場合、特に明記しない限り、これらの異性体は本発明化合物に包含される。
【0045】
溶媒和物を形成する溶媒としては、水、エタノール、プロパノール等のアルコール、酢酸等の有機酸、酢酸エチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類、アセトン等のケトン類、DMSO等が例示される。
【0046】
化合物(1)は、種々の方法により製造され得るが、例えば下記反応式で示される方法により製造される。
[反応式-1]
【0047】
【0048】
[式中、R1は前述の通り]
反応式-1においては、まず、化合物1とトリホスゲンとを反応させることにより、化合物2を得ることができる。化合物1とトリホスゲンとの使用割合は特に限定されないが、例えば、前者1モルに対し後者を0.3~0.4モルで使用することができる。当該反応は、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、トリエチルアミン(TEA)、ピリジン等の塩基の存在下で行うことができる。また、上記反応の反応温度は特に限定されず、通常、室温、冷却又は加熱下で反応が行われる。好ましくは、0~25℃等が挙げられる。上記反応の反応時間も特に限定されないが、例えば、5~1時間反応させることができる。
【0049】
次に、化合物2と2,2'-ジスルファンジイルビス(エタン-1-オール)を反応させることにより、化合物(1')を得ることができる。上記化合物2と2,2'-ジスルファンジイルビス(エタン-1-オール)との使用割合は特に限定されないが、例えば、前者1モルに対し後者を0.4~0.5モルの範囲で使用することができる。また、上記反応の反応温度は特に限定されず、通常、室温、冷却又は加熱下で反応が行われる。好ましくは、0~25℃等が挙げられる。上記反応の反応時間も特に限定されないが、例えば、60分~24時間反応させることができる。
[反応式-2]
【0050】
【0051】
反応式-2においては、化合物1と2,2'-ジスルファンジイルビス(プロパン-1-オール)を反応させることにより、化合物(1'')を得ることができる。上記化合物1と2,2'-ジスルファンジイルビス(プロパン-1-オール)との使用割合は特に限定されないが、例えば、前者1モルに対し後者を0.4~0.5モルの範囲で使用することができる。また、上記反応の反応温度は特に限定されず、通常、室温、冷却又は加熱下で反応が行われる。好ましくは、0~25℃等が挙げられる。上記反応の反応時間も特に限定されないが、例えば、60分~24時間反応させることができる。
これらの反応は、通常、反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒、例えば、ジクロロメタン、トリエチルアミン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテルジグライム、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等、これらの混合溶媒の中で行われる。
【0052】
ナノ粒子
本発明は、化合物(1)又はその塩を含むナノ粒子を提供する。本発明においてナノ粒子とは、平均粒子径が1μm未満の粒子を示す。典型的な実施形態において、本発明のナノ粒子は、略球形である。本発明において平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は動的光散乱法(DLS)により測定することができる。本発明のナノ粒子の平均粒子径は、好ましくは10~500nmであり、より好ましくは10~100nmである。本発明のナノ粒子は、典型的には、後述する方法により化合物(1)又はその塩の水混和性有機溶媒溶液を水に注入し、分散させることにより調製することができる。従って、典型的な実施形態において、本発明のナノ粒子は、化合物(1)又はその塩の有機ナノ結晶であるため、実質的に化合物(1)又はその塩のみからなる。ただし、本発明の効果が得られる範囲において、本発明のナノ粒子は、化合物(1)又はその塩以外の成分(例えば、ナノ粒子の製法に用いた水混和性有機溶媒に対する添加物等)を含んでいてもよい。例えば、本発明のナノ粒子における化合物(1)又はその塩の含有量は95質量以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上がより好ましい。
【0053】
本発明のナノ粒子は、化合物(1)又はその塩の水混和性有機溶媒溶液を水に注入する工程を含む方法により製造することができる。本発明の方法においては、まず、シリンジを用いて化合物(1)又はその塩の水混和性有機溶媒溶液を水に注入する。水混和性有機溶媒としては、化合物(1)又はその塩の良溶媒であれば特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等を挙げることができ、溶解性及び安全性の観点から、アセトン、テトラヒドロフラン、エタノール、ジメチルスルホキシド等が好ましい。これらの溶媒は一種単独で又は複数種類を混合して使用することができる。化合物(1)又はその塩の水混和性有機溶媒溶液中の化合物(1)又はその塩の含有量は特に限定されないが、例えば、0.1~15質量%、好ましくは0.1~10質量%の範囲で適宜設定できる。水混和性有機溶媒溶液には、化合物(1)又はその塩以外に、ポリソルベート80(PS80)、ポリビニルピロリドン(PVP)等を添加してもよい。水に注入する、化合物(1)又はその塩の水混和性有機溶媒溶液の量も特に限定されないが、例えば、水10mlに対し、水混和性有機溶媒溶液を0.1~1ml、好ましくは0.1~0.2ml添加することができる。注入時間は特に限定されないが、例えば、0.1~1秒で注入することが好ましく、0.1~0.2秒で注入することがより好ましい。当該工程の反応系の温度も特に限定されないが、例えば、0~30℃、好ましくは10~20℃の範囲で適宜設定できる。本発明の一実施形態において、水混和性有機溶媒溶液を水に注入後、攪拌することが好ましい。攪拌速度は特に限定されないが、例えば、1000~1500rpm、好ましくは1200~1500rpmの範囲で適宜設定できる。攪拌工程における温度は注入工程と同様である。攪拌時間は特に限定されないが、例えば、1~10秒、好ましくは1~3秒の範囲で適宜設定できる。水混和性有機溶媒溶液の水への注入及び任意選択での攪拌により、化合物(1)又はその塩が結晶化又は粒子化し、その結果、化合物(1)又はその塩のナノ粒子の水分散液を得ることができる。本発明の一実施形態において、得られたナノ粒子は、水に分散された状態のまま分散液として使用することができる。分散液として使用する場合、化合物(1)又はその塩の溶解及び水への添加のために用いた水混和性有機溶媒は、安全性の観点から、使用前に除去しておくことが好ましい。有機溶媒の除去方法は特に限定されず、公知の方法を使用することができ、例えば、減圧(あるいは常圧)下での留去、透析等を用いて取り除くこともできる。本発明の別の実施形態において、得られたナノ粒子は、分散液に対し、濾過等の固液分離操作を行うことによって微粒子粉末として単離して使用することもできる。上記製造方法を使用するにあたっては、例えば、原料として化合物(1)又はその塩を用いる以外、特許文献1の記載を参照して行うことができる。本発明の化合物又はその塩は、上記のようにナノ粒子を形成した場合、高濃度分散液(例えば、0.1~10mM、好ましくは1~10mMの分散液)を得ることができるため好ましい。
【0054】
医薬
本発明は、化合物(1)又はその塩を含む医薬を提供する。また本発明は、前述した本発明のナノ粒子を含む医薬を提供する。
【0055】
本発明においては、化合物(1)又はその塩そのものを医薬として用いても、薬学的に許容される各種担体(例えば、例えば等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、抗酸化剤、溶解補助剤、粘稠化剤等)と組み合わせた医薬組成物として用いてもよい。
【0056】
本発明の医薬は癌の予防又は治療のために用いることができる。かかる実施形態おいて、予防又は治療の対象となる癌としては、特に限定されないが、好ましくは固形腫瘍が挙げられ、具体的には食道癌、胃癌、結腸癌、大腸癌、直腸癌、膵臓癌、肝臓癌、喉頭癌、肺癌、前立腺癌、膀胱癌、乳癌、子宮癌又は卵巣癌が挙げられる。標的部位は、腫瘍の細胞、組織、器官又は臓器及びそれらの内部等である。
【0057】
等張化剤としては、例えば、グルコース、トレハロース、ラクトース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール等の糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩類等が挙げられる。
【0058】
キレート剤としては、例えば、エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸カルシウム等のエデト酸塩類、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸又はその塩、ヘキサメタリン酸ソーダ、クエン酸等が挙げられる。
【0059】
安定化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0060】
pH調節剤としては、例えば、塩酸、炭酸、酢酸、クエン酸等の酸が挙げられ、さらに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属酢酸塩、クエン酸ナトリウム等のアルカリ金属クエン酸塩、トロメタモール等の塩基等が挙げられる。
【0061】
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロロブタノール、ポリクォード、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン等が挙げられる。
【0062】
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、濃縮混合トコフェロール等が挙げられる。
【0063】
溶解補助剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、グリセリン、D-ソルビトール、ブドウ糖、プロピレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、D-マンニトール等が挙げられ、
粘稠化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0064】
また、上記医薬組成物は、化合物(1)又はその塩以外に、抗腫瘍効果を有することが知られている化合物をさらに含んでいてもよい。抗腫瘍効果を有することが知られている化合物としては、例えば、ポドフィロトキシン(PPT)、ドキソルビシン(DOX)、フルオロウラシル(5-FU)等の化学療法剤が挙げられる。
【0065】
医薬組成物の実施形態において、組成物中の化合物(1)又はその塩の含有量は特に限定されず、化合物(1)の含有量換算で、例えば、90質量%以上、70質量%以上、50質量%以上、30質量%以上、10質量%以上、5質量%以上、1質量%以上等の条件から適宜設定できる。
【0066】
製剤形態は、特に限定されず、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、舌下剤等の経口投与剤;注射剤(静脈注射、筋肉注射、局所注射等)、含嗽剤、点滴剤、外用剤(軟膏、クリーム、貼付薬、吸入薬)、座剤等の非経口投与剤等の各種製剤形態を挙げることができる。上記製剤形態のうち、好ましいものとしては、例えば、注射剤(静脈注射)、点滴剤等が挙げられる。また、本発明の好ましい実施形態において、化合物(1)又はその塩は、腫瘍に直接注射する投与方法でも抗腫瘍効果を示すため有用である。
【0067】
製剤中の本発明の化合物(1)の含有量は、投与経路、患者の年齢、体重、症状等によって異なり一概に規定できないが、化合物(1)の1日投与量が通常10~5000mg程度、より好ましくは100~1000mg程度になる量とすればよい。1日1回投与する場合は、1製剤中にこの量が含まれていればよく、1日3回投与する場合は、1製剤中にこの3分の1量が含まれていればよい。
【0068】
本発明の医薬は、哺乳動物等の患者に投与される。哺乳動物としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ等が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものと解してはならない。
【0070】
比較例1
【0071】
【0072】
スターラーバーを備えたナスフラスコにSN-38×C6(106.2mg、0.216mmol)、4,4'-disulfanediyldibutyric acid(27.9mg、0.117mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(175.1mg、0.913mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(9.1mg、0.0745mmol)を入れ、ジクロロメタン2.2mLに溶解させた。室温で終夜撹拌後、溶媒の減圧留去により得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム→クロロホルム/メタノール=50:1)で精製して化合物A(87.1mg、68%)を淡黄色固体として得た。
【0073】
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.956 (6H, t, J = 7 Hz), 1.41 (7H, m), 1.77-1.88 (4H, m), 2.1 (1H, sext, J= 7.2 Hz), 2.24 (1H, sext, J = 7.2 Hz), 2.51 (2H, m), 2.63 (4H, m), 3.13 (2H, q, J = 7.7 Hz), 5.23 (2H, s), 5.37 (1H, d, J = 17 Hz), 5.7 (1H, d, J = 17 Hz), 7.12 (1H, s), 7.55 (1H, dd, 9.2, 2.4)
【0074】
実施例1
【0075】
【0076】
スターラーバーを備えたナスフラスコにSN-38×C6(50mg、0.1mmol)、トリホスゲン(12mg、0.04mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(61mg、0.5mmol)を入れ、ジクロロメタン2mLに溶解させた。室温で15分撹拌後、ジクロロメタン1mLに溶解させた2,2-ジチオジエタノールを滴下した。室温で終夜撹拌後、クロロホルムで希釈し、水及び飽和塩化ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過、溶媒の減圧留去により得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3:1→酢酸エチル)で精製して化合物B(22mg、46%)を淡黄色固体として得た。本明細書において、化合物Bを化合物SNC6DCと示すこともある。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.956 (6H, t, J = 7 Hz), 1.38-1.44 (7H, m), 1.82 (2H,quin, J = 5.6 Hz), 2.05-2.11 (1H, m), 2.17-2.22 (1H, m), 2.66 (2H, t, J = 7.4 Hz), 2.78 (2H, t, J = 6.2 Hz),3.15 (2H, q, J = 7.7Hz), 3.88-4.00 (2H, m), 5.26-5.32 (2H, m), 5.35 (1H, d, J = 17 Hz), 5.8 (1H, d, J = 17 Hz), 7.21 (1H, s), 7.55 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.82 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.17 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0077】
実施例2
本発明の化合物A~Bのナノ粒子の作製方法
10mMに調製した化合物A~BのTHF溶液100μLを水10mL中に注射器を用いて室温下注入し、2秒間、1500rpmで攪拌して、ナノ粒子の水分散液を得た。最終的な水分散液の濃度は、0.1mMとなった。SEM及びDLSにより粒径が約100nmであることが明らかになった。上記で得られた化合物Bのナノ粒子のSEMを
図2に示す。
【0078】
試験例1
in vitro活性試験
ヒト肝癌細胞株HePG2またはヒト乳癌細胞株KPL-4を96ウェルプレートに2×104cells/ウェルで播種した。翌日、イリノテカン、SN-38誘導体(化合物A((SN-38xC6 dimer (S-S, ester))、化合物B(SN-38xC6 dimer (S-S, carbonate)))ナノ粒子分散液を、0.04~10μMとなるようにHepG2細胞培養液に添加した。その後48時間培養し、Cell Counting Kit-8(DOJINDO社製)とマイクロプレートリーダーを用いて、比色法により細胞生存率を測定した。
【0079】
結果を
図1に示す。
図1に示すように、化合物Aは良好な薬理活性を発現しなかったが、化合物Bは-S-S-結合の開裂に由来する薬物により、良好な薬理活性を発現した。
【0080】
実施例3
本発明の化合物SNBocDCの製造方法
【0081】
【0082】
スターラーバーを備えたナスフラスコにBoc-SN-38(1476mg、3.00mmol)、トリホスゲン(356mg、1.20mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(1830mg、15.0mmol)、2-ヒドロキシエチルジスルフィド(193mg、1.25mmol)を入れ、0℃でジクロロメタン50mLに溶解させた。0℃で1時間撹拌後、トリホスゲン(178mg、0.600mmol)、2-ヒドロキシエチルジスルフィド(193mg、1.25mmol)を入れた。室温で2時間撹拌後、クロロホルムで希釈し、水及び飽和塩化ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過、溶媒の減圧留去により得られた残渣を、メタノールを用いて再結晶をおこない、ろ過することで化合物SNBocDC(1269mg、71%)を淡黄色固体として得た。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.949 (3H, t, J = 7.4 Hz), 1.39 (3H, t, J = 7.8 Hz), 1.60 (9H, s), 2.03-2.23 (2H, m), 2.77 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.15 (q, J = 7.7 Hz), 3.85-4.00 (2H, m), 5.25 (2H, d, J = 5.6 Hz), 5.34 (1H, d, J = 17.2 Hz), 5.80 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.20 (1H, s), 7.65 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.89 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.16 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0083】
実施例4
本発明の化合物SNC0DCの製造方法
【0084】
【0085】
スターラーバーを備えたナスフラスコにSNBocDC(723mg、0.607mmol)を入れ、ジクロロメタン22mLに溶解させた。尚、トリフルオロ酢酸2.2mLを入れ、室温で3.5時間撹拌後、溶媒の減圧留去により得られた残渣を、クロロホルムを用いて再結晶をおこない、ろ過することで化合物SNC0DC(596mg、99%)を淡黄色固体として得た。
1H-NMR (DMSO, 400 MHz): δ= 0.881 (3H, t, J =7.4 Hz), 1.26 (3H, t, J = 7.6 Hz), 2.08-2.15 (2H, m), 2.90-2.99 (2H, m), 3.04 (2H, q, J = 7.5 Hz), 5.23 (2H,s). 5.5 (2H, d, J = 3.2 Hz), 6.91 (1H, s). 7.36-7.38 (2H, m), 7.96 (1H, d, J = 10 Hz), 10.3 (1H, br).
【0086】
実施例5
本発明の化合物SNC2DCの製造方法
【0087】
【0088】
スターラーバーを備えたナスフラスコにSNC0DC(200mg、0.202mmol)、トリエチルアミン(101mg、0.998mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(5mg、0.0409mmol)を入れ、0℃でジクロロメタン2.8mLに溶解させた。アセチルクロリド36μLを入れ、室温で終夜撹拌後、溶媒の減圧留去により得られた残渣を、クロロホルムで希釈し、水及び飽和塩化ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過、溶媒の減圧留去により得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム→クロロホルム/アセトン=9:1)で精製することで化合物SNC2DC(80.8mg、37%)を淡黄色固体として得た。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.953 (3H, t, J = 7.4 Hz), 1.37 (3H, t, J = 7.6 Hz), 2.03-2.25 (2H, m), 2.40 (3H, s), 2.78 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.14 (2H, q, J = 7.7 Hz), 3.87-4.02 (2H, m), 5.25 (2H, d, J = 5.2 Hz), 5.34 (1H, d, J = 17.2 Hz), 5.78 (1H, d, J = 16.8 Hz), 7.20 (1H, s), 7.55 (1H, dd, J = 9.2, 2.8 Hz), 7.82 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.16 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0089】
実施例6
本発明の化合物SNC3DC、SNC4DC、SNC8DC、SNC10DC、SNC5DC-(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、(H)、(I)の製造方法
【0090】
【0091】
まず、SNC3DCを例として製造方法を記す。
スターラーバーを備えたナスフラスコにSN0DC(200mg、0.202mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(78mg、0.502mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(5mg、0.0409mmol)を入れ、ジクロロメタン8.0mLに溶解させた。プロピオン酸(37mg、0.499mmol)を入れ、室温で3時間撹拌後、クロロホルムで希釈し、水及び飽和塩化ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過、溶媒の減圧留去により得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム→クロロホルム/アセトン=5:1)で精製して化合物SNC3DC(91.4mg、41%)を淡黄色固体として得た。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.945 (3H, t, J = 7.6 Hz), (3H, t, J = 7.6 Hz), 1.39 (3H, t, J = 7.6 Hz), 2.03-2.12 (1H, m), 2.16-2.25 (1H, m), 2.69 (2H, q, J = 7.5 Hz), 2.78 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.14 (2H, q, J = 7.7 Hz), 3.87-4.02 (2H, m), 5.25 (2H, d, J = 4.8 Hz), 5.33 (1H, d, J = 17.2 Hz), 5.78 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.20 (1H, s), 7.54 (1H, dd, J = 9.0, 2.4 Hz), 7.82 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.16 (1H, d, J = 8.8 Hz).
【0092】
SNC4DC
SN0DC(200mg、0.202mmol)及びプロピオン酸(37mg、0.499mmol)に代えてSNC0DC(500mg、0.504mmol)及び酪酸(110mg、1.25mmol)を用いる以外、前記SNC3DCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率62%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.958 (3H, t, J = 7.4 Hz), 1.10 (3H, t, J = 7.4 Hz), 1.40 (3H, t, J = 7.4 Hz), 1.81-1.90 (2H, m), 2.05-2.12 (1H, m), 2.17-2.24 (1H, m), 2.65 (2H, t, J = 7.4 Hz), 2.78 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.15 (2H, q, J = 7.6 Hz), 3.87-3.93 (1H, m), 3.96-4.02 (1H, m), 5.27 (2H, d, J = 4.8 Hz), 5.30 (1H, d, J = 17.2 Hz), 5.80 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.21 (1H, s), 7.55 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.56 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.17 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0093】
SNC8DC
SN0DC(200mg、0.202mmol)及びプロピオン酸(37mg、0.499mmol)に代えてSNC0DC(100mg、0.101mmol)及びオクタン酸(58mg、0.402mmol)を用いる以外、前記SNC3DCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率50%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.905 (3H, t, J = 6.8 Hz), 0.957 (3H, t, J = 7.4 Hz), 1.31-1.42 (11H, m), 1.77-1.83 (2H, m), 2.05-2.24 (2H, m), 2.66 (2H, t, J = 7.6 Hz), 2.78 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.15 (2H, q, J = 7.7 Hz), 3.88-4.00 (2H, m), 5.26 (2H, d, J = 5.2 Hz), 5.35 (1H, d, J = 17.2 Hz), 5.80 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.21 (1H, s), 7.55 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.82 (1H, d, J = 2.8 Hz), 8.17 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0094】
SNC10DC
SN0DC(200mg、0.202mmol)及びプロピオン酸(37mg、0.499mmol)に代えてSNC0DC(103.2mg、0.104mmol)及びカプリン酸(52.1mg、0.302mmol)を用いる以外、前記SNC3DCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率59%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.873 (3H, t, J = 7.0 Hz), 0.944 (3H, t, J = 7.6 Hz), 1.27-1.5 (15H, m), 1.76-1.82 (2H, m), 2.03-2.09 (1H, m), 2.17-2.23 (1H, m), 2.65 (2H, t, J = 7.6 Hz), 2.76 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.14 (2H, q, J = 7.7 Hz), 3.85-3.90 (1H, m), 3.93-3.98 (1H, m), 5.24 (2H, d, J = 5.2 Hz), 5.33 (1H, d, J = 17.2 Hz), 5.79 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.19 (1H, s), 7.53 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.80 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.15 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0095】
SNC5DC-(A)
SN0DC(200mg、0.202mmol)及びプロピオン酸(37mg、0.499mmol)に代えてSNC0DC(200mg、0.202mmol)及び1-Methylcyclopropanecarboxylic acid(50mg、0.499mmol)を用いる以外、前記SNC3DCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率65%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.941-0.960 (5H, m), 1.38 (3H, t, J = 7.7 Hz), 1.48-1.51 (5H, m), 2.02-2.24 (2H, m), 2.77 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.13 (2H, q, J = 7.6 Hz), 3.86-4.01 (2H, m), 5.24 (2H, d, J = 4.4 Hz), 5.33 (1H, d, J = 17.2 Hz), 5.77 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.19 (1H, s), 7.51 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.78 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.14 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0096】
SNC5DC-(B)
SN0DC(200mg、0.202mmol)及びプロピオン酸(37mg、0.499mmol)に代えてSNC0DC(200mg、0.202mmol)及び2-methylcyclopropane-1-carboxylic acid(50mg、0.499mmol)を用いる以外、前記SNC3DCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率71%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.914-0.961 (4H, m), 1.23 (3H, d, J = 5.6 Hz), 1.31-1.41 (5H, m), 1.62-1.65 (1H, m), 2.04-2.23 (2H, m), 2.77 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.13 (2H, q, J = 7.6 Hz), 3.88-3.99 (2H, m), 5.23 (2H, d, J = 4.4 Hz), 5.33 (1H, d, J = 17.1 Hz), 5.77 (1H, d, J = 17.1 Hz), 7.19 (1H, s), 7.54 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.81 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.14 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0097】
SNC5DC-(C)
SN0DC(200mg、0.202mmol)及びプロピオン酸(37mg、0.499mmol)に代えてSNC0DC(200mg、0.202mmol)及び(R)-2-methylbutanoic acid(51mg、0.499mmol)を用いる以外、前記SNC3DCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率71%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.943 (3H, t, J = 7.4 Hz), 1.07 (3H, t, J = 7.4 Hz), 1.34-1.40 (6H, m), 1.67-1.72 (1H, m), 1.86-1.91 (1H, m), 2.06-2.21 (2H, m), 2.17-2.78 (3H, m), 3.14 (2H, q, J = 7.7 Hz), 3.86-3.96 (2H, m), 5.24 (2H, d, J = 5.2 Hz), 5.33 (1H, d, J = 17.1 Hz), 5.77 (1H, d, J = 17.1 Hz), 7.19 (1H, s), 7.52 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.79 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.15 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0098】
SNC5DC-(D)
SN0DC(200mg、0.202mmol)及びプロピオン酸(37mg、0.499mmol)に代えてSNC0DC(200mg、0.202mmol)及び(S)-2-methylbutanoic acid(51mg、0.499mmol)を用いる以外、前記SNC3DCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率58%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.944 (3H, t, J = 7.5 Hz), 1.07 (3H, t, J = 7.4 Hz), 1.34-1.40 (6H, m), 1.67-1.72 (1H, m), 1.86-1. 93 (1H, m), 2.06-2.21 (2H, m), 2.17-2.78 (3H, m), 3.14 (2H, q, J = 7.7 Hz), 3.87-3.99 (2H, m), 5.24 (2H, d, J = 5.2 Hz), 5.33 (1H, d, J = 17.2 Hz), 5.77 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.19 (1H, s), 7.53 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.79 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.15 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0099】
SNC5DC-(E)
SN0DC(200mg、0.202mmol)及びプロピオン酸(37mg、0.499mmol)に代えてSNC0DC(200mg、0.202mmol)及びPentanoic acid(51mg、0.499mmol)を用いる以外、前記SNC3DCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率58%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.929-1.01 (6H, m), 1.38 (3H, t, J = 7.7 Hz), 1.46-1.51 (2H, m), 1.75-1.83 (2H, m), 2.06-2.21 (2H, m), 2.65 (2H, t, J = 7.4 Hz), 2.77 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.14 (2H, q, J = 7.7 Hz), 3.87-3.99 (2H, m), 5.24 (2H, d, J = 5.2 Hz), 5.33 (1H, d, J = 17.1 Hz), 5.78 (1H, d, J = 17.1 Hz), 7.19 (1H, s), 7.53 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.80 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.15 (1H, d, J = 8.8 Hz).
【0100】
SNC5DC-(F)
SN0DC(200mg、0.202mmol)及びプロピオン酸(37mg、0.499mmol)に代えてSNC0DC(200mg、0.202mmol)及び3-methylbutanoic acid(51mg、0.499mmol)を用いる以外、前記SNC3DCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率56%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.945 (3H, t, J = 7.5 Hz), 1.10 (6H, d, J = 6.7 Hz), 1.38 (3H, t, J = 7.7 Hz), 2.04-2.33 (3H, m), 2.53 (2H, d, J = 7.1 Hz), 2.77 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.13 (2H, q, J = 7.7 Hz), 3.85-4.01 (2H, m), 5.24 (2H, d, J = 5.2 Hz), 5.33 (1H, d, J = 17.2 Hz), 5.78 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.19 (1H, s), 7.53 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.79 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.15 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0101】
SNC5DC-(G)
SN0DC(200mg、0.202mmol)及びプロピオン酸(37mg、0.499mmol)に代えてSNC0DC(200mg、0.202mmol)及びPivalic acid(51mg、0.499mmol)を用いる以外、前記SNC3DCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率26%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.960 (3H, t, J = 7.5 Hz),1.40 (3H, t, J = 7.7 Hz), 1.44 (9H, s), 2.08-2.19 (2H, m), 2.78 (2H, t, J = 6.3 Hz), 3.16 (2H, q, J = 7.7 Hz), 3.90-4.01 (2H, m), 5.26 (2H, d, J = 5.0 Hz), 5.34 (1H, d, J = 17.2 Hz), 5.78 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.21 (1H, s), 7.51 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.79 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.17 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0102】
SNC5DC-(H)
SN0DC(200mg、0.202mmol)及びプロピオン酸(37mg、0.499mmol)に代えてSNC0DC(200mg、0.202mmol)及び2-cyclopropylacetic acid(50mg、0.499mmol)を用いる以外、前記SNC3DCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率48%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.330 (2H, q, J = 5.1 Hz), 0.690 (2H, q, J = 5.1 Hz), 0.980 (3H, t, V J = 6.8 Hz), 1.21-1.25 (1H, m), 1.40 (3H, t, J = 7.7 Hz), 2.05-2.25 (2H, m), 2.57 (2H, d, J = 7.1 Hz), 2.79 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.16 (2H, q, J = 7.7 Hz), 3.89-4.01 (2H, m), 5.27 (2H, d, J = 5.4 Hz), 5.35 (1H, d, J = 17.2 Hz), 5.79 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.21 (1H, s), 7.57 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.85 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.18 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0103】
SNC5DC-(I)
SN0DC(200mg、0.202mmol)及びプロピオン酸(37mg、0.499mmol)に代えてSNC0DC(200mg、0.202mmol)及びcyclobutanecarboxylic acid(50mg、0.499mmol)を用いる以外、前記SNC3DCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率65%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.945 (3H, t, J = 7.5 Hz), 1.38 (3H, t, J = 7.7 Hz), 2.04-2.19 (4H, m), 2.37-2.52 (4H, m), 2.77 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.13 (2H, q, J = 7.6 Hz), 3.45-3.49 (1H, m), 3.91-3.97 (2H, m), 5.23 (2H, d, J = 4.6 Hz), 5.33 (1H, d, J = 17.2 Hz), 5.77 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.19 (1H, s), 7.53 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.81 (1H, d, J =2.4 Hz), 8.15 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0104】
実施例7
本発明の化合物SNC3NDC、SNC4NDCの製造方法
【0105】
【0106】
まず、SNC3NDCを例として製造方法を記す。
スターラーバーを備えたナスフラスコにSN0DC(263.9mg、0.266mmol)、1-isocyanatopropane(64.3mg、0.756mmol)、トリエチルアミン(127.5mg、1.26mmol)を入れ、ジクロロメタン5.0mLに溶解させた。室温で4時間撹拌後、クロロホルムで希釈し、水、飽和塩化アンモニウム水溶液及び飽和塩化ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過、溶媒の減圧留去により得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム→クロロホルム/アセトン=5:1)で精製して化合物SNC3NDC(92.8mg、30%)を淡黄色固体として得た。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.951-1.03 (6H, m), 1.37 (3H, t, J = 7.6 Hz), 1.63-1.68 (2H, m), 2.79 (2H, t, J = 6.2 Hz), 3.11 (2H, q, J = 6.8 Hz), 3.29 (2H, q, J = 6.8 Hz), 3.94-3.97 (1H, m), 4.01-4.06 (1H, m), 5.22 (2H, d, J = 1.6 Hz), 5.32-5.37 (2H, m), 5.77 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.20 (1H, s), 7.56 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.84 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.12 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0107】
SNC4NDC
SN0DC(263.9mg、0.266mmol)及び1-isocyanatopropane(64.3mg、0.756mmol)に代えてSNC0DC(255.4mg、0.258mmol)及び1-isocyanatobutane(75mg、0.757mmol)を用いる以外、前記SNC3NDCの製造方法と同様にして、標記化合物を得た。収率19%。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 0.934-0.990 (6H, m), 1.34-1.46 (5H, m), 1.57-1.64 (2H, m), 2.05-2.10 (1H, m), 2.17-2.24 (1H, m), 2.79 (2H, t, J = 7.0 Hz), 3.07-3.13 (2H, m), 3.29-3.34 (2H, q, J = 6.6 Hz), 3.94-4.05 (2H, m), 5.21 (2H, d, J = 1.6 Hz), 5.32-5.36 (2H, m), 5.76 (1H, d, J = 17.2 Hz), 7.20 (1H, s), 7.55 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.83 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.11 (1H, d, J = 9.2 Hz).
【0108】
実施例8
SNCnDC(n=0,2,4,6,8,10)ナノ粒子の作製
10mMに調製した化合物のDMSOまたはTHF溶液100μLを水10mL中に注射器を用いて室温下注入し、2秒間、1500rpmで攪拌して、ナノ粒子の水分散液を得た。最終的な水分散液の濃度は、0.1mMとなった。SEM及びDLSによりn=0,2の場合にナノ粒子は即座に凝集することが明らかになった。n=4,6,8,10の場合に粒径が約100nmであることが明らかになった。上記で得られた化合物のナノ粒子のSEMを
図3に示す。
【0109】
実施例9
高濃度のナノ粒子の作製方法
46.7mMに調製した化合物SNC4DCのTHF溶液750μLを水4.25mL中に注射器を用いて室温下注入し、ナノ粒子の水分散液を得た。最終的な水分散液の濃度は、7mMとなった。THF溶液を調製する際に化合物と同量のポリソルベート80を添加している。THFを除去した後に再度5mLになるよう定量し、9%塩化ナトリウム水溶液と9:1の割合で混合させ作製した。高濃度分散液の作製直後及び二ヶ月経過後のナノ粒子のSEM像の結果を
図4右上の写真に示す。ナノ粒子の粒径分布の経時変化の結果を
図4右下のグラフに示す。
【0110】
試験例2
in vitro活性試験
試験例1と同様に、ヒト結腸腺癌細胞株HCT-116を96ウェルプレートに2×10
4cells/ウェルで播種した。翌日、SN-38、各SN-38誘導体ナノ粒子分散液を、0.04~10μMとなるように細胞培養液に添加した。その後48時間培養し、Cell Counting Kit-8(DOJINDO社製)とマイクロプレートリーダーを用いて、比色法により細胞生存率を測定した。結果を下記表2に示す。
【表2】
上記表2に示すように、本発明の各化合物は、置換基によって異なるIC50値を示した。
以上の結果から、
図3で作製したナノ粒子の中で最も薬理活性の高いSNC4DCを用いて、以下の試験例3および試験例4を行った。
【0111】
試験例3
in vivo抗腫瘍活性試験
下記表3に示す条件で、ヒト結腸腺がん由来のHCT116細胞を担がんしたマウス(n=5)に対して、2日おきに計5回、100μLを尾静脈注射により投与した。
【0112】
【0113】
表中、SNC4DC NPDsは、実施例9で得られたSNC4DCのナノ粒子を示す。
腫瘍の大きさはノギスを用いて測定した。当該 in vivo抗腫瘍活性試験の結果を
図5に示す。
図5に示すように、Irinotecanと比較してSNC4DC NPDsは高い抗腫瘍活性を発揮した。また、各試験区における体重の経時的変化を
図6に示す。
図6に示すように、SNC4DC NPDs投与による有意な体重減少は見られなかった。従って、SNC4DC NPDs投与により深刻な毒性は確認されなかった。
【0114】
試験例4
in vitro活性試験
試験例1と同様に、ヒト結腸腺癌細胞株HCT-116またはヒト乳腺上皮細胞株HMECを96ウェルプレートに2×10
4cells/ウェルで播種した。翌日、SN-38、SN-38誘導体(SNC4DC)ナノ粒子分散液を、0.04~10μMとなるように細胞培養液に添加した。その後48時間培養し、Cell Counting Kit-8(DOJINDO社製)とマイクロプレートリーダーを用いて、比色法により細胞生存率を測定した。
細胞生存率のIC50の結果を下記表4に示す。
【表4】
表4に示すようにSN-38が正常細胞へ高い毒性を示していたのに対して、SNC4DCは正常細胞への毒性が低かった。