IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社3DCの特許一覧

特許7626509炭素材料およびこれを用いた蓄電デバイス用正極、負極、ならびに蓄電デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】炭素材料およびこれを用いた蓄電デバイス用正極、負極、ならびに蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/186 20170101AFI20250128BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250128BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20250128BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20250128BHJP
【FI】
C01B32/186
H01M4/62 Z
H01G11/36
B82Y30/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024510470
(86)(22)【出願日】2023-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2023027285
(87)【国際公開番号】W WO2024048142
(87)【国際公開日】2024-03-07
【審査請求日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2022137188
(32)【優先日】2022-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522297225
【氏名又は名称】株式会社3DC
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(74)【代理人】
【識別番号】100191961
【弁理士】
【氏名又は名称】藤澤 厚太郎
(72)【発明者】
【氏名】西原 洋知
(72)【発明者】
【氏名】潘 鄭澤
(72)【発明者】
【氏名】黒田 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】小丸 篤雄
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-140950(JP,A)
【文献】特開2021-084819(JP,A)
【文献】特開2015-164889(JP,A)
【文献】特開2013-199428(JP,A)
【文献】特開2017-197424(JP,A)
【文献】特開2012-211069(JP,A)
【文献】特開2003-048707(JP,A)
【文献】特表2018-501173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/62
H01G 11/36
B82Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積弾性率Kが0.7GPa以下であり、平均グラフェン網面サイズLが50nm以上313nm以下である、炭素材料。
【請求項2】
平均積層数nが1以上6以下である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
細孔径dが5nm以上65nm以下である、請求項1または2に記載の炭素材料。
【請求項4】
グラフェン網面内窒素含有量Nが0wt%以上10wt%以下である、請求項1または2に記載の炭素材料。
【請求項5】
BET比表面積Sが400m/g以上2600m/g以下である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項6】
エッジサイト量Nedgeが500μmol/g以下である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項7】
エッジサイト比表面積Sedgeが30m/g以下である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項8】
細孔容積Vtotalが1.9cm/g以上5cm/g以下である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項9】
請求項1に記載の炭素材料を導電助剤として含む、蓄電デバイス用負極。
【請求項10】
請求項1に記載の炭素材料を導電助剤として含む、蓄電デバイス用正極。
【請求項11】
請求項1に記載の炭素材料を導電助剤として含む正極および/または負極を備える蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料およびこれを用いた導電助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能な社会の実現への取り組みに注目が集まっている。特に温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すための研究開発が活発に行われ、二次電池や電気二重層キャパシタ(EDLC:Electric Double-Layer Capacitor)などの蓄電デバイスの高性能化に向けた新しい炭素材料の研究がグローバルに進められている。
【0003】
グラフェンを含む炭素材料は、熱伝導性、導電性、機械的(引っ張り)強度に優れており、エレクトロニクス、エネルギー材料など、様々な分野での応用に対して研究されている。中でも、多孔質な炭素材料は、比表面積の大きさから、反応場としての触媒や導電性の面から電池およびキャパシタ等のエネルギーデバイス用途の電極およびその周辺材料として活発な研究が行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導電性がある多孔質で柔軟な炭素材料の期待される応用例として、例えば負極にシリコンを用いたリチウムイオン電池が挙げられる。リチウムイオン電池の充放電サイクル特性において、負極の活物質のシリコン粒子が充放電の繰り返しに対して膨張して寿命が劣化するという現象が指摘されている。このミクロなシリコン粒子の膨張を柔軟な粒子の圧縮により吸収することができれば解決が期待されるところであるが、まだ圧縮に対する柔軟性についての知見が不十分で、柔軟性に関するパラメータおよび設計についての指針がえられていないという課題があった。
【0005】
また、リチウムイオン電池のもう一方の主役である正極においては、負極ほどは充放電の間で体積変化は起こさないものの、微視的にはリチウムイオンの脱挿入に伴い、間違いなく結晶格子の寸法変化が起こっている。正極における硬質な結晶子の寸法変化によって生じる微細動は、最終的に電極の抵抗増加を引き起こし、充放電寿命に影響を与えることは自明である。
【0006】
さらにリチウムイオン電池は、携帯機器用電源から電気自動車(EV)用電源へと利用範囲が広がっている。そのような状況下、例えばEV走行中の車体振動が与える電池寿命への悪影響も含め、電池外部要因となる機械応力が電極抵抗増加へ与える影響に対する対策はまだまだ不足しており、これも大きな課題である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電池内外で起こる巨視的およびまたは微視的機械振動により発せられる応力から受ける圧縮に対する柔軟性とともに、高い導電性や耐久性を得ることができる、炭素材料およびこれを電極内部に格納した蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、体積弾性率Kという柔軟性に関する指標を見出し、該体積弾性率Kが2GPa以下であるとともに平均グラフェン網面サイズLが50nm以上であることで、圧縮に対する柔軟性および導電性や耐久性に優れた炭素材料を実現できることを見出した。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の構成を提供する。
(1)体積弾性率Kが2GPa以下であり、平均グラフェン網面サイズLが50nm以上である、炭素材料。
【0010】
(2)平均積層数nが1以上6以下である、(1)の炭素材料。
【0011】
(3)細孔径dが5nm以上65nm以下である、(1)または(2)の炭素材料。
【0012】
(4)グラフェン網面内窒素含有量Nが0wt%以上10wt%以下である、(1)~(3)のいずれかの炭素材料。
【0013】
(5)BET比表面積Sが400m/g以上2600m/g以下である、(1)~(4)のいずれかの炭素材料。
【0014】
(6)エッジサイト量Nedgeが500μmol/g以下である、(1)~(5)のいずれかの炭素材料。
【0015】
(7)エッジサイト比表面積Sedgeが30m/g以下である、(1)~(6)のいずれかの炭素材料。
【0016】
(8)細孔容積Vtotalが1.9cm/g以上5cm/g以下である、(1)~(7)のいずれかの炭素材料。
【0017】
(9)(1)から(8)のいずれかの炭素材料を導電助剤に用いた蓄電デバイス用負極。
【0018】
(10)(1)から(8)のいずれかの炭素材料を導電助剤に用いた蓄電デバイス用正極。
【0019】
(11)(1)~(8)のいずれかの炭素材料を導電助剤に用いた正極および/または負極を備える蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、圧縮に対する柔軟性と共に導電性や耐久性を得られる炭素材料および前記炭素材料を、少なくとも正極およびまたは負極の導電助剤に用いた、長寿命の蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る炭素材料の構成の一例を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る炭素材料の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係る炭素材料の製造方法を説明するための図であって、被覆工程の様子を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る炭素材料の製造方法を説明するための図であって、分離工程の様子を示す図である。
図5A】実施例1の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図5B】実施例2の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図5C】実施例3の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図5D】実施例4の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図5E参考例1の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図6A】比較例1の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図6B】比較例2の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図6C】比較例3の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図7A】比較例4の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図7B】比較例5の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図7C】比較例6の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図7D】比較例7の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図7E】比較例8の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図8A】比較例9の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図8B】比較例10の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図8C】比較例11の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。
図9】昇温脱離分析に用いた、超高感度真空TPD装置60を説明する図である。
図10A】実施例1の昇温脱離分析を行った際のガス排出パターンである。
図10B】実施例2の昇温脱離分析を行った際のガス排出パターンである。
図10C】実施例3の昇温脱離分析を行った際のガス排出パターンである。
図10D】実施例4の昇温脱離分析を行った際のガス排出パターンである。
図10E参考例1の昇温脱離分析を行った際のガス排出パターンである。
図11A】比較例1のガス排出パターンである。
図11B】比較例2のガス排出パターンである。
図11C】比較例3のガス排出パターンである。
図12A】比較例4のガス排出パターンである。
図12B】比較例5のガス排出パターンである。
図12C】比較例6のガス排出パターンである。
図12D】比較例7のガス排出パターンである。
図12E】比較例8のガス排出パターンである。
図13A】比較例9のガス排出パターンである。
図13B】比較例10のガス排出パターンである。
図13C】比較例11のガス排出パターンである。
図14A】実施例1~実施例4および参考例1の窒素吸脱着等温線である。
図14B】比較例1~比較例3の窒素吸脱着等温線である。
図14C】比較例4~比較例8の窒素吸脱着等温線である。
図14D】比較例9の窒素吸脱着等温線である。
図14E】比較例10および比較例11の窒素吸脱着等温線である。
図15A】I型の吸着等温線の模式図である。
図15B】IV型の吸着等温線の模式図である。
図16A】実施例1~実施例4および参考例1の細孔径分布である。
図16B】比較例1~比較例3の細孔径分布である。
図16C】比較例4~比較例8の細孔径分布である。
図16D】比較例9の細孔径分布である。
図16E】比較例10および比較例11の細孔径分布である。
図17】実施例1~実施例4、参考例1および比較例1~比較例11の体積弾性率K、並びに、構造特性の関係を示すグラフである。
図18A】実施例1のSEM像である。
図18B】比較例2のSEM像である。
図18C】比較例3のSEM像である。
図18D】比較例4のSEM像である。
図19】実施例1~実施例4および参考例1のラマンスペクトルである。
図20】本発明の一実施形態に係る蓄電デバイスの断面構造の一例を示す図である。
図21】正極における導電助剤の添加量(wt%)と充放電容量(mAh)との関係について、実施例と比較例とで比較した図である。
図22】負極における導電助剤の添加量(wt%)と充放電容量(mAh)との関係について、実施例と比較例とで比較した図である。
図23】正極における導電助剤の添加量と初期効率との関係、および、導電助剤の添加量と10サイクル維持率との関係について、実施例と比較例とで比較した図である。
図24】負極における導電助剤の添加量と初期効率との関係、および、導電助剤の添加量と10サイクル目維持率との関係について、実施例と比較例とで比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。本発明は、以下の例に限定されない。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある模式図である。従って、各構成要素の数、寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法、数等は一例であり、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
[炭素材料]
図1は、本発明の一実施形態に係る炭素材料の構成の一例を示す斜視図である。図1に示される炭素材料100は、体積弾性率Kが2GPa以下であり、平均グラフェン網面サイズLが50nm以上である。炭素材料100は、例えば、三次元多孔質構造を有する。炭素材料100は、例えば、グラフェン骨格10を有する。グラフェン骨格10は、例えば、複数のグラフェンシート1で構成されている。炭素材料100がグラフェン骨格を有することは、ラマン分光測定により確認される。炭素材料100は、例えば、後述する鋳型ナノ粒子の形状に対応した、細孔構造を有する。
【0024】
炭素材料100の体積弾性率Kは、小さいほど高い機械的柔軟性を示し、1.5GPa以下であることが好ましく、1.0GPa以下であることがより好ましく、0.7以下であることがさらに好ましい。ここで、本実施形態において体積弾性率Kは、水銀圧入測定により算出される。本実施形態において機械的柔軟性は、炭素材料に対して機械的応力を印加した際の破壊しづらさに関する指標である。
【0025】
炭素材料100の平均グラフェン網面サイズLは、70nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、150nm以上であることがさらに好ましい。炭素材料100の平均グラフェン網面サイズLが大きいほど、エッジサイトの量が少なくなり、構造としての耐久性を高められるとともに、蓄電デバイスに活用した際にエネルギー密度を向上できる。炭素材料100の平均グラフェン網面サイズLは、炭素材料100を構成するグラフェン骨格10に含まれる複数のグラフェンシート1において、グラフェンの広がり方向における大きさの平均値である。炭素材料100の平均グラフェン網面サイズLは、昇温脱離法により測定された炭素材料100のエッジサイト量Nedge(μmol/g)およびベーサルサイトbasal(μmol/g)より算出される。炭素材料100は、グラフェン網面サイズLが大きいことで、電気二重層キャパシタ(EDLC)の電極に応用した場合、高い電圧を印加しても電解液が分解し難くなり、高い電圧を印加できるようになるため、エネルギー密度をより向上させることができ、信頼性も向上させることができる。
【0026】
炭素材料100のエッジサイト量Nedgeは、例えば、例えば、600μmol/g以下であり、500μmol/g以下であることが好ましく、300μmol/g以下であることがより好ましく、250μmol/g以下や、150μmol/g以下であってもよい。グラフェン網面サイズLが大きい炭素材料100において、エッジサイト量Nedgeが小さいと、前段落に記載のようなEDLCの電極に応用した場合の効果を特に得られやすい。
【0027】
炭素材料100のエッジサイト比表面積Sedgeは、例えば、100m/g以下であり、30m/g以下であることが好ましく、20m/g以下であることがより好ましく、15 /g以下であることがさらに好ましく、10 /g以下であってもよい。
【0028】
炭素材料100は、例えば、多孔質炭素材料で構成されている。炭素材料100において、グラフェン骨格10を構成するグラフェンシート1のそれぞれは、6員環以外の構造を含む。具体的には、グラフェンシート1のそれぞれは、例えば、5員環、7員環および8員環からなる群から選択される少なくとも一種を含む。グラフェンシート1が6員環以外の構造を含むことで、グラフェン骨格の平面ネットワークが歪み、図1に示されるような炭素材料100の三次元多孔質構造が構成される。
【0029】
炭素材料100のグラフェン網面内窒素含有量Nは、例えば、0wt%以上20wt%以下であり、0wt%以上10wt%以下であることが好ましく、0wt%以上5wt%以下であることがより好ましい。炭素材料100のグラフェン網面内窒素含有量は、0wt%であってもよい。炭素材料100のグラフェン網面内窒素含有量Nが上記範囲内であることは、柔軟性の観点で好ましい。炭素材料100のグラフェン網面内窒素含有量Nは、有機元素分析、X線光電子分光、TPD測定といった方法により測定される。
【0030】
炭素材料100のBET比表面積Sは、例えば、400m/g以上2600m/g以下であり、1000m/g以上や、1500m/g以上2600m/g以下であることが好ましく、1800m/g以上2600m/g以下であることがより好ましい。
【0031】
炭素材料100の平均積層数nは、例えば1以上6以下であり、1以上3以下であることが好ましく、1以上2以下であることがより好ましい。炭素材料100の平均積層数nは、下記式(1)に示される通り、ベーサル比表面積Sbasalに対するグラフェン理論比表面積Sgraphene(2627m/g)の比を求めることで、炭素層の平均積層数nを算出される。ベーサル比表面積Sbasalは、比表面積およびSedgeの差である。比表面積は、炭素材料100の比表面積であり、窒素吸着等温線より算出される。
【0032】
【数1】
【0033】
炭素材料100の細孔径dは、例えば、1nm以上100nm以下であり、5nm以上65nm以下であることが好ましく、20nm以下、15nm以下や12nm以下であってもよい。炭素材料100の細孔径dは、JISZ8831-2:2010に準拠したBJH法、または、JISZ8831-3:2010に準拠したDFT法により算出される。BJH法は、特に2~50nmの大きさの細孔径を正確に測ることができるため、当該範囲の細孔径の算出はBJH法により行い、当該範囲外の大きさの細孔径は、DFT法により算出する。すなわち、BJH法で2nm未満、或いは、50nmよりも大きいと算出した場合、DFT法により細孔径を算出する。
細孔径dは、例えば、鋳型を構成するナノ粒子の粒径により調整可能である。
【0034】
炭素材料100の細孔容積Vtotalは、例えば、1.3cm/g以上5cm/g以下であり、1.9cm/g以上5cm/g以下であることが好ましく、2.5cm/g以上5cm/g以下であることがより好ましい。炭素材料100の細孔容積は、窒素吸脱着測定により算出される。
【0035】
本発明の一実施形態に係る炭素材料は、例えば、鋳型を構成するナノ粒子の形状に対応した細孔を有する多孔質炭素材料であり、体積弾性率Kが2GPa以下であり、平均グラフェン網面サイズLが50nm以上であることで、機械的高い柔軟性とともに高い導電性と耐久性を得られる。
【0036】
[炭素材料の製造方法]
図2は、本実施形態に係る炭素材料の製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係る炭素材料の製造方法は、例えば、鋳型に炭素層を被覆して成形物を得る被覆工程、鋳型を酸で溶解して成形物を鋳型と分離する分離工程、分離工程よりも後に、該分離工程によって鋳型から分離された成形物を熱処理する安定化工程をさらに有する。
【0037】
<被覆工程>
先ず、鋳型に炭素層を被覆して成形物を得る。図3は、本発明の一実施形態に係る炭素材料の製造方法を説明するための図であって、被覆工程の様子を示す図である。具体的には、図3は、鋳型ナノ粒子に炭素層が被覆された成形物の部分断面斜視図および一つの鋳型ナノ粒子の近傍を拡大した断面図である。図3に示される成形物30において、鋳型Tには、炭素層11(黒色の太い線)が被覆されている。また、図3には、鋳型Tのナノ粒子の粒径dが示されている。
【0038】
鋳型Tとしては、例えば、分離工程において酸で溶解可能な金属ナノ粒子で構成されたものを用いる。分離工程において、フッ化水素酸を使用する場合、アルミナ、ゼオライト等のナノ粒子で構成された鋳型Tを使用可能である。分離工程において、フッ化水素酸の仕様を避ける観点から、アルカリ土類金属の酸化物で構成されている金属ナノ粒子で構成された鋳型Tを用いることが好ましく、具体的には、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウムのナノ粒子で構成された鋳型Tを用いることができる。
【0039】
鋳型Tに対する炭素層11の被覆は、例えば、含侵法などの湿式法、化学気相成長法(CVD)法などの乾式法のいずれによって行ってもよく、湿式法および乾式法を組み合わせ、湿式法を行った後に乾式法を行ってもよい。被覆工程における炭素層11の被覆は、形成する炭素層11の積層数を1層または1層以上に制御する観点から、乾式法である化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)法を活用することが好ましい。
【0040】
以下、CVD法により鋳型Tに対して炭素層11を被覆して成形物30を得る手段を例に本実施形態について説明する。CVD法による炭素層11の被覆は、複数回に分けて行ってもよい。
【0041】
被覆工程において、CVD法の原料ガスとして、アセチレン、メチルアセチレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、シクロプロパン、メタン、エタン、プロパン、ベンゼン、トルエン、ビニル化合物、エチレンオキサイド、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アクリロニトリル等の有機化合物を用いる。鋳型Tの間隙G内にガスを入り込みやすくする観点から、原料ガスとしてアセチレン、エチレン、プロピレン、メタン、エタンを用いることが好ましい。
【0042】
被覆工程をCVD法で行う場合、加熱して行われ、加熱温度は、例えば、400~1500℃で行うことができ、CVDを行う際の圧力は、例えば、1~200kPaにすることができる。また、被覆工程における昇温速度は、例えば、1~50℃/分で行う。
【0043】
被覆工程において、上記原料ガスに加え、例えば、キャリアガスとして不活性ガスを用いてもよい。また、キャリアガスとしては、不活性ガスの他、酸素ガス、水素ガス等を含むガスを使用してもよい。被覆工程において、1~2層の炭素層11を被覆する観点から、好ましくは、キャリアガスの流速を0.05~1.00m/分に制御し、原料ガスおよびキャリアガスの合計量に対する原料ガスの量を1~60体積%に制御する。
【0044】
被覆工程において、湿式法を行う場合、例えば、有機化合物を含侵して炭化してもよい。
【0045】
また、被覆工程は、形成する炭素層に窒素がドーピングされるように、窒素含有溶媒を用いて行ってもよい。例えば、鋳型ナノ粒子Tを窒素含有溶媒中に不活性ガスを流通させ、化学気相成長を行ってもよい。窒素含有溶媒としては、アセトニトリル、アクリロニトリル、エチレンジアミン、ピリジン等を用いることができる。
【0046】
<分離工程>
次いで、鋳型Tを酸等で溶解して、上記成形物30を鋳型Tと分離する。図4は、本発明の一実施形態に係る炭素材料の製造方法を説明するための図であって、分離工程の様子を示す図である。図4に示される成形物50は、炭素層12で構成された炭素材料100の前駆体である。図4に示される成形物50は、カーボンメソスポンジ(CMS)と呼称される。図4には、成形物50の細孔径dが示されている。
【0047】
分離工程では、例えば、フッ化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸、分子内にカルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基、アルケノール構造等を有する有機酸、またはそれらの混合物が用いられる。鋳型Tとしてアルカリ土類金属で構成された鋳型を用いた場合、多孔質鋳型をフッ化水素酸を含まない酸で溶解する。フッ化水素酸は、安全面や環境負荷、コスト面を考慮すると使用しない方が望ましい。塩酸や硫酸等のフッ化水素酸以外の酸で溶解可能なアルカリ土類金属で構成された鋳型を用いると使用を避けることができる。
【0048】
また、フッ化水素酸等のフッ素を含む酸は、一般に、アルカリ土類金属酸化物に含まれるアルカリ土類金属と難溶性化合物を形成するために、アルカリ土類金属酸化物の溶解過程で水系媒に難溶性の化合物を形成する。これに対して、フッ素を含まない酸を用いることで不溶性塩を形成せず、水系媒に容易に溶解する化合物を形成できる。つまり、本実施形態によれば、フッ化水素酸を含まない酸を用いることで、鋳型Tを構成するアルカリ土類金属酸化物、特に、酸化マグネシウムまたは酸化カルシウムを鋳型として採用した場合に、多孔質鋳型を容易に溶解できる。ここで、溶解するとは、鋳型および水系媒の酸を接触させたときに、終局的に、水系媒に不溶性の化合物が残存せずに、濁りのない透明で均一な液体を形成することをいう。
【0049】
分離工程において、成形物30を鋳型Tと分離するために使用する酸の使用量は、例えば、量論比で、鋳型Tに対して1倍以上、好ましくは1.2倍以上である。分離工程において、鋳型Tを酸で溶解する温度は、例えば、5~100℃の範囲である。分離工程は、例えば、多孔質鋳型が混合された酸に対して撹拌操作、振動操作等を行ってもよい。
【0050】
分離工程において、鋳型Tから分離された多孔質炭素材料は、例えば、濾過によって回収し、その後真空加熱乾燥により乾燥させることで生成することができる。成形物50の回収は、例えば吸引濾過により行ってもよい。多孔質炭素材料を得るための真空乾燥加熱は、例えば、100~200℃の温度で1~10時間の条件で行うことができる。真空乾燥加熱による成形物50の毛管収縮を避ける観点で、吸引濾過を行った後に、アセトンやアルコール類といった表面張力の小さい溶媒で置換を行ってもよい。本工程により得られる成形物50は、詳細を後述するCMSである。毛管収縮の程度は、成形物50の形状および大きさに依存するが、半分程度に収縮する場合がある。
【0051】
分離工程後の成形物50の炭素層12の形状は、上記毛管収縮が起こることで、分離工程前の炭素層11の形状から変化し、局所的に歪んだ構造になる。炭素層12の細孔径dは、鋳型ナノ粒子Tの粒径dと比べ、小さい。すなわち、鋳型ナノ粒子Tの粒径dに対する炭素層12の細孔径dの比d/dは、1未満の値をとる。
【0052】
<安定化工程>
次いで、分離工程の後に、分離工程によって得られた鋳型Tから分離された成形物を熱処理する。安定化工程において、成形物の熱処理は、例えば、900~2000℃で、0.1~5時間行うことができる。安定化工程における成形物の熱処理は、1600~1800℃であり、0.5~2時間行うことが好ましい。
【0053】
安定化工程により、成形物50の炭素層12は、グラフェン網面サイズLが拡大し、炭素層(グラフェンシート)1となり、図1に示されるような炭素材料100を得られる。
【0054】
また、本実施形態に係る炭素材料の製造方法は、上記製造方法に記載されていない製造工程をさらに含んでいてもよい。例えば、被覆工程よりも前に熱処理工程を有していてもよい。また、分離工程および安定化工程の間に、成形物を高温圧縮するホットプレス工程をさらに有していてもよい。また、成形する炭素材料の構成を調整する調整工程をさらに有していてもよい。調整工程は、例えば、被覆工程の前、被覆工程および分離工程の間、或いは、分離工程および安定化工程の間に行うことができる。
【0055】
<熱処理工程>
上記実施形態に係る炭素材料の製造方法は、被覆工程の前に、鋳型Tを熱処理する熱処理工程を有していてもよい。鋳型Tに対する熱処理は、例えば、不活性ガス雰囲気下、空気雰囲気下、真空下で行う。鋳型Tに対する熱処理は、例えば、400~1100℃で加熱を行い、500~1000℃で加熱を行うことが好ましく、600~950℃で加熱を行うことがより好ましい。鋳型Tに対する熱処理は、例えば、0.1~3時間行い、0.2~1時間行うことが好ましい。被覆工程の前に、上記のような条件で鋳型Tを熱処理することで、鋳型Tに不純物が混入している場合に、不純物を分解することができる。具体的な例としては、酸化マグネシウムで構成された鋳型Tを用いる場合、熱処理することで、鋳型Tに混入している水酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムを鋳型Tから分解離脱する。上記熱処理工程により、鋳型Tの比表面積Sを増大するとともに、細孔径dを増大させることができる。
【0056】
<ホットプレス工程>
ホットプレス工程では、例えば、成形物50に圧力を印加するとともに成形物50を加熱する。具体的には、成形物50を金型に設置し、圧力を印加するとともに、高温に加熱する。分離工程および安定化工程の間にホットプレス工程を行う後ことで、細孔容積の小さな炭素材料を得られる。
【0057】
<調整工程>
調整工程では、下記式(2)に基づいて、炭素材料の構成を調整する。具体的には、体積弾性率Kが所望の値となるように、炭素材料のグラフェン網面サイズL、炭素材料の平均積層数n、炭素材料のグラフェン網面内窒素含有量N、多孔質炭素材料の細孔径d、表面ねじれtが所望の値となるように製造条件を調整する。下記式(2)は、本発明者らにより見出された式であり、炭素材料の体積弾性率および5つの変数の相関を示す。
【0058】
【数2】
(式中、L:炭素材料のグラフェン網面サイズ[nm]、n:炭素材料の炭素層平均積層数、N:炭素材料のグラフェン網面内窒素含有量[wt%]、d:炭素材料の細孔径[nm]、t:表面ねじれ)
【0059】
調整工程では、式(2)において、炭素材料のグラフェン網面サイズL(nm)は、70≦L≦1000を満たすように調整され、100≦L≦1000を満たすように調整されることが好ましく、炭素材料の炭素層平均積層数nは、1≦n≦6を満たすように調整され、1≦n≦3を満たすように調整されることが好ましく、炭素材料のグラフェン網面内窒素含有量N(wt%)は、0≦N≦20を満たすように調整され、0≦N≦10を満たすように調整されることが好ましく、細孔径d(nm)は、1≦d≦100を満たすように調整され、5≦d≦70を満たすように調整されることが好ましく、表面ねじれtは、1.1≦t≦20を満たすように調整され、1.3≦t≦10を満たすように調整されることが好ましい。ここで、上記炭素材料の製造方法として安定化工程を含む手段を採用した場合、上記式(2)中dは、安定化工程後の炭素材料の細孔径を表す。
【0060】
グラフェン網面サイズLは、例えば、上記製造方法において、被覆工程および安定化工程の条件を調整することで調整される。グラフェン網面サイズLは、被覆工程における炭素被覆量を多くすること、および、安定化工程における加熱温度を高くすることまたは反応時間を長くすることの少なくとも一方を行うことで大きくなる。
炭素材料の炭素層平均積層数nは、例えば、上記製造方法において、被覆工程および安定化工程の条件を調整することで調整される。炭素層平均積層数nは、被覆工程における加熱温度の上昇や反応時間を増加することで大きくなる。
炭素材料のグラフェン網面内窒素含有量Nは、例えば、上記製造方法において、被覆工程の際の条件を調整することで調整される。
多孔質炭素材料の細孔径dは、使用する鋳型の調整、および、分離工程の条件の調整の少なくとも一方により調整される。鋳型として粒径の大きいものを使用すること、および、分離工程における乾燥条件を調整することの少なくとも一方により、細孔径dは大きくなる。
表面ねじれtは、分離工程において鋳型を除去および乾燥した際に生じる収縮に関する変数である。表面ねじれtは、下記式(3)により規定される。すなわち、表面ねじれtは、鋳型粒子の表面積と鋳型グラフェンの細孔径で仮定した球体の表面積の比から求められる。表面ねじれtは、鋳型を調整すること、細孔径dを調整すること、および、平均積層数nを調整することの少なくとも一つの手段により調整される。
【0061】
【数3】
【0062】
調整工程により、グラフェン網面サイズLとともに体積弾性率Kが所望の大きさである炭素材料を製造することができる。
【0063】
[炭素材料の設計方法]
上記に記載した炭素材料の製造方法を考慮すると、炭素材料について柔軟性の設計方法に応用できる。例えば、以下のような設計方法を実施可能である。
【0064】
最初に炭素材料の柔軟性パラメータを設定する工程として、炭素材料の体積弾性率Kを構成する、炭素材料のグラフェン網面サイズL、炭素材料の平均積層数n、炭素材料のグラフェン網面内窒素含有量N、多孔質炭素材料の細孔径d、表面ねじれtの5つを炭素材料の柔軟性パラメータとして設定する。
【0065】
次に、製品の柔軟性を設定する工程として、製品を構成する炭素材料の体積弾性率Kの範囲を設定する。
【0066】
次に、パラメータを弁別する工程として、製品設計上指定されるパラメータと自由に設計できるパラメータを弁別する。
【0067】
その後、自由に設計されるパラメータを上記式(2)を用いて、設定された体積弾性率Kの範囲を実現するパラメータを設定する。
これにより、製品を構成する炭素材料の柔軟性パラメータが設定される。
【0068】
具体的な柔軟性パラメータは、炭素材料の製造方法の中の調整工程等により設定される。
【0069】
次に、本発明の蓄電デバイスであるリチウムイオン二次電池について説明する。
【0070】
図20は本発明の一実施形態に係る、コイン型の蓄電デバイス(リチウム電池)200の断面構造の一例を示すものである。この蓄電デバイス200は、金属製の外装部品211内に収容された円板状の正極212と金属製の外装部品13内に収容された円板状の負極214とがセパレータ215を介して積層されたものである。なお、外装部品213と負極214の間には金属製のバネ218とスペーサ219が配置されている。外装部品211および外装部品213の内部は液状電解質により満たされており、外装部品211および外装部品213の周縁部はシールガスケット217を介してかしめられることにより密閉されている。
【0071】
正極について説明する。
正極212は、例えば、金属酸化物系材料と電子伝導性を補助する導電補助材と結着材と溶媒とを混合したスラリーを、圧延アルミ箔などの集電用金属箔体の上に塗布して塗膜を形成し、加熱乾燥して溶媒を除去した後、所定の寸法と密度に形成させて得られる。
【0072】
正極活物質に使用可能な金属化合物系材料とは、電池の外部回路へ電子を放出すると同時にLiイオンを電解質に放出することができる材料のことである。含有するLiイオンの量は、その化学組成、結晶構造などにより異なるが、多くのLiイオンを可逆的に出し入れできる材料が好ましい。
【0073】
その材料としては遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物などが挙げられる。遷移金属としては、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。具体例としては、MnO、V、V13、TiO等の遷移金属酸化物、LiNiO、LiCoO、LiMn等、TiS、FeS、MoS等の無機化合物が挙げられるが、これらは、その特性を向上させるため、部分的に特定元素をある元素で置換したものを用いても良い。
【0074】
上記の無機化合物のほかに、有機化合物から成る正極材料もある。例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N-フルオロピリジニウム塩などが挙げられる。正極材料は、上記の無機化合物と有機化合物の混合物であってもよい。
【0075】
正極材料の物性は蓄電デバイスの利用形態などの制約条件に起因する電池設計および製造プロセスにおける要求項目から決められるものである。正極材料の製造においては、その物性を実現できるようにプロセス設計等がなされている。物性値としては、粉末粒子径および分布、比表面積、密度等が挙げられる。
【0076】
一例として、粉末粒子径は、蓄電デバイスの他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、レ-ト特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、通常、平均値として1~30μmが好ましく、1~10μmがさらに好ましい。
【0077】
上記の正極材料は概ね電子伝導性が低いため、正極内には電子伝導性を補助する導電助剤を共存させることが好ましい。導電助剤の材質としてはカーボン系材料、金属系材料があり、その他の電子伝導性の高い材料も利用可能であり、その中でもカーボン系材料が好適である。
【0078】
共存させる導電助剤の量は必要最低限にとどめ、蓄電デバイスの容量を規定する正極材料の含有率を最大限に引き上げるべきである。
【0079】
従来からあるカーボン系材料としては、すす、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ランプブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、グラファイトファイバー、ナノファイバー、ナノチューブ、コークス、ハードカーボン、アモルファスカーボンなどが挙げられる。
【0080】
これらに比べ、本実施形態の導電助剤は、上記説明にあるように、従来材料には無い大きな特徴がある。すなわち、本実施形態の導電助剤は、ナノカーボン様の微細構造を持ちながら、応力に対する弾性を有し、また高比表面積ながら少ない含酸素官能基を有するという点である。
この特徴を有するため、導電助剤が電池内で晒される電気化学的酸化環境や応力環境の中でも電極の電子伝導性を保ち、特性の劣化を抑制することができる。
【0081】
本実施形態の炭素材料からなる導電助剤を正極に含有させる好適な比率は、正極材料種類やバインダー種と量、電池容量設計などの違いにより変化するが、正極合剤中に0.03wt%以上が好ましい。
【0082】
上記の正極材料および導電助剤は粉末状であることが多く、それら同士、およびそれらを集電用金属箔体の上に固定化するためには、少量の結着材を混合して用いるのが好適である。結着材については、化学的、電気化学的に不活性であり、多少の柔軟性と親和性を有することが要求され、プラスチック樹脂材料が好適に用いられる。
【0083】
上記のプラスチック樹脂材料としては、例えば、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン含有ポリマー、ポリアニリン等の導電性ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1,1-ジメチルエチレン等のアルカン系ポリマー、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の不飽和系ポリマー、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリビニルピリジン、ポリ-N-ビニルピロリドン等の環を有するポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド等のアクリル系ポリマー等が挙げられる。また、上記の樹脂材料の混合物、変体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体などであってもよい。これらの樹脂の重量平均分子量は、通常10,000~3,000,000、好ましくは100,000~1,000,000である。分子量が小さ過ぎる場合は塗膜の強度が低下し、大き過ぎる場合は、粘度が高くなり電極の形成が困難になる。
【0084】
結着材を十分均一に分布させ、またスラリーを所定の寸法に塗膜形成させるために、結着材樹脂のみを溶解し、その他の材料を溶解させない、適切なスラリー溶媒を用いることができる。例示すれば、ポリフッ化ビニリデンを用いる場合には、溶媒にジメチルホルムアミドが好適に用いられる。あるいは、溶媒にN-メチルピロリドンを用いてもよく、製造プロセスの条件によって適宜選択して用いることができる。
【0085】
集電用金属箔体は、安価に入手でき、かつ工業的使用に耐えうる材質が好ましく、正極の発現する電位に対して電気化学的耐性を有する材料が好適に用いられる。集電用金属箔体の例としては、アルミ箔、ニッケル箔、チタン箔、ステンレス箔が好ましく、一般に入手しやすい圧延アルミ箔がより好ましい。
【0086】
上記のスラリーの塗膜形成方法としては、一般に用いられる印刷技術が利用可能である。塗膜の厚さ寸法が小さい場合にはグラビア印刷などが、大きい場合にはドクターブレード印刷やダイ印刷などの印刷手法が好適に用いられる。
【0087】
その後、塗膜は加熱乾燥されるが、いずれの乾燥方法も利用可能であり、所望の結着材による結着強度が実現できる方法が好適に用いられる。
【0088】
そして、その後、正極の所定寸法に形成される際には、工業的に利用可能な切断刃等およびその方式が好適に用いられる。また、所定の密度を実現するために、必要に応じて工業的に利用可能な加圧装置等および方式が好適に用いられる。
【0089】
次に、負極について説明する。
負極214は、例えばカーボン系材料とバインダーと溶媒とを混合したスラリーを圧延銅箔などの集電用金属箔体の上にコートし、加熱乾燥して溶媒を除去した後、所定の寸法と密度に形成させて得られる。
【0090】
負極に使用可能なカーボン系材料としては、Liイオンと外部回路から流れてくる電子とを結合安定化させることができ、安定化サイトをその内部に多数持つものが好ましい。
【0091】
例示するならば、有機物を起源とし、結晶性が高くても、低くても、いずれも利用可能であり、グラファイト、コークス、アモルファスカーボン、ハードカーボン、ポリマーカーボン等が好適に使用できる。この場合、原理としてはグラフェン層間などでLiイオンが挟まれた状態で電子と結合し安定化するというものである。
【0092】
また、他に安定化機構として、電気化学的に金属間化合物を形成する手法も利用可能であり、ケイ素、スズ、亜鉛、ビスマス、アンチモン、カドミウム、鉛、ゲルマニュウム等が好適に使用できる。
【0093】
加えて、蓄電デバイスの負極側を司る、低い電気化学反応電位を示すその他の材料も利用可能である。好適には金属と酸素、イオウ、ハロゲン、窒素、りん等の化合物が挙げられる。
【0094】
そして、蓄電デバイスの用途によっては任意の放電プロファイルを得るために上記の負極材料を複数所定比率で混合し、使用することができる。
【0095】
負極材料の物性は蓄電デバイスの利用形態などの制約条件に起因するデバイス(例として畜電池)設計および製造プロセスにおける要求項目から決められるものである。材料の製造においてはその物性を実現できるようにプロセス設計等がなされている。物性値としては、粉末粒子径および分布、比表面積、密度等が挙げられる。
【0096】
一例として、粉末粒子径は、蓄電デバイスの他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、レ-ト特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、通常、平均値として1~70μmが好ましく、3~30μmがより好ましい。
【0097】
上記の負極材料は概ね電子伝導性は高いが、材料によっては平滑な表面を有し、粒子同士の接触が不十分の場合には、電子伝導性を補助する導電助剤を共存させることも好適である。材質としてはカーボン系材料、金属系材料、その他の電子伝導性の高い材料も利用可能であり、その中でもカーボン系材料が好適である。
【0098】
共存させる導電助剤の量は必要最低限にとどめ、蓄電デバイスの容量を規定する負極材料の含有率を最大限に引き上げるべきである。
【0099】
従来からあるカーボン系材料としては、すす、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ランプブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、グラファイトファイバー、ナノファイバー、ナノチューブ、コークス、ハードカーボン、アモルファスカーボンなどが挙げられる。
【0100】
それらに比べ、本実施形態の導電助剤は前記説明のように、従来材料には無い大きな特徴がある。すなわち、ナノカーボン様の微細構造を持ちながら、応力に対する弾性を有し、また高比表面積ながら少ない含酸素官能基を有するという点である。
【0101】
この特徴を有するため、導電剤が電池内で晒される電気化学的還元環境や応力環境の中でも電極の電子伝導性を保ち、特性の劣化を抑制することができる。
【0102】
本実施形態の炭素材料からなる導電助剤を負極に含有させる好適な比率は、負極材料種類やバインダー種と量、電池容量設計などの違いにより変化するが、負極合剤当たり0.03wt%以上が好適である。
【0103】
集電用金属箔体は、安価に入手でき、かつ工業的使用に耐えうる材質が好ましく、負極の発現する電位に対して電気化学的反応性を有さない材料が好適に用いられる。例示すれば、集電用金属箔体としては、銅箔、ニッケル箔、チタン箔、ステンレス箔が好ましく、一般に入手しやすい電解銅箔や圧延銅箔がより好ましい。
【0104】
上記のスラリーの塗膜形成方法としては、一般に用いられる印刷技術が利用可能である。厚さ寸法が小さい場合にはグラビア印刷などが、大きい場合にはドクターブレード印刷やダイ印刷などの印刷手法が好適に用いられる。
【0105】
その後、塗膜は加熱乾燥されるが、いずれの乾燥方法も利用可能であり、所望の結着材による結着強度が実現できる方法が好適に用いられる。
【0106】
そして、その後、負極の所定寸法に形成される際には、工業的に利用可能な切断刃等およびその方式が好適に用いられる。また、所定の密度を実現するために、必要に応じて工業的に利用可能な加圧装置等および方式が好適に用いられる。
【0107】
上記の負極材料および導電助剤は粉末状であることが多く、それら同士、およびそれらを集電用金属箔体の上に固定化するためには、少量の結着材を混合して用いるのが好適である。結着材については、化学的、電気化学的に不活性であり、多少の柔軟性と親和性を有することが要求され、プラスチック樹脂材料が好適に用いられる。
【0108】
上記のプラスチック樹脂材料としては、例えば、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン含有ポリマー、ポリアニリン等の導電性ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1,1-ジメチルエチレン等のアルカン系ポリマー、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の不飽和系ポリマー、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリビニルピリジン、ポリ-N-ビニルピロリドン等の環を有するポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド等のアクリル系ポリマー、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンラバー等が挙げられる。また、前記樹脂材料の混合物、変体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体などであってもよい。これらの樹脂の重量平均分子量は、通常10,000~3,000,000、好ましくは100,000~1,000,000である。分子量が小さ過ぎる場合は塗膜の強度が低下し、大き過ぎる場合は、粘度が高くなり電極の形成が困難になる。
【0109】
結着材を十分均一に分布させ、またスラリーを所定の寸法に塗膜形成させるために、結着材樹脂のみを溶解し、その他の材料を溶解させない、適切なスラリー溶媒を用いることができる。例示すれば、ポリフッ化ビニリデンを用いる場合には、溶媒にジメチルホルムアミドが好適に用いられる。あるいは、溶媒にN-メチルピロリドンを用いてもよく、製造プロセスの条件によって適宜選択して用いることができる。
【0110】
本発明の電池用電解質について説明する。
【0111】
電解質は、溶質を有機溶媒に溶解させたものであり、通常これらが主成分である。
【0112】
電解質の組成物の一つとして、まずイオンの元となる溶質、即ちLi塩がある。
【0113】
溶質の種類は、特に制限されないが、この蓄電デバイスの用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを用いることができる。具体的には以下のものが挙げられる。
【0114】
溶質の例としては、LiPFやLiBF等の無機塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、Li環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、Li環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CFSO、LiPF(CSO、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(CFSO、LiBF(CSO等の含フッ素有機Li塩およびLiビス(オキサレート)ボレート等が挙げられる。
【0115】
これらのうち、LiPF、LiBF、LiN(CFSOおよびLiN(CSOが電池性能を発揮する点で好ましく、特にLiPFおよびLiBFが好ましい。
【0116】
なお、これらのLi塩は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0117】
電解質中におけるLi塩の含有割合は、Li塩を溶解させる溶媒の種類や混合組成によってその割合は異なるが、電解質中におけるLi塩の含有割合は、7~190重量%が好ましく、10~180重量%がより好ましく、13~150重量%がさらに好ましい。
【0118】
次に、電解質に用いる有機溶媒について説明する。
【0119】
その種類は、特に制限されないが、従来から溶媒として公知のものの中から適宜選択して用いることができる。例えば、不飽和結合をもたない環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、環状カルボン酸エステル類、鎖状カルボン酸エステル類、含燐有機溶媒等が挙げられる。
【0120】
Liイオンの移動に影響を与える因子としては、粘度の他に、有機溶媒の粘度と溶媒和能がある。溶媒和能は溶解したイオンを解離させる力であり、強すぎるとイオンの移動を阻害するため最適値が存在する。
【0121】
また、実用的な蓄電デバイスは使用環境条件が幅広く、特に有機溶媒の融点や沸点などの物理特性も一定範囲内に収める必要がある。
【0122】
上記の要件に対して、現実的な解決案は、複数の有機溶媒を混合して用いることである。融点の高い有機溶媒と低い有機溶媒、溶媒和能の高いものと低いもの、などといった各物性における組み合わせから、実用特性を考慮して混合組成が決定される。
【0123】
本実施形態の電解質においては、ともに炭素-炭素不飽和結合を持たない環状カーボネートと鎖状カーボネートとを混合して使用することが好ましい。
【0124】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の炭素数2~4のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート類が挙げられる。これらの中では、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが電池特性向上の点から好ましく、特にエチレンカーボネートが好ましい。
【0125】
鎖状カーボネート類としては、ジアルキルカーボネートが好ましく、構成するアルキル基の炭素数は、それぞれ1~5が好ましく、特に好ましくは1~4である。具体的には例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート等の対称鎖状アルキルカーボネート類;エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート等の非対称鎖状アルキルカーボネート類等のジアルキルカーボネートが挙げられる。中でも、粘度の点ではジメチルカーボネートが最も低く好ましい。
【0126】
しかしながら、ジメチルカーボネートは沸点がやや低いため、より高い沸点を示す鎖状カーボネート類をさらに混合して用いることで、より好適な特性が得られる。混合する鎖状カーボネートとしてはジエチルカーボネートが好適であるが、他の鎖状カーボネートでも問題無く使用できる。
【0127】
混合割合は所望の実用特性によっても変わってくる。環状カーボネートに対する鎖状カーボネートの割合は、Li塩の割合も含めた形で最適な組成が存在する。
【0128】
電解質中の環状カーボネートの含有割合は1~35重量%が好ましく、3~30重量%がより好ましく、4~25重量%がさらに好ましい。環状カーボネートは複数混合して用いることができる。
【0129】
一方、電解質中の鎖状カーボネートの含有割合は40~70重量%が好ましく、43~68重量%がさらに好ましい。鎖状カーボネートは複数混合して用いることができる。
【0130】
総合的な組成として以下の組み合わせが好適である。
エチレンカーボネートとジアルキルカーボネート類との組み合わせの中で、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートが好ましく、さらに対称鎖状ジアルキルカーボネートおよび/または非対称鎖状ジアルキルカーボネート類を含有してもよい。例えば、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネートといったエチレンカーボネートと対称鎖状ジアルキルカーボネート類と非対称鎖状ジアルキルカーボネート類を含有するものが、サイクル特性と高出力放電特性のバランスが良いので好ましい。中でも、非対称鎖状ジアルキルカーボネート類がエチルメチルカーボネートであるのが好ましく、また、アルキルカーボネートのアルキル基は炭素数1~2が好ましい。
【0131】
さらに、イオンの解離や移動等を助ける溶媒として、環状エーテル類、鎖状エーテル類、環状カルボン酸エステル類や鎖状カルボン酸エステル類などを、上記した主要の有機溶媒に付随して追加することもできる。
【0132】
環状エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等、鎖状エーテル類としては、ジメトキシエタン、ジメトキシメタン等が挙げられる。
【0133】
環状カルボン酸エステル類としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等、鎖状カルボン酸エステル類としては、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル等が挙げられる。
【0134】
これらの中でも特に、鎖状カルボン酸エステルが好適である。
【0135】
さらに、本実施形態の電解質に、2つ以上のフッ素原子を有する含フッ素環状カーボネートを含有させることも好適に行われる。
【0136】
2つ以上のフッ素原子を有する含フッ素環状カーボネートのフッ素原子の数は特に制限されないが、フッ素化エチレンカーボネートの場合は、下限としては通常2つ以上であり、上限としては通常4つ以下であり、3つ以下が好ましい。
【0137】
フッ素化プロピレンカーボネートの場合は、下限としては通常2つ以上であり、上限としては、通常6つ以下であり、5つ以下が好ましい。特に、環構造を形成する炭素に2つ以上のフッ素原子が結合しているものが、サイクル特性および保存特性向上の点から好ましい。
【0138】
中でも2つ以上のフッ素原子を有するフッ素化エチレンカーボネートが、電池特性向上の点から好ましく、さらにその中でも、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンが特に好ましい。
【0139】
2つ以上のフッ素原子を有する含フッ素環状カーボネートは、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。非水系電解液中の2つ以上のフッ素原子を有する含フッ素環状カーボネート化合物の割合は、本実施形態の効果を発現するためには、特に制限はないが、通常0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、特に好ましくは0.2重量%以上、最も好ましくは0.25重量%以上である。これより低濃度では本実施形態の効果が発現しにくい場合がある。逆に濃度が高すぎると、高温保存時に電池内圧が増大する場合があるので、上限は、通常10重量%以下、好ましくは4重量%以下、より好ましくは2重量%以下、特に好ましくは1重量%以下、最も好ましくは0.5重量%以下である。
【0140】
またさらに、不飽和結合を有する環状カーボネート類や、総炭素数が7以上18以下の芳香族化合物を電解質中に混合して用いても良い。
【0141】
不飽和結合を有する環状カーボネート類のうち、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4-メチル-4-ビニルエチレンカーボネートまたは4,5-ジビニルエチレンカーボネートがサイクル特性向上の点から好ましく、なかでもビニレンカーボネートまたはビニルエチレンカーボネートがより好ましい。これらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0142】
総炭素数が7以上18以下の芳香族化合物としては、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物が好ましい。
【0143】
このように総炭素数が7以上18以下の芳香族化合物と、負極および正極との副反応を抑制することにより、高温保存後の放電特性の著しい低下を抑制すると考えられる。
【0144】
電解質中における総炭素数が7以上18以下の芳香族化合物の割合は、本実施形態の効果を発現するためには、通常0.001重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、特に好ましくは0.3重量%以上、最も好ましくは0.5重量%以上であり、上限は、通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、特に好ましくは2重量%以下である。この下限より低濃度では過充電時の安全性を向上する効果が発現しがたい場合がある。逆に濃度が高すぎると高温保存特性などの電池の特性が低下する場合がある。
【0145】
セパレータ215は、正極212と負極214とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものであり、樹脂製の多孔膜が好適に用いられる。
【0146】
膜の形態としては、バルク樹脂を延伸することにより開孔させる延伸膜や、繊維状の樹脂ファイバーを多数積層させ、多孔膜のような空孔構造を作ることができる不織布などが好適に用いられる。
【0147】
樹脂の材質としては、ポリオレフィン類が挙げられ、特にポリエチレンが好適である。ポリエチレンは、融解温度が比較的低く、何らかの理由(例として、短絡などの不安全な状態等)で電池の温度が上昇したときに、熱融解により膜中の孔が閉塞し、駆動用イオンの移動を阻害することで、反応停止、安全確保できる。
【0148】
延伸方式で形成される多孔膜は、通常、ポリオレフィンに可塑剤などを加え、延伸される前後で可塑剤が除去され、可塑剤が存在した部分などが基点となり、比較的均一な微多孔構造を有する。
【0149】
延伸膜の製造にあたり、延伸は、通常、長手方向、幅方向の両方向に行われる。上記の可塑剤等の除去と併せて、任意の雰囲気媒体、温度、速度、応力、プロセス繰り返し数などが適宜組み合わされることで、好適な延伸膜を得ることができる。
【0150】
上記の製造工程によって、高品質の延伸膜が得られるものの、多段階の工程となる。このため、工程費など製造原価の低減が難しく、蓄電デバイス普及には負の要因となる場合がある。
【0151】
一方で、可塑剤などを使用せず、延伸を長手方向のみに行うように工程を簡略化することで、工業レベルで製造可能であり、且つ製造原価を低減可能な多孔膜を得ることができる。この場合に適用可能な樹脂はポリオレフィンであり、ポリプロピレンが好適に用いられる。
【0152】
正極と負極との間に介在するセパレータは、電気絶縁性の多孔体から形成されていればよい。セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミドなどのポリマー製の膜または繊維不織布が適用可能である。セパレータの材質は、1種を単独で用いてもよく、複数種を用いてもよい。また、セパレータは単層でもよく、多層(複合化膜)であっても良い。また、セパレータはセラミックなどの無機材料ナノ粒子を含有してもよい。また、セパレータの両面にポリフッ化ビニリデン等の高分子化合物を塗布して用いてもよい。
【0153】
本実施形態に係る非水電解質電池では、有機溶媒により膨潤して非水電解質を保持する保持体となる高分子化合物を含むことによりゲル状となった電解質を用いてもよい。有機溶媒により膨潤する高分子化合物を含むことにより高いイオン伝導率を得ることができ、優れた充放電効率が得られると共に、電池の漏液を防止することができるからである。非水電解質に高分子化合物が含有されている場合、高分子化合物の含有量は、非水電解質の0.1質量%以上10質量%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0154】
また、セパレータの両面にポリフッ化ビニリデン等の高分子化合物を塗布して用いる場合は、非水電解質と高分子化合物の質量比を50:1~10:1の範囲内とすることが好ましい。この範囲内とすることにより、より高い充放電効率が得られる。
【0155】
上記の高分子化合物としては、例えば、ポリビニルホルマール、ポリエチレンオキサイド並びにポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物、アクリレート系高分子化合物、およびポリフッ化ビニリデン、並びにフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ化ビニリデンの重合体が挙げられる。高分子化合物は1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。特に、高温保存時の膨潤防止効果の観点から、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系高分子化合物を用いることが望ましい。
【0156】
以上のような構成を有する蓄電デバイスは次のように作用する。
蓄電デバイスの充電を行うと、正極212に含まれるLiイオンがセパレータ215を通過して負極214に含まれるグラファイトの層状構造の層間に挿入される。その後、放電を行うと、負極214に含まれる層状構造の層間からLiイオンが脱離し、セパレータ215を通過して正極212に戻る。
【0157】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0158】
上記の実施形態においては、蓄電デバイスとしてコイン型のリチウムイオン電池を例に挙げて説明したが、本実施形態の蓄電デバイスは、ボタン型、ペーパー型、角型、あるいはスパイラル構造を有する筒型などの他の形状を有するものについても同様に適用することができる。また、本実施形態の蓄電デバイスは、薄型、大型等の種々の大きさにすることができる。
【0159】
さらに、上記の説明においては、本実施形態に係る電解質として液状電解質を有する蓄電デバイスの場合を想定した実施形態を描写しているが、他のあらゆる電解質を適用可能であり、例示するならば、ゲル状電解質、固体状電解質も好適に使用可能である。
【実施例
【0160】
以下、本実施形態の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。初めに、本実施形態に係る炭素材料の実施例について説明する。
【0161】
[実施例1]
(鋳型)
先ず、鋳型用のナノ粒子として、アルミナナノ粒子(大明化学工業株式会社製、TM-100)を用意した。アルミナナノ粒子に対して、BET比表面積をS[m/g]、アルミナの密度をρ[g/m]として、式d[nm]=6/(SBET×ρ)×10により平均粒径dを求めたところ、アルミナナノ粒子の平均粒径d=14nmであった。
【0162】
(被覆工程)
被覆工程においては、原料ガスとしてメタン、プロセスガスとしてアルゴンを用い、900℃の条件下で2時間化学気相成長を行い、その後、メタンガスの流量を0ml/minにして30分保持し、室温まで自然冷却した。
【0163】
(分離工程)
次いで、被覆工程により得られた成形物、およびフッ化水素酸をビーカーに入れて混合し、室温で2時間撹拌した。そして、鋳型から分離した成形物を取出し、メンブレンフィルター(0.1μm)を用いて試料を濾過しながら純水で5回洗浄し、吸引濾過した。その後、先と同様の手段で、再度成形物およびフッ化水素酸の混合および撹拌、純水を用いて成形物の吸引濾過を行った。
【0164】
次いで、成形物をアセトンが入ったスクリュー管瓶に入れ、蓋を閉め、よく振った。そして、恒温乾燥器内で、60℃で一晩静置した。翌日、上澄み液を捨て、新たにアセトンを追加し、恒温乾燥器内で、60℃で3時間静置した。次いで、上澄み液を捨て、新たにアセトンを追加し、再度恒温乾燥器内で、60℃で3時間静置した。その後、アセトンを吸引濾過して取り除き、恒温乾燥器を用いて、150℃、10時間、1000Pa以下での減圧乾燥を2回行うことで、成形物としてCMS(カーボンメソスポンジ)を作製した。
【0165】
(安定化工程)
次いで、高温加熱炉((株)和泉テック製、IZU-SMS005)の試料室にCMSを載置し、試料室を真空引きした後、アルゴンガスを10ml/minで流した状態で、昇温速度15℃/分で1800℃まで昇温させ、1800℃で1時間熱処理することでCMSを焼結させ、炭素材料としてGMS(グラフェンメソスポンジ)を作製した。
【0166】
[実施例2]
鋳型用のナノ粒子として、アルミナナノ粒子(大明化学工業株式会社製、TM-300)を用いたこと、および、安定化工程における熱処理温度を1600℃に変更したことを除き、実施例1と同様の方法で炭素材料を作製した。上記アルミナナノ粒子に対して、実施例1と同様の方法で平均粒径を測定したところ、7nmであった。
【0167】
[実施例3]
鋳型用のナノ粒子として、アルミナナノ粒子(大明化学工業株式会社製、TM-300)を用いたことを除き、実施例1と同様の方法で炭素材料を作製した。なお、実施例3で用いたアルミナナノ粒子は、実施例2で用いたものと同様である。
【0168】
[実施例4]
鋳型用のナノ粒子として、アルミナナノ粒子(製品名:SBa-200、サソールケミカル製)を用いたことを除き、実施例1と同様の方法で、炭素材料を作製した。上記アルミナナノ粒子に対して、実施例1と同様の方法で平均粒径を測定したところ、8nmであった。
【0169】
参考例1
鋳型用のナノ粒子として、酸化マグネシウムナノ粒子(US Research Nanomaterials製、品番:Magnesium Oxide MgO Nanopowder / Nanoparticles(MgO,99+%,20nm))を用いたこと、被覆工程の条件を変更したこと、および、分離工程においてフッ化水素酸に替えて塩酸を用いたことを除き、実施例1と同様の方法で炭素材料を作製した。上記酸化マグネシウムナノ粒子に対して、実施例1と同様の方法で平均粒径を測定したところ、30nmであった。
【0170】
参考例1では、被覆工程において、メタンガスおよびアルゴンガスの流量をそれぞれ、変更し、被覆量を調整した。また、900℃の条件下での処理時間を50分間に変更した。被覆工程における他の条件は、実施例1と同様にした。
【0171】
[比較例1]
比較例1では、以下の方法で、炭素材料としてゼオライト鋳型炭素(ZTC)を作製した。
先ず、真空ポンプを用いて減圧された丸底フラスコ内で、150℃に加熱環境下で一晩乾燥させたY型ゼオライト(東ソー株式会社製、HZS-320NAA)15gにフルフリルアルコール(FA)を含侵させ、FA/ゼオライト複合体を得た。次いで、FA/ゼオライト複合体を石英反応管に入れ、N流通下で80℃で24時間の熱処理を行った後、150℃で8時間保持することで、ポリフルフリルアルコール(PFA)/ゼオライト複合体を得た。
【0172】
次いで、上記PFA/ゼオライト複合体を鋳型として炭素層を被覆した。具体的には、15gのPFA/ゼオライト複合体を水平型CVD装置に入れ、4vol%のプロパンを含むN流通下において最高温度700℃で2時間保持する化学気相成長法により、PFA/ゼオライト複合体に炭素層を被覆した。次いで、プロパンガスの導入を止め、N流通下900℃で3時間の熱処理を行い、ゼオライト/炭素複合体を得た。
次いで、上記ゼオライト/炭素複合体をフッ化水素酸(HF)で処理することで鋳型であるゼオライトを除去し、ZTCを得た。
【0173】
[比較例2]
ゼオライト/炭素複合体の作製条件を変更した点を除き、比較例1と同様の方法で、炭素材料としてZTCを作製した。
【0174】
比較例2では、先ず、比較例1で用いたものと同様のY型ゼオライト15 gを真空下150℃で一晩乾燥させた。次いで、該Y型ゼオライトを鋳型として、ロタリーキルン型CVD装置に設置し、15vol%のアセチレンを含むアルゴンガス流通課において、最高温度600℃で4時間化学気相成長法を行い、鋳型に炭素層を被覆した。次いで、アセチレンガスの導入を止め、比較例1と同様にN流通下900℃で3時間の熱処理を行い、炭素骨格の構造が安定された、ゼオライト/炭素複合体を得た。次いで、比較例1と同様の方法で鋳型を除去し、ZTCを得た。
【0175】
[比較例3]
ゼオライト/炭素複合体の作製条件を変更した点を除き、比較例1と同様の方法で、炭素材料としてZTCを作製した。
【0176】
比較例3では、先ず、X型ゼオライト(ユニオン昭和株式会社製、モレキュラーシーブ13Xパウダー)0.5gを150℃で6時間真空乾燥させた。次いで、該X型ゼオライト0.5gを鋳型として、石英反応管に設置し、15vol%のアセチレンを含むN流通下において、600℃で4時間化学気相成長を行い、鋳型に炭素層を被覆した。次いで、アセチレンガスの導入を止め、850℃で3時間の熱処理を行い、炭素骨格の構造が安定された、ゼオライト/炭素複合体を得た。次いで、比較例1と同様の方法で鋳型を除去し、ZTCを得た。
【0177】
[比較例4]
安定化工程を行わなかったことを除き、実施例1と同様の方法により、GMSの前駆体のCMSである成形物を得た。
【0178】
[比較例5]
安定化工程を行わなかったことを除き、実施例2および3と同様の方法により、GMSの前駆体のCMSである成形物を得た。
【0179】
[比較例6]
安定化工程を行わなかったことを除き、実施例4と同様の方法により、GMSの前駆体のCMSである成形物を得た。
【0180】
[比較例7]
以下のホットプレス工程を行ったことを除き、比較例6と同様の方法により、GMSの前駆体のCMSである成形物を得た。
先ず、比較例6と同様の方法で、鋳型に炭素層が被覆された成形物を作製した。次いで、該成形物を金型に入れて、ホットプレス装置(株式会社島津製作所製、AG-50kNXDp)に設置した。次いで、室温、真空下で0.01mm/secの摺動速度で圧力をかけていき、30MPaに達したところで昇温を開始した。600℃に達したところで圧力と温度を3時間保持し、十分に冷ました後に成形物を取り出した。次いで、比較例6と同様の方法により、鋳型を除去し、GMSの前駆体のCMSである成形物を得た。
【0181】
[比較例8]
被覆工程の条件を変更したことを除き、比較例6と同様の方法により、GMSの前駆体のCMSである成形物を得た。
比較例8の被覆工程では、先ず、アルミナナノ粒子をアセトニトリル溶媒中にアルゴンを225ml/minの流量で流通させ、650℃の条件下で200分間化学気相成長を行い、鋳型に窒素がドープされたグラフェン骨格の炭素層を被覆し、成形物を得た。次いで、該成形物を1800℃で1時間の熱処理を行い、その後、室温まで自然冷却した。GMSの前駆体のCMSを作製した。
【0182】
[比較例9]
比較例9として、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(日本ゼオン株式会社製、品番:SG101)を用意した。
【0183】
[比較例10]
比較例10として、活性炭(関西熱化学株式会社製、MSC-30)を用意した。MSC-30は、石油コークス系をアルカリ賦活により合成したものである。
【0184】
[比較例11]
比較例11として、活性炭(大阪ガスケミカル株式会社製、Shirasagi-P)を用意した。Shirasagi-Pは、木質系を水蒸気賦活により合成したものである。
【0185】
[特性評価]
実施例1~4、参考例1および比較例1~11の炭素材料に対し、以下の手段で特性評価を行った。
【0186】
(体積弾性率K_水銀圧入法による測定)
先ず、真空容器内に試料を入れ、水銀を導入して、試料に対し3KPaから400MPaの範囲で等方圧をかけていき、真空容器内に収容した水銀の体積変化ΔVと圧力Pの相関曲線を得た。低圧条件下では、粒子間空間の含侵により急速に水銀の体積が減少し、ΔVが急速に減少する。この結果と試料の初期体積Vより体積変化率ΔV/Vと圧力Pの相関曲線をプロットした。図5A図5Eは、実施例1~実施例4および参考例1の水銀圧入測定の結果を示すグラフであり、図6A図6Cは、比較例1~比較例3の水銀圧入測定の結果を示すグラフであり、図7A図7Eは、比較例4~8の水銀圧入測定の結果を示すグラフであり、図8A図8Cは、比較例9~11の水銀圧入測定の結果を示すグラフである。体積弾性率Kの定義については、測定したグラフの中で、一次粒子の凝集や細孔内への水銀の圧入が起こっていないとみられる直線正の良い範囲を使用した。
【0187】
水銀圧入測定において、急激な体積変化の起こる範囲は、一次粒子の凝集や細孔内への水銀の圧入が起こっていると考えられ、急激な体積変化の起こらない、直線性の小さい範囲を計算に用いることが好ましいと考えられる。そのため、水銀圧入測定の結果に基づき体積弾性率を算出するにあたって、試料の粒子間や細孔内へ水銀が侵入する範囲を除く、試料の圧縮のみ生じる範囲を応力‐ひずみ曲線とした(図中、太線部)。体積弾性率Kは、応力-ひずみ曲線に基づき、下記式(4)により算出した。式中、Vは、ある水銀圧Pにおける水銀の体積であり、ΔVは、水銀圧がΔP増加した際の体積変化であり、負の値を示す。
K=-V(ΔP/ΔV)・・・(4)
【0188】
図5A図5Eに測定結果が示されている実施例1~実施例4および参考例1は、いずれもGMSを作製および測定した実施例であり、メソ多孔体であることから、細孔内への水銀の侵入が生じている圧力範囲が比較的小さい。図7A図7Eに示されている、CMSについても同様である。一方、図6A図6Cに示されている、ZTCは、ミクロ多項体であることから、細孔内へ水銀が侵入している圧力範囲が比較的大きい。また、図5Aに結果が示される実施例1および図7Aに結果が示されている比較例4は、粒子間へ水銀が侵入していく挙動が見られず、圧力に対する体積変化率の変化がなだらかな5.0×10-5GPa~5.0×10-3GPa付近の領域を体積弾性率算出に利用した。図8Aに測定結果が示される比較例9は、チューブ内へ水銀が侵入する挙動が確認されなかったため、TEMで観察したSWCNTの内径を基に圧力-歪曲線として使用する領域を決定した。図8Bに測定結果が示される比較例10は、0.0001~0.01 GPaと0.1GPa以上の領域にて急激な体積変化が起きている。また、図8Cに測定結果が示されている比較例11は、細孔径が小さいため、細孔内への水銀の侵入が生じておらず、細孔径分布より、2.4×10-2~1.3×10-1GPaを計算に使用した。
【0189】
(平均グラフェン網面サイズLの評価_エッジサイト量測定)
次いで、実施例1~4および6、参考例1、比較例4~8に対して、コロネンモデルを用いて、平均グラフェン網面サイズLを算出した。平均グラフェン網面サイズLは、炭素材料を構成するグラフェンシート1枚の大きさであり、下記式(5)を用いて算出される。式中、Nedgeは、炭素材料中の平均エッジサイト量であり、aは、炭素材料のa軸方向の格子定数(0.2461nm)である。
L=(a/Nedge)・・・(5)
【0190】
炭素材料中の平均エッジサイト量Nedgeは、超高感度真空TPD装置(東北大学にて開発、T.Ishii et al.,CARBON,80,2014,135-145参照)を使用して昇温脱離法(TPD法)により測定した。図9は、昇温脱離分析に用いた、超高感度真空TPD装置60を説明する図である。超高感度真空TPD装置60は、放射性温度計41、試料ホルダ42および高周波誘導コイル43を備えるクオーツリアクタ、並びに、クオーツリアクタと繋がる検知ユニットを備える。検知ユニットは、例えば、ガス貯留器、ターボ分子ポンプTMP、ロータリーポンプRP、冷陰極ピラニーゲージP1、静電容量ゲージP2を備える。具体的には、上記文献に記載の方法により、先ず、試料ホルダーに約1mgの試料を設置し、約1.0×10-5Paの高真空下において、昇温速度10℃/分で1800℃まで加熱し、試料から脱離したガスを質量分析器で定量した。脱離したガスの定量は、H、HO、COおよびCOを定量することにより行った。ここで、測定データは、試料台のみを測定したブランクデータで補正を行った。
【0191】
図10A図10Eは、実施例1~実施例4および参考例1の昇温脱離分析を行った際のガス排出パターンあり、図11A図11Cは、比較例1~比較例3のガス排出パターンであり、図12A図12Eは、比較例4~8のガス排出パターンであり、図13A図13Cは、比較例9~11のガス排出パターンである。
【0192】
エッジサイト量Nedge[μmol/g]は、下記式(6)を用いて定量された。式中、NH2、 H2O CO、NCO2は、それぞれ、TPD法により測定された、水素の脱離量、水の脱離量、一酸化炭素の脱離量、二酸化炭素の脱離量である。
edge=2・NH2+2・NH2O+NCO++NCO2・・・(6)
【0193】
[エッジサイト比表面積Sedgeの測定]
さらに、上記エッジサイト量Nedgeを用いて、下記式(7)より、実施例1~実施例4、参考例1、および、比較例1~比較例11のエッジサイト比表面積Sedgeを算出した。式中、Nedgeは、炭素材料のエッジサイト量であり、Aedgeは、エッジサイト1つあたりの比表面積であり、Nは、アボガドロ定数である。Aedgeは、黒鉛の結晶構造から幾何学的に計算した平均の占有面積であり、0.083nmであることを利用した。
edge=Nedge×Aedge×N・・・(7)
【0194】
また、ドープされた窒素はピロール型、ピリジン型、4級窒素に分類される。ドープされた窒素は、N,HCN,およびNHとして脱離するが、上記の分類のうちグラフェン網面内の窒素である4級窒素は、900℃以上でNとして脱離する。そのため、グラフェン網面内窒素含有量Nは、下記式(8)を基に900℃以上のNを定量することで算出した。式中、NN2(>900℃)は、900℃以上で脱離したNの量を意味する。
N=NN2(>900℃)×10-6×28.0×100・・・(8)
【0195】
[平均積層数n_窒素吸脱着測定]
実施例1~実施例4、参考例1、および比較例1~比較例11の炭素材料に対して、窒素吸脱着測定を行い、炭素材料のBET比表面積Sを求めた。次いで、炭素材料のBET比表面積Sおよびエッジサイト比表面積Sedgeの差に対する、グラフェン理論比表面積Sgrapheneの比を上記式(1)より算出することで、炭素材料の平均積層数nを算出した。グラフェン理論比表面積Sgrapheneは、2627m/gとした。炭素材料のBET比表面積Sasは、下記の窒素吸脱着測定により算出した。ここで、炭素材料のBET比表面積Sは、BET法により求めた。
【0196】
窒素吸脱着測定は、比表面積・細孔分布測定装置(BELSORP max,BEL japan製)を用いて-196℃の条件下で行った。測定前に150℃で6時間真空乾燥する脱気処理を行った。サンプル管内の圧力を測定する際の平衡判断条件は300秒とした。図14Aは、実施例1~実施例4および参考例1の窒素吸脱着等温線であり、図14Bは、比較例1~比較例3の窒素吸脱着等温線であり、図14Cは、比較例4~比較例8の窒素吸脱着等温線であり、図14Dは、比較例9の窒素吸脱着等温線であり、図14Eは、比較例10および比較例11の窒素吸脱着等温線である。図14A図14E中、丸が塗りつぶされているグラフは、窒素吸着等温線を表し、丸が塗りつぶされていないグラフは、窒素脱着等温線を表す。
【0197】
[細孔容積Vtotal]
窒素吸脱着等温線を基に、-196℃で相対圧P/P=0.96における窒素吸着量を液体窒素密度の体積に換算することにより、細孔容積Vtotalを測定した。
【0198】
[細孔径分布]
吸着等温線は、大きく分けてI型、IV型の2つに分類される。図15A図15Bは、吸着等温線の概形を説明するための模式図であり、図15AにI型の吸着等温線の模式図を示し、図15BにIV型の吸着等温線の模式図を示す。次いで、I型の吸着等温線を示す試料に関しては、吸着等温線に対して、ソフトウェアAutosorb 1を用いて、スリット型細孔を仮定して密度汎関数理論(DFT法)により計算したカーネルを参照に、細孔径分布を解析した。次いで、IV型の吸着等温線を示す試料に関しては、それぞれの吸着等温線に対して、Barrett-Joyner-Halenda法(BJH法)を適用することで、細孔径分布を解析した。図16Aは、実施例1~実施例4および参考例1の細孔径分布であり、図16Bは、比較例1~比較例3の細孔径分布であり、図16Cは、比較例4~比較例8の細孔径分布であり、図16Dは、比較例10の細孔径分布であり、図16Eは、比較例10および比較例11の細孔径分布である。また、細孔径分布をガウス関数によりフィッティングすることで、炭素材料の細孔径dを算出した。
【0199】
[表面ねじれt]
実施例1~実施例4、参考例1、および、比較例4~比較例8の試料に対して、上記細孔径dおよび鋳型ナノ粒子の平均粒径dを用いて、下記式(3)より表面ねじれtを算出した。なお、比較例7に対しては、ホットプレス工程前の表面ねじれtを算出した。
【0200】
t=4πr /4πr=d /d・・・(3)
【0201】
実施例1~実施例4、参考例1、および比較例1~比較例11の炭素材料の特性を表1に纏める。
【0202】
【表1】
【0203】
実施例1~5および比較例4~8の表面ねじれtは、鋳型ナノ粒子の平均粒径dおよび平均積層数nが影響し、平均粒径dが大きく、平均積層数nが小さいほど、大きくなることが確認された。これは、分離工程において、鋳型を除去する際に、上記のような構造特性を有するものが毛管収縮の影響を受けやすいためであると考えられる。実施例1および比較例4、実施例2,3および比較例5、実施例4および比較例6~比較例8では、同じ鋳型が用いられており、同じ鋳型を用いた実施例(GMS)および比較例(CMS)比較すると、グラフェン網面サイズLの大きい実施例がより大きな体積弾性率Kを示し、また、グラフェン網面サイズLが大きいほどエッジサイト量Nedgeの少ない連続的な構造となり、耐久性のある構造特性を示す。
【0204】
炭素材料において、細孔径dが大きいほどグラフェンシートの曲率が小さくなる。また、表面ねじれtが大きいほど、炭素材料は、歪んだ構造を示すこととなり、力が均一に加わりにくく、変形しやすくなる。従って、細孔径dが大きく、表面ねじれtが大きいほど高い機械的柔軟性を有し体積弾性率Kが小さな値をとると考えられる。
【0205】
比較例6および比較例8を比較すると、窒素ドープ濃度の高い比較例8では、体積弾性率Kが大きく、グラフェン網面内の窒素ドープ濃度の高い炭素材料では、より硬質になることが確認された。これは、炭素-窒素間の2重結合エネルギーが炭素-炭素間の2重結合エネルギーよりも高いことで、平面性が担保された6員環の平面ネットワークが維持されやすいためだと考えられる。
【0206】
図17は、実施例1~実施例4、参考例1および比較例1~比較例11の体積弾性率K、並びに、構造特性の関係を示すグラフである。図17において、縦軸は、水銀圧入法により測定した体積弾性率Kを示し、横軸は、下記式(9)で示される炭素材料の構造特性を示す。図17は、最小二乗法により、体積弾性率および下記式(9)の線径関係が得られるように指数を最適化したものである。
(L0.8・n0.8・N0.8)/(d0.5・t5.9)・・・(9)
図17に示される通り、炭素材料の体積弾性率Kは、上記式(9)で示される炭素材料の構造特性に比例する比例関係にある。すなわち、体積弾性率Kは、下記式(10)で近似される。式中、αは比例定数であり、図17に示されるグラフでは、α=0.16である。
【0207】
K=α×(L0.8・n0.8・N0.8)/(d0.5・t5.9)・・・(10)
【0208】
従って、当該比例関係に基づいて、調整工程として、事前に、或いは、炭素材料の作製中に、炭素材料が所望の構造特性を有するように、製造条件を調整することが有効である。なお、上記比例関係は、実施例の炭素材料に限らず、比較例の炭素材料においても成立するものであり、例えば、活性炭、SWCNT、ZTC、CMSが所望の構造特性となるように上記式(10)に基づいて、製造条件を調整することが有効である。
【0209】
[SEM観察]
図18A図18B図18C図18Dは、それぞれ、実施例1、比較例2、比較例3、比較例4のSEM像である。表面ねじれtの小さい実施例1、比較例4では、表面ねじれtがあまり大きくなく、形状の歪みに伴うしわが確認されなかったが、表面ねじれtの大きいものの実験データ(不図示)では、形状の歪みに伴うしわが確認される可能性がある。
【0210】
[ラマン分光測定]
実施例1~実施例4および参考例1の炭素材料に対し、顕微ラマン装置(LabRAM HR-800,株式会社堀場製作所製)でラマンスペクトルを測定した。測定には、532nmのレーザーを用い、フィルターをD1、ホールを100μmに設定して測定を行った。測定範囲は、300~3500cm-1とした。図19は、実施例1~実施例4および参考例1のラマンスペクトルである。図17中の横軸はラマンシフト(cm-1)を表し、縦軸は、強度(a.u.)を表す。図19中、強度の低いグラフから順に実施例1、実施例2、実施例3、参考例1、実施例4のグラフである。
【0211】
実施例1~実施例4および参考例1のいずれにおいても、エッジサイトを含む非6角形部位等の欠陥に由来するDバンド,D´バンド、グラフェンシートの骨格振動に由来するGバンド、および二次のフォノン散乱による2Dバンドが存在していることが確認された。Dバンドは、グラフェン網面の六角形の対称性が崩れる箇所にて、六角形のブリージングモードとして現れる。実施例1~実施例4および参考例1のラマンスペクトルのピークは、ラマンシフト(cm-1)の小さいものから順にDバンド、Gバンド、D´バンド、2Dバンドのピークである。D´バンドは、六角形の変角モードであり、無限に広い六角網面では禁制となる。従って、ラマンスペクトルからも、実施例1~実施例4および参考例1の炭素材料もグラフェン骨格を有することが確認された。また、実施例1~実施例4および参考例1の何れにおいても、2DピークがHOPGの2Dピークと比べ、低位層側に存在し、且つ単一のローレンツ関数でフィッティングでき、実施例1~実施例4および参考例1では、単層グラフェンが成長していた。

【0212】
次に、本実施形態に係る蓄電デバイスの実施例、具体的には、蓄電デバイスの一例であるコイン型リチウム電池の実施例について説明する。
【0213】
[実施例6]
<正極の作製>
平均粒径3μmのコバルト酸リチウム(LiCoO)粉末93重量%、導電助剤としてアセチレンブラック2重量%、PVdF 5重量%を、N-メチル-ピロリドン(NMP)を溶媒として均一になるように撹拌混合し、正極剤ペーストを作製した。得られたペーストを厚さ20μmのアルミ箔上に塗布、乾燥させた。これを直径14mmに打ち抜いた後、プレスを行い正極を得た。
【0214】
<負極の作製>
人造黒鉛97重量%、導電助剤として上記の実施例1の炭素材料1重量%、カルボキシメチルセルロース1重量%、スチレンブタジエンラバー(SBR)1重量%を、蒸留水を溶媒として均一になるように撹拌混合し、負極剤ペーストを作製した。得られたペーストを厚さ20μmの銅箔上に塗布、乾燥させた。これを直径15mmに打ち抜いた後、プレスを行い負極を得た。
【0215】
<非水系電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを3:7の体積比で調整した混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、電解質濃度が13重量%になるように加えて、溶解させ、電解液を得た。
【0216】
<コイン型電池組立>
ポリプロピレン製の1軸で延伸した微多孔膜を上記の正極と負極で挟み、上記の電解液を規定量添加し、金属製のバネとスペーサとともに2032型コイン電池(高さ3.2mm、直径20mm)の外装部品内に収容し、シールガスケットをかしめることで密閉し、コイン型電池を作製した。
【0217】
[実施例7]
負極の導電助剤として、上記の実施例3の炭素材料を使用する以外は実施例6と同様の方法でコイン電池を作製した。
【0218】
[実施例8]
平均粒径3μmのコバルト酸リチウム(LiCoO)粉末94重量%、導電助剤として上記の実施例1の炭素材料1重量%、PVdF5重量%を用いた正極と、負極の導電助剤として、アセチレンブラック1重量%をそれぞれ使用する以外は実施例6と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0219】
[実施例9]
正極導電助剤および負極導電助剤として上記の実施例1の炭素材料をそれぞれ用いる以外は、実施例8と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0220】
[実施例10]
正極について、コバルト酸リチウム(LiCoO)粉末を94.5重量%、正極導電助剤として上記の実施例1の炭素材料0.5重量%を用いる以外は、実施例9と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0221】
[実施例11]
正極について、コバルト酸リチウム(LiCoO)粉末94.8重量%、正極導電助剤として上記の実施例1の炭素材料0.2重量%を用いる以外は、実施例9と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0222】
[実施例12]
負極について、人造黒鉛97.4重量%、負極導電助剤として上記の実施例1の炭素材料0.6重量%を用いる以外は、実施例9と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0223】
[実施例13]
負極について、人造黒鉛97.9重量%、負極導電助剤として上記の実施例1の炭素材料0.1重量%を用いる以外は、実施例9と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0224】
[実施例14]
負極について、人造黒鉛97.97重量%、負極導電助剤として上記の実施例1の炭素材料0.03重量%を用いる以外は、実施例9と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0225】
[比較例12]
負極の導電助剤としてアセチレンブラックを用いる以外は、実施例6と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0226】
[比較例13]
負極の導電助剤として比較例1の炭素材料を用いる以外は、実施例6と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0227】
[比較例14]
負極の導電助剤として比較例9の炭素材料を用いる以外は、実施例6と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0228】
[比較例15]
正極および負極の導電助剤として比較例1の炭素材料を用いる以外は、実施例9と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0229】
[比較例16]
正極について、コバルト酸リチウム(LiCoO2)粉末93.5重量%、アセチレンブラック1.5重量%を正極導電助剤として用いる以外は、比較例12と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0230】
[比較例17]
正極について、コバルト酸リチウム(LiCoO)粉末94.5重量%、アセチレンブラック0.5重量%を正極導電助剤として用いる以外は、比較例12と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0231】
[比較例18]
正極について、コバルト酸リチウム(LiCoO)粉末94.8重量%、アセチレンブラック0.2重量%を正極導電助剤として用いる以外は、比較例12と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0232】
[比較例19]
負極について、負極導電助剤としてアセチレンブラック0.6重量%を用いる以外は、実施例12と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0233】
[比較例20]
負極において、人造黒鉛97.9重量%、負極導電助剤としてアセチレンブラック0.1重量%を用いる以外は、実施例12と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0234】
[比較例21]
負極において、人造黒鉛97.97重量%、負極導電助剤としてアセチレンブラック0.03重量%を用いる以外は、実施例12と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0235】
実施例6から14および比較例12から21で作製したコイン型電池に対して、0℃にて2.0mAの定電流で4.35Vまで充電を行い、その後、0℃にて2.0mAの定電流で3.0Vまで放電を行った。その後、同様に充放電を10回繰り返し、放電容量の維持率を測定した。結果を表2に示した。
【0236】
【表2】
【0237】
本実施形態の炭素材料を正極の導電助剤として用いた場合には、低温下の試験ではあったが、電池のサイクル特性は向上した。これは、充電時の過電圧が低く、設計基準よりも多めにはリチウムが脱離せず、負極への負担が小さかったためと推測される。
【0238】
また、本実施形態の炭素材料を負極の導電助剤として用いた場合には、比較例と比べ負極の初期ロス容量が小さく、初期効率が向上し、初期放電容量が高かった。低温下の試験ではあったが、電池のサイクル特性は向上した。これは、充電時の過電圧が低く、設計基準よりも多めにはリチウムが脱離せず、負極への負担が小さかったためと推測される。
【0239】
図21は、実施例6から14および比較例12から21で作製したコイン型電池について、正極における導電助剤の添加量(wt%)と充放電容量(mAh)との関係を、実施例と比較例とで比較した図である。横軸は導電助剤の添加量を、縦軸は容量を、▲は実施例における充電容量を、×は実施例における放電容量を、〇は比較例における充電容量を、●は比較例における放電容量を、それぞれ示している。
【0240】
図22は、実施例6から14および比較例12から21で作製したコイン型電池について、負極における導電助剤の添加量(wt%)と充放電容量(mAh)との関係を、実施例と比較例とで比較した図である。横軸は導電助剤の添加量を、縦軸は容量を、▲は実施例における充電容量を、×は実施例における放電容量を、〇は比較例における充電容量を、●は比較例における放電容量を、それぞれ示している。
【0241】
容量は、正極電位が高いほど高い。このため、通常、充電は、容量を設計値に規制するために定電圧で行われる。ここで、(1)正極が高抵抗である場合には、正極自身が高電位で高充電容量となり、()負極が高抵抗である場合には、(電池電圧)=(正極電位)-(負極電位)となるので負極高抵抗=マイナス過電圧となり、正極電位は高くなって高充電容量となる。
【0242】
放電は一定終止電圧まで行うが、高電極抵抗では過電圧による電圧低下で早く終止電圧を切ることから低容量となる。その結果、充放電効率には充放電容量の状況が反映される。もちろん効率は高い方が電池容量のロスが少なく好ましい。図21および図22からは、実施例では比較例と比べて少ない添加量の導電助剤で高放電容量を示し、電極当たりの正極材含有量が高く、電極当たり容量も高くなることが分かる。
【0243】
図23は、実施例6から14および比較例12から21で作製したコイン型電池について、正極における導電助剤の添加量と初期効率&10サイクル維持率との関係を、実施例と比較例とで比較した図である。▲は実施例における初期効率を、×は実施例における10サイクル維持率を、〇は比較例における初期効率を、●は比較例における10サイクル維持率を、それぞれ示している。
【0244】
図24は、実施例6から14および比較例12から21で作製したコイン型電池について、負極における導電助剤の添加量と初期効率&10サイクル目維持率との関係を、実施例と比較例とで比較した図である。▲は実施例における初期効率を、×は実施例における10サイクル維持率を、〇は比較例における初期効率を、●は比較例における10サイクル維持率を、それぞれ示している。
【0245】
充放電効率には充放電容量の状況が反映される。もちろん効率は高い方が電池容量のロスが少なく好ましい。さらに、電池容量のロスした電気量は副反応に消費され、副反応で生成された皮膜は抵抗増加の要因になる。サイクルを繰り返すと、電池容量の初期のロスは発生しないが、電極の過電圧により通常反応電位より上昇すると別の副反応が起こる。その副反応で皮膜生成が繰り返され、さらに抵抗が増加して矢継ぎ早に劣化が促進されてサイクル維持率の低下が続く。
【0246】
図23および図24からは、実施例では、比較例と比べで少ない添加量の導電助剤で高効率や高維持率を示していることが読み取れる。よって、本実施形態の導電助剤が電極抵抗を低減させ、サイクルの繰り返しによる副反応の蓄積を抑制し、サイクルを繰り返しても高容量を維持できると推定する。
【符号の説明】
【0247】
1 グラフェンシート
10 グラフェン骨格
11 炭素層
12 炭素層
30 成形物
50 成形物
100 炭素材料
200 蓄電デバイス(リチウムイオン電池)
211 外装部品
212 正極
213 外装部品
214 負極
215 セパレータ
217 シールガスケット
218 バネ
219 スペーサ
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図14C
図14D
図14E
図15A
図15B
図16A
図16B
図16C
図16D
図16E
図17
図18A
図18B
図18C
図18D
図19
図20
図21
図22
図23
図24