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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】油ちょう食品用品質改良剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20250128BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20250128BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20250128BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20250128BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20250128BHJP
   A23D 9/007 20060101ALN20250128BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 D
A23L29/00
A23L5/00 F
A23D9/00 510
A23D9/00 508
A23D9/007
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020120771
(22)【出願日】2020-07-14
(65)【公開番号】P2022024283
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森田 幸夫
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-236821(JP,A)
【文献】特開2002-209531(JP,A)
【文献】特開2016-158518(JP,A)
【文献】特開2004-313176(JP,A)
【文献】特開2018-019645(JP,A)
【文献】特開2012-205570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/00-33/29
A23D 7/00-9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂類及び乳化剤からなる群から選択される1種又は2種以上の油溶性物質で被覆されたアルギン酸エステル含有粒子を含有する粉末状の油ちょう食品用品質改良剤であって、前記アルギン酸エステル含有粒子中に前記アルギン酸エステルを5~20質量%、前記油溶性物質を0.5~30質量%含有し、前記アルギン酸エステルのエステル化度が70%以上であり、前記アルギン酸エステルの1質量%水溶液の20℃における粘度が150~250mPa・sである油ちょう食品用品質改良剤。
【請求項2】
油脂類及び乳化剤からなる群から選択される1種又は2種以上の油溶性物質で被覆されたアルギン酸エステル含有粒子を含有する粉末状の油ちょう食品用品質改良剤であって、前記アルギン酸エステルと前記油溶性物質との質量比(アルギン酸エステル/油溶性物質)が0.2~10であり、前記アルギン酸エステル含有粒子中に前記アルギン酸エステルを0.1~20質量%、前記油溶性物質を0.5~30質量%含有し、前記アルギン酸エステルのエステル化度が70%以上であり、前記アルギン酸エステルの1質量%水溶液の20℃における粘度が150~250mPa・sである油ちょう食品用品質改良剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の油ちょう食品用品質改良剤を油ちょう食品に用いる生地又はバッター液に含有する油ちょう食品であって、前記油ちょう食品に用いる生地又はバッター液に含まれる穀粉及び澱粉の合計100質量部に対し、前記アルギン酸エステルを0.05~10質量部含有する油ちょう食品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油ちょう食品用品質改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の嗜好の多様化が進むなか、油ちょう食品のバリエーションも広がりを見せている。本来、大量のフライ油が必要になる等の理由から油ちょう食品は家庭での調理にあたっては手間がかかる食品であるが、ドーナツ、アメリカンドック、ナゲット、フリッター、から揚げ、天ぷら、揚げ麺等、多種多様な商品が各社から製造販売されており、その利便性と手軽さから食生活に広く浸透している。最近では、コンビニエンスストアでも冷凍食品の他、店内で調理したドーナツやホットスナック等の販売が広がりを見せている。このような販路の拡大とともに油ちょう食品への消費者のニーズはさらに高まりを見せており、各社がバリエーションに富んだ商品開発に力を入れている。
【0003】
一方、油ちょう食品は油で調理をするため、その他の食品よりも比較的油分含有量が高い傾向にあり、カロリーが高いイメージを持つ消費者も多い。また、油ちょう食品中の油分含有量が高いと油ちょう食品の流通や保存中に劣化しやすくなるため、食味等へ影響する可能性もある。さらに、油ちょう食品が油を多く吸収するとその分フライ油を多く消費するため、油ちょう食品を大量に製造する製菓製パンメーカーや冷凍食品メーカー等にとってはコストアップの要因にもなっている。そのため、より高品質な油ちょう食品の開発や消費者の健康志向に応えるためにも油ちょう食品中の油分含有量を低減させる必要があり、油ちょう工程による油ちょう食品のフライ油からの吸油を抑制する技術が求められている。
【0004】
油ちょう工程による油ちょう食品のフライ油からの吸油を抑制する技術としては、例えば、アルギン酸エステルを含有することを特徴とする吸油抑制剤(特許文献1)、アルギン酸エステルを含有することを特徴とする粉末状の吸油抑制剤(特許文献2)等が開示されている。
【0005】
しかし、前記技術をもってしても、油ちょう工程による油ちょう食品のフライ油からの吸油を抑制する効果は必ずしも十分とはいえず、さらなる吸油抑制に関する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-236821号公報
【文献】特開2002-209531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、油ちょう工程による油ちょう食品のフライ油からの吸油を抑制する油ちょう食品用品質改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題に対して鋭意検討を行った結果、アルギン酸エステルを油溶性物質で被覆することにより、前記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)油溶性物質で被覆されたアルギン酸エステル含有粒子を含有する粉末状の油ちょう食品用品質改良剤、
(2)(1)記載の油ちょう食品用品質改良剤を含有する油ちょう食品、
から成っている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の油ちょう食品用品質改良剤を油ちょう食品に含有させることにより、油ちょう工程による油ちょう食品のフライ油からの吸油が抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いられるアルギン酸エステルは、アルギン酸を構成するウロン酸のカルボキシ基にプロピレングリコールがエステル結合したものであり、カルボキシ基の少なくとも一部がエステル結合されていればよい。一般的にアルギン酸エステルは、分子量、エステル化度等により粘度等の性質が異なるため、用途に応じて適切な種類を選択することが求められるが、本発明では特に制限はなく用いることができる。
【0012】
アルギン酸エステルのエステル化度は、特に制限はないが、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。アルギン酸エステルの1質量%水溶液の20℃における粘度(以下、1質量%水溶液粘度という。)は、特に制限はないが、10~500mPa・sが好ましく、10~300mPa・sがより好ましい。アルギン酸エステルの粒度は、特に制限はないが、アルギン酸エステルの95質量%以上が、目開き1000μmの篩をパスする大きさ以下が好ましく、目開き500μmの篩をパスする大きさ以下がより好ましい。なお、アルギン酸エステルのエステル化度、1質量%水溶液粘度及び粒度は、各メーカーが公表している数値を採用することができる。本発明においては、アルギン酸エステルを1種のみ用いてもよく、任意の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
アルギン酸エステルとしては、例えば、昆布酸501(商品名;エステル化度75%以上;1質量%水溶液粘度150~250mPa・s;粒度 目開き180μmパス95質量%以上;キミカ社製)、キミロイドNLS-K(商品名;エステル化度75%以上;1質量%水溶液粘度30~60mPa・s;粒度 目開き425μmパス95質量%以上;キミカ社製)、キミロイドMV(商品名;エステル化度75%以上;1質量%水溶液粘度100~150mPa・s;粒度 目開き355μmパス95質量%以上;キミカ社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0014】
本発明で用いられる油溶性物質は、油脂等の油溶性成分に溶解し易く食用に供されるものであれば特に制限はなく、室温下で液体状、ペースト状、固体状、粉末状等であってもよい。油溶性物質としては、例えば、油脂類、乳化剤、植物ステロール、脂溶性ビタミン等を挙げることができ、油脂類が好ましく用いられる。本発明においては、油溶性物質を1種のみ用いてもよく、任意の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
油脂類としては、植物油脂、動物油脂、加工油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド等を挙げることができる。植物油脂としては、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、コメ油、コーン油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックコーン油、ハイオレイックヒマワリ油等を挙げることができる。動物油脂としては、豚脂、牛脂、魚油、乳脂、バター等を挙げることができる。加工油脂としては、これら動植物油脂に分別、水素添加、エステル交換等の処理をしたものを挙げることができる。中鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、カプロン酸トリグリセリド、カプリル酸トリグリセリド、カプリン酸トリグリセリド、ラウリン酸トリグリセリド等を挙げることができる。
【0016】
乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等であって、油脂等の油溶性成分に溶解し易いものを挙げることができる。乳化剤は両親媒性を示すものもあるため、油脂等の油溶性成分に溶解し易いものであれば、水溶性成分にも溶解するものであってもよい。グリセリン脂肪酸エステルには、グリセリンと脂肪酸のエステルの他、例えば、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等も含まれる。グリセリン有機酸脂肪酸エステルとしては、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル等を挙げることができる。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル等を挙げることができる。
【0017】
脂溶性ビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンD、ビタミンK等やこれらの誘導体を挙げることができる。ビタミンEとしては、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノールやこれらの酢酸エステル等の誘導体を挙げることができる。
【0018】
本発明で用いられる油溶性物質で被覆されたアルギン酸エステル含有粒子は、アルギン酸エステルの表面の一部又は全部に油溶性物質による被覆層が形成された粉末状の粒子をいい、アルギン酸エステル及び油溶性物質以外に、後述する基材成分を含有させてもよい。ここで、粉末状とは顆粒状を含む性状をいう(以下、同様とする。)。油溶性物質で被覆されたアルギン酸エステル含有粒子の粒度は、特に制限はないが、例えば、油溶性物質で被覆されたアルギン酸エステル含有粒子の95質量%以上が、目開き1210μmの篩をパスする大きさ以下が好ましい。
【0019】
油溶性物質で被覆されたアルギン酸エステル含有粒子中のアルギン酸エステルの含有量は、0.1~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。油溶性物質で被覆されたアルギン酸エステル含有粒子中の油溶性物質の含有量は、0.5~30質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましい。油溶性物質で被覆されたアルギン酸エステル含有粒子中のアルギン酸エステルと油溶性物質との質量比(アルギン酸エステル/油溶性物質)は、0.05~20が好ましく、0.2~10がより好ましい。
【0020】
本発明で用いられる油溶性物質で被覆されたアルギン酸エステル含有粒子中には、粒子化をし易くするために、基材成分を含有させてもよい。基材成分としては、澱粉、デキストリン、糖類、糖アルコール、安定剤、カゼインナトリウム、リン酸塩等を挙げることができ、澱粉、デキストリンを好ましく用いることができる。澱粉としては、コーンスターチ、ばれいしょ澱粉、かんしょ澱粉、タピオカ澱粉、加工澱粉等を挙げることができる。糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、グラニュー糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース、パラチノース、キシロース等を挙げることができる。糖アルコールとしては、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール等を挙げることができる。安定剤としては、寒天、ゼラチン、ペクチン、カラギナン、カードラン、マンナン、アルギン酸、アルギン酸塩、多糖類、大豆多糖類、セルロース類、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、タラガム、トラガントガム、ジェランガム、アラビアガム等を挙げることができる。
【0021】
本発明で用いられる油溶性物質で被覆されたアルギン酸エステル含有粒子の製造方法は、アルギン酸エステルの表面の一部又は全部に油溶性物質による被覆層が形成し得る方法であれば特に制限はなく、アルギン酸エステルのみに油溶性物質を被覆させる方法を用いてもよく、アルギン酸エステルと前記基材成分との混合組成物に油溶性物質を被覆させる方法を用いてもよい。このような方法としては、例えば、攪拌型混合造粒機に投入したアルギン酸エステルを攪拌しながら油溶性物質を投入する方法、攪拌型混合造粒機に投入したアルギン酸エステルと前記基材成分との混合組成物を攪拌しながら油溶性物質を投入する方法、押出造粒機にアルギン酸エステル、油溶性物質を投入する方法、押出造粒機にアルギン酸エステルと前記基材成分との混合組成物、油溶性物質を投入する方法、これらの方法により得られた粒子をさらに粉砕する方法等を挙げることができる。油溶性物質が、室温でペースト状、固形状、粉末状等の場合は、必要により、攪拌時に造粒機等の装置を加熱しながら油溶性物質を投入してもよい。
【0022】
本発明の油ちょう食品用品質改良剤は、前記のようにして得られた油溶性物質で被覆されたアルギン酸エステル含有粒子のみをそのまま粉末状の製剤として用いてもよく、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の成分を混合し混合粉末状製剤として調整してもよい。このような任意の成分としては、例えば、倍散剤、賦形剤、流動化剤等の目的で用いられるものを挙げることができ、澱粉、デキストリン、糖類、糖アルコール、カゼインナトリウム、リン酸塩、タルク、セルロース類等を挙げることができる。澱粉としては、コーンスターチ、ばれいしょ澱粉、かんしょ澱粉、タピオカ澱粉、加工澱粉等を挙げることができる。糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、グラニュー糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース、パラチノース、キシロース等を挙げることができる。糖アルコールとしては、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール等を挙げることができる。混合粉末状製剤の調整方法としては、特に制限はなく、粉粉混合等自体公知の方法を用いることができる。
【0023】
本発明の油ちょう食品用品質改良剤の使用方法は、油ちょう前の油ちょう食品に添加し得る方法であれば特に制限はなく、後述する油ちょう食品に用いる生地又はバッター液を調整する工程で直接添加する方法、油ちょう食品に用いる生地又はバッター液の原材料のうち粉末原材料にあらかじめ添加する方法等を挙げることができる。
【0024】
本発明の油ちょう食品用品質改良剤の使用量は、油ちょう食品に用いる生地又はバッター液に含まれる穀粉及び澱粉の合計100質量部に対しアルギン酸エステルが、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.05~5質量部になるよう調整することができる。
【0025】
本発明の油ちょう食品用品質改良剤を含有する油ちょう食品も本発明の形態の一つである。
【0026】
本発明の油ちょう食品は、穀粉や澱粉を含む生地又はバッター液が用いられ、油ちょうすることを前提として加工されたものであれば、特に制限はなく、油ちょう工程による加熱前のものであっても、油ちょう工程を経て加熱されたものであってもよい。例えば、ドーナツ類、揚げ菓子、ナゲット、フリッター、アメリカンドック、天ぷら、から揚げ、カツ、コロッケ、フライ、揚げ麺、揚げ玉等を挙げることができる。ドーナツ類としては、ケーキドーナツ、イーストドーナツ、カレードーナツ、クルーラー、サーターアンダギー、チュロス等を挙げることができる。揚げ菓子としては、かりんとう、かりんとうまんじゅう、揚げまんじゅう、スナック等を挙げることができる。ナゲットとしては、チキンナゲット、フィッシュナゲット等を挙げることができる。カツとしては、メンチカツ、トンカツ、ビーフカツ、チキンカツ、エビカツ等を挙げることができる。コロッケとしては、ポテトコロッケ、クリームコロッケ等を挙げることができる。フライとしては、エビフライ、フィッシュフライ、かきフライ、イカフライ等を挙げることができる。これらのうち生地又はバッター液をそのまま油ちょうするものとしては、ドーナツ類、かりんとう、スナック、揚げ麺、揚げ玉等を挙げることができる。生地で食品素材を包んだものを油ちょうするものとしては、ドーナツ類、かりんとうまんじゅう、揚げまんじゅう等を挙げることができる。バッター液を食品素材に付着させたものを油ちょうするものとしては、ナゲット、フリッター、アメリカンドック、天ぷら、から揚げ等を挙げることができる。バッター液及びパン粉を食品素材に付着させたものを油ちょうするものとしては、カツ、コロッケ、フライ等を挙げることができる。
【0027】
本発明の油ちょう食品は、油ちょう工程前に油ちょう食品に用いる生地又はバッター液が、茹で工程、蒸し工程、焼成工程等により加熱処理されていないものが好ましい。このような油ちょう食品としては、ドーナツ類、かりんとう、スナック、ナゲット、フリッター、アメリカンドック、天ぷら、から揚げ、カツ、コロッケ、フライ、揚げ玉等を挙げることができる。これらのなかでも、ドーナツ類、ナゲット、フリッター、アメリカンドック、天ぷら、から揚げ等がより好ましい。
【0028】
本発明の油ちょう食品に用いる生地は、穀粉や澱粉を主体とした粉末原材料と水等の液体原材料を混合、攪拌することで得られる保形性を有する組成物をいい、例えば、ドーナツ生地、かりんとう生地、まんじゅう生地、麺生地等を挙げることができる。本発明の油ちょう食品に用いるバッター液は、穀粉や澱粉を主体とした粉末原材料と水等の液体原材料を混合、攪拌することで得られる組成物のうち生地よりも比較的流動性を有する液状、ペースト状等の形態のものをいい、例えば、ナゲット用バッター液、フリッター用バッター液、アメリカンドック用バッター液、天ぷら用バッター液、から揚げ用バッター液、カツ用バッター液、コロッケ用バッター液、フライ用バッター液等を挙げることができる。
【0029】
本発明の油ちょう食品に用いる生地又はバッター液の原材料は、穀粉や澱粉が含まれれば、特に制限はなく、穀粉や澱粉の他には、例えば、水、油脂、卵製品、乳製品、糖類、糖アルコール、イースト、膨張剤、甘味料、乳化剤、安定剤、着色料、酸化防止剤、調味料、香料等の油ちょう食品で一般的に用いることができる原材料を挙げることができる。穀粉としては、穀類を粉末状に加工したものであれば、特に制限はなく、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、米粉、もち粉、そば粉、トウモロコシ粉、ばれいしょ粉、かんしょ粉、タピオカ粉等を挙げることができる。澱粉としては、コーンスターチ、ばれいしょ澱粉、かんしょ澱粉、タピオカ澱粉、加工澱粉等を挙げることができる。
【0030】
本発明の油ちょう食品に用いる生地又はバッター液の原材料として、プレミックスを用いることができる。プレミックスは、油ちょう食品に用いる生地又はバッター液の原材料の一部があらかじめ混合された組成物であれば、特に制限はなく、本発明の油ちょう食品用品質改良剤をあらかじめ混合させることもできる。プレミックスとしては、例えば、ドーナツ用プレミックス、まんじゅう用プレミックス、麺用プレミックス、バッター用プレミックス、天ぷら用プレミックス、から揚げ用プレミックス等を挙げることができる。
【0031】
本発明の油ちょう食品には、生地で包むことが可能なもの又はバッター液を表面に付着させることが可能なものとして、食品素材を用いることができ、例えば、肉、魚介、野菜等やこれらの加工品、カレー、餡、クリーム、ジャム等のフィリング、パン粉等を挙げることができる。
【0032】
本発明の油ちょう食品を油ちょうする際に用いるフライ油は、特に制限はなく、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、コメ油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油等の油ちょう食品で一般的に用いることができるフライ油を挙げることができる。酸化防止剤、シリコーン等の食品添加物等を含有するものを用いてもよい。
【0033】
本発明の油ちょう食品の製造方法は、油ちょう食品に一般的に用いられる製造方法を採用することができ、例えば、油ちょう食品に用いる生地又はバッター液の調整工程、加工工程、油ちょう工程からなる製造方法等を挙げることができる。油ちょう食品に用いる生地又はバッター液の調整工程は、例えば、穀粉や澱粉等の粉末原材料と水等の液体原材料をミキサーに投入し均質になるまで攪拌する工程等を挙げることができる。必要により、発酵工程、熟成工程、水和工程等をとることもできる。加工工程は、例えば、調整工程で得られた生地の分割、成形等や調整工程で得られたバッター液を食品素材へ付着させる工程等を挙げることができる。油ちょう工程は、例えば、フライヤー等で加熱されたフライ油に油ちょう食品を投入する工程を挙げることができる。フライ油の表面に浮く油ちょう食品の場合は反転させて両面を油ちょうしてもよい。油ちょう工程でのフライ油の温度は、油ちょう食品の大きさ、食品素材の種類等によって適宜調整されるものであるが、通常130~210℃であり、好ましくは140~190℃である。油ちょう時間(フライ油に浮く油ちょう食品の場合は両面を油ちょうする合計時間)は、油ちょう食品の大きさ、食品素材の種類等によって適宜調整されるものであるが、通常0.5~30分間であり、好ましくは1~15分間である。
【0034】
本発明の油ちょう食品の製造方法では、前記油ちょう工程前後に冷蔵工程、冷凍工程をとることもできる。冷蔵工程は、例えば、油ちょう食品を冷蔵庫に入れ、好ましくは10℃以下、より好ましくは5℃以下で保存する。冷凍工程は、例えば、油ちょう食品を冷凍庫に入れ、-35℃以下に急速冷凍し、その後、-18℃以下に保存することが好ましい。
【0035】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例
【0036】
[油ちょう食品用品質改良剤の作製]
(1)原材料
1)アルギン酸エステルA(商品名:昆布酸501;エステル化度75%以上;1質量%水溶液粘度150~250mPa・s;粒度 目開き180μmパス95質量%以上;キミカ社製)
2)アルギン酸エステルB(商品名:キミロイドNLS-K;エステル化度75%以上;1質量%水溶液粘度30~60mPa・s;粒度 目開き425μmパス95質量%以上;キミカ社製)
3)菜種油(商品名:ナタネ白絞油;ボーソー油脂社製)
4)菜種硬化油(商品名:菜種極度硬化油;横関油脂工業社製)
5)中鎖脂肪酸トリグリセリド(商品名:アクターM-1;理研ビタミン社製)
6)乳化剤A(商品名:ポエムDO-100V;ジグリセリンオレイン酸エステル;理研ビタミン社製)
7)乳化剤B(商品名:ポエムDS-100A;ジグリセリンステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)
8)コーンスターチ(商品名:コーンスターチCD-Y;王子コーンスターチ社製)
【0037】
(2)油ちょう食品用品質改良剤の作製方法
1)試作品1
室温にて、攪拌型混合造粒機(型式:HF-GS-2J;アーステクニカ社製)に、アルギン酸エステルA15g、コーンスターチ270gを投入し、水平回転刃(アジテーター)400rpm、垂直回転刃(チョッパー)1200rpmの条件で10分間攪拌し、アルギン酸エステル混合組成物を調整した。その後、同条件で攪拌しながら、菜種油15gを投入し、さらに同条件で10分間攪拌し、菜種油でアルギン酸エステル混合組成物を被覆させ、油ちょう食品用品質改良剤267gを得た。
【0038】
2)試作品2
攪拌型混合造粒機のジャケットを80℃に加温し、あらかじめ攪拌型混合造粒機を加熱した状態で原材料を投入し攪拌すること及び菜種油を菜種硬化油に変更すること以外は、試作品1と同様な方法で油ちょう食品用品質改良剤205gを得た。
【0039】
3)試作品3
菜種油を中鎖脂肪酸トリグリセリドに変更すること以外は、試作品1と同様な方法で油ちょう食品用品質改良剤262gを得た。
【0040】
4)試作品4
コーンスターチを225gに変更すること及び菜種油を60gに変更すること以外は、試作品1と同様な方法で油ちょう食品用品質改良剤150gを得た。
【0041】
5)試作品5
コーンスターチを283.5gに変更すること及び菜種油を1.5gに変更すること以外は、試作品1と同様な方法で油ちょう食品用品質改良剤287gを得た。
【0042】
6)試作品6
コーンスターチを269.25gに変更すること及びアルギン酸エステルA、コーンスターチとともに乳化剤A0.75gをさらに投入すること以外は、試作品1と同様な方法で油ちょう食品用品質改良剤286gを得た。試作品6は流動性が良く粉質が良好であった。
【0043】
7)試作品7
コーンスターチを281.85gに変更すること、アルギン酸エステルA、コーンスターチとともに乳化剤A0.15gをさらに投入すること及び菜種油を3gに変更すること以外は、試作品1と同様な方法で油ちょう食品用品質改良剤289gを得た。試作品7は流動性が良く粉質が良好であった。
【0044】
8)試作品8
アルギン酸エステルAをアルギン酸エステルBに変更すること以外は、試作品7と同様な方法で油ちょう食品用品質改良剤288gを得た。試作品8は流動性が良く粉質が良好であった。
【0045】
9)試作品9
攪拌型混合造粒機のジャケットを80℃に加温し、あらかじめ攪拌型混合造粒機を加熱した状態で原材料を投入し攪拌すること、コーンスターチを246gに変更すること及びアルギン酸エステルA、コーンスターチとともに乳化剤B24gをさらに投入すること以外は、試作品1と同様な方法で油ちょう食品用品質改良剤210gを得た。
【0046】
10)試作品10
室温にて、攪拌型混合造粒機(型式:HF-GS-2J;アーステクニカ社製)に、アルギン酸エステルA15g、コーンスターチ285gを投入し、水平回転刃(アジテーター)400rpm、垂直回転刃(チョッパー)1200rpmの条件で10分間攪拌し、油ちょう食品用改良剤285gを得た。
【0047】
油ちょう食品用品質改良剤中の各種原材料の含有量(質量%)及び質量比(アルギン酸エステル/油溶性物質)を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
[ドーナツの作製及び吸油抑制評価]
(1)原材料
1)強力粉(商品名:オーション;日清製粉社製)
2)薄力粉(商品名:バイオレット;日清製粉社製)
3)上白糖(商品名:精製上白糖ST;大日本明治製糖社製)
4)食塩(商品名:精製塩;日本食塩製造社製)
5)ショートニング(商品名:エンブレム;ミヨシ油脂社製)
6)ベーキングパウダー(商品名:BPO♯1;オリエンタル酵母工業社製)
7)全卵(商品名:エクセルエッグ;キユーピー社製)
8)水
9)油ちょう食品用品質改良剤(試作品1~10)
10)アルギン酸エステルA(商品名:昆布酸501;エステル化度75%以上;1質量%水溶液粘度150~250mPa・s;粒度 目開き180μmパス95質量%以上;キミカ社製)
11)アルギン酸エステルB(商品名:キミロイドNLS-K;エステル化度75%以上;1質量%水溶液粘度30~60mPa・s;粒度 目開き425μmパス95質量%以上;キミカ社製)
12)菜種油(商品名:ナタネ白絞油;ボーソー油脂社製)
13)乳化剤A(商品名:ポエムDO-100V;ジグリセリンオレイン酸エステル;理研ビタミン社製)
14)乳化剤B(商品名:ポエムDS-100A;ジグリセリンステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)
15)コーンスターチ(商品名:コーンスターチCD-Y;王子コーンスターチ社製)
【0050】
(2)ドーナツの作製方法
1)ドーナツ1~10
5クォートミキサー(商品名:ミキサーN50;ホバート社製)に、あらかじめ均質に混合した強力粉60g、薄力粉140g、上白糖100g、食塩0.6g、ベーキングパウダー8g、油ちょう食品用品質改良剤(試作品1)2gとショートニング14g、全卵30g、水100gを投入し、ミキサー用ビーターを用いて1速にて60秒間攪拌した後、2速にて120秒間さらに攪拌しドーナツ生地を作製の上、ドーナツカッターを用いて1個35gに分割した。その後、180℃に加熱したフライ油(商品名:アメリカーナDX-TL;ADEKA社製)に投入し、80秒間油ちょうした後、生地を反転させ、さらに70秒間油ちょうし、油切りバットへ取り出した。室温で30分間放置し、ドーナツ1を得た。同様な方法にて、油ちょう食品用品質改良剤(試作品1)を油ちょう食品用品質改良剤(試作品2~10)にそれぞれ変更し、ドーナツ2~10をそれぞれ得た。
【0051】
2)ドーナツ11
油ちょう食品用品質改良剤(試作品1)2gをアルギン酸エステルA0.1g、コーンスターチ1.795gに変更すること及び菜種油0.1g、乳化剤A0.005gをさらに投入すること以外は、ドーナツ1と同様な方法でドーナツ11を得た。
【0052】
3)ドーナツ12
油ちょう食品用品質改良剤(試作品1)2gをアルギン酸エステルA0.1g、コーンスターチ1.879gに変更すること及び菜種油0.02g、乳化剤A0.001gをさらに投入すること以外は、ドーナツ1と同様な方法でドーナツ12を得た。
【0053】
4)ドーナツ13
アルギン酸エステルAをアルギン酸エステルBに変更すること以外は、ドーナツ12と同様な方法でドーナツ13を得た。
【0054】
5)ドーナツ14
水100gと乳化剤B0.16gを500MLステンレス製ジョッキに入れ、スリーワンモーター(型式:BL600;HEIDON社製)にて攪拌しながら加温し60℃達温後10分間攪拌の上、室温で2時間放置しジグリセリンステアリン酸エステル溶液を得た。5クォートミキサー(商品名:ミキサーN50;ホバート社製)に、あらかじめ均質に混合した強力粉60g、薄力粉140g、上白糖100g、食塩0.6g、ベーキングパウダー8g、アルギン酸エステルA0.1g、コーンスターチ1.64gとショートニング14g、全卵30g、菜種油0.1g、前記ジグリセリンステアリン酸エステル溶液全量を投入し、ミキサー用ビーターを用いて1速にて60秒間攪拌した後、2速にて120秒間さらに攪拌しドーナツ生地を作製の上、ドーナツカッターを用いて1個35gに分割した。その後、180℃に加熱したフライ油(商品名:アメリカーナDX-TL;ADEKA社製)に投入し、80秒間油ちょうした後、生地を反転させ、さらに70秒間油ちょうし、油切りバットへ取り出した。室温で30分間放置し、ドーナツ14を得た。
【0055】
(3)アルギン酸エステルを含有しないドーナツ(以下、対照用ドーナツという。)の作製方法
油ちょう食品用品質改良剤(試作品1)2gを投入しないこと以外は、ドーナツ1と同様な方法で対照用ドーナツを得た。
【0056】
(4)吸油抑制評価方法
前記で得られた各種ドーナツ及び対照用ドーナツ1個の質量(g)を測定し、吸油率(%)を下記計算式により算出した。各種ドーナツ及び対照用ドーナツ10個の吸油率(%)の平均値を算出し、対象用ドーナツと比較し各種ドーナツがどの程度吸油を抑制するかを示す吸油抑制率(%)を下記計算式により算出した。
【0057】
【数1】
【0058】
【数2】
【0059】
吸油抑制評価は、下記基準による記号によって示す。
[記号]
◎:吸油抑制率(%)が22以上
○:吸油抑制率(%)が19以上22未満
△:吸油抑制率(%)が16以上19未満
×:吸油抑制率(%)が16未満
【0060】
各種ドーナツ中の小麦粉100質量部に対する各種原材料の含有量(質量部)、吸油抑制率(%)及び吸油抑制評価結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2から、本発明の油ちょう食品用品質改良剤(試作品1~9)を用いたドーナツ1~9は、アルギン酸エステルを油溶性物質で被覆せずそのまま用いたドーナツ10~14のいずれよりも吸油抑制効果を有することがわかった。また、ドーナツの原材料の種類及び含有量が同一であるドーナツ6とドーナツ11、ドーナツ7とドーナツ12、ドーナツ8とドーナツ13、ドーナツ9とドーナツ14をそれぞれ比較すると、アルギン酸エステルを油溶性物質で被覆せずそのまま用いたドーナツ11、ドーナツ12、ドーナツ13、ドーナツ14の吸油抑制評価はそれぞれ「△」、「×」、「×」、「×」であるのに対し、本発明の油ちょう食品用品質改良剤を用いたドーナツ6、ドーナツ7、ドーナツ8、ドーナツ9の吸油抑制評価はそれぞれ「◎」、「◎」、「〇」、「◎」へといずれも向上していることから、アルギン酸エステルを油溶性物質で被覆すると油ちょう工程による油ちょう食品のフライ油からの吸油が抑制されることがわかった。なお、ドーナツ1~9のうち、乳化剤Bを含むドーナツ9は歯切れが良く食感が良好であった。