(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】電動機及び回転圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/14 20060101AFI20250128BHJP
H02K 1/16 20060101ALI20250128BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20250128BHJP
H02K 1/2706 20220101ALI20250128BHJP
【FI】
H02K1/14 Z
H02K1/16 C
H02K1/22 A
H02K1/2706
(21)【出願番号】P 2020176559
(22)【出願日】2020-10-21
【審査請求日】2023-07-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517403558
【氏名又は名称】瀋陽中航機電三洋制冷設備有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100196069
【氏名又は名称】佐藤 高弘
(72)【発明者】
【氏名】後藤 太我
(72)【発明者】
【氏名】簗島 俊人
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 正昭
(72)【発明者】
【氏名】中山 善友
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/042886(WO,A1)
【文献】特開2020-080632(JP,A)
【文献】特開2017-055560(JP,A)
【文献】特開2013-138531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00 - 1/16
H02K 1/18 - 1/26
H02K 1/28 - 1/34
H02K 1/2706
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、
ロータの外側に設けられるティースを含むステータと、
を備え、
ロータの回転方向正側に向かうに従い深く切り欠かれる第1切欠部が、ロータの外周面に形成され、
前記回転方向正側に向かうに従い深く切り欠かれる第2切欠部が、ティースにおける前記回転方向正側の内側端に形成され、
前記ティースは、本体部と、本体部の内端側に設けられる幅広部とを備え、
前記幅広部は、前記回転方向正側に延出する第1延出端部と、回転方向逆側に延出する第2延出端部を含み、
前記内側端は、第1延出端部の内側端に対応し、
前記第2延出端部には切欠部が形成されておらず、前記第1切欠部よりも前記ロータの回転方向逆側に配される第1外端部は、平面視において、前記ロータの回転中心を中心とする円弧を成し、前記ティースの前記第2切欠部よりも前記回転方向逆側に配される部分の内端面は、平面視において、前記円弧と同心円状の形状を成し、
更に、下式1の条件を満たす、
電動機。
(式1) 0.1≦A/A’≦0.9 且つ 0.1≦B/B’≦0.7
式1におけるAは、第2切欠部の奥行方向の寸法である。
式1におけるA’は、第2切欠部が設けられていないと仮定した場合の第1延出端部の奥行方向の寸法である。
式1におけるBは、第2切欠部の回転方向の寸法である。
式1におけるB’は、第2切欠部が設けられていないと仮定した場合の第1延出端部の内側端から幅広部内端の中央に至るまでの寸法である。
【請求項2】
下式2の条件を満たす、
請求項1に記載の電動機。
(式2) 0.4≦A/A’≦0.6 且つ 0.3≦B/B’≦0.7
【請求項3】
ロータに複数の磁極が設けられ、
ロータの外周面に沿う各磁極の外端は、平面視において、ロータの回転中心を中心とする円弧を成す第1外端部と、前記回転中心から径方向外側に所定距離離れた位置を中心とする円弧を成す第2外端部とを含み、
第2外端部が、第1外端部より前記回転方向正側に配される、
請求項1または2に記載の電動機。
【請求項4】
第1外端部に対応する前記円弧の径をR1し、第2外端部に対応する前記円弧の径をR2とするR1とR2との関係が、下式3の条件を満たす、
請求項3に記載の電動機。
(式3) 2≦R2/(R1-R2)≦5
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電動機を備える、
回転圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機及び回転圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば空調機器用の圧縮機として、回転圧縮機が提供されている。回転圧縮機は、ステータ、ロータ、ロータの回転軸(クランク軸)を備える電動機と、回転軸を介して電動機と接続され、電動機の動作によって駆動される回転圧縮機構とを備える。
【0003】
電動機として、DCモータが例示される。DCモータにおいて、ステータのコイルに印加される交流電流の作用で生成される駆動磁界がロータを回転させ、回転トルクが得られる。一方、DCモータのロータが高速回転する際、ステータの径方向側に大きな磁気吸引・反発力(以下、単に「吸引力」と言う。)が生じる。その結果、ステータ及びステータを収容する密閉容器が大きく振動し、回転圧縮機から騒音が生じる。このような、DCモータを用いた回転圧縮機における課題を解決するための技術が、例えば、下記特許文献1に開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の技術は、永久磁石を含む磁極が周方向に所定間隔で配されるロータをステータの内側に備えるインナロータ型のDCモータであって、ロータの各磁極の外周面が、ロータの回転方向正側に向かうに従い漸次深くなるよう断面円弧状に切除された切欠部を有するDCモータに関する。ロータの外周面に前記形状の切欠部を設けることで、ロータとステータとの間のエアギャップ(間隙)における急激な磁束密度の変化が緩和され、ステータに作用する吸引力が低減される。これにより、DCモータ動作時の騒音を抑えることができる。
【0006】
ところで、DCモータにおけるロータの回転に伴い、ステータのコイルに誘起電圧が生成される。ロータが一定速度で回転する場合、一のコイルに生じる誘起電圧は、例えば、所定周波数の正弦波状に変化する。しかしながら、特許文献1のDCモータのように、前記形状の切欠部を含むロータを用いると、切欠部を備えない一般のロータに比べれば、誘起電圧の歪率が低減されるが、まだまだ多くの高調波成分が残されることが確認された。誘起電圧に高調波成分が残ることは、インバータによるコイル印加電流の制御性やモータ出力の効率向上を低減させる可能性がある点で好ましくない。
【0007】
ここで、誘起電圧に高調波成分が残される要因の一つとして、一般のロータを備えたDCモータに比べて、ステータに作用する吸引力や誘起電圧の歪率低減に寄与した前記ロータの外周面の形状(切欠部を設けた形状)に、ロータの外周面に対向するステータのティース先端面(内端面)の形状が対応していないことが挙げられる。
【0008】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、ステータのティース内端面の形状を、切欠部が形成されるロータ外周面の形状に対応させることで、誘起電圧の歪率を更に低減可能な電動機の提供を目的とする。また、この電動機を備える回転圧縮機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電動機は、
ロータと、
ロータの外側に設けられるティースを含むステータと、
を備え、
ロータの回転方向正側に向かうに従い深く切り欠かれる第1切欠部が、ロータの外周面に形成され、
前記回転方向正側に向かうに従い深く切り欠かれる第2切欠部が、ティースにおける前記回転方向正側の内側端に形成され、
前記ティースは、本体部と、本体部の内端側に設けられる幅広部とを備え、
前記幅広部は、前記回転方向正側に延出する第1延出端部と、回転方向逆側に延出する第2延出端部を含み、
前記内側端は、第1延出端部の内側端に対応し、
更に、下式1の条件を満たす。
(式1) 0.1≦A/A’≦0.9 且つ 0.1≦B/B’≦0.7
式1におけるAは、第2切欠部の奥行方向の寸法である。
式1におけるA’は、第2切欠部が設けられていないと仮定した場合の第1延出端部の奥行方向の寸法である。
式1におけるBは、第2切欠部の回転方向の寸法である。
式1におけるB’は、第2切欠部が設けられていないと仮定した場合の第1延出端部の内側端から幅広部内端の中央に至るまでの寸法である。
【0010】
本発明のこの態様によれば、ロータの回転方向正側に向かうに従い深く切り欠かれる第1切欠部が、ロータの外周面に形成されると共に、前記回転方向正側に向かうに従い深く切り欠かれる第2切欠部が、ティースにおける前記回転方向正側の内側端に形成されるため、ロータ回転の際にステータのコイルに生じる誘起電圧の歪率を更に低減できる。
【0011】
ここで、誘起電圧の歪率とは、ロータ回転角の変化に応じて得られる誘起電圧の波形から基本波成分(実効値:V1)と各高調波成分(実効値:V2,V3,・・・,Vn)とを分離し、これらの実効値を用いた下式によって算出される値である。
【0012】
【0013】
なお、誘起電圧の波形から基本波成分と各高調波成分を分離する手段として、例えば、測定された誘起電圧の波形を高速フーリエ変換(FFT)し、基本波成分と他の高調波成分に対応する各周波数成分を分離するなどの手段が挙げられる。ただし、これに限定されない。
【0015】
更に、本発明に係る電動機は、下式2の条件を満たす、
ことが、更に誘起電圧の歪率を低減可能であるため好ましい。
(式2) 0.4≦A/A’≦0.6 且つ 0.3≦B/B’≦0.7
【0016】
更に、本発明に係る電動機において、
ロータに複数の磁極が設けられ、
ロータの外周面に沿う各磁極の外端は、平面視において、ロータの回転中心を中心とする円弧を成す第1外端部と、第1円弧の中心から径方向外側に所定距離離れた位置を中心とする円弧を成す第2外端部とを含み、
第2外端部が、第1外端部より前記回転方向正側に配される、
ことが、更に誘起電圧の歪率を低減可能であるため好ましい。
【0017】
更に、本発明に係る電動機において、
第1外端部に対応する前記円弧の径をR1とし、第2外端部に対応する前記円弧の径をR2とするR1とR2との関係が、下式3の条件を満たす、
ことが、更に誘起電圧の歪率を低減可能であるため好ましい。
(式3) 2≦R2/(R1-R2)≦5
【0018】
また、本発明に係る回転圧縮機は、前記電動機を備える。
【0019】
本発明のこの態様によれば、ロータ回転の際にステータのコイルに生じる誘起電圧の歪率を更に低減できる電動機を備えた回転圧縮機を提供できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ステータのティース内端面の形状を、切欠部が形成されるロータ外周面の形状に対応させることで、誘起電圧の歪率を更に低減できる。また、誘起電圧の歪率を更に低減した電動機を備える回転圧縮機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】本実施形態の電動機におけるロータの水平断面図。
【
図4】
図2で示される電動機の水平断面図におけるティース内端の拡大図。
【
図5】
図2で示される電動機の水平断面図におけるティース内端の拡大図。
【
図6】(a)第1切欠部のカットレベルを変化させた際の誘起電圧歪率の推移を示すグラフ、(b)第1切欠部のカットレベルを変化させた際の誘起電圧の推移を示すグラフ。
【
図7】実施例1及び比較例1から比較例3のティース内端とロータ外端の構造を示す拡大図。
【
図8】実施例1及び比較例1から比較例3の誘起電圧の波形を示すグラフ。
【
図9】ロータを回転させた際のティース内端に作用する吸引力の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る回転圧縮機を詳細に説明する。まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る回転圧縮機1の全体構成を説明する。ここで、
図1は、回転圧縮機1の垂直断面図である。
【0023】
図1に示されるように、本実施形態に係る回転圧縮機1は、電動機10、電動機10によって駆動される回転圧縮機構部20を備える。電動機10及び回転圧縮機構部20は、容器本体部31、蓋部32を備える鋼板製の密閉容器30に収容される。なお、図示される回転圧縮機1は縦置型であるが、これに限られない。本発明に係る回転圧縮機は、横置型の回転圧縮機にも適用することもできる。
【0024】
電動機10は、ステータ11と、ロータ12と、ロータ12の回転軸(クランクシャフト)13とを備えるブラシレスDCモータである。ここで、ステータ11は、略円柱状の空域が内側に形成される平面視ドーナッツ形状の複数の電磁鋼板を高さ方向に積層したステータコア110を備える。ステータコア110は、筒状のヨーク111と、ヨーク111の内周から径方向内側に延出する複数のティース112を含む。また、コイル113は、各ティース112に集中巻き方式で巻着される。なお、ステータコア110の詳細については、
図2等を参照して後述する。
【0025】
コイル113は、容器30の蓋部32に装着されるターミナル33と電気的に接続される。ターミナル33からコイル113に電力が供給されると、コイル113に電流が流れる。これにより、ロータ12に作用する回転磁界が生成され、ロータ12が回転する。
【0026】
ロータ12は、平面視略円形の複数の電磁鋼板を高さ方向に積層したロータコア121と、ロータコア121内に設けられる永久磁石122とを備える。ロータコア121は、ステータ11の内側に形成される円柱状の空域内に配設される。このとき、ステータ11におけるティース112の内端とロータコア121の外周面との間に僅かな間隙(エアーギャップ)が形成される。更に、ロータコア121の中央に、高さ方向に貫通する貫通孔12bが形成される。回転軸13は、貫通孔12bに挿嵌され、ロータ12を支持する。
【0027】
次に、回転圧縮機構部20は、
図1に示されるように、シリンダ21、偏芯部22、ローラ23、ベーン24等を備える。ここで、
図1に示されるように、シリンダ21は、上下に貫通する圧縮室211を内部に備える。偏芯部22は、圧縮室211内に収容されると共に、回転軸13に一体形成される。更に、ローラ23は、偏芯部22の外側面に周設される。更に、シリンダ21の上方側及び下方側の夫々に、回転軸13の軸受部を含む枠体26a,26bが装着される。
【0028】
前記構造の回転圧縮機構部20において、回転軸13が回転すると、圧縮室211内で偏芯部22及びローラ23が偏芯回転する。このとき、ローラ23は、圧縮室211の内側面に沿って偏芯回転する。また、ローラ23の偏芯回転に伴い、ローラ23の外側面に当接するベーン24がシリンダ21の外方側に押し込まれる。ローラ23が偏芯回転を続けると、ベーン24を付勢するスプリングの作用により、ベーン24は、それまでとは逆方向にスライド移動し、元の位置に戻る。
【0029】
シリンダ21に形成される冷媒吸入路27を介して、アキュムレータ70から圧縮室211に供給された冷媒は、偏芯部22、ローラ23、ベーン24の前記動作によって圧縮される。また、圧縮された冷媒は、枠体26a内の流路(図示しない)を介して容器30に向けて吐出される。
【0030】
なお、図示される回転圧縮機構部20は、2つのシリンダ21を備えるものであるが、シリンダの個数はこれに限られない。すなわち、回転圧縮機構部20は、シリンダ21を1つ備えるものであってもよいし、2つ以上備えるものであってもよい。
【0031】
次に、
図2から
図5を参照して、本実施形態における電動機10の詳細を説明する。ここで、
図2は、電動機10の水平断面図である。また、
図3は、ロータ12の水平断面図である。更に、
図4及び
図5は、
図2で示される電動機10の水平断面図において、ティース112の内端を拡大した図である。なお、図示される電動機10は、6極9スロットの極数とスロットを有するものであるが、これに限られない。
【0032】
図2に示されるように、ステータコア110に備わるティース112の各々は、ヨーク111の内周から径方向内側に延出する本体部112aと、本体部112aの先端側(径方向内端側)に設けられる幅広部112bを備える。更に、幅広部112bは、矢印Aで示されるロータ12の回転方向の正側及び逆側のそれぞれに延出する第1延出端部112cと第2延出端部112dを含む。ただし、ティース112は、先端に至るまで略一様の幅を備えるものであってもよい(すなわち、ティース112は、幅広部112bを必ずしも備えなくてもよい)。
【0033】
次に、
図3に示されるように、ロータ12における複数の永久磁石122は、周方向に並べて配設される。本実施形態において、各永久磁石122は、ロータコア121の所定箇所に設けられるスロットに嵌め込まれる。なお、永久磁石122の種類は、特に限定されるものではなく、フェライト系磁石、ネオジム系磁石、サマリウムコバルト系磁石、プラセオジウム系磁石等が例示される。
【0034】
本実施形態における永久磁石122は、一連に配置される3つの磁石122a,122b,122cの組を有する。また、永久磁石122と、磁石122aに対向するロータコア121の外周面121aとを含む領域によって、磁極123が形成される。
図3に示される態様の場合、6つの磁極が形成される。外周面121aは、磁極123の外端に対応する。
【0035】
また、本実施形態における磁極123の外端(外周面121a)は、平面視(
図3に示されるロータ12の水平断面視)において、ロータ12の回転中心O1を中心とする円弧を成す第1外端部121a1と、第1円弧の中心から径方向外側に所定距離離れた位置O2を中心とする円弧を成す第2外端部121a2とを含む。更に、第2外端部121a2は、第1外端部121a1より回転方向正側に配される。これにより、ロータ12の回転方向正側に向かうに従い深く切り欠かれる第1切欠部121bが、形成される。
【0036】
ところで、切欠量(カット量)が多いほど、ステータとロータとの間の磁気抵抗が増加し、コイル113に鎖交する磁束が減少する。そのため、コイル113に生じる誘起電圧は低くなる。このことから、誘起電圧の歪率だけでなく、誘起電圧の低下にも着目して、カット量を調整することが好ましい。ここで、第1外端部121a1に対応する円弧の径(回転中心O1と第1外端部121a1とを結ぶ線分の寸法)をR1とし、第2外端部121a2に対応する円弧の径(中心O2と第2外端部121a2とを結ぶ線分の寸法)をR2とする場合、R1とR2との関係が下式の条件を満たすことが、誘起電圧の低下を抑えつつ、誘起電圧の歪率を低減できる点で好ましい。
(式) 2≦R2/(R1-R2)≦5
【0037】
また、R1とR2との関係が下式の条件を満たすことで、誘起電圧の低下を抑えつつ、更に誘起電圧の歪率低減効果が奏される。
(式) 2≦R2/(R1-R2)≦3
【0038】
次に、
図4及び
図5を参照して、ステータコア110におけるティース112の内端側の構造を詳細に説明する。ティース112の内端に、第1延出端部112cと第2延出端部112dを備える幅広部112bが設けられる。また、ロータ12の回転方向正側に延出する第1延出端部112cの内側端に、回転方向正側に向かうに従い深く切り欠かれる第2切欠部112c1が形成される。
【0039】
ロータ12の外端121aとティース112の内端(幅広部112b)との間のエアーギャップを介して、第1切欠部121bと第2切欠部112c1とを略対称に配することで、誘起電圧の歪率を更に低減できる。第2切欠部112c1の端縁112eは、特に限定されるものではないが、平面視直線状や曲線状であることが好ましい。
【0040】
ここで、
図5に示されるように、第2切欠部112c1の奥行方向の寸法をA、第2切欠部112c1が設けられていないと仮定した場合の第1延出端部112cの奥行方向の寸法をA’とすると共に、第2切欠部112c1の幅方向(回転方向)の寸法をB、第2切欠部112c1が設けられていないと仮定した場合の第1延出端部112cの内側端(
図5の符号112c2)から幅広部内端の中央(
図5の符号112c3)に至るまでの寸法をB’とする場合、下式の条件を満たすよう、A,A’,B,B’の関係を調整する。これにより、誘起電圧の低下を抑えつつ、誘起電圧の歪率を更に低減可能である。
(式) 0.1≦A/A’≦0.9 且つ 0.1≦B/B’≦0.7
【0041】
また、下式の条件を満たすよう、A,A’,B,B’の関係を調整する。これにより、誘起電圧の低下を抑えつつ、誘起電圧の歪率を更に低減可能である。
(式) 0.4≦A/A’≦0.6 且つ 0.3≦B/B’≦0.7
【実施例】
【0042】
以上説明した回転圧縮機1及び電動機10に関して、具体的な実施の例を以下に記す。ただし、本発明は、下記の実施例により限定及び制限されるものではない。
【0043】
[第1切欠部のカットレベルと誘起電圧の歪率及び誘起電圧との関係]
本実施例において、ロータ12の第1外端部121a1に対応する円弧の径R1、第2外端部121a2に対応する円弧の径R2を用いた[R2/(R1-R2)]によって、第1切欠部121bのカット量(磁極123の外端121aのカット量)の指標を表す。以下この指標を「カットレベル」と言う。[R2/(R1-R2)]の値が減少する程、カットレベルが大きい(ロータ12の外端121aが深く切り欠かれる)。一方、[R2/(R1-R2)]の値が増加する程、カットレベルが小さい(ロータ12の外端121aが浅く切り欠かれる)。
【0044】
カットレベル[R2/(R1-R2)]を変化させた場合における誘起電圧の歪率を
図6(a)に示す。
図6の横軸は、カットレベル[R2/(R1-R2)]を示す。また、
図6(a)の縦軸は、誘起電圧の歪率を示す。ここで、
図6の縦軸に示される誘起電圧の歪率は、ロータ12側の切欠(第1切欠部121b)およびステータ11側の切欠(第2切欠部112c1)が形成されていない電動機10での誘起電圧の歪率との比率(%)を示す。また、カットレベル[R2/(R1-R2)]を変化させた場合における誘起電圧を
図6(b)に示す。
図6(b)の横軸は、カットレベル[R2/(R1-R2)]を示す。また、
図6(b)の縦軸は、誘起電圧を示す。ここで、
図6(b)の縦軸に示される誘起電圧は、ロータ12側の切欠(第1切欠部121b)およびステータ11側の切欠(第2切欠部112c1)が形成されていない電動機10での誘起電圧との比率(%)を示す。
【0045】
図6(a)に示されるように、[R2/(R1-R2)]=1からカットレベルを減らす([R2/(R1-R2)]の数値を増加させる)と、[R2/(R1-R2)]=2で、誘起電圧の歪率は最小値に至る。カットレベルを更に減らすと、カットレベルの減少([R2/(R1-R2)]の数値の増加)に伴い、誘起電圧の歪率は増加する。これに対して、
図6(b)に示されるように、[R2/(R1-R2)]=1からカットレベルを減らす([R2/(R1-R2)]の数値を増加させる)に伴い、誘起電圧は増加する。
【0046】
図6(a)及び
図6(b)に示される結果から、2≦R2/(R1-R2)≦5、特に、2≦R2/(R1-R2)≦3の範囲で、誘起電圧の低下を抑えつつ、誘起電圧の歪率を大きく低減できることが確認された。より詳しくは、[R2/(R1-R2)]が2を下回る場合(例えば、1.5の場合)、誘起電圧の歪率は、ある程度低減されるが、誘起電圧は、(例えば、[R2/(R1-R2)]=2.5の場合と比べて)大きく低下している。これに対して、[R2/(R1-R2)]=5の場合、誘起電圧は高く、誘起電圧の歪率も、誘起電圧の歪率が最小である[R2/(R1-R2)]=2の場合に比べて、約10%高い値に留まる。一方、[R2/(R1-R2)]が5を上回る場合、誘起電圧の歪率が更に上昇する。従って、誘起電圧の低下を抑えつつ、誘起電圧の歪率の低減効果を奏する範囲として、2≦R2/(R1-R2)≦5が望ましい。なお、各カットレベルでの誘起電圧の歪率は、ステータ11のティース112における第2切欠部112c1の奥行方向側のカット率[A/A’](A,A’は前記の通り)、第2切欠部112c1の回転方向側のカット率[B/B’](B,B’は前記の通り)を種々変化させて得られた値の最小値に対応する。また、各カットレベルでの誘起電圧は、カット率[A/A’]、カット率[B/B’]を種々変化させて得られた値の最大値に対応する。
【0047】
[第2切欠部のカット率と誘起電圧の歪率との関係]
次に、ティース112の内側端に形成される第2切欠部112c1において、奥行方向側のカット率[A/A’]及び回転方向側のカット率[B/B’]を変化させた際の誘起電圧の歪率を下表1から表3に示す。また、前記カット率[A/A’]及び[B/B’]を変化させた際の誘起電圧を下表4から表6に示す。なお、表1から表6に示される誘起電圧の歪率及び誘起電圧の値は、
図6に示されるものと同様、第1切欠部121bおよび第2切欠部112c1が形成されていない電動機10で測定された誘起電圧の歪率及び誘起電圧との比率(%)に対応する。また、第1切欠部121bのカットレベル[R2/(R1-R2)]は、各表に示される通りである。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
表1から表6に示されるように、誘起電圧の低下を抑えつつ、誘起電圧の歪率の低減効果を奏する範囲として、奥行方向側のカット率[A/A’]及び回転方向側のカット率[B/B’]が、[0.1≦A/A’≦0.9 且つ 0.1≦B/B’≦0.7]の条件を満たす範囲が望ましい。これに対して、特に、[B/B’]が0.7を上回る場合、誘起電圧の歪率が高いことに加え誘起電圧も低いため好ましくない。また、誘起電圧の低下を抑えつつ、更に誘起電圧の歪率の低減効果を奏する範囲として、下式の条件を満たす範囲が望ましい。
(式) 0.4≦A/A’≦0.6 且つ 0.3≦B/B’≦0.7
【0055】
[切欠部の形成箇所と誘起電圧の歪率との関係]
次に、実施例1及び比較例1から比較例3(
図7参照)を用いて、切欠部(第1切欠部121b、第2切欠部112c1)の形成箇所と誘起電圧の歪率との関係を確認した。ここで、
図8は、ロータ12を回転させた際の実施例1及び比較例1から比較例3の誘起電圧の波形を示す。ここで、
図8の縦軸は、比較例3の誘起電圧の基本波の振幅を100%とした比率(%)に対応する。なお、実施例1において、[R2/(R1-R2)]=2、[A/A’]=0.5、[B/B’]=0.7である。
【0056】
図7(a)に示される実施例1は、ロータ12の磁極123外端の回転方向正側(第2外端部121a2)に第1切欠部121aを備え、且つティース112内側端の回転方向正側(第1延出端部112c)に第2切欠部112c1を備える電動機である。これに対して、
図7(b)に示される比較例1は、ティース112内側端の回転方向逆側(第2延出端部112d)にも切欠部を備える点で実施例1と異なる。それ以外は、実施例1と同じである。また、
図7(c)に示される比較例2は、ティース112内側端に切欠部が形成されない点で実施例1と異なる。それ以外は、実施例1と同じである。また、
図7(d)に示される比較例3は、ロータ12の磁極123外端及びティース112内側端の双方に切欠部が形成されない電動機である。
【0057】
図8に示されるように、実施例1において、正弦波波形に近い誘起電圧が測定された。すなわち、誘起電圧を示す波形として、基本波成分以外の高調波成分が少ない波形が得られた。これに対して、比較例1から比較例3において、正弦波波形に対し幾つもの凹凸を含む波形が得られた。これより、比較例1から比較例3は、実施例1に比べて基本波成分以外の高調波成分が多く含まれることが示唆された。
【0058】
下表7に、実施例1、比較例1から比較例3における誘起電圧の歪率(比較例3との比率(%))を示す。表7に示される通り、実施例1における誘起電圧の歪率は、比較例1から比較例3に比べて大きく低減された。すなわち、実施例1のように、ロータ12側の第1切欠部121bとティース112側の第2切欠部112c1とを、エアーギャップを介して略対称に設けることで、誘起電圧の歪率を大きく低減できることが確認された。
【0059】
【0060】
[ティース内端に作用する吸引力の比較]
図9(a)は、実施例1、比較例1から比較例3において、ロータ12を回転させた際のティース内端に作用する吸引力の変化を示すグラフである。ここで、
図9(a)の縦軸は、比較例3の吸引力の振幅を100%とした比率(%)に対応する。また、比較例3の波形は、その振幅の中心が0になるようオフセットされている。更に、
図9(b)は、吸引力の正負を示す矢印を含んだ、ステータ11(ティース112)の拡大図である。ここで、
図9(b)に示される矢印先端側が吸引力の正側(プラス側)に対応し、矢印基端側が吸引力の負側(マイナス側)に対応する。
【0061】
図9(a)に示されるように、実施例1のティース112に作用する吸引力は、比較例1及び比較例3のそれに比べて低減された。すなわち、実施例1のように、ロータ12側の第1切欠部121bとティース112側の第2切欠部112c1とを、エアーギャップを介して略対称に設けることで、ティース112の内端面に作用する吸引力を低減し、電動機10の振動や回転圧縮機1からの騒音を抑制可能であることが確認された。
【0062】
本発明の実施形態について詳細に説明した。ただし、前述の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定する趣旨で記載されたものではない。本発明には、その趣旨を逸脱することなく、前述の実施形態から変更、改良され得るものを含み得る。また、本発明にはその等価物が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る回転圧縮機は、例えば、家庭用・業務用空調装置等に用いられる。ただし、その用途は、これに限られない。
【符号の説明】
【0064】
1・・・・・・・・・・回転圧縮機
10・・・・・・・・・電動機
11・・・・・・・・ステータ
110・・・・・・ステータコア
111・・・・・・ヨーク
112・・・・・・ティース
112a・・・・・ティースの本体部
112b・・・・・ティースの幅広部
112c・・・回転方向正側に設けられる延出端部
112c1・・第2切欠部
112d・・・回転方向逆側に設けられる延出端部
12・・・・・・・ロータ
121・・・・・ロータコア
121b・・・第1切欠部
122・・・・・永久磁石
123・・・・・磁極
13・・・・・・・ロータの回転軸
20・・・・・・・・回転圧縮機構部
21・・・・・・・シリンダ
211・・・・・圧縮室
22・・・・・・・偏芯部
23・・・・・・・ローラ
24・・・・・・・ベーン
30・・・・・・・・容器