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特許7626610油脂の精製方法およびクロロプロパノール類の低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】油脂の精製方法およびクロロプロパノール類の低減方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 3/02 20060101AFI20250128BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20250128BHJP
   C11B 5/00 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C11B3/02
A23D9/02
C11B5/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020210602
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2021107531
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019238975
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 昂太郎
(72)【発明者】
【氏名】梅本 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 玲
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-123330(JP,A)
【文献】特開2016-124963(JP,A)
【文献】特開2010-222401(JP,A)
【文献】特表2005-532460(JP,A)
【文献】特開2011-213635(JP,A)
【文献】特開2011-162744(JP,A)
【文献】特開2013-018970(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0121397(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 3/02
A23D 9/02
C11B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプロパノール類を含む油脂に、水素添加による硬化処理を行うことなく、ニッケル触媒を添加して加熱するクロロプロパノール類低減処理工程を含むことを特徴とする油脂の精製方法
【請求項2】
前記クロロプロパノール類低減処理工程は、前記油脂中におけるクロロプロパノール類の含有量を、前記クロロプロパノール類低減処理の前に比べて低減することを特徴とする請求項1に記載の油脂の精製方法。
【請求項3】
前記油脂が植物油脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の油脂の精製方法。
【請求項4】
前記植物油脂がパーム油であることを特徴とする請求項3に記載の油脂の精製方法。
【請求項5】
前記油脂の加熱温度が190℃未満であり、ニッケル触媒の添加量は、前記油脂に対して0.050質量%以上2.0質量%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載油脂の精製方法。
【請求項6】
前記クロロプロパノール類低減処理工程において、さらに、脂肪酸を添加することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載油脂の精製方法。
【請求項7】
前記クロロプロパノール類低減処理工程において、さらに、ケイ酸塩を添加することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載油脂の精製方法。
【請求項8】
前記クロロプロパノール類低減処理工程において、さらに、白土を添加することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載油脂の精製方法。
【請求項9】
前記クロロプロパノール類低減処理工程において、さらに、二酸化ケイ素を添加することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載油脂の精製方法。
【請求項10】
油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法であって、
クロロプロパノール類を含む油脂に、水素添加による硬化処理を行うことなく、ニッケル触媒を添加して加熱する工程を含むことを特徴とするクロロプロパノール類の低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂の製造方法およびクロロプロパノール類の低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプロパノール類は、プロパノールに塩素が結合した物質の総称であり、その1つである3-クロロ-1,2-プロパンジオール(3-MCPD)はアミノ酸液や醤油等を製造する際に副産物として生成することが知られている。 また、食用油脂中には、3-MCPDが脂肪酸と結合したエステル体(3-MCPDE)で存在しており、3-MCPDEを含む食品を人が摂取すると、体内でエステルが加水分解され、3-MCPDが生成されることが懸念されている。
【0003】
そして、FAO(国際連合食糧農業機関)/WHO(世界保健機関)によるリスク評価の結果、3-MCPDには遺伝毒性や発がん性は認められないものの、長期間にわたり大量に摂取した場合、腎臓に悪影響を及ぼすことが懸念されている。我が国においては、食品衛生法に基づく基準は設定されていないが、農林水産省では醤油等に対しては、製造法による3-MCPDの低減を推進している。
【0004】
本出願人は、食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法について提案している(特許文献1)。特許文献1には、硬化処理を含む原料油からの食用油脂の製造において、硬化処理前、硬化処理時および硬化処理後のうちのいずれかの工程において、pH7.0以上の白土、pH7.0以上の木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種を添加することが記載されている。また、硬化処理工程においては、例えば原料油にニッケルなどの硬化触媒を添加したものを反応釜に投入し、真空下で加熱攪拌し、原料油が所定の温度に到達した時点で、所要圧の水素を反応釜に送入して水素添加反応を開始し、水素を付加させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-123330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法においては、原料油の硬化処理として水素を添加することを前提としている。従来、クロロプロパノール類を低減するためには、このような硬化処理が必須であると考えられており、硬化処理による原料油の物性変化が生じることが不可避であった。
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、硬化処理による原料油の物性変化を伴うことなく、シンプルな処理で油脂中のクロロプロパノール類を低減することが可能な油脂の製造方法と、クロロプロパノール類の低減方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の油脂の製造方法は、クロロプロパノール類を含む油脂に、ニッケル触媒を添加して加熱するクロロプロパノール類低減処理工程を含むことを特徴としている。
【0009】
また、本発明のクロロプロパノール類の低減方法は、油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法であって、クロロプロパノール類を含む油脂に、ニッケル触媒を添加して加熱する工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の油脂の製造方法およびクロロプロパノール類の低減方法によれば、硬化処理による原料油の物性変化を伴うことなく、シンプルな処理で油脂中のクロロプロパノール類を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
従来、水素添加による硬化処理によってクロロプロパノール類を低減できることは知られていたが(例えば特許文献1)、本発明者らは、水素添加による硬化処理を行うことなく、油脂にニッケル触媒を添加して加熱することでクロロプロパノール類を低減できるという新規な知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
以下、本発明の油脂の製造方法およびクロロプロパノール類の低減方法の一実施形態について説明する。
【0013】
本発明の油脂の製造方法は、クロロプロパノール類低減処理工程として、クロロプロパノール類を含む油脂に、ニッケル触媒を添加して加熱する。
【0014】
本発明において、クロロプロパノール類には、食用油脂中において生成された3-クロロ-1,2-プロパンジオール(3-MCPD)や3-クロロ-1,2-プロパンジオール脂肪酸エステル(3-MCPDE)およびそれらの形成物質であるグリシドールやグリシドール脂肪酸エステルが含まれる。
【0015】
油脂の原料油は、植物や動物から油を得る方法(圧搾、加熱、溶剤)で得られたものの他、食用油脂または2種以上の食用油脂を食用油脂分野において通常行われる分別、エステル交換等を施した分別油、エステル交換油でよく、また、グリセリンと脂肪酸をエステル化したトリグリセリドでもよい。
【0016】
また、本発明の油脂の製造方法は、脱ガム、脱酸、脱色、脱ロウおよび脱臭等の処理工程を含むことができ、このような処理は食用油脂分野において通常行われる処理であってよい。
【0017】
油脂は、食用油脂として用いられるものであれば特に制限はなく、また、常温で液体、固体等の形態は問わない。具体的には、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米糠油、小麦胚芽油、ヤシ油、カカオ脂、パーム油、パーム核油および藻類油等の植物油、魚油、豚脂、牛脂、乳脂等の動物油を例示することができる。
【0018】
ニッケル触媒は特に限定されず、従来知られたものを使用することができるが、例えば、ニッケルを珪藻土等の多孔質体担体に担持させたもの、あるいはこれを更に油脂で被覆してフレーク状、粒状等にしたものなどを例示することができる。市販のニッケル触媒としては、例えば、堺化学工業株式会社製のフレークニッケル触媒のSO-100A、SO-100AR、SO-250、SO-350、SO-650、SO-750、SO-750R、SO-850、SN-250、SN-300、SN-750、SN-570、SN-705、SN-780等を例示することができる。
【0019】
ニッケル触媒の添加量の下限値は、クロロプロパノール類を効率良く低減できる観点から、油脂に対して、0.050質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.20質量%以上がさらに好ましく、0.30質量%以上が特に好ましい。ニッケル触媒の添加量の上限値は、ニッケルの油への溶出量を抑える観点から、油脂に対して、5.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下がさらに好ましく、2.0質量%以下が特に好ましい。
【0020】
また、油脂の加熱温度の下限値は、クロロプロパノール類を効率良く低減できる観点から、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。油脂の加熱温度の上限値は、クロロプロパノール類の生成を抑制する観点から、220℃未満が好ましく、200℃未満がより好ましく、190℃未満がさらに好ましく、185℃未満が特に好ましい。
【0021】
また、加熱温度にもよるが、油脂の加熱時間の下限値は、3-MCPDを効率良く低減できる観点から、20分以上が好ましく、40分以上がより好ましく、60分以上がさらに好ましく、70分以上が特に好ましい。油脂の加熱時間の上限値は、油脂の劣化を抑制する観点から、240分以下が好ましく、200分以下がより好ましく、160分以下がさらに好ましい。
【0022】
本発明の油脂の製造方法では、油脂にニッケル触媒を添加して加熱する。水素添加による硬化反応を行う場合のような原料油の物性変化を伴うことなく、油脂中のクロロプロパノール類である3-MCPDや3-MCPDEおよびそれらの形成物質であるグリシドールやグリシドール脂肪酸エステルを簡便な方法で効率よく低減することができる。
【0023】
本発明の油脂の製造方法では、クロロプロパノール類低減処理工程において、さらに、脂肪酸を添加することが好ましい。油脂(原料油)に対し、ニッケルとともに脂肪酸を添加して加熱することで、油脂中のクロロプロパノール類の低減効果を高めることができる。脂肪酸は、ニッケルと同時に油脂に添加して加熱処理しても良く、ニッケルを油脂に添加して加熱処理後に濾別してから添加しても良いが、ニッケルと同時に油脂に添加して加熱処理することが好ましい。
【0024】
脂肪酸は、飽和脂肪酸Sまたは不飽和脂肪酸Uのうちの1種または2種以上である。
【0025】
飽和脂肪酸Sとしては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
【0026】
不飽和脂肪酸Uとしては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)などが挙げられる。なお、上記不飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数を意味する。
【0027】
なかでも、脂肪酸は、飽和脂肪酸であることが好ましく、炭素数22以下の飽和脂肪酸であることがより好ましく、炭素数18以下の飽和脂肪酸であることがさらに好ましい。この場合、クロロプロパノール類の低減効果をより高めることができる。
【0028】
また、脂肪酸の添加量の下限値は、クロロプロパノール類を効率良く低減できる観点から、油脂に対して、0.10質量%以上が好ましく、0.20質量%以上がより好ましく、0.30質量%以上がさらに好ましく、0.40質量%以上が特に好ましい。脂肪酸の添加量の上限値は、油脂からの除去効率の観点から、油脂に対して、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらに好ましく、8.0質量%以下が特に好ましい。
【0029】
本発明の油脂の製造方法では、クロロプロパノール類低減処理工程において、さらに、ケイ酸塩を添加することが好ましい。油脂(原料油)に対し、ニッケルとともにケイ酸塩を添加して加熱することで、油脂中のクロロプロパノール類の低減効果を高めることができる。ケイ酸塩は、ニッケルと同時に油脂に添加して加熱処理しても良く、ニッケルを油脂に添加して加熱処理後に濾別してから添加しても良いが、ニッケルと同時に油脂に添加して加熱処理することが好ましい。
【0030】
ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカゲルなどを例示することができ、なかでも、ケイ酸マグネシウムが特に好ましい。ケイ酸塩の市販品としては、例えば、ケイ酸マグネシウムSMW(ケイ酸マグネシウム、富田製薬株式会社製)、ミズカライフF-2G(ケイ酸マグネシウム、水澤化学工業株式会社製)、キョーワード600(ケイ酸マグネシウム、協和化学工業株式会社製)、キョーワード700(ケイ酸アルミニウム、協和化学工業株式会社製)などを例示することができる。また、ケイ酸塩を含む鉱物としては、ウォラストナイト、ゾノトライト、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイトなどを例示することができる。
【0031】
ケイ酸塩の添加量の下限値は、クロロプロパノール類を効率良く低減できる観点から、油脂に対して、0.10質量%以上が好ましく、0.50質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、2.0質量%以上が特に好ましい。ケイ酸塩の添加量の上限値は、油脂の濾過効率の観点から、油脂に対して、10質量%以下が好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、6.0質量%以下がさらに好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。
【0032】
本発明の油脂の製造方法では、クロロプロパノール類低減処理工程において白土を添加することがより好ましい。油脂(原料油)に対し、ニッケルとともに白土を添加して加熱することで、油脂中のクロロプロパノール類の低減効果を高めることができる。白土は、ニッケルと同時に油脂に添加して加熱処理しても良く、ニッケルを油脂に添加して加熱処理後に濾別してから添加しても良いが、ニッケルと同時に油脂に添加して加熱処理することが好ましい。
【0033】
白土は、カオリンやモンモリロン石と呼ばれる粘土鉱物を主成分とした酸性白土や、酸性白土を硫酸や塩酸などで活性化処理を施した活性白土である。pHは特に限定されないが、pH7.0以上、好ましくはpH8.0以上のものが例示される。白土のpHの測定方法としては、JIS K 5101-17-1:2004 顔料試験方法等が例示される。
【0034】
また、白土の二酸化ケイ素(SiO)含量は、白土の全組成の65質量%~85質量%であることが好ましく、より好ましくは68質量%~83質量%の範囲が例示される。SiO含量が、上記の範囲内であれば、クロロプロパノール類の生成をより抑制することができる。このような白土の市販品としては、例えば、MIZUKA-ACE #300(pH8.5、SiO含量70.5%、水澤化学工業株式会社製)、GALLEON EARTH V2(pH3.3、SiO含量79.8%、水澤化学工業株式会社製)などが例示される。
【0035】
さらにまた、白土は、予めアルカリ処理したものも好適に使用することができる。ここで、アルカリ処理とは、白土をアルカリ溶液と混合後、濾過や遠心分離により脱溶媒処理する工程を含む。
【0036】
アルカリ処理に用いるアルカリ物質としては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、有機酸塩、アルコキシド化合物等が例示される。具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリポリリン酸ナトリウム等が例示される。特に、水酸化ナトリウムは、強アルカリであり、低添加量で所要の効果を発現するので好ましい。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0037】
このようなアルカリ物質は、白土と接触しやすいことから溶媒に溶解し、アルカリ溶液として使用することが好ましい。アルカリ物質の溶解に用いることができる溶媒としては、水、メタノールやエタノール等のアルコール類が例示される。溶媒としては単独で使用してもよく2種以上を併用してもよいが、水分が少ない方が好ましい。溶媒中の水分が少なければ、白土をよりアルカリ性とすることができる。アルカリ性を高めることにより、クロロプロパノール類をより低減化することができる。
【0038】
アルカリ溶液の好ましい濃度としては、例えば、0.01mol/L~5mol/Lの範囲が例示される。
【0039】
また、pH7以上の白土は、ナトリウムメトキシドおよび水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種と併用することも可能である。
【0040】
白土の添加量の下限値は、クロロプロパノール類を効率良く低減できる観点から、油脂に対して、0.050質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.50質量%以上がさらに好ましく、0.80質量%以上が特に好ましい。白土の添加量の上限値は、油脂の濾過効率の観点から、油脂に対して、10質量%以下が好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、6.0質量%以下がさらに好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。
【0041】
本発明の油脂の製造方法では、クロロプロパノール類低減処理工程において、さらに、二酸化ケイ素を添加することが好ましい。油脂(原料油)に対し、ニッケルとともに二酸化ケイ素を添加して加熱することで、油脂中のクロロプロパノール類の低減効果を高めることができる。二酸化ケイ素は、ニッケルと同時に油脂に添加して加熱処理しても良く、ニッケルを油脂に添加して加熱処理後に濾別してから添加しても良いが、ニッケルと同時に油脂に添加して加熱処理することが好ましい。二酸化ケイ素の添加量は、クロロプロパノール類を効率良く低減できる観点から、油脂に対して、0.10質量%以上が好ましく、0.20質量%以上がより好ましく、0.30質量%以上がさらに好ましく、0.40質量%以上が特に好ましい。二酸化ケイ素の添加量の上限値は、油脂からの除去効率の観点から、油脂に対して、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらに好ましく、8.0質量%以下が特に好ましい。
【0042】
二酸化ケイ素の市販品としては、例えば、富士シリシア化学株式会社製のサイロピュート71R、サイロピュート80、サイロピュート81、サイロピュート82、サイロピュート130、サイロピュート200、サイロピュート202、サイロピュート230等を例示することができる。
【0043】
また、二酸化ケイ素のpHは、クロロプロパノール類を効率良く低減できる観点から、4以下が好ましい。このような二酸化ケイ素の市販品としては、例えば、サイロピュート230等を例示することができる。
【0044】
このように、本発明の油脂の製造方法では、ニッケル触媒に加え、脂肪酸、ケイ酸塩、白土および二酸化ケイ素のうちの1種または2種以上を添加して加熱することが好ましい。
【0045】
さらに、本発明のクロロプロパノール類の低減方法は、油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法であって、クロロプロパノール類を含む油脂に、ニッケル触媒を添加して加熱する工程を含む。
【0046】
本発明のクロロプロパノール類の低減方法の実施形態には、上述した本発明の油脂の製造方法において説明した構成が含まれる。
【0047】
本発明のクロロプロパノール類の低減方法によれば、油脂にニッケル触媒を添加して加熱することで、水素添加による硬化反応に起因する原料油の物性変化を伴うことなく、油脂中のクロロプロパノール類である3-MCPDや3-MCPDEおよびそれらの形成物質であるグリシドールやグリシドール脂肪酸エステルを簡便な方法で効率よく低減することができる。
【0048】
本発明の油脂の製造方法およびクロロプロパノール類の低減方法は、以上の実施形態に限定されることはない。なお、本発明の油脂の製造方法およびクロロプロパノール類の低減方法においては、必要に応じて、水素添加による硬化処理を行うこともできる。この場合、硬化反応に起因する原料油の物性変化が生じ得るが、効果的にクロロプロパノール類を低減できる場合がある。
【実施例
【0049】
以下、本発明の油脂の製造方法およびクロロプロパノール類の低減方法について、実施例とともに説明するが、本発明の油脂の製造方法およびクロロプロパノール類の低減方法は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
<1>材料
油脂にニッケルを添加し、さらに、脂肪酸、ケイ酸塩、白土および二酸化ケイ素のうちの1種または2種を添加した。
(油脂)
RBDパーム油(RBD-PO)を使用した。このRBDパーム油について、アメリカ油化学会公定法(AOCS Official Method Cd 29c-13 Assay B)に準じて3-MCPDに換算した値としてクロロプロパノール類の総量を求めた。RBDパーム油中の3-MCPD量は、3.00ppmであった。
(ニッケル触媒)
ニッケル触媒SO-100A、SO-100AR、SO-250、SO-350、SO-650、SO-750、SO-850、SN-250、SN-300、SN-570、SN-705、SN-750、SN-780(堺化学工業株式会社製)を使用した。ニッケル触媒は、油脂に対して、0.30~1.0%添加した。
(脂肪酸)
カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸を使用した。脂肪酸は、油脂に対して、0.50~10%添加した。
(ケイ酸塩)
ケイ酸マグネシウムSMW(富田製薬株式会社製)およびミズカライフF-2G(水澤化学工業株式会社製)を使用した。ケイ酸塩は、油脂に対して、3.0%添加した。
(白土)
酸性白土(MIZUKA-ACE #300、pH8.5、SiO2含量70.5%、水澤化学工業株式会社製)を使用した。また、活性白土(GALLEON EARTH V2、pH3.3、SiO含量79.8%、水澤化学工業株式会社製)を使用した。白土は、油脂に対して、1.0~3.0%添加した。
(二酸化ケイ素)
二酸化ケイ素サイロピュート71R、サイロピュート80、サイロピュート81、サイロピュート82、サイロピュート130、サイロピュート200、サイロピュート202、サイロピュート230(富士シリシア化学株式会社製)を使用した。二酸化ケイ素は、油脂に対して、3.0%添加した。
【0050】
<2>加熱処理
ニッケルなどを添加した油脂を160℃~200℃で、40分~120分加熱した。加熱後の油脂中のクロロプロパノール類の総量を、アメリカ油化学会公定法(AOCS Official Method Cd 29c-13 Assay B)に準じて3-MCPDに換算した値として求めた。
【0051】
<3>結果
結果を表1~表3に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
表1~3に示したように、油脂にニッケルを添加した実施例1~80は、水素添加による硬化処理を行うことなく、ニッケル処理によって油脂中のクロロプロパノール類が低減していることが確認された。
【0056】
また、ニッケル触媒に加え、脂肪酸、ケイ酸塩、白土、二酸化ケイ素のうちの1種または2種を添加した実施例15~40、42~50、52、54、56、58、60、62~78、80は、油脂中のクロロプロパノール類がさらに低減していることが確認された。
【0057】
一方、油脂にニッケル触媒を添加しなかった比較例1~10は、3-MCPD量に変化がないか、低減効果が十分でないことが確認された。