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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】システム、方法および作業車両
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20250128BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
G05D1/43
E02F9/20 N
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021061381
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157259
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩永 圭弘
(72)【発明者】
【氏名】野寄 敬博
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-033685(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111796588(CN,A)
【文献】特表2020-534621(JP,A)
【文献】特開2010-073080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00 ~ 1/87
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が自動走行するための軌道を探索するシステムであって、
プロセッサを備え、
前記プロセッサは、
前記車両の周囲を表すマップデータに含まれる障害物に前記車両が接触しないことを含む第1制約条件に基づいて、前記車両の初期位置から目標位置へ移動するための経路である前記車両の位置及び姿勢を要素とする系列を探索する経路探索部と、
前記経路の各要素に係る位置を含み前記車両の幅方向に広がる領域からの逸脱距離に応じてペナルティ値が増加し、前記領域内に前記車両が位置するときのペナルティ値が一定となる第2制約条件を生成する制約条件生成部と、
前記第2制約条件に基づいて、前記車両の初期位置から目標位置へ移動するための軌道である前記車両の位置、姿勢、速度及び舵角を要素とする系列を探索する軌道探索部と、
を備えるシステム。
【請求項2】
前記経路探索部は、完全性を有する第1探索アルゴリズムを用いて前記経路を探索し、
前記軌道探索部は、前記第1探索アルゴリズムより要素数に対する計算量の増加が緩やかな第2探索アルゴリズムを用いて前記軌道を探索する
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記制約条件生成部は、前記障害物の位置と前記経路の各要素に係る前記位置及び前記姿勢とに基づいて、前記第2制約条件を生成する
請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記経路探索部は前記車両を表すモデルに基づいて前記経路を探索し、
前記モデルは、前記車両の単位時間後の位置を、前記車両の現在の位置と、前記車両の舵角から求められる旋回半径と、前記車両の現在の姿勢角と、前記車両の単位時間後の姿勢角とに基づいて表す
請求項1から請求項3の何れか1項に記載のシステム。
【請求項5】
車両が自動走行するための軌道を探索する方法であって、
前記車両の周囲を表すマップデータに含まれる障害物に前記車両が接触しないことを含む第1制約条件に基づいて、前記車両の初期位置から目標位置へ移動するための経路である前記車両の位置及び姿勢を要素とする系列を探索するステップと、
前記経路の各要素に係る位置を含み前記車両の幅方向に広がる領域からの逸脱距離に応じてペナルティ値が増加し、前記領域内に前記車両が位置するときのペナルティ値が一定となる第2制約条件を生成するステップと、
前記第2制約条件に基づいて、前記車両の初期位置から目標位置へ移動するための軌道である前記車両の位置、姿勢、速度及び舵角を要素とする系列を探索するステップと、
を備える方法。
【請求項6】
前記経路を探索するステップは、完全性を有する第1探索アルゴリズムを用いて前記経路を探索し、
前記軌道を探索するステップは、前記第1探索アルゴリズムより要素数に対する計算量の増加が緩やかな第2探索アルゴリズムを用いて前記軌道を探索する
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2制約条件を生成するステップは、前記障害物の位置と前記経路の各要素に係る前記位置及び前記姿勢とに基づいて、前記第2制約条件を生成する
請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記経路を探索するステップは、前記車両を表すモデルに基づいて前記経路を探索し、
前記モデルは、前記車両の単位時間後の位置を、前記車両の現在の位置と、前記車両の舵角から求められる旋回半径と、前記車両の現在の姿勢角と、前記車両の単位時間後の姿勢角とに基づいて表す
請求項5から請求項7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
車体と、
前記車体を走行させるための走行装置と、
プロセッサとを備える作業車両であって、
前記プロセッサは、
前記作業車両の周囲を表すマップデータに含まれる障害物に前記作業車両が接触しないことを含む第1制約条件に基づいて、前記作業車両の初期位置から目標位置へ移動するための経路である前記作業車両の位置及び姿勢を要素とする系列を探索する経路探索部と、
前記経路の各要素に係る位置を含み前記作業車両の幅方向に広がる領域からの逸脱距離に応じてペナルティ値が増加し、前記領域内に前記作業車両が位置するときのペナルティ値が一定となる第2制約条件を生成する制約条件生成部と、
前記第2制約条件に基づいて、前記作業車両の初期位置から目標位置へ移動するための軌道である前記作業車両の位置、姿勢、速度及び舵角を要素とする系列を探索する軌道探索部と、
前記軌道に従って前記走行装置を制御する走行制御部と、
を備える作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、システム、方法および作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
砕石現場や鉱山などの作業現場では、作業車両の自動運転システムが導入されることがある。自動運転システムは、作業車両を目的位置へ到達させるための軌道を計算し、当該軌道に基づいて作業車両を走行させる。特許文献1には、無人車両の走行経路生成方法に係る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-073080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が自動走行するための軌道計算は、最適化問題である。また軌道の計算において、作業現場に存在する障害物は、制約条件として与えられる。しかしながら、軌道の探索に用いる数理モデルは、車両の位置、姿勢、舵角、速度、加速度などの多次元のベクトルで表され、また障害物の位置及び形状は必ずしも単純ではなく制約条件の非線形性が高くなる可能性がある。そのため、軌道の計算は計算量が多くなり、又は局所解への収束が生じるため、オンラインで車両の走行軌道を計算することは困難である。一方で、計算量を削減するためにモデルの次元数を低減すると、得られる軌道において、削減した次元に係る動作が不連続となる可能性がある。
本開示の目的は、少ない計算量で連続的な軌道を得ることができる軌道探索装置および軌道探索方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様は、車両が自動走行するための軌道を探索するシステムであって、プロセッサを備える。プロセッサは、障害物の位置を表す第1制約条件に基づいて、車両の初期位置から目標位置へ移動するための経路である車両の位置及び姿勢を要素とする系列を探索する経路探索部と、経路からの逸脱距離に応じてペナルティ値が増加する第2制約条件を生成する制約条件生成部と、第2制約条件に基づいて、車両の初期位置から目標位置へ移動するための軌道である車両の位置、姿勢、速度及び舵角を要素とする系列を探索する軌道探索部と、を備える。
【0006】
本発明の第2の態様は、車両が自動走行するための軌道を探索する方法である。当該方法は、以下の処理を備える。第1の処理は、障害物の位置を表す第1制約条件に基づいて、車両の初期位置から目標位置へ移動するための経路である前記車両の位置及び姿勢を要素とする系列を探索する。第2の処理は、経路からの逸脱距離に応じてペナルティ値が増加する第2制約条件を生成する。第3の処理は、第2制約条件に基づいて、車両の初期位置から目標位置へ移動するための軌道である車両の位置、姿勢、速度及び舵角を要素とする系列を探索する。
【0007】
本発明の第3の様態は、作業車両であって、車体と、車体を走行させるための走行装置と、プロセッサとを備える。プロセッサは、障害物の位置を表す第1制約条件に基づいて、作業車両の初期位置から目標位置へ移動するための経路である車両の位置及び姿勢を要素とする系列を探索する経路探索部と、経路からの逸脱距離に応じてペナルティ値が増加する第2制約条件を生成する制約条件生成部と、第2制約条件に基づいて、作業車両の初期位置から目標位置へ移動するための軌道である作業車両の位置、姿勢、速度及び舵角を要素とする系列を探索する軌道探索部と、軌道に従って前記走行装置を制御する走行制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
上記態様の少なくとも1つによれば、軌道探索装置は、少ない計算量で連続的な軌道を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係る作業車両の側面図である。
図2】第1の実施形態に係る制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
図3】第1の実施形態に係るマップデータの一例を示す図である。
図4】第1の実施形態に係る許容範囲系列の例を示す図である。
図5】第1の実施形態に係る許容範囲系列の生成方法を示すフローチャートである。
図6】第1の実施形態に係る第1矩形及び第2矩形の関係を示す図である。
図7】第1の実施形態に係る制御装置の自動走行処理を示すフローチャートである。
図8】第1の実施形態に係るモデルにおける時間刻み幅と算出結果の位置との関係を示す図である。
図9】比較例に係るモデルにおける時間刻み幅と算出結果の位置との関係を示す図である。
図10】他の実施形態に係る自動運転システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〈第1の実施形態〉
《作業車両の構成》
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係る作業車両の側面図である。
第1の実施形態に係る作業車両100は、ホイールローダである。作業車両100は、自動運転により走行する。すなわち作業車両100は無人走行車である。作業車両100は、車体110、作業機120、制御装置140を備える。
【0011】
車体110は、前車体111、後車体112、およびステアリングアクチュエータ113を備える。前車体111と後車体112とは車体110の上下方向に伸びるステアリング軸回りに回動可能に取り付けられている。前車体111の下部には一対の前輪WFが設けられる。後車体112の下部には一対の後輪WRが設けられる。
【0012】
後車体112は、動力源1121及び動力伝達装置1122を備える。動力源1121は、例えばディーゼルエンジンである。動力伝達装置1122は、入力軸に入力される駆動力を変速して出力軸から出力する。動力伝達装置1122の出力軸は、図示しないフロントアクスルを介して前輪WFに接続され、図示しないリアアクスルを介して後輪WRに接続される。フロントアクスルは前車体111を走行可能に支持する。リアアクスルは後車体112を走行可能に支持する。フロントアクスルおよびリアアクスルには、図示しない制動装置を備える。動力伝達装置1122には、回転センサ1123が設けられる。回転センサ1123は、動力伝達装置1122の出力軸の回転数を計測する。制御装置140は、回転センサ1123の計測データに基づいて作業車両100の速度及び加速度を特定することができる。また、後車体112の上部には、検出装置1124及び測位装置1125が設けられる。検出装置1124は、作業車両100の周囲に存在する物体の三次元位置を検出する。検出装置1124の例としては、LiDar(Light Detection and Ranging)、ステレオカメラ、UWB(Ultra Wide Band)測距装置などが挙げられる。検出装置1124は、例えば検出方向が前方を向くように設けられる。測位装置1125は、GNSS(Global Navigation Satellite System)等によって作業車両100のグローバル座標における位置及び姿勢(姿勢角)を計測する。位置は、例えば緯度及び経度によって表される。姿勢は、例えば北を基準方位とした後車体112の方位角によって表される。以下、作業車両100の位置及び姿勢を、作業車両100のポーズともいう。
【0013】
ステアリングアクチュエータ113は、例えば油圧シリンダである。ステアリングアクチュエータ113の基端部は後車体112に取り付けられ、先端部は前車体111に取り付けられる。ステアリングアクチュエータ113は、作動油によって伸縮することで、前車体111と後車体112とのなす角度を規定する。つまり、ステアリングアクチュエータ113の伸縮により、前輪WFの舵角が規定される。ステアリングアクチュエータ113には、ステアリングアクチュエータ113のストローク長を計測するストロークセンサ1131が設けられる。制御装置140は、ストロークセンサ1131の計測データに基づいて作業車両100の舵角を特定することができる。
【0014】
動力伝達装置1122、制動装置及びステアリングアクチュエータ113は、車体110を走行させるための走行装置である。
【0015】
作業機120は、土砂等の作業対象物の掘削および運搬に用いられる。作業機120は、車体110の前部に設けられる。
制御装置140は、検出装置1124の検出データに基づいて、作業車両100を走行させる。
【0016】
《制御装置140の構成》
図2は、第1の実施形態に係る制御装置140の構成を示す概略ブロック図である。
制御装置140は、プロセッサ210、メインメモリ230、ストレージ250、インタフェース270を備えるコンピュータである。
【0017】
ストレージ250は、一時的でない有形の記憶媒体である。ストレージ250の例としては、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ250は、制御装置140のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース270または通信回線を介して制御装置140に接続される外部メディアであってもよい。ストレージ250は、作業車両100を制御するためのプログラムを記憶する。
【0018】
プログラムは、制御装置140に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージ250に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、制御装置140は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0019】
《ソフトウェア構成》
プロセッサ210は、プログラムを実行することで、取得部211、マップ生成部213、目標決定部212、経路探索部214、制約条件生成部215、軌道探索部216、走行制御部217を備える。制御装置140は、軌道探索装置の一例である。
【0020】
取得部211は、ストロークセンサ1131、回転センサ1123、検出装置1124及び測位装置1125の計測データを取得する。これにより、取得部211は、作業車両100の位置、姿勢角、舵角、速度及び加速度、並びに作業車両100の周囲に存在する障害物の位置を特定する。
【0021】
マップ生成部213は、取得部211が取得した検出装置1124の計測データと測位装置1125の計測データとを用いて作業車両100の周囲を表すマップデータを生成する。マップ生成部213は、例えばSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術によってマップデータを生成する。マップデータは、例えばグローバル座標系に係る占有格子地図によって表される。図3は、第1の実施形態に係るマップデータの一例を示す図である。またマップデータの各格子には、障害物からの距離を表すスコアが付される。障害物が存在する位置を示す格子のスコアはゼロであり、障害物からの距離が遠いほどスコアは高くなる。スコアは、例えば最も近傍の障害物からのマンハッタン距離によって表される。
【0022】
検出装置1124は、後車体112に固定されているため、マップ生成部213は、検出装置1124の計測データが示す障害物の位置を、測位装置1125の計測データが示す位置に基づいて平行移動させ、姿勢角に基づいて回転させることで、グローバル座標系における障害物の位置を特定することができる。マップ生成部213が生成したマップデータは、メインメモリ230に記録される。
【0023】
目標決定部212は、作業車両100の目標ポーズ(目標位置)を決定する。例えば目標決定部212は、作業機120に土砂が保持されていない場合に、予め指定された積込場の位置及び積込場に相対する姿勢角を目標ポーズに決定する。また目標決定部212は、作業機120に土砂が保持されている場合に、予め指定された放土場の位置及び放土場に相対する姿勢角を目標ポーズに決定する。このとき例えば目標決定部212は、マップデータに基づいて、積込場及び放土場の位置を修正してもよい。
【0024】
経路探索部214は、取得部211が取得した作業車両100の現在のポーズ(初期位置)から、目標決定部212が決定した目標ポーズまでを結ぶ経路を探索する。「経路」とは、ポーズの順序集合によって表される。つまり、経路探索部214が求める経路は、作業車両100の位置と姿勢角の系列である。経路探索部214は、動的計画法などの完全性を有する探索アルゴリズム(第1探索アルゴリズム)により経路を探索する。動的計画法に係るアルゴリズムの例としては、ダイクストラ法やHybrid A*などが挙げられる。Hybrid A*を用いる場合、ヒューリスティックコストは、Reeds Shepp法やLaplace Potential法によって求めることができる。Reeds Shepp法は、障害物や曲率の連続性を無視したときの非ホロノミック系の最短経路を求める手法である。Laplace Potential法は、非ホロノミック制約を無視したときの最短経路を求める手法である。
経路探索部214による探索の制約条件(第1制約条件)は、マップ生成部213が生成したマップデータが表す障害物に接触しないこと、終点におけるポーズが目標ポーズと一致すること、及び舵角が所定の可動範囲内となることである。経路探索部214による探索の評価関数は、走行距離が短いほど値が小さくなる関数である。経路探索部214による探索に用いるモデルは、式(1)で表される。
【0025】
【数1】
【0026】
式(1)において、x[k]は、時刻kにおけるx座標(例えば緯度)を示す。y[k]は、時刻kにおけるy座標(例えば経度)を示す。φ[k]は、時刻kにおける姿勢角を示す。δ[k]は、時刻kにおける舵角を示す。v[k]は、時刻kにおける速度を示す。k+1は、時刻kの単位時間後の時刻を示す。Δtは、時間刻み幅を示す。Lは、アーティキュレート中心から前輪WFまでの長さを示す。つまり、経路探索部214が用いる数理モデルは、作業車両100のx座標、y座標及び姿勢角の3要素のモデルであって、舵角及び速度を要素に含まない。
動的計画法に係る探索アルゴリズムは、完全性を有する一方で、モデルや入力の次元数に対して計算量が指数関数的に増大する。そのため、第1の実施形態に係る経路探索部214は、モデルの要素数を小さくすることで計算量を抑えることができる。
【0027】
なお、式(1)においてL/tan(δ[k])は、作業車両100の旋回半径を表す。つまり、式(1)において、x座標の増分は、姿勢角φ[k]の正弦と姿勢角φ[k+1]の正弦との差に、時刻kにおける作業車両100の旋回半径を乗算した値として表される。同様に、式(1)において、y座標の増分は、姿勢角φ[k]の余弦と姿勢角φ[k+1]の余弦との差に、時刻kにおける作業車両100の旋回半径を乗算した値として表される。
【0028】
経路探索部214は、式(1)に示すモデルに基づく探索により、作業車両100のポーズの系列を経路として取得する。なお、式(1)に示すモデルは時刻をインデックスとするが、制約条件生成部215において経路のインデックスは時刻を表すものとして扱われない。例えば、経路におけるポーズx[i]は、時刻iにおけるポーズではなく、単にi番目のポーズを示す。一方で、経路探索部214によって得られた舵角及び速度の時系列は、後述する軌道探索部216の初期値として用いられる。なお、経路探索部214が用いるモデルは、ポーズのモデルであって、舵角及び速度を要素に含まないため、探索された舵角及び加速度の系列は連続性に欠けたものとなる。つまり、経路探索部214が探索した経路は、曲率が不連続であったり、不要なスイッチバックを含んだりすることがある。
【0029】
制約条件生成部215は、経路探索部214が得た経路に基づいて、軌道探索部216による探索に用いる制約条件(第2制約条件)を生成する。軌道探索部216による探索に用いる制約条件は、作業車両100の位置が経路探索部214で得た経路を含む許容範囲系列内に位置することである。制約条件は、許容範囲系列からの逸脱距離に応じてペナルティ値が増加し、許容範囲系列内に作業車両100が位置するときのペナルティ値がゼロとなるペナルティ関数によって表される。図4は、第1の実施形態に係る許容範囲系列の例を示す図である。許容範囲系列は、矩形で表される許容範囲の系列である。許容範囲は、矩形の4つの頂点の座標によって表される。制約条件生成部215は、マップ生成部213が生成したマップデータ及び経路探索部214が生成した経路に基づいて許容範囲系列を決定する。制約条件生成部215によって経路が許容範囲系列に変換されることで、経路の曲率の不連続や不要なスイッチバックを無視することができる。
【0030】
制約条件生成部215は、以下の手順で許容範囲系列を生成する。図5は、第1の実施形態に係る許容範囲系列の生成方法を示すフローチャートである。
制約条件生成部215は、経路に係るポーズの系列からポーズを1つずつ選択し(ステップS51)、選択されたポーズについて以下のステップS52~S56の処理を実行する。制約条件生成部215は、ステップS51で選択したポーズに基づいて、メインメモリ230に記録されたマップデータ上に、作業車両100の外形を表す第1矩形R1を配置する(ステップS52)。制約条件生成部215は、マップデータのうち第1矩形R1の4つの辺上に設定された複数の点と重複する複数の格子のスコアに基づいて、各点から最も近い障害物までの距離(ユークリッド距離)を算出する(ステップS53)。図6は、第1の実施形態に係る第1矩形R1及び第2矩形R2の関係を示す図である。第1矩形R1が2つの長辺E1及びE2並びに2つの短辺E3及びE4から構成される場合に、例えば第1矩形の4つの頂点p1、p3、p6、p8と、長辺E1を3分する2つの点p4、p5、長辺E2を3分する2つの点p9、p10、短辺E3を2分する点p2、及び短辺E4を2分する点p7が設定される。第1の実施形態に係るスコアは障害物からのマンハッタン距離を表すため、障害物までの距離dは、スコアnを用いて、以下の式(2)によって求めることができる。
【0031】
【数2】
【0032】
制約条件生成部215は、マップデータに基づいて、第1矩形の4つの辺それぞれについて、ステップS53で求めた距離dのうち最もが短いものを特定する(ステップS54)。制約条件生成部215は、ステップS54で求めた距離dを用いて、以下の式(3)によって許容範囲を表す第2矩形R2の4つの頂点P1,P2,P3,P4の位置を求める(ステップS55)。
【0033】
【数3】
【0034】
つまり、許容範囲は、作業車両100を表す第1矩形R1の中心点p0を内包する第2矩形R2で表される。
【0035】
制約条件生成部215は、ステップS51で選択したポーズに基づいて算出した許容範囲の長方形を配置することで、グローバル座標系における許容範囲の位置及び方位角を決定する(ステップS56)。
制約条件生成部215は、上記のステップS52からステップS56までの処理を経路のすべてのポーズについて実行することで、許容範囲系列を得ることができる。
【0036】
図2に示す軌道探索部216は、取得部211が取得した作業車両100の現在のポーズから、目標決定部212が決定した目標ポーズまでを結ぶ軌道を探索する。「軌道」とは、時間をパラメータとしたポーズの系列によって表される。つまり、軌道探索部216は、作業車両100の時刻毎のポーズ、並びに当該時刻毎のポーズを実現するための舵角及び速度の系列を、軌道として求める。軌道探索部216は、評価関数の二次近似を用いる探索アルゴリズム(第2探索アルゴリズム)により軌道を探索する。評価関数の二次近似を用いる探索アルゴリズムの例としては、微分動的計画法、iLQR(iterative Linear Quadratic Regulator)、SQP(Sequential Quadratic Programming)などが挙げられる。
軌道探索部216による探索は、走行時間が短いほど値が小さくなる評価関数と、制約条件生成部215が生成したペナルティ関数の和によって得られる評価値が最小となるように実行される。軌道探索部216による探索においては、式(1)に示す時間刻み幅Δtも最適化対象となる。
【0037】
評価関数の二次近似を用いる探索アルゴリズムは、動的計画法に係る探索アルゴリズムと比較して次元数に対する計算量の増加が緩やかである。そのため、舵角、速度及び時間刻み幅を最適化の対象に加えても計算量の爆発は生じない。一方で、評価関数の二次近似を用いる探索アルゴリズムは、制約条件の非線形性が強いと局所解への収束が生じることがあるなど完全性を有しない。そのため、制約条件生成部215が生成した線形関数で表すことができる制約条件を用いることで、問題を単純化し、局所解への収束を防ぐことができる。
【0038】
走行制御部217は、軌道探索部216が求めた軌道に従って、ステアリングアクチュエータ113、動力源1121、動力伝達装置1122及び制動装置を制御する。すなわち、走行制御部217は、軌道に係る系列から現在時刻に係る舵角及び速度を読み出し、当該舵角を実現するようにステアリングアクチュエータ113を制御し、また当該速度を実現するように動力源1121、動力伝達装置1122及び制動装置を制御する。
【0039】
《制御装置140の動作》
図7は、第1の実施形態に係る制御装置140の自動走行処理を示すフローチャートである。
制御装置140の目標決定部212は、作業車両100の状態に基づいて目標ポーズを決定する(ステップS1)。取得部211は、ストロークセンサ1131、回転センサ1123、検出装置1124及び測位装置1125の計測データを取得する(ステップS2)。走行制御部217は、ステップS2で取得した測位装置1125の計測データに基づいて、ステップS1で決定した目標ポーズと現在のポーズの誤差が所定の閾値以下であるか否かを判定する(ステップS3)。
【0040】
目標ポーズとの誤差が閾値より大きい場合(ステップS3:NO)、ステップS2で取得した検出装置1124の計測データに基づいてメインメモリ230に記録されたマップデータを更新する(ステップS4)。経路探索部214は、作業車両100の現在のポーズから、ステップS1で決定した目標ポーズまでを結ぶ経路を探索する(ステップS5)。
【0041】
次に、制約条件生成部215は、ステップS5で探索された経路に基づいて、図5に示す許容範囲系列生成処理を実行する(ステップS6)。制約条件生成部215は、生成された許容範囲系列に基づいてペナルティ関数を生成する(ステップS7)。軌道探索部216は、ステップS7で生成されたペナルティ関数を用いて作業車両100の現在のポーズから目標ポーズまでを結ぶ軌道を探索する(ステップS8)。このとき軌道探索部216は、ステップS5の経路探索において得られたポーズ、舵角及び速度の系列を探索の初期値に用いる。
【0042】
走行制御部217は、ステップS8で求めた軌道に従って、ステアリングアクチュエータ113、動力源1121、動力伝達装置1122及び制動装置を制御する(ステップS9)。そして制御装置140は処理をステップS2に戻す。
【0043】
ステップS3において目標ポーズとの誤差が閾値より大きい場合(ステップS3:NO)、制御装置140は自動走行処理を終了する。制御装置140は、自動掘削処理や自動放土処理を実行した後、再度自動走行処理を実行する。
【0044】
《作用・効果》
第1の実施形態に係る制御装置140は、障害物の位置を表す第1制約条件に基づいて、作業車両100の初期位置から目標位置へ移動するための経路を探索し、経路からの逸脱距離に応じてペナルティ値が増加する第2制約条件(ペナルティ関数)に基づいて軌道を探索する。このように、制御装置140は、制約条件を変えて二段階で軌道を探索する。軌道の探索に用いる制約条件を、経路からの逸脱距離に応じた制約条件とすることで、軌道の探索に係る制約条件の非線形性を弱めて計算量の増加を抑えることができる。つまり、制御装置140は、少ない計算量で連続的な軌道を得ることができる。
【0045】
また、第1の実施形態に係る制御装置140は、完全性を有する探索アルゴリズムを用いて経路を探索し、要素数に対する計算量の増加が緩やかな第2探索アルゴリズムを用いて軌道を探索する。これにより、制御装置140は、計算量を抑え、かつ局所解へ収束せずに経路及び軌道を得ることができる。
【0046】
また第1の実施形態に係る軌道の探索に用いるペナルティ関数は、経路に係る各位置を含み作業車両100の幅方向に広がる第2矩形からの逸脱距離に応じてペナルティ値が増加し、第2矩形内に作業車両100が位置するときのペナルティ値が一定となる関数である。このように、制御装置140は線形性の高いペナルティ関数を得ることができる。
【0047】
また第1の実施形態では、式(1)に示すモデルを用いて経路及び軌道の探索を行う。式(1)に示すモデルは、作業車両100の単位時間後の位置(x[k+1],y[k+1])を、作業車両100の現在の位置(x[k],y[k])と、作業車両100の舵角δ[k]から求められる旋回半径と、作業車両100の現在の姿勢角φ[k]と、作業車両100の単位時間後の姿勢角φ[k+1]とに基づいて表す。
【0048】
図8は、第1の実施形態に係るモデルにおける時間刻み幅と算出結果の位置との関係を示す図である。図9は、比較例に係るモデルにおける時間刻み幅と算出結果の位置との関係を示す図である。
車両のモデルとして、以下の式(4)に示すものが用いられることがある。
【0049】
【数4】
【0050】
しかしながら、式(4)に示すモデルは、x座標の増分及びy座標の増分を直線移動に近似しているため、時間の刻み幅Δtの値が変化すると、図9に示すように位置の計算結果に誤差が生じる。これに対し、式(1)に示すモデルは、旋回半径と姿勢角とによりx座標の増分及びy座標の増分を円弧に近似しているため、図8に示すように時間の刻み幅Δtの値が変化しても、位置の計算結果に誤差が生じない。したがって、第1の実施形態に係る制御装置140は、式(1)に示すモデルを用いることで、時間刻みの影響を無視することができるため、経路探索部214が生成した経路を容易に軌道に変換することができる。これにより、制御装置140は、経路探索部214によって求められた障害物と接触せず、目標状態に到達する軌道を初期値として軌道探索を開始することができる。初期値として目標状態に到達する軌道を設定することで、経路探索部214が局所解へ収束することなく適切な軌道を計算することができる。
【0051】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。すなわち、他の実施形態においては、上述の処理の順序が適宜変更されてもよい。また、一部の処理が並列に実行されてもよい。
上述した実施形態に係る制御装置140は、単独のコンピュータによって構成されるものであってもよいし、制御装置140の構成を複数のコンピュータに分けて配置し、複数のコンピュータが互いに協働することで制御装置140として機能するものであってもよい。このとき、制御装置140を構成する一部のコンピュータが作業車両100の内部に搭載され、他のコンピュータが作業車両100の外部に設けられてもよい。
【0052】
図10は、他の実施形態に係る自動運転システム2の構成を示す概略図である。第1の実施形態に係る作業車両100は、内部に備える制御装置140の制御によって自律走行する。これに対し、図9に示す自動運転システム2は、作業車両100と遠隔に設けられる制御サーバ800が作業車両100を制御する。制御サーバ800と制御装置140とは無線通信により接続される。
【0053】
この場合、図2に示す各処理部は制御サーバ800に設けられる。取得部211は、無線通信により各計測装置の計測データを得る。また走行制御部217は、無線通信により制御装置140に制御指令を送信する。
【0054】
また、第1の実施形態に係る制御装置140は、経路の探索に動的計画法を用いるが、これに限られない。例えば、他の実施形態においては、直線、円弧、ベジェ曲線、クロソイド曲線、Bスプライン曲線などの曲線の組み合わせによって幾何学的に経路を生成してもよい。
【0055】
また、第1の実施形態に係る制御装置140は、軌道の探索に評価関数の二次近似を用いる探索アルゴリズムを用いるが、これに限られない。例えば、他の実施形態においては、制御装置140は、数理計画問題としての再定式化によって軌道を求めてもよい。
【0056】
また、第1の実施形態に係る制御装置140は、軌道の探索の制約条件として、第2矩形で表される可動範囲を設定するが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る制約条件は、経路に係る点を通り、作業車両100の幅方向にのみ広がる線分によって表されてもよい。
【0057】
また、第1の実施形態に係る制御装置140は、式(3)に基づいて第2矩形R2を求めるが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る制御装置140は、以下に示す手順で第2矩形R2を求めてもよい。制御装置140は、作業車両100に最も近い障害物が存在する方向の方位角α及び当該障害物までの距離dを用いて、以下の式(5)によって第2矩形R2の4つの頂点R1,R2,R3,R4の位置を求めてもよい。式(5)においてLはアーティキュレート中心から前輪WFまでの長さを示し、lは、トレッド幅を示す。
【0058】
【数5】
【0059】
また、第1の実施形態に係る作業車両100は、アーティキュレート車両であるホイールローダであるが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る車両は、ダンプトラックなどの他の車両であってもよいし、アーティキュレート車両でなくてもよい。アーティキュレート車両でない場合、例えば、舵角とは操舵される車輪と車体とのなす角度である。また、他の実施形態に係る作業車両100は、履帯式車両であってもよいし、スキッドステアローダなどの転向できない車輪を有する車両であってもよい。この場合、例えば、左右の履帯若しくは車輪の速度差から旋回半径を求めることができる。
【符号の説明】
【0060】
100…作業車両 110…車体 111…前車体 112…後車体 1121…動力源 1122…動力伝達装置 1123…回転センサ 1124…検出装置 1125…測位装置 113…ステアリングアクチュエータ 1131…ストロークセンサ 120…作業機 140…制御装置 210…プロセッサ 211…取得部 212…目標決定部 213…マップ生成部 214…経路探索部 215…制約条件生成部 216…軌道探索部 217…走行制御部 230…メインメモリ 250…ストレージ 270…インタフェース WF…前輪 WR…後輪 800…制御サーバ 2…自動運転システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10