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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】光学積層体および物品
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/113 20150101AFI20250128BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20250128BHJP
   G02B 1/18 20150101ALI20250128BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20250128BHJP
【FI】
G02B1/113
G02B1/14
G02B1/18
B32B7/023
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021163707
(22)【出願日】2021-10-04
(62)【分割の表示】P 2021043915の分割
【原出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022002903
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2020051220
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕司
(72)【発明者】
【氏名】手塚 かおり
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 匡明
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-28364(JP,A)
【文献】特開2019-70756(JP,A)
【文献】特開2019-215458(JP,A)
【文献】特表2018-536177(JP,A)
【文献】特開2014-167621(JP,A)
【文献】国際公開第2013/140811(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10- 1/18
B32B 1/00-43/00
G02F 1/1335
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、ハードコート層と、反射防止層とが、この順に積層され、
前記反射防止層が、低屈折率材料層と、前記低屈折率材料層よりも高屈折率の材料からなる高屈折率材料層とが交互に積層された積層体からなり、
標準光源D65による波長380nm~780nmの光を入射させたときの反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が、下記条件A~条件Cを満たし、前記反射防止層がスパッタ層であることを特徴とする光学積層体。
条件A:前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角30°~40°で入射させた時の前記反射光の前記a値および前記b値が、それぞれ絶対値で3以下である。
条件B:前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°で入射させた時の前記反射光の前記a値および前記b値が、以下の式(B1)を満たす。
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<1.0‥‥(B1)
条件C:前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角5°で入射させた時の前記反射光の前記a値と前記b値の一方または両方が絶対値で5以上であり、前記a値および前記b値が絶対値で15以下の範囲である。
【請求項2】
前記光を入射させたときの反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が、下記条件Dを満たすことを特徴とする請求項1に記載の光学積層体。
条件D:前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°、40°で入射させた時の前記反射光の前記a値および前記b値が、以下の式(D1)を満たす。
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<1.5‥‥(D1)
【請求項3】
前記条件Dにおいて、前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°、40°で入射させた時の前記反射光の前記a値および前記b値が、以下の式(D2)を満たす請求項2に記載の光学積層体。
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<1.0‥‥(D2)
【請求項4】
前記条件Dにおいて、前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°、40°で入射させた時の前記反射光の前記a値および前記b値が、以下の式(D3)を満たす請求項2に記載の光学積層体。
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<0.1‥‥(D3)
【請求項5】
前記低屈折率材料層がSi酸化物を含有し、前記高屈折率材料層がNbからなる請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の光学積層体。
【請求項6】
前記反射防止層の前記ハードコート層と反対側の面に、防汚層が積層されている請求項1~請求項のいずれか一項に記載の光学積層体。
【請求項7】
前記防汚層がフッ素系化合物を含有する蒸着膜または塗布膜である請求項に記載の光学積層体。
【請求項8】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の光学積層体を備えることを特徴とする物品。
【請求項9】
前記光学積層体が、画像表示装置の表面に備えられている請求項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ(FPD)などの画像表示装置は、携帯電話、スマートフォン、カーナビゲーション装置などに広く使用されている。
従来の画像表示装置においては、視認角度による色むらを視認し難くすることが要求されている。色むらは、視認角度によって色味(色度)が異なって見える現象である。
例えば、特許文献1には、標準光源D65による波長380nm~780nmの光Aを、入射角5°で入射させた際の視感度反射率が0.5%以下であり、該光Aの入射角を5°~50°の範囲で変化させた際の正反射光において、CIE-Lab表色系におけるa値の最大値と最小値との差に対する、CIE-Lab表色系におけるb値の最大値と最小値との差の比(b値の差/a値の差)が、2以上となる、反射防止フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-28364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
画像表示装置上に設置される反射防止膜などの光学積層体は、これが設置された画像表示装置に反射される反射光を着色しにくいことが好ましい。また、光学積層体としては、これが設置された画像表示装置の視認角度を変化させても、色むらが視認されないことが好ましい。
【0005】
しかしながら、従来の光学積層体は、これが設置された画像表示装置の視認角度を異ならせることによって、色むらが視認される場合があった。
このため、画像表示装置に上に設置される従来の光学積層体においては、画像表示装置に反射される反射光を着色しにくく、かつ、画像表示装置の視認角度を変化させても色むらが視認されにくいものとすることが要求されている。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、物品に備えられ、物品に反射される反射光を着色しにくく、物品の視認角度を変化させても色むらが視認されにくい光学積層体を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の光学積層体が備えられ、反射光が着色されにくく、視認角度を変化させても色むらが視認されにくい物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
【0008】
[1] 透明基材と、ハードコート層と、反射防止層とが、この順に積層され、
前記反射防止層が、低屈折率材料層と、前記低屈折率材料層よりも高屈折率の材料からなる高屈折率材料層とが交互に積層された積層体からなり、
標準光源D65による波長380nm~780nmの光を入射させたときの反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が、下記(条件A)~(条件C)を満たすことを特徴とする光学積層体。
【0009】
(条件A)前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角30°~40°で入射させた時の前記反射光の前記a値および前記b値が、それぞれ絶対値で3以下である。
(条件B)前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°で入射させた時の前記反射光の前記a値および前記b値が、以下の式(B1)を満たす。
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<1.0
‥‥(B1)
(条件C)前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角5°で入射させた時の前記反射光の前記a値と前記b値の一方または両方が絶対値で5以上であり、前記a値および前記b値が絶対値で15以下の範囲である。
(条件E)入射角5°~25°で入射させたときの反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が、a平面上の同一象限内である。
【0010】
[2] 前記光を入射させたときの反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が、下記(条件D)を満たすことを特徴とする[1]に記載の光学積層体。
(条件D)前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°、40°で入射させた時の前記反射光の前記a値および前記b値が、以下の式(D1)を満たす。
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<1.5
‥‥(D1)
【0011】
[3] 前記(条件D)において、前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°、40°で入射させた時の前記反射光の前記a値および前記b値が、以下の式(D2)を満たす[2]に記載の光学積層体。
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<1.0
‥‥(D2)
[4] 前記(条件D)において、前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°、40°で入射させた時の前記反射光の前記a値および前記b値が、以下の式(D3)を満たす[2]に記載の光学積層体。
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<0.1
‥‥(D3)
【0012】
[5] 前記低屈折率材料層がSi酸化物を含有し、前記高屈折率材料層がNbからなる[1]~[4]のいずれかに記載の光学積層体。
[6] 前記低屈折率材料層および前記高屈折率材料層が、スパッタ法により形成されたものである[5]に記載の光学積層体。
【0013】
[7] 前記反射防止層の前記バーコード層と反対側の面に、防汚層が積層されている[1]~[6]のいずれかに記載の光学積層体。
[8] 前記防汚層がフッ素系化合物を含有し、蒸着法または塗布法により形成されたものである[7]に記載の光学積層体。
【0014】
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の光学積層体を備えることを特徴とする物品。
[10] 前記光学積層体が、画像表示装置の表面に備えられている[9]に記載の物品。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光学積層体によれば、標準光源D65による波長380nm~780nmの光を入射させたときの反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が、上記(条件A)~(条件C)を満たすことの相乗効果によって、物品に備えられ、物品に反射される反射光を着色しにくく、物品の視認角度を変化させても色むらが視認されにくいものとなる。
また、本発明の物品は、本発明の光学積層体を備えているので、物品からの反射光が着色されにくく、視認角度を変化させても色むらが視認されにくい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の光学積層体の一例を示した断面模式図である。
図2図2は、L色空間色度図を用いて、図1に示す光学積層体に、標準光源D65による波長380nm~780nmの光を入射させたときの、反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値を説明するための図面である。
図3図3は、実施例1~実施例3、比較例1~比較例3の光学積層体の表面に、入射角5°、10°、20°、30°、40°、50°で光を入射させたときの、反射光の色度を示したグラフである。
図4図4は、図3のグラフの中心部を拡大して示したグラフである。
図5図5は、各光学積層体の表面に入射角5°、10°、20°、30°、40°で光を入射させた時の試験体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために、以下に示すように鋭意研究を重ねた。
本発明者らは、光学積層体を備えた物品に反射される反射光を着色しにくく、物品の視認角度を変化させても色むらが視認されにくい光学積層体を得るために、物品の視認角度と反射光の色度(彩度および色相)との関係に着目して、鋭意検討を重ねた。
【0018】
その結果、表面に対して入射角5°以下の小さい入射角で光を入射させたときの反射光の彩度が十分に小さくても、入射角30°~40°で光を入射させたときの反射光の彩度が大きいと、物品の視認角度を変化させることによる色むらが視認されやすいことが分かった。このことから、物品の視認角度を変化させることによる色むらを抑制するためには、表面に対して入射角30°~40°の光を入射させたときの反射光の彩度を小さくすることが重要であるという知見を得た。
【0019】
また、本発明者らは、色むらの視認されやすさには、反射光の彩度だけでなく、視認角度を変化させることによる反射光の色相変化が大きな影響を与えることを見出した。そして、本発明者らは、表面に対して入射角30°~40°の光を入射させたときの反射光の彩度を十分に小さくし、かつ入射角5°~30°の範囲内の光を入射させたときの反射光の色相変化を小さくすることで、物品の視認角度を変化させても色むらが視認されにくくなるという知見を得た。
【0020】
さらに、本発明者らは、表面に対して入射角30°~40°の光を入射させたときの反射光の彩度と、入射角5°~30°の範囲内の光を入射させたときの反射光の色相変化とを、十分に小さくした場合、入射角5°で光を入射させたときの反射光の彩度が、入射角30°~40°で光を入射させたときより大きくても、物品に反射される反射光の着色が視認されにくいことを見出した。
【0021】
さらに、本発明者らは、上記の知見に基づいて、表面に対して入射角30°~40°で光を入射させたときと、入射角5°で光を入射させたときの反射光の色度範囲、および表面に対して入射角5°~30°の範囲内の光を入射させたときにおける反射光の色相変化について、検討を重ねた。
その結果、標準光源D65による波長380nm~780nmの光を入射させたときの反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が、下記(条件A)~(条件C)を満たす光学積層体であればよいことを見出した。そして、このような光学積層体が、物品に反射される反射光を着色しにくく、物品の視認角度を変化させても色むらが視認されにくいことを確認し、本発明を想到した。さらに、下記(条件E)を満たすと、より優れた光学積層体が得られることを見出した。
【0022】
(条件A)前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角30°~40°で入射させた時の前記反射光の前記a値および前記b値が、それぞれ絶対値で3以下である。
(条件B)前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°で入射させた時の前記反射光の前記a値および前記b値が、以下の式(B1)を満たす。
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<1.0
‥‥(B1)
(条件C)前記光を前記光学積層体の表面に対して入射角5°で入射させた時の前記反射光の前記a値と前記b値の一方または両方が絶対値で5以上であり、前記a値および前記b値が絶対値で15以下の範囲である。
(条件E)入射角5°~25°で入射させたときの反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が、a平面上の同一象限内である。
【0023】
以下、本発明の光学積層体および物品について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0024】
[光学積層体]
図1は、本発明の光学積層体の一例を示した断面模式図である。
図1に示す光学積層体1は、透明基材2と、ハードコート層3と、反射防止層4(積層体)と、防汚層5とが、この順に積層されたものである。
図1に示す光学積層体1は、物品(不図示)に備えられている。物品としては、例えば、画像表示装置(不図示)の表面に、光学積層体1が備えられているものなどが挙げられる。
【0025】
図2は、図1に示す光学積層体に、標準光源D65による波長380nm~780nmの光を入射させたときの、反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値を説明するための図面である。図2において、a値およびb値は色度を示し、a値およびb値の絶対値が大きい座標の色であるほど彩度が大きい。すなわち、図2おいて、a値およびb値の絶対値が大きい座標の色であるほど、鮮やかな色であり、a値およびb値の絶対値が小さい座標の色であるほど、無彩色に近い色である。
+aの座標は赤方向の色相であり、-aの座標は緑方向の色相であり、+bの座標は黄方向の色相であり、-bの座標は青方向の色相である。図2のL色度図において、第1象限(+a、+b)、第2象限(-a、+b)、第3象限(-a、-b)、第4象限(+a、-b)のそれぞれの色相は、赤色~橙色~黄色、黄色~黄緑色~緑色、緑色~青緑色~青色、青色~紫色~赤色に対応する。従って、入射角によって反射光の色相が別の象限に変わると(象限またぎが生ずると)、色相が大きく変化することになるため、色むらが視認されやすくなる。入射角によって反射光の色相の象限が変わらないこと、換言すると、入射角によって反射光の色相が同一象限内に留まることが好ましい。
【0026】
図1に示す光学積層体1は、標準光源D65による波長380nm~780nmの光を入射させたときの、反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が、上記(条件A)~(条件C)を満たす。上記(条件A)~(条件C)の各条件は、光学積層体1を形成している透明基材2と、ハードコート層3と、反射防止層4と、防汚層5の各層について、材料および厚みを適宜選択することにより調整できる。
【0027】
図1に示す光学積層体1は、光学積層体1の表面に対して入射角30°~40°で光を入射させた時の反射光のa値およびb値が、それぞれ絶対値で3以下(図2において、符号Aで示される領域内)である(条件A)。したがって、本実施形態の光学積層体1は、入射角30°~40°で光を入射させたときの反射光の彩度が十分に小さく、物品の視認角度を変化させることによる色むらが視認されにくい。上記のa値およびb値は、それぞれ絶対値で2.5以下であることが好ましい。この場合、物品の視認角度を変化させることによる色むらが、より一層視認されにくい光学積層体1となる。上記のa値とb値のうち、いずれか一方または両方が絶対値で3を超えると、入射角30°~40°で光を入射させたときの反射光の彩度が大きいものとなるため、物品の視認角度を変化させることによる色むらが視認されやすくなる。
【0028】
図1に示す光学積層体1は、光学積層体1の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°で光を入射させた時の反射光のa値およびb値が、以下の式(B1)を満たす(条件B)。
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<1.0
‥‥(B1)
|a|/|b|は、反射光の色相に対応する数値である。上記の|a|/|b|の最大値と最小値との差が1.0未満である式(B1)を満たす光学積層体1は、入射角5°~30°で光を入射させた時の反射光の色相変化が小さい。すなわち、入射角5°~30°で光を入射させた時の反射光は、色相が類似している。このため、本実施形態の光学積層体1は、物品の視認角度を変化させることによる反射光の色相変化が小さく、色むらが視認されにくい。これに対し、光学積層体1が上記(条件B)を満たさない場合、物品の視認角度を変化させることによる反射光の色相変化が大きいため、色むらが視認されやすくなる。上記の|a|/|b|の最大値と最小値との差は、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。
【0029】
本実施形態の光学積層体1は、上記(条件A)および(条件B)を満たすため、入射角30°~40°で光を入射させたときの反射光の彩度が十分に小さく(図2において、符号Aで示される領域内)、かつ入射角5°~30°で光を入射させた時の反射光の色相変化が十分に小さい(式(B1)を満たす)。光学積層体1の反射光の色度(彩度および色相)は、物品の視認角度を変化させることによって連続的に変化する。したがって、上記(条件A)および(条件B)を満たす光学積層体1は、例えば、入射角5°~30°の光を連続的に入射させた時の反射光が、類似する色相を有し、かつ入射角が大きくなるにつれて彩度が小さくなる傾向を示す。本実施形態の光学積層体1は、入射角30°~40°で光を入射させたときの反射光の彩度が十分に小さい(条件A)ため、入射角30°~40°であるときと入射角5°~30°であるときの反射光の色相が異なっていても、色むらが視認されにくい。このため、本実施形態の光学積層体1は、物品の視認角度を変化させることによる色むらが視認されにくい。
【0030】
図1に示す光学積層体1は、光学積層体1の表面に対して入射角5°で光を入射させた時の反射光のa値とb値の一方または両方が絶対値で5以上であり、a値およびb値が絶対値で15以下の範囲である(条件C)。図2において、符号Cは、a値およびb値が絶対値で5以上15以下である領域を示す。
本実施形態の光学積層体1は、上記のa値およびb値が、絶対値で15以下の範囲であるため、物品に反射される反射光の着色が視認されにくい。上記のa値およびb値は、好ましくはそれぞれ絶対値で10以下である。この場合、物品に反射される反射光の着色が、より一層視認されにくい光学積層体1となる。
【0031】
本実施形態の光学積層体1は、上記の(条件A)および(条件B)を満たすものであるため、入射角5°で光を入射させたときの反射光の彩度が、入射角30°~40°で光を入射させたとき(図2において、符号Aで示される領域内)の外側(例えば、図2において、符号Cで示される領域内)であっても、物品に反射される反射光の着色が視認されにくい。しかし、上記のa値とb値のうち、いずれか一方または両方が絶対値で15を超えると、入射角5°で光を入射させたときの反射光の彩度が大きいために、物品に反射される反射光の着色が視認されやすくなる。
【0032】
また、図1に示す光学積層体1は、光学積層体1の表面に対して入射角5°で光を入射させた時の反射光のa値とb値の一方または両方が、絶対値で5以上の範囲である(条件C)。このため、例えば、入射角5°で光を入射させた時の反射光のa値およびb値が、それぞれ3未満(図2において、符号Aで示される領域内)である場合と比較して、光学積層体1を形成している各層の材料および厚み、製造方法の選択肢が多くなり、容易に効率よく製造できる。さらに、上記のa値とb値の一方または両方が、絶対値で8以上であってもよい。この場合、光学積層体1を形成している各層の材料および厚み、製造方法の選択肢がより多くなり、より一層容易に効率よく製造できる。
【0033】
さらに、図1に示す光学積層体1は、光学積層体1の表面に対して入射角5°~25°で入射させたときの反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が、a平面(La色度図)上の同一象限内である(条件E)。
このため、例えば本発明の光学積層体を設けた表示装置を、自動車のセンターコンソールなどに設けた場合や、後部座席の前方天井に設けた場合に、後部座席から視認した際の色相の変化が少なく、これらの用途として最適である。
【0034】
図1に示す光学積層体1は、光学積層体1の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°、40°で光を入射させた時の反射光のa値およびb値が、以下の式(D1)を満たす(条件D)ことが好ましい。
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<1.5
‥‥(D1)
上記の|a|/|b|の最大値と最小値との差が1.5未満である式(D1)を満たす光学積層体1は、入射角5°~40°で光を入射させた時の反射光の色相変化が小さい。すなわち、入射角5°~40°で光を入射させた時の反射光は、色相が類似している。このため、本実施形態の光学積層体1は、物品の視認角度を変化させることによる反射光の色相変化が小さく、より一層色むらが視認されにくい。
【0035】
光学積層体1の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°、40°で光を入射させた時の反射光のa値およびb値は、以下の式(D2)を満たすことが好ましく、以下の式(D3)を満たすことがより好ましい。光学積層体1が式(D2)または式(D3)を満たす場合、物品の視認角度を変化させることによる反射光の色相変化がより一層小さいものとなり、物品の視認角度を変化させることによる色むらが、より一層視認されにくい光学積層体1となる。
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<1.0
‥‥(D2)
{(|a|/|b|)の最大値}-{(|a|/|b|)の最小値}<0.1
‥‥(D3)
【0036】
(透明基材)
図1に示す光学積層体1を形成している透明基材2としては、公知のものを用いることができる。
透明基材2は、可視光域の光を透過可能な透明材料からなる。本実施形態において「透明材料」とは、可視光域の光の透過率が80%以上の材料であることを意味する。
【0037】
透明基材2としては、例えば、プラスチックフィルムを用いることができる。プラスチックフィルムの材料としては、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、プラスチックフィルムの材料としては、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂から選ばれるいずれか1種または2種以上を用いることが好ましく、特に、トリアセチルセルロース(TAC)を用いることが好ましい。
【0038】
また、光学特性を損なわない限りにおいて、透明基材2は、補強材料を含むものであってよい。補強材料としては、例えば、セルロースナノファイバー、ナノシリカなどが挙げられる。
また、透明基材2としては、ガラスフィルムなどの無機材料を用いてもよい。
【0039】
透明基材2としては、必要に応じて、光学的機能および/または物理的機能が付与されたフィルムを用いてもよい。光学的機能および/または物理的機能を有するフィルムとしては、例えば、偏光板フィルム、位相差補償フィルム、熱線遮断フィルム、導電フィルム、輝度向上フィルムなどが挙げられる。さらに、透明基材2としては、光学的機能および/または物理的機能を有するフィルムに、例えば、帯電防止機能などの機能を付与したものを用いてもよい。
【0040】
透明基材2の厚みは、例えば、25μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。透明基材2の厚みが25μm以上であると、光学積層体1に応力が加わっても皺が発生しにくく好ましい。また、透明基材2の厚みが25μm以上であると、光学積層体1を製造する際に透明基材2上にハードコート層3を形成しても、透明基材2に皺が生じにくく、歩留まりよく製造できる。また、透明基材2の厚みが25μm以上であると、光学積層体1を製造する際に、製造途中の光学積層体1がカールしにくく、取り扱いが容易であり、好ましい。
【0041】
透明基材2の厚みは、例えば、300μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましい。透明基材2の厚みが300μm以下であると、透明基材2の厚みが厚いことにより、光学積層体1の薄膜化および軽量化に支障を来すことを防止できる。また、透明基材2の厚みが300μm以下であると、ロール状に巻き付けられた透明基材2を用いて、効率よく光学積層体1を製造できる。また、透明基材2の厚みが300μm以下であると、透明基材2上にハードコート層3を形成する際に、透明基材2から水および有機物が発生しにくく、歩留まりよく製造できる。
【0042】
透明基材2の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法で製造できる。
透明基材2としては、表面処理が施されたものを使用してもよい。表面処理方法としては、例えば、スパッタリング、コロナ放電、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化等のエッチング処理、下塗り処理などが挙げられる。これらの表面処理方法から選ばれるいずれか1種または2種以上の方法を用いて透明基材2に表面処理を施すことにより、ハードコート層3との密着性が良好な透明基材2が得られる。
また、透明基材2は、透明基材2上にハードコート層3を形成する前に、必要に応じて表面を洗浄してもよい。透明基材2の表面の洗浄方法としては、例えば、溶剤洗浄、超音波洗浄などが挙げられる。透明基材2の洗浄を行うことにより、透明基材2の表面を除塵でき、表面が清浄化されるため、好ましい。
【0043】
(ハードコート層)
ハードコート層3としては、公知のものを用いることができ、例えば、バインダー樹脂とフィラーとを含むものが挙げられる。ハードコート層3は、バインダー樹脂とフィラーの他に、必要に応じて、レベリング剤などの公知の材料を含むものであってもよい。
ハードコート層3に含まれるバインダー樹脂としては、透明材料を用いることが好ましい。バインダー樹脂としては、例えば、電離放射線硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができる。バインダー樹脂は、1種のみ用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0044】
電離放射線硬化型樹脂としては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン、ウレタンアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)およびペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)などが挙げられる。電離放射線硬化型樹脂としては、上述した化合物をPO(プロピレンオキサイド)、EO(エチレンオキサイド)、CL(カプロラクトン)などで変性したものを使用してもよい。
本実施形態において「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートおよび/またはアクリレートを意味する。
【0045】
バインダー樹脂として電離放射線硬化型樹脂を含む場合、ハードコート層3は、公知の電離放射線硬化開始剤を含むものであってもよい。例えば、電離放射線硬化型樹脂として、(メタ)アクリレートなどの紫外線硬化型樹脂を含む場合、ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンなどの紫外線硬化開始剤を含むことが好ましい。
【0046】
熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体、シリコーン系樹脂などが挙げられる。
【0047】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂(かご状、ラダー状などのいわゆるシルセスキオキサン等を含む)などが挙げられる。
【0048】
ハードコート層3に含まれるフィラーは、防眩性、後述する反射防止層4との密着性、アンチブロッキング性の観点から、光学積層体1の用途に応じて種々のものを選択できる。具体的には、例えば、シリカ(Siの酸化物)粒子、アルミナ(酸化アルミニウム)粒子、有機微粒子など公知のものを用いることができる。
光学積層体1の防眩性を向上させる観点からは、フィラーとして、アクリル樹脂などからなる有機微粒子を用いることが好ましい。有機微粒子の粒子径は、10μm以下が好ましく、5μm以下がさらに好ましく、3μm以下が特に好ましい。
反射防止層4との密着性を向上させる観点からは、フィラーとして、シリカ粒子を用いることが好ましい。シリカ粒子の粒子径は、800nm以下が好ましく、100nm以下が特に好ましい。
【0049】
ハードコート層3の厚みは、例えば、0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは1μm以上である。ハードコート層3の厚みは、100μm以下であることが好ましい。
ハードコート層3は、単一の層からなるものであってもよいし、複数の層が積層されたものであってもよい。
【0050】
ハードコート層3の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法で製造できる。例えば、ハードコート層3は、塗布法により製造できる。塗布法としては、例えば、ハードコート層3となる材料を溶剤に溶解および/または分散させた塗布液を、公知の方法を用いて透明基材2上に塗布し、硬化させる方法などが挙げられる。溶剤としては、公知の溶剤を用いることができ、ハードコート層3となる材料に応じて適宜決定できる。
【0051】
(反射防止層)
反射防止層4は、低屈折率材料層4a、4cと、低屈折率材料層4a、4cよりも高屈折率の材料からなる高屈折率材料層4bとが、交互に積層された積層体からなる。反射防止層4は、防汚層5側から光学積層体1に入射した光を拡散させる。このことにより、光学積層体1は、防汚層5側から光学積層体1に入射した光が、反射光として一方向に出射されることを防止する反射防止膜として機能する。
【0052】
反射防止層4を形成している低屈折率材料層4a、4cのうち、ハードコート層3に接して配置されている低屈折率材料層4aは、反射防止層4とハードコート層3とを密着させる密着層としての機能を有する。また、図1に示す光学積層体1においては、反射防止層4のハードコート層3と反対側の面には、防汚層5に接して低屈折率材料層4cが配置されている。
【0053】
本実施形態では、図1に示すように、反射防止層4が、ハードコート層3側から順に、低屈折率材料層4a、高屈折率材料層4b、低屈折率材料層4c、高屈折率材料層4b、低屈折率材料層4cの5層が積層された積層体からなる場合を例に挙げて説明する。反射防止層4を形成している低屈折率材料層4a、4cと高屈折率材料層4bの積層数は、5層に限定されるものではなく、5層未満であってもよいし、5層超であってもよく、反射防止層4に要求される光学特性に応じて適宜決定できる。
【0054】
反射防止層4を形成している積層体が2層以上の低屈折率材料層4a、4cを含む場合、複数の低屈折率材料層4a、4cは、全て同じ屈折率を有するものであってもよいし、一部または全部の屈折率が異なっていてもよい。
反射防止層4を形成している積層体が2層以上の高屈折率材料層4bを含む場合、複数の高屈折率材料層4bは、全て同じ屈折率を有するものであってもよいし、一部または全部の屈折率が異なっていてもよい。
【0055】
低屈折率材料層4a、4cの屈折率は、好ましくは1.20~1.60であり、より好ましくは1.30~1.50である。
低屈折率材料層4a、4cは、SiO(Si酸化物)を主成分とするものであることが好ましい。低屈折率材料層4a、4cは、Si酸化物のみからなるものであってもよいし、Si酸化物とは別に、50質量%以下の範囲、好ましくは10質量%以下の範囲で、別の元素を含んでいてもよい。別の元素としては、低屈折率材料層4a、4cの耐久性を向上させるためにNaを含んでいてもよいし、低屈折率材料層4a、4cの硬度を向上させるためにZr、Al、Nから選ばれる1種または2種以上の元素を含んでいてもよい。
【0056】
高屈折率材料層4bの屈折率は、好ましくは2.00~2.60であり、より好ましくは2.10~2.45である。
高屈折率材料層4bとしては、例えば、五酸化ニオブ(Nb、屈折率2.33)、酸化チタン(TiO、屈折率2.33~2.55)、酸化タングステン(WO、屈折率2.2)、酸化セリウム(CeO、屈折率2.2)、五酸化タンタル(Ta、屈折率2.16)、酸化亜鉛(ZnO、屈折率2.1)、酸化インジウムスズ(ITO、屈折率2.06)からなるものなどが挙げられ、五酸化ニオブからなるものであることが好ましい。
【0057】
反射防止層4を構成する低屈折率材料層4a、4cおよび高屈折率材料層4bの膜厚は、反射防止層4に要求される光学特性に応じて適宜決定できる。低屈折率材料層4a、4cおよび高屈折率材料層4bの膜厚は、全て同じであってもよいし、一部または全部がそれぞれ異なっていてもよい。
【0058】
低屈折率材料層4a、4cの膜厚は、例えば、1nm以上200nm以下とすることができる。反射防止層4が2層以上の低屈折率材料層4a、4cを含む場合、複数の低屈折率材料層4a、4cは、全て同じ膜厚を有するものであってもよいし、一部または全部の膜厚が異なっていてもよい。
高屈折率材料層4bの膜厚は、例えば、1nm以上200nm以下とすることができる。反射防止層4が2層以上の高屈折率材料層4bを含む場合、複数の高屈折率材料層4bは、全て同じ膜厚を有するものであってもよいし、一部または全部の膜厚が異なっていてもよい。
【0059】
低屈折率材料層4a、4cおよび高屈折率材料層4bの膜厚は、例えば、ハードコート層3側から順に、30~120nmの低屈折率材料層4a、10~50nmの高屈折率材料層4b、30~120nmの低屈折率材料層4c、50~200nmの高屈折率材料層4b、50~200nmの低屈折率材料層4cとすることができる。
【0060】
反射防止層4の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法で製造できる。反射防止層4は、例えば、ハードコート層3上に、スパッタ法により、低屈折率材料層4a、高屈折率材料層4b、低屈折率材料層4c、高屈折率材料層4b、低屈折率材料層4cをこの順に形成する方法により、製造できる。
低屈折率材料層4a、4cおよび高屈折率材料層4bが、スパッタ法により形成されたものである場合、一般的な真空蒸着法または塗布法を用いて形成されたものと比較して、緻密なものとなる。その結果、水蒸気透過性が1.0g/m/day以下である耐久性の良好な光学積層体1となる。
【0061】
(防汚層)
防汚層5は、反射防止層4のハードコート層3と反対側の面に、必要に応じて設けられる。防汚層5は、光学積層体1の汚損を防止し、反射防止層4の損耗を抑制する。
防汚層5は、フッ素系化合物を含有するものであることが好ましい。フッ素系化合物としては、例えば、フッ素変性有機基と、アルコキシシランなどの反応性シリル基とからなる化合物が好ましく用いられる。このような化合物としては、パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)などが挙げられる。
防汚層5の材料として好適な市販品としては、オプツールDSX(ダイキン工業株式会社製)、KY-1203(信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0062】
防汚層5には、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、界面活性剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0063】
防汚層5の厚みは、例えば、1~20nmとすることができ、好ましくは3~10nmである。
防汚層5の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法で製造でき、必要とされる耐久性およびコストを勘案して適宜選択される。具体的には、防汚層5は、塗布法または蒸着法により製造できる。塗布法としては、例えば、防汚層5となる材料を溶剤に溶解した塗布液を、公知の方法を用いて反射防止層4上に塗布し、乾燥させる方法などが挙げられる。また、防汚層5を蒸着法により形成した場合、例えば、塗布法を用いて形成した防汚層と比較して、緻密で反射防止層4との密着性に優れるものとなる。このため、蒸着法により形成された防汚層5は、高い耐摩耗性を有する。
【0064】
本実施形態の光学積層体1においては、透明基材2の反射防止層3と反対側の面に、必要に応じて1層以上の層が設けられていてもよい。透明基材2の反射防止層3と反対側の面には、例えば、光学積層体1を、画像表示装置の表面などの他の部材に接着するための粘着剤層が設けられていてもよいし、粘着剤層と他の光学フィルムとがこの順に積層されていても良い。他の光学フィルムとしては、例えば、偏光フィルム、位相差補償フィルム、1/2波長板、1/4波長板などが挙げられる。また、透明基材2の反射防止層3と反対側の面に接して、上記の他の光学フィルムが形成されていてもよい。
【0065】
本実施形態の光学積層体1は、透明基材2と、ハードコート層3と、反射防止層4とが、この順に積層され、反射防止層4が、低屈折率材料層4a、4cと、低屈折率材料層4a、4cよりも高屈折率の材料からなる高屈折率材料層4bとが交互に積層された積層体からなる。そして、本実施形態の光学積層体1は、標準光源D65による波長380nm~780nmの光を入射させたときの反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が、上記(条件A)~(条件C)を満たす。本実施形態の光学積層体1によれば、上記(条件A)~(条件C)を満たすことの相乗効果により、物品に備えられ、物品に反射される反射光を着色しにくく、物品の視認角度を変化させても色むらが視認されにくいものとなる。
【0066】
[物品]
本実施形態の物品は、本実施形態の光学積層体1を備える。本実施形態の物品は、光学積層体1が、画像表示装置の表面に備えられたものであってもよい。画像表示装置としては、例えば、液晶表示パネル、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示パネルなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)が挙げられる。
【0067】
本実施形態の光学積層体1が貼付される画像表示装置の表面としては、例えば、携帯電話の画面、スマートフォンの画面、タブレット端末の画面、パーソナルコンピューターのディスプレイ、ナビゲーションシステムの画面、遊技機の操作画面など情報入力端末の画面、航空機、電車などの運行支援装置の操作画面、電光表示板などが挙げられる。これらの中でも光学積層体1が貼付される画像表示装置は、使用時に、様々な視認角度で視認される画像表示装置であることが好ましく、特に、ナビゲーションシステムの画面、携帯電話の画面、スマートフォンの画面であることが好ましい。
【0068】
本実施形態の物品は、光学積層体1が、画像表示装置の表面に備えられたものに限定されない。例えば、本実施形態の光学積層体1が表面に備えられた窓ガラス、ゴーグル、太陽電池の受光面、ガラステーブル表面、計器盤、光学センサーの表面、ヘルメットのバイザー、鏡、ヘッドマウントディスプレイなどが挙げられる。本実施形態の物品は、光学積層体1の備えられている表面が、平板状であってもよいし、曲面状であってもよい。
【0069】
本実施形態の物品は、本実施形態の光学積層体1を備えているので、物品からの反射光が着色されにくく、視認角度を変化させても色むらが視認されにくい。
本実施形態の物品が、光学積層体1が、画像表示装置の表面に備えられたものである場合、画像表示装置からの反射光が着色されにくく、視認角度を変化させても色むらが視認されにくく、好ましい。
【実施例
【0070】
(実施例1~実施例3、比較例1、比較例3)
以下に示す方法により、図1に示す光学積層体1を作製した。
まず、透明基材2として、厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)からなるフィルムを用意した。そして、透明基材2上に表1に示す材料からなる厚さ5μmのハードコート層3を形成した。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示す「CHC」は表2に示す組成を有する塗布液を、バーコーターを用いて、透明基板2上に塗布し、紫外線を照射して光重合させて硬化させる方法により形成した。
【0073】
【表2】
【0074】
また、表1に示す「AG-HC」は表3に示す組成を有する塗布液を、バーコーターを用いて、透明基板2上に塗布し、紫外線を照射して光重合させて硬化させる方法により形成した。
【0075】
【表3】
【0076】
続いて、ハードコート層3上に、スパッタリングターゲットとしてSiターゲットとNbターゲットとを用い、ArガスとOガスとの混合ガスを用いて反応性スパッタ法により、反射防止層4(積層体)を形成した。すなわち、ハードコート層3上に、表1に示す膜厚を有し、酸素欠乏があり得るSi酸化物からなる低屈折率材料層4a(第1層)と、表1に示す膜厚を有するNbからなる高屈折率材料層4b(第2層)と、表1に示す膜厚を有するSiOからなる低屈折率材料層4c(第3層)と、表1に示す膜厚を有するNbからなる高屈折率材料層4b(第4層)と、表1に示す膜厚を有するSiOからなる低屈折率材料層4c(第5層)とをこの順に繰り返して成膜した。
【0077】
次に、反射防止層4上に、塗膜の膜厚が10μmとなるようにコイルバー(製品名:No.579、ロッドNo.9、株式会社安田精機製作所製)を用いて塗布液を塗布し、80℃で2分間乾燥させる方法により、膜厚10nmの防汚層5を形成した。塗布液としては、フッ素溶剤(商品名:フロリナートFC-3283:スリーエムジャパン株式会社製)中に、パーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物(商品名:オプツールDSX、ダイキン工業株式会社製)を0.1質量%含む溶液を用いた。
以上の工程により、実施例1~実施例3、比較例1、比較例3の光学積層体を作製した。
【0078】
(比較例2)
実施例1~実施例3、比較例1、比較例3と同様にして、反射防止層4を形成するまでの工程を行うことにより、比較例2の光学積層体を作製した。
【0079】
(比較例4)
比較例4の光学積層体の作製においては、透明基材2として厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)からなるフィルムを用意し、その基材上に高屈折率層、低屈折率層を塗布法で形成した。
【0080】
(高屈折率層の塗液調整)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及びイソシアヌル酸EO変性ジアクリレート及び、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、五酸化アンチモン、開始剤(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン)を、溶剤であるイソプロピルアルコールに、固形分40重量%となるように溶解させ、高屈折率層用の塗液を調整した。尚、固形分とは、塗液中の溶剤以外の物質であり、ここでは、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の光重合性プレポリマーと、五酸化アンチモンと、開始剤である。
この高屈折率層用塗布液をグラビア法により、透明基材であるトリアセチルセルロースフィルム(膜厚80μm)表面に、乾燥膜厚4μmになるよう塗布し、80℃オーブンにて1分30秒間乾燥後、160Wの高圧水銀灯を18cmの距離から3秒間照射することにより硬化させ、高屈折率層を形成した。この高屈折率層はハードコート層としても機能する。
【0081】
(低屈折率層の塗液調整)
低屈折率層を形成するために、以下の塗液を調整し形成した。
ポリエステルアクリレートオリゴマーを4重量%、ペンタエリスリトールテトラアクリレートを18重量%、ポリエチレングリコールジアクリレートを28.5重量%の配合割合で平均粒径60nmの中空シリカ粒子を40重量%、α-ヒドロキシケトン系開始剤を8重量%、変性シリコーン化合物(官能基当量3900g/mol)を1.5重量%添加した低屈折率コーティング剤(重合性組成物)を作製した。
溶剤であるn-ブタノールに低屈折率コーティング剤を溶解、分散させ、固形分(低屈折率コーティング剤)3.0重量%の低屈折率層用の塗液を作成した。
【0082】
高屈折率層の表面に、グラビア法を用いて低屈折率層用の塗液を乾燥膜厚100nmになるよう塗布して塗布層を形成し、80℃オーブンにて1分30秒間乾燥後、窒素雰囲気下(酸素濃度1000ppm)にて、160Wの高圧水銀灯から18cmの距離で、高圧水銀灯からの光を3秒間照射することにより塗布層を硬化させて、低屈折率層を形成し、比較例4の反射防止フィルムを得た。
【0083】
(比較例5)
特開2019-70756号公報に記載された製造方法によって、比較例5の光学積層体を得た。
【0084】
「反射光の色度の測定」
このようにして得られた実施例1~実施例3、比較例1~比較例5の光学積層体の透明基材2側の面を、それぞれアクリル系透明粘着剤を用いて黒色のアクリルパネルの表面に貼付し、裏面反射が除去される試験体とした。そして、各光学積層体の透明基材2と反対側の面から、日本分光製V-550を用いて、標準光源D65による波長380nm~780nmの光を、光学積層体の表面に対して入射角5°で入射し、計算式を用いて反射スペクトルから反射光の色度を計算した。色度として、CIE-Lab表色系におけるa*値およびb*値を算出した。その結果を表1に示す。また、実施例1~実施例3、比較例1~比較例3については図3および図4にも示す。
【0085】
また、各光学積層体の試験体について、上記光を光学積層体の表面に対して入射角5°で入射させたときと同様にして、入射角10°、20°、25°、30°、40°、50°で入射させ、反射光の色度を算出した。その結果を表1に示す。また、実施例1~実施例3、比較例1~比較例3については、図3および図4に示す。
図3は、実施例1~実施例3、比較例1~比較例3の光学積層体の表面に、入射角5°、10°、20°、30°、40°、50°で光を入射させたときの、反射光の色度を示したグラフである。図4は、図3のグラフの中心部を拡大して示したグラフである。図4において、座標上の点の近傍に記載された数字は、座標上の点に対応する入射角(°)である。
【0086】
また、実施例1~実施例3、比較例1~比較例5の光学積層体について、それぞれ各入射角の|a|/|b|を算出し、入射角5°、10°、20°、25°、30°で入射させた時の|a|/|b|の最大値と最小値との差と、入射角5°、10°、20°、25°、30°、40°で入射させた時の|a|/|b|の最大値と最小値との差を求めた。その結果を表1に示す。
また、入射角5°~25°で入射させたときの反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が別の象限に変わるか否か、換言すると、同一象限内に留まるか否かを確認し、下記の基準により評価した。「〇」の場合は色味変化が小さいことを意味し、「×」の場合それに比べて色味変化が大きいことを意味する。
「基準」
〇:同一象限内に留まる。
×:同一象限内に留まらない。
【0087】
「反射光の色相の評価」
反射光の色度の測定に使用した実施例1、比較例2、比較例3の光学積層体の試験体について、上記光を光学積層体の表面に対して入射角5°、10°、20°、30°、40°で入射させた時の各試験体の色をそれぞれ撮影した。
図5は、実施例1、比較例2、比較例3の光学積層体の表面に、入射角5°、10°、20°、30°、40°で光を入射させた時の各試験体の写真である。
【0088】
また、反射光の色度の測定に使用した実施例1~実施例3、比較例1~比較例3の光学積層体の試験体について、各光学積層体の透明基材2と反対側の面から、視認角度を変化させて目視により視認し、下記の基準により評価した。
「基準」
〇:色相(色味の傾向)の変化を視認できない。
×:色相(色味の傾向)の変化を確実に視認できる。
【0089】
「マルテンス硬度測定」
Fisher製 ピコデンターHM-500、ビッカース圧子を用いて、0.1mNの押込み荷重の時のマルテンス硬度を測定した。そして、下記の基準により評価した。
「基準」
〇:1000(N/mm)以上。
×:1000(N/mm)未満。
【0090】
「耐スチールウール摺動性能試験」
JIS L0849に準拠した摩擦試験機I形を用いて、実施例1、比較例2の光学積層体(試験片)の表面に沿って、摩擦体を水平往復運動させ、試験片を得た。
摩擦体としてスチールウール(ボンスター株式会社製 #0000番)を用いた。試験設定は、荷重1000g/cm、ストローク75mm、速度150mm/sで、10往復スチールウール(SW)で摺動したとき、傷が入るか否かを試験した。そして、下記の基準により評価した。
〇:傷が入らない場合。
×:傷が入る場合。
【0091】
表1、図3および図4に示すように、上述した(条件A)~(条件D)を満たしている実施例1~実施例3の光学積層体は、入射角5°~40°で光を入射させた時の反射光の色相変化が小さいものであった。また、表1、図3および図4より、実施例1~実施例3の光学積層体は、入射角5°~40°の光を連続的に入射させた時の反射光が、類似する色相を有し、かつ入射角が大きくなるにつれて彩度が小さくなる傾向を示すことが確認できた。また、表1に示すように、実施例1~実施例3の光学積層体は、目視評価の結果が「○」であった。
【0092】
さらに、実施例1~3は(条件A)~(条件D)を満たすことに加えて、(条件E)を満たしている。すなわち、実施例1~3は入射角5°~25°で入射させたときの反射光のCIE-Lab表色系におけるa値およびb値が別の象限に変わらずに、同一象限内に留まっている。このことは例えば、実施例1~3の光学積層体を設けた表示装置を自動車のセンターコンソールなどに設けた場合や後部座席の前方天井に設けた場合に、後部座席から視認した際の色味変化が少なく、かかる用途に適していることを示すものである。
【0093】
これに対し、上述した(条件A)~(条件C)のいずれか1つ以上の条件を満たさない比較例1~比較例3の光学積層体は、表1、図3および図4に示すように、実施例1~実施例3の光学積層体と比較して、入射角5°~40°で光を入射させた時の反射光の色相変化が大きいものであった。また、表1に示すように、比較例1~比較例3の光学積層体は、目視評価の結果が「×」であった。
【0094】
これに加えて、比較例2及び比較例5については(条件E)を満たしておらず、比較例2及び比較例5の光学積層体を設けた表示装置を自動車のセンターコンソールなどに設けた場合や後部座席の前方天井に設けた場合に、後部座席から視認した際の色味変化が大きく、実施例1~3の光学積層体に比べて、かかる用途に適していない。
【0095】
図5に示すように、実施例1の光学積層体では、入射角5°~20°まで視認角度を変化させた場合、青色の色相が視認されるものの、入射角が大きくなるにつれて彩度が小さくなっている。そして、実施例1の光学積層体では、入射角30°、40°では略無彩色になっている。
【0096】
これに対し、図5に示すように、比較例2の光学積層体では、入射角5°、10°では紫色の色相が視認され、入射角20°、30°では、黄緑色の色相が視認され、入射角40°では、緑色の色相が視認される。すなわち、比較例2の光学積層体では、入射角5°、10°と入射角20°、30°と、入射角40°とでは、それぞれ視認される色の色相が異なっている。
【0097】
また、比較例3の光学積層体では、入射角5°、10°では青色の色相が視認され、入射角20°では、紫色の色相が視認され、入射角30°、40°では、赤紫色の色相が視認される。すなわち、比較例3の光学積層体では、入射角5°、10°と入射角20°と、入射角30°、40°とでは、それぞれ視認される色の色相が異なっている。
【0098】
マルテンス硬度測定の結果、反射防止層を塗布によって作製し、光学積層体を得た比較例4及び比較例5では、反射防止層をスパッタリングによって作製し、その上に防汚層を形成して光学積層体を得た実施例1~3及び比較例1~3に比べて硬度が著しく低下していることがわかった。
これは、スパッタリングにより無機薄膜を形成していることで、塗布法より緻密で硬い膜が形成されているためである。
耐スチールウール摺動性能試験の結果、比較例4及び比較例5では、実施例1~3及び比較例1~3に比べて耐スチールウール摺動性が低下していることがわかった。
【符号の説明】
【0099】
1…光学積層体
2…透明基材
3…ハードコート層
4…反射防止層
4a、4c…低屈折率材料層
4b…高屈折率材料層
5…防汚層
図1
図2
図3
図4
図5