(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】コンドロイチン硫酸合成促進用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20250128BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20250128BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20250128BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20250128BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20250128BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20250128BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20250128BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250128BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/105
A61K8/49
A61K8/60
A61K31/352
A61K31/7048
A61P19/04
A61P25/28
A61P43/00 111
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2021565462
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2020045091
(87)【国際公開番号】W WO2021124912
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2019227561
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大塚 祐多
(72)【発明者】
【氏名】武内 恒成
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】笹倉寛之ほか,ピロロキノリンキノンおよびポリフェノール類によるコンドロイチン硫酸の発現促進による神経機能,日本分子生物学会年会プログラム・要旨集,2019年11月19日,42nd巻号,ROMBUMNO.1P-0315
【文献】FARID R., et al.,Oral intake of purple passion fruit peel extract reduces pain and stiffness and improves physical function in adult patients with knee osteoarthiritis,Nutrition Research,2010年,Vol.30,p.601-606
【文献】KANZAKI N., et al.,Effect of a dietary supplement containing glucosamine hydrochloride, chondroitin sulfate and quercetin glycosides on symptomatic knee osteoarthritis: a randomized, double-blind, placebo-controlled study,J Sci Food Agric,2012年,Vol.92,p.862-869
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケルセチン又はその配糖体を有効成分として含有するコンドロイチン硫酸合成促進用組成物。
【請求項2】
コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進する請求項1に記載のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物。
【請求項3】
コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素が、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ2、キシローストランスフェラーゼ2、β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ1、コンドロイチン硫酸合成酵素1及びコンドロイチン重合因子2からなる群より選択される1以上である請求項2に記載のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物。
【請求項4】
コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素が、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1及び/又はコンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ2である請求項2又は3に記載のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物。
【請求項5】
飲食品、化粧料又は医薬部外品である請求項1~4のいずれか一項に記載のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンドロイチン硫酸合成促進用組成物に関する。また、本発明は、コンドロイチン硫酸の合成を促進する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
コンドロイチン硫酸は酸性ムコ多糖の一種であり、動物体内では、通常コアタンパク質と呼ばれる核となるタンパク質に共有結合したプロテオグリカンとして存在している。コンドロイチン硫酸は、動物の軟骨、皮膚等の結合組織、脳組織等の多くの組織に存在しており、特に軟骨の細胞外マトリックスに多く存在する。
【0003】
軟骨は、軟骨細胞とそれをとり囲む基質からなる結合組織であり、ヒト等の動物において、関節、骨格などを形成している。例えば関節軟骨は、関節の骨の表面を薄く覆い、関節の動きを滑らかにする役割を担っている。加齢等によって関節軟骨が減少すると、関節が痛む等の問題が生じる。特許文献1には、軟骨破壊を防止又は治療するための使用のための、オレウロペイン及び/又はヒドロキシチロソールを含み、さらにケルセチンを含む組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の組成物は、軟骨破壊を防止又は治療するため(抑制又は減少させるため)のものである。しかしながら、加齢等により一旦軟骨が減少すると、軟骨破壊を防止することでは、減少した軟骨を増加させることはできない。特許文献1では、軟骨の合成促進に有効な物質は検討されていない。例えば、軟骨基質の成分であるコンドロイチン硫酸等の合成を促進することができる成分は、軟骨の合成促進に寄与し、軟骨を増加させるために有用である。
【0006】
本発明は、コンドロイチン硫酸の合成を促進するコンドロイチン硫酸合成促進用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、コンドロイチン硫酸の合成を促進する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、ケルセチン又はその配糖体が、コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進する作用を有すること、コンドロイチン硫酸量増加及び軟骨機能維持等に有用であることを見出した。
【0008】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物、コンドロイチン硫酸の合成を促進する方法などに関する。
〔1〕ケルセチン又はその配糖体を有効成分として含有するコンドロイチン硫酸合成促進用組成物。
〔2〕コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進する上記〔1〕に記載のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物。
〔3〕コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素が、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ2、キシローストランスフェラーゼ2、β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ1、コンドロイチン硫酸合成酵素1及びコンドロイチン重合因子2からなる群より選択される1以上である上記〔2〕に記載のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物。
〔4〕コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素が、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1及び/又はコンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ2である上記〔2〕又は〔3〕に記載のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物。
〔5〕飲食品、化粧料又は医薬部外品である上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物。
〔6〕ケルセチン又はその配糖体を投与する、コンドロイチン硫酸の合成を促進する方法。
〔7〕コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進することによりコンドロイチン硫酸の合成を促進する上記〔6〕に記載の方法。
〔8〕コンドロイチン硫酸の合成を促進するための、ケルセチン又はその配糖体の使用。
〔9〕コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進することによりコンドロイチン硫酸の合成を促進する上記〔8〕に記載の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コンドロイチン硫酸の合成を促進するコンドロイチン硫酸合成促進用組成物が提供される。本発明によれば、コンドロイチン硫酸の合成を促進する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、5μMケルセチンを添加したHCH細胞のコンドロイチン硫酸量を示すグラフである。
【
図2】
図2は、ケルセチン配糖体(QG)を投与したマウスの膝関節軟骨部領域におけるコンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素遺伝子及びExt1遺伝子の発現量を示すグラフである(p:Csgalnact1遺伝子、q:Csgalnact2遺伝子、r:Chpf遺伝子、s:Xylt2遺伝子、t:Ext1遺伝子)。
【
図3】
図3は、QGを投与したマウスの大腿骨関節部のコンドロイチン硫酸量を示すグラフである。
【
図4】
図4は、QGを投与したマウスの膝関節部の軟骨部の面積を示すグラフである。
図4に示す相対面積は、コントロール群の膝関節部の軟骨部の面積を1とした場合の、QG投与群の当該面積の相対値である。
【
図5】
図5Aは、ケルセチンを添加した細胞におけるCsgalnact1遺伝子の発現量を示すグラフである。
図5Bは、ケルセチンを添加した細胞におけるCsgalnact2遺伝子の発現量を示すグラフである。
図5Cは、ケルセチンを添加した細胞におけるXylt2遺伝子の発現量を示すグラフである。
図5Dは、ケルセチンを添加した細胞におけるB3galt1遺伝子の発現量を示すグラフである。
【
図6】
図6Aは、ケルセチンを添加した細胞におけるChsy1遺伝子の発現量を示すグラフである。
図6Bは、ケルセチンを添加した細胞におけるChpf2遺伝子の発現量を示すグラフである。
図6Cは、ケルセチンを添加した細胞におけるExt1遺伝子の発現量を示すグラフである。
図6Dは、ケルセチンを添加した細胞におけるExt2遺伝子の発現量を示すグラフである。
【
図7】
図7は、5μMケルセチンを添加したOSCV2細胞におけるコンドロイチン硫酸量を示すグラフである。
【
図8】
図8は、コンドロイチン硫酸(CS)及びヘパラン硫酸(HS)の合成経路と関連する酵素の名称を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物は、ケルセチン又はその配糖体を有効成分として含有する。本発明のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物を、以下では単に本発明の組成物ともいう。
【0012】
本明細書において、「ケルセチン」とは、ポリフェノールの一種であるフラボノールに属する化合物であるケルセチンを意味する。本発明において、「ケルセチン配糖体」とは、上記ケルセチンの配糖体を意味し、具体的にはケルセチンの3位の水酸基に1以上の糖がグリコシド結合した一連の化合物の総称である。ケルセチン配糖体は、下記一般式で示される化合物である。下記一般式中の(X)nは、糖鎖を表す。Xは糖(単糖)を表し、nは1以上の整数である。ケルセチン配糖体は、1種の化合物であってもよく、2種以上の化合物であってよい。
【0013】
【0014】
ケルセチンにグリコシド結合するXで表される糖鎖を構成する糖は、例えば、グルコース、ラムノース、ガラクトース、グルクロン酸等であり、好ましくはグルコース、ラムノースである。また、nは1以上であれば、特に制限されないが、好ましくは1~16、より好ましくは1~8である。nが2以上であるとき、X部分は1種類の糖からなっていてもよく、複数種の糖からなっていてもよい。換言すると、nが2以上であるとき、(X)nは、1種類の糖からなる糖鎖であってもよく、複数種の糖からなる糖鎖であってもよい。本発明におけるケルセチン配糖体は、既存のケルセチン配糖体を、酵素などで処理して糖転移させたものも含む。本発明でいうケルセチン配糖体は、具体的には、ルチン、酵素処理ルチン、クエルシトリン、イソクエルシトリンなどを含む。本発明において、ケルセチン配糖体として、ルチンの酵素処理物を使用することが、特に好ましい。ルチンの酵素処理物の好ましい例として、ルチンを酵素処理してラムノース糖鎖部分を除去したイソクエルシトリン、イソクエルシトリンを糖転移酵素で処理して得られるイソクエルシトリンにグルコース1~7個からなる糖鎖が結合したもの、及びその混合物を主成分とするものが挙げられる。一態様において、ケルセチン配糖体として、ケルセチンの3位の水酸基に1~8個のグルコースがグリコシド結合した化合物(例えば、イソクエルシトリン、イソクエルシトリンに1~7個のグルコースが結合した配糖体)等が好ましい。
摂取されたケルセチン配糖体は、腸管内で糖が切断されてアグリコン(ケルセチン)になってから体内へ吸収される。
【0015】
本発明において、ケルセチン又はその配糖体を得るための由来、製法については特に制限はない。例えば、ケルセチン又はその配糖体を多く含む植物として、ソバ、エンジュ、ケッパー、リンゴ、茶、タマネギ、ブドウ、ブロッコリー、モロヘイヤ、ラズベリー、コケモモ、クランベリー、オプンティア、葉菜類、柑橘類などが知られており、これらの植物からケルセチン又はその配糖体を得ることができる。
ケルセチン又はその配糖体は、化学合成品を使用することもできる。本発明においては、本発明の効果を奏することになる限り、ケルセチン又はその配糖体を含む植物の抽出物等の植物由来原料等を組成物に含有させてもよい。精製又は単離されたケルセチン又はその配糖体を使用してもよい。
【0016】
ケルセチン又はその配糖体は、天然物や飲食品に含まれ、食経験がある化合物である。このため安全性の観点から、ケルセチン又はその配糖体は、例えば毎日摂取することにも問題が少ないと考えられる。本発明によれば、安全性が高い物質を有効成分として含むコンドロイチン硫酸合成促進用組成物を提供することができる。
【0017】
コンドロイチン硫酸は、D-グルクロン酸がN-アセチル-D-ガラクトサミンに結合した二糖単位の繰り返し構造を有する糖鎖に、硫酸が結合した構造を有する。コンドロイチン硫酸の糖鎖部分は、糖転移酵素によって合成される。
図8に、コンドロイチン硫酸(CS)及びヘパラン硫酸(HS)の合成経路と関連する酵素の名称を示す(参考文献:生化学 87(6): 744-748 (2015))。
軟骨等においては、プロテオグリカンのコアタンパク質へのコンドロイチン硫酸(CS)鎖の付加は、まずコアタンパク質内のコンドロイチン硫酸結合配列内のセリン残基(Ser)にキシロース(Xyl)、2分子のガラクトース(Gal)、D-グルクロン酸(GlcA)が順番に転移してXyl-Gal-Gal-GlcAの糖鎖が合成される。セリン残基へのXylの転移は、キシローストランスフェラーゼ(XylT)によって、XylへのGalの転移は、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(B4GalT)によって、1つ目のGalへの2つ目のGalの転移は、β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(B3GalT)によって、GalへのGlcAの転移はβ-1,3-グルクロニルトランスフェラーゼ(B3GaT)によって行われる。次に、非還元末端(伸長していく側)のGlcAにN-アセチル-D-ガラクトサミン(GalNAc)が転移する。このGalNAcの転移は、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1(CSGalNacT1)又はコンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ2(CSGalNacT2)によって行われる。その後、非還元末端のGalNAcにGlcA、GalNAcが順次交互に転移していき、糖鎖が伸長する。この糖鎖伸長過程は、CSGalNacT1、CSGalNacT2、コンドロイチン重合因子(Chondroitin polymerizing factor)2(Chpf2)、コンドロイチン硫酸合成酵素1、2及び3(ChSy1、ChSy2及びChSy3)によって進行する。CSGalNacT1及びCSGalNacT2は、GlcAにGalNAcを転移する転移活性を有する。Chpf2は、GalNAcにGlcAを転移する糖転移活性を有する。ChSy1、ChSy2及びChSy3は、GlcAにGalNAcを転移する糖転移活性と、GalNAcにGlcAを転移する糖転移活性を示す。コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進すると、コンドロイチン硫酸の合成を促進することができる。
【0018】
図8に示すように、ヘパラン硫酸(HS)鎖の付加においては、上記コアタンパク質のセリン残基に付加されたXyl-Gal-Gal-GlcAの糖鎖の非還元末端に、エクソストシン1(Ext1)、エクソストシン2(Ext2)、Ext-like1(Extl1)、Ext-like2(Extl2)、Ext-like3(Extl3)によってGalNAcが転移する。その後、非還元末端のGalNAcにGlcA、GalNAcが順次交互に転移していき、糖鎖が伸長する。
【0019】
後記の実施例に示すように、ケルセチンの存在下で細胞を培養すると、ケルセチンが存在しない場合と比較してCSGalNacT1をコードする遺伝子(Csgalnact1)、CSGalNacT2をコードする遺伝子(Csgalnact2)等のコンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素をコードする遺伝子(糖転移酵素遺伝子)の発現量が増加した。また、軟骨細胞等の細胞をケルセチンの存在下で培養すると、コントロールと比較してコンドロイチン硫酸量の有意な増加が観察された。また、ケルセチン配糖体を動物に摂取させると、膝関節においてCsgalnact1、Csgalnact2などのコンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素をコードする遺伝子の発現量が有意に増加し、関節におけるコンドロイチン硫酸量が有意に増加した。さらに、ケルセチン配糖体を摂取した動物では、関節軟骨の面積が増加した。
【0020】
従ってケルセチン又はその配糖体は、コンドロイチン硫酸の合成を促進する作用及びコンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進する作用を有する。ケルセチン又はその配糖体は、コンドロイチン硫酸合成促進のため、コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進するための有効成分として使用することができる。本発明において、コンドロイチン硫酸の合成促進、コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現促進は、好ましくは対象の体内におけるコンドロイチン硫酸の合成促進、対象の体内における当該糖転移酵素の発現促進である。
【0021】
コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素として、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1(CSGalNacT1)、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ2(CSGalNacT2)、キシローストランスフェラーゼ(XylT)、β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(B3GalT)、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(B4GalT)、コンドロイチン硫酸合成酵素1~3(ChSy1~3)、コンドロイチン重合因子(Chondroitin polymerizing factor)2(Chpf2)等が挙げられる。ヘパラン硫酸鎖の合成に関与する5種類の糖転移酵素(Ext1、Ext2、EXTL1(Extl1)、EXTL2(Extl2)、EXTL3(Extl3))は、本発明におけるコンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素には含まれない。
【0022】
本発明のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物は、コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進することができる。一態様において、本発明の組成物は、コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進することによりコンドロイチン硫酸の合成を促進するために使用することができる。コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素は、好ましくは、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ2、キシローストランスフェラーゼ2、β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ1(BGalT1)、コンドロイチン硫酸合成酵素1及びコンドロイチン重合因子2からなる群より選択される1以上である。好ましくは、本発明の組成物は、これらの1又は2以上の糖転移酵素の発現を促進することができる。好ましい態様において、本発明の組成物は、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1及び/又はコンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ2の発現を促進することができ、このような目的のために使用することができる。CSGalNacT1、CSGalNacT2は、コンドロイチン硫酸合成の起点にあたる重要な酵素として考えられている。より好ましくは、本発明の組成物は、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ1、コンドロイチン硫酸N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ2、キシローストランスフェラーゼ2及びコンドロイチン重合因子2の発現を促進することができる。
上記糖転移酵素の発現促進には、糖転移酵素をコードする遺伝子の発現促進及び当該酵素のタンパク質レベルでの発現促進が含まれ、これらのいずれか又は両方であってよい。上記遺伝子の発現促進として、mRNAの発現促進が挙げられ、好ましくはmRNAへの転写促進である。糖転移酵素のタンパク質レベルでの発現促進には、翻訳における促進が含まれる。
【0023】
一態様において、本発明の組成物は、軟骨細胞においてコンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進するためや、軟骨細胞においてコンドロイチン硫酸の合成を促進するため等に好ましく使用することができる。軟骨においてコンドロイチン硫酸の合成を促進することにより、軟骨の合成を促進することができる。一態様において、本発明の組成物は、軟骨の合成を促進するために使用することができる。軟骨の合成を促進することにより、軟骨を増加させることが可能となる。軟骨合成を促進することは、例えば、軟骨の減少予防において有用である。
【0024】
脳においてコンドロイチン硫酸の合成を促進すると、海馬での神経細胞の新生が促進されることが報告されている。また、骨芽細胞においてコンドロイチン硫酸の合成を促進すると、骨形成を促進することができる。
ケルセチン又はその配糖体は、神経細胞や骨芽細胞においてコンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進する作用を有し、コンドロイチン硫酸の合成を促進することができる。ケルセチン又はその配糖体は、神経細胞(好ましくは海馬の神経細胞)においてコンドロイチン硫酸の合成を促進し、神経を保護するために有用である。神経を保護することにより、認知機能改善効果等が期待できる。ケルセチン又はその配糖体は、骨芽細胞においてコンドロイチン硫酸の合成を促進し、骨形成を促進するために有用である。一態様において、本発明の組成物は、神経を保護するため、又は、骨形成を促進するために使用することができる。
【0025】
本発明の組成物は、治療的用途(医療用途)又は非治療的用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。非治療的とは、医療行為、すなわち人間の手術、治療又は診断を含まない概念である。
本発明の組成物は、飲食品、化粧料、医薬品、医薬部外品、飼料等の形態とすることができる。本発明の組成物は、それ自体がコンドロイチン硫酸合成促進のために用いられる飲食品、化粧料、医薬品、医薬部外品、飼料等であってもよく、これらに配合して使用される素材又は製剤等であってもよい。
本発明のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物は、一例として、剤の形態で提供することができるが、本形態に限定されるものではない。当該剤をそのまま組成物として、又は、当該剤を含む組成物として提供することもできる。一態様において、本発明のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物は、コンドロイチン硫酸合成促進剤ということもできる。
本発明の組成物は、経口用組成物、非経口用組成物のいずれであってもよいが、好ましくは経口用組成物である。本発明の組成物を対象に経口で摂取させる又は投与することにより、又は、非経口投与することにより、対象においてコンドロイチン硫酸の合成を促進することができる。経口用組成物としては、飲食品、経口用の医薬品、医薬部外品、飼料が挙げられ、好ましくは飲食品又は経口用医薬品であり、より好ましくは飲食品である。非経口用組成物として、化粧料、非経口用医薬品、非経口用医薬部外品が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない限り、ケルセチン又はその配糖体に加えて、任意の添加剤、任意の成分を含有することができる。これらの添加剤及び成分は、組成物の形態等に応じて選択することができ、一般的に飲食品、化粧料、医薬品、医薬部外品、飼料等に使用可能なものが使用できる。本発明の組成物を、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等とする場合、その製造方法は特に限定されず、一般的な方法により製造することができる。
【0027】
例えば本発明の組成物を飲食品とする場合、ケルセチン又はその配糖体に、飲食品に使用可能な成分(例えば、食品素材、必要に応じて使用される食品添加物等)を配合して、種々の飲食品とすることができる。飲食品は特に限定されず、例えば、一般的な飲食品、健康食品、健康飲料、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品、病者用飲食品等が挙げられる。上記健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品等は、例えば、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、ドライシロップ剤、シロップ剤、液剤、飲料、流動食等の各種製剤形態として使用することができる。
【0028】
本発明の組成物を化粧料とする場合、ケルセチン又はその配糖体に、化粧料に許容される担体、添加剤等を配合することができる。化粧料の製品形態は特に限定されない。
【0029】
本発明の組成物を医薬品又は医薬部外品とする場合、例えば、ケルセチン又はその配糖体に、薬理学的に許容される担体、必要に応じて添加される添加剤等を配合して、各種剤形の医薬品又は医薬部外品とすることができる。そのような担体、添加剤等は、医薬品又は医薬部外品に使用可能な、薬理学的に許容されるものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤等の1又は2以上が挙げられる。医薬品又は医薬部外品の投与(摂取)形態としては、経口又は非経口(経皮、経粘膜、経腸、注射等)投与の形態が挙げられる。本発明の組成物を医薬品又は医薬部外品とする場合、経口用医薬品又は医薬部外品とすることが好ましい。経口投与のための剤形としては、液剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁液、乳剤、チュアブル剤等が挙げられる。非経口投与のための剤形として、注射剤、点滴剤、皮膚外用剤(貼付剤、クリーム剤、軟膏等)等が挙げられる。医薬品は、非ヒト動物用医薬であってもよい。
【0030】
本発明の組成物を飼料とする場合には、ケルセチン又はその配糖体を飼料に配合すればよい。飼料には飼料添加剤も含まれる。飼料としては、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料;ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料;犬、猫、小鳥等に用いるペットフードなどが挙げられる。
【0031】
本発明の組成物に含まれるケルセチン又はその配糖体の含有量は特に限定されず、その形態等に応じて設定することができる。本発明の組成物中のケルセチン又はその配糖体の含有量は、例えば、ケルセチン換算値として、該組成物中に0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、また、80重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。一態様において、ケルセチン又はその配糖体の含有量は、ケルセチン換算値として、本発明の組成物中に0.01~80重量%が好ましく、0.1~50重量%がより好ましい。
ケルセチン又はその配糖体の含有量は、公知の方法に従って測定することができ、例えば、HPLC法などを用いることができる。
【0032】
本発明の組成物は、通常、対象に摂取又は投与されるものである。本発明の組成物の投与経路は特に限定されず、その形態に応じた適当な方法で摂取又は投与することができる。一態様において、本発明の組成物は、経口で摂取(経口投与)されることが好ましい。本発明の組成物の投与量(摂取量ということもできる)は特に限定されず、コンドロイチン硫酸合成促進効果、コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現促進効果が得られるような量であればよく、投与形態、投与方法等に応じて適宜設定すればよい。
【0033】
一態様において、本発明の組成物をヒト(成人)に摂取させる又は投与する場合、ケルセチン又はその配糖体の投与量は、ケルセチン換算値として、1日当たり体重60kgあたり、好ましくは0.3mg以上、より好ましくは1.0mg以上、さらに好ましくは10mg以上、また、好ましくは4000mg以下、より好ましくは2000mg以下、さらに好ましくは1000mg以下である。一態様において、ケルセチン又はその配糖体の投与量は、ケルセチン換算値として、ヒト(成人)であれば、1日当たり体重60kgあたり、好ましくは0.3~4000mg、より好ましくは1.0~2000mg、さらに好ましくは1.0~1000mg、特に好ましくは10~1000mgである。上記量を、1日1回以上、例えば、1日1回~数回(例えば2~3回)に分けて、摂取させる又は投与することが好ましい。一態様においては、上記量のケルセチン又はその配糖体を、ヒトに経口で摂取させる又は投与することが好ましい。本発明の一態様において、本発明の組成物は、ヒトに、体重60kgあたり、1日あたり上記量のケルセチン又はその配糖体を摂取させる又は投与するために使用することができる。
【0034】
本発明の組成物は、継続して摂取又は投与されるものであることが好ましい。ケルセチン又はその配糖体を継続的に摂取又は投与することによって、コンドロイチン硫酸合成促進効果が高まることが期待される。一態様において、本発明の組成物は、好ましくは1週間以上、より好ましくは4週間以上、さらに好ましくは8週間以上継続して摂取又は投与されることが好ましい。
【0035】
本発明の組成物は、コンドロイチン硫酸合成促進により予防又は改善が期待できる状態又は疾患の予防又は改善のために使用することができる。このような状態又は疾患として、コンドロイチン硫酸量の減少に起因する状態又は疾患が挙げられ、例えば、変形性膝関節症、変形性股関節症、脊椎管狭窄症、骨粗鬆症等が挙げられる。一態様において、本発明の組成物は、認知機能低下の予防又は改善のため、認知症の予防又は改善のために使用することができる。本明細書において、状態又は疾患の予防は、発症を防止すること、発症を遅延させること、発症率を低下させること、発症のリスクを軽減すること等を包含する。状態又は疾患の改善は、対象を状態又は疾患から回復させること、状態又は疾患の症状を軽減すること、状態又は疾患の症状を好転させること、状態又は疾患の進行を遅延させること、防止すること等を包含する。
【0036】
本発明の組成物を摂取させる又は投与する対象(投与対象ということもできる)は、特に限定されない。好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
一態様において、投与対象として、コンドロイチン硫酸合成促進を必要とする又は希望する対象及びコンドロイチン硫酸量の減少に起因する状態又は疾患の予防又は改善を必要とする又は希望する対象等が挙げられる。コンドロイチン硫酸量の減少は、加齢によるコンドロイチン硫酸量の減少であってよく、中高年者における加齢によるコンドロイチン硫酸量の減少であってよい。
一態様において、本発明における投与対象として、中高年者が挙げられる。中高年者は、高齢者を含む。中高年者の中でも、対象として高齢者が好ましい。本発明において、中高年者は、例えば、40歳以上のヒトであってよい。高齢者は、例えば、60歳以上又は65歳以上のヒトであってよい。一態様において、本発明の組成物は、中高年者用のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物として好適に使用される。
本発明の組成物は、例えば、コンドロイチン硫酸合成促進により予防又は改善が期待できる状態又は疾患の予防等を目的として、健常者に対して使用することもできる。
【0037】
本発明の組成物には、コンドロイチン硫酸合成促進により発揮される機能の表示が付されていてもよい。本発明のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物には、例えば、「軟骨量の維持」、「軟骨摩耗の抑制」、「軟骨変性の抑制」、「ひざ関節の不具合の軽減」「ひざ関節機能の維持」、「移動時のひざ関節の悩みを改善」、「ひざ関節の違和感を緩和」、「ひざの曲げ伸ばしを伴う動きを改善」、「加齢により衰えるひざ関節機能を維持」、「ひざ関節の軟骨を保護する働きにより、歩く、立つ、座るなど、移動機能の低下を感じている方のひざの曲げ伸ばしを円滑にし、歩行能力の向上を助ける」等の1又は2以上の機能の表示が付されていてもよい。上記機能の表示には、上記機能がコンドロイチン硫酸の合成を促進することにより得られる機能であることが記載されていてもよい。
一態様において、本発明の組成物は、上記の表示が付された飲食品であることが好ましい。また上記の表示は、上記の機能を得るために用いる旨の表示であってもよい。当該表示は、組成物自体に付されてもよいし、組成物の容器又は包装に付されていてもよい。
【0038】
本発明は、以下の方法及び使用も包含する。
ケルセチン又はその配糖体を投与する、コンドロイチン硫酸の合成を促進する方法。
コンドロイチン硫酸の合成を促進するための、ケルセチン又はその配糖体の使用。
上記方法及び使用は、治療的な方法又は使用であってもよく、非治療的な方法又は使用であってもよい。ケルセチン又はその配糖体を投与する(摂取させる)と、コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現量を増加させることができる。ケルセチン又はその配糖体を投与すると、コンドロイチン硫酸の合成を促進することができる。上記方法は、コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進することによりコンドロイチン硫酸の合成を促進する方法であってよい。上記使用は、コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進することによりコンドロイチン硫酸の合成を促進するための、ケルセチン又はその配糖体の使用であってよい。コンドロイチン硫酸の合成促進は、例えば、軟骨におけるコンドロイチン硫酸の合成促進であってよい。ケルセチン又はその配糖体は、上記のコンドロイチン硫酸合成促進により予防又は改善が期待できる状態又は疾患の予防又は改善のために使用することができる。
【0039】
上記方法及び使用においては、1日に1回以上、例えば、1日1回~数回(例えば2~3回)、ケルセチン又はその配糖体を対象に投与する(摂取させる)ことが好ましい。上記の使用は、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物、より好ましくはヒトにおける使用である。ケルセチン又はその配糖体は上記の通りである。
【0040】
上記方法及び使用においては、コンドロイチン硫酸合成促進作用が得られる量(有効量ということもできる)のケルセチン又はその配糖体を使用すればよい。ケルセチン又はその配糖体の好ましい投与量、投与対象、投与方法等は上述した本発明のコンドロイチン硫酸合成促進用組成物と同じである。ケルセチン又はその配糖体は、そのまま投与してもよく、これを含む組成物として投与してもよい。例えば、上述した本発明の組成物を使用してもよい。ケルセチン又はその配糖体は、経口投与(摂取)されることが好ましい。
【0041】
ケルセチン又はその配糖体は、コンドロイチン硫酸の合成を促進するために使用される飲食品、化粧料、医薬品、医薬部外品、飼料等の製造のために使用することができる。一態様において、本発明は、コンドロイチン硫酸合成促進用組成物を製造するための、ケルセチン又はその配糖の使用も包含する。コンドロイチン硫酸合成促進用組成物及びその好ましい態様等は、上記の本発明の組成物と同じである。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。一連の動物実験は、動物愛護管理法他関連法令を遵守し、社内動物実験委員会の審査を経て機関の長が承認した計画に基づき実施した。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
<実施例1:ケルセチンによるコンドロイチン硫酸合成促進効果1(in vitro)>
(1)細胞の培養
HCH細胞(軟骨細胞)を10%ウシ胎児血清含有Dulbecco’s Modified Eagle Medium(Sigma-Aldrich社)で100%コンフルエントになるまで培養した。
【0044】
(2)細胞を用いたコンドロイチン硫酸量の定量
HCH細胞の培地に5μMのケルセチンを添加し、培養した。ケルセチンは、Dimethyl sulfoxide(DMSO)に溶解して添加した。添加4日後の培養細胞のコンドロイチン硫酸量を抗コンドロイチン硫酸抗体(CS-56)によるCell ELISAシステムで定量した。コントロールの細胞は、DMSOを添加する以外は同じ方法で培養を行い、コンドロイチン硫酸を定量した。各群の平均値の差はStudent’s t test検定を用いて検定し、5%以下を有意とした(*:p<0.05 vs コントロール)。
【0045】
結果を
図1に示す(*:p<0.05 vs コントロール)。
図1は、5μMケルセチンを添加したHCH細胞のコンドロイチン硫酸量を示すグラフである。
図1において、縦軸の相対CSレベルは、コントロールとしてDMSOを添加した細胞のコンドロイチン硫酸(CS)量を1としたときの、ケルセチンを添加した細胞におけるCS量の相対値である(いずれもN=4の平均±標準偏差)。
図1において、「ケルセチン」がケルセチン添加培地で培養した細胞である。5μMケルセチンの添加により、HCH細胞においてコンドロイチン硫酸産生量の有意な増加が確認された。
【0046】
<遺伝子発現量の定量方法>
以下の実施例において、細胞又は組織における遺伝子発現量の測定は、細胞又は組織からRNAを単離し、以下の方法で行った。
単離したRNAから、High-Capacity cDNA Reverse Transcriptional Kits(Thermo Fisher Scientific社)を用いてcDNA合成を行った。Quantstudio Real Time PCR System(Thermofisher)にて、TaqMan Fast Universal PCR Mastermix(Thermo Fisher Scientific社)を使用して定量的PCRを行い、コンドロイチン硫酸又はヘパラン硫酸の合成に関わる糖転移酵素をコードする遺伝子(糖転移酵素遺伝子)の発現量を定量した。各群の平均値の差はDunnett’s t test検定を用いて検定し、5%以下を有意とした(*:p<0.05 vs ケルセチン0μM)。実施例2及び3で定量した遺伝子の種類、該遺伝子がコードするタンパク質、並びに、測定のために使用したPCRプライマー及びプローブを表1に示した。また遺伝子解析を実施した各酵素のグリコサミノグリカン合成経路における位置づけを
図8に示す。
【0047】
【0048】
<実施例2:ケルセチン配糖体によるコンドロイチン硫酸合成促進効果(in vivo)>
(1)マウスへのケルセチン配糖体の投与
36週齢のC57BL/6Jの野生型(WT)マウス及びCsgalnact1遺伝子ノックアウト(T1-KO)マウスを、蒸留水を飲水させる群(コントロール群)又は4.5g/Lケルセチン配糖体(QG)を含有する蒸留水を飲水させる群(QG投与群)に体重が均等になるように分けた。QG投与群のWTマウス(WT-QG)及びT1-KOマウス(KO-QG)には、上記のケルセチン配糖体を含有する蒸留水を18週間摂取させた。1日当たり体重当たりのケルセチン配糖体の摂取量は、ケルセチン換算で117mg/kgであった。コントロール群のWTマウス(WT-コントロール)及びT1-KOマウス(KO-コントロール)には、蒸留水を18週間摂取させた。ケージはすべて単独飼育として、ケージ内には運動負荷をかけるためソーサー型輪転自発走行を計測できる機器(室町機械(株))を置いて一定量の自発運動を促した。飲水投与開始18週間後に、膝関節部組織を採取した。採取した膝関節部組織を用いて、遺伝子発現量、コンドロイチン硫酸量及び関節軟骨量を測定した。実施例2において、ケルセチン配糖体には、イソクエルシトリンを糖転移酵素で処理して得られる、イソクエルシトリンにグルコース1~7個からなる糖鎖が結合した酵素処理イソクエルシトリンを使用した。
【0049】
(2)マウス組織を用いた遺伝子発現量の定量
採取した膝関節部から、RNeazy Mini Kit(QIAGEN社)を用いてRNAを単離した。単離したRNAを用いて、上記の遺伝子発現量の定量方法に記載の方法でcDNA合成を行い、定量的RT-PCRにて、コンドロイチン硫酸又はヘパラン硫酸の合成に関与する糖転移酵素遺伝子の発現量を定量した(N=12)。定量した遺伝子は、表1に記載のCsgalnact1、Csgalnact2、Chpf2、Xylt2及びExt1である。各群の平均値の差はStudent’s t test検定を用いて検定し、5%以下を有意とした(*:p<0.05 vs コントロール)。
【0050】
結果を
図2に示す(*:p<0.05 vs コントロール)。
図2は、ケルセチン配糖体(QG)を投与したマウスの膝関節部組織におけるコンドロイチン硫酸合成に関与する糖転移酵素遺伝子(Csgalnact1、Csgalnact2、Chpf2及びXylt2)及びExt1の発現量を示すグラフである(N=12の平均±標準偏差)。
図2において、pはCsgalnact1を、qはCsgalnact2を、rはChpf2を、sはXylt2を、tはExt1を示す。
図2において、縦軸の相対mRNAレベルは、WTマウスのコントロール群(WT-コントロール)の遺伝子のmRNA量を1とした場合の、各群の遺伝子のmRNA量の相対値である。
【0051】
WTマウスでは、コントロール群(WT-コントロール)と比べて、QG投与群(WT-QG)において、Csgalnact1、Csgalnact2、Chpf2及びXylt2の遺伝子発現量の有意な増加が確認された。一方で、Ext1の遺伝子発現量の変動は確認されなかった。またT1-KOマウスでは、コントロール群(KO-コントロール)と比べて、QG投与群(KO-QG)において、Csgalnact2、Chpf2及びXylt2の遺伝子発現量の有意な増加が確認された。一方で、Ext1の遺伝子発現量の変動は確認されなかった。
【0052】
(3)マウス組織を用いたコンドロイチン硫酸量の定量
採取した膝関節部組織からトリクロロ酢酸沈殿によりタンパク質成分を除去し、エタノール沈殿によりグリコサミノグリカン画分を濃縮した。脱塩後、コンドロイチナーゼによりグリコサミノグリカンを分解し、2-アミノベンズアミドで蛍光標識した2糖単位のコンドロイチン硫酸を、下記の条件で、高速液体クロマトグラフィー((株)島津製作所)で定量した(N=6)。
【0053】
<HPLC条件>
カラム:DOCOSIL SP100 5.0μm 4.6×100mm((株)センシュー科学)
ガードカラム:Myghtysil RP-18GP 5.0μm,4.6×10mm(関東化学(株))
溶出液:
A.蒸留水
B.0.2M NaCl
C.10mM Tetrabutyl ammonium hydrogen sulfate
D.50% Acetonitril
グラジエント条件:
0-10min:A(70%)、B(1%)、C+D(29%)(C(12%)、D(17%))
10-11min:A(67%)、B(4%)、C+D(29%)(C(12%)、D(17%))
11-20min:A(61%)、B(10%)、C+D(29%)(C(12%)、D(17%))
20-26min:A(53%)、B(18%)、C+D(29%)(C(12%)、D(17%))
26-28min:A(35%)、B(36%)、C+D(29%)(C(12%)、D(17%))
28-37min:A(18%)、B(53%)、C+D(29%)(C(12%)、D(17%))
37-57min:A(70%)、B(1%)、C+D(29%)(C(12%)、D(17%))
流速(溶出液):1.1mL/min
反応液:
A.0.5% 2-cyanoacetate solution
B.0.25M NaOH
流速(反応液):0.7mL/min
注入量:50μL
蛍光モニター:EX 346nm、EM 410nm、AT 64、Gain ×100
インテグレーター:End Time 40min、Speed 2min/min、AT 512
【0054】
各群の平均値の差はStudent’s t test検定を用いて検定し、5%以下を有意とした(*:p<0.05 vs コントロール)。
【0055】
結果を
図3に示す(*:p<0.05 vs コントロール)。
図3は、ケルセチン配糖体(QG)を投与したマウスの膝関節部のコンドロイチン硫酸量を示すグラフである(N=6の平均±標準偏差)。
図3において、縦軸の相対CSレベルは、WTマウスのコントロール群のコンドロイチン硫酸(CS)量を1とした場合の、各群のCS量の相対値である。WT及びT1-KOマウスでは、コントロール群(WT-コントロール及びKO-コントロール)と比べて、QG投与群(WT-QG及びKO-QG)においてコンドロイチン硫酸量の有意な増加が確認された。ケルセチン配糖体の摂取によって、膝関節部のコンドロイチン硫酸量が増加した。
【0056】
(4)マウス組織を用いた関節軟骨量の定量
採取した膝関節部組織をホルマリン固定し、連続パラフィン切片として試料作製を行った。関節部において最も領域の広い中心部を面出しするとともに、そこから100マイクロメートル毎の切片を1組織当たり20枚選択し、HE染色によってそれぞれの面積変動幅が同一となるように計測した。関節軟骨部の面積を画像解析ソフトimage Jによって定量した(N=18)。各群の平均値の差はStudent’s t test検定を用いて検定し、5%以下を有意とした(*:p<0.05 vs コントロール)。
【0057】
結果を
図4に示す(*:p<0.05 vs コントロール)。
図4は、ケルセチン配糖体を投与したマウスの膝関節部の軟骨部の面積を示すグラフである。
図4に示す相対面積は、WTマウスのコントロール群の軟骨部の面積を1とした場合の、各群の軟骨部の面積の相対値である。
WTマウスでは、コントロール群(WT-コントロール)と比べて、QG投与群(WT-QG)において関節軟骨部面積の有意な増加が確認された。一方でT1-KOマウスでは、コントロール群(KO-コントロール)に比べてQG投与群(KO-QG)で増加傾向にあるものの、有意な変動は認められなかった。
【0058】
<実施例3:ケルセチンによるコンドロイチン硫酸合成促進効果2(in vitro)>
(1)各種細胞の培養
C6細胞(グリア系細胞)、SKOV3細胞(卵巣腺腫細胞)、C1300細胞(神経芽細胞)、KINGS1細胞(グリア系細胞)、NM-CG1細胞(グリア系細胞)、MC3T3-E1細胞(骨芽細胞)、OSCV2細胞(破骨細胞)を10%ウシ胎児血清含有Dulbecco’s Modified Eagle Medium(Sigma-Aldrich社)で100%コンフルエントになるまで培養した。
【0059】
(2)細胞を用いた遺伝子発現量の定量
各種細胞(C6細胞、SKOV3細胞、C1300細胞、KINGS1細胞、NM-CG1細胞、MC3T3-E1細胞)にDMSO又は0.5μM、1μM若しくは5μMのケルセチンを添加した。添加2時間後の細胞からRNeazy Mini Kit(QIAGEN社)を用いてRNAを単離した。単離したRNAを用いて、上記の遺伝子発現量の定量方法に記載の方法で、cDNA合成及び定量的PCRを行い、コンドロイチン硫酸又はヘパラン硫酸の合成に関わる糖転移酵素遺伝子の発現量を定量した。各群の平均値の差はDunnett’s t test検定を用いて検定し、5%以下を有意とした(*:p<0.05 vs ケルセチン0μM)。定量した遺伝子は、表1に記載のCsgalnact1、Csgalnact2、Xylt2、B3galt1、Chsy1、Chpf2、Ext1及びExt2である。
【0060】
結果を
図5A、
図5B、
図5C、
図5D、
図6A、
図6B、
図6C及び
図6Dに示す(*:P<0.05、vs ケルセチン0μM)。
図5Aは、ケルセチンを添加した細胞におけるCsgalnact1遺伝子の発現量を示すグラフである。
図5Bは、ケルセチンを添加した細胞におけるCsgalnact2遺伝子の発現量を示すグラフである。
図5Cは、ケルセチンを添加した細胞におけるXylt2遺伝子の発現量を示すグラフである。
図5Dは、ケルセチンを添加した細胞におけるB3galt1遺伝子の発現量を示すグラフである。
図6Aは、ケルセチンを添加した細胞におけるChsy1遺伝子の発現量を示すグラフである。
図6Bは、ケルセチンを添加した細胞におけるChpf2遺伝子の発現量を示すグラフである。
図6Cは、ケルセチンを添加した細胞におけるExt1遺伝子の発現量を示すグラフである。
図6Dは、ケルセチンを添加した細胞におけるExt2遺伝子の発現量を示すグラフである。
図5A~
図5D及び
図6A~
図6D中、aはC6細胞、bはSKOV3細胞、cはC1300細胞、dはKINGS1細胞、eはNM-CG1細胞、fはMC3T3-E1SK細胞をそれぞれ示す。
図5A~
図5D及び
図6A~
図6Dにおいて、遺伝子の発現量は、相対mRNAレベルで示した。相対mRNAレベルは、コントロールとしてDMSOを添加した細胞(ケルセチン濃度0μM)における各遺伝子のmRNA量を1としたときの、ケルセチンを添加した細胞(ケルセチン濃度0.5μM、1μM又は5μM)におけるmRNA量の相対値(N=8の平均±標準偏差)である。
【0061】
5μMケルセチンの添加により、Csgalnact1及びCsgalnact2はいずれの細胞においても遺伝子発現量の有意な増加が確認された(
図5A及び
図5B)。Xylt2はC6細胞、C1300細胞、KINGS1細胞、NM-CG1細胞及びMC3T3-E1細胞において(
図5C)、B3galt1はSKOV3細胞、KINGS1細胞及びMC3T3-E1細胞において(
図5D)、Chsy1はSKOV3細胞、C1300細胞、KINGS1細胞、NM-CG1細胞およびMC3T3-E1細胞において(
図6A)、Chpf2はSKOV3細胞、C1300細胞、KINGS1細胞及びMC3T3-E1細胞において(
図6B)、5μMケルセチンの添加による遺伝子発現量の有意な増加が確認された。一方で、ヘパラン硫酸の合成に関与するExt1及びExt2はいずれの細胞においても遺伝子発現量の有意な変動は認められなかった(
図6C及び
図6D)。
【0062】
(3)細胞を用いたコンドロイチン硫酸量の定量
OSCV2細胞の培地に5μMのケルセチンを添加し、培養した。添加4日後の培養細胞のコンドロイチン硫酸量を抗コンドロイチン硫酸抗体(CS-56)によるCell ELISAシステムで定量した。コントロールの細胞は、DMSOを添加する以外は同じ方法で培養を行い、コンドロイチン硫酸を定量した。各群の平均値の差はStudent’s t test検定を用いて検定し、5%以下を有意とした(*:p<0.05 vs コントロール)。
【0063】
結果を
図7に示す(*:p<0.05 vs コントロール)。
図7は、5μMケルセチンを添加したOSCV2細胞におけるコンドロイチン硫酸量を示すグラフである。
図7において、縦軸の相対CSレベルは、コントロールとしてDMSOを添加した細胞におけるコンドロイチン硫酸(CS)量を1としたときの、ケルセチンを添加した細胞におけるCS量の相対値である(いずれもN=4の平均±標準偏差)。
図7において、「ケルセチン」がケルセチン添加培地で培養した細胞である。5μMケルセチンの添加により、コンドロイチン硫酸量の有意な増加が確認された。
【0064】
以上の結果より、ケルセチン又はその配糖体は、コンドロイチン硫酸の合成に関与する糖転移酵素の発現を促進する作用、コンドロイチン硫酸の合成を促進する作用を有することが分かった。ケルセチン又はその配糖体は、関節軟骨量を増加させる作用を有した。
【配列表】