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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】塵芥流出抑制装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 15/00 20060101AFI20250128BHJP
   E02B 7/20 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
E02B15/00 Z
E02B7/20 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022018576
(22)【出願日】2022-02-09
(65)【公開番号】P2023116042
(43)【公開日】2023-08-22
【審査請求日】2023-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000111395
【氏名又は名称】株式会社テクアノーツ
(74)【代理人】
【識別番号】100136928
【弁理士】
【氏名又は名称】高宮 章
(72)【発明者】
【氏名】岡 幸治
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-197547(JP,A)
【文献】特開平11-222837(JP,A)
【文献】特開昭58-081722(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0226172(US,A1)
【文献】特開2014-015760(JP,A)
【文献】特開2007-039950(JP,A)
【文献】中国実用新案第211143026(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2002/0185449(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1885521(KR,B1)
【文献】特開2010-253426(JP,A)
【文献】特開2017-136567(JP,A)
【文献】特開平10-231514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 15/00
E02B 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上に浮かぶ浮力を有するフロートと、
該フロートに連結され少なくとも一部が水中に張設されるネットと、
該ネットに沿って縦方向に長く設けられた剛体製の押え部材を有し水流れ方向への該ネットの傾きを抑制しうる傾斜抑制手段と、を備え
前記傾斜抑制手段は、該ネットの上部であって該ネットの水流れ方向の一方又は両側に配置された傾斜抑制フロートを有するとともに、該傾斜抑制フロートを連結するベース体に該押え部材の上端が連結されることにより構成されたユニットを一つ又は複数有し、
該傾斜抑制手段は、該ユニットが該ネット又は該フロートに対して後付けで装着可能に設けられたことを特徴とする塵芥流出抑制装置。
【請求項2】
前記傾斜抑制手段の押え部材は、その下端が該ネットの下端と略同じ位置に設定されるか、又は該ネットの下端よりも下方向に長く延設されたことを特徴とする請求項1記載の塵芥流出抑制装置。
【請求項3】
前記傾斜抑制手段は、該押え部材の下端側に取り付けられたウエイトを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の塵芥流出抑制装置。
【請求項4】
前記傾斜抑制手段は、該ウエイトの重量を調整できるウエイト調整手段を含むことを特徴とする請求項3記載の塵芥流出抑制装置。
【請求項5】
前記傾斜抑制手段は、該ネットの横方向に沿って所定の間隔で複数の押え部材が配置されるとともに、
隣接する該押え部材どうしの間に架設された横索状体と、
該横索状体と該ネットとを連結する縦索状体と、を有することを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の塵芥流出抑制装置。
【請求項6】
水上に浮かぶ浮力を有するフロートと、該フロートに連結され少なくとも一部が水中に張設されるネットと、を有して構成される網場に取り付けられる網場の傾斜抑制ユニットであって、
該網場のネットの上部に装着可能な傾斜抑制フロートと、
該傾斜抑制フロートに連結され該ネットに沿って縦方向に長く設けられた剛体製の押え部材と、
該押え部の下端に取り付けられたウエイトと、を備えたことを特徴とする網場の傾斜抑制ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダムや貯水池、河川等において、流木や木片、塵芥、その他漂流物や流芥等が下流側へ流出するのを防止しうる塵芥流出抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムや貯水池等には、上流から流れてくる流木やゴミ等を堰き止めて下流へ流れ出るのを防止するための流木止め設備(網場)が設置されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、図(a)に示すように、従来の網場100は、浮子を横方向に間隔を設けて複数個連ねて連結したフロート部102と、該フロート部102に吊設し流木や塵芥FDなどの漂流物を捕捉するネット104と、該ネット104の下端部に水流等による捲くれ上がりを防止するように取り付けられた重錘用のチェーン106と、を含む構成のものが利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-197547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の網場は広く各地域で利用されているが、従来の網場の構造では、例えば、大雨や台風等で上流から流れてくる流木やゴミ、塵芥等の量が多い場合や水の流れが速い場合などに、図8(b)に示すように、網場100のネット104が斜めに傾いてしまい、その傾いたネットの下方を流木や塵芥FD等が通り抜けてしまい堰き止め機能が低下してしまうおそれが生じていた。特に極めて大量の流木や塵芥FD等が一度に流れてきた際等の悪い条件の場合には、ネット104が略水面WL近くまで傾いてしまうようなケースもあり、網場としてほとんど機能しえない場合も発生し、下流側の設備の損傷等の問題を引き起こしていた。
【0005】
また、大量の流木や水の流れ等による網場のネットの傾きを防止するために、例えば、従来の網場のネット下端の重錘の重量を増加することも考えられる。しかしながら、この場合に、重錘の重量は、ネットを吊設しているフロートの浮力以下に設定せざるを得ないため、増量には制限があり、実用性が低い問題があった。
【0006】
すなわち、従来の網場の構造では、流木等の量や設置場所の条件で、堰き止め機能を十分に発揮できない問題があり、より確実に流木やゴミ等を堰き止めることができるものの開発が求められている。
【0007】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、その一つの目的は、塵芥の量や水流等に左右されにくくネットの傾倒を良好に防止し、流木やゴミ等をより確実に堰き止めて下流側への流出防止を期待しうる塵芥流出抑制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、水上に浮かぶ浮力を有するフロート12と、該フロート12に連結され少なくとも一部が水中に張設されるネット14と、該ネット14に沿って縦方向に長く設けられた剛体製の押え部材28を有し水流れ方向Wへの該ネット14の傾きを抑制しうる傾斜抑制手段16と、を備え、前記傾斜抑制手段16は、該ネット14の上部であって該ネットの水流れ方向の一方又は両側に配置された傾斜抑制フロート32を有するとともに、該傾斜抑制フロート32を連結するベース体34に該押え部材28の上端が連結されることにより構成されたユニット(20)を一つ又は複数有し、該傾斜抑制手段16は、該ユニット(20)が該ネット14又は該フロート12に対して後付けで装着可能に設けられた塵芥流出抑制装置10から構成される。
【0009】
また、前記傾斜抑制手段16の押え部材28は、その下端が該ネット14の下端と同じ位置に設定されるか、又は該ネット14の下端よりも下方向に長く延設されたこととしてもよい。
【0010】
また、前記傾斜抑制手段16は、該押え部材28の下端側に取り付けられたウエイト30を含むこととしてもよい。
【0011】
また、前記傾斜抑制手段16は、該ウエイト30の重量を調整できるウエイト調整手段40を含むこととしてもよい。
【0012】
また、前記傾斜抑制手段16は、該ネット14の横方向に沿って所定の間隔で複数の押え部材28が配置されるとともに、隣接する該押え部材28どうしの間に架設された横索状体36と、該横索状体36と該ネット14とを連結する縦索状体38と、を有することとしてもよい。
【0013】
さらに、本発明は、水上に浮かぶ浮力を有するフロート12と、該フロート12に連結され少なくとも一部が水中に張設されるネット14と、を有して構成される網場18に取り付けられる網場の傾斜抑制ユニット20であって、該網場の上端側に着脱可能に装着可能な傾斜抑制フロート32と、該傾斜抑制フロート32に連結され該網場の該ネット14に沿って縦方向に長く設けられた剛体製の押え部材28と、該押え部28の下端に取り付けられたウエイト30と、を備えた傾斜抑制ユニット20から構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塵芥流出抑制装置によれば、水上に浮かぶ浮力を有するフロートと、該フロートに連結され少なくとも一部が水中に張設されるネットと、該ネットに沿って縦方向に長く設けられた剛体製の押え部材を有し水流れ方向への該ネットの傾きを抑制しうる傾斜抑制手段と、を備えたことから、剛体製の押え部材により、ネットの傾倒を抑制するモーメントが大きくなり、ネットの姿勢を保持する結果、大量の流木やゴミ等を確実に保持することができる。また、前記傾斜抑制手段の押え部材は、該ネットの下端よりも下方向に長く延設されたり、該押え部材の下端側に取り付けられたウエイトを含む構成とすることにより、ネットの傾倒を抑制するモーメントを大きく発生させることができ、ネットの塵芥に対する対抗力を向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る塵芥流出抑制装置の正面図である。
図2図1の塵芥流出抑制装置のA-A線断面図である。
図3図1の塵芥流出抑制装置の設置状態を示す概略平面図である。
図4図1の塵芥流出抑制装置の上部拡大説明図である。
図5図1の塵芥流出抑制装置の網場と傾倒抑制手段とを分離した状態の説明図である。
図6図1の塵芥流出抑制装置の作用説明図である。
図7】本発明の塵芥流出抑制装置の傾斜抑制ユニットの他の実施例の一部を省略した拡大説明図である。
図8】(a)従来の網場の概略説明図、(b)網場のネットが傾斜した状態の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下添付図面を参照しつつ本発明の塵芥流出抑制装置の実施形態について説明する。本発明に係る塵芥流出抑制装置は、例えば、ダムや貯水池等の種々の水域に設置され、上流から流れてくる流木やゴミ、塵芥等を堰き止めて、下流側のダム設備や河川等に悪影響を及ぼすのを防止しうる流木止め設備である。図1ないし図6は、本発明の塵芥流出抑制装置の一実施形態を示している。図1図2図3に示すように、本実施形態に係る塵芥流出抑制装置10は、フロート12と、ネット14と、該ネット14に装着された押え部材28を含む傾斜抑制手段16と、を備えている。
【0017】
本実施形態では、例えば、塵芥流出抑制装置10をダムDMに設置した例で説明する。図3に示すように、塵芥流出抑制装置10は、ダムDMの水流れ方向Wに横断状に交差するように架設され、水域を分画するように設置される。塵芥流出抑制装置10は、フロート12と、ネット14と、により網場18を構成しており、該網場18に傾斜抑制手段16を組み合わせることにより構成されている。なお、本実施形態では、流木、植物、ゴミ、その漂流物、流芥等の塵芥等を含めて塵芥FDとする。
【0018】
フロート12は、水上に浮かぶ浮力を有し、ネット14を浮力支持する浮力支持手段である。本実施形態では、フロート12は、例えば、従来の網場のものと略同じ構造で構成されている。図1図4に示すように、フロート12は、例えば、ダムDMに横断状に架け渡された上下2本のロープ22a、22bを介して、複数のフロート12が所定間隔をあけて離隔して配置されている。フロート12は、例えば、合成樹脂製で内部を中空とした略円筒状の浮子内部に発泡スチロールの発泡樹脂等を充填又は空気を充填して、所定の浮力に設定されている。なお、フロート12のサイズ形状、浮力の大きさ、個数等は任意でもよい。各フロート12の上端側と下端側に設けられた連結部を介して、上下ロープ22a、22bに対して位置固定状に連結されている。
【0019】
複数のフロート12を連結している上下ロープ22a,22bは、フロート12の上下幅に合わせた間隔で略平行状に架設されている。上下ロープ22a、22bの両端は、ダムDMの両岸BKにアンカー24を介して固定されている。上下ロープ22a、22bの長さは、水深の変化等に対応できるようにダムDMの横断長さよりも長く形成されている。
【0020】
ネット14は、フロート12に連結されつつ、少なくとも一部を水中に配置させるように設置され、水を通流させつつ、上流側から流れてくる流木や塵芥FD等を捕捉して堰き止める塵芥等の流出防止用網体である。本実施形態では、ネット14は、例えば、可撓性素材で形成されており、ある程度の大きさの塵芥FD等を捕捉しつつ水を通流しうる程度のメッシュ大きさで形成されている。図1に示すように、ネット14は、例えば、上ロープ22aと下ロープ22bとの間でかつ隣接するフロート12どうし間に張設された上ネット部14aと、該フロート12及び上ネット部14aの下方すなわち下ロープ22bの下方に沿って横長に張設された下ネット部14bと、で構成されている。
【0021】
上ネット部14aは、上辺側が上ロープ22aに連結され、下辺側が下ロープ22bに連結され、さらに左右両辺側はフロート12に連結されて、可撓自在に張られている。下ネット部14bは、上辺側が下ロープ22bに連結されるとともに、下端側には、水の流れ等による該ネットの捲れ上がりを防止するための重錘として金属製の重錘チェーン26が取り付けられた状態で、可撓自在に張設されている。図1では、複数のチェーン26が、複数のフロート12の設置位置に対応して該フロート12の真下となる位置に取り付けられている。なお、チェーン26は、ネット14の下端全体に取り付けられていてもよいし、任意の間隔で間欠的に取り付けられていてもよい。また、傾斜抑制手段16によりネット14の傾斜を十分に防止しる場合には、ネット14の下端のチェーン26を設けない構成とすることとしてもよい。
【0022】
傾斜抑制手段16は、ネット14の下端が上端側よりも水の流れ方向に移動して同下端が水面側に移動してしまうような大きな角度で傾斜するのを防止又は抑制するためのネット傾斜抑制手段である。傾斜抑制手段16は、ネット14が大量の流木や塵芥FD等が流れてきた際や、水の流れが速い場所に網場を設置した等で、ネット14に比較的大きな負荷が生じた場合でも、該ネット14が傾斜するのを良好に防止・抑制して、該ネットの下方から塵芥FD等が流れ出るのを防止することができる。
【0023】
図1図2図4図5に示すように、傾斜抑制手段16は、本実施形態では、剛体製の押え部材28と、該押え部材28の下端に取り付けられたウエイト30と、を備えている。さらに、傾斜抑制手段16は、押え部材28と連結される傾斜抑制フロート32であって、ネット14の上部側の両面側に対向配置された複数の傾斜抑制フロート32を有している。対向した傾斜抑制フロート32どうしはベース体34を介して連結されるとともに、該ベース体34に押え部材28の上端が連結されている。
【0024】
本実施形態では、2本の押え部材28と、該押え部材28の下端に配置されたウエイト30と、ネット14の両面側に対向配置された2つの傾斜抑制フロート32と、該傾斜抑制フロートどうしを連結するベース体34と、が1つのユニットとして構成されて傾斜抑制ユニット20となっている。複数の傾斜抑制ユニット20がネット14の横方向に所定間隔をあけて取り付けられて、傾斜抑制手段16として機能している。すなわち、傾斜抑制手段16は、複数の傾斜抑制ユニット20を含む。
【0025】
図1図2に示すように、剛体製の押え部材28は、本実施形態では、ネット14に沿って縦方向に直線状に長く設けられている。押え部材28は、例えば、ステンレス等の硬質金属材料で形成された角パイプ、角棒等の長尺直状部材からなる。押え部材28は、高い剛性とその長さにより、比較的大きなモーメントを保持した剛体製長尺部材であることから、大量の塵芥FD等や流速が速い水流等の大きな負荷によりネット14を傾斜させようと作用する力に抗するように該押え部材28の該モーメントが逆回転方向に生じる結果、該ネット14の姿勢を保持するように該ネットが大きく傾斜するのを防止・抑制しうる。その結果、該ネットで塵芥等を確実に堰き止めしうる。押え部材28は、ネット14の横方向に沿って所定間隔で複数個配置されるとよい。
【0026】
押え部材28は、ネット14の水流れ方向の下流側のネット面に沿って設置されており、該押え部材28の上部側に下ロープ22bに取り付けるためのU字ボルト31が着脱可能に取り付けられとともに、同押え部材28の長手方向中間位置にはネット14(下ネット部14b)の下端にロープを介して連結させるロープ孔付きの通係部29が突設されており、該U字ボルト31と通係部29を介して網場18に装着されている。押え部材28の上端は上ネット部14aの上端と略同じ位置に設定されるとともに、該押え部材28の下端は下ネット部14bの下端よりも下方向にさらに長く延設されている。すなわち、押え部材28は、ある程度大きなモーメントを発生させるために、ネット14の縦方向長さよりも長く設定される。例えば、図1図2では、押え部材28の長さは、ネット14の縦方向長さの2.5倍程度に設定されている。押え部材28の長さは、水深等にもよるがネット14の縦方向長さの2~4倍程度に設定すると比較大きいモーメントを期待できる。なお、押え部材28は、ネット14の縦方向の長さと略同じ長さに設定し、該押え部材28の下端がネット14の下端と略同じ位置となるように設けることとしてもよい。また、押え部材28は、直線状に設けられたものに限らず、中間位置で水流れ方向に向けて略く字状に曲折された長尺部材でもよい。また、押え部材28は、断面円形や楕円形状、多角形状の棒状部材や、平らな板状部材やその他任意の構成でもよい。また、押え部材28とネット14との固定方法は、ロープや紐、バンドや金具等、その他任意の方法でもよく、着脱可能な構造や、着脱不可能に固定する構造としてもよい。
【0027】
ウエイト30は、押え部材28の下端に取り付けられ、傾斜抑制手段16において該押え部材28によるネット14の傾斜を抑制する方向に作用するモーメントをより増大させて、ネット14の姿勢保持すなわちネット14が傾斜するのを防止する機能を向上させうるウエイト手段である。図1図2に示すように、本実施形態では、ウエイト30は、例えば、比重が重い鉛等の金属製で円柱状に形成されており、2本の押え部材28の下端を接続するように取り付けられている。傾斜抑制手段16を構成する複数の傾斜抑制ユニット20では、各傾斜抑制ユニット20ごとに1つのウエイト30が溶接等により押え部材28の下端に固定されている。
【0028】
傾斜抑制手段16の押え部材28及びウエイト30によるモーメントの大きさは、例えば、設計条件等で算定されるネット14で捕捉対象の塵芥FDの最大深さ等を考慮して設計するとよい。図6に示すように、設計上の塵芥FDの最大深さとなった際に該塵芥によって発生するネット14を傾斜させようとするモーメントM1と、該傾斜抑制手段16により発生する前記モーメントM1とは逆方向のモーメントM2と、の釣り合い位置でネット14が停止する。よって、この釣り合い位置で傾斜したネット14の下端が、設計上の塵芥FDの最大深さDよりも下方に位置されるように、傾斜抑制手段16によるモーメントM2の大きさを設定するとよい。
【0029】
なお、図7に示すように、押え部材28の下端に1個又は複数のウエイト30を着脱可能に装着する構成として、ウエイトの重量を調整できるウエイト調整手段40を設けることとしてもよい。この場合、設置場所の環境や条件等に応じながらウエイトの重量、すなわちネットの傾斜を抑制するように作用するモーメントの大きさを調整しながら設置することができる。図6では、例えば、押え部材28の下端に固定された第1ウエイト301からボルト軸42が突設されている。貫通孔43が穿孔された第2ウエイト302を1個または複数個用意しておく。第2ウエイト302の貫通孔43にボルト軸42に貫通させた後、ナット44により締結して固定する。第2ウエイト302の数を増減することによりウエイトを調整することができる。なお、ウエイト調整手段40は、例えば、同じ大きさ又は異なる大きさのウエイトを複数用意しておき、フックやボルト等の着脱可能な固定手段を介して1個又は複数個のウエイトを取り付ける等、任意の調整機構としてもよい。
【0030】
傾斜抑制フロート32は、網場18のフロート12とは別の浮力手段であり、押え部材28とウエイト30の重量に対応した浮力を作用させるとともに、該押え部材28と協働してネット14の姿勢保持すなわちネット14が傾斜するのを防止する第2のフロート体である。図1図2図4図5に示すように、本実施形態では、傾斜抑制フロート32は、ネット14の上ネット部14aの両面に対向して設置されており、それらの対向した傾斜抑制フロート32の上端どうしをベース体34で連結されている。傾斜抑制フロート32は、前記したフロート12と略同じ構成で形成されている。傾斜抑制フロート32の浮力の大きさ等は、押え部材28やウエイト30の重量に対応して設定されており、フロート12と協働して塵芥流出抑制装置10全体を所定の浮力で水に浮力支持している。傾斜抑制フロート32は、押え部材28に連結されているとともに、ネット14の両面に対向配置されているので、ネット14が傾斜しようとすると、図5に示すように、水に沈んだ方の一方には浮力が作用するともに、空中に上昇した他方には重力が作用することにより、元の姿勢に戻るように機能して、ネット14の傾斜を抑制しようとする。傾斜抑制ユニット20は、ネット14の両面側すなわち水の上下流方向に対向して配置されている該傾斜抑制フロート32どうしの取付幅(対向間隔)を大きく設定することにより、傾斜抑制ユニット20の傾斜に対する安定性を増加し、ひいてはネット14の傾斜防止・傾斜抑制効果を向上させることができる。
【0031】
ベース体34は、傾斜抑制フロート32どうしを接続するとともに、2本の押え部材28の上端を固定して垂設しており、傾斜抑制ユニット20を構成する部材どうしを連結させる基部となっている。図1図4に示すように、ベース体34は、例えば、四角板状に形成されており、側面視略U字状の係止バンド33のU字内側空間に傾斜抑制フロート32を内装させるように配置して、該傾斜抑制フロート32と連結されている。例えば、係止バンド33は、そのU字両端に略L字状に形成された取付端部33aをベース体34に当着させてネジ等の固定手段を介して取り付けられている。ベース体34の上面側の略中央位置には、傾斜抑制ユニット20をロープ等で吊り上げる際にロープを締結できるロープ孔付きの吊支片35が上方に向けて突設されている。ベース体34の下面側の略中央位置には、網場18の上ロープ22aと連結するためのU字ボルト37等の網場への連結手段が設けられている。よって、傾斜抑制ユニット20は、ベース体34のU字ボルト37と、押え部材28のU字ボルト31と、ロープ及び通係部29、等からなる網場18への装着手段を有している。また、ベース体34の下面側で傾斜抑制フロート32の取り付け位置には、位置保持用の棒状の受け部39が固定されている。なお、ベース体34は、所定形状の板状や枠状体、棒状体等、その他任意の形状で形成してもよい。
【0032】
前記のように押え部材28と、ウエイト30と、傾斜抑制フロート32と、ベース体34と、を一体化して傾斜抑制ユニット20を構成していることから、例えば、既設の網場18に後付け的に一つ又は複数の傾斜抑制ユニット20を装着させるだけで、簡単に傾斜抑制手段16を実現して、本実施形態の塵芥流出抑制装置10を構成することができる。これにより、塵芥等の堰き止め機能が高く実用的な塵芥流出抑制装置10の設置を、低コストで、かつ短期間で行うことができる。例えば、図5に示すように、既設の網場に、下流側から浮かべた傾斜抑制ユニット20を近付け、傾斜抑制フロート32が網場の上ネット部14aを跨ぐように移動させて、2つの傾斜抑制フロート32の間にネット14を配置させる。そして、押え部材28をネット14のネット面に当接させた状態で、紐やロープ、U字ボルト等の装着手段を介して該押え部材28とネット14やロープ等とを締結して固定する。同様に網場18の横方向長さに応じて、所定間隔で傾斜抑制ユニット20をネットに装着させていく。なお、傾斜抑制ユニット20の構成は任意でよく、例えば、傾斜抑制フロート32の個数・位置や押え部材28の本数、ウエイトの位置・個数や重量、ネット14や網場18への装着構造等、任意でもよい。
【0033】
図1に示すように、隣接する傾斜抑制ユニット20の押え部材28の下端どうしの間にロープからなる横索状体36が架設されている。横索状体36は、押え部材28に直接固定してもよいが、図1では、ウエイト30を介して連結されている。さらに、該横索状体36の長手方向に沿って所定間隔ごとに該横索状体36と該ネット14の下端とがロープからなる縦索状体38で連結されている。これにより、押え部材28どうしの間部分のネット14が撓んだり捲れ上がったりするのを良好に防止できる。
【0034】
また、図に示すように、本実施形態の塵芥流出抑制装置10には、網場18に所定の荷重以上の負荷がかかった際にロープ22a(22b)を破断するブレーカー装置50が設置されている。本実施形態では、前記のような傾斜抑制手段16をネット14に取り付けた構成としたことで、水面下の受圧面性が大きくなり、大量の塵芥等を受け止めた際に網場18に掛かる張力が過大になるおそれがある。これを防止するために、設計荷重で物理的に破断するように設定されたブレーカー装置50が、網場18のロープ22aの途中に挿入して設置されている。なお、ブレーカー装置50は、水域現場等に応じてロープ22aの複数個所に設置してもよいし、設置しなくてもよい。
【0035】
次に図を参照しつつ本実施形態に係る塵芥流出抑制装置10の作用について説明する。例えば、比較的水の流れが速くないダムDM等に塵芥流出抑制装置10を設置している状態では、ネット14は略鉛直方向に沿った状態又はそれに近い状態で配置されて、上流側から流れてくる流木やゴミ等の塵芥FDを捕捉して堰き止める。例えば、図6に示すように、上流から流れてくる塵芥FD等の量が増加してきた場合には、該塵芥FD等による負荷によりネット14を押す水平方向のベクトルが大きくなり、ネット下端側が上端側よりも前に移動するように傾斜しようとする力が作用する。これに対し、傾斜抑制普段16の押え部材28及びウエイト30が協働して、該ネット14が傾斜しようとする力とは逆方向のモーメントを作用させることにより、該ネット14が大きな角度で傾斜するのを防止、抑制することができる。その結果、ネット14が大きく傾斜してしまうことによる塵芥の下流側への流出を良好に防止でき、確実に塵芥FDを堰き止めることができ、下流側への悪影響を防止できる。
【0036】
以上説明した本発明の塵芥流出抑制装置は、上記した実施形態のみの構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の本質を逸脱しない範囲において、任意の改変を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の塵芥流出抑制装置は、例えば、ダム、貯水池、河川等その他任意の水域に設置して塵芥等を堰き止めるのに有効に利用できる。
【符号の説明】
【0038】
10 塵芥流出抑制装置
12 フロート
14 ネット
16 傾斜抑制手段
18 網場
20 傾斜抑制ユニット
28 押え部材
30 ウエイト
32 傾斜抑制フロート
34 ベース体
36 横索状体
38 縦索状体
40 ウエイト調整手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8