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特許7626928ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20250129BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20250129BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20250129BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/04
C08L75/04
B60C1/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021020992
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123592
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】進藤 涼平
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-234227(JP,A)
【文献】国際公開第2010/098091(WO,A1)
【文献】特開2012-211316(JP,A)
【文献】特開平08-188674(JP,A)
【文献】特開2007-031521(JP,A)
【文献】特開昭57-145170(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0066838(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B60C 1/00- 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)ジエン系ゴム100質量部に対し、
(II)カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および
(III)吸水能が3~50倍の吸水膨潤性ポリウレタンを0.1~20質量部
配合してなり、
前記(III)吸水膨潤性ポリウレタンが、発泡体である
ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記(I)ジエン系ゴム100質量部中、ブタジエンゴムが30質量部以上を占めることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム組成物を使用したスタッドレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤに関するものであり、詳しくは、優れた氷上性能およびウェット性能を両立し得るゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面では、一般路面に比べて摩擦係数が低下し、滑りやすくなる。そこで従来、スタッドレスタイヤの氷上性能(氷上での制動性)を向上させるために数多くの手法が提案されている。例えば、スタッドレスコンパウンドに硬質異物や中空ポリマーを配合し、これによりゴム表面にミクロな凹凸を形成することによって氷の表面に発生する水膜を除去し、氷上摩擦を向上させる手法が知られている。また、スタッドレスコンパウンドに吸水性の材料を配合する等の手法もある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
一方、スタッドレスコンパウンドは低温下での柔軟性を確保するために、コンパウンドのガラス転移温度(Tg)が低く設計されており、湿潤状態の路面における制動性(ウェット性能)と相関性の高いtanδ(0℃)が低くならざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3531990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、優れた氷上性能およびウェット性能を両立し得るゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ジエン系ゴムに、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を配合するとともに、特定の吸水能を有する吸水膨潤性ポリウレタンを特定量でもって配合したゴム組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0007】
すなわち本発明は、
(I)ジエン系ゴム100質量部に対し、
(II)カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および
(III)吸水能が3~50倍の吸水膨潤性ポリウレタンを0.1~20質量部
配合してなることを特徴とするゴム組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴム組成物は、(I)ジエン系ゴム100質量部に対し、(II)カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および(III)吸水能が3~50倍の吸水膨潤性ポリウレタンを0.1~20質量部配合してなることを特徴としているので、優れた氷上性能およびウェット性能を両立し得るゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤを提供することができる。
【0009】
本発明における吸水膨潤性ポリウレタンは、吸水能が3~50倍であるので、従来技術よりも多くの量をスタッドレスコンパウンドに配合することができる。例えば従来技術の吸水能が極めて高い吸水性樹脂を多量に配合すると、急激な体積膨張に伴い破断伸びや外観の悪化が生じる。本発明は吸水したポリウレタンの作用により、スタッドレスタイヤが路面に追従しやすくなり、氷上性能およびウェット性能を向上できる。
また、吸水膨潤性ポリウレタンが発泡体である形態では、その軟らかさに起因して、路面が粗面である場合や凹凸面の場合にタイヤの追従性が一層向上し、さらに水膨張性の効果で当該性能が更に高まる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(I)ジエン系ゴム
本発明で使用されるジエン系ゴムは、ゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
また、氷上性能を向上させるという観点から、(I)ジエン系ゴム100質量部中、ポリブタジエンが30質量部以上、好ましくは40質量部以上を占めることが好ましい。
また、(A)ジエン系ゴムは、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以下であることが好ましい。このようにTgを規定することにより、氷上性能が向上する。
なおジエン系ゴムが複数種類含まれる場合において、本明細書で言うTgは、各ゴムのガラス転移温度に、各ゴムの重量分率を乗じた積の合計、すなわち加重平均に基づき算出される値とする。なお計算時には各成分の重量分率の合計を1.0とする。本発明で言うガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度を指すものとする。
さらに好ましい前記平均Tgは、-60℃以下である。
【0011】
(II)カーボンブラックおよび/または白色充填剤
本発明に使用されるカーボンブラックとしては、具体的には、例えば、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPE、SRF等のファーネスカーボンブラックが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、カーボンブラックは、氷上性能向上の観点から、窒素吸着比表面積(NSA)が10~300m/gであるのが好ましく、50~150m/gであるのがさらに好ましい。
なお窒素吸着比表面積(NSA)は、JIS K 6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定した値である。
【0012】
本発明に使用される白色充填剤としては、具体的には、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、氷上性能がより良好となる理由から、シリカが好ましい。
【0013】
シリカとしては、具体的には、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
シリカは、氷上性能向上の観点から、CTAB吸着比表面積が50~300m/gであるのが好ましく、90~200m/gであるのがさらに好ましい。
なお、CTAB吸着比表面積は、シリカ表面への臭化n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウムの吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0015】
(III)吸水膨潤性ポリウレタン
本発明で使用される(III)吸水膨潤性ポリウレタンとしては、吸水能が3~50倍のものであればとくに制限されないが、例えば、ウレタン樹脂の材料に吸水膨潤性樹脂を混合、分散してなるウレタン樹脂が挙げられる。吸水膨潤性樹脂としては、ポリアクリル酸塩系、ポリスルホン酸塩系、無水マレイン酸塩系、ポリアクリルアミド系 ポリビニルアルコール系、ポリエチレンオキシド系、ポリアミン系、ポリアスパラギン酸塩系、ポリグルタミン酸塩系、ポリアルギン酸塩系、デンプン系、セルロース系 ポリグリコール系等が挙げられ、吸水膨潤性と経時的な安定性の観点からは、ポリアクリル酸塩系が好ましく、例えば、架橋ポリアクリル酸などが挙げられる。基材となるウレタン樹脂としては、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂等が挙げられる。基材となるウレタン樹脂に吸水膨潤性樹脂を配合した後、好ましくは発泡成形し、発泡体とすることにより、吸水膨潤性ポリウレタンが得られる。
なお、本発明で使用される(III)吸水膨潤性ポリウレタンは、市販品としても入手可能であり、例えば、日本発条株式会社製の「インシュロン」(吸水能=約10倍)が挙下られる。
なお、本発明で言う吸水能とは、1リットルのイオン交換水にサンプルを0.5g分散させて、20℃で24時間静置後、60メッシュの金網で濾過し得られた水膨潤体重量を測定し、この値を初めの乾燥重量で割って算出した値である。
本発明における吸水能は、3~50倍が好ましく、5~20倍がさらに好ましい。(III)吸水膨潤性ポリウレタンは、原料混練時に適切なサイズに粉砕され、ジエン系ゴム中に分散する。
【0016】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、(I)ジエン系ゴム100質量部に対し、(II)カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および(III)吸水膨潤性ポリウレタンを0.1~20質量部配合してなることを特徴とする。
(I)ジエン系ゴム100質量部に対し、(II)カーボンブラックおよび/または白色充填剤の前記配合量が30質量部未満では、ゴム組成物の機械的特性や耐摩耗性が悪化し、逆に100質量部を超えるとゴム組成物の低温柔軟性が低下して氷上性能が悪化する。
(I)ジエン系ゴム100質量部に対し、(III)吸水膨潤性ポリウレタンの配合量が0.1質量部未満では、添加量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができず、逆に20質量部を超えると破断強度が低下する。
【0017】
前記(II)カーボンブラックおよび/または白色充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、40~90質量部が好ましい。
前記(III)吸水膨潤性ポリウレタンの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、3~15質量部が好ましい。
【0018】
(その他成分)
本発明におけるゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛;老化防止剤;可塑剤;シランカップリング剤;熱膨張性マイクロカプセルなどのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0019】
また本発明のタイヤは、本発明のゴム組成物を使用して調製することができ、空気入りタイヤであることが好ましく、空気、窒素等の不活性ガス及びその他の気体を充填することができる。また本発明のタイヤは、トレッド、とくにキャップトレッドに適用し、スタッドレスタイヤとするのがよい。
【実施例
【0020】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0021】
標準例、実施例1~4、比較例1~2
表1に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)と硬化剤を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫系を加えて混練し、ゴム組成物を得た。得られたゴム組成物を170℃、10分の条件でプレス加硫し、以下に示す試験法で物性を測定した。
【0022】
ウェット性能:JIS K6394:2007に準じて、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所製)を用い、伸張変形歪率10±2%、振動数20Hz、温度0℃の条件で、tanδ(0℃)を測定した。結果は標準例の値を100として指数で示した。指数が大きいほどウェット性能に優れることを示す。
氷上性能:得られた加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩擦試験機を用いて、測定温度-3.0℃、荷重5.5kg/cm、ドラム回転速度25km/hの条件で氷上摩擦係数を測定した。得られた氷上摩擦係数を、標準例の値を100として指数で示した。指数が大きいほど氷上摩擦力が大きく氷上性能に優れることを意味する。
結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
*1:NR(RSS#3)
*2:BR(日本ゼオン株式会社製Nipol BR1220)
*3:カーボンブラック(東海カーボン株式会社製シーストKHA)
*4:シリカ(ローディア社製Zeosil 1165MP、CTAB比表面積=159m/g)
*5:シランカップリング剤(エボニックデグッサ社製Si69、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
*6:オイル(昭和シェル石油株式会社製エキストラクト4号S)
*7:吸水性樹脂(株式会社日本触媒製アクリル系吸水性樹脂、アクアリックCA、吸水能=300-400倍)
*8:吸水膨潤性ポリウレタン(日本発条株式会社製吸水膨潤性ポリウレタン、インシュロンJS、吸水能=10倍)
*9:硫黄(鶴見化学工業株式会社製金華印油入微粉硫黄)
*10:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーCZ-G)
【0025】
表1の結果から、各実施例のゴム組成物は、(I)ジエン系ゴム100質量部に対し、(II)カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および (III)吸水能が3~50倍の吸水膨潤性ポリウレタンを0.1~20質量部配合してなるものであるので、標準例に比べて、ウェット性能および氷上性能が向上している。
これに対し、比較例1、2は、吸水能が300~400倍の吸水性樹脂を使用した例であるので、標準例に比べ、ウェット性能および氷上性能を共に満足させることができなかった。