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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】シフト装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/28 20060101AFI20250129BHJP
【FI】
F16H61/28
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021039043
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022138902
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】境 孝介
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-254434(JP,A)
【文献】特開2009-002422(JP,A)
【文献】特開2009-047238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングに、
モータと、
前記モータの回転軸に歯合される減速ギヤ列と、
前記減速ギヤ列の最終ギヤ軸に設けられ、一部に駆動歯を有すると共に、前記駆動歯が形成されていない欠歯領域が、前記駆動歯のピッチ円の直径以上の直径を有する円弧状の縁部として形成された第1セクタギヤと、
前記駆動歯と歯合し、前記駆動歯の歯底数と同じ数の被駆動歯を有すると共に、前記駆動歯の回転により、前記駆動歯に対する前記被駆動歯の歯合が外れた状態で、前記被駆動歯の側部が前記欠歯領域に当接し、前記第1セクタギヤを空転可能な状態とする第2セクタギヤと、
前記第2セクタギヤが軸支された出力軸と、が設けられたシフト装置。
【請求項2】
前記第2セクタギヤの揺動範囲の両側に各別配置され、前記被駆動歯が前記駆動歯と非歯合状態にあるとき、前記第2セクタギヤの一部に当接して前記第2セクタギヤの揺動を規制する規制部を備えている請求項1に記載のシフト装置。
【請求項3】
前記規制部が弾性部材であり、前記第2セクタギヤが前記欠歯領域と当接している状態で、前記規制部が前記第2セクタギヤとの当接により弾性変形するように構成してある請求項2に記載のシフト装置。
【請求項4】
前記出力軸に対する前記第2セクタギヤの取付部に、前記出力軸の回転方向に沿った所定の遊びが設けられている請求項1から3の何れか一項に記載のシフト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係るシフト装置は、モータによって出力軸を駆動し、出力軸を複数のシフト位置に切替保持する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このようなシフト装置としては例えば特許文献1に示すものがある(〔0009〕,〔0017〕乃至〔0020〕段落および図1,3,4参照)。
【0003】
この技術は、自動変速機の走行レンジを切り替える装置であり、シフトレンジの切替バルブを操作する切替弁操作手段と、切替弁操作手段を各シフト位置に保持させるディテント機構と、切替弁操作手段を駆動する駆動モータとを有する。さらに、駆動モータと切替弁操作手段との間に設けられる欠歯ギヤを備えた動力伝達手段と、シフトレンジ操作手段、さらには、シフトレンジ操作手段からの信号に基づいて駆動モータを制御するモータ制御手段と、を備えている。
【0004】
この装置においては、シフトレンジ操作手段からの信号に基づいてシフト位置に変動が有ったものとモータ制御手段が判定すると、駆動モータを駆動し、シフトレンジ操作手段により選択されたシフト位置に向けて欠歯ギヤを回転駆動する。欠歯ギヤは、レンジ切り替え時のみ動力伝達手段を介して切替弁操作手段を駆動し、切替バルブを各シフト位置間で切替操作する。当該切替操作が終了すると、欠歯ギヤのうちギヤのない領域が下手側の減速ギヤに対向して両者の歯合が外れ、駆動モータとレンジ切替弁操作手段間の連結が解除される。これにより、切替弁操作手段は各シフト位置にディテント機構の作用だけで位置決め保持されることとなり、駆動モータとの連結が絶たれた状態となる。
【0005】
このように、従来の装置では、切替弁操作手段の位置が各シフト位置の近傍に近づくまでは欠歯ギヤが切替弁操作手段を駆動する。しかし、切替弁操作手段がディテント機構によって各シフト位置に付勢され位置決めされる状態では欠歯ギヤの歯合が解消される。
【0006】
これにより、シフト装置の構成が簡単なものとなり、特に、切替弁操作手段を各シフト位置に位置決めするための駆動モータの精密制御が不要となり、駆動モータの複雑な制御ルーチンも不要になってコストメリットが生じるとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-249223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来のシフト装置における欠歯ギヤは、通常の歯車のうち周方向に沿う四つの領域について歯を除去したものである。よって、欠歯ギヤと下手側の減速ギヤとの歯合が外れた状態では、減速ギヤの歯先は欠歯ギヤの表面から離間して両歯車は相対回転自在となる。
【0009】
仮に、双方のギヤ間にバックラッシが存在し、或いは、組付誤差等が存在すると、次のシフト位置の変更に際して欠歯ギヤが減速ギヤに上手く歯合せず、シフト装置に作動不良が生じることとなる。
【0010】
このように従来のシフト装置では、装置構造の簡略化が図られる一方で装置の信頼性が不十分であるなど未だ解決すべき問題がある。このような実情に鑑み、従来から、簡便な構造でありながら信頼性の高いシフト機能を有するシフト装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(特徴構成)
本発明に係るシフト装置の特徴構成は、
ケーシングに、
モータと、
前記モータの回転軸に歯合される減速ギヤ列と、
前記減速ギヤ列の最終ギヤ軸に設けられ、一部に駆動歯を有すると共に、前記駆動歯が形成されていない欠歯領域が、前記駆動歯のピッチ円の直径以上の直径を有する円弧状の縁部として形成された第1セクタギヤと、
前記駆動歯と歯合し、前記駆動歯の歯底数と同じ数の被駆動歯を有すると共に、前記駆動歯の回転により、前記駆動歯に対する前記被駆動歯の歯合が外れた状態で、前記被駆動歯の側部が前記欠歯領域に当接し、前記第1セクタギヤを空転可能な状態とする第2セクタギヤと、
前記第2セクタギヤが軸支された出力軸と、が設けられた点にある。
【0012】
(効果)
本構成であれば、第1セクタギヤが所定の角度だけ回転した際に第2セクタギヤの歯合が外れ、モータの駆動力が出力軸に伝達されない状態となる。このあと第1セクタギヤは更に回転可能であるが第2セクタギヤは静止したままとなる。このため、例えば、第1セクタギヤからの歯合が外れる第2セクタギヤの回転位置を所期のシフト位置とすることで、シフト操作の際に第1セクタギヤを所定の角度以上に回転させることで、第2セクタギヤをシフト位置に設定することができる。よって、シフト操作に際してモータの高精度な回転制御が不要となる。
【0013】
また、シフト位置が、第1セクタギヤをある程度過回転させて得られるものとすると、シフト操作ののち第1セクタギヤは第2セクタギヤの回転に影響しない状態で何れの方向にも所定角度だけ回転可能である。次のシフト操作に先立ってモータを何れかの方向に微少回転させ回転方向を確認することができれば、モータの状態を常に記憶しておく必要がなくなる。よって、モータの駆動制御が簡便なものとなり、安価なシフト装置を得ることができる。
【0014】
さらに、本構成では、モータの回転は減速ギヤ列を介して出力軸に伝達されるためモータの小型化が可能であり、更なるコスト削減が可能である。
【0015】
(特徴構成)
本発明に係るシフト装置は、前記第2セクタギヤの揺動範囲の両側に各別配置され、前記被駆動歯が前記駆動歯と非歯合状態にあるとき、前記第2セクタギヤの一部に当接して前記第2セクタギヤの揺動を規制する規制部を備えていると好都合である。
【0016】
(効果)
本構成のように規制部を備えることで、第1セクタギヤを第2セクタギヤとの歯合が外れるまで駆動させるだけで第2セクタギヤの回転位相を決定することができる。よって、第1セクタギヤの駆動に際して第1セクタギヤの回転位相を厳密に把握する必要がなく、モータの駆動制御をより簡便としながら正確なシフト位置を規定することができる。
【0017】
(特徴構成)
本発明に係るシフト装置は、前記規制部を弾性部材で構成し、前記第2セクタギヤが前記欠歯領域と当接している状態で、前記規制部が前記第2セクタギヤとの当接により弾性変形するように構成することができる。
【0018】
(効果)
本構成であれば、第2セクタギヤが揺動範囲の端点にあるとき、第1セクタギヤの欠歯領域と弾性変形した規制部とで挟持されるから、第2セクタギヤの回転位相がガタ付きなく維持される。また、第2セクタギヤが規制部に当接する際に、規制部の弾性変形によって異音の発生も抑えられるため高品質なシフト装置を得ることができる。
【0019】
さらに、シフト位置に固定された第2セクタギヤは規制部からの弾性反撥力を常に受けているため、次のシフト操作に際して被駆動歯を第1セクタギヤの駆動歯に積極的に押し付けることができる。よって、シフト操作における駆動歯と被駆動歯との再歯合が確実なものとなり、応答性の良いシフト装置を得ることができる。
【0020】
(特徴構成)
本発明に係るシフト装置は、前記出力軸に対する前記第2セクタギヤの取付部に、前記出力軸の回転方向に沿った所定の遊びを設けておくことができる。
【0021】
(効果)
本構成であれば、例えば、当該シフト装置に連設された変速装置のシフト位置と、第1セクタギヤとの歯合が外れた際の第2セクタギヤの揺動位置との間にズレがある場合に、出力軸は、第2セクタギヤに対して更なる回転が可能となる。よって、構成部品の製造誤差や組立誤差、さらにシフト装置自体の取付誤差等が存在する場合でも、変速装置は所期のシフト姿勢に移行可能であり、車両への搭載性にも優れたシフト装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るシフト装置の構成を示す模式図
図2】本発明に係るシフト装置の構成を示す平断面図
図3】本発明に係るシフト装置の構成を示す側断面図
図4】出力軸と保持機構との連係動作態様を示す説明図
図5】シフト装置の動作態様を示す説明図
図6】軸保持部材の構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0023】
(概要)
本発明に係るシフト装置Sは、特に車両のトランスミッション等に付属して、シフト位置の切替操作及び保持操作を簡便な構造で実現しようとするものである。構成としては、外部を構成するように互いに組み合わされるケーシングC1およびケーシングC2と、これ等の内部に設けられて構成部品を保持するベース部C3を備え、ケーシングC1,C2の内部に設けられ、シフト位置を切替駆動するモータMと、当該モータMのモータギヤG1に歯合される減速ギヤ列、当該減速ギヤ列の最終段に位置してトランスミッションに駆動力を作用させる出力軸A4などを備えている。これらの構成部品は主にベース部C3とケーシングC1との間に設けられる。
【0024】
また、モータMを駆動制御する制御基板Eや出力軸A4の回転角を検出する回転角センサD等が備えられている。これら制御基板Eなどは、主にベース部C3とケーシングC2との間に設けられている。以下、図1乃至図6を参照しつつ本発明のシフト装置Sについての各実施形態を説明する。
【0025】
(全体構成)
本発明に係るシフト装置Sの構成を図1乃至図3に示す。本実施形態のシフト装置Sは、モータMによって減速ギヤ列を駆動し、回転駆動力を最終段の出力軸A4に伝達してシフト位置を決定する。その際に減速ギヤ列と出力軸A4との連係が分離される。即ち、シフト位置の変更に際してモータMの駆動力を利用し、シフト位置が決定された状態では、モータMを除く機構部によってシフト位置が保持される。
【0026】
図1乃至図3に示すように、モータMの駆動による回転力はモータ軸である第1軸A1および第2軸A2を介して第3軸A3に伝達される。第3軸A3は減速ギヤ列の最終ギヤ軸である。さらに第3軸A3の回転力は第4軸A4、即ち出力軸A4に伝達される。本実施形態では、第3軸A3に第1セクタギヤSG1が設けられ、出力軸A4に第2セクタギヤSG2が設けられている。第2軸A2および第3軸A3、第4軸A4は、図3に示すようにベース部C3とケーシングC1とによって両持ち支持されている。また、第4軸A4の端部には第4軸A4の回転角度を測定する回転角センサDが設けてある。
【0027】
(第1セクタギヤ)
第1セクタギヤSG1は、円周方向に沿った一部の領域に駆動歯T1が形成され、その他の領域では駆動歯T1のない欠歯領域T0が形成されている。図2には四つの駆動歯T1が示されている。ただし、歯数は任意である。また、欠歯領域T0の輪郭は単純な円形である。欠歯領域T0の直径は、第2セクタギヤSG2の被駆動歯T2との歯合が外れた状態で、第2セクタギヤSG2の歯が欠歯領域T0の外周に当接し、第2セクタギヤSG2の回転が規制される状態になるものであれば任意の寸法に設定可能である。本実施形態における欠歯領域T0の直径は、例えば駆動歯T1のピッチ円よりもやや大きな寸法に設定してある。
【0028】
(第2セクタギヤ)
第2セクタギヤSG2は、本実施形態では例えば五つの被駆動歯T2を備えている。つまり、被駆動歯T2の数は、駆動歯T1の歯底数と同じ数に設定する。駆動歯T1が回転し、被駆動歯T2の端の歯が駆動歯T1から外れた後は、当該端の被駆動歯T2の側面が第1セクタギヤSG1の欠歯領域T0に当接し、第2セクタギヤSG2の姿勢が維持される。
【0029】
(規制部)
図2に示すように、第2セクタギヤSG2の揺動範囲の両側には、第1セクタギヤSG1との歯合が外れた第2セクタギヤSG2の姿勢を所定姿勢に維持する規制部Bが設けられている。この規制部Bは、例えば弾力性を有するゴム材料や樹脂材料で構成する。
【0030】
規制部Bの設置は、例えば、第1セクタギヤSG1からの回転力を受けた第2セクタギヤSG2が左右何れかの方向に回転し、第1セクタギヤSG1との歯合が外れる直前に第2セクタギヤSG2の側面が規制部Bに当接するように行う。本構成によれば、第1セクタギヤSG1との歯合を外れて規制状態となった第2セクタギヤSG2は、第1セクタギヤSG1の欠歯領域T0と規制部Bとで挟持される。
【0031】
これにより、例えば第1セクタギヤSG1の回転速度等に拘わらず、歯合が外れた第2セクタギヤSG2は規制部Bによって揺動姿勢が確実に維持される。このため、モータMの回転角度がある程度オーバーシュートしても良く、モータMの駆動制御等がより簡便化できる。
【0032】
尚、この維持状態では、規制部Bが僅かに弾性変形していることが望ましい。そうであれば、第2セクタギヤSG2が欠歯領域T0と規制部Bとによってガタツキなく確実に挟持され、維持姿勢がより安定したものとなる。また、規制部Bが弾性変形することで、第2セクタギヤSG2が規制部Bに当接する際の衝突音も僅かとなる。
【0033】
さらに、規制部Bが弾性変形しつつ第2セクタギヤSG2を挟持することで、次にシフト位置を変更するべく第1セクタギヤSG1を回転させる際に、第2セクタギヤSG2の被駆動歯T2が第1セクタギヤSG1の駆動歯T1に押し付けられ、両歯の再歯合が確実となる。よって、シフト装置Sの動作が迅速かつ確実なものとなる。
【0034】
尚、シフト位置の保持中にあっては駆動歯T1と被駆動歯T2との歯合が外れるため、第1セクタギヤSG1を少し多めに回転させることで、第2セクタギヤSG2に対して第1セクタギヤSG1が空転可能な状態を得ることができる。そこで、例えばモータMをブラシレスモータなどで構成し、この空転状態を積極的に利用することができる。つまり、モータMの駆動に先立ってモータMを時計方向/反時計方向に交互に回転させることでモータMの回転方向を検出することができる。よって、シフト装置Sの状態を常にメモリしておく必要がなく、より簡略なシフト装置Sを得ることができる。
【0035】
(シフト位置の保持機構)
図1および図4に示すように、出力軸A4の一端には、シフト位置の保持機構Hが設けてある。保持機構Hは、主に、シフト位置を切り欠いた切替プレートH1と、当該切替プレートH1に嵌合する押え部材H2とで構成され、所謂ディテント機構で構成される。これら保持機構Hは例えばトランスミッションの側に設けられる。ただし、保持機構Hのサイズ等を適宜設定してシフト装置Sの内部に設けるものであっても良い。
【0036】
尚、図1および図2図4図5においては、第2セクタギヤSG2と保持機構Hとの構成を両者の連係態様の理解を容易にするため模式的に記載してある。実際のシフト装置Sは例えば図3に示すような構成であり、保持機構Hは、第4軸A4から図3の下方に延出する軸部材A5の先に設けられている。
【0037】
切替プレートH1は、出力軸A4から延出する軸部材A5に固定されており、出力軸A4と共に回転可能である。軸部材A5の端部には例えば図4に示すような断面がトラック形状の雄部が形成され、この端部が、出力軸A4に設けられた同じくトラック形状の雌部に係合する。
【0038】
本実施形態の切替プレートH1では、縁部に二つの切欠きKが設けてある。一方の切欠きK1(例えば図4では左側)はパーキング位置を規定するものであり、他方の切欠きK2(例えば図4では右側)はパーキング解除位置を規定するものである。
【0039】
切替プレートH1に対しては、例えば長尺状の押え部材H2が嵌合する。押え部材H2は棒状や板状のバネ部材で構成し、押え部材H2に所定の撓みを持たせた状態で先端の嵌合部H21が切欠きKに嵌合する。この嵌合状態では、嵌合部H21と切欠きKとの間に遊びは生じず、切替プレートH1つまりは出力軸A4の回転位相が固定保持される。
【0040】
尚、切欠きK1および切欠きK2の他に、ドライブ位置やニュートラル位置、リバース位置などを規定する他の切欠きKを設けることもできる。
【0041】
図4に示すように、切替プレートH1のうち切欠きK1の底部および切欠きK2の底部から夫々の中間にある境界部K3までの中心角度を夫々θ1およびθ2とする。この場合、第2セクタギヤSG2が第1セクタギヤSG1の駆動によって回転する駆動角度θ3は(θ1+θ2)となる。
【0042】
第2セクタギヤSG2の回転角度は、図3に示すように、第4軸A4の端部と制御基板Eとに設けられた回転角センサDによって測定される。回転角センサDは、例えば、第4軸A4と一体回転するように設けられたマグネットD1と、このマグネットD1の回転を検出するよう制御基板Eに設けられた磁界検出センサD2とで構成される。
【0043】
本構成であれば、第2セクタギヤSG2を駆動角度θ3だけ交互に回転させることで、シフト位置の切り替えを確実に行うことができ、かつ、第2セクタギヤSG2のシフト位置が機械的に保持可能となる。つまり、第1セクタギヤSG1の駆動によって第2セクタギヤSG2を駆動角度θ3だけ回転させ、その後、第1セクタギヤSG1をさらに回転させて第2セクタギヤSG2との歯合を解除するように構成すれば、シフト位置は保持機構Hの機能のみによって保持されるものとなる。本構成であれば、モータMの回転駆動を高精度に制御することなくシフト位置を決定することができ、構成が簡便で安価なシフト装置Sを得ることができる。
【0044】
ただし、第1セクタギヤSG1や第2セクタギヤSG2の製作誤差や組付誤差等によって駆動角度θ3が切欠きK1および切欠きK2の中心角度の合計(θ1+θ2)に一致するとは限らない。また、押え部材H2による切替プレートH1の付勢機能を利用することで、第2セクタギヤSG2の駆動角度θ3は中心角度の合計(θ1+θ2)より少なく設定することもできる。
【0045】
そこで、図4に示すように、夫々のシフト位置をより合理的に決定するために、本実施形態では、第2セクタギヤSG2と出力軸A4との間に回転方向に沿ったガタ付きを設け、出力軸A4が角度θ4だけ遊び回転できるよう構成してある。
【0046】
このように出力軸A4が遊び角度θ4を持つことで、第2セクタギヤSG2の駆動角度θ3は次のように設定する。即ち、
θ3>θ1+θ4 かつ θ3>θ2+θ4 ・・・条件式1
とする。
【0047】
嵌合部H21の嵌合位置を切欠きK1から切欠きK2に変更するには、切替プレートH1が回転して嵌合部H21が境界部K3を乗り越える必要がある。そのためには、例えば以下の様な駆動態様が考えられる。つまり、第2セクタギヤSG2が回転して先ず遊び角度θ4が吸収され、ここから切替プレートH1の駆動回転が開始される。このあと更に切替プレートH1をθ1だけ回転させ、嵌合部H21が境界部K3を乗り越えれば、切替プレートH1に対する嵌合部H21の付勢状態が変化し、切替プレートH1はさらに遊び角度θ4だけ回転可能となる。この結果、嵌合部H21の嵌合位置が切欠きK2に落ち着けばよい。よって、θ3の角度条件は条件式1のように規定される。これは切欠きK2から切欠きK1に変更する場合も同様である。
【0048】
境界部K3を乗り越えた嵌合部H21が、切替先の切欠きK1あるいは切欠きK2に落ち着くためにはもう一つの条件が規定される。つまり、第2セクタギヤSG2が先ず駆動角度θ3だけ回転し、さらに切替プレートH1が遊び角度θ4だけ回転することで、切欠きK1および切欠きK2の中心角度の合計(θ1+θ2)に達する必要がある。よって、
θ3+θ4>θ1+θ2 ・・・条件式2
を満たす必要がある。
【0049】
条件式1および条件式2を満たす構成であれば、モータMによる第1セクタギヤSG1の回転角度の制御許容幅が広くなり駆動制御がさらに簡便なものとなる。しかも、シフト位置は完全に保持機構Hのみで決定され、モータMの回転誤差等の影響を受けないから出力軸A4の保持位置が常に同じとなる。
【0050】
図5には、本実施形態のシフト装置Sの動作態様を示す。図5(a)は、第1セクタギヤSG1の駆動歯T1と第2セクタギヤSG2の被駆動歯T2の歯合が外れ、第2セクタギヤSG2が一方の規制部Bに当接している状態である。この状態では嵌合部H21が切替プレートH1の切欠きK2に嵌合し、シフト位置がパーキング解除位置に設定される。
【0051】
第1セクタギヤSG1は、第2セクタギヤSG2との歯合が外れたあと図中時計方向にさらに約90度回転した状態で静止している。規制部Bは僅かに弾性変形し、第2セクタギヤSG2は、当該規制部Bと第1セクタギヤSG1の欠歯領域T0とに当接して位置保持されている。このとき、第2セクタギヤSG2と出力軸A4との間には図4に示すような遊びがあり、規制部Bからの反発力は出力軸A4には入力されない。
【0052】
図5(b)は、シフト位置を切り替えるべく、第1セクタギヤSG1が反時計方向に駆動回転し、駆動歯T1が被駆動歯T2に歯合し始めた状態である。このとき第2セクタギヤSG2は規制部Bからの弾性力を受けて図中下方に付勢され、第1セクタギヤSG1の駆動歯T1に積極的に歯合する。これにより出力軸A4の回転が始まる。第2セクタギヤSG2と出力軸A4との遊びは、切替プレートH1が嵌合部H21によって反時計方向に付勢される状態に詰められる。
【0053】
尚、図5(b)は、規制部Bの反発力が完全に解放されて、規制部Bと第2セクタギヤSG2とに隙間がある状態が図示されている。しかし、反発力が解放されていれば良く、両者がわずかに接触していても構わない。また、歯合する歯の強度に影響を与えない程度に規制部Bの反発力が残っていても良く、隙間がない状態でも良い。その場合、第1セクタギヤSG1と第2セクタギヤSG2との再歯合がさらに確実なものとなる。
【0054】
図5(c)は、第1セクタギヤSG1により第2セクタギヤSG2が駆動されている状態である。この状態もしくはこの後の状態で嵌合部H21が切替プレートH1の境界部K3を乗り越えることとなる。乗り越えの際には、嵌合部H21による切替プレートH1の当接面が切欠きK1の側に変更されるため、出力軸A4が第2セクタギヤSG2に対して時計方向に回転することで遊びの詰まり方向が反転する。
【0055】
図5(d)は、第1セクタギヤSG1によって第2セクタギヤSG2が駆動回転され、嵌合部H21が切欠きK1に移行した後の状態を示す。嵌合部H21は、押え部材H2の付勢力によって切欠きK1の谷部に向けて移動を強いられているが、第1セクタギヤSG1と第2セクタギヤSG2との歯合状態が続いているため、嵌合部H21は切欠きK1の底部には未到達である。
【0056】
尚、図5(d)では第2セクタギヤSG2はまだ規制部Bと当接していない。しかし、図5(b)の場合と同様に、両者がわずかに接触していても良い。また、歯合する歯の強度に影響を与えない程度に規制部Bが反発力を生じ始めていても良く、両者間の隙間がない状態でも良い。その場合、第1セクタギヤSG1と第2セクタギヤSG2との再歯合がさらに確実なものとなる。
【0057】
図5(e)は、第2セクタギヤSG2の被駆動歯T2が第1セクタギヤSG1の駆動歯T1から外れ、第2セクタギヤSG2の側面が他方の規制部Bに押し付けられている状態である。第2セクタギヤSG2が第1セクタギヤSG1から外れた瞬間に、嵌合部H21は切欠きK1の底部に向かって移動し、出力軸A4と切替プレートH1が遊び角度θ4を生かして切欠きK1の底部に落ち着く。この状態で出力軸A4は、パーキング位置である切欠きK1に機構的な要素のみによって位置保持される。
【0058】
(回転軸の軸保持部材)
図6には、減速ギヤ列のうち、モータMの第1軸A1に続く第2軸A2および第3軸A3の保持構造を示す。
【0059】
本実施形態では、構造の簡略化などのために第2軸A2および第3軸A3はベース部C3に片持ち支持される構造を前提としている。そのため、モータMの駆動力を伝達する際に、これ等の軸が僅かに傾き、駆動力の伝達効率が低下する可能性がある。図6に示すように、第2軸A2および第3軸A3の夫々の軸端どうしを補剛プレートPで連結し、当該補剛プレートPをケーシングC1で位置固定してある。
【0060】
補剛プレートPは、長尺状の平板部材であり、第2軸A2の軸端および第3軸A3の軸端を挿入する軸孔P1を有する。第2軸A2および第3軸A3は軸孔P1の内部で回転可能である。このような補剛プレートPを設けることで、第2軸A2と第3軸A3との軸間距離が広がるのを防止することができる。
【0061】
また、第2軸A2および第3軸A3と、モータMの第1軸A1および出力軸A4とは、図2に示したように略直線状に並び配置されるため、モータMを駆動した際に、第2軸A2および第3軸A3が同時に同じ方向に傾く可能性がある。例えば、両軸どうしを結ぶ線分に対して直交方向への傾きが懸念される。そこで、図6に示すように、ケーシングC1の内面に、補剛プレートPが嵌まり込む凹部C11を設けてある。凹部C11の形状は補剛プレートPの輪郭に対応したものとし、特に、補剛プレートPの長辺縁部との距離を狭く設定してある。
【0062】
このように第2軸A2および第3軸A3の傾きを防止することで、第2軸A2の第2ギヤG2と第1軸A1(モータ軸)のモータギヤG1との歯合状態、あるいは、第3軸A3の第1セクタギヤSG1と第4軸A4(出力軸A4)の第2セクタギヤSG2との歯合状態が適切に保たれ、駆動力の伝達効率を維持することができる。
【0063】
補剛プレートPの装着はシフト装置Sの耐久性の観点からも有効である。当該シフト装置Sは、例えばオートマチック・トランスミッション(AT)に設置されるものであり、ATのシフト状態を切り替える際にATからの逆入力として衝撃が当該シフト装置Sに作用する場合がある。その際に、補剛プレートPによって各ギヤGの歯合状態が健全に維持されていると、ギヤGどうしの衝突が回避され、ギヤGの強度低下や疲労が生じ難くなる。このためシフト装置Sの耐久性が向上する。
【0064】
また、補剛プレートPを用いることで、軸受としての耐久性を高めることができる。仮に、ケーシングC1がアルミニウムなどで構成され、図3に示したように各軸の端部をケーシングC1に個々に形成した軸孔C12で保持する場合、回転する軸との摩擦によって軸孔C12が早期に拡径する。しかし、例えば鋼材など比較的固い材料で補剛プレートPを構成することで、軸孔C12の拡径が阻止される。また、ケーシングC1がアルミニウム等であっても、凹部C11の壁部は補剛プレートPの縁部のうち所定長さの領域に当接可能である。よって、仮にケーシングC1が補剛プレートPに頻繁に当接することがあってもケーシングC1の摩耗は生じ難くなる。
【0065】
さらに、補剛プレートPを用いることで、シフト装置Sの組立作業が効率化される。例えば、図3に示したように各軸の端部をケーシングC1に個々に形成した軸孔C12で保持する場合、ベース部C3にケーシングC1を装着する際に各軸の姿勢が変化し易く、各軸の位置合わせが煩雑となる。その点、補剛プレートPにより複数の軸の相対位置を予め固定することで、軸端どうしの間隔が調整されるうえに各軸のベース部C3に対する配置姿勢も安定化する。よって、この後のケーシングC1の装着が極めて容易となり、組立作業の効率が改善される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のシフト装置は、例えば、モータによって出力軸を駆動し、出力軸を複数のシフト位置に切替保持する装置に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
A4 出力軸
B 規制部
C1 ケーシング
M モータ
S シフト装置
SG1 第1セクタギヤ
SG2 第2セクタギヤ
T0 欠歯領域
T1 駆動歯
T2 被駆動歯
図1
図2
図3
図4
図5
図6