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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】耐水紙の製造方法および耐水紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/14 20060101AFI20250129BHJP
   D21H 19/18 20060101ALI20250129BHJP
   D21H 19/34 20060101ALI20250129BHJP
   A47G 21/18 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
D21H21/14 Z
D21H19/18
D21H19/34
A47G21/18
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020173626
(22)【出願日】2020-10-14
(65)【公開番号】P2022064790
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】391017849
【氏名又は名称】山梨県
(73)【特許権者】
【識別番号】306016132
【氏名又は名称】有限会社 山十製紙
(73)【特許権者】
【識別番号】303060756
【氏名又は名称】身延町
(74)【代理人】
【識別番号】100128071
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 里樹
(72)【発明者】
【氏名】笠井 伸二
(72)【発明者】
【氏名】望月 秀一
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/203346(WO,A1)
【文献】特開平02-080699(JP,A)
【文献】特開2020-090744(JP,A)
【文献】特開平08-109596(JP,A)
【文献】国際公開第2012/011559(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 21/14
D21H 19/18
D21H 19/34
A47G 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙にカルボキシメチルセルロースを含浸させて含浸紙を得る含浸工程と、
前記含浸紙に、セルロースナノファイバーとワックスとを含有する分散液を塗布して、複合紙を得る塗布工程と、
前記ワックスの融点以上の温度で、前記複合紙を加熱処理して耐水紙を得る加熱工程と、
を有し、
前記含浸工程が、前記カルボキシメチルセルロース塩を含有する液体を前記紙に接触させる接触過程を備える耐水紙の製造方法。
【請求項2】
請求項において、
前記含浸工程が、前記接触過程を経た紙を酸溶液に浸漬する浸漬過程をさらに備える耐水紙の製造方法。
【請求項3】
請求項において、
前記含浸工程が、前記接触過程を経た紙を多価金属塩水溶液に浸漬する浸漬過程をさらに備える耐水紙の製造方法。
【請求項4】
請求項において、
前記酸溶液、前記カルボキシメチルセルロース、前記セルロースナノファイバー、および前記ワックスが食品添加物である耐水紙の製造方法。
【請求項5】
請求項3において、
記多価金属塩、前記カルボキシメチルセルロース、前記セルロースナノファイバー、および前記ワックスが食品添加物である耐水紙の製造方法。
【請求項6】
請求項から5のいずれかにおいて、
前記カルボキシメチルセルロース塩を含有する液体が、セルロースナノファイバーをさらに含有する耐水紙の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかにおいて、
前記分散液に含有される固形分の質量割合が4%以上12%以下であり、前記分散液に含有されるセルロースナノファイバーの質量割合が0.1%以上0.5%以下である耐水紙の製造方法。
【請求項8】
紙と、この紙に含浸されたカルボキシメチルセルロースとを備える含浸紙と、
前記含浸紙の少なくとも片面に被覆され、セルロースナノファイバーとワックスとを含有する被覆層と、
を有し、
前記被覆層の表面の水に対する接触角が100°以上である耐水紙。
【請求項9】
請求項8の耐水紙から構成され、前記耐水紙の通気度が0.1cm/cm・sec以下であるストロー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、紙に耐水性を付与する方法と、耐水性を備える紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙は水に濡れると弱くなる。このため、紙に耐水性を付与する様々な処理が行われている。紙に耐水性を付与する代表的な手法として、プラスチックシートで紙を挟む加工法が挙げられる。しかしながら、海洋中のマイクロプラスチックをはじめとした環境汚染問題を背景に、脱プラスチックの流れが加速している。低環境負荷で安全な耐水紙の出現が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願は、このような事情に鑑みてなされたものであり、環境負荷が低く安全な耐水紙と、このような耐水紙を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本願の耐水紙の製造方法は、紙にカルボキシメチルセルロースを含浸させて含浸紙を得る含浸工程と、含浸紙に、セルロースナノファイバーとワックスとを含有する分散液を塗布して、複合紙を得る塗布工程と、ワックスの融点以上の温度で、複合紙を加熱処理して耐水紙を得る加熱工程を有する。
【0005】
本願の耐水紙は、紙と、この紙に含浸されたカルボキシメチルセルロースとを備える含浸紙と、含浸紙の少なくとも片面に被覆され、セルロースナノファイバーとワックスとを含有する被覆層を有し、被覆層の表面の水に対する接触角が100°以上である。
【発明の効果】
【0006】
本願によれば、環境負荷が低く安全な耐水紙が簡便に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1の水分散液の外観画像(A)と水分散液中の乳化粒子の光学顕微鏡像(B)
図2】ソイワックスの示差走査熱量分析チャート。
図3】原料の紙の断面の電子顕微鏡像(A)と実施例1の耐水紙の断面の電子顕微鏡像(B)。
図4】原料の紙の表面の電子顕微鏡像(A)、実施例1の複合紙の表面の電子顕微鏡像(B)、および実施例1の耐水紙の表面の電子顕微鏡像(C)。
図5】実施例1の複合紙および耐水紙の表面の水に対する接触角の経時変化を表すグラフ。
図6】実施例1の耐水紙の製造工程における各段階での紙の表面の水に対する接触角の経時変化を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願の実施形態の耐水紙は、含浸紙と被覆層を備えている。含浸紙は、紙と、この紙に含浸されたカルボキシメチルセルロースを備えている。本願でいう紙は、繊維が絡み合ったシート状のものである。したがって、植物の繊維を絡み合わせた後、漉き上げて作製したものはもちろん、植物以外の天然繊維または化学繊維を織らずに絡み合わせて作製したもの、例えば不織布も本願でいう紙に該当する。紙は、セルロース繊維が絡み合ったものが好ましい。
【0009】
カルボキシメチルセルロース(以下「CMC」と記載することがある)は、セルロースの誘導体で、セルロースの一部の-OH基のHが、CHCOOHで置換された構造を備えている。紙にCMCを含浸させる方法、すなわちCMCまたはその塩を含有する液状物質を紙の内部に浸み込ませ、液体を蒸発させて、紙の内部にCMCまたはCMCの不溶塩を付着させる方法については後述する。被覆層は、含浸紙の少なくとも片面に被覆されている。被覆層は、含浸紙の両面に被覆されていることが好ましい。耐水紙の耐水性が向上するからである。
【0010】
被覆層は、セルロースナノファイバーとワックスを含有している。セルロースナノファイバー(以下「CNF」と記載することがある)は、セルロースまたはその誘導体を、直径数nmから数十nmの大きさに細かくした繊維で、水に溶けないものの、低濃度であれば直径数nmから数十nmの大きさのまま水に分散する。セルロース誘導体は、セルロースの一部の-OH基のHが置換基で置換された構造を備えている。
【0011】
ワックスは、室温(例えば25℃)で固体の油脂状物質である。ワックスとしては、例えばソイワックス、サトウキビロウ、およびパームロウなどの植物ワックス、ミツロウおよびゲイロウなどの動物ワックス、モンタンワックスなどの鉱物ワックス、パラフィンワックスおよびマイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス、ならびにポリエチレンワックスなどの合成ワックスが挙げられる。
【0012】
本実施形態の耐水紙では、被覆層の表面の水に対する接触角が100°以上である。このため、本実施形態の耐水紙は耐水性に優れる。本実施形態の耐水紙は用途が広い。本実施形態の耐水紙の用途としては、ストロー、食器または箱などの容器、不織布製マスクなどが挙げられる。本実施形態の耐水紙をストローとして用いる場合、通気度が0.1cm/cm・sec以下であることが好ましい。液体が効率よく吸引できるからである。被覆層の表面の水に対する接触角が100°以上となる耐水紙、または通気度が0.1cm/cm・sec以下となる耐水紙の製造方法については後述する。本実施形態の耐水紙によって、社会で求められている水に強い紙製品が実現でき、社会に広く貢献できる。
【0013】
本願の実施形態の耐水紙の製造方法は、含浸工程と、塗布工程と、加熱工程を備えている。含浸工程では、紙にCMCを含浸させて含浸紙を得る。含浸工程は接触過程を備えていてもよい。接触過程では、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのカルボキシメチルセルロース塩を含有する液体を紙に接触させる。より具体的な接触方法としては、紙の表面に、カルボキシメチルセルロース塩を含有する液体を噴霧する方法、またはカルボキシメチルセルロース塩を含有する液体に紙を浸す方法などが挙げられる。カルボキシメチルセルロース塩を含有する液体としては、カルボキシメチルセルロース塩水溶液が挙げられる。
【0014】
その後、紙を乾燥させ、液体を蒸発させて、紙の内部にカルボキシメチルセルロース塩を付着させる。内部にカルボキシメチルセルロース塩を付着させることによって、紙の強度が向上する。しかしながら、カルボキシメチルセルロース塩が内部に付着した紙を水に浸すと、カルボキシメチルセルロース塩の一部が水に溶け出し、紙の強度が低下するおそれがある。
【0015】
そこで、含浸工程は、接触過程の後に浸漬過程をさらに備えていることが好ましい。浸漬過程では、紙の内部に付着したカルボキシメチルセルロース塩を、水に溶けにくい化学構造に変化させる。より具体的には、カルボキシメチルセルロース塩のカルボキシル基部を、-COOM(Mは塩を構成する金属)から、CMCの化学構造である-COOHに変える。カルボキシル基部が-COOHであると、複数の-COOH間で水素結合し、複数のCMC間または一つのCMC分子内間で物理的な架橋効果が生じる。
【0016】
このため、紙の内部に付着したCMCは水にほとんど溶けず、含浸紙の強度維持が可能となる。浸漬過程では、接触過程を経た紙を酸溶液に浸漬する、すなわち酸処理することによって、-COOMが-COOHに変化する。この酸処理に代えて、接触過程を経た紙を多価金属塩水溶液に浸漬してもよい。多価金属塩水溶液を用いた場合、複数の-COOと一つの多価金属イオンがイオン架橋で結合するため、紙の内部にCMCの不溶塩が形成されて、含浸紙中のCMCが水にほとんど溶けない。
【0017】
また、必要に応じて、カルボキシメチルセルロース塩を含有する液体が、CNFをさらに含有していてもよい。含浸工程で、カルボキシメチルセルロース塩とCNFを含有する液体を用いれば、CNFが紙内で膜状になり、耐水紙の通気度を大幅に、例えば通気度0.1cm/cm・sec以下に低下できる。通気度が低いこの耐水紙は、ストローに好適に利用できる。カルボキシメチルセルロース塩とCNFを含有する液体中のCNFの含有量は、0.01質量%~2質量%が好ましい。
【0018】
塗布工程では、含浸紙に、CNFとワックスを含有する分散液を塗布して、複合紙を得る。なお、塗布工程では、含浸紙の片面に分散液を塗布してもよいし、含浸紙の両面に分散液を塗布してもよい。分散液の含浸紙への塗布は、バーコートまたはドクターブレードなどの道具を用いてもよいし、分散液に含浸紙を浸すことによって行ってもよい。分散液は、例えば水またはアルコールなどの親水性の液体に、例えば濃度0.05質量%~2質量%となるようにCNFを添加して撹拌し、これを例えば60℃~100℃に加熱しながら、例えば60℃~100℃に加熱されたワックスをさらに添加し撹拌して得られる。
【0019】
得られた分散液は乳化している。加熱されたワックスが分散媒中で液滴となり、CNFの高い乳化特性により、ワックスの液滴の周囲にCNFが付着して乳化するピッカリング乳化効果により、分散媒中で乳化粒子が形成されていると考えられる。なお、分散液を常温にしても、分散質が均一に分散している。すなわち、ワックスが液体でも固体でも、ワックスとその周囲のCNFから構成される分散質は安定している。このため、常温でも含浸紙にワックスを均一に塗布できる。
【0020】
添加するワックスの質量に対するCNFを含む液体の質量の比(CNFを含む液体の質量/添加するワックスの質量)は、10~24であることが好ましい。また、分散液に含有される固形分の質量割合、すなわち本実施形態ではCNFの質量とワックスの質量の和の割合は、4%以上12%以下であることが好ましい。さらに、分散液に含有されるCNFの質量割合は、0.1%以上0.5%以下であることが好ましい。分散媒中での乳化粒子の安定性が向上するからである。
【0021】
加熱工程では、ワックスの融点以上の温度で、複合紙を加熱処理して耐水紙を得る。ワックスの融点以上の温度で複合紙を加熱処理する、例えば温度60℃~100℃で乾燥させることによって、ワックスが溶融して、複合紙の表面に撥水膜を形成する。このように、本実施形態の耐水紙の製造方法によれば、紙に数段階の処理工程を施すだけで、簡便に耐水紙が作製できる。
【0022】
本実施形態では、酸溶液または多価金属塩、CMC、CNF、およびワックスが食品添加物であることが好ましい。本実施形態の耐水紙を、ストロー、食器、またはマスクなどに利用する場合、安全性が担保できるからである。また、酸溶液または多価金属塩、CMC、CNF、およびワックスが食品添加物であることによって、本実施形態の耐水紙は、環境負荷が低くリサイクル性が高い。このため、耐水紙を処分することになった場合でも、処分費用が抑えられる。なお、食品添加物は、食品の製造過程または食品の加工・保存の目的で使用される物質である。
【実施例
【0023】
〔実施例1:耐水紙の作製〕
<含浸工程>
(接触過程)
カルボキシメチルセルロースナトリウム(八宝食産株式会社、CMC)を水に溶かして、2質量%のカルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液を作製した。このカルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液に紙(身延町なかとみ和紙の里、純楮紙)を1分間浸した。このカルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液から取り出した紙を、90℃で20分間乾燥させた。
【0024】
(浸漬過程)
クエン酸(健栄製薬株式会社、クエン酸(結晶))を水に溶かして、20質量%のクエン酸水溶液を作製した。なお、クエン酸濃度は1質量%~45質量%であってもよい。このクエン酸水溶液に、接触過程を経た紙を浸漬した。このクエン酸水溶液から取り出した紙を、90℃で30分間乾燥させて含浸紙を得た。この含浸紙は、水を吸収してしまうため、強度維持が限定的である。実用的な耐水紙を得るためには、紙が水をはじくための処理が必要である。
【0025】
<塗布工程>
紙が水をはじくための処理として、紙にワックスを被覆することが考えられる。しかしながら、ワックスの被覆は、ワックスを加熱しながら行う必要があり、コストと作業性の面で問題となる。本願では、常温で紙にワックスを被覆できるようにするために、CNFを用いてワックスの乳化粒子を作製した。ワックスは、常温で固体であり、融点以上に加熱すると液体になる。しかし、ワックスは油成分から構成されているため、ワックスが液体であっても、水などの親水性液体と混じり合わない。そこで、CNFのピッカリング乳化効果を利用して、ワックスの乳化粒子を作製した。ワックスを乳化させることにより、親水性分散媒中に安定して分散させられる。
【0026】
食品添加可能なCNF(株式会社スギノマシン、BiNFi-s WFo-10002)を水に分散させて、0.5質量%のCNF水分散液を作製した。食品添加可能なワックスであるソイワックス(Supplies for candles社、ソイワックス(ソフトタイプ)大豆Nature Wax C-3)とこのCNF水分散液を別々に80℃に加熱しながら、ワックス1質量部とCNF水分散液19質量部を混合・撹拌して、CNFとワックスを含有する水分散液を得た。この水分散液の常温での外観画像を図1Aに、この乳化粒子の光学顕微鏡像を図1Bにそれぞれ示す。図1Aに示すように、この水分散液では、乳化粒子が水中で安定に分散していた。また、図1Bに示すように、この水分散液は、約10μmの乳化粒子から構成されていることが分かった。この水分散液に、含浸工程を経た含浸紙を浸漬した。含浸紙の表面に乳化粒子が付着して複合紙が得られた。
【0027】
<加熱工程>
図2は、塗布工程で用いたソイワックスの示差走査熱量分析結果を示している。図2に示すように、このソイワックスには2つの吸熱ピーク(融点)があり、高温側の吸熱ピークが57.8℃であった。したがって、57.8℃以上で熱処理すればソイワックスを溶融させることができる。そこで、塗布工程を経た複合紙を70℃で60分間乾燥させた。乳化粒子中のソイワックスが溶融し、含浸紙の表面に撥水膜が形成された耐水紙が得られた。
【0028】
〔実施例2:他の耐水紙の作製〕
含浸工程の接触過程で、2質量%のカルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液に代えて、カルボキシメチルセルロースナトリウム2質量%およびCNF0.01質量%を含有する水分散液を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例2の耐水紙を作製した。
【0029】
〔評価〕
原料の紙(以下「原料紙」と記載することがある)の断面の電子顕微鏡像を図3Aに、加熱工程を経た実施例1の耐水紙の断面の電子顕微鏡像を図3Bにそれぞれ示す。図3Aに示すように、原料紙は、セルロース繊維が交差した空隙のある形状を備えていた。これに対して、実施例1の耐水紙では、図3Bに示すように、セルロース繊維の間にCMCが充填されていた。また、実施例1の耐水紙の表面に、ソイワックスとCNFから構成される撥水層が形成されていた。
【0030】
原料紙の表面の電子顕微鏡像を図4Aに、実施例1の複合紙の表面の電子顕微鏡像を図4Bに、実施例1の耐水紙の表面の電子顕微鏡像を図4Cにそれぞれ示す。図4Aに示すように、原料紙は、セルロース繊維が重なり合った構造をしていた。これに対して、実施例1の複合紙では、図4Bに示すように、含浸紙の全面が乳化粒子で覆われていた。さらに、実施例1の耐水紙では、図4Cに示すように、乳化粒子中のソイワックス成分が溶融していることが分かった。
【0031】
図5は、実施例1の複合紙および実施例1の耐水紙の表面の水に対する接触角の経時変化をそれぞれ示している。接触角は、接触角測定装置(株式会社マツボー、携帯式接触角計 PG-X)を用いて測定した(以下同じ)。複合紙または耐水紙に微小水滴を滴下し、接触角の経時変化を測定した。図5に示すように、複合紙では接触角が72°~75°であったのに対して、耐水紙では接触角が100°を超えていた。加熱工程によって、紙の耐水性が向上したことが分かった。また、複合紙では、時間の経過とともに接触角が低下した。複合紙が水を吸っているためである。この結果から、乳化粒子を含浸紙の表面に被覆するだけでは不十分で、加熱工程で溶融したワックスが含浸紙の表面を均一に被覆することが、紙に耐水性を付与するために重要であることが分かった。
【0032】
図6は、実施例1の耐水紙の製造工程における各段階での紙の表面の水に対する接触角の経時変化をそれぞれ示している。すなわち、原料紙、含浸工程の接触過程後であって浸漬過程前の紙(以下「実施例1の酸未処理紙」と記載することがある)、含浸紙、および耐水紙に微小水滴を滴下し、接触角の経時変化を測定した。図6に示すように、耐水紙以外は、接触角が低かった上、経時的に接触角が低下した。すなわち、含浸工程、塗布工程、および加熱工程の全工程を経たことで、紙の耐水性付与に顕著な効果があった。
【0033】
また、6.5cm角の実施例1の4種類の紙の乾燥重量および水に1分間浸漬した後の湿潤重量をそれぞれ測定し、次式により吸水率(%)を算出した。
(湿潤重量-乾燥重量)/乾燥重量×100
原料紙の吸水率は136.6%、酸未処理紙の吸水率は321.5%、含浸紙の吸水率は63.85%、耐水紙の吸水率は33.92%であった。耐水紙では、他の紙と比べて吸水性が大幅に減少し、耐水化できていることが分かった。
【0034】
また、各実施例の耐水紙の製造工程における各段階での紙の乾燥状態および湿潤状態での引張り強度、ならびに通気度を測定した。すなわち、原料紙、実施例1の酸未処理紙、実施例2の含浸工程の接触過程後であって浸漬過程前の紙(以下「実施例2の酸未処理紙」と記載することがある)、実施例1の含浸紙、実施例2の含浸紙、実施例1の耐水紙、および実施例2の耐水紙について、引張り強度と通気度を測定した。
【0035】
引張り強度は、引張り強度測定装置(株式会社島津製作所、卓上型精密万能試験機 AUTOGRAPH AG-X 5kN)を用いて測定した。なお、乾燥状態は、温度25℃、相対湿度50%で調湿した状態をいう。また、湿潤状態は、水に浸漬後、濾紙により余分な水分を除去した状態をいう。通気度は、JISL1096に基づいて測定した。その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1の引張り強度に示すように、各実施例の含浸紙および耐水紙では、強度が維持できていることが分かった。また、実施例2の含浸紙および耐水紙では通気度が小さかった。この結果から、含浸工程で用いるカルボキシメチルセルロース塩を含有する液体がCNFをさらに含有することによって、含浸紙および耐水紙の通気度を大きく減少させられることが分かった。すなわち、実施例2の耐水紙は、ストローなどの通気性を低くする必要がある用途に適している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6