(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】平面型熱電変換素子、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/17 20230101AFI20250129BHJP
H10N 10/853 20230101ALI20250129BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20250129BHJP
【FI】
H10N10/17 A
H10N10/853
H10N10/01
(21)【出願番号】P 2021103708
(22)【出願日】2021-06-23
【審査請求日】2024-03-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/IoT機器電源向け熱電発電実装技術の研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勇男
(72)【発明者】
【氏名】大井 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】相澤 俊
(72)【発明者】
【氏名】菅井 祐子
(72)【発明者】
【氏名】森 孝雄
【審査官】渡邊 佑紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-069375(JP,A)
【文献】特開2016-187008(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039022(WO,A1)
【文献】特表2019-525455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/17
H10N 10/853
H10N 10/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板と、
前記絶縁性基板上に位置する少なくとも一対の第1の熱電薄膜および第2の熱電薄膜と、
前記第1の熱電薄膜と前記第2の熱電薄膜とを接続する電極と
を備え、
前記第1の熱電薄膜は、マグネシウム系熱電半導体膜、および、前記マグネシウム系熱電半導体膜上に位置するシリコン窒化膜を備え、
前記マグネシウム系熱電半導体膜と前記シリコン窒化膜との間に酸化層が存在し、
前記マグネシウム系熱電半導体膜は、ドープドまたはアンドープドの、Mg
2
X1(X1はSi、Ge、SnおよびPbからなる群から少なくとも1種選択される元素である)、Mg
3
X2
2
(X2はSbおよび/またはBiである)、および、X3Mg
2
X4
2
(X3はCaおよび/またはYbであり、X4はSbおよび/またはBiである)からなる群から選択される材料からなり、
前記電極は、前記第1の熱電薄膜のうち前記マグネシウム系熱電半導体膜と前記第2の熱電薄膜とを電気的に接続する、平面型熱電変換素子。
【請求項2】
前記シリコン窒化膜は、5nm以上250nm以下の範囲の厚さを有する、請求
項1に記載の平面型熱電変換素子。
【請求項3】
前記酸化層は、前記マグネシウム系熱電半導
体膜を構成する元素と酸素とを含有するアモルファスである、請求
項1に記載の平面型熱電変換素子。
【請求項4】
前記酸化層は、0nmより大きく50nm以下の範囲の厚さを有する、請求
項1または3に記載の平面型熱電変換素子。
【請求項5】
前記マグネシウム系熱電半導
体膜は、配向している、請求項1
~4のいずれかに記載の平面型熱電変換素子。
【請求項6】
前記マグネシウム系熱電半導
体膜は、50nm以上10μm以下の範囲の厚さを有する、請求項1
~5のいずれかに記載の平面型熱電変換素子。
【請求項7】
前記電極は、
前記絶縁性基板側から見て、クロム層、ニッケル層の順の積層構造を有する、請求項1
~6のいずれかに記載の平面型熱電変換素子。
【請求項8】
前記第2の熱電薄膜は、金属材料または半導体材料からなる、請求項1
~7のいずれかに記載の平面型熱電変換素子。
【請求項9】
前記平面型熱電変換素子は、外部回路と接続する電極を除き、さらなるシリコン窒化膜で被覆されている、請求項1
~8のいずれかに記載の平面型熱電変換素子。
【請求項10】
請求項1
~9のいずれかに記載の平面型熱電変換素子を、リソグラフィ技術を用いて製造する方法であって、
絶縁性基板上にマグネシウム系熱電半導体膜、次いでシリコン窒化膜が積層された第1の熱電薄膜を形成し、パターニングすることと、
前記絶縁性基板上に第2の熱電薄膜を形成し、パターニングすることと、
前記マグネシウム系熱電半導体膜と前記第2の熱電薄膜とを電気的に接続する電極を形成することと
を包
含し、
前記マグネシウム系熱電半導体膜は、ドープドまたはアンドープドの、Mg
2
X1(X1はSi、Ge、SnおよびPbからなる群から少なくとも1種選択される元素である)、Mg
3
X2
2
(X2はSbおよび/またはBiである)、および、X3Mg
2
X4
2
(X3はCaおよび/またはYbであり、X4はSbおよび/またはBiである)からなる群から選択される材料からなる、方法。
【請求項11】
前記第1の熱電薄膜を形成し、パターニングすることは、前記シリコン窒化膜を形成することに先立って、前記マグネシウム系熱電半導
体膜を大気に晒すことをさらに包含する、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の熱電薄膜を形成し、パターニングすることは、前記第2の熱電薄膜を室温で形成する、請求項
10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記電極を形成することに続いて、外部回路と接続する電極を除き、さらなるシリコン窒化膜で被覆する、請求項
10~12のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面型熱電変換素子、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度なインターネットが普及したIoT(Internet of Things)社会では、外部で独立して駆動する自立電源を内蔵したIoT機器が求められている。機械的な駆動部分が無くメンテナンスフリーの熱電変換素子は、IoT機器用自立電源として有望な候補の一つである。また熱電変換はセンサー素子としての応用も着目されており、種々の素子応用が提案されている。IoT機器用自立電源やセンサー素子として熱電変換を有効に活用するためには、小型化・微小化が必須となる。
【0003】
近年、IoT機器駆動用電源のための薄膜型熱電素子用の薄膜としてMg2Snで表されるエピタキシャル薄膜が報告されている(例えば、非特許文献1および非特許文献2を参照)。このようなエピタキシャル薄膜を用い、微細加工プロセスを可能とする平面型熱電変換素子の開発が期待される。
【0004】
一方、半導体の分野において保護膜としてシリコン窒化膜を用いることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、多結晶金属シリサイド層の酸化や吸湿を防止するための保護膜として厚さ10nm以下のシリコン窒化膜を形成することが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Takashi Aizawaら,J.Vac.Sci.Technol.A 37,061513,2019
【文献】Mariana S.L.Limaら,Japanese Journal of Applied Physics 60,SBBF06,2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上より、本発明の課題は、微細加工プロセスに有利な平面型熱電変換素子、および、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の平面型熱電変換素子は、絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に位置する少なくとも一対の第1の熱電薄膜および第2の熱電薄膜と、前記第1の熱電薄膜と前記第2の熱電薄膜とを接続する電極とを備え、前記第1の熱電薄膜は、マグネシウム系熱電半導体膜、および、前記マグネシウム系熱電半導体膜上に位置するシリコン窒化膜を備え、前記電極は、前記第1の熱電薄膜のうち前記マグネシウム系熱電半導体膜と前記第2の熱電薄膜とを電気的に接続し、これにより上記課題を解決する。
前記マグネシウム系熱電半導体膜は、ドープドまたはアンドープドの、Mg2X1(X1はSi、Ge、SnおよびPbからなる群から少なくとも1種選択される元素である)、Mg3X22(X2はSbおよび/またはBiである)、および、X3Mg2X42(X3はCaおよび/またはYbであり、X4はSbおよび/またはBiである)からなる群から選択される材料からなってもよい。
前記シリコン窒化膜は、5nm以上250nm以下の範囲の厚さを有してもよい。
前記マグネシウム系熱電半導体膜と前記シリコン窒化膜との間に酸化層が存在してもよい。
前記酸化層は、前記マグネシウム系熱電半導体薄膜を構成する元素と酸素とを含有するアモルファスであってもよい。
前記酸化層は、0nmより大きく50nm以下の範囲の厚さを有してもよい。
前記マグネシウム系熱電半導体薄膜は、配向していてもよい。
前記マグネシウム系熱電半導体薄膜は、50nm以上10μm以下の範囲の厚さを有してもよい。
前記電極は、クロム層、ニッケル層の順の積層構造を有してもよい。
前記第2の熱電薄膜は、金属材料または半導体材料からなってもよい。
前記第2の熱電薄膜は、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびコンスタンタン(Cu-Ni)からなる群から選択されるn型材料、または、アンチモン(Sb)および/またはニクロム(Ni-Cr)であるp型材料であってもよい。
前記絶縁性基板は、ガラス基板、セラミック基板、シリコン基板、SiO2付シリコン基板、サファイア基板、および、樹脂基板からなる群から選択されてもよい。
前記平面型熱電変換素子は、外部回路と接続する電極を除き、さらなるシリコン窒化膜で被覆されていてもよい。
本発明の上記平面型熱電変換素子を、リソグラフィ技術を用いて製造する方法は、絶縁性基板上にマグネシウム系熱電半導体膜、次いでシリコン窒化膜が積層された第1の熱電薄膜を形成し、パターニングすることと、前記絶縁性基板上に第2の熱電薄膜を形成し、パターニングすることと、前記マグネシウム系熱電半導体膜と前記第2の熱電薄膜とを電気的に接続する電極を形成することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記第1の熱電薄膜を形成し、パターニングすることは、前記シリコン窒化膜を形成することに先立って、前記マグネシウム系熱電半導体薄膜を大気に晒すことをさらに包含してもよい。
前記第2の熱電薄膜を形成し、パターニングすることは、前記第2の熱電薄膜を室温で形成してもよい。
前記電極を形成することは、クロム層、ニッケル層の順に形成することをさらに包含してもよい。
前記電極を形成することに続いて、外部回路と接続する電極を除き、さらなるシリコン窒化膜で被覆してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の平面型熱電変換素子は、絶縁性基板と、その上に位置する少なくとも一対の第1の熱電薄膜および第2の熱電薄膜と、これらを接続する電極とを備え、第1の熱電薄膜は、マグネシウム系熱電半導体膜とシリコン窒化膜との積層構造を有する。マグネシウム系熱電半導体膜を用いるため、本発明の平面型熱電変換素子は優れた熱電特性を有し、シリコン窒化膜はマグネシウム系熱電半導体膜と良好な界面を形成するため、素子特性の劣化を抑制できる。このような平面型熱電変換素子は、IoT機器用自立電源やセンサー素子に適用される。
【0010】
本発明の平面型熱電変換素子の製造方法は、絶縁性基板上にマグネシウム系熱電半導体膜、次いでシリコン窒化膜が積層された第1の熱電薄膜を形成し、パターニングすることと、記絶縁性基板上に第2の熱電薄膜を形成し、パターニングすることと、マグネシウム系熱電半導体膜と第2の熱電薄膜とを電気的に接続する電極を形成することとを包含する。シリコン窒化膜を形成することにより、リソグラフィ技術の利用において、レジストとの密着性が向上するため、その後のマグネシウム系熱電半導体薄膜の露出や電極形成といった微細加工プロセスによってもレジストが剥離することなく、歩留まりに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明の平面型熱電変換素子を製造する工程を示すフローチャート
【
図3】ステップS210の第1の熱電薄膜の形成およびパターニングを示すプロシージャ
【
図4】ステップS220の第2の熱電薄膜の形成およびパターニングを示すプロシージャ
【
図5】ステップS230の電極の形成を示すプロシージャ
【
図6】参考例1の薄膜試料のオージェ電子分光スペクトルおよび反射型電子線回折像を示す図
【
図7】例1の平面型熱電変換素子の素子構造を示す図
【
図9】例1の平面型熱電変換素子を製造するプロシージャ
【
図10】例1の平面型熱電変換素子の顕微鏡観察結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の平面型熱電変換素子を示す模式図である。
【0014】
図1は、本発明の平面型熱電変換素子の上面図(A)、AA断面図(B)、BB断面図(C)を示す。本発明の平面型熱電変換素子(以降では簡単のため、熱電変換素子と称する)100は、絶縁性基板110と、絶縁性基板110上に位置する少なくとも一対の第1の熱電薄膜120および第2の熱電薄膜140と、第1の熱電薄膜120と第2の熱電薄膜140とを接続する電極150とを備える。
図1では、3対の第1の熱電薄膜120および第2の熱電薄膜140を示すが、対の数はこれに限定されない。本発明の熱電変換素子100は、熱電薄膜を使用するため、小型、薄型により高密度化・軽量化されたデバイスを提供できる。
【0015】
さらに、本発明の熱電変換素子100において、
図1(B)に示すように、第1の熱電薄膜120は、マグネシウム系熱電半導体膜121およびその上に位置するシリコン窒化膜130を備える。本発明の熱電変換素子100は、マグネシウム系熱電半導体膜121を用いることにより、キャリア型ならびに濃度の制御性に有利で優れた熱電特性を有する。さらに、シリコン窒化膜130がマグネシウム系熱電半導体膜121と密着するため、良好な界面が形成されるため、素子特性の劣化を抑制できる。さらに、シリコン窒化膜130によって、レジストが剥離することがないため、後述するフォトリソグラフィ技術を用いた製造を可能にする。
【0016】
さらに、本発明の熱電変換素子100において、
図1(C)に示すように、電極150は、第1の熱電薄膜120のうちマグネシウム系熱電半導体膜121と第2の熱電薄膜140とを電気的に接続する。マグネシウム系熱電半導体膜121と第2の熱電薄膜140とが電気的に接続されているので、良好な導電性が得られ、素子特性に優れる。
【0017】
以降では、本発明の熱電変換素子100の各構成要素について説明する。
絶縁性基板110は、絶縁性を有し、第1の熱電薄膜120および第2の熱電薄膜140を成膜できるものであれば、特に制限はないが、例示的には、ガラス基板、セラミック基板、シリコン基板、SiO2付シリコン基板、サファイア基板、および、樹脂基板からなる群から選択される。
【0018】
ガラス基板は、例えば、無アルカリガラス、石英ガラス、結晶化ガラス、ホウケイ酸ガラス、高ケイ酸ガラス、多孔質ガラス、ソーダライムガラスであってよい。
【0019】
セラミック基板は、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナであってよい。これらは熱伝導性に優れるため、熱電変換素子100の素子特性に優れる。
【0020】
サファイア基板の面方位等は特に制限はないが、好ましくは、C面(0001)である。これにより、マグネシウム系熱電半導体121を配向させることができるので、高い熱電特性が得られる。例えば、マグネシウム系熱電半導体121がMg2Snである場合、Mg2Sn膜は(111)配向する。
【0021】
樹脂基板は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン-2,6-フタレンジカルボキシレート等のポリエステル基板、ポリシクロオレフィン基板、ポリイミド基板、ポリカーボネート基板、ポリエーテルエーテルケトン基板、ポリフェニルスルフィド基板、ポリアセタール基板、ポリアミド基板、ポリフェニレンエーテル基板、ポリオレフィン基板、ポリスチレン基板、ポリアリレート基板、ポリサルフォン基板、ポリエーテルサルフォン基板、フッ素樹脂基板、液晶ポリマー基板等であり得る。これらの樹脂基板を用いれば、フレキシビリティを有する熱電変換素子を提供できる。
【0022】
絶縁性基板110の厚さに特に制限はないが、好ましくは、1μm以上1mm以下の範囲であり、より好ましくは、5μm以上0.5mm以下の範囲である。このような厚さであれば、取り扱いが容易であり、薄型の熱電変換素子を提供できる。
【0023】
マグネシウム系熱電半導体121は、ドープドまたはアンドープドの、マグネシウムを含有する化合物半導体であって、熱電特性を有するものを意図する。このような熱電半導体121は、好ましくは、Mg2X1(X1はSi、Ge、SnおよびPbからなる群から少なくとも1種選択される元素である)、Mg3X22(X2はSbおよび/またはBiである)、および、X3Mg2X42(X3はCaおよび/またはYbであり、X4はSbおよび/またはBiである)からなる群から選択される材料からなる。これらは、熱電特性を有する半導体材料として知られており、ドーパントの添加によってキャリア型の制御ならびに濃度の制御が可能である。
【0024】
上記Mg2X1は、立方晶系に属し、Fm-3m空間群(International Tables for Crystallographyの225番の空間群)に属する。ここで、“Fm-3m”中の「-」は、mのオーバーバーを示す。例えば、Mg2X1を絶縁性基板としてサファイア基板c面(0001)上に成長させると、(111)配向したマグネシウム系熱電半導体が得られ、熱電特性に優れる。Mg3X22は、La2O3型構造を有し、P-3m1空間群(International Tables for Crystallographyの164番目)に属する。X3Mg2X42は、CaAl2Si2型構造を有し、P-3m1空間群(International Tables for Crystallographyの164番目)に属する。ここで、“P3-m1”中の「-」は、3のオーバーバーを示す。
【0025】
アンドープのMg2X1、アンドープのMg3X22およびアンドープのX3Mg2X42は、いずれもナローギャップ半導体であり、元素の選択、欠陥の量等によってn型、p型になり得ることが知られている。
【0026】
マグネシウム系熱電半導体121に添加されるドーパントは、母相となる熱電半導体に応じて適宜選択されるが、例えば、Mg2Snでは、Sb、Bi、Al等を添加することにより、n型となることが知られている。添加量は、結晶構造が維持される範囲で添加される。
【0027】
マグネシウム系熱電半導体121の膜厚は、特に制限はないが、好ましくは、50nm以上であればよい。厚さの上限は特に設けないが、例えば、10μm以下、素子の微細加工を考慮すれば、1μm以下であってよい。製造効率の観点から、50nm以上1μm以下の範囲であってよい。例えば、200nm以上400nm以下の範囲を採用してもよい。
【0028】
マグネシウム系熱電半導体121は、アモルファスであっても、多結晶であっても、単結晶であってもよいが、好ましくは、配向膜、あるいは、単結晶膜である。これにより、優れた熱電特性を示すことができる。
【0029】
シリコン窒化膜130は、シリコン(Si)と窒素(N)とを含有する膜であれば、制限はないが、SiNx(ただし、xは、0.6<x<1.4を満たす)で表される膜であってよい。シリコン窒化膜130は、マグネシウム系熱電半導体121に対して密着性に優れた密着層として機能し得、後述するリソグラフィ技術において、シリコン窒化膜130上に形成したレジストが剥離することはない。
【0030】
シリコン窒化膜130は、好ましくは、5nm以上250nm以下の範囲の厚さを有する。この範囲であれば、マグネシウム系熱電半導体121に強固に密着する。シリコン窒化膜130は、より好ましくは、180nm以上220nm以下の範囲の厚さを有する。この範囲であれば、特に密着層として優れている。
【0031】
マグネシウム系熱電半導体121とシリコン窒化膜130との間に酸化層が存在してもよい。酸化層は、マグネシウム系熱電半導体121を作製後、大気に暴露して形成される自然酸化層を含んでいてもよい。本発明では、自然酸化層が存在しても、上述したシリコン窒化膜130を有することにより、密着性が向上するため、微細加工におけるレジストの剥離が回避され、歩留まりが向上し得る。
【0032】
酸化層は、詳細には、マグネシウム系熱電半導体121の構成元素と酸素とを含有するアモルファス層である。また、本願発明者らは、シリコン窒化膜130は、マグネシウム系熱電半導体121が酸化層を有していても、密着性を損なうことはないことを発見した。
【0033】
このような酸化層は、オージェ電子分光法による元素の特定と、反射型高速電子線回折像による回折パターンとによって確認できる。酸化層は、例示的には、0nmより大きく50nm以下の範囲の厚さを有する。なお、酸化層は極めて薄いため、通常の膜厚測定では検出限界(50nm)以下となる場合があるが、上記オージェ電子分光法および電子線回折によって存在が確認されれば、0nmより大きく50nm以下の厚さを有するとみなせる。
【0034】
第2の熱電薄膜140は、第1の熱電薄膜120と異なる熱電特性を有するものであれば、制限はなく、金属材料や半導体材料であってよい。第2の熱電薄膜140として、例えば、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびコンスタンタン(Cu-Ni)からなる群から選択されるn型材料、アンチモン(Sb)および/またはニクロム(Ni-Cr)であるp型材料を採用できる。これらは、室温で形成が可能であり、かつ、比較的熱起電力が大きな材料である。
【0035】
第2の熱電薄膜140のゼーベック係数が、第1の熱電薄膜120のマグネシウム系熱電半導体121のゼーベック係数と異なる値を有する材料を選択すれば、熱エネルギーを電気に変化できるが、好ましくは、第1の熱電薄膜120のマグネシウム系熱電半導体121とは異なるキャリアタイプである材料を選択するとよい。これにより、効果的に熱電変換できる。例えば、マグネシウム系熱電半導体121がp型の熱電特性を示す場合には、第2の熱電薄膜140はn型の熱電特性を示す材料が採用でき、マグネシウム系熱電半導体121がn型の熱電特性を示す場合には、第2の熱電薄膜140はp型の熱電特性を示す材料が採用できる。
【0036】
第2の熱電薄膜140の膜厚は、特に制限はないが、好ましくは、50nm以上であればよい。厚さの上限は特に設けないが、例えば、5mm以下、素子の微細加工を考慮すれば、1mm以下、より好ましくは、10μm以下、1μm以下であってよい。製造効率の観点から、50nm以上1μm以下の範囲であってよく、例えば、250nm以上350nm以下の範囲を採用してもよい。
【0037】
マグネシウム系熱電半導体膜121とシリコン窒化膜130とを備えた第1の熱電薄膜120、ならびに、第2の熱電薄膜130の長手方向の長さおよび幅は、特に制限はないが、例示的には、それぞれ、1mm以上15mm以下の範囲、および、5μm以上40μm以下の範囲である。
【0038】
第1の熱電薄膜120と第2の熱電薄膜140との間隔は、特に制限はないが、製造効率の観点から、1μm以上30μm以下の範囲であってよい。
【0039】
電極150は、マグネシウム系熱電半導体121と第2の熱電薄膜140とを電気的に接続するものであれば、特に制限はないが、例示的には、クロム(Cr)層、ニッケル(Ni)層および白金(Pt)層からなる群から選択される。これらの材料は電極材料として公知である。
【0040】
電極150の厚さは、特に制限はないが、好ましくは、50nm以上1μm以下の範囲である。膜厚は、より好ましくは、50nm以上500nm以下の範囲である。この範囲であれば、良質な膜が得られ、優れた電気特性を示すことができる。例えば、膜厚は、90nm以上150nm以下の範囲を採用できる。
【0041】
電極150は、好ましくは、Cr、その上に、Niからなる二層構造である。Crは、マグネシウム系熱電半導体膜121との密着性に優れるため、電気特性に優れる。また、二層構造とすることにより、機械的な負荷が生じるコンタクト電極(図示せず)への配線作業を問題なく行える十分な機械的強度を備えることができる。電極150は、さらに好ましくは、Cr、Ni次いで、Ptの三層構造である。電極を二層または三層構造とした際には、各層の合計厚さが上記範囲内であればよい。
【0042】
本発明の熱電変換素子100は、外部回路(計測器)(図示せず)と接続するコンタクト電極(例えば、
図10(A)参照)を除き、さらなるシリコン窒化膜で被覆されていてもよい。これにより、熱電変換素子100全体が保護され、素子の特性劣化を抑制できる。このようなシリコン窒化膜は上述したシリコン窒化膜130と同じであってよい。
【0043】
次に、本発明の熱電変換素子100の動作について簡単に説明する。
図1において、第1の熱電薄膜120のマグネシウム系熱電半導体121がp型熱電材料であり、第2の熱電薄膜140がn型熱電材料であるとし、紙面上部の電極150が高温、紙面下部の電極がそれよりも低温となるような環境に本発明の熱電変換素子100を設置する。次いで、熱電変換素子100の端部の電極を外部計測器等の外部回路(図示せず)に接続すると、ゼーベック効果によって電圧が発生し、
図1の矢印で示すように、電流が流れる。詳細には、n型の第2の熱電薄膜140内の電子が、高温側の電極150から熱エネルギーを得て、低温側の電極へ移動し、そこで熱エネルギーを放出し、それに対して、p型の第1の熱電薄膜120の正孔が高温側の電極から熱エネルギーを得て、低温側の電極へ移動して、そこで、熱エネルギーを放出し、電流が流れる。
【0044】
次に、本発明の熱電変換素子100を、リソグラフィ技術を用いて製造する方法を説明する。
図2は、本発明の平面型熱電変換素子を製造する工程を示すフローチャートである。
【0045】
ステップS210:絶縁性基板上にマグネシウム系熱電半導体膜、次いでシリコン窒化膜が積層された第1の熱電薄膜を形成し、パターニングする。
ステップS220:絶縁性基板上に第2の熱電薄膜を形成し、パターニングする。
ステップS230:マグネシウム系熱電半導体膜と第2の熱電薄膜とを電気的に接続する電極を形成する。
【0046】
このように、ステップS210において、シリコン窒化膜を形成することにより、リソグラフィ技術の利用において、レジストとの密着性が向上するため、その後のマグネシウム系熱電半導体薄膜の露出や電極形成といった微細加工プロセスによってもレジストが剥離することなく、本発明の熱電変換素子が製造される。
【0047】
以降では、各ステップについて詳細に説明する。
図3は、ステップS210の第1の熱電薄膜の形成およびパターニングを示すプロシージャである。
なお、
図3~
図5は、分かりやすさのために模式的に示すものであって、各要素の実際の大きさを示すものではなく、各構成要素間の関係はこれに限らない。
【0048】
絶縁性基板110上にマグネシウム系熱電半導体膜121を形成する(構造A)。次いで、シリコン窒化膜130は、マグネシウム系熱電半導体膜121上に物理的気相成長法によって形成される(構造B)。ここで、絶縁性基板110、マグネシウム系熱電半導体膜121、シリコン窒化膜130は上述したとおりであるため説明を省略する。マグネシウム系熱電半導体膜121やシリコン窒化膜130の形成は、物理的気相成長法(真空蒸着法、分子線蒸着法、レーザアブレーションによるPLD(Physical Laser Deposition)法、分子線エピタキシー、各種スパッタなど)、化学的気相成長法(MOCVD法、フラッシュCVD法を含む各種のCVD法など)、化学的液相成長法(ゾル-ゲル法や有機金属化合物分解(MOD)法、液相式ミスト成膜(LSMCD法など)を適宜採用できる。
【0049】
得られた構造B上にレジスト310を付与する(構造C)。レジスト310は、光や電子線等によって現像液に対する溶解性が変化する組成物であり、ネガ型とポジ型とがある。ここでは、光照射によって現像液に対する溶解性が増大し、現像によって照射部が除去されるポジ型の光レジストであるものとする。
【0050】
レジスト310に、例えばレーザー露光装置装置により矩形のパターンを描画し、現像すると、光が照射された照射部のみが除去される(構造D)。次いで、リアクティブイオンエッチング(RIE)、イオンミリングなどによってレジストが塗布されていない部分を除去する。このようにして、第1の熱電薄膜がパターニングされる(構造E)。構造Eでは、レジストが残っているが、レジストを除去剤等により除去してもよい。
【0051】
図4は、ステップS220の第2の熱電薄膜の形成およびパターニングを示すプロシージャである。
【0052】
図3で得られた構造Eにレジスト310を付与する(構造F)。第2の熱電薄膜を形成する領域のみが露出されるように、レジスト310に例えばレーザー露光装置により矩形のパターンを描画し、現像すると、光が照射された照射部のみが除去される(構造G)。
【0053】
次いで、第2の熱電薄膜を形成する領域のみが露出された基板に、蒸着器等の物理的気相成長法により第2の熱電薄膜140を成膜する(構造H)。続くリソグラフィ技術およびリフトオフプロセスを考慮すれば、好ましくは、第2の熱電薄膜は、室温(8℃以上35℃以下の範囲)で成膜される。上述した第2の熱電薄膜140の材料は、室温で成膜可能な材料であるため好ましい。
【0054】
次いで、除去剤等によりレジスト310を除去すると、レジストとともに不要な第2の熱電薄膜が除去されて、基板110上に第1の熱電薄膜120および第2の熱電薄膜140が位置する(構造I)。
【0055】
図5は、ステップS230の電極の形成を示すプロシージャである。
【0056】
図4で得られた構造Iにレジスト310を付与する(構造J)。マグネシウム系熱電半導体膜121と第2の熱電薄膜140とを電気的に接続するために、第1の熱電薄膜120のうちマグネシウム系熱電半導体膜121を一部露出させる。例えば、レジスト310にレーザー露光装置により矩形のパターンを描画し、現像すると、光が照射された照射部のみが除去される(構造K)。次いで、リアクティブイオンエッチング(RIE)、イオンミリング、化学エッチングなどによって第1の熱電薄膜のうち露出されたシリコン窒化膜130を除去する(構造L)。
【0057】
次いで、シリコン窒化膜130の一部が露出された基板に、電子ビーム蒸着等の物理的気相成長法により電極150を成膜する(構造M)。除去剤等によりレジスト310を除去すると、レジストとともに不要な電極が除去されて、基板110上に少なくとも一対の第1の熱電薄膜120および第2の熱電薄膜140が位置し、第1の熱電薄膜120のうちマグネシウム系熱電半導体膜121と第2の熱電薄膜140とが電極150によって電気的に接続した、本発明の熱電変換素子100が得られる。
【0058】
図3~
図5では簡単のため、一対の第1の熱電薄膜120および第2の熱電薄膜140のみを示したが、対の数はこれに限らない。また、
図2、
図4および
図5を参照して、ステップS220についで、ステップS230を行うように示すが、ステップS230についで、ステップS220を行ってもよい。この場合には、第2の熱電薄膜140の一部が電極150の上に位置するように構成される。このような改変も当業者であれば容易に理解する。
【0059】
次に、具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0060】
[参考例1]
参考例1として、分子線エピタキシー装置(株式会社エイコー社製、EV-500)を用いて、サファイア基板((0001)単結晶、15mm角、厚さ=0.43mm、株式会社信光社製)上にマグネシウム系熱電半導体膜としてMg2Sn薄膜を200nm~400nm成膜した。成膜条件は、非特許文献1に記載の条件と同じであった。次いで、この薄膜を大気に晒し、表面に酸化層が形成された。
【0061】
得られた薄膜試料について、オージェ電子分光スペクトル(山本真空製)および反射型高速電子線回折(AVC製RDA-001型)を測定した。結果を
図6に示す。
【0062】
図6は、参考例1の薄膜試料のオージェ電子分光スペクトルおよび反射型電子線回折像を示す図である。
【0063】
オージェ電子分光スペクトルによれば、スパッタ0分(開始直後)には、炭素(C)、酸素(O)およびマグネシウム(Mg)が検出された。炭素は、薄膜試料の表面の汚れによる。さらに、スパッタを進めていくと、スパッタ9分および30分では、O、MgおよびSnが検出され、酸化層の存在が確認された。スパッタ60分以降では、Oが検出されず、SnおよびMgのみが検出され、Mg2Sn膜の存在が確認された。このことから、基板上にMg2Sn膜、MgおよびSnを含有する酸化層がこの順で積層されていることが分かった。
【0064】
酸化層の電子線回折像は、スポットやパターンを示さず、アモルファスであることが分かった。Mg2Sn膜の電子線回折像は、スポットを示し、配向膜であることが分かった。
【0065】
図示しいないが、酸化層の厚さを表面段差計で評価したところ、検出限界以下であった。このことから、酸化層の厚さは、0nmより大きく50nm以下であることが分かった。
【0066】
なお、Mg
2Sn膜を大気に晒した後、6か月間、真空中で保持した薄膜試料についても、同様にオージェ電子分光スペクトルおよび反射型電子線回折像を測定したところ、
図6と同様の結果であった。このことから、酸化層の厚さは、真空中で保持する限り、さらに酸化が進行することはないことが分かった。
【0067】
[例1]
例1では、第1の熱電薄膜として酸化層付Mg2Sn膜、シリコン窒化膜の積層膜、および、第2の熱電薄膜としてBi膜の対を131対用いた平面型熱電変換素子を、フォトリソグラフィ技術を用いて製造した。
【0068】
図7は、例1の平面型熱電変換素子の素子構造を示す図である。
図8は、例1の平面型熱電変換素子の細部を示す図である。
【0069】
例1では、
図7および
図8に示すように、絶縁性基板としてサファイア基板上に酸化層付Mg
2Sn膜、シリコン窒化膜の積層膜からなる第1の熱電薄膜と、Bi膜からなる第2の熱電薄膜との対を131対有し、それぞれがCr、Niの二層構造の電極で電気的に接続された。熱電変換素子および各構成要素の大きさは、
図7および
図8に示す通りであった。
【0070】
図9は、例1の平面型熱電変換素子を製造するプロシージャを示す。
なお、
図9は、分かりやすさのために模式的に示すものであって、各要素の実際の大きさを示すものではなく、各構成要素間の関係はこれに限らない。
【0071】
図9には、一対の第1の熱電薄膜および第2の熱電薄膜のC-D断面図の製造プロセスを示す。
ステップS210(
図2):サファイア基板910((0001)単結晶、15mm角、厚さ=0.43mm、株式会社信光社製)上にマグネシウム系熱電半導体膜としてMg
2Sn膜920、次いで、シリコン窒化膜930を形成し、パターニングした。
【0072】
詳細には、分子線エピタキシー装置(株式会社エイコー社製、EV-500)を用いて、サファイア基板910上にMg2Sn膜920を200nm~400nm成膜した。成膜条件は、非特許文献1に記載の条件と同じであった。
【0073】
次いで、一旦この薄膜を大気に晒し、次いで、スパッタ装置(芝浦メカトロニクス株式会社製、CFS-4EP-LL)を用いて、反応性DCスパッタ法によりシリコン窒化膜930を200nm成膜した。スパッタ条件は次の通りであった。シリコン窒化膜を作製する前のMg2Sn膜を大気に晒した際に、表面に酸化層が形成されており、この酸化層の厚さについて参考例1を参照されたい。
ターゲット:Siターゲット(φ=300mm)
ターゲット-基板間距離:100mm
背圧:10-4Pa以下
スパッタリングガス圧:0.5Pa
スパッタガス:アルゴンおよび窒素
DC電力:200W
基板加熱:室温
【0074】
得られたシリコン窒化膜930は、SiとNとを含有するアモルファスの膜(SiNx)であった。
【0075】
次いで、得られたSiN
x/Mg
2Sn/サファイアの積層構造体にレジスト940(東京応化工業株式会社製、OFPR800LB)を塗布し、マスクレス露光装置(株式会社ナノシステムソリューションズ、DL-1000)を用いて、レジストをパターニングした(
図9の[1-1])。
【0076】
次いで、レジストが塗布されていない領域のうち、リアクティブイオンエッチング(株式会社アルバック製、CE-300I)によりSiN
x膜をエッチングし、アルゴン(Ar)イオンミリング(株式会社アルバック製、CE-300I)によりMg
2Sn膜をエッチングした(
図9の[1-2])。レジスト除去液(MicroChem社製、RemoverPG)にこれを浸漬し、レジストを除去した(
図9の[1-3])。
【0077】
ステップS230(
図2):Mg
2Sn膜920とBi膜930とを電気的に接続するための電極150を形成した。ここでは、
図2において、ステップS220に先立ってステップS230を実施した。
【0078】
詳細には、
図9の[1-3]に示す構造に再度レジスト(東京応化工業株式会社製、OFPR800LB)を塗布し、マスクレス露光装置を用いて、レジストをパターニングした(
図9の[2-1])。
【0079】
レジストが塗布されていない領域のうちSiN
x膜930を、リアクティブイオンエッチングによりエッチングした(
図9の[2-2])。レジスト除去液にこれを浸漬し、レジストを除去した(
図9の[2-3])。
【0080】
図9の[2-3]に示す構造に再度レジスト(東京応化工業株式会社製、OFPR800LB)を塗布し、マスクレス露光装置を用いて、レジストをパターニングした(
図9の[3-1])。これにより電極が付与される領域が露出された。
【0081】
電子ビーム蒸着装置(株式会社アルバック製、UEP-3000BS)を用いて、これに電極950を形成した。このとき、電極950は、Cr(10nm)、Ni(100nm)の二層構造であった(
図9の[3-2])。
【0082】
レジスト除去液にこれを浸漬し、レジストとともに不要な電極を除去した(
図9の[3-3])。この手法をリフトオフとも呼ぶ。このようにして、Mg
2Sn膜920とBi膜930とを電気的に接続するための電極950が形成された。
【0083】
ステップS220(
図2):サファイア基板910上にBi膜960を形成し、パターニングする。
【0084】
図9の[3-3]に示す構造にレジスト(CLARIANT製、AZ5214E)を塗布し、マスクレス露光装置を用いて、レジストをパターニングした(
図9の[4-1])。これによりBi膜が付与される領域が露出された。
【0085】
次いで、蒸着器(株式会社アルバック製、VTS-350M)を用いて、Bi膜960を室温(20℃)にて300nm蒸着した。このとき、Bi膜960の一部は、先に形成した電極950上に蒸着されるので、電極950を介して、Bi膜960は、Mg2Sn層920と電気的に接続する。
【0086】
レジスト除去液にこれを浸漬し、レジストとともに不要なBi膜960を除去した(
図9の[4-3])。このようにして、例1の熱電変換素子が形成された。熱電変換素子全体(ただし、コンタクト電極を除く)をさらなるSiN
x膜(200nm)で被覆し、保護した。得られた例1の熱電変換素子を顕微鏡観察した。結果を
図10に示す。
【0087】
図10は、例1の平面型熱電変換素子の顕微鏡観察結果を示す図である。
【0088】
図10(B)は、
図10(A)の拡大図を示す。
図10によれば、電極の剥離などは確認されず、フォトリソグラフィ技術を用いて高品質な平面型熱電変換素子が得られたことが分かった。図示しないが、電極がNi(100nm)のみの場合には、プロセス中に電極の剥離が一部見られた。このことから、Crを用いることにより、密着性が向上することが分かった。また、電極をCr(10nm)、Ni(100nm)の二層構造に代えて、Ni(100nm)、Cr(100nm)、Pt(10nm)の三層構造にしたところ、さらに高品質な平面型熱電変換素子が得られた。
【0089】
[例2]
例2では、第1の熱電薄膜として酸化層付Mg2Sn膜、および、第2の熱電薄膜としてBi膜の対を131対用いた平面型熱電変換素子を、フォトリソグラフィ技術を用いて製造した。シリコン窒化膜を形成しない以外は、例1と同様であった。
【0090】
しかしながら、Mg2Sn膜上にレジストを塗布し、パターニングを行い、イオンミリングを実施したところ、ミリング中にレジストが剥離してしまい、これ以上プロセスを実施できなかった。
【0091】
例1および例2の結果から、マグネシウム系熱電半導体膜上にシリコン窒化膜を設けることにより、自然酸化層があっても、レジストとマグネシウム系熱電半導体膜との密着性が向上するため、その後のマグネシウム系熱電半導体薄膜の露出や電極形成といった微細加工プロセスによってもレジストが剥離することなく、高品質な平面型熱電変換素子を歩留まりよく提供できることが示された。当業者であれば、自然酸化層を有しない場合にも、シリコン窒化膜によって、レジストとマグネシウム系熱電半導体膜との密着性が向上することは、当然に理解する。
【0092】
[例3]
例3では、第1の熱電薄膜として酸化層付Mg2Sn膜、および、第2の熱電薄膜としてBi膜の対を7対用いた平面型熱電変換素子を、フォトリソグラフィ技術を用いて製造した。対の数が異なる以外は、例1と同様であった。例3の熱電変換素子は、例1と同様に、ミリング中のレジストの剥離や、電極の剥離などなく、高品質であった。
【0093】
例3の平面型熱電変換素子の電極間に温度差を付けて、素子特性(発電)を評価した。素子の両端に10Kから110Kの温度差(低温側は300K一定、高温側は310~410K)を11回かけ、ヒートサイクルを繰り返した。ヒートサイクル前後の内部抵抗を測定し、その変化量を調べた。その結果、ヒートサイクル後の例3の熱電変換素子の内部抵抗の値は、ヒートサイクル前のそれを1として規格化すると、1.01であった。すなわち、ヒートサイクル後であっても、顕著な素子特性の劣化が見られなかった。
【0094】
このことから、本発明の平面型熱電変換素子は、第1の熱電薄膜において、マグネシウム系熱電半導体膜とシリコン窒化膜との間で良好な界面が維持されていることが示唆され、素子特性が劣化しないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の平面型熱電変換素子は、IoT機器用自立電源やセンサー素子に適用できる。本発明の平面型熱電素子の製造方法を採用すれば、密着性に優れるため、微細加工プロセスに有利であり、歩留まりがよい。
【符号の説明】
【0096】
100 平面型熱電変換素子
110 絶縁性基板
120 第1の熱電薄膜
121 マグネシウム系熱電半導体膜
130、930 シリコン窒化膜
140 第2の熱電薄膜
150、950 電極
310、940 レジスト
910 サファイア基板
920 Mg2Sn膜
960 Bi膜